IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ デクセリアルズ株式会社の特許一覧

特開2024-116304原盤、原盤の製造方法及び転写物の製造方法
<>
  • 特開-原盤、原盤の製造方法及び転写物の製造方法 図1
  • 特開-原盤、原盤の製造方法及び転写物の製造方法 図2A
  • 特開-原盤、原盤の製造方法及び転写物の製造方法 図2B
  • 特開-原盤、原盤の製造方法及び転写物の製造方法 図3A
  • 特開-原盤、原盤の製造方法及び転写物の製造方法 図3B
  • 特開-原盤、原盤の製造方法及び転写物の製造方法 図4
  • 特開-原盤、原盤の製造方法及び転写物の製造方法 図5
  • 特開-原盤、原盤の製造方法及び転写物の製造方法 図6
  • 特開-原盤、原盤の製造方法及び転写物の製造方法 図7
  • 特開-原盤、原盤の製造方法及び転写物の製造方法 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024116304
(43)【公開日】2024-08-27
(54)【発明の名称】原盤、原盤の製造方法及び転写物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/027 20060101AFI20240820BHJP
   B29C 33/72 20060101ALI20240820BHJP
   B29C 33/38 20060101ALI20240820BHJP
   B29C 33/42 20060101ALI20240820BHJP
【FI】
H01L21/30 502D
B29C33/72
B29C33/38
B29C33/42
【審査請求】有
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024094675
(22)【出願日】2024-06-11
(62)【分割の表示】P 2019191159の分割
【原出願日】2019-10-18
(31)【優先権主張番号】P 2018198346
(32)【優先日】2018-10-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000108410
【氏名又は名称】デクセリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000936
【氏名又は名称】弁理士法人青海国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】梶谷 俊一
(57)【要約】
【課題】転写不良が抑制された転写物をより高効率で製造する。
【解決手段】基材と、前記基材の一面に設けられ、微細凹凸構造が形成されたパターン層と、前記基材と前記パターン層の間に挟持されるように設けられ、前記パターン層よりも光吸収係数が大きい吸収層と、を備える、原盤。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、
前記基材の一面に設けられ、微細凹凸構造が形成されたパターン層と、
前記基材と前記パターン層の間に挟持されるように設けられ、前記パターン層よりも光吸収係数が大きい吸収層と、
を備え、
前記基材の前記一面の表面粗さは、前記微細凹凸構造の凹凸の高低差の1/100以下である、原盤。
【請求項2】
前記基材と前記パターン層との間に設けられた前記吸収層は、前記パターン層を透過又は導波する伝播光を吸収する、請求項1に記載の原盤。
【請求項3】
前記基材と前記パターン層との間に設けられた前記吸収層は、前記基材の内部を透過又は導波する伝搬光を吸収する、請求項1又は2に記載の原盤。
【請求項4】
前記吸収層は、前記パターン層よりも光吸収係数が大きく、透明ではない非金属材料で形成される、請求項1~3のいずれか一項に記載の原盤。
【請求項5】
前記吸収層は、Siで形成される、請求項1~4のいずれか一項に記載の原盤。
【請求項6】
前記パターン層は、透明材料で形成される、請求項1~5のいずれか一項に記載の原盤。
【請求項7】
前記パターン層は、SiOで形成される、請求項1~6のいずれか一項に記載の原盤。
【請求項8】
前記基材は、セラミック材料又はガラス材料で形成される、請求項1~7のいずれか一項に記載の原盤。
【請求項9】
前記微細凹凸構造は、モスアイ構造である、請求項1~8のいずれか一項に記載の原盤。
【請求項10】
前記パターン層の膜厚は、前記微細凹凸構造の凹凸の高低差よりも大きく、
前記微細凹凸構造の凹凸の高低差は300nm~500nmであり、前記パターン層の膜厚は500nm~700nmである、請求項1~9のいずれか一項に記載の原盤。
【請求項11】
前記吸収層は、Siで形成され、前記吸収層の膜厚は、5nm以上である、請求項1~10のいずれか一項に記載の原盤。
【請求項12】
前記基材の形状は、円筒型形状であり、
前記基材の前記一面は、前記円筒型形状の外周面であり、
前記パターン層は、前記外周面に沿って設けられる、請求項1~11のいずれか一項に記載の原盤。
【請求項13】
基材の一面に、吸収層を形成するステップと、
前記吸収層の上に前記吸収層よりも光吸収係数が小さく、微細凹凸構造が形成されたパターン層を形成するステップと、
を含み、
前記基材の前記一面の表面粗さは、前記微細凹凸構造の凹凸の高低差の1/100以下である、原盤の製造方法。
【請求項14】
請求項1~12のいずれか一項に記載の原盤の前記パターン層に光硬化性樹脂を塗布し、樹脂層を形成するステップと、
前記樹脂層を硬化させた後、前記樹脂層を剥離することで、前記微細凹凸構造を前記樹脂層に転写し、転写物を形成するステップと、
前記樹脂層を剥離した後の前記原盤を洗浄することで、前記原盤に残留する前記光硬化性樹脂を除去するステップと、
を含み、
洗浄後の前記原盤を繰り返し用いて、複数の前記転写物を製造する、転写物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原盤、原盤の製造方法及び転写物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、微細加工技術の一つであるインプリント技術の開発が進展している。インプリント技術とは、表面に微細な凹凸構造を形成した原盤を被転写材に押し当てた後、被転写材を硬化させることで、原盤表面の凹凸構造を被転写材に転写する技術である。
【0003】
このようなインプリント技術として、例えば、ロール状の原盤を被転写材に連続的に押し当てることで、原盤表面の凹凸構造を被転写材に連続的に転写するロールツーロールインプリント技術が知られている。しかし、このようなロール状の原盤を用いた連続的な転写では、被転写材が転写前に意図せず硬化し始めてしまうことで、凹凸構造の転写が不良となることがある。
【0004】
具体的には、被転写材が光硬化性樹脂である場合、被転写材の意図しない硬化は、原盤の基材を通じた被転写材への意図しない光照射によって生じる。例えば、原盤の基材中を通過した導波光又は透過光が意図しない領域の被転写材に照射されることで、意図しない領域の被転写材が硬化してしまうことがあり得る。
【0005】
例えば、下記の特許文献1には、インプリント用のロール状モールドにおいて、基材に形成された微細構造層上に金属からなるUV吸収層を設け、基材中を通過する導波光又は透過光を抑制することで、転写不良の発生を抑制する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2013-45792号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一方で、転写物をより安価かつ高効率で製造する方法として、転写後の原盤を洗浄し、原盤の表面に付着した被転写材を除去することで、原盤を繰り返し使用可能とすることが検討されている。しかし、特許文献1では、原盤であるロール状モールドの繰り返し使用については、十分な検討が行われていなかった。そこで、洗浄による繰り返し使用に適した原盤が求められていた。
【0008】
そこで、本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、転写不良が抑制された転写物をより高効率で製造することが可能な、新規かつ改良された原盤、該原盤の製造方法、及び該原盤を用いた転写物の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、基材と、前記基材の一面に設けられ、微細凹凸構造が形成されたパターン層と、前記基材と前記パターン層の間に挟持されるように設けられ、前記パターン層よりも光吸収係数が大きい吸収層と、を備える、原盤が提供される。
【0010】
前記吸収層は、非金属材料で形成されてもよい。
【0011】
前記パターン層は、透明材料で形成されてもよい。
【0012】
前記パターン層は、SiOで形成され、前記吸収層は、Siで形成されてもよい。
【0013】
前記基材は、セラミック材料又はガラス材料で形成されてもよい。
【0014】
前記微細凹凸構造は、モスアイ構造であってもよい。
【0015】
前記基材の前記一面の表面粗さは、前記微細凹凸構造の凹凸の高低差の1/100以下であってもよい。
【0016】
前記パターン層の膜厚は、前記微細凹凸構造の凹凸の高低差よりも大きくともよい。
【0017】
前記吸収層がSiで形成される場合、前記吸収層の膜厚は、5nm以上であってもよい。
【0018】
前記基材の形状は、円筒型形状であってもよい。
【0019】
前記基材の前記一面は、前記円筒型形状の外周面であり、前記パターン層は、前記外周面に沿って設けられてもよい。
【0020】
また、上記課題を解決するために、基材の一面に吸収層を形成するステップと、前記吸収層の上に前記吸収層よりも光吸収係数が小さく、微細凹凸構造が形成されたパターン層を形成するステップと、を含む、原盤の製造方法が提供される。
【0021】
また、上記課題を解決するために、上記の原盤の前記パターン層に光硬化性樹脂を塗布し、樹脂層を形成するステップと、前記樹脂層を硬化させた後、前記樹脂層を剥離することで、前記微細凹凸構造を前記樹脂層に転写し、転写物を形成するステップと、前記樹脂層を剥離した後の前記原盤を洗浄することで、前記原盤に残留する前記光硬化性樹脂を除去するステップと、を含み、洗浄後の前記原盤を繰り返し用いて、複数の前記転写物を製造する、転写物の製造方法が提供される。
【0022】
上記構成によれば、原盤の内部を透過又は導波する伝搬光の発生を抑制し、かつ、原盤を繰り返し洗浄しても、伝搬光の発生を抑制する効果が減少しない原盤を提供することができる。
【発明の効果】
【0023】
以上説明したように本発明によれば、転写不良が抑制された転写物をより高効率で製造することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の一実施形態に係る原盤の構成を模式的に示す断面図である。
図2A】吸収層の配置が変更された比較例1に係る原盤を模式的に示す断面図である。
図2B】吸収層の配置が変更された比較例2に係る原盤を模式的に示す断面図である。
図3A】同実施形態に係る原盤及び転写物の製造工程を説明するフローチャートである。
図3B】同実施形態に係る原盤及び転写物の製造工程を説明するフローチャートである。
図4】転写物に対する光反射率の測定方法を説明する模式図である。
図5】転写物に対する光反射率の測定結果を示すグラフである。
図6】原盤に対する光透過率の測定方法を説明する模式図である。
図7】酸素プラズマ処理の前後の原盤に対する光透過率の測定結果を示すグラフである。
図8】吸収層の材質ごとに損失透過率を算出したシミュレーション結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0026】
なお、以下の説明にて参照する各図面では、説明の便宜上、一部の構成要素の大きさを誇張して表現している場合がある。したがって、各図面において図示される構成要素同士の相対的な大きさは、必ずしも実際の構成要素同士の大小関係を正確に表現するものではない。
【0027】
<1.原盤の構成>
まず、図1を参照して、本発明の一実施形態に係る原盤の構成について説明する。図1は、本実施形態に係る原盤の構成を模式的に示す断面図である。
【0028】
本実施形態に係る原盤1は、例えば、ロールツーロール(roll-to-roll)方式のインプリントに用いられる原盤である。原盤1は、外周面に設けられたパターン層12を被転写材に回転しながら押し当てることで、パターン層12に形成された微細凹凸構造30を被転写材に転写することができる。
【0029】
原盤1を用いて被転写材に微細凹凸構造30を転写した後に、原盤1を洗浄することで、再度、原盤1を用いて被転写材に微細凹凸構造30を転写することが可能となる。これは、転写後の原盤1のパターン層12には、被転写材から剥がれた被転写物の一部、又は原盤1と被転写材との剥離性を向上させるための剥離剤等が付着しているためである。これらの付着物を洗浄によって除去することで、原盤1は、再度、被転写材に微細凹凸構造30を精度良く転写することができるようになる。原盤1の洗浄は、例えば、強酸、強塩基、又は酸化剤等を用いた洗浄液に原盤1を浸漬することで行うことが可能である。例えば、原盤1の洗浄は、硫酸及び過酸化水素水を混合したピラニア溶液に原盤1を浸漬することで行うことができる。
【0030】
より具体的には、図1に示すように、原盤1は、基材11と、吸収層20と、微細凹凸構造30が形成されたパターン層12と、を備える。
【0031】
基材11は、例えば、内部に空洞を有する中空の円筒型形状の部材である。ただし、基材11は、内部に空洞を有さない中実の円柱型形状の部材であってもよい。基材11がこのような形状であることにより、原盤1は、ロールツーロール(roll-to-roll)方式のインプリントに用いられることができる。
【0032】
具体的には、基材11の形状は、高さ(軸方向の長さ)が100mm以上であり、底面又は上面の円の直径(軸方向と直交する径方向の外径)が50mm以上300mm以下であり、径方向の厚み(肉厚)が2mm以上50mm以下である円筒型形状であってもよい。
【0033】
ただし、基材11の形状又は大きさは、上記例示に限定されない。例えば、基材11の形状は、平板形状であってもよい。
【0034】
基材11の一面(基材11が円筒型形状である場合は、基材11の外周面)には、後述するように、微細凹凸構造30が形成されるパターン層12が設けられる。そのため、微細凹凸構造30の凹凸構造の形成性をより良好とするためには、基材11の一面(すなわち、外周面)の表面粗さ(算術平均粗さRa)は、微細凹凸構造30の凹凸の高低差の1/100以下とすることが好ましく、1/10000以下とすることがより好ましい。基材11の一面(すなわち、外周面)の表面粗さは、小さければ小さいほど良いが、基材11の加工限界の観点から、微細凹凸構造30の凹凸の高低差の1/10000を下限としてもよい。
【0035】
基材11は、転写後に行われる洗浄工程にて溶解又は腐食されない材質で形成されることが好ましい。例えば、基材11は、各種セラミック材料、又は溶融石英ガラス、合成石英ガラス、テンパックス(登録商標)などの耐熱ガラス、白板ガラス若しくは強化ガラスなどのガラス材料で形成されることが好ましい。さらには、基材11の材質として、AlN、C、SiC又はSi等を用いることも可能である。一方、各種金属、又は各種有機樹脂等は、洗浄工程に対する耐腐食性又は耐溶剤性が低いため、基材11の材質として好ましくない。
【0036】
パターン層12は、基材11の一面に設けられ、微細凹凸構造30が形成される層である。微細凹凸構造30が形成されるパターン層12は、微細凹凸構造30の凹凸の高低差よりも大きい膜厚を有することが好ましい。例えば、微細凹凸構造30の凹凸の高低差が300nm~500nmである場合、パターン層12の膜厚は、500nm~700nmであってもよい。
【0037】
パターン層12は、例えば、SiOを主成分とする溶融石英ガラス又は合成石英ガラスなどのガラス材料で形成されることが好ましい。SiOを主成分とするガラス材料は、エッチングによる微細加工が容易であり、かつ高い耐腐食性を有するため、パターン層12の材質として特に好ましい。一方、Al又はW等の金属材料は、洗浄工程に対する耐腐食性が低いため、パターン層12の材質として好ましくない。
【0038】
パターン層12がSiOを主成分とするガラス材料で形成される場合、パターン層12は、可視光帯域近傍の光に対する光透過性が高くなり、透明となる。このような場合、パターン層12は、転写時に被転写材を硬化させるために照射された光(例えば、紫外線)を透過又は導波させることで、伝搬光を発生させてしまうことがある。これにより、パターン層12は、意図しない領域の被転写材に該伝搬光を照射することで、意図しない領域の被転写材を転写前に硬化させてしまう可能性がある。本実施形態に係る原盤1では、後述する吸収層20によって、パターン層12を透過又は導波する伝搬光を吸収することができる。これによれば、本実施形態に係る原盤1は、被転写材が転写前に意図せずに硬化してしまうことを抑制することができるため、転写不良の発生を抑制することができる。
【0039】
パターン層12に形成される微細凹凸構造30は、複数の凹部又は凸部が規則的又は不規則的に配列された構造である。具体的には、複数の凹部又は凸部の平面形状の大きさの平均が可視光帯域に属する光の波長以下であってもよい、微細凹凸構造30は、当該複数の凹部又は凸部の互いの間隔の平均が可視光帯域に属する光の波長以下となるように、当該複数の凹部又は凸部を規則的又は不規則的に配置した構造であってもよい。
【0040】
例えば、凹部又は凸部の平面形状の大きさ及び間隔の平均は、1μm未満であってもよく、好ましくは100nm以上350nm以下であってもよい。凹部又は凸部の平面形状の大きさ及び間隔の平均が上記範囲内である場合、微細凹凸構造30は、可視光帯域に属する光の反射を抑制する、いわゆるモスアイ構造として機能することができる。一方、凹部又は凸部の平面形状の大きさ及び間隔の平均が100nm未満である場合、微細凹凸構造30の形成が困難となることがある。また、凹部又は凸部の平面形状の大きさ及び間隔の平均が350nmを超える場合、可視光の回折が生じ、モスアイ構造としての機能が低下する可能性がある。
【0041】
ここで、凹部又は凸部の平面形状は、略円形状、楕円形状、又は多角形状のいずれであってもよい。また、微細凹凸構造30における凹部又は凸部の配置は、最密充填配置、四方格子状配置、六方格子状配置、又は千鳥格子状配置のいずれであってもよい。微細凹凸構造30が転写された転写物が奏する機能に応じて、当該配置を適宜選択することができる。
【0042】
吸収層20は、基材11及びパターン層12の間に挟持されるように設けられる。つまり、吸収層20は、基材11の外周側かつパターン層12の内周側に配置され、基材11とパターン層12との間に積層される。吸収層20の光吸収係数が、パターン層12の光吸収係数よりも大きくなるように、吸収層20及びパターン層12の材料が選定される。これにより、吸収層20は、被転写材を硬化させるために照射された光のうち、パターン層12を透過又は導波する光を吸収することができる。
【0043】
吸収層20は、パターン層12よりも光吸収係数が大きく、透明ではない非金属材材料で形成することができる。具体的には、吸収層20は、Siで形成されることが好ましい。また、吸収層20は、SiOx(ただし、完全に酸化されておらず透明ではないもの)、SiNx、C、SiC、TiN、WN、又はAlNなどの無機酸窒化物で形成されてもよい。
【0044】
吸収層20は、転写後の洗浄工程において、パターン層12を越えて浸透した、強酸又は強塩基の洗浄液に曝される可能性があるため、耐腐食性が高い上記の材料で形成されることが好ましい。一方、吸収層20が金属材料等で形成された場合、転写後の洗浄工程において、パターン層12を越えて浸透した洗浄液によって吸収層20がエッチングされ、基材11とパターン層12とが剥離する可能性があるため、吸収層20を金属材料等で形成することは好ましくない。
【0045】
さらに、転写物を製造する転写工程、及び原盤1を再生する洗浄工程において、原盤1に熱が加えられることが多い。そのため、吸収層20とパターン層12の間、又は吸収層20と基材11との間において、クラックの発生を抑制するために、吸収層20は、パターン層12及び基材11と線膨張係数(熱膨張係数とも称される)が近い材料で形成されることが好ましい。例えば、基材11及びパターン層12がSiOを主成分として形成される場合、吸収層20は、SiOと線膨張係数が近いSiで形成されることが好ましい。
【0046】
吸収層20の膜厚に関しては、吸収層20が十分な光吸収特性を有することができるように、吸収層20を形成する材料に応じて、適切な膜厚を適宜選択することができる。なお、吸収層20がSiで形成される場合、Siの膜厚が過度に薄いと、Siは自然酸化されてSiOとなることがある。このため、Siで形成される吸収層20の膜厚の下限を、5nmとしてもよい。吸収層20の膜厚が厚ければ厚いほど、吸収層20の光吸収特性が向上する。しかし、吸収層20の膜厚が過度に厚くなった場合、吸収層20の形成に時間がかかり、かつ吸収層20の膜剥がれの可能性が高まるため、原盤1の製造の難易度が増加する。そのため、吸収層20の膜厚の上限を、例えば、10000nmとしてもよい。
【0047】
なお、上述した原盤1を用いて製造された転写物は、様々な用途に用いられることができる。例えば、原盤1を用いて製造された転写物は、導光板、光拡散板、マイクロレンズアレイ、フレネルレンズアレイ、回折格子、又は反射防止フィルムなどの光学部材として用いることが可能である。
【0048】
<2.吸収層の配置>
続いて、図2A及び図2Bを参照して、本実施形態に係る原盤1における吸収層20の配置の優位性について説明する。図2Aは、図1で示す原盤1と比べて、吸収層20の配置を変更した、比較例1に係る原盤2Aを模式的に示す断面図であり、図2Bは、図1で示す原盤1と比べて、吸収層20の配置を変更した、比較例2に係る原盤2Bを模式的に示す断面図である。
【0049】
比較例1に係る原盤2Aでは、図2Aに示すように、吸収層20が基材11の外周面の微細凹凸構造30の表面に設けられている。しかしながら、比較例1に係る原盤2Aでは、ナノメートル又はサブマイクロメートルオーダーで形成された微細凹凸構造30の表面に数十ナノメートルの吸収層20が設けられるため、吸収層20によって微細凹凸構造30の形状が変化してしまう。したがって、比較例1に係る原盤2Aを用いて製造した転写物は、期待した特性を得られなくなる可能性がある。
【0050】
また、比較例1に係る原盤2Aでは、吸収層20が原盤2Aの表面に露出しているため、原盤2Aの洗浄時に吸収層20が洗浄液に曝されてしまう。そのため、原盤2Aの洗浄時に吸収層20と基材11との間に洗浄液が入り込むことで、吸収層20がエッチングされ、除去されてしまう可能性がある。したがって、比較例1に係る原盤2Aは、転写後の洗浄工程における耐久性が低く、洗浄による繰り返し使用には適していない。
【0051】
比較例2に係る原盤2Bでは、図2Bに示すように、吸収層20が基材11の内周面の表面に設けられている。しかしながら、基材11の内周面には微細凹凸構造30が形成されていないため、吸収層20での光反射が増加し、かえって基材11を透過又は導波する伝搬光が増加する可能性がある。そのため、比較例2に係る原盤2Bを用いて製造した転写物では、転写前に被転写材が硬化しやすく、転写不良が発生しやすい。したがって、比較例2に係る原盤2Bは、製造される転写物の品質を低下してしまう。
【0052】
また、比較例2に係る原盤2Bでは、比較例1に係る原盤2Aと同様に、吸収層20が原盤2Bの表面に露出しているため、原盤2Bの洗浄時に吸収層20が洗浄液に曝されてしまう。そのため、原盤2Bの洗浄時に吸収層20と基材11との間に洗浄液が入り込むことで、吸収層20がエッチングされ、除去されてしまう可能性がある。したがって、比較例2に係る原盤2Bは、転写後の洗浄工程における耐久性が低く、洗浄による繰り返し使用には適していない。
【0053】
一方、本実施形態に係る原盤1では、図1に示すように、吸収層20は、基材11とパターン層12の間に挟まれて、原盤1の内部に配置されているため、原盤1の表面に露出していない。そのため、本実施形態に係る原盤1は、転写後の洗浄工程において、洗浄液によって吸収層20がエッチングされ、除去されることを防止することができる。また、本実施形態に係る原盤1では、微細凹凸構造30の表面形状を変化させずに、原盤1の内部を透過又は導波する伝搬光を吸収する吸収層20を設けることができる。したがって、本実施形態に係る原盤1では、洗浄による繰り返し使用に適し、かつ原盤1の特性を低下させない位置に、基材11の内部を透過又は導波する伝搬光を吸収する吸収層20が設けられている。
【0054】
<3.原盤の製造方法>
続いて、図3A及び図3Bを参照して、本実施形態に係る原盤1及び転写物の製造方法について説明する。図3A及び図3Bは、本実施形態に係る原盤1及び転写物の製造工程を説明するフローチャートである。
【0055】
図3Aに示すように、まず、石英等からなる基材11を用意する(S100)。なお、図3Aでは、説明の便宜上、平板形状の基材11が示されているが、基材11は、例えば、円筒型形状であってもよい。
【0056】
続いて、基材11の外周面等に付着しているごみ40等を洗浄によって除去する(S110)。例えば、純水又は中性洗剤洗浄を用いた超音波洗浄、純水によるリンス、及び温純水による乾燥を組み合わせることで、基材11の洗浄を実行することができる。
【0057】
その後、洗浄後の基材11の外周面の上に吸収層20を成膜する(S120)。具体的には、スパッタリング法を用いて、基材11の外周面にSiを膜厚25nm~50nmで堆積させることで、吸収層20を形成することができる。
【0058】
次に、吸収層20の上にパターン層12を成膜する(S130)。具体的には、酸素リアクティブスパッタ法を用いて、吸収層20の上にSiOを膜厚300nm~500nmで堆積させることで、パターン層12を形成することができる。
【0059】
続いて、パターン層12の上にレジスト層31を成膜する(S140)。具体的には、無機系レジスト又は有機系レジストを用いて、レジスト層31を形成することができる。レーザ光等の露光によって、無機系レジスト又は有機系レジストに潜像を形成することが可能である。例えば、タングステン(W)又はモリブデン(Mo)などの1種又は2種以上の遷移金属を含む金属酸化物からなる無機系レジストを用いる場合、スパッタ法等を用いて、無機系レジストをパターン層12の上に成膜することで、レジスト層31を形成することができる。ノボラック系レジスト又は化学増幅型レジストなどの有機系レジストを用いる場合、スピンコート法等を用いて、有機系レジストをパターン層12の上に成膜することで、レジスト層31を形成することができる。
【0060】
次に、図3Bに示すように、レーザ光等の照射によって、レジスト層31を露光することで、レジスト層31に微細凹凸構造30に対応する潜像31Aを形成する(S150)。レジスト層31に照射するレーザ光の波長は、例えば、400nm~500nmの青色光帯域に属する波長であってもよい。
【0061】
続いて、レジスト層31を現像することで、潜像31Aに対応するパターンをレジスト層31に形成する(S160)。例えば、レジスト層31が無機系レジストで形成される場合、TMAH(TetraMethylAmmonium Hydroxide:水酸化テトラメチルアンモニウム)水溶液などのアルカリ系溶液によって、レジスト層31を現像することができる。レジスト層31が有機系レジストで形成される場合、エステル又はアルコールなどの各種有機溶剤によって、レジスト層31を現像することができる。
【0062】
その後、微細凹凸構造30に対応するパターンが形成されたレジスト層31をマスクとして、パターン層12をエッチングすることで、パターン層12に微細凹凸構造30を形成する(S170)。フッ化炭素ガスを用いたドライエッチング、又はフッ化水素酸等を用いたウェットエッチングを用いて、パターン層12のエッチングを行うことができる。なお、パターン層12をエッチングした後、残存しているレジスト層31を除去するために、アッシング処理を行ってもよい。
【0063】
以上の工程により、原盤1を製造することができる。続いて、原盤1を用いて転写物を製造する工程について説明する。
【0064】
図3Bに示すように、まず、原盤1のパターン層12の上に、アクリルアクリレート樹脂、又はエポキシアクリレート樹脂などの紫外線硬化樹脂を含む光硬化性樹脂組成物を塗布した後、ベースフィルムを積層することで、被転写材層50が形成される(S180)。次に、メタルハライドランプ等により紫外線を被転写材層50に照射することで、光硬化性樹脂組成物を硬化させ、被転写材層50に微細凹凸構造30を転写させる。その後、被転写材層50を原盤1から剥離することで、転写物が形成される。
【0065】
被転写材層50が剥離された後の原盤1のパターン層12には、光硬化性樹脂組成物の残存物51等が付着している。そのため、転写後の原盤1を再利用するために、パターン層12に付着した残存物51等を除去する洗浄が行われる(S190)。具体的には、転写後の原盤1を濃硫酸及び過酸化水素水の混合液に数時間浸漬した後、純水リンス、超音波洗浄、及び温純水乾燥を行うことで、原盤1の洗浄を行うことができる。洗浄された原盤1は、再度、ステップS180のUVインプリントに用いられる。
【0066】
以上にて説明したように、本実施形態によれば、原盤1を洗浄して繰り返し使用することによって、複数の前記転写物を製造できる。したがって、転写不良が抑制された転写物をより高効率で製造することが可能である。
【実施例0067】
以下では、実施例及び比較例を参照しながら、本実施形態に係る原盤について、さらに具体的に説明する。なお、以下に示す実施例は、本実施形態に係る原盤及びその製造方法の実施可能性及び効果を示すための一条件例であり、本発明が以下の実施例に限定されるものではない。
【0068】
(実施例1)
実施例1に係る原盤は、基材とパターン層との間に吸収層が形成された原盤である(図1参照。)。以下の工程により、実施例1に係る原盤を製造した。まず、石英ガラスからなる円筒型形状の基材(外径直径132mm、内径直径123mm、軸方向長さ100mm、径方向の肉厚4.5mm)を用意し、基材を洗浄した。その後、Arガスによるスパッタ法を用いて、基材の外周面にSiを膜厚35nmで成膜することで、吸収層を形成した。続いて、Arガス及び酸素ガスによる酸素リアクティブスパッタ法を用いて、吸収層の上にSiOを膜厚400nmで成膜することで、パターン層を形成した。
【0069】
次に、スパッタ法を用いて、パターン層の上にタングステン酸化物を膜厚55nmで成膜することで、レジスト層を形成した。続いて、半導体レーザ光源から出射された波長405nmのレーザ光を用いて、熱リソグラフィを行うことで、レジスト層に潜像を形成した。
【0070】
その後、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAH)2.38質量%水溶液(東京応化工業社製)を用いて、潜像が形成されたレジスト層を27℃、900秒で現像し、潜像に対応するパターンをレジスト層に形成した。次に、パターンが形成されたレジスト層をマスクにして、ガス圧0.5Pa、投入電力150Wにて、CHFガス(30sccm)による反応性イオンエッチング(Reactive Ion Etching:RIE)を30分間行うことで、パターン層に微細凹凸構造を形成した。パターン層に形成された微細凹凸構造は、凹凸のピッチが150nm~200nmであり、凹凸の高低差が120nmである青色帯域の光に対する反射防止構造(すなわち、モスアイ構造)とした。
【0071】
(比較例1)
比較例1に係る原盤は、基材の外周面に形成された微細凹凸構造の表面上に、吸収層が形成された原盤である(図2A参照)。以下の工程により、比較例1に係る原盤を製造した。石英ガラスからなる円筒型形状の基材(外径直径132mm、内径直径123mm、軸方向長さ100mm、径方向の肉厚4.5mm)を用意し、基材を洗浄した。
【0072】
次に、スパッタ法を用いて、基材の外周面にタングステン酸化物を膜厚55nmで成膜することで、レジスト層を形成した。続いて、半導体レーザ光源から出射された波長405nmのレーザ光を用いて、熱リソグラフィを行うことで、レジスト層に潜像を形成した。
【0073】
その後、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAH)2.38質量%水溶液(東京応化工業社製)を用いて、潜像が形成されたレジスト層を27℃、900秒で現像し、レジスト層に潜像に対応するパターンを形成した。次に、パターンが形成されたレジスト層をマスクにして、ガス圧0.5Pa、投入電力150Wにて、CHFガス(30sccm)による反応性イオンエッチング(Reactive Ion Etching:RIE)を30分間行うことで、基材の外周面に微細凹凸構造を形成した。基材の外周面に形成された微細凹凸構造は、凹凸のピッチが150nm~200nmであり、凹凸の高低差が120nmである青色帯域の光に対する反射防止構造(すなわち、モスアイ構造)であった。さらに、スパッタ法を用いて、微細凹凸構造の表面にSiOを膜厚35nmで成膜することで、吸収層を形成した。
【0074】
(比較例2)
比較例3に係る原盤は、基材と、当該基材の外周面に形成された微細凹凸構造を備え、吸収層が形成されていない原盤である。吸収層を形成しなかったこと以外は、比較例1と同様の方法で比較例2に係る原盤を製造した。
【0075】
(転写物の評価)
実施例1及び比較例1、2に係る原盤を用いて転写物を製造し、それぞれの転写物の光反射率を測定した。具体的には、ロールツーロールインプリント技術を用いて、トリアセチルセルロース(Triacetylcellulose)のフィルム基材上に設けられた紫外線硬化樹脂に微細凹凸構造を転写した。なお、紫外線硬化樹脂は、メタルハライドランプにより、1000mJ/cmの紫外線を1分間照射することで硬化させた。その後、微細凹凸構造を転写した転写物の光反射率をそれぞれ測定した。
【0076】
なお、実施例1及び比較例1に係る原盤は、評価可能な転写物を製造することができたが、比較例2に係る原盤は、基材を透過又は導波する伝搬光のために転写物に転写不良が多く発生し、評価可能な転写物を製造することができなかった。
【0077】
実施例1及び比較例1に係る原盤を用いて製造された転写物に対する光反射率の測定方法及び測定結果を図4及び図5に示す。図4は、転写物に対する光反射率の測定方法を説明する模式図である。図5は、転写物に対する光反射率の測定結果を示すグラフである。
【0078】
図4に示すように、sample(転写物)の表面に対して入射角5°にて入射光Inを入射させ、反射角5°で出射される反射光Reを測定することで、転写物の光反射率を測定した。分光光度計V550又はARM-500V(共に、日本分光社製)を用いて、反射光Reを測定した。測定波長は、350nm~800nmとし、波長分解能は、1nmとした。
【0079】
転写物の光反射率の測定結果を図5に示す。図5で示す結果を参照すると、比較例1に係る原盤を用いて製造された転写物のほうが実施例1に係る原盤を用いて製造された転写物よりも光反射率が高いことがわかる。この理由は、比較例1に係る原盤は、微細凹凸構造の表面に成膜された吸収層によって微細凹凸構造の形状が所望の形状から変化してしまうため、転写物の反射防止特性が低下したためと考えられる。したがって、実施例1に係る原盤は、所望の形状の微細凹凸構造を適切に被転写材に転写可能であることがわかる。例えば、転写物を反射防止フィルムとして用いる場合、転写物の光反射率が低いほど、転写物の反射防止特性が優れるといえる。図5に示す結果から、実施例1に係る原盤は、比較例1に係る原盤よりも、微細凹凸構造の転写不良を抑制でき、反射防止特性に優れた転写物(反射防止フィルム)を製造できたことがわかる。
【0080】
(洗浄に対する耐性評価)
実施例1及び比較例1に係る原盤の洗浄に対する耐性を評価するために、実施例1及び比較例1に係る原盤に対して、酸素プラズマ処理を15分行い、各原盤の光透過率を測定した。酸素プラズマ処理は、原盤の浄化処理の一例である。酸素プラズマ処理による原盤に対する負荷は、濃硫酸及び過酸化水素水の混合液を用いた洗浄処理による負荷と同等である。そのため、本測定試験では、酸素プラズマ処理を洗浄処理の代替として使用した。
【0081】
実施例1及び比較例1に係る原盤に対する光透過率の測定方法及び測定結果を図6及び図7に示す。図6は、原盤に対する光透過率の測定方法を説明する模式図である。図7は、酸素プラズマ処理の前後の原盤に対する光透過率の測定結果を示すグラフである。
【0082】
図6に示すように、sample(原盤)の表面に対して入射角5°にて入射光Inを入射させ、原盤を透過して原盤の裏面から出射される透過光Trを測定することで、原盤の光透過率を測定した。分光光度計V550又はARM-500V(共に、日本分光社製)を用いて、透過光Trを測定した。測定波長は、350nm~800nmとし、波長分解能は、1nmとした。
【0083】
原盤の光透過率の測定結果を図7に示す。図7に示す結果を参照すると、比較例1に係る原盤では、酸素プラズマ処理によって光透過率が上昇していることがわかる。この理由は、酸素プラズマ処理によって、原盤の表面に設けられた吸収層がダメージを受けたためと考えられる。したがって、比較例1に係る原盤では、転写後の洗浄処理によって原盤の光透過率が上昇し、洗浄処理を繰り返すことで伝搬光の発生を抑制しにくくなるため、転写物における微細凹凸構造の転写不良を発生させやすくなってしまうと考えられる。
【0084】
一方、実施例1に係る原盤では、酸素プラズマ処理を施した前後で光透過率が変動していない。したがって、実施例1に係る原盤では、転写後の洗浄処理を繰り返した場合でも、伝搬光の発生を抑制し、転写物における微細凹凸構造の転写不良の発生を抑制することができると考えられる。
【0085】
(吸収層の評価)
次に、材質ごとの吸収層の光学特性について評価した。具体的には、円筒型形状の原盤を用いた転写後に、当該原盤を個片形状に切断して、試験例1~5に係る原盤個片を制作した。そして、試験例1~5に係る原盤個片について、分光光度計V650(日本分光社製)を用いて、正面透過率及び正面反射率のスペクトルを測定した。さらに、測定した正面透過率及び正面反射率に基づいて、試験例1~5に係る原盤個片の損失透過率を算出した。
損失透過率(%)=100(%)-正面反射率(%)-正面透過率(%)
【0086】
損失透過率は、分光光度計によって測定された正面透過率及び正面反射率を100%から減算した値であり、試験例1~5に係る原盤個片の透過吸収を、正面反射率の影響を除いて評価した指標である。損失透過率が高いほど、原盤の光吸収率が高く、原盤の内部を導波又は透過する伝搬光が少ないことを表す。
【0087】
図8は、試験例1~5に係る原盤個片の損失透過率のスペクトルを示すグラフである。
【0088】
試験例1に係る原盤個片は、基材の一面にモスアイ構造を形成し、該モスアイ構造の表面に吸収層としてタングステン(W)を膜厚10nmで成膜した原盤個片である。すなわち、試験例1に係る原盤個片は、上記の比較例1に係る原盤(図2A参照。)と同様の構造を有する原盤個片である。
【0089】
試験例2に係る原盤個片は、基材の一面に吸収層としてシリコン(Si)を膜厚10nmで成膜し、吸収層の上にSiOからなるパターン層(ただし、モスアイ構造は形成されず)を形成した原盤個片である。
【0090】
試験例3に係る原盤個片は、試験例2に係る原盤個片のパターン層にモスアイ構造を形成した原盤個片である。すなわち、試験例3に係る原盤個片は、上記の実施例1に係る原盤(図1参照。)と同様の構造を有する原盤個片である。
【0091】
試験例4に係る原盤個片は、基材の一面に吸収層としてカーボン(C)を膜厚40nmで成膜し、吸収層の上にSiOからなるパターン層(ただし、モスアイ構造は形成されず)を形成した原盤個片である。
【0092】
試験例5に係る原盤個片は、基材の一面に吸収層として窒化チタン(TiN)を膜厚50nmで成膜し、吸収層の上にSiOからなるパターン層(ただし、モスアイ構造は形成されず)を形成した原盤個片である。
【0093】
紫外線領域の光(紫外線)は、紫外線硬化性樹脂からなる被転写材の意図しない硬化に影響する。このため、上記試験例1~5に係る原盤の光吸収率を、主に紫外線領域の波長(350~400nm)を基準にして評価した。図8に示すように、試験例1に係る原盤個片は、モスアイ構造の表面に吸収層が設けられているため、紫外線領域において、損失透過率が低く、伝搬光を抑制できていないことがわかる。一方、試験例2、4、5に係る原盤個片は、吸収層の材質及び膜厚は異なるものの、基材とパターン層との間に吸収層が設けられているため、紫外線領域において、損失透過率が高く、伝搬光を抑制できることがわかる。特に、試験例2に係る原盤個片(吸収層の材質:Si)は、試験例4、5に係る原盤個片よりも薄い膜厚の吸収層を用いているが、試験例4、5に係る原盤個片(吸収層の材質:C、TiN)と同程度の高い損失透過率を実現できることがわかる。これにより、吸収層の材質としては、C、TiNよりもSiが好ましく、Siからなる吸収層は、高い吸収性能を実現できることがわかる。また、試験例3に係る原盤個片は、基材とパターン層との間に設けられた吸収層に加えて、パターン層にモスアイ構造が形成されているため、試験例2と比較して損失透過率がより低くなっていることがわかる。
【0094】
以上にて説明したように、本実施形態に係る原盤は、転写不良の発生が抑制された転写物を製造することが可能であり、かつ洗浄によって繰り返し使用されることで、転写不良の発生が抑制された転写物を高効率で製造することが可能である。
【0095】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0096】
1 原盤
11 基材
12 パターン層
20 吸収層
30 微細凹凸構造
図1
図2A
図2B
図3A
図3B
図4
図5
図6
図7
図8