(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024116115
(43)【公開日】2024-08-27
(54)【発明の名称】RNA編集オリゴヌクレオチドの立体特異的結合
(51)【国際特許分類】
C12N 15/113 20100101AFI20240820BHJP
C12N 9/14 20060101ALI20240820BHJP
C12Q 1/34 20060101ALI20240820BHJP
C12Q 1/68 20180101ALI20240820BHJP
C12Q 1/6813 20180101ALI20240820BHJP
A61K 31/7105 20060101ALI20240820BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20240820BHJP
A61K 31/712 20060101ALI20240820BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240820BHJP
A61P 25/16 20060101ALI20240820BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20240820BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20240820BHJP
A61P 11/06 20060101ALI20240820BHJP
A61P 7/06 20060101ALI20240820BHJP
A61P 11/00 20060101ALI20240820BHJP
A61P 21/04 20060101ALI20240820BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20240820BHJP
A61P 7/04 20060101ALI20240820BHJP
A61P 25/14 20060101ALI20240820BHJP
A61P 1/04 20060101ALI20240820BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240820BHJP
A61P 3/00 20060101ALI20240820BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20240820BHJP
A61P 37/02 20060101ALI20240820BHJP
【FI】
C12N15/113 Z ZNA
C12N9/14
C12Q1/34
C12Q1/68
C12Q1/6813 Z
A61K31/7105
A61K48/00
A61K31/712
A61P43/00 105
A61P25/16
A61P25/28
A61P25/00
A61P11/06
A61P7/06
A61P11/00
A61P21/04
A61P17/00
A61P7/04
A61P25/14
A61P1/04
A61P35/00
A61P3/00
A61P27/02
A61P37/02
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024071027
(22)【出願日】2024-04-25
(62)【分割の表示】P 2020564456の分割
【原出願日】2019-05-13
(31)【優先権主張番号】1808146.3
(32)【優先日】2018-05-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(71)【出願人】
【識別番号】517299054
【氏名又は名称】プロキューアール セラピューティクス ツー ベスローテン フェンノートシャップ
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100196966
【弁理士】
【氏名又は名称】植田 渉
(72)【発明者】
【氏名】ブデ,ジュリアン オーギュスト ジェルマン
(57)【要約】 (修正有)
【課題】細胞内の標的核酸分子との二本鎖複合体を形成することができ、ヌクレオチドデアミナーゼ活性を有する酵素を動員することができる、オリゴヌクレオチド組成物を提供する。
【解決手段】本発明は、特定位置に立体特異的ホスホロチオエートのヌクレオチド間結合修飾を有し、RNA編集の効率性を低下させる位置にこのような修飾を有さない、編集オリゴヌクレオチド(EON)に関する。ホスホロチオエートRpおよび/またはSp立体配置修飾を有すべき位置、または有すべきではない位置の選択は、分子間の酸素を媒介した水素結合ネットワークに対する立体特異的結合の不適合性を明らかにした、コンピューターモデリングに基づく。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞内の標的核酸分子と二本鎖複合体を形成することができ、ヌクレオチドデアミナー
ゼ活性を有する酵素を動員することができる、オリゴヌクレオチド組成物であって、前記
標的核酸分子が、ヌクレオチド脱アミノ化活性を有する前記酵素による脱アミノ化のため
の標的ヌクレオチドを含み、前記オリゴヌクレオチドが、式
【化1】
(式中、Xは、アルキル、アルコキシ、アリール、アルキルチオ、アシル、-NR
1R
1
、アルケニルオキシ、アルキニルオキシ、アルケニルチオ、アルキニルチオ、-S-Z
+
、-Se-Z
+、または-BH
3-Z
+であり、R
1は、独立して、水素、アルキル、ア
ルケニル、アルキニル、またはアリールであり、Z
+は、アンモニウムイオン、アルキル
アンモニウムイオン、ヘテロ芳香族イミニウムイオン、もしくはヘテロ環イミニウムイオ
ンであり、そのいずれかが一級、二級、三級、もしくは四級であるか、またはZは、一価
の金属イオンである)
によるRpまたはSp立体特異的立体配置が濃縮されている、少なくとも1つのヌクレオ
チド間結合を含むことを特徴とする、オリゴヌクレオチド組成物。
【請求項2】
前記標的ヌクレオチドに対向し、前記標的ヌクレオチドとミスマッチする、ヌクレオチ
ド位置0と称すヌクレオチドを含み、前記ヌクレオチド間結合の番号付けが、結合番号0
がヌクレオチド位置0からの5’結合となるようにし、前記オリゴヌクレオチドでのヌク
レオチド位置および結合位置がいずれも、5’末端および3’末端に向かってそれぞれ正
(+)および負(-)に増分する、請求項1に記載のオリゴヌクレオチド。
【請求項3】
主にRp立体配置を有する少なくとも1つの前記ヌクレオチド間結合が、結合位置+4
、-1、-3、および/または-6にある、請求項2に記載のオリゴヌクレオチド組成物
。
【請求項4】
主にSp立体配置を有する少なくとも1つの前記ヌクレオチド間結合が、結合位置+1
0にある、請求項2または3に記載のオリゴヌクレオチド組成物。
【請求項5】
前記オリゴヌクレオチドが、非修飾ホスホジエステルである少なくとも1つのヌクレオ
チド間結合を含む、請求項2から4のいずれか一項に記載のオリゴヌクレオチド組成物。
【請求項6】
非修飾ホスホジエステルである少なくとも1つの前記ヌクレオチド間結合が、結合位置
+5、+6、+7、+8、-4、および/または-5にある、請求項5に記載のオリゴヌ
クレオチド組成物。
【請求項7】
前記オリゴヌクレオチドが、2’-O-メトキシエチル(2’-MOE)リボース修飾
を含む1つまたは複数のヌクレオチドを含み、2’-MOEリボース修飾を含まない1つ
または複数のヌクレオチドを含む、請求項1から6のいずれか一項に記載のオリゴヌクレ
オチド組成物。
【請求項8】
前記オリゴヌクレオチドが、2’-MOEリボース修飾を含まない位置で2’-O-メ
チル(2’-OMe)リボース修飾を含む、および/または前記オリゴヌクレオチドが、
2’-MOEリボース修飾を含まない位置でデオキシヌクレオチドを含む、請求項1から
7のいずれか一項に記載のオリゴヌクレオチド組成物。
【請求項9】
ヌクレオチドデアミナーゼ活性を有する前記酵素が、ADAR1またはADAR2など
の、アデノシン脱アミノ化活性を有するデアミナーゼドメインを含む、請求項1から8の
いずれか一項に記載のオリゴヌクレオチド組成物。
【請求項10】
ヌクレオチドデアミナーゼ活性を有する前記酵素が、天然に発現される真核アデノシン
脱アミノ化酵素、好ましくはADAR2である、請求項1から8のいずれか一項に記載の
オリゴヌクレオチド組成物。
【請求項11】
前記オリゴヌクレオチドが、少なくとも10、11、12、13、14、15、16、
または17ヌクレオチド長であり、100ヌクレオチドより短く、好ましくは60ヌクレ
オチドより短い、請求項1から10のいずれか一項に記載のオリゴヌクレオチド組成物。
【請求項12】
前記標的ヌクレオチドが、イノシンに脱アミノ化するアデノシンである、請求項1から
11のいずれか一項に記載のオリゴヌクレオチド組成物。
【請求項13】
前記アデノシンが、UGAまたはUAG終止コドンに位置し、UGGコドンに編集され
る、請求項12に記載のオリゴヌクレオチド組成物。
【請求項14】
請求項1から13のいずれか一項に記載のオリゴヌクレオチドおよび薬学的に許容され
る担体を含む医薬組成物。
【請求項15】
嚢胞性線維症、ハーラー症候群、α-1-アンチトリプシン(A1AT)欠損症、パー
キンソン病、アルツハイマー病、色素欠乏症、筋萎縮性側索硬化症、喘息、β-サラセミ
ア、カダシル症候群、シャルコー-マリー-ツース症候群、慢性閉塞性肺疾患(COPD
)、遠位脊髄性筋萎縮症(DSMA)、デュシェンヌ型/ベッカー型筋ジストロフィー、
栄養障害性表皮水疱症、表皮水疱症、ファブリー病、第V因子ライデン関連障害、家族性
腺腫性ポリポーシス、ガラクトース血症、ゴーシェ病、グルコース-6-リン酸脱水素酵
素、血友病、遺伝性ヘモクロマトーシス、ハンター症候群、ハンチントン病、炎症性腸疾
患(IBD)、先天性多凝集症候群、レーバー先天性黒内障、レッシュ-ナイハン症候群
、リンチ症候群、マルファン症候群、ムコ多糖症、筋ジストロフィー、I型およびII型
筋強直性ジストロフィー、神経線維腫症、ニーマン-ピック病A型、B型およびC型、N
Y-eso1関連がん、ポイツ-イェガース症候群、フェニルケトン尿症、ポンペ病、原
発性線毛疾患、プロトロンビン突然変異関連障害(例えば、プロトロンビンG20210
A突然変異)、肺高血圧症、色素性網膜炎、サンドホフ病、重症複合免疫不全症候群(S
CID)、鎌状赤血球貧血、脊髄性筋萎縮症、スタルガルト病、テイサックス病、アッシ
ャー症候群、X連鎖免疫不全、スタージ-ウェーバー症候群、ならびに、がんからなる群
から好ましくは選択される、遺伝的障害の処置または予防での使用のための、請求項1か
ら13のいずれか一項に記載のオリゴヌクレオチド組成物。
【請求項16】
嚢胞性線維症、ハーラー症候群、α-1-アンチトリプシン(A1AT)欠損症、パー
キンソン病、アルツハイマー病、色素欠乏症、筋萎縮性側索硬化症、喘息、β-サラセミ
ア、カダシル症候群、シャルコー-マリー-ツース症候群、慢性閉塞性肺疾患(COPD
)、遠位脊髄性筋萎縮症(DSMA)、デュシェンヌ型/ベッカー型筋ジストロフィー、
栄養障害性表皮水疱症、表皮水疱症、ファブリー病、第V因子ライデン関連障害、家族性
腺腫性ポリポーシス、ガラクトース血症、ゴーシェ病、グルコース-6-リン酸脱水素酵
素、血友病、遺伝性ヘモクロマトーシス、ハンター症候群、ハンチントン病、炎症性腸疾
患(IBD)、先天性多凝集症候群、レーバー先天性黒内障、レッシュ-ナイハン症候群
、リンチ症候群、マルファン症候群、ムコ多糖症、筋ジストロフィー、I型およびII型
筋強直性ジストロフィー、神経線維腫症、ニーマン-ピック病A型、B型およびC型、N
Y-eso1関連がん、ポイツ-イェガース症候群、フェニルケトン尿症、ポンペ病、原
発性線毛疾患、プロトロンビン突然変異関連障害(例えば、プロトロンビンG20210
A突然変異)、肺高血圧症、色素性網膜炎、サンドホフ病、重症複合免疫不全症候群(S
CID)、鎌状赤血球貧血、脊髄性筋萎縮症、スタルガルト病、テイサックス病、アッシ
ャー症候群、X連鎖免疫不全、スタージ-ウェーバー症候群、ならびに、がんからなる群
から好ましくは選択される、遺伝的障害の処置または予防のための医薬の製造における、
請求項1から13のいずれか一項に記載のオリゴヌクレオチド組成物の使用。
【請求項17】
細胞内の標的核酸分子に存在する少なくとも1つの標的ヌクレオチドの脱アミノ化のた
めの方法であって、
(i)前記細胞に、請求項1から13のいずれか一項に記載のオリゴヌクレオチド組成
物を供給するステップ、
(ii)前記オリゴヌクレオチドの前記細胞による取込みを可能にするステップ、
(iii)前記標的核酸分子への前記オリゴヌクレオチドのアニーリングを可能にする
ステップ、
(iv)ヌクレオチドデアミナーゼ活性を有する哺乳動物酵素が、前記標的核酸分子中
の前記標的ヌクレオチドを脱アミノ化することを可能にするステップ、および
(v)任意で、前記標的核酸中の脱アミノ化した前記ヌクレオチドの存在を同定するス
テップ
を含む方法。
【請求項18】
ステップ(v)が、
a)脱アミノ化した前記標的ヌクレオチドを含む、前記標的核酸分子の領域をシークエ
ンシングすること、
b)前記標的ヌクレオチドが、UGAまたはUAG終止コドンに位置するアデノシンで
あり、脱アミノ化によってUGGコドンに編集される場合、機能性、伸長型、全長および
/もしくは野生型タンパク質の存在を評価すること、
c)2つの標的アデノシンが、UAA終止コドンに位置し、両方の標的アデノシンの脱
アミノ化によってUGGコドンに編集される場合、機能性、伸長型、全長および/もしく
は野生型タンパク質の存在を評価すること、
d)前記標的核酸が、プレmRNAである場合、前記プレmRNAのスプライシングが
、脱アミノ化により改変したかどうかを評価すること、または
e)機能的な読み出しを使用することであって、脱アミノ化後の前記標的核酸が、機能
性、全長、伸長型および/もしく野生型タンパク質をコードする、こと
を含む、請求項17に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医学分野に関する。より詳細には、細胞中の核酸分子をアンチセンスオリゴ
ヌクレオチドにより標的化して、デアミナーゼ活性を有する酵素によって、核酸配列での
突然変異を修正することを含む、標的ヌクレオチドを特異的に変化させる、核酸編集の分
野に関する。より具体的には、本発明は、キラリティを呈する1つまたは複数のヌクレオ
シド間結合を含む、アンチセンスオリゴヌクレオチドであって、選択された位置での立体
特異的バリアントを挿入することにより、好ましくは、酵素の関与および核酸編集の効率
性を高めるために、最適化されている、アンチセンスオリゴヌクレオチドに関する。
【背景技術】
【0002】
RNA編集は、真核細胞が、多くの場合、部位特異的で正確な方法で、そのRNA分子
の配列を改変し、それにより、ゲノムがコードしたRNAのレパートリーを数桁増加させ
る、天然のプロセスである。RNA編集酵素は、動物界および植物界を通じて真核生物に
おいて記述されており、これらプロセスは、単純な生命体(例えば、カエノラブディティ
ス・エレガンス(Caenorhabditis elegans))からヒトに至る後生動物での細胞恒常性を
制御する、重要な役割を担っている。RNA編集の例は、アデノシン(A)からイノシン
(I)への変換、およびシチジン(C)からウリジン(U)への変換であり、それぞれ、
アデノシンデアミナーゼおよびシチジンデアミナーゼと言われる酵素により生じる。最も
広く研究されているRNA編集システムは、アデノシンデアミナーゼ酵素である。
【0003】
アデノシンデアミナーゼは、目的の酵素に依存して、触媒ドメイン、および、2~3個
の二本鎖RNA認識ドメインを含むマルチドメインタンパク質である。認識ドメインは、
特異的二本鎖RNA(dsRNA)配列および/または構造を認識する一方、触媒ドメイ
ンは、核酸塩基の脱アミノ化により、標的RNAでの近傍の、およそ予め定義された位置
において、アデノシン(A)をイノシン(I)に変換する。イノシンは、細胞の翻訳機構
により、グアニンとして読み込まれ、編集されたアデノシンが、mRNAまたはプレmR
NAのコード領域にある場合、タンパク質配列を再コードすることができる。AからIへ
の変換はまた、元の開始点の上流に新規の翻訳開始点を作成する、標的mRNAの5’非
コード配列(N末端の拡張されたタンパク質を生じる)で起こるか、または、3’UTR
もしくは転写の他の非コード部分(RNAのプロセッシングおよび/もしくは安定性に影
響を与えることができる)で起こり得る。加えて、AからIへの変換は、プレmRNAの
イントロンまたはエクソンにおいてスプライスエレメントで起こり、それにより、スプラ
イシングのパターンを改変し得る。その結果として、エクソンは、含まれ得るか、または
スキップし得る。アデノシンデアミナーゼは、ヒトデアミナーゼhADAR1、hADA
R2、およびhADAR3を含む、RNAに作用するアデノシンデアミナーゼ(ADAR
)として知られている酵素のファミリーの一部である。
【0004】
アデノシンデアミナーゼを適用する標的RNAを編集するオリゴヌクレオチドの使用が
報告されている(例えば、Montiel-Gonzalez et al. PNAS 2013, 110(45):18285-18290、
Vogel et al. 2014. Angewandte Chemie Int Ed 53:267-271、Woolf et al. 1995. PNAS
92:8298-8302)。Montiel-Gonzalezら(2013)は、boxB RN
Aヘパリン配列を認識する、バクテリオファージλNタンパク質に融合しているhADA
R2タンパク質のアデノシンデアミナーゼドメインを含む、遺伝子操作された融合タンパ
ク質を使用する標的RNAの編集について記載した。hADAR2の天然dsRNA結合
ドメインは、天然ADARの基質認識特性をなくし、それをλNタンパク質のboxB認
識ドメインで置き換えるために、除去している。著者らは、Nドメインデアミナーゼ融合
タンパク質による配列特異的認識のためのboxB部分に融合している、編集するための
標的配列に相補的である「ガイドRNA」(gRNA)部分を含む、アンチセンスオリゴ
ヌクレオチドを作成した。これを行ったことにより、ガイドRNAオリゴヌクレオチドが
、アデノシンデアミナーゼ融合タンパク質を標的部位に正確に配向し、その結果、ガイド
RNA指向性で部位特異的である標的RNAのAからIへの編集をもたらしたことが簡潔
に示された。これらガイドRNAは、50ヌクレオチド超の長さであるが、一般に、製造
の困難さと細胞への侵入が限定的であることにより、治療適用には長すぎる。治療環境で
のこの方法の不利な点は、切断された天然ADARタンパク質のアデノシンデアミナーゼ
ドメインに遺伝的に融合した、バクテリオファージλNタンパク質のboxB認識ドメイ
ンからなる融合タンパク質が必要なこともある。標的細胞が融合タンパク質で形質導入さ
れるか(これは主要な障害である)、または、標的細胞が、発現用の操作されたアデノシ
ンデアミナーゼ融合タンパク質をコードする核酸構築物でトランスフェクトされるかのい
ずれかが必要である。後者の要件は、例えば、遺伝的疾患を治すヒト疾患に対する療法に
おいて、編集が、多細胞生物で達成される場合、軽微な障害とはならない。
【0005】
Vogelら(2014)は、ベンジルグアニン置換ガイドRNAと、SNAPタグド
メイン(操作されたO6-アルキルグアニン-DNA-アルキルトランスフェラーゼ)に
遺伝的に融合した、(dsRNA結合ドメインを欠く)ADAR1またはADAR2のア
デノシンデアミナーゼドメインを含む遺伝子操作された融合タンパク質とを使用した、e
CFPおよび第V因子ライデンをコードするRNAの編集を開示した。遺伝子操作された
人工デアミナーゼ融合タンパク質は、そのSNAPタグドメインが5’末端O6-ベンジ
ルグアニン修飾によってガイドRNAに共有結合していることにより、培養下のHeLa
細胞内の標的RNAの所望の編集部位に対して標的化され得るが、このシステムは、どの
ようにして、まずADARを遺伝子改変することなくシステムを適用し、続いて標的RN
Aを有する細胞にトランスフェクトまたは形質導入して、この遺伝作されたタンパク質を
有する細胞を提供するかが明らかではないという点で、Montiel-Gonzale
zら(2013)に記載の遺伝子操作されたADARと同様の欠点がある。明らかに、こ
のシステムは、例えば治療環境での、ヒトにおける使用に容易に適用することができない
。
【0006】
Woolfら(1995)は、比較的長い一本鎖アンチセンスRNAオリゴヌクレオチ
ド(25~52ヌクレオチド長)を使用する、より単純な手法であって、より長いオリゴ
ヌクレオチド(34マーおよび52マー)が、標的RNAおよびそれにハイブリダイズす
るオリゴヌクレオチドの二本鎖の性質により、内因性ADARによる標的RNAの編集を
促進することができる、手法を開示した。標的RNA配列に100%相補的である、Wo
olfら(1995)のオリゴヌクレオチドは、細胞抽出物または両生類(ゼノプス類(
Xenopus))の卵母細胞において、ミクロ注入により、唯一機能するようであり、特異性
の重度の欠如に悩まされ、アンチセンスオリゴヌクレオチドに相補的であった標的RNA
鎖におけるほぼ全てのアデノシンを編集した。各ヌクレオチドが、2’-O-メチル修飾
を有する、オリゴヌクレオチド、34ヌクレオチド長は、Woolfら(1995)が試
験し、不活性であることを示した。ヌクレアーゼに対する安定性をもたらすために、5’
末端および3’末端の5ヌクレオチドで2’-O-メチル修飾させたホスホロチオエート
ヌクレオチドで修飾させた、34マーのRNAも試験した。中央の非修飾領域のこのオリ
ゴヌクレオチドが、エキソヌクレアーゼ分解に対する保護を実現する末端修飾で、内因性
ADARによる標的RNAの編集を促進することができることが示された。Woolfら
(1995)は、標的RNA配列における特異的な標的アデノシンの脱アミノ化を達成し
なかった。上述した通り、アンチセンスオリゴヌクレオチドにおいて非修飾のヌクレオチ
ドに対向するほぼ全てのアデノシンを編集した(したがって、アンチセンスオリゴヌクレ
オチドの5’末端および3’末端の5ヌクレオチドが修飾された場合での中央の非修飾領
域のヌクレオチドに対向するほぼ全てのアデノシン、または、ヌクレオチドが修飾されな
かった場合での標的RNA鎖でのほぼ全てのアデノシン)。
【0007】
ADARは、任意のdsRNAで作用することができることが知られている。「無作為
編集(promiscuous editing)」と時に称されるプロセスによって、酵素は、dsRNA
において、多数のAを編集する。ゆえに、このような無作為編集を回避し、治療適用可能
性に対して、標的RNA配列で特定のアデノシンのみを標的化する、方法および手段の必
要性が存在する。Vogelら(2014)は、このような標的外編集が、編集すべきで
はないアデノシンに対向する位置でのオリゴヌクレオチドにおいて、2’-O-メチル修
飾させたヌクレオチドを使用することにより抑制することができ、標的RNAの特異的に
標的化されたアデノシンに直接対向する非修飾ヌクレオチドを使用することができること
を示した。しかし、この論文では、標的ヌクレオチドでの特異的な編集効果は、アンチセ
ンスオリゴヌクレオチドと共有結合する組換えADAR酵素を使用せずに、生じるという
ことが示されなかった。
【0008】
国際公開第2016/097212号では、RNAの標的化編集のためのアンチセンス
オリゴヌクレオチド(AON)であって、標的RNA配列に相補的な配列(以下、「標的
化部分」と称す)、および好ましくは標的RNAに相補的ではないステム-ループ構造(
以下、「動員部分」と称す)の存在によって特徴付けられるAONが開示される。このよ
うなオリゴヌクレオチドは、「自己ルーピングAON」と称す。動員部分は、細胞に存在
する天然のADAR酵素を、標的配列と標的化部分のハイブリダイゼーションにより形成
されるdsRNAに動員する働きがある。動員部分があるため、コンジュゲートされる実
体も、修飾された組換えADAR酵素の存在も必要としない。国際公開第2016/09
7212号では、動員部分は、天然基質(例えばGluB受容体)またはADAR酵素の
dsRNA結合領域により認識されるとして知られているZ-DNA構造のいずれかを模
倣するステム-ループ構造であると記載されている。ステム-ループ構造は、2つの別々
の核酸鎖により形成される分子間のステム-ループ構造、または、単一の核酸鎖内に形成
される分子内のステム-ループ構造であり得る。国際公開第2016/097212号に
記載の動員部分のステム-ループ構造は、AON自体内に形成され、ADARを引き付け
ることができる分子内のステム-ループ構造である。
【0009】
国際公開第2017/220751号および国際公開第2018/041973号では
、動員部分を含まないが、1つまたは複数のミスマッチ、またはいわゆる「揺らぎ」もし
くは膨らみを除いて標的化された領域に(ほぼ完全に)相補的である、AONが記載され
ている。唯一のミスマッチは、標的アデノシンに対向するヌクレオチドであり得るが、他
の実施形態では、AONは、標的配列領域に結合した場合、多数の膨らみおよび/または
揺らぎを有すると記載されている。AONの配列を、ADARを引き付けることができる
ように注意深く選択した場合、動員部分を欠くAON、および内因性ADAR酵素で、イ
ンビトロ、エクスビボ、およびインビボでのRNA編集を達成することが可能であったよ
うである。標的アデノシンに直接対向するAONでのヌクレオチドは、2’-O-メチル
修飾を有さないとして記載されていた。AONの残りが、糖物質での2’-O-アルキル
修飾(例えば2’-O-メチル)を有する、DNAヌクレオチド、または、RNA編集の
効率性をさらに改善した、および/もしくはヌクレアーゼに対する耐性を高めた特定の化
学修飾を含有する(もしくはDNAであった)、いわゆる「セントラルトリプレット(Ce
ntral Triplet)」内の、もしくはセントラルトリプレットを直接囲んでいるヌクレオチ
ドでもあり得た。このような効果は、分解に対するAONを「保護する」センスオリゴヌ
クレオチド(SON)を使用する場合、さらに改善することさえできた(PCT欧州特許
出願公開第2018/051202号明細書に記載、未公開)。
【0010】
CRISPR/Cas9システムとして知られている、オリゴヌクレオチドを使用する
さらに別の編集技術が存在することに、さらに留意されたい。しかし、この編集複合体は
、DNAで作用する。CRISPR/Cas9システムは上述の操作されたADARシス
テムの同様の欠陥にも悩まされるが、その原因は、CRISPR/Cas9酵素、または
、ガイドオリゴヌクレオチドと共にこれをコードする発現構築物の標的細胞への共送達を
必要とするためである。何人かの研究者らは、例えば、Cas9、および、CRISPR
/Cas9標的発見則にしたがって設計されたガイドRNAによりDNA標的部位に誘導
される、デアミナーゼ活性を有する酵素を含む融合タンパク質を利用することによる、D
NA配列の塩基編集で実験している。
【発明の概要】
【0011】
上記で概説した達成にもかかわらず、(内因性)細胞経路、および、デアミナーゼ活性
を有する酵素、例えば、哺乳動物細胞に対して、生物全体に対してさえ、疾患を緩和する
ために内因性核酸を、より特異的に、より効果的に編集するために、天然に発現されるA
DAR酵素を利用することができる、新規の化合物の必要性は依然として残る。
【0012】
本発明は、細胞内の標的核酸分子との二本鎖複合体を形成することができ、ヌクレオチ
ドデアミナーゼ活性を有する酵素を動員することができる、オリゴヌクレオチド組成物で
あって、標的核酸分子が、ヌクレオチド脱アミノ化活性を有する酵素による脱アミノ化の
ための標的ヌクレオチドを含み、オリゴヌクレオチドが、標的ヌクレオチドとミスマッチ
する、標的ヌクレオチドに対向する位置を含み、オリゴヌクレオチドが、1つの立体特異
的立体配置が濃縮されている、少なくとも1つのヌクレオチド間結合を含むことを特徴と
する、オリゴヌクレオチド組成物に関する。好ましくは、オリゴヌクレオチドは、主にR
p立体配置を有する少なくとも1つのヌクレオチド間結合、および、主にSp立体配置を
有する少なくとも1つのヌクレオチド間結合を含む。別の好ましい態様では、オリゴヌク
レオチドは、ホスホロチオエート修飾を伴わない、少なくとも1つのヌクレオチド間結合
を含む。好ましくは、ヌクレオチドデアミナーゼ活性を有する酵素は、ADAR1または
ADAR2である。また好ましいのは、本発明によるオリゴヌクレオチド組成物であり、
標的ヌクレオチドが、イノシンに脱アミノ化するアデノシンであり、翻訳機構により、グ
アニンとして読み込まれるオリゴヌクレオチド組成物である。本発明はまた、本明細書で
特徴付けられるオリゴヌクレオチドおよび薬学的に許容される担体を含む医薬組成物に関
する。
【0013】
別の態様では、本発明は、細胞内の標的RNA分子と二本鎖複合体を形成することがで
き、ADAR活性を有する内因性酵素を動員することができる、(編集)オリゴヌクレオ
チド(EON)であって、標的RNA分子が、ADAR活性を有する酵素による脱アミノ
化のための標的アデノシンを含み、EONが、3つの連続するヌクレオチドのセントラル
トリプレットを含み、ここで標的アデノシンに直接対向するヌクレオチドが、セントラル
トリプレットの中央のヌクレオチド(位置0)であり、位置が、EONの5’末端および
3’末端に向かってそれぞれ正(+)および負(-)に増分し、EONが、標的アデノシ
ンとミスマッチする、位置0でのヌクレオチドを含む、(編集)オリゴヌクレオチド(E
ON)に関する。さらに別の態様では、本発明は、遺伝的障害の処置または予防での使用
のための、本発明によるEONに関する。本発明はまた、細胞内の標的RNA分子に存在
する少なくとも1つの標的アデノシンの脱アミノ化のための方法であって、細胞に本発明
によるEONを供給するステップ、EONの細胞による取込みを可能にするステップ、標
的RNA分子へのEONのアニーリングを可能にするステップ、ADAR活性を有する哺
乳動物酵素が、標的RNA分子中の標的アデノシンをイノシンに脱アミノ化することを可
能にするステップ、および任意で、標的RNA中のイノシンの存在を同定するステップを
含む方法に関する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】ホスホロチオエート結合に対する、RpおよびSp立体特異的立体配置の描写である。
【
図2】IDUA-RNA標的化EONからの25nt長の領域のヌクレオチドを示す、本明細書に記載のコンピュータ解析の結果を示す。EON配列は、5’から3’(配列番号1)で提供される。各接続に対して、EON酸素-リン酸骨格により媒介された、潜在的な水素結合ネットワークを保存しながら、RpおよびSpホスホロチオエート結合挿入の適合性について、構造評価を実施した。白丸は、RpまたはSpホスホロチオエート結合が許容されるヌクレオチドの特徴を明らかにする。黒丸は、ホスホロチオエートが除外されるべき位置を示す。
【
図3】上部に、IDUA-RNAを標的化するEONの領域に対する、立体特異的ホスホロチオエートパターンの概要を示す。EON配列は、5’から3’(配列番号1)で提供される。ヌクレオチド配列の下に、ヌクレオチドの順番を記載し、「0」位置が、標的配列で脱アミノ化された標的アデノシンに対向するヌクレオチドを指す。EONの5’末端に向かって、ヌクレオチドの番号付けは、+12に増えていく一方、EONの3’末端に向かって、ヌクレオチドの番号付けは、-12に減っていく。ゆえに、この特定の例では、(潜在的にはより長いEONの)25ヌクレオチド分を示す。結合の番号付けは異なり、ヌクレオチドの5’結合が、ヌクレオチドの一部とされている。結合の番号付けは、最上行に記載する。理解できる通り、最上行の「0」と称される結合は、ヌクレオチド「0」の5’結合であり、結合の番号付けは、5’末端に向かって+12に増え、結合の番号付けは、3’末端に向かって-12に減っていく。最大「結合」+12が、この特定の例では結合していないが、5’末端でより長い場合、任意の所与のEONでの次のヌクレオチドに結合することができることは理解すべきである。同様なことが3’末端でも真であり、追加のヌクレオチドが結合することができる。モデリングは、1つのヌクレオチド(5’結合を含む)を、いわゆる「構造モデリング単位(structuring modelling unit)」として使用して、示された25ヌクレオチドで行われた。結合丸印の上の「R」は、その位置での好ましいRp立体配置を示す。同様に、結合丸印の上の「S」は、その位置での好ましいSp立体配置を示す。RpおよびSpの両方を許容する位置には、丸印の上は空白とした。丸印の上のバツ印「×」は、ホスホロチオエートが除外される/回避されるべき位置を示す。最下部では、Rpおよび/またはSpホスホロチオエート結合を有するヌクレオチドの概略図を示す。簡潔にするために、この図は、11ヌクレオチド(10結合位置)(配列番号2)のみに限定する。白丸の下の黒丸は、Rp立体配置を表す一方、白丸の上の黒丸は、Sp立体配置を表す。PSでの両方の丸が白である場合、RpおよびSpの両方ともに許容される。位置-3、-4、および-5でのヌクレオチドの間(2結合)では、立体特異的ホスホロチオエートは、回避しなければならない(PSでのバツ印で示す)。
【発明を実施するための形態】
【0015】
標的RNAにおいて標的アデノシンの編集効率性に悪影響を及ぼさずに、(RNA)編
集オリゴヌクレオチド(EON)の薬物動態特性を改善する必要性が常に存在する。多く
の化学修飾は、アンチセンスオリゴヌクレオチドの生成中に存在し、その特性は、効果的
な編集オリゴヌクレオチドの設計の要望に不適合である。より良好な薬物動態特性の探索
において、全てではないが、いくつかのヌクレオチドのリボースの2’-O-メトキシエ
チル(2’-MOE)修飾が、驚くべきことに、効果的なADARの関与および編集に適
合するようであったことが先に見出された(英国特許第1802392.9号明細書、未
公開)。向上した薬物動態特性の例は、細胞の取込み、および、細胞内輸送、安定性など
である。2’-MOE修飾の特性が知られていた一方、ADARの関与および脱アミノ化
に対するその適合性は知られていなかった。2’-MOEがADARに適合している、又
は適合していないオリゴヌクレオチド内の位置を解明した。
【0016】
脱アミノ化、より特に、アデノシンデアミナーゼ活性を有する酵素による脱アミノ化な
どの、標的化させた塩基編集に対するガイドとしてのオリゴヌクレオチド特性を改善する
さらなる試みでは、本発明者は、異なるヌクレオシド間結合の許容性に関して、オリゴヌ
クレオチドを調べた。より特に、本発明者らは、キラルホスホネート(phosphonate)中
心などのキラル中心を有する、ヌクレオシド間結合を調べた。より特に、本発明者は、オ
リゴヌクレオチドにおいてホスホロチオエート結合が許容されるか、もし許容されるなら
ば、ホスホロチオエートが許容される特定の位置でキラリティを制御することにより、ヌ
クレオシド間結合と、標的核酸とヘリカル複合体を形成する場合にオリゴヌクレオチドと
相互作用する、脱アミノ化活性を有する酵素のそのアミノ酸残基との間の水素結合相互作
用が改善するかどうかを調べた。以下の章では、知見および結論のより詳細な説明は、標
的アデノシン周囲において、標的アデノシンの脱アミノ化のためにRNAに作用するアデ
ノシンデアミナーゼ(ADAR)を動員し、イノシンに変換する、標的部位で標的RNA
に結合するように設計された、化学修飾されたEONの相互作用に基づいてなされる。し
かし、本発明が、ADARを動員して、標的アデノシンをイノシンへと変換するために設
計されたオリゴヌクレオチドまたは方法に限定されないことは明らかであるべきである。
少なくとも1つのヌクレオシド間結合が、キラル中心(Xホスホネート(phosphonate)
部分(Xは、アルキル、アルコキシ、アリール、アルキルチオ、アシル、-NR1R1、
アルケニルオキシ、アルキニルオキシ、アルケニルチオ、アルキニルチオ、-S-Z+、
-Se-Z+、または-BH3-Z+であり得、R1は、独立して、水素、アルキル、ア
ルケニル、アルキニル、またはアリールであり、Z+は、アンモニウムイオン、アルキル
アンモニウムイオン、ヘテロ芳香族イミニウムイオン、もしくはヘテロ環イミニウムイオ
ンであり、そのいずれかが一級、二級、三級、もしくは四級であるか、またはZは、一価
の金属イオンである)を含む)を含む限り、本発明が、標的核酸に結合し、ヌクレオチド
(アデノシンおよびシチジンを含む)脱アミノ化活性を有する、任意のタンパク質(天然
に発現されるタンパク質、ならびに、異なるまたは同じ起源の融合タンパク質を含む外来
タンパク質)を動員することができる、任意のオリゴヌクレオチドを包含することを理解
すべきである。コンピューターモデリングを使用するこのような結合それ自体の許容性の
決定、ならびに、キラル中心を含む結合の好ましいSpまたはRp立体異性体の決定の両
方は、本発明の一部を形成する。
【0017】
特定の態様では、本発明は、ヌクレオシド間結合により結合しているヌクレオチドを含
むオリゴヌクレオチドであって、その少なくとも1つが、キラリティを呈し、相補的核酸
配列と結合することにより二本鎖核酸構造を形成する場合、ヌクレオチドデアミナーゼ活
性を有する酵素を、上記相補的核酸配列の標的ヌクレオチドに動員することが可能であり
、上記オリゴヌクレオチドの上記ヌクレオシド間結合の少なくとも1つと、ヌクレオチド
デアミナーゼ活性を有する上記酵素との水素相互作用に最適化されていることを特徴とす
る、オリゴヌクレオチドに関する。キラリティは、立体異性体を有する可能性を有すると
して定義される。本発明は、ヌクレオチドデアミナーゼ活性を有する酵素と相互作用する
オリゴヌクレオチドでのキラリティを有する、ヌクレオチド間結合のキラル制御について
である。本発明の一態様では、ヌクレオチドデアミナーゼ活性を有する酵素との水素相互
作用に負の影響を及ぼさない位置にキラリティを呈する、少なくとも1つのヌクレオシド
間結合を配置することにより、水素相互作用に最適化されている、オリゴヌクレオチド(
組成物)に関する。好ましい態様では、オリゴヌクレオチドは、ヌクレオチドデアミナー
ゼ活性を有する酵素との最も安定した水素相互作用を助ける1つまたは複数の位置におい
て、ヌクレオシド間結合の立体特異的形態を選択することにより、水素相互作用に最適化
されている。
【0018】
本発明の発明者らは、オリゴヌクレオチド内のヌクレオチド間のホスホロチオエート結
合の立体特異性が、このようなオリゴヌクレオチドの薬物動態特性および/またはRNA
編集の効率性に影響を及ぼすかどうかを調べた。これが、本発明の対象である。本明細書
に開示される知見は、原則として、天然または組換え、切断されたまたは全長、他のタン
パク質に融合しているか否かを問わず、ADARまたはADARデアミナーゼドメインに
関与する合成オリゴヌクレオチドを利用する、塩基編集の任意の形態を使用することがで
きる(例えば、Stafforst and Schneider, 2012, Angew Chem Int 51:11166-11169、Schn
eider et al. 2014, Nucleic Acids Res 42:e87、Montiel-Gonzalez et al. 2016, Nucle
ic Acids Res 44:e157)。
【0019】
本発明はまた、以下の2つの立体異性体の形態RpおよびSp:
【0020】
【化1】
式I(Rp)および式II(Sp)
(式中、Xは、アルキル、アルコキシ、アリール、アルキルチオ、アシル、-NR
1R
1
、アルケニルオキシ、アルキニルオキシ、アルケニルチオ、アルキニルチオ、-S-Z
+
、-Se-Z
+、または-BH
3-Z
+であり、R
1は、独立して、水素、アルキル、ア
ルケニル、アルキニル、またはアリールであり、Z
+は、アンモニウムイオン、アルキル
アンモニウムイオン、ヘテロ芳香族イミニウムイオン、もしくはヘテロ環イミニウムイオ
ンであり、そのいずれかが一級、二級、三級、もしくは四級であるか、または、Zは、一
価の金属イオンである)
を有するヌクレオチド間結合に関する。
【0021】
本発明は、キラリティを呈するヌクレオシド間結合が、ホスホロチオエート結合である
、本発明によるオリゴヌクレオチドにさらに関する。好ましい実施形態では、ヌクレオシ
ドデアミナーゼ活性を有する酵素は、ADAR2デアミナーゼドメイン、または、その突
然変異もしくは誘導体、または、それを用いた融合タンパク質を含む。また別の好ましい
実施形態では、本発明は、2、3、4、5、6、7、8、9、または10個のヌクレオシ
ド間結合で最適化されている、オリゴヌクレオチドに関する。さらに好ましい態様では、
オリゴヌクレオチドは、キラリティを呈する、2、3、4、5、6、7、8、9、または
10個の立体特異的ヌクレオシド間結合を含む。
【0022】
インビトロ研究では、結合親和性、相補的RNAへの配列特異的結合、およびヌクレア
ーゼに対する安定性などの、アンチセンスヌクレオチドの特性が、リン原子の立体配置の
影響を受けていることが示されている。国際公開第2010/064146号では、キラ
ルXホスホネート(phosphonate)部分を含む、リン原子修飾された核酸の立体制御合成
の方法が開示されている。
【0023】
治療適用で使用される化学修飾されたオリゴヌクレオチドは、多くの場合、ホスホロチ
オエート結合(本明細書やその他の場所では、多くの場合、PSと略される)を有する。
この修飾の最も重要な役割は、ポリマーを、ヌクレアーゼ媒介の分解から保護することで
ある。これは、RNA末端でのエキソヌクレアーゼの分解を阻害し、エンドヌクレアーゼ
の攻撃を内部で制限する。注目すべきは、PSリッチなオリゴヌクレオチドが、タンパク
質に対してより良好な親和性を有すると報告されていることである(Brown D.A. et al.,
Effect of phosphorothioate modifications of oligodeoxynucleotides on specific p
rotein binding, J Biol Chem, 1994、Antisense Drug Technology, Principles, Strate
gies, and Applications, Second Edition, 2007, edited by Stanley T. Crooke)。し
かし、このような結合は、非特異的な接触により媒介される可能性が最も高い。生物学的
分子では、硫黄-リン酸結合による酸素-リン酸の置換は、天然タンパク質/RNA複合
体により確立された分子間の水素結合ネットワークを妨げる可能性がある。実際に、研究
では、硫黄原子が、非常に不十分な水素結合受容体であるが、適度に良好な水素結合供与
体であることが実証された(Zhou et al. Geometric characteristics of hydrogen bond
s involving sulfur atoms in proteins, Proteins, 2009)。しかし、タンパク質構造で
は、メチオニンおよびシステインの硫黄原子は、水素受容体であると報告されている(Si
ngleton et al. X-ray structure of pyrrolidone carboxyl peptidase from the hypert
hermophilic archaeon Thermococcus litoralis, Structure, 1999、Diaz et al. Unusua
l Cys-Tyr covalent bond in a large catalase, J. Mol. Biol., 2004)。理論研究およ
びいくつかの実験データでは、OH..SおよびNH..Sの水素結合の存在を確認され
ているが、硫黄の電気陰性度は、酸素と比較して低い。2つの極性基の間の相対角が、結
合力を規定するという真実に加えて、本発明の発明者らは、その手法において、電気陰性
度が水素結合形成に対する主要なパラメーターであるとみなした。ゆえに、この構造に基
づくオリゴヌクレオチド設計に対して、EON酸素-リン酸骨格とADAR2デアミナー
ゼドメイン側鎖との間の潜在的な水素結合接触は、保存されるべきであると仮定した。本
発明の発明者らは、これらの接続が、2つの分子パートナー間の相互作用をより良好に支
持することを提案する。立体特異的ホスホロチオエート結合では、酵素とそのリガンドと
の間の相互作用を微調整する高い可能性が示される。実際に、立体化学的なコードは、結
合したRNase H1で収集され、ミポメルセン由来のオリゴヌクレオチド配列の分析
と結び付けて考察した構造データにより、最近、注目されている(Iwamoto et al. 2017.
Nat Biotechnol 35:845-851)。ミポメルセンの一次配列を有するこれらオリゴヌクレオ
チドは、RpおよびSpを示す、純粋なまたは合わせた立体特異的ホスホロチオエート結
合から構成される(
図1)。著者らは、そのASOギャップマーに対して、Sp結合が、
インビトロでの脂肪親和性および安定性を高めることを実証した。同時に、立体化学的に
制御されたPS立体配置を有するASOギャップマーが、効力、および生物学的半減期を
調節することを報告した。最終的に、酵素的活性の著しい改善をもたらす、RNase
H1側鎖に相互作用するPS結合トリプレットの立体特異性を最適化した。その結果とし
て、治療的オリゴヌクレオチドの物理化学的で薬理学的な特徴に対して、立体特異的PS
結合の重要性が確認される。この新型の化学的性質を利用して、本発明の発明者らは、E
ON設計に対するそのコンピュータ的手法に、立体特異的ホスホロチオエート結合を挿入
することを決定した。目標は、立体特異的PS結合の挿入と、ADAR2デアミナーゼ側
鎖およびEON酸素-リン酸骨格に関与する潜在的な分子間の水素結合接触の保存との間
の適合性をモニタリングすることだった。このため、公表されたRNA結合ADAR2デ
アミナーゼ構造(Matthews et al. 2016. Nat Struct Mol Biol 23:426-433)を用いてイ
ンシリコモデリングを開始し、新規の構造計算に必要な距離の分子内および分子間ネット
ワークを生成した。RpおよびSp立体化学的立体配置を含む、特異的ライブラリーを、
計算ソフトウェア用に作成した。ねじれ角の空間において分子動力学でのシミュレーテッ
ドアニーリングを組み合わせたCYANA3.0(Guntert P et al, J.Mol.Biol, 1997
)は、タンパク質-RNAアンサンブルの計算を可能にした。これら複合体は、IDUA
標的配列にアニールした化学修飾EONにより形成される、二本鎖RNAに結合したAD
AR2デアミナーゼドメインから構成された。ADAR2デアミナーゼ結合界面にわたる
25nt長のEONの各ホスホロチオエート結合に対して、RpおよびSp立体配置を首
尾よく導入した。各立体配置に対して、200個のタンパク質-RNA複合体を計算し、
20個の最低構造を、AMBER16パッケージの制限された分子動力学を使用して、続
く精製のために選択した。合計で、10,000個の構造を計算し、1000個の最もエ
ネルギー的に好都合なものを分析した。先に述べた通り、構造研究では、RpおよびSp
ホスホロチオエート結合が、酸素-リン酸骨格とADAR2デアミナーゼ側鎖との間の潜
在的な水素結合接触を改変せずに、EONに許容されるかどうかを決定した(
図2)。い
くつかの位置に対して、ホスホロチオエート結合が、最も安定した水素結合ネットワーク
(酸素媒介)の保存に適合していないことが結論付けられた。実際、これは、これらの位
置で、ホスホロチオエート修飾が存在しないのが好ましいことを意味する。しかし、EO
Nがホスホロチオエート修飾を有するヌクレオチド間を完全に網羅しない場合、不安定性
の潜在的な危険性に対して均衡させるべきである。Rp、Sp、もしくはこれら2つのい
ずれかに好ましいと見出された位置、または他方でPSを全く有すべきではない位置が、
ヌクレオチド配列に関係なく、任意の所与のEONに適用可能であることは理解すべきで
ある。ゆえに、本明細書に例示する通り、IDUA標的化EON配列を使用する場合、位
置の教示は、任意の他の種類の標的配列を標的化する、任意の所与のEON配列に適用可
能である。明らかに、本明細書に概説した通り、デアミナーゼ活性を有する酵素としてA
DAR2で、モデリングを行ったが、当業者は、EONが他のデアミナーゼ活性を有する
酵素でモデリングされる場合、結果が変化しうることは理解しているだろう。
【0024】
本方法は、本発明者らが、ADAR活性を有する酵素(好ましくはADAR2)のデア
ミナーゼドメインとEONとの間の最適化した分子間の水素結合ネットワークに適合する
、立体特異的ホスホロチオエート結合のパターンを強調することを可能にした。構造的に
基づいた立体化学コードは、
図3に示す。そのヌクレオシドに対してホスホロチオエート
結合の位置の両義性を緩和するために、EONの拡張された領域内で選択された命名は、
図3に詳細を示す。とりわけ、
図3において、標的配列の標的アデノシンに対向するヌク
レオチドは、「0」ヌクレオチド位置として示し、結合の番号付けに対する「0」位置は
、5’末端に向かってヌクレオチド間を1/2ずれる。
【0025】
本発明は、細胞内の標的核酸分子と二本鎖複合体を形成することができ、ヌクレオチド
デアミナーゼ活性を有する酵素を動員することができる、オリゴヌクレオチド組成物であ
って、標的核酸分子が、ヌクレオチド脱アミノ化活性を有する酵素による脱アミノ化のた
めの標的ヌクレオチドを含み、オリゴヌクレオチドが、標的ヌクレオチドとミスマッチす
る、標的ヌクレオチドに対向する位置を含み、オリゴヌクレオチドが、1つの立体特異的
立体配置が濃縮されている、少なくとも1つのヌクレオチド間結合を含むことを特徴とす
る、オリゴヌクレオチド組成物に関する。当業者は、ADAR1、ADAR2、APOB
EC、Cas13などの、ヌクレオチドデアミナーゼ活性を有する、様々な酵素を承知し
ている。本発明は、ADAR2ヌクレオチドデアミナーゼドメインでモデル化しているが
、これに限定するものではなく、本開示の教示により、当業者は、相互作用するヌクレオ
チドデアミナーゼ活性を有する任意の酵素に対する、任意の(編集)オリゴヌクレオチド
の立体特異性をモデリングすることができる。当業者はまた、本発明のほとんどの部分で
ある、ボラノホスフェート(boranophosphate)、ホスホロセレノエート(phosphorosele
noate)、およびいくつかのアルキル置換されたホスホネート(phosphonate)(アルキル
ホスホネート(alkylphosphonate))などの、キラリティを呈する、様々なヌクレオシド
間結合を承知している。好ましい実施形態では、組成物の「立体特異的純度」は、60%
であり、より好ましくは70%、さらにより好ましくは80%、最も好ましくは90%以
上である。好ましくは、オリゴヌクレオチドは、主にRp立体配置を有する少なくとも1
つのヌクレオチド間結合、および、主にSp立体配置を有する少なくとも1つのヌクレオ
チド間結合を含む。より好ましくは、オリゴヌクレオチドは、ホスホロチオエート修飾を
伴わない、少なくとも1つのヌクレオチド間結合を含む。さらに別の態様では、オリゴヌ
クレオチドは、2’-O-メトキシエチル(2’-MOE)リボース修飾を含む1つまた
は複数のヌクレオチドを含み、2’-MOEリボース修飾を含まない1つまたは複数のヌ
クレオチドを含み、2’-MOEリボース修飾は、ヌクレオチドデアミナーゼ活性を有す
る酵素が、標的ヌクレオチドを脱アミノ化するのを妨げない位置にある。また、別の好ま
しい態様では、オリゴヌクレオチドは、2’-MOEリボース修飾を含まない位置で2’
-O-メチル(2’-OMe)リボース修飾を含む、および/またはオリゴヌクレオチド
は、2’-MOEリボース修飾を含まない位置でデオキシヌクレオチドを含む。本発明の
全ての態様では、ヌクレオチドデアミナーゼ活性を有する酵素は、好ましくは、ADAR
1またはADAR2である。さらに別の好ましい態様では、オリゴヌクレオチドは、少な
くとも10、11、12、13、14、15、16、または17ヌクレオチド長であり、
また、オリゴヌクレオチドは、100ヌクレオチドより短く、好ましくは60ヌクレオチ
ドより短い。高度に好ましい態様では、オリゴヌクレオチドは、プレmRNAまたはmR
NAを標的とするRNA編集オリゴヌクレオチドであり、標的ヌクレオチドは、標的RN
A中のアデノシンであり、アデノシンは、イノシンに脱アミノ化し、翻訳機構により、グ
アニンとして読み込まれる。さらに好ましい態様では、アデノシンは、UGAもしくはU
AG終止コドンに位置し、UGGコドンに編集されるか、または2つの標的ヌクレオチド
は、UAA終止コドンにおける2つのアデノシンであり、コドンは、両方の標的アデノシ
ンの脱アミノ化によってUGGコドンに編集され、オリゴヌクレオチドにおける2つのヌ
クレオチドは、標的核酸とミスマッチする。本発明はまた、本明細書で特徴付けられるオ
リゴヌクレオチドおよび薬学的に許容される担体を含む医薬組成物に関する。
【0026】
本発明は、細胞内の標的RNA分子と二本鎖複合体を形成することができ、ADAR活
性を有する内因性酵素を動員することができる、編集オリゴヌクレオチド(EON)であ
って、標的RNA分子が、ADAR活性を有する酵素による脱アミノ化のための標的アデ
ノシンを含み、EONが、主にRp立体配置、または、主にSp立体特異的立体配置を有
する少なくとも1つのヌクレオチド間ホスホロチオエート結合を含む、編集オリゴヌクレ
オチド(EON)に関する。ある種の位置が、好ましくはRp立体配置を有するのに対し
て、他の位置は、好ましくはSp立体配置を有することを見出した。また、同じ位置で、
2つの立体配置のどちらが存在すべきかは、2つのいずれかが導入されるので、問題では
ないことを見出した。一方、ある種の位置で、実際、ホスホロチオエート修飾は、Rpま
たはSp立体配置のいずれかでEON-タンパク質相互作用が阻害されるので、導入され
るべきではないことが好ましかったことも見出した。とりわけ、本明細書に示す通り、ホ
スホロチオエート修飾は、一般に、分解を防止するために導入される(その結果、RNA
編集の効率性が高まる)。当業者は、一方でのEONとADAR酵素との間のより良好ま
たはより弱い相互作用、ならびに、他方でのインビボEONの高いまたは低い安定性の間
の一種のバランスを導入することを理解する。当業者は、最も効果的なRNA編集結果を
得るためのホスホロチオエート修飾を有すべき位置、または有すべきではない位置がどれ
かを決定するために、インビトロならびにインビボでの方法を使用することができる。こ
の決定は、明らかに、EON自身の配列および標的配列、場合によってはプレmRNAの
構造、使用してみえるADAR活性を有する酵素(ADAR1またはADAR2)、RN
A編集が行われるべき細胞などに基づく。本発明は、本方法を適用し、EONで潜在的に
標的化した任意の疾患に使用することができる、各可能なEONを決定するためのツール
を当業者に提供する。
【0027】
好ましくは、本発明によるEONは、2’-MOEリボース修飾、さらにより好ましく
は、2’-MOEリボース修飾を有さない位置に、2’-O-メチル(2’-OMe)リ
ボース修飾を有するヌクレオチドを含む。本明細書に概説した通り(
図3)、EONは、
EONヌクレオチド配列の位置0と称される、標的アデノシンに直接対向するヌクレオチ
ドを含む。好ましくは、EONは、位置-1および/または0での1つまたは2つのデオ
キシヌクレオチド(DNA)を含み、位置は、EONの5’末端および3’末端に向かっ
てそれぞれ正(+)および負(-)に増分する。好ましい態様では、EONは、位置-1
およびまたは0に、2’-MOE修飾を含まない。より好ましくは、本発明のEONは、
位置+6、+1、0、-1、-2、-3、-4、および/または-5に、2’-MOE修
飾を含まない。ADAR活性を有する酵素は、二本鎖RNA複合体中の標的アデノシンを
イノシンに脱アミノ化することができる酵素である。好ましくは、ADAR活性を有する
酵素は、(ヒト)ADAR1またはADAR2である。また、好ましくは、細胞は、ヒト
細胞である。好ましい一実施形態では、本発明によるEONは、10、11、12、13
、14、15、16、または17ヌクレオチドより長く、好ましくは、EONは、100
ヌクレオチドより短く、より好ましくは60ヌクレオチドより短い。
【0028】
図3は、結合の位置、および25ヌクレオチドのEON(の部分)に対する結合の番号
付けを示し、結合の番号付け0は、ヌクレオチドの番号付けで0と称される、ヌクレオチ
ドの5’結合である。好ましくは、結合の番号付けを使用して、番号0、+1、+2、+
3、+9、+11、+12、-2、-7、-8、-9、-10、-11、および/または
-12の結合は、RpまたはSp立体配置を有するかどうかが問題ではない修飾を有する
。また好ましくは、結合のこの番号付けを使用して、番号+4、-1、-3、および/ま
たは-6の結合は、好ましくはRp立体配置を有するが、結合+10のみ、好ましくはS
p立体配置での修飾を有する。また、結合のこの番号付けを使用して、番号+5、+6、
+7、+8、-4、および/または-5の結合は、好ましくは(ホスホロチオエート)修
飾を有さないが、好ましくは野生型ヌクレオチド間接続を有する。この番号付けは、当然
任意に選ばれるが、ヌクレオチド間結合修飾の立体異性体の形態も、デアミナーゼ活性を
有する好ましい酵素としてADAR2と相互作用する場合、ヌクレオチド配列に関係なく
、任意の種類のEONに適用可能である。
【0029】
本発明はまた、本発明によるオリゴヌクレオチドおよび薬学的に許容される担体を含む
医薬組成物に関する。適した薬学的に許容される担体は、当業者に周知されている。本発
明はまた、嚢胞性線維症、ハーラー症候群、α-1-アンチトリプシン(A1AT)欠損
症、パーキンソン病、アルツハイマー病、色素欠乏症、筋萎縮性側索硬化症、喘息、β-
サラセミア、カダシル症候群、シャルコー-マリー-ツース症候群、慢性閉塞性肺疾患(
COPD)、遠位脊髄性筋萎縮症(DSMA)、デュシェンヌ型/ベッカー型筋ジストロ
フィー、栄養障害性表皮水疱症、表皮水疱症、ファブリー病、第V因子ライデン関連障害
、家族性腺腫性ポリポーシス、ガラクトース血症、ゴーシェ病、グルコース-6-リン酸
脱水素酵素、血友病、遺伝性ヘモクロマトーシス、ハンター症候群、ハンチントン病、炎
症性腸疾患(IBD)、先天性多凝集症候群、レーバー先天性黒内障、レッシュ-ナイハ
ン症候群、リンチ症候群、マルファン症候群、ムコ多糖症、筋ジストロフィー、I型およ
びII型筋強直性ジストロフィー、神経線維腫症、ニーマン-ピック病A型、B型および
C型、NY-eso1関連がん、ポイツ-イェガース症候群、フェニルケトン尿症、ポン
ペ病、原発性線毛疾患、プロトロンビン突然変異関連障害(例えば、プロトロンビンG2
0210A突然変異)、肺高血圧症、色素性網膜炎、サンドホフ病、重症複合免疫不全症
候群(SCID)、鎌状赤血球貧血、脊髄性筋萎縮症、スタルガルト病、テイサックス病
、アッシャー症候群、X連鎖免疫不全、スタージ-ウェーバー症候群、ならびに、がんか
らなる群から好ましくは選択される、遺伝的障害の処置または予防での使用のための、本
発明によるオリゴヌクレオチドに関する。本発明はまた、嚢胞性線維症、ハーラー症候群
、α-1-アンチトリプシン(A1AT)欠損症、パーキンソン病、アルツハイマー病、
色素欠乏症、筋萎縮性側索硬化症、喘息、β-サラセミア、カダシル症候群、シャルコー
-マリー-ツース症候群、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、遠位脊髄性筋萎縮症(DSM
A)、デュシェンヌ型/ベッカー型筋ジストロフィー、栄養障害性表皮水疱症、表皮水疱
症、ファブリー病、第V因子ライデン関連障害、家族性腺腫性ポリポーシス、ガラクトー
ス血症、ゴーシェ病、グルコース-6-リン酸脱水素酵素、血友病、遺伝性ヘモクロマト
ーシス、ハンター症候群、ハンチントン病、炎症性腸疾患(IBD)、先天性多凝集症候
群、レーバー先天性黒内障、レッシュ-ナイハン症候群、リンチ症候群、マルファン症候
群、ムコ多糖症、筋ジストロフィー、I型およびII型筋強直性ジストロフィー、神経線
維腫症、ニーマン-ピック病A型、B型およびC型、NY-eso1関連がん、ポイツ-
イェガース症候群、フェニルケトン尿症、ポンペ病、原発性線毛疾患、プロトロンビン突
然変異関連障害(例えば、プロトロンビンG20210A突然変異)、肺高血圧症、色素
性網膜炎、サンドホフ病、重症複合免疫不全症候群(SCID)、鎌状赤血球貧血、脊髄
性筋萎縮症、スタルガルト病、テイサックス病、アッシャー症候群、X連鎖免疫不全、ス
タージ-ウェーバー症候群、ならびに、がんからなる群から好ましくは選択される、遺伝
的障害の処置または予防のための医薬の製造における、本発明によるEONの使用に関す
る。
【0030】
また別の実施形態では、本発明は、細胞内の標的RNA分子に存在する、少なくとも1
つの標的アデノシンの脱アミノ化のための方法であって、細胞に、本発明によるEONを
供給するステップ、EONの細胞による取込みを可能にするステップ、標的RNA分子へ
のEONのアニーリングを可能にするステップ、ADAR活性を有する哺乳動物酵素が、
標的RNA分子中の標的アデノシンをイノシンに脱アミノ化することを可能にするステッ
プ、および、任意で、標的RNA中のイノシンの存在を同定するステップを含む、方法に
関する。好ましくは、イノシンの存在は、(i)標的RNA配列をシークエンシングする
こと、(ii)標的アデノシンが、UGAもしくはUAG終止コドンに位置し、脱アミノ
化によってUGGコドンに編集される場合、機能性、伸長型、全長および/もしくは野生
型タンパク質の存在を評価すること、(iii)2つの標的アデノシンが、UAA終止コ
ドンに位置し、両方の標的アデノシンの脱アミノ化によってUGGコドンに編集される場
合、機能性、伸長型、全長および/もしくは野生型タンパク質の存在を評価すること、(
iv)プレmRNAのスプライシングが、脱アミノ化により改変したかどうかを評価する
こと、または、(v)機能的な読み出しを使用することであって、脱アミノ化後の標的R
NAが、機能性、全長、伸長型および/もしく野生型タンパク質をコードする、ことのい
ずれかにより検出される。明らかに、2つの標的アデノシンが脱アミノ化する必要がある
場合、結合の番号付け(単一の標的アデノシンについて本明細書に概説した通り)は、し
たがって、ホスホロチオエート修飾の特異的な立体異性体の形態が、EON自身で改変さ
れないが、デアミナーゼ活性を有する酵素との相互作用に関するので、調節すべきである
。
【0031】
本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチド(AON、本明細書では、多くの場合、編集
オリゴヌクレオチドまたはEONと称す)は、好ましくは、国際公開第2016/097
212号に記載の動員部分を含まない。本発明のEONは、好ましくは、分子内のステム
-ループ構造を形成することができる部分を含まない。一実施形態では、本発明は、終止
コドンに存在するアデノシンをイノシンに改変する(Gとして読み込まれる)ために、(
プレ)mRNAに存在する早期停止終止コドン(PTC)を標的化し、次いで、翻訳の間
のリードスルー、および全長機能性タンパク質をもたらす、EONに関する。特定の一実
施形態では、本発明は、嚢胞性線維症(CF)の処置に使用するためのEONに関し、ま
たさらに好ましい実施形態では、本発明は、CFの処置に使用するためのEONであって
、G542X(UGAG)、W1282X(UGAA)、R553X(UGAG)、R1
162X(UGAG)、Y122X(UAA、両アデノシン)、W1089X、W846
X、およびW401X突然変異などのPTCが、RNA編集によってコドンをコードする
アミノ酸に修飾され、それにより翻訳が全長タンパク質で可能になる、EONに関する。
本発明の教示、立体特異的ホスホロチオエート結合修飾について許容部分および非許容部
分のコンピューターモデリングは、本明細書に概説した通り、EONで標的化し得、RN
A編集によって処置することができる全ての遺伝的疾患に適用可能である。これは、これ
らの立体特異的修飾に対する好ましい位置および好ましくない位置を正確に示すために、
標的配列、適用可能なEON、およびADARタンパク質の含量に依存する。コンピュー
ターモデリングが、このようなEONのRNA編集の効率性を高める、Rpおよび/また
はSp立体特異的ホスホロチオエート立体配置で修飾することができるか、または修飾す
べきではない、治療的EON内の好ましい位置を見出すために適用することができると示
したのは、これが初めてである。
【0032】
本発明は、標的RNAの標的アデノシンの脱アミノ化のためのEONであって、EON
が標的アデノシンを含む標的RNA領域に相補的であり、任意で、EONが相補的な標的
RNA領域との、1つまたは複数のミスマッチ、揺らぎ、および/または膨らみを含み、
EONが1つまたは複数の糖修飾を有する1つまたは複数のヌクレオチドを含むが、ただ
し、標的アデノシンに対向するヌクレオチドが、2’-OH基を有するリボース、または
2’-H基を有するデオキシリボースを含み、さらに、EONが標的アデノシンに対向す
るヌクレオチドに対してある種の位置で2’-MOE修飾を有さず、さらに、本明細書で
さらに定義する通り、EON内の他の位置で2’-MOE修飾を有する、EONに関する
。EONは、好ましくは、ADAR酵素に結合することができる分子内のステム-ループ
構造を形成することができる部分を含まない。EONは、好ましくは、5’末端O6-ベ
ンジルグアニン修飾を含まない。EONは、好ましくは、5’末端アミノ修飾を含まない
。EONは、好ましくは、SNAPタグドメインに共有結合しない。別の好ましい実施形
態では、標的RNAは、ヒトCFTRである。より好ましい実施形態では、終止コドンは
、ヒトCFTR(プレ)mRNAにおける早期停止終止コドンであり、さらにより好まし
いのは、G542X、W1282X、R553X、R1162X、Y122X、W108
9X、W846X、およびW401XからなるCFTRにおける終止コドン突然変異の群
から選択される。より好ましくは、ヒトCFTRにおけるスプライス突然変異は、621
+1G>T、および1717-1G>Aからなる群から選択される。一態様では、本発明
は、嚢胞性線維症(CF)の処置に使用するためのEONであって、CFTR(プレ)m
RNAに存在するPTCに存在するアデノシンの脱アミノ化を可能にし、PTCが、疾患
を最終的に引き起こす初期の翻訳終止をもたらす、EONに関する。
【0033】
また別の態様では、本発明は、標的RNAに存在する疾患関連スプライス突然変異での
標的アデノシンの脱アミノ化に使用するために、細胞内の標的RNAと二本鎖複合体を形
成することができる、本発明によるEONであって、標的アデノシンに対向するEONで
のヌクレオチドが、2’-O-メチル(2’-OMe)修飾を有さず、標的アデノシンに
対向するヌクレオチドからのヌクレオチド直接的5’および/または3’が、RNA編集
においてEONをより安定に、および/または、より効果的にする、糖修飾、および/ま
たは塩基修飾を有する、EONに関する。別の好ましい態様では、標的アデノシンに対向
するEONでのヌクレオチドは、RNAではなくDNAであり、さらにより好ましい態様
では、標的アデノシンに対向するヌクレオチド、ならびに標的アデノシンに対向するヌク
レオチドのヌクレオチド5’および/または3’は、DNAヌクレオチドであるが、EO
Nでのヌクレオチドの(DNAではない)残りは、好ましくは、2’-O-アルキル修飾
されたリボヌクレオチドである。2つのヌクレオチドがDNAである場合、他の全ては、
RNAであり得、2’-OMeまたは2’-MOE修飾され得る一方、特定の態様では、
標的アデノシンに対向するトリプレットでの第三のヌクレオチドは、標的アデノシンに対
向するヌクレオチドが、2’-OMe修飾されていない限り、RNAであり得、修飾され
得ない。特定の一態様では、本発明は、細胞に存在する酵素(おそらくADAR酵素)に
よる、標的RNAに存在する標的アデノシンの脱アミノ化のためのEONであって、EO
Nが標的アデノシンを含む標的RNA領域に(部分的に)相補的であり、標的アデノシン
に対向するヌクレオチドが、2’-H基を有するデオキシリボースを含み、標的アデノシ
ンに対向するヌクレオチドのヌクレオチド5’および/または3’もまた、2’-H基を
有するデオキシリボースを含み、EONの残りが、好ましくは全て2’-OMeまたは2
’-MOE修飾を有するリボヌクレオシドを含む、EONに関する。編集する必要がある
、2つの連続するアデノシン(例えば、Y122X突然変異における:UAA)の場合、
2つのアデノシンに対向するEONでのヌクレオチドが、両方とも2’-O-メチル修飾
を有さないことが好ましい。別の好ましい態様では、本発明によるEONは、17マーま
たは20マーではない。また別の態様では、本発明によるEONは、17ヌクレオチドよ
り長いか、または14ヌクレオチドより短い。好ましい実施形態では、本発明によるEO
Nは、相補的な標的RNA領域との、1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10
個のミスマッチ、揺らぎ、および/または膨らみを含む。好ましくは、標的アデノシンに
対向するヌクレオチドは、シチジン、デオキシシチジン、ウリジン、またはデオキシウリ
ジンである。標的アデノシンに対向するヌクレオチドが、シチジン、またはデオキシシチ
ジンである場合、EONは、標的RNA分子との、少なくとも1つのミスマッチを含む。
標的アデノシンに対向するヌクレオチドが、ウリジン、またはデオキシウリジンである場
合、EONは、100%相補的であり、標的RNAに関して、いかなるミスマッチ、揺ら
ぎ、または膨らみも有さない。しかし、好ましい態様では、1つまたは複数のさらなるミ
スマッチ、揺らぎ、および/または膨らみは、標的アデノシンに対向するヌクレオチドが
、シチジン、デオキシシチジン、ウリジン、またはデオキシウリジンであろうと、EON
と標的RNAとの間に存在する。別の好ましい実施形態では、(トリプレットを形成する
標的アデノシンに対向するヌクレオチドと共に)標的アデノシンに対向するヌクレオチド
からのヌクレオチド直接的5’および/もしくは3’は、2’-OH基を有するリボース
、または2’-H基を有するデオキシリボース、またはこれら2つの混合物を含む(次い
で、トリプレットは、DNA-DNA-DNA、DNA-DNA-RNA、DNA-RN
A-DNA、DNA-RNA-RNA、RNA-DNA-DNA、RNA-DNA-RN
A、RNA-RNA-DNA、またはRNA-RNA-RNAからなり、中央のヌクレオ
シドは、(RNAの場合)2’-O-メチル修飾を有さず、周囲のヌクレオシドのいずれ
かまたは両方とも2’-O-メチル修飾を有さない)。次いで、EONでの他の全てのヌ
クレオチドが、2’-O-アルキル基、好ましくは2’-O-メチル基、もしくは2’-
O-メトキシエチル(2’-MOE)基、または本明細書に開示される任意の修飾を有す
ることが好ましい。本発明のEONは、好ましくは、少なくとも1つのホスホロチオエー
ト結合を含む。2’-OMeおよび2’-MOEは、立体特異的PSの位置に影響を及ぼ
さず、疎水性、融解温度などを含む、EON特性の包括的効果のみが、観察することがで
きる。このため、組合せは、影響を及ぼし得る。しかし、デアミナーゼドメインの結合の
ために、妨げてはならない。全ての上述した化学修飾は、原則として、骨格に関与するが
、一次配列には関与しないので、他の疾患モデルに適用することができる。計算は、系統
的に、親和性がRNA標的間で大きく変わる可能性があることが示される場合を除き、他
の疾患モデルに繰り返すべきではない。これは、局所結合を移動させることを示唆する。
【0034】
本発明の特定の一実施形態では、EONは、10、11、12、13、14、15、1
6、または17ヌクレオチドより長い。好ましくは、EONは、100ヌクレオチドより
短く、より好ましくは60ヌクレオチドより短く、さらにより好ましくは、EONは、1
8~70ヌクレオチド、18~60ヌクレオチド、または18~50ヌクレオチドを含む
。本発明はまた、本発明によるEONおよび薬学的に許容される担体を含む医薬組成物に
関する。本発明はまた、嚢胞性線維症、ハーラー症候群、α-1-アンチトリプシン(A
1AT)欠損症、パーキンソン病、アルツハイマー病、色素欠乏症、筋萎縮性側索硬化症
、喘息、β-サラセミア、カダシル症候群、シャルコー-マリー-ツース症候群、慢性閉
塞性肺疾患(COPD)、遠位脊髄性筋萎縮症(DSMA)、デュシェンヌ型/ベッカー
型筋ジストロフィー、栄養障害性表皮水疱症、表皮水疱症、ファブリー病、第V因子ライ
デン関連障害、家族性腺腫性ポリポーシス、ガラクトース血症、ゴーシェ病、グルコース
-6-リン酸脱水素酵素、血友病、遺伝性ヘモクロマトーシス、ハンター症候群、ハンチ
ントン病、炎症性腸疾患(IBD)、先天性多凝集症候群、レーバー先天性黒内障、レッ
シュ-ナイハン症候群、リンチ症候群、マルファン症候群、ムコ多糖症、筋ジストロフィ
ー、I型およびII型筋強直性ジストロフィー、神経線維腫症、ニーマン-ピック病A型
、B型およびC型、NY-eso1関連がん、ポイツ-イェガース症候群、フェニルケト
ン尿症、ポンペ病、原発性線毛疾患、プロトロンビン突然変異関連障害(例えば、プロト
ロンビンG20210A突然変異)、肺高血圧症、色素性網膜炎、サンドホフ病、重症複
合免疫不全症候群(SCID)、鎌状赤血球貧血、脊髄性筋萎縮症、スタルガルト病、テ
イサックス病、アッシャー症候群、X連鎖免疫不全、ならびに、がんからなる群から好ま
しくは選択される、遺伝的障害の処置または予防での使用のための、本発明によるEON
に関する。特に好ましい実施形態では、本発明によるEONは、嚢胞性線維症(CF)の
処置に使用され、ヒトCFTR(プレ)mRNAに存在するPTCに存在する標的アデノ
シンの脱アミノ化のために使用される。別の態様では、本発明は、疾患、好ましくは嚢胞
性線維症の処置または予防のための医薬の製造における、本発明によるEONの使用に関
する。本発明のまた別の実施形態では、細胞内の標的RNAでのPTCに存在する、少な
くとも1つの標的アデノシンの脱アミノ化のための方法であって、細胞に、本発明による
EONを供給するステップ、EONの細胞による取込みを可能にするステップ、標的RN
AへのEONのアニーリングを可能にするステップ、野生型酵素で発見された天然dsR
NA結合ドメインを含むADAR酵素が、標的RNA中の標的アデノシンをイノシンに脱
アミノ化することを可能にするステップ、および任意で、標的RNA中のイノシンの存在
を同定するステップを含み、好ましくは、最終ステップが、標的RNA配列をシークエン
シングすること、標的アデノシンが、UGAもしくはUAG終止コドンに位置し、脱アミ
ノ化によってUGGコドンに編集される場合、機能性、伸長型、全長および/もしくは野
生型タンパク質の存在を評価すること、2つの標的アデノシンが、UAA終止コドンに位
置し、両方の標的アデノシンの脱アミノ化によってUGGコドンに編集される場合、機能
性、伸長型、全長および/もしくは野生型タンパク質の存在を評価すること、プレmRN
Aのスプライシングが、脱アミノ化により改変したかどうかを評価すること、または機能
的な読み出しを使用することであって、脱アミノ化後の標的RNAが、機能性、全長、伸
長型および/もしく野生型タンパク質をコードする、ことを含む方法に関する。特に好ま
しい一実施形態では、本発明は、本発明によるEONまたは方法であって、標的RNA配
列が、CFTR(例えば、G542X、W1282X、R553X、R1162X、Y1
22X、W1089X、W846X、W401X、621+1G>T、または1717-
1G>A突然変異を編集)をコードする、EONまたは方法に関する。
【0035】
EONが、1つまたは複数の糖修飾を含む、1つまたは複数のヌクレオチドを含むこと
が、本発明の重要な態様である。これにより、EONの単一のヌクレオチドは、1つ、ま
たは2つ以上の糖修飾を有し得る。EON内に、1つまたは複数のヌクレオチドは、この
ような糖修飾を有し得る。
【0036】
また、編集する必要があるヌクレオチドに対向する本発明のEON内のヌクレオチドが
、2’-O-メチル修飾(本明細書では、多くの場合、2’-OMe基、または2’-O
メチル化と称す)を含有せず、好ましくは、2’-OH基を含むか、または2’-H基を
有するデオキシリボースであることは、本発明の重要な態様である。これら近接ヌクレオ
チドの1つが、2’-O-アルキル基(例えば2’-O-メチル基)を含有し得るが、好
ましくは両方が含有しないことが許容されると信じられているが、このヌクレオチドの直
接的3’および/または5’であるヌクレオチド(「近接ヌクレオチド」)がまた、この
ような化学修飾が欠如していることが好ましい。近接ヌクレオチドのいずれか1つまたは
両方は、2’-OH、または適合する置換(上記で定義)であり得る。
【0037】
好ましくは、本発明のEONは、EONそれ自体が、分子内のヘアピンまたは他の種類
の(ステム)ループ構造にフォールディングすること(本明細書では、「自動ルーピング
」または「自己ルーピング」とも称す)を可能にし、ADARを捕捉する構造として潜在
的に作用し得る、標的アデノシンを含む、標的RNAまたはRNA領域に相補的である部
分を有さない。一態様では、本発明の一本鎖EONは、好ましくは、標的アデノシンの位
置である、少なくとも1つの位置で完璧に対形成しないが(そこで、対向するヌクレオシ
ドは、好ましくはシチジンである)、標的RNAに完全に相補的である。本発明の一本鎖
RNA編集オリゴヌクレオチドはまた、標的アデノシン位置以外の位置で、標的配列との
1つまたは複数のミスマッチ、揺らぎ、または膨らみ(対向するヌクレオシドではない)
を有し得る。標的配列との本発明のEONのこれら揺らぎ、ミスマッチ、および/または
膨らみは、標的RNA配列へのオリゴヌクレオチドのハイブリダイゼーションを防げない
が、標的アデノシン位置で、細胞に存在するADARによるRNA編集の効率性に加える
。当業者は、生理学的条件下でのハイブリダイゼーションが依然として起こるかどうかを
決定することができる。先行技術に対して、本発明のEONは、細胞に存在する哺乳動物
のADAR酵素を使用し、ADAR酵素は、野生型酵素で発見された天然dsRNA結合
ドメインを含む。本発明によるEONは、内因性細胞経路および天然で利用可能なADA
R酵素、または、標的RNA配列での標的アデノシンを特異的に編集する(さらに未知の
ADAR様酵素であり得る)ADAR活性を有する酵素を利用することができる。本明細
書に開示する通り、本発明の一本鎖RNA編集を導入するオリゴヌクレオチドは、標的R
NA配列での特異的な標的アデノシンヌクレオチドを脱アミノ化することができる。理想
的に、ただ1つのアデノシンが脱アミノ化される。あるいは、1、2、または3個のアデ
ノシンヌクレオチドは脱アミノ化されるが、好ましくはただ1つである。本発明のEON
の特徴を共に取る場合、修飾された組換えADAR発現を必要とせず、EONに結合する
コンジュゲートされた物質、または、標的RNA配列に相補的ではない長い動員部分の存
在を必要としない。加えて、本発明のEONは、RNA/EON複合体での他の場所での
無作為編集の危険なしに、野生型酵素で発見された天然dsRNA結合ドメインを含む、
天然ADAR酵素による、イノシンへの標的RNA分子に存在する標的アデノシンの特異
的脱アミノ化を可能にする。
【0038】
ADAR酵素の天然標的の分析により、これらが、一般に、ADAR1またはADAR
2により編集されるRNAらせんを形成する、二本鎖間のミスマッチを含むことが示され
た。これらのミスマッチにより、編集反応の特異性を向上させることが示唆されている(
Stefl et al. 2006. Structure 14(2):345-355、Tian et al. 2011. Nucleic Acids Res
39(13):5669-5681)。EONと標的RNAとの間の対形成した/ミスマッチしたヌクレオ
チドの最適なパターンの特徴付けもまた、効果的なADARに基づくEON療法の開発に
重要であるようである。本発明のEONの改善された特徴は、安定性、ならびに、適した
ADAR結合および活性を確保する、予め定義された点での特異的なヌクレオチド間結合
修飾の使用である。これらの変化は、変化することができ、ヌクレオチドの糖部分、なら
びに核酸塩基において、EONの骨格での修飾をさらに含むことができる。これらはまた
、標的および二次構造に依存して、EONの配列を通して、可変的に分散することができ
る。特異的な化学修飾は、ADAR酵素のRNA結合ドメイン内の異なるアミノ酸残基、
ならびにデアミナーゼドメイン中のアミノ酸残基の相互作用を支持するために必要とされ
得る。例えば、立体特異的ホスホロチオエート立体配置修飾、および/または、2’-O
-メチル修飾は、EONのいくつかの部分に許容されるのに対して、他の部分では、これ
らは、リン酸および/または2’-OH基を有する酵素の重要な相互作用を妨害しないよ
うに、回避すべきである。これらの設計の規則の一部は、ADAR2の公表された構造に
より誘導されるが、他の部分は、経験的に規定しなければならない。異なる参照が、AD
AR1およびADAR2に存在し得る。修飾はまた、これらが、EONの分解を防ぐよう
に選択しなければならない。特異的なヌクレオチド修飾はまた、標的配列がADAR編集
に最適ではない、基質RNAでの編集活性を向上させる必要があり得る。先の作業により
、ある種の配列状況が、編集により適していることが確立されている。例えば、標的配列
5’-UAG-3’(中央に標的Aを有する)は、ADAR2に対して最も好ましい隣接
ヌクレオチドを含有する一方、5’-CAA-3’標的配列は、好ましくない(Schneide
r et al. 2014. Nucleic Acids Res 42(10):e87)。ADAR2デアミナーゼドメインの
最近の構造解析では、標的トリヌクレオチドに対向するヌクレオチドの慎重な選択により
編集を向上させる可能性を示唆する。例えば、5’-CAA-3’標的配列は、(このト
リプレットの中央に形成されるA-Cミスマッチを有する)対向する鎖上の3’-GCU
-5’配列と対形成されるが、グアノシン塩基がADAR2のアミノ酸側鎖と立体的に衝
突するので、好ましくない。しかし、ここで、イノシンなどの、より小さい核酸塩基が、
対向するシチジンに対する塩基対形成能を依然として維持しながら、立体衝突を起こさな
いこの位置に潜在的にぴったり合うと仮定されている。最適以下の配列の活性を向上させ
ることができる修飾は、EONの柔軟性を高めるか、または、逆に、編集に好都合である
構造に強制的に合わせるための、骨格修飾の使用を含む。
【0039】
本明細書で使用する用語の定義
用語「アデニン」、「グアニン」、「シトシン」、「チミン」、「ウラシル」、および
「ヒポキサンチン」(イノシンでの核酸塩基)とは、本明細書で使用される場合、それ自
体で核酸塩基を指す。
【0040】
用語「アデノシン」、「グアノシン」、「シチジン」、「チミジン」、「ウリジン」、
および「イノシン」とは、(デオキシ)リボシル糖に結合する核酸塩基を指す。
【0041】
用語「ヌクレオシド」とは、(デオキシ)リボシル糖に結合する核酸塩基を指す。
【0042】
用語「ヌクレオチド」とは、各々の核酸塩基-(デオキシ)リボシル-ホスホリンカー
(phospholinker)、ならびにリボース部分またはホスホ基の任意の化学修飾を指す。ゆ
えに、本用語は、ロックドリボシル部分(当該技術分野に周知のメチレン基または任意の
他の基を含む2’-4’架橋を含む)を含むヌクレオチド、ホスホジエステル、ホスホト
リエステル、ホスホロ(ジ)チオネート(phosphoro(di)thioate)、メチルホスホネート
(methylphosphonate)、ホスホロアミデート(phosphoramidate)のリンカーなどを含む
リンカーを含むヌクレオチドを含む。
【0043】
時に、用語、アデノシンおよびアデニン、グアノシンおよびグアニン、シトシンおよび
シチジン、ウラシルおよびウリジン、チミンおよびチミジン、イノシンおよびヒポキサン
チンは、互換的に、対応する核酸塩基、ヌクレオシド、またはヌクレオチドを指すのに使
用される。
【0044】
時に用語、核酸塩基、ヌクレオシド、およびヌクレオチドは、文脈が明らかに異なる必
要がない限り、互換的に使用される。用語「リボヌクレオシド」および「デオキシリボヌ
クレオシド」、または「リボース」および「デオキシリボース」は、当該技術分野で使用
される通りである。
【0045】
「オリゴヌクレオチド」を参照する場合はいつも、文脈が別途指示しない限り、オリゴ
ヌクレオチドおよびデオキシオリゴヌクレオチドの両方を意味する。「オリゴヌクレオチ
ド」を参照する場合はいつも、塩基A、G、C、U、またはIを含み得る。「デオキシオ
リゴヌクレオチド」を参照する場合はいつも、塩基A、G、C、T、またはIを含み得る
。好ましい態様では、本発明のEONは、化学修飾を含み得るオリゴヌクレオチドであり
、ある種の特定位置にデオキシヌクレオチド(DNA)を含み得る。
【0046】
シトシンなどのオリゴヌクレオチド構築物中のヌクレオチドを参照する場合はいつも、
5-メチルシトシン、5-ヒドロキシメチルシトシン、およびβ-D-グルコシル-5-
ヒドロキシ-メチルシトシンを含み、アデニンを参照する場合はいつも、N6-メチルア
デニン、および7-メチルアデニンを含み、ウラシルを参照する場合はいつも、ジヒドロ
ウラシル、4-チオウラシル、および5-ヒドロキシメチルウラシルを含み、グアニンを
参照する場合はいつも、1-メチルグアニンを含む。
【0047】
ヌクレオシドまたはヌクレオチドを参照する場合はいつも、2’-デソキシ、2’-ヒ
ドロキシなどのリボフラノース誘導体、および2’-O-メチルなどの2’-O-置換バ
リアント、ならびに、2’-4’架橋バリアントを含む他の修飾を含む。
【0048】
オリゴヌクレオチドを参照する場合はいつも、2つのモノヌクレオチド間の結合は、ホ
スホジエステル結合、ならびにその修飾であり得、ホスホジエステル、ホスホトリエステ
ル、ホスホロ(ジ)チオネート(phosphoro(di)thioate)、メチルホスホネート(methyl
phosphonate)、ホスホロアミデート(phosphor-amidate)のリンカーなどを含む。
【0049】
用語「含む(comprising)」とは、「含む(including)」、ならびに「からなる(con
sisting)」を包含し、例えば、「Xを含む」組成物は、排他的にXからなり得るか、ま
たは、追加の何か、例えばX+Yを含み得る。
【0050】
数値Xに関する用語「約」とは、任意であり、例えば、X±10%を意味する。
【0051】
単語「実質的に」とは、「完全に」を排除せず、例えば、「Yを実質的に含まない」組
成物は、Yを完全に含まない可能性がある。関連して、単語「実質的に」とは、本発明の
定義から省略され得る。
【0052】
用語「相補的」とは、本明細書で使用される場合、AON(または、本明細書で多くの
場合、称される、EON)が、生理学的条件下、標的配列にハイブリダイズするという事
実を指す。この用語は、AONのあらゆるヌクレオチドが、標的配列の対向するそのヌク
レオチドと完璧な対形成を有することは意味していない。換言すると、AONが、標的配
列に相補的であり得ると同時に、生理学的条件下、細胞RNA編集酵素が標的アデノシン
を編集することができるように、AONが標的配列に依然としてハイブリダイズしながら
、AONと標的配列との間にミスマッチ、揺らぎ、および/または膨らみが存在し得る。
したがって、用語「実質的に相補的な」とは、ミスマッチ、揺らぎ、および/または膨ら
みの存在に関わらず、AONが、生理学的条件下、標的RNAにハイブリダイズするよう
に、AONと標的配列との間に、十分にマッチするヌクレオチドを有することも意味する
。本明細書に示す通り、AONは、相補的であり得るが、AONが、生理学的条件下、そ
の標的にハイブリダイズする限り、標的配列との、1つまたは複数のミスマッチ、揺らぎ
、および/または膨らみも含み得る。
【0053】
核酸配列に関する用語「下流」とは、3’方向の配列に沿ってさらに遠いことを意味し
、用語「上流」とは、逆を意味する。ゆえに、ポリペプチドをコードする任意の配列にお
いて、開始コドンは、センス鎖の終止コドンの上流であるが、アンチセンス鎖の終止コド
ンの下流である。
【0054】
「ハイブリダイゼーション」に対する参照は、典型的には、特異的なハイブリダイゼー
ションを指し、非特異的なハイブリダイゼーションを排除する。特異的なハイブリダイゼ
ーションは、当該技術分野に周知の技術を使用して、プローブと標的との間の安定した相
互作用の多くが、プローブおよび標的が少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%
、より好ましくは少なくとも90%の配列同一性を有する場合であることを確実にする、
選ばれた実験条件下で生じ得る。
【0055】
用語「ミスマッチ」とは、ワトソン-クリック型塩基対の規則による完璧な塩基対を形
成しない二本鎖RNA複合体における、対向するヌクレオチドを指すために、本明細書で
使用される。ミスマッチしたヌクレオチドは、G-A、C-A、U-C、A-A、G-G
、C-C、U-U対である。いくつかの実施形態では、本発明のEONは、4個未満のミ
スマッチ、例えば、0、1、または2個のミスマッチを含む。揺らぎの塩基対は、G-U
、I-U、I-A、およびI-C塩基対である。
【0056】
用語「スプライス突然変異」とは、エクソンからのイントロンのスプライシングが妨げ
られ、異常なスプライシングにより、続く翻訳が、フレームから外れて、コードされたタ
ンパク質の早期停止をもたらすという意味において、スプライシング機構が機能不全であ
る、プレmRNAをコードする遺伝子における突然変異に関する。多くの場合、このよう
なより短いタンパク質は、迅速に分解され、本明細書に記載するような任意の機能性活性
を有さない。好ましい態様では、EONにより、本発明の方法によって標的化されるスプ
ライス突然変異は、ヒトCFTR遺伝子、より好ましくはスプライス突然変異621+1
G>Tおよび1717-1G>Aに存在する。正確な突然変異は、RNA編集に対する標
的である必要はなく、(例えば、621+1G>Tの場合)スプライス突然変異の近接ま
たは近傍アデノシンが、標的ヌクレオチドであり、Iへの変換により、正常状態に戻るス
プライス突然変異に修正される可能性がある。当業者は、スプライス突然変異の部位また
は領域内のアデノシンのRNA編集の後、正常なスプライシングが復元されるか否かを決
定する方法を承知している。
【0057】
本発明によるEONは、例えば、2’-O-メチル化糖部分(2’-OMe)、および
/または2’-O-メトキシエチル糖部分(2’-MOE)を有するヌクレオチドをもた
らすことにより、その全体のほとんどで化学修飾され得る。しかし、標的アデノシンに対
向するヌクレオチドは、2’-OMe修飾を含まず、またさらに好ましい態様では、少な
くとも1つの近接ヌクレオチドが、好ましい態様では、標的アデノシンに対向する各ヌク
レオチドを挟む、2つの近接ヌクレオチドの両方が、2’-OMe修飾をさらに含まない
。EON内の全てのヌクレオチドが2’-OMe修飾を有する完全な修復は、RNA編集
を行うことについて、非機能性オリゴヌクレオチドをもたらすが、その理由は、おそらく
、標的化された位置でADAR活性を妨害するからである。一般に、標的RNAでのアデ
ノシンは、2’-OMe基で対向するヌクレオチドを生成することによって、または、対
向する塩基としてグアニンもしくはアデニンを生成することによって編集から保護するこ
とができ、これはこれら2つの核酸塩基もまた、対向するアデノシンの編集を低減するこ
とができるからである。
【0058】
本発明にしたがって容易に使用することができるオリゴヌクレオチドの様々な化学的性
質および修飾は、分野で知られている。ヌクレオチド間の正常なヌクレオシド間結合は、
ホスホジエステル結合のモノまたはジチオエート化により改変して、それぞれ、ホスホロ
チオエートエステル、またはホスホロジチオエート(phosphorodithioate)エステルを得
ることができる。アミド化およびペプチドリンカーを含む、ヌクレオシド間結合の他の修
飾も可能である。
【0059】
リボース糖は、低級アルキル(C1~4、例えば2’-O-Me)、アルケニル(C2
~4)、アルキニル(C2~4)、メトキシエチル(2’-MOE)、または他の置換基
での2’-O部分の置換により修飾することができる。2’OH基の好ましい置換基は、
メチル、メトキシエチル、または、3,3’-ジメチルアリル基である。後者は、ハイブ
リダイゼーションの効率性を改善しながら、そのかさ高性によりヌクレアーゼ感受性を阻
害する、その特性で知られている(Angus & Sproat FEBS 1993 Vol. 325, no. 1, 2, 123
-7)。あるいは、リボース環内の2’-4’分子間架橋(通常、2’酸素および4’炭素
間のメチレン架橋)結合を含む、ロックド核酸配列(LNA)を適用することができる。
プリン核酸塩基、および/またはピリミジン核酸塩基は、例えば複素環のアミノ化または
脱アミノ化により、修飾して、その特性を改変することができる。正確な化学的性質およ
び形式は、オリゴヌクレオチド構築物ごと、および、適用ごとに依存し得、当業者の要望
および趣向にしたがって成し遂げることができる。
【0060】
本発明によるEONは、通常、10ヌクレオチドより長く、好ましくは11、12、1
3、14、15、16ヌクレオチド超であり、さらにより好ましくは17ヌクレオチド超
であるべきである。一実施形態では、本発明によるEONは、20ヌクレオチドより長い
。本発明によるオリゴヌクレオチドは、好ましくは100ヌクレオチドより短く、さらに
より好ましくは60ヌクレオチドより短い。一実施形態では、本発明によるEONは、5
0ヌクレオチドより短い。好ましい態様では、本発明によるオリゴヌクレオチドは、18
~70ヌクレオチドを含み、より好ましくは18~60ヌクレオチドを含み、さらにより
好ましくは18~50ヌクレオチドを含む。ゆえに、最も好ましい態様では、本発明のオ
リゴヌクレオチドは、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、
28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、4
1、42、43、44、45、46、47、48、49、または50ヌクレオチドを含む
。
【0061】
RNA編集物質(例えば、ヒトADAR酵素)が、いくつかの要因に依存して、特異性
を変化させることでdsRNA構造を編集することは、当該技術分野で知られている。1
つの重要な要因は、dsRNA配列を構成する二本鎖の相補性の度合いである。二本鎖の
完璧な相補性は、通常、非特徴的な方法でアデノシンを脱アミノ化し、それが遭遇する任
意のアデノシンと多かれ少なかれ反応する、hADARの触媒ドメインをもたらす。hA
DAR1および2の特異性は、化学修飾を導入すること、および/または、dsRNAで
のいくつかのミスマッチを確保することにより高めることができ、おそらく、未だに明ら
かに定義されていない方法で、dsRNA結合ドメインの位置付けを助ける。あるいは、
脱アミノ化反応自身は、編集されるアデノシンに対向するミスマッチを含む、EONを生
成することにより向上することができる。ミスマッチは、好ましくは、編集されるアデノ
シンに対向するシチジンを有する、標的化部分を生成することにより作成される。代替と
して、ウリジンもまた、アデノシンに対向して使用することができるが、これは、当然の
ことながら、UとAとの対により、「ミスマッチ」は起こらない。標的鎖でアデノシンを
脱アミノ化すると、標的鎖は、大半の生化学的なプロセスに対して、Gとして細胞の生化
学的機構により「読み込まれる」イノシンを得る。ゆえに、AからIへの変換の後、Iは
、完璧に、本発明によるオリゴヌクレオチド構築物の標的化部分における対向するCと塩
基対形成することができるので、ミスマッチは解消される。編集によりミスマッチが解消
された後、基質が放出され、オリゴヌクレオチド構築物-編集物質複合体が標的RNA配
列から放出され、次いで、スプライシングおよび翻訳などの、下流の生化学的なプロセス
で利用可能となる。また、標的化したオリゴヌクレオチドが、標的RNAに非常に密に結
合すべきではないので、オン/オフ比は重要である。
【0062】
標的RNA配列を編集する特異性の所望のレベルは、標的ごとに依存し得る。本特許出
願における指示にしたがって、当業者は、必要性にしたがってオリゴヌクレオチドの相補
的な部分を設計することが可能であり、いくらかの試行錯誤をして、所望の結果を得るこ
とが可能であろう。
【0063】
本発明のオリゴヌクレオチドは、通常、正常のヌクレオチドA、G、U、およびCを含
むが、例えば1つまたは複数のGヌクレオチドの代わりに、イノシン(I)を含むことも
ある。
【0064】
オリゴヌクレオチド構築物と重なる領域での標的RNA配列におけるアデノシンの望ま
れない編集を防ぐために、オリゴヌクレオチドを、化学修飾することができる。標的RN
A配列におけるアデノシンに対向するヌクレオシドのリボシル部分の2’-O-メチル化
が、ADARによるそのアデノシンの脱アミノ化を劇的に減らすことが、当該技術分野に
おいて示されている(Vogelら、2014)。ゆえに、オリゴヌクレオチド構築物の
所望の位置に2’-O-メチル(2’-OMe)ヌクレオチドを含むことにより、編集の
特異性は、劇的に改善する。リボシル部分の他の2’-O置換、例えば2’-O-メトキ
シエチル(2’-MOE)および2’-O-ジメチルアリル基もまた、標的RNA配列に
おける相当する(対向する)アデノシンの望まない編集を低減することができる。これら
全ての修飾は、本発明のオリゴヌクレオチドに適用することができる。他の化学修飾もま
た、オリゴヌクレオチドの合成および設計の当業者にとって、容易に利用できる。このよ
うな化学修飾されたオリゴヌクレオチドの合成、および本発明による方法でのそれらの試
験は、過度の負担を有するものではなく、他の修飾は、本発明により包含される。
【0065】
細胞に存在するRNA編集分子は、通常、哺乳動物を含む、後生動物で見られるADA
R酵素など、天然でタンパク質性である。好ましくは、細胞の編集物質は、酵素であり、
より好ましくはアデノシンデアミナーゼまたはシチジンデアミナーゼ、さらにより好まし
くはアデノシンデアミナーゼである。これらは、ADAR活性を有する酵素である。最も
興味深いものは、ヒトADAR、hADAR1、およびhADAR2であり、hADAR
1 p110およびp150などの、任意のそのアイソフォームを含む。当該技術分野で
知られているRNA編集酵素は、本発明によるオリゴヌクレオチド構築物が簡便に設計さ
れ得るが、ヒトまたはヒト細胞におけるhADAR1およびhADAR2などの、RNA
で作用するアデノシンデアミナーゼ(ADAR)、ならびにシチジンデアミナーゼを含む
。ヒトADAR3(hADAR3)は、先行技術に記載されているが、報告によると、デ
アミナーゼ活性は有さない。hADAR1が、2つのアイソフォーム、長い150kDa
のインターフェロン誘導型、および通常のプレmRNAから代替的なスプライシングによ
って生成されるより短い100kDa型で存在することが知られている。その結果、細胞
に存在する150kDaアイソフォームのレベルは、インターフェロン、特にインターフ
ェロンγ(IFN-γ)の影響を受ける可能性がある。hADAR1もまた、TNF-α
に誘導される。これは、併用療法を開発する機会を提供し、それによりインターフェロン
γまたはTNF-α、および本発明によるオリゴヌクレオチドは、組合せ製品、または別
々の製品のいずれかとして、同時に、または続いて、任意の順でのいずれかで、患者に投
与される。ある種の疾患状態は、既に、患者のある種の組織における高いIFN-γ、ま
たはTNF-αレベルと一致し得、病変組織に対してより特異的な編集を行うさらなる機
会を作る。
【0066】
本発明のEONにおける化学修飾の例は、糖部分の修飾であり、糖(リボース)部分内
の架橋置換基(例えば、LNAまたはロックド核酸内の)による修飾、2’-O原子の、
上述したような長さを有する、アルキル(例えば、2’-O-メチル)、アルキニル(2
’-O-アルキニル)、アルケニル(2’-O-アルケニル)、アルコキシアルキル(例
えば、メトキシエチル、2’-MOE)基での置換による修飾などが含まれる。加えて、
骨格のホスホジエステル基は、チオエート化、ジチオエート化、アミド化などにより修飾
して、ホスホロチオエート、ホスホロジチオエート(phosphorodithioate)、ホスホロア
ミデート(phosphoramidate)など、ヌクレオシド間結合を得ることができる。ヌクレオ
シド間結合は、ペプチド結合で完全にまたは部分的に置き換えて、ペプチド核酸配列など
で得ることができる。あるいは、または加えて、核酸塩基は、(脱)アミノ化により修飾
させて、イノシンまたは2’6’-ジアミノプリンなどを得ることができる。さらなる修
飾は、CpG配列に関連することが知られている潜在的な免疫原性の特性を低減させる、
ヌクレオチドのシチジン部分における、C5のメチル化であり得る。
【0067】
dsRNA複合体が、ADAR酵素を動員して、標的RNA配列においてAからIへ脱
アミノ化する場合、編集されるアデノシンと対向するヌクレオチドとの間の塩基対、ミス
マッチ、膨らみ、または揺らぎは、アデノシン、グアニン、ウリジン、またはシチジン残
基を含み得るが、好ましくはシチジン残基を含む。(ウリジンを適用しない場合)編集部
位に対向する潜在的なミスマッチを除いて、EONの残存部分は、標的RNAに完璧に相
補的であり得る。しかし、本明細書に示す通り、ある種の態様では、本発明は、限られた
数の不完全なミスマッチを含むEONに関する。細胞内の編集物質を他の標的部位に再配
向する程度は、編集分子の認識ドメインに対する、本発明によるオリゴヌクレオチドの親
和性を変化させることにより調節され得ることは、当業者なら理解されよう。正確な修飾
は、いくらかの試行錯誤を通して、ならびに/または、オリゴヌクレオチドと編集分子の
認識ドメインとの間の構造的相互作用に基づく計算方法によって決定することができる。
【0068】
加えて、またはあるいは、細胞に存在する編集物質を動員し、再配向する程度は、オリ
ゴヌクレオチドの投与および投与レジメンにより調節され得る。これは、(インビトロ)
実験者または通常、第I相および/または第II相の臨床試験において、臨床医により決
定されることである。
【0069】
本発明は、真核細胞、好ましくは後生動物細胞、より好ましくは哺乳動物細胞における
標的RNA配列の修飾に関係する。原則として、本発明は、任意の哺乳動物種由来の細胞
で使用することができるが、好ましくはヒト細胞で使用する。本発明は、任意の臓器、例
えば、皮膚、肺、心臓、腎臓、肝臓、膵臓、腸、筋肉、腺、眼、脳、血液などに由来する
細胞で使用することができる。本発明は、(ヒト)対象の疾患状態に関与する、例えば、
ヒト対象が嚢胞性線維症に罹患する場合の細胞、組織、または臓器の配列を修飾するのに
特に適している。このような細胞として、限定されないが、肺の上皮細胞が挙げられる。
細胞は、インビトロまたはインビボに位置することができる。本発明の一利点は、生体中
のインシチュでの細胞で使用することができるが、培養下の細胞でも使用することができ
ることである。いくつかの実施形態では、細胞をエクスビボで処置し、次いで、生体内に
導入する(例えば、本来由来する生物内に再導入する)。本発明はまた、いわゆるオルガ
ノイド内の細胞において、標的RNA配列を編集するのに使用することができる。オルガ
ノイドは、3次元のインビトロ由来の組織と考えられるが、個別の単離された組織を生成
する特定の条件を使用して駆動される(例えば、Lancaster & Knoblich, Science 2014,
vol. 345 no. 6194 1247125を参照)。治療環境では、オルガノイドはインビトロで患者
の細胞に由来することができ、通常の移植より拒絶されにくい自己由来の物質として患者
に再導入することができるので、有用である。処置される細胞は、一般に、遺伝子突然変
異を有する。突然変異は、ヘテロ接合またはホモ接合であり得る。本発明は、典型的には
、NからAへの突然変異(Nは、G、C、U(DNAレベルではT)であり得る)、好ま
しくはGからAへの突然変異、またはNからCへの突然変異(Nは、A、G、U(DNA
レベルではT)であり得る)、好ましくはUからCへの突然変異などの、点突然変異を修
飾するのに使用される。
【0070】
理論により拘束されることは望むものではないが、hADAR1およびhADAR2に
よるRNA編集は、転写もしくはスプライシングの間の核内、または、例えば、成熟mR
NA、miRNA、もしくはncRNAを編集することができる細胞質の一次転写物で起
こると考えられている。編集酵素の異なるアイソフォームは示差的に局在化することが知
られている(例えば、核内で多く見られるhADAR1 p110、および細胞質で多く
見られるhADAR1 p150)。シチジンデアミナーゼによるRNA編集は、mRN
Aレベルで起こると考えられている。
【0071】
本発明は、編集反応をもたらすために、編集される部位を標的化し、細胞に存在するR
NA編集物質を動員することが可能なオリゴヌクレオチドの使用によって、真核細胞での
標的RNA配列を変化させるために使用される。好ましい編集反応は、アデノシンからイ
ノシンに変換するアデノシン脱アミノ化である。標的RNA配列は、点突然変異(転移ま
たはトランスバージョン)などの、修正または改変することを望むことができる突然変異
を含むことができる。標的RNAは、任意の細胞またはウイルスRNA配列であり得るが
、より通常では、プレmRNAまたはタンパク質コーティング機能を有するmRNAであ
る。
【0072】
多くの遺伝的疾患は、GからAへの突然変異により起こり、突然変異した標的アデノシ
ンでのアデノシン脱アミノ化が、とりわけPTCの場合、突然変異を、機能性、全長およ
び/もしくは野生型タンパク質を生じるコドンに逆行させることから、これらは、好まし
い標的疾患である。本発明によるオリゴヌクレオチドで予防および/または処置すること
ができる遺伝的疾患の好ましい例は、標的RNAでの1つまたは複数のアデノシンの修飾
が、(潜在的な)有益な変化をもたらす、任意の疾患である。とりわけ好ましいのは、嚢
胞性線維症であり、より具体的には、CFTR RNAでの疾患誘導性PTCにおけるア
デノシンのRNA編集が好ましい。CF突然変異の当業者は、G542X、W1282X
、R553X、R1162X、Y122X、W1089X、W846X、W401X、6
21+1G>T、または1717-1G>Aを含む1000~2000の突然変異が、C
FTR遺伝子で知られていることを認識する。
【0073】
標的配列は、真核細胞、好ましくは哺乳動物細胞、より好ましくはヒト細胞に内在する
。
【0074】
投与されるオリゴヌクレオチドの量、投与量、および投与レジメンは、細胞の種類ごと
、処置される疾患、標的集団、投与の様式(例えば、全身対局所)、疾患の重症度、およ
び副活性の許容レベルで異なり得るが、これらは、インビトロ研究、前臨床試験、および
臨床試験の間、試行錯誤により評価することができ、評価されるべきである。修飾された
配列により容易に検出される表現型の変化が生じる場合、試験は、特に単純である。より
高用量のオリゴヌクレオチドが、細胞内で核酸編集物質(例えばADAR)への結合につ
いて競合し、それにより、RNA編集を行わない物質の量を枯渇させる可能性があるが、
通常の投与試験により、所与のオリゴヌクレオチドおよび所与の標的に対する任意のこの
ような効果が明らかになる。
【0075】
1つの適した試験技術は、オリゴヌクレオチド構築物を細胞株、または試験生物に送達
すること、次いで、その後の様々な時点で生検サンプルを採取することを含む。標的RN
Aの配列は、生検サンプルで評価することができ、修飾を有する細胞の割合は、続いて容
易に評価することができる。この試験を一旦行うと、その後、情報を保持することができ
、生検サンプルの採取を必要とせずに、今後の送達を行うことができる。ゆえに、本発明
の方法は、細胞の標的RNA配列での所望の変化の存在を同定し、それにより、標的RN
A配列が修飾されることを検証するステップを含むことができる。このステップは、典型
的には、上述の通り、標的RNAの関連する部分、またはそのcDNAコピー(もしくは
、標的RNAがプレmRNAである場合、そのスプライシング生成物のcDNAコピー)
をシークエンシングすることを含むだろうし、配列変化は、容易に検証することができる
。あるいは、変化は、タンパク質のレベル(長さ、グリコシル化、機能など)で、または
、標的RNA配列でコードされるタンパク質が、例えば、イオンチャンネルである場合、
(誘導)電流などの、いくつかの機能的な読み出しにより、評価することができる。CF
TR機能の場合、機能の復元または獲得を評価するために、ヒトを含む哺乳動物における
、Ussingチャンバ-アッセイ、またはNPD試験が、当業者に周知である。
【0076】
RNA編集が、細胞内で起こった後、修飾されたRNAは、例えば、細胞分裂、編集さ
れるRNAの半減期の制限などにより、経時的に希釈され得る。ゆえに、実用的な治療の
点で、本発明の方法は、十分な標的RNAを修飾して、患者に目に見える利点を提供する
、および/または経時的に利点を維持するまで、オリゴヌクレオチド構築物の反復送達を
含み得る。
【0077】
本発明のオリゴヌクレオチドは、特に、治療的使用に適しているので、本発明は、本発
明のオリゴヌクレオチドおよび薬学的に許容される担体を含む医薬組成物を提供する。本
発明のいくつかの実施形態では、薬学的に許容される担体は、単純に生理食塩水溶液であ
り得る。これは、特に肺内送達に対して、有用に等張性または高張性であり得る。本発明
はまた、本発明の医薬組成物を含む、送達デバイス(例えば、シリンジ、吸入器、ネブラ
イザー)を提供する。
【0078】
本発明はまた、本明細書に記載される、哺乳動物、好ましくはヒト細胞での標的RNA
配列において変化をもたらすための方法における使用のための、本発明のオリゴヌクレオ
チドを提供する。同様に、本発明は、本明細書に記載される、哺乳動物、好ましくはヒト
細胞での標的RNA配列において変化をもたらすための医薬の製造における、本発明のオ
リゴヌクレオチド構築物の使用を提供する。
【0079】
本発明はまた、細胞内の標的RNA配列に存在する、少なくとも1つの特異的な標的ア
デノシンの脱アミノ化のための方法であって、細胞に、本発明によるEONを供給するス
テップ、EONの細胞による取込みを可能にするステップ、標的RNA分子へのEONの
アニーリングを可能にするステップ、野生型酵素で発見された天然のdsRNA結合ドメ
インを含む哺乳動物のADAR酵素が、標的RNA配列中の標的アデノシンをイノシンに
脱アミノ化することを可能にするステップ、および、任意で、RNA配列中のイノシンの
存在を同定するステップを含む、方法に関する。
【0080】
本発明によるEONの細胞内への導入は、当業者に知られている一般的な方法で行われ
る。脱アミノ化の後、効果の読み出し(標的RNA配列の改変)を、異なる方法によって
モニタリングすることができる。ゆえに、標的アデノシンの所望の脱アミノ化が、実際に
行われたかどうかを同定するステップは、一般に、標的RNA配列での標的アデノシンの
位置、および、アデノシンの存在により生じる効果に依存する(点突然変異、初期終止コ
ドン)。ゆえに、好ましい態様では、AからIへの変換の最終的な脱アミノ化効果に依存
して、同定するステップは、標的RNAをシークエンシングすること、機能性、伸長型、
全長および/もしくは野生型タンパク質の存在を評価すること、プレmRNAのスプライ
シングが、脱アミノ化により改変したかどうかを評価すること、または、機能的な読み出
しを使用することであって、脱アミノ化後の標的RNAが、機能性、全長、伸長型および
/もしく野生型タンパク質をコードする、ことを含む。UAA終止コドンがある場合、両
方のアデノシンを脱アミノ化する必要があることを意味する。ゆえに、本発明はまた、互
いに隣接する2つのアデノシンが、ADARなどのRNA編集酵素により共脱アミノ化さ
れる、オリゴヌクレオチドおよび方法に関する。この特定の場合、UAA終止コドンは、
UGG Trpコードコドンに変換される。アデノシンのイノシンへの脱アミノ化により
、標的位置での突然変異したAにもはや有さないタンパク質をもたらすことができるため
、イノシンへの脱アミノ化の同定はまた、機能的な読み出し、例えば、機能的タンパク質
が存在するかどうかの評価、または、さらに、アデノシンの存在により引き起こされる疾
患が(部分的に)逆行することの評価であり得る。本明細書に記載の疾患の各々に対する
機能的評価は、一般に、当業者に知られている方法にしたがう。標的アデノシンの脱アミ
ノ化の後のイノシンの存在を同定する非常に適した方法は、もちろん、当業者に周知の方
法を使用する、RT-PCRおよびシークエンシングである。
【0081】
本発明によるオリゴヌクレオチドは、薬学的な使用に適合する、添加物質、賦形剤、ま
たは他の成分を任意で含む、水溶液、例えば、生理食塩水で、または、懸濁液で、1ng
/ml~1g/ml、好ましくは10ng/ml~500mg/ml、より好ましくは1
00ng/ml~100mg/mlの範囲の濃度で、適切に投与される。投与量は、適切
には、約1μg/kg~約100mg/kg、好ましくは約10μg/kg~約10mg
/kg、より好ましくは約100μg/kg~約1mg/kgの範囲であり得る。投与は
、吸入(例えば、ネブライザーによって)、鼻腔内、経口、注射または注入、静脈内、皮
下、皮内、頭蓋内、筋肉内、気管内、腹腔内、直腸内などであり得る。投与は、固体形態
、散剤、丸剤の形態、または、ヒトにおける薬学的な使用に適合する任意の他の形態であ
り得る。本発明は、特に、嚢胞性線維症などの遺伝的疾患を処置するのに適している。
【0082】
いくつかの実施形態では、オリゴヌクレオチド構築物は、全身に送達することができる
が、オリゴヌクレオチドを、標的配列の表現型と分かる細胞に送達することがより典型的
である。例えば、CFTRにおける突然変異は、肺の上皮組織で主に見られる嚢胞性線維
症を引き起こすので、CFTR標的配列を用いて、オリゴヌクレオチド構築物を、特異的
かつ直接的に肺に送達することが好ましい。これは、吸入により、例えば、散剤またはエ
アゾール剤により、典型的には、ネブライザーの使用を介して適宜的に達成することがで
きる。とりわけ好ましいのは、PARI eFlow(Rapid)またはRespir
onics製のi-nebを含む、いわゆるメッシュ振動式を使用する、ネブライザーで
ある。本発明によるオリゴヌクレオチド構築物の吸入送達がまた、これら細胞を効果的に
標的化することができ、CFTRの場合、遺伝子標的化により、嚢胞性線維症にも関連す
る消化管症状の改善をもたらすことが予想される。いくつかの疾患では、粘膜層は、厚さ
を増し、肺を介する薬の吸収を低下させることを示す。このような疾患の1つは、慢性気
管支炎であり、別の例は、嚢胞性線維症である。粘膜ネブライザーの様々な形態が利用可
能で、例えば、DNアーゼ、高張性生理食塩水、またはマンニトールであり、Bronc
hitolの名称で市販されている。粘膜ネブライザーを、本発明によるオリゴヌクレオ
チド構築物などの、RNA編集オリゴヌクレオチド構築物と組み合わせて使用する場合、
これらは、薬の有効性を高めることができる。したがって、本発明によるオリゴヌクレオ
チド構築物の対象、好ましくはヒト対象への投与は、好ましくは、粘膜ネブライザー、好
ましくは本明細書に記載の粘膜ネブライザーと組み合わせる。加えて、本発明によるオリ
ゴヌクレオチド構築物の投与は、増強化合物、例えばKalydeco(ivacaft
or;VX-770)、または矯正化合物(corrector compound)、例えばVX-809
(lumacaftor)および/またはVX-661などの、CFの処置のための小分
子の投与と組み合わせることができる。CFにおける他の併用療法は、本発明によるオリ
ゴヌクレオチド構築物を、IFN-γまたはTNF-αを使用して、アデノシンデアミナ
ーゼのインデューサーと組み合わせて使用することを含むことができる。あるいは、また
は粘膜ネブライザーと組み合わせて、粘膜透過性粒子またはナノ粒子での送達は、RNA
編集分子の、例えば肺および腸の上皮細胞への効果的な送達に適用することができる。し
たがって、本発明によるオリゴヌクレオチド構築物の対象、好ましくはヒト対象への投与
は、好ましくは、粘膜透過性粒子またはナノ粒子での送達を使用する。慢性および急性肺
感染症は、多くの場合、嚢胞性線維症などの疾患の患者に存在する。抗生物質による処置
は、細菌感染、ならびに、粘膜肥厚および/またはバイオフィルム形成などの、その症状
を低減する。本発明によるオリゴヌクレオチド構築物と組み合わせる抗生物質の使用によ
り、オリゴヌクレオチド構築物に対して標的細胞がより容易に接近するため、RNA編集
の効率性が高まる。したがって、本発明によるオリゴヌクレオチド構築物の対象、好まし
くはヒト対象への投与は、好ましくは、細菌感染、ならびに、粘膜肥厚および/またはバ
イオフィルム形成などの、その症状を低減するために、抗生物質による処置と組み合わせ
る。抗生物質は、全身に、もしくは局所的に、またはその両方で投与することができる。
嚢胞性線維症患者への適用に対して、本発明によるオリゴヌクレオチド構築物、またはパ
ッケージもしくは複合化した本発明によるオリゴヌクレオチド構築物は、任意の粘膜ネブ
ライザー、例えば、DNアーゼ、マンニトール、高張性生理食塩水、ならびに/または、
抗生物質、ならびに/または、増強化合物、例えばivacaftor、もしくは矯正化
合物、例えばlumacaftorおよび/もしくはVX-661などの、CFの処置の
ための小分子と組み合わせることができる。標的細胞への接近を増すため、気管支肺胞洗
浄(BAL)を適用して、本発明によるオリゴヌクレオチドの投与の前に、肺を清浄する
ことができる。
【実施例0083】
[実施例1]
コンピューターモデリングに基づく、一本鎖アンチセンス編集オリゴヌクレオチドの設計
本発明の発明者らは、モデリングデータが、標的RNAの編集を改善する(または編集
の効率性を高める)ために編集オリゴヌクレオチド(EON)に組み込むことができる、
構造的特徴の同定を支持し得ることを想定した。ADARの立体障害を回避し、さらにタ
ンパク質をより効果的に動員するように、EONのヌクレオチドを化学修飾することによ
り、最適以下の配列状況に対処した。本プロセスを誘導するため、存在するRNA結合A
DAR2構造を、開始点(構造テンプレート)として使用した。二本鎖RNAとの相互作
用におけるADAR2デアミナーゼドメインの公表された構造(Matthews et al., Natur
e Structural and Molecular Biology, 2016)を解析し、新規の構造計算に必要な距離の
分子内および分子間距離のネットワークを生成した。分子内および分子間距離の値に対し
て、上限値を規定した。分子内距離に対して、上限値は、RNA結合ADAR2デアミナ
ーゼX線構造で観察される距離に相当する。分子間距離に対して、上限値は、結合界面で
の側鎖の適用を可能にする、観察された距離より大きい、1~3Å間に設定した。ADA
R2デアミナーゼドメインの二次構造エレメントに対して、上限距離および下限距離を挿
入し、αらせんおよびβシートで古典的に検出される水素結合ネットワークを特徴付けた
。二面角制限は、公表された構造から導かれた。この手法は、当業者に知られている、溶
液中のタンパク質-RNA構造を解明するために使用される標準的な方法(核磁気共鳴分
光法)に基づき、捻れ角ならびに分子動力学ステップを統合する。機能的に最適化されて
いるEONに結合するADAR2デアミナーゼドメインの構造を、CYANA3.97(
Herrmann et al., J. Mol. Biol., 2002)で計算し、選択した原子モデルを、ff99S
B力場を使用する陰的水(implicit water)でのシミュレーテッドアニーリングにより、
AMBER16(Case D.A. et al., J. Comput. Chem., 2005)のSANDERモジュー
ルで精製した。インシリコでは、Idua RNA標的にアニールしたEONからなる
二本鎖RNA複合体を使用した。このプロトコルは、タンパク質側鎖および二本鎖RNA
-EONらせん間の相互作用の原子的な詳細の探索を可能にした。相互作用を、EONの
酸素-リン酸骨格の化学修飾により調節した。
【0084】
[実施例2]
RNA編集におけるインシリコモデリングされたEONの使用
上記で概説した通り、許容および非許容の立体特異的ホスホロチオエート立体配置修飾
のパターンを決定し、RNA編集実験においてこれをさらに実証するために、酵素的アッ
セイを行って、実験的に方法を確認する。これらのハーラー症候群モデル実験の手順は、
国際公開第2017/220751号に記載される。第一の実験では、様々な位置での修
飾を有するいくつかのEONを試験する。第二の実験では、立体特異的ホスホロチオエー
トRpおよび/またはSp修飾を、本明細書に概説したような原子スケールモデリング結
果と一致した、EONでの特異的な位置で統合する。早期停止コドン(W392X)で改
変したIdua遺伝子を過剰発現するMEF細胞におけるオリゴヌクレオチドのトランス
フェクションの後、α-L-イズロニダーゼ(Idua遺伝子でコードされたタンパク質
)の酵素的活性を、多数の対照に関して定量化する。EONをこれらのRNA標的に結合
し、続いてADARで編集することで、酵素機能を復元する。