(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024116303
(43)【公開日】2024-08-27
(54)【発明の名称】点眼剤
(51)【国際特許分類】
A61K 31/55 20060101AFI20240820BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20240820BHJP
A61P 37/08 20060101ALI20240820BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20240820BHJP
A61K 47/02 20060101ALI20240820BHJP
【FI】
A61K31/55
A61P27/02
A61P37/08
A61K9/08
A61K47/02
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024094560
(22)【出願日】2024-06-11
(62)【分割の表示】P 2022158669の分割
【原出願日】2017-12-27
(31)【優先権主張番号】P 2017091391
(32)【優先日】2017-05-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000177634
【氏名又は名称】参天製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100126778
【弁理士】
【氏名又は名称】品川 永敏
(74)【代理人】
【識別番号】100156155
【弁理士】
【氏名又は名称】水原 正弘
(74)【代理人】
【識別番号】100158414
【弁理士】
【氏名又は名称】秦野 正和
(72)【発明者】
【氏名】森本 隆司
(57)【要約】 (修正有)
【課題】服薬アドヒアランスの向上、例えば、点眼回数の低減をもたらすことに加えて、ソフトコンタクトレンズを装用したままでの点眼を可能とする、アレルギー性結膜炎治療用の点眼剤を提供する。
【解決手段】有効成分として0.1%(w/v)の濃度のエピナスチン又はその塩、およびリン酸又はその塩を含有するアレルギー性結膜炎治療用の点眼剤であって、塩化ベンザルコニウムを含有しないことを特徴とする、点眼剤である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
明細書に記載の発明。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、0.1%(w/v)の濃度のエピナスチン又はその塩およびリン酸又はその塩を含有するアレルギー性結膜炎治療用の点眼剤であって、塩化ベンザルコニウムを含有しないことを特徴とする、点眼剤(以下、「本発明の点眼剤」ともいう)に関する。
【背景技術】
【0002】
アレルギー性結膜炎は、眼の表面に外部からのアレルゲン(アレルギー反応を引き起こす物質)が付着して、結膜に炎症を起こす症状であり、主に一年中症状がみられる通年性アレルギー性結膜炎と、特定の季節のみ症状があらわれる季節性アレルギー性結膜炎とがある。季節性アレルギー性結膜炎の場合、その主要な原因の一つは花粉に因るものであり、特に春先に飛ぶスギ花粉によるアレルギー性結膜炎は毎年非常に多くの人が発症すると言われている。
【0003】
非特許文献1および非特許文献2によると、スギ花粉によるアレルギー性結膜炎は、飛散した花粉粒子が結膜嚢内に侵入した後、涙液によって花粉外壁が破裂し、溶出したアレルゲンが結膜組織に移行して肥満細胞上の抗体へ結合することにより発症すると考えられる。涙液中では花粉外壁の破裂は起こりやすく、花粉外壁の破裂に影響を及ぼす因子には、pHや温度といった物理化学的な影響に加えて、涙液中の成分(リゾチームやタンパク質、様々な分解酵素など)による影響があることが示唆されている。また種々の抗アレルギー点眼液においても、その種類によっては、従来の薬理作用の他にも花粉外壁の破裂やアレルゲンの溶出に影響を及ぼす可能性があることが示唆されている。
【0004】
非特許文献3によると、点眼液に含まれる添加剤についても、花粉外壁の破裂やアレルゲンの溶出に影響を及ぼす可能性がある。例えば、PBS(リン酸緩衝生理食塩水)は花粉外壁の破裂を促進する可能性が示唆されていることから、アレルギー性結膜炎治療用の点眼剤でのリン酸又はその塩などの添加には一定の懸念があった。
【0005】
非特許文献4には、現在、アレルギー性結膜炎治療剤として日本で上市されている、エピナスチン塩酸塩を有効成分とするアレジオン(登録商標)点眼液0.05%について記載されており、その用法・用量は通常1回1滴、1日4回点眼であることが記載されている。
【0006】
服薬アドヒアランスの観点から、点眼剤として1日4回の点眼は、日常生活において数時間点眼できない状況もあり得るため、これより少ない点眼回数が望ましく、点眼回数を1日4回未満、具体的には、1日1回又は2回に低減した点眼剤が特に望ましい。さらに、ソフトコンタクトレンズ(SCL)を装用したまま点眼できる点眼剤であれば、更に望ましい。
【0007】
非特許文献5には、日本においては、エピナスチン塩酸塩と同じくヒスタミンH1拮抗薬として知られるケトチフェンフマル酸塩、レボカバスチン塩酸塩、オロバタジン塩酸塩を含有する点眼液が抗アレルギー点眼薬として認可されているが、いずれも1日4回点眼が必要であることが記載されている。ヒスタミンH1拮抗薬を有効成分とする抗アレルギー点眼薬については、1日1回又は2回点眼で、1日4回点眼と同程度の治療効果が得られるものは知られていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】アレルギー・免疫 2010,Vol.17,No.2,124-129
【非特許文献2】アレルギー・免疫 2011,Vol.18,No.2,82-87
【非特許文献3】アレルギー・免疫 2016,Vol.23,No.2,124-130
【非特許文献4】アレジオン(登録商標)点眼液0.05%添付文書
【非特許文献5】アレルギー 2014,Vol.6,No.8,1103-1109
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって、服薬アドヒアランスの向上、例えば、点眼回数の低減をもたらすことに加えて、ソフトコンタクトレンズを装用したままでの点眼を可能とする、有効成分としてエピナスチン又はその塩を含有するアレルギー性結膜炎治療用の点眼剤を提供することは興味深い課題である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、服薬アドヒアランスの向上、例えば、点眼回数の低減をもたらす、有効成分としてエピナスチン又はその塩を含有するアレルギー性結膜炎治療用の点眼剤を見出すために鋭意研究を行ったところ、0.1%(w/v)のエピナスチン又はその塩、およびリン酸又はその塩を含有させることにより、点眼回数を減らしてもアレルギー性結膜炎に対し十分な治療効果を発揮すること、リン酸又はその塩を用いても花粉外壁の破裂やアレルゲンの溶出への影響が最小限であること、また、SCLの変形を引き起こさないことを見出し、本発明に至った。具体的に、本発明は以下を提供する。
(1)有効成分として0.1%(w/v)の濃度のエピナスチン又はその塩、およびリン酸又はその塩を含有するアレルギー性結膜炎治療用の点眼剤であって、塩化ベンザルコニウムを含有しないことを特徴とする、点眼剤。
(2)点眼剤中のリン酸又はその塩の濃度が、0.075体積モル濃度以下である、(1)記載の点眼剤。
(3)リン酸又はその塩が、リン酸二水素ナトリウムおよびリン酸水素ナトリウムである、(1)または(2)に記載の点眼剤。
(4)エピナスチン又はその塩が、エピナスチン塩酸塩である、(1)~(3)のいずれかに記載の点眼剤。
(5)さらに等張化剤として塩化ナトリウムを含有する、(1)~(4)のいずれかに記載の点眼剤。
(6)ソフトコンタクトレンズ装用眼に点眼されるように用いられることを特徴とする、(1)~(5)のいずれかに記載の点眼剤。
(7)1日1回又は2回点眼されるように用いられることを特徴とする、(1)~(6)のいずれかに記載の点眼剤。
(8)1眼あたり1滴又は2滴を1回として1日2回点眼されるように用いられることを特徴とする、(1)~(7)のいずれかに記載の点眼剤。
(9)1眼あたり1滴を1回として1日2回点眼されるように用いられることを特徴とする、(1)~(7)のいずれかに記載の点眼剤。
(10)有効成分として0.1%(w/v)の濃度のエピナスチン塩酸塩、緩衝剤としてリン酸二水素ナトリウムおよびリン酸水素ナトリウム、等張化剤として塩化ナトリウムを含有するアレルギー性結膜炎治療用の点眼剤であって、点眼剤中のリン酸又はその塩の濃度が0.075体積モル濃度以下であり、塩化ベンザルコニウムを含有せず、1眼あたり1滴を1回として1日2回点眼されるように用いられることを特徴とする、点眼剤。
【0011】
さらに、本発明は以下を提供する。
(11)治療が必要な患者に、有効成分として0.1%(w/v)の濃度のエピナスチン又はその塩、およびリン酸又はその塩を含有する点眼剤であって、塩化ベンザルコニウムを含有しないことを特徴とする、点眼剤を投与することを含む、アレルギー性結膜炎の治療方法。
(12)1日1回又は2回点眼することを特徴とする、(11)の治療方法。
(13)1眼あたり1滴又は2滴を1回として1日2回点眼することを特徴とする、(11)の治療方法。
(14)1眼あたり1滴を1回として1日2回点眼することを特徴とする、(11)の治療方法。
(15)アレルギー性結膜炎の治療における使用のための、有効成分として0.1%(w/v)の濃度のエピナスチン又はその塩、およびリン酸又はその塩を含有する点眼剤であって、塩化ベンザルコニウムを含有しないことを特徴とする、点眼剤。
(16)アレルギー性結膜炎治療剤の製造における、有効成分として0.1%(w/v)の濃度のエピナスチン又はその塩、およびリン酸又はその塩を含有する点眼剤であって、塩化ベンザルコニウムを含有しないことを特徴とする、点眼剤の使用。
(17)エピナスチン又はその塩を0.1%(w/v)の濃度で配合することで、添加剤として塩化ベンザルコニウムを含有せずに、エピナスチン又はその塩およびリン酸又はその塩を含有する点眼剤に防腐効力を付与する方法。
(18)エピナスチン又はその塩を0.1%(w/v)の濃度で配合することで、添加剤として塩化ベンザルコニウムを含有せずに、エピナスチン又はその塩およびリン酸又はその塩を含有する点眼剤に防腐効力を維持する方法。
(19)(1)~(10)のいずれかに記載の点眼剤による、ソフトコンタクトレンズの変形を抑制する方法。
【0012】
また、本発明は以下も提供する。
(20)有効成分として0.1%(w/v)の濃度のエピナスチン又はその塩、およびリン酸又はその塩を含有するアレルギー性結膜炎治療用の点眼剤であって、1眼あたり1滴又は2滴を1回として1日2回点眼されるように用いられることを特徴とする、点眼剤。
(21)点眼剤中のリン酸又はその塩の濃度が、0.075体積モル濃度以下である、(20)記載の点眼剤。
(22)リン酸又はその塩が、リン酸二水素ナトリウムおよびリン酸水素ナトリウムである、(20)または(21)に記載の点眼剤。
(23)有効成分として0.1%(w/v)の濃度のエピナスチン又はその塩を含有し、塩化ベンザルコニウムを含有しないアレルギー性結膜炎治療用の点眼剤であって、1眼あたり1滴又は2滴を1回として1日2回点眼されるように用いられることを特徴とする、点眼剤。
(24)ソフトコンタクトレンズ装用眼に点眼されるように用いられることを特徴とする、(23)記載の点眼剤。
(25)エピナスチン又はその塩が、エピナスチン塩酸塩である、(20)~(24)のいずれかに記載の点眼剤。
(26)さらに等張化剤として塩化ナトリウムを含有する、(20)~(25)のいずれかに記載の点眼剤。
なお、前記(1)から(26)の各構成は、任意に2以上を選択して組み合わせることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、点眼回数を減らしても十分な治療効果を有する、有効成分としてエピナスチン又はその塩を含有するアレルギー性結膜炎治療用の点眼剤を得ることができる。また、本発明は、ソフトコンタクトレンズに吸着するとされる塩化ベンザルコニウムを含有しないため、ソフトコンタクトレンズ装用眼に点眼可能なエピナスチン又はその塩を含有するアレルギー性結膜炎治療用の点眼剤を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明について詳細に説明する。
【0015】
本発明において、「エピナスチン」とは、化学名(±)-3-Amino-9,13b-dihydro-1H-dibenz[c,f]imidazo[1,5-a]azepineで表される化合物であり、また下記式:
【化1】
で表される化合物である。
【0016】
本発明の点眼剤において、含有されるエピナスチンはラセミ体であってもよく、光学異性体であってもよい。
【0017】
本発明の点眼剤において、含有されるエピナスチンは塩であってもよく、医薬として許容される塩であれば特に制限はない。塩としては例えば、無機酸との塩、有機酸との塩等が挙げられる。
無機酸との塩としては、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硝酸、硫酸、リン酸等との塩が挙げられる。
有機酸との塩としては、酢酸、シュウ酸、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、リンゴ酸、クエン酸、酒石酸、アジピン酸、グルコン酸、グルコヘプト酸、グルクロン酸、テレフタル酸、メタンスルホン酸、アラニン、乳酸、馬尿酸、1,2-エタンジスルホン酸、イセチオン酸、ラクトビオン酸、オレイン酸、没食子酸、パモ酸、ポリガラクツロン酸、ステアリン酸、タンニン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、硫酸ラウリル、硫酸メチル、ナフタレンスルホン酸、スルホサリチル酸等との塩が挙げられる。
エピナスチンの塩としては、一塩酸塩(エピナスチン塩酸塩)が特に好ましい。
【0018】
本発明の点眼剤において、含有されるエピナスチン又はその塩は、水和物又は溶媒和物の形態をとってもよい。
【0019】
本発明の点眼剤において、エピナスチン又はその塩は、その含有量が0.1%(w/v)より低いと、十分な薬効効果を得るために点眼量や点眼回数を増やさなければならないため、服薬アドヒアランスの観点から、エピナスチン又はその塩の含有量は0.1%(w/v)が最も好ましい。
一方、理論的には、エピナスチン又はその塩の含有量を0.1%(w/v)超とすれば、更に点眼回数を減少せしめる可能性もあるが(例えば、2日に1回)、エピナスチン又はその塩の含有量によってはソフトコンタクトレンズを変形させる作用を生じることもあり、その場合、ソフトコンタクトレンズ装用時には使用できない。つまり、有効成分であるエピナスチン又はその塩の含有量は、薬効効果、点眼回数、ソフトコンタクトレンズへの影響の有無、服薬アドヒアランス等の様々な要素を鑑みた上で、そのバランスを取った濃度に設定する必要がある。
なお、本発明において、「%(w/v)」は、本発明の点眼剤100mL中に含まれる対象成分の質量(g)を意味する。本発明においてエピナスチンの塩が含有される場合、その値はエピナスチンの塩の含有量である。また、本発明においてエピナスチン又はその塩が、水和物又は溶媒和物の形態をとって配合される場合、その値はエピナスチン又はその塩の、水和物又は溶媒和物の含有量である。以下、特に断りがない限り同様とする。
【0020】
本発明の点眼剤において、リン酸又はその塩としては、溶液中で緩衝状態にあるため、その状態は溶液のpHに依存するが、点眼剤を調製する際の原料としては、リン酸、リン酸三ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素ナトリウム(リン酸水素二ナトリウム)、リン酸三カリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム等が挙げられ、これらの水和物であってもよい。特に好ましくは、リン酸二水素ナトリウムおよびリン酸水素二ナトリウムである。リン酸又はその塩は、単独で用いてもよく、また、2種以上を適宜組み合わせて用いてもよい。
リン酸又はその塩が水和物である場合、その水和水は通常配位できる数であればよく、リン酸又はその塩の水和物とは、例えば1水和物、2水和物、3水和物、4水和物、5水和物、6水和物、7水和物、8水和物、9水和物、10水和物、11水和物、12水和物、1/2水和物、3/2水和物等が含まれる。
本発明の点眼剤において、リン酸又はその塩の濃度は、医薬品の添加剤として使用可能な範囲において適宜調整することができるが、0.075体積モル濃度以下が好ましく、0.075体積モル濃度未満がより好ましく、0.07体積モル濃度以下がさらに好ましく、0.05体積モル濃度以下が特に好ましい。また、0.001~0.075体積モル濃度も好ましく、0.005~0.07体積モル濃度がより好ましく、0.01~0.05体積モル濃度がさらに好ましい。さらには0.01体積モル濃度、0.02体積モル濃度、0.03体積モル濃度、0.04体積モル濃度、0.05体積モル濃度も好ましい。本発明の点眼剤において、リン酸又はその塩が2種以上組み合わせて用いられる場合には、その濃度はこれらを合計した体積モル濃度で表される。例えば、リン酸二水素ナトリウム0.03体積モル濃度とリン酸水素ナトリウム0.045体積モル濃度を配合する場合の、本発明の点眼剤に含有されるリン酸又はその塩の濃度は0.075体積モル濃度と算出される。
なお、本発明において、リン酸又はその塩の濃度を表す「体積モル濃度」は、各種リン酸塩の原料となる塩や水和物が多様であるため、画一的な指標として「PO4
3-」のモル数を選択して、本発明の点眼剤1L中に含まれる対象成分の物質量(mol)を「体積モル濃度」としたもので、「mol/L」または「M」と表すこともできる。
本発明において、「リン酸又はその塩の濃度」及び「リン酸濃度」とは、本発明の点眼剤1L中に含まれる、リン酸、リン酸塩、リン酸の1価イオン、リン酸の2価イオン、リン酸の3価イオンがすべて「PO4
3-」として存在した場合の体積モル濃度を示す。例えば、本発明の点眼剤に、リン酸二水素ナトリウム2水和物1.0gを含有させた場合のリン酸濃度は0.064Mであり、また本発明の点眼剤に、リン酸二水素ナトリウム2水和物0.3gとリン酸水素ナトリウム12水和物1.0gを含有させた場合のリン酸濃度は合算して0.047Mである。
また、本発明の点眼剤中に含有される、解離するリン酸塩は本発明の点眼剤中の「リン酸濃度」に含まれる。例えば、有効成分であるエピナスチンのリン酸塩を含有する場合は、そのリン酸塩はすべて解離するものとし、本発明の点眼剤中の「リン酸濃度」に含まれる。
【0021】
本発明の点眼剤において、リン酸又はその塩と併用して、医薬品の添加剤として使用可能なその他の緩衝剤を配合してもよい。本発明の点眼剤に緩衝剤を配合する場合の緩衝剤としては、例えば、ホウ酸又はその塩、ホウ砂、トロメタモール、炭酸又はその塩あるいは有機酸又はその塩等が挙げられ、これらの水和物又は溶媒和物であってもよい。
ホウ酸又はその塩としては、ホウ酸、ホウ酸ナトリウム、ホウ酸カリウム等が挙げられ、これらの水和物であってもよい。
炭酸又はその塩としては、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム等が挙げられ、これらの水和物であってもよい。
有機酸又はその塩としては、クエン酸、酢酸、ε-アミノカプロン酸、グルコン酸、フマル酸、乳酸、アスコルビン酸、コハク酸、マレイン酸、リンゴ酸、アミノ酸類又はこれらのナトリウム塩、カリウム塩等が挙げられ、これらの水和物であってもよい。
本発明の点眼剤において、リン酸又はその塩と併用して、その他の緩衝剤を配合する場合の緩衝剤の含有量は、緩衝剤の種類などにより適宜調整することができるが、0.001~10%(w/v)が好ましく、0.01~5%(w/v)がより好ましく、0.1~5%(w/v)がさらに好ましく、0.1~1%(w/v)が特に好ましい。また、これらの緩衝剤を配合する場合には、リン酸又はその塩とは別に、緩衝剤を1種又は2種以上一緒に用いてもよい。
【0022】
本発明の点眼剤において、「塩化ベンザルコニウムを含有しない」とは、点眼剤中の塩化ベンザルコニウムの含有量が文字通りゼロであることを意味する。
【0023】
本発明の点眼剤には、眼科用製剤としての要件を満たすために必要に応じて医薬品の添加剤をさらに用いることができる。具体的には、等張化剤、粘稠剤、界面活性化剤、安定化剤、抗酸化剤、pH調節剤等を加えることができる。これらは、それぞれ単独で用いてもよく、また、2種以上を適宜組み合わせて用いてもよく、適量を配合することができる。
本発明の点眼剤に等張化剤を配合する場合の等張化剤は、医薬品の添加剤として使用可能な等張化剤を適宜配合することができるが、例えば、イオン性等張化剤や非イオン性等張化剤等が挙げられる。
イオン性等張化剤としては、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム等が挙げられる。
非イオン性等張化剤としては、グリセリン、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ソルビトール、マンニトール、トレハロース、マルトース、スクロース、キシリトール等が挙げられる。
本発明の点眼剤に等張化剤を配合する場合の等張化剤として、イオン性等張化剤がより好ましく、塩化ナトリウムが特に好ましい。また、等張化剤を2種以上一緒に用いてもよい。
本発明の点眼剤に等張化剤を配合する場合の等張化剤の含有量は、等張化剤の種類などにより適宜調整することができるが、0.001~10%(w/v)が好ましく、0.01%~5%(w/v)がより好ましく、0.1~3%(w/v)がさらに好ましく、0.5~2%(w/v)が特に好ましい。
【0024】
本発明の点眼剤に粘稠剤を配合する場合の粘稠剤は、医薬品の添加剤として使用可能な粘稠剤を適宜配合することができるが、例えば、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、カルボキシメチルエチルセルロース、酢酸フタル酸セルロース、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、カルボキシビニルポリマー、ポリエチレングリコール、ヒアルロン酸ナトリウム等が挙げられる。
本発明の点眼剤に粘稠剤を配合する場合の粘稠剤の含有量は、粘稠剤の種類などにより適宜調整することができるが、0.001~5%(w/v)が好ましく、0.01%~3%(w/v)がより好ましく、0.1~2%(w/v)がさらに好ましい。
【0025】
本発明の点眼剤に界面活性化剤を配合する場合の界面活性化剤は、医薬品の添加剤として使用可能な界面活性化剤を適宜配合することができるが、例えば、カチオン性界面活性化剤、アニオン性界面活性化剤、非イオン性界面活性化剤等が挙げられる。
カチオン性界面活性化剤としては、アルキルアミン塩、アルキルアミンポリオキシエチレン付加物、脂肪酸トリエタノールアミンモノエステル塩、アシルアミノエチルジエチルアミン塩、脂肪酸ポリアミン縮合物、アルキルイミダゾリン、1-アシルアミノエチル-2-アルキルイミダゾリン、1-ヒドロキシルエチル-2-アルキルイミダゾリン等が挙げられる。ただし、塩化ベンザルコニウムはカチオン性界面活性化剤の性質を有しているが、これには含まれない。
アニオン性界面活性化剤としては、レシチン等のリン酸脂質等が挙げられる。
非イオン性界面活性化剤としては、ステアリン酸ポリオキシル40等のポリオキシエチレン脂肪酸エステル;ポリソルベート80、ポリソルベート60、ポリソルベート40、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタントリオレート、ポリソルベート65等のポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル;ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油10、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油40、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油50、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60等のポリオキシエチレン硬化ヒマシ油;ポリオキシル5ヒマシ油、ポリオキシル9ヒマシ油、ポリオキシル15ヒマシ油、ポリオキシル35ヒマシ油、ポリオキシル40ヒマシ油等のポリオキシルヒマシ油;ポリオキシエチレン(160)ポリオキシプロピレン(30)グリコール、ポリオキシエチレン(42)ポリオキシプロピレン(67)グリコール、ポリオキシエチレン(54)ポリオキシプロピレン(39)グリコール、ポリオキシエチレン(196)ポリオキシプロピレン(67)グリコール、ポリオキシエチレン(20)ポリオキシプロピレン(20)グリコール等のポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール;ショ糖ステアリン酸エステル等のショ糖脂肪酸エステル;トコフェロールポリエチレングリコール1000コハク酸エステル(ビタミンE TPGS)等が挙げられる。
本発明の点眼剤に界面活性化剤を配合する場合の界面活性化剤の含有量は、界面活性化剤の種類などにより適宜調整することができるが、0.01~1%(w/v)が好ましく、0.05~0.5%(w/v)がより好ましく、0.05%~0.2%(w/v)がさらに好ましい。
【0026】
本発明の点眼剤に安定化剤を配合する場合の安定化剤は、医薬品の添加剤として使用可能な安定化剤を適宜配合することができるが、例えば、エデト酸又はその塩等が挙げられる。
エデト酸又はその塩としては、エデト酸、エデト酸二ナトリウム、エデト酸四ナトリウム等が挙げられる。
本発明の点眼剤に安定化剤を配合する場合の安定化剤の含有量は、安定化剤の種類などにより適宜調整することができるが、0.001~5%(w/v)が好ましく、0.01%~3%(w/v)がより好ましく、0.1~2%(w/v)がさらに好ましい。
【0027】
本発明の点眼剤に抗酸化剤を配合する場合の抗酸化剤は、医薬品の添加剤として使用可能な抗酸化剤を適宜配合することができるが、例えば、アスコルビン酸、トコフェロール、ジブチルヒドロキシトルエン、亜硫酸ナトリウム等が挙げられる。
本発明の点眼剤に抗酸化剤を配合する場合の抗酸化剤の含有量は、抗酸化剤の種類などにより適宜調整することができるが、0.001~5%(w/v)が好ましく、0.01%~3%(w/v)がより好ましく、0.1~2%(w/v)がさらに好ましい。
【0028】
本発明の点眼剤にpH調節剤を配合する場合のpH調節剤は、医薬品の添加剤として使用可能なpH調節剤を適宜配合することができるが、例えば、酸又は塩基であり、酸としては例えば、塩酸、リン酸、クエン酸、酢酸等、塩基としては例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム等が挙げられる。本発明の点眼剤において、リン酸又はその塩は緩衝剤として使用されてもよいが、pH調節剤として使用されてもよい。
本発明の点眼剤のpHは、医薬品として許容される範囲内にあればよく、例えば4.0~8.5又は4.0~8.0の範囲内であり、6.0~8.0が好ましく、6.5~7.5がより好ましい。特に好ましいpHは、6.7~7.3であるが、6.7、6.8、6.9、7.0、7.1、7.2、7.3もさらにより好ましい。
【0029】
本発明の点眼剤の浸透圧比は、医薬品として許容される範囲内にあればよく、例えば0.5~2.0であり、0.7~1.6が好ましく、0.8~1.4がより好ましく、0.9~1.2がさらに好ましい。
【0030】
本発明の点眼剤において、その構成成分が全て溶解または一部懸濁していてもよいが、構成成分が全て溶解している液状がより好ましい。
【0031】
本発明の点眼剤は、特に断りのない限り、エピナスチン又はその塩以外の点眼剤に用いられる有効成分を含んでいてもよい。
【0032】
本発明における「アレルギー性結膜炎治療」とは、アレルギー性結膜炎およびその症状のあらゆる治療(例えば、改善、軽減、進行の抑制など)およびその予防が含まれる。
【0033】
本発明の点眼剤は、1眼あたり1滴又は2滴を1回として1日2回に分けて点眼することが好ましく、1眼あたり1滴を1回として1日2回に分けて点眼することがさらに好ましい。なお、本発明の点眼剤を1日2回に分けて点眼する場合には、その点眼間隔は少なくとも1時間以上がよく、2時間以上が好ましく、3時間以上がより好ましい。1滴は、通常、約0.01~約0.1mLであり、約0.015~約0.07mLが好ましく、約0.02~約0.05mLがより好ましく、約0.03mLが特に好ましい。
【0034】
本発明の点眼剤は、ハードコンタクトレンズ装用時においても、ソフトコンタクトレンズ装用時においても使用することができる。ソフトコンタクトレンズとしては、例えば、ヒドロキシエチルメタクリレートを主成分とするコンタクトレンズ又はシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ等が挙げられる。なお、本発明の適用対象となるソフトコンタクトレンズの種類については特に限定されるものではなく、イオン性または非イオン性、含水性または非含水性の別を問わない。例えば、繰り返し使用されるレンズの他、1日使い捨て用レンズ、1週間使い捨て用レンズ、2週間使い捨て用レンズなどの市販されるすべてのソフトコンタクトレンズに適用可能である。
【0035】
本発明の点眼剤の容器は、マルチドーズ型容器、1回使い切りのユニットドーズ型容器またはPFMD(Preservative Free Multi Dose)容器のいずれであってもよい。なお、容器の素材に特に制限はなく、一般に汎用される点眼剤の容器であればよいが、好ましくは樹脂製容器であり、例えば、ポリエチレン(PE)製、ポリプロピレン(PP)製、ポリエチレンテレフタレート(PET)製、ポリブチレンテレフタレート(PBT)製、ポリプロピレン-ポリエチレンコポリマー製、ポリ塩化ビニル製、アクリル製、ポリスチレン製、ポリ環状オレフィンコポリマー製等の容器を用いることができる。また樹脂製容器の材質が、例えばポリエチレンであれば、ポリエチレンはその密度によって分類され、低密度ポリエチレン(LDPE)製、中密度ポリエチレン(MDPE)製、高密度ポリエチレン(HDPE)製等の容器を用いることができる。
【0036】
本発明の点眼剤は、汎用される方法により調製することができる。例えば、蒸留水に各成分を溶解又は懸濁させ、浸透圧、pH等を所定の範囲に調整し、濾過滅菌又は加熱滅菌処理することにより調製することができる。
【実施例0037】
以下に、製剤例および各試験の結果を示すが、これらは本発明をより良く理解するためのものであり、本発明の範囲を限定するものではない。
【0038】
製剤例
以下に本発明の代表的な製剤例を示す。なお、下記製剤例において各成分の配合量は製剤100mL中の含量である。
【0039】
製剤例1
エピナスチン塩酸塩 0.1g
リン酸二水素ナトリウム2水和物 1.0g(0.064M)
塩化ナトリウム 0.5g
希塩酸 適量
水酸化ナトリウム 適量
精製水 適量
pH 7.0
(製剤例1に含まれるリン酸濃度:0.064M)
【0040】
製剤例2
エピナスチン塩酸塩 0.1g
リン酸二水素ナトリウム2水和物 0.3g(0.019M)
リン酸水素ナトリウム12水和物 1.0g(0.028M)
塩化ナトリウム 0.5g
希塩酸 適量
水酸化ナトリウム 適量
精製水 適量
pH 7.0
(製剤例2に含まれるリン酸濃度:0.047M)
【0041】
1.花粉外壁の破裂抑制試験
(1)被験製剤の調製
以下の濃度になるように、エピナスチン塩酸塩、リン酸又はその塩、塩化ナトリウムを水に溶解し、pH調節剤(塩酸および/または水酸化ナトリウム)と水を加えて全量を10mLとし、濾過滅菌を行うことにより、実施例1の製剤を調製した。
【0042】
実施例1
エピナスチン塩酸塩 0.1%(w/v)
塩化ナトリウム 0.5%(w/v)
リン酸濃度 0.075M
希塩酸 適量
水酸化ナトリウム 適量
精製水 適量
pH 7.0
【0043】
実施例1の調製方法と同様の方法にて、実施例2~5および比較例1~2の製剤を調製した。各被験製剤の濃度について、表1に示す通りである。
また、日本で上市されている「アレジオン
(登録商標)点眼液0.05%」を比較例3とした。
【表1】
【0044】
(2)試験方法
スギ花粉粒子を約3μLずつ採取し、96ウェルマイクロプレートに播種した。その後、各ウェルに被験製剤50μLを滴下し、直後に血球計算盤を用いて光学顕微鏡下でトータルの花粉数を計測した。さらに、経時的に滴下5分後および10分後に破裂した花粉数を同様に顕微鏡下で計測した。
【0045】
花粉破裂率は以下の計算式より算出した。
花粉破裂率(%)=(滴下5分後または10分後までに破裂した花粉数)/(被験製剤滴下直後のトータル花粉数)×100
【0046】
(3)試験結果及び考察
試験結果を表2に示す。
【表2】
【0047】
表2に示されるように、リン酸濃度によって濃度依存的に花粉外壁の破裂が進行すること、エピナスチン又はその塩は濃度依存的に花粉外壁の破裂を抑制する効果を有すること、および一定範囲のリン酸濃度に対して、一定濃度のエピナスチン又はその塩が花粉外壁の破裂を抑制する効果を有することが示された。併せて、0.075体積モル濃度超のリン酸濃度を含有する0.1%(w/v)エピナスチン塩酸塩溶液では、「アレジオン(登録商標)点眼液0.05%」と同程度の花粉外壁の破裂率を得られないことも示唆された。
【0048】
2.ソフトコンタクトレンズ(SCL)変形試験
本発明の点眼剤によるSCLの変形の有無を検討した。
(1)被験製剤の調製
被験製剤として、上記の「1.花粉外壁の破裂抑制試験」で使用した実施例2と比較例3(アレジオン(登録商標)点眼液0.05%)を選択した。また、実施例1の調製方法と同様の方法にて、以下の比較例4の製剤を調製した。
【0049】
比較例4
エピナスチン塩酸塩 0.15%(w/v)
塩化ナトリウム 0.5%(w/v)
リン酸濃度 0.05M
希塩酸 適量
水酸化ナトリウム 適量
精製水 適量
pH 7.0
【0050】
(2)試験方法
SCLに各被験製剤50μLを滴下し、10分後に薬液を除去した後に生理食塩水で洗浄した。これを1サイクルとして、7サイクル繰り返した。SCLの直径およびベースカーブを測定した。
【0051】
直径変形量及びベースカーブ変形量は以下の計算式より算出した。
直径変形量(mm)=(7サイクル後の直径)-(使用前の直径)
ベースカーブ変形量(mm)=(7サイクル後のベースカーブ)-(使用前のベースカーブ)
【0052】
(3)試験結果及び考察
試験結果を表3に示す。
【表3】
【0053】
表3に示されるように、エピナスチン又はその塩が高濃度になると、SCLの変形を引き起こす可能性が示唆された。
【0054】
3.アレルギー性結膜炎モデルを用いた薬効評価試験
アレルギー性結膜炎に対する抗アレルギー作用を評価するため、モルモットを用いて実験的アレルギー性結膜炎モデルを作成し、本発明の点眼剤の治療効果を検討した。
被験製剤として、上記の「1.花粉外壁の破裂抑制試験」で使用した実施例2と比較例3(アレジオン(登録商標)点眼液0.05%)を用いた。モルモットに被験製剤を点眼後、アレルギーを惹起するまでの時間を変えることにより、各被験製剤の治療効果を評価した。
【0055】
その結果、実施例2における点眼後8時間の時点と、比較例3における点眼後4時間の時点とで、ほぼ同程度の治療効果を示した。すなわち、実施例2の製剤は、比較例3の製剤に比べて治療効果の持続時間が約2倍である。従って、実際にアレルギー性結膜炎治療剤として使用されている比較例3の点眼回数が1日4回であることを鑑みると、本発明の点眼剤の点眼回数は1日2回で十分であることが示唆された。
【0056】
4.眼内動態試験
点眼後の眼内動態を評価するため、動物に本発明の点眼剤を点眼し、点眼後の結膜中濃度を測定した。
(1)被験製剤の調製
被験製剤として、上記の「1.花粉外壁の破裂抑制試験」で使用した実施例2と比較例3(アレジオン(登録商標)点眼液0.05%)を選択した。また、実施例1の調製方法と同様の方法にて、緩衝剤としてトロメタモールを含む、以下の比較例5の製剤を調製した。
【0057】
比較例5
エピナスチン塩酸塩 0.1%(w/v)
塩化ナトリウム 0.76%(w/v)
トロメタモール 0.25%(w/v)
希塩酸 適量
水酸化ナトリウム 適量
精製水 適量
pH 7.0
【0058】
(2)試験方法
各被験製剤5μLをラットに1回点眼投与し(n=5)、点眼後1時間および4時間後に、屠殺処分後の眼球を摘出した。その結膜中のエピナスチン濃度を測定し、平均値を算出した。
【0059】
(3)試験結果及び考察
試験結果を表4に示す。
【表4】
【0060】
表4に示されるように、本発明の点眼剤を投与することにより、エピナスチンは結膜中に長く滞留することが認められた。従って、実際にアレルギー性結膜炎治療剤として使用されている比較例3の点眼回数は1日4回であることを鑑みると、本発明の点眼剤の点眼回数はそれより少なく済ませられることが示唆された。
また、被験製剤に含有される添加剤が、エピナスチンの結膜中での滞留時間に影響を及ぼすことが認められ、緩衝剤としてリン酸又はその塩が優れていることが示唆された。
【0061】
5.防腐効力試験
本試験は、第17改正日本薬局方に記載の保存効力試験法に準じて実施した。
(1)被験製剤の調製
実施例1の調製方法と同様の方法にて、実施例6~7および比較例6の製剤を調製した。各被験製剤の濃度について、表5に示す通りである。
【表5】
【0062】
(2)試験方法
接種菌として以下の菌株を使用した。
細菌:
大腸菌,Escherichia Coli ATCC 8739(E.coliともいう)
緑膿菌,Pseudomonas aeruginosa ATCC 9027(P.aeruginosaともいう)
黄色ブドウ球菌,Staphylococcus aureus ATCC 6538(S.aureusともいう)
酵母菌およびカビ類:
カンジダ,Candida albicans ATCC 10231(C.albicansともいう)
クロコウジカビ,Aspergillus brasiliensis ATCC16404(A.brasiliensisともいう)
【0063】
各製剤からなる試験試料中の菌液濃度が105~106個/mL(5菌種共)となるように、接種菌液を試験試料に接種した。具体的には、107~108cfu/mLとなるように接種菌液を調製し、この接種菌液を105~106cfu/mLとなるように、実施例6~7及び比較例6の製剤からなる試験試料に各接種菌液を接種し、均一に混合し試料とした。これらの試料を遮光下20~25℃に保存し、各サンプリングポイント(7日後、14日後、又は28日後)において、各試料からマイクロピペットで1mLを採取し、生菌数を測定した。各サンプリングポイントでは、試料溶液の蓋を空けてサンプリングを実施し、蓋を閉める操作を行った。
【0064】
(3)試験結果及び考察
試験結果を表6に示す。表6の試験結果は、生菌数を測定したときの菌数(A)に対する接種時の菌数(B)の比(B/A)の常用対数値で示す。たとえば、値が「1」の場合には、検査時の生菌数が接種菌数の10%に減少したことを示す。
試験の合否判定について、細菌種(E.coli、P.aeruginosa、S.aureus)に対しては、播種7日後に1.0以上、かつ14日後または28日後に3.0以上であること、および真菌種(C.albicans、A.brasiliensis)に対しては、播種7日後と比較して播種14日後または28日後の数値が減少していないこと、をいずれも満たす時に適合とした。なお、表中の"N.D."は測定を行っていないことを表す。
【表6】
【0065】
表6に示されるように、エピナスチン又はその塩を含有する実施例6~7の製剤は、塩化ベンザルコニウムを含有しないにもかかわらず、いずれの菌に対しても十分な防腐効果を示した。これに対して、比較例6の製剤は、十分な防腐効果を有さないことが示された。これにより、0.05%(w/v)超、少なくとも0.1%(w/v)以上の濃度のエピナスチン又はその塩を含有する点眼剤は、塩化ベンザルコニウムを含有しなくても使用可能であることが示唆された。
【0066】
6.ヒトにおける薬効評価試験
ヒトにおけるアレルギー性結膜炎に対する抗アレルギー作用を評価するため、臨床試験を実施し、本発明の点眼剤の治療効果を検討した。治療効果の比較対照には、比較薬1(アレジオン(登録商標)点眼液0.05%)を用いた。
【0067】
(1)被験製剤の調製
有効成分として0.1%(w/v)の濃度のエピナスチン又はその塩、緩衝剤としてリン酸二水素ナトリウム及びリン酸水素ナトリウム、および等張化剤として塩化ナトリウムを含有する点眼剤であって、さらには塩化ベンザルコニウムを含有しない、点眼剤(治療薬1)を、汎用される方法を用いることにより、調製した。なお、上記点眼剤(治療薬1)中のリン酸又はその塩の濃度は0.075体積モル濃度以下となるように調製した。
【0068】
(2)試験方法
無症状期のアレルギー性結膜炎患者(68人)を対象として、予め被験者ごとの至適抗原濃度を決定した後、2群(A群:比較薬1先行群、B群:治験薬1先行群)に無作為に割付け、2回の来院で治験薬を二重盲検法下で点眼した後に抗原誘発を行った。
1回目の来院で、A群では抗原誘発8時間(1日2回投与する場合の点眼間隔に相当)前にプラセボ点眼液を片眼に1滴点眼し、抗原誘発4時間(1日4回投与する場合の点眼間隔に相当)前に比較薬1を他眼に1滴点眼した。B群では抗原誘発8時間前に治験薬1を片眼に1滴点眼し、抗原誘発4時間前にプラセボ点眼液を他眼に1滴点眼した。14日以上空けた2回目の来院では、A群とB群で投与薬剤をクロスオーバーさせた。
【0069】
(3)抗原誘発によるアレルギー症状の評価方法
眼そう痒感及び結膜充血(眼球結膜充血および眼瞼結膜充血)について、症状の重度に基づいた判定基準を用いてスコアをつけることにより評価した。なお、眼そう痒感のスコアは0~4の5段階、結膜充血のスコアは0~6(眼球結膜充血0~3と眼瞼結膜充血0~3の合計スコア)の7段階である。
【0070】
(4)試験結果及び考察
抗原誘発後の3時点(3分、5分及び10分後)の平均の眼そう痒感スコア、及び抗原誘発後の3時点(5分、10分及び20分後)の平均の結膜充血スコアを表7に示す。(なお、表中の"Mean"は平均値、"SD"は標準偏差、"N"はサンプル数を表し、これらは汎用的な統計処理により算出されるものである)。
【表7】
【0071】
表7に示されるように、治療薬1はヒトでのアレルギー性結膜炎に対して高い治療効果を示した。さらに治療薬1は、比較薬1と比較して治療効果の持続時間が約2倍あることが認められた。すなわち、実際にアレルギー性結膜炎治療剤として使用されている比較薬1の点眼回数が1日4回であることを鑑みると、本発明の点眼剤の点眼回数は1日2回で十分であることが示唆された。
【0072】
また治療薬1は、比較薬1と比較して有効成分が高濃度であるにも関わらず、本試験中において副作用は発現しておらず、医薬品として十分忍容できるものであった。
本発明は、有効成分として0.1%(w/v)の濃度のエピナスチン又はその塩、および緩衝剤としてリン酸又はその塩を含有するアレルギー性結膜炎治療用の点眼剤であって、塩化ベンザルコニウムを含有しないことを特徴とする、点眼剤を提供する。