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特開2024-116327創傷治療用の細胞外マトリックスタンパク質組成物および創傷の治療方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024116327
(43)【公開日】2024-08-27
(54)【発明の名称】創傷治療用の細胞外マトリックスタンパク質組成物および創傷の治療方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/545 20150101AFI20240820BHJP
   A61P 17/02 20060101ALI20240820BHJP
【FI】
A61K35/545
A61P17/02
【審査請求】有
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024095364
(22)【出願日】2024-06-12
(62)【分割の表示】P 2021517236の分割
【原出願日】2019-09-11
(31)【優先権主張番号】62/738,253
(32)【優先日】2018-09-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】518345826
【氏名又は名称】エスエムエスバイオテック インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】SMSBIOTECH,INC.
【住所又は居所原語表記】1825 Diamond Street,Suite 101,San Marcos,California 92078 U.S.A.
(74)【代理人】
【識別番号】100077012
【弁理士】
【氏名又は名称】岩谷 龍
(72)【発明者】
【氏名】ラーモ,アブドゥルカーディル
(57)【要約】      (修正有)
【課題】小型運動性幹細胞から産生された細胞外マトリックスタンパク質を含む組成物を提供する。
【解決手段】小型運動性幹細胞の培養物から単離された細胞外マトリックス(ECM)またはECMタンパク質を含む組成物であって、該ECMまたはECMタンパク質が、架橋剤への暴露または架橋技術(たとえば、光線照射、化学物質、力学的手段、温度など)により誘導された少なくとも1個の架橋を含むことが好ましい、組成物である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
小型運動性幹(small mobile stem(SMS))細胞の培養物から単離された細胞外マトリックス(ECM)またはECMタンパク質を含む組成物であって、該ECMまたはECMタンパク質が、架橋剤への暴露または架橋技術(たとえば、光線照射、化学物質、力学的手段、温度など)により誘導された少なくとも1個の架橋を含むことが好ましい、組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2018年9月28日に出願された米国仮出願第62/738,253号に基づく優先権の利益を主張するものであり、この出願の開示内容は引用によりその全体が本明細書に明示的に援用される。
【0002】
本開示の態様は、概して、小型運動性幹細胞(small mobile stem cells)から産生された細胞外マトリックスタンパク質を含む組成物およびシステムに関する。さらに、本開示は、前記組成物および前記システムの製造方法、ならびに前記組成物を使用して創傷を治療または改善する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
幹細胞は、細胞分裂により長期間にわたり自己複製することができる未熟な未分化細胞である。幹細胞は、特定の条件下において、成熟した機能性細胞へと分化することができる。
【0004】
現在、医学研究において幹細胞やこのような細胞から分化誘導された細胞の使用は大きな関心を集めており、特に、遺伝性疾患、遺伝性損傷および/または遺伝性病態などの様々な要因によって損傷を受けた組織の治療用薬剤の提供が期待されている。
【0005】
近年、小型運動性幹(small mobile stem(SMS))細胞が単離され、たとえば、WO2014/200940などにおいてその特性が評価されている(この文献は引用によりその全体が本明細書に明示的に援用される)。SMS細胞は、直径4.5~5.5μmの接着細胞であり、臍帯、末梢血、骨髄、固形組織などの供給源から得られる。WO2017/172638で述べられているように、SMS細胞を使用して組織培養を行うことにより、細胞外マトリックス(ECM)および/またはECMタンパク質を作製することができる(この文献は引用によりその全体が本明細書に明示的に援用される)。
【0006】
ECMは、高等脊椎動物由来の様々な細胞(たとえば、皮膚、筋肉、神経、結合組織、筋膜、硬膜または腹膜に由来する細胞)が接着して、毒性や細胞の複製阻害を引き起こすことなく増殖が可能な化学材料または生化学材料から構成される構造、足場または土台である。ECMの構成要素として、プロテオグリカン、糖タンパク質、プロテオグリカン以外の糖類、および線維が挙げられる。
【0007】
ECMは組織の再生や治癒に必須である。たとえば、ヒト胎児では、ECMは幹細胞と共同して人体の各部位を成長および再生させており、胎児が子宮内で損傷を受けたとしても組織の再生が可能である。しかし、発達が完了するとECMはその機能を停止する。
【0008】
ECMは医療用途でも有用であり、炎症を伴う損傷に対する免疫応答の阻止や抑制を介した損傷修復や組織再生に利用される。さらに、ECMは、周囲の細胞に作用することにより、瘢痕組織の形成ではなく、組織の修復を促すことができる。このような場合、ブタの膀胱などの供給源から抽出されたECMを脱細胞化して使用することが多い。また、たとえば、ECMの粉末も組織再生に使用することができる。
【0009】
創傷治癒は、損傷を受けた組織において恒常性を維持しようとする複数のイベントからなる複雑なカスケードである。創傷の閉鎖は、日和見病原細菌などの外来因子による感染症から組織そのものを保護できることから、治癒プロセスに必須である。このような病原菌により形成されたバイオフィルムは、創傷治癒の遅延や阻止をもたらす慢性感染症の一般的な原因である。細菌性バイオフィルムに従来の抗生物質を使用すると、病原菌を広範に覆った細胞外ポリマー層により、バイオフィルムへの抗生物質の拡散が妨げられるため、細菌性バイオフィルム自体を抗生物質で排除することは難しい。
【0010】
現在、創傷の臨床治療には重大な問題点がある。創傷を治療するための治療法として、自家組織移植片および脂肪移植(損傷部位から離れた部位より採取された患者自身の皮膚および脂肪組織を用いて損傷組織を置換する移植)、ならびに人工(合成)移植片がある。しかし、これらの方法は、ドナー部位の合併症や、移植片の移動、破裂、縮小および異物に対する反応などの重大な問題を患者に起こす。創傷の治癒を促すさらなる医薬品が必要とされている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0011】
本開示は、概して、小型運動性幹(small mobile stem(SMS))細胞から単離された細胞外マトリックスまたは細胞外マトリックスタンパク質を含む組成物およびシステム、ならびにこれらの製造方法および使用方法に関する。したがって、本発明の態様には、医薬品としての、SMS細胞の培養物から単離された細胞外マトリックスもしくは細胞外マトリックスタンパク質の使用;または対象(たとえばヒト)において、糖尿病性潰瘍、静脈性潰瘍、慢性潰瘍、褥瘡などの創傷を治療もしくは改善するための、SMS細胞の培養物から単離された細胞外マトリックスもしくは細胞外マトリックスタンパク質の使用が含まれる。
【0012】
本明細書で提供される実施形態のいくつかは、培養物中のSMS細胞に由来する細胞外マトリックス(ECM)タンパク質またはECMを含む組成物に関する。いくつかの実施形態において、SMS細胞に由来する前記ECMまたはECMタンパク質は、架橋剤または架橋技術(たとえば、光線照射、化学物質、力学的手段、温度など)により誘導または形成された少なくとも1個の架橋を含む。いくつかの実施形態において、前記架橋されたECMまたはECMタンパク質は、変性されたものである。いくつかの実施形態において、前記少なくとも1個の架橋は、γ線照射、紫外線光、電子ビーム照射(eビーム照射)などの光線照射により誘導されたものである。いくつかの実施形態において、前記架橋は、酸、塩基、せん断力などの、化学物質または物理的な架橋環境への暴露により誘導されたものである。いくつかの実施形態において、前記架橋されたECMまたはECMタンパク質は、たとえば、アセチル化、アシル化、カルボキシル化、グリコシル化、ヒドロキシル化、脂質化、メチル化、ペグ化、リン酸化、プレニル化、硫酸化、ユビキチン化などの修飾を含む。いくつかの実施形態において、前記架橋されたECMまたはECMタンパク質は、アグリン、フィラグリン、ムチン、分泌リンタンパク質24(骨基質)、ニドゲン、カドヘリン、クラスリン、コラーゲン、ディフェンシン、エラスチン、エンタクチン、フィブリリン、フィブロネクチン、ビトロネクチン、ケラチン、ラミニン、微小管アクチン架橋因子1、SPARC様タンパク質、ネスプリン(ネスプリン1、ネスプリン2、ネスプリン3)、fibrous sheath-interacting protein、ミオメシン、ネブリン、ケラチノサイトプロリンリッチタンパク質、プラコフィリン、インテグリン、タリン、エクスポーチン、トランスポーチン、テネイシン、パールカン、ソルチリン関連受容体、テンシン、タイチン、全タンパク質、またはこれらの1種以上のタンパク質の断片を含む。いくつかの実施形態において、前記架橋されたECMまたはECMタンパク質は、細菌阻害化合物、酵母阻害化合物、真菌阻害化合物などの抗微生物化合物を含む。いくつかの実施形態において、前記抗微生物化合物は、ダームシジン、コレクチン、C型レクチンファミリー4、セプチン12、ディフェンシンおよび膵リボヌクレアーゼからなる群から選択される。いくつかの実施形態において、前記組成物は、移植片、散剤、エアロゾル剤、クリーム剤、乳剤、フォーム剤、起泡性液剤、ゲル剤、ローション剤、軟膏剤、ペースト剤、塗布剤、血清製剤、液剤またはスプレー剤として製剤化されている。いくつかの実施形態において、前記組成物は、SMS細胞に由来する前記架橋されたECMまたはECMタンパク質中に本来存在しない1種以上の抗微生物剤、抗生物質、抗炎症性化合物または鎮痛剤をさらに含む。いくつかの実施形態において、前記組成物は、線維芽細胞、内皮細胞、ケラチノサイト、メラノサイト、幹細胞などの細胞をさらに含む。いくつかの実施形態において、前記組成物は、コラーゲン、ポリグラクチンメッシュ、ポリ乳酸グリコール酸、ポリカプロラクトン、ポリピロール、ヒアルロナン、キトサンまたは異種組織をさらに含む。いくつかの実施形態において、前記組成物は、骨形成タンパク質、インスリン様成長因子、破骨細胞刺激因子、インスリン様成長因子結合タンパク質、カルモジュリン様タンパク質、サイモシンなどの成長因子をさらに含む。
【0013】
本明細書で提供される実施形態のいくつかは、化粧料組成物に関する。いくつかの実施形態において、前記化粧料は、SMS細胞の培養物に由来するECMまたはECMタンパク質を含む。いくつかの実施形態において、前記化粧料に含まれる前記SMS細胞由来ECMまたはECMタンパク質は、架橋剤または架橋技術(たとえば、光線照射、化学物質、力学的手段、温度など)への暴露により誘導された少なくとも1個の架橋を含む。いくつかの実施形態において、前記化粧料に含まれる前記架橋されたECMまたはECMタンパク質は、変性されたものである。いくつかの実施形態において、前記少なくとも1個の架橋は、γ線照射、紫外線光、電子ビーム照射(eビーム照射)などの光線照射により誘導されたものである。いくつかの実施形態において、前記架橋は、酸、塩基、せん断力などの、化学物質または物理的な架橋環境への暴露により誘導されたものである。いくつかの実施形態において、前記化粧料に含まれる前記架橋されたECMまたはECMタンパク質は、たとえば、アセチル化、アシル化、カルボキシル化、グリコシル化、ヒドロキシル化、脂質化、メチル化、ペグ化、リン酸化、プレニル化、硫酸化、ユビキチン化などの修飾を含む。いくつかの実施形態において、前記架橋されたECMまたはECMタンパク質は、アグリン、フィラグリン、ムチン、分泌リンタンパク質24(骨基質)、ニドゲン、カドヘリン、クラスリン、コラーゲン、ディフェンシン、エラスチン、エンタクチン、フィブリリン、フィブロネクチン、ビトロネクチン、ケラチン、ラミニン、微小管アクチン架橋因子1、SPARC様タンパク質、ネスプリン(ネスプリン1、ネスプリン2、ネスプリン3)、fibrous sheath-interacting protein、ミオメシン、ネブリン、ケラチノサイトプロリンリッチタンパク質、プラコフィリン、インテグリン、タリン、エクスポーチン、トランスポーチン、テネイシン、パールカン、ソルチリン関連受容体、テンシン、タイチン、全タンパク質、またはこれらの1種以上のタンパク質の断片を含む。いくつかの実施形態において、前記化粧料に含まれる前記架橋されたECMまたはECMタンパク質は、細菌阻害化合物、酵母阻害化合物、真菌阻害化合物などの抗微生物化合物を含む。いくつかの実施形態において、前記抗微生物化合物は、ダームシジン、コレクチン、C型レクチンファミリー4、セプチン12、ディフェンシンおよび膵リボヌクレアーゼからなる群から選択される。いくつかの実施形態において、前記組成物は、移植片、散剤、エアロゾル剤、クリーム剤、乳剤、フォーム剤、起泡性液剤、ゲル剤、ローション剤、軟膏剤、ペースト剤、塗布剤、血清製剤、液剤またはスプレー剤として製剤化されている。いくつかの実施形態において、前記化粧料は、SMS細胞に由来する前記架橋されたECMまたはECMタンパク質中に本来存在しない1種以上の抗微生物剤、抗生物質、抗炎症性化合物または鎮痛剤をさらに含む。いくつかの実施形態において、前記化粧料は、線維芽細胞、内皮細胞、ケラチノサイト、メラノサイト、幹細胞などの細胞をさらに含む。いくつかの実施形態において、前記化粧料は、コラーゲン、ポリグラクチンメッシュ、ポリ乳酸グリコール酸、ポリカプロラクトン、ポリピロール、ヒアルロナン、キトサンまたは異種組織をさらに含む。いくつかの実施形態において、前記化粧料は、骨形成タンパク質、インスリン様成長因子、破骨細胞刺激因子、インスリン様成長因子結合タンパク質、カルモジュリン様タンパク質、サイモシンなどの成長因子をさらに含む。いくつかの実施形態において、前記化粧料は、芳香剤、皮膚軟化剤または脂肪酸(オレイン酸やパルミトレイン酸など)をさらに含む。
【0014】
本明細書で提供される実施形態のいくつかは、本明細書に記載の組成物の製造方法に関する。いくつかの実施形態において、前記組成物は、SMS細胞の培養物から単離された細胞外マトリックス(ECM)またはECMタンパク質を含む。いくつかの実施形態において、前記ECMまたはECMタンパク質は、架橋剤または架橋技術(たとえば、光線照射、化学物質、力学的手段、温度など)への暴露により誘導された少なくとも1個の架橋を含む。いくつかの実施形態において、前記架橋されたECMまたはECMタンパク質は、変性されたものである。いくつかの実施形態において、前記少なくとも1個の架橋は、γ線照射、紫外線光、電子ビーム照射(eビーム照射)などの光線照射により誘導されたものである。いくつかの実施形態において、前記架橋は、酸、塩基、せん断力などの、化学物質または物理的な架橋環境への暴露により誘導されたものである。いくつかの実施形態において、前記架橋されたECMまたはECMタンパク質は、たとえば、アセチル化、アシル化、カルボキシル化、グリコシル化、ヒドロキシル化、脂質化、メチル化、ペグ化、リン酸化、プレニル化、硫酸化、ユビキチン化などの修飾を含む。いくつかの実施形態において、前記架橋されたECMまたはECMタンパク質は、アグリン、フィラグリン、ムチン、分泌リンタンパク質24(骨基質)、ニドゲン、カドヘリン、クラスリン、コラーゲン、ディフェンシン、エラスチン、エンタクチン、フィブリリン、フィブロネクチン、ビトロネクチン、ケラチン、ラミニン、微小管アクチン架橋因子1、SPARC様タンパク質、ネスプリン(ネスプリン1、ネスプリン2、ネスプリン3)、fibrous sheath-interacting protein、ミオメシン、ネブリン、ケラチノサイトプロリンリッチタンパク質、プラコフィリン、インテグリン、タリン、エクスポーチン、トランスポーチン、テネイシン、パールカン、ソルチリン関連受容体、テンシン、タイチン、全タンパク質、またはこれらの1種以上のタンパク質の断片を含む。いくつかの実施形態において、前記架橋されたECMまたはECMタンパク質は、細菌阻害化合物、酵母阻害化合物、真菌阻害化合物などの抗微生物化合物を含む。いくつかの実施形態において、前記抗微生物化合物は、ダームシジン、コレクチン、C型レクチンファミリー4、セプチン12、ディフェンシンおよび膵リボヌクレアーゼからなる群から選択される。いくつかの実施形態において、前記組成物は、移植片、散剤、エアロゾル剤、クリーム剤、乳剤、フォーム剤、起泡性液剤、ゲル剤、ローション剤、軟膏剤、ペースト剤、塗布剤、血清製剤、液剤またはスプレー剤として製剤化されている。いくつかの実施形態において、前記組成物は、前記架橋されたECMまたはECMタンパク質中に本来存在しない1種以上の抗微生物剤、抗生物質、抗炎症性化合物または鎮痛剤をさらに含む。いくつかの実施形態において、前記組成物は、線維芽細胞、内皮細胞、ケラチノサイト、メラノサイト、幹細胞などの細胞をさらに含む。いくつかの実施形態において、前記組成物は、コラーゲン、ポリグラクチンメッシュ、ポリ乳酸グリコール酸、ポリカプロラクトン、ポリピロール、ヒアルロナン、キトサンまたは異種組織をさらに含む。いくつかの実施形態において、前記組成物は、骨形成タンパク質、インスリン様成長因子、破骨細胞刺激因子、インスリン様成長因子結合タンパク質、カルモジュリン様タンパク質、サイモシンなどの成長因子をさらに含む。いくつかの実施形態において、前記組成物は化粧料である。いくつかの実施形態において、前記化粧料は、芳香剤、皮膚軟化剤または脂肪酸(オレイン酸やパルミトレイン酸など)をさらに含む。いくつかの実施形態において、前記製造方法は、ECMまたはECMタンパク質を形成させるのに十分な時間にわたって、小型運動性幹(small mobile stem(SMS))細胞集団を培養する工程を含む。いくつかの実施形態において、前記ECMまたはECMタンパク質は、培養容器に接着した状態である。いくつかの実施形態において、前記ECMまたはECMタンパク質は、培養培地中に存在する状態(たとえば、培養容器への接着から解放された状態または浮遊状態)である。いくつかの実施形態において、前記製造方法は、前記培養容器または前記培養培地から前記ECMまたはECMタンパク質を回収して、単離されたECMまたはECMタンパク質を得る工程を含む。いくつかの実施形態において、前記方法は、前記単離したECMまたはECMタンパク質を洗浄する工程を含む。いくつかの実施形態において、前記方法は、前記ECMまたはECMタンパク質を洗浄する工程を含む。いくつかの実施形態において、前記ECMまたはECMタンパク質は、乾燥して粉末にされる。いくつかの実施形態において、前記製造方法は、γ線照射、紫外線光照射、X線照射または電子ビーム照射(eビーム照射)であることが好ましい光線照射への暴露などにより、前記ECMまたはECMタンパク質に少なくとも1個の架橋を導入する工程をさらに含む。いくつかの実施形態において、前記方法は、酸、塩基、せん断力などの、化学物質または物理的な架橋環境への暴露により、前記ECMまたはECMタンパク質に少なくとも1個の架橋を導入する工程をさらに含む。いくつかの実施形態において、前記方法は、前記ECMまたはECMタンパク質を凍結する工程をさらに含む。いくつかの実施形態において、前記方法は、前記ECMまたはECMタンパク質を支持体または表面(たとえば、創傷被覆材の表面または培養容器の表面)に結合させる工程をさらに含む。いくつかの実施形態において、前記支持体は、セルロースまたは1種以上の糖もしくは糖アルコールを含む。
【0015】
本明細書で提供される実施形態のいくつかは、創傷治癒促進用システムに関する。いくつかの実施形態において、前記システムは、本明細書に記載の組成物を含む創傷被覆材を含む。いくつかの実施形態において、前記創傷被覆材は、包帯、ワイプ、ガーゼ、スポンジ、メッシュ、パッド、絆創膏、ナイロンまたは吸収性創傷被覆材を含む。いくつかの実施形態において、前記組成物は、SMS細胞の培養物から単離された細胞外マトリックス(ECM)またはECMタンパク質を含む。いくつかの実施形態において、前記単離されたECMまたはECMタンパク質は、架橋剤または架橋技術(たとえば、光線照射、化学物質、力学的手段、温度など)への暴露により誘導された少なくとも1個の架橋を含む。いくつかの実施形態において、前記架橋されたECMまたはECMタンパク質は、変性されたものである。いくつかの実施形態において、前記少なくとも1個の架橋は、γ線照射、紫外線光、電子ビーム照射(eビーム照射)などの光線照射により誘導されたものである。いくつかの実施形態において、前記架橋は、酸、塩基、せん断力などの、化学物質または物理的な架橋環境への暴露により誘導されたものである。いくつかの実施形態において、前記架橋されたECMまたはECMタンパク質は、たとえば、アセチル化、アシル化、カルボキシル化、グリコシル化、ヒドロキシル化、脂質化、メチル化、ペグ化、リン酸化、プレニル化、硫酸化、ユビキチン化などの修飾を含む。いくつかの実施形態において、前記架橋されたECMまたはECMタンパク質は、アグリン、フィラグリン、ムチン、分泌リンタンパク質24(骨基質)、ニドゲン、カドヘリン、クラスリン、コラーゲン、ディフェンシン、エラスチン、エンタクチン、フィブリリン、フィブロネクチン、ビトロネクチン、ケラチン、ラミニン、微小管アクチン架橋因子1、SPARC様タンパク質、ネスプリン(ネスプリン1、ネスプリン2、ネスプリン3)、fibrous sheath-interacting protein、ミオメシン、ネブリン、ケラチノサイトプロリンリッチタンパク質、プラコフィリン、インテグリン、タリン、エクスポーチン、トランスポーチン、テネイシン、パールカン、ソルチリン関連受容体、テンシン、タイチン、全タンパク質、またはこれらの1種以上のタンパク質の断片を含む。いくつかの実施形態において、前記架橋されたECMまたはECMタンパク質は、細菌阻害化合物、酵母阻害化合物、真菌阻害化合物などの抗微生物化合物を含む。いくつかの実施形態において、前記抗微生物化合物は、ダームシジン、コレクチン、C型レクチンファミリー4、セプチン12、ディフェンシンおよび膵リボヌクレアーゼからなる群から選択される。いくつかの実施形態において、前記組成物は、移植片、散剤、エアロゾル剤、クリーム剤、乳剤、フォーム剤、起泡性液剤、ゲル剤、ローション剤、軟膏剤、ペースト剤、塗布剤、血清製剤、液剤またはスプレー剤として製剤化されている。いくつかの実施形態において、前記組成物は、前記架橋されたECMまたはECMタンパク質中に本来存在しない1種以上の抗微生物剤、抗生物質、抗炎症性化合物または鎮痛剤をさらに含む。いくつかの実施形態において、前記組成物は、線維芽細胞、内皮細胞、ケラチノサイト、メラノサイト、幹細胞などの細胞をさらに含む。いくつかの実施形態において、前記組成物は、コラーゲン、ポリグラクチンメッシュ、ポリ乳酸グリコール酸、ポリカプロラクトン、ポリピロール、ヒアルロナン、キトサンまたは異種組織をさらに含む。いくつかの実施形態において、前記組成物は、骨形成タンパク質、インスリン様成長因子、破骨細胞刺激因子、インスリン様成長因子結合タンパク質、カルモジュリン様タンパク質、サイモシンなどの成長因子をさらに含む。いくつかの実施形態において、前記組成物は化粧料である。いくつかの実施形態において、前記化粧料は、芳香剤、皮膚軟化剤または脂肪酸(オレイン酸やパルミトレイン酸など)をさらに含む。いくつかの実施形態において、前記組成物は、複数の種類のECMタンパク質および複数の種類の多糖類を含む。いくつかの実施形態において、前記複数の種類のECMタンパク質および前記複数の種類の多糖類は、アグリン、フィラグリン、分泌リンタンパク質24(骨基質)、ビトロネクチン、ムチン、ニドゲン、カドヘリン、クラスリン、コラーゲン、ディフェンシン、エラスチン、エンタクチン、フィブリリン、フィブロネクチン、ケラチン、ラミニン、微小管アクチン架橋因子1、SPARC様タンパク質、ネスプリン(ネスプリン1、ネスプリン2、ネスプリン3)、fibrous sheath-interacting protein、ミオメシン、ネブリン、プラコフィリン、インテグリン、タリン、エクスポーチン、トランスポーチン、ケラチノサイトプロリンリッチタンパク質、テネイシン、パールカン、ソルチリン関連受容体、テンシン、タイチン、全タンパク質、ヒアルロン酸、セルロース、ならびにこれらの1種以上のタンパク質および多糖類の断片、類似体および誘導体のうちの少なくとも1種を含む。
【0016】
本明細書で提供される実施形態のいくつかは、対象(ヒト、家庭内動物、農場動物、愛玩動物など)において、創傷(たとえば、慢性創傷または潰瘍など)を治療または改善する方法に関する。いくつかの実施形態において、前記方法は、対象において、本明細書に記載の組成物または本明細書に記載のシステムに創傷を接触させること含む。いくつかの実施形態において、対象において、本明細書に記載の組成物を含む創傷被覆材を含むシステムに創傷を接触させる。いくつかの実施形態において、前記創傷被覆材は、包帯、ワイプ、ガーゼ、スポンジ、メッシュ、パッド、絆創膏、ナイロンまたは吸収性創傷被覆材を含む。いくつかの実施形態において、SMS細胞の培養物から単離された細胞外マトリックス(ECM)またはECMタンパク質を含む組成物に創傷を接触させる。いくつかの実施形態において、SMS細胞の培養物から単離された前記ECMまたはECMタンパク質は、たとえば、光線照射、化学物質、力学的手段、温度などにより誘導された少なくとも1個の架橋を含む。いくつかの実施形態において、前記架橋されたECMまたはECMタンパク質は、変性されたものである。いくつかの実施形態において、前記少なくとも1個の架橋は、γ線照射、紫外線光、電子ビーム照射(eビーム照射)などの光線照射により誘導されたものである。いくつかの実施形態において、前記架橋は、酸、塩基、せん断力などの、化学物質または物理的な架橋環境への暴露により誘導されたものである。いくつかの実施形態において、前記架橋されたECMまたはECMタンパク質は、たとえば、アセチル化、アシル化、カルボキシル化、グリコシル化、ヒドロキシル化、脂質化、メチル化、ペグ化、リン酸化、プレニル化、硫酸化、ユビキチン化などの修飾を含む。いくつかの実施形態において、前記架橋されたECMまたはECMタンパク質は、アグリン、フィラグリン、ムチン、分泌リンタンパク質24(骨基質)、ニドゲン、カドヘリン、クラスリン、コラーゲン、ディフェンシン、エラスチン、エンタクチン、フィブリリン、フィブロネクチン、ビトロネクチン、ケラチン、ラミニン、微小管アクチン架橋因子1、SPARC様タンパク質、ネスプリン(ネスプリン1、ネスプリン2、ネスプリン3)、fibrous sheath-interacting protein、ミオメシン、ネブリン、ケラチノサイトプロリンリッチタンパク質、プラコフィリン、インテグリン、タリン、エクスポーチン、トランスポーチン、テネイシン、パールカン、ソルチリン関連受容体、テンシン、タイチン、全タンパク質、またはこれらの1種以上のタンパク質の断片を含む。いくつかの実施形態において、前記架橋されたECMまたはECMタンパク質は、細菌阻害化合物、酵母阻害化合物、真菌阻害化合物などの抗微生物化合物を含む。いくつかの実施形態において、前記抗微生物化合物は、ダームシジン、コレクチン、C型レクチンファミリー4、セプチン12、ディフェンシンおよび膵リボヌクレアーゼからなる群から選択される。いくつかの実施形態において、前記組成物は、移植片、散剤、エアロゾル剤、クリーム剤、乳剤、フォーム剤、起泡性液剤、ゲル剤、ローション剤、軟膏剤、ペースト剤、塗布剤、血清製剤、液剤またはスプレー剤として製剤化されている。いくつかの実施形態において、前記組成物は、前記架橋されたECMまたはECMタンパク質中に本来存在しない1種以上の抗微生物剤、抗生物質、抗炎症性化合物または鎮痛剤をさらに含む。いくつかの実施形態において、前記組成物は、線維芽細胞、内皮細胞、ケラチノサイト、メラノサイト、幹細胞などの細胞をさらに含む。いくつかの実施形態において、前記組成物は、コラーゲン、ポリグラクチンメッシュ、ポリ乳酸グリコール酸、ポリカプロラクトン、ポリピロール、ヒアルロナン、キトサンまたは異種組織をさらに含む。いくつかの実施形態において、前記組成物は、骨形成タンパク質、インスリン様成長因子、破骨細胞刺激因子、インスリン様成長因子結合タンパク質、カルモジュリン様タンパク質、サイモシンなどの成長因子をさらに含む。いくつかの実施形態において、前記組成物は化粧料である。いくつかの実施形態において、前記化粧料は、芳香剤、皮膚軟化剤または脂肪酸(オレイン酸やパルミトレイン酸など)をさらに含む。いくつかの実施形態において、前記組成物は、複数の種類のECMタンパク質および複数の種類の多糖類を含む。いくつかの実施形態において、前記複数の種類のECMタンパク質および前記複数の種類の多糖類は、アグリン、フィラグリン、分泌リンタンパク質24(骨基質)、ビトロネクチン、ムチン、ニドゲン、カドヘリン、クラスリン、コラーゲン、ディフェンシン、エラスチン、エンタクチン、フィブリリン、フィブロネクチン、ケラチン、ラミニン、微小管アクチン架橋因子1、SPARC様タンパク質、ネスプリン(ネスプリン1、ネスプリン2、ネスプリン3)、fibrous sheath-interacting protein、ミオメシン、ネブリン、プラコフィリン、インテグリン、タリン、エクスポーチン、トランスポーチン、ケラチノサイトプロリンリッチタンパク質、テネイシン、パールカン、ソルチリン関連受容体、テンシン、タイチン、全タンパク質、ヒアルロン酸、セルロース、ならびにこれらの1種以上のタンパク質および多糖類の断片、類似体および誘導体のうちの少なくとも1種を含む。
【0017】
いくつかの実施形態において、創傷(たとえば、慢性創傷または潰瘍など)を治療または改善する前記方法は、対象において、1種以上の前記組成物を創傷に外用塗布することを含む。いくつかの実施形態において、前記創傷は、部分層創傷または全層創傷である。いくつかの実施形態において、前記創傷は、体表面の損傷または体内の損傷である。いくつかの実施形態において、前記創傷は、皮膚損傷、擦過創、挫傷、熱傷、切創、裂創、貫通創、刺創、びらんまたは潰瘍である。いくつかの実施形態において、前記潰瘍は、糖尿病性潰瘍、静脈性潰瘍、慢性潰瘍または褥瘡である。いくつかの実施形態において、前記対象における前記創傷の治療または改善によって、全層もしくは部分層の修復の促進、創傷治癒の加速、創傷閉鎖の促進、創傷の回復、上皮形成の増加、上皮層の厚さの増加、肉芽形成の増加、顆粒層の厚さの増加、コラーゲン沈着の増加、毛細血管の形成の増加、血管新生の増強、免疫調節の増強、細胞遊走の増強、もしくは細胞増殖の増強、またはこれらの任意の組み合わせが起こる。いくつかの実施形態において、前記1種以上の組成物は、対象において、0.01mg/cm2、0.05mg/cm2、0.1mg/cm2、0.5mg/cm2、1mg/cm2、1.5mg/cm2、2mg/cm2、2.5mg/cm2、5mg/cm2、10mg/cm2、25mg/cm2、50mg/cm2、100mg/cm2、500mg/cm2もしくは1000mg/cm2の量、またはこれらの量のいずれか2つによって定義される範囲内の量で創傷領域に塗布される。いくつかの実施形態において、前記1種以上の組成物は、前記対象における前記創傷に少なくとも1日1回、週1回、月1回または年1回塗布される。いくつかの実施形態において、前記組成物は、前記対象における前記創傷に少なくとも1日3回塗布される。いくつかの実施形態において、前記組成物は、2回、3回、4回、5回、6回、7回、8回、9回、10回またはそれ以上の回数連続して前記対象における前記創傷に塗布される。いくつかの実施形態において、本明細書に記載の1種以上の組成物またはシステムは、1日、2日間、3日間、4日間、5日間、6日間、7日間、8日間、9日間、10日間、15日間、20日間、30日間もしくはそれ以上の日数、1ヶ月間、2ヶ月間、3ヶ月間、4ヶ月間、5ヶ月間、6ヶ月間、7ヶ月間、8ヶ月間、9ヶ月間、10ヶ月間、11ヶ月間、12ヶ月間もしくはそれ以上の月数、または1年間、2年間、3年間、4年間、5年間、10年間もしくはそれ以上の年数にわたって、前記創傷に塗布される。
【0018】
したがって、本発明の態様のいくつかは、付番した以下の実施形態に関する。
【0019】
1.小型運動性幹(small mobile stem(SMS))細胞の培養物から単離された細胞外マトリックス(ECM)またはECMタンパク質を含む組成物(たとえば、医薬品、化粧料、創傷被覆材など)であって、該ECMまたはECMタンパク質が、架橋剤への暴露または架橋技術(たとえば、光線照射、化学物質、力学的手段、温度など)により誘導された少なくとも1個の架橋を含むことが好ましい、組成物。
【0020】
2.前記ECMまたはECMタンパク質が、変性されたものである、実施形態1に記載の組成物。
【0021】
3.前記少なくとも1個の架橋が、γ線照射、紫外線光、電子ビーム照射(eビーム照射)などの光線照射により誘導されたものである、実施形態1または2に記載の組成物。
【0022】
4.前記架橋が、酸、塩基、せん断力などの、化学物質または物理的な架橋環境への暴露により誘導されたものである、実施形態1または2に記載の組成物。
【0023】
5.前記架橋されたECMまたはECMタンパク質が、アセチル化、アシル化、カルボキシル化、グリコシル化、ヒドロキシル化、脂質化、メチル化、ペグ化、リン酸化、プレニル化、硫酸化またはユビキチン化を含む、実施形態1~4のいずれか1つに記載の組成物。
【0024】
6.前記架橋されたECMまたはECMタンパク質が、アグリン、フィラグリン、ムチン、分泌リンタンパク質24(骨基質)、ニドゲン、カドヘリン、クラスリン、コラーゲン、ディフェンシン、エラスチン、エンタクチン、フィブリリン、フィブロネクチン、ビトロネクチン、ケラチン、ラミニン、微小管アクチン架橋因子1、SPARC様タンパク質、ネスプリン(ネスプリン1、ネスプリン2、ネスプリン3)、fibrous sheath-interacting protein、ミオメシン、ネブリン、ケラチノサイトプロリンリッチタンパク質、プラコフィリン、インテグリン、タリン、エクスポーチン、トランスポーチン、テネイシン、パールカン、ソルチリン関連受容体、テンシン、タイチン、全タンパク質、またはこれらの1種以上のタンパク質の断片を含む、実施形態1~5のいずれか1つに記載の組成物。
【0025】
7.前記架橋されたECMまたはECMタンパク質が、細菌阻害化合物、酵母阻害化合物、真菌阻害化合物などの抗微生物化合物を含む、実施形態1~6のいずれか1つに記載の組成物。
【0026】
8.前記抗微生物化合物が、ダームシジン、コレクチン、C型レクチンファミリー4、セプチン12、ディフェンシンおよび膵リボヌクレアーゼからなる群から選択される、実施形態7に記載の組成物。
【0027】
9.移植片、散剤、エアロゾル剤、クリーム剤、乳剤、フォーム剤、起泡性液剤、ゲル剤、ローション剤、軟膏剤、ペースト剤、塗布剤、血清製剤、液剤またはスプレー剤として製剤化されている、実施形態1~8のいずれか1つに記載の組成物。
【0028】
10.前記架橋されたECMまたはECMタンパク質中に本来存在しない1種以上の抗微生物剤、抗生物質、抗炎症性化合物または鎮痛剤をさらに含む、実施形態1~9のいずれか1つに記載の組成物。
【0029】
11.線維芽細胞、内皮細胞、ケラチノサイト、メラノサイト、幹細胞などの細胞をさらに含む、実施形態1~10のいずれか1つに記載の組成物。
【0030】
12.コラーゲン、ポリグラクチンメッシュ、ポリ乳酸グリコール酸、ポリカプロラクトン、ポリピロール、ヒアルロナン、キトサンまたは異種組織をさらに含む、実施形態1~11のいずれか1つに記載の組成物。
【0031】
13.骨形成タンパク質、インスリン様成長因子、破骨細胞刺激因子、インスリン様成長因子結合タンパク質、カルモジュリン様タンパク質、サイモシンなどの成長因子をさらに含む、実施形態1~12のいずれか1つに記載の組成物。
【0032】
14.小型運動性幹(small mobile stem(SMS))細胞の培養物から単離された細胞外マトリックス(ECM)またはECMタンパク質を含む化粧料であって、該ECMまたはECMタンパク質が、架橋剤への暴露または架橋技術(たとえば、光線照射、化学物質、力学的手段、温度など)により誘導された少なくとも1個の架橋を含むことが好ましく、芳香剤、皮膚軟化剤または脂肪酸(オレイン酸もしくはパルミトレイン酸など)を含んでいてもよい、化粧料。
【0033】
15.実施形態1~14のいずれか1つに記載の組成物を製造する方法であって、
培養容器に接着した状態または培養培地中に存在する状態(たとえば、浮遊状態もしくは培養容器への接着から解放された状態)で細胞外マトリックス(ECM)またはECMタンパク質を形成させるのに十分な時間にわたって、小型運動性幹(small mobile stem(SMS))細胞集団を培養する工程;および
前記培養容器から前記ECMまたはECMタンパク質を単離して、単離されたECMまたはECMタンパク質を得る工程
を含み、
前記単離したECMまたはECMタンパク質を洗浄する工程;および
前記ECMまたはECMタンパク質を乾燥して、たとえば粉末にする工程
を含んでいてもよい方法。
【0034】
16.γ線照射、紫外線光照射、X線照射または電子ビーム照射(eビーム照射)であることが好ましい光線照射への暴露などにより、前記ECMまたはECMタンパク質に少なくとも1個の架橋を導入する工程をさらに含む、実施形態15に記載の方法。
【0035】
17.酸、塩基、せん断力などの、化学物質または物理的な架橋環境への暴露により、前記ECMまたはECMタンパク質に少なくとも1個の架橋を導入する工程をさらに含む、実施形態15に記載の方法。
【0036】
18.前記ECMまたはECMタンパク質を凍結する工程をさらに含む、実施形態15~17のいずれか1つに記載の方法。
【0037】
19.前記ECMまたはECMタンパク質を支持体に結合させる工程をさらに含む、実施形態15~18のいずれか1つに記載の方法。
【0038】
20.前記支持体が、セルロース、糖または糖アルコールを含む、実施形態19に記載の方法。
【0039】
21.実施形態1~14のいずれか1つに記載の組成物を含む創傷被覆材を含む創傷治癒用システム。
【0040】
22.前記創傷被覆材が、包帯、ワイプ、ガーゼ、スポンジ、メッシュ、パッド、絆創膏、ナイロンまたは吸収性創傷被覆材を含む、実施形態21に記載のシステム。
【0041】
23.前記組成物が、複数の種類のECMタンパク質および複数の種類の多糖類を含む、実施形態21または22に記載のシステム。
【0042】
24.前記複数の種類のECMタンパク質および前記複数の種類の多糖類が、アグリン、フィラグリン、分泌リンタンパク質24(骨基質)、ビトロネクチン、ムチン、ニドゲン、カドヘリン、クラスリン、コラーゲン、ディフェンシン、エラスチン、エンタクチン、フィブリリン、フィブロネクチン、ケラチン、ラミニン、微小管アクチン架橋因子1、SPARC様タンパク質、ネスプリン(ネスプリン1、ネスプリン2、ネスプリン3)、fibrous sheath-interacting protein、ミオメシン、ネブリン、プラコフィリン、インテグリン、タリン、エクスポーチン、トランスポーチン、ケラチノサイトプロリンリッチタンパク質、テネイシン、パールカン、ソルチリン関連受容体、テンシン、タイチン、全タンパク質、ヒアルロン酸、セルロース、ならびにこれらの1種以上のタンパク質および多糖類の断片、類似体および誘導体のうちの少なくとも1種を含む、実施形態23に記載のシステム。
【0043】
25.創傷を治療または改善する方法であって、対象において、実施形態1~14のいずれか1つに記載の組成物または実施形態21~24のいずれか1つに記載のシステムに創傷を接触させることを含む方法。
【0044】
26.前記接触が、前記対象において、前記組成物を創傷に外用塗布することを含む、実施形態25に記載の方法。
【0045】
27.前記創傷が、部分層創傷または全層創傷である、実施形態25または26に記載の方法。
【0046】
28.前記創傷が、体表面の損傷または体内の損傷である、実施形態25~27のいずれか1つに記載の方法。
【0047】
29.前記創傷が、皮膚損傷、擦過創、挫傷、熱傷、切創、裂創、貫通創、刺創、びらんまたは潰瘍である、実施形態25~27のいずれか1つに記載の方法。
【0048】
30.前記潰瘍が、糖尿病性潰瘍、静脈性潰瘍、慢性潰瘍または褥瘡である、実施形態29に記載の方法。
【0049】
31.前記創傷の治療または改善によって、全層もしくは部分層の修復の促進、創傷治癒の加速、創傷閉鎖の促進、創傷の回復、上皮形成の増加、上皮層の厚さの増加、肉芽形成の増加、顆粒層の厚さの増加、コラーゲン沈着の増加、毛細血管の形成の増加、血管新生の増強、免疫調節の増強、細胞遊走の増強、もしくは細胞増殖の増強、またはこれらの任意の組み合わせが起こる、実施形態25~30のいずれか1つに記載の方法。
【0050】
32.前記組成物が、0.01mg/cm2、0.05mg/cm2、0.1mg/cm2、0.5mg/cm2、1mg/cm2、1.5mg/cm2、2mg/cm2、2.5mg/cm2、5mg/cm2、10mg/cm2、25mg/cm2、50mg/cm2、100mg/cm2、500mg/cm2もしくは1000mg/cm2の量、またはこれらの量のいずれか2つによって定義される範囲内の量で、前記対象における創傷領域に塗布される、実施形態25~31のいずれか1つに記載の方法。
【0051】
33.前記組成物が、前記創傷に少なくとも1日1回、週1回、月1回または年1回塗布される、実施形態25~32のいずれか1つに記載の方法。
【0052】
34.前記組成物が前記創傷に少なくとも1日3回塗布される、実施形態25~33のいずれか1つに記載の方法。
【0053】
35.前記組成物が、2回、3回、4回、5回、6回、7回、8回、9回、10回またはそれ以上の回数連続して前記創傷に塗布される、実施形態25~34のいずれか1つに記載の方法。
【0054】
36.前記組成物またはシステムが、1日、2日間、3日間、4日間、5日間、6日間、7日間、8日間、9日間、10日間、15日間、20日間、30日間もしくはそれ以上の日数、1ヶ月間、2ヶ月間、3ヶ月間、4ヶ月間、5ヶ月間、6ヶ月間、7ヶ月間、8ヶ月間、9ヶ月間、10ヶ月間、11ヶ月間、12ヶ月間もしくはそれ以上の月数、または1年間、2年間、3年間、4年間、5年間、10年間もしくはそれ以上の年数にわたって、前記創傷に塗布される、実施形態25~35のいずれか1つに記載の方法。
【0055】
前述した特徴以外のさらなる特徴や変形例は、以下の図面の説明および代表的な実施形態から容易に理解できるであろう。以下の図面は代表的な実施形態を示しており、本発明の範囲を限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0056】
図1】創傷上皮が閉鎖し、顆粒層が形成された後、皮膚層の治癒と正常な皮膚構造への改善が示されたマウス皮膚切片のトリクローム染色を示す。
【0057】
図2】上皮層、顆粒層および脂肪層を示す正常なマウス皮膚切片のトリクローム染色を示す。
【0058】
図3】処置したマウスの創傷の上皮層(小さな両矢印)および顆粒層(大きな両矢印)を示す皮膚切片のトリクローム染色を示す。コラーゲンの沈着は片矢印で示す。
【0059】
図4】皮膚切片のCD31染色を示す。処置したマウスの創傷において、毛細血管壁と大きな血管の壁面が染色されている。
【0060】
図5】皮膚切片のCD31染色を示す。処置したマウスの創傷において、毛細血管壁と大きな血管の壁面が染色されている。
【0061】
図6図6Aは、マウス1の処置した創傷および処置しなかった創傷における創傷治癒の進行を視覚的に示した画像を示す。図6Bは、処置の14日後にマウス1の組織から作製した顕微鏡スライドを染色した画像を示す。
【0062】
図7図7Aは、マウス2の処置した創傷および処置しなかった創傷における創傷治癒の進行を視覚的に示した画像を示す。図7Bは、処置の14日後にマウス2の組織から作製した顕微鏡スライドを染色した画像を示す。
【0063】
図8図8Aは、マウス3の処置した創傷および処置しなかった創傷における創傷治癒の進行を視覚的に示した画像を示す。図8Bは、処置の14日後にマウス3の組織から作製した顕微鏡スライドを染色した画像を示す。
【0064】
図9図9Aは、マウス4の処置した創傷および処置しなかった創傷における創傷治癒の進行を視覚的に示した画像を示す。図9Bは、処置の14日後にマウス4の組織から作製した顕微鏡スライドを染色した画像を示す。
【0065】
図10図10Aは、マウス5の処置した創傷および処置しなかった創傷における創傷治癒の進行を視覚的に示した画像を示す。図10Bは、処置の14日後にマウス5の組織から作製した顕微鏡スライドを染色した画像を示す。
【0066】
図11図11Aは、マウス6の処置した創傷および処置しなかった創傷における創傷治癒の進行を視覚的に示した画像を示す。図11Bは、処置の14日後にマウス6の組織から作製した顕微鏡スライドを染色した画像を示す。
【発明を実施するための形態】
【0067】
以下の詳細な説明において、本明細書の一部を構成する添付の図面を参照しながら本発明を説明する。別段の記載がない限り、図面中の類似の記号は、通常、類似の構成要素を示す。詳細な説明、図面および請求項に記載の実施形態は例示を目的としたものであり、本発明をなんら限定するものではない。本明細書に記載の主題の要旨や範囲から逸脱することなく、その他の実施形態を採用してもよく、その他の変更を加えてもよい。本明細書に概説し、図面に示した本開示の態様は、様々な構成で配置、置換、合体、分離および設計できることは容易に理解され、このような態様はいずれも本明細書に明示的に包含される。
【0068】
何百万人もの患者が創傷に苦しんでおり、創傷治癒の医療コストは莫大なものとなっている。本明細書では、創傷を治療または改善するための組成物および方法であって、該組成物が、小型運動性幹(small mobile stem(SMS))細胞から産生され単離された細胞外マトリックス(ECM)またはECMタンパク質を含み、該ECMまたはECMタンパク質が、誘導された少なくとも1個の架橋を含んでいてもよいことを特徴とする組成物および方法を提供する。本明細書で提供される組成物、システムおよび方法は、SMS細胞から作製されたものであることから、ECMおよびECMタンパク質の製造において信頼性の高い効率的な供給源となる。
【0069】
別段の記載がない限り、本明細書で使用される技術用語および科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般に理解される意味を有するものとする。たとえば、Singleton et al., Dictionary of Microbiology and Molecular Biology 2nd ed., J. Wiley & Sons (New York, NY 1994);Sambrook et al., Molecular Cloning, A Laboratory Manual, Cold Springs Harbor Press (Cold Springs Harbor, NY 1989)を参照されたい。本発明の開示を目的として、以下の用語を以下のように定義する。
【0070】
本明細書において、「a」および「an」という冠詞は、これらの冠詞の文法上の目的語となる1つまたは複数の(たとえば少なくとも1つの)ものを指すために使用される。たとえば、「an element」は、1つの構成要素または複数の構成要素を意味する。
【0071】
「約」は、特定の数量、レベル、数値、数、頻度、パーセンテージ、寸法、大きさ、量、重量または長さが、対照としての数量、レベル、数値、数、頻度、パーセンテージ、寸法、大きさ、量、重量または長さと比較して、30%、25%、20%、15%、10%、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%または1%の範囲で変動することを意味する。
【0072】
本明細書を通して、別段の記載がない限り、「含む」および「含んでいる」という用語は、本明細書に記載の工程もしくは構成要素または工程群もしくは構成要素群を包含することを意味するが、その他の工程もしくは構成要素または工程群もしくは構成要素群を除外するものではない。
【0073】
「からなる」は、この用語の前に挙げられたもののみを含むことを意味する。したがって、「からなる」という用語は、この用語の前に挙げられた構成要素が必要または必須であることを示し、その他の構成要素は含まれていなくてもよいことを意味する。「実質的に~からなる」は、この用語の前に挙げられた構成要素を含み、これらの構成要素の開示に関連して記載された活性または作用に対して妨害も寄与もしないその他の構成要素も含むことを意味する。したがって、「実質的に~からなる」という用語は、この用語の前に挙げられた構成要素が必要または必須であることを示すが、その他の構成要素は任意であり、この用語の前に挙げられた構成要素の活性または作用に実質的な影響を与えるかどうかに応じて含まれていてもよく、含まれていなくてもよい。
【0074】
いくつかの実施形態において、組成物中の所定の薬剤(たとえば、抗体やポリペプチド結合性薬剤など)の「純度」は具体的に定義されていてもよい。たとえば、特定の組成物は、たとえば高圧液体クロマトグラフィー(HPLC)(化合物を分離、同定かつ定量するために生化学分野および分析化学分野において頻繁に使用される公知のカラムクロマトグラフィーの一種)(ただしこれに限定されない)などによって測定した場合に、少なくとも80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%または100%の純度(各数値の間の小数値を含む)の薬剤を含んでいてもよい。
【0075】
本明細書において、「機能」や「機能的」といった用語は、生物学的機能、酵素的機能または治療的機能を指す。
【0076】
「単離された」は、天然状態において通常付随する成分が実質的または本質的に除去された材料を意味する。たとえば、本明細書に記載の「単離された細胞」は、天然状態での周囲環境または生物から精製された細胞、対象または培養物から回収された細胞、たとえば、インビボまたはインビトロの物質とは有意に関連していない細胞を包含する。
【0077】
本開示の実施にあたって、別段の記載がない限り、当技術分野で従来公知の分子生物学的方法および組換えDNA技術が使用され、これらの方法の大半は、説明を目的として後述されている。このような技術は文献に詳述されている。たとえば、Sambrook, et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual (3rd Edition, 2000);DNA Cloning: A Practical Approach, vol. 1 & II (D. Glover, ed.);Oligonucleotide Synthesis (N. Gait, ed., 1984);Oligonucleotide Synthesis: Methods and Applications (P. Herdewijn, ed., 2004);Nucleic Acid Hybridization (B. Hames & S. Higgins, eds., 1985);Nucleic Acid Hybridization: Modern Applications (Buzdin and Lukyanov, eds., 2009);Transcription and Translation (B. Hames & S. Higgins, eds., 1984);Animal Cell Culture (R. Freshney, ed., 1986);Freshney, R.I. (2005) Culture of Animal Cells, a Manual of Basic Technique, 5th Ed. Hoboken NJ, John Wiley & Sons;B. Perbal, A Practical Guide to Molecular Cloning (3rd Edition 2010);Farrell, R., RNA Methodologies: A Laboratory Guide for Isolation and Characterization (3rd Edition 2005)を参照されたい。
【0078】
組成物
本明細書で開示する実施形態は、小型運動性幹(small mobile stem(SMS))細胞の培養物から単離された細胞外マトリックス(ECM)またはECMタンパク質を含む組成物であって、該ECMまたはECMタンパク質が、架橋剤への暴露または架橋技術(たとえば、光線照射、化学物質、力学的手段、温度など)により誘導された1個以上の架橋を含んでいてもよいことを特徴とする組成物;および、たとえば対象における創傷(慢性創傷など)の治癒促進用医薬品などの医薬品としての、前記ECMまたはECMタンパク質の使用に関する。
【0079】
本明細書において、「小型運動性幹(small mobile stem(SMS))細胞」は、直径が約5μmの接着細胞であることを特徴とする細胞または細胞集団を指す。SMS細胞は、均一な大きさで、完全な放射対称であり、光学顕微鏡で観察すると、コントラストが異なる球状体を中心に含む球状の核と半透明の細胞質が見られる。また、SMS細胞は、低温や高温、標準的な増殖培地中での凍結融解、脱水、高pH値、イオン強度の変動などの様々な非生理学的条件に対して極めて高い耐性を示す。さらに、SMS細胞は、最大で約1.5μm/秒という高い運動性を特徴とする。
【0080】
本明細書において、「細胞外マトリックス(ECM)」は、細胞によって分泌されるECMタンパク質および多糖類の複雑なネットワークからなる細胞外成分である。SMS細胞に由来するECMおよびECMタンパク質とは、SMS細胞の培養物により産生されたECMおよびECMタンパク質、SMS細胞の培養物に由来するECMおよびECMタンパク質、SMS細胞の培養物から単離されたECMおよびECMタンパク質、またはその他の方法でSMS細胞の培養物から得られたECMおよびECMタンパク質を指す。いくつかの実施形態において、SMS細胞の培養物から単離された前記ECMまたはECMタンパク質は、アグリン、フィラグリン、ムチン、分泌リンタンパク質24(骨基質)、ニドゲン、カドヘリン、クラスリン、コラーゲン、ディフェンシン、エラスチン、エンタクチン、フィブリリン、フィブロネクチン、ビトロネクチン、ケラチン、ラミニン、微小管アクチン架橋因子1、SPARC様タンパク質、ネスプリン(ネスプリン1、ネスプリン2、ネスプリン3)、fibrous sheath-interacting protein、ミオメシン、ネブリン、ケラチノサイトプロリンリッチタンパク質、プラコフィリン、インテグリン、タリン、エクスポーチン、トランスポーチン、テネイシン、パールカン、ソルチリン関連受容体、テンシン、タイチン、全タンパク質、またはこれらの1種以上のタンパク質の断片を含む。
【0081】
いくつかの実施形態において、SMS細胞の培養物から単離された前記ECMまたはECMタンパク質は、架橋剤への暴露または架橋技術(たとえば、光線照射、化学物質、力学的手段、温度など)により誘導された少なくとも1個の架橋を含む。本明細書において、「架橋されたECMまたはECMタンパク質」とは、個々のポリマー鎖が別のポリマー鎖に結合または架橋されるように修飾されたECMまたはECMタンパク質である。架橋は、たとえば、光線照射、化学的架橋または物理的架橋を利用した方法により形成または誘導してもよい。たとえば、光線照射による架橋は、γ線照射、紫外線光または電子ビーム照射(eビーム照射)により誘導してもよい。化学的架橋は、たとえば、酸、塩基、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン、ビニルエステル樹脂、架橋ポリスチレン、架橋ゴム、アクリルアミド系ポリマー、その他の化学的架橋剤などの架橋剤により誘導してもよい。物理的架橋は、振盪やせん断力などの物理的な架橋環境により誘導してもよい。いくつかの実施形態において、本発明の組成物は、架橋されたECMまたはECMタンパク質を含み、この架橋されたECMまたはECMタンパク質は、少なくとも1個、少なくとも2個、少なくとも3個、少なくとも4個、少なくとも5個、少なくとも10個、少なくとも20個、少なくとも30個またはこれ以上の個数の架橋を含む。
【0082】
いくつかの実施形態において、架橋されたECMまたはECMタンパク質は、変性されたものであるか、修飾されたものである。たとえば、架橋されたECMまたはECMタンパク質は、アセチル化、アシル化、カルボキシル化、グリコシル化、ヒドロキシル化、脂質化、メチル化、ペグ化、リン酸化、プレニル化、硫酸化もしくはユビキチン化、またはこれらの組み合わせにより修飾されたものであってもよい。
【0083】
いくつかの実施形態において、本発明の組成物は、コラーゲン、ポリグラクチンメッシュ、ポリ乳酸グリコール酸、ポリカプロラクトン、ポリピロール、ヒアルロナン、キトサンまたは異種組織をさらに含む。
【0084】
いくつかの実施形態において、本発明の組成物は、SMS細胞の培養物から単離され架橋されたECMまたはECMタンパク質と、少なくとも1種の追加の化合物とを含む。いくつかの実施形態において、前記少なくとも1種の追加の化合物は、抗微生物剤、細胞、抗生物質、抗炎症化合物、鎮痛剤、成長因子、担体、希釈剤、賦形剤、芳香剤、皮膚軟化剤、脂肪酸またはこれらの組み合わせである。いくつかの実施形態において、少なくとも1種の追加の化合物は、前記架橋されたECMまたはECMタンパク質中には本来存在しないものである。
【0085】
いくつかの実施形態において、前記少なくとも1種の追加の化合物は抗微生物剤である。本明細書において、「抗微生物剤」は、抗微生物活性を示す薬剤、微生物の成長もしくは増殖を遅延もしくは停止させる化合物、微生物の成長速度および/もしくは増殖速度を遅延もしくは停止させる化合物、微生物の動きを止める化合物、微生物を失活させる化合物、または微生物を殺傷する化合物である。抗微生物剤は、抗生物質、抗細菌剤(殺菌剤もしくは静菌剤)、抗ウイルス剤(殺ウイルス剤)、抗真菌剤(殺真菌剤もしくは静真菌剤)、酵母阻害剤、糸状菌阻害剤、駆虫剤(駆虫薬もしくは殺寄生虫剤)、または抗寄生虫剤といった用語も包含することがある。いくつかの実施形態において、抗微生物剤は、たとえば、RNase Aスーパーファミリーのメンバー、ディフェンシン、カテリシジン、グラニュライシン、ヒスタチン、psoriasin、dermicidin、コレクチン、ヘプシジンなどの抗菌性ペプチドである。いくつかの実施形態において、抗微生物剤は、C型レクチンファミリー4、セプチン12または膵リボヌクレアーゼである。
【0086】
本明細書において、「微生物」は、細菌、ウイルス、酵母、真菌、糸状菌または原虫を含む。いくつかの実施形態において、微生物はスーパーバグを含み、スーパーバグとは、殺菌剤に対する耐性または抵抗性を発達させた微生物であり、したがって、抗微生物治療による影響を受けない。いくつかの実施形態において、スーパーバグとして、たとえば、黄色ブドウ球菌(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)およびバンコマイシン耐性黄色ブドウ球菌(VRSA)を含む)、基質特異性拡張型β-ラクタマーゼ(ESBL)産生菌、緑膿菌、クロストリジウム・ディフィシル、サルモネラ菌、ヒト結核菌、大腸菌(カルバペネム系抗生物質耐性大腸菌を含む)、多剤耐性アシネトバクター・バウマニ(MRAB)、バイコマイシン耐性腸球菌(VRE)、カルバペネム系抗生物質耐性肺炎桿菌、HIV、肝炎およびインフルエンザが挙げられる。
【0087】
いくつかの実施形態において、前記少なくとも1種の追加の化合物は細胞である。いくつかの実施形態において、前記細胞は、線維芽細胞、内皮細胞、ケラチノサイト、メラノサイトもしくは幹細胞、またはこれらの組み合わせである。
【0088】
いくつかの実施形態において、前記少なくとも1種の追加の化合物は抗生物質である。本明細書において、「抗生物質」は、細菌の殺傷、細菌の増殖の抑制、または細菌の生存能力の低下により、細菌性感染症の治療または予防に使用される物質を指す。したがって、「抗生物質」として、アミノグリコシド系抗生物質(ゲンタマイシン、ストレプトマイシン、カナマイシン)、β-ラクタム系抗生物質(ペニシリン系、セファロスポリン系、モノバクタム系およびカルバペネム系)、バンコマイシン系抗生物質、バシトラシン系抗生物質、マクロライド系抗生物質(エリスロマイシン系)、リンコサミド系抗生物質(クリンダマイシン系)、クロラムフェニコール系抗生物質、テトラサイクリン系抗生物質、アムホテリシン系抗生物質、セファゾリン系抗生物質、クリンダマイシン系抗生物質、ムピロシン系抗生物質、スルホンアミド系抗生物質、トリメトプリム、リファンピシン、メトロニダゾール系抗生物質、キノロン系抗生物質、ノボビオシン系抗生物質、ポリミキシン系抗生物質およびグラミシジン系抗生物質、ならびにこれらの塩またはバリアントが挙げられるが、これらに限定されない。本明細書に記載の組成物および方法において使用される抗生物質は、細菌性感染症の種類に応じて選択される。
【0089】
いくつかの実施形態において、前記少なくとも1種の追加の化合物は抗炎症性化合物である。本明細書において、「抗炎症性化合物」は、炎症の治療用化合物を指す。抗炎症性化合物として、たとえば、非ステロイド系抗炎症薬(NSAID;たとえば、アスピリン、イブプロフェン、ナプロキセン、サリチル酸メチル、ジフルニサル、インドメタシン、スリンダク、ジクロフェナク、ケトプロフェン、ケトロラック、カルプロフェン、フェノプロフェン、メフェナム酸、ピロキシカム、メロキシカム、メトトレキサート、セレコキシブ、バルデコキシブ、パレコキシブ、エトリコキシブおよびニメスリド)、副腎皮質ホルモン(プレドニゾン、ベタメタゾン、ブデソニド、コルチゾン、デキサメタゾン、ヒドロコルチゾン、メチルプレドニゾロン、プレドニゾロン、トリアムシノロンおよびフルチカゾン)、ラパマイシン、高密度リポタンパク質(HDL)およびHDLコレステロールを上昇させる化合物(ロシグリタゾン)、Rhoキナーゼ阻害剤、抗マラリア剤(ヒドロキシクロロキンおよびクロロキン)、アセトアミノフェン、グルココルチコイド、ステロイド、β-アゴニスト、抗コリン作用剤、メチルキサンチン、金注射剤(金チオリンゴ酸ナトリウム)、スルファサラジン、ペニシラミン、抗血管新生剤、ダプソン、ソラレン、抗ウイルス剤ならびにスタチンが挙げられる。
【0090】
いくつかの実施形態において、前記少なくとも1種の追加の化合物は鎮痛剤である。本明細書において、「鎮痛剤」は、対象の体のある領域における疼痛を減少、軽減、低下、緩和または消滅させる薬剤である(鎮痛剤は、意識の消失を伴うことなく、疼痛または疼痛の認識を低下または排除する能力を有する)。鎮痛剤として、たとえば、オピオイド鎮痛剤(コデイン、ジヒドロコデイン、ジアセチルモルヒネ、ヒドロコドン、ヒドロモルフォン、レボルファノール、オキシモルフォン、アルフェンタニル、ブプレノルフィン、ブトルファノール、フェンタニル、スフェンタニル、メペリジン、メタドン、ナルブフィン、プロポキシフェンおよびペンタゾシン);非オピオイド鎮痛剤(サリチル酸系(アスピリン、サリチル酸メチルおよびジフルニサル)などのNSAID);アリールアルカン酸(インドメタシン、スリンダク、ジクロフェナクおよびトルメチン);N-アリールアントラニル酸(フェナム酸、メフェナム酸およびメクロフェナム酸塩);オキシカム系鎮痛剤(ピロキシカムおよびメロキシカム);コキシブ系鎮痛剤(セレコキシブ、ロフェコキシブ、バルデコキシブ、パレコキシブおよびエトリコキシブ);スルホンアニリド系鎮痛剤(ニメスリド);ナフチルアルカノン系鎮痛剤(ナブメトン);アントラニル酸(ピラゾリジンジオンおよびフェニルブタゾン);プロピオン酸(フェノプロフェン、フルルビプロフェン、イブプロフェン、ケトプロフェン、ナプロキセンおよびオキサプロジン);ピラノカルボン酸(エトドラク);ピロリジンカルボン酸(ケトロラック);ならびにカルボン酸が挙げられる。
【0091】
いくつかの実施形態において、前記少なくとも1種の追加の化合物は成長因子である。本明細書において、「成長因子」は、細胞の成長または増殖を刺激する細胞外シグナル伝達ポリペプチド分子を指す。成長因子には、広範な種類の細胞が応答性を示す成長因子が含まれる。神経栄養・成長因子の例として、塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)や酸性線維芽細胞成長因子(aFGF)などの線維芽細胞成長因子ファミリーのメンバー、hst/Kfgf遺伝子産物、FGF-3、FGF-4、FGF-6、ケラチノサイト成長因子(KGF)、アンドロゲン誘導性成長因子(AIGF)、毛様体神経栄養因子(CNTF)、神経成長因子(NGF)、脳由来神経栄養因子(BDNF)、ニューロトロフィン3(NT3)、ニューロトロフィン4(NT4)、骨形成タンパク質(BMP)、グリア細胞株由来神経栄養因子(GDNF)、破骨細胞刺激因子、活性依存性神経栄養因子(ADNF)、サイトカイン白血病抑制因子(LIF)、オンコスタチンM、カルモジュリン様タンパク質、サイモシン、インスリン様成長因子結合タンパク質、上皮成長因子(EGF)、血小板由来成長因子(PDGF)、トランスフォーミング成長因子(TGF-α、TGF-β1、TGF-β2およびTGF-β3)、血管内皮細胞成長因子(VEGF)、肝細胞成長因子(HGF)、エリスロポエチン(EPO)、インスリン様成長因子(IGF-IおよびIGF-II)、インターロイキンサイトカイン(IL-1α、IL-1β、IL-2、IL-3、IL-4、IL-5、IL-6、IL-7、IL-8、IL-9、IL-10、IL-11、IL-12、IL-13)、インターフェロン(IFN-α、IFN-βおよびIFN-γ)、腫瘍壊死因子(TNF-αおよびTNF-β)、およびコロニー刺激因子(GM-CSFおよびM-CSF)、ならびにこれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。
【0092】
いくつかの実施形態において、前記少なくとも1種の追加の化合物は担体である。本明細書において、「担体」は、細胞または組織への化合物の取り込みを促進する化合物を指す。典型的な担体として、水、生理食塩水、緩衝生理食塩水、デキストロース、グリセロール、エタノール、飽和または不飽和の植物脂肪酸の部分グリセリド混合物、ロウ、ポリエチレンポリオキシプロピレンブロック重合体、トウモロコシデンプンやバレイショデンプンなどのデンプン、およびこれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。
【0093】
いくつかの実施形態において、前記少なくとも1種の追加の化合物は希釈剤である。本明細書において、「希釈剤」は、薬理活性を持たないが、薬学的に必要となったり所望されたりすることがある、医薬組成物中の成分を指す。たとえば、希釈剤は、効力のある薬剤の量が少なすぎるために製造および/または投与ができない場合に、このような薬剤の体積を増加させるために使用してもよい。さらに、希釈剤は、注射、経口摂取または吸入により薬剤を投与する際に使用される溶解用の液体であってもよい。当技術分野における希釈剤の一般的な形態は、緩衝水溶液であり、たとえば、ヒトの血液の組成を模倣したリン酸緩衝生理食塩水などが挙げられるが、これに限定されない。
【0094】
いくつかの実施形態において、前記少なくとも1種の追加の化合物は賦形剤である。本明細書において、「賦形剤」は、体積、粘稠性、安定性、結合力、滑沢性、崩壊力など(ただしこれらに限定されない)を医薬組成物に付与することを目的として医薬組成物に添加される不活性物質を指す。「希釈剤」は賦形剤の一種である。
【0095】
いくつかの実施形態において、前記少なくとも1種の追加の化合物は芳香剤である。本明細書において、「芳香剤」は、あらゆる種類の香料、消臭剤、臭気マスキング剤など、およびこれらの組み合わせを指す。いくつかの実施形態において、芳香剤は、消費者または使用者の嗅覚に対して効果を有しうる物質であれば、どのようなものであってもよい。
【0096】
いくつかの実施形態において、前記少なくとも1種の追加の化合物は皮膚軟化剤である。本明細書において、「皮膚軟化剤」は、皮膚の乾燥の予防もしくは緩和または皮膚の保護に有用な材料を指す。適切な皮膚軟化剤として幅広い種類のものが知られており、これらを本発明において使用してもよい。たとえば、Sagarin, Cosmetics, Science and Technology, 2nd Edition, Vol. 1, pp. 3243 (1972)を参照されたく、この文献には、皮膚軟化剤として適切な材料の例示が多数記載されており、この文献は引用によりその全体が本明細書に援用される。
【0097】
いくつかの実施形態において、前記少なくとも1種の追加の化合物は、脂肪、脂肪酸、脂肪酸誘導体などの脂質である。脂質として、天然油、ロウまたはステロイドを挙げることができ、製剤の投与経路または製剤の種類に応じてこれらを使用してもよい。
【0098】
前記少なくとも1種の追加の化合物の有無、量、数量および割合は、本発明の組成物が、外用投与用製剤、経口投与用製剤、静脈内投与用製剤、その他の種類の製剤のいずれであるかという、本発明の組成物の処方に応じて決定してもよい。また、前記少なくとも1種の追加の化合物の有無、量、数量および割合は、創傷の種類、創傷の重症度、疼痛、感染症もしくは炎症の重症度、または意図する治療に応じて決定してもよい。したがって、前記少なくとも1種の追加の化合物の量は、たとえば、0.001%~90%の範囲の量であってもよく、たとえば、0.001%、0.005%、0.01%、0.05%、0.1%、0.5%、1%、2%、3%、4%、5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、50%、60%、70%、80%もしくは90%、またはこれらの数値のいずれか2つによって定義される範囲内の量であってもよい。
【0099】
いくつかの実施形態において、本明細書で提供される組成物は、たとえば外用投与や局所投与などの、様々な投与方法による投与用に製剤化される。さらに、いくつかの実施形態において、本開示の方法は、皮下投与、腹腔内投与、静脈内投与、動脈内投与、経口投与、腸内投与、真皮下投与、経皮投与、舌下投与、経頬投与、直腸投与、経膣投与などの、全身投与または非経口投与を想定したものである。いくつかの実施形態において、本発明の組成物は、対象に移植するための移植片として製剤化される。
【0100】
いくつかの実施形態において、前記組成物は、投与方法に応じて、移植片、散剤、エアロゾル剤、クリーム剤、乳剤、フォーム剤、起泡性液剤、ゲル剤、ローション剤、軟膏剤、ペースト剤、塗布剤、血清製剤、液剤またはスプレー剤として製剤化される。いくつかの実施形態において、本発明の組成物は、治療用組成物または化粧料組成物として製剤化される。
【0101】
本明細書で提供される実施形態のいくつかは、創傷治癒用システムに関する。いくつかの実施形態において、創傷治癒用システムは、創傷治癒用システムとして製剤化された、本明細書に記載の組成物と創傷被覆材を含む。いくつかの実施形態において、前記創傷被覆材は、包帯、ワイプ、ガーゼ、スポンジ、メッシュ、パッド、絆創膏、ナイロンまたは吸収性創傷被覆材である。いくつかの実施形態において、前記創傷治癒用システムにおいて、創傷被覆材の重量あたりの本発明の組成物の含有量(vol/w%)は、0.005vol/w%~90vol/w%であり、たとえば、0.005vol/w%、0.006vol/w%、0.007vol/w%、0.008vol/w%、0.009vol/w%、0.01vol/w%、0.02vol/w%、0.03vol/w%、0.04vol/w%、0.05vol/w%、0.06vol/w%、0.07vol/w%、0.08vol/w%、0.09vol/w%、0.1vol/w%、0.2vol/w%、0.3vol/w%、0.4vol/w%、0.5vol/w%、0.6vol/w%、0.7vol/w%、0.8vol/w%、0.9vol/w%、1vol/w%、1.1vol/w%、1.2vol/w%、1.3vol/w%、1.4vol/w%、1.5vol/w%、1.6vol/w%、1.7vol/w%、1.8vol/w%、1.9vol/w%、2vol/w%、3vol/w%、4vol/w%、5vol/w%、6vol/w%、7vol/w%、8vol/w%、9vol/w%、10vol/w%、15vol/w%、20vol/w%、35vol/w%、40vol/w%、45vol/w%、50vol/w%、60vol/w%、70vol/w%、80vol/w%、90%vol/w%もしくはそれ以上、またはこれらの量のいずれか2つによって定義される範囲内の量である。
【0102】
いくつかの実施形態において、本発明の組成物は、包帯、ワイプ、ガーゼ、スポンジ、メッシュ、パッド、絆創膏、ナイロン、吸収性創傷被覆材、その他の創傷被覆材などの、創傷被覆材に組み込めるように構成してもよい。本発明の組成物は、創傷被覆材に充填、含浸、被覆もしくはコーティングしてもよく、その他の方法で創傷被覆材に組み込んでもよい。
【0103】
いくつかの実施形態において、SMS細胞の培養物から単離され架橋されたECMまたはECMタンパク質を含む組成物は、創傷被覆材の重量あたり0.005vol/w%~90vol/w%の量で、創傷被覆材に添加、組み込み、コーティング、塗布、充填、含浸もしくは被覆されるか、それ以外の方法で創傷被覆材に組み込まれるか、創傷被覆材に接触させ、前記組成物の量は、たとえば、創傷被覆材の重量あたり、0.005vol/w%、0.006vol/w%、0.007vol/w%、0.008vol/w%、0.009vol/w%、0.01vol/w%、0.02vol/w%、0.03vol/w%、0.04vol/w%、0.05vol/w%、0.06vol/w%、0.07vol/w%、0.08vol/w%、0.09vol/w%、0.1vol/w%、0.2vol/w%、0.3vol/w%、0.4vol/w%、0.5vol/w%、0.6vol/w%、0.7vol/w%、0.8vol/w%、0.9vol/w%、1vol/w%、1.1vol/w%、1.2vol/w%、1.3vol/w%、1.4vol/w%、1.5vol/w%、1.6vol/w%、1.7vol/w%、1.8vol/w%、1.9vol/w%、2vol/w%、3vol/w%、4vol/w%、5vol/w%、6vol/w%、7vol/w%、8vol/w%、9vol/w%、10vol/w%、15vol/w%、20vol/w%、35vol/w%、40vol/w%、45vol/w%、50vol/w%、60vol/w%、70vol/w%、80vol/w%、90%vol/w%もしくはそれ以上、またはこれらの数値のいずれか2つによって定義される範囲内の量である。いくつかの実施形態において、創傷被覆材1mgあたり0.05μg~1mgの本発明の組成物を創傷被覆材に接触させ、前記組成物の量は、たとえば、0.05μg/mg、0.06μg/mg、0.07μg/mg、0.08μg/mg、0.09μg/mg、0.1μg/mg、0.2μg/mg、0.3μg/mg、0.4μg/mg、0.5μg/mg、0.6μg/mg、0.7μg/mg、0.8μg/mg、0.9μg/mg、1μg/mg、2μg/mg、3μg/mg、4μg/mg、5μg/mg、6μg/mg、7μg/mg、8μg/mg、9μg/mg、10μg/mg、11μg/mg、12μg/mg、13μg/mg、14μg/mg、15μg/mg、16μg/mg、17μg/mg、18μg/mg、19μg/mg、20μg/mg、30μg/mg、40μg/mg、50μg/mg、60μg/mg、70μg/mg、80μg/mg、90μg/mg、100μg/mg、150μg/mg、200μg/mg、250μg/mg、300μg/mg、350μg/mg、400μg/mg、450μg/mg、500μg/mg、600μg/mg、700μg/mg、800μg/mg、900μg/mgもしくは1000μg/mg、またはこれらの数値のいずれか2つによって定義される範囲内の量である。したがって、いくつかの実施形態において、SMS細胞の培養物から単離されたECMまたはECMタンパク質を含む組成物であって、該ECMまたはECMタンパク質が、架橋剤への暴露または架橋技術(たとえば、光線照射、化学物質、力学的手段、温度など)により誘導された少なくとも1個の架橋を含むことが好ましい組成物は、創傷被覆材の内部またはその表面に組み込まれ、たとえば、創傷被覆材に充填、含浸、被覆もしくはコーティングされるか、その他の方法で創傷被覆材に組み込まれる。前記コーティングは、たとえば、SMS細胞の培養物から単離されたECMまたはECMタンパク質を含む組成物であって、該ECMまたはECMタンパク質が、架橋剤への暴露または架橋技術(たとえば、光線照射、化学物質、力学的手段、温度など)により誘導された少なくとも1個の架橋を含むことが好ましい組成物を使用して、材料を浸漬コーティングまたは表面改質することを含んでいてもよい。
【0104】
いくつかの実施形態において、創傷被覆材に組み込まれる前記組成物は、複数の種類のECMタンパク質および複数の種類の多糖類を含み、該複数の種類のECMタンパク質および該複数の種類の多糖類として、たとえば、アグリン、フィラグリン、分泌リンタンパク質24(骨基質)、ビトロネクチン、ムチン、ニドゲン、カドヘリン、クラスリン、コラーゲン、ディフェンシン、エラスチン、エンタクチン、フィブリリン、フィブロネクチン、ケラチン、ラミニン、微小管アクチン架橋因子1、SPARC様タンパク質、ネスプリン(ネスプリン1、ネスプリン2、ネスプリン3)、fibrous sheath-interacting protein、ミオメシン、ネブリン、プラコフィリン、インテグリン、タリン、エクスポーチン、トランスポーチン、ケラチノサイトプロリンリッチタンパク質、テネイシン、パールカン、ソルチリン関連受容体、テンシン、タイチン、全タンパク質、ヒアルロン酸、セルロース、ならびにこれらの1種以上のタンパク質および多糖類の断片、類似体および誘導体が挙げられる。
【0105】
組成物およびシステムの製造方法
本明細書で提供される実施形態のいくつかは、本明細書で提供される組成物の製造方法に関する。いくつかの実施形態において、前記方法は、培養容器に接着した状態または培養培地中に存在する状態(たとえば、浮遊状態もしくは培養容器に接着していない状態)で細胞外マトリックス(ECM)またはECMタンパク質を形成させるのに十分な時間にわたって、小型運動性幹(small mobile stem(SMS))細胞集団を培養する工程を含む。いくつかの実施形態において、前記方法は、前記培養容器または前記培地から前記ECMまたはECMタンパク質を回収して、単離されたECMまたはECMタンパク質を得る工程をさらに含む。いくつかの実施形態において、前記方法は、前記単離したECMまたはECMタンパク質を洗浄する工程をさらに含む。いくつかの実施形態において、前記方法は、前記ECMまたはECMタンパク質を乾燥して、たとえば粉末にする工程をさらに含む。いくつかの実施形態において、前記方法は、γ線照射、紫外線光照射、X線照射または電子ビーム照射(eビーム照射)であることが好ましい光線照射への暴露などにより、前記ECMまたはECMタンパク質に少なくとも1個の架橋を導入する工程をさらに含む。いくつかの実施形態において、前記方法は、酸、塩基、せん断力などの、化学物質または物理的な架橋環境への暴露により、前記ECMまたはECMタンパク質に少なくとも1個の架橋を導入する工程をさらに含む。いくつかの実施形態において、前記方法は、前記ECMまたはECMタンパク質を凍結する工程をさらに含む。いくつかの実施形態において、前記方法は、前記ECMまたはECMタンパク質を支持体に結合させる工程をさらに含む。いくつかの実施形態において、前記支持体は、セルロース、糖または糖アルコールを含む。
【0106】
本明細書において、「細胞培養」または「培養された細胞」は、インビトロの人工環境において維持、培養または増殖された細胞または組織を指す。これらの用語には、連続継代性細胞株(たとえば不死化表現型細胞株)、初代細胞培養物、有限寿命細胞株(たとえば非形質転換細胞)、およびインビトロで維持されるその他の細胞集団が含まれる。これに関連して、初代細胞は、培養を経ずに、ヒトなどの動物の組織または臓器から直接得られた細胞である。初代細胞は、例外はあるものの、通常、インビトロにおいて、老化または増殖停止するまで最大10代にわたって継代することができる。
【0107】
「維持」は、細胞または細胞集団の生存の持続を意味し、時として細胞数の増加を伴うことがある。「増殖」(proliferation、propagation、expansionおよびgrowth;これらの用語は同じ意味で使用してもよい)は、細胞数の増加を指す。一実施形態によれば、「増殖」は、少なくとも6週間、7週間、8週間、9週間、10週間、11週間、12週間、13週間、14週間、15週間、16週間、17週間、18週間、19週間、20週間、21週間、22週間、23週間、24週間、25週間、26週間、32週間、48週間、52週間、104週間もしくはそれ以上の期間、またはこれらの期間のいずれか2つよって定義される範囲内の期間にわたって、細胞の生存が持続することを指す。別の一実施形態では、少なくとも25代、26代、27代、28代、29代、30代もしくはそれ以上の継代数、またはこれらの継代数のいずれか2つによって定義される範囲内の継代数にわたって、細胞の生存が維持される。
【0108】
本明細書において、「細胞懸濁液」は、細胞の大部分が培地(通常、培養培地(培養系))中に自由に浮遊している状態の細胞培養を指し、この細胞は、単一の細胞、細胞集塊および/または細胞凝集塊として浮遊している。換言すれば、この細胞は、固体の基材または半固体の基材に接着することなく、培地中で生存を維持し増殖する。また、本明細書において、「接着細胞」は、基材または表面に接着している細胞または細胞集団を指す。
【0109】
本明細書において、「培養系」は、SMS細胞またはこれに由来する体細胞の維持および増殖を支持する培養条件、ならびに未分化のSMS細胞または分化したSMS細胞の分化誘導および増殖を支持する選択された条件を指す。また、培養系は、基礎培地(通常、既知成分からなる基礎溶液(塩類、糖類およびアミノ酸を含む)を含む細胞培養培地)と血清代替添加物を含んでいてもよい構成成分の組み合わせを指す。培養系は、細胞外マトリックス(ECM)成分、追加の血清または血清代替物、培養(栄養)培地、およびその他の外部添加因子などのその他の構成成分をさらに含んでいてもよいが、これらの構成成分には限定されず、これらの構成成分が協働することにより、SMS細胞の増殖、細胞培養の維持、細胞の分化または様々な分子の発現を支持する適切な条件が提供される。これに関連して、「培養系」は、培養系で培養された細胞を包含する。
【0110】
SMS細胞は、増殖培地を入れたT25フラスコ内で(たとえば、37℃、5%CO2の条件のインキュベーター内で)培養してもよい。このSMS細胞集団は、未分化のSMS細胞とSMS細胞由来の分化細胞からなる不均一な細胞集団を含みうる。未分化のSMS細胞は浮遊画分および接着画分として存在し、浮遊画分の大部分は未分化のSMS細胞が占める(たとえば、未分化のSMS細胞が占める割合は、50%以上、55%以上、60%以上、65%以上、70%以上、75%以上、80%以上、85%以上、90%以上もしくは95%以上、またはこれらの数値のいずれか2つによって定義される範囲内の量である)。したがって、いくつかの実施形態は、未分化の非接着性SMS細胞の懸濁液に関し、この未分化の非接着性SMS細胞は、細胞の接着が阻害されるような方法で(たとえば、ポリプロピレン製の容器またはフラスコを使用して)液体培地中で培養することが好ましい。いくつかの態様において、未分化の浮遊性SMS細胞集団において、未分化のSMS細胞が占める割合は、50%以上、55%以上、60%以上、65%以上、70%以上、75%以上、80%以上、85%以上、90%以上もしくは95%以上、またはこれらの数値のいずれか2つによって定義される範囲内の量である。
【0111】
未分化のSMS細胞は分画遠心法によって単離または精製することができる。まず、低速で遠心分離して細胞塊または分化細胞を除去し、次いで高速で遠心分離して未分化のSMS細胞を回収する。別の方法として、濾過によって未分化のSMS細胞を単離してもよく、たとえば、フィルターの孔径を3~5μmまで徐々に小さくしていく分別濾過によって単離してもよい。別の方法として、未分化のSMS細胞は、免疫結合(たとえば、SMS細胞上の幹細胞受容体に特異的な結合パートナー(抗体など)をビーズ(磁気ビーズなど)に結合させたり、FACSセルソーティングにより検出すること)により単離してもよく、フィルターの孔径を3~5μmまで徐々に小さくしていく分別濾過により単離してもよい。未分化のSMS細胞を単離した後、顕微鏡下で均一性を確認する。これらの単離プロトコルのうちの1つ以上を実施する前に、未分化のSMS細胞を少なくとも25代(たとえば、25代、26代、27代、28代、29代、30代、31代、32代、33代、34代、35代、36代、37代、38代、39代もしくは40代、またはこれらの継代数のいずれか2つによって定義される範囲内の継代数)まで継代培養することによって、均一性が改善されたSMS細胞集団を得ることができる。
【0112】
SMS細胞は、分化誘導化合物(たとえばインスリン)の存在下または非存在下において、様々な種類の血清含有培地または無血清培地を使用して増殖させることができる。週に1回、4200×gで15分間遠心分離してSMS細胞を沈殿させ、細胞増殖培地を交換する。遠心分離の速度は、3000×g、3500×g、4000×g、4100×g、4200×g、4300×g、4500×gもしくは5000×gであってもよく、またはこれらの速度のいずれか2つによって定義される範囲内の速度であってもよく、これに応じて遠心時間を調節してもよい。このような条件下では、培地の量(細胞の密集度)に応じてSMS細胞の増殖が制限される。SMS細胞の均一性は顕微鏡下で評価し、SMS細胞の数は、分光光度計による細胞懸濁液の濁度の評価、および/または高速遠心分離後のペレットの大きさの測定により推定する。SMS細胞を懸濁培養すると、増殖培地を入れた新たなチューブにSMS細胞を分取および/または移動させることが容易となり、SMS細胞の移動およびクローニングが容易となる。既存の培養物から新たな培養物へと培養細胞を分取および/または移動させるこの方法は、培養ディッシュまたは基底細胞層から細胞を剥離するための酵素(たとえばトリプシン)を使用せずに行われる。SMS細胞の大部分は、細胞塊を形成することなく個々の細胞として増殖し、SMS細胞の懸濁液は、細胞の移動操作が行われるにもかかわらず、未分化な状態のまま維持可能である。また、懸濁培養はスケールアップすることもでき、培地の量を増加することによって得られる細胞の数を増やすことができる。
【0113】
SMS細胞を培養してECMまたはECMタンパク質を産生させる。いくつかの実施形態において、ECMタンパク質をコードする遺伝子でSMS細胞を形質転換する。SMS細胞は、(ECMタンパク質をコードする遺伝子で形質転換されたSMS細胞であるか、天然のSMS細胞であるかにかかわらず)懸濁培養することができ、未分化な状態のまま維持することが好ましい。SMS細胞を数代にわたり継代することによって、懸濁液中において未分化のSMS細胞の均一な集団が得られる(たとえば、未分化のSMS細胞が占める割合は、50%以上、55%以上、60%以上、65%以上、70%以上、75%以上、80%以上、85%以上、90%以上もしくは95%以上、またはこれらの数値のいずれか2つによって定義される範囲内の量である)。ECMまたはECMタンパク質の産生を促す化学誘導物質(たとえば、ヘッジホッグ阻害剤および/またはTGF/BMP活性化因子)を培養に添加し、懸濁液中に産生されたECMまたはECMタンパク質を、(たとえば、濾過、遠心分離または免疫結合により)回収する。同様に、接着性SMS細胞を使用してECMまたはECMタンパク質を産生させることもできる。この実施形態では、(ECMタンパク質をコードする遺伝子で形質転換されたSMS細胞であるか、天然のSMS細胞であるかにかかわらず)T25フラスコまたはプレート(たとえば、ポリスチレン製;物理的誘導因子としての表面)にSMS細胞を播種し、接着細胞を数代にわたり継代培養することによって、懸濁液中において未分化のSMS細胞の均一な集団が得られる(たとえば、未分化のSMS細胞が占める割合は、50%以上、55%以上、60%以上、65%以上、70%以上、75%以上、80%以上、85%以上、90%以上もしくは95%以上、またはこれらの数値のいずれか2つによって定義される範囲内の量である)。所望の均一性が得られた後、たとえば、ヘッジホッグ阻害剤および/またはTGF/BMP活性化因子などの、ECMまたはECMタンパク質の産生を促す化学誘導物質を培地に添加する。その後、懸濁液中に産生されたECMを(たとえば、濾過、遠心分離または免疫結合によって)回収または単離する。約2週間後に、浮遊しているECMを高速遠心分離で回収することが好ましい。接着しているECMまたはECMタンパク質もほぼ同時期にフラスコまたはディッシュの底から掻き取って回収する。このようにして得られたECMまたはECMタンパク質は、いくつかのアプローチにより架橋を誘導することができ、たとえば、前述したように、架橋剤への暴露、または光線照射、化学物質、力学的手段、温度などの架橋技術により架橋を誘導することができる。
【0114】
いくつかの実施形態において、SMS細胞に由来するECMまたはECMタンパク質は、1種以上の抗微生物化合物を産生するものであるか、あるいはSMS細胞に由来するECMまたはECMタンパク質自体が、抗細菌特性、抗ウイルス特性、抗真菌特性などの抗微生物特性を有する。いくつかの実施形態において、前記抗微生物化合物または抗微生物特性を有する前記ECMもしくはECMタンパク質は、dermicidin、コレクチン、C型レクチンファミリー4、セプチン12、ディフェンシンまたは膵リボヌクレアーゼを含む。いくつかの実施形態において、SMS細胞は、抗微生物化合物を自己産生することから、抗生物質の非存在下で培養してもよい。
【0115】
いくつかの実施形態において、前記ECMまたはECMタンパク質は、(たとえば、化学的方法、物理的方法および/または酵素的方法により)脱細胞化される。脱細胞化方法は、ECM足場またはECMタンパク質足場の構造統合性および化学的統合性を維持したまま脱細胞化可能な方法であることが好ましい。さらに、SMS細胞由来のECMまたはECMタンパク質の様々な分子成分を濃縮または単離することができる。前述したSMS細胞により産生されたECMまたはECMタンパク質は、架橋の有無にかかわらず、凍結乾燥により粉末化し、そのまま保存してもよい。粉末形態またはその他の形態のSMS細胞由来ECMまたはECMタンパク質は、本明細書に記載の組成物およびシステムにおいて使用することが想定されている。
【0116】
いくつかの実施形態において、足場上で培養したSMS細胞からECMまたはECMタンパク質が産生または単離される。SMS細胞は、適切な増殖培地(たとえば、血清含有DMEMや無血清DMEM)中において、様々な足場(たとえば、脱細胞化された天然の骨;脱細胞化された軟らかいコラーゲン;活性炭、カーボンブラック、炭素膜、炭素繊維布帛、ナノチューブもしくはマイクロチューブ、または炭素から構成された医療器具もしくはインプラント(ステントやシャントなど)などの炭素系支持体)上で培養される。いくつかの実施形態において、このような支持体は増殖培地中で自由に浮遊するものである。また、分化誘導化合物を添加してもよい。顕微鏡観察では、分化したSMS細胞が劇的な形態変化を遂げることが示されるが、このSMS細胞の分化は足場の特性および/または添加する分化誘導化合物の種類に左右される。また、SMS細胞の接着、増殖および分化は、培地の種類による影響も受ける。SMS細胞およびこの細胞に由来する細胞は、細胞外マトリックスおよび足場に接着した状態の組織様構造を産生する。
【0117】
いくつかの実施形態において、SMS細胞に由来するECMまたはECMタンパク質は、少なくとも1種の追加の成分と組み合わせることにより組成物に製剤化される。たとえば、架橋されていてもよいSMS細胞由来ECMまたはECMタンパク質は、抗微生物剤、細胞、抗生物質、抗炎症性化合物、鎮痛剤、成長因子、担体、希釈剤、賦形剤、芳香剤、皮膚軟化剤、脂肪酸およびこれらの組み合わせのうちの1種以上と組み合わせることにより組成物に製剤化することができる。
【0118】
いくつかの実施形態において、SMS細胞に由来する前記ECMまたはECMタンパク質は、散剤、エアロゾル剤、クリーム剤、乳剤、フォーム剤、起泡性液剤、ゲル剤、ローション剤、軟膏剤、ペースト剤、塗布剤、血清製剤、液剤またはスプレー剤として製剤化される。いくつかの実施形態において、この組成物は、該組成物と創傷被覆材を含むシステムにおいて使用される。したがって、前記組成物は、包帯、ワイプ、ガーゼ、スポンジ、メッシュ、パッド、絆創膏、ナイロン、吸収性創傷被覆材、その他の創傷被覆材などの創傷被覆材に組み込めるように構成してもよい。前記組成物は、創傷被覆材に充填、含浸、被覆もしくはコーティングしてもよく、その他の方法で創傷被覆材に組み込んでもよい。
【0119】
組成物の使用方法
本明細書で提供される実施形態のいくつかは、創傷を治療または改善する方法であって、本明細書に記載の組成物または本明細書に記載のシステムに創傷を接触させることを含む方法に関する。
【0120】
本明細書において、「治療すること」、「治療」、「治療用」または「治療法」は、必ずしも創傷の完全な治癒または排除を意味するものではない。創傷の望ましくない徴候または症状を軽減するものであれば、どのようなものでも、どのような程度のものであっても、治療および/または治療法であると見なすことができる。「治療」は、創傷治癒の増強、向上、加速または改善を含んでいてもよい。
【0121】
治療は、創傷ケア用組成物の単独投与を含んでいてもよく、創傷ケア用組成物が組み込まれた創傷被覆材の投与を含んでいてもよい。創傷ケア用組成物を単独で使用する場合、この創傷ケア用組成物は、創傷を適切に治療するために、外用投与、経口投与または皮下投与してもよく、移植片として投与してもよく、その他の手段で投与してもよい。創傷ケア用組成物を創傷被覆材に組み込むことによりシステムとする場合、創傷被覆材を創傷に貼付して創傷を治療するか、または創傷被覆材を移植片として使用して創傷を治療する。
【0122】
「創傷」とは、生体成分の喪失を伴うことがある体組織の連続性の破壊を意味し、このような破壊は、一般に機械的損傷や物理的な細胞損傷により起こる。創傷には、皮膚損傷、熱傷、光線損傷、日光皮膚炎、擦過創、裂創、切創、びらん、刺創、貫通創、銃創および挫滅損傷が含まれうる。また、創傷には、切断創、裂創、引っ掻き傷、擦過創、穿孔創、刺創、貫通創、挫滅創、鈍的外傷、挫傷などの機械的創傷が含まれていてもよい。また、創傷には、極端な熱や冷気の作用により生じた、温度による創傷が含まれていてもよい。また、創傷には、特に酸やアルカリによる腐食のような、化学物質の作用により生じた化学的創傷が含まれていてもよい。さらに、創傷には、たとえば紫外線および/または電離放射線などの化学線の作用により生じた組織破壊または組織損傷が含まれていてもよく、これらは光線創傷と呼ばれる。また、創傷は、壊死創、感染創、慢性創傷または急性創傷であってもよい。したがって、創傷は、部分層創傷または全層創傷であってもよく、体表面の損傷または体内の損傷であってもよく、慢性創傷または急性創傷であってもよい。また、創傷は、皮膚損傷、熱傷、擦過創、裂創、切創、挫傷、病変、潰瘍またはびらんであってもよい。創傷は、糖尿病性潰瘍、静脈性潰瘍、慢性潰瘍または褥瘡を含んでいてもよい。創傷は、重篤な熱傷、腫瘍切除創または外傷を含んでいてもよい。さらに、創傷は、皮膚損傷を含んでいてもよく、たとえば、外傷、熱傷、外科手術またはその他の種類の損傷により生じた損傷を含みうる。
【0123】
本明細書において、「創傷治癒」は、創傷が損傷状態から治癒することを指す。創傷発生後の最初の数時間の第1期(潜伏期あるいは炎症期とも呼ばれる)において、体液(特に血液)が漏出し、創傷の開口部から異物、病原菌および死組織が除去される。次に、滲出した血液が凝固し、外部からの病原菌や異物の侵入から創傷を保護する痂皮が形成される。痂皮が形成された後、潜伏期の吸収段階が始まり、自己融解による異化作用が起こり、創傷組織へのマクロファージの遊走や、創傷の開口部に形成された凝血塊における食作用が見られる。創傷に侵入した異物や微生物はこの段階で分解され、軽度から中程度の炎症症状を伴うことがある。さらに、この吸収段階において、基底上皮および肉芽組織が形成され始める。通常、創傷発生から約1~3日後に潜伏期が終了し、増殖期あるいは肉芽形成期と呼ばれる第2期へと進む。この時期は、通常、損傷発生後の4日目~7日目に見られる。この第2期において、同化作用による修復が始まり、線維芽細胞によるコラーゲンの形成が起こる。創傷発生後の約8日目から修復期あるいは上皮形成期と呼ばれる最終段階が始まり、瘢痕組織が最終的に形成され、皮膚扁平上皮が新生される。形成された瘢痕組織は皮脂腺も汗腺も有しておらず、皮膚上で白色~乳白色を呈する。損傷を受けていない組織とは異なり、瘢痕組織中のコラーゲンは複雑に絡み合うことなく、平行に配列している。
【0124】
いくつかの実施形態において、前記創傷の治療または改善によって、全層もしくは部分層の修復の促進、創傷治癒の加速、創傷閉鎖の促進、創傷の回復、上皮形成の増加、上皮層の厚さの増加、肉芽形成の増加、顆粒層の厚さの増加、コラーゲン沈着の増加、毛細血管の形成の増加、血管新生の増強、免疫調節の増強、細胞遊走の増強、もしくは細胞増殖の増強、またはこれらの任意の組み合わせが起こる。
【0125】
「創傷治癒」という用語についてのさらに詳しい情報は、Pschyrembel-Clinical Dictionary, 257th edition, 1994, Verlag de Gruyter, Berlin/New Yorkに記載されており、この文献は引用によりその全体が本明細書に明示的に援用される。
【0126】
本明細書において、「対象」は、治療、観察または実験の対象となる動物を指す。「動物」には、魚類、甲殻類、爬虫類などの、冷血脊椎動物、温血脊椎動物および無脊椎動物が含まれ、特に哺乳動物が含まれる。「哺乳動物」には、マウス、ラット、ウサギ、モルモット、イヌ、ネコ、ヒツジ、ヤギ、ウシ、ウマ、霊長類(サル、チンパンジー、類人猿など)、特にヒトが含まれるが、これらに限定されない。本発明を必要とする対象には、部分層創傷、全層創傷、体表面の損傷、体内の損傷、慢性創傷、急性創傷、皮膚損傷、熱傷、擦過創、裂創、切創、挫傷、病変、潰瘍、糖尿病性潰瘍、静脈性潰瘍、慢性潰瘍、褥瘡、びらんなどの創傷を負った対象が含まれる。
【0127】
いくつかの実施形態において、本発明の組成物は、創傷の治療および/または改善に十分な量および期間で創傷領域に塗布される。創傷は、重症度、大きさ、治癒能力または慢性度の点で顕著に異なる場合があることから、本発明の組成物の量または治療期間も様々に異なることは十分に理解できるであろう。しかしながら、一例として、本発明の組成物またはシステムは、創傷領域1cm2あたり、0.01mg/cm2、0.05mg/cm2、0.1mg/cm2、0.5mg/cm2、1mg/cm2、1.5mg/cm2、2mg/cm2、2.5mg/cm2、5mg/cm2、10mg/cm2、25mg/cm2、50mg/cm2、100mg/cm2、500mg/cm2もしくは1000mg/cm2の量、またはこれらの数値のいずれか2つによって定義される範囲内の量で投与してもよい。また、一例として、本発明の組成物またはシステムは、少なくとも1日3回、1日1回、週1回、月1回もしくは年1回、またはこれらの数値のいずれか2つによって定義される範囲内の頻度で創傷に塗布してもよい。また、一例として、本発明の組成物またはシステムは、2回、3回、4回、5回、6回、7回、8回、9回、10回、15回、20回、30回、40回、50回もしくはそれ以上の回数連続して創傷に塗布してもよく、または前記数値のいずれか2つによって定義される範囲内の回数連続して創傷に塗布してもよい。さらに、一例として、本発明の組成物またはシステムは、1日、2日間、3日間、4日間、5日間、6日間、7日間、8日間、9日間、10日間、15日間、20日間、30日間もしくはそれ以上の日数、1ヶ月間、2ヶ月間、3ヶ月間、4ヶ月間、5ヶ月間、6ヶ月間、7ヶ月間、8ヶ月間、9ヶ月間、10ヶ月間、11ヶ月間、12ヶ月間もしくはそれ以上の月数、1年間、2年間、3年間、4年間、5年間、10年間もしくはそれ以上の年数、またはこれらの数値のいずれか2つによって定義される範囲内の期間にわたって創傷に塗布してもよい。
【0128】
本発明の様々な実施形態を説明するため、本明細書では概して肯定的な表現により本発明を開示している。本発明は、物質または材料、方法の工程および条件、プロトコルまたは手順などの、本発明の主題のすべてまたはその一部が除外された実施形態も包含する。
【実施例0129】
以下の実施例において、前述した実施形態の態様のいくつかをさらに詳細に開示するが、以下の実施例は本開示の範囲をなんら限定するものではない。本明細書および請求項で述べるように、その他の多くの実施形態も本発明の範囲内に含まれることを当業者であれば十分に理解できるであろう。
【0130】
実施例1
小型運動性幹(small mobile stem(SMS))細胞に由来する架橋された細胞外マトリックス(ECM)を用いた創傷治癒
以下の実施例において、SMS細胞に由来する架橋された細胞外マトリックス(ECM)の創傷治癒効果を示す。
【0131】
SMS細胞の培養
たとえばWO2017/172638などに記載の過去の報告に従って、SMS細胞を培養し、このSMS細胞からECMを単離した。簡潔に述べると、増殖培地を入れたT25フラスコ内でSMS細胞を培養する(37℃、5%CO2)。このSMS細胞集団は、未分化のSMS細胞とSMS細胞由来の分化細胞からなる不均一な細胞集団を含みうる。
【0132】
未分化のSMS細胞は分画遠心法によって単離することができる。まず、低速で遠心分離して細胞塊または分化細胞を除去し、次いで高速で遠心分離して未分化のSMS細胞を回収する。別の方法として、濾過によって未分化細胞を単離してもよく、たとえば、フィルターの孔径を3~5μmまで徐々に小さくしていく分別濾過により単離してもよい。単離した未分化のSMS細胞は、顕微鏡下で均一性を確認する。
【0133】
未分化のSMS細胞は、ポリプロピレン製チューブ(たとえばTechno Plastic Products AG(TPP)社によって提供されている15mlのバイオリアクターチューブ)中で培養する。
【0134】
増殖培地として、たとえば、糖濃度の高い基礎培地(ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、[+]6g/L D-グルコース、[-]ピルビン酸ナトリウム、[-]L-グルタミン、[-]フェノールレッド)に、1%GlutaMAXTM-I(100×)、10%仔ウシ血清および5μg/mLヒトインスリンを添加したものを使用する。別の方法では、仔ウシ血清を含まない培地を使用することもできる。旋回振盪により細胞を時折懸濁させる。
【0135】
週に1回、4200×gで15分間遠心分離してSMS細胞を沈殿させ、完全培地を交換する。遠心分離の速度は、3000×g、3500×g、4000×g、4100×g、4200×g、4300×g、4500×gもしくは5000×gであってもよく、またはこれらの速度のいずれか2つによって定義される範囲内の速度であってもよく、これに応じて遠心時間を調節する。
【0136】
このような条件下では、培地の量(細胞の密集度)に応じてSMS細胞の増殖が制限される。SMS細胞の均一性は顕微鏡下で評価し、SMS細胞の数は、分光光度計による細胞懸濁液の濁度の評価、および/または高速遠心分離後のペレットの大きさの測定により推定する。
【0137】
SMS細胞の増殖能は、増殖培地を入れた新しいチューブに該細胞を接種することによって評価する。SMS細胞の大部分は、細胞塊を形成することなく個々の細胞として増殖し、この条件下では大部分が未分化のまま増殖する。懸濁培養はスケールアップすることができ、培地の量を増加することによって、得られる細胞の数を増やすことができる。
【0138】
SMS細胞の培養物からの架橋されたECMの単離
SMS細胞を高速(たとえば4200×gで15分間)で遠心分離し、新たな増殖培地中に懸濁することにより、SMS細胞の培養培地を交換する。
【0139】
T25フラスコまたはプレート(ポリスチレン製;物理的誘導因子としての表面)にSMS細胞を播種し、増殖培地中で培養する(37℃、5%CO2)。増殖条件(37℃、5%CO2)において、たとえばヘッジホッグ阻害剤やTGF/BMP活性化因子などの、ECMおよびECMタンパク質の産生を促す化学誘導物質を培地に添加する。週2回、完全培地を添加または交換する。
【0140】
約2週間後に、浮遊状態のECMまたはECMタンパク質を高速遠心分離により回収する。接着状態のECMまたはECMタンパク質は、スクレーパーを使用して底から掻き取って回収する。誘導条件および増殖条件に応じて様々なECMタンパク質が産生される。
【0141】
当技術分野で公知の様々な方法を使用して、ECMまたはECMタンパク質を脱細胞化する。たとえば、化学的方法、物理的方法および酵素的方法を使用して、ECM足場またはECMタンパク質足場の構造統合性および化学的統合性を維持したまま、ECMまたはECMタンパク質を脱細胞化することができる。さらに、SMS細胞由来のECMまたはECMタンパク質の様々な分子成分を濃縮または単離する。SMS細胞のインビトロ培養から得られたECMまたはECMタンパク質は、様々な臓器の様々な組織に存在するECMまたはECMタンパク質と類似あるいは同一と見なすことができる。
【0142】
SMS細胞によって産生されたECMまたはECMタンパク質は、凍結乾燥して粉末化し、そのまま保存してもよい。粉末形態またはその他の形態のECMまたはECMタンパク質は、創傷治癒用の医薬品および創傷の治療法に使用される。
【0143】
創傷マウスモデル
皮膚全層を切除した開放性創傷を有する糖尿病動物モデル(マウス)を使用して、SMS細胞の培養物から単離された架橋ECMを含む組成物の効果を測定した。
【0144】
糖尿病性潰瘍は、ヒト患者の治癒不能な創傷において大きな割合(約30%)を占めている。げっ歯類のうち、特に糖尿病マウスモデル(BKS.Cg-Dock7m +/+ Leprdb/Jマウス、ストックNo.000642、ホモ接合体)は、創傷治癒用化合物の試験に頻繁に利用されている。ヒトにおける皮膚創傷の治癒過程により近づけるため、マウスの創傷の治癒過程において、副子固定により皮膚の収縮を抑制する。
【0145】
糖尿病マウスはジャクソン研究所から購入した。糖尿病を自然発症する変異(Leprdb)を有するホモ接合型マウスは、約3~4週齢で肥満の発症が確認できる。血漿中インスリンの上昇は10~14日齢から始まり、血糖値の上昇は4~8週齢から始まる。ホモ接合型変異マウスは、多食症、多渇症および多尿症を呈する。糖尿病の経過は、遺伝的背景による影響を大きく受ける。C57BLKS遺伝背景では、無秩序な血糖値の上昇、インスリンを産生する膵島β細胞の重篤な減少、10ヶ月齢までの死亡などの様々な特徴が観察される。外因性インスリンを投与しても、血糖値は制御されず、糖新生酵素の活性も増加しない。また、C57BLKS-Leprdbホモ接合体では、末梢性ニューロパチーおよび心筋疾患が認められる。さらに、創傷治癒は遅延し、代謝効率が増加する。雌性のホモ接合体では、子宮重量および卵巣重量の減少、卵巣ホルモンの産生の低下、ならびに卵胞顆粒層および子宮内膜上皮組織層における細胞内脂肪蓄積の増加が認められる(Garris et al., 2004, Garris et al., 2004)。これらのマウスの取り扱い、手術、モニターおよび飼育は、LA Biomedの飼育施設において行った。糖尿病が確認された6匹のマウスを使用して研究を実施した。
【0146】
マウスは、血液の採取前に少なくとも12時間絶食させた。穿刺前に、マウスの一方の前肢を拘束し、尾部をアルコールで拭き、乾燥させた。皮膚が乾いた後、外側尾静脈を目視で確認し、20~22ゲージの清潔な注射針で静脈の上の皮膚を穿刺した。
【0147】
注射針を引き抜き、注射針の先に血液の小滴が目視できるまで注射針の穴に圧力を加えた。血液の小滴にグルコース測定用試験紙を近づけて血液を吸収させ、測定を行った。清潔なガーゼで尾部の穿刺箇所に圧力を加えて止血した。各マウスをケージに戻し、食餌を自由に摂取させた。高グルコース値を示した糖尿病マウスのみを選択して実験に使用した。
【0148】
各マウスに、試験用創傷とコントロール用創傷の2つの創傷を作製した。酸素100%中の5%イソフルランを使用して全身麻酔を誘導し(流速:1L/分)、1~3%のイソフルランを使用して麻酔を維持した。趾間の深部反射の抑制を確認した後、マウスを腹臥位にした。首の付け根から背中にかけての3cmの範囲と肩甲骨の間をバリカンで剃毛して手術領域を作製した。湿らせたガーゼでクリームと残っていた毛を完全に除去した。アルコール綿で皮膚を清拭し、10%ポビドンヨード(ベタジン)を3回塗布した後、マウスにドレープをかけた。6mmの生検用滅菌トレパンを用いて、マウスの正中線の両側の、肩の高さの位置で2箇所を円形にくり抜いて創傷を作製した。円形にくり抜いた箇所の中央部分の皮膚を鋸歯型鉗子で持ち上げ、アイリス剪刀を用いて、皮筋層を含む皮下組織に及ぶ全層創傷を作製した。この円形組織は切除した。正中線を挟んだもう一方側の創傷でも同じ工程を行った。シリコーン製の副子の両面からプラスチック製の保護コーティングを取り外した。シリコーン製の副子の片面にVetbondを塗布した。創傷の中心に合わせて副子を貼付し、位置を固定するため、6-0号のナイロン製縫合糸を用いた結節縫合で副子を固定した。もう一方の創傷でも、同様の方法で副子を固定した。
【0149】
一方の開放性創傷には、プラスチック製の滅菌へらを用いて1.5~2mgの組成物を均一に塗布した。コントロール用創傷には何も塗布しなかった。透明な2層構造の閉鎖被覆材(テガダーム)で各創傷を覆った。
【0150】
手術後の鎮痛のため、メロキシカムSR(4mg/kg)SQ注射を1回投与し、必要に応じて72時間ごとに投与を繰り返した。外科手術後、各マウスを別々のケージに入れ、完全に回復するまで温熱マット上で維持した。疼痛および体重減少の徴候を観察するため、マウスを1日2回モニターした。マウスには通常の固形飼料を与えた。
【0151】
マウスの創傷を撮影した。0日目と7日目の写真撮影は、マウスを鎮静させ、透明な被覆材(テガダーム)を除去した後に行った。3日目および4日目または10日目および11日目の写真撮影は、テガダームを貼付したまま行った。14日目の写真撮影は、テガダームを除去する前、安楽死後、テガダームを除去した後、副子を除去した後、および組織を切除した後に行った。
【0152】
14日後にCOを使用してマウスを安楽死させた。テガダームを注意深く除去し、副子固定用の縫合を切断して副子を除去した。創傷全体とそれを取り囲む組織が含まれるように、2つの皮膚組織全層切除試料を各マウスから採取した。一方は左側の創傷試料であり、もう一方は右側の創傷試料であった。創傷を形成しなかった皮膚試料として第3の試料も採取した。
【0153】
切除した皮膚組織を厚紙の上に広げて置き、組織の収縮を阻止した。切除した創傷を撮影した後、ホルマリン溶液に浸漬した。24~48時間後に組織を変性エタノールに移し、組織病理学研究室(IDEXX BioResearch)に送付するまで冷蔵保存した。組織はすべてパラフィン包埋し、薄切した。スライドを作製し、通常のヘマトキシリン・エオシン染色とマッソン・トリクローム化学染色の併用(図1~3参照)またはCD31免疫組織化学的染色(図4および図5参照)で組織を染色した。CD31免疫組織化学的分析は、パラフィン切片を抗CD31抗体で染色することにより行った。正電荷を付与した顕微鏡用スライドに5μmのパラフィン切片を載せ、スライドウォーマー上で55℃の熱を加えて一晩処理した。キシレン中で切片を脱パラフィンし、エタノールの濃度上昇系列で再水和し、蒸留水ですすいだ。加熱した10mMクエン酸バッファー(pH6.0)中に切片を30分間浸漬した後、室温まで冷却することにより、抗原を賦活化した。3%過酸化水素で切片を処理し、すすいだ後、5%ウシ血清アルブミンを含むブロッキングバッファー中で20分間インキュベートした。次に、抗CD31抗体(1:50希釈;ab28364;Abcam社、マサチューセッツ州ケンブリッジ)を加えて切片を室温で60分間インキュベートした。切片を洗浄し、西洋ワサビペルオキシダーゼ標識ポリマーを結合した抗ウサギ抗体(EnVision(登録商標)、DAKO Agilent社、カリフォルニア州カーピンテリア)を加えてインキュベートした。クロモゲン(NovaREDTM、SK-4800、ベクターラボラトリーズ、カリフォルニア州バーリンゲーム)を加えて7~10分間インキュベートした後、結合した抗体を可視化した。マイヤーのヘマトキシリンで切片を対比染色し、脱水し、カバーガラスを載せた。返却されたスライドを顕微鏡で評価した。
【0154】
主な評価項目は、
(1)上皮形成による創傷の閉鎖の目視検査;
(2)(HE染色およびマッソン・トリクローム染色を使用した)上皮形成の顕微鏡観察;
(3)(HE染色およびマッソン・トリクローム染色を使用した)肉芽形成の顕微鏡観察;
(4)(マッソン・トリクローム染色を使用した)コラーゲン沈着の顕微鏡観察;および
(5)(CD31マーカー(血小板内皮細胞接着分子(PECAM-1))を使用した)毛細血管形成の顕微鏡観察
であった。
【0155】
目視による観察では、本発明の組成物を2回連続して塗布したことによる過敏症、炎症または感染症は認められず、この化合物を使用した場合、コントロールよりも上皮が早く形成されることが示された。肉芽形成、コラーゲン沈着および毛細血管形成が増強していることが顕微鏡で観察された。
【0156】
副子を貼付し、処置を行った創傷の写真と、副子を貼付したが処置を行わなかった創傷の写真から、PEC2で処置した創傷は、処置しなかった創傷よりも治癒が明らかに加速したことが示された(図6A(マウス1)、図7A(マウス2)、図8A(マウス3)、図9A(マウス4)、図10A(マウス5)および図11A(マウス6)を参照されたい)。創傷部位を処置した皮膚組織切片および創傷部位を処置しなかった皮膚組織切片を染色した顕微鏡観察では、PEC2で処置した創傷において14日後に上皮層および顆粒層が厚くなったことが示された。また、処置した創傷では、コラーゲンの沈着も多いことが明確に認められる(図6B(マウス1)、図7B(マウス2)、図8B(マウス3)、図9B(マウス4)、図10B(マウス5)および図11B(マウス6)を参照されたい)。さらに、CD31マーカーの検出から、PEC2で処置した創傷の肉芽組織層では、処置しなかったコントロールと比べて、血管新生が全体に増強していることが示された。表1は、試験した各糖尿病マウスにおいて、μm単位で測定した顆粒層の厚さおよび上皮層の厚さの平均値を、本明細書に記載の組成物で処置した創傷部位と、処置しなかったコントロール創傷部位とで比較した結果を示す。
【表1】
【0157】
前述の実施形態の少なくともいくつかにおいて、これらの実施形態において使用された1つ以上の構成要素は、技術的に不可能な場合を除き、別の実施形態の構成要素と入れ替えて使用することができる。請求項に記載された主題の範囲から逸脱することなく、前記の方法および構造に前述以外の様々な省略、付加および改変を行ってもよいことは、当業者であれば容易に理解できるであろう。このような改変や変更はいずれも、添付の請求項で定義されている本発明の主題の範囲内にあると見なされる。
【0158】
本明細書で使用されている実質的に複数形および/または単数形の用語は、当業者であれば、本明細書の記載および/または用途に適するように、複数形の用語を単数のものとして、かつ/または単数形の用語を複数のものとして解釈することができる。本発明を明確なものとするために、様々な単数形/複数形の用語が意図的に使い分けられている。
【0159】
当業者であれば、本明細書に記載の用語、特に添付の請求項(たとえば添付の請求項の本体部)に記載の用語は、通常、「オープンエンドな」用語であることを理解できるであろう(たとえば、「含んでいる(including)」という用語は、「含んでいるが、これらに限定されない」と解釈されるべきであり、「有する(having)」という用語は、「少なくとも有する」と解釈されるべきであり、「含む(include)」という用語は「含むが、これらに限定されない」と解釈されるべきである)。さらに、特定の数が請求項に記載されている場合、前述のような意図も請求項に明確に記載されており、特定の数が記載されていない場合はそのような意図も存在しないことも、当業者であれば理解できるであろう。具体的に説明をすれば、たとえば、後述の特許請求の範囲では、請求項を定義するために、「少なくとも1つ」や「1つ以上」といった前置きが記載されている場合がある。しかしながら、このような前置きが記載されているからといって、不定冠詞「1つ(aまたはan)」を使用して構成要素が記載された請求項を、1つのみの構成要素を含む実施形態に限定すべきではなく、たとえ同じ請求項内に「1つ以上」または「少なくとも1つ」といった前置きと「1つ(aまたはan)」といった不定冠詞とが含まれていたとしても、1つのみの構成要素を含む実施形態に限定すべきではない(たとえば、「1つ(aおよび/またはan)」は、「少なくとも1つ」または「1つ以上」を意味すると解釈されるべきである)。これは、定冠詞を使用して記載された請求項でも同じである。また、請求項に特定の数が明確に記載されていたとしても、「少なくとも」記載されたその数であるということを当業者であれば理解できるであろう(たとえば、修飾語を伴わない「2つ」という記載は、「少なくとも2つ」または「2つ以上」を意味する)。さらに、「A、BおよびCのうちの少なくとも1つ」といった頻用語句が使用されている場合、通常、そのような語句は、当業者がその語句を通常理解する意味で記載されている(たとえば、「A、BおよびCのうちの少なくとも1つを有するシステム」は、Aのみを有するシステム、Bのみを有するシステム、Cのみを有するシステム、AとBを有するシステム、AとCを有するシステム、BとCを有するシステム、ならびに/またはA、BおよびCを有するシステムなどを包含するが、これらに限定されない)。また、「A、BまたはCのうちの少なくとも1つ」といった頻用語句が使用されている場合、通常、そのような語句は、当業者がその語句を通常理解する意味で記載されている(たとえば、「A、BまたはCのうちの少なくとも1つを有するシステム」は、Aのみを有するシステム、Bのみを有するシステム、Cのみを有するシステム、AとBを有するシステム、AとCを有するシステム、BとCを有するシステム、ならびに/またはA、BおよびCを有するシステムなどを包含するが、これらに限定されない)。さらに、2つ以上の選択肢を表すための選言的用語および/または選言的語句は、明細書、特許請求の範囲または図面のいずれにおいても、記載された用語のうちの1つ、記載された用語のいずれか、または記載された用語の両方を含む場合があると当業者であれば理解できるであろう。たとえば、「AまたはB」という表現は、「Aのみ」または「Bのみ」または「AおよびB」を含む場合がある。
【0160】
さらに、本開示の特徴または態様がマーカッシュ形式で記載されている場合、当業者であれば、マーカッシュ形式で記載された各メンバーまたはそれらからなるサブグループについても記載されていると理解できるであろう。
【0161】
詳細な説明の提供などの何らかの目的で本明細書に記載された範囲はいずれも、あらゆる可能な部分範囲およびその組み合わせも包含することを、当業者であれば理解できるであろう。前記範囲はいずれも、同じ範囲を少なくとも等分、3等分、4等分、5等分、10等分などに分割したものも十分に記載されており、このような分割された範囲で本発明を実施可能であることを容易に理解できるであろう。たとえば、本明細書に記載の範囲はいずれも、容易に、低域、中域、高域といった三等分などにすることができるが、これに限定されない。また、「以下」、「少なくとも」、「よりも大きい」、「未満」といった用語はいずれも、記載された数値を含むとともに、前述したように、部分範囲に分割可能な範囲も指すことを当業者であれば理解できるであろう。さらに、当業者であれば、本明細書に記載の範囲は各メンバーを含むことを理解できるであろう。したがって、たとえば、1~3つのメンバーを有する群は、1つのメンバーを有する群、2つのメンバーを有する群または3つのメンバーを有する群を指す。同様に、1~5つのメンバーを有する群は、1つのメンバーを有する群、2つのメンバーを有する群、3つのメンバーを有する群、4つのメンバーを有する群、または5つのメンバーを有する群などを指す。
【0162】
本明細書において様々な態様および実施形態を述べてきたが、当業者であればその他の態様および実施形態も容易に理解できるであろう。本明細書において開示された様々な態様および実施形態は本発明を説明することを目的としたものであり、本発明をなんら限定するものではなく、本発明の範囲および要旨は以下の請求項によって示される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図7A
図7B
図8A
図8B
図9A
図9B
図10A
図10B
図11A
図11B
【手続補正書】
【提出日】2024-07-01
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象における創傷を治療するための組成物であって、小型運動性幹(small mobile stem(SMS))細胞の培養物から単離された細胞外マトリックス(ECM)を含む、組成物。
【請求項2】
移植片、散剤、エアロゾル剤、クリーム剤、乳剤、フォーム剤、起泡性液剤、ゲル剤、ローション剤、軟膏剤、ペースト剤、塗布剤、血清製剤、液剤またはスプレー剤として製剤化される、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記創傷が、体表面の創傷または体内の創傷である、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記創傷が、皮膚損傷、擦過創、挫傷、熱傷、切創、裂創、貫通創、刺創、びらんまたは潰瘍である、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
前記ECMが、架橋剤への暴露または架橋技術により誘導された少なくとも1個の架橋を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項6】
創傷被覆材および請求項1~5のいずれか1項に記載の組成物を含む、創傷治癒用システム。
【請求項7】
前記創傷被覆材が、包帯、ワイプ、ガーゼ、スポンジ、メッシュ、パッド、絆創膏、ナイロンまたは吸収性創傷被覆材を含む、請求項6に記載のシステム。
【請求項8】
前記対象の創傷の治療によって、全層もしくは部分層の修復の促進、創傷治癒の加速、創傷閉鎖の促進、創傷の回復、上皮形成の増加、上皮層の厚さの増加、肉芽形成の増加、顆粒層の厚さの増加、コラーゲン沈着の増加、毛細血管の形成の増加、血管新生の増強、免疫調節の増強、細胞遊走の増強、もしくはこれらの任意の組み合わせを起こす、請求項1~5のいずれか1項に記載の組成物または請求項6もしくは7に記載のシステム。
【請求項9】
小型運動性幹(small mobile stem(SMS))細胞の培養物から単離された細胞外マトリックス(ECM)を含む、化粧料組成物。
【請求項10】
移植片、散剤、エアロゾル剤、クリーム剤、乳剤、フォーム剤、起泡性液剤、ゲル剤、ローション剤、軟膏剤、ペースト剤、塗布剤、血清製剤、液剤またはスプレー剤として製剤化される、請求項9に記載の化粧料組成物。
【請求項11】
芳香剤、皮膚軟化剤または脂肪酸(オレイン酸もしくはパルミトレイン酸など)を含む、請求項9に記載の化粧料組成物。
【請求項12】
前記ECM中に本来存在しない1種以上の抗微生物剤、抗生物質、抗炎症性化合物もしくは鎮痛剤をさらに含む、請求項1~5、8のいずれか1項に記載の組成物または請求項6~8のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項13】
線維芽細胞、内皮細胞、ケラチノサイト、メラノサイトもしくは幹細胞である細胞をさらに含む、請求項1~5、8のいずれか1項に記載の組成物または請求項6~8のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項14】
コラーゲン、ポリグラクチンメッシュ、ポリ乳酸グリコール酸、ポリカプロラクトン、ポリピロール、ヒアルロナン、キトサンもしくは異種組織をさらに含む、請求項1~5、8のいずれか1項に記載の組成物または請求項6~8のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項15】
骨形成タンパク質、インスリン様成長因子、破骨細胞刺激因子、インスリン様成長因子結合タンパク質、カルモジュリン様タンパク質もしくはサイモシンである成長因子をさらに含む、請求項1~5、8のいずれか1項に記載の組成物または請求項6~8のいずれか1項に記載のシステム。