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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024011603
(43)【公開日】2024-01-25
(54)【発明の名称】半導体装置の製造装置および製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/60 20060101AFI20240118BHJP
【FI】
H01L21/60 301G
H01L21/60 301L
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022113749
(22)【出願日】2022-07-15
(71)【出願人】
【識別番号】519294332
【氏名又は名称】株式会社新川
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】丸矢 裕介
(72)【発明者】
【氏名】吉野 浩章
【テーマコード(参考)】
5F044
【Fターム(参考)】
5F044BB01
5F044BB06
5F044CC05
(57)【要約】      (修正有)
【課題】製造する半導体装置の品質をより向上させる製造装置を提供する。
【解決手段】オーバーハングした部分にボンディング点を有するオーバーハングダイ102にワイヤ108をボンディングして半導体装置を製造する製造装置10は、キャピラリ18と、ボンディングアーム14と、キャピラリが受ける荷重を検出荷重Ldとして検出する荷重センサ22と、検出荷重をモニタリングしながらキャピラリを下降させ、検出荷重が規定の接地荷重La以上となった場合にキャピラリが接地したと判断するコントローラ34と、を備える。コントローラは、キャピラリの下降の過程で、所定の修正条件を満たす場合、修正条件を充足した時点での検出荷重がゼロになるように、荷重センサ22のオフセットを修正する。修正条件は、検出荷重が所定の単位時間前に検出された検出荷重である過去検出荷重から変化し、かつ、その変化量が接地荷重より小さい基準荷重Ls以下である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
オーバーハングした部分にボンディング点を有するダイにワイヤをボンディングして半導体装置を製造するボンディング装置であって、
前記ワイヤが挿通されるキャピラリと、前記キャピラリを昇降可能に保持するボンディングアームと、
前記キャピラリが受ける荷重を検出荷重として検出する荷重センサと、
前記検出荷重をモニタリングしながらオーバーハングした前記ボンディング点に前記キャピラリを下降させ、前記検出荷重が規定の接地荷重以上となった場合に前記キャピラリが接地したと判断するコントローラと、
を備え、前記コントローラは、前記キャピラリの下降の過程で、所定の修正条件を満たす場合、前記修正条件を充足した時点での前記検出荷重がゼロになるように、前記荷重センサのオフセットを修正し、
前記修正条件は、前記検出荷重が所定の単位時間前に検出された前記検出荷重である過去検出荷重から変化し、かつ、その変化量が前記接地荷重より小さい基準荷重以下である、
ことを特徴とする製造装置。
【請求項2】
請求項1に記載の製造装置であって、さらに、
前記荷重センサの出力値から特定の周波数成分を除去するノッチフィルタを備える、ことを特徴とする製造装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の製造装置であって、
前記ボンディングアームを付勢する板バネを備え、
前記コントローラは、オーバーハングした前記ボンディング点に前記ワイヤをボンディングした後、前記キャピラリを上昇させる際の指令トルクに、前記板バネの付勢力を打ち消すトルクである補正トルクを加算する、
ことを特徴とする製造装置。
【請求項4】
請求項3に記載の製造装置であって、
前記コントローラは、前記キャピラリが上昇するにつれて前記補正トルクが小さくなるように、前記補正トルクを前記キャピラリの位置に応じて変化させる、ことを特徴とする製造装置。
【請求項5】
オーバーハングした部分にボンディング点を有するダイにワイヤをボンディングして半導体装置を製造する製造方法であって、
前記ワイヤが挿通されるキャピラリをオーバーハングした前記ボンディング点に下降させるとともに、前記キャピラリが受ける荷重を検出荷重として荷重センサで検出し、前記検出荷重が規定の接地荷重以上となった場合に前記キャピラリが接地したと判断する接地探索ステップを備え、
前記接地探索ステップにおいて、所定の修正条件を満たす場合、前記修正条件を充足した時点での前記検出荷重がゼロになるように、前記荷重センサのオフセットを修正し、
前記修正条件は、前記検出荷重が所定の単位時間前に検出された前記検出荷重である過去検出荷重から変化し、かつ、その変化量が前記接地荷重より小さい基準荷重以下である、
ことを特徴とする製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、オーバーハングダイにワイヤをボンディングして半導体装置を製造する製造装置および製造方法を開示する。
【背景技術】
【0002】
従来から、半導体ダイのパッドに、キャピラリに挿通されたワイヤをボンディングして半導体装置を製造する製造装置が知られている。かかる製造装置において、キャピラリは、揺動可能なボンディングアームに取り付けられている。また、製造装置は、ワイヤをパッドにボンディングした後、キャピラリを上昇させてワイヤループを形成する。
【0003】
近年、下層の半導体ダイやスペーサなどからはみ出したオーバーハングダイが用いられるようになってきた。かかるオーバーハングダイは、端部が、空中に浮いた自由端となっている。そのため、自由端に設けられたパッドにワイヤをボンディングすると、オーバーハングダイがキャピラリに押し付けられて撓む。この撓み量は、キャピラリによる押圧力が同じであっても、ボンディング位置によって変化する。そのため、撓みやすい位置では、撓みにくい位置よりも、ワイヤループの始点が低くなる。結果として、一つのオーバーハングダイに形成される複数のワイヤループのループ高さが不均一となり、半導体装置の品質が低下するという問題があった。
【0004】
そこで、一部では、キャピラリがオーバーハングダイに接地した際の高さを接地高さとして記憶しておき、その接地高さを、ワイヤループの始点として取り扱う技術が提案されている(例えば特許文献1,2等)。この場合、キャピラリに作用する荷重を荷重センサで検出荷重として検出する。そして、キャピラリをオーバーハングダイの上側から下降させていく過程で、検出荷重が所定の接地荷重以上になれば、キャピラリがオーバーハングダイに接地したと判断する。かかる技術によれば、ループ高さを、ある程度、均一化させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010-67780号公報
【特許文献2】特開2005-167054号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、通常、荷重センサの検出値は、時間経過または周囲温度の変化によりドリフトすることがある。そのため、キャピラリがオーバーハングダイに接触していないにも関わらず、荷重センサの検出値が変動し、接地したと誤認識されることがあった。こうした問題を避けるため、接地したと判定する基準値である接地荷重を、発生が予想されるドリフト量より十分に大きな値とすることがあった。しかし、接地荷重を大きな値とした場合、ボンディング位置によっては、オーバーハングダイが大きく撓むまで、接地したと判断されないおそれがある。この場合、ループ高さが不均一となり、半導体装置の品質が低下する。
【0007】
そこで、本明細書では、製造される半導体装置の品質をより向上できる製造装置および製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本明細書で開示する製造装置は、オーバーハングした部分にボンディング点を有するダイにワイヤをボンディングして半導体装置を製造する製造装置であって、前記ワイヤが挿通されるキャピラリと、前記キャピラリを昇降可能に保持するボンディングアームと、前記キャピラリが受ける荷重を検出荷重として検出する荷重センサと、前記検出荷重をモニタリングしながらオーバーハングした前記ボンディング点に前記キャピラリを下降させ、前記検出荷重が規定の接地荷重以上となった場合に前記キャピラリが接地したと判断するコントローラと、を備え、前記コントローラは、前記キャピラリの下降の過程で、所定の修正条件を満たす場合、前記修正条件を充足した時点での前記検出荷重がゼロになるように、前記荷重センサのオフセットを修正し、前記修正条件は、前記検出荷重が所定の単位時間前に検出された前記検出荷重である過去検出荷重から変化し、かつ、その変化量が前記接地荷重より小さい基準荷重以下である、ことを特徴とする。
【0009】
この場合、さらに、前記荷重センサの出力値から特定の周波数成分を除去するノッチフィルタを備えてもよい。
【0010】
また、前記ボンディングアームを付勢する板バネを備え、前記コントローラは、オーバーハングした前記ボンディング点に前記ワイヤをボンディングした後、前記キャピラリを上昇させる際の指令トルクに、前記板バネの付勢力を打ち消すトルクである補正トルクを加算してもよい。
【0011】
また、前記コントローラは、前記キャピラリが上昇するにつれて前記補正トルクが小さくなるように、前記補正トルクを前記キャピラリの位置に応じて変化させてもよい。
【0012】
本明細書で開示する製造方法は、オーバーハングした部分にボンディング点を有するダイにワイヤをボンディングして半導体装置を製造する製造方法であって、前記ワイヤが挿通されるキャピラリをオーバーハングした前記ボンディング点に下降させるとともに、前記キャピラリが受ける荷重を検出荷重として荷重センサで検出し、前記検出荷重が規定の接地荷重以上となった場合に前記キャピラリが接地したと判断する接地探索ステップを備え、前記接地探索ステップにおいて、所定の修正条件を満たす場合、前記修正条件を充足した時点での前記検出荷重がゼロになるように、前記荷重センサのオフセットを修正し、前記修正条件は、前記検出荷重が所定の単位時間前に検出された前記検出荷重である過去検出荷重から変化し、かつ、その変化量が前記接地荷重より小さい基準荷重以下である、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本明細書で開示する技術によれば、適宜、検出荷重のドリフトが補正されるため、接地したと判断する際の基準値である接地荷重を小さく抑えることができる。そして、これにより、接地高さのばらつき、ひいては、ループ高さのバラつきを小さく抑えることができ、半導体装置の品質をより向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】製造装置の構成を示す図である。
図2】ワイヤボンディング処理の流れを示すフローチャートである。
図3】ワイヤボンディング処理の様子を示す模式図である。
図4】接地荷重の違いによる接地高さの違いを説明する図である。
図5】接地探索の際に検出される検出荷重の模式図である。
図6図5の信号にノッチフィルタを適用した場合の検出荷重の模式図である。
図7】検出荷重のオフセット調整の様子を示す模式図である。
図8】付勢力および補正トルクと、Z位置と、の関係を示す図である。
図9】トルク補正の有無による、キャピラリのZ位置の時間変化の違いを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して半導体装置の製造装置10について説明する。図1は、製造装置10の構成を示す図である。この製造装置10は、半導体ダイや基板の電極間に金属製のワイヤ120をボンディングし、これにより、電極間を電気的に接続するワイヤボンディング装置である。本例の製造装置10は、オーバーハングダイ102へのワイヤ120のボンディングが可能となっている。なお、以下の説明では、ステージ19の平面と平行な方向をX方向およびY方向と呼び、ステージ19の平面に直交する方向をZ方向と呼ぶ。
【0016】
オーバーハングダイ102は、下層ダイ104を介して基板106に固着されている。オーバーハングダイ102の一部は、下層ダイ104より外側にはみ出した自由端となっている。オーバーハングダイ102の自由端には、電極であるパッド108が形成されている。製造装置10は、このパッド108と、基板106に形成されたリード110と、をワイヤ120で接続する。
【0017】
製造装置10は、ボンディングヘッド12と、ボンディングアーム14と、キャピラリ18と、ステージ19と、これらを制御するコントローラ34と、を備える。ボンディングヘッド12は、図示しないXYステージにより、X方向および軸方向に移動する。
【0018】
ボンディングアーム14は、ボンディングヘッド12からステージ19に向かって延びている。このボンディングアーム14の一部は、十字板バネ28を介して、ボンディングヘッド12の一部に機械的に連結されている。十字板バネ28は、水平方向と略平行な水平板バネと、鉛直方向と略平行な鉛直板バネと、を十字型に交差するように組み合わせたバネである。鉛直板バネの上端は、ボンディングアーム14に、下端は、ボンディングヘッド12に連結される。また、水平板バネの前端は、ボンディングアーム14に、後端は、ボンディングヘッド12に、連結される。この場合、ボンディングアーム14は、垂直板バネおよび鉛直板バネの交差点を通る水平軸である回転軸Arを中心として揺動可能となる。また、ボンディングアーム14が揺動した場合、ボンディングアーム14には、その揺動量に応じた十字板バネ28の付勢力(すなわち十字板バネ28の弾性復元力)が作用する。
【0019】
ボンディングアーム14の先端近傍には、超音波ホーン25および荷重センサ22が設けられている。超音波ホーン25は、その基端に、超音波振動子26を有している。また、超音波ホーン25の先端には、キャピラリ18が取り付けられている。超音波ホーン25は、超音波振動子26の超音波振動を増幅して、キャピラリ30を超音波加振する。
【0020】
荷重センサ22は、キャピラリ18に作用する荷重に応じた電圧信号を出力する。すなわち、キャピラリ18がボンディング対象物(例えばオーバーハングダイ102等)を押圧した際、キャピラリ18には、ボンディング対象物からの反力が作用する。荷重センサ22は、この反力を検出し、電圧信号として出力する。また、ボンディングヘッド12またはボンディングアーム14には、位置センサ24が設けられている。この位置センサ24は、キャピラリ18のZ方向位置(以下「Z位置h」と呼ぶ)を検出する。
【0021】
駆動モータ20は、ボンディングアーム14を揺動させる動力を発生させる。駆動モータ20は、ボンディングアーム14に設けられた回転子と、ボンディングヘッド12に設けられた固定子(いずれも図示せず)と、を有する。この駆動モータ20に電流を印加し、駆動させることで、ボンディングアーム14が揺動する。
【0022】
ボンディングアーム14の先端には、キャピラリ18が取り付けられている。キャピラリ18の内部には、Z方向に貫通する貫通孔が設けられており、貫通孔にはワイヤ120が挿通されている。ワイヤ120は、図示しないワイヤスプールから繰り出される。
【0023】
コントローラ34は、駆動モータ20、超音波ホーン25、荷重センサ22、および位置センサ24と電気的に接続されており、ボンディングヘッド12、駆動モータ20、および、超音波ホーン25の駆動を制御する。かかるコントローラ34は、プロセッサ36とメモリ38とを有したコンピュータである。なお、コントローラ34は、単一のコンピュータに限らず、物理的に離れて設けられた複数のコンピュータを組み合わせて構成されてもよい。
【0024】
コントローラ34は、プロセッサ36およびメモリ38に加えて、さらに、入力部40と、出力部42と、超音波振動子I/F44と、荷重センサI/F46と、位置センサI/F50と、モータI/F52と、を備えている。入力部40は、ユーザからの操作指示を受け付けるもので、例えば、キーボードやタッチパネル、マイク等を含む。出力部42は、ユーザに情報を提供するものであり、例えば、ディスプレイやスピーカ、プリンタ等を含む。
【0025】
超音波振動子I/F44は、超音波振動子26を駆動するために、超音波ホーン25との間で信号を送受する。具体的には、超音波振動子I/F44は、プロセッサ36から出力された駆動信号を、超音波振動子26で取り扱い可能な駆動信号に変換して、超音波振動子26に送信する。また、超音波振動子I/F44は、超音波ホーン25に設けられた各種センサ(図示せず)で検出された信号を、プロセッサ36で取り扱い可能な信号に変換して、プロセッサ36に送信する。
【0026】
荷重センサI/F46は、荷重センサ22から出力された電圧信号に対して所定の信号処理を施し、検出荷重Ldとしてプロセッサ36に送信する。この信号処理のために荷重センサ22は、ノッチフィルタ48を含む。ノッチフィルタ48は、特定の周波数域の信号をカットするバンドカットフィルタの一種である。ノッチフィルタ48でカットする周波数域については後述する。なお、図1では、ノッチフィルタ48を、コントローラ34の内部に組み込まれたデジタルフィルタとして図示しているが、ノッチフィルタ48は、コントローラ34の外部に設けられるアナログフィルタでもよい。
【0027】
位置センサI/F50は、位置センサ24から出力された電圧信号に対して所定の信号処理を施し、Z位置hとしてプロセッサ36に送信する。モータI/F52は、駆動モータ20との間で情報を送受する。具体的には、モータI/F52は、プロセッサ36から出力された駆動信号を、駆動モータ20で取り扱い可能な駆動信号に変換して、駆動モータ20に送信する。また、モータI/F52は、駆動モータ20に設けられた各種センサ(図示せず)から出力された信号を、プロセッサ36で取り扱い可能な信号に変換して、プロセッサ36に送信する。
【0028】
次に、この製造装置10によるワイヤボンディングの処理の流れについて、図2および図3を参照して説明する。図2は、ワイヤボンディング処理の流れを示すフローチャートである。図3は、ワイヤボンディング処理の様子を示す模式図である。上述した通りワイヤボンディングの際には、オーバーハングダイ102のパッド108と、基板106のリード110と、をワイヤ120で接続する。
【0029】
この場合、コントローラ34は、最初に、ワイヤ120のうち、キャピラリ18より下側に飛び出している部分を溶融し、イニシャルボール122を形成する(S10)。続いて、コントローラ34は、キャピラリ18をパッド108の真上に移動させる(S12)。図3の「S12」は、この様子を示している。
【0030】
次に、コントローラ34は、荷重センサ22で検出される検出荷重Ldをモニタリングしながら、キャピラリ18をパッド108に向かって下降させる(S14)。コントローラ34は、キャピラリ18の下降期間中、検出荷重Ldと、接地荷重Laと、を比較する(S16)。接地荷重Laは、キャピラリ18の先端がパッド108に接地したと判断する基準となる荷重値である。すなわち、キャピラリ18がパッド108に接地した場合、キャピラリ18には、パッド108からの反力が作用し、検出荷重Ldが急上昇する。コントローラ34のメモリ38には、この接地時に生じる反力より小さい値が、接地荷重Laとして記憶されている。
【0031】
比較の結果、検出荷重Ldが、接地荷重Laより小さい場合、コントローラ34は、キャピラリ18は接地していないと判断し、キャピラリ18の下降を継続する。一方、検出荷重Ldが、接地荷重La以上になった場合、コントローラ34は、キャピラリ18が、接地したと判断する。この場合、コントローラ34は、接地時点で位置センサ24により検出されたZ位置hを、接地高さhaとしてメモリに一時記憶する(S18)。図3の「S18」は、接地時の様子を示している。また、以下では、接地高さhaを特定するために、検出荷重Ldをモニタリングしながら、キャピラリ18を下降させる処理を「接地探索」と呼ぶ。
【0032】
接地探索が完了した後は、ワイヤ120をパッド108にボンディングする(S20)。具体的には、コントローラ34は、駆動モータ20を下降方向に駆動して、パッド108に所定のボンディング荷重を付与する。図3の「S20a」は、このときの様子を示している。図3の「S20a」に示す通り、キャピラリ18でパッド108を押圧した場合、オーバーハングダイ102が撓み、キャピラリ18が接地高さhaより下方に移動する。図3の例では、パッド108は、Δhだけ沈み込んでいる。
【0033】
所定のボンディング荷重が付与できれば、コントローラ34は、超音波振動子26を駆動して、キャピラリ18を介してイニシャルボール122に超音波振動を与える。これにより、イニシャルボール122とパッド108との間に摩擦力が発生し、パッド108にイニシャルボール122がボンディングされる。図3の「S20b」は、この様子を示している。
【0034】
イニシャルボール122がボンディングできれば、コントローラ34は、駆動モータ20を上昇方向に駆動し、キャピラリ18を接地高さha(より厳密には、接地高さhaからイニシャルボール122の潰れ量を差し引いた高さ)まで上昇させる(S22)。図3の「S22」は、この時の様子を示している。図3の「S22」に示すように、キャピラリ18が上昇することで、オーバーハングダイ102の撓みが解消される。なお、図3から明らかな通り、ボンディングに伴い、イニシャルボール122は潰れて、キャピラリ18は、その分、パッド108に近づく。そのため、オーバーハングダイ102を、接地時の高さに戻す場合、厳密には、キャピラリ18は、接地高さhaから、イニシャルボール122の潰れ量を減算したZ高さhbまで上昇する。
【0035】
その後、コントローラ34は、キャピラリ18を、基板106のリード110へと移動させ、ワイヤループ124を形成する(S24)。具体的には、コントローラ34は、オーバーハングダイ102の撓みを解消した後、当該キャピラリ18を所定の目標ループ高さ分だけ上昇させる。ここで、「ループ高さ」とは、ワイヤループ124のパッド108からの高さである。このループ高さの目標値は予め決定され、メモリ38に記憶されている。目標ループ高さだけ上昇すれば、コントローラ34は、キャピラリ18を、基板106のリード110へと移動させ、ワイヤ120をリード110にボンディングする。これにより、パッド108とリード110を接続するワイヤループ124が形成される。ワイヤループ124が形成できればボンディング処理は終了となる。図3の「S24」は、このときの様子を示している。
【0036】
ここで、これまでの説明で明らかな通り、本例では、キャピラリ18を下降した際に得られる検出荷重Ldが、接地荷重La以上となった場合に、キャピラリ18が、オーバーハングダイ102に接地したと判断する。そして、キャピラリ18の接地高さhaを基準として、ワイヤループ124のループ高さを管理している。そのため、複数のパッド108それぞれについて検出された接地高さhaにばらつきがあると、ワイヤループ124のループ高さのばらつきが発生し、半導体装置100の品質が低下する。接地高さhaのばらつきを抑制するためには、検出荷重Ldをできるだけ小さく抑えることが求められる。
【0037】
これについて、図4を参照して説明する。図4の上段は、半導体装置100の概略平面図であり、下段は、半導体装置100の概略側面図である。図4に示す通り、オーバーハングダイ102のX方向一端には、複数のパッド108が、Y方向に間隔を開けて一列に並んでいる。この場合、付加される荷重が同一であったとしても、Y方後端部付近は、Y方向中心付近よりも、撓みやすい。そのため、検出荷重Ldが、接地荷重La以上となった時点のパッド108の高さ、すなわち、接地高さhaは、Y方後端部付近のパッド108eのほうが、Y方向中心付近のパッド108cよりも低くなる。つまり、オーバーハングダイ102では、パッド108の位置によって接地高さhaのバラつきが生じる。ただし、接地荷重Laを小さく抑えれば、こうした接地高さhaのばらつき、ひいては、ループ高さのばらつきも小さく抑えることができる。
【0038】
すなわち、接地荷重Laが大きい場合には、接地判定された時点での撓み量も大きくなり、パッド108ごとの接地高さhaのばらつきも大きくなる。一方、接地荷重Laが小さい場合には、接地判定された時点での撓み量も小さくなるため、接地高さhaのばらつきも小さくなる。図4において、二点鎖線の曲線L1は、接地荷重La=La1としたときに検出される接地高さhaを示しており、曲線L2は、接地荷重La=La2<La1としたときに検出される接地高さhaを示している。この曲線L1および曲線L2の比較から明らかな通り、接地荷重Laが小さいほうが、場所による接地高さhaのばらつきを小さく抑えることができる。
【0039】
ただし、接地荷重Laを過度に小さくした場合、ノイズや電圧の揺れに起因して検出荷重Ldが僅かに変化した場合に、接地と誤判定するおそれがある。そのため、従来は、接地荷重Laを十分に小さくすることができず、接地高さhaのばらつき、ひいては、ループ高さのばらつきを十分に抑えることができなかった。本例では、こうした問題を避けるために、荷重センサ22の検出値にノッチフィルタ48を適用するとともに、検出荷重Ldのオフセットを随時調整している。以下、これについて説明する。
【0040】
図5は、接地探索の際に検出される検出荷重Ldの模式図である。図5において、横軸は時間を、縦軸は荷重の値を示している。通常、検出荷重Ldには、高周波のノイズが重畳されており、検出荷重Ldは、実際にキャピラリ18に荷重がかかっていなくても、所定の範囲内で変動している。特に、接地探索の際、キャピラリ18は、所定の固有周波数fzでZ方向に微小振動している。この微小振動の影響で、検出荷重Ldには、固有周波数fzのノイズが重畳されている。従来、接地荷重Laは、こうしたノイズに起因する変動を接地と誤判定しないように、固有周波数fzのノイズの振幅より充分に大きな値Laが設定されていた。
【0041】
また、検出荷重Ldから出力される電圧値は、温度変化や時間経過に伴い、ドリフトすることがある。例えば、図5の例では、時間経過に伴い、検出荷重Ldが、増加する方向にドリフトしている。従来の接地荷重Laは、こうしたドリフトに起因する変動を接地と誤判定しないように、発生が予想されるドリフト量より充分に大きな値となっていた。
【0042】
本例では、こうした問題を避けるために、荷重センサ22の出力値に、ノッチフィルタ48を適用し、キャピラリ18の固有周波数fzに対応する信号を除去する。なお、キャピラリ18の固有周波数fzは、製造装置10の機械的構成によって定まる固有値であり、予め、実験等により特定される。
【0043】
図6は、ノッチフィルタ48を適用した場合の検出荷重Ldの模式図である。図6に示す通り、ノッチフィルタ48を適用することで、検出荷重Ldに含まれるノイズを大幅に削減でき、検出荷重Ldの変動振幅を大幅に低下できる。ただし、ノッチフィルタ48を適用しただけでは、検出値のドリフトは抑制できず、接地荷重Laを充分に小さくできない。
【0044】
そこで、本例では、接地探索のためにキャピラリ18を下降している間に、後述する修正条件を満たす場合、当該修正条件を充足した時点での検出荷重Ldがゼロになるように、荷重センサ22のオフセットを修正する。「修正条件」とは、検出荷重Ldが所定の単位時間前に検出された過去検出荷重から変化し、かつ、その変化量が接地荷重Laより小さい基準荷重Ls以下である、ことである。
【0045】
具体的に説明すると、コントローラ34は、予め、接地荷重Laより小さい基準荷重Lsをメモリ38に記憶している。そして、コントローラ34は、接地探索の際、現在の検出荷重Ldと、1サイクル前(すなわち単位時間前)の検出荷重Ldである過去検出荷重Ldn-1との差分の絶対値を差分荷重ΔLdとして随時算出する。さらにコントローラ34は、この差分荷重ΔLd=|Ld-Ldn-1|と基準荷重Lsとを比較し、差分荷重ΔLdが、基準荷重Lsより小さい場合には、ドリフトが発生したと判断する。ドリフトが発生した場合、コントローラ34は、現在の検出荷重Ldがゼロになるように荷重センサ22のオフセットを調整する。
【0046】
図7は、荷重センサ22のオフセット調整の様子を示す模式図である。図7の「t=t1」に示すように、時刻t1では、電荷重センサの検出電圧が「V0」の場合に、検出荷重が「0」であると判断し、検出電圧が「Va」のときに、検出荷重が「La」であると判断する。そして、時刻t1において、検出電圧V1かつ検出荷重Ldが検出された場合を考える。この場合、検出荷重Ld1が所定の単位時間前に検出された過去検出荷重Ldから変化し、かつ、その変化量ΔLd=Ld-Ldが基準荷重Ls以下である。そのため、この場合、コントローラ34は、検出荷重Ldに対応する検出電圧V1が、検出荷重「0」となるように、荷重センサ22の電圧オフセットを調整する。図7の「t=t2」は、この電圧オフセットの調整後を示している。
【0047】
次に、時刻t2において、検出荷重V2かつ検出荷重Ldが検出されたとする。この場合も、変化量ΔLd=Ld-Ldが基準荷重Ls以下であるため、コントローラ34は、検出荷重Ldに対応する検出電圧V2が、検出荷重「0」となるように、荷重センサ22の電圧オフセットを調整する。図7の「t=t3」は、この電圧オフセットの調整後を示している。
【0048】
そして、最終的に時刻t12において、検出荷重Ld12(ただし、Ld12>La)が検出されたとする。この場合、ΔLdは、基準荷重Lsよりも高いため、オフセットの調整は行われない。一方で、検出荷重Ldが、接地荷重Laより高いため、コントローラ34は、キャピラリ18がパッド108に接地したと判断する。
【0049】
このように、基準荷重Lsより小さい検出荷重Ldの変動をドリフトとみなして、荷重センサ22のオフセットの調整を繰り返すことで、当該ドリフトに起因して、検出荷重Ldが、過度に高くなることを効果的に防止できる。例えば、図7の例の場合、オフセットの調整を行わない場合には、時刻t9において、検出荷重Ld(検出電圧がVaより高い)が検出されたタイミングで、接地と誤判定されるおそれがある。しかし、本例のように、電圧オフセットの調整を繰り返すことで、こうした誤判定を効果的に防止できる。そして、これにより、接地したと判定する基準値である接地荷重Laを小さく抑えることができ、接地高さha、ひいてはループ高さのばらつきを小さく抑えることができる。なお、ここで、検出荷重Ldの検出周期を、「所定の単位時間」として取り扱っているが、より長い時間を、「所定の単位時間」として取り扱ってもよい。例えば、2サイクル前の過去検出荷重Ldn-2に対する、現在の検出荷重Ldの変化量に基づいて、ドリフトの有無を判定し、オフセットを調整してもよい。
【0050】
ところで、図3から明らかな通り、オーバーハングダイ102の場合、イニシャルボール122をボンディングした後、ワイヤループ124の形成を開始する前に、キャピラリ18を接地高さhaまで上昇させる必要がある。この上昇の際、ボンディングアーム14には十字板バネ28の付勢力(すなわち弾性復元力)によって生じる上向きの力がかかる。従来、この付勢力により、ボンディングアーム14、ひいては、キャピラリ18が、上方にオーバーシュートすることを防止するために、キャピラリ18を上昇させる際には、ブレーキをかけていた。そのため、従来技術では、キャピラリ18の上昇時の移動速度が遅くなり、ボンディングのリードタイムの増加を招いていた。
【0051】
そこで、本例では、キャピラリ18を上昇させる際の位置制御に、十字板バネ28の付勢力を組み入れている。具体的には、コントローラ34は、キャピラリ18の上昇に必要なトルクを指令トルクとして算出し、この指令トルクに応じた電流を駆動モータ20に印加する。通常、指令トルクは、フィードフォワード制御、または、位置偏差や速度偏差を利用するフィードバック制御で算出される。本例では、本来の指令トルクに、さらに、十字板バネ28の付勢力を打ち消す補正トルクTcを加算し、加算後の値を、最終的な指令トルクとして取り扱う。
【0052】
補正トルクTcは、繰り返し述べる通り、十字板バネ28の付勢力を打ち消すトルクである。そして、十字板バネ28の付勢力がゼロとなるZ位置hを、初期位置とした場合、十字板バネ28の付勢力は、Z位置hが初期位置より低くなるほど、Z位置hに比例して大きくなる。図8の破線M1は、こうした付勢力とZ位置hとの関係を示している。図8において、縦軸は、キャピラリ18のZ位置hを、横軸は、トルクを示している。
【0053】
こうした付勢力を打ち消すための補正トルクTcは、付勢力と絶対値が同じで、正負の符号が逆の値である。別の言い方をすれば、補正トルクTcは、初期位置よりZ位置hが低くなるほど、Z位置hに比例して小さくなる値である。図8おける実線M2は、補正トルクTcとZ位置hとの関係を示している。
【0054】
コントローラ34は、キャピラリ18を上昇させる際には、キャピラリ18のZ位置hに応じた補正トルクTcを特定し、この補正トルクTcを指令トルクに加算する。これにより、キャピラリ18の上昇速度を上げた場合でも、十字板バネ28の付勢力に起因するオーバーシュートを効果的に防止できる。その結果、キャピラリ18の上昇に要する時間を短縮でき、リードタイムを低減できる。
【0055】
図9は、ステップS12におけるキャピラリ18のZ位置hの時間変化を示すグラフである。図9において、破線N1は、補正トルクTcを制御に組み入れない場合のZ位置hの時間変化を示しており、実線N2は、補正トルクTcを制御に組み入れた場合のZ位置hの時間変化を示している。図9から明らかな通り、補正トルクTcを制御に組み入れた場合、キャピラリ18の上昇に際してブレーキを掛ける必要がないため、キャピラリ18の上昇速度を高めることができ、より短時間で接地高さhaに到達できる。そしてこれにより、ワイヤボンディングのリードタイムを短縮できる。
【0056】
なお、ここでは、接地高さhaまで上昇する場合を例に挙げて説明したが、補正トルクTcは、キャピラリ18を上昇させる状況であれば、他の状況でも利用されてもよい。例えば、ワイヤループ124を形成するためにキャピラリ18を上昇させる際、補正トルクTcを加算した値を、指令トルクとして、駆動モータ20を制御してもよい。
【0057】
また、接地探索の際に、修正条件を満たす場合、当該修正条件を充足した時点での検出荷重Ldがゼロになるように、荷重センサ22のオフセットを修正するのであれば、その他の構成は、適宜、変更されてもよい。例えば、ノッチフィルタ48は、省略されてもよい。また、キャピラリ18を上昇する際、十字板バネ28の付勢力を打ち消す補正トルクTcを制御に組み込まなくてもよい。
【符号の説明】
【0058】
10 製造装置、12 ボンディングヘッド、14 ボンディングアーム、18 キャピラリ、19 ステージ、20 駆動モータ、22 荷重センサ、24 位置センサ、25 超音波ホーン、26 超音波振動子、28 十字板バネ、30 キャピラリ、34 コントローラ、36 プロセッサ、38 メモリ、40 入力部、42 出力部、44 超音波振動子I/F、46 荷重センサI/F、48 ノッチフィルタ、50 位置センサI/F、52 モータI/F、100 半導体装置、102 オーバーハングダイ、104 下層ダイ、106 基板、108 パッド、110 リード、120 ワイヤ、122 イニシャルボール、124 ワイヤループ。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9