IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 富士電機株式会社の特許一覧

特開2024-116470半導体装置および半導体装置の製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024116470
(43)【公開日】2024-08-28
(54)【発明の名称】半導体装置および半導体装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/336 20060101AFI20240821BHJP
   H01L 29/78 20060101ALI20240821BHJP
   H01L 29/739 20060101ALI20240821BHJP
   H01L 29/861 20060101ALI20240821BHJP
   H01L 29/12 20060101ALI20240821BHJP
【FI】
H01L29/78 658H
H01L29/78 653A
H01L29/78 652J
H01L29/78 655B
H01L29/78 655D
H01L29/78 657D
H01L29/78 655F
H01L29/78 655G
H01L29/91 J
H01L29/91 C
H01L29/78 652T
H01L29/91 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】35
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023022105
(22)【出願日】2023-02-16
(71)【出願人】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】弁理士法人RYUKA国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小田 優喜
(72)【発明者】
【氏名】各川 敦史
(72)【発明者】
【氏名】白川 徹
(57)【要約】      (修正有)
【課題】半導体装置及び半導体装置の製造方法を提供する。
【解決手段】トランジスタ部70及びダイオード部80を備える半導体装置100であって、半導体基板10に設けられた第1導電型のドリフト領域18と、半導体基板のおもて面に設けられた複数のトレンチ部(ダミートレンチ部30、ゲートトレンチ部40)と、ドリフト領域よりも半導体基板の裏面側に設けられた第1導電型のバッファ領域20と、トランジスタ部に設けられた第1ライフタイム制御領域151と、ダイオード部において、第1ライフタイム制御領域と異なる深さに設けられた第2ライフタイム制御領域152と、を備える。
【選択図】図2B
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トランジスタ部およびダイオード部を備える半導体装置であって、
半導体基板に設けられた第1導電型のドリフト領域と、
前記半導体基板のおもて面に設けられた複数のトレンチ部と、
前記ドリフト領域よりも前記半導体基板の裏面側に設けられた第1導電型のバッファ領域と、
前記トランジスタ部に設けられた第1ライフタイム制御領域と、
前記ダイオード部において、前記第1ライフタイム制御領域と異なる深さに設けられた第2ライフタイム制御領域と、
を備え、
前記第1ライフタイム制御領域の前記裏面からの深さ方向の距離をX(μm)として、
前記第2ライフタイム制御領域の前記裏面からの深さ方向の距離をY(μm)として、
前記第2ライフタイム制御領域を形成するためのドーズ量をD(atoms/cm)として、
距離Xおよび距離Yは、(数1)式および(数2)式を満たし、
[数1]
Y>X
[数2]
Y≦BX-27B+1.18×10-23-7.02×10-11D+56.89
Bは、前記半導体装置の活性部の面積に対する前記トランジスタ部の活性面積の比率Iを用いた(数3)式を満たす
[数3]
B=-0.139e3.90I
半導体装置。
【請求項2】
前記第1ライフタイム制御領域および前記第2ライフタイム制御領域は、上面視において重複しない
請求項1に記載の半導体装置。
【請求項3】
前記第1ライフタイム制御領域は、上面視において、前記第2ライフタイム制御領域と重複した重複領域を有する
請求項1に記載の半導体装置。
【請求項4】
前記第1ライフタイム制御領域のライフタイムキラー濃度のピークの半値全幅をW1として、Y>X+W1を満たす
請求項1に記載の半導体装置。
【請求項5】
前記バッファ領域を形成するための水素ピークの水素濃度の半値全幅をWhとして、Y>X+Whを満たす
請求項1に記載の半導体装置。
【請求項6】
前記距離Xおよび前記距離Yは、Y>2Xを満たす
請求項1に記載の半導体装置。
【請求項7】
前記距離Xに対する前記距離Yの比であるY/Xは、1.5以上、20以下である
請求項1に記載の半導体装置。
【請求項8】
前記半導体基板の前記裏面に設けられた第2導電型のコレクタ領域を備え、
前記距離Xは、前記コレクタ領域のドーピング濃度のピークと前記裏面との深さ方向の距離よりも大きく、前記半導体基板の厚みの1/4以下である
請求項1に記載の半導体装置。
【請求項9】
前記第1ライフタイム制御領域は、前記バッファ領域内に設けられる
請求項1に記載の半導体装置。
【請求項10】
前記バッファ領域は、
ドーパントがリンであるドーピング濃度の第1ピークと、
前記第1ピークよりも前記半導体基板の深さ方向において前記おもて面側に設けられ、ドーパントが水素であるドーピング濃度の副ピーク群と、
を有し、
前記第1ライフタイム制御領域は、前記半導体基板の深さ方向において、前記第1ピークよりも前記おもて面側に設けられる
請求項1から9のいずれか一項に記載の半導体装置。
【請求項11】
前記距離Yは、1.5X以上であり、前記半導体基板の厚みの1/2以下である
請求項1から9のいずれか一項に記載の半導体装置。
【請求項12】
前記第2ライフタイム制御領域は、前記バッファ領域内に設けられる
請求項1から9のいずれか一項に記載の半導体装置。
【請求項13】
前記第2ライフタイム制御領域は、前記半導体基板の深さ方向において、前記バッファ領域よりも前記おもて面側に設けられる
請求項1から9のいずれか一項に記載の半導体装置。
【請求項14】
前記ダイオード部において、前記半導体基板の深さ方向における前記半導体基板の中心よりも前記おもて面側に設けられた、おもて面側ライフタイム制御領域を備え、
前記おもて面側ライフタイム制御領域は、トレンチ配列方向において、前記ダイオード部から前記トランジスタ部まで延伸して設けられる
請求項1から9のいずれか一項に記載の半導体装置。
【請求項15】
前記ドリフト領域よりも前記半導体基板の前記おもて面側に設けられ、前記ドリフト領域よりもドーピング濃度の高い第1導電型のエミッタ領域を備え、
前記エミッタ領域は、前記トランジスタ部および前記ダイオード部に設けられる
請求項1から9のいずれか一項に記載の半導体装置。
【請求項16】
前記ドリフト領域よりも前記半導体基板の前記おもて面側に設けられ、前記ドリフト領域よりもドーピング濃度の高い第1導電型のエミッタ領域を備え、
前記第2ライフタイム制御領域は、トレンチ配列方向において、前記ダイオード部から前記トランジスタ部に延伸して設けられる
請求項1から9のいずれか一項に記載の半導体装置。
【請求項17】
前記トランジスタ部は、前記ダイオード部に隣接して設けられた境界領域を有し、
前記エミッタ領域は、前記境界領域にも設けられ、
前記第2ライフタイム制御領域は、トレンチ配列方向において、前記ダイオード部から前記境界領域に設けられた前記エミッタ領域の下方の領域まで延伸して設けられる
請求項16に記載の半導体装置。
【請求項18】
前記トランジスタ部は、前記ダイオード部に隣接して設けられた境界領域を有し、
前記境界領域の前記おもて面には、前記エミッタ領域が設けられておらず、
前記第2ライフタイム制御領域は、トレンチ配列方向において、前記ダイオード部から前記境界領域まで延伸して設けられる
請求項16に記載の半導体装置。
【請求項19】
前記第2ライフタイム制御領域は、前記トランジスタ部と前記ダイオード部との境界から、前記トランジスタ部の内側まで延伸する延伸領域を有し、
前記延伸領域の上面視における面積は、上面視における前記第2ライフタイム制御領域の面積の10%以下である
請求項1から9のいずれか一項に記載の半導体装置。
【請求項20】
前記活性部の前記面積に対する前記トランジスタ部の活性面積の比率Iは、0.1以上0.9以下である
請求項1から9のいずれか一項に記載の半導体装置。
【請求項21】
前記活性部の前記面積は、3mm以上3000mm以下である
請求項1から9のいずれか一項に記載の半導体装置。
【請求項22】
前記距離Xは、0μmよりも大きく、前記半導体基板のおもて面から前記半導体基板の裏面までの距離よりも小さい
請求項1から9のいずれか一項に記載の半導体装置。
【請求項23】
前記距離Yは、前記半導体基板のおもて面から前記半導体基板の裏面までの距離よりも小さい
請求項1から9のいずれか一項に記載の半導体装置。
【請求項24】
前記第1ライフタイム制御領域は、前記半導体基板の深さ方向における前記半導体基板の中心よりも前記裏面側に設けられる
請求項1から9のいずれか一項に記載の半導体装置。
【請求項25】
前記第2ライフタイム制御領域は、前記半導体基板の深さ方向における前記半導体基板の中心よりも前記裏面側に設けられる
請求項1から9のいずれか一項に記載の半導体装置。
【請求項26】
トランジスタ部およびダイオード部を備える半導体装置の製造方法であって、
前記トランジスタ部が設けられる半導体基板の裏面にマスクを形成する段階と、
前記マスクが形成された領域と、前記マスクが形成されていない領域の両方にライフタイムキラーを照射することにより裏面側ライフタイム制御部を形成する段階と、
を備え、
前記裏面側ライフタイム制御部を形成する段階は、前記マスクを介して前記ライフタイムキラーを注入することにより、前記トランジスタ部において、前記半導体基板の深さ方向における前記半導体基板の中心よりも前記裏面側に設けられた第1ライフタイム制御領域を形成し、前記マスクを介さずに前記ライフタイムキラーを注入することにより、前記ダイオード部において、前記半導体基板の深さ方向における前記半導体基板の中心よりも前記裏面側であって、前記第1ライフタイム制御領域と異なる深さに設けられた第2ライフタイム制御領域を形成する段階を含む
半導体装置の製造方法。
【請求項27】
トランジスタ部およびダイオード部を備える半導体装置の製造方法であって、
前記半導体装置は、
半導体基板に設けられた第1導電型のドリフト領域と、
前記半導体基板のおもて面に設けられた複数のトレンチ部と、
前記トランジスタ部において、前記半導体基板の深さ方向における前記半導体基板の中心よりも前記半導体基板の裏面側に設けられた第1ライフタイム制御領域と、
前記ダイオード部において、前記半導体基板の深さ方向における前記半導体基板の中心よりも前記裏面側であって、前記第1ライフタイム制御領域と異なる深さに設けられた第2ライフタイム制御領域と、
を備え、
前記半導体装置の製造方法は、
前記半導体装置の電気的特性の限界値を定める段階と、
前記第1ライフタイム制御領域または前記第2ライフタイム制御領域を形成する形成条件を一以上定める段階と、
前記電気的特性が前記限界値以下となるように、前記形成条件に対して、前記第1ライフタイム制御領域の前記裏面からの深さ方向の距離X(μm)と、前記第2ライフタイム制御領域の前記裏面からの深さ方向の距離Y(μm)とを結ぶ関係式を一以上定めることにより、前記距離Xおよび前記距離Yのそれぞれの上限値および下限値の範囲を定める段階と、
前記範囲の中から、前記距離Xおよび前記距離Yを決定する段階と、
前記決定した前記距離Xの深さに前記第1ライフタイム制御領域を形成する段階と、
前記決定した前記距離Yの深さに前記第2ライフタイム制御領域を形成する段階と、を含む
半導体装置の製造方法。
【請求項28】
前記第2ライフタイム制御領域を形成するためのドーズ量をD(atoms/cm)として、
前記距離Xおよび前記距離Yは、(数4)式および(数5)式を満たし、
[数4]
Y>X
[数5]
Y≦BX-27B+1.18×10-23-7.02×10-11D+56.89
Bは、前記半導体装置の活性部の面積に対する前記トランジスタ部の活性面積の比率Iを用いた(数6)式を満たすように、前記ドーズ量、前記距離Xおよび前記距離Yを決める
[数6]
B=-0.139e3.90I
請求項27に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項29】
前記活性部の前記面積に対する前記トランジスタ部の活性面積の比率Iは、0.1以上0.9以下である
請求項28に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項30】
前記活性部の前記面積は、3mm以上3000mm以下である
請求項28に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項31】
前記距離Xは、0μmよりも大きく、前記半導体基板のおもて面から前記半導体基板の裏面までの距離よりも小さい
請求項27または28に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項32】
前記距離Yは、前記半導体基板のおもて面から前記半導体基板の裏面までの距離よりも小さい
請求項27または28に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項33】
前記第1ライフタイム制御領域は、前記半導体基板の深さ方向における前記半導体基板の中心よりも前記裏面側に設けられる
請求項26から28のいずれか一項に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項34】
前記第2ライフタイム制御領域は、前記半導体基板の深さ方向における前記半導体基板の中心よりも前記裏面側に設けられる
請求項26から28のいずれか一項に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項35】
前記第1ライフタイム制御領域を形成する段階と、前記第2ライフタイム制御領域を形成する段階は、前記半導体基板の裏面を予め定められたパターンで覆うマスクを通して1回のイオン注入により行われる
請求項26から28のいずれか一項に記載の半導体装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置および半導体装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、トランジスタ部およびダイオード部を備える半導体装置が知られている(例えば、特許文献1、2参照)。
特許文献1 国際公開第2019/098270号
特許文献2 国際公開第2018/110703号
【発明の概要】
【0003】
本発明の第1の態様においては、トランジスタ部およびダイオード部を備える半導体装置であって、半導体基板に設けられた第1導電型のドリフト領域と、前記半導体基板のおもて面に設けられた複数のトレンチ部と、前記ドリフト領域よりも前記半導体基板の裏面側に設けられた第1導電型のバッファ領域と、前記トランジスタ部に設けられた第1ライフタイム制御領域と、前記ダイオード部において、前記第1ライフタイム制御領域と異なる深さに設けられた第2ライフタイム制御領域と、を備える半導体装置を提供する。上記半導体装置は、前記第1ライフタイム制御領域の前記裏面からの深さ方向の距離をX(μm)として、前記第2ライフタイム制御領域の前記裏面からの深さ方向の距離をY(μm)として、前記第2ライフタイム制御領域を形成するためのドーズ量をD(atoms/cm)として、距離Xおよび距離Yは、(数1)式および(数2)式を満たし、
[数1]
Y>X
[数2]
Y≦BX-27B+1.18×10-23-7.02×10-11D+56.89
Bは、前記半導体装置の活性部の面積に対する前記トランジスタ部の活性面積の比率Iを用いた(数3)式を満してよい。
[数3]
B=-0.139e3.90I
【0004】
上記半導体装置において、前記第1ライフタイム制御領域および前記第2ライフタイム制御領域は、上面視において重複しなくてよい。
【0005】
上記いずれかの半導体装置において、前記第1ライフタイム制御領域は、上面視において、前記第2ライフタイム制御領域と重複した重複領域を有してよい。
【0006】
上記いずれかの半導体装置は、前記第1ライフタイム制御領域のライフタイムキラー濃度のピークの半値全幅をW1として、Y>X+W1を満たしてよい。
【0007】
上記いずれかの半導体装置は、前記バッファ領域を形成するための水素ピークの水素濃度の半値全幅をWhとして、Y>X+Whを満たしてよい。
【0008】
上記いずれかの半導体装置において、前記距離Xおよび前記距離Yは、Y>2Xを満たしてよい。
【0009】
上記いずれかの半導体装置において、前記距離Xに対する前記距離Yの比であるY/Xは、1.5以上、20以下であってよい。
【0010】
上記いずれかの半導体装置は、前記半導体基板の前記裏面に設けられた第2導電型のコレクタ領域を備えてよい。前記距離Xは、前記コレクタ領域のドーピング濃度のピークと前記裏面との深さ方向の距離よりも大きく、前記半導体基板の厚みの1/4以下であってよい。
【0011】
上記いずれかの半導体装置において、前記第1ライフタイム制御領域は、前記バッファ領域内に設けられてよい。
【0012】
上記いずれかの半導体装置において、前記バッファ領域は、ドーパントがリンであるドーピング濃度の第1ピークと、前記第1ピークよりも前記半導体基板の深さ方向において前記おもて面側に設けられ、ドーパントが水素であるドーピング濃度の副ピーク群と、を有してよい。前記第1ライフタイム制御領域は、前記半導体基板の深さ方向において、前記第1ピークよりも前記おもて面側に設けられてよい。
【0013】
上記いずれかの半導体装置において、前記距離Yは、1.5X以上であり、前記半導体基板の厚みの1/2以下であってよい。
【0014】
上記いずれかの半導体装置において、前記第2ライフタイム制御領域は、前記バッファ領域内に設けられてよい。
【0015】
上記いずれかの半導体装置において、前記第2ライフタイム制御領域は、前記半導体基板の深さ方向において、前記バッファ領域よりも前記おもて面側に設けられてよい。
【0016】
上記いずれかの半導体装置は、前記ダイオード部において、前記半導体基板の深さ方向における前記半導体基板の中心よりも前記おもて面側に設けられた、おもて面側ライフタイム制御領域を備えてよい。前記おもて面側ライフタイム制御領域は、トレンチ配列方向において、前記ダイオード部から前記トランジスタ部まで延伸して設けられてよい。
【0017】
上記いずれかの半導体装置は、前記ドリフト領域よりも前記半導体基板の前記おもて面側に設けられ、前記ドリフト領域よりもドーピング濃度の高い第1導電型のエミッタ領域を備えてよい。前記エミッタ領域は、前記トランジスタ部および前記ダイオード部に設けられてよい。
【0018】
上記いずれかの半導体装置は、前記ドリフト領域よりも前記半導体基板の前記おもて面側に設けられ、前記ドリフト領域よりもドーピング濃度の高い第1導電型のエミッタ領域を備えてよい。前記第2ライフタイム制御領域は、トレンチ配列方向において、前記ダイオード部から前記トランジスタ部に延伸して設けられてよい。
【0019】
上記いずれかの半導体装置において、前記トランジスタ部は、前記ダイオード部に隣接して設けられた境界領域を有してよい。前記エミッタ領域は、前記境界領域にも設けられてよい。前記第2ライフタイム制御領域は、トレンチ配列方向において、前記ダイオード部から前記境界領域に設けられた前記エミッタ領域の下方の領域まで延伸して設けられてよい。
【0020】
上記いずれかの半導体装置において、前記トランジスタ部は、前記ダイオード部に隣接して設けられた境界領域を有してよい。前記境界領域の前記おもて面には、前記エミッタ領域が設けられておらず、前記第2ライフタイム制御領域は、トレンチ配列方向において、前記ダイオード部から前記境界領域まで延伸して設けられてよい。
【0021】
上記いずれかの半導体装置において、前記第2ライフタイム制御領域は、前記トランジスタ部と前記ダイオード部との境界から、前記トランジスタ部の内側まで延伸する延伸領域を有してよい。前記延伸領域の上面視における面積は、上面視における前記第2ライフタイム制御領域の面積の10%以下であってよい。
【0022】
上記いずれかの半導体装置において、前記活性部の前記面積に対する前記トランジスタ部の活性面積の比率Iは、0.1以上0.9以下であってよい。
【0023】
上記いずれかの半導体装置において、前記活性部の前記面積は、3mm以上3000mm以下であってよい。
【0024】
上記いずれかの半導体装置において、前記距離Xは、0μmよりも大きく、前記半導体基板のおもて面から前記半導体基板の裏面までの距離よりも小さくてよい。
【0025】
上記いずれかの半導体装置において、前記距離Yは、前記半導体基板のおもて面から前記半導体基板の裏面までの距離よりも小さくてよい。
【0026】
上記いずれかの半導体装置において、前記第1ライフタイム制御領域は、前記半導体基板の深さ方向における前記半導体基板の中心よりも前記裏面側に設けられてよい。
【0027】
上記いずれかの半導体装置において、前記第2ライフタイム制御領域は、前記半導体基板の深さ方向における前記半導体基板の中心よりも前記裏面側に設けられてよい。
【0028】
本発明の第2の態様においては、トランジスタ部およびダイオード部を備える半導体装置の製造方法であって、前記トランジスタ部が設けられる半導体基板の裏面にマスクを形成する段階と、前記マスクが形成された領域と、前記マスクが形成されていない領域の両方にライフタイムキラーを照射することにより裏面側ライフタイム制御部を形成する段階と、を備える半導体装置の製造方法を提供する。前記裏面側ライフタイム制御部を形成する段階は、前記マスクを介して前記ライフタイムキラーを注入することにより、前記トランジスタ部において、前記半導体基板の深さ方向における前記半導体基板の中心よりも前記裏面側に設けられた第1ライフタイム制御領域を形成し、前記マスクを介さずに前記ライフタイムキラーを注入することにより、前記ダイオード部において、前記半導体基板の深さ方向における前記半導体基板の中心よりも前記裏面側であって、前記第1ライフタイム制御領域と異なる深さに設けられた第2ライフタイム制御領域を形成する段階を含んでよい。
【0029】
本発明の第3の態様においては、トランジスタ部およびダイオード部を備える半導体装置の製造方法であって、前記半導体装置は、半導体基板に設けられた第1導電型のドリフト領域と、前記半導体基板のおもて面に設けられた複数のトレンチ部と、前記トランジスタ部において、前記半導体基板の深さ方向における前記半導体基板の中心よりも前記半導体基板の裏面側に設けられた第1ライフタイム制御領域と、前記ダイオード部において、前記半導体基板の深さ方向における前記半導体基板の中心よりも前記裏面側であって、前記第1ライフタイム制御領域と異なる深さに設けられた第2ライフタイム制御領域と、を備える、半導体装置の製造方法を提供する。前記半導体装置の製造方法は、前記半導体装置の電気的特性の限界値を定める段階と、前記第1ライフタイム制御領域または第2ライフタイム制御領域を形成する形成条件を一以上定める段階と、前記電気的特性が前記限界値以下となるように、前記形成条件に対して、前記第1ライフタイム制御領域の前記裏面からの深さ方向の距離X(μm)と、前記第2ライフタイム制御領域の前記裏面からの深さ方向の距離Y(μm)とを結ぶ関係式を一以上定めることにより、前記距離Xおよび前記距離Yのそれぞれの上限値および下限値の範囲を定める段階と、前記範囲の中から、前記距離Xおよび前記距離Yを決定する段階と、前記決定した前記距離Xの深さに前記第1ライフタイム制御領域を形成する段階と、前記決定した前記距離Yの深さに前記第2ライフタイム制御領域を形成する段階と、を含んでよい。
【0030】
上記いずれかの半導体装置の製造方法において、前記第2ライフタイム制御領域を形成するためのドーズ量をD(atoms/cm)として、前記距離Xおよび前記距離Yは、(数4)式および(数5)式を満たし、
[数4]
Y>X
[数5]
Y≦BX-27B+1.18×10-23-7.02×10-11D+56.89
Bは、前記半導体装置の活性部の面積に対する前記トランジスタ部の活性面積の比率Iを用いた(数6)式を満たすように、前記ドーズ量、前記距離Xおよび前記距離Yを決めてよい。
[数6]
B=-0.139e3.90I
【0031】
上記いずれかの半導体装置の製造方法において、前記活性部の前記面積に対する前記トランジスタ部の活性面積の比率Iは、0.1以上0.9以下であってよい。
【0032】
上記いずれかの半導体装置の製造方法において、前記活性部の前記面積は、3mm以上3000mm以下であってよい。
【0033】
上記いずれかの半導体装置の製造方法において、前記距離Xは、0μmよりも大きく、前記半導体基板のおもて面から前記半導体基板の裏面までの距離よりも小さくてよい。
【0034】
上記いずれかの半導体装置の製造方法において、前記距離Yは、前記半導体基板のおもて面から前記半導体基板の裏面までの距離よりも小さくてよい。
【0035】
上記いずれかの半導体装置の製造方法において、前記第1ライフタイム制御領域は、前記半導体基板の深さ方向における前記半導体基板の中心よりも前記裏面側に設けられてよい。
【0036】
上記いずれかの半導体装置の製造方法において、前記第2ライフタイム制御領域は、前記半導体基板の深さ方向における前記半導体基板の中心よりも前記裏面側に設けられてよい。
【0037】
上記いずれかの半導体装置の製造方法において、前記第1ライフタイム制御領域を形成する段階と、前記第2ライフタイム制御領域を形成する段階は、前記半導体基板の裏面を予め定められたパターンで覆うマスクを通して1回のイオン注入により行われてよい。
【0038】
なお、上記の発明の概要は、本発明の特徴の全てを列挙したものではない。また、これらの特徴群のサブコンビネーションもまた、発明となりうる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
図1】半導体装置100の上面図の一例を示す。
図2A図1における領域Aの拡大図である。
図2B図2Aにおけるa-a'断面を含むXZ断面の一例を示す図である。
図3A】半導体基板10の深さ方向における濃度分布を示す。
図3B】半導体装置100の製造方法のフローチャートの一例である。
図4A】ライフタイム制御領域の深さと漏れ電流密度との関係を示す。
図4B】ライフタイム制御領域の深さと漏れ電流密度との関係を示す。
図5A】ライフタイム制御領域の深さと漏れ電流との関係を示す。
図5B】ライフタイム制御領域の深さと漏れ電流との関係を示す。
図6】ライフタイム制御領域の深さの条件式を説明するための図である。
図7A】パラメータBの算出方法を説明するための図である。
図7B】パラメータBの算出方法を説明するための図である。
図8A】半導体装置100の変形例の上面図である。
図8B図8Aにおけるb-b'断面を含むXZ断面の一例を示す図である。
図9A】半導体装置100の変形例の上面図である。
図9B図9Aにおけるc-c'断面を含むXZ断面の一例を示す図である。
図10図9Aにおけるc-c'断面を含むXZ断面の変形例を示す図である。
図11】マスク210を用いたヘリウムイオンの注入工程の一例を示す。
図12A】順方向電圧VFの第2ライフタイム制御領域152の深さ依存性を示す。
図12B】ターンオン損失Eonの第2ライフタイム制御領域152の深さ依存性を示す。
図12C】逆回復時のスイッチング損失Errの第2ライフタイム制御領域152の深さ依存性を示す。
図13A】ターンオフ損失Eoffの第1ライフタイム制御領域151の深さ依存性を示す。
図13B】コレクタ-エミッタ間飽和電圧Vce(sat)の第1ライフタイム制御領域151の深さ依存性を示す。
図14】半導体装置100の特性のトレードオフ関係の改善例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、以下の実施形態は特許請求の範囲にかかる発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0041】
本明細書においては半導体基板の深さ方向と平行な方向における一方の側を「上」、他方の側を「下」と称する。基板、層またはその他の部材の2つの主面のうち、一方の面を上面、他方の面を下面と称する。「上」、「下」の方向は、重力方向または半導体装置の実装時における方向に限定されない。
【0042】
本明細書では、X軸、Y軸およびZ軸の直交座標軸を用いて技術的事項を説明する場合がある。直交座標軸は、構成要素の相対位置を特定するに過ぎず、特定の方向を限定するものではない。例えば、Z軸は地面に対する高さ方向を限定して示すものではない。なお、+Z軸方向と-Z軸方向とは互いに逆向きの方向である。正負を記載せず、Z軸方向と記載した場合、+Z軸および-Z軸に平行な方向を意味する。
【0043】
本明細書では、半導体基板の上面および下面に平行な直交軸をX軸およびY軸とする。また、半導体基板の上面および下面と垂直な軸をZ軸とする。本明細書では、Z軸の方向を深さ方向と称する場合がある。また、本明細書では、X軸およびY軸を含めて、半導体基板の上面および下面に平行な方向を、水平方向と称する場合がある。
【0044】
本明細書において「同一」または「等しい」のように称した場合、製造ばらつき等に起因する誤差を有する場合も含んでよい。当該誤差は、例えば10%以内である。
【0045】
本明細書においては、不純物がドーピングされたドーピング領域の導電型をP型またはN型として説明している。本明細書においては、不純物とは、特にN型のドナーまたはP型のアクセプタのいずれかを意味する場合があり、ドーパントと記載する場合がある。本明細書においては、ドーピングとは、半導体基板にドナーまたはアクセプタを導入し、N型の導電型を示す半導体またはP型の導電型を示す半導体とすることを意味する。
【0046】
本明細書においては、ドーピング濃度とは、熱平衡状態におけるドナーの濃度またはアクセプタの濃度を意味する。本明細書においては、ネット・ドーピング濃度とは、ドナー濃度を正イオンの濃度とし、アクセプタ濃度を負イオンの濃度として、電荷の極性を含めて足し合わせた正味の濃度を意味する。一例として、ドナー濃度をN、アクセプタ濃度をNとすると、任意の位置における正味のネット・ドーピング濃度はN-Nとなる。本明細書では、ネット・ドーピング濃度を単にドーピング濃度と記載する場合がある。
【0047】
ドナーは、半導体に電子を供給する機能を有している。アクセプタは、半導体から電子を受け取る機能を有している。ドナーおよびアクセプタは、不純物自体には限定されない。例えば、半導体中に存在する空孔(V)、酸素(O)および水素(H)が結合したVOH欠陥、格子間シリコン(Si-i)と水素が結合したSi-i-H欠陥、格子間炭素(Ci)と格子間酸素(Oi)および水素が結合したCiOi-H欠陥は、電子を供給するドナーとして機能する。本明細書では、これらの欠陥を水素ドナーと称する場合がある。
【0048】
本明細書においてP+型またはN+型と記載した場合、P型またはN型よりもドーピング濃度が高いことを意味し、P-型またはN-型と記載した場合、P型またはN型よりもドーピング濃度が低いことを意味する。また、本明細書においてP++型またはN++型と記載した場合には、P+型またはN+型よりもドーピング濃度が高いことを意味する。
【0049】
本明細書において化学濃度とは、電気的な活性化の状態によらずに測定される不純物の原子密度を指す。化学濃度は、例えば二次イオン質量分析法(SIMS)により計測できる。上述したネット・ドーピング濃度は、電圧-容量測定法(CV法)により測定できる。また、拡がり抵抗測定法(SR法)により計測されるキャリア濃度を、ネット・ドーピング濃度としてよい。キャリアとは、電子または正孔の電荷キャリアを意味する。CV法またはSR法により計測されるキャリア濃度は、熱平衡状態における値としてよい。また、N型の領域においては、ドナー濃度がアクセプタ濃度よりも十分大きいので、当該領域におけるキャリア濃度を、ドナー濃度としてもよい。同様に、P型の領域においては、当該領域におけるキャリア濃度を、アクセプタ濃度としてもよい。本明細書では、N型領域のドーピング濃度をドナー濃度と称する場合があり、P型領域のドーピング濃度をアクセプタ濃度と称する場合がある。
【0050】
また、ドナー、アクセプタまたはネット・ドーピングの濃度分布がピークを有する場合、当該ピーク値を当該領域におけるドナー、アクセプタまたはネット・ドーピングの濃度としてよい。ドナー、アクセプタまたはネット・ドーピングの濃度がほぼ均一な場合等においては、当該領域におけるドナー、アクセプタまたはネット・ドーピングの濃度の平均値をドナー、アクセプタまたはネット・ドーピングの濃度としてよい。
【0051】
SR法により計測されるキャリア濃度が、ドナーまたはアクセプタの濃度より低くてもよい。拡がり抵抗を測定する際に電流が流れる範囲において、半導体基板のキャリア移動度が結晶状態の値よりも低い場合がある。キャリア移動度の低下は、格子欠陥等による結晶構造の乱れ(ディスオーダー)により、キャリアが散乱されることで生じる。キャリア濃度が低下する理由は、下記の通りである。SR法では、拡がり抵抗を測定し、拡がり抵抗の測定値からキャリア濃度を換算する。このとき、キャリアの移動度は結晶状態の移動度が用いられる。一方、格子欠陥が導入されている位置では、キャリア移動度は低下しているにもかかわらず、結晶状態のキャリア移動度によりキャリア濃度が算出される。そのため、実際のキャリア濃度、すなわちドナーまたはアクセプタの濃度よりも低い値となる。
【0052】
CV法またはSR法により計測されるキャリア濃度から算出したドナーまたはアクセプタの濃度は、ドナーまたはアクセプタを示す元素の化学濃度よりも低くてよい。一例として、シリコンの半導体においてドナーとなるリンまたはヒ素のドナー濃度、あるいはアクセプタとなるボロン(ホウ素)のアクセプタ濃度は、これらの化学濃度の99%程度である。一方、シリコンの半導体においてドナーとなる水素のドナー濃度は、水素の化学濃度の0.1%から10%程度である。本明細書では、SI単位系を採用する。本明細書において、距離や長さの単位がcm(センチメートル)で表されることがある。この場合、諸計算はm(メートル)に換算して計算してよい。10のべき乗の数値表示について、例えば1E+16の表示は、1×1016を示し、1E-16の表示は、1×10-16を示す。
【0053】
図1は、半導体装置100の上面図の一例を示す。図1においては、各部材を半導体基板10の上面に投影した位置を示している。図1においては、半導体装置100の一部の部材だけを示しており、一部の部材は省略している。半導体装置100は、トランジスタ部70およびダイオード部80を備える半導体チップである。
【0054】
トランジスタ部70は、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)等のトランジスタを含む。ダイオード部80は、還流ダイオード(FWD:Free Wheel Diode)等のダイオードを含む。本例の半導体装置100は、トランジスタ部70およびダイオード部80を同一のチップに有する逆導通IGBT(RC-IGBT:Reverse Conducting IGBT)である。
【0055】
半導体基板10は、半導体材料で形成された基板である。半導体基板10は、シリコン基板であってよく、炭化シリコン基板であってよく、ダイヤモンド基板であってよく、窒化ガリウム等の窒化物半導体基板であってよく、酸化ガリウム等の無機化合物半導体基板であってよく、有機化合物半導体基板であってもよい。本例の半導体基板10は、シリコン基板である。半導体基板10は、半導体のインゴットから切り出したウエハであってよく、ウエハを個片化したチップであってもよい。半導体のインゴットは、チョクラルスキー法(CZ法)、磁場印加型チョクラルスキー法(MCZ法)、フロートゾーン法(FZ法)のいずれかで製造されよい。
【0056】
半導体基板10は、上面視において端辺102を有する。本明細書で単に上面視と称した場合、半導体基板10の上面側から見ることを意味している。本例の半導体基板10は、上面視において互いに向かい合う2組の端辺102を有する。図1においては、X軸およびY軸は、いずれかの端辺102と平行である。またZ軸は、半導体基板10の上面と垂直である。半導体基板10は、活性部160およびエッジ終端構造部170を有する。
【0057】
活性部160は、半導体装置100の動作時に半導体基板10の上面と下面との間で、深さ方向に主電流が流れる領域である。活性部160の上方には、エミッタ電極が設けられているが図1では省略している。
【0058】
活性部160には、IGBT等のトランジスタ素子を含むトランジスタ部70と、還流ダイオード(FWD)等のダイオード素子を含むダイオード部80の少なくとも一方が設けられている。図1の例では、トランジスタ部70およびダイオード部80は、半導体基板10の上面における所定の配列方向(本例ではX軸方向)に沿って、交互に配置されている。
【0059】
図1においては、トランジスタ部70が配置される領域には記号「I」を付し、ダイオード部80が配置される領域には記号「F」を付している。本明細書では、上面視において配列方向と垂直な方向を延伸方向(図1ではY軸方向)と称する場合がある。トランジスタ部70およびダイオード部80は、それぞれ延伸方向に長手を有してよい。つまり、トランジスタ部70のY軸方向における長さは、X軸方向における幅よりも大きい。同様に、ダイオード部80のY軸方向における長さは、X軸方向における幅よりも大きい。トランジスタ部70およびダイオード部80の延伸方向と、後述する各トレンチ部の長手方向とは同一であってよい。
【0060】
ダイオード部80は、半導体基板10の下面と接する領域に、N+型のカソード領域を有する。本明細書では、カソード領域が設けられた領域を、ダイオード部80と称する。つまりダイオード部80は、上面視においてカソード領域と重なる領域である。半導体基板10の下面においてカソード領域以外の領域には、P+型のコレクタ領域が設けられてよい。
【0061】
トランジスタ部70は、半導体基板10の下面と接する領域に、P+型のコレクタ領域を有する。また、トランジスタ部70は、半導体基板10の上面側に、N型のエミッタ領域、P型のベース領域、ゲート導電部およびゲート絶縁膜を有するゲート構造が周期的に配置されている。
【0062】
半導体装置100は、半導体基板10の上方に1つ以上のパッドを有してよい。本例の半導体装置100は、ゲートパッド112を有している。半導体装置100は、アノードパッド、カソードパッドおよび電流検出パッド等のパッドを有してもよい。各パッドは、端辺102の近傍に配置されている。端辺102の近傍とは、上面視における端辺102と、エミッタ電極との間の領域を指す。半導体装置100の実装時において、各パッドは、ワイヤ等の配線を介して外部の回路に接続されてよい。
【0063】
ゲートパッド112には、ゲート電位が印加される。ゲートパッド112は、活性部160のゲートトレンチ部の導電部に電気的に接続される。半導体装置100は、ゲートパッド112とゲートトレンチ部とを接続するゲート配線130を備える。
【0064】
ゲート配線130は、トランジスタ部70のゲート導電部と電気的に接続され、トランジスタ部70にゲート電圧を印加する。ゲート配線130は、上面視で、活性部160の外周を囲うように設けられる。ゲート配線130は、エッジ終端構造部170に設けられるゲートパッド112と電気的に接続される。
【0065】
また、半導体装置100は、ポリシリコン等で形成されたPN接合ダイオードである不図示の温度センス部や、活性部160に設けられたトランジスタ部の動作を模擬する不図示の電流検出部を備えてもよい。
【0066】
本例の半導体装置100は、上面視において、活性部160と端辺102との間に、エッジ終端構造部170を備える。本例のエッジ終端構造部170は、ゲート配線130と端辺102との間に配置されている。エッジ終端構造部170は、半導体基板10の上面側の電界集中を緩和する。エッジ終端構造部170は、活性部160を囲んで環状に設けられたガードリング、フィールドプレートおよびリサーフのうちの少なくとも一つを備えていてよい。
【0067】
図2Aは、図1における領域Aの拡大図である。領域Aは、トランジスタ部70、ダイオード部80およびゲート配線130を含む領域である。本例のゲート配線130は、ゲート金属層50およびゲートランナー部51を含む。
【0068】
半導体基板10のおもて面において、トランジスタ部70およびダイオード部80の間には、境界領域90が設けられる。半導体基板10のおもて面21とは、半導体基板10において対向する2つの主面の一方を指す。おもて面21については後述する。
【0069】
本例の半導体装置100は、半導体基板10のおもて面21側の内部に形成されたゲートトレンチ部40、ダミートレンチ部30、ウェル領域17、エミッタ領域12、ベース領域14およびコンタクト領域15を備える。また、本例の半導体装置100は、半導体基板10のおもて面21の上方に設けられたエミッタ電極52およびゲート金属層50を備える。エミッタ電極52およびゲート金属層50は互いに分離して設けられる。
【0070】
エミッタ電極52およびゲート金属層50と、半導体基板10のおもて面21との間には層間絶縁膜が形成されるが、図2Aでは層間絶縁膜を省略している。本例の層間絶縁膜には、コンタクトホール54、コンタクトホール55およびコンタクトホール56が、当該層間絶縁膜を貫通して形成される。
【0071】
エミッタ電極52は、層間絶縁膜に開口されたコンタクトホール54を通って、半導体基板10のおもて面21におけるエミッタ領域12、コンタクト領域15およびベース領域14と電気的に接続する。また、エミッタ電極52は、コンタクトホール56を通って、ダミートレンチ部30内のダミー導電部と接続される。エミッタ電極52とダミー導電部との間には、不純物がドープされたポリシリコン等の、導電性を有する材料で形成された接続部25が設けられてよい。
【0072】
ゲート金属層50は、コンタクトホール55を通って、ゲートランナー部51と接触する。ゲートランナー部51は、不純物がドープされたポリシリコン等の半導体で形成される。ゲートランナー部51は、半導体基板10のおもて面において、ゲートトレンチ部40内のゲート導電部と接続される。
【0073】
エミッタ電極52およびゲート金属層50は、金属を含む材料で形成される。エミッタ電極52の少なくとも一部の領域は、アルミニウム(Al)等の金属、または、アルミニウム‐シリコン合金(AlSi)、アルミニウム‐シリコン‐銅合金(AlSiCu)等の金属合金で形成されてよい。ゲート金属層50の少なくとも一部の領域は、アルミニウム(Al)等の金属、または、アルミニウム‐シリコン合金(AlSi)、アルミニウム‐シリコン‐銅合金(AlSiCu)等の金属合金で形成されてよい。エミッタ電極52およびゲート金属層50は、アルミニウム等で形成された領域の下層にチタンやチタン化合物等で形成されたバリアメタルを有してよい。各電極は、さらにコンタクトホール内において、バリアメタルとアルミニウム等に接するようにタングステン等を埋め込んで形成されたプラグを有してもよい。
【0074】
ウェル領域17は、ゲート金属層50およびゲートランナー部51と重なって設けられている。ウェル領域17は、ゲート金属層50およびゲートランナー部51と重ならない範囲にも、所定の幅で延伸して設けられている。本例のウェル領域17は、コンタクトホール54のY軸方向の端から、ゲート金属層50側に離れて設けられている。ウェル領域17は、ベース領域14よりもドーピング濃度の高い第2導電型の領域である。本例のベース領域14はP-型であり、ウェル領域17はP+型である。
【0075】
トランジスタ部70およびダイオード部80のそれぞれは、半導体基板10のおもて面21において、配列方向に複数配列されたトレンチ部を有する。本例のトランジスタ部70には、配列方向に沿って1以上のゲートトレンチ部40と、1以上のダミートレンチ部30とが交互に設けられている。本例のダイオード部80には、複数のダミートレンチ部30が、配列方向に沿って設けられている。本例のダイオード部80には、ゲートトレンチ部40が設けられていない。
【0076】
トランジスタ部70には、1つ以上のゲートトレンチ部40が、各トレンチの配列方向に沿って所定の間隔で配列される。ゲートトレンチ部40の内部のゲート導電部は、ゲート金属層50と電気的に接続され、ゲート電位が印加される。トランジスタ部70には、1つ以上のダミートレンチ部30が配列方向に沿って所定の間隔で配列されてよい。ダミートレンチ部30の内部のダミー導電部には、ゲート電位とは異なる電位が印加される。本例のダミー導電部は、エミッタ電極52と電気的に接続され、エミッタ電位が印加される。
【0077】
トランジスタ部70においては、配列方向に沿って1つ以上のゲートトレンチ部40と、1つ以上のダミートレンチ部30とが交互に形成されてよい。また、ダミートレンチ部30は、ダイオード部80および境界領域90において配列方向に沿って所定の間隔で配列される。なお、トランジスタ部70は、ダミートレンチ部30が設けられず、ゲートトレンチ部40のみで構成されてもよい。
【0078】
本例のゲートトレンチ部40は、配列方向と垂直な延伸方向に沿って延伸する2つの延伸部分41(延伸方向に沿って直線状であるトレンチの部分)と、2つの延伸部分41を接続する接続部分43を有してよい。図2Aにおける延伸方向はY軸方向である。
【0079】
接続部分43の少なくとも一部は、上面視において曲線状に設けられることが好ましい。2つの延伸部分41のY軸方向における端部同士を接続部分43が接続することで、延伸部分41の端部における電界集中を緩和できる。
【0080】
トランジスタ部70において、ダミートレンチ部30はゲートトレンチ部40のそれぞれの延伸部分41の間に設けられる。それぞれの延伸部分41の間には、1本のダミートレンチ部30が設けられてよく、複数本のダミートレンチ部30が設けられていてもよい。ダミートレンチ部30は、延伸方向に延伸する直線形状を有してよく、ゲートトレンチ部40と同様に、延伸部分31と接続部分33とを有していてもよい。半導体装置100は、接続部分33を有さない直線形状のダミートレンチ部30と、接続部分33を有するダミートレンチ部30の両方を含んでよい。ゲートトレンチ部40の延伸部分41またはダミートレンチ部30の延伸部分31が、延伸方向に長く延伸する方向を、トレンチ部の長手方向とする。ゲートトレンチ部40またはダミートレンチ部30の長手方向は、延伸方向と一致してよい。本例では、延伸方向および長手方向は、Y軸方向である。ゲートトレンチ部40またはダミートレンチ部30が複数配列された配列方向を、トレンチ部の短手方向とする。短手方向は配列方向と一致してよい。また短手方向は、長手方向に対して垂直であってよい。本例では、長手方向と短手方向は垂直である。本例では、配列方向および短手方向は、X軸方向である。
【0081】
ゲートトレンチ部40の先端における接続部分43において、ゲートトレンチ部40内のゲート導電部と、ゲートランナー部51とが接続する。ゲートトレンチ部40は、延伸方向(Y軸方向)において、ダミートレンチ部30よりもゲートランナー部51側に突出して設けられてよい。ゲートトレンチ部40の当該突出部分が、ゲートランナー部51と接続する。
【0082】
ウェル領域17の拡散深さは、ゲートトレンチ部40およびダミートレンチ部30の深さよりも深くてよい。ゲートトレンチ部40およびダミートレンチ部30のY軸方向の端部は、上面視においてウェル領域17に設けられる。つまり、各トレンチ部のY軸方向の端部において、各トレンチ部の深さ方向の底部は、ウェル領域17に覆われている。これにより、各トレンチ部の当該底部における電界集中を緩和できる。
【0083】
配列方向において各トレンチ部の間には、メサ部が設けられている。メサ部は、半導体基板10の内部において、トレンチ部に挟まれた領域を指す。一例としてメサ部の上端は半導体基板10の上面である。メサ部の下端の深さ位置は、トレンチ部の下端の深さ位置と同一である。本例のメサ部は、半導体基板10の上面において、トレンチ部に沿って延伸方向(Y軸方向)に延伸して設けられている。
【0084】
境界領域90は、トランジスタ部70において、ダイオード部80に隣接して設けられる。境界領域90は、ダミートレンチ部30を有し、半導体基板10の裏面側にコレクタ領域22が設けられた領域であってよい。境界領域90が有するメサ部のトレンチ配列方向における両端は、ダミートレンチ部30とそれぞれ接してよい。境界領域90のトレンチ部は、全てダミートレンチ部30であってよい。境界領域90は、ゲートトレンチ部40を含んでいてもよい。本例の境界領域90は、半導体基板10のおもて面側のメサ部において、第1導電型のエミッタ領域12が設けられていない。境界領域90は、おもて面21にベース領域14を有してよく、アノード領域19を有してよい。境界領域90は、おもて面21にエミッタ領域12またはコンタクト領域15を有してもよい。本例の境界領域90は、おもて面21にベース領域14、アノード領域19およびコンタクト領域15を有する。なお、図2Aにおいては、半導体基板10の裏面側に設けられたコレクタ領域22およびカソード領域82について、おもて面側に投影した場合の位置を示している。
【0085】
メサ部71は、トランジスタ部70に設けられたメサ部である。メサ部81は、ダイオード部80に設けられたメサ部である。メサ部91およびメサ部92は、境界領域90に設けられたメサ部である。本明細書において単にメサ部と称した場合、メサ部71、メサ部81、メサ部91またはメサ部92のそれぞれを指している。メサ部とは、隣り合う2つのトレンチ部に挟まれた半導体基板10の部分であって、半導体基板10のおもて面21から、各トレンチ部の最も深い底部の深さまでの部分であってよい。各トレンチ部の延伸部分を1つのトレンチ部としてよい。即ち、2つの延伸部分に挟まれる領域をメサ部としてよい。
【0086】
それぞれのメサ部には、ベース領域14またはアノード領域19が設けられる。メサ部において半導体基板10の上面に露出したベース領域14またはアノード領域19のうち、ゲート金属層50に最も近く配置された領域をベース領域14-eまたはアノード領域19-eとする。図2Aにおいては、それぞれのメサ部の延伸方向における一方の端部に配置されたベース領域14-eまたはアノード領域19-eを示しているが、それぞれのメサ部の他方の端部にもベース領域14-eまたはアノード領域19-eが配置されている。それぞれのメサ部には、上面視においてベース領域14-eまたはアノード領域19-eに挟まれた領域に、第1導電型のエミッタ領域12および第2導電型のコンタクト領域15の少なくとも一方が設けられてよい。本例のエミッタ領域12はN+型であり、コンタクト領域15はP+型である。エミッタ領域12およびコンタクト領域15は、深さ方向において、ベース領域14と半導体基板10の上面との間に設けられてよい。
【0087】
トランジスタ部70のメサ部71は、半導体基板10の上面に露出したエミッタ領域12を有する。エミッタ領域12は、ゲートトレンチ部40に接して設けられている。ゲートトレンチ部40に接するメサ部71は、半導体基板10の上面に露出したコンタクト領域15が設けられていてよい。
【0088】
メサ部71におけるコンタクト領域15およびエミッタ領域12のそれぞれは、X軸方向における一方のトレンチ部から、他方のトレンチ部まで設けられる。一例として、メサ部71のコンタクト領域15およびエミッタ領域12は、トレンチ部の延伸方向(Y軸方向)に沿って交互に配置されている。
【0089】
他の例においては、メサ部71のコンタクト領域15およびエミッタ領域12は、トレンチ部の延伸方向(Y軸方向)に沿ってストライプ状に設けられていてもよい。例えばトレンチ部に接する領域にエミッタ領域12が設けられ、エミッタ領域12に挟まれた領域にコンタクト領域15が設けられる。
【0090】
ダイオード部80のメサ部81には、エミッタ領域12が設けられていないが、エミッタ領域12が設けられてもよい。メサ部81の上面には、アノード領域19が設けられている。メサ部81の上面には、コンタクト領域15が設けられてよい。メサ部81の上面においてアノード領域19-eに挟まれた領域には、それぞれのアノード領域19-eに接してコンタクト領域15が設けられてよい。メサ部81の上面においてコンタクト領域15に挟まれた領域には、アノード領域19が設けられてよい。アノード領域19は、トレンチ部の延伸方向において、コンタクト領域15に挟まれた領域全体に配置されてよい。
【0091】
それぞれのメサ部の上方には、コンタクトホール54が設けられている。コンタクトホール54は、トレンチ部延伸方向に沿ってベース領域14-eまたはアノード領域19-eに挟まれた領域に配置されている。本例のコンタクトホール54は、コンタクト領域15、ベース領域14、アノード領域19およびエミッタ領域12の各領域の上方に設けられる。コンタクトホール54は、ベース領域14-e、アノード領域19-eおよびウェル領域17に対応する領域には設けられない。コンタクトホール54は、メサ部71のトレンチ配列方向(X軸方向)における中央に配置されてよい。
【0092】
ダイオード部80において、半導体基板10の下面と隣接する領域には、N+型のカソード領域82が設けられる。カソード領域82のドーピング濃度は、ドリフト領域18のドーピング濃度よりも高い。半導体基板10の下面において、カソード領域82が設けられていない領域には、P+型のコレクタ領域22が設けられてよい。カソード領域82およびコレクタ領域22は、半導体基板10の裏面23と、後述するバッファ領域20との間に設けられている。図2Aにおいては、カソード領域82およびコレクタ領域22の境界78を破線で示している。
【0093】
カソード領域82は、Y軸方向においてウェル領域17から離れて配置されている。これにより、比較的にドーピング濃度が高く、且つ、深い位置まで形成されているP型の領域(ウェル領域17)と、カソード領域82との距離を確保して、耐圧を向上し、ウェル領域17からの正孔の注入を抑制できる。本例のカソード領域82のY軸方向における端部は、コンタクトホール54のY軸方向における端部よりも、ウェル領域17から離れて配置されている。他の例では、カソード領域82のY軸方向における端部は、ウェル領域17とコンタクトホール54との間に配置されていてもよい。
【0094】
境界領域90のメサ部91には、コンタクト領域15が設けられている。境界領域90のメサ部92には、アノード領域19が設けられている。メサ部91は、境界領域90のトランジスタ部70側に設けられてよい。メサ部71に接する境界領域90にはメサ部91が設けられてよい。メサ部92は、境界領域90のダイオード部80側に設けられてよい。ダイオード部80に接する境界領域90にはメサ部92が設けられてよい。
【0095】
図2Bは、図2Aにおけるa-a'断面を含むXZ断面の一例を示す図である。a-a'断面を含むXZ断面は、トランジスタ部70において、エミッタ領域12を通過するXZ面である。本例の半導体装置100は、a-a'断面を含むXZ断面において、半導体基板10、層間絶縁膜38、エミッタ電極52およびコレクタ電極24を有する。エミッタ電極52は、半導体基板10および層間絶縁膜38の上方に形成される。
【0096】
ドリフト領域18は、半導体基板10に設けられた第1導電型の領域である。本例のドリフト領域18は、一例としてN-型である。ドリフト領域18は、半導体基板10において他のドーピング領域が形成されずに残存した領域であってよい。即ち、ドリフト領域18のドーピング濃度は半導体基板10のドーピング濃度であってよい。
【0097】
バッファ領域20は、ドリフト領域18よりも半導体基板10の裏面23側に設けられた第1導電型の領域である。本例のバッファ領域20は、半導体基板10の深さ方向における中心よりも半導体基板10の裏面23に近接して設けられる。本例のバッファ領域20は、一例としてN型である。バッファ領域20のドーピング濃度は、ドリフト領域18のドーピング濃度よりも高い。バッファ領域20は、ベース領域14の下面側から広がる空乏層が、第2導電型のコレクタ領域22および第1導電型のカソード領域82に到達することを防ぐフィールドストップ層として機能してよい。
【0098】
コレクタ領域22およびカソード領域82は、半導体基板10の裏面23に設けられる。コレクタ領域22は、トランジスタ部70において、バッファ領域20の下方に設けられる。カソード領域82は、ダイオード部80において、バッファ領域20の下方に設けられる。コレクタ領域22とカソード領域82との境界78は、トランジスタ部70とダイオード部80との境界であってよい。
【0099】
コレクタ電極24は、半導体基板10の裏面23に形成される。コレクタ電極24は、金属等の導電材料で形成される。コレクタ電極24の少なくとも一部の領域は、例えばアルミニウム(Al)等の金属、または、アルミニウム‐シリコン合金(AlSi)、アルミニウム‐シリコン‐銅合金(AlSiCu)等の金属合金で形成されてよい。
【0100】
ベース領域14は、メサ部71およびメサ部91において、ドリフト領域18の上方に設けられる第2導電型の領域である。ベース領域14は、ゲートトレンチ部40に接して設けられる。ベース領域14は、ダミートレンチ部30に接して設けられてよい。
【0101】
アノード領域19は、メサ部92およびメサ部81において、ドリフト領域18の上方に設けられる第2導電型の領域である。アノード領域19は、ダミートレンチ部30に接して設けられる。アノード領域19は、ゲートトレンチ部40に接して設けられてよい。アノード領域19のドーピング濃度の最大値は、ベース領域14のドーピング濃度の最大値より小さくてよく、等しくてもよい。本例のアノード領域19のドーピング濃度の最大値は、ベース領域14のドーピング濃度の最大値より小さい。半導体基板10の深さ方向において、アノード領域19の深さはベース領域14の深さより浅くてよく、等しくてもよい。本例のアノード領域19の深さは、ベース領域14の深さと実質的に等しい。半導体基板10の深さ方向に沿ってアノード領域19のドーピング濃度を積分した積分値は、ベース領域14のドーピング濃度を積分した積分値より小さくてよく、等しくてもよい。本例のアノード領域19のドーピング濃度の積分値は、ベース領域14のドーピング濃度の積分値より小さい。
【0102】
エミッタ領域12は、ドリフト領域18よりもおもて面21側に設けられ、ドリフト領域18よりもドーピング濃度が高い。本例のエミッタ領域12は、メサ部71において、ベース領域14の上方に設けられる。エミッタ領域12は、ゲートトレンチ部40と接して設けられてよい。エミッタ領域12は、ダミートレンチ部30と接してもよいし、接しなくてもよい。なお、エミッタ領域12は、メサ部91に設けられなくてよい。
【0103】
コンタクト領域15は、メサ部91において、ベース領域14の上方に設けられる。コンタクト領域15は、メサ部91において、ゲートトレンチ部40に接して設けられる。他の断面において、コンタクト領域15は、メサ部71のおもて面21に設けられてよい。
【0104】
蓄積領域16は、ドリフト領域18よりも半導体基板10のおもて面21側に設けられる第1導電型の領域である。本例の蓄積領域16は、一例としてN+型である。蓄積領域16は、メサ部71に設けられる。蓄積領域16は、メサ部81およびメサ部91に設けられてもよい。
【0105】
また、蓄積領域16は、ゲートトレンチ部40に接して設けられる。蓄積領域16は、ダミートレンチ部30に接してもよいし、接しなくてもよい。蓄積領域16のドーピング濃度は、ドリフト領域18のドーピング濃度よりも高い。蓄積領域16を設けることで、キャリア注入促進効果(IE効果)を高めて、トランジスタ部70のオン電圧を低減できる。
【0106】
1つ以上のゲートトレンチ部40および1つ以上のダミートレンチ部30は、おもて面21に設けられる。各トレンチ部は、おもて面21からドリフト領域18まで設けられる。エミッタ領域12、ベース領域14、コンタクト領域15および蓄積領域16の少なくともいずれかが設けられる領域においては、各トレンチ部はこれらの領域も貫通して、ドリフト領域18に到達する。トレンチ部がドーピング領域を貫通するとは、ドーピング領域を形成してからトレンチ部を形成する順序で製造したものに限定されない。トレンチ部を形成した後に、トレンチ部の間にドーピング領域を形成したものも、トレンチ部がドーピング領域を貫通しているものに含まれる。
【0107】
ゲートトレンチ部40は、おもて面21に形成されたゲートトレンチ、ゲート絶縁膜42およびゲート導電部44を有する。ゲート絶縁膜42は、ゲートトレンチの内壁を覆って形成される。ゲート絶縁膜42は、ゲートトレンチの内壁の半導体を酸化または窒化して形成してよい。ゲート導電部44は、ゲートトレンチの内部においてゲート絶縁膜42よりも内側に形成される。ゲート絶縁膜42は、ゲート導電部44と半導体基板10とを絶縁する。ゲート導電部44は、ポリシリコン等の導電材料で形成される。ゲートトレンチ部40は、おもて面21において層間絶縁膜38により覆われる。
【0108】
ゲート導電部44は、半導体基板10の深さ方向において、ゲート絶縁膜42を挟んでメサ部71側で隣接するベース領域14と対向する領域を含む。ゲート導電部44に予め定められた電圧が印加されると、ベース領域14のうちゲートトレンチに接する界面の表層に、電子の反転層によるチャネルが形成される。
【0109】
ダミートレンチ部30は、ゲートトレンチ部40と同一の構造を有してよい。ダミートレンチ部30は、おもて面21側に形成されたダミートレンチ、ダミー絶縁膜32およびダミー導電部34を有する。ダミー絶縁膜32は、ダミートレンチの内壁を覆って形成される。ダミー導電部34は、ダミートレンチの内部に形成され、且つ、ダミー絶縁膜32よりも内側に形成される。ダミー絶縁膜32は、ダミー導電部34と半導体基板10とを絶縁する。ダミートレンチ部30は、おもて面21において層間絶縁膜38により覆われる。
【0110】
層間絶縁膜38は、おもて面21に設けられている。層間絶縁膜38の上方には、エミッタ電極52が設けられている。層間絶縁膜38には、エミッタ電極52と半導体基板10とを電気的に接続するための1又は複数のコンタクトホール54が設けられている。コンタクトホール55およびコンタクトホール56も同様に、層間絶縁膜38を貫通して設けられてよい。
【0111】
裏面側ライフタイム制御部150およびおもて面側ライフタイム制御部155は、半導体基板10に設けられ、ライフタイムキラーを含む。裏面側ライフタイム制御部150およびおもて面側ライフタイム制御部155は、半導体基板10の内部に不純物を注入すること等により意図的にライフタイムキラーが形成された領域であってよい。一例において、裏面側ライフタイム制御部150およびおもて面側ライフタイム制御部155は、半導体基板10にヘリウムを注入することで形成される。裏面側ライフタイム制御部150およびおもて面側ライフタイム制御部155を設けることにより、ターンオフ時間あるいは逆回復時間を低減し、テイル電流を抑制することにより、スイッチング時の損失を低減することができる。
【0112】
ライフタイムキラーは、キャリアの再結合中心である。ライフタイムキラーは、格子欠陥であってよい。例えば、ライフタイムキラーは、空孔、複空孔、これらと半導体基板10を構成する元素との複合欠陥、または転位であってよい。また、ライフタイムキラーは、ヘリウム、ネオンなどの希ガス元素、または、白金などの金属元素などでもよい。ライフタイムキラーは、水素イオンを半導体基板10の注入面に注入した後に、停止した水素よりも注入面側に形成される再結合中心であってもよい。格子欠陥の形成には電子線が用いられてよい。ライフタイム制御部を形成するための不純物のドーズ量は、0.5E10cm-2以上、1.0E13cm-2以下であっても、5.0E10cm-2以上、5.0E11cm-2以下であってもよい。ライフタイム制御部を形成するための加速エネルギーは、100keV以上、100MeV以下であってよい。格子欠陥の形成に電子線が用いられる場合は、電子線の照射量が1kGy以上、5000kGy以下であってもよい。
【0113】
ライフタイムキラー濃度とは、キャリアの再結合中心濃度である。ライフタイムキラー濃度は、格子欠陥の濃度であってよい。例えばライフタイムキラー濃度とは、空孔、複空孔などの空孔濃度であってよく、これらの空孔と半導体基板10を構成する元素との複合欠陥濃度であってよく、または転位濃度であってよい。また、ライフタイムキラー濃度とは、ヘリウム、ネオンなどの希ガス元素の化学濃度としてもよく、または、白金などの金属元素の化学濃度としてもよい。
【0114】
おもて面側ライフタイム制御部155は、半導体基板10の深さ方向における中心よりもおもて面21側に設けられる。おもて面側ライフタイム制御部155は、ダイオード部80に設けられる。おもて面側ライフタイム制御部155は、トレンチ配列方向において、ダイオード部80からトランジスタ部70まで延伸して設けられてよい。本例のおもて面側ライフタイム制御部155は、トレンチ配列方向において、ダイオード部80から境界79まで延伸して設けられる。これにより、トランジスタ部70からのキャリアの注入を抑制して、逆回復損失を低減することができる。なお、境界79とは、境界領域90と、トランジスタ部70における境界領域90以外の領域との境界である。おもて面側ライフタイム制御部155は、形成されなくてもよい。
【0115】
裏面側ライフタイム制御部150は、おもて面側ライフタイム制御部155よりも裏面23側に設けられる。裏面側ライフタイム制御部150は、半導体基板10の深さ方向における中心よりも裏面23側に設けられてよく、おもて面21側に設けられてもよい。本例では、裏面側ライフタイム制御部150は、半導体基板10の深さ方向における中心よりも裏面23側に設けられる。裏面側ライフタイム制御部150は、半導体基板10の深さ方向における中心よりも裏面23に近接して設けられてよい。裏面側ライフタイム制御部150は、バッファ領域20に設けられてもよいし、バッファ領域20の上方に設けられてもよい。裏面側ライフタイム制御部150は、第1ライフタイム制御領域151および第2ライフタイム制御領域152を有する。本例の第1ライフタイム制御領域151および第2ライフタイム制御領域152は、上面視において重複しないが、重複してもよい。
【0116】
第1ライフタイム制御領域151は、トランジスタ部70において、半導体基板10の深さ方向における半導体基板10の中心よりも裏面23側に設けられてよい。本例の第1ライフタイム制御領域151は、半導体基板10の深さ方向における半導体基板10の中心よりも裏面23側に設けられる。本例の第1ライフタイム制御領域151は、バッファ領域20内に設けられるが、バッファ領域20の上方に設けられてもよい。本例の第1ライフタイム制御領域151は、トレンチ配列方向において、トランジスタ部70の内部から境界領域90の端部まで延伸して設けられる。第1ライフタイム制御領域151は、トレンチ配列方向において、トランジスタ部70の内部から境界領域90またはダイオード部80の内部まで延伸して設けられてよい。
【0117】
第2ライフタイム制御領域152は、ダイオード部80において、おもて面側ライフタイム制御部155よりも裏面23側に設けられる。第2ライフタイム制御領域152は、半導体基板10の深さ方向における半導体基板10の中心よりも裏面23側に設けられてよく、おもて面21側に設けられてもよい。本例の第2ライフタイム制御領域152は、半導体基板10の深さ方向における半導体基板10の中心よりも裏面23側に設けられる。第2ライフタイム制御領域152は、第1ライフタイム制御領域151と異なる深さに設けられる。第2ライフタイム制御領域152は、第1ライフタイム制御領域151よりもおもて面21側に設けられてよい。本例の第2ライフタイム制御領域152は、半導体基板10の深さ方向において、第1ライフタイム制御領域151よりもおもて面21側に設けられる。第2ライフタイム制御領域152は、半導体基板10の深さ方向において、第1ライフタイム制御領域151よりも裏面23側に設けられてもよい。第2ライフタイム制御領域152は、バッファ領域20の内部に設けられてよく、バッファ領域20の上方に設けられてもよい。本例の第2ライフタイム制御領域152は、バッファ領域20の内部に設けられる。本例の第2ライフタイム制御領域152は、トレンチ配列方向において、ダイオード部80から境界領域90まで延伸して設けられる。本例の第2ライフタイム制御領域152は、延伸領域153を有する。
【0118】
延伸領域153は、第2ライフタイム制御領域152のうち、トランジスタ部70とダイオード部80との境界78から、トランジスタ部70の内側まで延伸する領域である。本例の延伸領域153は、トレンチ配列方向において、トランジスタ部70とダイオード部80との境界78から、境界領域90の端部の境界79まで延伸して設けられる。延伸領域153の上面視における面積は、上面視における第2ライフタイム制御領域152の面積の30%以下であってよく、20%以下であってよく、10%以下であってよく、5%以下であってよく、3%以下であってよく、1%以下であってよい。延伸領域153のメサ部91の個数は、10個以下であってよく、5個以下であってよく、2個以下であってよく、0個であってもよい。本例でのメサ部91の個数は1個である。メサ部92の個数は、1個以上であってよい。メサ部92の個数は、メサ部91の個数より多くてよく、等しくてもよい。本例のメサ部92の個数は、メサ部91の個数と等しい。境界領域90は、メサ部92のみを有してよい。延伸領域153は、メサ部92のみを有してよい。
【0119】
裏面側ライフタイム制御部150は、ライフタイムキラーを形成するための不純物イオンを、裏面23側から注入することにより形成されてよい。ライフタイムキラーを形成するための不純物イオンを、単に不純物イオンと称する場合がある。不純物イオンは、半導体基板10を構成する材料のイオンであってよく、半導体基板10を構成する材料以外のイオンであってよい。不純物イオンは、半導体基板10を構成する材料よりも質量の小さいイオン(例えば水素イオン、ヘリウムイオン)であってよく、質量の大きいイオンであってもよい。本例の不純物イオンは、ヘリウムイオンである。これにより、半導体装置100のおもて面21側への影響を回避できる。例えば、裏面側ライフタイム制御部150は、裏面23側からヘリウムイオンを注入することにより形成される。ここで、裏面側ライフタイム制御部150がおもて面21側からの注入により形成されているか、裏面23側からの注入により形成されているかは、SIMS法、SR法またはリーク電流の測定によって、おもて面21側の状態を取得することで判断できる。例えばSIMS法により、原子密度が最大値となる深さ位置から、原子密度分布がおもて面21側よりも裏面23側に広がっていれば、不純物イオンは裏面23側から注入されているとしてよい。
【0120】
裏面側ライフタイム制御部150およびおもて面側ライフタイム制御部155の形成方法は、同一であっても異なっていてもよい。裏面側ライフタイム制御部150およびおもて面側ライフタイム制御部155の両方を、裏面23側からの不純物イオンの注入により形成してもよい。おもて面側ライフタイム制御部155をおもて面21側からの不純物イオンの注入により形成し、裏面側ライフタイム制御部150を裏面23側からの不純物イオンの注入により形成してもよい。裏面側ライフタイム制御部150およびおもて面側ライフタイム制御部155を形成するときの不純物イオンのドーズ量は、同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0121】
ここで、コレクタ-エミッタ間遮断電流(あるいはコレクタ-エミッタ間漏れ電流)Icesが増加すると、半導体装置が熱暴走する場合がある。一方、後述する通り、コレクタ-エミッタ間遮断電流Icesと逆回復損失との間にはトレードオフの関係があるので、コレクタ-エミッタ間遮断電流Icesを低減しようとすると、逆回復損失が増大する場合がある。
【0122】
本例の半導体装置100は、トランジスタ部70に形成される第1ライフタイム制御領域151を第2ライフタイム制御領域152よりも浅く形成することにより、裏面側のライフタイムキラーを同一の深さに形成するよりも、漏れ電流を低減しつつ、逆回復損失を低減できるので、漏れ電流と逆回復損失のトレードオフを改善することができる。
【0123】
図3Aは、半導体基板10の深さ方向における濃度分布を示す。縦軸は、ドーピング濃度またはライフタイムキラー濃度を示す。横軸は、半導体基板10の深さ方向の位置を示す。本図は、エミッタ領域12、ベース領域14、蓄積領域16、ドリフト領域18、バッファ領域20およびコレクタ領域22を通過する、図2Bのm-m'断面における濃度分布を示す。
【0124】
m-m'断面は、第1ライフタイム制御領域151をX軸方向に通過するが第2ライフタイム制御領域152を通過しない。本例では、m-m'断面の濃度分布に加えて、第2ライフタイム制御領域152の濃度分布を破線で重ねて図示している。
【0125】
バッファ領域20は、半導体基板10の深さ方向において、ドーピング濃度の1または複数のピークを有する。バッファ領域20は、水素のイオン注入によって形成されて、水素ドナーを含んでよい。バッファ領域20は、リンのイオン注入によって形成されたドーピング濃度のピークを含んでよい。本例のバッファ領域20は、第1ピーク121および副ピーク群126を有する。
【0126】
第1ピーク121および副ピーク群126は、水素のイオン注入によって形成されてよい。本例では、第1ピーク121がリンのイオン注入によって形成され、副ピーク群126が水素のイオン注入によって形成される。
【0127】
副ピーク群126は、第1ピーク121よりも半導体基板10の深さ方向においておもて面21側に設けられる。副ピーク群126は、ドーピング濃度の1または複数のピークを有する。本例の副ピーク群126は、第2ピーク122、第3ピーク123および第4ピーク124の3つのピークを有する。即ち、本例のバッファ領域20は、半導体基板10の深さ方向において、ドーピング濃度の4つのピークを有する。バッファ領域20は、半導体基板10の深さ方向において、裏面23から第1ピーク121、第2ピーク122、第3ピーク123および第4ピーク124の順でピークを有する。副ピーク群126のピーク濃度は、おもて面21側に向かって徐々に減少してよい。第1ピーク121のピーク濃度は、副ピーク群126のいずれのピーク濃度よりも高くてよい。
【0128】
距離X(μm)は、第1ライフタイム制御領域151の裏面23からの深さ方向の距離である。即ち、距離Xは、第1ライフタイム制御領域151の裏面23からの深さ位置Dk1であってよい。第1ライフタイム制御領域151は、半導体基板10の深さ方向において、第1ピーク121よりもおもて面21側に設けられてよい。本例の第1ライフタイム制御領域151は、半導体基板10の深さ方向において、第1ピーク121と第2ピーク122との間に設けられる。
【0129】
距離Xは、コレクタ領域22のドーピング濃度のピークと裏面23との深さ方向の距離よりも大きく、半導体基板10の厚みDsの1/4以下であってよい。距離Xは、0μm以上であってよく、1.0μm以上であってよく、5.0μm以上であってよく、50μm以下であってよく、30μm以下であってよい。距離Xは、第1ピーク121のピーク深さよりも大きくてよい。距離Xは、副ピーク群126の中で最も裏面23側に位置するピーク深さ(本例では第2ピーク122のピーク深さ)よりも小さくてよい。距離Xは、半導体基板10のおもて面21から裏面23までの距離よりも小さくてよい。半導体基板10のおもて面21から裏面23までの距離とは、半導体基板10の厚みDsであってよい。
【0130】
距離Y(μm)は、第2ライフタイム制御領域152の裏面23からの深さ方向の距離である。即ち、距離Yは、第2ライフタイム制御領域152の裏面23からの深さ位置Dk2であってよい。第2ライフタイム制御領域152は、半導体基板10の深さ方向において、バッファ領域20よりもおもて面21側に設けられてよい。距離Yは、半導体基板10のおもて面21から裏面23までの距離よりも小さくてよい。
【0131】
距離Xおよび距離Yは、Y>2Xを満たしてよい。距離Xに対する距離Yの比であるY/Xは、1.5以上であってよく、2以上であってよく、3以上であってよく、5以上であってよく、10以上であってよい。比Y/Xは、100以下であってよく、70以下であってよく、50以下であってよく、30以下であってよく、20以下であってよい。距離Yは、1.5X以上であってよく、半導体基板10の厚みDsの1/2以下であってよい。
【0132】
第1ライフタイム制御領域151は、半導体基板10の深さ方向において、第1ピーク121よりもおもて面21側に設けられてよく、第1ピーク121よりも裏面23側に設けられてもよい。第1ライフタイム制御領域151は、半導体基板10の深さ方向において、第1ピーク121と重ならなくてよい。これにより、格子欠陥による第1ピーク121の形成不全の可能性を低減し、空乏層を確実に止めることができる。第1ライフタイム制御領域151は、バッファ領域20が水素ピークのみで構成される場合、バッファ領域20のいずれの位置に設けられてもよい。
【0133】
第1ライフタイム制御領域151は、第1ピーク121または副ピーク群126の各ピークのうち、半導体基板10の深さ方向において隣り合うピーク間に設けられてよい。これにより、第1ライフタイム制御領域151は、電界強度の深さ方向の成分が比較的に小さい領域に位置するため、第1ライフタイム制御領域151の導入による漏れ電流の増加を抑制することができる。
【0134】
幅W1(μm)は、第1ライフタイム制御領域151のライフタイムキラー濃度のピークの半値全幅(FWHM)である。本例の幅W1は、半導体基板10の深さ方向における第1ライフタイム制御領域151のライフタイムキラー濃度の分布の半値全幅である。距離Xおよび距離Yは、Y>X+W1を満たしてよい。即ち、第1ライフタイム制御領域151と第2ライフタイム制御領域152との深さ方向における距離の差は、W1よりも大きくてよい。
【0135】
幅Wh(μm)は、バッファ領域20を形成するための水素ピークの水素濃度の半値全幅である。本例の幅Whは、半導体基板10の深さ方向における水素ピークの水素濃度分布の半値全幅である。本例の幅Whは、最も深い第4ピーク124の半値全幅であるが、他の水素ピークの半値全幅であってもよい。距離Xおよび距離Yは、Y>X+Whを満たしてよい。即ち、第1ライフタイム制御領域151と第2ライフタイム制御領域152との深さ方向における距離の差は、Whよりも大きくてよい。
【0136】
図3Bは、半導体装置100の製造方法のフローチャートの一例である。本例では、半導体装置100の電気的特性に基づいて距離Xおよび距離Yを決定して半導体装置100を製造する方法の一例を示す。半導体装置100の製造方法は、これに限定されない。
【0137】
ステップS100において、半導体装置100の電気的特性の限界値を定める。電気的特性の限界値とは、半導体装置100のコレクタ-エミッタ間遮断電流Icesの電流密度(nA/mm)の限界値であってよい。電気的特性は、コレクタ-エミッタ間遮断電流Icesの電流密度以外の特性であってよい。
【0138】
ステップS102において、ライフタイム制御領域を形成する形成条件を一以上定める。例えば、第1ライフタイム制御領域151または第2ライフタイム制御領域152を形成する形成条件を一以上定める。第1ライフタイム制御領域151または第2ライフタイム制御領域152を形成する形成条件とは、第1ライフタイム制御領域151または第2ライフタイム制御領域152の半導体基板10の深さ方向における位置の範囲に関する条件であってよい。
【0139】
ステップS104において、半導体装置100の電気的特性がステップS100で定めた限界値以下となるように、ステップS102で定めた形成条件に対して、距離Xと、距離Yとを結ぶ関係式を一以上定めることにより、距離Xおよび距離Yのそれぞれの上限値および下限値の範囲を定める。
【0140】
ステップS106において、距離Xおよび距離Yを決定する。距離Xおよび距離Yは、ステップS104で設定された距離Xおよび距離Yのそれぞれの上限値および下限値の範囲から任意に決定してよい。
【0141】
ステップS108において、ステップS106で決定した距離Xの深さに第1ライフタイム制御領域151を形成する。ステップS110において、ステップS106で決定した距離Yの深さに前記第2ライフタイム制御領域152を形成する。これにより、ライフタイム制御領域を備える半導体装置100を製造してよい。
【0142】
ステップS106とステップS108の間には、半導体装置100を製造する周知のステップがあってよい。一例として、おもて面21にウェル領域17、ベース領域14、エミッタ領域12、ゲートトレンチ部40、エミッタ電極52等を形成するステップがあってよく、半導体基板10の深さ方向の厚さを減厚するステップがあってよく、半導体基板10の裏面23にコレクタ領域22等を形成するステップがあってよく、バッファ領域20を形成するステップがあってよい。ステップS110の後に、半導体装置100を製造する周知のステップがあってよい。一例として、半導体基板10の裏面23にコレクタ電極24を形成するステップがあってよい。
【0143】
図4Aは、ライフタイム制御領域の深さと漏れ電流密度との関係を示す。縦軸は、室温におけるコレクタ-エミッタ間遮断電流Icesの電流密度(nA/mm)を示す。室温とは、300K(26.9℃)であってよく、20℃から30℃の間の温度であってよい。コレクタ-エミッタ間遮断電流Icesの電流密度を取得する温度は室温に限らず、400K(126.9℃)であってよく―30℃であってもよい。コレクタ-エミッタ間遮断電流Icesの電流密度を取得する温度は、-30℃以上であってよく、-10℃以上であってよく、0℃以上であってよく、20℃以上であってよい。コレクタ-エミッタ間遮断電流Icesの電流密度を取得する温度は、200℃以下であってよく、150℃以下であってよく、125℃以下であってよく、100℃以下であってよく、75℃以下であってよく、50℃以下であってよく、30℃以下であってよい。コレクタ-エミッタ間遮断電流Icesとは、ゲート-エミッタ間を短絡した状態で、コレクタ-エミッタ間に予め定められた電圧を印加したときのコレクタ-エミッタ間の漏れ電流である。横軸は、トランジスタ部の裏面からのキラー深さを示す。本例のライフタイム制御領域はヘリウムの照射によって形成しており、照射量を5E11cm-2としている。本図が示すように、トランジスタ部においてライフタイムキラーの位置を裏面から深く形成するにつれて、ライフタイムキラーを形成するためのイオンの通過領域が広範囲となり、且つ、より深いエネルギーで照射するので、コレクタ-エミッタ間遮断電流Icesの電流密度が増加する傾向にある。
【0144】
図4Bは、ライフタイム制御領域の深さと漏れ電流密度との関係を示す。縦軸は、室温におけるコレクタ-エミッタ間遮断電流Icesの電流密度(nA/mm)を示す。横軸は、ダイオード部の裏面からのキラー深さを示す。本例のライフタイム制御領域はヘリウムの照射によって形成しており、照射量を5E11cm-2としている。本図が示すように、ダイオード部においてライフタイムキラーの位置を裏面から深く形成するにつれて、コレクタ-エミッタ間遮断電流Icesの電流密度が増加する傾向にある。
【0145】
図4Aおよび図4Bより、トランジスタ部とダイオード部のいずれにおいても、ライフタイムキラーの位置を裏面から深く形成することで漏れ電流が増加していることが分かる。また、トランジスタ部およびダイオード部のいずれにおいても、ライフタイム制御領域の深さに対して、漏れ電流密度が同程度増加していることが分かる。
【0146】
図5Aは、ライフタイム制御領域の深さと漏れ電流との関係を示す。縦軸は、室温におけるコレクタ-エミッタ間遮断電流Ices(μA)を示す。横軸は、トランジスタ部の裏面からのキラー深さを示す。本例のトランジスタ部の面積は110mmである。本例のライフタイム制御領域はヘリウムの照射によって形成しており、照射量を5E11cm-2としている。図4Aと同様に、トランジスタ部においてライフタイムキラーの位置を裏面から深く形成するにつれて、コレクタ-エミッタ間遮断電流Icesが増加する傾向にある。
【0147】
図5Bは、ライフタイム制御領域の深さと漏れ電流との関係を示す。縦軸は、室温におけるコレクタ-エミッタ間遮断電流Ices(μA)を示す。横軸は、ダイオード部の裏面からのキラー深さを示す。本例のダイオード部の面積は30mmである。本例のライフタイム制御領域はヘリウムの照射によって形成しており、照射量を5E11cm-2としている。図4Bと同様に、ダイオード部においてライフタイムキラーの位置を裏面から深く形成するにつれて、コレクタ-エミッタ間遮断電流Icesが増加する傾向にある。
【0148】
ここで、図5Aのトランジスタ部のコレクタ-エミッタ間遮断電流Icesと、図5Bのダイオード部のコレクタ-エミッタ間遮断電流Icesを合算することで、半導体装置全体のコレクタ-エミッタ間遮断電流Icesを算出することができる。図5Aおよび図5Bを参照すると、トランジスタ部の面積の方がダイオード部の面積よりも大きいことから、トランジスタ部のコレクタ-エミッタ間遮断電流Icesの方がダイオード部のコレクタ-エミッタ間遮断電流Icesよりも大きいことが分かる。
【0149】
図6は、ライフタイム制御領域の深さの条件式を説明するための図である。縦軸はダイオード部80における裏面23からのキラー深さを示し、横軸はトランジスタ部70における裏面23からのキラー深さを示す。半導体装置100においては、トランジスタ部70における裏面23からのキラー深さが距離Xに対応し、ダイオード部80における裏面23からのキラー深さが距離Yに対応する。
【0150】
領域Rは、距離X(μm)および距離Y(μm)が満たすべき範囲を示している。距離X(μm)は、0μmより大きくてよく、0.1μm以上であってよく、1μm以上であってよい。距離X(μm)は、半導体基板10のおもて面21から裏面23までの距離よりも小さくてよく、トレンチ部の底部から裏面23までの距離よりも小さくてよい。距離Y(μm)は、0より大きくてよく、0.1μm以上であってよく、1μm以上であってよい。距離Y(μm)は、半導体基板10のおもて面21から裏面23までの距離よりも小さくてよく、トレンチ部の底部から裏面23までの距離よりも小さくてよい。領域Rの範囲は、距離Xおよび距離Yに加えて、ライフタイム制御領域のライフタイムキラー濃度にも異存する。一例として、ライフタイムキラー濃度が5×1011atoms/cm、活性部160の面積Sに対するトランジスタ部70の活性面積の比率Iを0.77としたとき、領域Rは、数式Y=Xと、数式Y=-2.803X+100.4と、X=0とで囲まれる領域に相当する。ここでXおよびYの値の単位は、いずれも(μm)である。領域Rの範囲内において、半導体装置100が予め定められた特性を満たすように距離Xおよび距離Yを決定してよい。ここでは、コレクタ-エミッタ間遮断電流Icesの電流密度(nA/mm)の最大値が室温で4.14nA/mmとなるように領域Rを決定しているが、これに限らない。予め定められた特性として、コレクタ-エミッタ間遮断電流Icesの電流密度(nA/mm)の最大値は室温で、0.3nA/mm以上であってよく、1.0nA/mm以上であってよく、3.0nA/mm以上であってよい。予め定められた特性として、コレクタ-エミッタ間遮断電流Icesの電流密度(nA/mm)の最大値は室温で、15.0nA/mm以下であってよく、10.0nA/mm以下であってよく、5.0nA/mm以下であってよい。
【0151】
記号D(atoms/cm)は、第2ライフタイム制御領域152を形成するためのドーズ量である。ドーズ量Dは、ライフタイムキラー濃度を積分することにより算出できるので、半導体基板10に形成された第2ライフタイム制御領域152のライフタイムキラー濃度を分析することで算出できる。領域Rの範囲を決める上で、ドーズ量Dは、一例としてヘリウムイオンのドーズ量であるが、これに限らない。ドーズ量Dは、水素イオンであってよく、電子線であってよい。領域Rの範囲を決める上で、ドーズ量Dは、一例として1×1011atoms/cmであるが、これに限らない。ドーズ量Dは、1×1010atoms/cm以上であってよく、3×1010atoms/cm以上であってよく、5×1010atoms/cm以上であってよく、1×1011atoms/cm以上であってよい。領域Rの範囲を決める上で、ドーズ量Dは、3×1012atoms/cm以下であってよく、1×1012atoms/cm以下であってよく、5×1011atoms/cm以下であってよく、3×1011atoms/cm以下であってよい。ドーズ量Dを大きくするに従い、距離Xおよび距離Yが満たすべき範囲が狭くなる。即ち、ドーズ量Dを変化させることにより、Y=-2.803X+100.4の傾きを一定として、直線が上下に移動するように切片が変化する。この直線よりも下側の領域Rにおいて距離Xおよび距離Yを決定することにより、予め定められた特性を満たす半導体装置100を提供することができる。
【0152】
ここで、距離X(μm)および距離Y(μm)は、半導体装置100の構造に応じて決定されるパラメータBを導入して、(数1)式および(数2)式を満たしてよい。(数1)式は、第1ライフタイム制御領域151よりも第2ライフタイム制御領域152を裏面23から深く形成するための条件式である。(数2)式は、コレクタ-エミッタ間遮断電流Icesによる発熱で半導体装置100が熱暴走しないための、ドーズ量Dを用いた条件式である。
[数1]
Y>X
[数2]
Y≦BX-27B+1.18×10-23-7.02×10-11D+56.89
【0153】
パラメータBは、活性部160の面積Sに対するトランジスタ部70の活性面積の比率Iを用いた(数3)式を満たす。パラメータBは無次元数である。パラメータBを用いることで、活性部160の面積Sに対するトランジスタ部70の活性面積の比率Iが与える影響を反映させることができる。
[数3]
B=-0.139e3.90I
【0154】
このように、(数2)式を用いることで、ドーズ量Dの影響を考慮した距離Xおよび距離Yの条件式に、活性部160の面積Sの影響と、トランジスタ部70およびダイオード部80の活性面積の比率Iが与える影響とを反映させることができる。パラメータBの算出方法については後述する。
【0155】
なお、活性部160は、上面視で、ウェル領域17で囲まれるとともに、半導体装置100の動作時に半導体基板10のおもて面21と裏面23との間で、深さ方向に主電流が流れる領域であってよい。活性部160の面積Sは、一以上のトランジスタ部70の面積の合計値と、一以上のダイオード部80の面積の合計値との和であってよい。活性部160の面積Sは、3mm以上であってよく、10mm以上であってよく、30mm以上であってよく、100mm以上であってよい。活性部160の面積Sは3000mm以下であってよく、1000mm以下であってよく、500mm以下であってよく、300mm以下であってよい。
【0156】
図7Aは、パラメータBの算出方法を説明するための図である。縦軸はダイオード部のキラー深さを示し、横軸はトランジスタ部のキラー深さを示す。本例では、半導体装置の活性部の面積を固定している。この場合、活性部の面積に対するトランジスタ部の活性面積の比率Iの変化に応じて、コレクタ-エミッタ間遮断電流Icesの割合が変化するので、活性部の面積に対するトランジスタ部の活性面積の比率Iに応じてキラー深さの関係式が変化する。本例では、一例として、トランジスタ部とダイオード部との活性面積の比率Iを0.2、0.35、0.55、0.7および0.77にそれぞれ変化させた場合のXYの関係式を示している。活性部の面積に対するトランジスタ部の活性面積の比率Iを変化させることにより、トランジスタ部のキラー深さと、ダイオード部のキラー深さが同一となる点を中心に傾きが変化するようにグラフが変化している。パラメータBの算出における活性部の面積に対するトランジスタ部の活性面積の比率Iは、0.1以上であってよく、0.2以上であってよく、0.35以上であってよく、0.5以上であってよく、0.55以上であってよい。パラメータBの算出における活性部の面積に対するトランジスタ部の活性面積の比率Iは、0.9以下であってよく、0.8以下であってよく、0.77以下であってよく、0.7以下であってよい。
【0157】
図7Bは、パラメータBの算出方法を説明するための図である。本図は、図7Aの活性部の面積に対するトランジスタ部の活性面積の比率Iに応じた傾きの変化を、活性部の面積に対するトランジスタ部の活性面積の比率I毎にプロットした図である。縦軸は図7Aの直線の傾きの絶対値を示し、横軸は活性部の面積に対するトランジスタ部の活性面積の比率Iを示す。本図より、(数4)式を算出することができる。このようにして、活性部の面積に対するトランジスタ部の活性面積の比率Iの影響をキラー深さの限界線に反映することができる。即ち、活性部の面積に対するトランジスタ部の活性面積の比率Iから漏れ電流限界の傾きを計算することができる。
【0158】
図8Aは、半導体装置100の変形例の上面図である。本例では、図2Aの半導体装置100と相違点する点について特に説明する。
【0159】
本例のエミッタ領域12は、境界領域90にも設けられる。エミッタ領域12およびコンタクト領域15は、メサ部71と同様にメサ部91に設けられてよい。即ち、エミッタ領域12は、メサ部91においても、コンタクト領域15と交互に設けられてよい。エミッタ領域12およびコンタクト領域15の間隔は、メサ部71とメサ部91とで同一であってよい。メサ部91のエミッタ領域12およびコンタクト領域15は、トレンチ部を挟んでメサ部71のエミッタ領域12およびコンタクト領域15と対向するように配置されてよい。
【0160】
図8Bは、図8Aにおけるb-b'断面を含むXZ断面の一例を示す図である。b-b'断面を含むXZ断面は、トランジスタ部70において、エミッタ領域12を通過するXZ面である。本例では、図2Bの半導体装置100と相違点する点について特に説明する。
【0161】
第1ライフタイム制御領域151は、トレンチ配列方向において、メサ部71の下方から境界79まで延伸して設けられる。第1ライフタイム制御領域151は、トレンチ配列方向において、メサ部71の下方から境界79を越えてメサ部91の下方まで延伸して設けられてもよい。本例の第1ライフタイム制御領域151は、バッファ領域20の上方に設けられる。即ち、本例では、第1ライフタイム制御領域151および第2ライフタイム制御領域152の両方がバッファ領域20の上方に設けられる。
【0162】
第2ライフタイム制御領域152は、トレンチ配列方向において、ダイオード部80からトランジスタ部70に延伸して設けられる。本例の第2ライフタイム制御領域152は、トレンチ配列方向において、ダイオード部80から境界領域90に設けられたエミッタ領域12の下方の領域まで延伸して設けられている。本例の第2ライフタイム制御領域152は、トレンチ配列方向において、ダイオード部80から境界79まで延伸して設けられる。第2ライフタイム制御領域152は、トレンチ配列方向において、ダイオード部80から境界領域90の内側まで延伸して、境界79に到達せずに終端してもよい。
【0163】
第1ライフタイム制御領域151および第2ライフタイム制御領域152のトレンチ配列方向における境界は、境界79と一致している。第1ライフタイム制御領域151および第2ライフタイム制御領域152のトレンチ配列方向における境界は、境界78と境界79との間であってもよく、境界78と一致してもよい。
【0164】
おもて面側ライフタイム制御部155は、トレンチ配列方向において、ダイオード部80からトランジスタ部70に延伸して設けられる。本例のおもて面側ライフタイム制御部155は、トレンチ配列方向において、ダイオード部80から境界領域90に設けられたエミッタ領域12の下方の領域まで延伸して設けられている。本例のおもて面側ライフタイム制御部155は、トレンチ配列方向において、ダイオード部80から境界79まで延伸して設けられる。即ち、本例のおもて面側ライフタイム制御部155は、トレンチ配列方向において、第2ライフタイム制御領域152と同一の領域に設けられる。おもて面側ライフタイム制御部155は、トレンチ配列方向において、ダイオード部80から境界領域90の内側まで延伸して、境界79に到達せずに終端してもよい。
【0165】
図9Aは、半導体装置100の変形例の上面図である。本例では、図2Aの半導体装置100と相違点する点について特に説明する。
【0166】
本例のエミッタ領域12は、ダイオード部80にも設けられる。エミッタ領域12は、境界領域90にも設けられてよい。ダイオード部80は、エミッタ領域12が設けられたメサ部81と、エミッタ領域12が設けられていないメサ部81の両方を有してよい。
【0167】
エミッタ領域12およびコンタクト領域15は、メサ部71と同様にメサ部81に設けられてよい。即ち、エミッタ領域12は、メサ部81においても、コンタクト領域15と交互に設けられてよい。エミッタ領域12およびコンタクト領域15の間隔は、メサ部71とメサ部81とで同一であってよい。メサ部81のエミッタ領域12およびコンタクト領域15は、トレンチ部を挟んでメサ部71のエミッタ領域12およびコンタクト領域15と対向するように配置されてよい。
【0168】
図9Bは、図9Aにおけるc-c'断面を含むXZ断面の一例を示す図である。c-c'断面を含むXZ断面は、トランジスタ部70において、エミッタ領域12を通過するXZ面である。本例では、図2Bの半導体装置100と相違点する点について特に説明する。
【0169】
第1ライフタイム制御領域151は、トレンチ配列方向において、メサ部71の下方から境界78まで延伸して設けられる。第1ライフタイム制御領域151は、トレンチ配列方向において、メサ部71の下方から境界79を越えて、境界78に到達せずに終端してもよい。本例の第1ライフタイム制御領域151は、境界領域90のエミッタ領域12の下方に設けられる。
【0170】
第2ライフタイム制御領域152は、トレンチ配列方向において、ダイオード部80の内側から境界78まで延伸して設けられる。本例の第2ライフタイム制御領域152は、トレンチ配列方向において、エミッタ領域12が設けられていないメサ部81の下方から、エミッタ領域12が設けられたメサ部81の下方まで延伸して設けられている。第2ライフタイム制御領域152は、トレンチ配列方向において、ダイオード部80のX軸方向の正側の境界78から、ダイオード部80のX軸方向の負側の境界78まで延伸して設けられてよい。第2ライフタイム制御領域152は、トレンチ配列方向において、ダイオード部80の内側から境界78に到達せずに終端してもよい。
【0171】
第1ライフタイム制御領域151および第2ライフタイム制御領域152のトレンチ配列方向における境界は、境界78と一致している。第1ライフタイム制御領域151および第2ライフタイム制御領域152のトレンチ配列方向における境界は、境界78と境界79との間であってもよく、境界79と一致してもよい。
【0172】
おもて面側ライフタイム制御部155は、トレンチ配列方向において、ダイオード部80の内側から境界78まで延伸して設けられる。即ち、本例のおもて面側ライフタイム制御部155は、トレンチ配列方向において、第2ライフタイム制御領域152と同一の領域に設けられる。本例のおもて面側ライフタイム制御部155は、トレンチ配列方向において、エミッタ領域12が設けられていないメサ部81の下方から、エミッタ領域12が設けられたメサ部81の下方まで延伸して設けられている。おもて面側ライフタイム制御部155は、トレンチ配列方向において、ダイオード部80の内側から境界78に到達せずに終端してもよいし、ダイオード部80の内側から境界78を越えて境界領域90まで延伸してもよい。
【0173】
図10は、図9Aにおけるc-c'断面を含むXZ断面の変形例を示す図である。c-c'断面を含むXZ断面は、トランジスタ部70において、エミッタ領域12を通過するXZ面である。本例では、図9Bの半導体装置100と相違点する点について特に説明する。本例の半導体装置100は、重複領域157を備える点で、図9Bの半導体装置100と相違する。
【0174】
重複領域157は、上面視において、第1ライフタイム制御領域151および第2ライフタイム制御領域152が重複する領域である。本例の重複領域157は、境界領域90と一致している。即ち、第1ライフタイム制御領域151および第2ライフタイム制御領域152は、トレンチ配列方向において、境界79から境界78まで延伸して設けられている。重複領域157は、いずれの実施例においても設けられてよい。
【0175】
裏面側ライフタイム制御部150は、バッファ領域20内に設けられてよい。本例では、第1ライフタイム制御領域151および第2ライフタイム制御領域152の両方がバッファ領域20内に設けられる。このように、本例の第2ライフタイム制御領域152は、バッファ領域20内に設けられるが、半導体基板10の深さ方向において、バッファ領域20よりもおもて面21側に設けられてもよい。いずれの実施例においても、第1ライフタイム制御領域151および第2ライフタイム制御領域152の両方がバッファ領域20内に設けられてよく、第1ライフタイム制御領域151がバッファ領域20内に設けられ、第2ライフタイム制御領域152がバッファ領域20外に設けられてもよい。
【0176】
図11は、マスク210を用いたヘリウムイオンの注入工程の一例を示す。本例では、マスク210を用いて第1ライフタイム制御領域151および第2ライフタイム制御領域152を形成している。
【0177】
マスク210は、ライフタイムキラーを形成するために半導体基板10のおもて面21または裏面23に形成される。本例のマスク210は、裏面23側に設けられ、ヘリウムイオンの半導体基板10への注入量を調整する。マスク210は、レジストであってよい。
【0178】
マスク210が裏面23に選択的に設けられた状態で、裏面23の全面にヘリウムイオンを注入することで、深さの異なる裏面側ライフタイム制御部150を形成することができる。本例のマスク210は、トランジスタ部70の全面を覆うように形成され、ダイオード部80の全面を覆わないように形成される。但し、マスク210は、トランジスタ部70の一部を覆わないように形成されてよく、ダイオード部80の一部を覆うように形成されてよい。
【0179】
第1ライフタイム制御領域151は、マスク210が形成された領域に形成される。第1ライフタイム制御領域151は、マスク210を介してヘリウムイオンを注入することにより、第2ライフタイム制御領域152よりも浅く形成される。本例では、マスク210の厚みを薄くすることにより、第2ライフタイム制御領域152よりも浅い第1ライフタイム制御領域151を形成することができる。マスク210の厚みは、15μm以下であってよく、30μm以下であってよく、60μm以下であってよい。
【0180】
第2ライフタイム制御領域152は、マスク210が形成されていない開口部に形成される。第2ライフタイム制御領域152は、マスク210を介さずにヘリウムイオンを注入することにより、第1ライフタイム制御領域151よりも深く形成される。
【0181】
本例の裏面側ライフタイム制御部150は、マスク210が形成された領域と、マスク210が形成されていない領域の両方にライフタイムキラーを照射することにより形成する。即ち、第1ライフタイム制御領域151および第2ライフタイム制御領域152は、裏面23を予め定められたパターンで覆うマスク210を通して1回のイオン注入で形成することができる。これにより、マスク210を複数回設けることなく、深さの異なる裏面側ライフタイム制御部150を形成することができる。
【0182】
なお、半導体装置100が重複領域157を備える場合は、ヘリウムイオンの注入を十分に抑制できる膜厚のマスク210を用いて、2回に分けて第1ライフタイム制御領域151と第2ライフタイム制御領域152を形成してよい。
【0183】
図12Aは、順方向電圧VFの第2ライフタイム制御領域152の深さ依存性を示す。縦軸は順方向電圧VF(a.u.)を示し、横軸は第2ライフタイム制御領域152の深さ(μm)を示す。(a.u.)とは、任意単位である。一例として、任意の値を基準とて、当該値からの倍率を示している。ダイオード部80の順方向電圧VFは、第2ライフタイム制御領域152の深さに応じて変化する。順方向電圧VFは、第2ライフタイム制御領域152が深くなるにつれて上昇する。
【0184】
図12Bは、ターンオン損失Eonの第2ライフタイム制御領域152の深さ依存性を示す。縦軸はターンオン損失Eon(a.u.)を示し、横軸は第2ライフタイム制御領域152の深さ(μm)を示す。ターンオン損失Eonも、第2ライフタイム制御領域152の深さに応じて変化する。ターンオン損失Eonは、第2ライフタイム制御領域152が深くなるにつれて減少する。
【0185】
図12Cは、逆回復時のスイッチング損失Errの第2ライフタイム制御領域152の深さ依存性を示す。縦軸は逆回復時のスイッチング損失Err(a.u.)を示し、横軸は第2ライフタイム制御領域152の深さ(μm)を示す。逆回復時のスイッチング損失Errも、第2ライフタイム制御領域152の深さに応じて変化する。逆回復時のスイッチング損失Errも、第2ライフタイム制御領域152が深くなるにつれて減少する。
【0186】
このように、第2ライフタイム制御領域152の深さに応じて、順方向電圧VF、ターンオン損失Eonおよび逆回復時のスイッチング損失Errが変化する。順方向電圧VFとターンオン損失Eonとの間、および、順方向電圧VFと逆回復時のスイッチング損失Errとの間には、トレードオフの関係がある。
【0187】
図13Aは、ターンオフ損失Eoffの第1ライフタイム制御領域151の深さ依存性を示す。縦軸はターンオフ損失Eoff(a.u.)を示し、横軸は第1ライフタイム制御領域151の深さ(μm)を示す。ターンオフ損失Eoffは、第1ライフタイム制御領域151の深さに応じて変化する。ターンオフ損失Eoffは、第1ライフタイム制御領域151が深くなるにつれて減少する。
【0188】
図13Bは、コレクタ-エミッタ間飽和電圧Vce(sat)の第1ライフタイム制御領域151の深さ依存性を示す。縦軸はコレクタ-エミッタ間飽和電圧Vce(sat)(a.u.)を示し、横軸は第1ライフタイム制御領域151の深さ(μm)を示す。コレクタ-エミッタ間飽和電圧Vce(sat)は、第1ライフタイム制御領域151の深さに応じて変化する。コレクタ-エミッタ間飽和電圧Vce(sat)は、第1ライフタイム制御領域151が深くなるにつれて増加する。
【0189】
このように、第1ライフタイム制御領域151の深さに応じて、ターンオフ損失Eoffおよびコレクタエミッタ間飽和電圧Vce(sat)が変化する。ターンオフ損失Eoffとコレクタエミッタ間飽和電圧Vce(sat)との間には、トレードオフの関係がある。
【0190】
図14は、半導体装置100の特性のトレードオフ関係の改善例を示す。縦軸は逆回復時のスイッチング損失Err(a.u.)を示し、横軸は150℃でのコレクタ-エミッタ間遮断電流Ices(a.u.)を示す。本図は、逆回復時のスイッチング損失Errとコレクタ-エミッタ間遮断電流Icesのトレードオフの関係を示している。
【0191】
比較例は、トランジスタ部の裏面側のライフタイムキラーと、ダイオード部の裏面側のライフタイムキラーを同一の深さに設けた例である。一方、実施例では、第1ライフタイム制御領域151および第2ライフタイム制御領域152が異なる深さを有する。
【0192】
実施例の半導体装置100は、第1ライフタイム制御領域151と第2ライフタイム制御領域152の深さを変化させることにより、逆回復時のスイッチング損失Errとコレクタ-エミッタ間遮断電流Icesのトレードオフカーブを、比較例よりも下方に30%程度押し下げて改善することができる。一例として、逆回復時のスイッチング損失Errが1.6(a.u.)程度の場合に、実施例の半導体装置100は比較例に対して、コレクタ-エミッタ間遮断電流Icesを約60%低減できる。一例において、第1ライフタイム制御領域151の深さ方向の距離Xを10μmとして、第2ライフタイム制御領域152の深さ方向の距離Yを95μmとすることにより、均一に半導体装置基板の裏面から10μmの深さ位置にライフタイムキラーを形成するよりも、26%程度の改善が得られる。
【0193】
本例の半導体装置100は、第1ライフタイム制御領域151および第2ライフタイム制御領域152の深さ位置を適切な組み合わせに設定することで、半導体装置100のトレードオフ特性を改善することができる。本例の半導体装置100は、スイッチング時の電気的損失と遮断電流(漏れ電流)とのトレードオフ特性を改善できることにより、半導体装置の熱暴走の抑制とスイッチング時の電気的損失の低減を可能とする。
【0194】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更または改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。その様な変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【0195】
特許請求の範囲、明細書、および図面中において示した装置、システム、プログラム、および方法における動作、手順、ステップ、および段階等の各処理の実行順序は、特段「より前に」、「先立って」等と明示しておらず、また、前の処理の出力を後の処理で用いるのでない限り、任意の順序で実現しうることに留意すべきである。特許請求の範囲、明細書、および図面中の動作フローに関して、便宜上「まず、」、「次に、」等を用いて説明したとしても、この順で実施することが必須であることを意味するものではない。
【符号の説明】
【0196】
10・・・半導体基板、12・・・エミッタ領域、14・・・ベース領域、15・・・コンタクト領域、16・・・蓄積領域、17・・・ウェル領域、18・・・ドリフト領域、19・・・アノード領域、20・・・バッファ領域、21・・・おもて面、22・・・コレクタ領域、23・・・裏面、24・・・コレクタ電極、25・・・接続部、・・・30・・・ダミートレンチ部、31・・・延伸部分、32・・・ダミー絶縁膜、33・・・接続部分、34・・・ダミー導電部、38・・・層間絶縁膜、40・・・ゲートトレンチ部、41・・・延伸部分、42・・・ゲート絶縁膜、43・・・接続部分、44・・・ゲート導電部、50・・・ゲート金属層、51・・・ゲートランナー部、52・・・エミッタ電極、54・・・コンタクトホール、55・・・コンタクトホール、56・・・コンタクトホール、70・・・トランジスタ部、71・・・メサ部、78・・・境界、79・・・境界、80・・・ダイオード部、81・・・メサ部、82・・・カソード領域、90・・・境界領域、91・・・メサ部、92・・・メサ部、100・・・半導体装置、102・・・端辺、112・・・ゲートパッド、121・・・第1ピーク、122・・・第2ピーク、123・・・第3ピーク、124・・・第4ピーク、126・・・副ピーク群、130・・・ゲート配線、150・・・裏面側ライフタイム制御部、151・・・第1ライフタイム制御領域、152・・・第2ライフタイム制御領域、153・・・延伸領域、155・・・おもて面側ライフタイム制御部、157・・・重複領域、160・・・活性部、170・・・エッジ終端構造部、210・・・マスク
図1
図2A
図2B
図3A
図3B
図4A
図4B
図5A
図5B
図6
図7A
図7B
図8A
図8B
図9A
図9B
図10
図11
図12A
図12B
図12C
図13A
図13B
図14
【手続補正書】
【提出日】2024-01-09
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0150
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0150】
領域Rは、距離X(μm)および距離Y(μm)が満たすべき範囲を示している。距離X(μm)は、0μmより大きくてよく、0.1μm以上であってよく、1μm以上であってよい。距離X(μm)は、半導体基板10のおもて面21から裏面23までの距離よりも小さくてよく、トレンチ部の底部から裏面23までの距離よりも小さくてよい。距離Y(μm)は、0より大きくてよく、0.1μm以上であってよく、1μm以上であってよい。距離Y(μm)は、半導体基板10のおもて面21から裏面23までの距離よりも小さくてよく、トレンチ部の底部から裏面23までの距離よりも小さくてよい。領域Rの範囲は、距離Xおよび距離Yに加えて、ライフタイム制御領域のライフタイムキラー濃度にも依存する。一例として、ライフタイムキラー濃度が5×1011atoms/cm、活性部160の面積Sに対するトランジスタ部70の活性面積の比率Iを0.77としたとき、領域Rは、数式Y=Xと、数式Y=-2.803X+100.4と、X=0とで囲まれる領域に相当する。ここでXおよびYの値の単位は、いずれも(μm)である。領域Rの範囲内において、半導体装置100が予め定められた特性を満たすように距離Xおよび距離Yを決定してよい。ここでは、コレクタ-エミッタ間遮断電流Icesの電流密度(nA/mm)の最大値が室温で4.14nA/mmとなるように領域Rを決定しているが、これに限らない。予め定められた特性として、コレクタ-エミッタ間遮断電流Icesの電流密度(nA/mm)の最大値は室温で、0.3nA/mm以上であってよく、1.0nA/mm以上であってよく、3.0nA/mm以上であってよい。予め定められた特性として、コレクタ-エミッタ間遮断電流Icesの電流密度(nA/mm)の最大値は室温で、15.0nA/mm以下であってよく、10.0nA/mm以下であってよく、5.0nA/mm以下であってよい。