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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024116320
(43)【公開日】2024-08-27
(54)【発明の名称】粘着性物品
(51)【国際特許分類】
   C09J 7/38 20180101AFI20240820BHJP
   C09J 7/21 20180101ALI20240820BHJP
   C09J 9/00 20060101ALI20240820BHJP
   C09J 201/00 20060101ALI20240820BHJP
   D06M 15/263 20060101ALI20240820BHJP
【FI】
C09J7/38
C09J7/21
C09J9/00
C09J201/00
D06M15/263
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024095114
(22)【出願日】2024-06-12
(62)【分割の表示】P 2019179321の分割
【原出願日】2019-09-30
(31)【優先権主張番号】P 2018190115
(32)【優先日】2018-10-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼嶋 淳
(72)【発明者】
【氏名】水原 銀次
(57)【要約】      (修正有)
【課題】粘着力に優れる粘着性物品を提供する。
【解決手段】芯材11と、前記芯材11の長手方向の表面を被覆する粘着剤層12とを備え、前記芯材11は、4本以上のフィラメント13を備えるマルチフィラメント糸である粘着性物品10。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯材と、前記芯材の長手方向の表面を被覆する粘着剤層とを備え、
前記芯材は、4本以上のフィラメントを備えるマルチフィラメント糸である粘着性物品。
【請求項2】
式(A)で表される前記芯材の撚り係数Kが0以上200以下である請求項1に記載の粘着性物品。
【数1】
(式(A)においてKは撚り係数、Tは撚り数(単位は[回/m])、Dは繊度(単位は[dtex])である。)
【請求項3】
前記芯材の撚り数が0~250回/mである請求項1または2に記載の粘着性物品。
【請求項4】
前記フィラメントは、中空糸である請求項1~3のいずれか1項に記載の粘着性物品。
【請求項5】
前記フィラメントは化学繊維である請求項1~4のいずれか1項に記載の粘着性物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粘着性物品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、糸状の芯材を備える粘着性物品が知られている。例えば、特許文献1には、糸状の芯材に粘着剤を付着させたことを特徴とする糸状接着具が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平3-231980号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような粘着性物品は、糸状であるため、曲線や曲面、凹凸などの複雑な形状にも適用させやすく、また、狭い部分にも適用可能であるという利点を有する。また、液状の粘着剤と異なり、液だれやはみ出し等の恐れもない。
【0005】
通常、このような糸状の粘着性物品は、両面粘着テープと比較すると被着体と接触する面積が少ないため粘着力が低く、したがって、仮止めや比較的軽量な部材の接着等の、高い接着力が求められない用途において使用されることが多かった。引用文献1においても、糸状接着具を比較的軽量なポスターの接着や、部品や資材の仮止め、事務用品の接着等に使用する旨が開示されている。
したがって、従来糸状の粘着性物品の粘着力向上を目的とした検討は十分に行われていなかった。
【0006】
本発明は、上記に鑑み、糸状であり粘着力にも優れる粘着性物品を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、糸状の芯材を備える粘着性物品において、太さ方向(長手方向と垂直な方向)に変形しやすい芯材を用いることにより上記の課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明の粘着性物品は、芯材と、芯材の長手方向の表面を被覆する粘着剤層とを備え、芯材は、4本以上のフィラメントを備えるマルチフィラメント糸である。
【0008】
本発明の粘着性物品の一態様において、明細書中に記載の式(A)で表される芯材の撚り係数が0以上200以下であってもよい。
【0009】
本発明の粘着性物品の一態様において、芯材の撚り数が0~250回/mであってもよい。
【0010】
本発明の粘着性物品の一態様において、フィラメントは、中空糸であってもよい。
【0011】
本発明の粘着性物品の一態様において、フィラメントは化学繊維であってもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明の粘着性物品は、糸状であり粘着力にも優れる。したがって、本発明の粘着性物品は、幅広い用途に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、本発明の第1の実施形態に係る粘着性物品の長手方向に垂直な断面における断面図である。
図2図2(a)は、一本の糸(モノフィラメント)からなる芯材を備える粘着性物品を用いて被着体同士が貼り合わされた状態の概略図であり、図2(b)及び(c)は、本発明の第1の実施形態に係る粘着性物品を用いて被着体同士が貼り合わされた状態の概略図である。
図3図3(a)は、本発明の粘着性物品の粘着力の評価方法を説明するための斜視図であり、図3(b)は図3(a)のA-A線に沿った断面の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について、詳細に説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施形態に限定されるものではない。また、以下の図面において、同じ作用を奏する部材・部位には同じ符号を付して説明することがあり、重複する説明は省略または簡略化することがある。また、図面に記載の実施形態は、本発明を明瞭に説明するために模式化されており、実際の製品のサイズや縮尺を必ずしも正確に表したものではない。
【0015】
図1は、本発明の一実施形態に係る粘着性物品10の長手方向に垂直な断面における断面図である。本実施形態に係る粘着性物品10は、芯材11と、芯材11の長手方向の表面を被覆する粘着剤層12とを備え、芯材11は、4本以上のフィラメント13を備えるマルチフィラメント糸である粘着性物品10である。
本実施形態の粘着性物品は、当該構成を備えることにより粘着力に優れる。以下に詳しく説明する。
【0016】
粘着性物品により被着体同士を貼り合せた際の粘着力(被着体同士のはがれにくさ)は、粘着性物品と被着体との接触面積に大きく左右される。図2(a)に、一本の糸(モノフィラメント)からなる芯材を備える粘着性物品30を用いて被着体1同士が貼り合わされた状態の概略図を示す。このような粘着性物品は芯材がほとんど変形しないため、被着体との接触面積が小さく、したがって高い粘着力を発揮することが困難である。
【0017】
しかし、本実施形態の粘着性物品10を用いて被着体1同士を貼り合せた場合、図2(b)に示すように芯材11を構成する各フィラメント13がばらけるように広がって、芯材11がつぶれるように変形する。このことにより、本実施形態の粘着性物品10は、一本の糸(モノフィラメント)からなる芯材を備える粘着性物品と比較して、広い面積で被着体と接触することができる。
また、本実施形態における芯材11は、4本以上のフィラメント13を備えることから表面積が広く、したがって、単位長さあたりの粘着剤の付着量を多くすることができる。
【0018】
上記のような理由から、本実施形態の粘着性物品10は、芯材の太さ(繊度)が同程度であり、モノフィラメントからなる芯材を備える粘着性物品と比較して、高い粘着力を発揮する。
【0019】
上記の効果を得るために、本実施形態における芯材11は、4本以上のフィラメント13を備えるマルチフィラメント糸とする。また、粘着力をより一層向上させるために、本実施形態における芯材11を構成するフィラメント13の本数は、10本以上であることが好ましく、15本以上であることがより好ましく、20本以上であることがさらに好ましい。一方、芯材11の太さ(繊度)を同程度に保った場合、芯材11を構成するフィラメント13の本数が多くなると、各フィラメントは細くなる(繊度が小さくなる)。各フィラメントが細くなりすぎると、芯材11の強度の低下やハンドリング性の低下を招く恐れがある為、芯材11を構成するフィラメントの本数は、300本以下であることが好ましい。
【0020】
また、本実施における芯材11には、撚りがかけられている撚糸であってもよく、かけられていない無撚糸であってもよい。すなわち、本実施における芯材11は、撚り数が0回/m超であっても、0回/mであってもよい。また、本実施形態における芯材11は、撚糸または無撚糸であるマルチフィラメントを複数本あわせて撚りをかけまたは撚りをかけずにまとめたものであってもよい。
【0021】
本実施形態の粘着性物品10を用いて貼り合わされた被着体1同士が引きはがされる方向に力が加えられた場合、図2(c)に示すように各フィラメント13が広がって芯材11が太さ方向(長手方向と垂直な方向)において、加えられた力と平行な方向に伸びるように変形する。しかし、この際に芯材11の形状がいびつになりすぎると、いびつになった部分において応力が集中し、当該部分が剥離の起点となりやすくなる。したがって、より一層優れた粘着力を奏するためには、芯材11を構成する各フィラメント13はある程度のまとまりをもっていることが好ましい。上記のとおり、本実施形態における芯材11は、無撚糸であっても撚糸であってもよく、即ち、本実施形態における芯材11の撚り数は0回/m以上であればよいが、芯材11を構成する各フィラメント13にある程度のまとまりをもたせるためには、本実施形態における芯材11には撚りがかけられていることが好ましい。具体的には本実施形態における芯材11の撚り数は30回/m以上であることが好ましく、60回/m以上であることがより好ましく、90回/m以上であることがさらに好ましい。
一方、被着体1同士を貼り合せた際に芯材11が十分に変形するため、また、単位長さあたりの粘着剤の付着量を多くするためには、芯材11の撚りは強すぎないことが好ましい。したがって、芯材11の撚り数は3000回/m以下であることが好ましく、1500回/m以下であることがより好ましく、800回/m以下であることがさらに好ましく、250回/m以下であることが特に好ましい。
【0022】
また、芯材11に撚りがかけられている場合は、上記と同様の観点より以下の式(A)で表される撚り係数も制御することが好ましい。撚り係数は芯材の太さによらず撚りによる影響(芯材のまとまりや、変形しやすさ、粘着剤の付着量などへの影響)を議論するための指標である。すなわち、撚り数が芯材に与える影響は芯材の太さによって異なるが、撚り係数が同じであれば、芯材の太さによらず撚りによる芯材への影響が同程度であることを示す。
本実施形態における芯材の撚り係数は、0以上が好ましく、0超がより好ましい。一方、撚り係数が200以下であると芯材、ひいては粘着性物品の柔軟性が向上し、曲線部、屈曲部、凹凸部などの複雑な形状や狭い部分への貼付が容易となる。したがって、芯材の撚り係数は、200以下が好ましく、170以下がより好ましく、100以下がより好ましく、80以下がより好ましく、50未満がさらに好ましい。
【0023】
【数1】
【0024】
なお、式(A)においてKは撚り係数、Tは撚り数(単位は[回/m])、Dは繊度(単位は[dtex])である。
【0025】
本実施形態における芯材11を形成するフィラメント13の材質も特に限定されず、化学繊維であっても天然繊維であってもよい。化学繊維としては、たとえば、レーヨン、キュプラ、アセテート、プロミックス、ナイロン、アラミド、ビニロン、ビニリデン、ポリ塩化ビニル、ポリエステル、アクリル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリウレタン、ポリクラール、ポリ乳酸等の各種高分子材料、ガラス、炭素繊維、ポリウレタン等の合成ゴム、金属等が挙げられる。天然繊維としては、例えば、絹、天然ゴム等が挙げられる。
【0026】
粘着力の観点からは、本実施形態における芯材11を形成するフィラメント13は、化学繊維であることが好ましい。化学繊維は毛羽立ちが生じにくく、いびつな形状になりにくい。したがって、本実施形態における芯材を形成するフィラメントが化学繊維であると、剥離の起点が生じにくく、優れた粘着力を発揮する。
化学繊維の中でも、特にポリエステルまたはナイロンが好ましい。
【0027】
また、本実施形態における芯材11を形成するフィラメント13は、中空糸であってもよい。一般的に中空糸は太さ方向の柔軟性に富み、変形しやすいため、中空糸を用いて得られる芯材も、太さ方向の柔軟性に富み、変形しやすい。
したがって、芯材を形成するフィラメントに中空糸を用いた場合、先述の芯材のつぶれるような変形がより一層生じやすくなる。また、芯材の柔軟性が高いと、粘着性物品を用いて貼り合わされた被着体同士が引きはがされる方向に力が加わった際に芯材の変形による応力の分散が生じやすくなるため、粘着性物品と被着体の界面(粘着面)に応力がかかりにくく、剥離が生じにくい。上記のような点から、芯材を形成するフィラメントに中空糸を用いると、粘着力に特に優れる粘着性物品を得ることができる。
なお、中空糸は一般的には脆いため、芯材を形成するフィラメントに中空糸を用いる場合は撚りをかけずに用いることが好ましい。
【0028】
本実施形態における芯材11の太さ(繊度)も特に限定されず、粘着性物品の用途や被着体の種類に応じて適宜調整すればよいが、例えば20~2000dtex程度である。
【0029】
なお、芯材11には、必要に応じて、充填剤(無機充填剤、有機充填剤など)、老化防止剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、滑剤、可塑剤、着色剤(顔料、染料など)等の各種添加剤が配合されていてもよい。芯材の表面には、例えば、コロナ放電処理、プラズマ処理、下塗り剤の塗布等の、公知または慣用の表面処理が施されていてもよい。
【0030】
本実施形態における粘着剤層12は、粘着剤により形成される。粘着剤層12を形成する粘着剤は特に限定されず、公知の粘着剤を用いることが可能である。例えば、アクリル系粘着剤、ゴム系粘着剤、ビニルアルキルエーテル系粘着剤、シリコーン系粘着剤、ポリエステル系粘着剤、ポリアミド系粘着剤、ウレタン系粘着剤、フッ素系粘着剤、エポキシ系粘着剤などが挙げられる。中でも、接着性の点から、ゴム系粘着剤やアクリル系粘着剤が好ましく、特にアクリル系粘着剤が好ましい。なお、粘着剤は、1種のみを単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、本実施形態における粘着剤は、常温で粘着性を有し、粘着剤の表面と被着体の表面との接触時に生じる圧力によって、被着体をその表面に貼付できる感圧型粘着剤であることが好ましい。感圧型粘着剤であれば、加熱を要さず、熱に弱い被着体にも適用可能である。
【0031】
アクリル系粘着剤は、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2-エチルヘキシル、アクリル酸イソオクチル、アクリル酸イソノニルなどの(メタ)アクリル酸アルキルエステルを主成分とし、これらに必要によりアクリロニトリル、酢酸ビニル、スチレン、メタクリル酸メチル、アクリル酸、無水マレイン酸、ビニルピロリドン、グリシジルメタクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレート、ヒドロキシエチルアクリレート、アクリルアミドなどの改質用単量体を加えてなる単量体の重合体を主剤としたものである。
【0032】
ゴム系粘着剤は、天然ゴム、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体、スチレン-エチレン・ブチレン-スチレンブロック共重合体、スチレンブタジエンゴム、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ポリイソブチレン、ブチルゴム、クロロプレンゴム、シリコーンゴムなどのゴム系ポリマーを主剤としたものである。
【0033】
また、これら粘着剤にはロジン系、テルペン系、スチレン系、脂肪族石油系、芳香族石油系、キシレン系、フエノール系、クマロンインデン系、それらの水素添加物などの粘着付与樹脂や、架橋剤、粘度調整剤(増粘剤等)、レベリング剤、剥離調整剤、可塑剤、軟化剤、充填剤、着色剤(顔料、染料等)、界面活性剤、帯電防止剤、防腐剤、老化防止剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、光安定剤等の各種の添加剤を適宜配合できる。
【0034】
なお、粘着剤としては、溶剤型の粘着剤と水分散型の粘着剤のいずれのタイプも使用することができる。ここで、高速塗工が可能であり、環境にやさしく、溶剤による芯材11への影響(膨潤、溶解)が少ない面からは、水分散型の粘着剤が好ましい。
【0035】
本実施形態の粘着性物品10の粘着力をより向上させるためには、芯材に多くの粘着剤が付着していることが好ましく、具体的には本実施形態の粘着性物品における粘着剤の付着量(単位長さ当たりの粘着剤層の重量)は5mg/m以上が好ましく、8mg/m以上がより好ましく、16mg/m以上がさらに好ましい。一方粘着剤の付着量が過剰であると、製造工程において芯材に粘着剤を複数回塗布する必要があったり、塗布した粘着剤の乾燥に時間がかかったりするため、製造効率が低い。したがって本実施形態の粘着性物品における粘着剤の付着量は200mg/m以下が好ましく、180mg/m以下がより好ましく、160mg/m以下がさらに好ましい。
【0036】
本実施形態の粘着性物品10において、粘着剤層12は芯材11の表面(長手方向の表面)の全部を被覆していてもよく、芯材11の表面の一部のみを被覆していてもよい。また、粘着剤層12は典型的には連続的に形成されるが、かかる形態に限定されるものではなく、例えば点状、ストライプ状等の規則的あるいはランダムなパターンに形成されてもよい。なお、芯材の端面は粘着剤層12によって被覆されていてもいなくともよい。例えば、粘着性物品10が製造過程や使用時に切断されるような場合には、芯材11の端面は粘着剤層12によって被覆されないことがありうる。
【0037】
以下に本実施形態の粘着性物品10の製造方法の一例を説明する。なお、本実施形態の粘着性物品10の製造方法は以下に説明するものに限定されない。
本実施形態の粘着性物品10は、芯材11の表面に粘着剤をディッピング、浸漬、塗布等により塗工した後に加熱乾燥させることにより、得ることができる。粘着剤の塗布は、例えば、グラビアロールコーター、リバースロールコーター、キスロールコーター、ディップロールコーター、バーコーター、ナイフコーター、スプレーコーター等の慣用のコーターを用いて行うことができる。乾燥の温度及び時間は特に限定されず適宜設定すればよいが、乾燥の温度は好ましくは40℃~200℃であり、さらに好ましくは、50℃~180℃であり、特に好ましくは70℃~120℃である。乾燥の時間は、好ましくは5秒~20分、さらに好ましくは5秒~10分、特に好ましくは、10秒~5分である。
【0038】
本実施形態の粘着性物品10は、細幅の部材や幅の狭い領域にもはみ出しを抑えながら貼り付け可能であり、曲線や曲面、凹凸などの複雑な形状にも適用させやすく、また、易解体(リワーク)可能な点においても好ましい。更に、粘着力に優れることから、様々な物品の接着に用いることができる。
例えば、本実施形態の粘着性物品10は電子機器の製造における物品の固定に好適に用いることができ、携帯電話やスマートフォン等の携帯端末の狭額縁の固定等に適用できる。
【0039】
また、例えば、曲線や曲面、凹凸などの複雑な形状の部分を有する被着体に粘着テープを貼り付けようとすると、かかる部分において粘着テープにしわや重なりが生じてしまい、はみ出しを抑えて綺麗に貼り付けることは困難であり、また、しわや重なりの生じた部分は粘着力が低下する要因ともなるおそれがある。また、しわや重なりを生じないようにしながら粘着テープを貼り付けるには、粘着テープを細かく切断しながら貼り付けることも考えられるが、作業性が大幅に悪化することとなる。一方、本実施形態の粘着性物品10であれば、曲線や曲面、凹凸などの複雑な形状の部分に貼り付ける際にも、しわや重なりを生じることなく強固に貼り付けることができる。さらに、かかる粘着性物品10は、貼り付けたい部分に、一度に、すなわち一工程で貼り付け可能であることから、作業性にも優れ、自動化ラインにも適用可能である。
具体的には、本実施形態の粘着性物品10は例えば、電線や光ファイバー等のケーブル、LEDファイバーライト、FBG(Fiber Bragg Gratings、ファイバブラッググレーティング)等の光ファイバセンサ、糸、紐、ワイヤ等の各種線材(線状部材)や、細幅の部材を、所望の形態で固定する用途に好適に使用することができる。線材や細幅の部材を複雑な形状で他の部材に固定するような場合においても、本実施形態の粘着性物品10であれば、線材や細幅の部材の有すべき複雑な形状にあわせて、はみ出しやしわ、重なりを抑えながら、優れた作業性で強固に固定することができる。なお、線材や細幅の部材を他の部材に固定する場合においては、他の部材の表面における線材や細幅の部材が固定されるべき形態にあわせて本実施形態の粘着性物品10を予め貼り付けた後に、他の部材表面に貼付された粘着性物品にあわせて線材や細幅の部材を貼り合わせて固定することができる。あるいは、本実施形態の粘着性物品を線材や細幅の部材に貼り付けた後に、線材や細幅の部材を所望の形態で他の部材に固定してもよい。
【0040】
また、本実施形態の粘着性物品10は、一の物品を他の物品の表面に仮固定(仮止め)するための、物品の仮固定(仮止め)用途にも好適に用いることができる。より具体的には、本実施形態の粘着性物品は、例えば、衣服、靴、鞄、帽子等の繊維製品や皮革製品等を製造する際の仮固定(仮止め)用途に用いることができる。ただし、その用途はこれに限定されるものではなく、仮固定(仮止め)が所望される各種用途に好適に用いられる。
例えば、一の物品を他の物品の表面に固定する際に、該一の物品を該他の物品の表面に糸状の粘着性物品を用いて予め仮固定させて位置決めした後に、両物品を熱圧着や縫製等の固定方法により固定(本固定)する。この場合において、本実施形態の粘着性物品であれば、両物品間に設けられる固定部を避けて仮固定することが容易である。例えば、繊維製品や皮革製品を縫製する場合において、糸状の粘着性物品により仮固定を行えば、縫製部分を避けて仮固定することが容易であり、粘着剤の針への付着を容易に防止できる。
また、本実施形態の粘着性物品であれば、上述したように、両物品の形状が曲線や曲面、凹凸などの複雑な形状であっても、はみ出しやしわ、重なりを抑えながら良好に貼り付けでき、しかも一工程で貼り付け可能であり、作業性が良好である。
また、例えば、繊維製品ないし皮革製品を構成する生地、布、皮革等といった変形しやすい部材であっても、本実施形態の粘着性物品による仮固定を行うことにより、引張による部材の変形が抑制ないし防止でき、固定(本固定)後の意匠性が良好となる。
さらには、本実施形態の粘着性物品であれば、両物品の固定(本固定)後に、必要に応じて固定(本固定)された両物品間から本実施形態の粘着性物品を抜き取り除去することも容易である。このようにすれば、粘着剤のはみ出しが防止でき、残存する粘着剤の経時的な変色に由来する意匠性の劣化を良好に防止できる。
【0041】
また、本実施形態の粘着性物品10であれば、他の材質からなる糸と撚り合わせて組み合わせた糸としたり、他の材質からなる糸や布(不織布、シートを含む)と編み込んだりすることで、機能の複合化を図ることもできる。
【実施例0042】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例になんら限定されるものではない。
【0043】
[粘着性物品の作成]
<実施例1>(粘着剤層形成用の水分散型アクリル系粘着剤の調製)
冷却管、窒素導入管、温度計および攪拌機を備えた反応容器に、イオン交換水40重量部を入れ、窒素ガスを導入しながら60℃で1時間以上攪拌して窒素置換を行った。この反応容器に、2,2’-アゾビス[N-(2-カルボキシエチル)-2-メチルプロピオンアミジン]n水和物(重合開始剤)0.1重量部を加えた。系を60℃に保ちつつ、ここにモノマーエマルションAを4時間かけて徐々に滴下して乳化重合反応を進行させた。モノマーエマルションAとしては、2-エチルヘキシルアクリレート98重量部、アクリル酸1.25重量部、メタクリル酸0.75重量部、ラウリルメルカプタン(連鎖移動剤)0.05重量部、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業株式会社製、商品名「KBM-503」)0.02重量部およびポリオキシエチレンラウリル硫酸ナトリウム(乳化剤)2重量部を、イオン交換水30重量部に加えて乳化したものを使用した。モノマーエマルションAの滴下終了後、さらに3時間60℃に保持し、系を室温まで冷却した後、10%アンモニア水の添加によりpHを7に調整して、アクリル系重合体エマルション(水分散型アクリル系重合体)Aを得た。
上記アクリル系重合体エマルションAに含まれるアクリル系重合体100重量部当たり、固形分基準で20重量部の粘着付与樹脂エマルション(荒川化学工業株式会社製、商品名「E-865NT」)を加えた。さらに、pH調整剤としての10質量%アンモニア水および増粘剤としてのポリアクリル酸(東亞合成株式会社製、商品名「アロンB-500」)を用いて、pHを7.2、粘度を10Pa・sに調整した。このようにして、粘着剤層用の水分散型アクリル系粘着剤Aを得た。
【0044】
(粘着性物品の作製)
ポリエステル糸(フィラメント)12本に撚りをかけずにまとめたマルチフィラメント糸(267dtex)を芯材とした。芯材に水分散型アクリル系粘着剤Aを、得られる粘着性物品における粘着剤の付着量が65mg/mとなるようにディッピングで塗工した後、80℃で5分間乾燥して粘着剤層を形成させ、実施例1の粘着性物品を得た。
【0045】
<実施例2>
ポリエステル糸(フィラメント)48本に撚りをかけずにまとめたマルチフィラメント糸(280dtex)を芯材としたこと以外は実施例1と同様にして、実施例2の粘着性物品を得た。
【0046】
<実施例3>
ポリエステル糸(フィラメント)72本に撚りをかけずにまとめたマルチフィラメント糸(250dtex)を芯材としたこと以外は実施例1と同様にして、実施例3の粘着性物品を得た。
【0047】
<実施例4>
ポリエステル糸(フィラメント)48本に50回/mの撚りをかけたマルチフィラメント糸(280dtex)を芯材としたこと以外は実施例1と同様にして、実施例4の粘着性物品を得た。
【0048】
<実施例5>
撚り数を150回/mとしたこと以外は実施例4と同様にして、実施例5の粘着性物品を得た。
【0049】
<実施例6>
撚り数を300回/mとしたこと以外は実施例4と同様にして、実施例6の粘着性物品を得た。
【0050】
<実施例7>
撚り数を1000回/mとしたこと以外は実施例4と同様にして、実施例7の粘着性物品を得た。
【0051】
<実施例8>
中空糸24本に撚りをかけずにまとめたマルチフィラメント糸(110dtex)を芯材としたこと以外は実施例1と同様にして、実施例8の粘着性物品を得た。
【0052】
<実施例9>
実施例2において用いた芯材2本を、撚りをかけずにまとめて芯材として用いたこと以外は実施例1と同様にして、実施例9の粘着性物品を得た。
【0053】
<実施例10>
実施例2において用いた芯材2本に、150回/mの撚りをかけてまとめて芯材として用いたこと以外は実施例1と同様にして、実施例10の粘着性物品を得た。
【0054】
<実施例11>
実施例2において用いた芯材3本を、撚りをかけずにまとめて芯材として用いたこと以外は実施例1と同様にして、実施例11の粘着性物品を得た。
【0055】
<実施例12>
実施例2において用いた芯材3本に、150回/mの撚りをかけてまとめて芯材として用いたこと以外は実施例1と同様にして、実施例12の粘着性物品を得た。
【0056】
<実施例13>
ポリエステル糸(フィラメント)4本に撚りをかけずにまとめたマルチフィラメント糸(260dtex)を芯材としたこと以外は実施例1と同様にして、実施例13の粘着性物品を得た。
【0057】
<実施例14>
撚り数を120回/mとしたこと以外は実施例1と同様にして、実施例14の粘着性物品を得た。
【0058】
<実施例15>
撚り数を5回/mとしたこと以外は実施例4と同様にして、実施例15の粘着性物品を得た。
【0059】
<比較例1>
280dtexポリエステル糸(フィラメント)1本を芯材としたこと以外は実施例1と同様にして、比較例1の粘着性物品を得た。
【0060】
<比較例2>
ポリエステル糸(フィラメント)3本に撚りをかけずにまとめたマルチフィラメント糸(315dtex)を芯材としたこと以外は実施例1と同様にして、比較例2の粘着性物品を得た。
【0061】
[粘着性物品の評価]
得られた各例の粘着性物品について、下記方法により粘着力を評価した。
<粘着力の評価>
各例の粘着性物品を用いて、厚さ3mm、直径70mmの円形のアクリル板42と、中央部に長方形のスリット(短辺30mm、長辺40mm)を設けた長方形のポリカーボネート樹脂板41(短辺80mm、長辺110mm、厚さ10mmの)とを、アクリル板42の中心とポリカーボネート樹脂板41のスリットの中心が一致するようにして貼り合わせ、2kgで10秒間圧着した。なお、粘着性物品は図3(a)及び(b)に示すように、アクリル板の縁に沿って配置した。貼り合わされた状態の斜視図を図3(a)に、図3(a)のA-A線における断面図を図3(b)に示す。
次いで、ポリカーボネート樹脂板41を固定し、図3(b)に示すようにスリット越しにアクリル板42の中心に、アクリル板42とポリカーボネート樹脂板41が離れる方向に荷重をかけ、アクリル板42とポリカーボネート樹脂板41が分離するまでの間に観測された最大の荷重を測定した。測定結果を表1に示す。
【0062】
[柔軟性の評価]
下記の試験により、各実施例及び比較例の粘着体の柔軟性を評価した。なお、柔軟性に優れる粘着体は、先述の芯材のつぶれるような変形が生じやすく粘着力に優れる点や、曲線や曲面、凹凸などの複雑な形状を有する被着面にあわせた変形がさせやすい点から好ましい。
まず、各例の粘着体により直径5cmの輪を形成した。次いで、得られた輪を外側から内側に向かって指で押し込んで変形させ、その際の感触により、以下のように3段階で柔軟性を評価した。
○(柔軟):ほとんど抵抗を感じずに変形させることができた。
△(やや柔軟):変形させる際にやや抵抗を感じた。
×(硬い):変形させる際に大きな抵抗を感じた。
【0063】
【表1】
【0064】
比較例1及び2の粘着性物品は、芯材を構成するフィラメントの本数が少なく、粘着力が劣った。
一方、芯材が4本以上のフィラメントを備える実施例1~15の粘着性物品は、優れた粘着力を発揮した。
【0065】
[粘着性物品の作製]
<実施例16~19>
ポリエステル糸(フィラメント)6本を用いて、実施例16については撚りをかけずにまとめ、実施例17~19については表2に記載の数の撚りをかけてまとめたマルチフィラメント糸(44dtex)を芯材としたこと、及び、粘着剤の付着量を表2に記載の通り変更したこと以外は実施例1と同様にして、実施例16~19の粘着性物品を得た。
【0066】
<実施例20~25>
実施例5において用いた芯材5本を用いて、実施例20については撚りをかけずにまとめ、実施例21~25については表2に記載の数の撚りをかけてまとめたマルチフィラメント糸(2240dtex)を芯材としたこと、及び、粘着剤の付着量を表2に記載の通り変更したこと以外は実施例1と同様にして、実施例20~25の粘着性物品を得た。
【0067】
[粘着性物品の評価]
実施例16~25の粘着性物品について、先述と同様の方法により粘着力を評価した。結果を、実施例2、4~7、及び15の結果と合わせて表2に示す。
【0068】
【表2】
【0069】
実施例4、5、15、17、18、21~23は、同じ繊度の他の実施例と比較して特に粘着力が優れた。これは、芯材の撚り係数が特に好適であるためだと考えられる。
【符号の説明】
【0070】
1 被着体
10、30、40 粘着性物品
11 芯材
12 粘着剤層
13 フィラメント
41 ポリカーボネート樹脂板
42 アクリル板
図1
図2
図3