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特開2024-116392義歯システム及び義歯システムに用いられるインプラント
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024116392
(43)【公開日】2024-08-27
(54)【発明の名称】義歯システム及び義歯システムに用いられるインプラント
(51)【国際特許分類】
   A61C 8/00 20060101AFI20240820BHJP
【FI】
A61C8/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024098884
(22)【出願日】2024-06-19
(62)【分割の表示】P 2022206509の分割
【原出願日】2022-12-23
(71)【出願人】
【識別番号】517203235
【氏名又は名称】有限会社サンライズ・アソシエイツ
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中尾 良治
(57)【要約】      (修正有)
【課題】インプラントに作用する外力を低減する。
【解決手段】義歯システムは、インプラント16と、該インプラントに装着される補綴物と、を備える。インプラントは、歯槽骨に埋め込まれるフィクスチャ部と、フィクスチャ部に固定され、歯槽骨を覆う歯肉から露出する露出部分を有するアバットメント部と、を備えている。補綴物は、露出部分が係合する係合穴59が設けられている。露出部分の外周面と係合穴の内周面の間には弾性体が配置されている。弾性体は、露出部分が係合穴に係合したときに、露出部分のフィクスチャ部側の端部である基端部と反フィクスチャ部側の端部である先端部との間の高さに配置される第1弾性部120と、露出部分が係合穴に係合したときに、露出部分の先端部と係合穴の底部との間に配置される第2弾性部122と、を備えている。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
インプラントと、該インプラントに装着される補綴物と、を備える義歯システムであって、
前記インプラントは、
歯槽骨に埋め込まれるフィクスチャ部と、
前記フィクスチャ部に固定され、前記歯槽骨を覆う歯肉から露出する露出部分を有するアバットメント部と、を備えており、
前記補綴物は、前記露出部分が係合する係合穴が設けられており、
前記露出部分の外周面と前記係合穴の内周面の間には弾性体が配置されており、
前記弾性体は、
前記露出部分が前記係合穴に係合したときに、前記露出部分のフィクスチャ部側の端部である基端部と反フィクスチャ部側の端部である先端部との間の高さに配置される第1弾性部と、
前記露出部分が前記係合穴に係合したときに、前記露出部分の前記先端部と前記係合穴の底部との間に配置される第2弾性部と、を備えている、義歯システム。
【請求項2】
前記弾性体は、前記アバットメント部と異なる材料で形成されており、
前記弾性体の弾性係数が、前記アバットメント部の弾性係数よりも小さくされている、請求項1に記載の義歯システム。
【請求項3】
前記第1弾性部は、前記露出部分の外周面と前記係合穴の内周面の一方に取付けられており、
前記露出部分の外周面と前記係合穴の内周面の他方には、前記第1弾性部が係合可能な溝が設けられており、
前記露出部分が係合穴に挿入され、かつ、前記第1弾性部が前記溝に係合することで、前記露出部分が前記係合穴に係合して前記補綴物が前記アバットメント部に装着されるように構成されている。請求項2に記載の義歯システム。
【請求項4】
前記第1弾性部は、前記露出部分の外周面に沿って周方向に伸びて前記露出部分の周囲を一巡するリング形状を有しており、前記露出部分の外周面に着脱可能に取付けられている、請求項3に記載の義歯システム。
【請求項5】
前記補綴物は、前記アバットメント部に着脱可能に装着されるようになっており、
前記第1弾性部と前記溝との係合構造は、前記補綴物を前記アバットメント部から取外すときの力が大きくなるように構成されている、請求項4に記載の義歯システム。
【請求項6】
前記露出部分の前記先端部には凹所が形成されており、
前記第2弾性部の一部が前記凹所内に係合することで、前記第2弾性部が前記露出部分の前記先端部に取り付けられている、請求項1~5の何れか一項に記載の義歯システム。
【請求項7】
前記補綴物が前記アバットメント部に装着され、かつ、前記補綴物に外力が作用しない第1状態において、前記第2弾性体と前記係合穴の内周面との間には第1のクリアランスが設けられると共に、前記露出部分の外周面と前記係合穴の内周面の間には第2のクリアランスが設けられている、請求項6に記載の義歯システム。
【請求項8】
前記第1状態において、前記第1のクリアランスは、前記露出部分の外周面と前記係合穴の内周面の全体に設けられ、前記露出部分の外周面と前記係合穴の内周面とが接触しておらず、
前記第1状態において、前記第2のクリアランスは、前記第2弾性体の前記係合穴の内周面と対向する面の全体に設けられており、前記第2弾性体と前記係合穴の内周面とが接触していない、請求項7に記載の義歯システム。
【請求項9】
補綴物が装着されるインプラントであって、
歯槽骨に埋め込まれるフィクスチャ部と、
前記フィクスチャ部に固定され、前記歯槽骨を覆う歯肉から露出する露出部分を有するアバットメント部と、
前記露出部分の外周面に取付けられる弾性体と、を備えており、
前記補綴物は、前記露出部分が係合可能な係合穴が設けられており、
前記弾性体は、前記露出部分の外周面と前記係合穴の内周面の間に配置されており、
前記弾性体は、
前記露出部分が前記係合穴に係合したときに、前記露出部分のフィクスチャ部側の端部である基端部と反フィクスチャ部側の端部である先端部との間の高さに配置される第1弾性部と、
前記露出部分が前記係合穴に係合したときに、前記露出部分の前記先端部と前記係合穴の底部との間に配置される第2弾性部と、を備えている、インプラント。
【請求項10】
天然歯根に取付けられると共に、歯槽骨を覆う歯肉から露出する露出部分を有するアバットメントと、
前記アバットメントに装着される補綴物と、を備え、
前記補綴物は、前記露出部分が係合可能な係合穴が設けられており、
前記露出部分の外周面と前記係合穴の内周面の間には弾性体が配置されており、
前記弾性体は、
前記露出部分が前記係合穴に係合したときに、前記露出部分のフィクスチャ部側の端部である基端部と反フィクスチャ部側の端部である先端部との間の高さに配置される第1弾性部と、
前記露出部分が前記係合穴に係合したときに、前記露出部分の前記先端部と前記係合穴の底部との間に配置される第2弾性部と、を備えている、義歯システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書に開示する技術は、義歯システム及び義歯システムに用いられるインプラントに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、口腔内に装備される義歯システムが開示されている。この義歯システムは、インプラントと、該インプラントに装着される補綴物を備えている。インプラントは、歯槽骨に埋め込まれるフィクスチャ部と、フィクスチャ部に固定されるアバットメント部を備えている。アバットメント部は、歯槽骨を覆う歯肉から露出する露出部分を有している。補綴物には、露出部分が係合可能な係合穴が設けられている。補綴物がアバットメント部に装着されると、補綴物の係合穴に露出部分が挿入され、両者が係合される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第5100918号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この種の義歯システムでは、装着者が食物を食べるとき等に、補綴物に外力が作用し、その結果、補綴物からインプラントに、その反作用としてインプラントから補綴物に外力が作用する。このため、インプラント及び補綴物には外力が繰り返し作用することになる。インプラント及び補綴物に大きな外力が繰り返し作用すると、インプラント及び補綴物が破損したり、インプラントと歯槽骨の結合(オッセオインテグレーション)が破壊されたり、また歯槽骨自体が破損する原因となる。本明細書は、人工的に歯根膜の作用を再現しインプラント及び補綴物に作用する外力を低減することができ、また補綴物装着者がより天然歯に近い咀嚼感を得ることができる技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本明細書で開示する義歯システムは、インプラントと、該インプラントに装着される補綴物を備える。インプラントは、歯槽骨に埋め込まれるフィクスチャ部と、フィクスチャ部に固定されるアバットメント部を備えている。アバットメント部は、歯槽骨を覆う歯肉から露出する露出部分を有する。補綴物は、露出部分が係合する係合穴が設けられている。露出部分の外周面と係合穴の内周面の間には弾性体が配置されている。弾性体は、露出部分が係合穴に係合したときに、露出部分のフィクスチャ部側の端部である基端部と反フィクスチャ部側の端部である先端部との間の高さに配置される第1弾性部と、露出部分が係合穴に係合したときに、露出部分の先端部と係合穴の底部との間に配置される第2弾性部を備えている。
【0006】
上記の義歯システムでは、インプラントと補綴物の間に弾性体が配置される。このため、補綴物に外力が作用すると、弾性体を介してインプラントに外力が作用することとなる。弾性体は、露出部分の基端部と先端部との間の高さに配置される第1弾性部と、露出部分の先端部と補綴物の間に配置される第2弾性部を備える。このため、補綴物に様々な方向から外力が作用しても、補綴物からインプラントに、またその反作用としてインプラントから補綴物に作用する外力が好適に分散される。その結果、インプラント及び補綴物に局所的に大きな外力が作用することが抑制され、インプラント及び補綴物に作用する外力を低減、分散することができる。
また、この義歯システムは、人工的に天然歯における歯根膜と同様の作用を再現しているため、補綴物装着者がより天然歯に近い自然な咀嚼感を得ることができる。
【0007】
また、本明細書は、上記の義歯システムに好適に用いられるインプラントを開示する。このインプラントは、歯槽骨に埋め込まれるフィクスチャ部と、フィクスチャ部に固定されるアバットメント部と、露出部分の外周面に取付けられる弾性体を備えている。アバットメント部は、歯槽骨を覆う歯肉から露出する露出部分を有する。補綴物は、露出部分が係合可能な係合穴が設けられている。弾性体は、露出部分の外周面と係合穴の内周面の間に配置されている。さらに、弾性体は、露出部分が係合穴に係合したときに、露出部分のフィクスチャ部側の端部である基端部と反フィクスチャ部側の端部である先端部との間の高さに配置される第1弾性部と、露出部分が係合穴に係合したときに、露出部分の先端部と係合穴の底部との間に配置される第2弾性部を備えている。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本明細書に開示する義歯システムの唇・頬側から見たときの模式的な断面図であり、フィクスチャの中心軸を通る断面図。
図2】補綴物が口腔内に配置された状態における補綴物の平面図。
図3】実施例1のインプラント本体と、インプラント本体に取付けられる弾性体と、補綴物に埋設されるキャップとを拡大して示す図。
図4図3に示すインプラント本体と弾性体とキャップとが係合された状態を模式的に示す図。
図5】実施例2のインプラント本体と、インプラント本体に取付けられる弾性体と、補綴物に埋設されるキャップとを拡大して示す図。
図6図5に示すインプラント本体と弾性体とキャップとが係合された状態を模式的に示す図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本明細書に開示する義歯システムでは、弾性体は、アバットメント部と異なる材料で形成されてもよい。弾性体の弾性係数が、アバットメント部の弾性係数よりも小さくされていてもよい。
【0010】
本明細書に開示する義歯システムでは、第1弾性部は、露出部分の外周面と係合穴の内周面の一方に取付けられていてもよい。露出部分の外周面と係合穴の内周面の他方には、第1弾性部が係合可能な溝が設けられていてもよい。露出部分が係合穴に挿入され、かつ、第1弾性部が溝に係合することで、露出部分が係合穴に係合して補綴物がアバットメント部に装着されるように構成されていてもよい。
【0011】
本明細書に開示する義歯システムでは、第1弾性部は、露出部分の外周面に沿って周方向に伸びて露出部分の周囲を一巡するリング形状を有しており、露出部分の外周面に着脱可能に取付けられていてもよい。
【0012】
本明細書に開示する義歯システムでは、補綴物は、アバットメント部に着脱可能に装着されるようになっていてもよい。第1弾性部と溝との係合構造は、補綴物をアバットメント部から取外すときの力が大きくなるように構成されていてもよい。
【0013】
本明細書に開示する義歯システムでは、露出部分の先端部には凹所が形成されていてもよい。第2弾性部の一部が前記凹所内に係合することで、前記第2弾性部が前記露出部分の前記先端部に取り付けられていてもよい。
【0014】
本明細書に開示する義歯システムでは、補綴物がアバットメント部に装着され、かつ、補綴物に外力が作用しない第1状態において、第2弾性体と係合穴の内周面との間には第1のクリアランスが設けられると共に、露出部分の外周面と係合穴の内周面の間には第2のクリアランスが設けられていてもよい。
【0015】
本明細書に開示する義歯システムでは、第1状態において、第2のクリアランスは、露出部分の外周面と係合穴の内周面の全体に設けられ、露出部分の外周面と係合穴の内周面とが接触していなくてもよい。第1状態において、第1のクリアランスは、第2弾性体の係合穴の内周面と対向する面の全体に設けられており、第2弾性体と係合穴の内周面とが接触していなくてもよい。
【実施例0016】
(実施例1)
実施例1の義歯システム1について説明する。図1に示すように、義歯システム1は、補綴物10と、インプラント(16,18)を備える。補綴物10は、下顎用の補綴物12と、上顎用の補綴物14を備える。下顎の歯槽骨22の表面は歯肉24で覆われている。上顎の歯槽骨26の表面は歯肉28で覆われている。インプラント(16,18)は、フィクスチャ16と、フィクスチャ16に固定されたアバットメント18を備える。下顎の歯槽骨22及び上顎の歯槽骨26には、歯肉24、28を貫通してそれぞれ4本のフィクスチャ16が埋め込まれている。フィクスチャ16とアバットメント18の中心軸は一致している。フィクスチャ16とアバットメント18の接続面の高さは、歯槽骨22、26の表面の高さに等しい(ボーンレベルインプラント)。アバットメント18の一部は、歯肉24、28から露出している。以下では、当該露出した部分を、露出部分20と称する。
【0017】
図1に示すように、補綴物12、14は、無歯顎用の補綴物(全部補綴物)である。なお、本明細書における「無歯顎」とは、天然歯冠が1本も残存していない状態の顎を表す。このため、歯槽骨内に天然歯根が残存している場合であっても、天然歯冠が残存していない場合は、「無歯顎」に分類される。補綴物12は、下顎の歯肉24上に装着され、補綴物14は、上顎の歯肉28上に装着される。
【0018】
補綴物12は、14本の人工歯30~56と、床58を備える。人工歯30~56はポーセレン等によって形成されている。人工歯30~56は天然歯の外観を模しており、天然歯の配列に倣って配置されている。具体的には、正中線L1から1番目の人工歯30、44が中切歯、2番目の人工歯32、46が側切歯、3番目の人工歯34、48が犬歯、4番目の人工歯36、50が第1小臼歯、5番目の人工歯38、52が第2小臼歯、6番目の人工歯40、54が第1大臼歯、7番目の人工歯42、56が第2大臼歯として機能する。なお、人工歯30~56の材料はポーセレンに限られず、例えばジルコニア、ハイブリッド、硬質レジン、ポリアミド系材料(例えば、ナイロン等)を用いてもよい。
【0019】
床58は、ポリアミド系材料、例えば、ナイロンによって形成されている。ナイロンは、耐久性が高く、軽量であり、弾力性が高い材料であり、70~267kgf/mm-2のヤング率を有する。床58は、天然の歯肉の外観を模しており、人工歯30~56の下方(即ち、歯槽骨22側)に接着されている。床58には、アバットメント18の露出部分20と対応する位置に、露出部分20と係合可能な4個の係合穴59が設けられている。より具体的には、係合穴59は、床58に埋め込まれたキャップ110(図3に図示)によって形成されており、キャップ110は、犬歯34、48の下方に位置する床58と、第1大臼歯40、54の下方に位置する床58に埋設されている。アバットメント18の露出部分20を係合穴59に係合させることで、補綴物12が装着者の口腔内に配置される(即ち、補綴物12が歯肉24に対して固定される)。このとき、床58の下面58aは、歯肉24の表面24aと接触している(以下では、床58の下面を「接触面」と称する)。補綴物12は、装着者が係合穴59に露出部分20を係合させたり取り外したりすることにより、アバットメント18から着脱可能に構成されている。
【0020】
補綴物14は、補綴物12と略同一の構成を有する。即ち、補綴物14は、14本の人工歯60~86と、床88を備える。正中線L1から数えたときの人工歯の名称は、補綴物12の人工歯30~56と同一である。床88は、人工歯60~86の上方(即ち、歯槽骨26側)に接着されている。床88には、犬歯64、78の上方に位置する床88と、第1大臼歯70、84の上方に位置する歯肉88のそれぞれに、露出部分20と係合可能な4個の係合穴89が設けられている。露出部分20を係合穴89に係合させると、補綴物14が歯肉28に対して固定される。このとき、床88の上面88aは、歯肉28の上面28aと接触している。補綴物14は、装着者が係合穴89に露出部分20を係合させたり取り外したりすることにより、アバットメント18から着脱可能に構成されている。なお、係合穴89を設ける位置(即ち、キャップ110を埋設する位置(歯槽骨26にフィクスチャ16を埋め込む位置))は、係合穴59を設ける位置と対応していなくてもよい。また、係合穴59、89を設ける位置及び個数は上記の構成に限られず、装着者の咬合力等を考慮して適宜決定されてもよい。
【0021】
図2は、補綴物12、14が口腔内に配置された状態を示す平面図であり、図を見易くするために、床58、88をグレースケールで示している。図2に示すように、補綴物12の前歯部(1~3番目の歯)の各人工歯30、32、34、44、46、48は、歯冠の最先端にそれぞれ切縁30a、32a、34a、44a、46a、48aを有する。補綴物12の臼歯部(4~7番目の歯)の各人工歯36、38、40、42、50、52、54、56は、それぞれ咬合面36a、38a、40a、42a、50a、52a、54a、56aを有する。
【0022】
ここで、図2の破線B1は、歯肉24と歯槽粘膜25との境界(即ち、歯肉歯槽粘膜境)を表す。歯肉24は不動性を有し、角化上皮で覆われており、歯槽粘膜25は、非角化の可動性粘膜に覆われている。図2に示すように、床58の舌側の外縁は、歯肉歯槽粘膜境B1よりも唇・頬側に位置している。
【0023】
また、補綴物14の各人工歯60~86についても、切縁60a~64a、74a~78a、及び咬合面66a~72a、80a~86aを有する。床88の口蓋側の外縁は、歯肉28と歯槽粘膜29との境界線B2(即ち、歯肉歯槽粘膜境)よりも唇・頬側に位置している。
【0024】
本実施例では、床58の外縁の位置が歯肉歯槽粘膜境B1よりも唇・頬側に位置し、床88の口蓋側の外縁が歯肉歯槽粘膜境B2よりも唇・頬側に位置している。床58,88が歯槽粘膜25,29に接触しないことで、補綴物装着時の不快感を大幅に低減している。一方、床58,88が歯槽粘膜25,29に接触せず、床58,88と口腔表面との接触面積が小さくなるため、インプラント(16,18)には比較的に大きな外力(咬合圧)が作用することになる。
【0025】
次に、アバットメント18の露出部分20と補綴物12の係合穴59(即ち、キャップ110)とを係合させる構造について説明する。なお、露出部分20と補綴物14の係合穴89とを係合させる構造は、露出部分20と係合穴59とを係合させる構造と同一であるため、露出部分20と係合穴59とを係合させる構造のみを説明する。図3,4に示すように、本実施例のインプラント(16,18)は、フィクスチャ16と、フィクスチャ16に固定されるアバットメント18と、アバットメント18の外周面に取付けられた弾性体リング120を備えている。
【0026】
フィクスチャ16は、一端から他端に向かって径が縮小する形状を有している。詳細には、フィクスチャ16は、アバットメント18側の端部が大径となり、他端側が小径となっている。なお、フィクスチャ16には、径が一定のストレートタイプのフィクスチャを用いることができる。フィクスチャ16の外周面にはねじ溝が形成され、フィクスチャ16は歯槽骨22内にねじ込まれている。フィクスチャ16にねじ溝を形成することで、フィクスチャ16は歯槽骨22に強固に固定されている。フィクスチャ16は、チタン合金によって形成されている。チタン合金は、機械的強度が高い材料であり、約110GPa程度のヤング率を有する。なお、フィクスチャ16の材料はチタン合金に限られず、例えば、純チタン、チタン-ニッケル合金、人工サファイア(酸化アルミニウム(Al))等の歯科用インプラントとして公知の材料を用いてもよい。
【0027】
アバットメント18は、その軸線L2がフィクスチャ16の軸線L2’と一致するように、フィクスチャ16の一端(大径側の端部)に固定されている。アバットメント18は、歯槽骨22側の端部(以下、基端部ということがある)から補綴物12側に向かって伸びている。フィクスチャ16が歯槽骨22に固定された状態では、アバットメント18の基端部が歯肉24内に位置し、アバットメント18の他端側が歯肉24から突出している。即ち、アバットメント18の他端側に露出部分20が形成されている。アバットメント18は、フィクスチャ16と同様、チタン合金によって形成されている。なお、アバットメント18の材料は、チタン合金に限られず、例えば、純チタン、ジルコニア、中核部にチタンを用いたジルコニア、金合金、その他鋳造用貴金属を好適に用いることができる。さらには、上記の金属と比較すると強度及び耐久性は低下するものの、症例によっては樹脂(例えば、レジン、ハイブリッドセラミック、ポリアミド、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン樹脂)、ポリイミド、ポリカーボネート等)を用いてもよい。
【0028】
図3に示すように、アバットメント18は、フィクスチャ16内に挿し込まれる基端部102と、基端部102の反フィクスチャ側の端部に設けられる突出部104を備えている。アバットメント18の基端部102は、フィクスチャ16に設けられた挿入穴に倣った形状を有している。基端部102がフィクスチャ16の挿入穴に挿入されると、基端部102の全体がフィクスチャ16の内部に収容され、突出部104がフィクスチャ16の先端から補綴物12側に向かって突出する。したがって、アバットメント18の突出部104が露出部分20となる。突出部104は、略円錐台形状を有しており、突出部104の上端面(即ち、アバットメント18の露出部分20の先端面)には、フィクスチャ16側に向かって凹となる凹部108が形成されている。凹部108は、アバットメント18をフィクスチャ16に固定するための器具が挿入されるようになっている。なお、アバットメント18がフィクスチャ16に固定された後は、凹部108には楕円形状の弾性ボール122(「第2弾性部」の一例)が取付けられる。弾性ボール122が凹部108に取付けられると、弾性ボール122の一部が突出部104の上端面から上方に突出している。図3,4から明らかなように、凹部108の開口幅は、突出部104の内部で最大となっており、その最大となる部分と比較して突出部104の上端面で小さくなっている。このため、凹部108に弾性ボール122が取付けられると、弾性ボール122が凹部108内に保持され、凹部108から脱落することが防止される。なお、弾性ボール122に外力を作用させて弾性変形させることで、弾性ボール122を凹部108に着脱することができる。このため、弾性ボール122は、メンテナンス等によって交換することができる。
【0029】
図3,4に示すように、円錐台形状の突出部104の側面(露出部分20の外周面)には取付溝106が形成されている。即ち、取付溝106は、突出部104のフィクスチャ側の端部である基端部と反フィクスチャ側の端部である先端部との間の高さ(本実施例では略中間の位置)に形成されている。取付溝106は、突出部104の外周面に沿って周方向に伸びており、突出部104の周囲を一巡している。取付溝106は、アバットメント18の軸線L2に対して対称に設けられている。図3,4から明らかなように、取付溝106の形成方向(延伸方向)L3は、軸線L2に対して交差する方向となっている。具体的には、突出部104の基端部側から突出部104の先端部側に向かって斜め上方に伸びる方向となっている。なお、取付溝106には、後述する弾性リング120(「第1弾性部」の一例)が取付けられることから、取付溝106の形成方向L3とは、弾性リング120の取付方向と言い換えることができる。また、取付溝106の形状は、弾性リング120の形状に倣った形状となっている。図3,4から明らかなように、突出部104の外周面は、取付溝106より上側(反フィクスチャ側)における外径が、取付溝106より下側(フィクスチャ側)における外径より大きくなっている。即ち、取付溝106の上方に位置する外周面は、取付溝106の下方に位置する外周面より外側にオフセットされている。
【0030】
なお、本実施例では、アバットメント18とフィクスチャ16が別体に形成されているが、このような構成に限られず、アバットメント18とフィクスチャ16とを一体に形成してもよい。
【0031】
弾性リング120は、アバットメント18の取付溝106に着脱可能に取付けられている。弾性リング120は、弾力性の高い(即ち、ヤング率の低い)材料によって形成されている。弾性リング120のヤング率は、アバットメント18や床58のヤング率より低くされている。弾性リング120を形成する材料としては、アバットメント18や床58の材料とは異なる材料を用いることができる。例えば、弾性リング120には、加硫ゴム(ニトリルゴム系、水素化ニトリルゴム系パーフロ系、フロロシリコンゴム系、フッ素ゴム系、クロロプレンゴム系、ブルチゴム系、スチレンブタジエンゴム系、シリコンゴム系、アクリルゴム系、ウレタンゴム系、アフラス系、エチレンプロピレンゴム系、テフロン(登録商標)系、バイトンETP系等)を用いることができる。ただし、上記した加硫ゴム以外にも、Oリングの材料として用いられる公知の材料を用いることができる。また、弾性ボール122も、弾性リング120と同一の材料によって形成されている。したがって、弾性ボール122のヤング率も、アバットメント18や床58のヤング率より低くされている。なお、本実施例では、弾性ボール122と弾性リング120とが同一の材料で形成され、弾性ボール122の弾性係数(例えば、ヤング率)と弾性リング120の弾性係数(例えば、ヤング率)とが同一であったが、このような例に限られない。例えば、弾性ボール122の弾性係数を弾性リング120の弾性係数よりも大きくし、弾性ボール122が弾性変形し難くしてもよい。後述するように、弾性ボール122は補綴物が咬合により沈下したときに垂直方向に支持する機能を有する。このため、弾性ボール122の弾性係数を弾性リング120の弾性係数よりも大きくすることで、弾性リング120が咬合圧により大きく変形したときに、弾性ボール122によってよって補綴物を早く強く押し戻すことができる。
【0032】
図3,4に示すように、弾性リング120は楕円形の断面形状を有している。既に説明したように、取付溝106の形成方向L3がアバットメント18の軸線L2に対して傾斜しているため、弾性リング120の長軸(詳細には、弾性リング120の断面形状(楕円形)の長軸)も軸線L2に対して傾斜している。本実施例では、弾性リング120の長軸が取付溝106の形成方向L3と一致している。なお、弾性リング120の内径は、取付溝106の径(取付溝106の底部の径)よりも小さくされている。これによって、弾性リング120が取付溝106に取付けられると、弾性リング120の弾性によって取付溝106内に弾性リング120が好適に保持される。
【0033】
既に説明したように、床58にはキャップ110が埋設され、キャップ110の内周面114aによって係合穴59が形成されている。図3,4に示すように、キャップ110は、管状の側面部114と、側面部114の一端を閉じる底部112を備えており、キャップ110の内周面114a(係合穴59)は、アバットメント18の突出部104(露出部分20)に倣った形状を有している。キャップ110の底部112(図3においては上端部)は、アバットメント18の突出部104の上端面と対向している。
【0034】
キャップ110(係合穴59)の内周面114aには、弾性リング120が係合可能な溝114bが形成されている。溝114bは、キャップ110の内周面114aに沿って周方向に伸びており、突出部104の周囲を一巡している。溝114bは、弾性リング120の形状に倣った形状となっている。図3,4に示すように、溝114bの形成方向(延伸方向)は、取付溝106の形成方向L3に対して反対となっており、斜めに向かって伸びている。図3,4から明らかなように、キャップ110の内周面は、溝114bより上側(人工歯側)における内径が、溝114bより下側(歯肉側)における内径より大きくなっている。即ち、溝114bの上方に位置する内周面114aは、溝114bの下方に位置する内周面114aより外側にオフセットされている。また、弾性リング120の外径は、溝114bの径(溝114bの底部の径)よりもわずかに大きくされている。これにより、弾性リング120が溝114bに係合すると、弾性リング120の弾性によって溝114b内に弾性リング120が好適に保持される。
【0035】
上述した突出部104(露出部分20)がキャップ110(係合穴59)の内周面114aに挿入されて両者が係合すると、突出部104に取付けられた弾性リング120がキャップ110の溝114bに係合する。図4から明らかなように、補綴物12(即ち、キャップ110)に外力が作用しない状態では、突出部104の外周面とキャップ110の内周面114aとの間にクリアランスが形成される。詳細には、突出部104の外表面は、キャップ110の内周面114aには接触しておらず、突出部104の外表面の全体にわたってクリアランスが形成されている。したがって、突出部104は、弾性リング120のみを介してキャップ110の内周面114aに固定されている。本実施例では、突出部104の外周面とキャップ110の内周面114aとの間に形成されるクリアランスは、場所によって異なるように調整されている。具体的には、円錐台形状の突出部104の外周側面とキャップ110の内周面114aとの間にはクリアランスC3,C4(>0)が形成されている。既に説明したように、突出部104の外周側面においては、取付溝106の上方に位置する外周側面は、取付溝106の下方に位置する外周側面より外側にオフセットしている。このため、突出部104の外周側面とキャップ110の内周面114aとの間に形成されるクリアランスC3,C4は、取付溝106の上側で取付溝106の下側よりも小さくなっている(C3<C4)。クリアランスC3は、例えば、0mmより大きく、かつ、0.6mm以下となるように設定され(即ち、0<C3≦0.6mm)、クリアランスC4は、例えば、0mmより大きく、かつ、0.8mm以下となるように設定されている(即ち、0<C4≦0.8mm)。なお、本実施例においてC3を0.6mm以下とするのは、天然歯牙に咬合力等の応力がかかった時の生理的動揺(即ち、歯根膜のクッション)が0.5mm程度であるため、これより少しだけ大きな値とした。また、C4を0.8mm以下とするのは、取付溝106の上方に位置する外周側面は、取付溝106の下方に位置する外周側面より外側にオフセットしているため、C3(≦0.6mm)にオフセット分の0.2mmを加算した値とした。
【0036】
また、円錐台形状の突出部104の上端面とキャップ110の内周面114a(詳しくは、キャップ110の底部112)との間にもクリアランスC2(>0)が形成されている。さらに、図4に示すように、突出部104の上端面に取付けられた弾性ボール122とキャップ110の内周面114a(底部112)との間にもクリアランスC1(>0)が形成されている。弾性ボール122の一部が突出部104の上端面から突出するため、クリアランスC1はクリアランスC2より小さくなっている(C1<C2)。クリアランスC2は、例えば、0mmより大きく、かつ、0.6mm以下となるように設定され(即ち、0<C2≦0.6mm)、クリアランスC1は、例えば、0mmより大きく、かつ、0.3mm以下となるように設定されている(即ち、0<C1≦0.3mm)。なお、本実施例においてC2を0.6mm以下とするのは、粘膜に咬合力0で接している補綴物に垂直的咬合力がかかった時に、粘膜が圧接されて補綴物が粘膜に沈み込むのが0.5mm程度であるため、これより少しだけ大きな値とした。また、C1を0.3mm以下とするのは、弾性ボール122が球状であり、補綴物が弾性ボール122に接触し始めたときはその反発力が小さくなる。このため、C1をC2の半分の値に設定した。ただし、弾性ボール122による補綴物の支持をどのタイミングから始めるかは任意に設定することができ、C2<0.6mmとしてもよいし、あるいは、C2<C1/2としてもよい。
【0037】
なお、床58の底面と歯肉24との間にはクリアランスが形成されていないが、補綴物12から歯肉24に向かって外力が作用すると歯肉24が沈下する(通常、歯肉の沈下量は3~5mm)。このため、補綴物12、すなわち、キャップ110に下方向の外力が作用すると、キャップ110は、突出部104の上端面に向かって移動することができる。弾性ボール122とキャップ110の内周面114a(底部112)との間にクリアランスC1が形成されているが、クリアランスC1は歯肉24の最大沈下量よりも小さくされている。このため、キャップ110が突出部104の上端面に向かって移動すると、キャップ110が歯肉24の最大沈下量まで移動する前に弾性ボール122に接触するようになっている。
【0038】
上記した突出部104とキャップ110(係合穴59)との係合構造においては、補綴物12に外力が作用すると、弾性リング120が変形し、突出部104に対して補綴物12が動くことができる。特に、突出部104の外表面の全体にわたってクリアランスC1,C2,C3,C4が形成されているため、外力が作用する方向に応じて種々の方向に動くことができる。このため、補綴物12から突出部104に作用する外力が分散され、突出部104に局所的に大きな外力が作用することを抑制することができるとともに補綴物12が突出部104から受ける外力による反作用を抑制することができる。また、突出部104に対して補綴物12が大きく動くと、弾性ボール122とキャップ110が当接し、補綴物12から突出部104に作用する外力がより分散されると共に、補綴物12の動きが規制される。このため、キャップ110が突出部104に直接接触することが防止され、補綴物12及びアバットメント18に大きな力が局所的に作用することが防止される。一方、補綴物12に作用している外力を除去すると、弾性リング120及び弾性ボール122の復元力によって、補綴物12は元の位置(図4に示す外力が作用しない状態のときの位置(初期位置の一例))に戻ろうとする。この際、弾性リング120がアバットメント18の取付溝106内に好適に保持されると共に、キャップ110の溝114b内に好適に保持されることで、補綴物12は元の位置に戻り易く、適正な状態に好適に復帰することができる。
【0039】
実施例1の義歯システム1においては、アバットメント18と補綴物12,14の間に弾性リング120及び弾性ボール122が配置され、アバットメント18と補綴物12,14の間にクリアランスが形成されている。このため、補綴物12,14に外力が作用したときに、補綴物12,14がインプラント(16,18)に対して任意の方向に動くことができる。このため、補綴物12,14及びインプラント(16,18)に局所的に大きな外力が作用することを抑制することができ、補綴物12,14やインプラント(16,18)の損傷を抑制することができる。即ち、本実施例の義歯システム1では、弾性リング120及び弾性ボール122が歯根膜として機能し、インプラント(16,18)に対する補綴物12,14の自然な動きを可能にし、補綴物12,14やインプラント(16,18)に過大な外力が作用することを抑制することができる。特に、本実施例では、床58,88が歯槽粘膜25,29に接触しておらず、床58,88と口腔表面との接触面積が小さくされている。このため、補綴物12,14やインプラント(16,18)には比較的に大きな外力(咬合圧)が作用することになるが、その外力を弾性リング120及び弾性ボール122によって好適に吸収することができる。このため、補綴物装着時の不快感を大幅に低減することと、補綴物12,14及びインプラント(16,18)へ作用する外力を低減することの両者を実現することができる。
【0040】
また、実施例1の義歯システム1においては、取付溝106の形成方向L3と溝114bの形成方向が軸線L2に対して傾斜しており、また、突出部104の外周面の外径が取付溝106を挟んでオフセットされ、また、キャップ110の内周面114aの内径が溝114bを挟んでオフセットされている。すなわち、弾性リング120と取付溝106との係合構造は、補綴物12,14をアバットメント18から取外すときの力が大きくなるように構成されている。さらに、弾性リング120の断面形状が楕円形となっている。これらによって、補綴物12,14をアバットメント18に装着するときは、比較的に小さな力で容易に装着することができる一方で、補綴物12,14をアバットメント18から取外すときに要する力を増大することができる。これによって、補綴物12,14がアバットメント18から意図せずに外れてしまうことを抑制することができる。さらに、実施例1の義歯システム1においては、食物を咬んで咬合圧が強く加わった側(いわゆる、作業側(例えば、右側の臼歯))では、補綴物12,14が沈み込む一方で、反対側(いわゆる、非作業側(例えば、左側の臼歯))では、補綴物12,14が浮き上がる。この場合、作用・反作用の原理によると、作業側の補綴物12,14が沈み込んだ分、同程度に非作業側の補綴物12,14が浮き上がろうとする。しかしながら、実施例1の義歯システム1では、補綴物12,14が浮き上がろうとするときに必要となる外力が、補綴物12,14が沈み込もうとするときに必要となる外力より大きくなっている。その結果、補綴物12,14の作業側が一方的に沈み込もうとすることを、補綴物12,14の非作業側が抑制することになる。逆に、補綴物12,14の一方の側(例えば、右側の臼歯)が浮き上がろうとすると、補綴物12,14の他方の側は沈み込もうとする。この際、補綴物12,14が沈み込もうとするときに必要となる外力は、補綴物12,14が浮き上がろうとするときに必要となる外力より小さくなっている。その結果、補綴物12,14の一方の側が一方的に浮き上がろうとすることを、補綴物12,14の他方の側が容易に沈み込んで、補綴物12,14の一方の側の過度の浮き上がりを抑制することになる。したがって、実施例1の義歯システム1では、複数のアバットメント18によって補綴物12,14を保持することで、補綴物12,14の適正な位置からの過度な沈み込みや過度な浮き上がりを抑制し、補綴物12,14を適切に保持することができる。また、複数のアバットメント18によって補綴物12,14を保持するため、補綴物12,14に作用する外力が分散され、特定のアバットメント18に過大な外力が作用することを抑制することができる。上記の通り、実施例1の義歯システム1では、補綴物12,14に外力が作用したときはその動きを適正にコントロール(すなわち、過度な動きを抑制)することができ、その結果、食物を良く咬むことができる一方、インプラント(16,18)に作用する外力及び補綴物(12,14)に作用する負荷は低く抑えることができる。さらに、弾性リング120及び弾性ボール122の材料、取付溝106の角度、弾性リング120及び弾性ボール122の突出量(すなわち、突出部104の外周面からの突出量)等を調整することで、補綴物12,14の動きの強弱も容易に調整することができる。例えば、弾性リング120の突出量を長くすることで、補綴物12,14の移動範囲を大きくでき、補綴物12,14に作用する負荷の低減を促進することができる。逆に、弾性リング120の突出量を短くすることで、補綴物12,14の調整範囲を小さくでき、補綴物12,14の安定性を向上することができる。
【0041】
なお、上述した実施例1の義歯システム1では、無歯顎用の義歯システムであったが、本明細書に開示の技術は、このような形態に限られない。補綴物に備えられる人工歯の本数に制限はなく、1本であってもよいし、2本以上の任意の数とすることができる。
【0042】
また、上述した実施例1の義歯システム1では、取付溝106の形成方向L3と溝114bの形成方向が突出部104の軸線L2に対して傾斜していたが、本明細書に開示の技術は、このような形態に限られない。例えば、取付溝106の形成方向L3と溝114bの形成方向が、突出部104の軸線L2に対して直交するようにしてもよい。また、突出部104の外周面の外径が取付溝106を挟んでオフセットしていなくてもよいし、また、キャップ110の内周面の内径が溝114bを挟んでオフセットしていなくてもよい。さらに、弾性リング120の断面形状も円形となっていてもよい。このような形態であっても、弾性リング120の材料を適切に選択することによって、補綴物12,14のアバットメント18への着脱を好適に行うことができる。また、取付溝106の軸線L2に対する傾斜角度や、突出部104の外周面の外径のオフセット量を適宜調整することで、補綴物12,14をアバットメント18に装着するときの力より、補綴物12,14をアバットメント18から取外すときの力を大きくし、補綴物12,14の保持力を所望の大きさに調整してもよい。
【0043】
また、上述した実施例1の義歯システム1では、弾性リング120及び弾性ボール122の2つの部材を必要としたが、本明細書に開示の技術は、このような形態に限られない。例えば、図5,6に示すように、弾性リング部222(「第1弾性部」の他の例)と弾性ボール部224(「第2弾性部」の他の例)を一体化した弾性部材220を用いてもよい。図5,6に示すように、アバットメント18aの突出部204の側面には取付溝206が形成されると共に、突出部204の上端面には凹部208が形成される。また、弾性部材220には、弾性ボール部224から下方に伸びる嵌合部226が形成される。弾性部材220の弾性リング部222が取付溝206に取付けられると共に、弾性部材220の嵌合部226が凹部208に嵌合することで、弾性部材220をアバットメント18aに強固に取り付けることができる。なお、弾性リング部222がキャップ210の溝214bに係合する点は、上述した実施例1と同様である。このような形態によると、弾性リング部222と弾性ボール部224を一体化した弾性部材220を用いることで、弾性部材220のアバットメント18aの装着作業を簡易に行うことができる。
【0044】
また、上述した実施例1の義歯システム1では、アバットメント18に弾性リング120及び弾性ボール122が取付けられ、キャップ110に弾性リング120が係合する溝114bを形成したが、本明細書に開示の技術は、このような形態に限られない。例えば、キャップに弾性リング120及び弾性ボール122を取付け、弾性リング120と係合する溝をアバットメントに形成してもよい。このような形態によっても、補綴物がインプラントに対して動くことができ、補綴物及びインプラントに作用する外力を低減することができる。
【0045】
また、上述した実施例1の義歯システム1では、アバットメント18に弾性リング120及び弾性ボール122が着脱可能に取付けられていたが、本明細書に開示の技術は、このような形態に限られない。例えば、弾性リング120及び弾性ボール122はアバットメント18に着脱不能に取付けられていてもよい。この場合、アバットメント18に取付溝及び凹部を形成する必要はなく、アバットメントの外周面に弾性リング及び弾性ボールが直接固定されていてもよい。なお、弾性リング及び弾性ボールを補綴物の係合穴側に設ける場合も同様に、弾性リングを係合穴に対して着脱可能に取付けてもよいし、着脱不能に取付けてもよい。
【0046】
また、上述した実施例は、歯槽骨にフィクスチャを埋め込んだ義歯システムに関するものであったが、本明細書に開示の技術は、天然歯根を用いる場合にも適用することができる。すなわち、天然歯根にアバットメントを固定し、このアバットメントに補綴物を保持する義歯システムにも適用することができる。
【0047】
以上、本発明の実施形態について詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、請求の範囲を限定するものではない。請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。また、本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成するものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0048】
16 フィクスチャ
18 アバットメント
104 突出部
106 取付溝
108 凹部
110 キャップ
112 底部
114 側面部
114a 内周面
114b 溝
120 弾性リング
122 弾性ボール
図1
図2
図3
図4
図5
図6