(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024116386
(43)【公開日】2024-08-27
(54)【発明の名称】プロスタグランジンE2を用いる、筋再生のための組成物および方法
(51)【国際特許分類】
C12N 5/077 20100101AFI20240820BHJP
A61K 31/5575 20060101ALI20240820BHJP
A61K 35/34 20150101ALI20240820BHJP
A61K 35/545 20150101ALI20240820BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20240820BHJP
A61P 9/04 20060101ALI20240820BHJP
A61P 9/00 20060101ALI20240820BHJP
A61P 13/02 20060101ALI20240820BHJP
A61P 21/00 20060101ALI20240820BHJP
A61P 21/04 20060101ALI20240820BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240820BHJP
C12N 5/0735 20100101ALN20240820BHJP
C12N 5/10 20060101ALN20240820BHJP
C07K 16/40 20060101ALN20240820BHJP
【FI】
C12N5/077
A61K31/5575
A61K35/34
A61K35/545
A61K45/00
A61P9/04
A61P9/00
A61P13/02
A61P21/00
A61P21/04
A61P43/00 105
A61P43/00 121
C12N5/0735
C12N5/10
C07K16/40
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024098418
(22)【出願日】2024-06-19
(62)【分割の表示】P 2022089405の分割
【原出願日】2017-03-03
(31)【優先権主張番号】62/303,979
(32)【優先日】2016-03-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/348,116
(32)【優先日】2016-06-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
2.MATLAB
(71)【出願人】
【識別番号】515158308
【氏名又は名称】ザ ボード オブ トラスティーズ オブ ザ レランド スタンフォード ジュニア ユニバーシティー
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【弁理士】
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】ブラウ ヘレン エム.
(72)【発明者】
【氏名】ホ アンドリュー トリ ヴァン
(72)【発明者】
【氏名】パラ アデライダ アール.
(57)【要約】
【課題】必要とする対象において、損傷した、障害がある、機能不全の、かつ/または萎縮した筋肉を再生または若返らせるための有効な治療方法および組成物を提供する。
【解決手段】プロスタグランジンE2(PGE2)化合物またはPGE2シグナル伝達を活性化する化合物に筋細胞を曝露することによって、筋細胞を増殖させるための組成物、方法、およびキットが、本明細書において提供される。単独でまたは単離された筋細胞と組み合わせてPGE2化合物を投与することによって、筋萎縮症、筋ジストロフィー、および/または筋傷害を患っている対象において筋肉を再生するための方法もまた、提供される。単離された筋細胞と組み合わせたPGE2化合物を予防的に投与して、筋肉の疾患または病態を予防することができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
単離された筋細胞群を、プロスタグランジンE2(PGE2)、PGE2プロドラッグ、PGE2受容体アゴニスト、PGE2異化を減衰させる化合物、PGE2阻害を無効にする化合物、その誘導体、その類似体、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される化合物と共に培養する段階
を含む、単離された筋細胞群の増殖を促すための方法。
【請求項2】
単離された筋細胞群が精製される、請求項1記載の方法。
【請求項3】
単離された筋細胞群が、骨格筋細胞、平滑筋細胞、心筋細胞、胚性幹細胞由来筋細胞、人工多能性幹細胞由来筋細胞、脱分化筋細胞、またはそれらの組み合わせを含む、請求項1記載の方法。
【請求項4】
単離された筋細胞群が、筋肉幹細胞、衛星細胞、ミオサイト、筋芽細胞、筋管、筋線維、またはそれらの組み合わせを含む、請求項1記載の方法。
【請求項5】
単離された筋細胞群が対象から得られる、請求項1記載の方法。
【請求項6】
対象が、筋肉の損傷、傷害、または萎縮を伴う病態または疾患を有している、請求項5記載の方法。
【請求項7】
筋肉の損傷、傷害、または萎縮を伴う病態または疾患が、急性の筋肉の傷害または外傷、手の軟部組織傷害、デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)、ベッカー型筋ジストロフィー、肢帯型筋ジストロフィー、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、遠位型筋ジストロフィー(DD)、遺伝性ミオパシー、筋緊張性筋ジストロフィー(MDD)、ミトコンドリアミオパシー、筋細管ミオパシー(MM)、重症筋無力症(MG)、鬱血性心不全、周期性四肢麻痺、多発性筋炎、横紋筋融解症、皮膚筋炎、癌性悪液質、AIDS悪液質、心臓悪液質、ストレス誘発性尿失禁、および筋肉減弱症からなる群より選択される、請求項6記載の方法。
【請求項8】
PGE2誘導体が16,16-ジメチルプロスタグランジンE2を含む、請求項1記載の方法。
【請求項9】
PGE2異化を減衰させる化合物が、
15-ヒドロキシプロスタグランジンデヒドロゲナーゼ(15-PGDH)を不活性化もしくは妨害するか、またはプロスタグランジントランスポーター(PTGもしくはSLCO2A1)を不活性化もしくは妨害する、化合物、中和ペプチド、または中和抗体
を含む、請求項1記載の方法。
【請求項10】
単離された筋細胞群を化合物と共に培養する段階が、該単離された筋細胞群を短期的に、間欠的に、または連続的に該化合物に曝露することを含む、請求項1記載の方法。
【請求項11】
対象において筋細胞の移植を促進するために、単離された筋細胞群を、プロスタグランジンE2(PGE2)、PGE2プロドラッグ、PGE2受容体アゴニスト、PGE2異化を減衰させる化合物、PGE2阻害を無効にする化合物、その誘導体、その類似体、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される化合物の有効量と共に培養する段階、ならびに
培養した筋細胞を該対象に投与する段階
を含む、対象において筋細胞移植を促進するための方法。
【請求項12】
単離された筋細胞群が精製される、請求項11記載の方法。
【請求項13】
単離された筋細胞群が、骨格筋細胞、平滑筋細胞、心筋細胞、胚性幹細胞由来筋細胞、人工多能性幹細胞由来筋細胞、脱分化筋細胞、またはそれらの組み合わせを含む、請求項11記載の方法。
【請求項14】
単離された筋細胞群が、筋肉幹細胞、衛星細胞、ミオサイト、筋芽細胞、筋管、筋線維、またはそれらの組み合わせを含む、請求項11記載の方法。
【請求項15】
単離された筋細胞群が、前記対象に対して自己由来である、請求項11記載の方法。
【請求項16】
単離された筋細胞群が、前記対象に対して同種異系である、請求項11記載の方法。
【請求項17】
前記対象が、筋肉の損傷、傷害、または萎縮を伴う病態または疾患を有している、請求項11記載の方法。
【請求項18】
筋肉の損傷、傷害、または萎縮を伴う病態または疾患が、急性の筋肉の傷害または外傷、手の軟部組織傷害、デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)、ベッカー型筋ジストロフィー、肢帯型筋ジストロフィー、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、遠位型筋ジストロフィー(DD)、遺伝性ミオパシー、筋緊張性筋ジストロフィー(MDD)、ミトコンドリアミオパシー、筋細管ミオパシー(MM)、重症筋無力症(MG)、鬱血性心不全、周期性四肢麻痺、多発性筋炎、横紋筋融解症、皮膚筋炎、癌性悪液質、AIDS悪液質、心臓悪液質、ストレス誘発性尿失禁、および筋肉減弱症からなる群より選択される、請求項17記載の方法。
【請求項19】
PGE2誘導体が16,16-ジメチルプロスタグランジンE2を含む、請求項11記載の方法。
【請求項20】
PGE2異化を減衰させる化合物が、
15-ヒドロキシプロスタグランジンデヒドロゲナーゼ(15-PGDH)を不活性化もしくは妨害するか、またはプロスタグランジントランスポーター(PTGもしくはSLCO2A1)を不活性化もしくは妨害する、化合物、中和ペプチド、または中和抗体
を含む、請求項11記載の方法。
【請求項21】
単離された筋細胞群を化合物と共に培養する段階が、単離された筋細胞群を短期的に、間欠的に、または連続的に化合物に曝露することを含む、請求項11記載の方法。
【請求項22】
単離された筋細胞群と、プロスタグランジンE2(PGE2)、PGE2プロドラッグ、PGE2受容体アゴニスト、PGE2異化を減衰させる化合物、PGE2阻害を無効にする化合物、その誘導体、その類似体、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される化合物とを含む、組成物。
【請求項23】
単離された筋細胞群が、骨格筋細胞、平滑筋細胞、心筋細胞、胚性幹細胞由来筋細胞、人工多能性幹細胞由来筋細胞、脱分化筋細胞、またはそれらの組み合わせを含む、請求項22記載の組成物。
【請求項24】
単離された筋細胞群が、筋肉幹細胞、衛星細胞、ミオサイト、筋芽細胞、筋管、筋線維、またはそれらの組み合わせを含む、請求項22記載の組成物。
【請求項25】
薬学的に許容される担体をさらに含む、請求項22記載の組成物。
【請求項26】
請求項22記載の組成物および取扱い説明書を含む、キット。
【請求項27】
筋肉の損傷、傷害、または萎縮を伴う病態または疾患を有している対象において筋細胞群を再生するための方法であって、
該対象において筋細胞群を増加させるおよび/または筋機能を強化するために、プロスタグランジンE2(PGE2)、PGE2プロドラッグ、PGE2受容体アゴニスト、PGE2異化を減衰させる化合物、PGE2阻害を無効にする化合物、その誘導体、その類似体、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される化合物の治療的有効量と、薬学的に許容される担体とを、該対象に投与する段階
を含む、方法。
【請求項28】
筋肉の損傷、傷害、または萎縮を伴う病態または疾患が、急性の筋肉の傷害または外傷、手の軟部組織傷害、デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)、ベッカー型筋ジストロフィー、肢帯型筋ジストロフィー、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、遠位型筋ジストロフィー(DD)、遺伝性ミオパシー、筋緊張性筋ジストロフィー(MDD)、ミトコンドリアミオパシー、筋細管ミオパシー(MM)、重症筋無力症(MG)、鬱血性心不全、周期性四肢麻痺、多発性筋炎、横紋筋融解症、皮膚筋炎、癌性悪液質、AIDS悪液質、心臓悪液質、ストレス誘発性尿失禁、および筋肉減弱症からなる群より選択される、請求項27記載の方法。
【請求項29】
筋細胞群が、骨格筋細胞、平滑筋細胞、心筋細胞、胚性幹細胞由来筋細胞、人工多能性幹細胞由来筋細胞、脱分化筋細胞、またはそれらの組み合わせを含む、請求項27記載の方法。
【請求項30】
筋細胞群が、筋肉幹細胞、衛星細胞、ミオサイト、筋芽細胞、筋管、筋線維、またはそれらの組み合わせを含む、請求項27記載の方法。
【請求項31】
PGE2誘導体が16,16-ジメチルプロスタグランジンE2を含む、請求項27記載の方法。
【請求項32】
PGE2異化を減衰させる化合物が、
15-ヒドロキシプロスタグランジンデヒドロゲナーゼ(15-PGDH)を不活性化もしくは妨害するか、またはプロスタグランジントランスポーター(PTGもしくはSLCO2A1)を不活性化もしくは妨害する、化合物、中和ペプチド、または中和抗体
を含む、請求項27記載の方法。
【請求項33】
前記化合物を投与する段階が、経口、腹腔内、筋肉内、動脈内、皮内、皮下、静脈内、または心臓内投与を含む、請求項27記載の方法。
【請求項34】
前記化合物が、短期的治療計画に従って投与される、請求項27記載の方法。
【請求項35】
投与する段階が、単離された筋細胞群を前記対象に投与することをさらに含む、請求項27記載の方法。
【請求項36】
単離された筋細胞群が、前記対象に対して自己由来である、請求項35記載の方法。
【請求項37】
単離された筋細胞群が、前記対象に対して同種異系である、請求項35記載の方法。
【請求項38】
単離された筋細胞群が精製される、請求項35記載の方法。
【請求項39】
単離された筋細胞群が、前記対象に投与される前に前記化合物と共に培養される、請求項35記載の方法。
【請求項40】
単離された筋細胞群を化合物と共に培養することが、該単離された筋細胞群を短期的に、間欠的に、または連続的に該化合物に曝露することを含む、請求項39記載の方法。
【請求項41】
単離された筋細胞群を投与する段階が、該細胞を前記対象に注射または移植することを含む、請求項35記載の方法。
【請求項42】
単離された筋細胞群および前記化合物が前記対象に同時に投与される、請求項35記載の方法。
【請求項43】
単離された筋細胞群および前記化合物が前記対象に逐次的に投与される、請求項35記載の方法。
【請求項44】
(i) 筋肉の損傷、傷害、または萎縮を伴う病態または疾患を予防または治療するために、プロスタグランジンE2(PGE2)、PGE2プロドラッグ、PGE2受容体アゴニスト、PGE2異化を減衰させる化合物、PGE2阻害を無効にする化合物、その誘導体、その類似体、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される化合物の治療的有効量ならびに薬学的に許容される担体と、(ii)単離された筋細胞群とを、対象に投与する段階
を含む、それを必要とする対象において、筋肉の損傷、傷害、または萎縮を伴う病態または疾患を予防または治療するための方法。
【請求項45】
PGE2誘導体が16,16-ジメチルプロスタグランジンE2を含む、請求項44記載の方法。
【請求項46】
PGE2異化を減衰させる化合物が、
15-ヒドロキシプロスタグランジンデヒドロゲナーゼ(15-PGDH)を不活性化もしくは妨害するか、またはプロスタグランジントランスポーター(PTGもしくはSLCO2A1)を不活性化もしくは妨害する、化合物、中和ペプチド、または中和抗体
を含む、請求項44記載の方法。
【請求項47】
単離された筋細胞群が、骨格筋細胞、平滑筋細胞、心筋細胞、胚性幹細胞由来筋細胞、人工多能性幹細胞由来筋細胞、脱分化筋細胞、またはそれらの組み合わせを含む、請求項44記載の方法。
【請求項48】
単離された筋細胞群が、筋肉幹細胞、衛星細胞、筋芽細胞、ミオサイト、筋管、筋線維、またはそれらの組み合わせを含む、請求項44記載の方法。
【請求項49】
単離された筋細胞群が精製される、請求項44記載の方法。
【請求項50】
単離された筋細胞群が、前記対象に投与される前に前記化合物と共に培養される、請求項44記載の方法。
【請求項51】
単離された筋細胞群を化合物と共に培養することが、該単離された筋細胞群を短期的に、間欠的に、または連続的に該化合物に曝露することを含む、請求項50記載の方法。
【請求項52】
単離された筋細胞群が、前記対象に対して自己由来である、請求項44記載の方法。
【請求項53】
単離された筋細胞群が、前記対象に対して同種異系である、請求項44記載の方法。
【請求項54】
前記化合物を投与する段階が、経口、腹腔内、筋肉内、動脈内、皮内、皮下、静脈内、または心臓内投与を含む、請求項44記載の方法。
【請求項55】
前記化合物が、短期的治療計画に従って投与される、請求項44記載の方法。
【請求項56】
単離された筋細胞群を投与する段階が、該細胞を前記対象に注射または移植することを含む、請求項44記載の方法。
【請求項57】
前記化合物および単離された筋細胞群が前記対象に同時に投与される、請求項44記載の方法。
【請求項58】
前記化合物および単離された筋細胞群が前記対象に逐次的に投与される、請求項44記載の方法。
【請求項59】
前記対象が、筋肉の損傷、傷害、または萎縮を伴う病態または疾患を有していると推測されるか、またはそれを発症するリスクを有している、請求項44記載の方法。
【請求項60】
筋肉の損傷、傷害、または萎縮を伴う病態または疾患が、急性の筋肉の傷害または外傷、手の軟部組織傷害、デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)、ベッカー型筋ジストロフィー、肢帯型筋ジストロフィー、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、遠位型筋ジストロフィー(DD)、遺伝性ミオパシー、筋緊張性筋ジストロフィー(MDD)、ミトコンドリアミオパシー、筋細管ミオパシー(MM)、重症筋無力症(MG)、鬱血性心不全、周期性四肢麻痺、多発性筋炎、横紋筋融解症、皮膚筋炎、癌性悪液質、AIDS悪液質、心臓悪液質、ストレス誘発性尿失禁、および筋肉減弱症からなる群より選択される、請求項44記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、あらゆる目的のために開示内容はその全体が参照により本明細書に組み入れられる、2016年3月4日に出願された米国特許仮出願第62/303,979号および2016年6月9日に出願された米国特許仮出願第62/348,116号の優先権を主張する。
【0002】
連邦政府による資金提供を受けた研究および開発のもとで行われた発明に対する権利に関する記載
本発明は、国立衛生研究所によって授与された助成金第AG020961号のもとで、政府の支援を受けてなされた。政府は、本発明において一定の権利を有している。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
骨格筋では、加齢により、進行性の再生障害ならびに筋肉の量、強度、および機能の低下が起こる。筋機能の低下は、増え続ける高齢集団において、可動性の深刻な低下および生活の質の悪化をしばしば招く、重大な公衆衛生問題である。筋機能の衰えの主要決定因子は、急性傷害または加齢の過程での損傷後に骨格筋幹細胞(MuSC)が筋肉を再生する能力の障害である。また、例えば、手術後の固定または不使用、癌およびHIVの悪液質、筋ジストロフィー、急性傷害、および加齢が原因で損傷、傷害、および/または萎縮を有している筋肉において筋再生を増強することも必要とされている。常在MuSCは希少ではあるが、成人期の間に筋肉、例えば、骨格筋、平滑筋、および心筋を維持および修復するのに不可欠である。加齢に伴い、機能的な幹細胞の数は減少し、したがって、MuSCの数および機能を増大させる必要が高まる。
【0004】
ジノプロストンとしても公知のプロスタグランジンE2(PGE2)は、女性の分娩を誘発することおよび造血幹細胞移植を増強することを含む様々な臨床状況において使用されている。PGE2は、抗凝血剤および抗血栓剤として使用され得る。炎症を消散させることができる脂質メディエーターとしてのPGE2の役割もまた、周知である。非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)である、COX-1および/またはCOX-2の阻害剤は、主にPGE2生合成を介してプロスタノイドを阻害することにより、炎症を抑制する。
【0005】
PGE2は、シクロオキシゲナーゼ(COX)およびプロスタグランジンEシンターゼ酵素によってアラキドン酸から合成される。PGE2のレベルは、PGE2分解酵素である15-ヒドロキシプロスタグランジンデヒドロゲナーゼ(15-PGDH)によって生理学的に調節される。15-PGDHは、PGE2 15-OHの15-ケト基への不活性化変換を触媒する。
【0006】
それを必要とする対象において、損傷した、障害がある、機能不全の、かつ/または萎縮した筋肉を再生または若返らせるための有効な治療が、当技術分野では依然として必要とされている。本発明は、この必要を満たし、利点もまた提供する。
【発明の概要】
【0007】
発明の簡単な概要
本発明の1つの局面において、単離された筋肉幹細胞群の増殖を促すための方法が、本明細書において提供される。この方法は、単離された筋細胞群を、プロスタグランジンE2(PGE2)、PGE2プロドラッグ、PGE2受容体アゴニスト、PGE2異化を減衰させる化合物、PGE2阻害を無効にする化合物、その誘導体、その類似体、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される化合物と共に培養する段階を含む。
【0008】
本発明の第2の局面において、単離された筋細胞群と、プロスタグランジンE2(PGE2)、PGE2プロドラッグ、PGE2受容体アゴニスト、PGE2異化を減衰させる化合物、PGE2阻害を無効にする化合物、その誘導体、その類似体、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される化合物とを含む組成物が、本明細書において提供される。
【0009】
本発明の第3の局面において、単離された筋細胞群と、プロスタグランジンE2(PGE2)、PGE2プロドラッグ、PGE2受容体アゴニスト、PGE2異化を減衰させる化合物、PGE2阻害を無効にする化合物、その誘導体、その類似体、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される化合物とを含む組成物、ならびに取扱い説明書を含むキットが、本明細書において提供される。
【0010】
第4の局面において、筋肉の損傷、傷害、または萎縮を伴う病態または疾患を有している対象において筋細胞群を再生するための方法が、本明細書において提供される。この方法は、対象において筋細胞群を増加させるか、かつ/または筋機能を強化するために、プロスタグランジンE2(PGE2)、PGE2プロドラッグ、PGE2受容体アゴニスト、PGE2異化を減衰させる化合物、PGE2阻害を無効にする化合物、その誘導体、その類似体、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される化合物の治療的有効量と、薬学的に許容される担体とを対象に投与する段階を含む。
【0011】
第5の局面において、それを必要とする対象において、筋肉の損傷、傷害、または萎縮を伴う病態または疾患を予防または治療するための方法が、本明細書において提供される。この方法は、(i)プロスタグランジンE2(PGE2)、PGE2プロドラッグ、PGE2受容体アゴニスト、PGE2異化を減衰させる化合物、PGE2阻害を無効にする化合物、その誘導体、その類似体、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される化合物の治療的有効量ならびに薬学的に許容される担体と、(ii)単離された筋細胞群とを対象に投与して、筋肉の損傷、傷害、または萎縮を伴う病態または疾患を予防または治療する段階を含む。
【0012】
本発明の他の目的、特徴、および利点は、以下の詳細な説明および図面から、当業者に明らかになると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1-1】
図1A~1Hは、一時的なPGE2処理がインビトロで若年MuSCの増殖を促進することを示す。
図1A:若い前脛骨(TA)筋の傷害(ノテキシン、NTX)後のPGE2レベル;対照は、ELISAによって検査した、傷ついていない反対側のTAである;(1つの時点につきn=4匹のマウス)。
図1B:RT-qPCRによる、ノテキシン傷害後のMuSCによるPGE2合成酵素(Ptges2およびPtges)の発現、(1つの時点につきn=3匹のマウス)。
図1C:ビヒクル(-)またはPGE2(10ng/ml)で24時間処理し、続いてヒドロゲル上で7日目まで培養した(短期的処理)後のMuSC数の増加;(マウスn=12、4回の独立した実験)。
図1D:EP4アンタゴニスト(ONO-AE3-208、1μM)の非存在下または存在下でビヒクル(-)またはPGE2(10ng/ml)で24時間処理した後のMuSC数の増加;(マウスn=9、3回の独立した実験において検査)。
図1E~1G:EP4欠損MuSCの増殖。EP4
f/f(欠損)MuSCに、GFP/ルシフェラーゼをコードするレンチウイルスベクターを形質導入し、Creをコードするレンチウイルスベクター(+Cre)またはコードしないベクター(-Cre;空ベクター)で処理して、EP4対立遺伝子を欠失させた。続いて、MuSCをビヒクル(-)またはPGE2(10ng/ml)で24時間処理し、ヒドロゲル上で3日間培養した。
図1E:EP4欠損MuSCの解析を表すスキーム。
図1F:EP4欠損MuSCの数;(マウスn=6、2回の独立した実験)。
図1G:代表的な画像。スケールバー=40μm;GFP、緑;mCherry、赤。
図1H:ビヒクル(-)またはPGE2(10ng/ml)で2日毎に7日間処理したチャコール処理済み培地において、ヒドロゲル上で培養した後のMuSC数;(マウスn=3、3つの技術的レプリケート)。
*P<0.05、
**P<0.001、
***P<0.0005、
****P<0.0001。多重比較のためのボンフェローニ補正を用いるANOVA検定(
図1A、1B、1D、および1F);対応のあるt検定(
図1C);マンホイットニーの検定(
図1H)。平均値+平均値の標準誤差。n.s.、有意ではない。
【
図2-1】
図2A~2Jは、PGE2に対する、老化MuSCの普通とは異なる応答を示す。
図2A:老化TAの傷害(ノテキシン、NTX)後のPGE2レベル;対照は、ELISAによって検査した、傷ついていない反対側のTAである;(1つの時点につきn=4匹のマウス)。
図2B:ELISAによって検査した、傷ついていない若齢マウス(マウスn=7)および高齢マウス(マウスn=5)のTAにおけるPGE2レベル。
図2C:分解酵素15-PGDHを介した、不活性PGE代謝産物である13,14-ジヒドロ-15-ケトPGE2(PGEM)へのPGE2異化を示すスキーム。
図2D;質量分析法によって定量したPGEMのレベル;(年齢群1つにつきn=4匹のマウス)。
図2E;PGE2分解酵素15-PGDH(Hpgd)の発現;(マウスn=3、2つの技術的レプリケート)。
図2F:7日目に検査した、ビヒクル(-)、PGE2(10ng/ml)、または15-PGDH阻害剤SW033291(1μM;SW)を用いた24時間の短期的処理後の老化MuSCの数の増加;(マウスn=15、5回の独立した実験)。
図2G:ビヒクル(-)またはPGE2(10ng/ml)で2日毎に7日間処理したチャコール処理済み培地において、ヒドロゲル上で培養した後の老化MuSCの数;(マウスn=3、3つの技術的レプリケート)。
図2H:MuSCに対するPGE2の効果を表すスキーム。PGE2は、EP4受容体/cAMP(cyclic AMP)シグナル伝達経路を介して作用して増殖を促進する。老化MuSCにおいて、PGT(Prostaglandin transporter)による細胞内輸送に続いて、不活性型であるPGEMへのPGE2異化は15-PGDHによって媒介される。
図2I:対照(左)およびPGE2による短期間処理後(右)について、マイクロウェルで48時間の低速度撮影顕微鏡検査法によって追跡した、老化MuSCのクローンから得られた軌跡。元の細胞および新しく生まれたその各子孫の軌跡を、異なる色で表している。
図2J:対照(左、クローンn=32)およびPGE2による短期間処理後(右、クローンn=45)について、低速度撮影顕微鏡検査法によって追跡したクローンにおける、老化MuSCの生細胞数(数)の変化。すべての時点における各世代(G1~G6)の生細胞の比率を、100個の単一MuSCからなる出発時の集団に対して標準化した細胞数として示している。生細胞数の増加率は、4.0%(対照)および5.4%(PGE2処理)であった(上のパネル)。対照(左)およびPGE2による短期間処理後(右)について、低速度撮影顕微鏡検査法によって追跡したクローンにおける、老化MuSCの死細胞数(数)の変化。すべての時点における各世代(G1~G6)の死細胞の比率を、100個の単一MuSCからなる出発時の集団に対して標準化した細胞数として示している。死細胞数の増加率は、1.0%(対照)および0.1%(PGE2処理)であった(下のパネル)。
*P<0.05、
**P<0.001、
***P<0.0005。多重比較のためのボンフェローニ補正を用いるANOVA検定(
図2Aおよび2F);マンホイットニーの検定(
図2B、2D、2E、および2G)。平均値±平均値の標準誤差。n.s.、有意ではない。
【
図3-1】
図3A~3Dは、短期的なPGE2処理がインビボでMuSCの移植および再生を促進することを示す。
図3A:
図1Cで説明したように、ビヒクル(-)またはPGE2で短期間処理した後のトランスジェニックマウスから単離し培養したGFP/luc標識若年MuSC(250細胞)の移植。移植スキーム(上部)。各TAについてラジアンスとして測定した非侵襲性の生物発光画像化(BLI)シグナル;(条件1つにつきマウスn=5)(下部)。
図3B:培養中にCreで処理して(+Cre)、またはCreを用いずに処理して(-Cre;空ベクター)EP4対立遺伝子を欠失させた、GFP/luc標識EP4
f/f MuSC(1,000細胞)の移植。BLIのために、GFP/ルシフェラーゼをコードするレンチウイルスベクターをEP4
f/f MuSCに形質導入した。移植スキーム(上部)。移植後のBLIシグナル(条件1つにつきマウスn=5)(下部)。
図3C:ビヒクル(-)またはdmPGE2を同時注射し、新しく選別したGFP/luc標識若年MuSC(250細胞)の移植。移植スキーム(上部)。移植後のBLIシグナル(ビヒクル処理およびdmPGE2処理について、それぞれマウスn=4およびn=5)。
図3D:ビヒクル(-)またはdmPGE2を同時注射したGFP/luc標識老化MuSC(250細胞)の移植;(条件1つにつきマウスn=3)(下部)。BLIのために、GFP/ルシフェラーゼをコードするレンチウイルスベクターを老化MuSCに形質導入した。移植スキーム(上部)。平均ラジアンス(ps
-1 cm
-2 sr
-1)として表した、移植後のBLIシグナル。各条件における代表的BLI画像。スケールバー=5mm(
図3A~3D)。データは、2回の独立した実験を表している。
*P<0.05、
**P<0.001、および
***P<0.0005。群比較のためのANOVA検定およびフィッシャーの検定によるエンドポイントの有意差。平均値+平均値の標準誤差。
【
図4-1】
図4A~4Pは、PGE2のみを筋肉内注射すると、MuSCの増大が促進され、再生が改善し、力が増大することを示す。若齢:(
図4A~4D)心臓毒(CTX)傷害後48時間目に、若齢マウスのTA筋肉にビヒクル(-)またはdmPGE2を注射した;(条件1つにつきマウスn=3)。
図4A:実験手順のスキーム(上部)。心臓毒傷害後14日目に核(DAPI;青)、ラミニン(緑)、およびPAX7(赤)染色を行った、代表的TAの横断面(下部)。矢印先端部は、PAX7
+ MuSCを示す。スケールバー=40μm。
図4B:若齢マウスのTAの横断面中の線維100本当たりのPAX7発現衛星細胞の免疫蛍光に基づく、内在MuSCの増加。
図4C:筋線維解析のためのバクスターアルゴリズムを用いて定量した、ビヒクル(-、色を塗っていない白い棒)およびdmPGE2で処理した(青で塗りつぶした棒)若年TAの筋線維横断面積(CSA)。
図4D:小さな(<1,000μm
2 CSA)筋線維および大きな(>1,000μm
2 CSA)筋線維の分布。(
図4E~4G)Pax7-ルシフェラーゼに基づいて調べた、内在MuSCの増加。Pax7
CreERT2;Rosa26-LSL-Lucマウスにタモキシフェン(TAM)を腹腔内処理し、TAを心臓毒(CTX)傷害に供し、3日後にビヒクル(-)またはdmPGE2を注射し、BLIに基づいてモニターした;(条件1つにつきマウスn=3)。
図4E:実験手順のスキーム。
図4F:BLI(条件1つにつきマウスn=3)
図4G:代表的なBLI画像。スケールバー=5mm。高齢:(
図4H~4K)心臓毒(CTX)傷害後48時間目に、高齢マウスのTAをビヒクル(-)またはdmPGE2処理によってインビボで処理した(条件1つにつきマウスn=3)。
図4H:実験手順のスキーム(上部)。心臓毒傷害後14日目に核(DAPI;青)、ラミニン(緑)、およびPAX7(赤)染色を行った、代表的TAの横断面(下部)。矢印先端部は、PAX7
+筋肉幹細胞を示す。スケールバー=40μm。
図4I:高齢マウスについての、
図4Bの場合のような内在MuSCの増加。
図4J:老化TAについての、
図4Cの場合のような筋線維横断面積(CSA)。
図4K:老化TAについての、
図4Dの場合のようなCSAの分布。(
図4L~4P)下り坂トレッドミル走行後の筋肉収縮力としてインビボで測定した、高齢マウスの力の増加。マウスを2週間連続して20°の下り坂トレッドミル走行に供し、5週目に力を調べた。最初の1週間の間、高齢マウスの内側腓腹筋(GA)および外側腓腹筋(GA)に、ビヒクル(-)またはdmPGE2のいずれかを注射した。生物学的レプリケートは、ビヒクル(-)処理またはdmPGE2処理について、それぞれn=10または8であり、技術的レプリケートは各5つであった。
図4L:実験スキーム。代表的な単収縮力(
図4M)および強縮力(
図4N)。生理学的断面積(PCSA)に対して力を標準化することによって、単位当たりの筋肉単収縮力(
図4O)および単位当たりの筋肉強縮力(
図4P)を計算した。対応のあるt検定(
図4B、4D、4I、および4K);群比較のためのANOVA検定およびフィッシャーの検定によるエンドポイントの有意差(
図4F);マンホイットニーの検定(
図4Oおよび4P)。
*P<0.05、
**P<0.001、および
****P<0.0001。平均値+平均値の標準誤差。
【
図5-1】
図5A~5Kは、PGE2がMuSCの増大を促進することを示す。
図5A:ELISAによって検査した、反対側の傷ついていない対照と比べた、若齢マウスの後肢前脛骨(TA)筋肉の寒冷傷害後3日目のPGE2レベル;(条件1つおよび時点1つにつきマウスn=4)。
図5B:PGE2(10ng/ml)で24時間(0日目~1日目)またはビヒクル(-)で処理した後、EdU(赤)で1時間標識し、かつミオゲニン(緑)について染色した、分裂中の筋肉幹細胞(MuSC)の代表的画像。スケールバーは、40μmに相当する。
図5C:(b)の場合のようにEDUで標識した分裂MuSCの比率;(2回の独立した実験において、マウスn=6、3つの技術的レプリケート)。
図5D:ビヒクル(-)または表示した用量のPGE2(1~200ng/ml)で処理した後に、代謝生存度アッセイ法VisionBlueによって測定した、増殖の増加;(2回の独立した実験において、マウスn=6、3つの技術的レプリケート)。
図5E:ビヒクル(-)またはPGE2で24時間処理した後の、MuSCによるプロスタグランジン受容体(Ptger1~4)の発現;(マウスn=3、2つの技術的レプリケート)。
図5F:未処理群(-)と比べた、1時間PGE2で処理した後のMuSC中のcAMPレベルの上昇:( 2回の独立した実験において、マウスn=6、3つの技術的レプリケートを調べた)。
図5G~5H:ビヒクル(-)またはPGE2で24時間処理した後の、MuSCによるPax7(
図5G)およびミオゲニン(
図5H)の発現;(マウスn=3、2つの技術的レプリケート)。
図5I~5J:EP4
f/f MuSCに、GFP/ルシフェラーゼをコードするレンチウイルスベクターを形質導入し、Creをコードするレンチウイルスベクター(+Cre)またはコードしないベクター(-Cre;空ベクター)で処理して、EP4対立遺伝子を欠失させた。棒グラフは、+Cre MuSC(
図5I)およびGFP/Luc
+ MuSC(
図5J)の比率を示す。
図5K:ビヒクル(-)またはPGE2(10ng/ml)を2日毎に補充したチャコール処理済みウシ胎仔を含む筋芽細胞培地中で7日後の、ヒドロゲル培養物中のMuSCの代表的画像。スケールバーは、40μmに相当する。
*P<0.05、
**P<0.001、
***P<0.0005。対応のあるt検定(
図5A、5E、5G、および5H);マンホイットニーの検定(
図5C)。平均値+平均値の標準誤差。n.s.、有意ではない。
【
図6A】
図6A~6Cは、プロスタグランジンおよびPGE2代謝産物を検出するための若年筋肉および老化筋肉の質量分析による解析を示す。
図6A:解析したプロスタグランジン(PGE2、PGF2α、およびPGD2)ならびにPGE2代謝産物(15-ケトPGE2および13,14-ジヒドロ-15-ケトPGE2)の化学構造、化学式、精密質量、および分子量。いずれの複合標準物質にも、内部標準PGF2α-D9およびPGE2-D9を加えた。
【
図6B】
図6A~6Cは、プロスタグランジンおよびPGE2代謝産物を検出するための若年筋肉および老化筋肉の質量分析による解析を示す。
図6B:原液を最終濃度0.1ng/ml~500ng/mlに希釈することによって、液体クロマトグラフィー-エレクトロスプレーイオン化-タンデム質量分析(LC-ESI-MS/MS)解析のための較正線を作成した。検量線の式および相関係数を各標準物質について示している。
【
図6C】
図6A~6Cは、プロスタグランジンおよびPGE2代謝産物を検出するための若年筋肉および老化筋肉の質量分析による解析を示す。
図6C:代表的なクロマトグラム。別々のピークは、解析したプロスタグランジおよびそれらの代謝産物に対する優れたクロマトグラフィー分解能を示している。cps、カウント毎秒。
【
図7-1】
図7A~7Gは、老化MuSCの増殖および細胞生存率が、PGE2処理に応答して増大することを示す。
図7A~7C:若年MuSCおよび老化MuSCについて、qRT-PCRによって測定したmRNAレベルをGapdhに対して標準化した(マウスn=3、2つの技術的レプリケート)。
図7A:Slco2a1遺伝子にコードされるプロスタグランジントランスポーター(PGT)。
図7B:PGE2合成酵素PtgesおよびPtges2。
図7C:遺伝子Ptger1~4にコードされるEP1~4受容体。
図7D:ビヒクル(-)またはPGE2処理で24時間処理した後の、MuSC中のPax7 mRNAレベル;(マウスn=3、2つの技術的レプリケート)。
図7E:ビヒクル(-、上部)およびPGE2(下部)による短期間処理後に低速度撮影顕微鏡検査法によって追跡した、老化MuSC単一クローン。各クローンについて、48時間の低速度追跡後の、生細胞(色を塗っていない棒)および死細胞(黒色の棒)の得られた数を示している。
図7F:48時間のビヒクル(-)処理または一時的なPGE2処理について低速度撮影顕微鏡検査法によって評価した、追跡された生きている老化MuSCの増殖曲線。
図7G:ビヒクル(-)またはPGE2を用いた24時間の処理後、ヒドロゲル上での増殖後7日目に解析した、老化MuSCにおけるアポトーシス性アネキシンV
+のフローサイトメトリー解析;(マウスn=9、3回の独立した実験)。マンホイットニーの検定(
図7A~7D)およびα=0.05での対応のあるt検定(
図7G)。平均値+平均値の標準誤差。n.s.、有意ではない。
【
図8】
図8A~8Bは、筋肉横断面積を筋線維解析するためのバクスターアルゴリズムを示している。
図8A:心臓毒(CTX)傷害後48時間目にビヒクル(-)またはPGE2でインビボ処理した若齢マウスの前脛骨筋線維の代表的な横断面画像。画像は、ラミニン(緑)およびDAPI(青)染色を示す。
図8B:傷害後14日目の筋線維の横断面の断面積(CSA)を測定するために(下部)、筋線維解析のためのバクスターアルゴリズムによって解析した、
図8Aに対応する分割画像。スケールバーは、40μmに相当する。
【
図9-1】
図9A~9Gは、MuSC中のPGE2受容体EP4を欠失させると、傷害後の骨格筋の再生および力が低減することを示す。タモキシフェンで処理したPax7特異的EP4の条件的ノックアウトマウス(Pax7
CreERT2;EP4
fl/fl)の前脛骨筋(TA)を、ノテキシン傷害後6日目(
図9C~9D)、21日目(
図9Bおよび9E)、および14日目(
図9Fおよび9G)に調べた;(条件1つにつきマウスn=3)。
図9A:実験スキーム。
図9B:傷害後の対照マウスまたはEP4 KOマウスに由来する選別したMuSC(α
7+ CD34
+ lin
-)におけるPtger4(EP4受容体)の発現。
図9C:代表的なTA断面。DAPI、青色;胚性ミオシン重鎖(eMyHC)、赤色。スケールバー=40μm。
図9D:eMyHC
+線維の比率。
図9E:対照TAおよびPax7特異的EP4ノックアウトTAの筋線維横断面積(CSA)。
図9F:ノテキシン傷害後14日目の筋肉単収縮力および(
図9G)筋肉強縮力。マンホイットニーの検定(
図9B、9C、9F、および9G);群比較のためのANOVA検定およびフィッシャーの検定による各区分の有意差(
図9E)。
*P<0.05、
***P<0.0005、および
****P<0.0001。平均値+平均値の標準誤差。
【
図10】
図10A~10Cは、再生の初期の時点に筋肉における内在性PGE2シグナル伝達を遮断すると、再生および力が低減することを示す。前脛骨筋(TA)に対する心臓毒傷害後にビヒクル(-)またはNSAID(インドメタシン)を注射した後の非侵襲性生物発光画像化(BLI)に基づいて、タモキシフェン(TAM)で処理したPax7
CreERT2;Rosa26-LSL-Lucマウスにおいて内在MuSCを調べた;(条件1つにつきマウスn=3)。
図10A:実験スキーム。
図10B:BLI(条件1つにつきマウスn=3)。
図10C:ノテキシン傷害後14日目の筋肉単収縮力(ビヒクル処理はn=8、NSAID処理はn=10)。群比較のためのANOVA検定およびフィッシャーの検定によるエンドポイントの有意差(
図10B)。マンホイットニーの検定(
図10C)。
*P<0.05、
**P<0.001、
***P<0.0005、および
****P<0.0001。平均値+平均値の標準誤差。
【発明を実施するための形態】
【0014】
発明の詳細な説明
I 序論
本発明は、プロスタグランジンE2(PGE2)が筋細胞の増殖および機能を改善することができるという発見にある程度基づいている。単独でまたは単離された筋細胞と組み合わせてPGE2を用いて、傷害、萎縮、または疾患に起因する筋肉損傷を修復することができる。実際に、PGE2で処理した筋細胞は、投与すると、筋再生の強化および筋機能の向上を示す。したがって、損傷した、傷ついた、または萎縮した筋肉の筋再生および若返りを促進するための新規な治療方法、組成物、およびキットが本明細書において提供される。
【0015】
II 概要
本発明の実践には、分子生物学の分野の慣用技術を使用する。本発明において有用な一般的方法を開示している基本的な指定図書にはSambrook and Russell, Molecular Cloning, A Laboratory Manual (3rd ed. 2001); Kriegler, Gene Transfer and Expression: A Laboratory Manual (1990);およびCurrent Protocols in Molecular Biology (Ausubel et al., eds., 1994))が含まれる。
【0016】
核酸の場合、サイズは、キロベース(kb)、塩基対(bp)、またはヌクレオチド(nt)のいずれかで表される。一本鎖DNAおよび/またはRNAのサイズは、ヌクレオチドで表すことができる。これらは、アガロースゲル電気泳動もしくはアクリルアミドゲル電気泳動、配列決定された核酸、または公開されているDNA配列から導き出される推定値である。タンパク質の場合、サイズは、キロダルトン(kDa)またはアミノ酸残基の数で表される。タンパク質のサイズは、ゲル電気泳動、配列決定されたタンパク質、導き出されたアミノ酸配列、または公開されているタンパク質配列から推定される。
【0017】
市販されていないオリゴヌクレオチドは、例えば、Beaucage and Caruthers, Tetrahedron Lett. 22: 1859-1862 (1981)によって最初に説明された固相ホスホルアミダイトトリエステル法に従って、Van Devanter et. al., Nucleic Acids Res. 12:6159-6168 (1984)に記載されているように自動合成機を用いて、化学合成することができる。オリゴヌクレオチドの精製は、当技術分野において認識されている任意の戦略、例えば、未変性アクリルアミドゲル電気泳動またはPearson and Reanier, J. Chrom. 255:137-149 (1983)に記載されているような陰イオン交換高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて実施される。
【0018】
III 定義
本明細書において使用される場合、以下の用語は、別段の指定がない限り、それらに与えられた意味を有している。
【0019】
本明細書において使用される用語「1つの(a)」、「1つの(an)」、または「その(the)」は、1つのメンバーを含む局面を含むだけでなく、複数のメンバーを含む局面も含む。例えば、単数形「1つの(a)」、「1つの(an)」、および「その(the)」は、文脈によって明白に他の意味に定めらない限り、複数の指示対象を含む。したがって、例えば、「細胞(a cell)」への言及は、複数のそのような細胞を含み、「作用物質(the agent)」への言及は、当業者に公知である1つまたは複数の作用物質への言及を含み、以下同様である。
【0020】
用語「プロスタグランジンE2」または「PGE2」は、シクロオキシゲナーゼ(COX)酵素および末端プロスタグランジンEシンターゼ(PGES)によってアラキドン酸から合成され得るプロスタグランジンを意味する。PGE2は、血管拡張、炎症、および睡眠覚醒周期の調節を含むいくつかの生物学的機能において役割を果たしている。
【0021】
用語「プロスタグランジンE2受容体アゴニスト」または「PGE2受容体アゴニスト」は、任意のPGE2受容体に結合し活性化させ、それによってPGE2シグナル伝達経路を刺激することができる、化学的化合物、低分子、ポリペプチド、生物学的産物などを意味する。
【0022】
用語「PGE2異化を減衰させる化合物」は、PGE2の分解を低減または減少させることができる、化学的化合物、低分子、ポリペプチド、生物学的産物などを意味する。
【0023】
用語「PGE2阻害を無効にする化合物」は、PGE2の合成、活性、分泌、および機能などの阻害剤を妨害または邪魔することができる、化学的化合物、低分子、ポリペプチド、生物学的産物などを意味する。
【0024】
化合物との関連での用語「誘導体」には、所与の化合物のアミド、エーテル、エステル、アミノ、カルボキシル、アセチル、および/またはアルコール誘導体が含まれるが、それらに限定されるわけではない
【0025】
用語「胚性幹細胞由来筋細胞」または「ESC由来筋細胞」は、胚性幹細胞に由来するか、または胚性幹細胞から分化した筋細胞を意味する。
【0026】
用語「人工多能性幹細胞由来筋細胞」または「iPSC由来筋細胞」は、人工多能性幹細胞に由来するか、または人工多能性幹細胞から分化した筋細胞を意味する。
【0027】
細胞との関連での用語「単離された」は、由来元の組織(例えば筋組織)中に天然に一緒に存在する他の細胞型または他の細胞性材料から少なくとも部分的に単離および/または精製された、関心対象の単細胞または関心対象の細胞群を意味する。筋細胞群は、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約91%、少なくとも約92%、少なくとも約93%、少なくとも約94%、少なくとも約95%、少なくとも約96%、少なくとも約97%、少なくとも約98%、いくつかの場合において、少なくとも約99%が、筋細胞ではない細胞を含まない場合、「単離されて」いる。純度は、任意の適切な方法によって、例えば、蛍光活性化細胞選別によって測定することができる。
【0028】
用語「自己由来の」は、後で個体に再導入される予定である、その同じ個体に由来する任意の材料(例えば細胞)を意味する。
【0029】
用語「同種異系の」は、材料が導入される個体と同じ種の異なる動物に由来する任意の材料(例えば細胞)を意味する。2つまたはそれより多い個体は、1つまたは複数の遺伝子座の遺伝子が同一ではない場合、互いに同種異系であるとされる。いくつかの局面において、同じ種の個体に由来する同種異系の材料は、抗原性に相互作用するのに十分なほど、遺伝的に異なっている場合がある。
【0030】
用語「治療すること」または「治療」は、次のうちのいずれか1つを意味する:疾患の1つもしくは複数の症状を改善すること;そのような症状の発現をそれらが起こる前に予防すること;疾患の進行を減速することもしくは完全に予防すること(再発エピソード間の期間が長くなること、症状の悪化を減速することもしくは予防することなどによって明らかになり得る);寛解期間の始まりを促進すること;疾患の進行-慢性段階で(原発段階および続発段階の両方で)引き起こされる不可逆的損傷を減速すること;前記進行段階の始まりを遅らせること;またはそれらの任意の組み合わせ。
【0031】
用語「投与する」、「投与すること」、または「投与」は、本明細書において説明する化合物および細胞などの作用物質または組成物を所望の生物学的作用部位へ送達するのを可能にするのに使用され得る方法を意味する。これらの方法には、非経口投与(例えば、静脈内、皮下、腹腔内、筋肉内、動脈内、血管内、心臓内、くも膜下腔内、鼻腔内、皮内、および硝子体内など)、経粘膜注射、経口投与、坐剤としての投与、および局所的投与が含まれるが、それらに限定されるわけではない。当業者は、疾患または病態に関連する1種または複数種の症状を予防または軽減するために治療的有効量の本明細書において説明する化合物および/または細胞を投与するための他の方法について知っているであろう。
【0032】
用語「治療的有効量」または「治療的有効用量」または「有効量」は、有益な、または所望の臨床効果をもたらすのに十分である化合物、治療物質(例えば細胞)、および/または医薬の量を意味する。治療的有効量または治療的有効用量は、限定されるわけではないが、患者の年齢、大きさ、疾患のタイプまたは程度、疾患のステージ、再生細胞の投与経路、使用される補助療法のタイプまたは程度、進行中の疾患過程、および望ましい治療のタイプ(例えば、積極的な治療または従来の治療)を含む、各患者に特有の因子に基づいてよい。本明細書において説明する薬学的化合物または組成物の治療的有効量は、細胞培養および動物モデルから最初に推定することができる。例えば、細胞培養方法で測定されたIC50値は、動物モデルでの開始点の役割を果たすことができ、動物モデルで測定されたIC50値を用いて、ヒトでの治療的有効用量を見出すことができる。
【0033】
用語「薬学的に許容される担体」は、生物に顕著な刺激を引き起こさず、投与される化合物の生物活性および特性を失わせない担体または希釈剤を意味する。
【0034】
用語「対象」、「個体」、および「患者」は、本明細書において同義的に使用されて、脊椎動物、好ましくは哺乳動物、より好ましくはヒトを意味する。哺乳動物には、マウス、ラット、サル、ヒト、家畜、競技動物、およびペットが含まれるが、それらに限定されるわけではない。
【0035】
化合物の投与との関連での用語「短期的曝露」とは、対象、例えば、ヒト対象または細胞への化合物の一時的または短時間の適用を意味する。いくつかの態様において、短期的曝露は、治療期間中または長期間中の、化合物の単回投与を含む。
【0036】
化合物の投与との関連での用語「間欠的曝露」とは、対象、例えば、ヒト対象または細胞への化合物の繰り返し適用を意味し、その際、各適用の間に所望の期間が経過する。
【0037】
化合物の投与との関連での用語「短期的治療計画」とは、対象、例えばヒト対象への化合物の一時的もしくは短時間の適用、または対象、例えばヒト対象への化合物の繰り返し適用を意味し、繰り返し適用では、各適用の間に所望の期間(例えば1日)が経過する。いくつかの態様において、短期的治療計画は、治療期間中または長期間中の、対象への化合物の短期的曝露(例えば単回投与)を含む。他の態様において、短期的治療計画は、各曝露の間に所望の期間が経過する、対象への化合物の間欠的曝露(例えば反復投与)を含む。
【0038】
化合物の投与との関連での用語「連続的曝露」とは、長期間にわたる、対象、例えば、ヒト対象または細胞への化合物の長期的な繰り返し適用を意味する。
【0039】
化合物の投与との関連での用語「長期的治療計画」とは、化合物の量またはレベルが、選択された期間にわたって実質的に一定であるような、長期間にわたる、対象、例えばヒト対象への化合物の長期的な繰り返し適用を意味する。いくつかの態様において、長期的治療計画は、長期間にわたる対象への化合物の連続的曝露を含む。
【0040】
IV 態様の詳細な説明
1つの局面において、単離された筋細胞群を、プロスタグランジンE2(PGE2)、PGE2プロドラッグ、PGE2受容体アゴニスト、PGE2異化を減衰させる化合物、PGE2阻害を無効にする化合物、その誘導体、その類似体、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される化合物と共に培養することにより、単離された筋細胞群の増殖、増大、および/または移植を促すための方法が、本明細書において提供される。いくつかの態様において、単離された筋細胞群は、実質的に精製されているか、または精製されている(例えば、非筋細胞または関心対象ではない他の細胞から分離されている)。いくつかの例において、単離された筋細胞群は、骨格筋細胞、平滑筋細胞、心筋細胞、胚性幹細胞由来筋細胞、人工多能性幹細胞由来筋細胞、脱分化筋細胞、またはそれらの組み合わせを含む。特定の態様において、単離された筋細胞群は、筋肉幹細胞、衛星細胞、ミオサイト、筋芽細胞、筋管、筋線維、またはそれらの組み合わせを含む。
【0041】
単離された筋細胞群は、対象から得ることができる。他の態様において、単離された筋細胞は、細胞株、例えば初代細胞株に由来する。いくつかの例において、対象は、筋肉の損傷、傷害、または萎縮を伴う病態または疾患を有している。筋肉の損傷、傷害、または萎縮を伴う病態または疾患は、急性の筋肉の傷害、断裂、または外傷、手の軟部組織傷害、デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)、ベッカー型筋ジストロフィー、肢帯型筋ジストロフィー、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、遠位型筋ジストロフィー(DD)、遺伝性ミオパシー、筋緊張性筋ジストロフィー(MDD)、ミトコンドリアミオパシー、筋細管ミオパシー(MM)、重症筋無力症(MG)、鬱血性心不全、周期性四肢麻痺、多発性筋炎、横紋筋融解症、皮膚筋炎、癌性悪液質、AIDS悪液質、心臓悪液質、ストレス誘発性尿失禁、および筋肉減弱症からなる群より選択され得る。
【0042】
いくつかの態様において、PGE2誘導体は、16,16-ジメチルプロスタグランジンE2を含む。他の態様において、PGE2異化を減衰させる化合物は、15-ヒドロキシプロスタグランジンデヒドロゲナーゼ(15-PGDH)を不活性化もしくは妨害するか、または15-PGDHによる異化のために細胞内部にPGE2を輸送するプロスタグランジントランスポーター(PTGもしくはSLCO2A1)を不活性化もしくは妨害する、化合物、中和ペプチド、または中和抗体を含む。
【0043】
いくつかの態様において、単離された筋細胞群を化合物と共に培養する段階は、単離された筋細胞群を短期的に、間欠的に、または連続的に化合物に曝露することを含む。化合物を、単離した細胞に短期的に一度、曝露してもよい。他の場合において、各曝露の間に時間が経過するように、化合物を、単離された細胞に複数の時点で曝露してもよい。さらに他の場合において、細胞と直接的に接触する化合物のレベルが予め選択した量を下回らないように、化合物を、単離された細胞に連続的に曝露してもよい。
【0044】
特定の態様において、対象において筋細胞移植を促進するための方法が、本明細書において提供される。この方法は、単離された筋細胞群を、プロスタグランジンE2(PGE2)、PGE2プロドラッグ、PGE2受容体アゴニスト、PGE2異化を減衰させる化合物、PGE2阻害を無効にする化合物、その誘導体、その類似体、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される化合物の有効量と共に培養するか、またはそれらと接触させて、対象において筋細胞の移植を促進する段階、ならびに培養または接触させた筋細胞を対象に投与する段階を含む。
【0045】
別の局面において、単離された筋細胞群と、プロスタグランジンE2(PGE2)、PGE2プロドラッグ、PGE2受容体アゴニスト、PGE2異化を減衰させる化合物、PGE2阻害を無効にする化合物、その誘導体、その類似体、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される化合物とを含む組成物が、本明細書において提供される。いくつかの態様において、単離された筋細胞群は、骨格筋細胞、平滑筋細胞、心筋細胞、胚性幹細胞由来筋細胞、人工多能性幹細胞由来筋細胞、脱分化筋細胞、またはそれらの組み合わせを含む。いくつかの例において、単離された筋細胞群は、筋肉幹細胞、衛星細胞、ミオサイト、筋芽細胞、筋管、筋線維、またはそれらの組み合わせを含む。組成物はまた、薬学的に許容される担体も含んでよい。
【0046】
さらに別の局面において、本明細書において開示される組成物のいずれかおよび取扱い説明書を含むキットが、本明細書において提供される。
【0047】
別の局面において、筋肉の損傷、傷害、または萎縮を伴う病態または疾患を有している対象において筋細胞群を再生するための方法が、本明細書において提供される。この方法は、対象において筋細胞群を増加させるか、かつ/または対象において筋機能を強化するために、プロスタグランジンE2(PGE2)、PGE2プロドラッグ、PGE2受容体アゴニスト、PGE2異化を減衰させる化合物、PGE2阻害を無効にする化合物、その誘導体、その類似体、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される化合物の治療的有効量と、薬学的に許容される担体とを対象に投与する段階を含む。
【0048】
関連する局面において、筋肉の損傷、傷害、または萎縮を伴う病態または疾患を有している対象において筋細胞群の増殖および/または増大を促すための方法が、本明細書において提供される。この方法は、対象において筋細胞群を増加させるか、かつ/または対象において筋機能を強化するために、プロスタグランジンE2(PGE2)、PGE2プロドラッグ、PGE2受容体アゴニスト、PGE2異化を減衰させる化合物、PGE2阻害を無効にする化合物、その誘導体、その類似体、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される化合物の治療的有効量と、薬学的に許容される担体とを対象に投与する段階を含む。
【0049】
いくつかの態様において、筋細胞群は、内在する筋細胞群を含む。他の態様において、筋細胞群は、対象に投与された(例えば、注射または移植された)単離された筋細胞群を含む。さらに別の態様において、筋細胞群は、内在する筋細胞群および対象に投与された単離された筋細胞群の両方を含む。
【0050】
いくつかの態様において、筋肉の損傷、傷害、または萎縮を伴う病態または疾患は、急性の筋肉の傷害または外傷、手の軟部組織傷害、デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)、ベッカー型筋ジストロフィー、肢帯型筋ジストロフィー、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、遠位型筋ジストロフィー(DD)、遺伝性ミオパシー、筋緊張性筋ジストロフィー(MDD)、ミトコンドリアミオパシー、筋細管ミオパシー(MM)、重症筋無力症(MG)、鬱血性心不全、周期性四肢麻痺、多発性筋炎、横紋筋融解症、皮膚筋炎、癌性悪液質、AIDS悪液質、心臓悪液質、ストレス誘発性尿失禁、および筋肉減弱症からなる群より選択される。
【0051】
いくつかの態様において、筋細胞群は、骨格筋細胞、平滑筋細胞、心筋細胞、胚性幹細胞由来筋細胞、人工多能性幹細胞由来筋細胞、脱分化筋細胞、またはそれらの組み合わせを含む。いくつかの場合において、筋細胞群は、筋肉幹細胞、衛星細胞、ミオサイト、筋芽細胞、筋管、筋線維、またはそれらの組み合わせを含む。
【0052】
いくつかの態様において、PGE2誘導体は、16,16-ジメチルプロスタグランジンE2を含む。
【0053】
いくつかの態様において、PGE2異化を減衰させる化合物は、15-ヒドロキシプロスタグランジンデヒドロゲナーゼ(15-PGDH)を不活性化もしくは妨害するか、またはプロスタグランジントランスポーター(PTGもしくはSLCO2A1)を不活性化もしくは妨害する、化合物、中和ペプチド、または中和抗体を含む。
【0054】
いくつかの態様において、化合物を投与する段階は、経口、腹腔内、筋肉内、動脈内、皮内、皮下、静脈内、または心臓内投与を含む。いくつかの場合において、化合物は、短期的治療計画に従って投与される。いくつかの例において、短期的治療計画は、対象への化合物の短期的曝露(例えば単回投与)を含む。他の例において、短期的治療計画は、対象への化合物の間欠的曝露(例えば反復投与)を含む。非限定的な例として、短期的PGE2治療計画は、所望の期間にわたる(例えば、2日、3日、4日、5日、6日、または7日の期間にわたる)一連の間欠的な(例えば、毎日の)PGE2投与を含んでよい。
【0055】
他の態様において、投与する段階は、単離された筋細胞群を対象に投与することをさらに含む。単離された筋細胞群は、対象に対して自己由来であってよい。単離された筋細胞群は、対象に対して同種異系であってよい。いくつかの例において、単離された筋細胞群は、実質的に精製されているか、または精製されている。他の例において、単離された筋細胞群は、対象に投与される前に、化合物と共に培養される。単離された筋細胞群を化合物と共に培養する段階は、単離された筋細胞群を短期的に、間欠的に、または連続的に化合物に曝露することを含んでよい。単離された筋細胞群を投与する段階は、細胞を対象に注射または移植することを含んでよい。単離された筋細胞群および化合物は、対象に同時に投与されてよい。あるいは、単離された筋細胞群および化合物は、対象に逐次的に投与されてもよい。
【0056】
別の局面において、それを必要とする対象において、筋肉の損傷、傷害、または萎縮を伴う病態または疾患を予防または治療するための方法が、本明細書において提供される。この方法は、(i)プロスタグランジンE2(PGE2)、PGE2プロドラッグ、PGE2受容体アゴニスト、PGE2異化を減衰させる化合物、PGE2阻害を無効にする化合物、その誘導体、その類似体、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される化合物の治療的有効量ならびに薬学的に許容される担体と、(ii)単離された筋細胞群とを対象に投与して、筋肉の損傷、傷害、または萎縮を伴う病態または疾患を予防または治療する段階を含む。
【0057】
関係する局面において、(i)プロスタグランジンE2(PGE2)、PGE2プロドラッグ、PGE2受容体アゴニスト、PGE2異化を減衰させる化合物、PGE2阻害を無効にする化合物、その誘導体、その類似体、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される化合物の治療的有効量ならびに薬学的に許容される担体と、(ii)単離された筋細胞群とを対象に投与することによって、筋肉の損傷、傷害、または萎縮を伴う病態または疾患を有している対象において筋細胞群の増殖および/または増大を促すための方法が、本明細書において提供される。いくつかの態様において、筋細胞群は、内在する筋細胞群を含む。他の態様において、筋細胞群は、対象に投与された(例えば、注射または移植された)単離された筋細胞群を含む。さらに別の態様において、筋細胞群は、内在する筋細胞群および対象に投与された単離された筋細胞群の両方を含む。特定の態様において、化合物の治療的有効量は、対象において内在筋細胞群を増加させるのに、かつ/もしくは対象に投与された単離された筋細胞群を増加させるのに、かつ/または対象において筋機能を強化するのに十分である量を含む。
【0058】
いくつかの態様において、PGE2誘導体は、16,16-ジメチルプロスタグランジンE2を含む。いくつかの例において、PGE2異化を減衰させる化合物は、15-ヒドロキシプロスタグランジンデヒドロゲナーゼ(15-PGDH)を不活性化もしくは妨害するか、またはプロスタグランジントランスポーター(PTGもしくはSLCO2A1)を不活性化もしくは妨害する、化合物、中和ペプチド、または中和抗体を含む。
【0059】
いくつかの態様において、筋細胞群は、骨格筋細胞、平滑筋細胞、心筋細胞、胚性幹細胞由来筋細胞、人工多能性幹細胞由来筋細胞、脱分化筋細胞、またはそれらの組み合わせを含む。いくつかの場合において、筋細胞群は、筋肉幹細胞、衛星細胞、ミオサイト、筋芽細胞、筋管、筋線維、またはそれらの組み合わせを含む。単離された筋細胞群は、実質的に精製されているか、または精製されていてよい。
【0060】
いくつかの態様において、単離された筋細胞群は、対象に投与される前に、化合物と共に培養される。いくつかの場合において、単離された筋細胞群を化合物と共に培養する段階は、単離された筋細胞群を短期的に、間欠的に、または連続的に化合物に曝露することを含む。
【0061】
いくつかの態様において、単離された筋細胞群は、対象に対して自己由来である。他の態様において、単離された筋細胞群は、対象に対して同種異系である。
【0062】
化合物の投与は、経口、腹腔内、筋肉内、動脈内、皮内、皮下、静脈内、または心臓内投与であってよい。いくつかの場合において、化合物は、短期的治療計画に従って投与される。いくつかの例において、短期的治療計画は、対象への化合物の短期的曝露(例えば単回投与)を含む。他の例において、短期的治療計画は、対象への化合物の間欠的曝露(例えば反復投与)を含む。非限定的な例として、短期的PGE2治療計画は、所望の期間にわたる(例えば、2日、3日、4日、5日、6日、または7日の期間にわたる)一連の間欠的な(例えば、毎日の)PGE2投与を含んでよい。単離された筋細胞群の投与は、細胞を対象に注射または移植する段階を含んでよい。化合物および単離された筋細胞群は、対象に同時に投与されてよい。任意で、化合物および単離された筋細胞群は、対象に逐次的に投与されてもよい。
【0063】
いくつかの態様において、対象は、筋肉の損傷、傷害、または萎縮を伴う病態または疾患を有していると推測されるか、またはそれを発症するリスクを有している。いくつかの場合において、筋肉の損傷、傷害、または萎縮を伴う病態または疾患は、急性の筋肉の傷害または外傷、手の軟部組織傷害、デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)、ベッカー型筋ジストロフィー、肢帯型筋ジストロフィー、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、遠位型筋ジストロフィー(DD)、遺伝性ミオパシー、筋緊張性筋ジストロフィー(MDD)、ミトコンドリアミオパシー、筋細管ミオパシー(MM)、重症筋無力症(MG)、鬱血性心不全、周期性四肢麻痺、多発性筋炎、横紋筋融解症、皮膚筋炎、癌性悪液質、AIDS悪液質、心臓悪液質、ストレス誘発性尿失禁、および筋肉減弱症からなる群より選択される。
【0064】
A 筋細胞の増殖または移植を促すための方法
単離された筋細胞の増殖および/または移植を促すか、または促進するためのインビトロまたはエクスビボの方法が、本明細書において提供される。これらの方法は、単離された筋細胞群を、プロスタグランジンE2(PGE2)、PGE2プロドラッグ、PGE2受容体アゴニスト、PGE2異化を減衰させる化合物、PGE2阻害を無効にする化合物、その誘導体、その類似体、またはそれらの組み合わせと共に培養するか、またはそれらと接触させる段階を含む。化合物は、細胞を維持するか、または増殖させるのに使用される任意の培地に添加されてよい。
【0065】
化合物は、PGE2シグナル伝達を模倣するか、活性化するか、または促すことができる任意の低分子、プロドラッグ、および生物学的産物などであってよい。いくつかの場合において、化合物は、PGE2(すなわち、ジノプロストン)、合成PGE2誘導体(例えば、16,16-ジメチルプロスタグランジンE2;dmPGE2)、合成PGE2類似体、合成PGE2変異体、または筋肉特異的なPGE2変異体である。他の場合において、化合物は、PGE2プロドラッグ、例えば、筋細胞に曝露させた場合、または筋細胞に極めて接近した場合に、代謝されて薬理学的に活性なPGE2薬物になり得るPGE2プロドラッグである。さらに別の場合において、化合物は、PGE2受容体1、PGE2受容体2、PGE2受容体3、およびPGE2受容体4を含むPGE2受容体のいずれか1つのアゴニストであってよい。アゴニストは、1種または複数種のPGE2受容体に特異的に結合できるか、または活性化することができる。いくつかの場合において、化合物は、PGE2を分解または代謝する酵素、例えば15-ヒドロキシプロスタグランジンデヒドロゲナーゼ(15-PGDH)を不活性化または妨害する化合物または中和(阻止)抗体などの、PGE2異化を減衰させるか、邪魔するか、阻害するか、または減少させる化合物であってよい。他の場合において、化合物は、PGE2ならびに/またはPGE2合成、活性、および/もしくは分泌の阻害を妨害するか、邪魔するか、またはそれに対抗する。
【0066】
いくつかの態様において、本明細書において説明する化合物は、静止状態の筋細胞を含む筋細胞の増殖を開始させることができる。単離された筋細胞群は、筋細胞の少なくとも約90%が単一のタイプの筋細胞であるような、筋細胞の純粋または実質的に純粋な集団であってよい。他の態様において、集団は、細胞の約90%未満が1つのタイプの細胞である、筋細胞の混合物である。いくつかの場合において、筋細胞には、対象から採取された骨格筋細胞、平滑筋細胞、および/または心筋細胞が含まれる。他の場合において、筋細胞は、胚性幹細胞、例えばヒト胚性幹細胞、または人工多能性幹細胞、例えばヒト人工多能性幹細胞から生じるか、またはそれらから分化する。さらに他の場合において、筋細胞は、脱分化した筋細胞である。いくつかの態様において、単離された筋細胞群は、筋肉幹細胞、衛星細胞、ミオサイト、筋芽細胞、筋管、筋線維、またはそれらの組み合わせを含む。例えば、単離された筋細胞は、筋肉幹細胞の純粋または実質的に純粋な集団であってよい。あるいは、単離された筋細胞は、衛星細胞の純粋または実質的に純粋な集団であってよい。他の場合において、単離された筋細胞は、筋肉幹細胞、衛星細胞、ミオサイト、筋芽細胞、筋管、筋線維、またはそれらの任意の組み合わせの異種混合物であってよい。したがって、混合物は、筋肉幹細胞および衛星細胞、ならびに任意でミオサイトを含んでよい。
【0067】
いくつかの態様において、筋細胞または人工多能性幹細胞は、筋肉の損傷、傷害、または萎縮を伴う病態または疾患を有している対象に由来する。いくつかの態様において、筋肉の損傷、傷害、または萎縮を伴う病態または疾患は、急性の筋肉の傷害、断裂、または外傷、手の軟部組織傷害、デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)、ベッカー型筋ジストロフィー、肢帯型筋ジストロフィー、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、遠位型筋ジストロフィー(DD)、遺伝性ミオパシー、筋緊張性筋ジストロフィー(MDD)、ミトコンドリアミオパシー、筋細管ミオパシー(MM)、重症筋無力症(MG)、鬱血性心不全、周期性四肢麻痺、多発性筋炎、横紋筋融解症、皮膚筋炎、癌性悪液質、AIDS悪液質、心臓悪液質、ストレス誘発性尿失禁、筋肉減弱症、またはそれらの任意の組み合わせである。
【0068】
特定の態様において、対象において筋細胞移植を促進するためのエクスビボの方法が、提供される。これらの方法は、単離された筋細胞群を、プロスタグランジンE2(PGE2)、PGE2プロドラッグ、PGE2受容体アゴニスト、PGE2異化を減衰させる化合物、PGE2阻害を無効にする化合物、その誘導体、その類似体、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される化合物の有効量と共に培養するか、またはそれらと接触させて、対象において筋細胞の移植を促進する段階を含む。これらの方法はまた、培養または接触させた筋細胞を対象に投与する段階も含む。いくつかの場合において、単離された筋細胞群は、対象に対して自己由来である。他の場合において、単離された筋細胞群は、対象に対して同種異系である。いくつかの態様において、対象はヒトである。いくつかの態様において、対象は、筋肉の損傷、傷害、または萎縮を伴う病態または疾患を有している。いくつかの態様において、これらの方法は、プロスタグランジンE2(PGE2)、PGE2プロドラッグ、PGE2受容体アゴニスト、PGE2異化を減衰させる化合物、PGE2阻害を無効にする化合物、その誘導体、その類似体、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される化合物の治療的有効量と、薬学的に許容される担体とを対象に投与する段階をさらに含む。培養または接触させた筋細胞が対象に投与される前、同時、および/または後に、対象に化合物を投与してよい。いくつかの場合において、単離された筋細胞群は、対象に投与されるまさにその化合物と共に培養されるか、またはそれと接触させられる。他の場合において、単離された筋細胞群は、対象に投与される化合物とは異なる化合物と共に培養されるか、またはそれらと接触させられる。
【0069】
筋細胞は、限定されるわけではないが、胸筋の複合体、広背筋、大円筋および肩甲下筋、腕橈骨筋、二頭筋、上腕筋、方形回内筋、円回内筋、橈側手根屈筋、尺側手根屈筋、浅指屈筋、深指屈筋、短母指屈筋、母趾対立筋、母指内転筋、短母指屈筋、腸腰筋、腰筋、腹直筋、大腿直筋、大殿筋、中殿筋、内側ハムストリング、腓腹筋、外側ハムストリング、四頭筋機構、長内転筋、短内転筋、大内転筋、腓腹筋内側、腓腹筋外側、ヒラメ筋、後脛骨筋、前脛骨筋、長指屈筋、短指屈筋、長母指屈筋、長母指伸筋、手の筋肉、腕の筋肉、足の筋肉、下肢の筋肉、胸部の筋肉、胃の筋肉、背中の筋肉、殿部の筋肉、肩の筋肉、ならびに頭頸部の筋肉などを含む、身体の任意の筋肉から得ることができる。
【0070】
いくつかの態様において、筋細胞は、特定の筋肉から取得され、本明細書において開示する方法に従って増大され、次いで同じ筋肉に移植し戻されるか、あるいは別の筋肉に移植される。いくつかの場合において、筋細胞の供給源および移植部位は、対象の同じ筋肉である。他の場合において、筋細胞の供給源および移植部位は、対象の異なる筋肉である。他の場合において、筋細胞の供給源および移植部位は、異なる対象に由来する、同じタイプの筋肉である。さらに別の場合において、筋細胞の供給源および移植部位は、異なる対象に由来する、異なるタイプの筋肉である。
【0071】
本明細書において開示する化合物は、単離された筋細胞と共に短期的に、間欠的に、または連続的に培養されてよい。いくつかの態様において、化合物を、ある持続期間、単回投与で細胞に曝露させる。他の態様において、化合物を、各投与の間に一定期間、例えば、1日、2日、1週間、またはそれ以上が経過するように、少なくとも2回またはそれより多い回数、細胞に曝露させる。いくつかの態様において、化合物を、ある持続期間にわたって、例えば、化合物濃度も細胞に対する効果も変化させずに、長期的または連続的に細胞に曝露させる。
【0072】
B 対象において、損傷した筋細胞を再生させるための方法
本明細書において提供される方法を用いて、ヒト対象のような対象において筋肉を再生または若返らせることができる。筋肉の再生は、筋肉幹細胞、衛星細胞、筋肉前駆細胞、およびそれらの任意の組み合わせから新しい筋線維を形成することを含む。これらの方法は、筋肉の修復および/または維持を強化または増強するのにも有用である。
【0073】
本発明のPGE2化合物は、筋肉の変性または萎縮が起こっている対象に投与することができる。筋萎縮は、筋量および/または筋力の低下を含み得る。これは、対象の任意の筋肉に影響を及ぼし得る。いくつかの場合において、本明細書において提供される組成物、方法、およびキットを必要としている対象は、例えば、年齢、不活動、傷害、疾患、およびそれらの任意の組み合わせに起因する筋肉減少を示しているか、または経験している。
【0074】
いくつかの態様において、化合物は、筋細胞の増殖、分化、および/または筋細胞の融合を活性化することができる。いくつかの場合において、筋組織は再生される。他の場合において、筋機能(例えば、筋量、筋力、および/または筋収縮)は、修復または強化される。いくつかの場合において、筋力低下および筋萎縮は、改善される。
【0075】
損傷した筋肉は、限定されるわけではないが、胸筋の複合体、広背筋、大円筋および肩甲下筋、腕橈骨筋、二頭筋、上腕筋、方形回内筋、円回内筋、橈側手根屈筋、尺側手根屈筋、浅指屈筋、深指屈筋、短母指屈筋、母趾対立筋、母指内転筋、短母指屈筋、腸腰筋、腰筋、腹直筋、大腿直筋、大殿筋、中殿筋、内側ハムストリング、腓腹筋、外側ハムストリング、四頭筋機構、長内転筋、短内転筋、大内転筋、腓腹筋内側、腓腹筋外側、ヒラメ筋、後脛骨筋、前脛骨筋、長指屈筋、短指屈筋、長母指屈筋、長母指伸筋、手の筋肉、腕の筋肉、足の筋肉、下肢の筋肉、胸部の筋肉、胃の筋肉、背中の筋肉、殿部の筋肉、肩の筋肉、頭頸部の筋肉、顔の筋肉、ならびに眼咽頭の筋肉などを含む、身体の任意の筋肉であってよい。
【0076】
筋再生を必要としている対象は、筋骨格の傷害(例えば、骨折、筋違え、捻挫、急性傷害、およびオーバーユース傷害など)、手足または顔への外傷後損傷、運動競技による傷害、高齢者における骨折後、手の軟部組織傷害、筋萎縮(例えば、筋量の低下)、デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)、ベッカー型筋ジストロフィー、福山型先天性筋ジストロフィー(FCMD)、肢帯型筋ジストロフィー(LGMD)、先天性筋ジストロフィー、顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー(FHMD)、筋緊張性筋ジストロフィー、眼咽頭筋ジストロフィー、遠位型筋ジストロフィー、エメリ・ドレフュス型筋ジストロフィー、先天性筋強直症、筋緊張性ジストロフィー、他の筋ジストロフィー、筋消耗性疾患、例えば、癌に起因する悪液質、末期腎疾患(ESRD)、後天性免疫不全症候群(AIDS)、または慢性閉塞性肺疾患(COPD)、手術後の筋力低下、外傷後の筋力低下、筋肉減弱症、不活動(例えば、筋肉の不使用または不動)、尿道括約筋不全、尿道括約筋不全、ならびに神経筋疾患などを有している場合がある。
【0077】
神経筋疾患の非限定的な例には、酸性マルターゼ欠損症、筋萎縮性側索硬化症、アンダーセン・タウィル症候群、ベッカー型筋ジストロフィー、ベッカー型先天性筋強直症、ベスレムミオパシー、球脊髄性筋萎縮症、カルニチン欠損症、カルニチンパルミチルトランスフェラーゼ欠損症、セントラルコア病、中心核ミオパシー、シャルコー・マリー・トゥース病、先天性筋ジストロフィー、先天性筋無力症候群、先天性筋緊張性ジストロフィー、コリ病、デブランチャー酵素欠損症、デジェリン・ソッタス病、皮膚筋炎、遠位型筋ジストロフィー、デュシェンヌ型筋ジストロフィー、筋強直性ジストロフィー、エメリ・ドレフュス型筋ジストロフィー、内分泌性ミオパシー、オイレンベルク病、顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー、脛骨筋遠位型ミオパシー、フリードライヒ失調症、福山型先天性筋ジストロフィー、糖原病10型、糖原病11型、糖原病2型、糖原病3型、糖原病5型、糖原病7型、糖原病9型、ガワーズ-レイン遠位型ミオパシー、遺伝性封入体筋炎、甲状腺機能亢進性のミオパシー、甲状腺機能低下性のミオパシー、封入体筋炎、遺伝性ミオパシー、インテグリン欠損先天性筋ジストロフィー、脊椎-延髄筋萎縮症、脊髄性筋萎縮症、乳酸デヒドロゲナーゼ欠損症、ランバート・イートン筋無力症症候群、マッカードル病、メロシン欠損型先天性筋ジストロフィー、筋肉の代謝疾患、ミトコンドリアミオパシー、三好型遠位型ミオパシー、運動ニューロン疾患、筋・眼・脳病、重症筋無力症、ミオアデニル酸デアミナーゼ欠損症、筋原線維ミオパシー、筋ホスホリラーゼ欠損症、先天性筋強直症、筋緊張性筋ジストロフィー、筋細管ミオパシー、ネマリンミオパシー、埜中遠位型ミオパシー、眼咽頭筋ジストロフィー、先天性パラミオトニー、ピアソン症候群、周期性四肢麻痺、ホスホフルクトキナーゼ欠損症、ホスホグリセリン酸キナーゼ欠損症、ホスホグリセリン酸ムターゼ欠損症、ホスホリラーゼ欠損症、多発性筋炎、ポンペ病、進行性外眼筋麻痺、脊髄性筋萎縮症、ウルリッヒ型先天性筋ジストロフィー、ウェランダー型遠位型ミオパシー、およびZASP関連ミオパシーなどが含まれるが、それらに限定されるわけではない。
【0078】
筋萎縮(例えば筋消耗)は、例えば、通常の老化(例えば筋肉減弱症)、遺伝子異常(例えば、変異または一塩基多型)、不十分な栄養分、血行不良、ホルモン支援の低下、運動不足に起因する筋肉の不使用(例えば、床上安静、ギプス包帯中の手足の不動など)、老化、筋肉を刺激する神経の損傷、灰白髄炎、筋萎縮性側索硬化症(ALSまたはルー・ゲーリック病)、心不全、肝疾患、糖尿病、肥満、代謝症候群、脱髄性疾患、脱髄疾患(例えば、多発性硬化症、シャルコー・マリー・トゥース病、ペリツェウス・メルツバッヘル病、脳脊髄炎、視神経脊髄炎、副腎白質ジストロフィー、およびギラン・バレー症候群)、除神経、疲労、運動誘発性の筋肉疲労、脆弱、神経筋疾患、衰弱、ならびに慢性疼痛などが原因で生じる場合があるか、またはそれらに関連している場合がある。
【0079】
いくつかの局面において、プロスタグランジンE2(PGE2)、PGE2プロドラッグ、PGE2受容体アゴニスト、PGE2異化を減衰させる化合物、PGE2阻害を無効にする化合物、その誘導体、その類似体、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される化合物の治療的有効量と、薬学的に許容される担体とを対象に投与して、対象において筋細胞群を増加させるか、かつ/または筋機能を強化することによって、それを必要とする対象において筋肉を再生するための方法が、本明細書において提供される。対象の筋細胞群には、骨格筋細胞、平滑筋細胞、心筋細胞、胚性幹細胞由来筋細胞、人工多能性幹細胞由来筋細胞、脱分化筋細胞、またはそれらの任意の組み合わせが含まれ得る。さらに、対象の筋細胞は、筋肉幹細胞、衛星細胞、ミオサイト、筋芽細胞、筋管、筋線維、またはそれらの任意の組み合わせであってよい。化合物は、経口、腹腔内、筋肉内、動脈内、皮内、皮下、静脈内、または心臓内投与によって対象に投与されてよい。いくつかの場合において、化合物は、機能不全の、傷ついた、損傷した、かつ/または萎縮した筋肉に直接的に投与される。化合物は、短期的治療計画(例えば、単回投薬もしくは間欠的投薬)または長期的治療計画(例えば連続的投薬)に従って投与されてよい。
【0080】
いくつかの態様において、対象には、対象に対して自己由来または同種異系のいずれかである単離された(または単離し精製した)筋細胞群もまた、投与される。これらの細胞は、当業者に公知の任意の方法によって単離および/または精製されてよい。これらの細胞は、筋細胞の同種集団または異種集団であってよい。
【0081】
いくつかの態様において、細胞は、それらを対象に投与する前にPGE2化合物と共に細胞を培養することによって、増殖するように刺激される。細胞は、インビトロで培養する間、短期的に、間欠的に、または連続的に化合物に曝露されてよい。いくつかの場合において、筋細胞群は、PGE2化合物と共に培養した後、少なくとも約1%、少なくとも約5%、少なくとも約10%、少なくとも約15%、少なくとも約20%、少なくとも約25%、少なくとも約30%、少なくとも約35%、少なくとも約40%、少なくとも約45%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約90%、少なくとも約100%、少なくとも約200%、少なくとも約500%、少なくとも約1000%、またはそれより多く増加する。
【0082】
対象において筋肉を再生または修復するために、本発明の化合物および単離された筋細胞は、対象に同時に投与される。いくつかの態様において、化合物および培養した筋細胞が、対象に同時に投与される。他の態様において、化合物および単離された筋細胞は、対象に逐次的に投与される。さらに別の態様において、化合物および培養した筋細胞が、対象に逐次的に投与される。
【0083】
本明細書において説明する方法を用いて、筋線維の数を少なくとも約1%、少なくとも約5%、少なくとも約10%、少なくとも約15%、少なくとも約20%、少なくとも約25%、少なくとも約30%、少なくとも約35%、少なくとも約40%、少なくとも約45%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約90%、少なくとも約100%、少なくとも約200%、少なくとも約500%、少なくとも約1000%、またはそれより多く増加させることができる。いくつかの態様において、これらの方法は、損傷した、傷ついた、萎縮した、または変性した筋肉の増殖を増加させることができる。
【0084】
C 筋肉に影響を及ぼす病態または疾患を予防または治療するための方法
本明細書において提供される方法を用いて、それを必要とする対象において、筋肉の損傷、傷害、または萎縮を伴う病態または疾患を予防または治療することができる。この方法は、筋肉の損傷、傷害、または萎縮が起こる可能性が高い対象に、予防的処置を提供し得る。いくつかの態様において、対象は、筋肉に影響を及ぼす二次的症状が生じる可能性がある病態または疾患を有している場合がある。他の態様において、対象は、筋肉の病態または疾患を治療するための外科的介入または治療的介入を受けており、本明細書において開示する方法は、再発またはぶり返しを予防または抑制するために使用される。いくつかの態様において、対象は、筋肉に影響を及ぼす本明細書において説明する病態または疾患のいずれか1つを有している。
【0085】
本明細書において使用される場合、用語「治療」または「治療すること」は、疾患症状の発生前および/あるいは臨床症状発現または病態もしくは疾患の他の症状発現の後に、適切な形態の化合物および/または細胞を投与して、疾患重症度を軽くするか、疾患進行を停止させるか、または疾患をなくすことを含む。疾患「の予防」または疾患を「予防すること」という用語は、好ましくは、病態または疾患に罹患しやすくなっている対象において、病態または疾患の症状の発生を延ばすか、または遅らせることを含む。
【0086】
この方法は、(i)プロスタグランジンE2(PGE2)、PGE2プロドラッグ、PGE2受容体アゴニスト、PGE2異化を減衰させる化合物、PGE2阻害を無効にする化合物、その誘導体、その類似体、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される化合物の治療的有効量ならびに薬学的に許容される担体と、(ii)単離された筋細胞群とを対象に投与して、筋肉の損傷、傷害、または萎縮を伴う病態または疾患を予防または治療する段階を含む。筋細胞は、対象に対して自己由来または同種異系であってよい。
【0087】
化合物は、経口的に、腹腔内に、筋肉内に、動脈内に、皮内に、皮下に、静脈内に、または心臓内注射によって、投与されてよい。化合物は、短期的治療計画(例えば、単回投薬もしくは間欠的投薬)または長期的治療計画(例えば連続的投薬)に従って投与されてよい。単離された筋細胞は、注射または移植によって投与されてよい。いくつかの態様において、化合物および細胞は、一緒にまたは同時に投与される。他の態様において、化合物および細胞は、逐次的に投与される。いくつかの場合において、化合物は、細胞より前に投与される。他の場合において、細胞は、化合物より前に投与される。
【0088】
単離された筋細胞は、対象に注射または移植される前に、実質的に精製されているか、または精製されていてよい。これらの細胞はまた、投与前に、増大させられるか、または培養で増殖するように刺激されてよい。本明細書において説明するように、骨格筋細胞、平滑筋細胞、心筋細胞、胚性幹細胞由来筋細胞、人工多能性幹細胞由来筋細胞、脱分化筋細胞、筋肉幹細胞、衛星細胞、筋芽細胞、ミオサイト、筋管、筋線維、およびそれらの任意の組み合わせを含む単離された筋細胞は、本発明の化合物と共に培養されてよい。細胞に化合物を短期的に、間欠的に、または連続的に曝露させることによって、筋細胞は増殖し、数が増加する。増大した細胞を、筋肉の損傷、傷害、または萎縮が起こっている対象に移植することができる。
【0089】
D プロスタグランジンE2(PGE2)化合物
いくつかの態様において、本発明の化合物は、PGE2、PGE2プロドラッグ、PGE2受容体アゴニスト、PGE2異化を減衰させる化合物、PGE2阻害を無効にする化合物、その誘導体、その類似体、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される。いくつかの場合において、PGE2異化を減衰させる化合物は、15-ヒドロキシプロスタグランジンデヒドロゲナーゼ(15-PGDH)を不活性化もしくは妨害するか、または15-PGDHによる異化のために細胞内部にPGE2を輸送するプロスタグランジントランスポーターを不活性化もしくは妨害する、化合物、中和ペプチド、または中和抗体であってよい。プロスタグランジントランスポーターは、2310021C19Rik、MATR1、Matrin F/Q、OATP2A1、PGT、PHOAR2、SLC21A2、溶質輸送体有機アニオントランスポーターファミリーメンバー2A1、およびSLCO2A1としても公知である。
【0090】
PGE2受容体アゴニストは、低分子化合物、およびPGE2受容体に特異的に結合する活性化抗体などであってよい。いくつかの態様において、この化合物は、PGE2誘導体またはPGE2類似体である。いくつかの態様において、化合物は、PGE2プロドラッグである。PGE2プロドラッグは、例えば、投与もしくは筋再生の部位で、またはプロドラッグを筋細胞に曝露させた場合に、代謝されて薬理学的に活性なPGE2薬物になり得る。
【0091】
特定の態様において、化合物は、PGE2の安定性、活性、分解に対する抵抗性、筋細胞中への輸送(例えば、細胞取込みを促進する)、および/または筋細胞における保持(例えば、取込み後の筋細胞からの分泌を減少させる)を高める、PGE2に対する1つまたは複数の改変を含む、PGE2誘導体またはPGE2類似体である。
【0092】
非限定的に、PGE2誘導体およびPGE2類似体の例には、2,2-ジフルオロ-16-フェノキシ-PGE2化合物、2-デカルボキシ-2-ヒドロキシメチル-16-フルオロ-PGE2化合物、2-デカルボキシ-2-ヒドロキシメチル-11-デオキシ-PGE2化合物、19(R)-ヒドロキシPGE2、16,16-ジメチルPGE2、16,16-ジメチルPGE2 p-(p-アセトアミドベンズアミド)フェニルエステル、11-デオキシ-16,16-ジメチルPGE2、9-デオキシ-9-メチレン-16,16-ジメチルPGE2、9-デオキシ-9-メチレンPGE2、ブタプロスト、スルプロストン、エンプロスチル、PGE2セリノールアミド、PGE2メチルエステル、16-フェニルテトラノルPGE2、5-トランス-PGE2、15(S)-15-メチルPGE2、および15(R)-15-メチルPGE2が含まれる。その他のPGE2誘導体およびPGE2類似体は、例えば米国特許第5,409,911号で説明されている。
【0093】
PGE2誘導体およびPGE2類似体のその他の非限定的な例には、PGE2のヒダントイン誘導体、すなわちヒドロキシシクロペンタノン環が複素環で置換されており、不飽和α-アルケニル鎖がフェネチル鎖で置換されている、Zhao et al.(Bioorganic & Medicinal Chemistry Letters, 17:6572-5 (2007))で説明されているより安定なPGE2類似体、Ungrin et al.(Mol. Pharmacol., 59: 1446-56 (2001))で説明されているPGE2類似体、Tanami et al. (Bioorg. Med. Chem. Lett., 8: 1507-10 (1998))で説明されているPGE2の13-デヒドロ誘導体、ならびに米国特許第8,546,603号および同第8,158,676号で説明されている置換されたシクロペンタンが含まれる。
【0094】
いくつかの態様において、化合物は、PGE2受容体のアゴニスト、例えば、EP1受容体、EP2受容体、EP3受容体、およびEP4受容体である。PGE2 受容体アゴニストの非限定的な例には、ONO-DI-004、ONO-AE1-259、ONO-AE-248、ONO-AE1-329、ONO-4819CD(Ono Pharmaceutical Co., Japan)、L-902688(Cayman Chemical)、CAY10598(Cayman Chemical)、およびCP-533536(Pfizer)が含まれる。その他のPGE2受容体アゴニストは、例えば、米国特許第6,410,591号、同第6,610,719号、同第6,747,037号、同第7,696,235号、同第7,662,839号、同第7,652,063号、同第7622,475号、および同第7,608,637号において説明されている。
【0095】
E 単離された筋細胞
本発明の筋肉(筋原)細胞には、筋肉幹細胞、骨格筋幹細胞、平滑筋幹細胞、心筋幹細胞、筋肉衛星細胞、筋原性前駆細胞、筋原細胞、ミオサイト、筋芽細胞、筋管、有糸分裂後の筋管、多核性筋線維、および有糸分裂後の筋線維が含まれるが、それらに限定されるわけではない。いくつかの態様において、単離された筋細胞は、筋肉幹細胞を含む。他の態様において、単離された筋細胞は、筋肉衛星細胞を含む。筋細胞は、骨髄由来幹細胞のような幹細胞に、または胚性幹細胞もしくは人工多能性幹細胞などの多能性幹細胞に由来してよい。いくつかの態様において、単離された筋細胞には、脱分化筋細胞が含まれる。他の態様において、筋細胞は、いくつかの場合において、疾患に関連する遺伝子変異を訂正するように、遺伝子改変されている。
【0096】
衛星細胞は、筋組織内部に存在し得る小さな単核前駆細胞である。これらの細胞は、増殖し筋細胞に分化するように、およびいくつかの場合においては、筋線維に融合するように誘導され得る。筋肉の損傷または傷害の間、静止状態の衛星細胞(例えば、現時点で分化もしておらず、細胞分裂も起こっていない衛星細胞)および筋肉幹細胞は、活性化されて増殖し得るか、かつ/または筋肉幹細胞ニッチの外へ遊走し得る。衛星細胞および筋肉幹細胞はまた、ミオサイト、筋芽細胞、または他の筋細胞型に分化することもできる。
【0097】
胚性幹細胞から筋細胞を生じさせるための方法およびプロトコールは、例えば、Hwang et al., PLoS One, 2013, 8(8):e72023;およびDarabi et al., Cell Stem Cell, 2012, 10(5):610-9において説明されている。人工多能性幹細胞から筋細胞を生じさせるための方法およびプロトコールは、例えば、Darabi et al., Cell Stem Cell, 2012, 10(5):610-9; Tan et al., PLoS One, 2011;およびMizuno et al., FASEB J., 2010, 24(7):2245-2253において説明されている。
【0098】
いくつかの態様において、筋細胞は、成熟した筋肉または成長した筋肉などの筋肉、例えば、四頭筋、大殿筋、二頭筋、三頭筋、または個体に由来する任意の筋肉からの生検によって得られる。筋肉は、骨格筋、平滑筋、または心筋であってよい。平滑筋幹細胞を単離する方法の詳細な説明は、例えば、米国特許第8,747,838号および米国特許出願公開第20070224167号において見出すことができる。筋組織から筋肉幹細胞または衛星細胞などの関心対象の筋細胞を単離する方法は、例えばBlanco-Bose et al., Exp. Cell Res., 2001, 26592:212-220において詳細に説明されている。
【0099】
関心対象の筋細胞、例えば、筋肉幹細胞、筋肉衛星細胞、ミオサイト、筋芽細胞、筋管、および/または筋線維群を精製するための方法は、特異的な細胞表面マーカーまたは関心対象の筋細胞の細胞表面で発現される特異的ポリペプチドを有している細胞を選択、単離、または高濃度化する段階を含む。有用な細胞表面マーカーは、例えばFukada et al., Front. Physiol., 2013, 4:317において説明されている。フローサイトメトリー、例えば蛍光活性化細胞選別(FACS);磁性ビーズ細胞分離、例えば磁気活性化細胞選別(MACS)、および抗体に基づく他の細胞選別方法などの細胞選別方法を実施して、関心対象の筋細胞を他の細胞型から単離または分離することができる。
【0100】
関心対象の単離された筋細胞群は、培養に基づく従来の方法を用いて増大させるか、または数を増やすことができる。筋細胞を培養するための方法は、例えば米国特許第5,324,656号に記載されている。いくつかの場合において、細胞は、足場またはヒドロゲルのようなゲルの表面で培養される。
【0101】
F 投与方法
本発明の化合物は、対象の傷害部位もしくはその近くに局所的に、または全身に投与されてよい。いくつかの態様において、化合物は、例えば、腹腔内に、筋肉内に、動脈内に、経口的に、静脈内に、頭蓋内に、くも膜下腔内に、脊髄内に、病巣内に、鼻腔内に、皮下に、脳室内に、局所的に、かつ/または吸入によって投与されてよい。化合物は、関心対象の筋細胞と共に、同時または逐次的に投与されてよい。化合物が細胞と同時に投与される場合、化合物と細胞の両方が、同じ組成物中で投与されてよい。別々に投与される場合、化合物は、薬学的に許容される担体中で提供されてよい。いくつかの場合において、化合物は、細胞投与の前または後に投与される。
【0102】
いくつかの態様において、化合物は、短期的治療計画に従って投与される。いくつかの場合において、化合物は、対象に1回投与される。他の場合において、化合物は、1つの時点に投与され、2つ目の時点に再度投与される。さらに他の場合において、化合物は、短期間(例えば、2日、3日、4日、5日、6日、1週、2週、3週、4週、1ヶ月、または1ヶ月超)にわたる間欠的投与として繰り返し(例えば、毎日1回または2回)、対象に投与される。いくつかの場合において、化合物投与間の期間は、約1日、2日、3日、4日、5日、6日、1週、2週、3週、4週、1ヶ月、または1ヶ月超である。他の態様において、化合物は、所望の期間にわたり、長期的治療計画に従って継続的または長期的に投与される。例えば、化合物は、化合物の量またはレベルが、選択された期間にわたって実質的に一定であるように投与され得る。
【0103】
対象への単離された筋細胞の投与は、当技術分野で一般に使用される方法によって遂行することができる。いくつかの態様において、投与は、移植または筋肉内注射のような注射によって行われる。導入される細胞の数は、性別、年齢、体重、疾患または障害のタイプ、障害のステージ、細胞群中の所望の細胞の比率(例えば、細胞群の純度)、および所望の結果をもたらすのに必要とされる細胞数などの因子を考慮に入れる。通常、治療目的で細胞を投与する場合、それらの細胞は、薬理学的有効用量で与えられる。「薬理学的有効量」または「薬理学的有効用量」とは、特に、病態もしくは疾患の1種もしくは複数種の症状もしくは症状発現を軽減することまたはなくすことを含む、病態または疾患の治療のために、所望の生理学的効果をもたらすのに十分な量または所望の結果を達成することができる量である。薬理学的有効用量はまた、本明細書において説明するように細胞と組み合わせて使用される治療的化合物にも適用される。
【0104】
細胞は、1回の注射で、または治療効果を生じさせるのに十分な所定の期間にわたる継続的な注射によって、投与されてよい。治療が継続的な注射を伴う場合、異なる筋細胞群が注射されてよい。下記にさらに説明するような薬学的に許容される担体が、対象に細胞を注射するために使用されてよい。典型的には、これらは、例えば、緩衝生理食塩水(例えばリン酸緩衝生理食塩水)もしくは何も添加していない基底細胞培養培地、または当技術分野において公知の媒体を含む。
【0105】
身体の任意の数の筋肉が、本発明の化合物および/または細胞と共に直接的に注射されてよい。筋肉は、例えば、二頭筋の筋肉;三頭筋の筋肉;腕橈骨筋の筋肉;上腕筋の筋肉(前上腕筋);表在区画手関節屈筋;三角筋;大腿二頭筋、薄筋、ハムストリングの半腱様筋および半膜様筋;大腿直筋、四頭筋の外側広筋、内側広筋、および中間広筋;腓腹筋(外側および内側)、前脛骨筋、ならびにふくらはぎのヒラメ筋;胸部の大胸筋および小胸筋;上背部の広背筋;菱形筋(大および小);頸部、肩、および背中にまたがる僧帽筋;腹部の腹直筋;ならびに殿部の大殿筋、中殿筋、および小殿筋である。
【0106】
G 薬学的組成物
本発明の化合物および細胞を含む薬学的組成物は、薬学的に許容される担体を含んでよい。特定の局面において、薬学的に許容される担体は、一つには、投与される個々の組成物に基づいて、ならびに、その組成物を投与するのに使用される個々の方法に基づいて、決定される。したがって、本発明の薬学的組成物の多種多様の適切な製剤が存在する(例えば、REMINGTON'S PHARMACEUTICAL SCIENCES, 18TH ED., Mack Publishing Co., Eastern, PA (1990))を参照されたい)。
【0107】
本明細書において使用される場合、「薬学的に許容される担体」は、薬学的組成物を製剤化する際に当業者に公知である薬学的に許容された標準的担体のいずれかを含む。したがって、それらだけで、例えば、薬学的に許容される塩または結合体として存在する、細胞または化合物は、薬学的に許容される希釈剤;例えば、生理食塩水、リン酸緩衝液生理食塩水(PBS)、水性エタノール、またはグルコース、マンニトール、デキストラン、プロピレングリコールの溶液、油(例えば、植物油、動物油、合成油など)、微結晶性セルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシルプロピルメチルセルロース、ステアリン酸マグネシウム、リン酸カルシウム、ゼラチン、もしくはポリソルベート80などを用いる製剤として、または適切な賦形剤を用いる固形製剤として、調製されてよい。
【0108】
薬学的組成物はしばしば、1種または複数種の緩衝液(例えば、中性の緩衝生理食塩水またはリン酸緩衝生理食塩水)、炭水化物(例えば、グルコース、マンノース、スクロース、またはデキストラン)、マンニトール、タンパク質、ポリペプチド、またはグリシンのようなアミノ酸、抗酸化剤(例えば、アスコルビン酸、メタ重亜硫酸ナトリウム、ブチルヒドロキシトルエン、ブチルヒドロキシアニソールなど)、静菌剤、EDTAまたはグルタチオンのようなキレート剤、製剤を受取人の血液に対して等張性、低張性、または弱高張性にする溶質、懸濁化剤、増粘剤、保存剤、矯味剤、甘味剤、および着色化合物を必要に応じてさらに含む。
【0109】
本発明の薬学的組成物は、投薬製剤に適合した様式で、かつ治療的に有効であるような量で投与される。投与される量は、例えば、個体の年齢、体重、身体活動、および食生活、治療される病態または疾患、ならびに病態または疾患のステージまたは重症度を含む様々な因子に依存する。特定の態様において、用量の多さはまた、個々の個体において各治療物質の投与に付随する任意の有害な副作用の存在、性質、および程度に基づいても決定され得る。
【0110】
しかし、任意の特定の患者に対する具体的な用量レベルおよび投薬頻度は、様々であってよく、使用される特定の化合物の活性、その化合物の代謝安定性および作用の長さ、年齢、体重、遺伝的特徴、全体的健康状態、性別、食生活、投与の様式および時間、排泄速度、薬物の組み合わせ、個々の病態の重症度、ならびに療法を受ける受容者を含む、様々な因子に依存することが、理解される。
【0111】
特定の態様において、化合物の用量は、好ましくは、正確な投薬量を簡易に投与するのに適した単位剤形の、固体、半固体、凍結乾燥した粉末、または液体の剤形、例えば、錠剤、丸剤、ペレット剤、カプセル剤、散剤、液剤、懸濁剤、乳剤、坐剤、停留浣腸、クリーム剤、軟膏剤、ローション剤、ゲル剤、エアロゾル、またはフォーム剤などの形態をとってよい。
【0112】
本明細書において使用される場合、用語「単位剤形」は、ヒトおよび他の哺乳動物に対する単位投薬量として適した物理的に個別の単位を意味し、各単位は、適切な薬学的賦形剤と共同して所望の作用発現、忍容性、および/または治療効果をもたらすように計算された所定の量の治療物質を含む(例えばアンプル)。さらに、より高濃度の剤形を調製してもよく、次いでそれらから、より希薄な単位剤形を作製してもよい。したがって、より高濃度の剤形は、例えば、少なくとも1倍、2倍、3倍、4倍、5倍、6倍、7倍、8倍、9倍、10倍、または10倍超の量の治療的化合物より実質的に多い量を含む。
【0113】
このような剤形を調製するための方法は、当業者に公知である(例えばREMINGTON'S PHARMACEUTICAL SCIENCES、前記を参照されたい)。典型的には、これらの剤形は、従来の薬学的な担体または賦形剤を含み、他の医薬物質、担体、補助剤、希釈剤、組織透過促進剤、および可溶化剤などをさらに含んでよい。適切な賦形剤は、当技術分野において周知の方法によって、個々の剤形および投与経路に合わせることができる(例えばREMINGTON'S PHARMACEUTICAL SCIENCES、前記を参照されたい)。
【0114】
適切な賦形剤の例には、ラクトース、デキストロース、スクロース、ソルビトール、マンニトール、デンプン、アカシアゴム、リン酸カルシウム、アルギナート、トラガカントゴム、ゼラチン、ケイ酸カルシウム、微結晶性セルロース、ポリビニルピロリドン、セルロース、水、生理食塩水、シロップ、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、およびポリアクリル酸、例えばカーボポール、例えば、カーボポール941、カーボポール980、カーボポール981などが含まれるが、それらに限定されるわけではない。剤形は、タルク、ステアリン酸マグネシウム、および鉱油などの滑沢剤;湿潤剤;乳化剤;懸濁化剤;ヒドロキシ安息香酸メチル、ヒドロキシ安息香酸エチル、およびヒドロキシ安息香酸プロピル(すなわちパラベン)などの保存剤;無機および有機の酸および塩基などのpH調整剤;甘味剤;ならびに矯味剤をさらに含んでよい。剤形はまた、生分解性のポリマービーズ、デキストラン、およびシクロデキストリン包接複合体も含んでよい。
【0115】
経口投与の場合、治療的有効用量は、錠剤、カプセル剤、乳剤、懸濁剤、液剤、シロップ剤、スプレー剤、ロゼンジ、散剤、および徐放性製剤の形態であってよい。経口投与のための適切な賦形剤には、医薬品グレードのマンニトール、ラクトース、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、ナトリウムサッカリン、タルカム、セルロース、グルコース、ゼラチン、スクロース、および炭酸マグネシウムなどが含まれる。
【0116】
治療的有効用量はまた、凍結乾燥された形態で提供されてもよい。このような剤形は、投与前に再構成するために、緩衝剤、例えば重炭酸塩を含んでよく、または緩衝剤が、例えば水を用いて再構成するための凍結乾燥剤形中に含まれてよい。凍結乾燥剤形は、適切な血管収縮薬、例えばエピネフリンをさらに含んでよい。凍結乾燥剤形は、再構成された剤形が個体に直ちに投与され得るように、任意で再構成のための緩衝液と組み合わせて包装された、シリンジに入れて提供されてよい。
【0117】
H キット
本明細書において説明する組成物の他の態様は、単離された筋細胞群と、プロスタグランジンE2(PGE2)、PGE2プロドラッグ、PGE2受容体アゴニスト、PGE2異化を減衰させる化合物(例えば、15-ヒドロキシプロスタグランジンデヒドロゲナーゼ(15-PGDH)阻害剤またはプロスタグランジントランスポーター(PTGもしくはSLCO2A1)阻害剤)、PGE2阻害を無効にする化合物、その誘導体、その類似体、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される化合物とを含むキットである。典型的には、キットは、ガラスまたはプラスチックなどの様々な材料から形成され得る容器を含み、例えば、瓶、バイアル、シリンジ、および試験管を含んでよい。典型的には、ラベルがキットに付いており、ラベルは、任意の文書資料または記録資料を含み、これらは取扱い説明書またはキットの内容物を使用するための他の情報を提供する電子的またはコンピューターで読み取り可能な形態であってよい。
【実施例0118】
V 実施例
以下の実施例は、特許請求される本発明を例示するために提供されるが、それを限定するものではない。
【0119】
実施例1;短期的なプロスタグランジンE2送達により、高齢マウスにおける骨格筋の再生および強度が増強される。
本実施例は、PGE2シグナル伝達が、再生中の筋肉幹細胞の機能に必要とされることを示す。
【0120】
高齢者は、可動性および生活の質を低下させる進行性の骨格筋衰弱および再生不全に苦しんでいる1、2。損傷に反応し一生を通じて骨格筋を修復する準備が整っている、筋組織中のニッチに存在する成熟筋肉幹細胞(MuSC)が、筋再生には非常に重要である3~8。老化の進行中、機能的MuSCの比率は著しく減少して、筋再生を遅らせる9~13。今日まで、MuSCを標的としてこの再生の衰えに対抗する治療物質は、臨床的に使用されていない。本明細書において、本発明者らは、天然の免疫調節薬であるプロスタグランジンE2(PGE2)が、筋再生に不可欠なMuSC機能の強力な調節因子であると同定する。本発明者らは、PGE2受容体であるEP4がインビトロでのMuSC増殖およびマウスでのインビボ移植に不可欠であることを見出した。高齢マウスのMuSCでは、細胞内在分子の欠陥、すなわちPGE2を不活性にするプロスタグランジン分解酵素(15-PGDH)の増加が原因で、PGE2経路が調節異常になっている。この欠陥は、傷ついた筋肉へのMuSC移植と同時に、安定な分解抵抗性PGE2である16,16-ジメチルPGE2(dmPGE2)にMuSCを一時的に短期的に曝露させることによって、克服される。注目すべきことに、dmPGE2のみを1回筋肉内注射するだけで再生を加速させるのに十分であり、これは傷害後に内在MuSC数および筋線維の大きさが早くから増大することから明らかである。さらに、高齢マウスの筋力を生じる能力は、運動によって誘導される再生および短期間dmPGE2治療計画に応答して高まった。本発明者らの知見から、筋肉の再生および強度の強力な誘導物質としてのPGE2の新規な治療適応症が明らかになる。
【0121】
筋再生の潜在能力の衰えに逆らうために、本発明者らは、衛星細胞としても公知のMuSC、すなわち筋再生を専門とする幹細胞群を標的とする治療物質を探し求めた
3~8。一時的な炎症性かつ線維脂肪生成性の応答が、筋再生において非常に重要な役割を果たしていることから
14~17、本発明者らは、加齢によるMuSC機能の衰えを抑え得る、傷害によって誘導される炎症調節物質を同定しようと努めた。本発明者らのトランスクリプトームデータベースの解析により、PGE2、すなわち急性炎症の間の天然かつ強力な脂質メディエーター
18に対するPtger4受容体が、新しく単離されたMuSCの表面で高レベルに発現されていることが明らかになった。筋組織溶解物中で、本発明者らは、ノテキシン注射または寒冷傷害を伴う標準的な傷害例によって若年(2~4ヶ月)マウス筋肉を傷つけてから3日後のPGE2レベルの急激な上昇(
図1Aおよび
図5A)ならびにその合成酵素であるPtgesおよびPtges2の相伴う上方調節(
図1B)を認めた。この早く一時的な時間帯は、傷害後のMuSC増大および炎症性サイトカイン蓄積の詳細に記録が残された動態と一致している
8、15、16。PGE2処理によってMuSC挙動が改善されたか判定するために、本発明者らは、若年マウス(2~4ヶ月)の後肢筋肉からMuSCをFACS精製し
6、幹細胞機能を維持するために剛性が12kpaのヒドロゲル上にそれらを播いた
19。本発明者らは、PGE2(10ng/ml)により、EDU取込みに基づいて検査される細胞分裂が増加したこと(
図1B~1D)および短期的にPGE2に1日曝露することにより、1週間後、対照と比べてMuSCの数が6倍増加したこと(
図1C)を見出した。
【0122】
PGE2は、4種のGタンパク質共役型受容体(Ptger1~4;EP1~4)を介してシグナル伝達することが公知である
18、20が、MuSCにおけるこれらの受容体の発現はこれまで説明されていない。異なる受容体(Ptger1~4)の転写物レベルの解析により、MuSCをPGE2で処理した後に上方調節される受容体はPtger1およびPtger4のみであることが明らかになった(
図5E)。PGE2で刺激されたMuSCでは、細胞内cAMPが増加していたことから
18、20、PGE2がEP4を通してシグナル伝達して、増殖および幹細胞の転写状態を促進することが裏付けられた(
図5F~5H)。EP4アンタゴニストであるONO-AE3-208の存在下では、PGE2によって誘発された増殖が鈍化した(
図1D)。しかし、EP4に対するPGE2の特異性は、creの媒介による条件的切断後の受容体を欠くMuSCにおいて最も明らかに示された(
図1E~1Gおよび
図5I~5J)。実際、増殖因子の豊富な培地の存在下でさえ、これらのEP4欠損MuSCは増殖することができなかった。最終的に、本発明者らは、チャコール処理済み血清を含む培地に曝露させることによって成長停止させたMuSCが
21、PGE2を添加すると分裂することを見出した(
図1Hおよび
図5K)。したがって、PGE2/EP4がMuSC増殖のために必要かつ十分であるものとして目立つ。
【0123】
本発明者らは、老化MuSCについて以前に報告されている筋再生の欠陥がPGE2によって改善され得るかを明らかにしようと努めた
9~13。若年マウス筋肉(2~4ヶ月)とは対照的に、老化筋肉(18~20ヶ月)をノテキシンによって損傷させたところ、PGE2合成は増加しなかった。それどころか、老化筋肉における定常状態PGE2レベルは、傷害後も依然として変わらず(
図2A)、若い肢前脛骨筋(TA)筋肉中より有意に高かった(
図2B)。本発明者らは、老化筋肉中のPGE2が、異化作用の欠陥が原因で機能不全である可能性があるという仮説を立てた。実際、若いTA筋組織および老化TA筋組織中に存在するPGE2を本発明者らが質量分析法によって解析したところ、本発明者らは、不活性型である13,14-ジヒドロ-15-ケトPGE2(PGEM)の相対量が、老化筋組織において有意に増加していることを見出した(
図2C~2Dおよび
図6A~6C)。これは、PGE2をその不活性型に変換する際の最初の段階である、PGE2分解酵素(15-PGDH)をコードするmRNAのレベルが同時に7倍上昇していることに起因すると判明した(
図2E)。対照的に、プロスタグランジントランスポーター(PGT)、PGE2合成酵素、およびEP4受容体の相対的レベルは、若年MuSCと老化MuSCとで違いがなかった(
図7A~7C)。さらに、老化MuSCをPGE2の1日の短時間適用または15-PGDHの阻害剤(SW033291)に曝露した場合
22、15-PGDHの効果は抑えられ、増殖の特徴的な増加およびPax7発現の維持が観察された(
図2Fおよび
図7D)。若年MuSCと同様に、老化MuSCも、チャコール処理済み血清から構成される培地中で増殖することができなかったが、PGE2のみを添加することによって救済された(
図2G)。本発明者らは、老化MuSCでは、PGE2またはSWに短期的に曝露することによって培養時に打ち勝つことができる細胞内在分子の欠陥、すなわち15-PGDH増加が原因で、PGE2経路が調節異常になっていると推察した(
図2H)。
【0124】
老化MuSCは異種混在であるため
10、本発明者らは、単一細胞レベルでのPGE2の効果を明らかにしようと努めた。クローン解析により、全体としての集団の解析では隠れている違いを明らかにすることができる。したがって、本発明者らは、PGE2に一時的に1日曝露させた単一の老化MuSCおよび未処理の対照MuSCを含むヒドロゲル「マイクロウェル」において長期の低速度撮影顕微鏡検査法を実施した。48時間の期間にわたってデータを集め、次いで、細胞トラッキングおよび系統復元のための本発明者らが以前に説明したバクスターアルゴリズムを用いて解析した
10、19、23。本発明者らは、最も頑強なクローンの場合に6世代にまたがって、PGE2に応答して累積的細胞数が顕著に増加することを認めた(
図2I~2J)。PGE2処理後のクローン1個当たりの細胞数は、細胞死の大幅な減少を伴う(
図2Jおよび
図7E~7G)増殖の著しい増加(
図2I~2Jおよび
図7E~7F)によって、有意に増加していた。これらの相乗効果により、PGE2に応答した老化MuSC数の増加が観察されることになった。
【0125】
若年MuSCをPGE2で一時的に処理することにより再生が増強されるかどうかを検証するために、本発明者らは、PGE2処理した培養MuSCを、マウスの傷ついた後肢筋肉に移植した。再生の経時的な変遷パターンを定量的にインビボでモニターするために、本発明者らは、移植後のMuSC機能をモニターするために本発明者らが以前に開発した高感度で定量的な生物発光画像化(BLI)アッセイ法を利用した
6、10、19。MuSCを、GFPおよびルシフェラーゼを発現する若齢トランスジェニックマウス(2~4ヶ月)(GFP/Lucマウス)から単離し、短期的な1日のPGE2処理にさらし、回収し、7日目に移植した。等しい数のdmPGE2処理MuSCおよび対照MuSC(250細胞)を、若齢(2~4ヶ月)NOD-SCIDマウスの傷ついた後肢に移植した。PGE2で短期間処理した後、若年MuSCの再生能力は、BLIによって評価したところ、1桁大きくなっていた(
図3A)。対照的に、条件的な切除が原因でEP4受容体を欠く4倍多い数の培養MuSCを移植した後は(
図3B)、最初は検出されたBLIシグナルが徐々に低下して、有意性の閾値を下回るレベルとなった(
図3B)。
【0126】
さらに、EP4の筋肉幹細胞特異的欠失のマウスモデル(Pax7
CreERT2;EP4
fl/fl)でノテキシン傷害を実施した場合(
図9A~9B)、胚性ミオシン重鎖(eMHC)陽性線維の数の上昇によって観察されるように、筋再生が減退していた(
図9C~9D)。これは、再生時点の最後に(21日目)評価された、Pax7
CreERT2;EP4
fl/f群におけるマウス線維の断面積の減少を伴っていた(
図9E)。力の出力(強縮)の顕著な減少もまた、傷害後14日目に検出された(
図9F~9G)。したがって、EP4受容体を介するPGE2シグナル伝達が、インビボでのMuSC再生に必要とされている。
【0127】
培養を伴わないPGE2の直接的注射が、インビボで再生を促進する上で有効であり得るかを検証するために、本発明者らは、新しく単離したMuSCと一緒にPGE2を同時注射した。後続のすべてのインビボ注射実験において、本発明者らは、修飾した、より安定な形態のPGE2である16,16-ジメチルPGE2(dmPGE2)を使用した
24。本発明者らは、老化MuSCでは15-PGDHが有意に増加しているため(
図2E)、老化MuSC実験の場合、修飾された15-PGDH抵抗性dmPGE2の送達が特に重要であるという仮説を立てた
24。dmPGE2を用いて、本発明者らは、ノテキシン傷害、すなわち十分に認められている幹細胞機能の厳格な試験に応答してさらに増加している、対照と比べて有意に強化された、若年MuSCおよび老化MuSCの移植を観察によって認めた(
図3C~3D)。したがって、MuSC細胞群と一緒にdmPGE2を送達することが、再生を増強するのに十分である。
【0128】
本発明者らは、PGE2のみの送達によって筋再生を促進できると想定した。これを検証するために、心臓毒を用いて若齢マウスの筋肉を傷つけ、3日後、大量のdmPGE2を若齢マウスの後肢筋肉に注射した。本発明者らは、傷害後14日目に基底膜の下および筋線維の上の典型的な衛星細胞ニッチ中の内因性PAX7発現MuSCの増加(60±15%)を観察によって認めた(
図4A~4B)が、傷害がない場合、dmPGE2は効果がなかった。さらに、この早期の時点に、筋線維の分布は、筋線維解析のためのバクスターアルゴリズムを用いて断面積を評価したところ、より大きなサイズにシフトしていたことから、PGE2によって再生が速められることが示唆された(
図4C~4Dおよび
図8A~8B)。さらに、本発明者らは、トランスジェニックマウスモデルPax7
CreERT2;Rosa26-LSL-Lucを用いて傷害およびdmPGE2に対する内在MuSCの応答をルシフェラーゼ発現に基づいて追跡した(
図4E)。BLIデータは、組織学的データと合致していた(
図4F~4G)。
【0129】
本発明者らは、非ステロイド系抗炎症薬(NSAID)であるインドメタシンおよびPGE2合成を減少させるCOX2阻害剤の注射が筋再生に与える影響を調査した。心臓毒による傷害後3日目に、同じPax7
CreERT2;Rosa26-LSL-Lucマウスモデルの後肢筋肉にインドメタシンを注射したところ、本発明者らは、筋肉幹細胞の活性化および再生の障害を示唆する、ルシフェラーゼ活性の顕著な低下を観察によって認めた(
図10A~10B)。心臓毒によって傷つけた筋肉にインドメタシンを注射した場合もまた、傷害後14日目に評価したところ、対照群と比べて、単収縮力の顕著な低下をもたらした(
図10C)。高齢マウスにおいて、本発明者らはまた、dmPGE2の1回注射後、傷害後14日目に内在MuSCの数の実質的増加(24±2%)(
図4H~4I)および筋線維サイズの相伴う増加(
図4J~4K)を認めた。したがって、dmPGE2のみへの曝露は、内因性修復の規模および経時変化に強い影響を与える。
【0130】
最終的な試験として、本発明者らは、dmPGE2によって強化した再生によって、下り坂トレッドミルランニングによって誘発された自然な傷害の後に、筋力が増大し得るかを判定した。この計画の筋書きでは、下り勾配20°の下り坂トレッドミルを毎日10分間走ることによって、損傷を引き起こした
25。1週目の間、処理群の高齢マウスは、連続して5日間走り、運動後にdmPGE2を毎日注射された。2週目の間、処理群の高齢マウスは、連続して5日間走ったが、追加の処理は受けなかった(
図4L)。dmPGE2処理した腓腹筋マウス筋肉(GA)およびdmPGE2で未処理の腓腹筋マウス筋肉(GA)について、単位当たりの単収縮力および強縮力を比較したところ、両方とも有意に増大していた(
図4M~4P)。したがって、運動によって誘発した傷害と同時にdmPGE2に短期的曝露することにより、老いた筋力の顕著な増大が起こり得る。
【0131】
本発明者らは、骨格筋再生においてPGE2の新しい適応症を発見した。骨格筋に対するPGE2の効果についての以前の研究は、PGE2が組織培養されている筋芽細胞の増殖、融合、タンパク質分解、および分化を変化させることを示していた26~30。したがって、これらの研究は、筋芽細胞が幹細胞機能を失った前駆細胞であるため、本発明者らの研究とは異なる。衛星細胞(MuSC)は、発達および再生にとって非常に重要であり3~8、31、それらの数は、若齢および高齢のマウスおよびヒトにおいてランニングまたは他の非常に激しい運動によって増加する15、32~36。非ステロイド系抗炎症剤が、運動によって誘発されるMuSC増加を弱めることが報告されている15、32~36。本発明者らのデータは、効果的な筋再生を特徴付ける炎症15が早期に一時的に強まるという有益な効果には、MuSCの増殖および移植に不可欠であり十分であるPGE2およびその受容体EP4がある程度寄与しているという新規の証拠を提供する。造血組織、肝臓組織、および結腸組織について、15-PGDH阻害剤であるSW033291の送達が再生を強化することが最近示された22。注目すべきことに、PGE2およびその類似体は、例えば、分娩を誘発するため37、および造血幹細胞移植を促進するために38、何十年もヒト患者で安全に使用されているため、傷害後の筋肉を修復する際に臨床使用する道が開かれている。要約すると、本発明者らの知見は、短期的PGE2治療計画が、運動によって誘発された損傷の再生を迅速かつ着実に強化し、加齢に伴う制約を克服して力の増大をもたらすのに十分であることを示す。
【0132】
【0133】
方法
マウス
本発明者らは、スタンフォード大学の学校ガイドラインおよび実験動物のケアに関する管理委員会(APLAC)に従って、すべての実験およびプロトコールを実施した。本発明者らは、老化筋肉の研究のために米国国立老化研究所(NIA)から野生型の高齢C57BL/6(18~20ヶ月)マウスを入手し、Jackson研究室から野生型の若齢C57BL/6マウスを入手した。以前に説明されているようにして、二重トランスジェニックGFP/lucマウスを作製した1。簡単に説明すると、遍在性Actbプロモーターに調節されているホタルルシフェラーゼ(luc)導入遺伝子を発現するマウスを、FVB系統で維持した。遍在性UBCプロモーターに調節されている緑色蛍光タンパク質(GFP)導入遺伝子を発現するマウスを、C57BL/6系統で維持した。本発明者らは、NOD-SCID(Jackson研究室)レシピエントマウスへの同種異系移植実験のために、GFP/lucに由来する細胞を使用した。EP4flox/flox(EP4f /f)マウスは、K. Andreasson(スタンフォード大学)が親切に譲って下さった2。Jackson研究室から得たPax7CreERT2マウス(ストック番号017763)3とJackson研究室から得たRosa26-LSL-Luc(ストック番号005125)4を交雑することによって、二重トランスジェニックPax7CreERT2;Rosa26-LSL-Lucを生じさせた。本発明者らは、PCRに基づく適切な戦略によって、これらの遺伝子型を確認した。トランスジェニック系統に由来するマウスはすべて、若齢であった。すべての系統について、若齢マウスは、2~4ヶ月齢であり、高齢マウスは18~20ヶ月齢であった。これらの研究で使用したマウスはすべて、雌であった。
【0134】
筋肉幹細胞の単離
本発明者らは、以前に説明されているようにして、筋肉幹細胞を単離し高濃度化した1、5、6。簡単に説明すると、穏やかなコラゲナーゼ消化およびMACsディソシエーターによる切り刻みにより、多数の単一線維が解離するのを可能にし、続いて、ディスパーゼ消化によって、単核細胞をそれらのニッチから遊離させた。その後に、磁性ビーズカラム(Miltenyi)を用いて、造血系統を示している細胞および非筋細胞を細胞混合物から激減させた(CD45-/CD11b-/CD31-)。次いで、残存する細胞混合物をFACS解析に供して、CD34マーカーおよびα7-インテグリンマーカーを同時発現しているMuSCを選別した。本発明者らは、FlowJo v10.0を用いてフローサイトメトリー散布図を作成し解析した。各選別のために、本発明者らは、少なくとも3匹の無関係な雌のドナーマウスに由来するMuSC(それぞれ約5000個)を一緒にまとめた。
【0135】
筋肉幹細胞移植
本発明者らは、以前に説明されているようにして
1、5、6、FACS単離後すぐに、または細胞培養物から採取した後に、250個のMuSC(
図3a、3c、および3d)または1,000個のMuSC(
図3b)をレシピエントマウスの前脛骨筋(TA)筋肉に直接的に移植した。若年MuSCの研究の場合、本発明者らは、GFP/lucマウス(2~4ヶ月齢)に由来する細胞を、後肢に放射線照射したNOD-SCIDマウスに移植した。老化MuSCの研究の場合、本発明者らは、以前に説明されているようにして
5、移植前の培養2日目に24時間luc-IRES-GFPレンチウイルス(GFP/lucウイルス)を用いて形質導入された高齢C57BL/6マウス(18~20ヶ月、NIH)に由来する細胞を移植した(詳細については、下記の「筋肉幹細胞培養、処理、およびレンチウイルス感染」のセクションを参照されたい)。筋肉幹細胞を移植する前に、本発明者らは、ケタミン(マウス1匹につき2.4mg)を腹腔内注射することによって、NOD-SCIDレシピエントマウスに麻酔をかけた。次いで、本発明者らは、後肢に線量18 Gyを1回放射線照射し、その際、体の残り部分は鉛のジグに入れて遮蔽した。本発明者らは、放射線照射から2日以内に移植を実施した。記載したように培養細胞を処理し(ビヒクルまたはPGE2処理10ng/ml)、PBS中0.5%トリプシンと共に37℃で2分間インキュベーションすることによってヒドロゲル培養物から採取し、血球計数器を用いて計数した。本発明者らは、所望の細胞濃度で細胞を0.1%ゼラチン/PBS中に再懸濁し、次いで、10μlの体積をTA筋肉に筋肉内注射することによって、それら(1つのTAにつき250個のMuSC)を移植した。新しいMuSC移植のために、本発明者らは、13nmolの16,16-ジメチルプロスタグランジンE2(dmPGE2)(Tocris、カタログ番号4027)またはビヒクル対照(PBS)と共に、選別した細胞を同時注射した。本発明者らは、同じマウスの反対側の下肢のTA筋肉に移植することによって、異なる条件に由来する細胞を比較した。移植後1ヶ月目に、本発明者らは、10μlのノテキシン(10μg/ml
-1、Latoxan, France)を注射して、レシピエント筋肉を傷つけ、MuSCをインビボで活性化した。移植後8週目に、マウスを安楽死させ、解析のためにTAを採取した。
【0136】
生物発光イメージング
本発明者らは、以前に説明されているようにして1、5、6、Xenogen-100システムを用いて生物発光イメージング(BLI)を実施した。簡単に説明すると、本発明者らは、イソフルオラン吸入によってマウスに麻酔をかけ、腹腔内注射によって120μLのD-ルシフェリン(0.1mmol/kg-1、PBSに溶かして再構成、Caliper LifeSciences)を投与した。本発明者らは、ルシフェリン注射後5分の時点に、Fストップ=1.0で60秒の露出時間を用いて、BLIを取得した。デジタル画像を記録し、Living Imageソフトウェア(Caliper LifeSciences)を用いて解析した。本発明者らは、各後肢の全体にわたって配置された一貫した関心領域(ROI)を用いて画像を解析して、生物発光シグナルを算出した。本発明者らは、移植閾値を定める発光シグナル(単位:ラジアンス(ps-1 cm-2 sr-1))の値を104と算出した。このラジアンス閾値104は、以前に報告されている単位p/sの合計フラックス閾値にほぼ等しい。このBLI閾値は、1つまたは複数のGFP+筋線維の組織学的検出に対応している1、5、6。本発明者らは、移植後毎週、BLI画像化を実施した。
【0137】
筋肉傷害
本発明者らは、TA筋肉への10μlのノテキシン(10μg/ml-1;Latoxan)または心臓毒(10μM;Latoxan)の筋肉内注射を伴う傷害モデルを使用した。寒冷傷害の場合、TA筋肉を覆っている皮膚に切開部を作り、液体窒素中で冷却した銅製プローブを3回の10秒間隔でTA筋肉にあてて、クリオプローブの各適用の間に筋肉を解凍状態にさせた。必要である場合、傷害後48時間目に、16,16-ジメチルプロスタグランジンE2(dmPGE2)(13nmol、Tocris、カタログ番号4027)またはビヒクル対照(PBS)のいずれかをTA筋肉に注射した。反対側のTAを内部標準として使用した。本発明者らは、傷害後14日目に、解析のために組織を採取した。
【0138】
Pax7CreERT2;Rosa26-LSL-Lucマウス実験の場合、本発明者らは、タモキシフェンを5回連続して毎日腹腔内注射することによりマウスを処理して、Pax7プロモーターの制御下でのルシフェラーゼ発現を活性化した。最後のタモキシフェン注射後1週目に、10μlの心臓毒(10μM;Latoxan)の筋肉内注射にマウスを供し、本発明者らはこれをアッセイ法の0日目とした。3日後に、13nmolのdmPGE2(13nmol)またはビヒクル対照(PBS)のいずれかをTA筋肉に注射した。反対側のTAを内部標準として使用した。傷害後3日目、7日目、10日目、および14日目に生物発光を調べた。
【0139】
組織の組織学的検査
本発明者らは、以前に説明されているようにして5、6、組織学的検査のためにレシピエントTA筋組織を採取し調製した。本発明者らは、抗ラミニン一次抗体(Miliipore、クローンA5、カタログ番号05-206、1:200)および抗PAX7一次抗体(Santa Craz Biotechnology、カタログ番号sc-81648、1:50)と共に、次いでAlexaFluor二次抗体(Jackson ImmunoResearch Laboratories、1:200)と共に、横断切片をインキュベーションした。本発明者らは、DAPI(Invitrogen)を用いて核を対比染色した。本発明者らは、Plan NeoFluar 10x/0.30NA対物レンズまたはPlan NeoFluar 20x/0.75NA対物レンズ(Carl Zeiss)の付いたAxioPlan2落射蛍光顕微鏡(Carl Zeiss Microimaging)およびSlideBook(3i)ソフトウェアによって管理されるORCA-ERデジタルカメラ(Hamamatsu Photonics)を用いて、画像を取得した。これらの画像を、同じ実験からの全画像に対して一貫したコントラスト調整を用いてAdobe Photoshopによってトリミングした。Adobe Illustratorを用いて複合画像を作成した。本発明者らは、MetaMorph画像解析ソフトウェア(Molecular Devices)を用いてPAX7 陽性細胞の数を解析し、線維を特定し画像中の線維を区分して各線維の面積を解析する筋線維解析のためのバクスターアルゴリズムを用いて、線維面積を解析した。PAX7定量のために、本発明者らは、TAの少なくとも2mmの深さに及ぶ連続切片を検査した。線維面積のために、上記の各マウスについて、400個超の筋線維を含むラミニン染色した筋線維の断面の少なくとも10個の視野を取り込んだ。データ解析は盲検化された。画像取得およびスコア付けを実施する調査員は、解析されるサンプル群に与えられた処理条件を知らなかった。
【0140】
ヒドロゲル製作
本発明者らは、以前に説明されているようにして6合成されたPEG前駆物質から、ポリエチレングリコール(PEG)ヒドロゲルを作った。簡単に説明すると、本発明者らは、MuSCを培養し培養中の幹細胞の運命を維持するための最適条件である厚さ1mmの堅さ12kPa(ヤング率)のヒドロゲルを実現するための公開されている配合を用いることによって、ヒドロゲルを製造した6。本発明者らは、以前に説明されているようにして、クローン増殖実験のために12kPaのヒドロゲルマイクロウェルアレイを作った6。本発明者らは、12ウェルまたは24ウェルの培養プレートの表面領域を覆うように、すべてのヒドロゲルを切り、付着させた。
【0141】
筋肉幹細胞の培養、処理、およびレンチウイルス感染
単離後、本発明者らは、DMEM/F10(50:50)、15%FBS、2.5ng-1/ml線維芽細胞増殖因子-2(FGF-2、bFGFとしても公知)、および1%ペニシリン-ストレプトマイシンを含む筋原細胞培養培地中にMuSCを再懸濁した。本発明者らは、表面積1cm2当たり細胞500個の密度でMuSC懸濁液を播種した。本発明者らは細胞培養物を5%CO2中37℃で維持し、培地を毎日交換した。PGE2処理、15-PGDH阻害剤処理、およびEP4受容体アンタゴニスト処理を研究するために、本発明者らは、1~200ng/mlのプロスタグランジンE2(Cayman Chemical)(図面の凡例で指定されていない限り、10ng/mlが、使用した標準濃度であった)、および/もしくは1μM EP4アンタゴニスト(ONO-AE3-208, Cayman Chemical)、または1μM 15-PGDH阻害剤(SW033291、Cayman Chemical)を、コラーゲンでコーティングされたシャーレで培養されたMuSCに最初の24時間、添加した。次いで、細胞をトリプシン処理し、ヒドロゲルに細胞を再び播種してさらに6日間培養した。処理はすべて、溶媒(DMSO)ビヒクル対照と比較した。除去済み血清アッセイ法のために、本発明者らは、DMEM/F10(50:50)、15%チャコール処理済みFBS(Gibco、カタログ番号12676011)、2.5ng/ml-1 bFGF、および1%ペニシリン-ストレプトマイシンを含む培地に、単離MuSCを再懸濁した。図面に注釈をつけた場合、本発明者らは、除去済み血清細胞培地に1.5μg/mlインスリン(Sigma、I0516)および0.25μMデキサメタゾン(Sigma、D8893)をさらに追加した。これらの実験のために、MuSCをヒドロゲル上で培養し、培地を交換する度に(2日毎)、ビヒクル(DMSO)または10ng/ml PGE2(Cayman Chemical)を培養物に添加した。7日後に、増殖(下記を参照されたい)を調べた。
別段の注釈がない限り、本発明者らは、1週間の培養後にすべてのMuSC培養アッセイ法および移植を実施した。老化MuSCの移植を研究する場合、本発明者らは、以前に説明されているようにして3、培養中に24時間、MuSCを伸長因子1aプロモーター駆動性luc-IRES-GFPをコードするレンチウイルス(GFP/lucウイルス)に感染させた。EP4f/fMuSCを研究する場合、本発明者らは、前述(筋肉幹細胞単離)のようにMuSCを単離し、全細胞をGFP/lucウイルスに感染させ、それらの一部を、培養中に24時間、pLM-CMV-R-Creをコードするレンチウイルス(mCherry/Creウイルス)に同時感染させた。pLM-CMV-R-Creは、Michel Sadelainから頂いた(Addgeneプラスミド27546番)7。本発明者らは、老化MuSC(250個の細胞)またはEP4f/fMuSC(1,000個の細胞)を、NOD-SCIDレシピエントマウスの若い(2~4ヶ月)18gy放射線照射済TAに移植した。インビトロ増殖アッセイ法のために、感染後にEP4f/fMuSCをヒドロゲル上に播き、ビヒクル(DMSO)または10ng/ml PGE2で24時間処理し、3日後に増殖を調べた。感染後48時間目に、倒立型蛍光顕微鏡(Carl Zeiss Microimaging)を用いて、細胞のGFPおよび/またはmCherryの発現を調べた。MuSCは、FACSによってマウスから新たに単離し、最長で1週間の期間、培養状態におき、従って、マイコプラズマ汚染は評価されていない。
【0142】
増殖アッセイ法
増殖を調べるために、本発明者らは、3種の異なるアッセイ法(血球計数器、VisionBlue、およびEdU)を使用した。それぞれについて、本発明者らは、平らなヒドロゲル(血球計数器およびVisionBlue)またはコラーゲンでコーティングしたプレート(EdUアッセイ法)上に、表面積1cm2当たり細胞500個の密度でMuSCを播種した。血球計数器で細胞数を計数する場合、本発明者らは、PBS中0.5%トリプシンと共に37℃で5分間インキュベーションすることによって、指定の時点に細胞を採取し、血球計数器を用いて少なくとも3回、それらを定量した。さらに、本発明者らは、培養時の細胞増殖の読み取りとして、VisionBlue迅速細胞生存度蛍光アッセイ法キット(BioVision、カタログ番号K303)を用いた。簡単に説明すると、本発明者らは、培地に溶かした10% VisionBlueと共にMuSCを3時間インキュベーションし、Ex=530~570nm、Em=590~620nmで蛍光プレートリーダー(Infinite M1000 PRO、Tecan)を用いて蛍光強度を測定した。本発明者らは、Click-iT EdU Alexa Fluor 555画像化キット(Life Technologies)を用いて増殖を調べた。簡単に説明すると、本発明者らは、固定前に1時間、生細胞をEdU(20μM)と共にインキュベーションし、抗ミオゲニン(Santa Cruz、カタログ番号sc576、1:250)と一緒に製造業者のガイドラインに従って核を染色して、分化を調べた。本発明者らは、DAPI(Invitrogen)を用いて核を対比染色した。本発明者らは、Plan NeoFluar 10x/0.30NA対物レンズまたはPlan NeoFluar 20x/0.75NA対物レンズ(Carl Zeiss)の付いたAxioPlan2落射蛍光顕微鏡(Carl Zeiss Microimaging)およびSlideBook(3i)ソフトウェアによって管理されるORCA-ERデジタルカメラ(Hamamatsu Photonics)を用いて、画像を取得した。本発明者らは、MetaMorph画像解析ソフトウェア(Molecular Devices)を用いてEdU陽性細胞を定量した。データ解析は盲検化され、細胞のスコア付けを実施する調査員は、解析されるサンプル群に与えられた処理条件を知らなかった。
【0143】
クローン筋肉幹細胞の増殖および運命解析
本発明者らは、以前に説明されているようにして5、6、低速度撮影顕微鏡検査法によってクローン筋肉幹細胞の増殖を調べた。簡単に説明すると、本発明者らは、単離した老化MuSCをPGE2(Cayman Chemical)またはビヒクル(DMSO)で24時間処理した。ヒドロゲル上で5日間増殖させた後、細胞を、直径600μmのヒドロゲルマイクロウェル中に表面積1cm2当たり細胞500個の密度で再度播種した。低速度撮影顕微鏡検査法のために、本発明者らは、単細胞を含む上記のウェルにおける細胞増殖を播種後12時間目(0日)から始めて2日目までモニターし、個別仕様の環境制御チャンバーおよび電動式載物台を備えたPALM/AxioObserver Z1システム(Carl Zeiss MicroImaging)を用いて倍率10倍で3分毎に画像を記録した。本発明者らは、取得時間間隔の間に1日おきに培地を交換した。本発明者らは、細胞トラッキングおよび系統復元のためのバクスターアルゴリズムを用いて一連の低速度撮影画像を解析して、単細胞を特定および追跡し、系統樹を作成した5、6、8~10。
【0144】
生存細胞および死細胞を、それぞれ位相差の境界および運動性の維持または低下に基づいて、一連の低速度撮影物において区別した。本発明者らは、2つの条件における増殖(分裂)および死滅の速度が、時間とともに変わることを発見した。したがって、本発明者らは、1回目の24時間の期間および2回目の24時間の期間の速度を別々に推定した。これらの値は、
6で説明されている式を用いて推定し、表1に記載した。本発明者らは、2つの期間における増殖速度p
24およびp
48ならびに対応する死滅速度d
24およびd
48を示している。例として、2回目の24時間の期間の処理条件での増殖速度は、5.38%/時間である。表 1(下記)は、2つの条件での増殖および死滅の速度は、1回目の期間では同様であること、ならびに実験の終了時の細胞数の差が、2回目の期間の間の分裂速度と死滅速度の両方の差に起因することを示している。これら2つの期間のモデルとされる細胞数は、以下の式によって与えられる。
上式で、c
0は、開始時の細胞数である。モデルとなる曲線は、
図7Fにおいて実際の細胞数と共にプロットしている。
【0145】
(表1)時間当たりの推定増殖速度および推定死滅速度
【0146】
データ解析は盲検化された。画像取得およびスコア付けを実施する調査員は、解析されるサンプル群に与えられた処理条件を知らなかった。
【0147】
定量的RT-PCR
本発明者らは、RNeasyマイクロキット(Qiagen)を用いてMuSCからRNAを単離した。筋肉試料の場合、本発明者らは、組織を液体窒素中で急速凍結し、乳鉢および乳棒を用いて組織を均質化し、続いて注射器および針で粉砕し、次いでトリゾール(Invitrogen)を用いてRNAを単離した。本発明者らは、SensiFAST(商標)cDNA合成キット(Bioline)を用いて、各試料に由来する全mRNAからcDNAを逆転写した。本発明者らは、ABI 7900HTリアルタイムPCRシステム(Applied Biosystems)においてSYBR Green PCRマスターミックス(Applied Biosystems)またはTaqMan Assays(Applied Biosystems)を用いるRT-PCRにcDNAを供した。本発明者らは、95℃で10分間、次いで95℃で15秒および60℃で1分のサイクルを40回で、試料を循環させた。相対的な転写物レベルを定量するために、本発明者らは、2-ΔΔCtを用いて処理試料および未処理試料を比較し、その結果をGapdhと比べて表した。SYBR Green qRT-PCRのために、本発明者らは以下のプライマー配列を使用した
TaqManユニバーサルPCRマスターミックス試薬キット(Applied Biosystems)と共に、TaqManアッセイ法(Applied Biosystems)を製造業者の取扱い説明書に従って用いて、試料中のPax7、ミオゲニン、Slco2a1 (PGT)、Ptger3、およびPtger4を定量した。転写物レベルは、Gapdhレベルと比べて表した。SYBRグリーンqPCRの場合、Gapdh qPCRを用いてインプットcDNA試料を標準化した。Taqman qPCRの場合、マルチプレックスなqPCRによって、標的シグナル(FAM)を内部のGapdhシグナル(VIC)に基づいて個別に標準化することができた。
【0148】
PGE2 ELISA
筋肉を採取し、インドメタシン(5.6μg/ml)を含む氷冷PBS中ですすぎ、液体窒素中で急速凍結した。凍結した試料を液体窒素中で微粉砕した。この粉末を、500μlの溶解緩衝液(50mM Tris-HCl pH 7.5、150mM NaCl、4mM CaCl、1.5% Triton X-100、プロテアーゼインヒビター、および小球菌ヌクレアーゼ)を入れたエッペンドルフチューブに移し、次いで、組織ホモジナイザーを用いてホモジナイズした。上清のPGE2レベルをPGE2 ELISAキット(R&D Systems、カタログ番号KGE004B)を用いて測定し、BCAアッセイ法(BioRad)によって測定したタンパク質総量と比べて表し、PGE2のngとして表した。各試料は、2つ1組で、2回の独立した実験のそれぞれにおいて調べた。
【0149】
cAMP活性アッセイ法
MuSCをDMSO(ビヒクル)またはPGE2(10ng/ml)で1時間処理し、製造業者(Promega)によって最適化されたcAMP-Gloアッセイ法プロトコールに従って環状AMPレベルを測定した。各試料は、3つ1組で、2回の独立した実験において調べた。
【0150】
フローサイトメトリー
本発明者らは、ビヒクル(DMSO)またはPGE2(10ng/ml)による最初の短期的(24時間)処理後、ヒドロゲル上で7日間培養した後、MuSCのアポトーシスの読み取りとして、アネキシンVを調べた。本発明者らは、製造業者のプロトコールに従ってFITCアネキシンVアポトーシス検出キット(Biolegend、カタログ番号640914)を使用した。本発明者らは、NIH S10共用機器助成金(S10RR027431-01)を用いて購入した共用FACS設備において、FACSDivaソフトウェア(BD Biosciences)を用いるFACS LSR IIサイトメーターによって、細胞のアネキシンVを解析した。
【0151】
質量分析
分析物:
プロスタグランジン標準物質―PGF2α;PGE2;PGD2:15-ケトPGE2;13,14-ジヒドロ15-ケトPGE2;PGE2-D4;およびPGF2α-D9―はすべて、Cayman Chemicalから購入した。PGE2-D4内部標準のために、3位および4位を合計4個の重水素原子で標識した。PGF2α-D9の場合、17位、18位、19位、および20位を合計9個の重水素原子で標識した。
【0152】
較正曲線の作成:
分析物原液(5mg/mL)をDMSO中で調製した。これらの原液をアセトニトリル/水(体積比1:1)で段階的に希釈して、一連の標準使用液を得、これらを用いて較正曲線を作り出した。10uLの各準使用液を200μLのホモジナイゼーション緩衝液(アセトン/水 体積比1:1;酸化防止のための0.005%BHT)に添加し、続いて10uLの内部標準溶液(3000 ng/mL、それぞれPGF2α-D9およびPGE2-D4)を追加することによって、較正曲線を作成した。較正曲線は、各試料セットを用いて新しく作成した。較正曲線の範囲:PGE2および13,14-ジヒドロ15-ケトPGE2の場合、0.05ng/mL~500ng/mL;PGD2およびPGF2αの場合、0.1ng/mL~500ng/mL;ならびに15-ケトPGE2の場合、0.025ng/mL~500ng/mL。
【0153】
抽出手順:
抽出手順は、Prasain et al.11のものを改変し、アセトンタンパク質沈殿とそれに続く2段階液液抽出を含んだ;後者の段階は、LC-MS/MSの感度を高める。ブチルヒドロキシトルエン(BHT)および窒素(N2)ガス下での蒸発を用いて、酸化を防止した。
【0154】
固形組織を採取し、計量し、液体窒素を用いて急速凍結した。筋組織を、ポリプロピレンチューブ中でホモジナイゼーションビーズおよび200μLのホモジナイゼーション緩衝液と混合し、FastPrep 24ホモジナイザー(MP Biomedicals)において速度6m/sで40秒間、処理した。ホモジナイゼーション後、10μlの内部標準溶液(3000ng/mL)を組織ホモジネートに添加し、続いて、超音波処理し10分間振盪した。試料を遠心分離し、上清を清潔なエッペンドルフチューブに移した。200μLのヘキサンを試料に加え、続いて15分間振盪し、次いで遠心分離した。試料を-80℃で40分間、凍結した。凍結した下側の水層からヘキサン層を流し出し、廃棄した。解凍後、25μLの1Nギ酸を下側の水層に加え、試料をボルテックスした。2回目の抽出のために、200μLのクロロホルムを水相に加えた。試料を15分間振盪して、完全に抽出されるように徹底した。遠心分離を実施して、これらの層を分離させた。下側のクロロホルム層を新しいエッペンドルフチューブに移し、40℃、窒素中で蒸発乾固させた。乾燥した残留物を100μlのアセトニトリル/10mM酢酸アンモニウム(体積比2:8)中で再構成し、LC-MS/MSによって解析した。
【0155】
LC-MS/MS:
多くのプロスタグランジンは、質量が同じであり断片化パターンが類似している位置異性体であるため、クロマトグラフィー分離が不可欠である。2つのSRMトランジション―1つのクオンティフィアおよび1つのクオリフィア―を各分析物に対して慎重に選択した。特徴的なクオリフィアイオン強度比および保持時間は、標的分析物を確認するのに不可欠であった。解析はすべて、LC-20ADXRプロミネンス液体クロマトグラフおよび8030三連四重極型質量分析計 (Shimadzu)を用いるネガティブエレクトロスプレーLC-MS/MSによって実施した。HPLC条件:Acquity UPLC BEH C18 2.1x100mm、粒径1.7umのカラムを50℃、流速0.25mL/分で作動させた。移動相は、A:0.1%酢酸水溶液およびB:アセトニトリルに溶かした0.1%酢酸からなった。溶離プロファイル:最初に35%Bで5分間保持し、続いて、3分間で35%から40%まで、次いで3分間で40%から95%までの勾配;合計実行時間は14分であった。注入体積は20μLであった。これらのHPLC条件を用いて、本発明者らは、関心対象の分析物のベースライン分離を実現した。
【0156】
選択的反応モニタリング(SRM)を定量のために使用した。質量トランジションは次のとおりであった:PGD2:m/z351.10→m/z315.15(クオンティフィア)およびm/z351.10→m/z233.05(クオリフィア);PGE2:m/z351.10→m/z271.25(クオンティフィア)およびm/z351.10→m/z315.20(クオリフィア);PGF2α:m/z353.10→m/z309.20(クオンティフィア)およびm/z353.10→m/z193.20(クオリフィア);15ケト-PGE2:m/z349.30→m/z331.20(クオンティフィア)およびm/z349.30→m/z113.00(クオリフィア);13,14-ジヒドロ15-ケトPGE2:m/z351.20→m/z333.30(クオンティフィア)およびm/z351.20→m/z113.05(クオリフィア);PGE2-D4;m/z355.40→m/z275.20;ならびにPGF2α-D9: m/z362.20→m/z318.30。滞留時間は、20~30ミリ秒であった。
【0157】
定量解析は、LabSolutions LCMS(Shimadzu)を用いて行った。内部標準法を定量のために使用した:PGE2、15-ケトPGE2、および13,14-ジヒドロ15-ケトPGE2の定量のための内部標準としてPGE2-D4を使用した。PGF2α-D9は、PGD2およびPGF2αの定量のための内部標準であった。1/X2(Xは濃度である)の加重係数を用いた濃度範囲にわたって、較正曲線は直線的(R>0.99)であった。逆算した標準濃度は、名目上の値からは±15%であり、定量下限(LLOQ)では±20%であった。
【0158】
インビボでの筋力測定
高齢マウス(18ヶ月)を、2週間連続の下り坂トレッドミル走行に供した。第1週の間、マウスは5日間毎日走り、6日目および7日目に休息した。第1週の間の各トレッドミル走行後2時間目に、各マウスの両脚の各(外側および内側の)腓腹筋(GA)筋肉に、PBS(ビヒクル対照)または13nM dmPGE2(実験群)のいずれかの1回分を注射した。第2週の間、マウスを5日間のトレッドミル走行のみに供した。トレッドミル走行は、Exer3/6 (Columbus Instruments)を用いて実施した。マウスは、7メートル/分の速度で始めて、20°の下り坂のトレッドミルを10分間走った。3分後から、速度を1メートル/分ずつ速くして、最終速度を14メートル/分とした。電気的刺激にも関わらずトレッドミル上に動物がとどまることができない状態として定義される極度疲労が、独立した対照の高齢マウス群において12分の中央値で観察されたことから、10分間の走行時間を選択した。力の測定は、以前に公開されているプロトコールに基づいて、第5週にGA筋肉において行った5。簡単に説明すると、各マウスについて、GAを露出させるために切開部を作った。本発明者らは、無傷のアキレス腱を伴う踵骨を切断し、腱-骨複合体を細い金属製フックを用いて300C-LRフォーストランスデューサー(Aurora Scientific)に取り付けた。筋肉および腱は、生理食塩水(0.9%塩化ナトリウム)溶液で定期的にぬらすことによって、湿った状態に保った。下肢は、脚への血液供給を損なわないように金属製クランプを用いて膝より下の部分を固定した。力の測定手順の間ずっと、マウスには吸入麻酔薬(2%イソフルオラン)を与え、加熱ランプによって体温を維持した。いずれの測定においても、本発明者らは、所定の超最大刺激電圧で0.1msのパルスを使用した。GA筋肉は、2mAの定電流を送る(方形波幅0.1ms)双極電気刺激カフを用いて、近位坐骨神経を介して刺激した。単収縮力測定の場合、1回の0.1msパルスによってGA筋肉を刺激し、強縮力測定の場合、150Hz、0.3秒のパルスの列でGA筋肉を刺激した。本発明者らは、各筋肉に対して5回の単収縮力測定、次いで5回の強縮力測定を実施した。その際、1群当たりn=5匹のマウスを用い、各測定の間に2~3分回復させた。データはPCI-6251取得カード(National Instruments)を用いて集め、Matlabで解析した。本発明者らは、対照群とPGE2処理実験群とで類似している筋肉の生理学的断面積(PCSA)に基づいて力の測定値を標準化することによって、単位当たりの力の値を算出した(表2)。PCSA(単位mm2で測定)は、以下の式に従って算出した12:
PCSA(mm2)=[質量(g)×Cosθ]÷[p(g/mm3)×線維長(mm)]
上式で、θは、線維の羽状角であり、pは筋密度(0.001056g/mm3)である。
【0159】
統計学的解析
本発明者らは、少なくとも3回の独立した実験において細胞培養実験を実施し、各実験では3つの生物学的レプリケートをまとめた。通常、本発明者らは、少なくとも2回の独立した実験においてMuSC移植実験を実施し、その際、条件1つにつき少なくとも合計3~5回の移植を行った。本発明者らは、対応のあるt検定を実験のために用い、対照試料はインビトロでは同じ実験から、またはインビボでは反対側の肢筋肉から得た。ノンパラメトリックなマンホイットニーの検定を使用して、未処理群(-)と処理群(PGEまたはdmPGE2)との有意差をα=0.05を用いて判定した。図の凡例に示したようにボンフェローニ補正を用いて決定した有意レベルまたはフィッシャーの検定を用いて、多重比較のためにANOVAまたは多重t検定を実施した。別段の説明がないかぎり、データは、平均値±平均値の標準誤差として示す。
【0160】
【0161】
(表2)運動後5週目の老化腓腹筋の生理学的横断面積(PCSA)
【0162】
実施例2:プロスタグランジンE2(PGE2)注射後の筋力増大
本実施例は、PGE2を注射された高齢マウスにおいて腓腹筋の単位当たり単収縮力が増大していることを示す。高齢マウス(18ヶ月齢)を、10日間毎日、極度疲労するまでトレッドミル走行に供した。トレッドミル走行は、Exer3/6 (Columbus Instruments)を用いて実施した。マウスは、10メートル/分の速度で始めて、20°の下り坂のトレッドミルを走行した。3分後から、速度を1メートル/分ずつ速くして、最終速度を20メートル/分とした。極度疲労を、電気的刺激にも関わらずトレッドミル上に動物がとどまることができない状態と定義した。各トレッドミル走行後2時間目に、各マウスの両方の腓腹筋にPBS(対照群)または3nM PGE2(実験群)のいずれかを注射した。最後のトレッドミル走行後4週目に、所定の超最大刺激電圧で0.1msのパルスを1回与え、300C-LRフォーストランスデューサー(Aurora Scientific)を用いて、力の測定を実施した。
【0163】
単一の腓腹筋の代表的な未加工の筋力トレースを
図4M~4Nに提供している。筋力および同期パルスは、PCI-6251取得カード(National Instruments)を通して記録し、Matlabを用いて解析した。
図4O~4Pは、筋肉の生理学的横断面積を用いて力の測定値を標準化することによって算出した、単位当たりの筋力の値を示す。単位当たり単収縮力の値(kN/m
2)は、最小値、最大値、および中央値を示す箱ひげ図を用いて表している。各筋肉から、5つの反復測定値を得た。対照群はN=4であり、PGE2注射群はn=5。**は、両側マンホイットニー検定によってp<0.005の統計学的に有意な値を表す。
【0164】
VI 例示的な態様
本発明によって開示される主題に基づいて提供される例示的態様には、特許請求の範囲および以下の態様が含まれるが、それらに限定されるわけではない。
1. 単離された筋細胞群を、プロスタグランジンE2(PGE2)、PGE2プロドラッグ、PGE2受容体アゴニスト、PGE2異化を減衰させる化合物、PGE2阻害を無効にする化合物、その誘導体、その類似体、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される化合物と共に培養する段階
を含む、単離された筋細胞群の増殖を促すための方法。
2. 単離された筋細胞群が精製される、態様1記載の方法。
3. 単離された筋細胞群が、骨格筋細胞、平滑筋細胞、心筋細胞、胚性幹細胞由来筋細胞、人工多能性幹細胞由来筋細胞、脱分化筋細胞、またはそれらの組み合わせを含む、態様1または2記載の方法。
4. 単離された筋細胞群が、筋肉幹細胞、衛星細胞、ミオサイト、筋芽細胞、筋管、筋線維、またはそれらの組み合わせを含む、態様1~3のいずれか1つに記載の方法。
5. 単離された筋細胞群が対象から得られる、態様1~4のいずれか1つに記載の方法。
6. 対象が、筋肉の損傷、傷害、または萎縮を伴う病態または疾患を有している、態様5記載の方法。
7. 筋肉の損傷、傷害、または萎縮を伴う病態または疾患が、急性の筋肉の傷害または外傷、手の軟部組織傷害、デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)、ベッカー型筋ジストロフィー、肢帯型筋ジストロフィー、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、遠位型筋ジストロフィー(DD)、遺伝性ミオパシー、筋緊張性筋ジストロフィー(MDD)、ミトコンドリアミオパシー、筋細管ミオパシー(MM)、重症筋無力症(MG)、鬱血性心不全、周期性四肢麻痺、多発性筋炎、横紋筋融解症、皮膚筋炎、癌性悪液質、AIDS悪液質、心臓悪液質、ストレス誘発性尿失禁、および筋肉減弱症からなる群より選択される、態様6記載の方法。
8. PGE2誘導体が16,16-ジメチルプロスタグランジンE2を含む、態様1~7のいずれか1つに記載の方法。
9. PGE2異化を減衰させる化合物が、
15-ヒドロキシプロスタグランジンデヒドロゲナーゼ(15-PGDH)を不活性化もしくは妨害するか、またはプロスタグランジントランスポーター(PTGもしくはSLCO2A1)を不活性化もしくは妨害する、化合物、中和ペプチド、または中和抗体
を含む、態様1~7のいずれか1つに記載の方法。
10. 単離された筋細胞群を化合物と共に培養する段階が、該単離された筋細胞群を短期的に、間欠的に、または連続的に該化合物に曝露することを含む、態様1~9のいずれか1つに記載の方法。
11. 対象において筋細胞の移植を促進するために、単離された筋細胞群を、プロスタグランジンE2(PGE2)、PGE2プロドラッグ、PGE2受容体アゴニスト、PGE2異化を減衰させる化合物、PGE2阻害を無効にする化合物、その誘導体、その類似体、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される化合物の有効量と共に培養する段階、ならびに
培養した筋細胞を該対象に投与する段階
を含む、対象において筋細胞移植を促進するための方法。
12. 単離された筋細胞群が精製される、態様11記載の方法。
13. 単離された筋細胞群が、骨格筋細胞、平滑筋細胞、心筋細胞、胚性幹細胞由来筋細胞、人工多能性幹細胞由来筋細胞、脱分化筋細胞、またはそれらの組み合わせを含む、態様11または12記載の方法。
14. 単離された筋細胞群が、筋肉幹細胞、衛星細胞、ミオサイト、筋芽細胞、筋管、筋線維、またはそれらの組み合わせを含む、態様11~13のいずれか1つに記載の方法。
15. 単離された筋細胞群が、前記対象に対して自己由来である、態様11~14のいずれか1つに記載の方法。
16. 単離された筋細胞群が、前記対象に対して同種異系である、態様11~14のいずれか1つに記載の方法。
17. 前記対象が、筋肉の損傷、傷害、または萎縮を伴う病態または疾患を有している、態様11~16のいずれか1つに記載の方法。
18. 筋肉の損傷、傷害、または萎縮を伴う病態または疾患が、急性の筋肉の傷害または外傷、手の軟部組織傷害、デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)、ベッカー型筋ジストロフィー、肢帯型筋ジストロフィー、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、遠位型筋ジストロフィー(DD)、遺伝性ミオパシー、筋緊張性筋ジストロフィー(MDD)、ミトコンドリアミオパシー、筋細管ミオパシー(MM)、重症筋無力症(MG)、鬱血性心不全、周期性四肢麻痺、多発性筋炎、横紋筋融解症、皮膚筋炎、癌性悪液質、AIDS悪液質、心臓悪液質、ストレス誘発性尿失禁、および筋肉減弱症からなる群より選択される、態様17記載の方法。
19. PGE2誘導体が16,16-ジメチルプロスタグランジンE2を含む、態様11~18のいずれか1つに記載の方法。
20. PGE2異化を減衰させる化合物が、
15-ヒドロキシプロスタグランジンデヒドロゲナーゼ(15-PGDH)を不活性化もしくは妨害するか、またはプロスタグランジントランスポーター(PTGもしくはSLCO2A1)を不活性化もしくは妨害する、化合物、中和ペプチド、または中和抗体
を含む、態様11~18のいずれか1つに記載の方法。
21. 単離された筋細胞群を化合物と共に培養する段階が、単離された筋細胞群を短期的に、間欠的に、または連続的に化合物に曝露することを含む、態様11~20のいずれか1つに記載の方法。
22. 単離された筋細胞群と、プロスタグランジンE2(PGE2)、PGE2プロドラッグ、PGE2受容体アゴニスト、PGE2異化を減衰させる化合物、PGE2阻害を無効にする化合物、その誘導体、その類似体、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される化合物とを含む、組成物。
23. 単離された筋細胞群が、骨格筋細胞、平滑筋細胞、心筋細胞、胚性幹細胞由来筋細胞、人工多能性幹細胞由来筋細胞、脱分化筋細胞、またはそれらの組み合わせを含む、態様22記載の組成物。
24. 単離された筋細胞群が、筋肉幹細胞、衛星細胞、ミオサイト、筋芽細胞、筋管、筋線維、またはそれらの組み合わせを含む、態様22または23記載の組成物。
25. 薬学的に許容される担体をさらに含む、態様22~24のいずれか1つに記載の組成物。
26. 態様22~25のいずれか1つに記載の組成物および取扱い説明書を含む、キット。
27. 筋肉の損傷、傷害、または萎縮を伴う病態または疾患を有している対象において筋細胞群を再生するための方法であって、
該対象において筋細胞群を増加させるおよび/または筋機能を強化するために、プロスタグランジンE2(PGE2)、PGE2プロドラッグ、PGE2受容体アゴニスト、PGE2異化を減衰させる化合物、PGE2阻害を無効にする化合物、その誘導体、その類似体、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される化合物の治療的有効量と、薬学的に許容される担体とを、該対象に投与する段階
を含む、方法。
28. 筋肉の損傷、傷害、または萎縮を伴う病態または疾患が、急性の筋肉の傷害または外傷、手の軟部組織傷害、デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)、ベッカー型筋ジストロフィー、肢帯型筋ジストロフィー、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、遠位型筋ジストロフィー(DD)、遺伝性ミオパシー、筋緊張性筋ジストロフィー(MDD)、ミトコンドリアミオパシー、筋細管ミオパシー(MM)、重症筋無力症(MG)、鬱血性心不全、周期性四肢麻痺、多発性筋炎、横紋筋融解症、皮膚筋炎、癌性悪液質、AIDS悪液質、心臓悪液質、ストレス誘発性尿失禁、および筋肉減弱症からなる群より選択される、態様27記載の方法。
29. 筋細胞群が、骨格筋細胞、平滑筋細胞、心筋細胞、胚性幹細胞由来筋細胞、人工多能性幹細胞由来筋細胞、脱分化筋細胞、またはそれらの組み合わせを含む、態様27または28記載の方法。
30. 筋細胞群が、筋肉幹細胞、衛星細胞、ミオサイト、筋芽細胞、筋管、筋線維、またはそれらの組み合わせを含む、態様27~29のいずれか1つに記載の方法。
31. PGE2誘導体が16,16-ジメチルプロスタグランジンE2を含む、態様27~30のいずれか1つに記載の方法。
32. PGE2異化を減衰させる化合物が、
15-ヒドロキシプロスタグランジンデヒドロゲナーゼ(15-PGDH)を不活性化もしくは妨害するか、またはプロスタグランジントランスポーター(PTGもしくはSLCO2A1)を不活性化もしくは妨害する、化合物、中和ペプチド、または中和抗体
を含む、態様27~30のいずれか1つに記載の方法。
33. 前記化合物を投与する段階が、経口、腹腔内、筋肉内、動脈内、皮内、皮下、静脈内、または心臓内投与を含む、態様27~32のいずれか1つに記載の方法。
34. 前記化合物が、短期的治療計画に従って投与される、態様27~33のいずれか1つに記載の方法。
35. 投与する段階が、単離された筋細胞群を前記対象に投与することをさらに含む、態様27~34のいずれか1つに記載の方法。
36. 単離された筋細胞群が、前記対象に対して自己由来である、態様35記載の方法。
37. 単離された筋細胞群が、前記対象に対して同種異系である、態様35記載の方法。
38. 単離された筋細胞群が精製される、態様35~37のいずれか1つに記載の方法。
39. 単離された筋細胞群が、前記対象に投与される前に前記化合物と共に培養される、態様35~38のいずれか1つに記載の方法。
40. 単離された筋細胞群を化合物と共に培養することが、該単離された筋細胞群を短期的に、間欠的に、または連続的に該化合物に曝露することを含む、態様39記載の方法。
41. 単離された筋細胞群を投与する段階が、該細胞を前記対象に注射または移植することを含む、態様35~40のいずれか1つに記載の方法。
42. 単離された筋細胞群および前記化合物が前記対象に同時に投与される、態様35~41のいずれか1つに記載の方法。
43. 単離された筋細胞群および前記化合物が前記対象に逐次的に投与される、態様35~41のいずれか1つに記載の方法。
44. (i) 筋肉の損傷、傷害、または萎縮を伴う病態または疾患を予防または治療するために、プロスタグランジンE2(PGE2)、PGE2プロドラッグ、PGE2受容体アゴニスト、PGE2異化を減衰させる化合物、PGE2阻害を無効にする化合物、その誘導体、その類似体、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される化合物の治療的有効量ならびに薬学的に許容される担体と、(ii)単離された筋細胞群とを、対象に投与する段階
を含む、それを必要とする対象において、筋肉の損傷、傷害、または萎縮を伴う病態または疾患を予防または治療するための方法。
45. PGE2誘導体が16,16-ジメチルプロスタグランジンE2を含む、態様44記載の方法。
46. PGE2異化を減衰させる化合物が、
15-ヒドロキシプロスタグランジンデヒドロゲナーゼ(15-PGDH)を不活性化もしくは妨害するか、またはプロスタグランジントランスポーター(PTGもしくはSLCO2A1)を不活性化もしくは妨害する、化合物、中和ペプチド、または中和抗体
を含む、態様44記載の方法。
47. 単離された筋細胞群が、骨格筋細胞、平滑筋細胞、心筋細胞、胚性幹細胞由来筋細胞、人工多能性幹細胞由来筋細胞、脱分化筋細胞、またはそれらの組み合わせを含む、態様44~46のいずれか1つに記載の方法。
48. 単離された筋細胞群が、筋肉幹細胞、衛星細胞、筋芽細胞、ミオサイト、筋管、筋線維、またはそれらの組み合わせを含む、態様44~47のいずれか1つに記載の方法。
49. 単離された筋細胞群が精製される、態様44~48のいずれか1つに記載の方法。
50. 単離された筋細胞群が、前記対象に投与される前に前記化合物と共に培養される、態様44~49のいずれか1つに記載の方法。
51. 単離された筋細胞群を化合物と共に培養することが、該単離された筋細胞群を短期的に、間欠的に、または連続的に該化合物に曝露することを含む、態様50記載の方法。
52. 単離された筋細胞群が、前記対象に対して自己由来である、態様44~51のいずれか1つに記載の方法。
53. 単離された筋細胞群が、前記対象に対して同種異系である、態様44~51のいずれか1つに記載の方法。
54. 前記化合物を投与する段階が、経口、腹腔内、筋肉内、動脈内、皮内、皮下、静脈内、または心臓内投与を含む、態様44~53のいずれか1つに記載の方法。
55. 前記化合物が、短期的治療計画に従って投与される、態様44~54のいずれか1つに記載の方法。
56. 単離された筋細胞群を投与する段階が、該細胞を前記対象に注射または移植することを含む、態様44~55のいずれか1つに記載の方法。
57. 前記化合物および単離された筋細胞群が前記対象に同時に投与される、態様44~56のいずれか1つに記載の方法。
58. 前記化合物および単離された筋細胞群が前記対象に逐次的に投与される、態様44~56のいずれか1つに記載の方法。
59. 前記対象が、筋肉の損傷、傷害、または萎縮を伴う病態または疾患を有していると推測されるか、またはそれを発症するリスクを有している、態様44~58のいずれか1つに記載の方法。
60. 筋肉の損傷、傷害、または萎縮を伴う病態または疾患が、急性の筋肉の傷害または外傷、手の軟部組織傷害、デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)、ベッカー型筋ジストロフィー、肢帯型筋ジストロフィー、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、遠位型筋ジストロフィー(DD)、遺伝性ミオパシー、筋緊張性筋ジストロフィー(MDD)、ミトコンドリアミオパシー、筋細管ミオパシー(MM)、重症筋無力症(MG)、鬱血性心不全、周期性四肢麻痺、多発性筋炎、横紋筋融解症、皮膚筋炎、癌性悪液質、AIDS悪液質、心臓悪液質、ストレス誘発性尿失禁、および筋肉減弱症からなる群より選択される、態様44~59のいずれか1つに記載の方法。
【0165】
前述の本発明は、理解をはっきりさせるために、例証および例としていくらか詳しく説明してきたが、いくつかの変更および修正を添付の特許請求の範囲内で実践してよいことを、当業者は理解するであろう。さらに、本明細書において提供される各参照文献は、各参照文献が参照により個々に組み入れられる場合と同程度に、その全体が参照により組み入れられる。
【0166】
【0167】
配列情報
SEQUENCE LISTING
<110> The Board of Trustees of the Leland Stanford Junior
University
<120> COMPOSITIONS AND METHODS FOR MUSCLE REGENERATION USING
PROSTAGLANDIN E2
<150> US 62/303,979
<151> 2016-03-04
<150> US 62/348,116
<151> 2016-06-09
<160> 12
<170> PatentIn version 3.5
<210> 1
<211> 20
<212> DNA
<213> Artificial Sequence
<220>
<223> Synthetic Gapdh forward primer
<400> 1
ttcaccacca tggagaaggc 20
<210> 2
<211> 18
<212> DNA
<213> Artificial Sequence
<220>
<223> Synthetic Gapdh reverse primer
<400> 2
cccttttggc tccaccct 18
<210> 3
<211> 20
<212> DNA
<213> Artificial Sequence
<220>
<223> Synthetic Hpgd forward primer
<400> 3
tccagtgtga tgtggctgac 20
<210> 4
<211> 20
<212> DNA
<213> Artificial Sequence
<220>
<223> Synthetic Hpgd reverse primer
<400> 4
attgttcacg cctgcattgt 20
<210> 5
<211> 19
<212> DNA
<213> Artificial Sequence
<220>
<223> Synthetic Ptges forward primer
<400> 5
gctgtcatca caggccaga 19
<210> 6
<211> 20
<212> DNA
<213> Artificial Sequence
<220>
<223> Synthetic Ptges reverse primer
<400> 6
ctccacatct gggtcactcc 20
<210> 7
<211> 20
<212> DNA
<213> Artificial Sequence
<220>
<223> Synthetic Ptges2 forward primer
<400> 7
ctcctacagg aaagtgccca 20
<210> 8
<211> 20
<212> DNA
<213> Artificial Sequence
<220>
<223> Synthetic Ptges2 reverse primer
<400> 8
accaggtagg tcttgagggc 20
<210> 9
<211> 19
<212> DNA
<213> Artificial Sequence
<220>
<223> Synthetic Ptger1 forward primer
<400> 9
gtggtgtcgt gcatctgct 19
<210> 10
<211> 20
<212> DNA
<213> Artificial Sequence
<220>
<223> Synthetic Ptger1 reverse primer
<400> 10
ccgctgcagg gagttagagt 20
<210> 11
<211> 20
<212> DNA
<213> Artificial Sequence
<220>
<223> Synthetic Ptger2 forward primer
<400> 11
accttcgcca tatgctcctt 20
<210> 12
<211> 20
<212> DNA
<213> Artificial Sequence
<220>
<223> Synthetic Ptger2 reverse primer
<400> 12
ggaccggtgg cctaagtatg 20
単離された筋細胞群を、プロスタグランジンE2(PGE2)、PGE2プロドラッグ、PGE2受容体アゴニスト、PGE2異化を減衰させる化合物、PGE2阻害を無効にする化合物、その誘導体、その類似体、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される化合物と共に培養する段階
を含む、単離された筋細胞群の増殖を促すための方法。