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▶ オットー−フォン−ギューリッケ−ウニヴェルジテート・マクデブルクの特許一覧

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024116201
(43)【公開日】2024-08-27
(54)【発明の名称】密度が最適化されたモリブデン合金
(51)【国際特許分類】
   C22C 27/04 20060101AFI20240820BHJP
   B22F 1/14 20220101ALI20240820BHJP
   B22F 3/15 20060101ALI20240820BHJP
   C22C 1/04 20230101ALI20240820BHJP
【FI】
C22C27/04 102
B22F1/14 400
B22F3/15 M
C22C1/04 D
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024088113
(22)【出願日】2024-05-30
(62)【分割の表示】P 2020567901の分割
【原出願日】2019-06-04
(31)【優先権主張番号】102018113340.5
(32)【優先日】2018-06-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(71)【出願人】
【識別番号】514050308
【氏名又は名称】オットー-フォン-ギューリッケ-ウニヴェルジテート・マクデブルク
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【弁理士】
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】マンヤ クリューガー
(57)【要約】      (修正有)
【課題】公知のMo-Si-B合金系よりも低い密度を有し、ひいては有利に回転又は飛行用途のための、殊に航空技術及び宇宙技術における構造材料として、例えばタービン材料として使用することができる、Mo-Si-Bをベースとする合金系を提供する。
【解決手段】ケイ素5~25原子%、ホウ素0.5~25原子%及びバナジウム3~50原子%並びに残部モリブデンを有するモリブデン合金であって、前記モリブデン合金が、モリブデン-バナジウム混晶マトリックス及びその中に分布した少なくとも1種のケイ化物相を有し、かつ前記モリブデン合金の密度が8g/cm未満である、前記モリブデン合金とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケイ素5~25原子%、ホウ素0.5~25原子%及びバナジウム3~50原子%並びに残部モリブデンを有するモリブデン合金であって、
前記モリブデン合金が、モリブデン-バナジウム混晶マトリックス及びその中に分布した少なくとも1種のケイ化物相を有し、かつ前記モリブデン合金の密度が8g/cm未満である、前記モリブデン合金。
【請求項2】
少なくとも1種のケイ化物相が、(Mo,V)Si、(Mo,V)SiB及び(Mo,V)Siから選択されている、請求項1に記載のモリブデン合金。
【請求項3】
ケイ素5~25原子%、ホウ素0.5~25原子%及びバナジウム10~50原子%並びに残部モリブデンを有し、前記モリブデン合金が、モリブデン-バナジウム混晶マトリックス及びその中に分布した少なくとも1種のケイ化物相を有し、前記の少なくとも1種のケイ化物相が、(Mo、V)Si、(Mo,V)SiB及び(Mo,V)Siから選択されており、かつ前記モリブデン合金の密度が8g/cm未満である、請求項1又は2に記載のモリブデン合金。
【請求項4】
さらにチタン(Ti)を0.5~30原子%の量で含有する、請求項1~3のいずれか1項に記載のモリブデン合金。
【請求項5】
Tiの含有率が0.5~10原子%である、請求項4に記載のモリブデン合金。
【請求項6】
さらに、Al、Fe、Zr、Mg、Li、Cr、Mn、Co、Ni、Cu、Zn、Ge、Ga、Y、Nb、Cd、Ca、及びLaからなる群から選択される1種又は複数の合金元素を、それぞれ0.01原子%~15原子%の含有率で、及び/又はHf、Pb、Bi、Ru、Rh、Pd、Ag、Au、Ta、W、Re、Os、Ir及びPtからなる群から選択される1種又は複数の合金元素をそれぞれ0.01原子%~5原子%の含有率で含有する、請求項1~5のいずれか1項に記載のモリブデン合金。
【請求項7】
バナジウムの含有率が10~40原子%である、請求項1~6のいずれか1項に記載のモリブデン合金。
【請求項8】
ケイ化物相の割合が少なくとも30%である、請求項1~7のいずれか1項に記載のモリブデン合金。
【請求項9】
前記合金が、Mo-V混晶マトリックス及びその中に分布した(Mo,V)Si及び/又は(Mo,V)SiBを有する組織を有する、請求項1~8のいずれか1項に記載のモリブデン合金。
【請求項10】
さらに、相(Mo,V)Siが存在する、請求項9に記載のモリブデン合金。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか1項に記載のモリブデン合金を製造する方法であって、
出発元素を第1工程において機械的合金化し、続いて第2工程においてFAST(電場支援焼結技術)法によるか又はホットアイソスタチックプレス法によって圧密化する、前記方法。
【請求項12】
回転又は飛行用途のための、殊に航空技術及び宇宙技術における、構造材料として、及びタービン材料としての、請求項1~10のいずれか1項に記載のモリブデン合金の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モリブデン-ケイ素-ホウ素(Mo-Si-B)をベースとする、密度が最適化され、かつ耐高温性の合金、その製造方法及び構造材料としてのその使用に関する。
【0002】
前記の三元Mo-Si-B合金系は、1000℃を明らかに上回る温度での使用を可能にする、極めて高い溶融温度を有する(2000℃を超える)だけでなく、さらにまた、良好な耐酸化性、傑出した耐クリープ性及び十分な延性-脆性転移温度及び破壊靭性においても優れている。
【0003】
これらの特性に基づいて、該三元Mo-Si-B合金系は、殊に、極めて高温で運転される構造部材の製造用の構造材料、例えばガスタービンにおけるタービンブレード及びディスクとして、航空技術及び宇宙技術における高い応力を受ける構造部材に、しかしまた成形技術における工具にも適している。
【0004】
前記の高温使用にとって特に有利であるのは、ケイ化物割合が50%より大きい場合に、この合金系の極めて良好な耐酸化性である。したがって、酸化を防止するための保護措置、例えば保護ガスの使用又は保護層の適用は、粉末冶金法により製造された材料又は別の方法で製造された、10μm未満の粒度及び均質な相分布を有する極めて微粒状の材料の場合に省くことができる。
【0005】
耐火金属としての純モリブデンは、2623℃の融点を有し、原則的に高温用途に適している。しかしながら、問題は、600℃を上回る温度ですでに低いその耐酸化性である。
【0006】
モリブデンへのケイ素及びホウ素の合金化と、それと結び付いたケイ化物の形成とにより、その耐酸化性の有意な増加が達成された。この種の耐酸化性の三元Mo-Si-B合金は、例えば、欧州特許第0804627号明細書(EP 0 804 627 B1)に記載されている。この三元合金系は、540℃を上回る温度で、ホウ素-シリケート層を形成し、該層は、その固体もしくは構造部材中への酸素のさらなる浸透を防止する。
【0007】
西独国特許出願公開第2534379号明細書(DE 25 34 379 A1)は、とりわけバナジウムも含有していてよい、Mo-Si-B合金に関する。しかしながら、これらは、高い熱安定性において優れている、すなわち、高温でも安定であり、かつ結晶化し始めない非晶質合金である。
【0008】
西独国特許出願公告第1155609号明細書(DE 11 55 609 A)には同様に、必須成分としてホウ化クロム、ホウ化チタン及びホウ化ジルコニウムから選択される少なくとも1種の金属ホウ化物を含有し、かつSi、B並びにVを有していてよい、Mo合金が記載されている。明示的に挙げられた多数の実施例のいずれも、Moに加えてVも含有しない。ここではもっぱら、その耐酸化性及び強さの増大を目的にしているが、しかしながら、本発明により望まれているような靭性の改善を目的にしていない。
【0009】
国際公開第2005/028692号(WO 2005/028692 A2)には、本質的な成分としてケイ化Mo及びケイ化Mo-Bを有するMo-Si-B合金が記載されている。選択的に、Moと混晶を形成するさらなる元素を含有していてよく、その際にとりわけバナジウムが挙げられている、Mo混晶が存在していてもよい。しかし、ここでは、前記の1種以上のさらなる元素は、もっぱら該混晶中に存在するが、該ケイ化物中に存在しない。
【0010】
米国特許出願公開第2016/0060734号明細書(US 2016/0060734 A1)によれば、三元Mo-Si-B合金の密度は、明らかにより軽い金属Tiによる重金属Moの部分的な交換によって低下させることができる。しかしながら、TiによるMoの部分的な置換が、その耐酸化性を損なうことが指摘される。この補償のために、さらなる元素、例えば鉄及び/又はイットリウムを添加しなければならない。
【0011】
前記で示された傑出した特性プロファイルに関して、この三元Mo-Si-B合金系は、回転又は飛行用途のためにも、高温での構造材料として、例えばタービン材料として、大いに有望な候補であったかもしれない。
【0012】
この種の用途の、しかし他の用途でも、欠点はここでは、典型的には8.5~9.5g/cmである高い密度である。例えば、合金Mo-9Si-8Bは、9.5g/cmの密度を有する。
【0013】
したがって、本発明の課題は、公知のMo-Si-B合金系よりも低い密度を有し、ひいては有利に回転又は飛行用途のための、殊に航空技術及び宇宙技術においても、構造材料として、例えばタービン材料として、使用することができる、Mo-Si-Bをベースとする合金系を提供することであった。さらに、該合金系は、該三元合金系Mo-Si-Bの利点を、殊にその耐酸化性に関して、維持すべきである。
【0014】
この課題は、ケイ素(Si)5~25原子%、ホウ素(B)0.5~25原子%、バナジウム(V)3~50原子%並びに残部モリブデンを有する合金系によって解決され、ここで、該モリブデン合金が、モリブデン-バナジウム混晶マトリックス及びその中に分布した少なくとも1種のケイ化物相を有し、かつ該モリブデン合金の密度が8g/cm未満である。
【0015】
好ましい実施態様によれば、該モリブデン合金は、10~50原子%のバナジウム含有率並びに(Mo,V)Si、(Mo,V)SiB及び(Mo,V)Siから選択される少なくとも1種のケイ化物相を有する。
【0016】
好ましくは、Moの含有率は、10原子%より多く、殊に少なくとも20原子%以上である。特に好ましいのは、少なくとも40原子%以上のMoの含有率である。
好ましい含有率範囲は、Siについては8~15原子%、Bについては7~20原子%及びVについては10~40原子%である。
【0017】
好ましくは、本発明による合金系は、少なくとも30%及び殊に少なくとも50%のケイ化物相割合を有する。
【0018】
バナジウムは、1910℃、ひいては2000℃未満の融点を有し、いわゆる拡大された耐火金属に属するが、しかしながら、10.28g/cmを有するモリブデンよりも293.15Kでの6.11g/cmの明らかに低い密度を有する。バナジウムのさらなる利点は、これがモリブデン(145pm)と似た原子半径(134pm)及び同じ結晶構造、すなわち体心立方構造を有することである。それにより、その結晶格子中のこれら双方の元素の良好な混和性及び交換性、ひいては前記の双方の元素の良好な合金性が結果として生じる。
そのうえ、バナジウムは、高い延性を有するので、その添加は、該三元Mo-Si-B-合金の靭性を悪化させない。
【0019】
バナジウムの添加を伴う本発明による合金は、殊に、293.15Kで8g/cm未満の密度を有する。
【0020】
前記の合金化されたバナジウムが、それぞれのMo混晶相及びケイ化物相中に溶解するが、しかしながら、Mo-Si-B合金中の既知の相の構造上の特徴を変化させないことが分かった。
【0021】
該三元Mo-Si-B系は、それ自体が良好な靭性を有するMo混晶マトリックスを有する。この場合に、該Mo相中で、ホウ素は格子間位置に、かつケイ素は規則格子位置に挿入される。
【0022】
付加的に、すでにその予備合金化中に、ケイ化物相は、例えば極めて長時間高エネルギーの合金化プロセスの際に又は粉末アトマイズの際に、形成されうる。遅くとも該粉末の圧密化及び/又は熱処理の際に、ケイ化物相が生じる。これらの相、殊にMoSi(A15)及びMoSiB(T2)は、該系に確かに高い強さを付与するが、しかし、その靭性を、それらの脆性に基づいて低下させる。ケイ素及びホウ素の濃度が増加するにつれて、該ケイ化物相の割合は増加し、該ケイ化物相は、臨界的割合(機械的合金化プロセスによる製造の場合に約50%)を超える場合に、該マトリックス相を該組織中に形成しうる。それにより、該靭性の低下に加えて、より高い温度の方への該脆性-延性転移温度の移動も生じることが予想される。したがって、これらの欠点を回避するために、Mo混晶相をマトリックス相として有する合金を製造することが目的とされている。
【0023】
Vの添加は、Mo-Si-B合金の靭性の悪化だけではなく、該Mo混晶相の安定化及び混晶割合が少し高められるとともに、該系全体の靭性の改善ももたらす。
【0024】
さらに、該Mo混晶格子中のV原子の置換は、その強さのさらなる改善をもたらす。
【0025】
結果として、該三元Mo-Si-B合金系へのバナジウムの添加が、該密度の減少をもたらすだけでなく、靭性が変わらずに同時にその強さの改善をもたらすことを確認することができる。そのうえ、本発明による合金系は、Vの添加の結果、50%より多いケイ化物相割合でも、該ケイ化物相がMo混晶マトリックス中に分布して存在する組織を有する。
【0026】
好ましい実施態様によれば、該Mo-Si-B-Vベース合金に、チタン(Ti)を0.5~30原子%の量で添加することができる。
0.5~10原子%の添加が、混晶(Mo,V)Si-(Mo,V)SiB構造の安定化をもたらし、かつ10~30原子%の添加が、4相合金である混晶(Mo,V)Si-(Mo,V)SiB-(Mo,V)Siの製造を促進することが確かめられた。(Mo,V)Siは、T1相である。
さらに、4.51g/cmに過ぎない密度を有するTiの添加は、該密度のさらなる減少に寄与する。
【0027】
必要に応じて、本発明によるベース合金は、Al、Fe、Zr、Mg、Li、Cr、Mn、Co、Ni、Cu、Zn、Ge、Ga、Y、Nb、Cd、Ca及びLaからなる群から選択される1種又は複数の付加的な合金元素をそれぞれ0.01原子%~15原子%、好ましくは10原子%までの含有率で、及び/又はHF、Pb、Bi、Ru、Rh、Pd、Ag、Au、Ta、W、Re、Os、Ir及びPtからなる群から選択される1種又は複数の合金元素をそれぞれ0.01原子%から好ましくは多くとも5原子%までの含有率で、含有していてよい。
後者の群は、9g/cmより大きい密度を有する重い元素であり、これらの元素は、該密度の増加を回避するためにできるだけ少ない量で添加すべきである。
【0028】
前述の付加的な合金元素は、それらの酸化物、窒化物及び/又は炭化物及び複合相(例えば酸窒化物)の形でも、該合金の15体積%までの濃度で添加することができる。
【0029】
製造技術により制約されて、本発明による合金はさらに、格子間に可溶の元素、例えば酸素、窒素、水素を含有しうる。これらは、該プロセスから常に完全に遮断しておくことができるとは限らない、不可避不純物である。しかしながら、これらの不純物は、ppm範囲でのみ、典型的には100ppm未満で存在する。
【0030】
本発明による合金は、非共晶合金、しかしまた共晶付近の合金及び共晶合金である。非共晶合金は、共晶の化学量論的組成に相当しない合金である。それに反して、共晶付近の合金は、それらの組成からみて、その共晶の近くにある合金である。
【0031】
本発明による非共晶合金の製造は、有利には粉末冶金学的な方法技術によって行われる。その際に、対応する合金成分からなる粉末混合物は、機械的合金化により処理され、その際に、元素状粉末並びに予備合金化された粉末を使用することができる。該機械的合金化のためには、多様な高エネルギーミル、例えばアトライタ、落下式ボールミル、振動ミル、遊星ボールミルを使用することができる。その際に、該金属粉末は、強力に機械的に処理され、かつ原子レベルまで均質化される。
該予備合金化は、選択的に、保護ガス下でのアトマイズプロセスによっても行うことができる。
【0032】
続いて、前記の機械的合金化された粉末は、FAST(電場支援焼結技術、Field Assisted Sintering Technology)によって圧密化することができる。適したFASTプロセスは、例えば、真空下で、50MPaの圧力及び15分の保持時間で1600℃で行われ、その際に、100K/分で加熱及び冷却される。それとは選択的に、該粉末は、コールドアイソスタチックプレス、例えば1600℃での、焼結、及び1500℃及び200MPaでのホットアイソスタチックプレス(HIP)によって圧密化することもできる。
しかしながら、好ましいのは、FASTプロセスである、それというのも、焼結する際のプロセス時間が、ホットプレスに比べて、かなり短縮されているからである。
【0033】
そのうえ、より大きな構造部材の場合にも均質な材料特性を達成することができる。また、FASTを用いて、より高い強さ及び硬さ、ここでは微小硬さとして表現される、を得ることができる、それというのも、明らかにより短いプロセス時間に基づいて、該プロセス中の粒成長が阻止されるからである。該組織中の微細な粒は、より粗大な粒に比べて、より良好な強さの結果となる。
【0034】
粉末冶金学的なプロセスとは選択的に、本発明による密度が最適化された合金は、付加製造法、例えば選択的レーザー溶融(SLM)又はレーザー金属堆積(LMD)によって製造することができる。該加工は、ここでは、機械的合金化又はアトマイズされ、ひいては予備合金化粉末を基礎として行われ、該粉末は、V(及び場合によりTiもしくは他の合金元素)の合金化に基づいて、純粋な三元Mo-Si-B合金に対して低下した融点を有し、ひいてはこの種の方法によってより容易に加工可能である。
【0035】
該付加製造法の利点は、最終構造に近い構造部材をコスト、時間及び材料効率的に得ることができることである。
この種の付加製造法は、それ自体が公知であり、例えば、国際公開第2016/188696号(WO 2016/188696 A1)に記載されている。
【0036】
特に良好には、共晶付近の合金及び共晶合金を、付加法によって加工することができる、それというのも、良好な機械的強さを有する特に微粒状の組織を製造することができるからである。
そのような合金は、Mo-(7..19)Si-(6...10)B-(5...15)VもしくはMo-(7..19)Si-(6...10)B-(5...15)V-(5...18)Tiの組成範囲内である。さらにまた、これらの合金は、他の溶融冶金学的な方法にも、とりわけ、公知のブリッジマン法における方向性凝固にも、適している。
【0037】
本発明による合金系は、以下に実施例及び図面に基づいてより詳しく特徴付けられる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
図1】合金試料MK6-FAST(Mo-40V-9Si-8B)のX線回折図形を示す;
図2】二値化画像として示される、FAST法による圧密化後の図1による合金試料MK6-FASTのミクロ構造を示す;及び
図3】実施例による合金試料の標準偏差を考慮した微小硬さ試験の結果を示す。
【0039】
A)試料製造
1.機械的合金化
バナジウム10、20、30及び40原子%を有する4種の合金を製造した。ケイ素(9原子%)及びホウ素(8原子%)の原子含有率は、全ての合金系で変わらなかった。各合金系から30gを製造した。そのためには、個々の合金成分を、アルゴン保護ガス雰囲気下で量り入れ、かつ保護ガス雰囲気中で粉砕容器へ移し替えた。
得られた粉末混合物を、Retsch GmbH社の遊星ボールミル(型式PM 4000)中で次のパラメーターを用いて粉砕した:
【表1】
得られた合金に、次の名称を与えた:
【表2】
【0040】
2.熱処理
1.により得られた合金を熱処理した。
該試料をそれぞれ、セラミック小皿中へ移し替え、該熱処理の全期間にわたってアルゴン保護ガス下で焼きなましした。
そのためには、初期状態で存在する合金のそれぞれ約10gを移し替え、1300℃で5時間、HTM Retz GmbHのタイプLosicの管状炉中で熱処理した。
【0041】
得られた試料に、次の名称を与えた:
MK3-WB、MK4-WB、MK5-WB及びMK6-WB
【0042】
3.FASTによる合金試料の製造
試料MK6-WBを、FASTによって圧密化した。そのためには、該試料を真空下で50MPaの圧力及び1100℃で10分並びに1600℃で15分の保持時間で、その際に100K/分で加熱及び冷却した。
得られた試料に、名称MK6-FASTを与えた。
【0043】
B)構造調査
1.X線回折法(XRD)
粉末へと粉砕した試料MK3-WB、MK4-WB、MK5-WB、MK6-WB及びMK6-FASTの構造調査を、X線回折計システムPANalytical X'pert proを用いるX線回折分析によって実施した:
- 放射線:Cu-K21,21,5406
- 電圧:40kV
- 電流:30mA
- 検出器 X' Celerator RTMS
- フィルター:Niフィルター
- 測定範囲:20°≦2Θ≦158.95°
- ステップ幅:0.0167°
- 測定時間 330.2s(ステップ幅あたり)。
【0044】
5つ全ての試料において、相Mo-V混晶、(Mo,V)Si及び(Mo、V)SiBが検出された。
MK6-FASTについての分析の結果は、図1に示されている。
【0045】
2.組織調査及び密度測定
該粉末粒子のミクロ構造及びモルホロジーを、Philips社の走査電子顕微鏡ESEM(SEM) XL30を用いて分析した。該相コントラストの描出は、BSEコントラストによって行った。含まれる相を、EDX分析によって割り当てた。
【0046】
該試料製造のために、少量の該試料粉末を、次のとおりエポキシド樹脂中へ冷時包埋し、続いて800及び1200の粒度を有するSiC研摩紙で湿式研削し、ダイヤモンド懸濁液で研磨した。
該SEM調査のためには、該試料を、該包埋前に金の薄層でスパッタした。
【0047】
合金MK6-FASTの組織は、二値化された形で図2に示されている。その際に、該Mo混晶相は白であり、かつ双方のケイ化物相は黒である。
【0048】
MK6-FASTの密度は、アルキメデスの原理によって7.8g/cmと測定された。
【0049】
C)評価
1.SEM/EDX分析
該EDX分析は、該XRD測定の結果を確認した。全ての試料の組織中で、該Mo混晶に加えて、ケイ化物相(Mo,V)Si及び(Mo,V)SiBが形成された。その際に、該ケイ化物相中で、該混晶マトリックス中よりも高い割合のバナジウムが見出された。
【0050】
MK6-FASTの評価は、これが、熱処理された試料に比べて、該組織中の最も高い割合のケイ化物相を有することを明らかにした。
【0051】
次の表において、前記の個々の試料中の該ケイ化物相のパーセント割合(原子%)がまとめられている。
【表3】
【0052】
2.微小硬さ試験
測定したのは、機械的合金化された(ML)試料MK3、MK4、MK5、MK6及びMK6-FASTの微小硬さであった。
【0053】
該微小硬さを、ビッカースによる方法によってAnton Paar GmbH社の硬さ試験機(型式MHT-10)が一体化されていたCarl Zeiss Microscopy GmbH社の顕微鏡(型式Axiophod 2)を用いて測定した:
- 試験荷重:10p
- 試験時間:10s
- 傾き:15p/s。
【0054】
該試料を、該SEM分析(B.2.参照)用のように、しかしながら金スパッタなしで準備した。
【0055】
相あたりそれぞれ50個の圧痕を付け、かつ評価した。
【0056】
該結果は、標準偏差を考慮して図3に示されている。
該FAST試料における該ケイ化物の微小硬さは、該混晶相よりも有意に高い。該ケイ化物相の極めて微細で均質な分布並びに約55%のそれらの割合は、該合金の高い全体硬さを保証する。該FAST試料の全体硬さは、前記の個々の相であるMo,V混晶相及び前記の2種のケイ化物相のそれぞれの微小硬さから合成される。
図1
図2
図3
【手続補正書】
【提出日】2024-06-28
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケイ素5~25原子%、ホウ素0.5~25原子%及びバナジウム3040原子%並びに残部モリブデンを有し、ここでモリブデンの割合が少なくとも40原子%である、モリブデン合金であって、
前記モリブデン合金が、モリブデン-バナジウム混晶マトリックス及びその中に分布した少なくとも1種のケイ化物相を有し、かつ前記モリブデン合金の密度が8g/cm未満であり、前記少なくとも1種のケイ化物相が、(Mo,V) Si、(Mo,V) SiB 及び(Mo,V) Si から選択されており、ケイ化物相の割合が少なくとも30%である、前記モリブデン合金。
【外国語明細書】