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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024116235
(43)【公開日】2024-08-27
(54)【発明の名称】感熱記録体
(51)【国際特許分類】
   B41M 5/40 20060101AFI20240820BHJP
   B41M 5/42 20060101ALI20240820BHJP
   B41M 5/44 20060101ALI20240820BHJP
   B05D 1/30 20060101ALI20240820BHJP
   B05D 1/36 20060101ALI20240820BHJP
   B32B 3/30 20060101ALI20240820BHJP
【FI】
B41M5/40 210
B41M5/42 220
B41M5/44 220
B41M5/42 210
B41M5/42 211
B05D1/30
B05D1/36 B
B32B3/30
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024091376
(22)【出願日】2024-06-05
(62)【分割の表示】P 2022051367の分割
【原出願日】2022-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】000205306
【氏名又は名称】大阪シーリング印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002239
【氏名又は名称】弁理士法人G-chemical
(72)【発明者】
【氏名】播摩 英伸
(57)【要約】
【課題】サーマルヘッドの摩耗を低減できると共に、耐スティッキング性の良好な感熱記録体を提供することを目的とする。
【解決手段】基材2上に、少なくとも感熱記録層4と最上層となる保護層6とが積層される感熱記録体であって、保護層6の表面には、感熱記録層4まで達しない水分の蒸発孔や亀裂からなる凹部が形成されている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に、少なくとも感熱記録層と最上層となる保護層とが積層される感熱記録体の製造方法であって、
前記感熱記録層及び前記保護層をカーテンコータによって同時塗工を行って形成し、
前記保護層の表面に、前記感熱記録層まで達しない凹部を形成する、
感熱記録体の製造方法。
【請求項2】
前記凹部が、水分の蒸発孔及び亀裂の少なくともいずれか一方である、
請求項1に記載の感熱記録体の製造方法。
【請求項3】
前記保護層は、水溶性高分子を含まない、
請求項1または2に記載の感熱記録体の製造方法。
【請求項4】
前記保護層と前記感熱記録層との間に、中間層が形成されている、
請求項1または2に記載の感熱記録体の製造方法。
【請求項5】
前記基材と前記感熱記録層との間に、中空粒子を含むアンダーコート層が形成されている、
請求項1または2に記載の感熱記録体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材上に、少なくとも感熱記録層と最上層となる保護層とが積層される感熱記録体に関する。
【背景技術】
【0002】
感熱記録体、例えば、紙基材上に感熱記録層を形成した感熱紙は、レシート用紙、ファックス用紙あるいはラベルなどの様々な用途で使用されている。
【0003】
かかる感熱紙には、プリンターのサーマルヘッドの摩耗を低減するために、例えば、特許文献1に開示されているように、感熱紙の最表面となる最上層に弾性粒子を含有させるものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2017-52193号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1の感熱紙では、最上層を構成する材料に、弾性粒子を配合する必要があると共に、プリンターのサーマルヘッドの熱で最上層の成分が溶融し、サーマルヘッドに粘着することにより生じるスティッキング現象を充分に防止するのは困難である。
【0006】
本発明は、このような実情に着目してなされたものであって、弾性粒子等を最上層の構成材料に配合する必要がなく、サーマルヘッドの摩耗を低減できると共に、耐スティッキング性の良好な感熱記録体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明では次のように構成している。
【0008】
(1)本発明に係る感熱記録体は、基材上に、少なくとも感熱記録層と最上層となる保護層とが積層される感熱記録体であって、前記保護層の表面には、前記感熱記録層まで達しない凹部が形成されている。
【0009】
本発明に係る感熱記録体によると、最上層である保護層の表面には、窪んだ凹部が形成されているので、保護層とサーマルヘッドとの接触面積を低減することができ、サーマルヘッドの摩耗が抑制されると共に、耐スティッキング性が向上する。
【0010】
更に、保護層の表面の凹部は、感熱記録層まで達していないので、保護層の表面に油等が付着しても感熱記録層に達することはなく、感熱記録層が変色等することがなく、印字保存性が良好である。
【0011】
(2)本発明に係る感熱記録体は、基材上に、少なくとも感熱記録層と最上層となる保護層とが積層される感熱記録体であって、前記保護層は、疎水性の樹脂粒子で構成されている。
【0012】
本発明に係る感熱記録体によると、疎水性の樹脂粒子で構成される最上層の保護層は、疎水性の樹脂粒子を分散させた塗液を、塗工して乾燥する際に、疎水性の樹脂粒子同士が凝集して収縮し、保護層の表面に、凹部となる亀裂(クラック)が生じる。この保護層の表面に形成される亀裂によって、保護層とサーマルヘッドとの接触面積を低減して、サーマルヘッドの摩耗を抑制できると共に、耐スティッキング性を向上させることができる。
【0013】
(3)本発明の好ましい実施態様では、前記凹部が、水分の蒸発孔及び亀裂の少なくともいずれか一方である。
【0014】
この実施態様によると、保護層を形成するための塗液を塗工して乾燥させる際に、水分の蒸発によって生じる蒸発孔や収縮によって生じる亀裂が、保護層の表面の窪んだ凹部となる。
【0015】
(4)本発明の一実施態様では、前記保護層は、水溶性高分子を含まない。
【0016】
水溶性高分子を含む塗液は、塗工して乾燥する際に、凝集しにくく被膜化するために亀裂が生じないが、この実施態様によると、保護層は、水溶性高分子を含んでいないので、保護層の表面に、確実に亀裂を生じさせることができる。
【0017】
(5)本発明の他の実施態様では、前記保護層と前記感熱記録層との間に、中間層が形成されている。
【0018】
この実施態様によると、最上層の保護層と感熱記録層との間に、中間層が形成されているので、保護層の表面に、水分の蒸発孔や亀裂があっても、保護層の表面に付着した油等が、中間層によって遮断されて感熱記録層に達しないので、印字保存性が良好である。
【0019】
(6)本発明の更に他の実施態様では、前記基材と前記感熱記録層との間に、中空粒子を含むアンダーコート層が形成されている。
【0020】
この実施態様によると、中空粒子を含有するアンダーコート層が、サーマルヘッドから加えられる熱の放散を防ぐ断熱層として、また、クッション性を有する弾性層としての機能を発揮することができ、印字品質が向上する。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、最上層である保護層の表面には、凹部が形成されているので、保護層とサーマルヘッドとの接触面積を低減することができ、サーマルヘッドの摩耗が抑制されると共に、耐スティッキング性が向上する。
【0022】
更に、保護層の表面の凹部は、感熱記録層まで達していないので、印字保存性が良好である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1図1は本発明の一実施形態に係る感熱記録体の模式的な断面図である。
図2図2は本発明の一実施形態に係る感熱記録体の保護層の表面の電子顕微鏡(SEM)写真である。
図3図3は比較例としての感熱記録体の保護層の表面の電子顕微鏡(SEM)写真である。
図4図4図2の保護層の表面の亀裂部分を示す拡大した電子顕微鏡(SEM)写真である。
図5図5図4の亀裂部分以外の部分を更に拡大した電子顕微鏡(SEM)写真である。
図6図6は多数の蒸発孔と少数の亀裂を有する保護層の表面の電子顕微鏡(SEM)写真である。
図7図7は多数の蒸発孔のみを有する保護層の表面の電子顕微鏡(SEM)写真である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の一実施形態を、図面を参照しながら説明する。
【0025】
図1は、本発明の一実施形態に係る感熱記録体の摸式的な断面図である。
【0026】
感熱記録体1は、シート状の基材2上に、少なくとも加熱によって発色する感熱記録層4と最上層となる保護層とが積層されるものであって、この実施形態では、感熱記録層4と保護層6との間に、中間層5が形成され、基材2と感熱記録層4との間に、アンダーコート層3が形成された積層構造となっている。
【0027】
基材2は、例えば、紙、不織布、プラスチックフィルム、金属箔、または、これらを組み合わせた複合シートなどである。この実施形態では、基材2として紙が用いられている。
【0028】
アンダーコート層3は、中空粒子と、結着剤とを含んでいる。
【0029】
中空粒子の平均粒子径は、好ましくは1μm~100μmである。このような範囲であれば、断熱性に優れるアンダーコート層を形成することができる。平均粒子径とは、レーザー回折法により測定される重量平均粒子径である。レーザー回折法による平均粒子径の測定は、マイクロトラック・ベル社製の商品名「MT3300EX-II」を用いて行うことができる。
【0030】
中空粒子の中空率は、好ましくは30%~70%である。このような範囲であれば、断熱性に優れるアンダーコート層を形成でき、また、印字品質に優れる感熱記録体を提供することができる。
【0031】
中空率は、次式で算出される。
【0032】
中空率={(空隙の体積)/(中空粒子の体積)}×100
中空粒子の含有割合は、アンダーコート層100重量部に対して、好ましくは40重量部~90重量部である。
【0033】
アンダーコート層3の塗布量(乾燥重量)は、好ましくは1g/m2~10g/m2である。
【0034】
アンダーコート層3の厚みは、好ましくは1μm~20μmである。
【0035】
中空粒子は、例えば、熱可塑性樹脂から構成される。中空粒子を構成する材料としては、例えば、ポリスチレン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリ塩化ビニリデン系樹脂、ポリ酢酸ビニル系樹脂、ポリアクリル酸エステル系樹脂、ポリアクリロニトリル系樹脂、ポリブタジエン系樹脂等が挙げられる。
【0036】
アンダーコート層3に含まれる結着剤としては、例えば、アクリル-スチレン共重合体、スチレン-ブタジエン共重合体、アクリル-ブタジエン-スチレン共重合体、酢酸ビニル樹脂、酢酸ビニル-アクリル酸共重合体、スチレン-アクリル酸エステル共重合体、アクリル酸エステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂等が挙げられる。
【0037】
また、結着剤として、ポリビニルアルコール;デンプンおよびその誘導体;メトキシセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース等のセルロース誘導体;ポリアクリル酸ソーダ;ポリビニルピロリドン;アクリルアミド-アクリル酸エステル共重合体;アクリルアミド-アクリル酸エステル-メタクリル酸三元共重合体;スチレン-無水マレイン酸共重合体アルカリ塩;イソブチレン-無水マレイン酸共重合体アルカリ塩;ポリアクリルアミド;アルギン酸ソーダ;ゼラチン;カゼイン等の水溶性高分子を用いてもよい。
【0038】
感熱記録層4は、加熱により発色する発色剤、顕色剤等を含む。感熱記録層4は、必要に応じて、結着剤、増感剤、滑剤、充填剤などをさらに含む。
【0039】
加熱により発色する発色剤としては、一般に使用されている公知のロイコ系染料を用いることができる。このロイコ系染料としては、例えば、3-(N-イソブチル-N-エチル)アミノ-6-メチル-7-アニリノフルオラン、3-(N-イソペンチル-N-エチル)アミノ-6-メチル-7-o-クロロアニリノフルオラン、3-(N-エチル-N-p-トルイジノ)-6-メチル-7-アニリノフルオラン、3-(N-エチル-N-イソペンチル)アミノ-6-メチル-7-アニリノフルオラン、3-(N-エトキシプロピル-N-エチル)アミノ-6-メチル-7-アニリノフルオラン、3-(N-シクロヘキシル-N-メチル)アミノ-6-メチル-7-アニリノフルオラン、3-(N-メチル-N-n-プロピル)アミノ-6-メチル-7-アニリノフルオラン、3-ジブチルアミノ-6-メチル-7-アニリノフルオラン、3-ジエチルアミノ-6-メチル-7-p-トルイジノフルオラン、3-ジエチルアミノ-6-メチル-7-アニリノフルオラン、3-ジエチルアミノ-6-メチル-8-メチルフルオラン、3-ジエチルアミノ-7-(m-トリフルオロメチルアニリノ)フルオラン、3-ジエチルアミノ-7-(o-クロロアニリノ)フルオラン、3-ジエチルアミノ-7-クロロフルオラン、3-ジブチルアミノ-6-メチル-7-ブロモフルオラン、3-ジブチルアミノ-7-(o-クロロアニリノ)フルオラン、3-ジペンチルアミノ-6-メチル-7-アニリノフルオラン、3-ジメチルアミノ-5-メチル-7-メチルフルオラン、3-ピロリジノ-6-メチル-7-アニリノフルオラン、クリスタルバイオレットラクトン、等を単独又は2種以上組み合わせて用いることができる。
【0040】
顕色剤としては、上記のようなロイコ系染料に対して加熱時に反応して、これを発色させる種々の電子受容性物質を用いることができる。この顕色剤としては、例えば、1,1-ビス(p-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1-ビス(p-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(p-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(p-ヒドロキシフェニル)ブタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1-フェニルエタン、2,2’-メチレンビス(4-クロロフェノール)、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-4-メチルペンタン、2,4’-ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルホン、4-ヒドロキシ-4’-n-プロポキシジフェニルスルホン、4-ヒドロキシ-4’-イソプロポキシジフェニルスルホン、4-ヒドロキシ-4’-メチルジフェニルスルホン、4-ヒドロキシフェニル-4’-ベンジルオキシフェニルスルホン、4-ヒドロキシ-4’-アリルオキシジフェニルスルホン、ビス(3-アリル-4-ヒドロキシフェニル)スルホン、ポリ(4-ヒドロキシ安息香酸)、4-ヒドロキシ安息香酸ベンジル、2,4-ビス(フェニルスルホニル)フェノール、α-{4-[(4-ヒドロキシフェニル)スルホニル]フェニル}-ω-ヒドロキシポリ(重合度n=1~7)(オキシエチレンオキシエチレンオキシ-p-フェニレンスルホニル-p-フェニレン)2,2-ビス[(4-メチル-3-フェノキシカルボニルアミノフェニル)ウレア]ジフェニルスルホン、3,5-ビス(α-メチルベンジル)サリチル酸、ビス[4-(n-オクチルオキシカルボニルアミノ)サリチル酸亜鉛]、4,4’-ビス(p-トリルスルホニルアミノカルボニルアミノ)ジフェニルメタン、4-ヒドロキシベンゼンスルホンアニリド、2’-(3-フェニルウレイド)ベンゼンスルホンアニリド、N-(2-ヒドロキシフェニル)-2-[(4-ヒドロキシフェニル)チオ]アセトアミド、N-(4-ヒドロキシフェニル)-2-[(4-ヒドロキシフェニル)チオ]アセトアミド、4-[[4-[4-[4-[[4-(1-メチルエトキシ)フェニル]スルホニルフェノキシ]ブトキシ]フェニル]スルホニル]フェノール、4-tert-ブチルフェノール・ホルムアルデヒド重縮合物、N-(p-トルエンスルホニル)N’-(3-p-トルエンスルホニルオキシフェニル)ウレア、1-フェニル-3-(4-メチルフェニルスルホニル)ウレア、等を用いることができる。
【0041】
感熱記録層4に含まれる結着剤としては、例えば、ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコール、デンプン、カゼイン、ゼラチン、ポリアミド、ポリアクリルアミド、変性ポリアクリルアミド、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリ酢酸ビニル、ポリアクリル酸エステル、スチレン-無水マレイン酸共重合体、イソブチレン-無水マレイン酸共重合体、ジイソブチレン-無水マレイン酸共重合体、酢酸ビニル-無水マレイン酸共重合体、メチルビニル-無水マレイン酸共重合体、イソプロピレン-無水マレイン酸共重合体、スチレン-ブタジエン共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、ポリウレタン、ポリスチレン、ポリビニルピロリドン、アクリル酸エステル、アクリルニトリル、メチルビニルエーテル、を単独又は2種以上組み合わせて用いることができる。
【0042】
増感剤としては、例えば、ステアリン酸、ステアリン酸アミド、ステアリン酸アニリド、メチロールステアリン酸アミド、メチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、1-ベンジルオキシナフタレン、2-ベンジルオキシナフタレン、2,6-ジイソプロピルナフタレン、1,2-ジフェノキシエタン、1,2-ジフェノキシメチルベンゼン、1,2-ビス(3,4-ジメチルフェノル)エタン、1,2-ビス(3-メチルフェノキシ)エタン、1,2-ビス(4-メチルフェノキシ)エタン、シュウ酸ジ(p-クロロベンジル)、シュウ酸ジ(p-メチルベンジル)、シュウ酸ジベンジル、p-ベンジルビフェニル、m-ターフェニル、ジフェニルスルホン、p-ベンジルオキシ安息香酸ベンジル、テレフタル酸ジベンジル、p-トルエンスルホンアミド、等の常温で固体、好ましくは約70℃以上の融点を有するものなどを用いることができる。
【0043】
滑剤としては、例えば、パラフィンワックス、オレイン酸などの脂肪酸類;ポリエチレンワックスなどのポリオレフィンワックス類;ステアリン酸亜鉛などの金属石鹸類;カルナバワックスなどのエステルワックス類;シリコンオイル、鯨油等の油類を単独又は2種以上組み合わせて用いることができる。
【0044】
充填剤としては、例えば、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、ケイ酸アルミニウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、酸化チタン、硫酸バリウム、シリカゲル、活性白土、タルク、クレー、カオリン、焼成カオリン、ケイソウ土、ホワイトカーボン、酸化亜鉛、酸化珪素、コロイダルシリカ、ポリスチレン樹脂粒子、尿素-ホルマリン樹脂粒子、ポリオレフィン樹脂粒子、等を単独又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0045】
この実施形態では、感熱記録層4は、カーテンコータによって、中間層5及び保護層6と共に、3層同時塗工される。
【0046】
感熱記録層4上に、中間層5を設けることにより、耐水性、耐薬品性、耐可塑剤性等に優れる感熱記録体1を得ることができる。
【0047】
中間層5を構成する材料としては、例えば、ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコール、デンプン、変性デンプン、カゼイン、ゼラチン、にかわ、アラビアゴム、ポリアミド、ポリアクリルアミド、変性ポリアクリルアミド、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリ酢酸ビニル、ポリアクリル酸エステル、スチレン-無水マレイン酸共重合体、イソブチレン-無水マレイン酸共重合体、ジイソブチレン-無水マレイン酸共重合体、酢酸ビニル-無水マレイン酸共重合体、メチルビニル-無水マレイン酸共重合体、イソプロピレン-無水マレイン酸共重合体、スチレン-ブタジエン共重合体、マレイン酸共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、ポリウレタン、ポリスチレン、ポリビニルピロリドン、アクリル酸エステル、アクリロニトリル、メチルビニルエーテルなどの水系樹脂を単独又は2種以上組み合わせて用いることができる。
【0048】
中間層5の塗布量(乾燥重量)は、好ましくは0.3g/m2~10g/m2である。
【0049】
この実施形態では、感熱記録体1の最上層である保護層6は、弾性粒子等を配合することなく、サーマルヘッドの摩耗を低減してその寿命を縮めない、いわゆる、サーマルヘッド適正を向上させると共に、耐スティッキング性を向上させるために、次のように構成している。なお、耐スティッキング性とは、サーマルヘッドの熱で感熱記録体の最上層の成分が溶融してヘッドに粘着することによって生じる不具合、例えば、部分的に印字されなかったり、印字面が歪むといった不具合のないことをいう。
【0050】
この実施形態の保護層6は、その表面に、窪んだ凹部として、水分の蒸発による蒸発孔、及び、亀裂(クラック)を有しており、これによって、保護層6の表面とサーマルヘッドとの接触面積を低減している。
【0051】
このように保護層6の表面に凹部、特に、亀裂を生じさせるために、保護層6を形成する塗液として、疎水性の樹脂粒子を含む塗液を使用している。
【0052】
すなわち、保護層6は、結着剤として、疎水性の樹脂粒子のエマルジョン、この実施形態では、疎水性のアクリル樹脂粒子を水分散させたエマルジョンを使用している。
【0053】
このように保護層6の結着剤としては、疎水性の樹脂粒子のエマルジョンを使用し、水溶性高分子は使用していない。
【0054】
水溶性高分子を含む塗液は、塗工して乾燥する際に、凝集しにくく、柔軟性のある塗膜が形成されるため、収縮による亀裂は生じない。
【0055】
これに対して、疎水性の樹脂粒子のエマルジョンは、塗工して乾燥する際に、蒸発によって疎水性の樹脂粒子同士が凝集して収縮し、保護層6の表面に凹部となる亀裂が生じる。
【0056】
この亀裂は、疎水性の樹脂粒子の凝集による収縮によって形成されるので、保護層6に止まっており、中間層5には達していない。
【0057】
また、この実施形態では、保護層6の表面に、凹部となる水分の蒸発による蒸発孔を形成するために、感熱記録層4、中間層5及び保護層6の3層を、上記のようにカーテンコータによって3層同時塗工を行っている。
【0058】
カーテンコータでは、感熱記録層4、中間層5及び保護層6をそれぞれ形成するための各塗液を、各スリットからそれぞれ吐出させて積層し、その積層した塗液を、連続走行する、予め基材2上に形成されたアンダーコート層3上に、自由落下させて塗工する。
【0059】
このようなカーテンコータによる3層の同時塗工では、保護層6は、乾燥すると、上記のように疎水性の樹脂粒子が凝集し始め亀裂が生じ、亀裂から水蒸気が抜けて、半乾きの中間層5と感熱記録層4が乾燥固化する。中間層5と感熱記録層4の水蒸気は、その大部分が亀裂から放出されるが、一部の水蒸気は、保護層6に蒸発孔を形成して放出される。このため、亀裂や蒸発孔は、保護層6付近に形成される。
【0060】
この実施形態では、保護層6に形成される蒸発孔は、中間層5に止まっている。このため、最上層である保護層6の表面に、油等が付着しても感熱記録層4に達することはなく、感熱記録層4が変色等することがない。
【0061】
保護層6は、必要に応じて、滑剤、架橋剤、分散剤、消泡剤、耐水化剤などの添加剤を含む。
【0062】
保護層6に含まれる充填剤としては、例えば、水酸化アルミニウム、酸化アルミニウム、ケイ酸アルミニウム、重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、酸化チタン、硫酸バリウム、シリカゲル、活性白土、タルク、クレー、カオリナイト、ケイソウ土、ホワイトカーボン、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、酸化亜鉛、ポリスチレン樹脂粒子、尿素-ホルマリン樹脂粒子、ポリオレフィン樹脂粒子などを単独又は2種以上組み合わせて用いることができる。
【0063】
この実施形態の保護層6を形成するための塗液の一例として、疎水性のアクリル樹脂を水分散させたエマルジョンと、滑剤としてのポリエチレンワックスと、顔料として炭酸カルシウムとを、4:3:3の乾燥時の質量比率で配合した水分散懸濁液を使用して感熱記録体1を製造した。
【0064】
保護層6の塗布量(乾燥重量)は、1g/m2とした。
【0065】
図2は、上記のようにして製造された感熱記録体1の保護層6の表面の電子顕微鏡(SEM)写真であり、図3は、比較例としての感熱記録体の保護層の表面の電子顕微鏡(SEM)写真である。
【0066】
図2に示されるように、保護層6の表面には、多数の白っぽい筋状の亀裂10、及び、小さな少数の蒸発孔11が形成されている。
【0067】
亀裂10には、1本の長い筋状のものもあるが、多くはその一部が分岐して筋状に延びている。
【0068】
蒸発孔11は、上記のように乾燥時に水分が蒸発するために形成されるものであり、後述の図7に示すように、窪んだ大略円形の孔である。
【0069】
図3の比較例は、結着剤として、疎水性のアクリル樹脂を水分散させたエマルジョンに代えて、水溶性高分子を使用し、カーテンコータによる同時多層形成に代えて、各層を順次形成したものである。
【0070】
この図3に示されるように、比較例の保護層の表面は、蒸発孔及び亀裂のいずれも存在しない平坦な表面となっている。
【0071】
図4は、図2の一箇所の亀裂10付近を拡大した電子顕微鏡(SEM)写真である。
【0072】
この図4に示されるように、亀裂10は、表面が開口して保護層6の内部、すなわち、保護層6の厚み方向へ進展している。
【0073】
図5は、図4の亀裂10以外の領域を更に拡大した電子顕微鏡(SEM)写真である。
【0074】
保護層6は、上記のように、疎水性の樹脂粒子を含む結着剤を使用しており、この図5に示されるように、無数の疎水性の樹脂粒子が凝集し、樹脂粒子が敷き詰められるように並んで構成されていることが分かる。
【0075】
本実施形態によれば、上記のように、感熱記録体1の最上層である保護層6の表面には、凹部となる亀裂10及び水分の蒸発孔11が形成されているので、保護層6の表面は、凹凸となる。これによって、保護層6とサーマルヘッドとの接触面積が減少し、サーマルヘッドの摩耗が軽減されてサーマルヘッド適性が向上すると共に、耐スティッキング性が向上する。
【0076】
また、上記特許文献1のように、保護層6の構成材料に、弾性粒子等を配合する必要がなく、その分、保護層6の厚みを薄く、例えば、1μm未満、この実施形態では、0.8μm程度にすることができる。これによって、コストを低減できると共に、保護層6の表面から感熱記録層4までの距離を短くできるので、サーマルヘッドからの熱が、感熱記録層4に効率的に伝導する。
【0077】
更に、保護層6の表面の亀裂10は、保護層6の内部である厚み方向に進展しているので、亀裂10によって、保護層6の厚み方向に直交する方向、すなわち、横方向に分断されることになる。これによって、サーマルヘッドからの熱が、横方向へ放熱するのを抑制して、厚み方向である下層の感熱記録層4に効率的に伝導する。
【0078】
保護層6とサーマルヘッドとの接触面積を減少させるためには、大略円形である水分の蒸発孔11は、その平均直径が、2μm以上であるのが好ましい。
【0079】
この蒸発孔11の平均直径は、電子顕微鏡(SEM)によって、保護層6の表面を観察し、単位面積、例えば、1mm2当たりの蒸発孔11の直径を計測して算出する。また、蒸発孔11の個数は、例えば、平均直径が5μm以上の蒸発孔11が、1mm2当たり、30個以上であるのが好ましく、40個以上であるのが更に好ましい。
【0080】
本実施形態の感熱記録体1では、保護層6等の配合等を調整することによって、例えば、図6の電子顕微鏡(SEM)写真に示すように、保護層6の表面を、多数の蒸発孔11と少数の亀裂10を有する表面とすることができ、あるいは、図7の電子顕微鏡(SEM)写真に示すように、保護層6の表面を、亀裂10のない多数の蒸発孔11だけの表面とすることもできる。
【0081】
上記実施形態では、感熱記録層4、中間層5及び保護層6の3層を、カーテンコータによって多層同時塗工したが、多層同時塗工に限らず、各層4、5、6を個別に順次形成してもよい。
【0082】
上記実施形態では、基材2上に、アンダーコート層3及び中間層5を形成したが、本発明の他の実施形態として、アンダーコート層3及び中間層5の少なくともいずれか一方の層を省略してもよい。
【符号の説明】
【0083】
1 感熱記録体
2 基材
3 アンダーコート層
4 感熱記録層
5 中間層
6 保護層
10 亀裂(凹部)
11 蒸発孔(凹部)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7