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  • 特開-過熱保護装置及び過熱保護方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024116454
(43)【公開日】2024-08-28
(54)【発明の名称】過熱保護装置及び過熱保護方法
(51)【国際特許分類】
   H02P 29/62 20160101AFI20240821BHJP
【FI】
H02P29/62
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023022077
(22)【出願日】2023-02-16
(71)【出願人】
【識別番号】000006105
【氏名又は名称】株式会社明電舎
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【弁理士】
【氏名又は名称】富岡 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100104938
【弁理士】
【氏名又は名称】鵜澤 英久
(74)【代理人】
【識別番号】100210240
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 友幸
(72)【発明者】
【氏名】上栗 伸仁
【テーマコード(参考)】
5H501
【Fターム(参考)】
5H501AA20
5H501BB08
5H501BB20
5H501CC04
5H501DD04
5H501HB07
5H501JJ03
5H501LL01
5H501LL32
5H501LL35
5H501LL39
5H501LL53
5H501MM05
5H501MM09
(57)【要約】
【課題】モータの過熱保護装置において、運転パターンを細分化し過熱保護の閾値温度を最適化することによって出力密度の低下を抑制する。
【解決手段】速度取得部8が、モータ回転数を取得する。温度取得部7が、モータ1の温度検出値を取得する。閾値変更部10が、モータ回転数とモータ出力に基づいて閾値温度を設定する。比較部11が、温度検出値と閾値温度を比較する。出力制御部12が、温度検出値が閾値温度を超過したときに、モータ1への通電を停止する、またはモータ出力を低減させる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータの過熱保護を行う過熱保護装置であって、
モータ回転数を取得する速度取得部と、
前記モータの温度検出値を取得する温度取得部と、
前記モータ回転数と、モータ出力と、に基づいて閾値温度を設定する閾値変更部と、
前記温度検出値と前記閾値温度を比較する比較部と、
前記温度検出値が前記閾値温度を超過したときに、前記モータへの通電を停止する、または前記モータ出力を低減させる出力制御部と、
を備えたことを特徴とする過熱保護装置。
【請求項2】
前記閾値変更部は、
前記モータ回転数と、前記モータ出力と、に基づいて短時間運転または長時間運転のいずれかを選択し、
前記短時間運転時の閾値温度を前記長時間運転時の閾値温度より小さくすることを特徴とする請求項1記載の過熱保護装置。
【請求項3】
前記モータをインバータで駆動し、
前記閾値変更部は、前記モータ出力をインバータ電流指令とし、前記モータ回転数と前記インバータ電流指令に基づいて前記閾値温度を設定することを特徴とする請求項1記載の過熱保護装置。
【請求項4】
前記温度取得部は前記モータのコイルの端面の温度を取得することを特徴とする請求項1記載の過熱保護装置。
【請求項5】
速度取得部と、温度取得部と、閾値変更部と、比較部と、出力制御部と、を備えた過熱保護装置がモータの過熱保護を行う過熱保護方法であって、
前記速度取得部が、モータ回転数を取得し、
前記温度取得部が、前記モータの温度検出値を取得し、
前記閾値変更部が、前記モータ回転数と、モータ出力と、に基づいて閾値温度を設定し、
前記比較部が、前記温度検出値と前記閾値温度を比較し、
前記出力制御部が、前記温度検出値が前記閾値温度を超過したときに、前記モータへの通電を停止する、または前記モータ出力を低減させる
ことを特徴とする過熱保護方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータにおける過熱保護装置および過熱保護方法に関する。
【背景技術】
【0002】
EVモータでは、コイル端面に取り付けたサーミスタによってコイルの温度を測定してコイルの過熱保護(出力抑制)を行う方法が広く用いられている。
【0003】
一方、モータ回転数に応じて過熱保護の閾値温度を変化させる先行技術として特許文献1が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2021-48691号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、EVモータでは、部品や構成で定まる発熱の時定数が長時間運転と短時間運転で異なるため、耐熱温度に合わせた過熱保護の閾値温度の設定が困難である。すなわち、運転パターンによっては、過熱保護の対象となるコイル中央部(最高温度点)とサーミスタの設置位置の温度乖離が両者間の熱抵抗に起因して大きくなる。運転パターンに関わらず過熱保護の閾値温度を一定値に設定すると、モータの出力密度を下げる(温度に裕度があるにもかかわらず低出力に抑制する運転モードが生じる)要因となる。
【0006】
また、特許文献1では過熱保護の閾値温度を決定する際、モータ回転数は参照しているものの、コイル中央部~サーミスタ取付部間の温度差に大きく関与するモータ出力は参照していないため、過熱保護の閾値温度を高い精度で最適化できていなかった。
【0007】
以上示したようなことから、モータの過熱保護装置において、運転パターンを細分化し過熱保護の閾値温度をより高い精度で最適化することによって出力密度の低下を抑制することが課題となる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、前記従来の問題に鑑み、案出されたもので、その一態様は、モータの過熱保護を行う過熱保護装置であって、モータ回転数を取得する速度取得部と、前記モータの温度検出値を取得する温度取得部と、前記モータ回転数と、モータ出力と、に基づいて閾値温度を設定する閾値変更部と、前記温度検出値と前記閾値温度を比較する比較部と、前記温度検出値が前記閾値温度を超過したときに、前記モータへの通電を停止する、または前記モータ出力を低減させる出力制御部と、を備えたことを特徴とする。
【0009】
また、その一態様として、前記閾値変更部は、前記モータ回転数と、前記モータ出力と、に基づいて短時間運転または長時間運転のいずれかを選択し、前記短時間運転時の閾値温度を前記長時間運転時の閾値温度より小さくすることを特徴とする。
【0010】
また、その一態様して、前記モータをインバータで駆動し、前記閾値変更部は、前記モータ出力をインバータ電流指令とし、前記モータ回転数と前記インバータ電流指令に基づいて前記閾値温度を設定することを特徴とする。
【0011】
また、その一態様として、前記温度取得部は前記モータのコイルの端面の温度を取得することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、モータの過熱保護装置において、運転パターンを細分化し過熱保護の閾値温度をより高い精度で最適化することによって出力密度の低下を抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施形態におけるモータおよび過熱保護装置を示すブロック図。
図2】短時間運転、長時間運転の運転パターンを示すグラフ。
図3】短時間運転時における各部品の温度を示すグラフ。
図4】長時間運転時における各部品の温度を示すグラフ。
図5】閾値温度に対するモータ出力を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本願発明は、モータに取り付けたサーミスタ温度を監視しモータの過熱保護を行う。ただし、モータ回転数とモータ出力(モータ電流など)に応じて過熱保護の閾値温度を変化させる。以下、本願発明におけるモータの過熱保護装置の実施形態を図1図5に基づいて詳述する。
【0015】
[実施形態]
図1は本実施形態における過熱保護装置の制御構成である。まず、本実施形態に係るモータ1及び過熱保護装置2を図1に基づいて説明する。
【0016】
モータ1は、図1に示すように、ステータ3と、ロータ4と、過熱保護装置2と、を備える。また、モータ1はインバータで駆動する。インバータはインバータ電流指令に基づいてモータ電流(インバータ電流)を制御する。
【0017】
ステータ3は、複数のコイル5を有する。ロータ4は、ステータ3の内部に軸止される。ロータ4には、例えば、磁石6が配置される。
【0018】
過熱保護装置2は、モータ1の温度異常を検知する装置である。また、過熱保護装置2は、温度異常を検知した際に、モータ1への通電を停止させる、またはモータ電流を低減させる。また、過熱保護装置2は、温度異常を検知した際、外部に信号を出力してもよい。過熱保護装置2は、図1に示すように、温度取得部7と、速度取得部8と、閾値格納部9と、閾値変更部10と、比較部11と、出力制御部12と、を備える。
【0019】
温度取得部7は、例えば、ステータ3のコイル5の端面に取り付けられる温度検知部(例えばサーミスタ、以下、サーミスタと称する)13を用いてコイル5の温度検出値を取得する。
【0020】
速度取得部8は、例えば、ロータ4の回転角を検出する回転角検出器14から出力されるレゾルバ信号に基づいてモータ回転数を取得する。
【0021】
閾値格納部9は、例えば、ハードディスク等の補助記憶媒体である。閾値格納部9は、モータ回転数、モータ出力に対する閾値温度のデータをテーブルとして格納する。本実施形態では、モータ回転数、モータ出力に応じて短時間運転と長時間運転に細分化し、短時間運転と長時間運転それぞれに閾値温度を設定している。
【0022】
閾値変更部10は、閾値格納部9のテーブルを参照し、モータ回転数、モータ出力に応じて閾値温度を変更する。本実施形態では、図2の運転パターン(短時間運転か長時間運転か)に基づいて後述の閾値温度A’,Bのいずれかを選択する。
【0023】
また、本実施形態では図2のモータ出力をインバータ電流指令とする。モータ出力には、インバータ電流指令の代わりにモータ電流検出値やモータ電力検出値や、電流にほぼ比例するモータトルク(トルク指令値、トルク検出値)に置き換えてもよい。これらに置きかえた場合は、インバータでモータ駆動しないシステム(セルビウス装置など)に対しても本実施形態は適用できる。
【0024】
比較部11は、閾値変更部10から出力された閾値温度と、温度取得部7から出力された温度検出値を取得する。比較部11は、取得した温度検出値と閾値温度を比較し、温度検出値が閾値温度を超過しているか否かを判断する。
【0025】
出力制御部12では、温度検出値が閾値温度を超過したときに、過熱保護のためインバータを故障停止させることでモータ1への通電を停止する。または、モータ出力(インバータ電流指令等)を低減させることでコイル5の発熱量と温度上昇を抑制する。
【0026】
また、出力制御部12は、温度検出値が閾値温度を超過したとき警告信号を外部へ出力する。警告信号は、例えば、スピーカ等の音声再生装置(図示せず)や、ディスプレイ等の表示装置(図示せず)により出力する。
【0027】
本実施形態では、モータ回転数とモータ出力のデータが格納されたテーブルを参照することにより運転パターン(短時間運転、長時間運転)を判別する。高出力であるほどインバータ電流指令が高くなることから、運転パターン(短時間運転、長時間運転)は図2に示すように出力領域によって判別できる。
【0028】
短時間運転時は、図2に示すようにモータ出力が高くモータ電流が高くなるのでコイル5の発熱量も大きくなる。図3は短時間運転時におけるサーミスタ温度とコイル中央部温度のグラフである。図3に示すように、短時間運転時はサーミスタ温度とコイル中央部温度の乖離が大きい。コイル耐熱温度Aに対しそのときのサーミスタ温度をA’とするとA’<Aとなり、サーミスタ温度A’はコイル耐熱温度Aを大きく下回る。そこで、この所定運転時間経過後のサーミスタ温度A’(図3の黒丸の温度)を短時間運転時の閾値温度として設定する。
【0029】
なお、短時間運転時の閾値温度A’は、コイル発熱量推定計算値、コイル中央部~サーミスタ取付部間の熱抵抗推定値、熱時定数推定値などに基づいて設定する。
【0030】
長時間運転時は図2に示すようにモータ出力が低くモータ電流が低くなるのでコイルの発熱量も小さくなる。図4は長時間運転時におけるサーミスタ温度とコイル中央部温度のグラフである。図4に示すように、長時間運転時はサーミスタ温度とコイル中央部温度の乖離が短時間運転時と比較して小さい。コイル耐熱温度Aに対しそのときのサーミスタ温度をBとすると、A’<B<Aとなる。そこで、このサーミスタ温度Bを長時間運転時の閾値温度として設定する。
【0031】
この長時間運転時の閾値温度Bも、短時間運転時における閾値温度A’と同様に、コイル発熱量推定計算値、コイル中央部~サーミスタ取付部間の熱抵抗推定値、熱時定数推定値などに基づいて設定する。
【0032】
図5に、コイル耐熱温度に対しそのときのサーミスタ温度を各閾値温度に設定した場合の出力特性を示す。図5では、閾値温度A’で短時間運転を行った場合を実線、閾値温度Bで長時間運転を行った場合を点線、閾値温度A’で長時間運転を行った場合を一点鎖線で示している。
【0033】
閾値温度A’を過熱保護の閾値温度とした場合、短時間運転時は定められた最大出力が可能となるが、長時間運転時は短時間運転時の閾値温度A’から長時間運転時の閾値温度Bの間においては過熱保護温度の対象となり、最大出力が不可能となる。この場合、長時間運転時は閾値温度を長時間運転時の閾値温度Bとすることによって定められた最大出力が可能となる。
【0034】
なお、本実施形態では運転パターンを短時間運転と長時間運転で分けたが、短時間運転や長時間運転それぞれをさらに細分化して過熱保護の閾値温度を最適化してもよい。
【0035】
以上示したように、本実施形態によれば、運転パターンを細分化することにより過熱保護の閾値温度を最適化し、出力密度の低下を抑制することが可能となる。これにより、コイル最高温度に余裕がある状態であるにもかかわらず過熱保護停止させてしまう現象を抑制できる。
【0036】
さらに、特許文献1と比較して、コイル中央部~サーミスタ取付部間の温度差に大きく関与するモータ出力(モータ電流等)に基づいて閾値温度を決めているため、より精度の高い過熱保護ができるようになる。
【0037】
以上、本発明において、記載された具体例に対してのみ詳細に説明したが、本発明の技術思想の範囲で多彩な変形および修正が可能であることは、当業者にとって明白なことであり、このような変形および修正が特許請求の範囲に属することは当然のことである。
【0038】
なお、実施形態ではモータのコイル温度を監視してモータのコイルの過熱保護を行う方法を説明したが、コイルに限らず他部品の過熱保護に適用してもよい。
【符号の説明】
【0039】
1…モータ
2…過熱保護装置
3…ステータ
4…ロータ
5…コイル
6…磁石
7…温度取得部
8…速度取得部
9…閾値格納部
10…閾値変更部
11…比較部
12…出力制御部
13…温度検知部(サーミスタ)
14…回転角検出部
図1
図2
図3
図4
図5