(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024116059
(43)【公開日】2024-08-27
(54)【発明の名称】プラズマリアクタシステム
(51)【国際特許分類】
C01B 3/04 20060101AFI20240820BHJP
【FI】
C01B3/04 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023178924
(22)【出願日】2023-10-17
(31)【優先権主張番号】P 2023021453
(32)【優先日】2023-02-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003812
【氏名又は名称】弁理士法人いくみ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】倉田 怜
(72)【発明者】
【氏名】島村 遼一
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 鉄也
(72)【発明者】
【氏名】松山 翔
(72)【発明者】
【氏名】内藤 一哉
(57)【要約】
【課題】高圧のアンモニアを改質する場合であっても、改質効率の低下を抑制できるプラズマリアクタシステムを提供すること。
【解決手段】プラズマリアクタシステム1は、アンモニアを貯留するアンモニアタンク10を備える高圧燃料供給装置2と、高圧燃料供給装置2から供給されるアンモニアを、水素に分解するプラズマリアクタ3とを備える。プラズマリアクタ3は、互いに間隔を隔てて配置される複数の電極21と、複数の電極21の間に設けられる金属メッシュ22とを備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンモニアを貯留するアンモニアタンクを備える高圧燃料供給装置と、
前記高圧燃料供給装置から供給されるアンモニアを、水素に分解するプラズマリアクタとを備え、
前記プラズマリアクタは、互いに間隔を隔てて配置される複数の電極と、前記複数の電極の間に設けられる多孔部材とを備える、プラズマリアクタシステム。
【請求項2】
前記多孔部材の表面には、触媒層が配置されている、請求項1に記載のプラズマリアクタシステム。
【請求項3】
前記多孔部材は、高温領域と、前記高温領域によりも相対的に温度が低い低温領域を備え、
前記高温領域の表面における前記触媒層の厚みが、前記低温領域の表面における前記触媒層の厚みよりも厚い、請求項2に記載のプラズマリアクタシステム。
【請求項4】
前記高温領域が、前記多孔部材のアンモニアガス供給方向における中央部である、請求項3に記載のプラズマリアクタシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマリアクタシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境保護の観点から、水素燃料が注目されている。このような水素燃料は、例えば、燃料改質装置によって製造される。燃料改質装置では、アンモニアを、窒素および水素に分解し、分解された水素を抽出する。
【0003】
そして、抽出された水素燃料は、例えば、エンジンシステムにおいて用いられる。
【0004】
このようなエンジンシステムとして、例えば、アンモニアを蓄えるアンモニア貯蔵装置と、アンモニアガスを、プラズマ放電によって改質して水素ガスを生成する改質器と、水素ガスを分離する分離器と、分離された水素ガスを吸気管内またはシリンダ内へ噴射する水素噴射装置とを備える、エンジンシステムが提案されている(例えば、下記特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一方、特許文献1のエンジンシステムでは、アンモニアガスの改質により得られる水素ガスを水素噴射装置によって、噴射する。このような場合には、水素ガス、および、水素ガスの原料となるアンモニアガスの圧力を高くする必要がある。
【0007】
しかし、アンモニアガスの圧力を高くすると、プラズマが発生しづらくなる傾向がある。また、プラズマが発生しない場合もある。そうすると、アンモニアガスの改質効率が低下する。
【0008】
本発明は、高圧のアンモニアを改質する場合であっても、改質効率の低下を抑制できるプラズマリアクタシステムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明[1]は、アンモニアを貯留するアンモニアタンクを備える高圧燃料供給装置と、前記高圧燃料供給装置から供給されるアンモニアを、水素に分解するプラズマリアクタとを備え、前記プラズマリアクタは、互いに間隔を隔てて配置される複数の電極と、前記複数の電極の間に設けられる多孔部材とを備える、プラズマリアクタシステムである。
【0010】
本発明[2]は、前記多孔部材の表面には、触媒層が配置されている、上記[1]に記載のプラズマリアクタシステムを含んでいる。
【0011】
本発明[3]は、前記多孔部材は、高温領域と、前記高温領域によりも相対的に温度が低い低温領域を備え、前記高温領域の表面における前記触媒層の厚みが、前記低温領域の表面における前記触媒層の厚みよりも厚い、上記[2]に記載のプラズマリアクタシステムを含んでいる。
【0012】
本発明[4]は、前記高温領域が、前記多孔部材のアンモニアガス供給方向における中央部である、上記[3]に記載のプラズマリアクタシステムを含んでいる。
【発明の効果】
【0013】
本発明のプラズマリアクタシステムによれば、高圧のアンモニアを改質する場合であっても、改質効率の低下を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、本発明のプラズマリアクタシステムの一実施形態を示す概略図である。
【
図2】
図2は、本発明のプラズマリアクタシステムの一実施形態におけるプラズマリアクタを示す概略図である。
【
図3】
図3は、本発明のプラズマリアクタシステムの変形例(高圧燃料供給装置が気化器を備える態様)を示す概略図である。
【
図4】
図4A~
図4Dは、本発明のプラズマリアクタシステムにおけるプラズマリアクタの変形例を示す概略図である。
図4Aは、金属メッシュが、誘電体と当接しないプラズマリアクタを示す。
図4Bは、2つの電極の間において、金属メッシュが、一方の電極における誘電体と当接し、他方の電極における誘電体と当接しないプラズマリアクタを示す。
図4Cは、ケーシングの長手方向に沿って、互いに間隔を隔てて、複数配置された金属メッシュを備えるプラズマリアクタを示す。
図4Dは、複数の金属メッシュを備え、2つの電極の間において、一の金属メッシュが、一方の電極における誘電体と当接し、他の金属メッシュが、一方の電極における誘電体と当接するプラズマリアクタを示す。
【
図5】
図5Aおよび
図5Bは、本発明のプラズマリアクタシステムにおけるプラズマリアクタの変形例を示す概略図である。
図5Aは、電極において、アンモニアガス供給方向における中央部が、両端部よりも、金属ワイヤーの密度が高くなる態様を示す。
図5Bは、電極において、アンモニアガス供給方向に直交する方向における下側が、上側よりも、金属ワイヤーの密度が高くなる態様を示す。
【
図6】
図6は、各実施例のアンモニアの分解速度の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<水素製造装置>
図1を参照して、本発明のプラズマリアクタシステムの一実施形態を詳述する。
【0016】
プラズマリアクタシステム1は、例えば、エンジン100(
図1破線参照)に接続される燃料供給装置である。エンジン100としては、例えば、水素エンジン、アンモニアおよび水素を混焼するエンジンが挙げられる。また、プラズマリアクタシステム1とエンジン100とで、エンジンシステムを構成する。つまり、エンジンシステムは、プラズマリアクタシステム1とエンジン100とを備える。
【0017】
プラズマリアクタシステム1は、高圧燃料供給装置2と、プラズマリアクタ3と、アンモニアガス供給ライン4と、水素供給ライン5と、インジェクター6と、制御部7とを備える。また、プラズマリアクタシステム1は、図示しないポンプを、適宜の位置に備える。そして、ポンプの駆動により、後述するアンモンアを加圧し、また、アンモニアおよび水素を供給可能としている。
【0018】
<高圧燃料供給装置>
高圧燃料供給装置2は、アンモニアタンク10と、ポンプ(図示せず)を備える。
【0019】
アンモニアタンク10は、アンモニアガスを貯留する加圧タンクである。詳しくは、アンモニアタンク10は、ポンプ(図示せず)を用いて、加圧されている。そして、アンモニアタンク10は、例えば、0.1MPa以上20MPa以下に、加圧されたアンモニアガス(高圧のアンモニアガス)を貯留する。
【0020】
<プラズマリアクタ>
プラズマリアクタ3は、高圧燃料供給装置2(アンモニアタンク10)から供給されるアンモニアガスを、水素に分解する。
【0021】
プラズマリアクタ3は、
図2に示すように、ケーシング20と、複数の電極21(21a、21bおよび21c)と、多孔部材としての複数の金属メッシュ22(金属メッシュ22aおよび22b)とを備える。
【0022】
ケーシング20は、中空の筒形状を有し、その長手方向が、アンモニアの流れ方向に沿うように、配置されている。
【0023】
各電極21は、平板形状を有する。各電極21は、ケーシング20内において、ケーシング20の長手方向に沿って、配置されている。また、各電極21は、ケーシング20の長手方向に直交する方向に沿って、互いに間隔を隔てて配置されている。
【0024】
各電極21は、導体23と、導体23を被覆する誘電体24とを備える。
【0025】
導体23の材料として、例えば、タングステンが挙げられる。誘電体24の材料として、例えば、アルミナが挙げられる。
【0026】
金属メッシュ22は、網目状を有する。また、金属メッシュ22における金属としては、例えば、ニッケル、ステンレスが挙げられる。
【0027】
各金属メッシュ22は、ケーシング20内において、ケーシング20の長手方向に沿って、各電極21の間に設けられる。また、各金属メッシュ22は、ケーシング20の長手方向に直交する方向に沿って、互いに間隔を隔てて配置されている。
【0028】
具体的には、金属メッシュ22aは、電極21aにおける誘電体24および電極21bにおける誘電体24と当接するように、電極21aおよび電極21bの間に設けられる。また、金属メッシュ22bは、電極21bにおける誘電体24および電極21cにおける誘電体24と当接するように、電極21bおよび電極21cの間に設けられる。
【0029】
また、各金属メッシュ22の長手方向の長さは、各電極21の長手方向の長さと同じである。
【0030】
また、各金属メッシュ22の表面には、必要により、触媒層(図示せず)が配置されている。
【0031】
触媒層(図示せず)は、バインダーおよびアンモニア分解触媒を含む。
【0032】
バインダーとしては、例えば、公知の増粘剤が挙げられる。
【0033】
アンモニア分解触媒としては、例えば、ロジウム(具体的には、アルミナにロジウムを担持させたアルミナ担持ロジウム)が挙げられる。
【0034】
アンモニア分解触媒の含有割合は、バインダー100質量部(wt%)に対して、例えば、0.05質量部(wt%)~1質量部(wt%)である。各金属メッシュ22に触媒層を配置すれば、アンモニア分解触媒の含有割合が少なくても、アンモニアの分解効率を向上できる。
【0035】
そして、金属メッシュ22の表面に、触媒層を配置させるには、例えば、まず、アンモニア分解触媒を含むスラリーを調製する。
【0036】
アンモニア分解触媒を含むスラリーを調製するには、アンモニア分解触媒と、バインダーと、水とを混合する。
【0037】
次いで、上記スラリーに、金属メッシュ22を浸漬させた後、乾燥させ、その後、焼成する。
【0038】
これにより、金属メッシュ22の表面に、触媒層を配置させる。
【0039】
触媒層の厚みは、例えば、0.01mm~0.37mmである。
【0040】
<アンモニアガス供給ライン>
アンモニアガス供給ライン4は、高圧燃料供給装置2(アンモニアタンク10)から、プラズマリアクタ3に、アンモニアガスを供給する。
【0041】
アンモニアガス供給ライン4のアンモニアガス供給方向における上流側端部は、高圧燃料供給装置2(アンモニアタンク10)に接続されている。アンモニアガス供給ライン4のアンモニアガス供給方向における下流側端部は、プラズマリアクタ3に接続されている。
【0042】
<水素供給ライン>
水素供給ライン5は、プラズマリアクタ3から、エンジン100に、プラズマリアクタ3によって分解された水素(プラズマリアクタ3において、アンモニアガスの一部が分解されない場合には、水素および未分解のアンモニアガスを含む混合ガス)を供給する。水素供給ライン5の水素供給方向における上流側端部は、プラズマリアクタ3に接続されている。水素供給ライン5の水素供給方向における下流側端部は、エンジン100に接続されている。
【0043】
また、水素供給ライン5の流れ方向途中には、インジェクター6が設けられている。
【0044】
インジェクター6は、プラズマリアクタ3から供給される水素(または上記混合ガス)を、エンジン100に向かって噴射する。
【0045】
<制御部>
制御部7は、プラズマリアクタシステム1における電気的な制御を実行するユニット(例えば、ECU:Electronic Control Unit)であり、演算処理部およびメモリなどを備えるマイクロコンピュータから構成されている。制御部7は、
図1において破線で示すように、プラズマリアクタ3と、インジェクター6とに接続されている。これにより、制御部7は、プラズマリアクタ3と、インジェクター6とを適宜制御している。また、制御部7は、ポンプ(図示せず)に接続されている。これにより、制御部7は、アンモニアタンク10内の圧力と、アンモニアおよび水素の供給を適宜制御している。
【0046】
<プラズマリアクタシステムの動作>
プラズマリアクタシステム1の動作について、詳述する。
【0047】
プラズマリアクタシステム1の動作は、制御部7によって制御される。
【0048】
プラズマリアクタシステム1では、まず、高圧燃料供給装置2(アンモニアタンク10)において、アンモニアガスの圧力を調整する。
【0049】
高圧燃料供給装置2(アンモニアタンク10)において、アンモニアガスの圧力を調整するには、高圧燃料供給装置2(アンモニアタンク10)に接続されたポンプ(図示せず)を駆動する。これにより、アンモニアガスの圧力を調整する。
【0050】
次いで、プラズマリアクタ3において、アンモニアタンク10に貯留されたアンモニアガスを分解する。
【0051】
プラズマリアクタにおいて、アンモニアタンク10に貯留されたアンモニアガスを分解するには、制御部7は、高圧燃料供給装置2(アンモニアタンク10)から、アンモニアガス供給ライン4を介して、プラズマリアクタ3に、アンモニアガスを供給する。
【0052】
次いで、制御部7は、プラズマリアクタ3に電圧を印加する(プラズマリアクタ3において、プラズマを発生させる)。これにより、プラズマリアクタ3において、アンモニアガスを、水素に分解する。
【0053】
プラズマリアクタ3の出力電力は、例えば、50W以上、また、例えば、4000W以下である。
【0054】
このとき、プラズマリアクタ3において、各電極21の間には、金属メッシュ22が設けられているため、アンモニアガスの圧力が高くても、プラズマを発生させることができ、アンモニアガスの改質効率の低下を抑制できる。
【0055】
そして、プラズマリアクタ3によって分解された水素(または上記混合ガス)は、水素供給ライン5を介して、プラズマリアクタ3からエンジン100に供給される。
【0056】
詳しくは、水素供給ライン5の流れ方向途中に設けられたインジェクター6によって、水素(または上記混合ガス)は、エンジン100に、噴射される。
【0057】
<作用効果>
プラズマリアクタシステム1によれば、高圧のアンモニアを改質する場合であっても、改質効率の低下を抑制できる。
【0058】
詳しくは、例えば、特許文献1のエンジンシステムでは、アンモニアガスの改質により得られる水素ガスを水素噴射装置によって、噴射する。このような場合には、水素ガス、および、水素ガスの原料となるアンモニアガスの圧力を高くする必要がある。
【0059】
しかし、アンモニアガスの圧力が高くなると、プラズマが発生しづらくなる傾向がある(詳しくは、プラズマを発生させるために要する電圧が高くなる傾向がある)。また、プラズマが発生しない場合もある。そうすると、アンモニアガスの改質効率が低下する。
【0060】
一方、このプラズマリアクタシステム1では、プラズマリアクタ3は、電極21の間に設けられる金属メッシュ22を備える。そのため、アンモニアガスの圧力が高くても、プラズマを発生させることができ、アンモニアガスの改質効率の低下を抑制できる。
【0061】
詳しくは、金属メッシュ22の誘電率が小さいため(具体的には、金属メッシュ22の誘電率は、ゼロに近いため)、電極21の間に金属メッシュ22を設けることによって、電極21の間の空間距離を短くすることができる。そして、空間距離が短くなると、プラズマを発生させるために要する電圧が低くなるため、アンモニアガスの圧力が高くても、プラズマを発生させることができる。その結果、アンモニアガスの改質効率の低下を抑制できる。
【0062】
また、エンジンシステムは、プラズマリアクタシステム1を備える。そのため、高圧のアンモニアを改質する場合であっても、改質効率の低下を抑制できる。
【0063】
<変形例>
変形例において、一実施形態と同様の部材および工程については、同一の参照符号を付し、その詳細な説明を省略する。また、変形例は、特記する以外、一実施形態と同様の作用効果を奏することができる。さらに、一実施形態およびその変形例を適宜組み合わせることができる。
【0064】
一実施形態では、金属メッシュ22の表面において、触媒層の厚みが均一であるが、好ましくは、アンモニアの分解効率の向上の観点から、金属メッシュ22の表面における温度が高くなりやすい部分において、触媒層の厚みを厚くする。
【0065】
換言すれば、金属メッシュ22は、高温領域31と、高温領域31によりも相対的に温度が低い低温領域32を備え、高温領域31の表面における触媒層の厚みが、低温領域32の表面における触媒層の厚みよりも厚くなるように調整する。
【0066】
高温領域31における触媒層の厚みは、例えば、0.20mm以上0.37mm以下である。低温領域32における触媒層の厚みは、例えば、0.01mm以0.20上mm未満である。
【0067】
低温領域32における触媒層の厚みに対する高温領域31における触媒層の厚みの比は、例えば、1.1以上3以下である。
【0068】
具体的には、
図2に示すように、金属メッシュ22では、アンモニアガス供給方向における中央部(アンモニアガス供給方向において、3分割した場合の中央部)は、アンモニアガス供給方向における両端部(アンモニアガス供給方向において、3分割した場合の両端部)よりも、外気に触れにくく、熱が逃げにくいため、温度が高くなりやすい傾向がある。つまり、上記中央部が高温領域31となり、上記両端部が低温領域32となる。
【0069】
そのため、好ましくは、アンモニアの分解効率の向上の観点から、上記中央部(高温領域31)の表面における触媒層の厚みが、上記両端部(低温領域32)の表面における触媒層の厚みよりも厚くなるように調整する。
【0070】
また、
図5Aおよび
図5Bに示すように、電極21として、複数の金属ワイヤーからなるメッシュ電極を用いる場合には、電極21における金属ワイヤーの密度が相対的に高い部分は、電極21における金属ワイヤーの密度が相対的に低い部分に比べて、温度が高くなりやすい傾向がある。つまり、電極21における金属ワイヤーの密度が高い部分に対応する金属メッシュ22が、高温領域31となり、電極21における金属ワイヤーの密度が低い部分に対応する金属メッシュ22が、低温領域32となる。
【0071】
詳しくは、
図5Aに示すように、電極21では、アンモニアガス供給方向における中央部(アンモニアガス供給方向において、3分割した場合の中央部)が、アンモニアガス供給方向における両端部(アンモニアガス供給方向において、3分割した場合の両端部)よりも、金属ワイヤーの密度が高くなっている。つまり、上記中央部に対応する金属メッシュ22が高温領域31となり、上記両端部に対応する金属メッシュ22が低温領域32となる。
【0072】
そのため、好ましくは、アンモニアの分解効率の向上の観点から、上記中央部に対応する金属メッシュ22(高温領域31)の表面における触媒層の厚みが、上記両端部に対応する金属メッシュ22が(低温領域32)の表面における触媒層の厚みよりも厚くなるように調整する。
【0073】
また、
図5Bに示すように、電極21では、アンモニアガス供給方向に直交する方向における上下方向における下側が、上側よりも、金属ワイヤーの密度が高くなっている。つまり、上記下側に対応する金属メッシュ22が高温領域31となり、上記上側に対応する金属メッシュ22が低温領域32となる。
【0074】
そのため、好ましくは、アンモニアの分解効率の向上の観点から、上記下側に対応する金属メッシュ22(高温領域31)の表面における触媒層の厚みが、上記上側に対応する金属メッシュ22(低温領域32)の表面における触媒層の厚みよりも厚くなるように調整する。
【0075】
一実施形態では、加圧タンクであるアンモニアタンク10によって、アンモニアガスが加圧されるが、例えば、気化器を用いて、加圧することもできる。このような場合には、
図3に示すように、高圧燃料供給装置2は、アンモニアタンク10と、気化器11と、アンモニア供給ライン12とを備える。
【0076】
アンモニアタンク10は、アンモニア(液体)を貯留する加圧タンクである。
【0077】
気化器11は、アンモニア(液体)をアンモニアガスに気化させる。
【0078】
アンモニア供給ライン12は、アンモニアタンク10から、気化器11に、アンモニアを供給する。
【0079】
アンモニア供給ライン12のアンモニア供給方向における上流側端部は、アンモニアタンク10に接続されている。アンモニア供給ライン12のアンモニア供給方向における下流側端部は、気化器11に接続されている。
【0080】
制御部7は、
図3において破線で示すように、気化器11に接続されている。これにより、制御部7は、気化器11を適宜制御している。
【0081】
そして、このようなプラズマリアクタシステム1では、まず、気化器11において、アンモニアタンク10に貯留されたアンモニア(液体)を気化する。
【0082】
気化器11において、アンモニアタンク10に貯留されたアンモニア(液体)を気化するには、制御部7は、アンモニア供給ライン12に介在するポンプ(図示せず)を駆動する。これにより、アンモニアタンク10から、アンモニア供給ライン12を介して、気化器11に、アンモニア(液体)を供給する。
【0083】
次いで、制御部7は、気化器11を駆動して、アンモニア(液体)を気化する。
【0084】
そして、気化器11において、気化されたアンモニアガスは、アンモニアガス供給ライン4を介して、プラズマリアクタ3に供給される。
【0085】
一実施形態では、各金属メッシュ22は、各電極21における誘電体24と当接するように、各電極21の間に設けられるが、金属メッシュ22と誘電体24とが当接しなくてもよい(
図4A参照)。具体的には、金属メッシュ22と、電極21aにおける誘電体24および電極21bにおける誘電体24とが当接しなくてもよい。
【0086】
また、2つの電極21の間において、金属メッシュ22が、一方の電極21における誘電体24と当接し、他方の電極21における誘電体24と当接しなくてもよい(
図4B参照)。具体的には、金属メッシュ22が、電極21aにおける誘電体24と当接し、電極21bにおける誘電体24と当接しなくてもよい。
【0087】
一実施形態では、2つの電極21の間において、金属メッシュ22は1つであるが、金属メッシュ22は複数でもよい。
【0088】
具体的には、長手方向の長さが電極21よりも短い金属メッシュ22(22a、22bおよび22c)を、ケーシング20の長手方向に沿って、互いに間隔を隔てて、複数配置することもできる(
図4C参照)。
【0089】
また、2つの電極21の間において、一方の電極21における誘電体24と当接する一の金属メッシュ22と、他方の電極21における誘電体24と当接する他の金属メッシュ22とを設けることもできる(
図4D参照)。具体的には、プラズマリアクタ3は、電極21aにおける誘電体24と当接する金属メッシュ22aと、電極21bにおける誘電体24と当接する金属メッシュ22bとを備えることもできる。
【0090】
また、一実施形態では、多孔部材は、網目状を有する金属メッシュ22であるが、多孔部材は、誘電率が小さく、アンモニアガスを通過させる部材であれば、特に限定されない。多孔部材として、例えば、多孔質部材およびパンチングメタルが挙げられる。
【0091】
また、一実施形態では、プラズマリアクタ3において、アンモニアガスの一部が分解されない場合には、未分解のアンモニアガスと水素とを含む混合ガスを、水素供給ライン5を介して、エンジン100に供給するが、エンジン100に供給する前に、未分解のアンモニアガスと、水素とを分離することもできる。このような場合には、水素供給ライン5の流れ方向途中において、インジェクター6の上流側に、未分解のアンモニアガスと、水素とを分離できる分離膜(図示せず)を設ける。
【0092】
一実施形態では、プラズマリアクタシステム1は、エンジン100に対して、水素を供給するが、供給先は、限定されない。プラズマリアクタシステム1は、例えば、燃料電池の燃料、水素発電の燃料として、水素を供給することもできる。また、このような場合には、要求に応じて、インジェクター6を省略することもできる。
【実施例0093】
製造例1
<触媒層の調製>
アルミナ担持ロジウム(アンモニア分解触媒)と、増粘剤(バインダー)と水とを混合し、攪拌した。これにより、アンモニア分解触媒を含むスラリーを調製した。
【0094】
次いで、
図2に記載の金属メッシュ22を準備した。そして、上記スラリーに、金属メッシュ22を浸漬させた後、乾燥(100℃、30分)させ、その後、焼成(500℃まで4時間かけて昇温後、500℃で1時間保持)した。
【0095】
金属メッシュ22を、上記スラリーに浸漬させる際には、まず、金属メッシュ22のプラズマリアクタ3のアンモニアガス供給方向(長手方向)における一方側から、金属メッシュ22の3分の2が浸かるまで浸漬させ、次いで、金属メッシュ22を上記スラリーから取り出し、さらに、金属メッシュ22のプラズマリアクタ3のアンモニアガス供給方向(長手方向)における他方側から、金属メッシュ22の3分の2が浸かるまで浸漬させた。つまり、金属メッシュ22の中央部(アンモニアガス供給方向において、3分割した場合の中央部)に対して、上記スラリーを2回浸漬させた。
【0096】
これにより、金属メッシュ22の表面に触媒層を配置した。
【0097】
実施例1
図1のプラズマリアクタシステム1に、製造例1の触媒層を備えた金属メッシュ22を備えるプラズマリアクタ3を設置した。
【0098】
そして、プラズマリアクタシステム1を作動させ、アンモニアガスを分解し、水素を製造した。
【0099】
実施例2
実施例1と同様の手順に基づいて、アンモニアガスを分解し、水素を製造した。但し、金属メッシュ22の表面に、触媒層を配置しなかった。
【0100】
<評価>
(アンモニアの分解速度)
各実施例の処理時間に対するアンモニアの分解率を測定した。具体的には、プラズマリアクタを通過したガスをガスクロマトグラフ(7890GC、8255)で、6分毎に分析した。得られた水素濃度を化学式(2NH
3→3H
2+N
2)から考えて、[分解後のNH
3濃度/初期のNH
3濃度]から算出した。その結果を
図6に示す。
【0101】
<考察>
金属メッシュを用いる実施例1および実施例2は、アンモニアを改質できたとわかる。
【0102】
また、
図6によれば、触媒層を備えた金属メッシュを用いる実施例1は、触媒層を備えない金属メッシュよりも、アンモニアの分解率が高くなったとわかる。また、アンモニア分解率は時間の経過とともに安定するが、安定後(飽和後)の分解率を比較すると実施例2は17%であるのに対して、実施例1は38%と約11%高いことがわかる。