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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024116149
(43)【公開日】2024-08-27
(54)【発明の名称】ヌクレオソームの定量法
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/64 20060101AFI20240820BHJP
   C12Q 1/68 20180101ALI20240820BHJP
【FI】
G01N21/64 E
C12Q1/68 100Z
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024080549
(22)【出願日】2024-05-16
(62)【分割の表示】P 2021567680の分割
【原出願日】2020-12-25
(31)【優先権主張番号】P 2019234330
(32)【優先日】2019-12-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020204585
(32)【優先日】2020-11-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】508139538
【氏名又は名称】有限会社マイテック
(74)【代理人】
【識別番号】100091465
【弁理士】
【氏名又は名称】石井 久夫
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 裕起
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 克之
(57)【要約】      (修正有)
【課題】細胞アポトーシスにより血液中放出されるヌクレオソームを疾病関連物質とし、血液等の体液から採取されるヌクレオソームをその自家蛍光により定量する方法の提供。
【解決手段】a)試料中プラズモン金属メソ結晶領域を有する測定基板に、体液または細胞を含む培養液(検体)を接触させ、検体中のヌクレオソームをプラズモン金属メソ結晶に電荷捕捉させる工程と、b)このプラズモン金属メソ結晶上の捕捉された細分化ヌクレオソームに励起光を照射してその自家蛍光を表面プラズモン増強効果により増強し蛍光コロニー画像を取得する工程と、c)該蛍光コロニー画像の所定の閾値以上の輝度を示すピクセルを採択する工程と、d)採択された測定領域の所定の波長域での所定の閾値以上のピクセルの総面積値、又は異なる2波長領域の所定の閾値以上のピクセルの総面積値のratioを演算する工程を含む、ヌクレオソームの定量方法。
【選択図】図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)負電荷を有するプラズモン金属メソ結晶領域を有する測定基板を用い、体液または細胞を含む培養液をそのまま又は希釈して作成した検体を接触させ、検体中の正電荷を有するヌクレオソームを疾病関連物質としてプラズモン金属メソ結晶に電荷捕捉させる工程と、
b)このプラズモン金属メソ結晶上の捕捉されたヌクレオソームに励起光を照射して、その自家蛍光を表面プラズモン増強効果により増強し、ヌクレオソームの蛍光コロニーの蛍光画像を一定の測定領域(ROI)を決め、RGBのいずれかの領域の蛍光コロニー画像を取得する工程と、
c)該蛍光コロニー画像の所定の閾値以上の輝度を示すピクセルを採択する工程と、
d)採択された測定領域の異なる2波長領域の、所定の閾値以上のピクセルの総面積値の比率oを演算する工程を含むことを特徴とする正電荷を有するヌクレオソームの定量法。
【請求項2】
プラズモン金属メソ結晶が過酸化銀メソ結晶を含む、プラズモン金属錯体量子結晶の酸化物であって、プラス電荷を有し、かつ表面プラズモン増強効果を有する請求項1記載の定量法。
【請求項3】
前記2波長の一方がB領域の所定の閾値以上のピクセルの総面積値である請求項1記載の定量法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はアポトーシスにより細分化されたヌクレオソームを標的とする自家蛍光の定量法に関する。
【背景技術】
【0002】
アポトーシス細胞ではCAD(カスパーゼ活性化DNase)の阻害因子が分解され、活性化したCADがDNAをヌクレオソーム単位で切断するので、およそ200bpの倍数のDNAとして断片化されるといわれる(非特許文献5)。このヌクレオソームはゲノムDNAが担う遺伝情報とエピジェネティクスの情報の双方を含む。即ち、ゲノムDNAが担う遺伝情報は塩基配列にあるが、塩基配列が同じでも異なる情報を示すことがある。すなわち、私たちの細胞内のDNAは、ヒストンタンパク質に巻きついた形で存在しており、ヒストンタンパク質がアセチル化などの化学修飾を受けるとDNAのありようが変化する。またDNA自身もメチル化などの修飾を受け、それによってはたらきが変わってくる。このような変化を示す遺伝情報をエピジェネティクスというが、一つの個体を構成する様々な細胞が、受精卵から受けついだ同じゲノムDNAを持つにも関わらず異なる機能を発揮するのは、細胞のエピジェネティクスが異なるためである。エピジェネティクスの情報は、分子の付加や消去によってDNAの構造を変え、ゲノムDNAにある遺伝子の発現をオン、オフする、いわばスイッチの役割を果たしている。つまり個体を構成する多様な細胞が正しく働くためには、各細胞の持つエピジェネティクスが重要であるとされる(東北大学教授:有馬隆博著「ヒトから知るエピジェネティクスと進化」)。そのため、自然発生の癌細胞のほとんどに、DNAメチル化とクロマチンの異常があるといわれ、癌細胞では、ゲノム全体のDNAメチル化の低下が染色体不安定性を増大するとともに、プロモーター領域の高メチル化によって癌抑制遺伝子の発現が抑制されることが知られている。ゲノム全体の低メチル化と癌抑制遺伝子の高メチル化は、一見、逆の現象のように見えるが、トランスポゾン等のリピート配列に富むゲノム領域と遺伝子のプロモーター領域では、DNAのメチル化の制御機構が異なることを示唆している。また、核構造異常(核異型)は癌細胞に共通した特徴として知られているが、ゲノム全体の低メチル化によるクロマチンの変化を反映するものと推測されている。このように、癌化におけるエピジェネティックな制御異常は、癌細胞に共通の特性のひとつとして理解することができる。高メチル化された遺伝子の不活性化に関わるMBD1とzinc fingerタンパク質)、癌細胞で高発現して遺伝子制御を変化させるMCAF1、癌細胞の悪性形質に関わる構造的クロマチン因子HMCA1とHMGA2などに着目して、癌のエピジェネティックな異常について解析を進められており(熊本大学発生医学研究所教授:中尾光善著)、各細胞の持つエピジェネティクスを解析することは重要である。
【0003】
ところで、ガンの確定診断は、がん組織の一部を穿刺や内視鏡処理などによって採取し、その組織片の病理組織検査を行う、いわゆる生検法(バイオプシィ)によってなされるのが一般的である。多くの生検法(バイオプシィ)は出血や細菌感染の合併などのリスクを伴う侵襲的な処理であり、また、主要の部位によっては生検が困難なこともある。この課題を克服するために、血液や尿など容易に採取可能な検体を用いて病理診断に匹敵する精度で疾患診断をしようとする試みは、液体生検(リキッド・バイオプシィ)と呼ばれ、その迅速性および簡易性から臨床応用に適切なものとして非常に注目されている。このリキッド・バイオプシィの標的としては、ガン疾患の場合、血中循環腫瘍細胞(circulating tumor cells:CTC)、末梢血循環腫瘍DNA(circulating tumor DNA:ctDNA)以外に、エクソソームや末梢血循環マイクロRNA(microRNA: miRNA)など複数挙げられる。
【0004】
ここで、血中循環腫瘍細胞(CTC) は、原発腫瘍組織または転移腫瘍組織から上皮間葉転換(EMT)を経て血中へ遊離し、血流中を循環する細胞であり、原発腫瘍部位から遊離した後、CTCは血液内を循環し、その他の臓器を侵襲して転移性腫瘍(転移巣)を形成する。このCTCはがん患者の末梢血に存在するため、これを検出することで転移の過程を判断し、治療の予後予測に役立てることができるとされ、期待される。ところが、その他の血液細胞と比較して、CTCはごく微量しか存在せず、検出が非常に困難であるという難点がある。他方、末梢血循環マイクロRNA(miRNA)やそれを含むエクソソームは特に早期診断への有用性が期待されている。なぜなら、マイクロRNAは細胞内でタンパク質へと翻訳される前のメッセンジャーRNA(mRNA)に相補的に結合し、そのmRNAの翻訳を阻害する、いわゆる遺伝子発現のファインチューナーとして様々な生命現象において重要な役割を担っており、ガン細胞ではマイクロRNAの発現制御機構の破綻が生じ、例えば細胞増殖を促進するマイクロRNAなどが高発現していることが知られるためである。また、近年、ほぼ全ての細胞が細胞外小胞(エクソソーム)を分泌しており、早期がん細胞が分泌したエクソソームを体液中から検出することで、早期がんの診断も可能であるとされるためである。したがって、エクソソームを解析対象としても疾患細胞由来のエクソソームを特異的に検出することが望まれるため、超遠心分離による回収に時間を要し、ハイスループット性に難がある。また、上記血中循環腫瘍細胞(CTCs, Circulating Tumor Cells)による診断技術を含め、この種リキッド・バイオプィシィ法は、がん患者検体(末梢血4mL)から赤血球を溶血させた後、CD45抗体ビーズを用いて血液細胞を除去し、サイトケラチン陽性、かつCD45陰性の細胞分画をソートする必要があり、短時間での解析が可能な臨床応用でのリキッド・バイオプシィ法の提供には限界がある(非特許文献1、2及び3)。
【0005】
そこで、本発明者らは、各細胞の持つエピジェネティクス情報を簡易に解析するため、鋭意研究の結果、アポトーシス細胞ではCAD(カスパーゼ活性化DNase)の阻害因子が分解され、活性化したCADがDNAをヌクレオソーム単位で切断するので、およそ200bpの倍数のDNAとして断片化される。このアポトーシス後のヌクレオソームはゲノムDNAが担う遺伝情報とエピジェネティクスの情報の双方を含み、しかも、ヒストンタンパク質がアセチル化などの化学修飾を受けるとDNAのありようが変化する一方、DNA自身もメチル化などの修飾を受け、それによってはたらきが変わってくるといわれる。本発明者は、かかるヌクレオソームは、断片化された後もヒストンタンパク質に巻きついた形(細分化されたヌクレオソーム)で存在し、メチル化され、プラス電荷を有しており、血中で、マイナス電荷を示すプラズモン金属メソ結晶の表面に選択的に吸着捕集され、しかも表面プラズモン増強効果により増強されると、蛍光顕微鏡で確認できる所定以上の輝度を有する自家蛍光を発光して観測可能であることを見出した(図1)。因みに、p53を含むガン抑制遺伝子はエピジェネティクスによりメチル化されており、メチル化されたヌクレオソームを検出することはガン疾病情報として欠かせないにも関わらず、メチル化ヌクレオソームを選択的に捕集することは難しいことであった。しかもアポトーシス後の血中から捕捉される断片化DNA、即ち、細分化されたヌクレオソームはバイオチップ上で幾分凝集してその発する自家蛍光コロニーは夜空の星座のように複数のコロニーとして観測され、小さいものでは、25μm程度の広がり、大きいものでは150μm程度の広がりとして観測された。
【0006】
従前、細胞観察では自家蛍光は背景光となり、蛍光画像の信号雑音比(S/N比)を低下させることになる。そのため、内視鏡検査では標的を蛍光標識する方法が推奨され、蛍光画像から最良のデータを取得するためには、シグナル(蛍光標識されることが望ましいもの)とバックグラウンド(蛍光標識されることが望ましくない自家蛍光など)の差をできる限り大きくすることが必要であった(非特許文献6)。そのため、自家蛍光を用いる蛍光顕微鏡の細胞観測において、自家蛍光の蛍光強度でなく、蛍光のもう一つのパラメータである蛍光寿命を画像化することにより細胞観察することが行われるのが一般的であった(非特許文献7)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
WO2015/170711号公報
特開2011-158369号公報
WO2013/039180号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】末梢血循環腫瘍細胞Circulating Tumor Cells (CTCs) の検出:Circulating tumor cell isolation and diagnostics: toward routine clinical use. Cancer Res 2011;71:5955-60
【非特許文献2】Gorges TM, Pantel K:. Circulating tumor cells as therapy-related biomarkers in cancer patients. Cancer Immunol Immunother 2013;62:931-9.
【非特許文献3】Permuth-Wey J et al., A Genome-Wide Investigation of MicroRNA Expression Identifies Biologically-Meaningful MicroRNAs That Distinguish between High-Risk and Low-Risk Intraductal Papillary Mucinous Neoplasms of the Pancreas., PLoS One., 2015;10:e0116869.
【非特許文献4】Ellen Heitzer, Peter Ulz and Jochen B. Geigl, Circulating Tumor DNA as a Liquid Biopsy for Cancer., Clinical Chemistry 2015; 61:112-123
【非特許文献5】Cell,2016January14;164:Cell-free DNA comprises an in vivo nucleosome footprint that informs its tissues-of-origin
【非特許文献6】自家蛍光内視鏡の現況Vol.58(4)Apr.2016
【非特許文献7】生物物理53(3),166-169(2013)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明者らは、鋭意研究の結果、疾患の発生により血液その他体液中にアポトーシスに代表される病理的な細胞死によって放出されるヌクレオソームを検査の対象とすると、疾患との関連性が深いことに着目した(例えば発がんはガン遺伝子及びガン抑制遺伝子の異常により発生する遺伝子疾患であることは広く受け入れられている事実であるが、メチル化に代表される塩基への修飾によるエピジェネテックスな遺伝子異常によっても発がんすることが明らかになってきており、ガン抑制遺伝子の質的異常だけでなく、高メチル化による量的異常が発ガン機構に重要となっており、ガン細胞で高メチル化を受けるガン抑制遺伝子の活性不活化として、高メチル化したRB遺伝子、p16以外にp14並びにp53の不活化は発ガン機構として注目されている:曽和義弘、酒井敏行著癌とエピジェネティクス)ので、その高メチル化ガン抑制遺伝子を含む、ヌクレオソームを選択的に捕捉し、その量的異常を検出することはガン検診としては重要である。しかもそれらは蛍光画像では図1に示す夜空の星座のように複数のコロニーが観測されるので、プラズモン金属メソ結晶の表面プラズモン増強効果により増強されると、蛍光顕微鏡で確認できる所定以上の輝度を有する自家蛍光を発光し(図1)、所定以上の輝度を示す画素、ピクセルを採択して分析すると疾病に関し、正診率の高い結果が得られることを見出し、本発明を完成した。即ち、本発明が解決しようとする課題は、アポトーシスによって血中に放出されるヌクレオソームを標的とし、組織検体を用いたヒストン修飾解析、クロマチン構造解析により、各種疾病、特にがんの発症につながる、腫瘍の検出や診断を、疾病関連物質として、細分化ヌクレオソームの自家蛍光による迅速にかつ容易に行うための定量法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、a)試料中プラズモン金属メソ結晶領域を有する測定基板に、体液または細胞を含む培養液をそのまま又は希釈して作成した検体を接触させ、検体中のヌクレオソームを疾病関連物質としてプラズモン金属メソ結晶に電荷捕捉させる工程と、b)このプラズモン金属メソ結晶上の捕捉されたヌクレオソームに、レーザ光源による単波長の励起光またはLED光源などからの励起光を、フィルタを介して取得する一定波長幅の励起光を照射して、その自家蛍光を表面プラズモン増強効果により増強し、ヌクレオソームの蛍光コロニーの蛍光画像を一定の測定領域(ROI)を決め、励起光フィルタより長波長域のフィルタを介して蛍光コロニー画像を取得する工程と、c)該蛍光コロニー画像の所定の閾値以上の輝度を示すピクセルを採択する工程と、d)採択された測定領域の所定の波長域での所定の閾値以上のピクセルの総面積値、又は採択された測定領域の異なる2波長領域の、所定の閾値以上のピクセルの総面積値のratioを演算する工程を含むことを特徴とする自家蛍光によるヌクレオソームの定量法にある。
【0011】
本発明において、励起光はレーザ光源による単波長の励起光またはLED光源などからの励起光を,,フィルタを介して取得する一定波長幅の励起光が使用される。観測される蛍光コロニーから所定の輝度の領域を採択するにあたり、ROIを採用する。そして、蛍光コロニー中の所定の閾値以上の輝度のピクセルを採択するのは測定精度を上げるためである。また、本発明において、演算工程では、二値化して採択した所定以上の輝度の蛍光コロニーのピクセルを採択しその総面積を演算する。又は、異なる二波長域の総面積の比率(ratio値)を演算する。所定以上の輝度を有するピクセルがエピジェネティックス情報に応答するためであり、異なる二波長域の比率を求めるのはこのヌクレオソームはゲノムDNAが担う遺伝情報とエピジェネティクスの情報の双方を含むためエピジェネティクスの情報のみをできるだけ採択するためである。したがって、閾値以上の蛍光を発する蛍光コロニーのピクセルを採択し、その総面積値又は異なる二波長領域の比率(ratio値)から少なくとも2段階ガンリスクあり、ガンリスクなしに分け、又は3段階、ガンリスクあり、要観察、ガンリスク低い、に分け、リスク判定が可能となる。他方、採択されるRGBの波長域は、G又はB領域が好ましく、G/B又はB/Gの比率を演算するのが好ましい。蛍光コロニーの分光スペクトルを観測すると、B又はG領域に疾病に特有のピークが観測されるからである。
【0012】
また、本発明において、検出対象として、捕捉される標的は、活性化したCAD(カスパーゼ活性化DNase)がDNAをヌクレオソーム単位で切断した、およそ200bpの倍数のヌクレオソームであって、ゲノムDNAが担う遺伝情報とエピジェネティクスの情報の双方を含むものであり、エピジェネティクスの情報のみを取り出しやすくするため、比率判定を行うのが好ましい。この方法は、捕捉したヌクレオソームをB又はG領域の同一又は異なる二波長域の励起波長で励起されて蛍光コロニーを得、該蛍光コロニーを異なる二波長域のフィルタを介して採取し、そこから採取したピクセルの各総面積値のratioがB領域/G領域又はG領域/B領域である定量法である。
【0013】
検体である体液としては、リンパ液あるいは血液から分離した血漿または血清であって、ヌクレオソームが、ヒストン蛋白に結合してプラス電荷を示すので、選択的に捕捉が可能である。また、検体が、iPS細胞であるときは、iPS細胞のがん化の識別を行うことを対象とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、第1に、疾病関連物質である、活性化したCAD(カスパーゼ活性化DNase)がDNAをヌクレオソーム単位で切断した、およそ200bpの倍数のヌクレオソームを選択的に捕捉し、通常、蛍光診断においてノイズとなる自家蛍光を表面プラズモン増強効果により顕在化して所定の閾値以上の輝度の蛍光コロニーを採択し、所定の閾値以上の蛍光コロニーの総面積値、又はRGB及びそれと相関する2波長比でratio値を演算することにより、疾病の診断、特にがん患者、良性腫瘍患者、健常者の識別を可能とする。一般に、生体タンパクは自家蛍光を有するが、この自家蛍光は標的の蛍光観察においては、シグナル(蛍光標識されることが望ましいもの)のバックグラウンド(蛍光標識されることが望ましくない自家蛍光など)を形成し、ノイズとなる。しかしながら、この生体タンパクの自家蛍光は生体タンパクその物の構造を反映しているので、自家蛍光による構造解析は以下の点で特に有効である。即ち、近年、これまでに行われた解析結果から、がん細胞の発生・進展過程では、ゲノム変化だけでなくエピゲノム変化も多数蓄積しており、エピゲノム修飾は、化学的制御と物理的制御に大別される。化学的制御の代表が「ヒストンコード」と称される種々のヒストンテールの修飾である。ヒストンテールの数十に及ぶアミノ酸に対して修飾が報告されてきたが、こうした修飾単独あるいは組み合わせを認識するクロマチン結合タンパク(reader)が転写制御を担っている。一方、物理的制御としては、一次 (ヌクレオソーム) および高次よりなるクロマチン構造が重要であるとされる。クロマチン構造は正常な細胞分化・発生の過程でダイナミックに変化し (クロマチンリモデリング)、この時空間的な制御が必須であるだけでなく、制御異常が発生異常や癌化などの疾患にも関与しているので、ヒストン修飾では、遺伝子発現を正に活性化する領域(エンハンサー領域)に特徴的にみられるH3リジン27のアセチル化(H3K27ac)及びメチル化が注目される。遺伝子発現状態は転写開始点が存在するプロモーター領域のクロマチン状態とよく相関するが、細胞系譜に特有の遺伝子発現調節においては、エンハンサーのクロマチン状態も深く関与している。また、最近では、H3K27acを指標とするエンハンサー領域が、遺伝子の立体構造形態 (ゲノムトポロジー) においても重要なことが示されている。したがって、臨床組織検体を用いた自家蛍光の観測により、ヒストン修飾解析、クロマチン構造解析により、ガンの早期診断及びがん部位の特定の可能性が示唆される。即ち、細胞遊離DNAが結合したタンパク結合体はDNAがヒストンに巻き付いてヌクレオソームを形成し、ヒストンタンパクがメチル化されると、ヌクレオソーム内のDNAを安定化させる。さらに、DNAのメチル化異常はがん抑制遺伝子が不活性化され、がん発症の原因となるとされる。したがって、循環腫瘍DNA(ctDNA)を含め、アポトーシスにより、血液中に細胞から放出される細胞遊離DNA(cfDNA)を採取して解析することは極めて期待されるリキッド・バイオプシィの標的である。しかしながら、血液中のctDNAを含め、遊離DNA(cfDNA)を捕集することは極めて困難であり、微量であるためPCRが検出の基本になり、変異特異的PCRとデジタルPCRに大別されて検査されている(非特許文献5)。本発明では、DNAは通常マイナス電荷を示し、プラス電荷を示すヒストン蛋白と強く結合し、マイナス電荷を示すプラズモンナノ金属結晶に捕捉される性質を有することに鑑み、これをチップで捕捉し、ラマンスペクトル分光法で検出することを試みた。しかしながら、チップ上に捕捉されるDNAと結合するヒストンタンパク結合体はアポトーシスにより細かく分断されて捕捉されるため、極めて小さく、この捕捉物質を励起光で適切に励起し、増強されて反射されるラマン光を検出することは極めて難しく、簡易迅速にリキッド・バイオプシィ法にて結果を知ることが困難であった。ところが、遊離DNA(cfDNA)を含む疾病関連物質、ヌクレオソームの自家蛍光を表面プラズモン増強効果により顕在化し、所定以上の閾値の輝度を有する蛍光コロニーを基準とすると、総面積値、又はRGB及び/又はそれと相関する2波長比でratio値を演算することにより、疾病の診断、特にがん患者、良性腫瘍患者、健常者の識別を可能とすることがわかった。
【0015】
第2に、本発明によれば、疾病関連物質の選択的捕捉は次のように行われる。
標的とすべきヌクレオソームは、ctDNAを含む、細胞遊離DNA(cfDNA)がヒストンタンパクと結合して最小単位のヌクレオソームまたはそれが高次化したクロマチンとして血中に存在してくる。しかも、ヒストンに巻き付いたDNAはヒストンタンパクと結合し、メチル化することで安定に存在する(前記癌とエピジェネチックスにより、ガン細胞から高メチル化した各種ガン抑制遺伝子:高メチル化したRB遺伝子、p16以外にp14並びにp53が含まれる)。したがって、プラス電荷を示すチップを提供することで、これらを選択的に吸着または捕捉することができる。かかるチップ上に捕捉される物質は特定の励起光により自家蛍光を表面プラズモン効果で顕在化して現れ、これらを蛍光顕微鏡で分析すると、その蛍光波長により、健常者、がん患者、その他の疾患患者を識別できることを見出した。すなわち、健常者の細胞からも細胞遊離DNAがアポトーシスを介して血中に放出されるが、がん細胞からは腫瘍細胞遊離DNAが放出され、これらはそれ自身のメチル化及びヒストンのメチル化で強固に結合し、他の疾患細胞からは疾患特有のヌクレオソームを放出する。これら健常者、がん患者、その他の疾患患者の細胞から放出されるDNAはgeneticな遺伝子異常だけでなく、塩基への修飾によるepigeneticな遺伝子異常が発生しており、各細胞からの放出されるヌクレオソームには化学的又は物理的に相違が見られる。その結果、健常者、がん患者、その他の疾患患者の細胞から放出されるヌクレオソームに自家蛍光の波長に相違がみられることを見出した。また、がん患者から採取したがん関連物質の蛍光波長をより詳細に分類すると、エピゲノム修飾が、その化学的制御と物理的制御に大別され、影響を受けるため、がん原発部位、転移部位により蛍光波長スペクトルまたはスペクトルピークが異なってくる(分光スペクトルによると、がん患者のヌクレオソームには515nm付近にわずかなピークが観測された)。したがって、採択された所定の閾値以上の蛍光コロニーの総面積値、又は2波長域での、採択された所定の閾値以上の蛍光コロニーの総面積値比でratio値を演算することはガンを含め、各種疾病の評価に極めて有効である。
【0016】
第3に、細胞のアポトーシス等の病理的分解により体液、特に血漿又は血清中に放出されるDNAがヒストンタンパク等と結合してタンパク結合体を形成するが、本発明によれば、タンパク結合体の自家蛍光をプラズモン増強により顕在化して蛍光顕微鏡で観察し、疾病の早期診断に役立てることができる。なぜなら、タンパク質の翻訳後修飾異常が種々の疾患の発現と関係するが、がんや生活習慣病,感染症など様々な疾患患者検体に対し簡易迅速にプロテオーム解析を行うことができるからである。本リキッド・バイオプシィ法では、疾患に伴う翻訳後修飾異常の解明が,臨床の現場において即時実行され、治療方針を決定し、個別化医療を実現するための診断バイオマーカとなるばかりでなく,新たな治療薬を開発するための創薬方針の決定時に極めて重要な指針を与える。一般にペプチドの分析においてはサンプルの前処理技術や,修飾基特異的な濃縮技術の改良など,まだ多くの課題が残されているが、本法を活用することにより,翻訳後修飾異常と疾患との関係の解明に役立つ。
本発明によれば、具体的に、これらヌクレオソームは疾患の発生により血液その他体液中にアポトーシスに代表される病理的な細胞死によって放出されるため、疾患との関係が深い。特に、アポトーシス後のヌクレオソーム自体の自家蛍光の特徴が悪性腫瘍ではブルー(B)領域の自家蛍光が強く、良性腫瘍ではグリーン(G)領域の自家蛍光が強く現れるため(図9)、ブルー(B)領域とグリーン(G)領域の輝度の高い面積値をRatio値(B/G又はG/B)で見ると、健常者、良性腫瘍、悪性腫瘍の識別をすることに成功し、ガンの超早期診断、再発判定、転移判定、治療効果のモニタリングが可能となることが分かった(図10)。アポトーシス後の細分化されたヌクレオソームは遺伝子異常により発生するメチル化ヌクレオソームの検出を可能とするため、図11に示す多段階発がん仮説モデルに示すように、本発明の検査レベル(Proteo検査レベル)は現在の画像診断レベル(PET-CT,CT,MRI)以前のガン関連物質の検出に基づき、超早期発見が可能となることがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1はオリンパス製DM(ダイクロイックミラー)405-445/514を用い、得られた蛍光画像を示し、各サンプル毎の輝度の高いポイントを10点を採択する方法を示す。
図2図2はオリンパス製DM405-445/514を使用して取得した470-490nm及び600-620nmの画像を示す。
図3図3はBS10/90使用して取得した分光スペクトルを示すグラフである。
図4図4はシリカゲル乾燥容器で、(a)は血液を遠心分離して得た結晶の滴下状態、(b)はシリカゲルで容器内で血漿を乾燥させた状態を示す。
図5A】本発明第1法の第1工程A:測定チップ(プロテオチップ)の作成の説明図、
図5B】第2工程B:プロテオチップの解析範囲の決定の説明図、
図5C】第3工程C:プロテオチップの(採択した蛍光コロニー)の面積の数値化の説明図である。
図6】本発明第2法の画像取得工程(1)→解析範囲決定工程(2)→蛍光コロニー採択工程(3)→RGB蛍光画像における採択コロニーの合計面積値の算出工程(4)→得られたRGB合計面積からB/G,G/RなどのRatio値の作成工程(5)を示す説明図である。
図7】本発明方法を自動的に行う場合に採用される顕微鏡ステージの説明図である。
図8】本発明のRatio演算方法の概念図を示す。
図9】遠心分離した上澄み液(血漿部分)に存在する断片化したヌクレオソームを本発明のプロテオチップを用いてその自家蛍光を測定した場合の解析方法の説明図である。
図10図9の方法で識別できる健常者、良性腫瘍、悪性腫瘍のRatio値の分布を示すグラフで、y軸高さはB領域/G領域の比率、x軸は検体数を示す。
図11】本発明の断片化ヌクレオソームを検出する場合の検査レベルと現状の画像診断(PET-CT,CT,MRI)を使用する場合の検査レベルを比較する多段階発がん仮説モデルの比較解説図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明に係るリキッド・バイオプシィ法の実施に当たっては、第1法では次の工程を採用するのが好ましい。第1法ではレーザからの単波長励起光またはフィルタで採択した一定波長幅の励起光で捕捉したヌクレオソームを励起し、その蛍光コロニーの所定閾値以上のピクセルの総面積を計測する。
使用機器:キーエンス社、蛍光顕微鏡BZ-X710
光源:メタルハライドランプ80W
蛍光フィルタ:BZ-XフィルタDAPI(460±25nm)
解析ソフト:BZ-X Analyzer
a)がん関連物質の選択的捕捉工程:図5
試料中表面マイナス電荷を示すプラズモン金属メソ結晶領域を有する測定基板:プロテオチップ(図5A(1))に、体液または細胞を含む培養液をそのまま又は希釈して作成した検体を接触させ(図5A(2))、検体中のプラス電荷を示すタンパク結合体を疾病関連物質としてプラズモン金属メソ結晶に電荷捕捉させる(図5A(3))工程
b)蛍光画像取得工程:
(1) がん関連物質が付着したプロテオチップを蛍光顕微鏡にセットし、明視野画像を見ながらチップの測定位置(X,Y軸)を決めて、オートフォーカスボタンをクリックしてチップのフォーカス(Z軸、ピント)を合わせる。測定設定をBZ-XフィルタDAPIに切り替えて蛍光画像の測定を開始する。
このプラズモン金属メソ結晶(直径約8mm)上に捕捉されたタンパク結合体に励起光を照射して、捕捉タンパク結合体の自家蛍光を表面プラズモン増強効果により増強し、蛍光コロニーを蛍光画像(図5B)として取得する工程
c)蛍光コロニーの採択工程:
解析範囲(直径5mm)内にある蛍光コロニーの輝度を二値化して所定の閾値以上の輝度の蛍光コロニーを採択する工程
d)演算工程:
採択された所定の閾値以上の蛍光コロニーの総面積値(図5C)を算出する。ここでは、蛍光の強い物質(青色の付着物、以下の測定条件では輝度値に基づいて二値化閾値13以上とする)を採択し、その面積値を計算する(単位μm)。
面積値から0~19999をガンリスクの低い場合A、20000~29999を要観察B、30000~ガンリスクありの3段階に分類して判定する。
【0019】
図6は本発明の第2法である、蛍光画像からある閾値以上の蛍光コロニーを採択し、RGB及び/又はそれと相関する2波長比でratio値を演算する方法である。図6(1)では1検体につき、RGBの3枚の蛍光画像を取得する。次いで、解析範囲を決め、ROIで囲う(図6(2))。ここで、閾値として「蛍光コロニーの円形度及び輝度」を用い、解析条件を決め、ごみ等を除外する(図6(3))。その後、RGBの蛍光画像から採択した蛍光コロニーの合計面積値を算出する(図6(4))。詳しくは以下の通りである。
一般的な蛍光測定は蛍光色素をつけてその色素特有の蛍光波長で観察するのが一般的である。励起波長や蛍光波長は色素の種類により決まっている波長を設定し測定する。色素を用いた蛍光測定は色素の蛍光を見ていて、物質そのものの自家蛍光を見る測定法ではない。
一方、自家蛍光は物質そのものの化学組成や化学構造、官能基、修飾化合物、生物学的構造などで発すると考えられる。つまり、自家蛍光はそれぞれ物質固有の蛍光波長を持っていると考えられる。本発明ではがん関連物質固有の自家蛍光を見る。一般的な色素の波長ではなくがん関連物質固有の自家蛍光の波長を複数の励起光から測定する方法である。がん関連物質固有の自家蛍光を直接測定するための最適な励起光と蛍光波長を特定した。がん関連物質の自家蛍光を分光しその蛍光波長を分析した結果から、強い自家蛍光を発するRGBの励起光とRGBの自家蛍光の測定する波長を決めた。光源にはLED光源を使用し、オリンパス正立顕微鏡BX-63に蛍光波長フィルタをつけて測定する蛍光波長を限定し蛍光画像を取得した。
具体的には
Bの励起光は375~400nmで蛍光波長は460±25nmの範囲
Gの励起光は470~495nmで蛍光波長は510nm以上の長波長の範囲
Rの励起光は530~550nmで蛍光波長は575nm以上の長波長の範囲である。
Bはがん関連物質の自家蛍光が強く発する励起光と蛍光波長で、Gは良性疾患の自家蛍光が
強く発する励起光と蛍光波長である。がん関連物質が付着したバイオチップをオリンパス正立顕微鏡BX-63にセットし、LED光源と蛍光波長フィルタを上記Bの設定にする。バイオチップのリアルタイム蛍光画像を見ながらフォーカス(Z軸)を合わす。フォーカス(Z軸)と測定位置(X,Y軸)が決まれば、Bの設定の蛍光画像を測定する。次に、LED光源と蛍光波長フィルタを上記Gの設定にし、フォーカス(Z軸)を合わせ先ほどのB設定と同じ測定位置(X,Y軸)に合わし、蛍光画像を測定する。測定位置(X,Y軸)を合わすことにより、チップの同じ位置の同じがん関連物質のそれぞれの蛍光画像を取得することが出来る。同じようにR設定のLED光源と蛍光波長フィルタにして、同じ測定位置(X,Y軸)の蛍光画像を測定する。
解析法
イメージングソフトウェア「cellSens」(日本オリンパス光学社製)を使用して解析を行った。
それぞれの励起光で測定した3種類の蛍光画像のバイオチップに付着した同じ位置の同じがん関連物質をROIで囲って解析範囲を決め、下記RGBの設定範囲の物質の面積値を算出する。Bは輝度値28000~50000の範囲の付着物を選択し、また円形度0.3以下の付着物を除去する設定とした。
Gは輝度値27000~50000の範囲の付着物を選択し、また円形度0.3以下の付着物を除去する設定。
Rは輝度値21000~50000の範囲の付着物を選択し、また円形度0.3以下の付着物を除去する設定。
この輝度値設定範囲は付着物質の自家蛍光の蛍光強度やLED光源の光の強度により範囲を設定した。また円形度0.3で解析することにより、解析ソフトが自動でいびつな形状の異物を除去し解析精度を上げる設定にした。輝度値の範囲は10000~70000の範囲で好ましくは20000~50000程度の範囲で、円形度の範囲は0.9~0の範囲で、好ましくは0.3程度である。蛍光コロニーの状況に応じてこの円形度は調整される。この測定および解析設定により算出されたRGBの面積値からB/G、G/Rなどの2波長比のRatio値を算出し、大腸に関してはB/GのRatio値で悪性腫瘍が1.9~1.0の幅を持ち、良性腫瘍で0.1前後、健常者で0.2~0.8となった。
このように励起光を分けて蛍光測定をすることにより、各励起光におけるより強い自家蛍光の蛍光画像を得ることが出来る。この手法により、バイオチップ上の同じ位置の同じがん関連物質を違う設定の励起光、蛍光波長で測定し解析することより、物質固有の自家蛍光をより多く引き出すことが出来、データの精度を向上することができた。
【0020】
図7は4枚のプロテオチップ(測定基板)をホルダーにセットして測定を自動化する場合の顕微鏡ステージのイメージ図を示す。チップ(1)~(4)の測定位置(X軸、Y軸)を事前に登録し、チップ(1)~(4)のフォーカス(z軸)はそれぞれ主導で合わせる。X,Y及びZ軸が決まれば、チップ4枚のRGB3種類の測定が自動で行われ、4枚のRGB蛍光画像が得られる。
【0021】
検体である体液はリンパ液あるいは血液から分離した血漿または血清であるだけでなく、尿、唾液等を含み、タンパク結合体が、ヒストン蛋白に結合してプラス電荷を示す、細胞遊離DNA(cfDNA)を含み、該細胞遊離DNAは細胞から遊離した循環腫瘍DNA(ctDNA)を含む。疾病関連物質を捕捉するプラズモン金属メソ結晶を励起する光源は腫瘍親和性蛍光物質を励起するのに使用される405nmの波長の励起光を使うのが好ましく、その場合に630nm前後に蛍光波長を観測することができるので、本発明においてもガン関連物質のタンパク結合体の自家蛍光の特徴として630nm前後のピーク波長に着目するのが好ましい。本発明で捕捉したタンパク結合体は循環腫瘍DNA(ctDNA)を含み、ヒストンタンパクと結合したヌクレオソームまたはそれが高次化したクロマチンであって、ヒストンがメチル化の修飾を受けると、自家蛍光によるリキッド・バイオプシィ法のガン診断の標的となる特徴を有している。
【0022】
「試料中表面マイナス電荷を示すプラズモン金属メソ結晶を有するチップ」
本発明方法で用いるプラズモン金属メソ結晶領域を有する基板をプロテオチップという。その製造方法は、以下の通りである(特許文献1参照)。
1)金属錯体水溶液を錯体を形成する金属より卑なる電極電位(イオン化傾向の大きい)金属基板上で電極電位差により化学還元して量子結晶(ナノサイズの金属錯体結晶)を凝集させている。銀錯体の場合、チオ硫酸銀水溶液を銀より卑なる電極電位(イオン化傾向の大きい)の銅または銅合金上で凝集させることにより銀錯体の量子結晶を化学還元法を採用して形成している。詳しくは、金属錯体の水溶液中の濃度は主として形成する量子結晶のサイズを考慮して決定すべきであり、分散剤を使用するときはその濃度をも考慮するのがよく、通常、100ppmから5000ppmの範囲で使用できるが、配位子の機能にも依存してナノクラスタというべきナノサイズを調製するには500から2000ppmの濃度が好ましい。
2)量子結晶を形成する金属錯体は担持金属の電極電位Eと相関する式(I)で示される錯体安定度定数(logβ)以上を有するように選択される。
式(I):E゜=(RT/|Z|F)ln(βi)
(ここでE゜は、標準電極電位、Rは、気体定数、Tは、絶対温度、Zは、イオン価、Fは、ファラデー定数を表す。)
ここで、金属錯体が、Au、Ag、PtまたはPdから選ばれるプラズモン金属の錯体である場合は、励起光に対して局在表面プラズモン共鳴増強効果を有する。特に、金属錯体が銀錯体であるときは、安定度定数(生成定数)(logβi)が8以上の銀錯化剤とハロゲン化銀との反応により形成されるのがよく、ハロゲン化銀としては塩化銀が好ましく、錯化剤としてはチオ硫酸塩、チオシアン酸塩、亜硫酸塩、チオ尿素、ヨウ化カリ、チオサリチル酸塩、チオシアヌル酸塩から選ばれる1種であるのが好ましい。銀錯体は平均直径が5~20nmであるナノクラスタからなる量子ドットを有し、量子結晶のサイズが100~200nmとなる。
3)本発明で用いるプロテオチップにおける、プラズモン金属メソ結晶とは、プラズモン金属錯体の量子結晶の酸化物であり、血中でプラスに帯電するメチル化ヌクレオソームを電荷で補足するに必要なマイナス帯電で、励起光の照射により表面プラズモン増強効果を発揮し、補足したメチル化ヌクレオソームの自家蛍光を増強する効果を有するものをいう。銀錯体量子結晶の場合、アルカリ処理(次亜塩素酸ナトリウム水溶液で処理)すると、以下の反応により銀ハロゲン化物を核として過酸化銀を含み、銀酸化物の複合物の針状ナノ結晶群が形成されるものと思われ(特許文献1の図5)、しかも水中で(-)荷電を帯びる一方、DNAが巻き付いたヒストンが(+)荷電を帯びるため(特許文献1の図7(a))、この遊離ヌクレオソームに代表される正電荷を帯びたがん関連物質を選択的に吸着することが見出された。しかも過酸化銀を含む銀酸化物の針状ナノ結晶群は、レーザ光に代表される励起光の照射により表面プラズモン増強効果を示し、吸着されたヒストンに代表されるがん関連物質の自家蛍光を検出するのに好ましいことが見出されている。
Na2S2O3+4NaClO+H2O→Na2SO4+H2SO4(2NaHSO4)+4NaCl
Ag++NaCl→ AgCl + Na+
Ag++3NaOCl→ 2AgCl + NaClO3 + 2Na+
Ag++OH- → AgOH
2Ag++ 2OH- → Ag2O+H2O
4)本発明の銀酸化物の複合針状ナノ結晶群は、過酸化銀を含む銀酸化物が自己組織化してニューロン状の三次元超構造体(メソ結晶)を形成するもので(特許文献1の図8及び9)、銀イオン水溶液をAg/AgCl電極を用いて定電位電析を行って、又は銀の量子結晶をアルカリ処理で酸化することにより形成することができるが、銀錯体量子結晶、例えばチオ硫酸銀量子結晶をアルカリ処理(次亜塩素酸ナトリウム水溶液で処理)することによって容易に形成することができる。
5)疾病関連物質を吸着することができる限り、蛍光標識マーカーの高度検出と感度と迅速性を実現するピッチ350nmの周期構造をもつ基板に銀と酸化亜鉛の薄膜を成膜してなるプラズモニックチップ(特許文献2)や金属ナノ粒子を有機溶媒中に分散させ、有機溶媒を揮発させて金属ナノ粒子を二次元方向に自己組織化して粒系の揃った銀ナノ微粒子からなる局在プラズモン蛍光増強シート(特許文献3)を用いてもよい。
【0023】
「本発明で用いる検体」
血液を含む体液から検体を作成する。赤血球は強い自家蛍光を示すので、遠心分離して血漿をのみを取り出すのがよい。疾患関連物質としてガン疾患の場合は、10~50倍希釈してヌクレオソームの自家蛍光を測定しやすくするように希釈率を決定する。リン青銅上におよそ1000ppmのチオ硫酸銀錯体水溶液を滴下して作成したチオ硫酸銀錯体量子結晶をアルカリ処理して酸化形成した銀酸化物メソ結晶に対しては20~30倍希釈が望ましい。細胞の場合は機械的破砕がその物性を変化させないので好ましい。そして、ここで都合のいいことには、ヌクレオソームは安定なタンパク結合体(Protein-bound DNA fragments: nucleosome or chromatin)を形成し、比較的強い正電荷を示す。それ故、負電荷を示し、かつ励起光により表面プラズモン増強効果を示すプラズモン金属メソ結晶に選択的に捕捉され、しかもヌクレオソームは安定であるため、真空乾燥又は乾燥剤(シリカゲル)乾燥後保存して蒸留水等に再溶解しても乾燥前のタンパク結合体の自家蛍光の特徴を再現することができる。乾燥剤(シリカゲル)乾燥ではこれは現場での採血、遠心分離での血漿の採取だけでなく、図4に示すように、容器内で乾燥させ、郵送での検査依頼を可能とするものとなる。また、全ての疾患には異常たんぱく質の蓄積を原因とする場合が多く、例えば、アルツハイマー病、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症、ハンチントン病などの神経変性疾患に共通する特徴は、神経細胞内に凝集した異常タンパク質の蓄積によるものである。異常タンパク質は細胞毒性を持つため、神経細胞変性や細胞死を引き起こす。ほとんどの異常タンパク質は、ユビキチン化によって目印がつけられプロテアソームで分解されるが、プロテアソームは凝集した異常タンパク質を壊すことができず、神経変性疾患における神経細胞では、ユビキチン化された異常タンパク質の凝集体が蓄積していることから、異常タンパク質の検出ががん以外の疾病関連物質の検出として、リキッド・バイオプシィ法を用いて可能であることが示唆されるところである。さらに、iPS細胞はガン化遺伝子DNAを含む場合があるので、検体とし、以下の自家蛍光で、iPS細胞のがん化の識別を行い、除去することもできる。
【0024】
「蛍光画像取得工程」
ここでは、上記プラズモン金属メソ結晶基板上に捕捉されたヌクレオソームに励起光を照射して、捕捉ヌクレオソームの自家蛍光を表面プラズモン増強効果により増強し、蛍光コロニーを蛍光画像として取得する。
励起光としては正常組織と病変組織でその集積・排出特性が異なるヘマトポルフィリン誘導体(腫瘍親和性蛍光物質)を励起するに適するとされる405nmの励起光のレーザ光源を用いた。タンパク結合体は血液を採取して遠心分離にかけ、得られる血漿を蒸留水で30倍希釈して用いた。
c)蛍光コロニーの採択工程:
オリンパスDM(ダイクロイックミラー)405-445/514を用い、図1の結果が得られたので、各サンプル毎の輝度の高いポイントを例えば10点(疾病に応じ、採取ポイント数は決められる)抽出し、中心付近に円形のROIを作成し、スペクトルデータを算出した。蛍光コロニーの10点採択は専用ソフト「cellSens」で二値化し、所定の閾値以上の輝度の蛍光コロニーを採択する。
その他の画像取得条件は次の通りである。
レーザ: 405nm 50%
対物レンズ: 10倍(MPLFLN10×)
ピンホール径:500nm
取得波長:460-504nm
スリット幅:4nm
ステップ:2nm
解像度:1024×1024
平均化:4回
d)演算工程:
採択された所定の閾値以上の蛍光コロニーのピクセルの総面積値、又はRGB及びそれと相関する2波長域でのピクセルの総面積比でratio値を演算する。
その結果、総面積値ならびに異なる波長域の総面積のRatio値により健常者、良性腫瘍、悪性腫瘍を識別することができる。また、R、G、Bの2波長の比率及びそれと相関する2波長の比率(ratio)により健常者、良性腫瘍、悪性腫瘍を識別する。
オリンパス製DM405-445/514を使用して470-490nm及び600-620nmの画像を取得し、Ratio値に変化があるかどうか確認した結果、図2の結果を得た。前立腺に関し、G/Rで良性腫瘍の場合2.0前後、健常者で1.70前後、悪性腫瘍で1.76を超え、1.86までの幅を持ち、ステージとの関連を示すことがわかった。この結果はサンプル数の増加によりデータ精度を向上させることができる。
また、ポイントごとの輝度が異なるため、各波長での輝度を470nmの輝度を100%とした割合にて表示し、10ポイントの平均値をサンプル毎のデータとしてグラフを作成した。また、図3のように610nm前後の波長にがん関連物質のピークが存在することを確認できた。
【0025】
「標的対象とその蛍光顕微鏡で観測される捕捉標的対象の自家蛍光画像」
本発明ではガン疾患及びその他の疾患で異常に発生するヌクレオソームを検出対象とする。この種疾患に関連するタンパク結合体は、正電荷を有することよりプラズモン金属メソ結晶に選択的に捕捉され、励起光の照射によりプラズモン金属メソ結晶の表面プラズモン増強効果により増強され、蛍光顕微鏡で確認できる所定以上の輝度を有する自家蛍光を発光することが見出されている(図1)。これらのタンパク結合体は疾患の発生により血液その他体液中にアポトーシスに代表される病理的な細胞死によって放出され、図1に示す夜空の星座のように複数のコロニーが観測され、小さいものでは、25μm程度の広がり、大きいものでは150μm程度の広がりとして観測される。アポトーシス細胞ではCAD(カスパーゼ活性化DNase)の阻害因子が分解され、活性化したCADがDNAをヌクレオソーム単位で切断するため、およそ200bpの倍数のヌクレオソームとして捕捉されるためである。詳しくは、ヒト血漿中の細胞遊離DNA(cfDNA)はヒストンまたはTFと関連するタンパク質結合として血中に放出され、優先的に生き延び、健常者では主に骨髄系リンパ系の細胞系に由来するが、特定の病状では1つまたは複数のさらなる組織からの寄与が考えられており、がんなどの病理学的状態におけるcfDNAから細胞タイプを推測するヌクレオソームの足跡(footprint)を含み、その組織の起源を知らせる(非特許文献5:Cell,2016January14;164:Cell-free DNA comprises an in vivo nucleosome footprint that informs its tissues-of-origin)が明らかにされている。因みに,腫瘍の悪性度がより高度な懐死に結び付き、循環血液中に腫瘍DNA(ctDNA)が増加することが報告されており、血漿DNAがヌクレアーゼで切断されたヌクレオソームに類似した予測可能な断片化パターンを示し、健常者とガン患者でcfDNAのサイズ分布を評価でき、血漿中のcfDNAが腫瘍形成や転移の進行に関与することも報告されており、リキッド・バイオプシィの診断バイオマーカ―としてcfDNAの重要性が明らかにされている(非特許文献4:Circulating Tumor DNA as a Liquid Biopsy for Cancer; CliminalChemistry 2015;61:112-123)。
【0026】
ところで、がんの発生はがん遺伝子及びがん抑制遺伝子の異常により発生する遺伝子疾患であることは広く受入れられている事実であり、塩基配列の変異、欠失によるgeneticな遺伝子異常だけでなく、塩基への修飾によるepigeneticな遺伝子異常によってもがんの発生が起こることが明らかになっている。このepigeneticな遺伝子への影響は主に遺伝子の転写制御機構に作用すると考えられており、ゲノムDNAのメチル化修飾と、ゲノムDNAと複合体を形成するヒストンタンパク質のアセチル化修飾やメチル化修飾とがある。したがって、このcfDNAのヒストンタンパクとの結合体の検出はgeneticな遺伝子異常だけでなく、塩基への修飾によるepigeneticな遺伝子異常を検出することで、健常者と
がん患者を区別することができるだけでなく、がん発生部位の識別性が示唆される。
【0027】
(がん関連物質の選択的捕捉)
血清中のがん関連物質としてヌクレオソームは、DNAがひと巻きされたヒストン(ヌクレオソーム)、それらが集まりひも状になった構造のクロマチン(線維)を含む。グロブリンも正電荷を帯びるが、その増加は他のがん関連物質に比べて最大2倍以下であるのに対し、本発明で検知される物質はがん進行に伴う増加が100倍以上に達するので、グロブリン以外の増加はがん関連物質が検知されているとされ、採択された蛍光コロニーの一定閾値以上のピクセルの総面積はガンのステージと関連することを物語る。
【0028】
以下図面を参照して、本発明の実施形態を詳細に説明する。
(実施例1)
チオ硫酸銀1000ppm水溶液を調製し、その1滴をりん青銅板上に滴下し、約3分間放置し、溶液を吹き飛ばすと、SEM像でみると、量子結晶が作成されていた。実施例1で製造したナノ粒子凝集体(量子結晶)の各種SEM像を示す写真(特許文献1の図1参照)では、100nm前後の薄い六角柱状結晶であって、表面に数nmオーダの凹凸が発現している。金属ナノ結晶に特有のファセットは確認できなかった。りん青銅坂上に滴下後の放置時間と量子結晶形状の関係を示す写真(特許文献1の図6)では、まず、六角形の量子結晶が生成し、形状を維持しつつ成長するのが認められ、量子結晶のEDSスペクトル(元素分析)の結果を示すグラフ(特許文献1の図4)では、りん青銅板上に形成された結晶は銀及び錯体配位子由来の元素を検出したが、銅板上にチオ硫酸銀1000ppm水溶液を調製し、その1滴を滴下し、約3分間放置し、溶液を吹き飛ばした場合は、銀のみを検出したに過ぎなかった。
【0029】
(量子結晶の作察)
量子結晶は1000ppmチオ硫酸銀錯体水溶液の場合、りん青銅板上に滴下して3分間放置すると、100nm前後の六角柱状に形成され、各六角柱状の量子結晶は数nmオーダの凹凸を持つことがSEM像から確認されたが、金属ナノ結晶に特有のファセットは確認できず、EDS元素分析で銀及び錯体配位子由来の元素を検出されたため、全体は銀錯体のナノ結晶であって、その表面に現れる凹凸は錯体中の銀がクラスタとして量子ドットを形成して広がっていると推測される。本発明の銀錯体量子結晶がりん青銅板上に形成される一方、銅基板上には銀のみのナノ粒子が析出する現象を見ると、チオ硫酸銀錯体の平衡電位が0.33で銅の電極電位(0.34)と同等であるため、銅基板上には銀(0.80)のみが析出し、りん青銅の場合は0.22と電極電位がわずかに卑であるため、銀錯体の結晶が析出したものと思われる。したがって、量子結晶を作成するためには1)錯体水溶液が500~2000ppmという希薄な領域であること、2)金属錯体水溶液の平衡電位に対し担持金属の電極電位がわずかに卑であること、3)電極電位差で金属錯体が凝集させることが重要であると思われる。また、1000ppmチオ尿素銀錯体水溶液を使用した場合も同様であった。
【0030】
(銀酸化物のメソ結晶についての考察:その1)
上記量子結晶基板に5%次亜塩素酸ソーダ水溶液を滴下して2分間処理して除去すると特許文献1の図11に示す結晶構造が見られ、針状の結晶とラクビーボール状の塊と大きい塊が見られたので、それぞれの組成をEDSスペクトル(元素分析)で分析すると、以下の反応式から針状の結晶はともに塩化銀と酸化銀の複合結晶からなるものと考えられるが、特許文献1の図7の結果は塩素は確認できず、銀と酸素が支配的であることがわかる。Na2S2O3+4NaClO+H2O→Na2SO4+H2SO4+4NaCl (1)
Ag++NaCl→ AgCl + Na+(2)
Ag++3NaOCl→ 2AgCl + NaClO3 + 2Na+ (3)
Ag++OH- → AgOH (4)2Ag++ 2OH- → Ag2O +H2O(5)
したがって、本発明に係るメソ結晶の形成には銀イオンとチオ硫酸イオンが塩素イオンの存在下にアルカリ酸化反応により生ずるものと思われるが、通常の水溶液中では酸化銀が形成されるに過ぎないが、以下のXPS測定から過酸化銀が支配的に形成されていると推測される。
【0031】
(銀酸化物のメソ結晶についての考察:その2)
XPS測定:
上記量子結晶基板に次亜塩素酸ナトリウム水溶液25μlを2分間滴下し、
再結晶基板を作り、エッチングせずそのまま(使用機種:アルバック・ファイ(株)/PHI5000VersaProbeII(走査型X線光電子分光分析装置))でAgとOとをXPS測定した。また、比較対象のため、酸化銀の粉と塩化銀の粉のAgを測定した。他方、再結晶基板をアルゴンガスクラスターイオン銃で5分間エッチングしてAgとOをXPS測定した。XPS測定結果(特許文献1の図9及び図10)をEDSの結果(特許文献1の図8)から推測して、529eV付近のピークは過酸化銀(AgO)に由来するOピークで、530eV付近のピークは酸化銀(Ag2O)に由来するOピークであると認められる。エッチングした場合に、酸素量は減少するが、529eV付近のピークの過酸化銀(AgO)に由来するOピークが、530eV付近のピークは酸化銀(Ag2O)に由来するOピークよりも大きいことは基板近傍に過酸化銀が形成されているのを物語るものといえる。これは、メソ結晶形成時の触媒作用と基板の電極電位が影響しているものと推測される。 なお、EDS測定は上記再結晶基板を使用機種:日本電子株式会社/JSM-7001F(電界放出形分析走査電子顕微鏡)を用いて行った。
また、チオ硫酸銀の量子結晶を次亜塩素酸水溶液、0.01規定苛性ソーダ水溶液、0.01規定塩酸水溶液、0.1モル炭酸ナトリウム水溶液で処理しても同様の結果は得られなかった。よって、この針状結晶の形成には銀イオンとチオ硫酸イオンの存在下に上記反応により生ずるものと思われる。酸化銀は水溶液中で負電荷を帯び、光により還元されて金属銀を析出させる。過酸化銀はその傾向が顕著なので、正電荷のがん関連物質を吸着し、しかも吸着したがん関連物質と銀粒子との間の表面プラズモン増強効果が得られるものと思われる。
【0032】
(ヌクレオソームの画像診断)
ヌクレオソームはクロマチンの基本的構成単位で、4種のヒストン(H2A、H2B,H3、H4)からなるヒストン8量体にDNAが巻きついた構造をしているが、ヒストンはDNAをパケージングするという役割に加え、DNAのアクセシビリティを調節すること及び、遺伝子制御にも重要な役割を果たしている。ヒストンの翻訳後修飾により、DNAやその他の核蛋白質との相互作用が制御され、可逆的な遺伝子発現に影響を及ぼす。ヒストン修飾の種類として、メチル化、アセチル化、リン酸化、ユビキチン化、SUMO化、シトルリン化、ADPリポシル化、が主として知られている。ヒストンの配列中、どの部位がこれらの修飾を受けるかによって、周囲の遺伝子発現は活性化または抑制される。こうしたヒストンの翻訳後修飾部位の組み合わせと遺伝子発現への影響を各種ヒストンコード関連抗体(Genetex社抗ヒストン抗体)を使用すると、本発明のプラズモニックチップで捕捉されたヒストンコードの修飾された状態を、蛍光画像で観測すると、ヒストンコード仮説の検証を行うことができる。
【0033】
このクロマチン構造制御にDNAメチル化が深く関与すると考えられている。DNAメチル化が高密度に見られるゲノムDNA部位では、一般にクロマチン構造が強固になり、転写抑制やDNA変異率の低減が見られる。またゲノムDNAのメチル化パターンとゲノムインプリンティング、X染色体不活性化や細胞の腫瘍化には明確な相関が見られるからである。したがって、ヌクレオソームにおけるヒストンおよびクロマチンの構造解析はがんとの関連を説く鍵を握っており、ヒストンテールを化学修飾する因子を解析することは重要な意義を持っているといえる。本発明のプラズモニックチップを用いると、がん関連物質としてヌクレオソームをトラップすることにより、その捕捉される結晶の多少によりがん症状の存否が蛍光画像診断により判断することができる。そして、そのがん症状がどの臓器のがんであり、その進行状態がどの程度であるかをヒストンテールの化学修飾、リモデリング因子を解析することにより判定することができる。このため、分光の条件として、445nmの波長のレーザ光を用い、レーザ用ミラーオリンパス製「BS10/90」を使用し、455~655nmの範囲で5nmずつ分光スペクトルを測定していくと、大腸がん患者の血液から採取したサンプルで515nm付近にピークが観測され、健常者の血液から採取したサンプルではそのピークが観測できず、分光によりどの臓器のがんであるかを単独で、又はRGB領域での所定閾値以上のピクセルの総面積又はRGB領域での二波長域での所定閾値以上のピクセルの総面積の比率G/G,G/Bなどを勘案して決定できるものと思われる。そして、このクロマチンリモデリング事象を通してどのようにがんが発生し、進展していくかに関する情報は、そのようながんがどのように特定の化学療法剤に反応しそうかということを臨床医がより正確に予測することを可能にし、この方法で、腫瘍の化学感受性の知識に基づく化学療法を合理的に設計することができる。
【0034】
なお、本発明では、RGBで得られる蛍光画像から2波長域での所定閾値以上のピクセルの総面積比のRatio値を算出したが、Gで得られた蛍光画像では良性腫瘍が高くなる傾向にあり、Bで得られた蛍光画像では悪性腫瘍が高くなる傾向がある。そのため、実施例では、前立腺に関して、G/RでRatio値を解析すると、良性腫瘍で2.0前後、健常者で1.7、悪性腫瘍で1.76から1.86までの幅を持つ結果となり、他方、大腸に関して、B/GでRatio値を解析すると、悪性腫瘍で1.9から2.0の幅を持ち、健常者で0.2から0.8、良性腫瘍で0.1前後となった。
【0035】
(G領域短波長域/G領域長波長域のピクセル比率)
光源にはLED光源(XYLIS製波長360~770nm)を使用し、オリンパス正立顕微鏡BX-63に以下の蛍光波長フィルタをつけて測定する蛍光波長を限定し蛍光画像を取得した。各波長域の所定の閾値以上のピクセルを採択し、その総面積を採択するのは上記と同様である。
9名の大腸検査患者の試料(血液から遠心分離して採取した血漿)を上記バイオチップ上に滴下して検体を作成し、分子側のG領域および分母側G領域の所定閾値以上のピクセルの総面積を求めた。分子側の励起光のフィルタとしてBP470~495nmを用い、蛍光フィルタとしてBA510~550nmを用いた。上記ミラーユニットを用いて得られる蛍光画像の所定以上の閾値のピクセルを採択してRatioの分子としてピクセル総面積を算出する。
他方、分母側の励起光のフィルタとしてBP460~480nmを用い、蛍光フィルタとしてBA495~540nmを用いた。上記ミラーユニットを用いて得られる蛍光画像の所定以上の閾値のピクセルを採択してRatioの分母としてピクセル総面積を算出する。以上のG領域分子/G領域分母のRatioを算出し、別途検査で決定したステージと比較すると、以下の表1の通りであった。これにより、本発明方法で得られる結果は実際の検査で決められる悪性/良性及びステージと密接な関係が見られることが分かった。
【0036】
【表1】


図1
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図5A
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