(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024116146
(43)【公開日】2024-08-27
(54)【発明の名称】多発性硬化症における免疫優性タンパク質および断片
(51)【国際特許分類】
C07K 14/47 20060101AFI20240820BHJP
C12N 9/10 20060101ALI20240820BHJP
C12N 15/12 20060101ALI20240820BHJP
C12N 15/54 20060101ALI20240820BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20240820BHJP
A61K 31/7088 20060101ALI20240820BHJP
A61K 35/17 20150101ALI20240820BHJP
A61K 35/18 20150101ALI20240820BHJP
A61K 38/16 20060101ALI20240820BHJP
A61K 38/43 20060101ALI20240820BHJP
A61K 39/00 20060101ALI20240820BHJP
A61K 49/00 20060101ALI20240820BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20240820BHJP
A61P 37/06 20060101ALI20240820BHJP
C12N 5/078 20100101ALN20240820BHJP
【FI】
C07K14/47
C12N9/10 ZNA
C12N15/12
C12N15/54
C12N5/10
A61K31/7088
A61K35/17
A61K35/18
A61K38/16
A61K38/43
A61K39/00
A61K49/00
A61P25/00
A61P37/06
C12N9/10
C12N5/078
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024080078
(22)【出願日】2024-05-16
(62)【分割の表示】P 2020571547の分割
【原出願日】2019-06-28
(31)【優先権主張番号】18180326.3
(32)【優先日】2018-06-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
(71)【出願人】
【識別番号】501393966
【氏名又は名称】ウニヴェルジテート・チューリッヒ
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITAET ZUERICH
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(72)【発明者】
【氏名】ミレイア ソスペドラ ラモス
(72)【発明者】
【氏名】ローラント マルティン
(57)【要約】
【課題】多発性硬化症における免疫優性タンパク質および断片の提供。
【解決手段】本開示は、免疫優性タンパク質またはペプチドを使用することによる多発性硬化症(MS)の処置、診断および/または予防に関する。より具体的には、本発明は、寛容の誘導などの抗原特異的免疫療法の分野に関する。多発性硬化症(MS)の処置、診断および/または予防において使用するための、GDP-L-フコースシンターゼタンパク質もしくはRASGRPタンパク質ファミリーのタンパク質またはその断片、誘導体もしくはスプライスバリアント、あるいは前記タンパク質またはその断片、誘導体もしくはスプライスバリアントのいずれかをコードするヌクレオチド配列。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
明細書に記載の発明。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本開示は、免疫優性タンパク質またはペプチドを使用することによる多発性硬化症の処置、診断および/または予防に関する。より具体的には、本発明は、寛容の誘導などの抗原特異的免疫療法の分野に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
多発性硬化症(MS)は、若年成人に主に影響を与える破壊的な自己免疫性炎症性疾患である。自己免疫反応は、脳および脊髄からなる中枢神経系(CNS)のみを標的とするので、MSは、臓器特異的自己免疫疾患(AID)の原型例である。臓器特異的AIDは、患者の免疫系が、自己反応性T細胞および/または抗体により特定の組織または細胞タイプを損傷することを意味する。
【0003】
MSは、20~40歳の若年成人に優先的に影響を与えるが、子供および高齢者もMSを発症し得る。この疾患は、女性では、男性よりも約2~3倍頻繁である。MSは、通常、視覚(急性視神経炎)、感覚または運動および自律機能の一時的な問題により臨床的に現れるが、広範囲の神経学的症状をもたらし得る。
【0004】
鑑別診断が除外された場合の最初の顕在化の時点では、脳脊髄液(CSF)および磁気共鳴画像法(MRI)の所見が診断と一致するという条件で、この疾患は臨床的に孤立した症候群(CIS)と称される。MRIは、MSに典型的な場所、すなわち脳幹または脊髄における皮質近傍、脳室周囲の病変を明らかにする。空間的(1つを超える病変または臨床症状/徴候)および時間的(1つを超える事象)な播種としてまとめられ得る特定の基準が満たされる場合、再発寛解型多発性硬化症(RRMS)の診断が下され得る。特別な状況は、臨床症状を伴わないMSと適合するMRI病変の偶発的な発見である。これは放射線学的孤立症候群(RIS)と称され、CISおよびRRMSの前段階と考えられ得る。患者の80%より多くはこれらのうちの1つを患っており、患者の大部分は、その後、二次進行性多発性硬化症(SPMS)と称されるものを発症する。この時点で、再発/悪化は低頻度であるかまたは完全に停止し、再発の間にまたはこれらを伴わずに神経学的障害(neurological disability)は着実に増加する。
【0005】
特別な形態のMSは、再発を示さないが神経学的症状、例えば歩行能力の着実な悪化で始まる原発性進行性MS(PPMS)である。PPMSは、MS患者のおよそ10%ならびに等頻度で男性および女性に影響を与える。その発症は、通常、CISまたはRRMSよりも遅い。原因および疾患機序に関して、PPMSは、上記RIS-CIS-RRMS-SPMSと同様であると考えられる。
【0006】
典型的には、MSは、改訂マクドナルドまたは最近のルブリン基準にしたがって診断される。これらの基準はまた、MSの様々な形態および疾患活動性を区別することを可能にする(Thompsonら、2018,Lancet Neurol,17(2):162-173)。
【0007】
MSは、複雑な遺伝的背景を有する疾患である。過去10年間で、200個を超えるMSリスク対立遺伝子または量的形質(一塩基多型、SNPとして検出される遺伝子の一般的なバリアント)が同定されているが、しかしながら、最も重要なのはヒト白血球抗原(HLA)-DR15ハプロタイプ(haplotye)である。加えて、いくつかの環境/ライフスタイルリスク因子が見出された。これらとしては、エプスタインバーウイルス(EBV)の感染、喫煙、低いビタミンD3レベル、および最も重要なものとして肥満が挙げられる。
【0008】
すべての遺伝的および環境的リスク因子は一般的であり、健常集団の多くの個体により共有される。特定の遺伝的および環境的リスク因子を有する個体において前記疾患が始まる正確な理由は明らかではないが、例えば、腸内細菌叢の変化によるウイルスおよび細菌感染がトリガーであり得ると推測する。一般集団における1/1000のリスクと比較して、一卵性双生児の一致率が10~30%であり、MS患者の第一度近親者のリスクが約2~4%であることは、遺伝的リスク対環境的リスクの推定値を提供するが、この2つの間の相互作用も複雑である。
【0009】
MSにおける自己免疫反応が対象とするCNSの構成要素を同定するために、研究者らは、MSで影響を受ける細胞および構造、特にミエリンおよび軸索/ニューロン、ならびにこれらの細胞/構造に特異的なタンパク質に努力を向けた。過去30年間の間に、いくつかのミエリンタンパク質、例えばミエリン塩基性タンパク質(MBP)、プロテオリピドタンパク質(PLP)およびミエリンオリゴデンドログリア糖タンパク質(MOG)は、動物モデル(実験的自己免疫性脳脊髄炎;EAE)(すなわち、感受性齧歯類系統へのそれらの注射は、MSとの類似性を有する疾患をもたらす)において、さらにはMS患者由来の免疫細胞を調べることにより脳炎誘発性として同定されている(Sospedra
and Martin,2005,Annu Rev Immunol,23:683-747)。上記自己抗原はCNS特異的であり、脳において排他的に(PLPおよびMOG)またはほぼ排他的に(MBP)発現される。MSでは、CNS特異的ではない少数の自己抗原、例えばアルファBクリスタリンおよびトランスアルドラーゼHも潜在的な標的として記載されている。
【0010】
現在の証拠は、MSの自己免疫病因の中心因子としてのCD4+自己反応性T細胞がおそらく、自己免疫反応の誘導および維持だけではなく、組織損傷の間にも関連することを示唆している(Sospedra and Martin,2005)。MS患者では、ミエリン鞘の主な構成要素、例えばMBP、PLPおよびMOGに反応性の高アビディティCD4+T細胞の頻度が増加する(Bielekovaら、2004,J Immunol,172:3893-3904)。疾患病因へのそれらの関与により、CD4+T細胞は治療的介入の標的である。
【0011】
CNS特異的タンパク質に対する免疫反応の詳細な調査は、その特定のペプチドが、疾患関連HLA-DR分子との関連において患者の大部分により認識されることを示した。このようなペプチドは免疫優性と称される(Bielekovaら、2004)。
【0012】
以下の特徴は、MSとの関連において、タンパク質の特定のペプチドが免疫優性であることを示す:
a)多くの場合には疾患関連HLA対立遺伝子またはハプロタイプとの関連において、T細胞による、すなわちMS患者のおよそ10%またはそれよりも多くによるこのペプチドの頻繁な認識(Sospedra and Martin,2005)、および
b)低濃度のペプチドに反応し(高アビディティT細胞)(Bielekovaら、2004)、したがって特に危険であると考えられ、および/または炎症促進性表現型を有し、および/または標的器官もしくは区画(CNS)から単離されたものなどの疾患関連T細胞、MSの場合には脳、脊髄またはCSF浸潤T細胞によるこのペプチドの認識。
【0013】
しかしながら、ヒト化トランスジェニックマウスモデルでは、低アビディティミエリン特異的T細胞も病原性であることが示されているので(Quandtら、2012,J Immunol,189(6):2897-2908)、高アビディティ認識は必要条件ではない。
【0014】
最近、外因性抗原の非存在下では、MS患者のT細胞は、インビトロ増殖の増加を示すことが実証された(Mohmeら、2013,Brain,136:1783-1798)。これらの「自己増殖」T細胞は、MS患者の中枢神経系区画に存在する細胞に豊富であるので、脳/CSF浸潤T細胞の末梢血源と考えられ得る(Jelcicら、2018,Cell,175(1):85-100.e23)。
【0015】
インビトロにおけるT細胞の試験からのデータが利用可能ではない場合、またはこのような試験に加えて、ペプチドの免疫認識はまた、それぞれCD8+およびCD4+T細胞について、個体のHLAクラスIまたはクラスII対立遺伝子によく結合するペプチドから予測/推測され得る。ペプチド結合予測は当業者に周知である。それらは、十分に確立された予測アルゴリズム(NetMHCII-www.cbs.dtu.dk/services/NetMHCII/;IEDB-www.iedb.org/)およびHLA結合モチーフの分析(SYFPEITHI-www.syfpeithi.de/)により実施され得る。
【0016】
免疫優性ペプチドは、寛容誘導などの抗原特異的免疫療法において使用され得る。一例は、MBP、PLPおよびMOGの免疫優性ペプチドならびにMS処置のためのそれらの適用について開示している欧州特許第2205273号である。そこに開示されているアプローチでは、ペプチドを白血球または赤血球に結合させる。
【0017】
寛容誘導は抗原特異的であり、自己反応性T細胞を非機能的もしくはアネルギー性にするか、または前記標的抗原に対する望ましくない自己免疫を特異的に抑制する制御性T(Treg)細胞を誘導する。標的自己抗原への寛容の誘導は、自己免疫疾患における非常に重要な治療目標である。それは、副作用をほとんど伴わずに、有効な方法で病原性自己免疫反応を特異的に減弱する機会を提供する。寛容誘導はまた、タンパク質の断片である免疫優性ペプチドに代えてまたはそれに加えて、タンパク質全体を適用することにより達成され得る(Kennedy MKら、1990,J Immunol,144(3):909-15)。
【0018】
Th1/Th17細胞駆動性自己免疫疾患のパラダイム動物モデルであるEAEモデルでは、MSのいくつかの病的特徴が反映されている。SJLマウスにおける再発性EAE(R-EAE)の研究は、慢性脱髄が、最初の疾患増悪が対象とする免疫優性ミエリンペプチド、すなわちPLP139-154に対するT細胞反応の活性化を伴うことを明確に示した。続いて、免疫反応は、エピトープ拡散と称されるプロセスで他のミエリンペプチドPLP、MBPおよびMOGに広がる。T細胞の無反応、すなわち寛容は、例えば、抗原ペプチドでパルスされた抗原提示細胞(APC)を例えば架橋剤1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)-カルボジイミド(ECDI;EDCとも略される)で処理すると誘導され得る。
【0019】
前臨床実験は、脳炎誘発性ミエリンペプチドの混合物でパルスされ、架橋剤EDCで固定されたナイーブマウス脾細胞の単回静脈内注射が、インビボにおけるペプチド特異的寛容の誘導において非常に効率的であることを証明した。EAEでは、このプロトコールは、疾患から動物を予防しただけではなく、疾患誘導後に与えた場合にはすべてのその後の再発の発症および重症度を有効に軽減さえしたが、これは、特異的寛容が進行中の自己免疫反応をダウンレギュレートし得ることを示している(Millerら、1991,Acad Sci,636:79-94)。MSの処置にさらに関連して、EAEの研究は、脳炎誘発性ミエリンペプチドのカクテルを使用して、複数のエピトープに対して寛容を同時に誘導し得ることを示し、多重特異性を有する自己反応性T細胞を標的とする能力を提供している。
【0020】
寛容化T細胞による増殖またはTh1サイトカイン産生の失敗、およびこれらの細胞上における共刺激分子の発現の減少により示されるように、EDCで処理された自己抗原に結合させた細胞、例えばAPC(Vandenbarkら、2000,Int Immunol,12:57-66)または非有核細胞、すなわち赤血球(RBC)によるヒトT細胞の寛容化はインビトロで有効である。
【0021】
少なくとも2つの異なる機序が、このレジームによる抗原特異的寛容の誘導に関与するという証拠がある:
1)適切なCD28媒介性共刺激を受けることができなかった結果として、抗原に結合させたAPC上の名目抗原/MHC複合体に遭遇するTh1クローンがアネルギー化された直接的な寛容、および
2)寛容原性宿主APCによる抗原の再プロセシングおよび再提示ならびに/またはTreg細胞の拡大により寛容が誘導される間接的な機序、例えば交差寛容。
【0022】
後者の交差寛容は、抗原特異的Treg細胞の誘導および/または拡大を伴う可能性があり、この仮定は、本明細書に開示される第Ib相試験で得られたデータによっても裏付けられる。さらに、EDCによる細胞の処理は、かなりの割合の処理細胞においてアポトーシスを誘導する。したがって、アポトーシスを受ける固定APCを伴い、次いで宿主APCによりプロセシングおよび再提示される間接的な機序が考えられる。これは、MHC欠損および同種マウスにおける寛容の有効な誘導によりさらに裏付けられる。インビトロ骨髄由来樹状細胞は、抗原をパルスし固定したAPCを有効に貪食およびプロセシングする。
【0023】
現在承認されているMS治療は、部分的に有効にすぎない様々な抗原非特異的免疫調節または免疫抑制戦略を伴う。現在の治療薬(therapeutics)はすべて、毎日経口摂取されるか、または長期間にわたって様々な時間間隔で注射/注入される必要がある。さらに、それらは、時には重篤な多数の副作用を伴う。
その根底のMS病因に対処する治療は、「正常な」免疫系を変化させずに、病原性自己反応性細胞を特異的に除去または機能的に阻害することを目的とすべきである。全体的な免疫調節および/または免疫抑制は、病原体に対する保護機能を果たす有益な制御性細胞および免疫細胞を阻害するという犠牲を強いられるので、これは重要である。理想的には、自己反応性免疫反応の遮断が疾患の播種および伝播を阻害し得、不可逆的な障害が予防され得る疾患の炎症段階の初期に、ペプチド特異的免疫寛容、すなわち、脳/脊髄組織に対する誤った自己免疫反応の特異的修正が達成されるべきである。したがって、好ましい標的患者群は、疾患経過の初期の再発性寛解性MS患者、またはさらにはMSを示唆する最初の臨床事象、すなわちCISを示す患者、またはRIS段階の特に初期に疾患が発見される患者である。この時点では、MS患者は一般に軽度の神経障害を有し、重大な妥協を伴わずに日常生活および仕事のすべての活動に参加することが可能である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0024】
【非特許文献1】Thompsonら、2018,Lancet Neurol,17(2):162-173
【非特許文献2】Sospedra and Martin,2005,Annu Rev Immunol,23:683-747
【非特許文献3】Bielekovaら、2004,J Immunol,172:3893-3904
【非特許文献4】Quandtら、2012,J Immunol,189(6):2897-2908
【非特許文献5】Mohmeら、2013,Brain,136:1783-1798
【非特許文献6】Jelcicら、2018,Cell,175(1):85-100.e23
【非特許文献7】Kennedy MKら、1990,J Immunol,144(3):909-15
【非特許文献8】Millerら、1991,Acad Sci,636:79-94
【非特許文献9】Vandenbarkら、2000,Int Immunol,12:57-66
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0025】
本発明の目的は、MSの処置、診断および/または予防において、特に寛容化アプローチにおいて使用するために適切なMS関連抗原を同定することである。本発明のさらなる態様は、寛容化に適切なヒト被験体の同定である。
【0026】
本発明は、MS関連抗原を同定するための新規アプローチに基づく:非常に侵襲形態のMSで死亡した(MSにおける主な遺伝的リスク因子であることが公知のHLA DR15ハプロタイプについてホモ接合性の)MS患者の脳においてクローン性に拡大したT細胞を調べた。それにより、初めて、標的器官においてクローン性に拡大した標的器官由来T細胞を抗原同定の目的で分析した。以前のアプローチではすべて、免疫優性抗原を同定するために、末梢血リンパ球が分析された。
【0027】
MS脳病変におけるT細胞クローン(TCC)のクローン性拡大は、前記細胞がMS関連であることを示唆している。本明細書では、Planasら、(Planasら、2015,Ann Clin Transl Neurol,2(9):875-893)に以前に記載されている特定のTCCの標的抗原TCC21.1を同定した。さらに、同じ患者の別のTCC(TCC14)の標的抗原を同定した。TCC14の場合、自発的増殖(自己増殖)の増加および脳ホーミング自己反応性T細胞の富化を実証することにより、疾患関連であると同定された末梢血T細胞集団からクローンを単離した。具体的には、TCC14は、末梢血から単離されたにもかかわらず、MS脳病変においてクローン性に拡大することも見出された。TCC21.1およびTCC14のような疾患関連T細胞の単離および同定は、
図1に概略的に示されている。
【0028】
次いで、生物学的関連(例えば、組織浸潤)T細胞により認識される標的エピトープを同定し得る(
図2)。
【0029】
この新規アプローチは、タンパク質GDP-L-フコースシンターゼ(遺伝子略称:TSTA3;GDP-L-フコース:NADP+4-オキシドレダクターゼ(3,5-エピマー化)またはGDP-4-ケト-6-デオキシ-D-マンノース-3,5-エピメラーゼ-4-レダクターゼとしても公知)およびRASGRP(RASグアニル放出タンパク質)ファミリーのタンパク質(RASGRP1、RASGRP2、RASGRP3およびRASGRP4を含む)、ならびにMSにおいて特に関連するそれらのスプライスバリアントおよびアイソフォームを明らかにした。RASGRP2が特に好ましい。したがって、これらのタンパク質はMSにおいて免疫優性であることが見出され、自己抗原である。
【0030】
また、GDP-L-フコースシンターゼについてはCIS/MS患者由来のCSF浸潤CD4+T細胞において、およびRASGRP2については末梢血由来単核細胞において、関連性を試験した。さらなる分析では、CIS/MS患者由来のCSF浸潤CD4+T細胞において、GDP-L-フコースシンターゼおよびRASGRP2の両方を試験した。
【0031】
したがって、本明細書の実施例に記載されている抗原は、MS脳病変においてクローン性に拡大するT細胞の特異性を調べることにより発見され、したがって、脳における損傷自己免疫反応に関与すると推定され得るMSにおける最初の免疫優性抗原である。それらの同定をもたらした方法論コンビナトリアルペプチドライブラリーは、ミエリン/脳タンパク質に関する上記焦点に関するものではないが、完全にバイアスフリーのものである。前記抗原は、これまでにMSへの関与が記載されていない。さらに、RNAシークエンシングおよびプロテオミクスは、両自己抗原、GDP-L-フコースシンターゼおよびRASGRP2ならびに関連タンパク質RASGRP1および3がMS脳組織において発現されることを示した。
【0032】
同定された抗原は、MSの処置、診断および/または予防において、特に寛容化アプローチにおいて、ならびに寛容化に適切なヒト被験体を同定するために使用され得る。寛容化に適切なヒト被験体を同定することにより、ヒト被験体はMSとインビトロ診断され得る。換言すれば、同定された自己抗原は、MSのインビトロ診断において使用され得る。このインビトロ試験は、臨床および画像所見、すなわち現在の技術水準による、特に改訂マクドナルド基準によるMS診断を用いて補完され得る。したがって、同定された自己抗原は、さらなる診断試験の有無にかかわらず、ヒト被験体におけるMSの診断に役立ち得る。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図3-1】TCC21.1の特異性を同定するためのバイオメトリック分析と組み合わせた単一および二重定義デカペプチド位置スキャン混合物
【
図3-2】TCC21.1の特異性を同定するためのバイオメトリック分析と組み合わせた単一および二重定義デカペプチド位置スキャン混合物
【
図4-1】バイオメトリックアプローチを用いて予測し、合成し、刺激能力について試験したヒトデカペプチドの概要
【
図4-2】バイオメトリックアプローチを用いて予測し、合成し、刺激能力について試験したヒトデカペプチドの概要
【
図4-3】バイオメトリックアプローチを用いて予測し、合成し、刺激能力について試験したヒトデカペプチドの概要
【
図4-4】バイオメトリックアプローチを用いて予測し、合成し、刺激能力について試験したヒトデカペプチドの概要
【
図5】脳組織において同定されたGDP-L-フコースシンターゼ転写産物およびペプチド
【
図6-1】GDP-L-フコースシンターゼ、ミエリンおよびCEFペプチド(サイトメガロウイルス、エプスタインバーウイルスおよびインフルエンザウイルス由来の対照ペプチド)
【
図6-2】GDP-L-フコースシンターゼ、ミエリンおよびCEFペプチド(サイトメガロウイルス、エプスタインバーウイルスおよびインフルエンザウイルス由来の対照ペプチド)
【
図7】CIS/MS患者由来のCSF浸潤CD4+T細胞によるGDP-L-フコースシンターゼペプチドの認識
【
図8】自己増殖T細胞の単離およびMS脳病変に見られる自己増殖T細胞
【
図9-1】位置スキャンライブラリーを使用した、自己増殖末梢血分離脳ホーミングTCC14のペプチドリガンド同定のためのスクリーニング手順
【
図9-2】位置スキャンライブラリーを使用した、自己増殖末梢血分離脳ホーミングTCC14のペプチドリガンド同定のためのスクリーニング手順
【
図10】末梢血由来記憶T細胞のRASGRP2反応性
【
図11】末梢血B細胞および脳におけるRASGRPの発現
【
図12】脳組織におけるRASGRP1、2および3タンパク質のペプチド同定
【
図14-1】105人のMS患者由来のCSF浸潤CD4
+T細胞によるGDP-L-フコースシンターゼおよびミエリンペプチドの認識
【
図14-2】105人のMS患者由来のCSF浸潤CD4
+T細胞によるGDP-L-フコースシンターゼおよびミエリンペプチドの認識
【
図15-1】57人のMS患者由来のCSF浸潤CD4
+T細胞によるRASGRP2およびミエリンペプチドの認識
【
図15-2】57人のMS患者由来のCSF浸潤CD4
+T細胞によるRASGRP2およびミエリンペプチドの認識
【
図16-1】ミエリンペプチドに結合させた赤血球によるインビボにおける寛容誘導
【
図16-2】ミエリンペプチドに結合させた赤血球によるインビボにおける寛容誘導
【発明を実施するための形態】
【0034】
免疫優性ペプチドおよび対応するタンパク質を同定するために使用されるT細胞は、理想的には、疾患に病原的に関連するT細胞である。後者の特徴に関して、MSの標的組織、脳、脊髄およびCSFにおいてクローン性に拡大するT細胞は、疾患関連標的抗原の同定に最も関心対象のものである。Planasら、(2015)により記載されている方法にしたがって、T細胞受容体(TCR)ベータ鎖相補的またはゲノムDNA配列の次世代シークエンシングを使用して、MS患者の脳剖検病変においてクローン性に拡大したT細胞を同定し、(生細胞を含み、例えば生検または早期剖検により得られた)自己CSFおよび/または組織からTCCとしてこれらのT細胞を単離し、機能的表現型および抗原特異性についてそれらを特性評価した。それにより、疾患関連TCCを単離した。具体的には、TCC21.1を同定および特性評価した。TCC21.1は、主にTh2サイトカインを放出するTh2表現型を示し、抗体産生のためのB細胞支援を提供することができた。この戦略は、GDP-L-フコースシンターゼタンパク質の関連性の特定をもたらした。
【0035】
また、上記戦略、すなわち脳/脊髄/CSF浸潤T細胞のディープTCRシークエンシングを使用して、末梢血から疾患関連T細胞を単離し、同定された自己増殖末梢血単核細胞(PBMC)由来T細胞をクローニングした。この戦略は、RASGRPタンパク質ファミリーの関連性の特定をもたらした。
【0036】
したがって、CSF浸潤T細胞(GDP-L-フコースシンターゼについてならびにGDP-L-フコースシンターゼおよびRASGRP2の両方についてはさらなる分析で)および末梢血T細胞(RASGRP2について)を用いた本研究は、これらが、MSにおける自己免疫反応の免疫優性標的であり、GDP-L-フコースシンターゼおよびRASGRP2(およびRASGRPファミリーの他のメンバー)が両方とも、CIS、RRMSおよびSPMSを含むMSにおける脳浸潤T細胞により認識されることを実証する。また、NetMHCIIおよびIEDBインシリコペプチド結合予測アルゴリズムを使用して、(「実施例」に記載されているように)各タンパク質内の免疫優性領域を同定した。
【0037】
細胞質酵素GDP-L-フコースシンターゼは、GDP-4-ケト-6-デオキシ-D-マンノースをGDP-L-フコースに変換し、次いでフコシルトランスフェラーゼがこれを使用して、すべてのオリゴ糖をフコシル化する。哺乳動物では、フコシル化グリカンは、輸血反応、宿主-微生物相互作用、がん病因、および脳における非炎症環境の維持を含む多くの生物学的プロセスにおいて重要な役割を果たす。
【0038】
RASGRタンパク質は、少なくとも4つのバリアントRASGRP1、RASGRP2、RASGRP3およびRASGRP4で存在する。RASGRP1、RASGRP2、RASGRP3は、特に本発明に関係する。前記タンパク質ファミリーは、結合GDPのGTPでの交換を通じてRasを特異的に活性化するジアシルグリセロール(DAG)調節ヌクレオチド交換因子として機能するRasスーパーファミリーグアニンヌクレオチド交換因子(GEF)ドメインの存在を特徴とする。前記タンパク質ファミリーのタンパク質は、Erk/MAPキナーゼカスケードを活性化する。それらは、EBV感染B細胞のアポトーシスおよび腫瘍形成の減少、BおよびT細胞シグナル伝達、接着、運動性に関与し、B-T細胞恒常性の維持に重要である。RASGRP2の少なくとも4つのアイソフォーム、すなわちスプライスバリアントが存在する。
【0039】
同定された抗原GDP-L-フコースシンターゼおよびRASGRP2(ならびにRASGRP1、RASGRP3およびRASGRP4)は、これまでにMSの原因(etiology)や病因およびその動物モデルEAEに関係があるとはされてこなかった。タンパク質またはその断片、誘導体もしくはスプライスバリアントが両方とも、MSにおける自己免疫反応の免疫優性標的であるという本発見は、MSの処置、診断および/または予防においてそれらを使用することを可能にする。
【0040】
タンパク質は、オリゴペプチド、ポリペプチドおよびタンパク質自体を意味することを意図する。タンパク質配列は、GenBankエントリにより定義され得る。タンパク質配列はまた、UniProtKB/Swiss-Protエントリにより、および/またはGenPeptエントリにより定義され得る。エントリは、番号、例えばアクセッション番号により定義され得る。該当する場合、データベースエントリとしては、各アクセッション番号(すなわち、エントリ番号)およびバージョン番号が挙げられる。タンパク質はまた、当業者に公知の任意の他のデータベースにより定義され得る。異なるアイソフォーム、誘導体および/またはスプライスバリアントが存在し得、これらも本発明により包含され得る。それにより、配列は、例えば、GenBankまたはUniProtKB/Swiss-Protエントリからの公知の配列と異なり得る。
【0041】
本発明の「タンパク質(「a」protein)」または「前記」タンパク質(「the」protein)は、特に明確な言及がない限り、GDP-L-フコースシンターゼタンパク質もしくはRASGRPタンパク質ファミリーのタンパク質、好ましくはRASGRP2のいずれかを指すか、またはGDP-L-フコースシンターゼタンパク質もしくはRASGRPタンパク質ファミリーのタンパク質、好ましくはRASGRP2の両方を指す。
【0042】
スプライスバリアントは、遺伝子発現中に選択的スプライシングから生じる。本発明のスプライスバリアントは、好ましくは免疫優性である。
【0043】
断片は、好ましくは、親タンパク質よりも短い(すなわち、より少ないアミノ酸を有する)タンパク質の任意の部分である。断片はペプチドであり得る。一実施形態では、断片は、5~50個、好ましくは5~20個、より好ましくは10~15個のアミノ酸、さらにより好ましくは15個のアミノ酸を含む。本発明の断片は、好ましくは免疫優性である。
【0044】
1つを超える本発明の断片を使用することも可能である。好ましくは、3個を超える、5個を超える、10個を超える、15個を超えるまたはさらには20個を超える異なる断片が使用される。好ましい実施形態では、5~20個、好ましくは5~15個の異なる断片が使用される。断片が同じアミノ酸配列で構成されていない場合、それは別の断片とは異なるものである。
【0045】
別の実施形態では、本発明の各タンパク質(GDP-L-フコースシンターゼタンパク質またはRASGRPタンパク質ファミリーのタンパク質、好ましくはRASGRP2)の少なくとも1個の断片は組み合わされて使用される。本発明の各タンパク質の少なくとも1個の断片を少なくとも1つの現在の技術水準の公知のペプチド、特に少なくとも1つのミエリンペプチド、特に配列番号261~267により定義されるミエリンペプチドの少なくとも1つまたは全部と組み合わせることが特に有利である。
【0046】
配列の誘導体は、好ましくは、参照アミノ酸配列の対応する部分とその全長にわたって少なくとも75%、より好ましくは少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも93%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも98%または少なくとも99%の相同性または同一性を共有するアミノ酸配列として定義される。本発明の意味における「対応する部分」は、好ましくは、同じ親配列のアミノ酸の同じストレッチを指す。例えば、100アミノ酸長を有する誘導体が配列番号1の一続きのアミノ酸(配列番号1のアミノ酸1~100)と20アミノ酸異なる場合、この特定の誘導体は、参照アミノ酸配列(すなわち、配列番号1)の対応する部分(すなわち、アミノ酸1~100)とその全長にわたって80%の同一性を共有する。本発明の誘導体は、好ましくは免疫優性である。
【0047】
アミノ酸配列の「相同性」または「同一性」は、好ましくは、参照アミノ酸配列の全長にわたって、または参照アミノ酸配列の対応する部分(これは、相同性または同一性を定義する配列に対応する)の全長にわたって本発明にしたがって決定される。
【0048】
「同一性」は同一のアミノ酸として定義され、「相同性」は同一のアミノ酸および保存的置換を含む。当業者は、保存的置換、例えば
-芳香族および芳香族FおよびW/Y
-正荷電および正荷電RおよびK/H
-負荷電EおよびDまたは
-脂肪族VおよびL/M/I、またはAおよびS/T
を把握している。
【0049】
本発明のタンパク質またはその断片、誘導体もしくはスプライスバリアントのいずれかをコードするヌクレオチド配列は、任意のコードヌクレオチド配列、例えばRNAまたはDNA、特にmRNAまたはcDNAを指す。一実施形態では、ヌクレオチド配列は、プラスミドまたは当業者に公知の任意のタイプのベクターである。好ましい実施形態では、ヌクレオチド配列はイントロンを含まず、遺伝子配列はエキソンおよびイントロンを含む。
【0050】
本発明の一態様では、多発性硬化症(MS)の処置、診断および/または予防において使用するためのタンパク質は、GDP-L-フコースシンターゼまたはその断片、誘導体もしくはスプライスバリアントである。本発明の別の態様では、タンパク質は、RASGRPファミリーのメンバーまたはその断片、誘導体もしくはスプライスバリアントである。本発明はまた、多発性硬化症(MS)の処置、診断および/または予防において使用するための、タンパク質またはその断片、誘導体もしくはスプライスバリアントのいずれかをコードするヌクレオチド配列に言及する。
【0051】
好ましい実施形態では、タンパク質はヒトタンパク質であり、ならびに/またはヌクレオチド配列および/もしくは遺伝子配列はヒト配列である。
【0052】
一実施形態では、GDP-L-フコースシンターゼは、GDP-4-ケト-6-デオキシ-D-マンノースをGDP-L-フコースに変換する酵素活性を示す。
【0053】
別の実施形態では、RASGRPファミリーのメンバーは、結合GDPのGTPでの交換を通じてRasを活性化する。加えてまたはあるいは、タンパク質は、Erk/MAPキナーゼカスケードを活性化する。
【0054】
好ましい実施形態では、GDP-L-フコースシンターゼタンパク質は、
a)配列番号1に記載されているアミノ酸配列を有するか、または
b)配列番号1に記載されているアミノ酸配列と少なくとも85%、好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%同一のアミノ酸配列を有するか、または
c)配列番号1に記載されているアミノ酸配列と少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%相同のアミノ酸配列を有するか、または
d)配列番号1に記載されているアミノ酸配列と少なくとも60%、好ましくは少なくとも70%、より好ましくは少なくとも80%、さらにより好ましくは少なくとも90%相同のアミノ酸配列を有し、前記タンパク質またはその断片もしくはスプライスバリアントは自己HLA対立遺伝子に結合し、T細胞により認識され、および/または配列番号1に記載されているアミノ酸配列もしくはその断片に結合するかもしくはそれを認識する抗体により認識されるか、または
e)TSTA3遺伝子により、特にNC_000008.11のヌクレオチド143612618~143618048の遺伝子配列によりコードされるか、またはNC_000008.11のヌクレオチド143612618~143618048の遺伝子配列と少なくとも80%、好ましくは少なくとも90%、さらにより好ましくは少なくとも95%同一の遺伝子によりコードされる。
【0055】
別の好ましい実施形態では、RASGRPタンパク質ファミリーのメンバーは、
f)配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8または配列番号9のいずれかに記載されているアミノ酸配列を有するか、または
g)配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8または配列番号9のいずれかに記載されているアミノ酸配列と少なくとも85%、好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%同一のアミノ酸配列を有するか、または
h)配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8または配列番号9のいずれかに記載されているアミノ酸配列と少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%相同のアミノ酸配列を有するか、または
i)配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8または配列番号9のいずれかに記載されているアミノ酸配列と少なくとも60%、好ましくは少なくとも70%、より好ましくは少なくとも80%、さらにより好ましくは少なくとも90%相同のアミノ酸配列を有し、前記タンパク質またはその断片もしくはスプライスバリアントは自己HLA対立遺伝子に結合し、T細胞により認識され、および/または配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8もしくは配列番号9のいずれかに記載されている各アミノ酸配列もしくはその断片に結合するかもしくはそれを認識する抗体により認識されるか、または
j)RASGRP遺伝子により、特に
-NC_000015.10のヌクレオチド38488101~38565575、
-NC_000011.10のヌクレオチド64726911~64745456、
-NC_000002.12のヌクレオチド33436324~33564750、または
-NC_000019.10のヌクレオチド38409051~38426305
の遺伝子配列によりコードされるか、
または、
-NC_000015.10のヌクレオチド38488101~38565575、
-NC_000011.10のヌクレオチド64726911~64745456、
-NC_000002.12のヌクレオチド33436324~33564750、または
-NC_000019.10のヌクレオチド38409051~38426305
の遺伝子配列と少なくとも80%、好ましくは少なくとも90%、さらにより好ましくは少なくとも95%同一の遺伝子によりコードされる。
【0056】
自己HLA対立遺伝子への結合、T細胞による認識および/または抗体による認識は、タンパク質またはその断片もしくはスプライスバリアントの免疫優性を示し得る。免疫優性はまた、以下に開示されているように試験され得る。
【0057】
特に好ましい実施形態では、GDP-L-フコースシンターゼもしくはRASGRP2タンパク質またはそのスプライスバリアント、好ましくはGDP-L-フコースシンターゼまたはRASGRP2タンパク質が本発明で使用される。GDP-L-フコースシンターゼタンパク質は、例えば、配列番号1に記載されている配列を有し、RASGRP2タンパク質は、例えば、配列番号2、配列番号6、配列番号7、配列番号8または配列番号9に記載されている配列を有する。
【0058】
一実施形態では、断片は、5~50個、好ましくは5~20個、より好ましくは10~15個、さらにより好ましくは15個のアミノ酸を含む。
【0059】
別の実施形態では、断片は
a)各対応するアミノ酸配列と少なくとも85%、好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%同一であるか、または
b)各対応するアミノ酸配列と少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%相同であるか、または
c)各対応するアミノ酸配列と少なくとも60%、好ましくは少なくとも70%、より好ましくは少なくとも80%、さらにより好ましくは少なくとも90%相同であり、自己HLA対立遺伝子に結合し、T細胞により認識され、および/または前記各アミノ酸配列に結合するかもしくはそれを認識する抗体により認識される。
【0060】
「各対応するアミノ酸配列」は、相同断片と同じ長さを有する対応するアミノ酸配列(すなわち、配列番号1)の各断片を指す(上記「対応する部分」の定義も参照のこと)。これらの同一性および/または相同性を有する断片は、5~50個、好ましくは5~20個、より好ましくは10~15個、さらにより好ましくは15個のアミノ酸を含み得る。同一性および/または相同性は、各断片の全長にわたって決定される。換言すれば、「対応するアミノ酸配列」は、未変更の配列を指し、すなわち、配列番号1に記載されている配列の断片が、各対応するアミノ酸と85%同一である場合、断片は、配列番号1から「切除された」、すなわち直接取得またはコピーされた未変更の断片と(断片の全長にわたって)85%同一である。
【0061】
したがって、一実施形態では、タンパク質またはその断片もしくはスプライスバリアントが自己HLA対立遺伝子に結合し、T細胞により認識され、および/または各配列番号に記載されているアミノ酸配列もしくはその断片に結合するかもしくはそれを認識する抗体により認識されるというさらなる要件で、タンパク質(GDP-L-フコースシンターゼまたはRASGRPタンパク質ファミリーのメンバー)は、配列番号に記載されている各示されている配列と特定の相同性(少なくとも60%、好ましくは少なくとも70%、より好ましくは少なくとも80%、さらにより好ましくは少なくとも90%)を有するアミノ酸配列を有する。別の実施形態では、タンパク質またはその断片もしくはスプライスバリアントは自己HLA対立遺伝子に結合し、各配列番号に記載されているアミノ酸配列またはその断片に結合するかまたはそれを認識するT細胞により認識される。
【0062】
自己HLA対立遺伝子への結合、T細胞による認識または抗体による認識を測定および/または予測するためのアッセイは当業者に周知である。HLA対立遺伝子へのペプチドの結合は、例えば、十分に認められているNetMHCII(http://www.cbs.dtu.dk/services/NetMHCII/)またはIEDB(http://www.iedb.org/)インシリコペプチド結合予測アルゴリズムを使用して予測され得る。T細胞認識は、T細胞増殖アッセイにより、例えば取り込まれた放射能を測定することにより測定され得る。抗体へのペプチドおよび/またはタンパク質の結合は、当業者に公知の標準的なアッセイにより、例えばELISAにより測定され得る。自己HLA対立遺伝子への結合、T細胞による認識または抗体による認識は、ペプチドまたはタンパク質の免疫優性を示し得る。免疫優性はまた、以下に開示されているように試験され得る。
【0063】
一実施形態では、断片は、RASGRPファミリーのタンパク質間で少なくとも90%同一または相同である一続きの連続アミノ酸(例えば、20~30アミノ酸)に相当する。
【0064】
好ましい実施形態では、本発明の処置に使用されるペプチドは、GDP-L-フコースシンターゼのまたはRASGRPタンパク質ファミリーのタンパク質の断片であり、配列番号10~98からなる群より選択される配列を含む。特に好ましい実施形態では、ペプチドは、配列番号10~98の1つに示されているアミノ酸配列からなる。配列番号10~35の配列が好ましい。
【0065】
配列番号10~35に従う配列は、疾患関連T細胞により認識され、続いて、GDP-L-フコースシンターゼについてはCSF浸潤バルクT細胞およびRASGRP2についてはPBMCにより認識が検証されるので、免疫優性ペプチドとして同定された(「実施例」を参照のこと)。配列番号36および37に従うアミノ酸配列は、RASGRP2とRASGRP3との間で一続きの同一の配列を表す(UniProtKB/Swiss-Prot Q7LDG7-1およびUniProtKB/Swiss-Prot Q8IV61のアライメント)。配列番号38~98に従うアミノ酸は、MS患者由来の記憶T細胞の反応を生じさせたペプチドプールに含まれる(実施例の9および
図10を参照のこと)。CSF浸潤CD4
+T細胞を用いたさらなる分析では、配列番号12、21、23、28および32(GDP-L-フコースシンターゼ)および配列番号46(RASGRP2)を有する配列を検証した(「実施例」の13ならびに
図14および15を参照のこと)。
【0066】
配列番号1~98の配列はまた、以下の表1に列挙されている:
【表1-1】
【表1-2】
【表1-3】
【表1-4】
【表1-5】
【表1-6】
【表1-7】
【表1-8】
【表1-9】
【表1-10】
【表1-11】
【表1-12】
【表1-13】
【表1-14】
【表1-15】
【表1-16】
【表1-17】
【表1-18】
【表1-19】
【表1-20】
【表1-21】
【0067】
以下の遺伝子配列(表2)は、タンパク質GDP-Lフコースシンターゼ(遺伝子:TSTA3)、RASGRP1、RASGRP2、RASGRP3およびRASGRP4の遺伝子配列を表す(表2)。タンパク質またはその誘導体もしくはスプライスバリアントは、好ましくは、各遺伝子によりコードされる。
【0068】
【0069】
以下のヌクレオチド配列(表3)は、本発明のタンパク質またはその断片、誘導体もしくはスプライスバリアントのいずれかをコードする好ましいヌクレオチド配列を表す。表はまた、多発性硬化症(MS)の処置、診断および/または予防においても使用され得るコード配列(CDS)、すなわちタンパク質またはペプチドを含む。
【0070】
【表3-1】
【表3-2】
【表3-3】
【表3-4】
【0071】
2018年6月22日に、各オンラインデータベースからすべての配列を取り出した。
【0072】
一実施形態では、本発明のタンパク質、断片、誘導体またはスプライスバリアントは、MS、好ましくは初期MSにおける自己抗原への寛容化に適切なヒト被験体を同定するために使用され得る。MS、好ましくは初期MSにおける自己抗原への寛容化に適切なヒト被験体の同定は、好ましくは、ヒト被験体における自己抗原へのT細胞および/または抗体の陽性反応性を測定することを含む。それにより、ヒト被験体はまた、MSであるとインビトロ診断され得る。換言すれば、同定された自己抗原はまた、MSのインビトロ診断において使用され得る。
【0073】
MSのインビトロ診断は、好ましくは、以下:被験体の血液、CSFまたは他の体液からT細胞、好ましくはCD4+T細胞および/または抗体を単離するステップ、ならびに本発明のタンパク質またはその断片、誘導体もしくはスプライスバリアントに対するT細胞および/または抗体の反応性を測定するステップを含む。当業者は、被験体の血液、CSFまたは他の体液からT細胞および/または抗体を単離し、タンパク質、断片、誘導体またはスプライスバリアントに対するT細胞および/または抗体の反応性を測定するための方法を把握している。試験タンパク質またはその断片、誘導体もしくはスプライスバリアントへのT細胞、好ましくはCD4+T細胞および/または抗体の反応性は、被験体がMSを患っていることを示し得る。診断はまた、臨床および画像所見、すなわち現在の技術水準による、特に改訂マクドナルド基準によるMS診断と組み合わせられ得る。
【0074】
別の実施形態では、本発明のタンパク質、断片、誘導体またはスプライスバリアントは、MSサブグループを区別するために使用され得る。特に、本発明のタンパク質、断片、誘導体またはスプライスバリアントは、ヒト被験体におけるパターンII MSを診断するために使用され得る。
【0075】
以下の特徴は、MSとの関連において、タンパク質の特定のペプチドが免疫優性であることを示す:
a)多くの場合には疾患関連HLA対立遺伝子またはハプロタイプとの関連において、T細胞による、すなわちMS患者のおよそ10%またはそれよりも多くによるこのペプチドの頻繁な認識(Sospedra and Martin,2005)、および
b)低濃度のペプチドに反応し(高アビディティT細胞)(Bielekovaら、2004)、したがって特に危険であると考えられ、および/または炎症促進性表現型を有し、および/または標的器官もしくは区画(CNS)から単離されたものなどの疾患関連T細胞、MSの場合には脳、脊髄またはCSF浸潤T細胞によるこのペプチドの認識。
【0076】
しかしながら、ヒト化トランスジェニックマウスモデルでは、低アビディティミエリン特異的T細胞も病原性であることが示されているので(Quandtら、2012)、高アビディティ認識は必要条件ではない。
【0077】
したがって、MSとの関連において、タンパク質またはその断片、誘導体もしくはスプライスバリアントが免疫優性であるかどうかが試験され得る。このような試験は、好ましくはインビトロ試験である。試験タンパク質または断片、誘導体もしくはスプライスバリアントへの、MSと診断されたヒト被験体の血液、CSFまたは他の体液から得られたT細胞および/または抗体、好ましくはCSF浸潤性CD4+T細胞の反応性を測定することを可能にするインビトロ試験が特に適切である。当業者は、T細胞、好ましくはCD4+T細胞および/または抗体の反応性を試験する方法を把握している。例えば、CD4+T細胞の増殖、および/またはそれらのIFN-γ分泌、またはELISPOT/FLUOROSPOTアッセイにおける反応性、またはHLA-ペプチド四量体に対する反応性が試験され得る。試験タンパク質またはその断片、誘導体もしくはスプライスバリアントが、MSと診断されたヒト被験体において反応性を誘導する場合、特にT細胞反応性の場合には2を超える刺激指数(SI)および/または20pg/mlを超えるIFN-γ分泌を誘導する場合、試験タンパク質または断片、誘導体もしくはスプライスバリアントは免疫優性と称され得る。このような試験のために、MSと診断された10人の患者を選択することも可能である。少なくとも2人の患者において反応性が誘導される場合、試験タンパク質または断片、誘導体もしくはスプライスバリアントは免疫優性と称され得る。好ましくは、10人の患者は、確立された改訂マクドナルド基準にしたがってRRMSと診断されている。
【0078】
最近、外因性抗原の非存在下では、MS患者のT細胞は、インビトロ増殖の増加を示すことが実証された(Mohmeら、2013;Jelcicら、2018)。これらの「自己増殖」T細胞は、MS患者の中枢神経系区画にホーミングする細胞について富化されているので、脳/CSF浸潤T細胞の末梢血源と考えられ得る。
【0079】
インビトロにおけるT細胞の試験からのデータが利用可能でない場合、またはこのような試験に加えて、ペプチドの免疫認識はまた、それぞれCD8+およびCD4+T細胞について、個体のHLAクラスIまたはHLAクラスII対立遺伝子によく結合するペプチドから予測/推測され得る。ペプチド結合予測は当業者に周知である。それらは、十分に確立された予測アルゴリズム(NetMHCII-www.cbs.dtu.dk/services/NetMHCII/;IEDB-www.iedb.org/)およびHLA結合モチーフの分析(SYFPEITHI-www.syfpeithi.de/)により実施され得る。「実施例」の11を参照のこと。
【0080】
本発明によれば、タンパク質GDP-L-フコースシンターゼおよびRASGRPタンパク質ファミリーのメンバー、特にRASGRP2は、MSにおいて免疫優性であると同定されたので、それらは自己抗原として同定された。
【0081】
HLA対立遺伝子への結合が特に強いものである必要はない。実際、HLA対立遺伝子に弱く結合するペプチドについても、免疫優性は発生し得る(Muraroら、1997,J Clin Invest;100(2):339-349)。
【0082】
寛容誘導は抗原特異的であり、自己反応性T細胞を非機能的もしくはアネルギー性にするか、または前記標的抗原に対する望ましくない自己免疫を特異的に抑制するTreg細胞を誘導する。標的自己抗原への寛容の誘導は、自己免疫疾患における非常に重要な治療目標である。それは、副作用をほとんど伴わずに、有効な方法で病原性自己免疫反応を特異的に減弱する機会を提供する。寛容誘導はまた、タンパク質の断片である免疫優性ペプチドに代えてまたはそれに加えて、タンパク質全体を適用することにより達成され得る(Kennedy MKら、1990)。赤血球に結合させた免疫優性ペプチドの静脈内注射により、ヒト患者において、寛容と一致する免疫学的変化が誘導され得ることが本明細書で示された(実施例の14)。したがって、免疫優性ペプチドは寛容誘導に使用され得る。
【0083】
したがって、タンパク質および/または断片の免疫優性は、タンパク質および/またはその断片、誘導体もしくはスプライスバリアントを抗原特異的免疫療法、例えば寛容誘導に使用することを可能にする。
【0084】
本発明によれば、抗原特異的寛容化は、すべての形態のMSで使用され得る:鑑別診断が除外された最初の顕在化の時点では、CSFおよびMRIの所見が診断と一致するという条件で、この疾患はCISと称される。MRIは、MSに典型的な場所、すなわち脳幹または脊髄における皮質近傍、脳室周囲の病変を明らかにする。空間的(1つを超える病変または臨床症状/徴候)および時間的(1つを超える事象)な播種としてまとめられ得る特定の基準が満たされる場合、RRMSの診断がなされ得る。特別な状況は、臨床症状を伴わないMSと適合するMRI病変の偶発的な発見である。これはRISと称され、CISおよびRRMSの前段階と考えられ得る。患者の80%より多くはこれらのうちの1つを患っており、患者の大部分は、その後、SPMSと称されるものを発症する。この時点で、再発/悪化は低頻度であるかまたは完全に停止し、再発の間にまたはこれらを伴わずに神経学的障害は着実に増加する。
【0085】
特別な形態のMSは、再発を示さないが神経学的症状、例えば歩行能力の着実な悪化で始まるPPMSである。PPMSは、MS患者のおよそ10%ならびに等頻度で男性および女性に影響を与える。その発症は、通常、CISまたはRRMSよりも遅い。原因および疾患機序に関して、PPMSは、上記RIS-CIS-RRMS-SPMSと同様であると考えられる。
【0086】
典型的には、MSは、改訂マクドナルド基準にしたがって診断される。これらの基準はまた、MSの様々な形態および疾患活動性を区別することを可能にする(Thompsonら、2018,Lancet Neurol,17(2):162-173)。
【0087】
好ましくは、寛容化アプローチは、初期段階、すなわちRIS、CISおよび初期RRMSで適用されるが、これは、この段階の免疫プロセスが自己反応性Tリンパ球により主に媒介され、疾患が進行すると、組織損傷(いわゆる変性変化)が徐々に重要になるためである。しかしながら、寛容化に使用される抗原に対する自己反応性T細胞反応がある限り(これは、SPMSおよびPPMS中にもあり得る)、寛容化は有意義である。
【0088】
特に好ましい実施形態では、GDP-L-フコースシンターゼもしくはRASGRP2タンパク質またはそのスプライスバリアント、好ましくはGDP-L-フコースシンターゼまたはRASGRP2タンパク質は、初期段階、すなわちRIS、CISおよび初期RRMSの寛容化アプローチにおいて使用される。GDP-L-フコースシンターゼタンパク質は、例えば、配列番号1に記載されている配列を有し、RASGRP2タンパク質は、例えば、配列番号2、配列番号6、配列番号7、配列番号8または配列番号9に記載されている配列を有する。
【0089】
本発明の一態様では、MSを患っているかまたはそれを発症するリスクがあるヒト被験体において自己抗原への抗原特異的寛容を誘導するための方法が提供される。前記方法は、それを必要とする患者に、すなわちヒト被験体に、GDP-L-フコースシンターゼおよびRASGRPタンパク質ファミリーのメンバーからなる群より選択される少なくとも1つのタンパク質、その断片(ペプチド)、誘導体および/またはスプライスバリアント、本明細書に記載されるタンパク質またはその断片、誘導体もしくはスプライスバリアントおよび/または遺伝子配列のいずれかをコードするヌクレオチド配列を適用するステップ、あるいは本明細書に記載される少なくとも1つのタンパク質、断片、誘導体、スプライスバリアント、ヌクレオチド配列および/または遺伝子配列を含む少なくとも1つの担体を適用するステップを含む。
【0090】
一実施形態では、ヌクレオチド配列または遺伝子配列は、担体、例えば細胞を介して患者に適用される。次いで、抗原は、担体、例えば細胞により発現され得る。自己抗原コードRNA/DNAを担体、例えば細胞に移入して上記自己抗原をコードすることもまた、抗原コードRNAを用いる腫瘍ワクチン接種アプローチと同様、考えられる。
【0091】
GDP-L-フコースシンターゼのタンパク質全体(配列番号1)またはRASGRP2のタンパク質全体(配列番号2または配列番号6、7、8もしくは9)を抗原特異的寛容の誘導に使用することが特に好ましい。別の好ましい実施形態では、これらのタンパク質のいずれかの断片が使用される。配列番号10~98のいずれかに記載されている断片を使用することが特に好ましい。配列番号10~35のいずれかに記載されているペプチドがさらにより好ましい。
【0092】
少なくとも1つのタンパク質、断片、誘導体、スプライスバリアント、ヌクレオチド配列および/または遺伝子配列は、経鼻、吸入、経口、皮下(s.c.)、体腔内(i.c)、筋肉内(i.m.)、皮内(i.d.)、経皮(t.d.)もしくは静脈内(i.v.)投与により、好ましくは寛容原性と考えられる投与経路により、例えば静脈内、皮下、皮内、経皮、経口、吸入、経鼻により適用され得るか、または寛容原性担体、好ましくはRBCに結合させ得る。
【0093】
特に、前記方法は、初期MSまたはさらには疾患の前臨床段階において自己抗原への抗原特異的寛容を誘導するために使用され得る。
【0094】
本明細書で提供される抗原特異的寛容プロトコールは、疾患を長期化させる複数の潜在的な脳炎誘発性エピトープに特異的な活性化およびナイーブ自己反応性T細胞の両方を選択的に標的とし得る。
【0095】
寛容化アプローチはまた、MSを予防するために使用され得る。このアプローチは、MSを発症する高いリスクがある個体(例えば、MS患者を有する家族において)を同定することを含み得る。例えば、MSを有する母親の子供またはMSを有する患者の一卵性双生児(これらの者では、MSを発症するリスクが特に高いであろう)を寛容化することが可能である。
【0096】
MSまたはその形態の1つの診断は、空間的および時間的に播種するMSと適合する神経学的欠損および/またはMRI病変を実証することにより行われる。新規標的タンパク質GDP-L-フコースシンターゼおよびRASGRPファミリーならびに/またはその断片、誘導体および/もしくはスプライスバリアントに対する自己免疫反応についての陽性の検査室試験は、特に抗原特異的寛容誘導から利益を得る可能性がある患者を同定する(すなわち、抗原特異的寛容アプローチを個別化することを可能にする)ために使用され得る。特に抗原特異的寛容誘導から利益を得る可能性がある患者を同定することにより、患者はMSであるとインビトロ診断され得る。換言すれば、同定された自己抗原GDP-L-フコースシンターゼおよびRASGRPファミリー(特に、RASGRP2)ならびに/またはその断片および/もしくは誘導体および/もしくはスプライスバリアントは、MSのインビトロ診断において使用され得る。したがって、このインビトロ試験は、臨床および画像所見、すなわち現在の技術水準による、特に改訂マクドナルド基準によるMS診断を用いて補完され得る。
【0097】
本発明の別の態様では、MS、好ましくは初期MSにおける自己抗原への寛容化に適切なヒト被験体を同定するための方法が提供される。それにより、処置から利益を受けるかまたはそれに適格な個々の患者が同定される。この方法はまた、MSをインビトロ診断するために使用され得る。CIS、おそらくさらにはRISおよびRRMSを有する患者は寛容化に最も適するが、患者が、寛容化処置に含まれる抗原ペプチドの少なくとも1つに反応する限り、寛容化は、SPMSおよびPPMSを含むすべての形態のMSにおいて有意義であるようである。この方法のステップは、被験体の血液、CSFまたは他の体液からT細胞、好ましくはCD4+T細胞および/または抗体を単離すること、ならびに本発明のタンパク質またはその断片、誘導体もしくはスプライスバリアントに対するT細胞および/または抗体の反応性を測定することを含む。当業者は、被験体の血液、CSFまたは他の体液からT細胞および/または抗体を単離し、タンパク質、断片、誘導体またはスプライスバリアントに対するT細胞および/または抗体の反応性を測定するための方法を把握している。
【0098】
個体がタンパク質または断片の1つに対する反応を有する場合、それにより、彼/彼女はMSとインビトロ診断され得、処置に適格であり、その良い候補であろう。さらなる選択ステップは、HLAクラスIIタイピングおよびMS関連HLA-DR対立遺伝子の存在であり得る。
【0099】
したがって、タンパク質、特にGDP-L-フコースシンターゼタンパク質(GDP-L-fucoase synthase protein)もしくはRASGRPファミリーのタンパク質、特にRASGRP2または疾患関連抗原由来のその断片、誘導体もしくはスプライスバリアントは、各自己抗原に対する既存のおよび/または特に強い炎症促進性(潜在的に有害な)T細胞または抗体反応を有する患者または患者サブグループを同定するために使用され得る。したがって、各自己抗原に対する既存のおよび/または特に強い炎症促進性(潜在的に有害な)T細胞または抗体反応を有する患者または患者サブグループを同定することにより、患者は、MSとインビトロ診断され得る。この状況では、自己抗原に対する反応性を評価するための適切な試験を用いた患者の事前試験もまた、可能な限り特異的に寛容化し、さらには潜在的な有害効果を回避することを目的として、個々の患者または患者サブグループへの寛容化処置(例えば、寛容化に使用されるペプチド/タンパク質の組成)を調整することを可能にするであろう。しかしながら、抗原特異的寛容化もまた、寛容化抗原に対するT細胞反応が示されていない患者において実施され得る。したがって、一実施形態では、本発明のタンパク質、断片、誘導体および/またはスプライスバリアントは、MSと診断されたヒト被験体またはMSを発症するリスクがあるヒト被験体のインビトロ事前試験において使用され得る。
【0100】
本発明の一態様では、少なくとも1つの本明細書に記載されるタンパク質、断片、誘導体、スプライスバリアント、ヌクレオチド配列および/または遺伝子配列を含む担体が提供される。担体を、少なくとも1つのタンパク質、断片、誘導体および/もしくはスプライスバリアントに結合させ得、ならびに/または担体は、少なくとも1つのタンパク質、断片、誘導体、スプライスバリアント、ヌクレオチド配列および/もしくは遺伝子配列を含有し得る。一実施形態では、「含有する」という用語は、タンパク質、断片、誘導体、スプライスバリアント、ヌクレオチド配列および/または遺伝子配列が担体の表面ではなく内部にあることを意味する。タンパク質、断片、誘導体および/またはスプライスバリアントもまた担体に結合させ得、担体内に含ませ得るが、これは、タンパク質、断片、誘導体および/またはスプライスバリアントのある部分を担体に結合させ、タンパク質、断片、誘導体および/またはスプライスバリアントの別の部分を担体内に含ませることを意味する。
【0101】
当業者は、可能な担体を熟知している。例えば、担体は、任意の細胞、タンパク質、脂質、糖脂質、ビーズ、ナノ粒子、ウイルス様粒子(VLP)または分子、例えば糖分子、またはヒトにおける適用に適切なそれらの任意の組み合わせであり得、これらに、タンパク質および/または断片を、カップリングプロセスにより、例えば化学的カップリングプロセスにより、好ましくはEDCにより結合させ得る。担体は、天然に存在するものに由来し得るか、または合成のものであり得る。好ましくは、細胞、分子、ビーズ、ナノ粒子またはVLPはインビボ生分解性であるか、または生存個体に少なくとも適用可能であり、インビボで分解されるか、または担体が適用される身体から排除される。細胞という用語はまた、細胞前駆体、例えばRBC前駆体を含む。好ましくは、担体は、血液細胞、さらにより好ましくは赤血球または白血球である。白血球は、脾細胞またはPBMCまたは一般にはAPCであり得る。
【0102】
一実施形態では、タンパク質、断片、誘導体および/またはスプライスバリアントは、細胞、好ましくは血液細胞により発現される。それにより、タンパク質、断片、誘導体および/またはスプライスバリアントをコードする遺伝情報は、タンパク質、断片、誘導体および/またはスプライスバリアントが細胞により発現される前に細胞に導入される。
【0103】
タンパク質および/またはその断片を担体にカップリングするための任意のカップリング剤または方法が使用され得る。例えば、合成または天然リンカーがカップリングに用いられ得る。このようなリンカーの一例は、RBCの表面上に存在するグリコホリンAである。一実施形態では、化学架橋が実施される。好ましい実施形態では、遊離アミノおよびカルボキシル基の間のペプチド結合の形成を触媒する化学架橋剤EDCが使用される。特に、EDCの存在下では、複数のペプチドを担体の表面に結合させることができ、それにより、複数のT細胞特異性の同時ターゲティングが可能になる。好ましくは、3個を超える、5個を超える、10個を超える、15個を超えるまたはさらには20個を超える異なるペプチドを担体の表面に結合させる。好ましい実施形態では、5~20個、好ましくは5~15個の異なるペプチドが使用される。ペプチドが同じアミノ酸配列で構成されていない場合、それは別のペプチドとは異なるものである。担体は、好ましくは細胞であるが、必ずしもそうではない。遊離アミノ基が存在する限り、EDCは、任意の担体へのカップリングに使用され得る。
【0104】
別の実施形態では、本発明の各タンパク質(GDP-L-フコースシンターゼタンパク質またはRASGRPタンパク質ファミリーのタンパク質、好ましくはRASGRP2)の少なくとも1つのペプチドを組み合わされて使用し、担体に結合させる。本発明の各タンパク質の少なくとも1つのペプチドを現在の技術水準の少なくとも1つの公知のペプチド、特に少なくとも1つのミエリンペプチド、特に配列番号261~267により定義されるミエリンペプチドの少なくとも1つまたは全部と組み合わせることが特に有利である。
【0105】
好ましい一実施形態では、担体は血液細胞であり、血液細胞を、カップリング剤により、好ましくはEDCにより、少なくとも1つのタンパク質、断片、誘導体および/またはスプライスバリアントに化学的に結合させる。このような化学的に結合させた、すなわち抗原に結合させた血液細胞を製造する方法であって、ヒト被験体から血液細胞を単離すること、少なくとも1つのタンパク質、断片、誘導体および/またはスプライスバリアント、すなわち抗原を添加すること、ならびに続いてカップリング剤、好ましくはEDCを添加することを含む方法も提供される。
【0106】
EDCによりペプチドを結合させた細胞の作用機序は完全には理解されていないが、ペプチドおよび細胞表面分子のアミノおよびカルボキシ基の共有結合的連結、続いて、ペプチドを結合させた、すなわち抗原を結合させた細胞のプログラム細胞死(有核細胞の場合にはアポトーシス;RBCの場合にはエリプトーシス)、次いで、インビボにおける死にかけている細胞の寛容原性提示を伴う。
【0107】
カップリング反応に使用されるEDCの用量は、最高の有効性で最大の安全性を得るために用量設定され得る。高濃度では、EDCは、細胞、特にRBCの溶解をもたらし得る。RBCの最適な安定性のために、15mg/ml未満、好ましくは10mg/ml未満、さらにより好ましくは5mg/ml未満、さらにより好ましくは約3mg/mlのEDCの最終濃度が使用され得る。また、最適な用量は変動し得る。当業者は、RBCの最適な安定性およびEDCの最適な用量を決定する方法を認識している。
【0108】
結合させるべきタンパク質、断片、誘導体および/またはスプライスバリアントは、当業者により容易に決定される量で添加され得る。当業者は、最適量のEDCとの相互作用において最適量を決定するための手段を把握している。
【0109】
インキュベーション時間は変動し得、特定の各カップリング反応のために調整され得る(例えば、15分間、30分間、45分間、60分間、120分間)。インキュベーション時間が長いほど、カップリング効率が良好であり得る。一実施形態では、60分後に最大値に達する。
【0110】
インキュベーション温度も変動し得る。例えば、15~25℃または2~8℃が使用され得る。一実施形態では、カップリング反応を15~25℃で実施した場合、カップリング効率はより高かった。
【0111】
カップリング反応を可能にする任意の賦形剤が使用され得る。一実施形態では、賦形剤は、滅菌かつエンドトキシンフリーのものである。好ましい実施形態では、賦形剤は、滅菌エンドトキシンフリー生理食塩水(NaCl 0.9%)である。生理食塩水はヒトにおける使用について承認されており、最大限の安全性を提供する。
【0112】
当業者は、最適なインキュベーション時間および温度を決定する方法、ならびに可能な賦形剤を決定する方法を認識している。
【0113】
本発明の一態様では、本明細書に記載される少なくとも1つのタンパク質、断片、誘導体、スプライスバリアント、ヌクレオチド配列および/または遺伝子配列と、薬学的に許容され得る担体とを含む医薬組成物が提供される。
【0114】
本発明の別の態様では、ヒト被験体におけるMSの治療的処置、予防または診断のための方法であって、前記被験体に、治療有効量の本明細書に記載されるタンパク質、断片、誘導体、スプライスバリアント、ヌクレオチド配列および/もしくは遺伝子配列ならびに/または本明細書に記載される担体を投与することを含む方法が提供される。したがって、少なくとも1つの本発明のタンパク質、断片、誘導体、スプライスバリアント、ヌクレオチド配列および/または遺伝子配列を含む担体、特に、少なくとも1つの本発明のタンパク質、断片、誘導体および/またはスプライスバリアントに結合させた担体、ならびに/または少なくとも1つの本発明のタンパク質、断片、誘導体、スプライスバリアント、ヌクレオチド配列および/または遺伝子配列を含む担体は、MSの処置、診断および/または予防において使用され得る。
【0115】
本発明のさらなる態様では、本発明のペプチド、好ましくは、5~50個、好ましくは5~20個、より好ましくは10~15個、さらにより好ましくは15個のアミノ酸を含むペプチドは、医薬として使用される。
【0116】
医薬として使用するための好ましいペプチドは
a)各対応するアミノ酸配列と少なくとも85%、好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%同一であるか、または
b)各対応するアミノ酸配列と少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%相同であるか、または
c)各対応するアミノ酸配列と少なくとも60%、好ましくは少なくとも70%、より好ましくは少なくとも80%、さらにより好ましくは少なくとも90%相同であり、自己HLA対立遺伝子に結合し、T細胞により認識され、および/または各アミノ酸配列に結合するかもしくはそれを認識する抗体により認識される。
【0117】
配列番号10~98、好ましくは配列番号10~35を含む群より選択される配列を有するペプチド、さらにより好ましくは、配列番号10~98、好ましくは配列番号10~35を含む群より選択される配列からなるペプチドは、医薬として使用するためにさらに好ましい。
【0118】
さらなる態様として、
図3(ii)Eのペプチドモチーフ(配列番号99)、
図5に示されているGDP-L-フコースシンターゼペプチド(配列番号199~215)、
図6の表(IおよびII)のGDP-L-フコースシンターゼペプチド(配列番号10~14、19~20、22~23、25~32および216~290)、ならびに
図12の表のRASGRP1、RASGRP2およびRASGRP3ペプチド(配列番号291~309)はすべて本発明の主題であり、本発明にしたがって使用され得る。
【実施例0119】
GDP-L-フコースシンターゼ特異性
1.TCC21.1の特性評価
位置スキャン合成コンビナトリアルライブラリー(ps-SCL)を使用した偏りのない標的抗原同定アプローチは、
図2に概略的に示されている。Planasら、(2015)に記載されているように、クローンTCC21.1を同定した。TCC21.1は、CSF浸潤細胞から単離されたCD4+TCCであり、パターンII脱髄を有するSPMS患者(1154SA)由来の2つの活動性白質脱髄MS病変(LIおよびLIII)においてクローン性に拡大する。TCC21.1はTh2サイトカインを放出し、非特異的活性化により自己B細胞による増殖および抗体産生を支援する。デカペプチド位置スキャンライブラリーを使用して、特異性不明のこのTCCにより認識されるペプチドを研究するために、最初に、TCC21.1がペプチド混合物の認識に使用するHLAクラスII分子を同定した。これは、ペプチドライブラリー/バイオメトリック分析アプローチを標的抗原の偏りのない同定に使用するための必要条件である(Zhaoら、2001,J Immunol,167:2130-2141;Sospedraら、2010,J Immunol Methods,353(1-2):93-101)。患者1154SAは、DR15ハプロタイプについてホモ接合性であったので、異なる単一自己HLA DR/DQ分子(DRA
*01:01/DRB5
*01:01=DR2a、DRA
*01:01/DRB1
*15:01=DR2bおよびDQA1
*01:02/DQB1
*06:02)をトランスフェクトしたEBV不死化不全リンパ球症候群(BLS)B細胞株(BCL)細胞により提示された位置5で定義されるアミノ酸(AA)との混合物を用いて、TCC21.1を最初に試験した。抗CD3およびPMAによる非特異的刺激後に、TCC21.1はこのサイトカインを放出するので(Planasら、2015)、T細胞活性化のリードアウトとしてGM-CSF産生を使用した。DRB1
*15:01(DR2b)クラスII分子を発現するBCLにより提示された混合物のみが刺激性であった(データは示さず)。
【0120】
2.抗原を同定するための方法としての位置スキャン合成コンビナトリアルライブラリー/GDP-L-フコースシンターゼの同定
次いで、DRB1
*15:01クラスII分子を発現するBCLにより提示された完全デカペプチド位置スキャンライブラリー(200個の混合物;すなわち、10-merの10個の位置と、各固定位置において20個のL-アミノ酸の1個とを表す混合物)を用いて、TCC21.1を試験した。完全ライブラリーに反応したGM-CSF放出は
図3Aに示されている。IL-10放出を用いて、同様の反応パターンが得られた。次に、以前に記載されているように(Zhaoら、2001)、デカペプチドライブラリーの10個の各位置の20個の規定の各AAの刺激電位に数値を割り当てることにより、バイオメトリック分析スコア化マトリックスを生成した。ここでは、混合物の存在下における3回の独立した実験のメジアンGM-CSF(pg/ml)分泌から、混合物の非存在下における該分泌を差し引いたものの10を底とする対数として、その値を計算した(
図3B)。ペプチド抗原認識への個々のAAの独立した寄与のモデルに基づいて、所定のペプチドの予測刺激スコアは、各位置のペプチドに含まれる各AAのマトリックス値の合計である(Zhaoら、2001)。このスコア化アプローチを適用して、刺激効力を予測する刺激スコアにしたがって、UniProtヒトタンパク質データベース内のタンパク質配列のすべての自然に重複する10-merペプチドをランク付けした。これらの予測値に基づいて、最高スコアを有する50個の予測ヒト天然ペプチドを合成し、5μg/mlで試験した(
図4)。予想外のことに、どのペプチドも明らかに刺激性ではなかった(
図3C)。位置スキャンライブラリーおよびバイオメトリック分析を組み合わせた上記アプローチの予測能力は、このTCCの場合には、以前の研究における他のTCCよりも低かった。
図3Bに示されている最も刺激性の混合物は、連続位置に同一の規定のAAを有するが、これは、複数のフレームで1つのAAモチーフが認識される可能性を示唆している。
図2に概説されているアプローチを使用してデータを分析することができるために、22個の二重定義混合物(すなわち、2つの規定の位置を有する位置スキャン混合物)のセットを設計、合成および試験した(
図3D);結果は、異なる隣接残基を有するユニークな認識モチーフ(LHSXFEV、配列番号99)の存在を確認した(
図3E)。2つのフレーム中のこの認識モチーフを元のGM-CSF由来マトリックスに適用し、バイオメトリック分析を実施するために、調和平均モデル(HM)を使用して、いくつかの二重定義混合物(
図3D、フレーム1/2-HM混合物)の刺激反応を元のマトリックスに統合した。新たな「ハーモニックブースト」フレーム1およびフレーム2マトリックスを使用して、UniProtヒトタンパク質データベース由来のすべての自然に重複する10-merペプチドをスコア化し、
図2に概略的に示されているようにランク付けした。両マトリックスで最高スコアを有する50個の予測天然ペプチドを合成し、GM-CSF放出について試験した(
図4)。これら2つのマトリックスは、3つの明らかに刺激性のペプチドの同定を可能にした(
図3F)。ハーモニックブーストフレーム1を用いて予測されたNVLHSAFEVG(配列番号16)、およびハーモニックブーストフレーム2を用いて予測されたDNVLHSAFEV(配列番号15)の2つの最も刺激性のペプチドは、TSTA3遺伝子によりコードされるGDP-L-フコースシンターゼに属し、9AA重複する。
【0121】
詳細には、
図3は以下を示す:A.DRB1
*15:01のみを発現するBLS細胞により提示された完全デカペプチド位置スキャンライブラリー(200個の混合物)に反応したTCC21.1によるGM-CSF産生。B.3回の独立した実験のGM-CSF産生のlog10中央値を用いて設計したスコアマトリックス。太字境界線は、二重定義混合物のために選択した混合物を示す。C.GM-CSFベースのスコア化マトリックスを使用して予測した最高スコアを有する50個のペプチドに反応したTCC21.1によるGM-CSF産生。D.22個の二重定義混合物に反応したTCC21.1によるGM-CSF産生。フレーム1では、TCRモチーフの規定のAAを有する混合物は灰色であり、フレーム2では黒色である。調和平均モデルを使用して、太字の混合物(フレーム1/2-HM)の刺激反応を元のマトリックスに統合した。E.調和平均モデルに基づいて選択して元のマトリックスに組み込んだTCRモチーフおよび二重定義混合物活性値。フレーム1-HMは灰色であり、フレーム2-HMは黒色である。F.ハーモニックブーストフレーム1および2スコアマトリックスを使用して予測したより高いスコアを有する50個のペプチドに反応したTCC21.1によるGM-CSF産生。完全デカペプチドライブラリー、二重定義混合物および個々のデカペプチドは、DRB1
*15:01を発現するBLS細胞により提示された。混合物を200μg/mlで試験し、個々のデカペプチドを5μg/mlで試験した。ヒストグラムは、3回の独立した実験の平均±標準誤差平均(mean ± standard error mean)(SEM)およびドットプロット平均を示す。
放出されたサイトカインは常に、刺激に反応したTCC21.1により放出されたpg/mlから刺激の非存在下で放出されたpg/ml(陰性対照)を引いたものとして表されている。
【0122】
図4は、バイオメトリックアプローチを用いて予測したヒトデカペプチドの要約を示し、これらを合成し、次いで、GM-CSF放出に基づいて5mg/mlにおける刺激能力について試験した。ペプチドは、それぞれHMブーストフレーム1および2について1~50にランク付けされている。
【0123】
3.脳組織におけるGDP-L-フコースシンターゼの発現を実証するRNASeq/トランスクリプトームおよびプロテオームデータ
自己脳LIおよびLIIIにおけるGDP-L-フコースシンターゼの「リード/キロベースのエクソンモデル/100万個のマッピングされたリード」(RPKM)として表される転写レベルは
図5に示されている。他の脳特異的遺伝子の転写物値もまた、サンプルの品質対照として、ならびに高い(MBP、PLP1)および中等度の(ミエリン関連糖タンパク質(MAG)、ミエリン関連オリゴデンドロサイト塩基性タンパク質(MOBP)およびオリゴデンドロサイトミエリン糖タンパク質(OMG))レベルで発現される遺伝子の参照として示されている。
【0124】
プロテオミクス分析により、他のMS患者および非MS対照由来の白質および灰白質脳組織において、17個のGDP-L-フコースシンターゼペプチドが同定された。ペプチド配列、および異なるサンプルにおけるペプチドスペクトルマッチ(PSM)は
図5に掲載されている。同定されたペプチドによりカバーされるGDP-L-フコースシンターゼAA配列のパーセンテージは56%であった。位置は、UniProtKB/Swiss-Prot:Q13630.1の配列を指す。参照として他の脳特異的タンパク質の分析も含まれる(
図5)。
【0125】
要約すると、GDP-L-フコースシンターゼは、脳において発現されることが示されている(RNAおよびタンパク質)。
【0126】
4.脳浸潤TCCの主な自己抗原としてのGDP-L-フコースシンターゼ
TCC21.1がクローン性に拡大することが公知の2つの自己脳病変(LIおよびIII(Planasら、2015))においてTCC21.1により認識される自己抗原を同定するために、次いで、ハーモニックブーストフレーム1およびフレーム2マトリックスを使用して、刺激スコアにしたがって、これら2つの病変からのRNASeqベースのトランスクリプトームデータ(GSE60943)を用いて作成した脳-タンパク質サブデータベース内のタンパク質配列中のすべての自然に重複する10-merペプチドをスコア化およびランク付けした。フレーム1マトリックスについて最高スコアを有する40個の予測天然脳ペプチドのうち、38個のペプチドは、偏りのないUniProtヒトデータベースから既に予測されていた。フレーム2マトリックスについては、上位40個のペプチドは以前に予測されていた(
図4)。フレーム1の2つの新たなペプチドを合成および試験した。NVLHSAFEVG(GDP-L-フコースシンターゼ96~105、配列番号16)およびDNVLHSAFEV(95~104、配列番号15)は、TCC21.1を刺激することが見出された(
図4)。
【0127】
5.GDP-L-フコースシンターゼ認識の特性評価/反応の特性評価
上述のように、TCC21.1により認識される2つのGDP-L-フコースシンターゼペプチドは9AA重複する。DRB1*15:01発現BCL細胞上において、9AA重複する9個のさらなる10-merペプチドを合成および試験し、GM-CSF放出を誘導するさらなるペプチドVLHSAFEVGA(97~106、配列番号18)を同定した。ペプチドNVLHSAFEVG(96~105、配列番号16)は、0.2μg/mlのEC50で最適な反応を示し、DRB1*15:01およびDQB1*06:02分子により提示された。3つの刺激性ペプチドの共通AAはVLHSAFEV(97~104)である(データは示さず)。
【0128】
次に、自己照射PBMCおよびBCLにより提示されたGDP-L-フコースシンターゼペプチドへのTCC21.1の反応を特性評価した。2つのタイプのAPCにより提示されたGDP-L-フコースシンターゼペプチドは、増殖を誘導することができた。この反応の機能的表現型も分析した。TCC21.1はTh2表現型を示し、主にTh2サイトカインを放出し、IL-22およびIL-10のレベルを低下させた。予想外のことに、ペプチドが自己BCLにより提示された場合、それらは、より高いレベルのIFNγを誘導した。加えて、TCC21.1はまた、GDP-L-フコースシンターゼペプチドに反応してGM-CSFおよびIL-3を放出した。これら2つのサイトカインの放出は、異なる状態を有する患者から生成された他のTh1、Th1*またはTh1/2TCCと比較して、このTCCの特異的特徴であると思われる。細胞内サイトカイン染色は、GDP-L-フコースシンターゼ(96~105、配列番号16)に反応したTCC21.1のTh2機能的表現型を確認した。GDP-L-フコースシンターゼ(96~105、配列番号16)による刺激後、TCC21.1細胞の60%より多くがIL-4+であり、約12%のみがIFNγ+であった。細胞の約60%はGM-CSF+であり、これらの47.7%もIL-4+であった。TCC21.1のさらなる特性評価は、CD28およびケモカイン受容体CRTh2の発現を実証した(データは示さず)。
【0129】
6.患者1154SA由来のCSF浸潤CD4+T細胞によるGDP-L-フコースシンターゼの認識
10AA重複し、GDP-L-フコースシンターゼタンパク質全体をカバーする62個の15-merペプチド(
図6)を合成し、自己PBMCにより提示された場合のTCC21.1増殖を誘導する能力について試験した。7つの免疫優性/脳炎誘発性ミエリンペプチド(Bielekovaら、2004)、CEF(サイトメガロウイルス、EBV、インフルエンザウイルスおよび破傷風トキソイド)ペプチドプールおよび対照ビーズを並行して試験した(
図6)。TCC21.1は、先に同定された3つの刺激性デカペプチド(95~104(配列番号15)、96~105(配列番号16)および97~106(配列番号18))を含有する2つの重複GDP-L-フコースシンターゼペプチド91~105(配列番号14)および96~110(配列番号17)を認識した。
【0130】
7.CIS/MS患者由来のCSF浸潤CD4+T細胞によるGDP-L-フコースシンターゼの認識
GDP-L-フコースシンターゼの特異的認識が、異なる形態のMS(大部分はCISおよびRRMS)を有する患者におけるCSF浸潤CD4+T細胞において起こるかを調べるために、新たなプロトコールを開発して、新鮮CSF浸潤CD4+細胞を単一ラウンドで多数に拡大させて、元のT細胞レパートリーの変動を最小化した。自己照射PBMCにより提示された62個の重複GDP-L-フコースシンターゼペプチドを用いて、ならびに7つのミエリンペプチド、CEFペプチドプールおよび対照ビーズを用いて、31人のCIS/MS患者由来の、休止したPHAにより拡大したCSF浸潤CD4+T細胞(CNS区画にも由来するT細胞)を4回反復で試験した。すべての刺激指数(SI;対照ビーズを除く)をプールし、1未満のSI値を、単位値を有するとして処理した。クラスタk-平均分析を実施して、この患者集団における反応性SI値と非反応性とを区別するための最適なカットオフを決定した。k-平均クラスタ化は、正の反応と負の反応とを区別するための1.455のカットオフ値をもたらした。続いて、各患者について、1.455を超える(4連ウェルの)中央値SIを有するすべてのペプチドを陽性反応として同定した。
【0131】
次に、各反応性ペプチドの中央値SIの合計を計算し、そのペプチドに反応した総患者数で重み付けすることにより、患者のスコアを構築した。このようにして、各ペプチドのSI値自体と、各ペプチドの相対的な免疫原性との両方を考慮に入れて、特定の抗原に対する免疫反応の頻度および強度を評価した。基本となる10人の患者のスコアに対して3クラスタk-平均分析を実施したところ、患者は、3つのカテゴリ:「非反応者」、「中等度反応者」および「高反応者」に明確にグループ化された。したがって、19人の患者(61.3%)は、GDP-L-フコースシンターゼに対して非反応者として特性評価され、6人(19.35%)は中等度として特性評価され、6人(19.35%)は高反応者として特性評価された(データは示さず)。CEF反応について、または陽性もしくは陰性対照について、3つのグループ間で有意差は見られなかった。患者の少なくとも10%において陽性反応を誘導することができるペプチドとして、免疫優性ペプチドを定義した。この基準を達成する14個のGDP-L-フコースペプチドが
図7に示されている。いくつかの免疫優性ペプチドへの最も強い反応の機能分析は、主にIFN-γ産生を伴うTh1表現型を明らかにした(データは示さず)。
【0132】
詳細には、
図7は以下を示す:GDP-L-フコースシンターゼペプチドに反応したCSF浸潤CD4+T細胞を有するCIS/MS患者の数。少なくとも3人の患者において陽性であった免疫優性ペプチドは黒色で示されている。黒色四角は高反応者であり、白色四角は中等度反応者の患者である。
【0133】
結論として、MS患者(CIS、RRMS、SPMS)の約20~25%は、異なる免疫優性GDP-L-フコースシンターゼペプチドへの免疫反応を示す;これらのGDP-L-フコースシンターゼ特異的T細胞のほとんどは、Th1表現型(MS患者において最も頻繁な表現型)を有する。7つのミエリンペプチド(ETIMSペプチド)への反応との比較は、これらのペプチドに反応する患者が、GDP-L-フコースシンターゼと比較して有意に少ないことを示している。
【0134】
RASGRP2特異性
8.TCC14の同定、およびTCC14を用いたps-SCLの試験によるRASGRP2の同定
TCC14は、(HLA-DR15についてホモ接合性の)MS患者1から類似のアプローチで同定されたが、しかしながらこの場合、脳ホーミングT細胞について富化された自己増殖(刺激なしの増殖)末梢血T細胞の画分から同定された。患者の脳病変に浸潤する細胞のディープTCRシークエンシングによっても、TCC14は、脳においてクローン性に拡大することが示された。
図1(右側)に概略的に示されているように、TCC14を生成した。自己増殖T細胞の単離は、
図8Aにより詳細に示されている。詳細には、刺激なしで色素カルボキシフルオレセインジアセテートN-スクシンイミジルエステル(CFSE)で標識した後、末梢血単核細胞を複製ウェルに播種する。7日間の培養後、フローサイトメトリーにより増殖(CFSE
dim)および非増殖(CFSE
hi)細胞を同定し、細胞選別により自己増殖T細胞(CFSE
dim)を単離する。MS脳病変とCFSE
dim(自己増殖)集団との間でTCRβV配列を比較する。CFSE
dim集団のTCRβV配列の20%より多くは、MS脳病変においても見出される(
図8B)。
【0135】
次いで、TCC14を拡大し、偏りのないアプローチを使用して、
図2に示されているように試験して、上記位置スキャンコンビナトリアルペプチドライブラリーおよびバイオメトリック分析を使用してTCC14の標的抗原を同定した。200個の位置スキャンライブラリー混合物の全セットを用いて試験されるように、TCC14を十分に拡大した。TCCは、HLA-DR15ホモ接合性MS患者に由来するので、HLAクラスII対立遺伝子(DR2a、DR2bまたはDQw6)を発現するHLA-DR15ハプロタイプをトランスフェクトしたBLS細胞を用いて、TCC14の拘束性を試験した。そのHLAクラスII拘束性(DRB1
*15:01)を決定した後、DRB1
*15:01をトランスフェクトしたBLS細胞を使用して、200個すべてのサンプルに対する反応性を試験し、10個の各位置において単一または複数のアミノ酸(aa)に対する陽性反応を示した。72時間後、TCC反応のリードアウトとして、チミジン取り込みアッセイに基づく増殖(刺激指数=SI;点線SI=2)を使用した(
図9のパネルI)。スコア化マトリックスを使用して、複数回投与を試験した後に、デカペプチドライブラリーの10個の各位置において20個すべてのL-aaに対するTCC14の反応性を要約し、バイオメトリック分析プロセス(Zhaoら、2001)を使用して、TCC14により認識されるペプチド(
図9のパネルII)を予測した。3回の反復実験からの平均反応を使用して、潜在的なペプチドリガンドの最適なアミノ酸組み合わせのマトリックスを生成した。TCCを単離した患者1の脳トランスクリプトームデータおよび各タンパク質を検索データベースとして使用した。92個の配列を合成し、使用したマトリックスの少なくとも1つについて予測された上位50個のペプチドにおけるそれらの出現に基づいて、TCC14による認識について試験した(SI>3の刺激反応)(
図9のパネルIII)。他のTCCについて以前に示されているように、TCC14は高スコアのペプチドの多くを認識したので、予測される高ランクとT細胞反応との間に良好な関係がある(Sospedraら、2010;Zhaoら、2001)。これらの機能的アビディティを評価するために、陽性反応を示した33個のペプチドを用いて用量滴定実験を実施した。これらの中に、配列番号33~35を有するペプチドがあった。72時間後にBLS DR2bを使用して、TCC14の増殖反応について、刺激性ペプチドを漸減濃度で試験した(
図9のパネルIV)。RASGRP2由来のペプチドは、高い抗原アビディティ(EC50=0.012μM)で認識されたが(配列番号33)、いくつかの他のRASGRPアイソフォーム(RASGRP1、-3、4)由来のペプチドおよび他のペプチドのペプチドも同様に陽性反応を示した(
図9のパネルIV)。TCC14によるRASGRP2ペプチドの認識は、Th2サイトカインおよびさらにはIFN-γの分泌をもたらした(データは示さず)。
【0136】
結論として、RASGRP2を有するクローンTCC14により、圧倒的に最も高いアビディティ(すなわち、より低い抗原濃度)で複数のRASGRPバージョンが認識されるが、これは、その生物学的関連性を強調している。
【0137】
9.末梢血細胞のRASGRP2反応性
末梢血由来記憶T細胞におけるRASGRP2への反応性を試験するために、ナタリズマブ処置MS患者(NAT;n=8)の凍結保存PBMC(1×10
8個の細胞)を解凍し、その後、磁気細胞選別(Miltenyi)を使用してCD45RA発現細胞を枯渇させた。1ウェル当たり2×10
5個のCD45RA枯渇PBMCをX-Vivo培地に播種し(10~15個の複製ウェル/条件)、ビヒクル(DMSO)、CD2/CD3/CD28ビーズのいずれかで処理し、またはRASGRP2ペプチドプール(10μMのプール最終濃度)もしくは精製RASGRP2タンパク質全体(Origene;0.3μg/ml)でパルスした。1プール当たり7つのペプチドを含み、N末端(プール1)からC末端(プール9)にRASGRP2の配列をカバーする9つのペプチドプールで、RASGRP2タンパク質全体をカバーする15mer重複ペプチド(配列番号38~98)を編成した。チミジン取り込みアッセイを使用して、RASGRP2への増殖反応を測定した。7日目に、1ウェル当たり1μCiのメチル-3H-チミジンで細胞をパルスし(Hartmann Analytic)、15時間後に膜(Tomtec)上に回収した。β-シンチレーションカウンティング(Wallac 1450,PerkinElmer)により、取り込みを測定した。結果はドットとして示されている(平均±SEM)。ビヒクル対照に対するペプチドまたはタンパク質刺激の比として、刺激指数(SI)を計算した。>2のSI値を陽性とみなした(
図10)。
【0138】
要約すると、
図10は、高い自己増殖を有するMS患者由来の記憶T細胞がRASGRP2に反応することを示す。8人のドナーはすべて、RASGRP2ペプチドの個々のもしくはいくつかのペプチドプール(TCC14の標的ペプチド(配列番号33)と重複する配列番号46のペプチドを含有するプール2を含む)および/またはタンパク質全体に反応したが、これは、RASGRP2が、高度の自己増殖を有するMS患者により広く認識される自己抗原であることを実証している。
【0139】
10.B細胞および脳におけるRASGRP2の発現を実証するRNASeq/トランスクリプトームおよびプロテオームデータ
末梢B細胞および脳において、RASGRP1-4の発現をRNAおよびタンパク質レベルで試験した(
図11)。RASGRP1~3は、患者1の脳および自己増殖記憶B細胞のトランスクリプトームの両方において発現される(
図11)。
【0140】
詳細には、
図11は以下を示す:(A)MS患者1(RPKM)の活動性脳病変IIIおよび6人のRRMS(REM)患者由来の自己増殖(CFSE
dim)末梢血B細胞(RPKM)における刺激性ペプチド由来転写産物の発現レベル。0.1未満の発現レベルまたは転写産物発現の非存在を0.1として設定した。脳(MOBP)およびB細胞(CD19)の対照転写産物の発現も示されている。(B)MS患者のRRMS(REM、nihil;n=4)および脳組織(灰白質、プール、n=6)の末梢血B細胞の質量分析。RASGRP1~4のタンパク質カバレッジ(列)およびスペクトルカウント(数字)は、タンパク質存在量の尺度として示されている。
【0141】
質量分析を使用したプロテオミクスを用いて、対照およびMS患者の脳組織(白質および灰白質)も試験した。RASGRP1、2および3タンパク質のペプチドは脳組織において同定され、特にRASGRP2の存在量が多かった(
図12)。位置は、GenBank AAC97349.1(RASGRP1)、GenBank AAI10307.1(RASGRP2)およびGenBank AAY15037.1(RASGRP3)の配列を指す。
【0142】
さらに、免疫組織化学(IHC)研究を実施したところ、脳灰白質、具体的には皮質ニューロンおよび脾臓におけるRASGRP2タンパク質の発現が示された(データは示さず)。
【0143】
11.GDP-L-フコースシンターゼおよびRASGRP2配列内のさらなる免疫優性ペプチドの同定
さらに、一般に使用される検索アルゴリズムおよび潜在的に免疫原性であるという仮定に基づいて、ペプチドを同定した。(腫瘍由来の)自己タンパク質中の免疫原性ペプチドの検索が標準的な手順である腫瘍ワクチン接種の文脈から、このアプローチを採用した。この状況では、疾患関連HLA対立遺伝子(または所定の腫瘍患者のHLA対立遺伝子)に結合すると予測されるペプチドについて、タンパク質配列をスクリーニングする。したがって、GDP-L-フコースシンターゼおよびRASGRP2配列を取得し、十分に認められているNetMHCII(http://www.cbs.dtu.dk/services/NetMHCII/)およびIEDB(http://www.iedb.org/)インシリコペプチド結合予測アルゴリズムを使用して、強い(SB)または弱い(WB)結合ペプチドを予測した。検索を実施するための方法の詳細は、2つの検索アルゴリズムのWebサイトで容易に入手可能である。簡潔に言えば、検索は、目的のタンパク質の配列をWebツールにコピーし、目的のHLA-クラスII(または目的のクラスI)対立遺伝子を選択することを伴う。次いで、アルゴリズムは、ペプチド配列と、HLA-クラスII対立遺伝子へのそれらの各予測結合とを生成する。NetMHCII検索が可能ではなかった対立遺伝子については、IEDBを使用した。MSに関連することが公知のHLA対立遺伝子を使用した。ここで、WB(これらは自己抗原の文脈で最も重要である)もしくはSB(NetMHCII検索)であると予測されるか、または25%もしくはそれ未満の予測結合ランク(IEDB)を有する2つのタンパク質のすべての領域を考慮する場合、これらの一続きのアミノ酸は、GDP-L-フコースシンターゼおよびRASGRP2タンパク質のほぼ全体をカバーする:
【0144】
GDP-L-フコースシンターゼタンパク質については、アミノ酸1~315の領域にわたるペプチドが結合すると予測された。
【0145】
RASGRP2タンパク質については、アミノ酸9~449および457~659の領域にわたるペプチドが結合すると予測された。
【0146】
以下の対立遺伝子を使用した:
-HLA-DRB1*15:01(NetMHCII)
-HLA-DRB5*01:01(NetMHCII)
-HLA-DRB1*03:01(NetMHCII)
-HLA-DRB1*13:03(IEDB)
-HLA-DRB1*08:01(IEDB)
-HLA-DRB3*02:02(IEDB)
-HLA-DRB1*04:01(NetMHCII)
-HLA-DRB1*04:04(NetMHCII)
-HLA-DQw6(DQA1*01:01;DQB1*06:02)(IEDB)
以下のタンパク質配列を使用した:
GDP-L-フコースシンターゼ:GenBank:AAH93061.1
RASGRP2:GenBank:AAI10307.1
結論として、タンパク質全体および免疫優性ペプチドは、MSの処置、診断および/または予防において使用するために適切である。
【0147】
12.化学的に結合させた赤血球の製造
化学架橋剤としてのEDC
ビオチン残基を用いて合成されたペプチド(ビオチン-PLP1;PLP1=PLP 139-154)を使用して、フルオロフォア結合ストレプトアビジン(strepatividin
)を使用した高度に特異的なペプチド検出を可能にした。簡潔に言えば、ビオチン-PLP1(最終濃度0.05mg/ml)、EDC(最終濃度10mg/ml)(両方ともPBS中)のいずれかで末梢血単核細胞を4℃で1時間パルスした。2回の洗浄ステップの後、細胞をフルオロフォア結合ストレプトアビジンで染色し、フローサイトメトリー(ストレプトアビジン-APC)により分析した。
【0148】
図13に示されているように、両方(ビオチン-PLPペプチドおよびEDC)の存在下においてのみ、効率的なペプチド結合が観察された。
【0149】
13.(GDP-L-フコースシンターゼについては)105人のMS患者および(RASGRP2については)57人のMS患者を用いたさらなる分析
(GDP-L-フコースシンターゼについては)105人のMS患者および(RASGRP2については)57人のMS患者を用いたさらなる分析を実施して、GDP-L-フコースシンターゼペプチド51~65、136~150、161~175、246~260および296~310(配列番号12、21、23、28および32)およびRASGRP2ペプチド78~92(配列番号46)の免疫優性を検証した。試験ペプチドへのCSF浸潤CD4+T細胞(これは、MSの病原性に非常に関連する)の反応性を、公知の免疫優性参照ペプチドMBP13~32、MBP83~99、MBP111~129、MBP146~170、MOG1~20、MOG35~55およびPLP139~154への反応性と比較した。
【0150】
結果は
図14および15に示されている。データは、本明細書で同定されたタンパク質GDP-L-フコースシンターゼおよびRASGRP2の断片である試験ペプチドが、公知の免疫優性参照ペプチドと同様にまたはさらにより反応性であることを示している。したがって、試験ペプチドは免疫優性であることが再び確認された。標的器官、すなわち脳、脊髄またはCSFに浸潤した自己反応性T細胞は生物学的に関連する可能性があると考えられるので、CSF浸潤T細胞および推定自己抗原へのそれらの反応の研究は特に有意義である。
【0151】
特に指定がない限り、上記7および下記15.材料および方法に記載されているように、増殖反応およびIFN-γ分泌を試験した。
【0152】
詳細には、
図14は以下を示す:A.自己PBMCにより提示された5つのGDP-L-フコースシンターゼペプチド(51~65、136~150、161~175、246~260および296~310)、4つのMBPペプチド(13~32、83~99、111~129および146~170)、2つのMOGペプチド(1~20および35~55)、1つのPLPペプチド(139~154)およびCEFペプチドへのCSF浸潤CD4
+T細胞の刺激指数(SI)およびIFN-γ分泌(pg/ml)として表される増殖反応(単一ラウンドのPHA拡大)。患者当たり4個のウェルで、すべてのペプチドを試験した。各ドットは1個のウェルを表し、420個のウェル(4個のウェル×105人の患者)で各ペプチドを試験した。陽性ウェルは、2を超えるSIを有するか(点線)または20pg/mlを超えるIFN-γを有するウェル(点線)である。陽性ウェルのパーセンテージ、ならびにIFN-γおよびSIの陽性ウェルのパーセンテージ間の比も示されている。B.異なるペプチドに特異的であるかまたは特異性が同定されていないCSF浸潤CD4
+T細胞を有する陽性患者のパーセンテージ。陽性患者は、SI(左のヒストグラム)、IFN-γ(中央のヒストグラム)およびSIまたはIFN-γ(右のヒストグラム)について4個のウェルのうちの2個よりも多くが陽性である患者として定義される。
【0153】
詳細には、
図15は以下を示す:A.自己PBMCにより提示された1つのRASGRP2ペプチド(78~92)、4つのMBPペプチド(13~32、83~99、111~129および146~170)、2つのMOGペプチド(1~20および35~55)、1つのPLPペプチド(139~154)およびCEFペプチドへのCSF浸潤CD4
+T細胞の刺激指数(SI)およびIFN-γ分泌(pg/ml)として表される増殖反応(単一ラウンドのPHA拡大)。患者当たり4個のウェルで、すべてのペプチドを試験した。各ドットは1個のウェルを表し、228個のウェル(4個のウェル×57人の患者)で各ペプチドを試験した。陽性ウェルは、2を超えるSIを有するか(点線)または20pg/mlを超えるIFN-γを有するウェル(点線)である。陽性ウェルのパーセンテージ、ならびにIFN-γおよびSIの陽性ウェルのパーセンテージ間の比も示されている。B.異なるペプチドに特異的であるかまたは特異性が同定されていないCSF浸潤CD4
+T細胞を有する陽性患者のパーセンテージ。陽性患者は、SI(左のヒストグラム)、IFN-γ(中央のヒストグラム)およびSIまたはIFN-γ(右のヒストグラム)について4個のウェルのうちの2個よりも多くが陽性である患者として定義される。
【0154】
14.第Ib相試験におけるミエリンペプチドによるインビボ寛容誘導
MSと診断された10人の患者を、寛容誘導について試験した。特に、第Ib相試験との関連において、ペプチド結合EDC固定赤血球の安全性および忍容性について、ならびに一連のミエリンペプチド(MBP13~32、MBP83~99、MBP111~129、MBP146~170、MOG1~20、MOG35~55およびPLP139~154)(配列番号261~267)に化学的に(EDCにより)結合させた自己赤血球の静脈内注射によるインビボ寛容誘導の指標について、それらを試験した。簡潔に言えば、各患者から血液を採取し、赤血球を分離する。次いで、赤血球を、滅菌条件下でエクスビボでミエリンペプチドに化学的に結合させ、患者に静脈内注射する。2人の患者に1×1010個の細胞を投与し、3人の患者に1×1011個の細胞を投与し、5人の患者に3×1011個の細胞を投与した。注射日を0日目として定義した。
【0155】
注射の6週間前(=寛容化前)および注射の12週間後(=寛容化後)にも、血液を採取した。これらの日に、末梢血リンパ球を取得し、蛍光標識抗体を用いてフローサイトメトリーにより、T細胞、B細胞、単球および樹状細胞、ナチュラルキラー細胞(誘導T制御性細胞(Tr1)または天然T制御性細胞(nTreg)のマーカーを発現するものを含む)のいくつかのサブ集団を含む広範囲の異なる細胞タイプの存在について調べた。後者の2つの細胞タイプは、以下のマーカーを特徴とし得る:
-T制御性1(Tr1)細胞(CD3+CD4+CD45RA-CD49b+LAG3+)
-FoxP3+天然T制御性(nTreg)細胞(CD4+CD25hi FOXP3+)
加えて、同日に、すなわち注射の6週間前および注射の12週間後に、下記「GDP-L-フコースシンターゼおよびミエリンペプチドに対するCIS患者およびRRMS患者由来のCSF由来バルクT細胞の試験」および「T細胞刺激」に記載されているように、末梢血T細胞およびCSF浸潤T細胞について、7つすべてのペプチドへのT細胞反応性を個々に測定した。
【0156】
図16は、Tr1およびFoxP3+nTreg細胞の増加ならびにペプチド特異的T細胞反応性の減少により測定した場合に、上記結合させた赤血球を注射した際の抗原特異的寛容誘導の徴候が検出可能であったことを示す。これらのデータは、免疫優性ペプチドを投与することにより、各免疫優性ペプチドへの寛容を誘導し得ることを示している。
【0157】
詳細には、
図16は以下を示す:A.注射の6週間前(=寛容化前)および注射の12週間後(=寛容化後)のCD4+記憶細胞のTr1細胞のパーセンテージ。B.注射の6週間前(=寛容化前)および注射の12週間後(=寛容化後)のCD4+記憶細胞のFoxP3+nTreg細胞のパーセンテージ。C.注射の6週間前および注射の12週間後に3×10
11個の細胞を投与した5人の患者におけるT細胞反応性(灰色の点:注射前;黒色の点:注射後)。上のグラフは、すべてのペプチドに反応する細胞のパーセンテージを示す。下のグラフは、個々の各マイクロウェル(合計60個)の増殖を示す。
【0158】
15.材料および方法
患者材料
GDP-L-フコースシンターゼ
患者1154SA:以前に記載されているように(Planasら、2015)、パターンII脱髄病変を有するSPMS患者からCSF由来単核細胞およびPBMCを得た。この患者のHLA-クラスIおよびIIタイプは、A*32:01、A*33:01、B*14:02、B*51:01、DRB1*15:01、DRB5*01:01、DQB1*06:02およびDQA1*01:02であった。
【0159】
31人の未処置MS患者(CISを有する8人の患者、RRMSを有する20人の患者およびSPMSを有する3人の患者)から、診断的腰椎穿刺およびドナー末梢血由来のCSFを収集した。University Medical Center Hamburg-Eppendorfのinims外来クリニックおよびデイホスピタルならびにUniversity Hospital Zurichの神経科クリニックのnimsセクションから、患者を募集した。MS診断は、改訂マクドナルド基準に基づいていた。すべてのCIS患者は、等電点電気泳動(IEF)により検出されたCSF特異的オリゴクローナルバンドを有していた。登録の少なくとも4週間前にステロイドを投与されておらず過去3カ月の間にいかなる免疫調節剤も免疫抑制剤も受けていない患者を未処置とみなし、研究に含めた。これらの患者由来の新鮮CSF細胞をインビトロで拡大させた(以下を参照のこと)。フィコール密度勾配遠心分離(PAA,Pasching,Austria)により、EDTA含有血液チューブからPBMCを新たに単離し、凍結保存した。Ethik Kommission der Arztekammer Hamburg,protocol No.2758およびCantonal Ethical Committee of Zurich,EC-No.of the research project 2013-0001が研究手順を承認した。すべての患者または親族からインフォームドコンセントを得た。
【0160】
13人のMS患者(7人のSPMS、5人のPPMSおよび1人の原発性再発性(PR)MS)および7人の非MS対照由来の脳剖検組織は、UK Multiple Sclerosis Tissue Bank(UK Multicentre Research Ethics Committee,MREC/02/2/39)から得た。
【0161】
GDP-L-フコースシンターゼのさらなる分析(「実施例」の13)のために、105人の患者からCSFを収集した。105人の患者のうち、男性に対する女性の比は1.9であり、平均年齢は35.68歳(17~58歳の範囲)であり、4人の患者はRISと診断され、10人の患者はCISと診断され、82人の患者はRRMSと診断され、4人の患者はSPMSと診断され、5人の患者はPPMSと診断された。
【0162】
RASGRP2
フィコール密度遠心分離により、患者1154SAからPBMCを単離した。
【0163】
RASGRP2のさらなる分析(「実施例」の13)のために、57人の患者からCSFを収集した。GDP-L-フコースシンターゼについて、105人の患者のうち57人の患者を試験した。57人の患者のうち、男性に対する女性の比は2.5であり、平均年齢は35.33歳(17~55範囲)であり、2人の患者はRISと診断され、8人の患者はCISと診断され、43人の患者はRRMSと診断され、1人の患者はSPMSと診断され、3人の患者はPPMSと診断された。
【0164】
自己増殖アッセイ
100U/mLペニシリン/ストレプトマイシン(Corning)、50μg/mLゲンタマイシン(Sigma-Aldrich)、2mmol/L L-グルタミン(PAA)および5%加熱脱補体化(heat-decomplemented)ヒト血清(HS、PAA)を含
有する完全IMDM培地(GE Healthcare)でPBMCを解凍し、その後、ヒトアルブミンを含む無血清AIM-V培地(GIBCO,Thermo Fisher
Scientific)で1回洗浄した。50U/ml DNAse(Roche)を含有するAIM-V培地中で細胞を37℃で15分間インキュベートして、細胞塊の形成を回避した。0.1%HSを含有するPBSによる2回の洗浄ステップの後、細胞を細胞10×106個/mlの濃度でPBS/0.1%HSに再懸濁し、次いで、最終濃度0.5μMのCFSE(Sigma-Aldrich)で室温で3分間標識した。10%HSを含有する5倍過剰量の冷完全RPMI(PAN Biotech)培地でクエンチすることにより、標識を停止した。AIM-Vによる1回のさらなる洗浄ステップの後、CFSE標識細胞を、外因性刺激(=自己増殖)の非存在下、37℃、5%CO2で、96ウェルU底マイクロタイタープレート(Greiner Bio-One)中AIM-V(複製ウェル10~12個/ドナーおよび条件)にPBMC 2×105個/200μl/ウェルで播種した。従来のT細胞反応については、同じドナーの場合には、TCR非依存性刺激としてPHA(0.5μg/ml)、外来抗原刺激として破傷風トキソイド(TTx、5μg/ml、Novartis Behring)、および同種抗原刺激として混合リンパ球反応(MLR)を使用した。7日後、CFSE標識細胞を収集し、複製ウェルからプールし、PBSで洗浄し、ヒトIgG(Sigma-Aldrich)でFc遮断し、Live/Dead(登録商標)Aqua(Invitrogen,Thermo Fisher Scientific)で4℃で標識した。2mM EDTAおよび2%FCSを含有する冷PBSで洗浄した後、蛍光色素結合抗体(Key Resource
Table)を使用して表面マーカーについて細胞を直接染色した。LSR Fortessaフローサイトメーター(BD Biosciences)により測定を実施し、FlowJo(Tree Star)を用いてデータを分析した。このアッセイをさらに使用して、抗HLA-DR、抗CD4、抗IFN-γおよび抗GM-CSF抗体(10μg/ml)または適切なアイソタイプ対照の存在下でCFSE標識PBMCを7日間インキュベートすることにより、自己増殖の競合を試験した。チミジン取り込みアッセイについては、1ウェル当たり2×105個のPBMC(複製ウェル10~12個/ドナーおよび条件)を、96ウェルU底マイクロタイタープレート中で無血清AIM-V培地と共に37℃、5%CO2で培養し、7日目に、1ウェル当たり1μCiのメチル-3H-チミジン(Hartmann Analytic)でパルスし、15時間後、細胞を回収した(Tomtec)。β-シンチレーションカウンティング(Wallac 1450,PerkinElmer)により、取り込みを測定した。
【0165】
T細胞クローニング
自己増殖区画からTCCを生成するために、(上記TCRVβシークエンシングのための)MS患者1のCFSEdim細胞(20.000個の細胞)の選別細胞プールからの500個のCFSEdim細胞を分割し、以前に記載されているように(Alyら、2011)限界希釈を実施した。PHA(Sigma)およびヒトIL-2を用いた増殖プロトコール(Alyら、2011)を使用して、TCCを富化した。以前に記載されているように(Yousefら、2012)、生成したTCCのTCR再配置のシークエンシングを分析した。TCCのサイトカイン反応を評価するために、抗CD2/CD3/CD28抗体ロードMACSibead粒子(Miltenyi)を使用して、X-Vivo培地(Lonza)中各200.000個の細胞を含む7つの複製ウェル中の各TCCを刺激した。48時間後、上清を収集し、上記のようにサイトカイン反応を測定した。ケモカイン受容体発現については、細胞を一晩解凍および休止させた後、Live/dead Aquaと、CXCR3およびCCR6に対する抗体とでTCCを染色した。
【0166】
トランスクリプトーム分析
以前に記載されているように(Planasら、2015)、脳病変のトランスクリプトーム分析を実施した。考察したデータはNCBI遺伝子発現オムニバスに寄託されており、GEO Seriesアクセッション番号GSE60943を通じてアクセス可能である。
【0167】
プロテオミクス分析
プロテオミクス分析については、バロサイクラー(2320EXT,BioSciences,Inc,South Easton,MA)を使用して。圧力支援タンパク質抽出および消化を実施した。還元およびアルキル化をホモジネートに適用してから、サンプルをLys-Cおよびトリプシンで分解した。固相抽出カラム(C18 Finisterre,Wicom Germany)によりペプチドを脱塩し、真空乾燥し、再溶解し、測定した(Nanodrop 1000、分光光度計(Thermo Scientific,Wilmington,DE,USA)。得られたペプチドを精製し、親水性相互作用クロマトグラフィー(HILIC、カラムPolyamin II 250×3.0mm 120Å、5μmを備えるAgilent LC1200)により分離してから、それらを、Orbitrap Fusion機器(Thermo Fisher)に連結されたナノ液体クロマトグラフィーシステムEasy-nLCに注入した。ヒトUniProtKB/Swiss-Protタンパク質データベース(2016年3月22日、40912エントリ)を使用してMASCOTソフトウェアを用いて、データ分析を実施した。検索パラメータは、フラグメント質量許容差0.05Daおよび前駆体質量10ppm、最小ペプチド数2、およびFDR(偽発見率)0.1%であり、トリプシン断片の2回の誤切断を許容した。システインのカルバミドメチル化を固定改変として設定し、メチオニンの酸化、n末端アセチル化を可変改変として設定した。
【0168】
位置スキャンペプチドライブラリーと個々のペプチド
GDP-L-フコースシンターゼ
位置スキャンフォーマット(200個の混合物)の合成N-アセチル化C-アミドL-アミノ酸(AA)デカペプチドコンビナトリアルライブラリーおよび22個の二重定義混合物を調製した。Peptides and Elephants GmbH(Potsdam,Germany)により、個々のペプチド(
図4および
図6)を合成した。
【0169】
RASGRP2
標準的な方法により、L-aaデカペプチド位置スキャンライブラリー(N-アセチル化およびC-アミドTPI2040)を調製した。チミジン取り込みアッセイを使用して、40、120および200μg/mlにおけるTCC14によるそれらの増殖活性について、ライブラリーの200個の各混合物を試験した。TCCはHLA-DR15ホモ接合性MS患者に由来するので、HLAクラスII対立遺伝子(DR2a(=DRB5*01:01)、DR2b(=DRB1*15:01)またはDQw6(=DQB1*0602))を発現するHLA-DR15ハプロタイプをトランスフェクトしたBLS細胞を用いて、TCC14の拘束性を試験した。DR2a、DR2bおよびDQに対する特異的抗体を用いてBLS細胞株のHLAクラスII発現を検証し、細胞はマイコプラズマ検査で陰性であった。結果を4つのマトリックス(それぞれが上記用量の1つにおける活性を表す3つのマトリックス、および3倍の増殖を達成するための濃度を使用して3つすべての用量を単一の活性へと組み合わせた1つのマトリックス)に編成した(データは示さず)。MS患者1154SAの脳からのトランスクリプトームタンパク質データベースに対するバイオメトリック分析プロセス(Zhaoら、2001)を使用して、4つの各マトリックスについて予測されたペプチドリストを生成した。上記予測されたリスト間の大量の一致により、少なくとも1つのマトリックスの予測リストの上位50個の予測されたペプチド内で、合計92個の異なる十量体ペプチドが生じた。これらのペプチドを(Peptides and Elephants GmbH,Potsdam,Germanyによる)合成のために選択し、試験した。
【0170】
細胞および培養条件
以前に報告されているように(Planasら、2015)、患者1154SA由来のバルクCSF由来単核細胞を拡大させた。簡潔に言えば、1ウェル当たり2000個の細胞を、2×105個の同種の照射したPBMC(45Gy)、1μg/mlのPHA-L(Sigma,St Louis,MO)およびIL-2上清(500U/ml)と一緒に96ウェルU底マイクロタイタープレートに播種した。培地は、100U/mlペニシリン/ストレプトマイシン(PAA)、50μg/mlゲンタマイシン(BioWhittaker,Cambrex)、2mM L-グルタミン(Gibco,Invitrogen,Carlsbad,CA)および5%加熱脱補体化ヒト血清(PAA)を含有するIMDM(PAA)からなるものであった。さらなるIL-2を3~4日ごとに追加した。抗CD4磁気ビーズ(CD4 Micro Beads human MACS,Miltenyi Biotec Inc,CA,USA)を使用してCSF浸潤CD4+T細胞をポジティブ選択し、PHA-L、IL-2および同種の照射したPBMCで再度刺激した。
【0171】
以前に記載されているように(Planasら、2015)、CSF浸潤細胞からTCC21.1を樹立し、PBMC由来自己増殖T細胞からTCC14を樹立した。
【0172】
GDP-L-フコースシンターゼおよびミエリンペプチドに対するCISおよびRRMS患者由来のCSF由来バルクT細胞の試験
31人のCIS/MS患者由来の新鮮バルクCSF由来単核細胞を5×106個の同種の照射したPBMCと混合し、抗CD4磁気ビーズを用いてCD4+T細胞をポジティブ選択した。次いで、CD4+画分を、1.5×105個の同種の照射したPBMC、1μg/mlのPHA-LおよびIL-2上清と一緒に96ウェルU底マイクロタイタープレートに細胞1500個/ウェルで播種した。培地は、2mMグルタミン(Pan-Biotech)、1%(vol/vol)非必須アミノ酸(Gibco)、1%(vol/vol)ピルビン酸ナトリウム(Gibco)、50μg/mlペニシリン-ストレプトマイシン(Corning,NY,USA)、0.00001% β-メルカプトエタノール(Gibco)および5%ヒト血清(Blood Bank Basel)を補充したHepes不含RPMI1640(Pan-Biotech,Aidenbach,Germany)からなるものであった。さらなるIL-2を4日ごとに追加した。成長中のウェルを48ウェルプレートに移し、最後に、細胞が完全に休止するまで(20~25日間)75cm3フラスコに移した。単一ラウンドの刺激で細胞を高度に拡大させた。
【0173】
GDP-L-フコースシンターゼペプチドおよびRASGRP2ペプチドのさらなる分析(「実施例」の13)のために、同じ方法を実施した。
【0174】
EBV形質転換により、患者1154SA由来の自己BCLを生成した。単一のHLAクラスII分子DR2a(DRA1*01:01、DRB5*01:01)、DR2b(DRA1*01:01、DRB1*15:01)およびDQw6(DQA1*01:02、DQB1*06:02)をBLS細胞にトランスフェクトした。
【0175】
T細胞刺激
コンビナトリアルペプチド混合物または個々のデカペプチドの有無にかかわらず、(示されているように)2×104個のT細胞および5×104個の照射BLS細胞株もしくは自己BCLまたは1×105個の照射PBMCを2回反復で播種することにより、単一/二重定義ペプチド混合物または個々のデカペプチドへのTCC反応を試験した。2.5μg/ml PHAおよび10-7M PMA(Sigma)、1μg/mlの表面コーティングされた抗CD3(OKT3,Ortho Biotech Products,Raritan,NJ)および0.5μg/mlの可溶性抗CD28(Biolegend,San Diego,CA)、ならびにT細胞活性化キット(抗CD3、抗CD28、抗CD2ビーズ)(Miltenyi Biotec)は、示されているように陽性対照として機能した。
【0176】
ペプチドの有無にかかわらず、6×10
4個のT細胞および2×10
5個の照射自己PBMCを4回反復で播種することにより、GDP-L-フコースシンターゼ、ミエリンおよびCEFペプチドへの、PHAにより拡大したCSF浸潤CD4+T細胞の反応(
図6)を試験した。EdU実験については、BLS DRB1
*15:01をAPCとして使用した。T細胞活性化キットを陽性対照として使用した。
【0177】
GDP-L-フコースシンターゼペプチドおよびRASGRP2ペプチドのさらなる分析(「実施例」の13)のために、GDP-L-フコースシンターゼへの、PHAにより拡大したCSF浸潤CD4+T細胞の反応の場合と同じ方法を実施した。
【0178】
サイトカイン測定
GDP-L-フコースシンターゼ
48時間後に、製造業者の指示にしたがってヒトTヘルパーサイトカインパネルLEGENDplexビーズベースのイムノアッセイ(Biolegend)、GM-CSF ELISA(BD Biosciences,Franklin Lakes,NJ)およびIL-3 ELISA(Biolegend)を使用して、刺激TCC21.1および拡大したCSF細胞の上清中のサイトカインを測定した。
【0179】
細胞内サイトカイン染色については、刺激の48時間後に、TCC21.1を分析した。5時間後、GolgiStopタンパク質輸送阻害剤(BD Biosciences)の存在下でT細胞をLive/Dead(登録商標)Aqua(Invitrogen)で標識した。Cytofix/Cytoperm(BD Biosciences)による固定および透過処理の後、サポニンおよびBSAを含有するPBS中、CD4(APC-Cy7,Biolegend)、IFN-γ(FITC,Biolegend)、IL-4(PE,BD Bioscience)、GM-CSF(APC,Biolegend)およびIL-3(PE,Biolegend)に対する抗体で細胞を染色し、フローサイトメトリーにより分析した。
【0180】
GDP-L-フコースシンターゼペプチドおよびRASGRP2ペプチドのさらなる分析(「実施例」の13)のために、48時間の培養後に、製造業者の指示にしたがってすべての単一ウェルで2回反復でIFN-γ ELISA(Biolegend)を使用して、刺激および非刺激拡大CSF浸潤T細胞の上清中のIFN-γの分泌を測定した。
【0181】
増殖反応
GDP-L-フコースシンターゼ
72時間後に、シンチレーションカウンター(Wallac 1450,PerkinElmer,Rodgau-Juergesheim,Germany)で3H-チミジン(Hartmann Analytic,Braunschweig,Germany)取り込みにより、増殖を測定した。以下のように刺激指数(SI)を計算した:SI=中央値(反復cpmペプチド)/中央値(反復cpmペプチドなし)。製造業者の指示にしたがってClick-iTTM EdUフローサイトメトリーアッセイキット(APC,Molecular Probes,Invitrogen)を使用して、増殖も測定した。以下の抗体抗CD3(PE-Cy-7,e-Bioscience,San Diego,CA)および抗TRBV-21(FITC,Beckman Coulter,Brea,CA)で細胞を染色し、フローサイトメトリーにより分析した。
RASGRP2
【0182】
9に記載されているように、増殖反応を試験した。
【0183】
GDP-L-フコースシンターゼペプチドおよびRASGRP2ペプチドのさらなる分析(「実施例」の13)のために、上記GDP-L-フコースシンターゼについて記載されているように、増殖反応を測定した。
【0184】
表面受容体発現
CD4(PE-Texas Red,Thermo Fischer,Waltham,MA)、TRBV21(FITC,Beckman Coulter)、CD28(PE-Cy7,BioLegend)、CCR4(APC,BioLegend)、CCR6(BV785,BioLegend)およびCRTh2(PE,BioLegend)に対する抗体で休止TCC21.1を染色し、フローサイトメトリーにより分析した。
【0185】
フローサイトメトリー分析
Divaソフトウェアを備えるLSR Fortessaフローサイトメーター(BD
Biosciences)を使用してサンプル取得を実行し、FlowJo(Tree
Star,Ashland,OR)を用いてデータを分析した。
【0186】
TCR再配置のRT-PCRおよびシークエンシング
以前に報告されているように(Planasら、2015)、TCC21.1のRNA抽出、逆転写およびTCRα/β鎖(TRA/BV)シークエンシングを評価した。TCR遺伝子表記は、IMGT命名法(ImMunoGeneTics,www.IMGT.org)に従う。
【0187】
HLA
Histogenetics LLC,NY,USAにおいて、HLA-クラスIおよびII分子について個体をタイピングした。標準的なDNA単離プロトコールを用いてTriton溶解バッファーおよびプロテイナーゼK処理を使用して、15ng/μlの最終濃度を有する全血からのDNAの単離を実施した。高解像度HLA配列ベースのタイピング(SBT)を使用して、HLAクラスI(A*およびB*)およびHLAクラスII(DRB1*、DRB3*、DRB4*、DRB5*、DQA1*およびDQB1*)について、サンプルをタイピングした。IEDB分析リソースコンセンサスツールを使用して、HLAクラスII結合予測を行った。
【0188】
統計分析
患者スコアに対して3クラスタk-平均分析を実施して、患者を3つのカテゴリにグループ化した。有意性5%で、必要に応じてボンフェローニホルム補正を適用してフィッシャーの直接確率検定を使用して、ペプチドの反応レベルと患者とHLAステータスとの間の関連付けをすべて実施した。
【0189】
実施形態
実施形態1. 多発性硬化症(MS)の処置、診断および/または予防において使用するための、GDP-L-フコースシンターゼタンパク質もしくはRASGRPタンパク質ファミリーのタンパク質またはその断片、誘導体もしくはスプライスバリアント、あるいは前記タンパク質またはその断片、誘導体もしくはスプライスバリアントのいずれかをコードするヌクレオチド配列。
GDP-L-フコースシンターゼタンパク質もしくはRASGRPタンパク質ファミリーのタンパク質、特にRASGRP2またはその断片が特に好ましい。
【0190】
実施形態2. 前記GDP-L-フコースシンターゼタンパク質が、
a)配列番号1に記載されているアミノ酸配列を有するか、または
b)配列番号1に記載されているアミノ酸配列と少なくとも85%、好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%同一のアミノ酸配列を有するか、または
c)配列番号1に記載されているアミノ酸配列と少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%相同のアミノ酸配列を有するか、または
d)配列番号1に記載されているアミノ酸配列と少なくとも60%、好ましくは少なくとも70%、より好ましくは少なくとも80%、さらにより好ましくは少なくとも90%相同のアミノ酸配列を有し、前記タンパク質またはその断片もしくはスプライスバリアントが自己HLA対立遺伝子に結合し、T細胞により認識され、および/または配列番号1に記載されているアミノ酸配列もしくはその断片に結合するかもしくはそれを認識する抗体により認識されるか、または
e)TSTA3遺伝子により、特にNC_000008.11のヌクレオチド143612618~143618048の遺伝子配列によりコードされるか、またはNC_000008.11のヌクレオチド143612618~143618048の遺伝子配列と少なくとも80%、好ましくは少なくとも90%、さらにより好ましくは少なくとも95%同一の遺伝子によりコードされ、
および/または
前記RASGRPタンパク質ファミリーの前記メンバーが、
f)配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8または配列番号9のいずれかに記載されているアミノ酸配列を有するか、または
g)配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8または配列番号9のいずれかに記載されているアミノ酸配列と少なくとも85%、好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%同一のアミノ酸配列を有するか、または
h)配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8または配列番号9のいずれかに記載されているアミノ酸配列と少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%相同のアミノ酸配列を有するか、または
i)配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8または配列番号9のいずれかに記載されているアミノ酸配列と少なくとも60%、好ましくは少なくとも70%、より好ましくは少なくとも80%、さらにより好ましくは少なくとも90%相同のアミノ酸配列を有し、前記タンパク質またはその断片もしくはスプライスバリアントが自己HLA対立遺伝子に結合し、T細胞により認識され、および/または配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8もしくは配列番号9のいずれかに記載されている各アミノ酸配列もしくはその断片に結合するかもしくはそれを認識する抗体により認識されるか、または
j)RASGRP遺伝子により、特に
-NC_000015.10のヌクレオチド38488101~38565575、
-NC_000011.10のヌクレオチド64726911~64745456、
-NC_000002.12のヌクレオチド33436324~33564750、または
-NC_000019.10のヌクレオチド38409051~38426305
の遺伝子配列によりコードされるか、
または、
-NC_000015.10のヌクレオチド38488101~38565575、
-NC_000011.10のヌクレオチド64726911~64745456、
-NC_000002.12のヌクレオチド33436324~33564750、または
-NC_000019.10のヌクレオチド38409051~38426305
の遺伝子配列と少なくとも80%、好ましくは少なくとも90%、さらにより好ましくは少なくとも95%同一の遺伝子によりコードされる、
実施形態1に記載のタンパク質、断片、誘導体またはスプライスバリアント。
配列番号1に記載されているアミノ酸配列を有するGDP-L-フコースシンターゼタンパク質、もしくは少なくとも90%の同一性を有するタンパク質、またはその断片が特に好ましい。配列番号2、配列番号6、配列番号7、配列番号8または配列番号9に記載されているアミノ酸配列を有するRASGRP2タンパク質、もしくは少なくとも90%の同一性を有するタンパク質、またはその断片も特に好ましい。
【0191】
実施形態3.前記断片が、5~50個、好ましくは5~20個、より好ましくは10~15個のアミノ酸、さらにより好ましくは15個のアミノ酸を含む、実施形態1または2に記載のタンパク質、断片、誘導体またはスプライスバリアント。
10~15アミノ酸長の断片が特に好ましい。
【0192】
実施形態4.前記断片が、
a)各対応するアミノ酸配列と少なくとも85%、好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%同一であるか、または
b)各対応するアミノ酸配列と少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%相同であるか、または
c)各対応するアミノ酸配列と少なくとも60%、好ましくは少なくとも70%、より好ましくは少なくとも80%、さらにより好ましくは少なくとも90%相同であり、自己HLA対立遺伝子に結合し、T細胞により認識され、および/または前記各アミノ酸配列に結合するかもしくはそれを認識する抗体により認識される、実施形態2または3に記載のタンパク質、断片、誘導体またはスプライスバリアント。
断片は、各対応するアミノ酸配列と少なくとも90%同一であることが特に好ましい。
【0193】
実施形態5.前記断片が、配列番号10~98、好ましくは配列番号10~35を含む群より選択される配列を含み、好ましくは、配列番号10~98、好ましくは配列番号10~35を含む群より選択される配列からなる、前記実施形態のいずれかに記載のタンパク質、断片、誘導体またはスプライスバリアント。
断片は、好ましくは、配列番号10~35を含む群より選択される配列を含む。
【0194】
実施形態6.MS、好ましくは初期MSにおける自己抗原への寛容化に適切なヒト被験体を同定するための、前記実施形態のいずれかに記載のタンパク質、断片、誘導体またはスプライスバリアント。タンパク質またはその断片を使用することが特に好ましい。
【0195】
実施形態7.ヒト被験体におけるパターンII MSを診断するための、実施形態1~5のいずれかに記載のタンパク質、断片、誘導体またはスプライスバリアント。タンパク質またはその断片を使用することが特に好ましい。
【0196】
実施形態8.実施形態1~5のいずれかに記載の少なくとも1つのタンパク質、断片、誘導体、スプライスバリアント、ヌクレオチド配列および/または遺伝子配列を含む、担体。担体は、少なくとも1つのタンパク質、断片またはヌクレオチド配列を含むことが特に好ましい。
【0197】
実施形態9.前記少なくとも1つのタンパク質、断片、誘導体および/もしくはスプライスバリアントに結合させており、ならびに/または前記少なくとも1つのタンパク質、断片、誘導体、スプライスバリアント、ヌクレオチド配列および/もしくは遺伝子配列を含有する、実施形態8に記載の担体。
担体を、少なくとも1つのタンパク質もしくは断片に結合させており、および/または担体は、ヌクレオチド配列を含有することが特に好ましい。
【0198】
実施形態10.細胞、好ましくは血液細胞、タンパク質、脂質、糖脂質、ビーズ、ナノ粒子、ウイルス様粒子(VLP)および分子、例えば糖分子およびそれらの任意の組み合わせを含む群より選択される、実施形態8または9に記載の担体。
担体は、好ましくは血液細胞である。
【0199】
実施形態11.前記タンパク質、断片、誘導体および/またはスプライスバリアントが、前記細胞、好ましくは前記血液細胞により発現される、実施形態10に記載の担体。
タンパク質は、血液細胞により発現されることが特に好ましい。
【0200】
実施形態12. 前記血液細胞が赤血球または白血球である、実施形態10または11に記載の担体。
【0201】
実施形態13.前記担体が血液細胞であり、前記血液細胞が、カップリング剤により、好ましくは1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)-カルボジイミド(ECDI/EDC)により前記少なくとも1つのタンパク質、断片、誘導体および/またはスプライスバリアントに化学的に結合させている、実施形態10~12のいずれかに記載の担体。好ましくは、少なくとも1つのタンパク質または断片を、EDCにより血液細胞に結合させる。
【0202】
実施形態14.実施形態13に記載の化学的に結合させた血液細胞を製造する方法であって、ヒト被験体から前記血液細胞を単離すること、前記少なくとも1つのタンパク質、断片、誘導体および/またはスプライスバリアントを追加すること、ならびに続いて前記カップリング剤、好ましくはEDCを追加することを含む、方法。好ましくは、少なくとも1つのタンパク質または断片が添加される。
【0203】
実施形態15.実施形態1~5のいずれかに記載の少なくとも1つのタンパク質、断片、誘導体、スプライスバリアント、ヌクレオチド配列および/または遺伝子配列と、薬学的に許容され得る担体とを含む、医薬組成物。医薬組成物は、好ましくは、少なくとも1つのタンパク質もしくはその断片またはヌクレオチド配列と、薬学的に許容され得る担体とを含む。
【0204】
実施形態16.MSを患っているかまたはそれを発症するリスクがあるヒト被験体において自己抗原への抗原特異的寛容を誘導するための方法であって、前記ヒト被験体に、
a)実施形態1~5のいずれかに記載の少なくとも1つのタンパク質、断片、誘導体、スプライスバリアント、ヌクレオチド配列および/もしくは遺伝子配列、ならびに/またはb)実施形態8~13のいずれかに記載の少なくとも1つの担体
を適用するステップを含む、方法。
【0205】
抗原特異的寛容を誘導するための方法であって、少なくとも1つのタンパク質もしくはその断片、または少なくとも1つのタンパク質もしくは断片に結合させた担体、および/またはヌクレオチド配列を含有する担体を適用する方法が好ましい。
【0206】
実施形態17.前記少なくとも1つのタンパク質、断片、誘導体、スプライスバリアント、ヌクレオチド配列および/または遺伝子配列が、経鼻、吸入、経口、皮下(s.c.)、体腔内(i.c)、筋肉内(i.m.)、皮内(i.d.)、経皮(t.d.)もしくは静脈内(i.v.)投与により、好ましくは静脈内、皮下、皮内、経皮、経口、吸入、経鼻により適用されるか、または担体、好ましくは赤血球に結合させている、実施形態16に記載の方法。
【0207】
実施形態18.初期MSにおける自己抗原への抗原特異的寛容を誘導するための、実施形態16または17に記載の方法。
【0208】
実施形態19.MS、好ましくは初期MSにおける自己抗原への寛容化に適切なヒト被験体を同定するための方法であって、前記被験体の血液、CSFまたは他の体液からT細胞および/または抗体を単離すること、ならびに実施形態1~5のいずれかに記載のタンパク質、断片、誘導体および/またはスプライスバリアントに対する前記T細胞および/または抗体の反応性を測定することを含む、方法。断片に対するT細胞および/または抗体の反応性を測定することが特に好ましい。
【0209】
実施形態20.医薬として使用するための、実施形態3~5のいずれかに記載の断片、好ましくは実施形態5に記載の断片。断片は、特に、配列番号10~35を含む群より選択される配列を含む。
【0210】
実施形態21.MSのインビトロ診断における、実施形態1~5のいずれかに記載のタンパク質、断片、誘導体および/またはスプライスバリアントの使用。タンパク質またはその断片を使用することが特に好ましい。
【0211】
実施形態22.実施形態1~5のいずれかに記載のタンパク質、断片、誘導体および/またはスプライスバリアントを使用してMSをインビトロ診断するための方法。タンパク質またはその断片を使用することが特に好ましい。
【0212】
実施形態23.MSと診断されたヒト被験体またはMSを発症するリスクがあるヒト被験体のインビトロ事前試験における、実施形態1~5のいずれかに記載のタンパク質、断片、誘導体および/またはスプライスバリアントの使用。タンパク質またはその断片を使用することが特に好ましい。
【0213】
実施形態24.MSの処置、診断および/または予防のための医薬を製造するための、実施形態1~5のいずれかに記載のタンパク質、断片、誘導体および/またはスプライスバリアントの使用。タンパク質またはその断片を使用することが特に好ましい。
【0214】
実施形態25.前記誘導体が、参照アミノ酸配列の対応する部分とその全長にわたって少なくとも75%、より好ましくは少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも93%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも98%または少なくとも99%の相同性または同一性を共有するアミノ酸配列である、実施形態1~5のいずれかに記載のタンパク質、断片、誘導体および/またはスプライスバリアント。
【0215】
実施形態26.MS、好ましくは初期MSにおける自己抗原への寛容化に適切なヒト被験体を同定するためのインビトロ方法であって、前記被験体の血液、CSFまたは他の体液から事前に得られたT細胞および/または抗体を用いて、実施形態1~5のいずれかに記載のタンパク質、断片、誘導体および/またはスプライスバリアントに対するT細胞および/または抗体の反応性を測定することを含むインビトロ方法。タンパク質またはその断片を使用することが特に好ましい。
【0216】
実施形態27.MSを患っているかまたはそれを発症するリスクがあるヒト被験体において自己抗原への抗原特異的寛容を誘導するための方法であって、前記ヒト被験体に、少なくとも1つの実施形態1~5のいずれかに記載のタンパク質、断片、誘導体、スプライスバリアント、ヌクレオチド配列および/もしくは遺伝子配列ならびに/または少なくとも1つの実施形態8~13のいずれかに記載の担体を適用するステップを含む方法において使用するための、少なくとも1つの実施形態1~5のいずれかに記載のタンパク質、断片、誘導体、スプライスバリアント、ヌクレオチド配列および/もしくは遺伝子配列ならびに/または少なくとも1つの実施形態8~13のいずれかに記載の担体。タンパク質もしくはその断片および/またはタンパク質もしくはその断片に結合させた少なくとも1つの担体を使用することが特に好ましい。
【0217】
実施形態28.前記少なくとも1つのタンパク質、断片、誘導体、スプライスバリアント、ヌクレオチド配列および/または遺伝子配列が、経鼻、吸入、経口、皮下(s.c.)、体腔内(i.c)、筋肉内(i.m.)、皮内(i.d.)、経皮(t.d.)もしくは静脈内(i.v.)投与により、好ましくは静脈内、皮下、皮内、経皮、経口、吸入、経鼻により適用されるか、または担体、好ましくは赤血球に結合させる、少なくとも1つの実施形態27に記載のタンパク質、断片、誘導体、スプライスバリアント、ヌクレオチド配列および/もしくは遺伝子配列ならびに/または少なくとも1つの実施形態27に記載の担体。タンパク質もしくはその断片および/またはタンパク質もしくはその断片に結合させた少なくとも1つの担体を使用することが特に好ましい。
【0218】
実施形態29.初期MSにおける自己抗原への抗原特異的寛容を誘導するための、少なくとも1つの実施形態1~5のいずれかに記載のタンパク質、断片、誘導体、スプライスバリアント、ヌクレオチド配列および/もしくは遺伝子配列ならびに/または少なくとも1つの実施形態8~13のいずれかに記載の担体。タンパク質もしくはその断片および/またはタンパク質もしくはその断片に結合させた少なくとも1つの担体を使用することが特に好ましい。
本発明は、例えば、以下の項目を提供する。
(項目1)
多発性硬化症(MS)の処置、診断および/または予防において使用するための、GDP-L-フコースシンターゼタンパク質もしくはRASGRPタンパク質ファミリーのタンパク質またはその断片、誘導体もしくはスプライスバリアント、あるいは前記タンパク質またはその断片、誘導体もしくはスプライスバリアントのいずれかをコードするヌクレオチド配列。
(項目2)
前記GDP-L-フコースシンターゼタンパク質が、
a)配列番号1に記載されているアミノ酸配列を有するか、または
b)配列番号1に記載されているアミノ酸配列と少なくとも85%、好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%同一のアミノ酸配列を有するか、または
c)配列番号1に記載されているアミノ酸配列と少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%相同のアミノ酸配列を有するか、または
d)配列番号1に記載されているアミノ酸配列と少なくとも60%、好ましくは少なくとも70%、より好ましくは少なくとも80%、さらにより好ましくは少なくとも90%相同のアミノ酸配列を有し、前記タンパク質またはその断片もしくはスプライスバリアントが自己HLA対立遺伝子に結合し、T細胞により認識され、および/または配列番号1に記載されているアミノ酸配列もしくはその断片に結合するかもしくはそれを認識する抗体により認識されるか、または
e)TSTA3遺伝子により、特にNC_000008.11のヌクレオチド143612618~143618048の遺伝子配列によりコードされるか、またはNC_000008.11のヌクレオチド143612618~143618048の遺伝子配列と少なくとも80%、好ましくは少なくとも90%、さらにより好ましくは少なくとも95%同一の遺伝子によりコードされ、
および/または
前記RASGRPタンパク質ファミリーの前記メンバーが、
f)配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8または配列番号9のいずれかに記載されているアミノ酸配列を有するか、または
g)配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8または配列番号9のいずれかに記載されているアミノ酸配列と少なくとも85%、好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%同一のアミノ酸配列を有するか、または
h)配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8または配列番号9のいずれかに記載されているアミノ酸配列と少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%相同のアミノ酸配列を有するか、または
i)配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8または配列番号9のいずれかに記載されているアミノ酸配列と少なくとも60%、好ましくは少なくとも70%、より好ましくは少なくとも80%、さらにより好ましくは少なくとも90%相同のアミノ酸配列を有し、前記タンパク質またはその断片もしくはスプライスバリアントが自己HLA対立遺伝子に結合し、T細胞により認識され、および/または配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8もしくは配列番号9のいずれかに記載されている各アミノ酸配列もしくはその断片に結合するかもしくはそれを認識する抗体により認識されるか、または
j)RASGRP遺伝子により、特に
-NC_000015.10のヌクレオチド38488101~38565575、
-NC_000011.10のヌクレオチド64726911~64745456、
-NC_000002.12のヌクレオチド33436324~33564750、または
-NC_000019.10のヌクレオチド38409051~38426305
の遺伝子配列によりコードされるか、
または、
-NC_000015.10のヌクレオチド38488101~38565575、
-NC_000011.10のヌクレオチド64726911~64745456、
-NC_000002.12のヌクレオチド33436324~33564750、または
-NC_000019.10のヌクレオチド38409051~38426305
の遺伝子配列と少なくとも80%、好ましくは少なくとも90%、さらにより好ましくは少なくとも95%同一の遺伝子によりコードされる、
項目1に記載の使用のためのタンパク質、断片、誘導体またはスプライスバリアント。
(項目3)
前記断片が、5~50個、好ましくは5~20個、より好ましくは10~15個のアミノ酸、さらにより好ましくは15個のアミノ酸を含む、項目1または2に記載の使用のためのタンパク質、断片、誘導体またはスプライスバリアント。
(項目4)
前記断片が、
a)各対応するアミノ酸配列と少なくとも85%、好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%同一であるか、または
b)各対応するアミノ酸配列と少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%相同であるか、または
c)各対応するアミノ酸配列と少なくとも60%、好ましくは少なくとも70%、より好ましくは少なくとも80%、さらにより好ましくは少なくとも90%相同であり、自己HLA対立遺伝子に結合し、T細胞により認識され、および/または前記各アミノ酸配列に結合するかもしくはそれを認識する抗体により認識される、項目2または3に記載の使用のためのタンパク質、断片、誘導体またはスプライスバリアント。
(項目5)
前記断片が、配列番号10~98、好ましくは配列番号10~35を含む群より選択される配列を含み、好ましくは、配列番号10~98、好ましくは配列番号10~35を含む群より選択される配列からなる、前記項目のいずれかに記載の使用のためのタンパク質、断片、誘導体またはスプライスバリアント。
(項目6)
MS、好ましくは初期MSにおける自己抗原への寛容化に適切なヒト被験体を同定するための、前記項目のいずれかに記載の使用のためのタンパク質、断片、誘導体またはスプライスバリアント。
(項目7)
ヒト被験体におけるパターンII MSを診断するための、項目1~5のいずれかに記載の使用のためのタンパク質、断片、誘導体またはスプライスバリアント。
(項目8)
MSの処置、診断および/または予防において使用するための担体であって、項目1~5のいずれかに記載の少なくとも1つのタンパク質、断片、誘導体、スプライスバリアント、ヌクレオチド配列および/または遺伝子配列を含む、担体。
(項目9)
前記少なくとも1つのタンパク質、断片、誘導体および/もしくはスプライスバリアントに結合させており、ならびに/または前記少なくとも1つのタンパク質、断片、誘導体、スプライスバリアント、ヌクレオチド配列および/もしくは遺伝子配列を含有する、項目8に記載の担体。
(項目10)
細胞、好ましくは血液細胞、タンパク質、脂質、糖脂質、ビーズ、ナノ粒子、ウイルス様粒子(VLP)および分子、例えば糖分子およびそれらの任意の組み合わせを含む群より選択される、項目8または9に記載の担体。
(項目11)
前記タンパク質、断片、誘導体および/またはスプライスバリアントが、前記細胞、好ましくは前記血液細胞により発現される、項目10に記載の担体。
(項目12)
前記血液細胞が赤血球または白血球である、項目10または11に記載の担体。
(項目13)
前記担体が血液細胞であり、前記血液細胞が、カップリング剤により、好ましくは1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)-カルボジイミド(ECDI/EDC)により前記少なくとも1つのタンパク質、断片、誘導体および/またはスプライスバリアントに化学的に結合させている、項目10~12のいずれかに記載の担体。
(項目14)
項目13に記載の化学的に結合させた血液細胞を製造する方法であって、ヒト被験体から前記血液細胞を単離すること、前記少なくとも1つのタンパク質、断片、誘導体および/またはスプライスバリアントを追加すること、ならびに続いて前記カップリング剤、好ましくはEDCを追加することを含む、方法。
(項目15)
少なくとも1つの項目1~5のいずれかに記載のタンパク質、断片、誘導体、スプライスバリアント、ヌクレオチド配列および/または遺伝子配列と、薬学的に許容され得る担体とを含む、医薬組成物。
(項目16)
MSを患っているかまたはそれを発症するリスクがあるヒト被験体において自己抗原への抗原特異的寛容を誘導するための方法であって、前記ヒト被験体に、
a)項目1~5のいずれかに記載の少なくとも1つのタンパク質、断片、誘導体、スプライスバリアント、ヌクレオチド配列および/もしくは遺伝子配列、ならびに/または
b)項目8~13のいずれかに記載の少なくとも1つの担体
を適用するステップを含む、方法。
(項目17)
前記少なくとも1つのタンパク質、断片、誘導体、スプライスバリアント、ヌクレオチド配列および/または遺伝子配列が、経鼻、吸入、経口、皮下(s.c.)、体腔内(i.c)、筋肉内(i.m.)、皮内(i.d.)、経皮(t.d.)もしくは静脈内(i.v.)投与により、好ましくは静脈内、皮下、皮内、経皮、経口、吸入、経鼻により適用されるか、または担体、好ましくは赤血球に結合させている、項目16に記載の方法。
(項目18)
初期MSにおける自己抗原への抗原特異的寛容を誘導するための、項目16または17に記載の方法。
(項目19)
MS、好ましくは初期MSにおける自己抗原への寛容化に適切なヒト被験体を同定するための方法であって、前記被験体の血液、CSFまたは他の体液からT細胞および/または抗体を単離すること、ならびに項目1~5のいずれかに記載のタンパク質、断片、誘導体および/またはスプライスバリアントに対する前記T細胞および/または抗体の反応性を測定することを含む、方法。
(項目20)
医薬として使用するための、項目3~5のいずれかに記載の断片、好ましくは項目5に記載の断片。