(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024116408
(43)【公開日】2024-08-27
(54)【発明の名称】ポリエステルフィルムの製造方法、およびポリエステルペレットの製造方法
(51)【国際特許分類】
C08J 11/06 20060101AFI20240820BHJP
B32B 27/30 20060101ALI20240820BHJP
B32B 27/36 20060101ALI20240820BHJP
【FI】
C08J11/06
B32B27/30 102
B32B27/36 ZAB
B32B27/36
【審査請求】有
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024100453
(22)【出願日】2024-06-21
(62)【分割の表示】P 2020090882の分割
【原出願日】2020-05-25
(71)【出願人】
【識別番号】000222255
【氏名又は名称】東洋クロス株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002837
【氏名又は名称】弁理士法人アスフィ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中村 博之
(72)【発明者】
【氏名】石井 良典
(72)【発明者】
【氏名】石井原 耕一
(72)【発明者】
【氏名】増田 雅憲
(72)【発明者】
【氏名】青木 晃宏
(57)【要約】
【課題】塗工層を剥離処理したポリエステルフィルムでありながら、ポリエステルフィルムに塗工層由来の樹脂の付着が非常に少なく、このポリエステルフィルムを再溶融してペレットにした場合にバージン品のペレットと同程度の品質を有するペレットにすることができるポリエステルフィルム、およびそれを用い、バージンポリエステルペレットと同程度の品質を有するポリエステルペレットを提供する。
【解決手段】下記分析法1で算出されるポリビニルアルコール除去指数が0.10以下(0を含まない)であるポリエステルフィルム。
分析法1:ポリエステルフィルムを溶解させた溶液を濾過した後、濾材を赤外分光法の全反射測定法で分析したときに、3200~3650cm
-1の範囲に検出される最大吸光度aと、2840~3000cm
-1の範囲に検出される最大吸光度bとの比(a/b)をポリビニルアルコール除去指数とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記分析法1で算出されるポリビニルアルコール除去指数が0.10以下(0を含まない)であることを特徴とするポリエステルフィルム。
(分析法1)
ポリエステルフィルムを溶解させた溶液を濾過した後、濾材を赤外分光法の全反射測定法で分析したときに、
3200~3650cm-1の範囲に検出される最大吸光度aと、
2840~3000cm-1の範囲に検出される最大吸光度bとの比(a/b)をポリビニルアルコール除去指数とする。
【請求項2】
前記ポリエステルフィルムは、該ポリエステルフィルムの少なくとも一方の面にポリビニルアルコールを含む塗工層が積層されており、ロール状に巻回されているものから製造されたものである請求項1に記載のポリエステルフィルム。
【請求項3】
ポリエステルフィルムの少なくとも一方の面にポリビニルアルコールを含む塗工層が積層されており、ロール状に巻回されている塗工層積層ポリエステルフィルムをアルカリ性処理液と接触させるアルカリ処理工程、および
前記アルカリ処理後のポリエステルフィルムを水と接触させる水洗工程、
を含むことを特徴とする、
下記分析法1で算出されるポリビニルアルコール除去指数が0.10以下(0を含まない)であるポリエステルフィルムの製造方法。
(分析法1)
ポリエステルフィルムを溶解させた溶液を濾過した後、濾材を赤外分光法の全反射測定法で分析したときに、
3200~3650cm-1の範囲に検出される最大吸光度aと、
2840~3000cm-1の範囲に検出される最大吸光度bとの比(a/b)をポリビニルアルコール除去指数とする。
【請求項4】
前記水洗後のポリエステルフィルムをロール状に巻き取る巻回工程、を更に含む請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
前記アルカリ処理工程は、前記塗工層積層ポリエステルフィルムを、90~140℃の温度で、20~60質量%のアルカリ性処理液と1~120秒間接触させる請求項3または4に記載の製造方法。
【請求項6】
前記水洗工程は、前記アルカリ処理後のポリエステルフィルムを、90℃以下の水と1回以上接触させる請求項3~5のいずれかに記載の製造方法。
【請求項7】
前記水洗工程は、前記アルカリ処理後のポリエステルフィルムに対して水を吹き付ける請求項3~6のいずれかに記載の製造方法。
【請求項8】
表面に塗工層が積層されている塗工層積層ポリエステルフィルムから塗工層を剥離処理することによって得られたポリエステルフィルムを溶融成形したポリエステルペレットであり、
下記分析法2で算出される異物の個数が100個/mm2以下であることを特徴とする
ポリエステルペレット。
(分析法2)
ポリエステルペレットを溶融させて位相差光学顕微鏡で、観察倍率10倍で観察し、観察視野面積1mm2あたりに含まれる直径が3μm以上10μm未満の異物の個数を測定
する。
【請求項9】
b値が13以下である請求項8に記載のポリエステルペレット。
【請求項10】
ポリエステルフィルムの少なくとも一方の面に塗工層が積層されており、ロール状に巻回されている塗工層積層ポリエステルフィルムをアルカリ性処理液と接触させるアルカリ処理工程、
前記アルカリ処理後のポリエステルフィルムを水と接触させる水洗工程、および
前記水洗後のポリエステルフィルムを溶融、成形してペレットとするペレット化工程、を含むことを特徴とする、
下記分析法2で算出される異物の個数が100個/mm2以下であるポリエステルペレ
ットの製造方法。
(分析法2)
ポリエステルペレットを溶融させて位相差光学顕微鏡で、観察倍率10倍で観察し、観察視野面積1mm2あたりに含まれる直径が3μm以上10μm未満の異物の個数を測定
する。
【請求項11】
前記塗工層がポリビニルアルコールを含んでおり、
前記水洗後のポリエステルフィルムは、下記分析法1で算出されるポリビニルアルコール除去指数が0.10以下(0を含まない)である請求項10に記載の製造方法。
(分析法1)
ポリエステルフィルムを溶解させた溶液を濾過した後、濾材を赤外分光法の全反射測定法で分析したときに、
3200~3650cm-1の範囲に検出される最大吸光度aと、
2840~3000cm-1の範囲に検出される最大吸光度bとの比(a/b)をポリビニルアルコール除去指数とする。
【請求項12】
ポリエステルフィルムの少なくとも一方の面に塗工層が積層されている塗工層積層ポリエステルフィルムをアルカリ性処理液と接触させるアルカリ処理工程、
前記アルカリ処理後のポリエステルフィルムを水と接触させる水洗工程、
前記水洗後のポリエステルフィルムを溶融、成形してペレットとするペレット化工程、および
前記ペレットを溶融、成形してフィルムとするフィルム化工程、
を含むことを特徴とする、
異物の個数が100個/mm2以下であるポリエステルフィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステルフィルム、ポリエステルフィルムの製造方法、ポリエステルペレット、およびポリエステルペレットの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステルフィルムは、例えば、電子部品用、光学部品用、ラベル用、離型用、転写用などの分野で活用されている。これらの用途で用いられるポリエステルフィルムは、多くの場合、表面に塗工層が設けられている。塗工層としては、例えば、帯電防止層、ハードコート層、反射防止層、防眩層、離型層、印刷層などの機能層や、ポリエステルフィルムと機能層との密着性を確保したり、ポリエステルフィルムとラミネート用接着剤との密着性を確保するための易接着層が挙げられる。また、離型用や転写用などの分野ではポリエステルフィルムの表面、またはポリエステルフィルムに離型層を設け、その上に機能層や様々な薄膜層を積層した後、ポリエステルフィルムから積層した機能層や薄膜層を剥離し、剥離した機能層や薄膜層を上述した分野で活用することもある。なお、本明細書では、これらの機能層、易接着層、薄膜層を総称して塗工層と呼ぶことがある。
【0003】
こうした易接着層や機能層付きポリエステルフィルムを製造する過程、さらには離型用や転写用の機能層や薄膜層が積層されたポリエステルフィルムを製造する過程では、ポリエステルフィルムの表面に塗工層を積層した後に規格外となることがある。規格外となったフィルムは通常廃棄されるが、資源の有効利用のため、ポリエステルフィルムから塗工層を剥離(除去)し、リサイクルすることが望まれている。また、規格外でなくても、離型用や転写用のポリエステルフィルムや、工程用の保護フィルムとして用いられるポリエステルフィルムは使用後廃棄されるが、これらも同様にリサイクルすることが望まれている。
【0004】
このようなフィルムをリサイクルする技術が、例えば特許文献1、2に開示されている。特許文献1には、合成樹脂よりなる基材から該基材上に設けられた異質の層を105℃以上のアルカリ水溶液中で除去した後、0.1質量%ないし10質量%の過酸化物を含有する水溶液により処理することによって上記異質の層を除去することが記載されている。具体的には、まず処理する基材を選別し、当該合成樹脂製の基材全体を予め適当な大きさのチップに裁断し、破砕してから、所定のアルカリ処理を行なうという所謂バッチ方式を採用している。また特許文献2には、使用済みの剥離フィルムの上にあるグリーンシート残渣物を除去して上記剥離フィルムをリサイクルする方法が記載されている。具体的には、使用済みの剥離フィルムの上にあるグリーンシート残渣物を、粘着ロール等の粘着部材に接触させることにより除去しており、所謂ロールツーロール方式を採用している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3270037号公報
【特許文献2】特開2011-104986号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1の方法では、基材を予めチップ状に破砕する必要があり、異質の層の除去に長時間を要するという問題がある。また、チップ状に粉砕することにより表面積が増加すると共に、異物が混入しやすかった。また、上記特許文献2の方法では、粘着ロール
等の粘着部材の粘着力が低下すると、グリーンシート残渣物の除去率が低下するという問題がある。
【0007】
ところで、塗工層にはさまざま素材が用いられ、ポリエステルフィルムから塗工層を剥離した後も、ポリエステルフィルムの表面に塗工層由来の異物が付着していることがあった。一方、ポリエステルフィルムをリサイクルするにあたっては、回収されたポリエステルフィルムを溶融、成形してペレットとし、得られたペレットを再度溶融してフィルム化している。そのためリサイクルに供するポリエステルフィルムの表面に塗工層由来の異物が付着していると、再生されたポリエステルフィルムに塗工層由来の異物が混入すると考えられる。しかし、再生されたポリエステルフィルムに混入するこれらの異物については着目されていなかった。また、再生されたポリエステルフィルムを原料ポリエステルフィルムと同様の高精度の用途で用いるには、異物などの品質面で充分なものとは言えなかった。
【0008】
特許文献1には、アルカリ性処理液を用いて塗工層を剥離処理することが提案されているが、塗工層由来の異物を除去しきれず、再生されたポリエステルフィルムに含まれる異物の量が多くなることがあった。
【0009】
塗工層の素材としては、例えば、ポリビニルアルコールが用いられることがある。ポリビニルアルコールは水系の化合物と親和性が高いため、水系の接着剤やコート剤をポリエステルフィルムに塗工するための易接着層として用いられたり、インクジェットなどの水性インク受容層、離型層、また、薄膜偏光子や液晶化合物のための配向層として用いられている。このように塗工層がポリビニルアルコールを含む場合は、ポリエステルフィルムから塗工層を剥離した後もポリエステルフィルムの表面にポリビニルアルコールが付着していることがあった。
【0010】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、塗工層を剥離処理したポリエステルフィルムでありながら、塗工層由来の樹脂の付着が非常に少なく、このポリエステルフィルムを再溶融してペレットにした場合にバージン品のペレットと同程度の品質を有するペレットにすることができるポリエステルフィルム、およびそれを用い、バージンポリエステルペレットと同程度の品質を有するポリエステルペレットを提供することにある。
【0011】
本発明の他の目的は、ポリエステルフィルムの少なくとも一方の面に塗工層、特にポリビニルアルコールを含む塗工層が積層されており、ロール状に巻回されている塗工層積層ポリエステルフィルムから付着物を高度に除去できるポリエステルフィルムの製造方法、およびこのポリエステルフィルムから得られた高度に異物の少ないポリエステルペレットを製造できる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の構成は以下のとおりである。
[1] 下記分析法1で算出されるポリビニルアルコール除去指数が0.10以下(0を含まない)であることを特徴とするポリエステルフィルム。
(分析法1)
ポリエステルフィルムを溶解させた溶液を濾過した後、濾材を赤外分光法の全反射測定法で分析したときに、3200~3650cm-1の範囲に検出される最大吸光度aと、2840~3000cm-1の範囲に検出される最大吸光度bとの比(a/b)をポリビニルアルコール除去指数とする。
[2] 前記ポリエステルフィルムは、該ポリエステルフィルムの少なくとも一方の面にポリビニルアルコールを含む塗工層が積層されており、ロール状に巻回されているもの
から製造されたものである[1]に記載のポリエステルフィルム。
[3] ポリエステルフィルムの少なくとも一方の面にポリビニルアルコールを含む塗工層が積層されており、ロール状に巻回されている塗工層積層ポリエステルフィルムをアルカリ性処理液と接触させるアルカリ処理工程、および前記アルカリ処理後のポリエステルフィルムを水と接触させる水洗工程、を含むことを特徴とする、
下記分析法1で算出されるポリビニルアルコール除去指数が0.10以下(0を含まない)であるポリエステルフィルムの製造方法。
(分析法1)
ポリエステルフィルムを溶解させた溶液を濾過した後、濾材を赤外分光法の全反射測定法で分析したときに、3200~3650cm-1の範囲に検出される最大吸光度aと、2840~3000cm-1の範囲に検出される最大吸光度bとの比(a/b)をポリビニルアルコール除去指数とする。
[4] 前記水洗後のポリエステルフィルムをロール状に巻き取る巻回工程、を更に含む[3]に記載の製造方法。
[5] 前記アルカリ処理工程は、前記塗工層積層ポリエステルフィルムを、90~140℃の温度で、20~60質量%のアルカリ性処理液と1~120秒間接触させる[3]または[4]に記載の製造方法。
[6] 前記水洗工程は、前記アルカリ処理後のポリエステルフィルムを、90℃以下の水と1回以上接触させる[3]~[5]のいずれかに記載の製造方法。
[7] 前記水洗工程は、前記アルカリ処理後のポリエステルフィルムに対して水を吹き付ける[3]~[6]のいずれかに記載の製造方法。
[8] 表面に塗工層が積層されている塗工層積層ポリエステルフィルムから塗工層を剥離処理することによって得られたポリエステルフィルムを溶融成形したポリエステルペレットであり、下記分析法2で算出される異物の個数が100個/mm2以下であること
を特徴とするポリエステルペレット。
(分析法2)
ポリエステルペレット溶融させて位相差光学顕微鏡で、観察倍率10倍で観察し、観察視野面積1mm2あたりに含まれる直径が3μm以上10μm未満の異物の個数を測定す
る。
[9] b値が13以下である[8]に記載のポリエステルペレット。
[10] ポリエステルフィルムの少なくとも一方の面に塗工層が積層されており、ロール状に巻回されている塗工層積層ポリエステルフィルムをアルカリ性処理液と接触させるアルカリ処理工程、前記アルカリ処理後のポリエステルフィルムを水と接触させる水洗工程、および前記水洗後のポリエステルフィルムを溶融、成形してペレットとするペレット化工程、を含むことを特徴とする、
下記分析法2で算出される異物の個数が100個/mm2以下であるポリエステルペレ
ットの製造方法。
(分析法2)
ポリエステルペレットを溶融させて位相差光学顕微鏡で、観察倍率10倍で観察し、観察視野面積1mm2あたりに含まれる直径が3μm以上10μm未満の異物の個数を測定
する。
[11] 前記塗工層がポリビニルアルコールを含んでおり、前記水洗後のポリエステルフィルムは、下記分析法1で算出されるポリビニルアルコール除去指数が0.10以下(0を含まない)である[10]に記載の製造方法。
(分析法1)
ポリエステルフィルムを溶解させた溶液を濾過した後、濾材を赤外分光法の全反射測定法で分析したときに、3200~3650cm-1の範囲に検出される最大吸光度aと、2840~3000cm-1の範囲に検出される最大吸光度bとの比(a/b)をポリビニルアルコール除去指数とする。
[12] ポリエステルフィルムの少なくとも一方の面に塗工層が積層されている塗工
層積層ポリエステルフィルムをアルカリ性処理液と接触させるアルカリ処理工程、前記アルカリ処理後のポリエステルフィルムを水と接触させる水洗工程、前記水洗後のポリエステルフィルムを溶融、成形してペレットとするペレット化工程、および前記ペレットを溶融、成形してフィルムとするフィルム化工程、を含むことを特徴とする、異物の個数が100個/mm2以下であるポリエステルフィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0013】
上記構成により、本発明によれば、バージン品と同程度の品質を有するポリエステルフィルム、およびその製造方法を提供できる。また、本発明によれば、バージン品と同程度の品質を有するポリエステルペレット、およびその製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に用いられるロールツーロール装置の概略図である。
【
図2】
図2は、水洗後の剥離処理ポリエチレンテレフタレートフィルムの赤外吸収スペクトルである。
【
図3】
図3は、アルカリ処理前の塗工層積層ポリエチレンテレフタレートフィルムの赤外吸収スペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明者らの検討によると、ポリエステルフィルムの少なくとも一方の面に塗工層が積層されたポリエステルフィルムから塗工層を剥離したポリエステルフィルムにおいても、塗工層由来の成分が依然として付着しており、このような成分が付着したポリエステルフィルムを用いてポリエステルペレットを成形した場合には異物の多いペレットとなり、品質が低下する原因になっていたことが判明した。なお、以下、塗工層が積層されたフィルムを塗工層積層フィルムと呼び、塗工層を剥離したフィルムを剥離処理フィルムと呼ぶことがある。また、フィルムがポリエステルフィルムの場合は、塗工層が積層されたポリエステルフィルムを塗工層積層ポリエステルフィルムと呼び、塗工層を剥離したポリエステルフィルムを剥離処理ポリエステルフィルムと呼ぶことがある。
【0016】
また、本発明者らの検討によると、塗工層に含まれる樹脂成分がアルカリ性処理液で分解しにくい場合、例えば塗工層に含まれる樹脂成分が炭素-炭素結合を主鎖とする樹脂、シリコーン樹脂、酢酸セルロールやニトロセルロースなどのセルロース系樹脂等であるときや、塗工層に含まれる樹脂に架橋剤が含まれており、この架橋剤がメラミンやイソシアネート化合物の様に架橋剤自体で反応し凝集体となりやすいときは、これらの樹脂等が塗工層積層ポリエステルフィルムから剥離し、アルカリ処理液中に浮遊した状態で多く存在するために剥離処理フィルムに再付着し、アルカリ処理条件を厳しくしても異物が減少しにくいことが分かった。特に樹脂成分がポリビニルアルコールの場合は、アルカリ性処理液や水洗に用いる水中で膨潤して糊状となり、フィルムに付着しやすいこと、これらの塗工層の樹脂成分が表面に付着した剥離処理フィルムを溶融して成形すると、ペレット中に異物として含まれやすいことが分かった。
【0017】
以下、本発明について詳細に説明する。以下では、ポリエステルフィルムの少なくとも一方の面にポリビニルアルコールを含む塗工層が積層された場合を代表として説明する。なお、以下では、ポリビニルアルコールを含む塗工層をPVA含有塗工層と呼ぶことがある。
【0018】
本発明の剥離処理ポリエステルフィルムは、下記分析法1で算出されるポリビニルアルコール除去指数が0.10以下(0を含まない)である。
(分析法1)
剥離処理ポリエステルフィルムを溶解させた溶液を濾過した後、濾材を赤外分光法の全反射測定法で分析したときに、3200~3650cm-1の範囲に検出される最大吸光度aと、2840~3000cm-1の範囲に検出される最大吸光度bとの比(a/b)をポリビニルアルコール除去指数とする。
【0019】
上記分析法1で算出されるポリビニルアルコール除去指数(以下、PVA除去指数ということがある。)は、剥離処理ポリエステルフィルムに含まれるポリビニルアルコールの量を示しており、PVA除去指数が0.10以下であることにより、バージン品と同程度の品質を実現できる。PVA除去指数は、0.05以下が好ましく、より好ましくは0.03以下である。PVA除去指数はできるだけ小さい方が好ましいが、ポリエステルフィルムの少なくとも一方の面にPVA含有塗工層が積層されているポリエステルフィルム(以下、PVA含有塗工層積層ポリエステルフィルムと呼ぶことがある)から剥離処理ポリエステルフィルムを製造する場合は、経済的な工業生産の面でPVA除去指数を0にすることは必ずしも好ましいことではなく、通常0.001以上が好ましい。PVA除去指数は0.003以上であってもよい。
【0020】
PVA除去指数は、剥離処理ポリエステルフィルムを溶解させた溶液を濾過した後、濾材を赤外分光法(Infrared spectroscopy;IR)の全反射測定法(Attenuated Total Reflection;ATR法)で分析し、3200~3650cm-1の範囲に検出される最大吸光度aと、2840~3000cm-1の範囲に検出される最大吸光度bとの比(a/b)として算出できる。3200~3650cm-1の範囲に検出されるピークは、ポリビニルアルコールのOH伸縮振動に起因しており、2840~3000cm-1の範囲に検出されるピークは、濾材のCH伸縮振動に起因している。
【0021】
剥離処理ポリエステルフィルムを溶解させる溶媒としては、例えば、1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-プロパノールを用いることができる。
【0022】
濾材としては、例えば、素材がポリテトラフルオロエチレン(PTFE)のメンブランフィルターを用いることができる。
【0023】
ポリエステルフィルムとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、ポリブチレンテレフタレート(PBT)フィルム、ポリエチレンナフタレート(PEN)フィルム、ポリブチレンナフタレート(PBN)フィルム、ポリプロピレンテレフタレート(PPT)フィルムなどが挙げられ、好ましくはPETフィルムである。
【0024】
ポリエステルフィルムの厚みは特に限定されないが、取扱い性などを考慮すると5μm以上、500μm以下が好ましい。厚みは、より好ましくは7μm以上であり、より好ましくは400μm以下、さらに好ましくは350μm以下、特に好ましくは300μm以下である。
【0025】
本発明の剥離処理ポリエステルフィルムは、ロール状に巻回されているPVA含有塗工層積層ポリエステルフィルムから製造されたものであることが好ましい。PVA含有塗工層は、ポリエステルフィルムの少なくとも一方の面の一部に設けられていてもよいし、全部に設けられていてもよい。また、PVA含有塗工層は、ポリエステルフィルムの少なくとも一方の面に付着していればよく、両方の面に付着していてもよい。
【0026】
本発明の剥離処理ポリエステルフィルムは、再生品であるにもかかわらず異物の含有量が非常に少ないため、種々の分野で用いることができ、特に光学用途に好適に用いることができる。
【0027】
次に、このような剥離処理ポリエステルフィルムの製造方法について説明する。
【0028】
本発明の剥離処理ポリエステルフィルムは、ポリエステルフィルムの少なくとも一方の面にPVA含有塗工層が積層されており、ロール状に巻回されている塗工層積層ポリエステルフィルム(PVA含有塗工層積層ポリエステルフィルム)をアルカリ性処理液と接触させるアルカリ処理工程、前記アルカリ処理後のポリエステルフィルムを水と接触させる水洗工程、を含む方法によって製造できる。さらに、上記によって得られた水洗後の剥離処理ポリエステルフィルムをロール状に巻き取る巻回工程、を更に含んでもよい。本発明の製造方法は、ロール状に巻回されている塗工層積層ポリエステルフィルムを長尺状の状態でアルカリ性処理液と接触させ、その後水と接触させる点で、上記特許文献1に記載のチップ状に粉砕された基材フィルムをアルカリ性処理液で処理する方法と相違している。
【0029】
以下、各工程について説明する。
【0030】
(アルカリ処理工程)
アルカリ処理工程では、ポリエステルフィルムの少なくとも一方の面にPVA含有塗工層が積層されており、ロール状に巻回されている塗工層積層ポリエステルフィルム(PVA含有塗工層積層ポリエステルフィルム)をアルカリ性処理液と接触させる。「アルカリ性処理液と接触させる」とは、例えば所定濃度のアルカリ性処理液と、例えば浸漬、塗布、噴霧などの方法により接触させることを意味する。「アルカリ性処理液と接触させる」には、加熱されたアルカリ性処理液と接触させることによりポリエステルフィルムを加熱することも含まれる。
【0031】
アルカリ性処理液は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ供給源を含む。上記アルカリ供給源は、単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。これらはポリエステルフィルムに付着しているPVA含有塗工層を溶解、膨潤させて、ポリエステルフィルムからPVA含有塗工層を剥離(除去)する作用を有する。アルカリ性処理液としては、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液などの水溶液が好ましく、水酸化カリウム水溶液がより好ましい。
【0032】
アルカリ性処理液は、PVA含有塗工層の剥離効率を高めるため、アルカリ性処理助剤を更に含んでいてもよい。アルカリ性処理助剤としては、例えば沸点上昇剤などのようにアルカリ性処理液の加熱温度を上昇し得るものが好ましく用いられ、例えば、界面活性剤、水溶性無機化合物、水溶性有機化合物、水溶性溶媒などが挙げられる。具体的には、例えば、ノニオン系界面活性剤、水溶性無機塩類、水溶性有機塩類、水溶性高分子、多糖類、アルコール、グリコール類(エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコールなど)、水溶性有機溶媒[ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、エチレングリコールのエーテル類(各種セロソルブ)]、などが挙げられる。これらのうち好ましくは、グリコール類である。これらは単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0033】
アルカリ処理条件は、ポリエステルフィルムの種類、厚みなどに応じて適宜適切に選択できるが、好ましい実施態様である小型で簡便な設備を用いて、全体の処理時間を延ばすことなしに異物の少ない高品質の剥離処理ポリエステルフィルムを得るためには、例えば、90~140℃の温度に加熱された20~60質量%のアルカリ性処理液と1~120秒間接触(例えば、浸漬)することが好ましい。
【0034】
アルカリ性処理液がアルカリ供給源およびアルカリ性処理助剤の両方を含む場合、これらを含むアルカリ性処理液の濃度を20~60質量%に調整した処理液を90~140℃の温度に加熱し、該処理液と、PVA含有塗工層積層ポリエステルフィルムとを1~12
0秒間接触させることが好ましい。
【0035】
上記のアルカリ処理条件において、アルカリ性処理液の加熱温度を90℃以上とすることにより、好ましい実施態様である小型で簡便な設備でもPVA含有塗工層を充分に除去できる。また、本発明では上述したとおり、高濃度のアルカリ性処理液を好ましく用いているため、アルカリ性処理液の温度を高くすることにより、アルカリ成分が析出して上記処理液自体が固化することを防止できる。アルカリ性処理液の加熱温度は、より好ましくは100℃以上である。一方、アルカリ性処理液の加熱温度を140℃以下とすることにより、アルカリ性処理液との接触により剥離処理ポリエステルフィルムが変質することを防止できる。アルカリ性処理液の加熱温度は、より好ましくは135℃以下である。
【0036】
上記のアルカリ処理条件において、アルカリ性処理液の濃度(アルカリ性処理液がアルカリ供給源およびアルカリ性処理助剤を含む場合は、これらの合計濃度)を20質量%以上とすることにより、異物の少ない高品質の剥離処理ポリエステルフィルムを得るためのPVA含有塗工層の剥離を短時間で行うことができるため、好ましい実施態様である小型で簡便な設備でもPVA含有塗工層を充分に除去できる。アルカリ性処理液の濃度は、より好ましくは25質量%以上、さらに好ましくは30質量%以上、特に好ましくは35質量%以上である。一方、アルカリ性処理液の濃度を60質量%以下とすることにより、アルカリ性処理液との接触により剥離処理ポリエステルフィルムが変質することを防止できる。アルカリ性処理液の濃度は、より好ましくは55質量%以下、さらに好ましくは50質量%以下、特に好ましくは47質量%以下、最も好ましくは45質量%以下である。
【0037】
上記のアルカリ処理条件において、アルカリ性処理液との接触時間を1秒以上とすることにより、PVA含有塗工層を充分に除去できる。接触時間は、より好ましくは3秒以上、さらに好ましくは5秒以上である。一方、アルカリ性処理液との接触時間を120秒以下とすることにより、好ましく用いられる小型で簡便なロールツーロール方式の設備(詳細は後述する。)での処理が可能となる。具体的には、アルカリ処理槽内でのポリエステルフィルムの架け渡しを単純化できるため、アルカリ処理槽を小型化できたり、アルカリ処理槽の数を減らせるため、設備全体を小型化できる。接触時間は、より好ましくは90秒以下、さらに好ましくは60秒以下、特に好ましくは40秒以下である。
【0038】
上記のアルカリ処理条件(特に濃度および時間)は、前述した特許文献1に記載の条件と相違している。即ち、上記特許文献1では基材を予め粉砕してからアルカリ処理を行うバッチ方式を採用しているため、例えば水酸化ナトリウム水溶液の濃度を0.1~20質量%と低濃度に制御して、加熱による基材フィルムの加水分解や溶解などを抑制している。更に上記特許文献1では、アルカリ処理による剥離効果を有効に発揮させるため、実施例では、5質量%の水酸化ナトリウム水溶液で30~60分間、長時間アルカリ処理している。これに対し、本発明では短時間の剥離処理を目指して、ロール状に巻回されているポリエステルフィルムを送り出し、長尺状のまま直接アルカリ性処理液と接触させているため、アルカリ性処理液の濃度は20~60質量%、アルカリ性処理液との接触時間は1~120秒間と、特許文献1に比べて高濃度、短時間でのアルカリ処理が可能である。このように両者は、好ましいアルカリ処理条件の観点からも、上記特許文献1と相違するものである。
【0039】
アルカリ処理回数は、好ましくは1~5回であり、より好ましくは1~3回である。なお、ここでいう1回のアルカリ処理はポリエステルフィルムをアルカリ性処理液と接触させる回数を意味し、ポリエステルフィルムをアルカリ性処理液に浸漬させる場合は、浸漬してから引き上げるまでを1回とする。アルカリ処理槽を用いてアルカリ処理を複数回行う場合は、同一のアルカリ処理槽を用いてもよいし、個別のアルカリ処理槽を用いてもよく、個別のアルカリ処理槽を用いる方が設備の対応柔軟性が向上し、アルカリ処理槽内の
アルカリ性処理液の管理の面でも好ましい。
【0040】
アルカリ処理では必要により、ブラシや超音波処理など、物理的な手段を併用してもよい。
【0041】
アルカリ処理工程では、ポリエステルフィルムの表面から剥離されたPVA含有塗工層の残渣がアルカリ性処理液中に存在しているため、アルカリ性処理液からPVA含有塗工層の残渣を適宜除去しながら行われることが好ましい。
【0042】
(水洗工程)
水洗工程では、上記アルカリ処理後のポリエステルフィルムを水と接触させて水洗する。水と接触させることにより、ポリエステルフィルムに付着しているアルカリ性処理液を除去したり、アルカリ処理工程で付着したPVA含有塗工層の残渣を除去できる。
【0043】
上記アルカリ処理後のポリエステルフィルムを水と接触させる方法は特に限定されず、例えば、アルカリ処理後のポリエステルフィルムを水洗槽に浸漬する方法や、アルカリ処理後のポリエステルフィルムに対して水を吹き付ける方法などが挙げられ、これらの方法を併用することが好ましい。水洗工程では、ポリエステルフィルムに対して水を吹き付けることがより好ましい。水を吹き付けることにより、ポリエステルフィルムに付着しているアルカリ性処理液やポリビニルアルコールを効率良く除去できる。水を吹き付ける方法は特に限定されず、例えば、ポリエステルフィルムに向けて設けたノズルから水を例えばシャワー状に噴射させて吹き付ければよい。
【0044】
水洗条件は、ポリエステルフィルムの種類、厚みなどに応じて適宜適切に選択できるが、好ましい実施態様である小型で簡便な設備を用いて、全体の処理時間を延ばすことなしに異物の少ない高品質の剥離処理ポリエステルフィルムを得るためには、例えば、90℃以下の水と1回以上接触させることが好ましい。
【0045】
90℃以下の水を用いることによりポリエステルフィルムを損傷させることなくPVA含有塗工層を溶解させることができる。また、水の沸騰を防止できるため、安全に安定した水洗が可能となる。水洗の温度は、より好ましくは80℃以下、更に好ましくは70℃以下である。水の温度の下限は特に限定されないが、0℃以下では水が凝固するため、0℃超とする。水の温度は、より好ましくは10℃以上、更に好ましくは室温(27℃)以上、特に好ましくは40℃以上である。
【0046】
水洗回数は、好ましくは2回以上であり、好ましくは5回以下、より好ましくは3回以下である。なお、ここでいう1回の水洗はポリエステルフィルムを水と接触させる回数を意味し、ポリエステルフィルムを水に浸漬させる場合は、浸漬してから引き上げるまでを1回とする。ポリエステルフィルムに対して水を吹き付ける場合は、例えば、ポリエステルフィルムに対してノズルから水を吹き付ける回数を意味するが、複数のノズルをフィルムの搬送方向に間隔をあけて配置したときには、途中で水切りするまでを1回とする。例えば、2つのノズルをフィルムの搬送方向に間隔をあけて配置した場合は、水洗回数は1回とカウントし、ノズルとノズルの間に例えばマングルなどを配置し、フィルムに付着した水を除去した場合は、水洗回数は2回とカウントする。また、フィルムに吹き付けた水を水洗槽に流し落とすのであれば、水の吹き付けと水洗槽での処理を合わせて1回とする。
【0047】
水洗を2回以上行う場合は、各回同じ水温で水洗してもよいし、異なる水温で水洗してもよい。水洗温度を変更する場合は、n回目の水洗温度よりもn+1回目の水洗温度を高くしてもよいし、低くしてもよく、低くすることが好ましい。PVAは水温が高いほど溶
解しやすいため、アルカリ処理後のポリエステルフィルムを温度が相対的に高い水と接触させた後、温度が相対的に低い水と接触させることによりPVAの除去率を高めることができる。
【0048】
水洗工程で用いられる水には界面活性剤や消泡剤等を加えてもよいが、最終の水洗工程で用いる水はこれらを加えないものであることが好ましい。
【0049】
水との接触時間は特に限定されないが、1秒以上とすることにより、アルカリ性処理液やPVA含有塗工層の残渣を充分に除去できる。接触時間は、より好ましくは3秒以上、さらに好ましくは5秒以上である。一方、接触時間を120秒以下とすることにより、好ましく用いられる小型で簡便なロールツーロール方式の設備(詳細は後述する。)でも水洗できる。具体的には、水洗槽内でのポリエステルフィルムの架け渡しを単純化できるため、水洗槽を小型化できたり、水洗槽の数を減らすことができるため、設備全体を小型化できる。接触時間は、より好ましくは90秒以下、さらに好ましくは60秒以下、特に好ましくは40秒以下である。
【0050】
水洗工程を複数回に分けて行う場合、好ましい実施態様である小型で簡便な設備を用いて、全体の処理時間を延ばすことなしに異物の少ない高品質のポリエステルフィルムを得るために、例えば、水洗工程全体としての処理時間を1~120秒間とすることが好ましい。
【0051】
アルカリ処理後のポリエステルフィルムを水洗槽に浸漬することにより水と接触させる場合は、フィルムに付着して水洗槽内に持ち込まれたPVA含有塗工層の残渣を適宜水洗槽内から除去しながら行われることが好ましい。
【0052】
本発明者らの検討によると、ポリビニルアルコールなどに代表されるアルカリにより主鎖が分解しづらい樹脂を含む塗工層は、アルカリ性処理液中に微粉末や薄膜状の固形物として存在する残渣が多くなることが分かった。この残渣は、フィルムに付着してアルカリ処理槽から水洗槽に持ち込まれ、水洗槽で内でも塗工層の残渣が多くなる。水洗槽内の水を再使用しない場合であれば水洗に用いる水に塗工層の残渣は含まれないが、廃液を減らす目的や経済的理由から水洗の水は水洗槽に貯め再使用される。これらの理由から、アルカリ性処理液や水洗の水から塗工層の残渣を除去しながら処理を行うことが好ましい。
【0053】
残渣を除去する方法としては、フィルターを用いる方法、遠心分離による方法、浮遊物をスキジー等で掻き取る方法、沈殿タンクで沈降させる方法、一定量の新しいアルカリ性処理液や水洗の水を添加して、その分の使用済みアルカリ性処理液や水洗の水をオーバーフローなどにより抜き出す方法などを適宜組み合わせることができる。また、後述するが、水洗工程を多段階とし、最終段階ではフィルターでろ過したり、浮遊物のない新しい水を用いたシャワーで剥離処理ポリエステルフィルムを洗い流すことも好ましい。この時にシャワーに用いた水は水洗槽に加え、その分をオーバーフロー等で流し出すことも好ましい。
【0054】
本発明の方法であれば、簡便な方法で塗工層の残渣を除去することができ、塗工層が低レベルに除去された剥離処理ポリエステルフィルムおよびそれから得られた異物の少ないポリエステルペレットを得ることができる。
【0055】
アルカリ処理後のポリエステルフィルムを水洗槽に浸漬することにより水と複数回接触させる場合は、同一の水洗槽を用いてもよいし、個別の水洗槽を用いてもよく、個別の水洗槽を用いる方が設備の対応柔軟性が向上し、水洗槽内の水の管理の面でも好ましい。
【0056】
水洗工程の後は、乾燥することが好ましい。乾燥温度は特に限定されないが、例えば、90~140℃が好ましい。乾燥温度を90℃以上とすることにより、短時間で乾燥できるため、好ましい実施態様である小型で簡便な設備でもポリエステルフィルムを製造できる。乾燥温度は、より好ましくは100℃以上である。一方、乾燥温度を140℃以下とすることにより、ポリエステルフィルムの変質を防止できる。乾燥温度は、より好ましくは135℃以下である。
【0057】
乾燥時間は特に限定されないが、例えば、50~150秒が好ましい。乾燥時間を50秒以上とすることにより、乾燥ムラを低減できる。乾燥時間は、より好ましくは60秒以上である。一方、乾燥時間を150秒以下とすることにより、ポリエステルフィルムの変形を防止できる。乾燥時間は、より好ましくは140秒以下である。
【0058】
乾燥させたポリエステルフィルムは、枚葉に裁断したり、シュレッダー等に導いて粉砕してもよいが、巻回工程に導くことが好ましい。
【0059】
(巻回工程)
巻回工程では、水洗後の剥離処理ポリエステルフィルムをロール状に巻き取る。即ち、ロール状に巻回された塗工層積層ポリエステルフィルムを送り出し、長尺状の状態でアルカリ性処理液と接触させて塗工層を剥離し、水と接触させて水洗し、乾燥させることにより、ロール状に巻き取ることができる。「長尺状」の長さは、例えば使用する装置などの種類などによっても相違するが、おおむね、100~20000mを意味する。「長尺状の状態で」とは、ロール状に巻き取られた長尺状の塗工層積層ポリエステルフィルムを送り出し、そのままの長尺状の状態でアルカリ性処理液と接触させる態様と、アルカリ性処理液と接触可能な状態に調整(処理)した状態でアルカリ性処理液と接触させる態様の両方を含む趣旨である。前者の「そのままの長尺状の状態」とは、ロール状に巻き取った長尺状の塗工層積層ポリエステルフィルムと全く同じ幅および長さのままで接触させる態様を意味する。後者の「調整した状態」とは、例えば、ロール状に巻き取った長尺状の塗工層積層ポリエステルフィルムを、予めアルカリ性処理液と接触可能な幅に切断したり、接触可能な長さに切断したりするなどしてロール状に巻き直す態様;切断した長尺状の塗工層積層フィルムを別々にアルカリ性処理液に導く際、上記フィルムが長すぎる場合に、アルカリ性処理液と接触させる前に接触可能な長さに切断する態様などが含まれる。また「長尺状の状態でアルカリ性処理液と接触させる」とは、上述した状態の塗工層積層ポリエステルフィルムを破砕などせずに直接、接触させることを意味する。このように、長尺状で塗工層を除去することにより、破砕してチップ化する際に切断部に塗工層が食い込み、塗工層が残ったり、剥離した塗工層がチップ間や切断部に引っかかって残る、といった従来の方法による問題も起こり難く、フィルムから塗工層を効果的に除去できる。
【0060】
本発明の製造方法によれば、前述した特許文献1のように、基材フィルムを予め粉砕するバッチ方式でなく、ロール状に巻き取られた塗工層積層ポリエステルフィルムを、長尺状の状態で直接、アルカリ性処理液と接触させているため、短時間で効率良くポリビニルアルコールなどを含む塗工層を剥離できる。ロール状の塗工層積層ポリエステルフィルムをアルカリ性処理液と接触させると共に、上記接触後、ポリビニルアルコールなどを含む塗工層が剥離された長尺状のポリエステルフィルムを、次の工程(水洗、乾燥)にそのまま導入して、ロール状で巻き取るロールツーロール方式は、ロール状に巻回されている塗工層積層ポリエステルフィルムを、複数のガイドロールを介して、連続的に搬送し、所定の処理を行ったポリエステルフィルムを、再びロール状態に巻き取る巻出巻取式の搬送方法である。ロールツーロール方式によれば、一連の剥離工程を、連続して短時間で行うことができ、非常に効率的である。また、塗工層が剥離されたポリエステルフィルムを、さらに裁断や溶融してペレット化するなど、次の工程に移動させる場合には、運搬も効率的である。
【0061】
ロール状に巻回されている塗工層積層ポリエステルフィルムは、該ポリエステルフィルムの少なくとも一方の面に易接着層が設けられているもの、ポリエステルフィルム上に直接または易接着層を介して機能層が設けられているもの、ポリエステルフィルム上に直接または易接着層を介して剥離用の機能層や薄膜層が設けられているものなどが挙げられる。
【0062】
塗工層として機能層が積層されたポリエステルフィルムや、剥離用の機能層や薄膜層が積層されたポリエステルフィルムの場合は、前記アルカリ処理工程に先立って、塗工層の一部である機能層や薄膜層を除去する工程、を更に含んでもよい。また、機能層や薄膜層が積層されたままアルカリ処理工程に導いてもよい。
【0063】
機能層とは、例えば、帯電防止層、粘着層、ハードコート層、反射防止層、防眩層、離型層、印刷層、薄膜偏光子、液晶化合物用の配向層、インク受容層などが挙げられる。薄膜層としては、ポリイミド前駆体、ポリアリレート、ポリスルホンなどの薄膜フィルム、表皮材、セラミックグリーンシート、燃料電池電極材シート、金属薄膜層などが挙げられる。これらの易接着層、機能層、薄膜層などの塗工層は、ポリエステルフィルムの少なくとも片面に有していればよく、両面に有していてもよい。また、上記塗工層は、単独で有していてもよいし、二種以上が積層されていてもよい。また、上記塗工層は、単一の機能だけでなく複数の機能を有するものであってもよい。
【0064】
以下、易接着層と機能層のいくつかの例を具体的に説明する。
【0065】
易接着層はポリエステルフィルム、特に延伸PETフィルム上に設けられ、機能層や接着剤との密着性(接着強度)を向上させたり調整したりする層である。
【0066】
易接着層に用いられる樹脂は、共重合ポリエステル、ポリエステルポリウレタン、ポリエーテルポリウレタン、ポリカーボネートポリウレタン、アクリル樹脂、ウレタン変性アクリル樹脂、ポリビニルアルコール、セルロース系樹脂などが挙げられる。易接着層は架橋されていることが好ましく、架橋剤としては、イソシアネート化合物、オキサゾリン化合物、エポキシ化合物、メラミンなどのアミノ樹脂などが挙げられる。その他に有機系や無機系の滑剤粒子が添加されていてもよい。
【0067】
易接着層は、フィルムの製膜工程中で塗工されるインライン方式であることが好ましい。易接着層の厚みは10~200nmであることが好ましく、さらには20~150nmが好ましい。
【0068】
帯電防止層を構成する樹脂は、帯電防止層に一般に用いられる樹脂であれば特に限定されない。帯電防止層は、帯電防止剤を更に含有してもよい。帯電防止剤としては、例えば、ノニオン系、カチオン系、アニオン系、両性の界面活性剤;ポリピロール、ポリアニリン、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)/ポリ(4-スチレンサルフォネート)などの導電性高分子;SnO2(Sbドープ)、In2O3(Snドープ)、ZnO(A
lドープ)などの金属酸化物フィラー;カーボンブラック、グラフェン、カーボンナノチューブ(CNT)などのカーボン系物質などが挙げられる。これらの帯電防止剤は単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0069】
粘着層は、粘着層に一般に用いられる粘着剤を含む。粘着剤の種類は特に限定されず、例えば、アクリル系粘着剤、ゴム系粘着剤、ポリウレタン系粘着剤、シリコーン系粘着剤などが挙げられる。粘着層は、タッキファイヤー(粘着付与樹脂)などを更に含有してもよい。
【0070】
ハードコート層を構成する樹脂は、ハードコート層に一般に用いられる樹脂であれば特に限定されず、例えば、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂などが挙げられる。これらの樹脂は単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0071】
離型層を構成する樹脂は、離型層に一般に用いられる樹脂であれば特に限定されず、例えば、ポリジメチルシロキサンなどのシリコーン樹脂、メラミン樹脂や尿素樹脂などのアミノ樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、アルキッド樹脂などが挙げられる。これらの樹脂は単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。離型層は、シリコーンオイル、ワックスなどの離型剤を更に含有してもよい。
【0072】
機能層の厚み(機能層を複数有する場合は、これらの合計厚み)は、0.001μm以上が好ましい。所定の機能を有効に発揮させるためには、機能層の厚みは、より好ましくは0.005μm以上、さらに好ましくは0.01μm以上である。一方、機能層の厚みを50μm以下とすることにより、機能層を短時間で除去できる。機能層の厚みは、より好ましくは20μm以下、さらに好ましくは10μm以下、特に好ましくは5μm以下である。
【0073】
機能層の表面には、アルカリ性処理液との親和性を高める目的で表面処理層を積層してもよい。表面処理層の形成に用いられる表面改質処理は公知の方法を採用でき、例えば、コロナ処理、プラズマ処理、火炎処理などが挙げられる。
【0074】
機能層などの塗工層は、前述のようにアルカリにより主鎖が分解しづらい樹脂を含む場合や高度に架橋されているため、除去しにくい場合もある。このような場合には、塗工層の表面を表面処理することも好ましい。表面処理は、塗工層の表面を親水化させてアルカリ性処理液との親和性を高めたり、何らかの形で劣化させて、アルカリによる分解やアルカリの浸透が起こりやすくする処理を意味する。表面処理は、酸化処理、分解処理、劣化処理、親水化処理など呼ばれることがある。また、表面処理は、それ自体は塗工層の剥離を目的とするものではなく、アルカリ処理で塗工層を剥離しやすくすることを目的とするものである。
【0075】
表面処理としては、例えば、ウエット処理、ドライ処理、メカニカル処理、膨潤処理などが挙げられる。ウエット処理としては、例えば、オゾン、過酸化水素、硝酸、過塩素酸、過マンガン酸などの水溶液のよる処理が挙げられる。ドライ処理としては、例えば、オゾン処理、過酸化水素ガス処理、コロナ処理、プラズマ処理、火炎処理などが挙げられる。メカニカル処理としては、例えば、サンダーローラーや金属ブラシなどによるアルカリ性処理液との接触面積を増やすための処理などが挙げられる。膨潤処理としては、例えば、溶剤等を塗工する処理が挙げられる。中でも安全性や取り扱い性、効果の安定性の面ではドライ処理が好ましく、より好ましくはコロナ処理、プラズマ処理、火炎処理であり、さらに好ましくはコロナ処理である。
【0076】
表面処理は、本発明によるロール状で処理する方式だけでなく、バッチ方式で処理する場合であっても、塗工層が上記のようなアルカリにより主鎖が分解しづらい樹脂を含むときや高度に架橋されているときには有効な手段である。しかし、濃度の高いアルカリを用いることによる除去能力の高さや除去した塗工層の残渣を除くことができるという点において、表面処理は、本発明によるロール状で処理する方式と組み合わせて行うことが好ましい。なお、バッチ方式の場合、アルカリ性処理液の濃度は、特に20質量%以下が好ましく、より好ましくは15質量%以下、さらに好ましくは10質量%以下である。バッチ方式の場合、アルカリ性処理液との接触時間が長くなるため、アルカリ性処理液の濃度が高くなりすぎたときには基材のポリエステルが分解されることがある。バッチ方式の場合
、アルカリ性処理液との接触時間は、5分以上が好ましく、より好ましくは10分以上、さらに好ましくは15分以上であり、好ましくは150分以下、より好ましくは120分以下である。
【0077】
次に、本発明に係る剥離処理ポリエステルフィルムの製造方法について
図1を用いてより詳しく説明する。
図1には、所謂ロールツーロール方式に好ましく用いられる装置100の一例を図示しているが、本発明の作用が有効に発揮される限り、これに限定されない。例えば
図1に示すロールの数などは適宜変更できる。
【0078】
まず、少なくとも一方の面にPVA含有塗工層が積層されており、ロール状に巻回されている塗工層積層ポリエステルフィルム1aを用意し、複数のガイドロール2を介して、アルカリ性処理液を含むアルカリ処理槽3に導入する。アルカリ性処理液による処理方法の詳細は前述したとおりである。
【0079】
アルカリ処理槽3への導入態様は特に限定されず、アルカリ性処理液との接触時間を調整するため、例えば、複数のガイドロールに塗工層積層ポリエステルフィルムを渡してW型形状などとして、アルカリ性処理液と接触させてもよい。また、
図1では、アルカリ処理槽3を1つ配置した構成例を示したが、アルカリ処理槽3を複数配置し、複数のアルカリ処理槽内を通過させることによりアルカリ性処理液との接触時間を調整してもよい。即ち、複数のガイドロールを用いてアルカリ処理槽3に導入されたポリエステルフィルムをW型形状にしたり、複数のアルカリ処理槽3を用いると、搬送速度を変えずにアルカリ性処理液との接触時間を長くできるため全体の処理時間を長くすることなく処理できる。
【0080】
次に、アルカリ処理槽3から引き上げられたポリエステルフィルムを水洗槽4に導入し、アルカリ処理によりポリエステルフィルムの表面から一旦剥離除去された後に再付着したPVA含有塗工層の残渣を水洗により除去する。
【0081】
図1には、水洗槽4を2つ配置しており、水洗槽4aには40~90℃の温水を貯留し、水洗槽4bには水洗槽4aに貯留した温水より低い温度の水を貯留している。
【0082】
水洗槽4bには、水洗槽4aから水洗槽4bへ導入されるポリエステルフィルムの経路上にノズル5aとノズル5bを配置し、該ノズルからポリエステルフィルムに対して水を吹き付けている。ノズルの数は2つに限定されるものではなく、1つでもよいし、3つ以上でもよい。ノズルは、
図1に示したようにポリエステルフィルムの両方の面に水を吹き付けるように配置してもよいし、一方の面のみに水を吹き付けるように配置してもよい。また、ノズルは、水洗槽4aに配置してもよいし、水洗槽4aと水洗槽4bの両方に配置してもよい。
【0083】
図1には、ポリエステルフィルムを水洗槽4に貯留した水に浸漬させている例を示しているが、上記目的を達成する限り、これに限定されず、例えば、シャワーなどを施してもよい。
【0084】
図1に示したように、アルカリ処理槽3と水洗槽4aの間にマングル6を配置してもよい。アルカリ処理槽3で処理して得られたポリエステルフィルムをマングル6で絞り、ポリエステルフィルムに付着しているアルカリ性処理液を除去することにより、水洗槽4での水洗効率を高めることができる。
【0085】
図1には、アルカリ処理槽3の後、直ちに水洗槽4に導入する態様を示しているが、これに限定されず、例えば、アルカリ処理槽3と水洗槽4との間に、アルカリ処理槽3で除去されずに残留したPVA含有塗工層の残渣を除去する目的で、ブラシ、超音波、水流な
どの物理的手段を備えた補助槽を配置してもよい。
【0086】
水洗槽4bで水洗した剥離処理ポリエステルフィルムは、乾燥炉7に導入し、乾燥させた後、ロール状に巻き取り、ロール状に巻回されている剥離処理ポリエステルフィルム1bが得られる。
【0087】
乾燥炉7内には、
図1に示したように、マングル8を配置してもよい。水洗槽4bで水洗して得られた剥離処理ポリエステルフィルムをマングル8で絞り、剥離処理ポリエステルフィルムに付着している水を除去することにより、乾燥時間を短縮できる。
【0088】
このようにして得られた、剥離処理ポリエステルフィルムはそのままフィルムとして様々な用途に用いてもよい。また、溶融し、成形することも好ましい。溶融して成形する場合は、剥離処理ポリエステルフィルムを粉砕することが好ましい。粉砕する場合は、乾燥後の剥離処理ポリエステルフィルムを巻取らずに粉砕してもよいが、一旦ロール状に巻取り、その後ロールから巻き出した剥離処理ポリエステルフィルムをシュレッダー等で粉砕することが好ましい。また、粉砕された剥離処理ポリエステルフィルムは押出機に投入してフィルムなどの成形体にしてもよいが、一旦ペレットに加工し、このペレットを用いてフィルムなどを成形することが好ましい。ペレットに加工することにより、押出機に投入する時の供給安定性を確保でき、また、バージンペレットと混合して押出機に投入する場合には偏析が起こりにくく、安定した品質の成形体を得ることができる。
【0089】
剥離処理ポリエステルフィルムをペレット化する方法は特に限定されないが、例えば、シュレッダー等で粉砕された剥離処理ポリエステルフィルムを、押出機に投入して溶融し、ペレット化することが好ましい。押出機は一軸でも二軸でもよい。溶融温度はフィルムの原料ポリエステルの融点以上、好ましくは「融点+10℃」以上であり、分解温度以下、好ましくは「分解温度-10℃」以下である。具体的には、ポリエステルがPETの場合は、溶融温度は好ましくは260℃以上であり、より好ましくは270℃以上、さらに好ましくは275℃以上であり、300℃以下が好ましく、さらに好ましくは290℃以下である。
【0090】
溶融されたポリエステルは、ダイからストランド状に押し出され、水で冷却、裁断されてペレットとなるか、水中に押し出されダイ出口に設けられた水中カッターでペレットに切断されて冷却される。その後ペレットは乾燥される。
【0091】
ペレットの形状は特に限定されず、例えば、サイコロ型、俵型、扁平な俵型、球状、ラグビーボール状、などが挙げられる。ペレットの大きさは、例えば、各辺や径(長径、短径)が1~5mmが好ましく、さらには2~4mmが好ましい。ペレットの形状、大きさはバージンペレットと混合して用いた場合に偏析が起こり難いよう、バージンペレットと同等であることが好ましい。
【0092】
なお、ペレット化工程により異物が生じ難いよう、押出機、配管、ダイは樹脂の滞留が起こり難いようにしておくことが好ましい。また、チップを冷却する水もフィルターを通すなどして異物の少ないものを用いることが好ましい。
【0093】
本発明の剥離処理ポリエステルフィルムを溶融成形したポリエステルペレット(以下、リサイクルペレットと称する場合がある)は、下記分析法2で算出される異物の個数が100個/mm2以下であることが好ましい。
(分析法2)
ポリエステルペレットを溶融させて位相差光学顕微鏡で、観察倍率10倍で観察し、観察視野面積1mm2あたりに含まれる直径が3μm以上10μm未満の異物の個数を測定
する。なお、直径は、最大直径を意味する。
【0094】
リサイクルペレット中の異物の個数を100個/mm2以下とすることで、光学用ポリ
エステルフィルムやセラミックグリーンシートや液晶化合物薄膜などの精密薄膜用の離型フィルムの基材となるポリエステルフィルムとして用いた場合に、欠点数をバージンペレットのみから製造したフィルムと同等レベルにすることができる。リサイクルペレット中の異物の個数は80個/mm2以下が好ましく、より好ましくは60個/mm2以下、さらに好ましくは50個/mm2以下、特に好ましくは40個/mm2以下である。
【0095】
リサイクルペレット中の異物の個数は少ない方が好ましく、上記した塗工層の剥離方法に加えて、押出機に用いる溶融樹脂のフィルターを高精度にすることでも異物数を少なくすることは可能であるが、ポリエステルの劣化物、触媒や滑剤の凝集物等も異物として存在することや、塗工の残渣を完全になくすことは困難な場合もあること、業的な生産性の面では必要以上にフィルターの孔径を小さくできないなどから、リサイクルペレット中の異物は3個/mm2以上が好ましく、より好ましくは5個/mm2以上、さらに好ましくは8個/mm2以上、特に好ましくは10個/mm2以上である。
【0096】
リサイクルペレット中の異物は、上記の理由から塗工層由来のものが含まれていてもよく、また、フィルムの原料であるポリエステルの劣化物、ポリエステルの重合触媒や滑材の凝集物など塗工層由来ではないものが含まれていてもよい。異物が塗工層由来であるか否かは、リサイクルペレットをHFIP等の溶剤で溶解させ、PTFEなどのメンブレンフィルターでろ過した後のフィルター上の異物を顕微IRや蛍光X線などで測定し、塗工層由来の特徴的なピークや元素の有無で判断することができる。
【0097】
また、リサイクルペレットは、直径が10μm以上の異物は2個/mm2以下が好まし
く、1個/mm2以下がより好ましく、観察されないことが最も好ましい。
【0098】
リサイクルペレット中の異物を上記範囲とする方法は、塗工層がポリビニルアルコールを含まないものである場合であっても、上述した塗工層の剥離方法と同様に行うことができる。
【0099】
また、剥離処理ポリエステルフィルムに含まれるポリビニルアルコール量をPVA除去指数で評価したが、塗工層がポリビニルアルコールを含まないものである場合であっても、剥離処理ポリエステルフィルムを適当な溶剤に溶解し、メンブレンフィルターでろ過したフィルター上残渣物をIRで測定することで、離型処理ポリエステルフィルムの段階でも塗工層由来の樹脂がどの程度除去されているか確認することができる。さらに、剥離処理ポリエステルフィルムの表面をATR-IR、蛍光X線法、ESCAで測定するなどの方法によっても、塗工層由来の樹脂がどの程度除去されているか確認できる。
【0100】
塗工層がポリビニルアルコールを含まないものである場合の塗工層に用いられる樹脂は特に制限はないが、前述のように、アルカリ性処理液で分解しにくく、異物になりやすい樹脂として、炭素-炭素結合を主鎖とする樹脂が挙げられる。例えば、塗工剤としてよく用いられる樹脂として、アクリル樹脂、シリコーン変性アクリル樹脂などの各種変性アクリル樹脂、ポリビニルアセタール、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレンビニルアルコール共重合体などが挙げられる。また、炭素-炭素結合を主鎖とする樹脂以外でもシリコーン樹脂、酢酸セルロールやニトロセルロースなどのセルロース系樹脂等が挙げられる。
【0101】
本発明のリサイクルペレットは、ハンターLab色空間に置けるb値が13以下であることが好ましい。b値は、黄色/青色座標を示しており、+bは黄色を示し、-bは青色
を示す。b値は、顕微鏡等では観察できないようなポリエステルフィルムの異物も含めて塗工層由来の異物の含有量に影響を受けると考えられ、b値が13以下であることは、異物量が少ないことの指標となる。b値を上記以下にすることで、バージンペレットと同様に様々な用途に用いられるだけでなく、バージンペレットとブレンドして成形体を製造する場合に、バージンペレットとリサイクルペレットの比率に変動が起こっても、一定の色調の成形体を得ることができる。b値は、12以下がより好ましい。b値の下限は-2以上が好ましく、さらには0以上が好ましい。b値の測定方法は、実施例の欄で説明する。
【0102】
本発明の剥離処理ポリエステルフィルムから得られたポリエステルペレット(即ち、リサイクルペレット)は、異物が少なく、様々な用途の成形品の材料に用いることができる。中でも、塗工層積層ポリエステルフィルムの基材となるポリエステルフィルム、特には光学用ポリエステルフィルムや離型フィルムの基材となるポリエステルフィルムとして用いられることが好ましい。このようにリサイクルペレットを剥離処理に供される塗工層積層ポリエステルフィルムと同じ用途のポリエステルフィルムに用いることで、そのフィルムの生産にあたり、余剰物が少ない安定した物質収支の生産が可能であるとともに、安定した高品質のポリエステルフィルムとすることができる。
【0103】
リサイクルペレットを成形品に用いる場合、リサイクルペレットのみで用いてもよく、バージンペレットとブレンドして用いてもよい。バージンペレットとブレンドする場合のリサイクルペレットの割合は、全体に対してリサイクルペレットは5~95質量%であることが好ましく、より好ましくは10~90質量%、さらに好ましくは15~80質量%である。
【0104】
リサイクルペレットを成形品にする場合、その製造条件はバージンペレットを用いた場合と同様である。例えば、延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムであれば、リサイクルペレットを含むPETペレットを押出機で270~300℃で溶融してシート状に冷却ロール上に押し出し、得られたシートを70~130℃に加熱して延伸後、150~230℃で熱固定して、延伸フィルムとすることができる。延伸は、一軸延伸であっても二軸延伸であってもよく、製膜の流れ方向(MD)であればロール延伸、MDと直交する幅方向(TD)であればテンター延伸が好ましく用いられる。また、テンターによる同時二軸延伸であってもよい。
【0105】
リサイクルペレットを用いて製造されたフィルムの厚みは、5μm以上、500μm以下が好ましい。厚みは、より好ましくは7μm以上であり、より好ましくは400μm以下、さらに好ましくは350μm以下、特に好ましくは300μm以下である。
【0106】
リサイクルペレットを用いて製造されたフィルムは、塗工層が設けられることが好ましい。フィルムの塗工層は、製膜中のインライン方式であっても、製膜後に別途行うオフライン方式であってもよい。塗工層は、剥離処理に供される塗工層積層ポリエステルフィルムと同じ塗工層であることも好ましい形態の一つである。
【0107】
リサイクルペレットを用いて製造されたフィルム中の異物は、溶融させて位相差光学顕微鏡で、観察倍率10倍で観察し、観察視野面積1mm2あたりに含まれる直径が3μm
以上10μm未満の異物の個数が100個/mm2以下であることが好ましい。異物の個
数は80個/mm2以下がより好ましく、さらに好ましくは60個/mm2以下、特に好ましくは50個/mm2以下、最も好ましくは40個/mm2以下である。フィルム中の異物は3個/mm2以上が好ましく、より好ましくは5個/mm2以上、さらに好ましくは8個/mm2以上、特に好ましくは10個/mm2以上である。また、フィルム中の直径が10μm以上の異物は2個/mm2以下が好ましく、1個/mm2以下がより好ましく、観察されないことが最も好ましい。なお、フィルム中の異物の測定は、ペレットの代わりにフィ
ルムを約5mm角に切ったものを約30mg用いた以外は、分析法2と同様に行えばよい。
【実施例0108】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記実施例によって制限されず、前記または後記の趣旨に適合し得る範囲で変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。なお、以下では特に断りのない限り、「%」は質量%を意味する。
【0109】
(塗工層積層ポリエチレンテレフタレートフィルムA)
少なくとも一方の面にPVA含有塗工層が積層されているポリエステルフィルムを次の手順で作製した。即ち、原料となるポリエチレンテレフタレートのペレット(原料ペレット)を押出機に投入し、285℃で溶融し、冷却ロール上に押し出してシート状物を作製した。シート状物は周速の異なるロール間でMD方向に90℃で3倍に延伸した後、得られた一軸延伸フィルムの両面に、共重合ポリエステル:ポリビニルアルコール:ブロックイソシアネート架橋剤が固形分比で9:3:1となる塗布液を塗工し、乾燥機で溶剤を除去した。引き続き、フィルムをテンターに導き100℃で3.3倍に延伸し、さらに200℃で熱固定するとともに塗工層を架橋硬化させて塗工層積層ポリエチレンテレフタレートフィルムAを製造した。塗工層積層ポリエチレンテレフタレートフィルムAの一方の面と他方の面に形成した塗工層のそれぞれの厚みは約60nmであった。得られた塗工層積層ポリエチレンテレフタレートフィルムAは、厚みが75μm、幅が60cm、長さが3000mで、プラスチックコアにロール状に巻回された状態のものである。
【0110】
(No.1)
作製した塗工層積層ポリエチレンテレフタレートフィルムAを、
図1に示した装置を用い、アルカリ処理、水洗、乾燥、巻回し、剥離処理ポリエチレンテレフタレートフィルムを製造した。具体的には、アルカリ処理槽3に貯留しているアルカリ性処理液は、アルカリ供給源として水酸化カリウムを含有し、濃度は42%、温度は115℃であり、アルカリ処理工程は1回とした。塗工層積層ポリエチレンテレフタレートフィルムAとアルカリ性処理液との接触時間は30秒とした。また、アルカリ処理槽3の水面に浮いていたポリビニルアルコールはステンレスのメッシュですくい取って適宜除去した。水洗槽4aには、温度が60℃の温水を貯留し、水洗槽4bには、温度が室温(27℃)の水を貯留した。水洗槽4aにおけるポリエチレンテレフタレートフィルムと温水との接触時間は30秒、水洗槽4bにおけるポリエチレンテレフタレートフィルムと水との接触時間は30秒、水洗工程における合計接触時間は60秒とした。また、水洗槽4aの水面に浮いていたポリビニルアルコールはステンレスのメッシュですくい取って適宜除去した。また、水洗槽4bには、シャワーノズル5a~5dを配置し、50L/分の流量でポリエチレンテレフタレートフィルムの両面に対してフレッシュな水を吹き付けた。吹き付けた水は水洗槽4bに流し込み、余剰となった水洗槽4bの水はオーバーフローさせて排出した(図示せず)。
【0111】
(No.2)
上記No.1において、シャワーノズル5a、5bを配置し、シャワーノズル5c、5dは配置しなかった点以外は、No.1と同じ条件で剥離処理ポリエチレンテレフタレートフィルムを製造した。
【0112】
(No.3)
上記No.1において、水槽4aに貯留する水の温度を室温(27℃)とした点以外は、No.1と同じ条件で剥離処理ポリエチレンテレフタレートフィルムを製造した。
【0113】
(No.4)
上記No.1において、アルカリ処理槽3の水面に浮いていたポリビニルアルコールを適宜除去しなかった点、水洗槽4aの水面に浮いていたポリビニルアルコールを適宜除去しなかった点、水洗槽4bにシャワーノズル5a~5dを配置しなかった点(水の吹き付けを行わなかった点)以外は、No.1と同じ条件で剥離処理ポリエチレンテレフタレートフィルムを製造した。
【0114】
(No.5)
作製した塗工層積層ポリエチレンテレフタレートフィルムAを約10kg準備し、これを0.5~3cm角に相当するチップに裁断したものを、アルカリ性処理液1を貯留した攪拌翼付きタンクに導入した。アルカリ性処理液1は、アルカリ供給源として水酸化カリウムを0.7質量%含有し、高級アルコールのポリエチレングリコールエーテルを0.01質量%含有し、温度は115℃であった。塗工層積層ポリエチレンテレフタレートフィルムAとアルカリ性処理液1との接触時間は30秒とし、この間は、105℃、約100rpmの回転数で15分間撹拌した後、タンクの下部に設けられた配管からアルカリ性処理液1を抜き出し、さらにタンクに水を供給し、約100rpmの回転数で5分間撹拌して水洗した。引き続き、前記タンクにアルカリ性処理液2を投入し、120℃、約200rpmの回転数で40分間撹拌した。アルカリ性処理液2は、水酸化カリウムを1.0質量%含有し、高級アルコールのポリエチレングリコールエーテルを0.05質量%含有するものであった。この後、タンクの下部に設けられた配管からアルカリ性処理液2を抜き出した後、タンクの下部に設けられた配管から水を供給し、オーバーフローさせながら、約100rpmの回転数で10分間撹拌して水洗した。その後、タンクからチップを取り出し、100℃で60分間乾燥し、剥離処理チップを製造した。
【0115】
次に、No.1~4で得られた剥離処理ポリエチレンテレフタレートフィルムについて、下記分析法1でPVA除去指数を算出し、結果を下記表1に示す。具体的には、巻き取った剥離処理ポリエチレンテレフタレートフィルムの表層から約200mを巻き出し、この部分から無作為に5点を切り出して行い、この5点で測定した下記a/b比の平均値をPVA除去指数とした。なお、No.1~3の剥離処理では剥離処理の中盤以後で水洗槽の異物状態が安定したことから、No.1~3の剥離処理ポリエチレンテレフタレートフィルムのサンプルはこの異物状態が安定した状態で処理された部分以後からサンプリングすることとした。具体的には、剥離処理の中盤とは、剥離処理の全行程の時間を3等分(前半、中盤、後半)したうちの中盤を意味する。異物状態が安定したとは、剥離される異物の量と、すくい取りやオーバーフローにより除去される異物の量がほぼ同じとなり、アルカリ性処理液や水洗槽中の水中の異物量がほぼ定常である状態を意味する。
【0116】
(分析法1)
剥離処理ポリエチレンテレフタレートフィルムから切り出したサンプル(1cm×1cm)を、1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-プロパノール5mlに溶解させ、得られた溶液を、メンブランフィルター(Membrane Solutions Limited製、「PTFE025045(商品名)」、孔径0.45μm)を用いて濾過した後、濾材を赤外分光法の全反射測定法で測定した。赤外分光法による測定装置は、日本分光株式会社製の「FT/IR-4200」を用いた。測定した赤外吸収スペクトルについて、3200~3650cm-1の範囲に検出される最大吸光度aと、2840~3000cm-1の範囲に検出される最大吸光度bとの比(a/b)を算出した。
【0117】
また、No.5で得られた剥離処理チップから無作為に5個を取りだし、1cm×1cmに切り取ったものをサンプルとし、上記分析法1でPVA除去指数を算出し、結果を下記表1に示す。
【0118】
次に、No.1でアルカリ処理および水洗して得られた剥離処理ポリエチレンテレフタレートフィルムを用いて赤外吸収スペクトルを測定した。測定結果を
図2に示す。また、No.1においては、アルカリ処理前における塗工層積層ポリエチレンテレフタレートフィルムAを用いて赤外吸収スペクトルを測定した。測定結果を
図3に示す。
図2と
図3を比較すると、3200~3650cm
-1の範囲に検出されていたピークがアルカリ処理および水洗により殆ど検出されなくなったことが分かる。これは、アルカリ処理および水洗によりポリエチレンテレフタレートフィルムの表面からポリビニルアルコールが剥離、除去されたと考えられる。
【0119】
次に、No.1~4で得られた剥離処理ポリエチレンテレフタレートフィルムを溶融成形したリサイクルペレットについて、下記分析法2で異物の個数を算出した。リサイクルペレットは、No.1~4でアルカリ処理および水洗して得られた剥離処理ポリエチレンテレフタレートフィルムを巻き返し、巻き返し剥離処理ポリエチレンテレフタレートフィルムを巻き出しながら、0.5~3cm角に相当するチップに裁断し、順次一軸押出機に投入した。押出機では樹脂温度285℃で溶融し、ダイから押し出されたストランド状のポリエチレンテレフタレートを水中で冷却後、切断してペレットとした。下記分析法2に供したペレットは、剥離処理の後半部にあたる、ペレット化終了直前のものを用いた。
【0120】
(分析法2)
剥離処理ポリエチレンテレフタレートフィルムから得られたリサイクルペレット1粒(約35mg)を2枚のカバーガラス(マツナミマイクロカバーグラス、25mm×25mm、厚さ0.2mm)に挟み、約300℃のホットプレート上で加熱溶融し、厚さ0.8~0.9mmにプレスし、直ぐに急冷して観察用試料を作製した。Nikon製の位相差光学顕微鏡および対物レンズ(倍率10倍、開口度0.5)を用いて、試料の厚さの中心部分を観察した。画像はCCDカメラを経由して画像解析装置(Nireco製の「Luzex-FS」)に取り込み、画像解析を行い、3μm以上10μm未満の粒子数と10μm以上の粒子数をそれぞれ計測した。粒子の大きさは面積相当円の直径とした。視野を変えながら同様の計測を20回行い、それぞれの合計の粒子数を求め、視野面積1平方mm当たりの3μm以上10μm未満または10μm以上の粒子数を計算し、リサイクルペレット中の異物数とした。
【0121】
また、No.5で得られた剥離処理チップから得られたリサイクルペレットについても同様に上記分析法2で異物の個数を算出した。なお、No.5で得られた剥離処理チップはそのまま、一軸押出機に投入してペレット化した。
【0122】
次に、No.1~4で得られた剥離処理ポリエチレンテレフタレートフィルムを溶融成形したリサイクルペレット、およびNo.5で得られた剥離処理チップから得られたリサイクルペレットについてb値を測定した。b値は、日本電色工業株式会社製の測色色差計(ZE6000)を用い、セルケースに収めたφ30mmの丸セルにレジンを摺切りまで充填し、セルケースにキャップを取り付け、反射試料台に置き、ハンターLabを測定した。ペレットを替えてこの操作を3回繰り返し、平均値を求めた。
【0123】
【0124】
表1から次のように考察できる。No.1~3は、本発明で規定する要件を満足する例であり、得られたリサイクルペレットは、塗工層積層ポリエチレンテレフタレートフィルムAに用いた原料ペレットと同程度の品質を確保できており、バージン品の代替品として用いることができると考えられる。また、No.1~3で得られたリサイクルペレットのb値は13以下であり、白色度が高いリサイクルペレットであった。一方、No.4は、アルカリ処理および水洗が不充分であったため、PVA除去指数が0.10を超えていた。その結果、得られたリサイクルペレットに含まれる粒径が3μm以上10μm未満の異物の個数は100個を超えていた。また、No.4で得られたリサイクルペレットのb値は13を超えていた。No.5は、バッチ式でアルカリ処理および水洗した例であり、PVA除去指数は0.10を超えていた。その結果、得られた剥離処理ペレットに含まれる粒径が3μm以上10μm未満の異物の個数は100個を超えていた。また、No.5で得られたペレットのb値は13を超えていた。
【0125】
次に、No.1で得られた剥離処理ポリエチレンテレフタレートフィルムを溶融成形したリサイクルペレット約200mgを1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-プロパノール2mlに溶解させ、得られた溶液を、PTFEのメンブランフィルター(Membrane Solutions Limited製、孔径0.5μm)を用いて濾過した後、フィルター上に残った異物の中から10個を回収し、顕微透過法によりそれぞれの異物のIR測定を行った。その結果、これらのうち2個の異物において3200~3650cm-1の範囲にブロードなピークが認められ、これらの異物の中には塗工層に含まれていたPVAに由来する異物が存在することが分かった。
【0126】
(No.6)
インラインコートでの塗布液をポリカーボネートポリウレタン:共重合ポリエステル:イソシアネート化合物が固形分比で5:3:2となる塗布液に変更した点、および、フィルムの厚みを変えた点、以外は塗工層積層ポリエチレンテレフタレートフィルムAの製造と同様にして塗工層積層ポリエチレンテレフタレートフィルムBを製造した。塗工層積層ポリエチレンテレフタレートフィルムBの一方の面と他方の面に形成した塗工層のそれぞれの厚みは約60nmであった。得られた塗工層積層ポリエチレンテレフタレートフィルムBは、厚みが40μm、幅が60cm、長さが3000mで、プラスチックコアにロール状に巻回された状態のものである。
【0127】
作製した塗工層積層ポリエチレンテレフタレートフィルムBを、上記No.1と同じ条件で、
図1に示した装置を用いてアルカリ処理、水洗、乾燥、巻回し、剥離処理ポリエチレンテレフタレートフィルムを製造した。
【0128】
(No.7)
塗布液を塗工しなかった以外はNo.6で用いた塗工層積層ポリエチレンテレフタレー
トフィルムBと同様にして作製した二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムに、厚さ150nmの紫外線硬化型のシリコーン樹脂の硬化層である離型層を形成し、塗工層積層ポリエチレンテレフタレートフィルムCを製造した。
【0129】
塗工層積層ポリエチレンテレフタレートフィルムCの離型層表面にコロナ処理(放電量50w・m2/min)を行って離型層の表面を改質した後、上記No.1と同様に、図
1に示した装置を用いてアルカリ処理、水洗、乾燥、巻回し、剥離処理ポリエチレンテレフタレートフィルムを製造した。但し、アルカリ性処理液の温度は100℃とした。
【0130】
(No.8)
No.7において、離型層を熱付加型シリコーン樹脂の硬化層とした以外はNo.7と同様にし、剥離処理ポリエチレンテレフタレートフィルムを製造した。
【0131】
次に、No.7、8で得られた剥離処理ポリエチレンテレフタレートフィルムについて、離型層の除去率を算出した。離型層の除去率は、波長分散型蛍光X線分析計(株式会社リガク製のSupermini200)を用い、剥離処理ポリエチレンテレフタレートフィルムの表面におけるSi元素の量を測定し、下式に基づいて算出した。
離型層の除去率(%)={(A-C)-(B-C)/(A-C)}×100
式中、Aは離型層を設ける前における離型層とポリエチレンテレフタレート基材の積層体の離型層面にX線を照射して検出したSi強度、Bはアルカリ処理を施した後における剥離処理ポリエチレンテレフタレートフィルム表面にX線を照射して検出したSi強度、Cは離型層を設ける前における基材フィルム表面にX線を照射して検出したSi強度、をそれぞれ意味している。上記式は、基材フィルムに元々含まれるSi量(式中、「C」で規定)を考慮して設計したものであり、式中、(A-C)はアルカリ処理前における離型層中に含まれるSi量を意味し、(B-C)はアルカリ処理後、基材フィルムに残存する離型層由来のSi量を意味する。
【0132】
次に、No.6~8得られた剥離処理ポリエチレンテレフタレートフィルムをペレット化し、得られたそれぞれのリサイクルペレット約200mgを1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-プロパノール2mlに溶解させ、得られた溶液を、PTFEのメンブランフィルター(Membrane Solutions Limited製、孔径0.5μm)を用いて濾過した後、上記と同様にフィルター上に残った異物を回収し、顕微透過法によりIR測定を行った。その結果、No.6からは、1680cm-1と1440cm-1近辺にピークが認められるイソシアネート化合物の反応物由来の異物が認められ、No.7、8からは、1260cm-1付近、800cm-1付近、1090cm-1付近、1020cm-1付近にピークが認められるシリコーン由来の異物が認められ、これらの異物の中には塗工層由来の異物が存在することが分かった。
【0133】
また、No.6~8で得られた剥離処理ポリエチレンテレフタレートフィルムをペレット化し、得られたそれぞれのリサイクルペレットについて、上記分析法2で異物の個数を算出した。また、b値を測定した。これらの結果を下記表2に示す。
【0134】
【0135】
次に、No.1、2、6、7、8から得られたリサイクルペレットを用い、バージンペレット(上記原料ペレット)とブレンドして、二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムを製造した。フィルムの製造は、No.1、2から得られたリサイクルペレットでは塗工層積層ポリエチレンテレフタレートフィルムAの製造と同条件で行ない、No.6から得られたリサイクルペレットでは塗工層積層ポリエチレンテレフタレートフィルムBの製造と同条件で行ない、No.7、8から得られたリサイクルペレットでは塗工層積層ポリエチレンテレフタレートフィルムCの製造と同条件で行った。なお、リサイクルペレットは、剥離処理の全行程の時間を3等分(前半、中盤、後半)したうちの後半部から得られたペレットを用いた。No.2から得られたリサイクルペレットを用いた例については、下記表3に示すように、リサイクルペレットとバージンペレットの混合比を変化させた(No.2-1およびNo.2-2)。
【0136】
リサイクルペレットを用いたフィルム中の異物は、カミソリでインラインによって設けた塗工層を除去し、純水でフィルム表面を洗い流した後、約5mm角にカットしたサンプル約30mgを用いた以外は上記分析法2と同様にして行った。その結果を下記表3に示す。
【0137】
また、得られたフィルムロールの端面の色調を目視にて評価した。塗工層積層ポリエチレンテレフタレートフィルムA、およびBの端面と同等な場合を○、やや黄色みが強い場合を△、明らかに黄色みが強い場合を×とした。結果を下記表3に示す。
【0138】
【0139】
リサイクルペレットを用いて得られたポリエチレンテレフタレートフィルムは異物、端面の色調も異常はなく、強伸度などもバージンペレットを用いたポリエチレンテレフタレートフィルムと同等の品質であり、同じ用途のフィルムとして問題なく使用できることが分かった。さらに、No.7から得られたリサイクルペレットを使用したフィルムに、No.7と同様にして離型層を設け、離型フィルムとした。その結果、セラミックコンデン
サ離型フィルムとして問題なく使用できることが分かった。