(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024116419
(43)【公開日】2024-08-27
(54)【発明の名称】乾式吹付緑化工法
(51)【国際特許分類】
E02D 17/20 20060101AFI20240820BHJP
【FI】
E02D17/20 102F
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024101946
(22)【出願日】2024-06-25
(62)【分割の表示】P 2022000827の分割
【原出願日】2022-01-06
(71)【出願人】
【識別番号】392012261
【氏名又は名称】東興ジオテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095267
【弁理士】
【氏名又は名称】小島 高城郎
(74)【代理人】
【識別番号】100124176
【弁理士】
【氏名又は名称】河合 典子
(74)【代理人】
【識別番号】100224269
【弁理士】
【氏名又は名称】小島 佑太
(72)【発明者】
【氏名】吉田 寛
(72)【発明者】
【氏名】小澤 信彦
(57)【要約】
【課題】植生基材吹付工において、吹き付けられた生育基盤の高い耐侵食性と植物生育性を発現できる施工法を提供する。
【解決手段】植生基材吹付工における乾式吹付緑化工法において、用水を配合されていない植生基材をエアー圧送し、前記植生基材とは別に、少なくとも粘土鉱物及び団粒化剤を用水と混合撹拌した懸濁液を圧送し、前記植生基材に対し前記懸濁液をノズル部付近において合流させてノズル先端から吹き付けることによって傾斜地に生育基盤を造成する乾式吹付緑化工法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
植生基材吹付工における乾式吹付緑化工法において、
用水を配合されていない植生基材をエアー圧送し、
前記植生基材とは別に、少なくとも粘土鉱物及び団粒化剤を用水と混合撹拌した懸濁液を圧送し、
前記植生基材に対し前記懸濁液をノズル部付近において合流させてノズル先端から吹き付けることによって傾斜地に生育基盤を造成する乾式吹付緑化工法。
【請求項2】
前記粘土鉱物がベントナイトである、請求項1に記載の乾式吹付緑化工法。
【請求項3】
前記懸濁液中の前記ベントナイトの濃度が2~5%である、請求項2に記載の乾式吹付緑化工法。
【請求項4】
前記団粒化剤が水溶性合成高分子である、請求項1~3のいずれかに記載の乾式吹付緑化工法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、法面等の傾斜地に対して緑化のために植生基材を吹き付けして生育基盤を造成する緑化工法に関する。特に、有機質系の植生基材に用水を配合せずにエアー圧送し、ノズル付近で植生基材に用水を合流させて吹き付ける乾式吹付緑化工法に関する。
【背景技術】
【0002】
法面や山腹崩壊地等の傾斜地の緑化工法としては、古くから種子散布工、客土吹付工(客土種子吹付工ともいう)、植生基材吹付工(厚層基材吹付工ともいう)に代表される3つの吹付緑化工法が適用されてきた。
【0003】
植生基材吹付工は、上述した3つ吹付緑化工法の中で最も耐侵食性に優れた生育基盤を造成することができるため、傾斜地に広く適用されている。自然災害等に起因する山腹崩壊が起きた施工対象現場は、既存の道路等を利用したアプローチが困難な山間僻地である場合が多い。その場合、植生基材吹付工を適用するにあたり植生基材を長距離高揚程圧送しなければならない。
【0004】
植生基材吹付工では、用水を配合した植生基材をエアー圧送して吹き付ける一般的な湿式吹付緑化工法と、用水を配合されていない植生基材をエアー圧送してノズル近傍で用水と配合して吹き付ける乾式吹付緑化工法が知られている(例えば特許文献2)。従来の乾式吹付緑化工法では、用水を配合されていない植生基材に対し、ノズル部付近で用水を合流させて吹き付けて生育基盤を造成する。
【0005】
植生基材吹付工では、植生基材をエアー圧送する湿式吹付緑化工法や乾式吹付緑化工法のほか、植生基材を多量の用水と配合してスラリー状としてポンプにより圧送するポンプ方式の吹付緑化工法も知られている(例えば特許文献1、3)。ポンプ方式の緑化工法は客土種子吹付工に分類される場合もある。これらポンプ方式の緑化工法では、用水に団粒化剤を混合した団粒化剤水溶液をノズル部付近で植生基材に合流させて吹き付ける方法が採用される場合もある。ポンプ方式の緑化工法によれば、高圧コンクリートポンプを用いることにより、エアー圧送では難しい長距離高揚程の現場への植生基材の圧送も可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000-104258号公報
【特許文献2】特開2004-169401号公報
【特許文献3】特開2007-198022号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
植生基材吹付工における乾式吹付緑化工法、湿式吹付緑化工法、及びポンプ方式の緑化工法のいずれにもそれぞれ以下のような問題点がある。
【0008】
用水を配合されていない植生基材のエアー圧送を行う乾式吹付緑化工法では、対象法面垂直高の上限が80mとされている。特に特許文献2では植生基材に石炭灰を含み、特許文献3では植生基材に現場発生土を含み、石炭灰や現場発生土が植生基材の粘性を高めるため、エアーによる長距離高揚程圧送が難しい。特に、用水を配合した植生基材のエアー圧送を行う湿式吹付緑化工法では、対象法面垂直高の上限以上になると吹付圧力が低下するため、圧密不足で膨軟な生育基盤となる結果、耐侵食性の不足、保水性の不足、発芽生育障害等が発生し易い。これに対して乾式吹付緑化工法は、湿式吹付緑化工法と比較して長距離高揚程の圧送性には優れるが、ホース延長が長くなると吹付圧力が低下することは避けられず、同様の問題が発生する。
【0009】
スラリー状植生基材のポンプ圧送を行うポンプ方式の吹付緑化工法では、含水量の多い植生基材を吹き付けた生育基盤が傾斜地で自立できないため、通常、3cm厚以上の生育基盤は造成できない。また、ポンプ圧送の効率と傾斜地への付着性を兼ね備えたスランプ値の調整が難しい。このため、特許文献1では、ポンプ圧送された植生基材に、ノズル付近でエアーを合流させて圧力を高めて吹き付けたり、吹付後速やかに脱水するようにノズル付近で団粒化剤を添加したりしている。また、用水を含む植生基材を長距離高揚程圧送するために高圧力とすると、施工機械がコスト高となる上に吹付作業員の作業時の危険度が増す。さらに、ホース内に植生基材が徐々に付着して圧送抵抗が高まると、施工性低下と圧密不十分な生育基盤造成を招く。
【0010】
なお、植生基材吹付工以外の緑化工法には、例えば植生シートなどの二次製品を傾斜地に張り付ける人力施工法があるが、長距離高揚程の現場の場合、大きな作業負荷と労働者不足の問題がある。また植生シートは、凹凸の激しい地山に密着させることが難しいため、降雨水等による地山の侵食に繋がる。山腹崩壊地では、通常、周辺森林環境と調和した木本植物群落形成による緑化が要求されるが、保水性に劣る簡易な植生シート工法では早期の木本植物群落形成は難しい。草本種では周囲森林環境と調和せず植生回復が遅れる。また、マイクロプラスチックによる環境問題から化学繊維を用いた植生シートの使用は好ましくない。
【0011】
以上の諸問題に鑑み、本発明の目的は、植生基材吹付工における乾式吹付緑化工法において、吹き付けられた生育基盤の高い耐侵食性と植物生育性を発現できる施工法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の目的を達成するために、本発明は、以下の構成を提供する。
- 本発明の態様は、植生基材吹付工における乾式吹付緑化工法において、用水を配合されていない植生基材をエアー圧送し、
前記植生基材とは別に、少なくとも粘土鉱物及び団粒化剤を用水と混合撹拌した懸濁液を圧送し、
前記植生基材に対し前記懸濁液をノズル部付近において合流させてノズル先端から吹き付けることによって傾斜地に生育基盤を造成する乾式吹付緑化工法である。
- 上記態様において、前記粘土鉱物がベントナイトであり、前記団粒化剤が水溶性合成高分子である。特に、上記態様において、前記粘土鉱物がベントナイトであり、前記懸濁液中の前記ベントナイトの濃度が2~5%である。
【0013】
本願発明者らは、用水を配合されていない植生基材に対し粘土鉱物及び団粒化剤を混合攪拌した懸濁液を合流させて吹き付けることによって、従来技術の乾式吹付緑化工法と比較して、生育基盤の耐侵食性と植物生育性(発芽促進効果と初期生育促進効果)を向上させることができることを突き止め、本発明を完成した。
【発明の効果】
【0014】
本発明の乾式吹付緑化工法によれば、従来の乾式吹付緑化工法と比較して、吹き付けられた生育基盤が高い耐侵食性と植物生育性(発芽促進効果と生長促進効果)を発現できる。本発明の工法では、吹き付けられた生育基盤中に粘土鉱物と団粒化剤の両方が含まれているが、従来工法では、粘土鉱物と団粒化剤の両方を含むような生育基盤は得られない。
粘土鉱物と団粒化剤の相乗効果のメカニズムの解明までには至っていないが、吹き付けられた生育基盤中に粘土鉱物が団粒構造を呈した形で分散配置される形態となることによって、耐侵食性が確保され、植物の発芽や初期生育が促進されると推測される。本発明により吹き付けられた生育基盤は、特に木本植物の発芽促進と初期生長促進に有効であり、木本植物群落の早期形成を実現できる。
【0015】
植生基材を法面垂直高80m以上に長距離高揚程エアー圧送する場合、従来工法では吹付圧力の低下と生育基盤の膨軟を生じて耐浸食性と植物生育性が阻害されていたが、本発明における粘土鉱物の懸濁液又は粘土鉱物と団粒化剤の懸濁液を植生基材に合流させる実施形態によれば、そのような法面垂直高80m以上の長距離高揚程エアー圧送においても大きな作用効果を発揮する。なお、本発明は、法面垂直高80m以下の乾式吹付緑化工法に適用しても同様の効果が期待できることはいうまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、乾式吹付緑化工法の施工状況を概略的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、実施例を示した図面を参照して本発明の実施形態を説明する。本発明を適用する傾斜地には、人工的な法面、自然な斜面、山腹崩壊地等が含まれる。
図1は、植生基材吹付工における本発明による乾式吹付緑化工法の施工状況を概略的に示す図である。緑化のために法面4に対して植生基材を吹き付けて法面4上に生育基盤を造成する。乾式吹付緑化工法に用いられる施工機械である吹付機1、空気圧縮機6、ポンプ7が、例えば法尻部付近の地上に設置されている。吹付機1において植生基材が調製される。吹付機1として、モルタル・コンクリート吹付機が広く用いられているが、特に、植生基材を長距離高揚程エアー圧送するためには、植生基材を圧力容器に入れて圧力をかけて材料を吐出させるための圧力容器を有しないロータリー式の吹付機の使用が好適である。本明細書での「長距離高揚程」とは、乾式吹付緑化工法を適用する法面4の法面垂直高hが80m以上の場合をいう。
【0018】
吹付機1は、一方で空気圧縮機6と接続され、他方で植生基材圧送ホース2と接続されている。植生基材の圧送に必要なエアーは、空気圧縮機6から吹付機1に供給される。モーター式の吹付機の場合は図示していないが発動発電機を別途要する。乾式吹付緑化工法で植生基材をエアー圧送する場合、植生基材圧送ホース2は、ゴム製のデリバリーホースや、塩化ビニル製のホースが用いられる。
【0019】
植生基材圧送ホース2の先端にはノズル部3が取り付けられている。ノズル部3は、一般的な吹付ノズルを含む。その他にノズル部3は、例えば鋼製やゴム製などのノズル装置や特殊な攪拌機構を有するノズル装置を有してもよい。本発明の乾式吹付緑化工法により造成される生育基盤の品質はノズル装置によって左右されないので、これらのノズル装置の有無は任意である。
【0020】
ポンプ7は、用水を含む液体を圧送するために用いられる。用水を含む液体は、適宜の装置(図示せず)で調製される。液体の詳細については後述する。ポンプ7には、液体圧送ホース5が接続されている。液体圧送ホース5の先端5aもノズル部3付近に接続されている。
【0021】
植生基材圧送ホース2により圧送された植生基材と、液体圧送ホース5により圧送された用水を含む液体は、ノズル部3付近で合流する。液体圧送ホース5の先端5aが合流点となる。植生基材圧送ホース2上の合流点すなわち接続部には、例えばウォーターリング等の合流装置が取り付けられている。ここで、「ノズル部付近」とは、ノズル部3を含め概ね1~2mの範囲が好適である。乾式吹付緑化工法では、吹付作業員が、液体圧送ホース5からの液体の合流を、接続部に設けられたバルブ等を用いて微調整したり、また、合流した水と植生基材を吹付直前でできる限り混合させたりする必要があるからである。
【0022】
さらに、植生基材圧送ホース2から供給される植生基材と、液体圧送ホース5から供給される液体との混合攪拌を促すために、ノズル部3が混合装置の機構を有してもよく、又は、ノズル先端3aより手前の部分で合流させる方法を採用してもよい。植生基材に液体を合流させることができる構造であれば、特に限定されない。合流し混合撹拌された植生基材と液体は、ノズル部3のノズル先端3aから法面4に向かって吹き付けられる。
【0023】
吹付機1に投入される植生基材は、基本的な配合成分として、生育基盤材、侵食防止材、肥料、種子を配合されている。植生基材はさらに、土壌改良材等を配合される場合がある。別の例として、植生基材に種子を配合しない場合もある。通常、これらの材料を直接吹付機1に投入すると植生基材が不均一になり品質が安定しないので、図示しないシャフトレスミキサ等で予め混合攪拌してから吹付機1に投入することが好ましい。
【0024】
生育基盤材は、バーク堆肥をはじめとする各種コンポスト、ピートモスなどの有機質資材、砂質土、パーライトなどの無機質資材のほか、黒ボク土など粘性土、表土、現地採発生土、各種リサイクル資材などである。植生基材を長距離高揚程エアー圧送する場合、比重及び粘性が低い有機質資材のみとすることが好適である。よって、無機質資材や生チップ、土壌分などを含まないものが好適である。バーク堆肥等のコンポストにピートモス又は椰子殻等の非堆肥化有機物を8:2~5:5の割合で配合したものが好適である。
【0025】
侵食防止材は、合成樹脂系(酢酸ビニル樹脂など)と無機質系(セメントなど)に大別でき、いずれの資材も使用できる。植生基材を長距離高揚程エアー圧送する場合、耐侵食性に優れる無機質系の侵食防止材が好適である。無機質系の侵食防止材を用いる場合、生育基盤材としてバーク堆肥等のコンポストにピートモス又は椰子殻等の非堆肥化有機物を7:3~6:4の割合で配合すると、強い接合力をもった生育基盤が得られる。
【0026】
本発明の実施形態では、植生基材が、上述した基本的な配合成分を配合されている。本実施形態の植生基材には、粘土鉱物、団粒化剤及び用水は配合されていない。一方、ノズル部3付近で植生基材に合流させる液体は、少なくとも粘土鉱物及び団粒化剤を用水と混合撹拌した懸濁液である。懸濁液中では、用水中に粘土鉱物の微粒子が分散し、水溶性の団粒化剤は用水に溶解している。
【0027】
本実施形態において、多量の用水を含む懸濁液は、含水量の低い状態でエアー圧送された植生基材に水分を供給する。水分の供給によって、吹き付けられた植生基材の圧密効果が高められ、植生基材のリバウンドの発生を抑えて圧密した生育基盤を吹き付け可能となる。さらに、懸濁液により供給される水分は、植生基材に配合されている侵食防止材の接合及び接着作用を発現させる役割も担う。
【0028】
団粒化剤は、粘土鉱物が分散している液体と混合されたとき、分散している粘土鉱物の微粒子を凝結させてフロック(いわゆる塊で、凝結した集合物)を形成させる薬剤である。団粒化剤は、所謂凝集剤であることから、汚水処理や農業分野で広く活用されている。使用する団粒化材は、特に限定されないが、粉状の高分子団粒化剤(水溶性合成高分子)が望ましい。本実施形態では、懸濁液中の団粒化剤の濃度は、概ね0.05~0.2質量%が好適である。
【0029】
粘土鉱物は、いわゆる粘土を構成する微粒子である。例えば、カオリン類(カオリナイト)、イライト、モンモリロナイト、クロナイト、蛇紋岩、滑石、蛭石などが挙げられる。特に、モンモリロナイトを主成分とするベントナイトは、掘削壁面の安定確保、止水や地盤支持力の向上のために土木工事で広く活用されている。本発明で使用する粘土鉱物は、特に限定されないが、ベントナイトが好適である。本実施形態では、懸濁液中の粘土鉱物の濃度が概ね2~5%の場合、造成された生育基盤において発芽と初期生長を促進させる効果が得られる。懸濁液中の粘土鉱物の濃度は、粘土鉱物と用水との質量比を百分率で表している。特に、懸濁液中の粘土鉱物の濃度は概ね2%が好適である。
【0030】
粘土鉱物が分散した懸濁液は、粘土鉱物の材料分離を防ぐために常時攪拌してノズル部3付近までポンプ圧送することが好ましい。特に、本実施形態の懸濁液は、用水に粘土鉱物と団粒化剤を混合攪拌した状態であるため凝集反応が進行していくことから、ノズル部3付近で植生基材に合流させるまでの間、常に強制攪拌した状態を保つことが好ましい。具体例としては、調製された懸濁液を2軸型やパン型の強制練りミキサを使用してできる限り高速攪拌し、これを速やかに圧送性の高い動噴ポンプやプランジャーポンプで圧送してノズル部3付近で合流させる。
【0031】
本発明の乾式吹付緑化工法を適用することによって、植生基材が傾斜地に付着しやすくなり、吹き付けした生育基盤が所定の状態に圧密され、植生基材に配合されている侵食防止材が適切に硬化する。その結果、植生基材吹付工に求められる耐侵食性と植物生育性が発現される。一般に有機質を主材料とする植生基材吹付工の所定の圧密とは、使用材料が吹き付けにより1/2の容積に圧密されて仕上げられる状態をいう。
【実施例0032】
1~2週間程度の短期間で発芽する外来牧草類により早期緑化を図る場合は、耐侵食性の低い生育基盤であっても発芽生育させることが可能である。しかし、施工当初から木本植物を主体に配合(木本植物のみ配合する場合もある)して早期樹林化を図る場合、木本植物は発芽に少なくとも2週間以上、種によっては発芽に数ヵ月以上を要するため、耐侵食性の低い生育基盤を造成すると容易に侵食されてしまい、植物の発芽生育は困難となる。そのため、乾式吹付緑化工法においては、種子配合した木本植物の発芽と初期生育を促進させることは非常に重要である。施工後初期の発芽生育促進効果が、初期緑化目標とする木本植物群落形成の成否を分けることに繋がる。こうした観点から、本発明の乾式吹付緑化工法の効果を検証する試験を行った。
【0033】
[参考形態に関する初期生育試験]
(a)粘土鉱物の懸濁液の調製
粘土鉱物として土木工事で最も汎用的に用いられているベントナイトを用いた。ベントナイト懸濁液の濃度は、ベントナイトと用水との質量比を百分率で表している。泥水工法では6~10%、地中連続壁工法や場所打ち杭工法では4~12%の懸濁液が使用されている。土木工法においてベントナイト懸濁液(安定液)を用いてマッドケーキを形成させて削孔壁の崩壊を防止するためには、少なくとも2~6%が必要とされる。一方で、本発明者らは別の緑化工法の開発において、生育基盤の耐侵食性の向上に有効なベントナイト配合量を100、200、300メッシュ(篩)の製品を用いて比較した結果、メッシュ間に差はなく5~7%で効果が認められた。これらの知見から、粘土鉱物の懸濁液として、ベントナイト(200メッシュ)懸濁液の、濃度0%(用水のみ)、1%、2%、5%、10%をそれぞれ調製した。
【0034】
(b)植生基材の調製
以下の配合割合で材料を配合して植生基材を調製した(後述する表6参照)。
・生育基盤材(オルガソイル):2000L/m3
・侵食防止材(レミコントロール):60kg/m3
・緩効性肥料(ハイコントロール):4kg/m3
団粒化剤を配合した植生基材と、団粒化剤を配合しない植生基材をそれぞれ調製し、配合する場合は以下の配合量とした。
・団粒化剤(クリコートDA-101):1kg/m3
【0035】
(c)試験方法
ベントナイト懸濁液の濃度(0%、1%、2%、5%、10%)と、植生基材における団粒化剤の有無が、施工後の植物の初期生長に与える影響を確認する試験を行った。吹付緑化工法で使用する機会の多い木本植物のアカメガシワ、コマツナギ、外来草本のトールフェスクをそれぞれ用いたポット試験を行い、8ヵ月後の樹高・草丈について分散分析を行った。団粒化剤を配合した植生基材と団粒化剤を配合しない植生基材を上記(1b)のようにそれぞれ調製し、上記(a)のようにそれぞれ調製した各濃度のベントナイト懸濁液を各植生基材に混合し、各ポットに詰めた。
【0036】
(d)試験結果
ベントナイト濃度については、コマツナギとトールフェスクには有意差が認められなかったが、アカメガシワは高い確率(p=0.12)で差が認められ、濃度2%で生長が促進されることが確かめられた。
また、団粒化剤の有無については、アカメガシワで有意差(p<0.05)、コマツナギも高い確率(p=0.22)で差が認められた。
この結果、ベントナイト懸濁液の濃度2%と団粒化剤との組合せにより木本植物の初期生育を促進できることが確かめられた。
【0037】
[参考形態に関する発芽試験]
(a)試験方法
上記参考形態の初期生育試験の結果を受けてさらに施工後の発芽促進効果を確認するため、団粒化剤を配合した植生基材を用いて、ベントナイト懸濁液の濃度(0%、2%、5%)が植物の発芽に与える影響を確認するポット試験を行なった。2.5ヵ月後の発芽植物の密度について分散分析を行った。試験方法は参考形態の初期生育試験と同様である。
【0038】
(b)試験結果
ベントナイト濃度について、トールフェスクでは差が認められなかったが、コマツナギには有意差(p<0.01)が認められ、アカメガシワは高い確率(p=0.23)で差が認められ、実施例1と同様に濃度2%で最も発芽が促進され、木本植物の生育だけではなく発芽を促進する効果も得られることが確かめられた。
【0039】
[実施例1]本実施形態に関する発芽及び初期生育試験
(1a)粘土鉱物及び団粒化剤の懸濁液の調製
以下の粘土鉱物及び団粒化剤を含む懸濁液及び対照区用の用水をそれぞれ準備した。
・粘土鉱物(ベントナイト)濃度2%、団粒化剤(クリコートDA-101)濃度0.1質量%
・粘土鉱物(ベントナイト)濃度5%、団粒化剤(クリコートDA-101)濃度0.1質量%
・用水のみ(対照区用)
【0040】
(1b)植生基材の調製
上記参考形態の初期生育試験で用いた団粒化剤を配合しない植生基材を調製した(後述する表6参照)。木本植物のアカメガシワとコマツナギと、草本植物のメドハギを配合した。
【0041】
(1c)試験方法
実際の施工でも使用するロータリー式の乾式吹付機を使用して植生基材をエアー圧送する一方、液体圧送ホースで用水のみ(対照区)、濃度2%のベントナイト懸濁液に団粒化剤を混合した懸濁液、濃度5%のベントナイト懸濁液に団粒化剤を混合した懸濁液をそれぞれポンプ圧送してノズル付近で植生基材に合流させて各試験区に吹き付ける比較試験施工を行った。施工後2~5ヵ月後まで追跡調査を行った。
【0042】
(1d)試験結果
表1に試験結果として、2~5ヶ月後の初期植被率を示す。濃度2%のベントナイト懸濁液に団粒化剤を加えた懸濁液を用いた場合、初期の植被率を高められることが確かめられた。これらの差は一見すると大きな違いには見えないかもしれないが、木本植物による緑化を行う場合に、従来、外来草本主体の緑化と比較して初期植被率が低下するという問題があった。つまり初期生長が遅いために見た目がなかなか緑にならないという問題があり、緑化工事の発注者にとり大きな不安要素となるので緑化工事施工後に発芽生育不良として問題視されやすい。それに対し、濃度2%のベントナイト懸濁液に団粒化剤を加えた懸濁液の場合、対照区及び濃度5%のベントナイト懸濁液に団粒化剤を加えた懸濁液の場合と比較して、初期の植被率は明らかに向上している。よって、本実施形態における粘土鉱物と団粒化剤を含む懸濁液は、木本植物の初期生育促進に効果があり、緑化施工時の不安要素を解消する上でも有効といえる。
【0043】
【0044】
次に表2に、配合した木本植物の樹高の推移の比較を示す。濃度5%のベントナイト懸濁液に団粒化剤を加えた懸濁液の場合でも対照区と同等以上の発芽促進効果が得られている。さらに、濃度2%のベントナイト懸濁液に団粒化剤を加えた懸濁液の場合、対照区と比較して1~4ヵ月後平均でアカメガシワとコマツナギの樹高平均は概ね1.2倍であり、木本植物の生育促進効果が得られることが確かめられた。
【0045】
【0046】
表3に、アカメガシワとコマツナギの総密度の推移を示す。濃度2%のベントナイト懸濁液に団粒化剤を加えた懸濁液の場合、対照区と比較して、総密度が概ね1.3倍高く、木本植物の発芽促進効果が発揮されることが確かめられた。
【0047】
【0048】
[実施例2]本実施形態に関する耐侵食性試験
(2a)試験に用いた生育基盤
実施例3の施工時に吹き付けした生育基盤の供試体を用いた。
【0049】
(2b)試験方法
施工17日後の生育基盤の耐侵食性を、降雨実験装置(DIK-600)による降雨試験を行って侵食土量を比較した。降雨試験の設定値は、時間雨量100mm/h、雨滴径2.5mmで、1時間降雨を行って侵食土量を採取し、その絶乾重量と供試体から採取した生育基盤の嵩比重をもとに時間当たりの侵食土量(mL/m2/h)を求めた。
【0050】
(2c)試験結果
表4に、生育基盤の耐侵食性の比較を示す。濃度2%のベントナイト懸濁液に団粒化剤を加えた懸濁液の場合、対照区と比較して侵食土量を74%に低下でき、さらに濃度5%のベントナイト懸濁液に団粒化剤を加えた懸濁液の場合、侵食土量を37%まで低下できることが確かめられた。耐侵食性の点では、ベントナイト濃度を2%から5%に高めることが有利である。しかし、上記実施例1~3の結果から、濃度5%のベントナイト懸濁液に団粒化剤を加えた懸濁液の場合、木本植物の初期生育と発芽促進効果の点では濃度2%のベントナイト懸濁液に団粒化剤を加えた懸濁液より劣るので、総合的に勘案するとベントナイトの濃度5%よりも濃度2%が有効といえる。
【0051】
【0052】
表5に、生育基盤の土壌硬度の比較を示す。各試験区の土壌硬度(山中式土壌硬度計)を比較すると、各試験区間に顕著な違いは認められなかった。これは、本発明による耐侵食性と植物生育性(発芽促進効果と初期生長促進効果)を向上させる作用効果が、生育基盤の硬さという物理的な違いによるものではないことを示すもので、用水の代わりにベントナイト懸濁液に団粒化剤を混合した懸濁液をノズル付近で合流させることにより得られた効果であることを示している。
【0053】
【0054】
[実施例3]材料配合の実施例
以上の試験結果に基づいて、実際の乾式吹付緑化工法において有効な生育基盤の材料実施例として、本実施形態の配合例を表6に示す。
【0055】
本実施形態の方法を適用する場合は、表6の材料を混合した植生基材を吹付機に投入してエアー圧送し、ノズル付近で濃度2%相当の粘土鉱物(例えばベントナイト)と濃度0.1質量%相当の団粒化剤(例えばクリコートDA-101)を混合した懸濁液を合流させて吹き付ける。それにより、生育基盤の耐侵食性と植物生育性(発芽促進効果と初期生長促進効果)を向上させる効果を有する生育基盤を造成できる。
【0056】
なお、表6に示した材料配合の各配合成分の規格はこの限りではなく、同様の効果が得られる材料であれば適宜選定して設計できる。同様に、ベントナイトのメッシュについても、これまで100~300メッシュで効果に違いはなく、200メッシュに限定されるものではない。また、種子は設計において適宜決定され、草本植物主体の場合でも耐侵食性の向上効果は得られるが、木本植物を用いた場合には植物生育性(発芽促進効果と生長促進効果)を向上させることができるので、種子配合設計は木本植物を主体とする配合にするとより有効である。木本植物の初期生育性が向上することは、中長期的な緑化成績においては確実に大きな違いとなる。この点において本発明は顕著な効果を奏すると言える。
【0057】