(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024116460
(43)【公開日】2024-08-28
(54)【発明の名称】トルクセンサ
(51)【国際特許分類】
G01L 3/10 20060101AFI20240821BHJP
【FI】
G01L3/10 311
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023022090
(22)【出願日】2023-02-16
(71)【出願人】
【識別番号】000105659
【氏名又は名称】ニデックコンポーネンツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】弁理士法人スズエ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 隆史
(57)【要約】
【課題】 本発明の実施形態は、小型で軽量であり、トルクの測定精度を向上することが可能なトルクセンサを提供する。
【解決手段】 第1取り付け部11aは、構造体31の表面に取着される。第2取り付け部11bは、構造体の表面に取着される。第1支持部11cは、第1取り付け部に設けられる。第2支持部11dは、第2取り付け部に設けられ、第1支持部と対向して配置される。起歪体21は、第1端部が第1支持部に取り付けられ、第2端部が第2支持部に取り付けられ、表面に複数の歪ゲージが配置される。構造体は、多関節ロボットアームの少なくとも1つのアームであり、第1支持部と、起歪体と、第2支持部は、少なくとも1つのアームのトルクが印加される部分の近傍で、少なくとも1つのアームの表面に配置される。
【選択図】
図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造体と、
前記構造体の表面に取着される第1取り付け部と、
前記構造体の表面に取着される第2取り付け部と、
前記第1取り付け部に設けられた第1支持部と、
前記第2取り付け部に設けられ、前記第1支持部と対向して配置された第2支持部と、
第1端部が前記第1支持部に取り付けられ、第2端部が前記第2支持部に取り付けられ、表面に複数の歪ゲージが配置された起歪体と、
を具備し、
前記構造体は、多関節ロボットアームの少なくとも1つのアームであり、
前記第1支持部と、前記起歪体と、前記第2支持部は、前記少なくとも1つのアームのトルクが印加される部分の近傍で、前記少なくとも1つのアームの表面に配置されることを特徴とするトルクセンサ。
【請求項2】
前記第1支持部と前記第2支持部は所定間隔離間し、
前記第1支持部及び前記第2支持部の剛性は、前記起歪体の剛性より大きいことを特徴とする請求項1に記載のトルクセンサ。
【請求項3】
前記トルクセンサは、直列に配置された前記第1支持部、前記起歪体、及び前記第2支持部が前記少なくとも1つのアームの回転軸に沿って配置されることを特徴とする請求項1に記載のトルクセンサ。
【請求項4】
前記第1取り付け部、前記第2取り付け部、前記第1支持部、及び前記第2支持部は、前記トルクセンサの本体を構成し、前記起歪体のねじり角は、前記本体のねじり角より大きいことを特徴とする請求項2に記載のトルクセンサ。
【請求項5】
前記第1支持部と前記第2支持部との間に位置する前記起歪体の長さは、前記第1取り付け部と前記第2取り付け部との間の長さより短い請求項2に記載のトルクセンサ。
【請求項6】
前記第1支持部、及び前記第2支持部は、第1の厚みを有し、
前記起歪体は、前記第1の厚みより薄い第2の厚みを有する
請求項2に記載のトルクセンサ。
【請求項7】
前記第1取り付け部と前記第2取り付け部との間に設けられ、前記第1取り付け部と前記第2取り付け部とを繋ぐ少なくとも1つの梁をさらに具備し、
前記梁は、前記第2の厚みを有する請求項6に記載のトルクセンサ。
【請求項8】
前記梁の剛性は、前記起歪体の剛性より小さい請求項7に記載のトルクセンサ。
【請求項9】
前記梁と前記第1支持部との間、及び前記梁と前記第2支持部との間に設けられたスリットをさらに具備する請求項7に記載のトルクセンサ。
【請求項10】
前記構造体は、前記第1取り付け部の長手方向の一端に係合可能な第1係合部と、前記第2取り付け部の長手方向の他端に係合可能な第2係合部と、を有する請求項1に記載のトルクセンサ。
【請求項11】
前記構造体は、前記第1取り付け部の長手方向の一端に係合可能な第1係合部と、前記第2取り付け部の長手方向の他端に係合可能な第2係合部と、を含む凹部を有する請求項1に記載のトルクセンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、例えばロボットアームに適用され、トルクを検出するトルクセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
例えばロボットアームのモータに接続された減速機の出力軸に設けられ、回転軸体、歪センサ及びベース板を備え、トルクを検出するトルクセンサが開発されている。回転軸体は、2つのフランジ部と、2つのフランジ部の間の起歪部とを有し、2つのフランジ部の間に歪センサを含むベース板が接合されている(例えば特許文献1参照)。
【0003】
ロボットアームのモータに接続された減速機の出力軸に設けられ、第1構造体、第2構造体、第1構造体と第2構造体との間の複数の第3構造体、及び第1構造体と第2構造体との間に接合された歪センサを具備するトルクセンサが開発されている(例えば特許文献2乃至5参照)。
【0004】
手術ロボットシステムにおいて、マニュピレータのシャフトの外面に複数の歪ゲージが直接設けられ、これら歪ゲージによりトルクを検出する技術が開発されている(例えば特許文献6参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2020-067295号公報
【特許文献2】特開2018-91813号公報
【特許文献3】特開2019-174325号公報
【特許文献4】特開2019-184396号公報
【特許文献5】特開2021-60346号公報
【特許文献6】特表2009-522016号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ロボットアームに設けられるトルクセンサは、ロボットアームに生じたトルクを歪センサに伝達させるための構造体を有しており、この構造体はロボットアームの直径とほぼ同等の直径を有するとともに、大きな重量を有している。このため、ロボットアームの設計において、トルクセンサの小型化及び重量の軽量化が求められている。
【0007】
しかし、小型で軽量化されたトルクセンサは、印加されるトルクに対して変位が小さく、又、計測すべきトルク以外の方向の外力に対する剛性が弱い。このため、歪センサにより大きな信号を取り出すことが困難であり、トルクの測定精度が低下する可能性がある。
【0008】
本発明の実施形態は、小型で軽量であり、トルクの測定精度を向上することが可能なトルクセンサを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本実施形態のトルクセンサは、構造体と、前記構造体の表面に取着される第1取り付け部と、前記構造体の表面に取着される第2取り付け部と、前記第1取り付け部に設けられた第1支持部と、前記第2取り付け部に設けられ、前記第1支持部と対向して配置された第2支持部と、第1端部が前記第1支持部に取り付けられ、第2端部が前記第2支持部に取り付けられ、表面に複数の歪ゲージが配置された起歪体と、を具備し、前記構造体は、多関節ロボットアームの少なくとも1つのアームであり、前記第1支持部と、前記起歪体と、前記第2支持部は、前記少なくとも1つのアームのトルクが印加される部分の近傍で、前記少なくとも1つのアームの表面に配置される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1A】本実施形態に係るトルクセンサを示す平面図。
【
図3】
図1Aに示すトルクセンサの本体を取り出して示す平面図。
【
図4】本実施形態に係るトルクセンサが取り付けられたロボットアームの一例を示す斜視図。
【
図5】本実施形態に係るトルクセンサの動作を説明するために示す概略図。
【
図6】本実施形態に係るトルクセンサの剛性を説明するために示す概略図。
【
図7】本実施形態に係るトルクセンサの剛性を説明するために示す概略図。
【
図8】本実施形態に係るトルクセンサの第1変形例を示すものであり、本体を取出して示す平面図。
【
図9】本実施形態に係るトルクセンサの第2変形例を示すものであり、本体を取出して示す平面図。
【
図10】本実施形態に係るトルクセンサが取り付けられるロボットアームの第1変形例を示す断面図。
【
図11】本実施形態に係るトルクセンサが取り付けられるロボットアームの第2変形例を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、実施の形態について、図面を参照して説明する。図面において、同一部分には、同一符号を付している。
【0012】
図1A及び
図2は、本実施形態に係るトルクセンサ10を示している。トルクセンサ10は、例えば矩形状の本体11と、本体11に取付けられた歪センサ20とを具備している。
【0013】
図3は本体11を示している。本体11は、例えば金属板により構成され、第1取り付け部11aと、第2取り付け部11bと、第1取り付け部11aから張り出して設けられた第1支持部11cと、第2取り付け部11bから張り出して設けられた第2支持部11dと、第1取り付け部11aと第2取り付け部11bとの間で、第1支持部11c及び第2支持部11dの両側に設けられた第1梁11e及び第2梁11fとを具備している。
【0014】
第1支持部11cの長さLcと第2支持部11dの長さLdは、等しく(Lc=Ld)、第1支持部11cと第2支持部11dとの間は、所定間隔離間されている。このため、第1支持部11cの先端と第2支持部11dの先端は、本体11の長さ方向に沿って所定間隔開けて対向されている。
【0015】
第1梁11eと、第1支持部11cと及び第2支持部11dとの間には第1スリット11gが設けられ、第2梁11fと、第1支持部11c及び第2支持部11dとの間には第2スリット11hが設けられている。このため、第1支持部11cの長手方向の両側面と第2支持部11dの長手方向の両側面は、第1梁11e及び第2梁11fから離れている。
【0016】
本実施形態において、第1梁11eと第2梁11fは、第1支持部11cと第2支持部11dとの間の距離を一定に保持するために必要とされている。このため、第1梁11eと第2梁11fの幅(トルクセンサ10の長手方向と交差する方向の長さ)は、極力狭く、第1梁11eと第2梁11fの剛性は極力小さいことが好ましい。
【0017】
本実施形態において、第1梁11eと第2梁11fのそれぞれの幅は、第1スリット11gと第2スリット11hを設けることにより狭められている。このため、第1梁11eと第2梁11fの剛性は、後述する起歪体21の剛性よりも小さくされている。
【0018】
また、第1梁11eと第2梁11fは、必ずしも2つ必要ではなく、第1梁11eと第2梁11fの一方のみであってもよい。
【0019】
第1取り付け部11aは、本体11の長さ方向と交差する方向に、後述する複数のネジが挿入される複数の孔11iを含み、第2取り付け部11bは、本体11の長さ方向と交差する方向に後述する複数のネジが挿入される複数の孔11jを含んでいる。
【0020】
第1支持部11cは、後述するネジが螺合されるネジ穴11kを含み、第2支持部11dは、後述するネジが螺合されるネジ穴11lを含んでいる。
【0021】
上記構成の本体11は、例えば金属板を打ち抜いて形成することができるが、他の方法で製造することも可能である。
【0022】
図1A及び
図2に示すように、第1支持部11cと第2支持部11dとの間に歪センサ20が配置される。歪センサ20は、例えば矩形状の起歪体21と、起歪体21の表面に配置された複数の歪ゲージ22とを含んでいる。
【0023】
起歪体21は、金属、例えば例えばアルミニウムにより形成されている。しかし、これに限らず他の金属やセラミックなどを用いることも可能である。
【0024】
複数の歪ゲージ22は、起歪体21の例えば対角線に沿って配置されているが、これに限定されるものではなく、別の配置も可能である。
【0025】
図1Aにおいて、歪ゲージ22は、起歪体21に4つ配置されて、例えばブリッジ回路が構成されているが、歪ゲージ22の数、及びブリッジ回路の構成は、これに限定されるものではなく、変形可能である。
【0026】
図2に示すように、起歪体21の厚み(起歪体21の長手方向と垂直な方向の長さ)Taは、第1支持部11cと第2支持部11dの厚み(第1支持部11c及び第2支持部11dの長手方向と垂直な方向の長さ)Tbより薄い(Ta<Tb)。
【0027】
図1Aに示すように、起歪体21の幅Waは、第1支持部11c及び第2支持部11dの幅Wbより狭くされている(Wa<Wb)。
【0028】
図1Bに示すように、歪ゲージ22は、例えば弾性体22a、絶縁膜22b、薄膜抵抗体(感歪膜)22c、接着膜22d、薄膜配線22e、接着膜22f、保護膜としてのガラス膜22gを具備している。具体的には、弾性体22a上に絶縁膜22bが設けられ、絶縁膜22b上に例えばCr-N抵抗体により構成された薄膜抵抗体22cが設けられる。薄膜抵抗体22c上の端部に接着膜22dを介在して、例えば銅(Cu)により構成された電極リードとしての薄膜配線22eが設けられる。薄膜配線22e上には接着膜22fが設けられる。絶縁膜22b、薄膜抵抗体22c、及び接着膜22fは、ガラス膜22gにより覆われる。接着膜22dは、薄膜配線22eと薄膜抵抗体22cとの密着性を高め、接着膜22fは、薄膜配線22eとガラス膜22gとの密着性を高めている。弾性体22aは、例えばステンレス鋼やアルミニウム合金などの金属、又はシリコン基板により構成され、接着膜22d、22fは、例えばクロム(Cr)を含む膜である。歪ゲージ22の構成は、これに限定されるものではなく、変形可能である。
【0029】
歪センサ20(起歪体21)の第1端部は、第1支持部11cの上に載置され、歪センサ20の第2端部は、第2支持部11dの上に載置される。歪センサ20の第1端部は、第1支持部11cの上に配置された第1固定部材23及びネジ24により第1支持部11cに固定され、歪センサ20の第2端部は、第2支持部11dの上に配置された第2固定部材25及びネジ26により第2支持部11dに固定される。
【0030】
具体的には、
図2に示すように、第1固定部材23は、第1支持部11cの上面に接する第1突起23aと、歪センサ20の第1端部に接することが可能で、第1突起23aより低い第2突起23bと、第1突起23aと第2突起23bとの間に位置する孔23cとを含んでいる。
【0031】
孔23cにネジ24が挿入され、第1支持部11cのネジ孔11kに螺合されることにより、第1固定部材23は、第1突起23aを支点として回動され、第2突起23bが歪センサ20の第1端部に線接触される。これにより、歪センサ20の第1端部は、第1支持部11cに固定される。
【0032】
第2固定部材25の構成は、第1固定部材23の構成と同様であり、第2支持部11dの上面に接する第3突起25aと、歪センサ20の第2端部に接することが可能で、第3突起25aより低い第4突起25bと、第3突起25aと第4突起25bとの間に位置する孔25cとを含んでいる。
【0033】
孔25cにネジ26が挿入され、第2支持部11dのネジ孔11lに螺合されることにより、第2固定部材25は、第3突起25aを支点として回動され、第4突起25bが歪センサ20の第2端部に線接触される。これにより、歪センサ20の第2端部は、第2支持部11dに固定される。
【0034】
上記構成のトルクセンサ10は、第1取り付け部11a、第1支持部11c、起歪体21、第2支持部11d、及び第2取り付け部11bがトルクセンサ10の長手方向に沿って直線状に配置されている。すなわち、第1支持部11c、起歪体21、及び第2支持部11dが直列に配置されている。
【0035】
上記構成のトルクセンサ10は、第1取り付け部11aに設けられた複数の孔11iにそれぞれネジ27が挿入され、第2取り付け部11bに設けられた複数の孔11jにそれぞれネジ28が挿入され、ロボットアーム30の表面に取り付けられる。
【0036】
このため、起歪体21の固定部間の長さ(第2突起23bと第3突起25aとの間の長さ、起歪体21の実効長とも言う)Laと、第1取り付け部11aと第2取り付け部11bとの間の長さ(ネジ27の中心とネジ28の中心との間の長さ:本体11の実効長)Lbの関係は、La<Lbである。
【0037】
図4は、多関節ロボットアーム(以下、単にアームとも言う)30の第1アーム31、第2アーム32の一例を示しており、第1アーム31と第2アーム32の表面に複数のトルクセンサ10が取り付けられた場合を示している。各アームの先端近傍に図示せぬモータと減速機が配置され、減速機の出力部に次のアームが取り付けられる。
【0038】
複数のトルクセンサ10は、例えば第1アーム31と第2アーム32の一端近傍、すなわち前段のアームに配置されたモータや減速機のように、駆動力を出力する部分の近傍で第1アーム31と第2アーム32の表面に取り付けられる。換言すると、各アームにトルクが印加される部分の近傍で、各アームの表面に配置される。このように、トルクセンサ10は、各アームにトルクを印加する駆動部の近傍に配置されることにより、各アームに生じた歪みを正確に検知することができる。このため、より正確にトルクを検出することができる。しかし、トルクセンサ10の配置場所は、これに限定されるものではなく、トルクを検出することが必要な場所に配置されればよい。
【0039】
また、トルクセンサ10は、トルクセンサ10の長手方向がアーム30を通る軸(回転軸)Aの方向に沿って取り付けられる。具体的には、トルクセンサ10の直列に配置された第1支持部11c、起歪体21、及び第2支持部11dが、アーム30の軸Aに沿って配置される。換言すると、直列に配置された第1支持部11c、起歪体21、及び第2支持部11dは、アーム30の軸Aと平行に配置される。
【0040】
図4に示すアーム31、32は、例えば1対のトルクセンサ10をそれぞれ有し、各対のトルクセンサ10は、各アーム31、32の周囲に180°離れて配置されている。このように配置することにより、本来検出すべきトルク、すなわち軸A周りのトルクのみを検出することができ、トルク以外の外力に対しては1対のトルクセンサ10の出力値が互いにキャンセルされ、出力されない。したがって、より正確にトルクを検出することができる。しかし、各アーム31、32に配置されるトルクセンサ10の数、及び配置の角度は、これに限定されるものではなく、ブリッジ回路の構成もトルクセンサ10の数や配置に応じて変形可能である。
【0041】
また、各トルクセンサ10は、アーム30の外側の表面に取り付けられているが、これに限らず、アーム30の内側の表面に取り付けられてもよい。
【0042】
図5を参照して、本実施形態に係るトルクセンサの動作について説明する。
図5は、アーム30とトルクセンサ10を概略的に示している。
【0043】
上記のように、トルクセンサ10は、アーム30の外側の表面に取り付けられている。具体的には、直列に配置された第1支持部11c、起歪体21及び第2支持部11dがアーム30の軸Aに沿って平行に配置されている。この状態において、アーム30にトルクが図示矢印T方向に印加されると、アーム30の表面にトルクと同方向にねじれが生じる。すなわち、アーム30が軸Aに対して角度θねじれることによりアーム30の表面に変位Δが生じる。このため、トルクセンサ10の第1支持部11cが第2支持部11dに対して矢印T方向に変位する。これにより、起歪体21に歪みが生じ、この歪みが複数の歪ゲージ22により検知される。
【0044】
図6に示すトルクセンサ10において、第1支持部11c及び第2支持部11dの剛性は、起歪体21の剛性より十分大きいため、第2支持部11dに対する第1支持部11cの変位X1は、第2取り付け部11bに対する第1取り付け部11aの変位X2に比べて大きくない。より具体的には、第2支持部11dに対する第1支持部11cの変位と第2取り付け部11bに対する第1取り付け部11aの変位は、ほぼ同一である。
【0045】
一方、起歪体21の実効長Laは、本体11の実効長(ネジ27の中心とネジ28の中心との間の長さ)Lbより十分短い。このため、起歪体21のねじり角θ1は、本体11のねじり角θ2より大きくなる。したがって、起歪体21は、本体11より大きく変形し、本体11が受けた歪み量より、起歪体21が受ける歪み量が大きくなり、歪が増幅されたこととなる。よって、起歪体21に配置された複数の歪ゲージ22から大きな信号が出力される。
【0046】
ここで、第1支持部11c、第2支持部11d、及び起歪体21の剛性について、説明する。第1支持部11c及び第2支持部11dの一端は、第1取り付け部11a及び第2取り付け部11bにそれぞれ接続されている。このため、第1支持部11c及び第2支持部11dは、片持ち梁の変形と考えることができる。
【0047】
図7に示す片持ち梁において、梁の長さをLとし、梁の自由端に荷重Pを印加した場合における梁の変位量をymaxとすると、ymaxは、次式(1)で表される。
【0048】
ymax = PL3/3EI …(1)
ここで、I:断面2次モーメント
E:ヤング率
式(1)を変形すると、式(2)となる。
P=3EIymax/L3 …(2)
3EI/L3は、バネ定数のようになっており、これが剛性に相当すると考えることができる。
【0049】
本実施形態において、3EI/L3の値が、起歪体21(実効長Laの区間)より第1支持部11c及び第2支持部11d(長さLc、Ld(Lc=Ld)の区間)の方が大きく設定されている。
【0050】
3EI/L
3の値は、具体的には、Eに起歪体21、第1支持部11c、及び第2支持部11dのヤング率をそれぞれ代入し、Iに起歪体21、第1支持部11c、及び第2支持部11dの断面2次モーメント(
図1Aに示す平面図において、平面と垂直方向の断面2次モーメント)をそれぞれ代入することにより求めることができる。
【0051】
例えば、第1支持部11c及び第2支持部11dの断面が長方形であり、平面と垂直方向の厚みがt、長手方向と交差する方向の幅がWであるとすると、第1支持部11c及び第2支持部11dの長さLc、Ldの区間の断面2次モーメントIsは、式(3)で示される。
【0052】
Is=tW3/12 …(3)
第1支持部11c及び第2支持部11dの長さLc、Ldの区間が起歪体21を挟んで2つに分かれているため、剛性に相当する値は、長さLc、Ldの区間それぞれの剛性の和となる。したがって、長さLc、Ldの区間の剛性は、
2(3EI/L3) …(4)
で示される。
【0053】
上記のように、起歪体21、第1支持部11c、及び第2支持部11dの構成を定義することができ、本実施形態における起歪体21と第1支持部11c及び第2支持部11dの剛性の関係は、起歪体21の剛性が、第1支持部11c及び第2支持部11dの剛性より小さくされている(起歪体21の剛性<第1支持部11c及び第2支持部11dの剛性)。
【0054】
具体的には、起歪体21及び第1支持部11c及び第2支持部11dを含む本体11は、金属、例えばステンレス鋼で構成され、起歪体21の厚みTaは、第1支持部11c及び第2支持部11dの厚みTbより薄く、起歪体21の幅は、第1支持部11c及び第2支持部11dの幅より狭くされている。
【0055】
起歪体21及び本体11の材料は、上記剛性の関係を満たすことができれば、別の材料を組み合わせることが可能である。
【0056】
尚、起歪体21は、第1固定部材23、第2固定部材25、ネジ24、26を用いて第1支持部11c、第2支持部11dにそれぞれ固定したが、これに限定されるものではなく、例えば、接着剤又は溶接を用いて固定することも可能である。
【0057】
さらに、本体11は、複数のネジ27、28を用いてアーム30に固定したが、これに限定されるものではなく、例えば、接着剤又は溶接を用いて固定することも可能である。
【0058】
(線膨張について)
本実施形態において、第1支持部11cと、起歪体21と、第2支持部11dは、直列に配置され、構造体としてのアーム30に配置されている。アーム30と、第1支持部11c、起歪体21、及び第2支持部11dが同じ材料で構成されていれば、温度変化に対する線膨張係数が等しいため、起歪体21に伸張力又は圧縮力が生じない。
【0059】
しかし、起歪体21の材料によっては、起歪体21の上に歪ゲージ22を成膜することが難しく、起歪体21と、アーム30、第1支持部11c及び第2支持部11dを同じ材料で形成することが困難である。これらの材料が異なると、温度変化により起歪体21に伸張力又は圧縮力が生じ、トルクの測定精度が低下する。
【0060】
そこで、本実施形態において、起歪体21と、第1支持部11cと第2支持部11d、及びアーム30の線膨張係数の関係が、起歪体21<アーム30<第1支持部11c、第2支持部11dとなるように調整されている。
【0061】
具体的には、温度がΔT変化したときのアーム30の線膨張Lex1と、トルクセンサ10の起歪体21の線膨張Lex2及び第1支持部11c及び第2支持部11dの線膨張Lex3が等しければ(Lex1=Lex2+Lex3)、起歪体21に力が生じない。
【0062】
ここで、
Lex1=α2・Lb・ΔT
Lex2=α1・La・ΔT
Lex3=α3・(Lb-La)・ΔT
La:起歪体21の実効長
Lb:第1取り付け部11aと第2取り付け部11bとの間のアーム30の長さ(アーム31の実効長)
とすると、
Lex1=Lex2+Lex3
α2・Lb・ΔT=α1・La・ΔT+α3・(Lb-La)・ΔT
よって、次式(5)を満たせば、起歪体21に温度変化による力が生じない。
La=Lb・(α2-α3)/(α1-α3) …(5)
この時、線膨張係数の関係は、α1>α2>α3、又はα1<α2<α3となる。
【0063】
具体的には、本実施形態の場合、起歪体21はステンレス鋼、アーム30は、例えばアルミニウム合金により構成され、第1支持部11cと第2支持部11dは、例えば亜鉛合金により構成される。この場合、アルミニウム合金の線膨張係数α2がステンレス鋼の線膨張係数α1よりも大きく(α1<α2)、亜鉛合金の線膨張係数α3より小さい(α2<α3)ため、線膨張係数が大きい第1支持部11c及び第2支持部11dと、線膨張係数が小さい起歪体21とにより、起歪体21と第1支持部11c及び第2支持部11dとの全体の線膨張を、アーム30の線膨張に近づけることができる。
【0064】
したがって、温度変化に対するトルクの測定精度を向上させることが可能である。
【0065】
(実施形態の効果)
上記実施形態によれば、トルクセンサ10は、本体11と歪センサ20を含み、本体11は、第1取り付け部11aと、第2取り付け部11bと、第1取り付け部11aに設けられた第1支持部11cと、第2取り付け部11bに設けられた第2支持部11dと、を少なくとも含み、第1支持部11cと第2支持部11dとの間に複数の歪ゲージ22を有する起歪体21含む歪センサ20が接合されている。本体11は、アーム30の表面で減速機の近傍に取付けることができるサイズであるため、アーム30の減速機の出力軸に装着されるトルクセンサに比べて格段に小型、軽量化することが可能である。
【0066】
また、上記実施形態のトルクセンサ10によれば、本体11の第1支持部11cと第2支持部11dとの間に複数の歪ゲージ22を含む起歪体21を接合し、ロボットアームのねじれを第1支持部11cと第2支持部11dとの変位、及び起歪体21の変位に変換して検出している。すなわち、第1支持部11cと第2支持部11dの変位は、ロボットアームのねじれ量を拡大する作用を有している。このため、起歪体21に設けられた複数の歪ゲージ22から大きな信号を出力することができる。したがって、複数の歪ゲージをロボットアームの表面に直接設けて僅かな歪を検知する場合に比べてトルクの測定精度を向上させることが可能である。
【0067】
さらに、第1支持部11c及び第2支持部11dと、第1梁11eとの間に第1スリット11gが設けられ、第1支持部11c及び第2支持部11dと、第2梁11fとの間に第2スリット11hが設けられている。このため、第1梁11eと第2梁11fの剛性を起歪体21の剛性よりも小さくすることができ、第1取り付け部11aと第2取り付け部11bの変位を大きくすることが可能である。したがって、第1支持部11cと第2支持部11dとの間の起歪体21の変位も大きくすることができるため、複数の歪ゲージ22から大きな信号を出力することができ、トルクの測定精度を向上させることが可能である。
【0068】
また、起歪体21の線膨張係数α1と、第1支持部11c及び第2支持部11dの線膨張係数α3と、アーム31の線膨張係数α2と、の関係が、α1>α2>α3、又はα1<α2<α3を満たすことにより、起歪体21に温度変化による力が生じない。したがって、温度変化に対するトルクの測定精度を向上させることが可能である。
【0069】
(変形例)
図8は、本実施形態に係るトルクセンサ10の第1変形例を示すものであり、本体11のみを示している。
【0070】
上記実施形態において、本体11は、第1取り付け部11aと第2取り付け部11bとの間に第1梁11e、第2梁11f、及び第1スリット11g、及び第2スリット11hを含んでいる。
【0071】
これに対して、第1変形例において、本体11は、第1梁11e、第2梁11f、及び第1スリット11g、及び第2スリット11hを含まず、第1支持部11cと第2支持部11dとの間に、開口11mを含んでいる。
【0072】
第1変形例の場合、実施形態に比べて本体11及び第1支持部11cと第2支持部11dの剛性が高いため、実施形態に比べてアーム31のねじれに対して第1支持部11cと第2支持部11dの変位が小さくなるが、上記実施形態とほぼ同様の効果を得ることができる。
【0073】
図9は、本実施形態に係るトルクセンサ10の第2変形例を示すものであり、本体11のみを示している。
【0074】
第2変形例において、本体11は、第1本体11-1と第2本体11-2に分離されている。
【0075】
第2変形例の場合、第1本体11-1と第2本体11-2が分離されているため、アーム31のねじれに対して第1本体11-1と第1支持部11cが同一に変位し、第2本体11-2と第2支持部11dが同一に変位する。このため、第1支持部11cと第2支持部11dとの間に接合される起歪体21は、上記実施形態に比べて大きな変位を生じる。したがって、複数の歪ゲージ22は、上記実施形態より大きな信号を出力することが可能であり、トルクの測定精度を向上させることが可能である。
【0076】
第2変形例の場合、第1本体11-1と第2本体11-2との間の距離を一定に保持させる必要がある。
【0077】
図10は、トルクセンサ10の取り付け部の第1変形例を示している。
図10において、アーム31は、表面に第1係合部としての第1突起31aと第2係合部としての第2突起30bを備えている。第1突起31aと第2突起31bは、アーム31の軸方向Aに沿って所定間隔離れて配置され、第1本体11-1と第2本体11-2との間の距離を規定する。すなわち、第1本体11-1の第1取り付け部11a側の側面は、第1突起31aに接触して配置され、第2本体11-2の第2取り付け部11b側の側面は、第2突起31bに接触して配置される。その他の構成は、上記実施形態と同様である。
【0078】
このように、アーム31の表面に第1突起31aと第2突起31bを設けることにより、分離された第1本体11-1と第2本体11-2とを所定の距離離して配置させることができ、第1本体11-1と第2本体11-2との間の寸法の精度を向上させることができる。
【0079】
図11は、トルクセンサ10の取り付け部の第2変形例を示している。
図11において、アーム31は、表面に凹部31cと、凹部31cを覆うカバー31dを備えている。
【0080】
凹部31cの長手方向は、アーム31の軸方向Aに沿って配置され、凹部31cの長手方向の長さLeは、第1本体11-1と第2本体11-2との間の距離を規定する。第1本体11-1の第1取り付け部11a側の側面は、凹部31cの長手方向の一方側の側面(第1係合部)に接触して配置され、第2本体11-2の第2取り付け部11b側の側面は、凹部31cの長手方向の他方側の側面(第2係合部)に接触して配置される。その他の構成は、上記実施形態と同様である。
【0081】
このように、アーム31の表面に凹部31cを設けることにより、分離された第1本体11-1と第2本体11-2とを所定の距離離して配置させることができ、第1本体11-1と第2本体11-2との間の寸法の精度を向上させることができる。
【0082】
また、凹部31cは、印加されたトルクに対してアーム31の表面と同様に変位するため、上記実施形態と同様にトルクを測定することが可能である。
【0083】
尚、第2変形例において、凹部31cには、
図9に示す本体11を有するトルクセンサを配置したが、これに限定されるものではなく、
図1A、
図8に示す本体11を有するトルクセンサを配置することも可能である。
【0084】
また、上記説明は、本実施形態をトルクセンサに適用した場合について説明した。しかし、本実施形態は、トルクセンサに限定されるものではなく、例えばトルク及びトルク以外の方向の力を測定する力覚センサに適用することも可能である。
【0085】
その他、本発明は上記各実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記各実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0086】
10…トルクセンサ、11…本体、11a…第1取り付け部、11b…第2取り付け部、11c…第1支持部、11d…第2支持部、11e…第1梁、11f…第2梁、11g…第1スリット、11h…第2スリット、20…歪センサ、21…起歪体、22…歪ゲージ、30a…アーム(構造体)、31a…第1突起、31b…第2突起、31c…凹部。