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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024116480
(43)【公開日】2024-08-28
(54)【発明の名称】電気化学反応単セル
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/86 20060101AFI20240821BHJP
   H01M 8/1213 20160101ALI20240821BHJP
   C25B 9/23 20210101ALI20240821BHJP
   C25B 13/07 20210101ALI20240821BHJP
   C25B 13/04 20210101ALI20240821BHJP
   H01M 8/12 20160101ALN20240821BHJP
【FI】
H01M4/86 T
H01M4/86 M
H01M8/1213
C25B9/23
C25B13/07
C25B13/04 301
H01M8/12 101
H01M8/12 102A
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023022116
(22)【出願日】2023-02-16
(71)【出願人】
【識別番号】519322392
【氏名又は名称】森村SOFCテクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001911
【氏名又は名称】弁理士法人アルファ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】島津 めぐみ
(72)【発明者】
【氏名】柿沼 保夫
【テーマコード(参考)】
4K021
5H018
5H126
【Fターム(参考)】
4K021AA01
4K021AB25
4K021AC02
4K021AC06
4K021AC09
4K021DB16
4K021DB18
4K021DB31
4K021DB40
4K021DB43
4K021DB53
5H018AA06
5H018AS02
5H018EE01
5H018EE02
5H018EE12
5H018HH05
5H126AA02
5H126BB06
(57)【要約】
【課題】電気化学反応単セルの耐久性能を向上させ、かつ、初期性能を向上させる。
【解決手段】電解質層と、電解質層を挟んで第1の方向に互いに対向する空気極および燃料極と、を備える電気化学反応単セルにおいて、燃料極は、電解質層とは反対側の表層部である第1の表層部と、第1の表層部と第1の方向に重なる部分とからなる特定部分を有し、特定部分は、第1の表層部にMnを含有し、第1の表層部のMn含有量M(質量%)は、以下の式(1)を満たす、ことを特徴とする、電気化学反応単セル。
0.25≦M≦6 ・・・(1)
【選択図】図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質層と、前記電解質層を挟んで第1の方向に互いに対向する空気極および燃料極と、を備える電気化学反応単セルにおいて、
前記燃料極は、前記電解質層とは反対側の表層部である第1の表層部と、前記第1の表層部と前記第1の方向に重なる部分とからなる特定部分を有し、
前記特定部分は、前記第1の表層部にMnを含有し、前記第1の表層部のMn含有量M(質量%)は、以下の式(1)を満たす、
ことを特徴とする、電気化学反応単セル。
0.25≦M≦6 ・・・(1)
【請求項2】
請求項1に記載の電気化学反応単セルであって、
前記特定部分において、前記第1の表層部のMn含有量Mと、前記第1の表層部と前記第1の方向に重なる部分のMn含有量M(質量%)とは、以下の式(2)を満たす、
ことを特徴とする、電気化学反応単セル。
>M ・・・(2)
【請求項3】
請求項2に記載の電気化学反応単セルであって、
前記特定部分において、前記第1の表層部のMn含有量Mと、前記第1の表層部と前記第1の方向に重なる部分のMn含有量Mとは、以下の式(3)を満たす、
ことを特徴とする、電気化学反応単セル。
1<M/M≦25 ・・・(3)
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載の電気化学反応単セルであって、
前記燃料極において、前記特定部分は、前記燃料極の10%以上を占めている、
ことを特徴とする、電気化学反応単セル。
【請求項5】
請求項4に記載の電気化学反応単セルであって、
前記燃料極において、前記特定部分ではない部分の前記電解質層とは反対側の表層部のMn含有量は、0.25質量%未満である、
ことを特徴とする、電気化学反応単セル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書に開示される技術は、電気化学反応単セルに関する。
【背景技術】
【0002】
水素と酸素との電気化学反応を利用して発電を行う燃料電池の種類の1つとして、固体酸化物形の燃料電池(以下、「SOFC」という。)が知られている。SOFCは、燃料電池単セル(以下、「単セル」という。)を備える。単セルは、電解質層と、電解質層の所定の方向(以下、「第1の方向」という。)の一方側に配置された空気極と、電解質層の第1の方向の他方側に配置された燃料極と、を備える。
【0003】
SOFCの燃料極には、発電に利用される燃料ガスが供給される。燃料ガスの主成分は、例えば、炭化水素を含む都市ガスを改質することによって製造される水素である。このようにして製造される燃料ガスは、改質反応の原料に含まれている炭化水素が未反応のまま残留する場合がある。燃料ガスに含まれる炭化水素は、SOFCの運転時に、燃料極の表面に炭素析出を生じ、燃料極に含まれる発電反応を触媒する元素の触媒活性の低下や、析出炭素の成長による燃料極のクラックの発生等を引き起こし、ひいては、SOFCの耐久性能を低下させる。
【0004】
従来、炭素生成反応を抑制するため、表面がMn酸化物等で覆われたNi粒子と、酸素イオン伝導体であるジルコニア系電解質材料等とで構成されるSOFC燃料極が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006-351405号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
燃料極を構成するNi粒子の表面をMn酸化物等で覆った場合、燃料極表面における炭素析出を抑制することはできるものの、燃料極における発電反応を触媒する元素の触媒活性が低下し、単セルの初期性能が低下するという課題がある。
【0007】
なお、このような課題は、電気分解反応を利用して、例えば二酸化炭素を原料としてエタノールやエチレンを生成する電解単セル(以下、「SOEC」という。)のように、反応ガスとして炭素化合物を含むSOECにも共通の課題である。なお、本明細書では、燃料電池単セルと電解単セルとをまとめて電気化学反応単セルと呼び、燃料電池発電単位と電解セル単位とをまとめて電気化学反応単位と呼び、燃料電池スタックと電解セルスタックとをまとめて電気化学反応セルスタックと呼ぶ。また、このような課題は、SOFCやSOECに限らず、他のタイプの電気化学反応セルスタック等の種々の電気化学反応装置にも共通の課題である。
【0008】
本明細書では、上述した課題を解決することが可能な技術を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本明細書に開示される技術は、例えば、以下の形態として実現することが可能である。
【0010】
(1)本明細書に開示される電気化学反応単セルは、電解質層と、前記電解質層を挟んで第1の方向に互いに対向する空気極および燃料極と、を備える電気化学反応単セルにおいて、前記燃料極は、前記電解質層とは反対側の表層部である第1の表層部と、前記第1の表層部と前記第1の方向に重なる部分とからなる特定部分を有し、前記特定部分は、前記第1の表層部にMnを含有し、前記第1の表層部のMn含有量M(質量%)は、以下の式(1)を満たす。
0.25≦M≦6 ・・・(1)
【0011】
MnおよびMn化合物は、例えば炭化水素ガス等の炭素化合物の改質反応を促進する触媒作用を有している。そのため、燃料極において、第1の方向における電解質層とは反対側の表層部である第1の表層部に0.25質量%以上のMnを含有することにより、反応ガスに含まれる炭素化合物の改質反応が促進され、燃料極表面でのコーキング(炭素析出)を抑制することができる。一方で、燃料極がMnを過剰に含んでいる場合、燃料極に含まれる電気化学反応を触媒する元素の触媒反応が阻害されることによって反応性が低下し、初期性能が低下するおそれがある。そのため、第1の表層部のMnを6質量%以下に収めることにより、電気化学反応単セルの初期性能を十分に確保することができる。従って、本電気化学反応単セルによれば、電気化学反応単セルの耐久性能を向上させ、かつ、初期性能を向上させることができる。
【0012】
(2)上記電気化学反応単セルは、前記特定部分において、前記第1の表層部のMn含有量Mと、前記第1の表層部と前記第1の方向に重なる部分のMn含有量M(質量%)とは、以下の式(2)を満たす構成としてもよい。
>M ・・・(2)
【0013】
特定部分において、第1の表層部と第1の方向に重なる部分(すなわち、電解質層に近い部分)のMn含有量が、第1の表層部のMn含有量よりも多い場合、第1の表層部と第1の方向に重なる部分に含まれるMnが電解質層側に拡散され、燃料極と電解質層との界面、或いは、電解質層内にクラックが発生するおそれがある。本電気化学反応単セルによれば、第1の表層部のMn含有量が、第1の表層部と第1の方向に重なる部分のMn含有量よりも多いため、電気化学反応単セルの使用中における燃料極と電解質層との界面、或いは、電解質層内のクラックの発生を抑制し、電気化学反応単セルの耐久性能をより効果的に向上させることができる。
【0014】
(3)上記電気化学反応単セルは、前記特定部分において、前記第1の表層部のMn含有量Mと、前記第1の表層部と前記第1の方向に重なる部分のMn含有量Mとは、以下の式(3)を満たす構成としてもよい。
1<M/M≦25 ・・・(3)
【0015】
特定部分において、第1の表層部のMn含有量が、第1の表層部と第1の方向に重なる部分のMn含有量よりも極端に多い場合、第1の表層部に含まれるMnが電解質層側に拡散されることにより、燃料極と電解質層との界面、或いは、電解質層内にクラックが発生するおそれがある。本電気化学反応単セルによれば、第1の表層部と第1の方向に重なる部分のMn含有量に対する第1の表層部のMn含有量の比が所定の範囲内に収められているため、燃料極と電解質層との界面、或いは、電解質層内のクラックの発生を抑制し、電気化学反応単セルの耐久性能をより効果的に向上させることができる。
【0016】
(4)上記電気化学反応単セルは、前記燃料極において、前記特定部分は、前記燃料極の10%以上を占めている構成としてもよい。本電気化学反応単セルによれば、特定部分が燃料極の10%以上を占めることにより、反応ガスに含まれる炭素化合物の改質反応が促進され、燃料極表面でのコーキング(炭素析出)を抑制することができるため、電気化学反応単セルの耐久性能をより効果的に向上させることができる。
【0017】
(5)上記電気化学反応単セルは、前記燃料極において、前記特定部分ではない部分の前記電解質層とは反対側の表層部のMn含有量は、0.25質量%未満である構成としてもよい。本電気化学反応単セルによれば、特定部分ではない部分の電解質層とは反対側の表層部のMn含有量を0.25質量%未満に収めることにより、電気化学反応単セルの初期性能をより効果的に向上させることができる。
【0018】
なお、本明細書に開示される技術は、種々の形態で実現することが可能であり、例えば、電気化学反応単セル、複数の電気化学反応単セルを備える電気化学反応セルスタック、それらの製造方法等の形態で実現することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本実施形態における燃料電池スタック100の外観構成を示す斜視図
図2図1のII-IIの位置における燃料電池スタック100のXZ断面構成を示す説明図
図3図1のIII-IIIの位置における燃料電池スタック100のYZ断面構成を示す説明図
図4図2に示す断面と同一の位置における互いに隣接する2つの発電単位102のXZ断面構成を示す説明図
図5図3に示す断面と同一の位置における互いに隣接する2つの発電単位102のYZ断面構成を示す説明図
図6】燃料極116とその周辺のYZ断面構成を拡大して示す説明図
図7】特定部分SPの詳細な定義を示す説明図
図8】性能評価結果を示す説明図
図9】性能評価結果を示す説明図
図10】性能評価結果を示す説明図
【発明を実施するための形態】
【0020】
A.実施形態:
A-1.燃料電池スタック100の構成:
図1は、本実施形態における燃料電池スタック100の外観構成を示す斜視図であり、図2は、図1のII-IIの位置における燃料電池スタック100のXZ断面構成を示す説明図であり、図3は、図1のIII-IIIの位置における燃料電池スタック100のYZ断面構成を示す説明図である。各図には、方向を特定するための互いに直交するXYZ軸が示されている。本明細書では、便宜的に、Z軸方向を上下方向と呼び、Z軸正方向を上方向と呼び、Z軸負方向を下方向と呼ぶものとするが、燃料電池スタック100は実際にはそのような向きとは異なる向きで設置されてもよい。
【0021】
燃料電池スタック100は、複数の(本実施形態では7つの)燃料電池発電単位(以下、単に「発電単位」という。)102と、一対のエンドプレート104,106とを備える。7つの発電単位102は、所定の配列方向(本実施形態では上下方向)に並べて配置されている。一対のエンドプレート104,106は、7つの発電単位102を上下から挟むように配置されている。上記配列方向(上下方向)は、特許請求の範囲における第1の方向の一例である。
【0022】
燃料電池スタック100を構成する各層(発電単位102、エンドプレート104,106)の上下方向回りの周縁部には、上下方向に貫通する複数の(本実施形態では8つの)孔が形成されており、各層に形成された互いに対応する孔同士が上下方向に連通して、上側エンドプレート104から下側エンドプレート106にわたって上下方向に延びる貫通孔108を構成している。以下の説明では、貫通孔108を構成するために燃料電池スタック100の各層に形成された孔も、貫通孔108と呼ぶ場合がある。
【0023】
各貫通孔108には、上下方向に延びるボルト22が挿通されており、ボルト22とボルト22の両側に嵌められたナット24とによって、燃料電池スタック100は締結されている。なお、図2および図3に示すように、ナット24と各エンドプレート104,106(または後述するガス通路部材27)との間には、絶縁シート26が介在している。
【0024】
各ボルト22の軸部の外周面と各貫通孔108の内周面との間には、空間が確保されている。図1および図2に示すように、1つのボルト22(ボルト22A)と当該ボルト22Aが挿通された貫通孔108とにより形成された空間は、燃料電池スタック100の外部から酸化剤ガスOG(例えば空気)が導入され、その酸化剤ガスOGを各発電単位102の空気室166に供給するガス流路である空気極側ガス供給マニホールド161として機能し、他の1つのボルト22(ボルト22B)と当該ボルト22Bが挿通された貫通孔108とにより形成された空間は、各発電単位102の空気室166から排出されたガスである酸化剤オフガスOOGを燃料電池スタック100の外部へと排出する空気極側ガス排出マニホールド162として機能する。また、図1および図3に示すように、他の1つのボルト22(ボルト22D)と当該ボルト22Dが挿通された貫通孔108とにより形成された空間は、燃料電池スタック100の外部から燃料ガスFG(例えば水素リッチなガス)が導入され、その燃料ガスFGを各発電単位102の燃料室176に供給する燃料極側ガス供給マニホールド171として機能し、他の1つのボルト22(ボルト22E)と当該ボルト22Eが挿通された貫通孔108とにより形成された空間は、各発電単位102の燃料室176から排出されたガスである燃料オフガスFOGを燃料電池スタック100の外部へと排出する燃料極側ガス排出マニホールド172として機能する。
【0025】
燃料電池スタック100には、4つのガス通路部材27が設けられている。各ガス通路部材27は、中空筒状の本体部28と、本体部28の側面から分岐した中空筒状の分岐部29とを有している。分岐部29の孔は本体部28の孔と連通している。各ガス通路部材27の本体部28の孔は、各ガス通路部材27の設置位置に設けられた各マニホールド161,162,171,172に連通している。
【0026】
(エンドプレート104,106の構成)
一対のエンドプレート104,106は、上下方向に略直交する平板形状の導電性部材であり、例えばステンレスにより形成されている。一方のエンドプレート104は、最も上に位置する発電単位102の上側に配置され、当該発電単位102と電気的に接続されている。他方のエンドプレート106は、最も下に位置する発電単位102の下側に配置され、当該発電単位102と電気的に接続されている。上側のエンドプレート104は、燃料電池スタック100のプラス側の出力端子として機能し、下側のエンドプレート106は、燃料電池スタック100のマイナス側の出力端子として機能する。
【0027】
(発電単位102の構成)
図4は、図2に示す断面と同一の位置における互いに隣接する2つの発電単位102のXZ断面構成を示す説明図であり、図5は、図3に示す断面と同一の位置における互いに隣接する2つの発電単位102のYZ断面構成を示す説明図である。
【0028】
図4および図5に示すように、発電単位102は、燃料電池単セル(以下、「単セル」という。)110と、セパレータ120と、空気極側フレーム部材130と、空気極側集電体134と、燃料極側フレーム部材140と、燃料極側集電体144と、一対のインターコネクタ150とを備えている。セパレータ120、空気極側フレーム部材130、燃料極側フレーム部材140、インターコネクタ150の周縁部には、上述したボルト22が挿通される貫通孔108に対応する孔が形成されている。単セル110は、特許請求の範囲における電気化学反応単セルの一例である。
【0029】
インターコネクタ150は、上下方向に略直交する平板形状の導電性部材であり、例えばステンレスにより形成されている。インターコネクタ150は、発電単位102間の電気的導通を確保すると共に、発電単位102間での反応ガスの混合を防止する。なお、本実施形態では、2つの発電単位102が隣接して配置されている場合、1つのインターコネクタ150は、隣接する2つの発電単位102に共有されている。すなわち、ある発電単位102における上側のインターコネクタ150は、その発電単位102の上側に隣接する他の発電単位102における下側のインターコネクタ150と同一部材である。また、燃料電池スタック100において最も上に位置する発電単位102は上側のインターコネクタ150を備えておらず、最も下に位置する発電単位102は下側のインターコネクタ150を備えていない(図2および図3参照)。
【0030】
単セル110は、電解質層112と、電解質層112を挟んで上下方向に互いに対向する空気極114および燃料極116とを備える。単セル110は、さらに、燃料極116に対して電解質層112とは反対側(下側)に配置された金属支持体180を備える。
【0031】
電解質層112は、上下方向に略直交する平板形状部材であり、緻密な層である。本実施形態では、電解質層112は、燃料極116における上側の表面と、金属支持体180における上側の表面の内、燃料極116に覆われていない領域とを連続的に覆うように形成されている。電解質層112は、例えば、YSZ(イットリア安定化ジルコニア)、ScSZ(スカンジア安定化ジルコニア)、SDC(サマリウムドープセリア)、GDC(ガドリニウムドープセリア)、ペロブスカイト型酸化物等の固体酸化物を含むように構成されている。このように、本実施形態の単セル110は、電解質として固体酸化物を用いる固体酸化物形燃料電池(SOFC)である。
【0032】
空気極114は、上下方向に略直交する平板形状部材であり、多孔質な層である。空気極114は、例えば、ペロブスカイト型酸化物(例えばLSCF(ランタンストロンチウムコバルト鉄酸化物))により形成されている。
【0033】
燃料極116は、上下方向に略直交する平板形状部材であり、多孔質な層である。燃料極116は、例えば、Ni(ニッケル)と、NiOと、酸化物イオン伝導性セラミックスと、Mn(マンガン)とを含有する。酸化物イオン電導性セラミックスは、例えば、YSZとScSZとSDCとGDCとの少なくとも1種を用いることができる。燃料極116の詳細な構成は、後述する。
【0034】
金属支持体180は、上下方向に略直交する平板形状の導電性部材であり、金属(例えばステンレス)により形成されている。金属支持体180は、単セル110における他の構成要素(電解質層112等)を支持している。このように、本実施形態の単セル110は、金属支持体180によって単セル110の機械的強度を確保する、いわゆる金属支持型(メタルサポート型)の単セルである。金属支持型の単セルは、他のタイプ(例えば燃料極支持型)の単セルと比較して、熱衝撃による割れが生じにくく、また起動性が高い。金属支持体180には、燃料ガスFGを通過させるための複数の貫通孔50が形成されている(図6参照)。金属支持体180において、各貫通孔50は、燃料極116に接する上面S1から、上面S1とは反対側の下面S2まで、上下方向に貫通している。各貫通孔50は、上下方向視で燃料極116と重なるように位置している。なお、貫通孔50は、金属支持体180の材料である金属部材に、例えばレーザーまたはエッチングを施すことにより形成することができる。燃料室176に供給された燃料ガスFGは、各貫通孔50内を進行し、さらに燃料極116の空隙内を進行して、反応場に供給される。
【0035】
セパレータ120は、中央付近に上下方向に貫通する略矩形の孔121が形成されたフレーム状の部材であり、例えばステンレスにより形成されている。セパレータ120における孔121を取り囲む部分は、例えばロウ材を含む接合部124により、単セル110(電解質層112)の周縁部と接合されている。セパレータ120により、空気極114に面する空気室166と燃料極116に面する燃料室176とが区画される。
【0036】
空気極側フレーム部材130は、中央付近に上下方向に貫通する略矩形の孔131が形成されたフレーム状の部材であり、例えばマイカ等の絶縁体により形成されている。空気極側フレーム部材130の孔131は、空気極114に面する空気室166を構成する。空気極側フレーム部材130によって、発電単位102に含まれる一対のインターコネクタ150間が電気的に絶縁される。空気極側フレーム部材130には、空気極側ガス供給マニホールド161と空気室166とを連通する空気極側ガス供給連通流路132と、空気室166と空気極側ガス排出マニホールド162とを連通する空気極側ガス排出連通流路133とが形成されている。
【0037】
燃料極側フレーム部材140は、中央付近に上下方向に貫通する略矩形の孔141が形成されたフレーム状の部材であり、例えばステンレスにより形成されている。燃料極側フレーム部材140の孔141は、燃料極116に面する燃料室176を構成する。燃料極側フレーム部材140には、燃料極側ガス供給マニホールド171と燃料室176とを連通する燃料極側ガス供給連通流路142と、燃料室176と燃料極側ガス排出マニホールド172とを連通する燃料極側ガス排出連通流路143とが形成されている。
【0038】
空気極側集電体134は、空気室166内に配置された複数の略四角柱状の導電性部材であり、例えばステンレスにより形成されている。空気極側集電体134は、空気極114とインターコネクタ150とを電気的に接続する。ただし、燃料電池スタック100において最も上に位置する発電単位102は上側のインターコネクタ150を備えていないため、当該発電単位102における空気極側集電体134は、空気極114と上側のエンドプレート104とを電気的に接続する(図2および図3参照)。なお、空気極側集電体134とインターコネクタ150とが一体の部材として構成されていてもよい。
【0039】
燃料極側集電体144は、燃料室176内に配置された複数の略四角柱状の導電性部材であり、例えばステンレスにより形成されている。燃料極側集電体144は、金属支持体180とインターコネクタ150とを電気的に接続する。ただし、燃料電池スタック100において最も下に位置する発電単位102は下側のインターコネクタ150を備えていないため、当該発電単位102における燃料極側集電体144は、金属支持体180と下側のエンドプレート106とを電気的に接続する(図2および図3参照)。なお、燃料極側集電体144とインターコネクタ150とが一体の部材として構成されていてもよい。
【0040】
A-2.燃料極116とその周辺の詳細構成:
図6は、燃料極116とその周辺(図5のX1部)のYZ断面構成を拡大して示す説明図である。上述したように、燃料極116は、Mnを含んでいる。図6には、燃料極116の各層に含まれるMn含有量の分布を概念的に示している。すなわち、燃料極116のMn含有量は、上下方向に一定ではなく、燃料極116の電解質層112側から電解質層112とは反対側に向かうにつれてMn含有量が多くなるように構成されている。さらに、燃料極116は、燃料極116の上下方向に平行な任意の断面を、上下方向に垂直な方向に20分割した場合において、20分割したうちの1つの部分であって、Mn含有量についての所定の条件を満たしている、複数の特定部分SPを有している。
【0041】
特定部分SPは、上下方向における電解質層112側の表層部を構成する電解質層側表層部116SEと、上下方向における電解質層112側の中央部を構成する電解質層側中央部116CEと、上下方向における電解質層112とは反対側の中央部を構成する燃料室側中央部116CAと、上下方向における電解質層112とは反対側の表層部を構成する燃料室側表層部116SAと、を有する。電解質層側表層部116SEと、電解質層側中央部116CEと、燃料室側中央部116CAと、燃料室側表層部116SAとは、燃料極116を厚み方向(すなわち、上下方向)に仮想的に4等分したときの各層に等しい。また、本明細書においては、電解質層側表層部116SEと、電解質層側中央部116CEと、燃料室側中央部116CAと(すなわち、燃料室側表層部116SAと上下方向に重なる部分)をまとめて燃料極内部116INと呼ぶことがある。燃料室側表層部116SAは、特許請求の範囲における第1の表層部に相当する。燃料極内部116INは、特許請求の範囲における第1の表層部と第1の方向に重なる部分に相当する。
【0042】
燃料極116における特定部分SPは、以下の第1条件を満たす。
(第1条件)
燃料極116における特定部分SPは、燃料室側表層部116SAにMnを含有し、燃料室側表層部116SAのMn含有量M(質量%)は、以下の式(1)を満たす。すなわち、燃料室側表層部116SAのMn含有量Mは、0.25質量%以上であって、6質量%以下である。
0.25≦M≦6 ・・・(1)
【0043】
燃料極116における特定部分SPは、さらに、以下の第2条件を満たす。
(第2条件)
燃料極116における特定部分SPにおいて、燃料室側表層部116SAのMn含有量Mと、燃料極内部116INのMn含有量M(質量%)とは、以下の式(2)を満たす。すなわち、燃料室側表層部116SAのMn含有量Mは、燃料極内部116INのMn含有量Mよりも多い。
>M ・・・(2)
【0044】
燃料極116における特定部分SPは、さらに、以下の第3の条件を満たす。
(第3条件)
燃料極116における特定部分SPにおいて、燃料室側表層部116SAのMn含有量Mと、燃料極内部116INのMn含有量Mとは、以下の式(3)を満たす。すなわち、燃料極内部116INのMn含有量Mに対する燃料室側表層部116SAのMn含有量Mの比は、1より大きく、25以下である。
1<M/M≦25 ・・・(3)
【0045】
また、燃料極116において、上述の条件を満たした特定部分SPは、燃料極116の10%以上を占めている。このとき、特定部分SPは、燃料極116の全体に遍在していてもよいし、燃料極116の一部に偏在していてもよいが、好ましい形態は、特定部分SPが燃料極116の全体に遍在している形態である。このような形態では、燃料極116において、発電反応を触媒するNiの触媒能と炭素化合物の改質反応を触媒するMnの触媒能とのバランスをより良好に保つことができる。また、燃料極116において、特定部分SPではない部分(すなわち、燃料極116の上下方向に平行な任意の断面を、上下方向に垂直な方向に20分割した場合において、20分割したうちの1つの部分であって、上述の式(1)~式(3)を満たさない部分)の電解質層112とは反対側の表層部のMn含有量は、0.25%未満である。
【0046】
図7は、特定部分SPの詳細な定義を示す説明図である。図7は、燃料極116における任意の位置のYZ断面構成を概念的に示している。特定部分SPとは、例えば燃料極116における任意のYZ断面をY軸方向に20個の部分A1~A20に分割した場合に、各部分A1~A20が式少なくとも(1)を満たしていれば、当該部分を特定部分SPという。このとき、燃料室側表層部116SAのMn含有量Mおよび燃料極内部116INのMn含有量Mは、燃料極116を構成する全成分の質量に対してMnの質量が占める割合を求めることによって決定することができる。具体的には、燃料室側表層部116SAおよび燃料極内部116INのそれぞれについて、任意の位置の5μm四方の領域を測定領域MAとし、測定領域MAを例えばSEM/EDXにより分析することによってMn含有量を決定することができる。燃料極116に占める特定部分SPの割合(%)は、部分A1~A20の総数20個中の特定部分SPに該当する部分の数の割合(部分A1~A20のうち特定部分SPに該当する部分の数×100/20)に基づいて算出することができる。
【0047】
A-3.単セル110の製造方法:
本実施形態における単セル110の製造方法の一例は、以下の通りである。
【0048】
(電解質層112用グリーンシートの作製)
YSZ粉末に対して、ブチラール樹脂と、可塑剤であるDOP(フタル酸ジオクチル)と、分散剤と、トルエンとエタノールとの混合溶剤とを加え、ボールミルにて混合してスラリーを調製する。得られたスラリーをドクターブレード法により薄膜化して、所定の厚さ(例えば約10μm)の電解質層112用グリーンシートを作製する。
【0049】
(燃料極116用グリーンシートの作製)
NiO粉末とYSZ粉末との混合粉末に対して、造孔材である有機ビーズと、ブチラール樹脂と、可塑剤であるDOPと、分散剤と、トルエンとエタノールとの混合溶剤とを加え、ボールミルにて混合してスラリーを調製する。有機ビーズは、例えば、ポリメタクリル酸メチルやポリスチレンなどの高分子により形成された球状粒子である。得られたスラリーをドクターブレード法により薄膜化して、所定の厚さ(例えば約20μm)の燃料極116用グリーンシートを作製する。燃料極116用グリーンシートを作製する際のNiO粉末とYSZ粉末との混合比率は、その性能を満足する限りにおいて適宜設定されればよい。スラリーを調製する際の混合粉末は、例えば、混合粉末100重量部に対して、NiO粉末を50重量部含み、YSZ粉末を50重量部含む。また、混合粉末に加えられる有機ビーズの量は、例えば、混合粉末100重量部に対して15重量部である。
【0050】
(電解質層112と燃料極116と金属支持体180との積層体の焼成)
電解質層112と燃料極116と金属支持体180とを貼り付けることにより、グリーンシートを含む積層体を作製する。このとき、金属支持体180として、金属支持体180の材料である金属部材に、例えばレーザーまたはエッチングを施すことによって、予め貫通孔50を形成したものを用いることができる。金属支持体180の材料である金属部材には、例えばステンレスを用いることができる。
【0051】
次に、グリーンシートを含む積層体を所定の温度(例えば約280℃)で脱脂する。さらに、脱脂後のグリーンシートを含む積層体を所定の温度(例えば約1350℃)で所定の時間(例えば約1時間)焼成する。これにより、電解質層112用グリーンシートにより形成される電解質層112と、燃料極116用グリーンシートにより形成される燃料極116と、金属支持体180とを含む焼結体が作製される。すなわち、電解質層112と燃料極116と金属支持体180との積層体が作製される。
【0052】
前述のように、金属支持体180は、ステンレスを材料としているため、Mnを含んでいる。そのため、金属支持体180上で燃料極116用グリーンシートを焼成することにより、金属支持体180に含まれるMnは、燃料極116に拡散する。金属支持体180に含まれるMnは、まず、燃料極116において金属支持体180と接する部分である燃料室側表層部116SAに拡散し、その後、燃料極内部116INに拡散する。燃料極116において、金属支持体180に近い部分であるほどMnの拡散量が多く、金属支持体180から離れた部分であるほどMnの拡散量が少ないため、燃料極116の上下方向の各層のMn含有量を段階的に変化させることができる。すなわち、燃料極116のうち、上下方向において金属支持体180に近い層(つまり、電解質層112とは反対側の層)であるほど、Mnが比較的多く、上下方向において金属支持体180から離れている層(つまり、電解質層112側の層)であるほど、Mnが比較的少ない構成となる。そのため、金属支持体180のMn含有量や焼成の条件を調整することによって、特定部分SPを形成することができる。
【0053】
なお、上記以外の方法であっても、Mn化合物が予め添加された燃料極116用グリーンシートを作製することによっても、Mnを含有する燃料極116を作製することができる。Mn化合物には、例えば、Mn(OH)、MnO、MnCl、MnSO等を用いることができる。この場合、Mn含有量が異なる複数のスラリーを調製し、これらを積層することによって、燃料極116の上下方向の各層のMn含有量を段階的に変化させることができる。
【0054】
(空気極114の形成)
LSCF粉末と、有機バインダとしてのポリビニルアルコールと、有機溶媒としてのブチルカルビトールとを混合し、粘度を調整して、空気極用ペーストを調製する。調製された空気極用ペーストを、上記積層体における電解質層112の表面に、例えばスクリーン印刷によって塗布して乾燥させ、空気極用ペーストが塗布された積層体を所定の焼成温度(例えば約1100℃)で焼成する。これにより空気極114が形成され、金属支持体180と燃料極116と電解質層112と空気極114とを備える単セル110が作製される。このように作製された単セル110を水素雰囲気下で所定の焼成温度(例えば、約800℃)で焼成し、燃料極116に含まれるNiOをNiに還元した。
【0055】
A-4.燃料電池スタック100の動作:
図2および図4に示すように、酸化剤ガスOGは、空気極側ガス供給マニホールド161の位置に設けられたガス通路部材27の分岐部29に接続されたガス配管(図示せず)から、当該ガス通路部材27の分岐部29および本体部28の孔を介して空気極側ガス供給マニホールド161に供給され、空気極側ガス供給マニホールド161から各発電単位102の空気極側ガス供給連通流路132を介して、空気室166に供給される。また、図3および図5に示すように、燃料ガスFGは、燃料極側ガス供給マニホールド171の位置に設けられたガス通路部材27の分岐部29に接続されたガス配管(図示せず)から、当該ガス通路部材27の分岐部29および本体部28の孔を介して燃料極側ガス供給マニホールド171に供給され、燃料極側ガス供給マニホールド171から各発電単位102の燃料極側ガス供給連通流路142を介して、燃料室176に供給される。
【0056】
各発電単位102において、空気室166に供給された酸化剤ガスOGが多孔質な空気極114内に進入し、かつ、燃料室176に供給された燃料ガスFGが金属支持体180に形成された複数の貫通孔50を通って多孔質な燃料極116内に進入すると、単セル110において酸化剤ガスOGに含まれる酸素と燃料ガスFGに含まれる水素との電気化学反応による発電が行われる。この発電反応は発熱反応である。各発電単位102において、単セル110の空気極114は、空気極側集電体134を介して一方のインターコネクタ150に電気的に接続され、燃料極116は、金属支持体180および燃料極側集電体144を介して他方のインターコネクタ150に電気的に接続されている。また、燃料電池スタック100に含まれる複数の発電単位102は、電気的に直列に接続されている。そのため、燃料電池スタック100の出力端子として機能するエンドプレート104,106から、各発電単位102において生成された電気エネルギーが取り出される。なお、SOFCは、比較的高温(例えば700℃から1000℃)で発電が行われることから、起動後、発電により発生する熱で高温が維持できる状態になるまで、燃料電池スタック100が加熱器(図示せず)により加熱されてもよい。
【0057】
図2および図4に示すように、各発電単位102の空気室166から空気極側ガス排出連通流路133を介して空気極側ガス排出マニホールド162に排出された酸化剤オフガスOOGは、空気極側ガス排出マニホールド162の位置に設けられたガス通路部材27の本体部28および分岐部29を経て、分岐部29に接続されたガス配管(図示せず)から燃料電池スタック100の外部に排出される。また、図3および図5に示すように、各発電単位102の燃料室176から燃料極側ガス排出連通流路143を介して燃料極側ガス排出マニホールド172に排出された燃料オフガスFOGは、燃料極側ガス排出マニホールド172の位置に設けられたガス通路部材27の本体部28および分岐部29を経て、分岐部29に接続されたガス配管(図示せず)から燃料電池スタック100の外部に排出される。
【0058】
A-5.本実施形態の効果:
以上説明したように、電解質層112と、電解質層112を挟んで上下方向に互いに対向する空気極114および燃料極116と、を備える単セル110において、燃料極116は、電解質層112とは反対側の表層部である燃料室側表層部116SAと、燃料極内部116INとからなる特定部分SPを有し、特定部分SPは、燃料室側表層部116SAにMnを含有し、燃料室側表層部116SAのMn含有量M(質量%)は、以下の式(1)を満たす。
0.25≦M≦6 ・・・(1)
【0059】
MnおよびMn化合物は、炭化水素ガス等の炭素化合物の改質反応を促進する触媒作用を有している。そのため、燃料極116において、上下方向における電解質層112とは反対側の表層部である燃料室側表層部116SAに0.25質量%以上のMnを含有することにより、燃料ガスFGに含まれる炭素化合物の改質反応が促進され、燃料極116表面でのコーキング(炭素析出)を抑制することができる。一方で、燃料極116がMnを過剰に含んでいる場合、燃料極116に含まれる発電反応を触媒するNiの触媒反応が阻害されることによって反応性が低下し、初期性能が低下するおそれがある。そのため、燃料室側表層部116SAのMnを6質量%以下に収めることにより、単セル110の初期性能を十分に確保することができる。従って、本実施形態の単セル110によれば、単セル110の耐久性能を向上させ、かつ、初期性能を向上させることができる。
【0060】
また、本実施形態の単セル110では、特定部分SPにおいて、燃料室側表層部116SAのMn含有量Mと、燃料極内部116INのMn含有量M(質量%)とは、以下の式(2)を満たす。
>M ・・・(2)
【0061】
特定部分SPにおいて、燃料極内部116IN(すなわち、電解質層112に近い部分)のMn含有量が、燃料室側表層部116SAのMn含有量よりも多い場合、燃料極内部116INに含まれるMnが電解質層112側に拡散され、燃料極116と電解質層112との界面、或いは、電解質層112内にクラックが発生するおそれがある。本実施形態の単セル110によれば、燃料室側表層部116SAのMn含有量が、燃料極内部116INのMn含有量よりも多いため、単セル110の使用中における燃料極116と電解質層112との界面、或いは、電解質層112内のクラックの発生を抑制し、単セル110の耐久性能をより効果的に向上させることができる。
【0062】
また、本実施形態の単セル110では、特定部分SPにおいて、燃料室側表層部116SAのMn含有量Mと、燃料極内部116INのMn含有量Mとは、以下の式(3)を満たす。
1<M/M≦25 ・・・(3)
【0063】
特定部分SPにおいて、燃料室側表層部116SAのMn含有量が、燃料極内部116INのMn含有量よりも極端に多い場合、燃料室側表層部116SAに含まれるMnが電解質層112側に拡散されることにより、燃料極116と電解質層112との界面、或いは、電解質層112内にクラックが発生するおそれがある。本実施形態の単セル110によれば、燃料極内部116INのMn含有量に対する燃料室側表層部116SAのMn含有量の比が所定の範囲内に収められているため、燃料極116と電解質層112との界面、或いは、電解質層112内のクラックの発生を抑制し、単セル110の耐久性能をより効果的に向上させることができる。
【0064】
また、本実施形態の単セル110では、燃料極116において、特定部分SPは、燃料極116の10%以上を占めている。本実施形態の単セル110によれば、特定部分SPが燃料極116の10%以上を占めることにより、燃料ガスFGに含まれる炭素化合物の改質反応が促進され、燃料極116表面でのコーキング(炭素析出)を抑制することができるため、単セル110の耐久性能をより効果的に向上させることができる。
【0065】
また、本実施形態の単セル110では、燃料極116において、特定部分SPではない部分の電解質層112とは反対側の表層部のMn含有量は、0.25質量%未満である。本実施形態の単セル110によれば、特定部分SPではない部分の電解質層112とは反対側の表層部のMn含有量を0.25質量%未満に収めることにより、単セル110の初期性能をより効果的に向上させることができる。
【0066】
A-6.性能評価:
次に、本実施形態の性能評価について説明する。Mn含有量がそれぞれ異なる燃料極116を有する複数の単セル110のサンプル(後に詳述するボタンセル)を作製し、当該サンプルを用いて性能評価を行った。
【0067】
(単セル110の性能評価方法)
本性能評価では、単セル110の替わりとして、単セル110と基本的な構成(材質等)が同じである複数のボタンセルを用いた。各サンプル(ボタンセル)は、上下方向視で25mmの辺を有する四角形をなす燃料極116と電解質層112とを備える積層体の上に、上下方向視で直径13mmの円形をなす空気極114が形成されたものである。
【0068】
初めに、各サンプルの初期性能(すなわち、後述の耐久試験前の出力電圧)の評価を行った。各サンプルについて、約700℃で、空気極114に酸化剤ガスOGを供給し、燃料極116に燃料ガスFG(水素)を供給し、電流密度が0.55A/cmのときの単セル110の出力電圧を測定した。このときの出力電圧の値を初期電圧Vとすると、初期電圧Vが、0.7V以上であったサンプルを良「○」、0.7Vより小さく、0.3V以上であったサンプルを可「△」、0.3Vより小さいサンプルを不可「×」とした。
【0069】
各サンプルの初期電圧Vの測定後、各サンプルについて、850℃、1000時間の継続運転を行うことにより、各サンプルの耐久試験を行った。その際、空気極114に酸化剤ガスOGを供給し、燃料極116に燃料ガスFG(水蒸気:メタン=1.25:1の混合ガス)を供給し、電流密度は0.55A/cmとした。その後、耐久試験を実施した後のサンプルについて、初期性能の評価と同一の条件での出力電圧を測定し、初期電圧Vに対する出力電圧の低下の度合いを示す劣化率DEを算出した。劣化率DE(%)は、耐久試験後の出力電圧の値を使用後電圧Vとしたとき、(V-V)/V×100%によって算出され、劣化率DEが、30%以下であったサンプルを良「○」とし、30%より大きく、70%以下であったサンプルを可「△」とし、70%より大きいサンプルを不可「×」とした。
【0070】
また、初期電圧Vの評価と、劣化率DEの評価とを総合的に評価した総合評価は、初期電圧Vおよび劣化率DEの評価について、両方の評価が良「○」であったサンプルを優良「◎」とし、一方の評価が良「○」であって、他方の評価が可「△」であったサンプルを良「○」とし、両方の評価が可「△」であったサンプルを可「△」とし、いずれか一方の評価が不可「×」であったサンプルを不可「×」とした。
【0071】
(単セル110の性能評価結果)
図8は、性能評価結果を示す説明図である。図8に示したサンプルS1-1~S1-8において、燃料極内部116INのMn含有量Mは、いずれのサンプルも互いに同値であって、燃料室側表層部116SAのMn含有量Mは、各サンプルで互いに異なっている。また、サンプルS1-1~S1-8について、図中に示していないが、燃料極116における特定部分SPが占める割合は、いずれのサンプルも50%であり、特定部分SPではない部分の電解質層112とは反対側の表層部は、いずれのサンプルも実質的にMnを含んでいない。すなわち、図8に示した性能評価結果は、燃料室側表層部116SAのMn含有量Mと、初期電圧Vおよび劣化率DEとの相関を示している。
【0072】
初期電圧Vの評価では、サンプルS1-1~S1-5は、良「○」であり、サンプルS1-6,S1-7は、可「△」であった。この結果から、燃料室側表層部116SAのMn含有量M1が6以下であれば、燃料極116に含まれるNiの触媒反応が阻害されず、初期性能を十分に確保することができることが確認された。特に、燃料室側表層部116SAのMn含有量M1が2以下であれば、初期性能を良好に確保することができることが確認された。一方、サンプルS1-8は、初期電圧Vの評価が不可「×」であった。この結果から、燃料室側表層部116SAのMn含有量M1が6を超えると、Mnが多量であるために燃料極116にNiの触媒反応が阻害され、初期性能が低下することが確認された。
【0073】
また、劣化率DEの評価では、サンプルS1-2~S1-7は、可「△」であった。この結果から、燃料室側表層部116SAのMn含有量M1が0.25以上であって、6以下であれば、燃料ガスFGに含まれる炭素化合物の改質反応が促進され、燃料極116表面での炭素析出を抑制し、耐久性能が向上することが確認された。一方、サンプルS1-1は、劣化率DEの評価が不可「×」であった。この結果から、燃料室側表層部116SAのMn含有量M1が0.25を下回ると、燃料極116表面で炭素析出を生じ、耐久性能が低下することが確認された。また、サンプルS1-8においても、劣化率DEの評価が不可「×」であった。この結果から、サンプルS1-8では、燃料室側表層部116SAと燃料極内部116INとの間でMnの拡散駆動力が生じ、Mnが燃料極内部116INに拡散し、Mnによる改質反応が低下した結果、耐久性能が低下したことが推察された。
【0074】
また、総合評価では、サンプルS1-2~S1-5は、良「○」であり、サンプルS1-6,S1-7は、可「△」であり、サンプルS1-1,S1-8は、不可「×」であった。総合評価が可「△」以上となったのは、燃料室側表層部116SAのMn含有量Mが、0.25以上であって、6以下である構成であり、総合評価が良「○」となったのは、燃料室側表層部116SAのMn含有量Mが、0.25以上であって、2以下である構成であった。すなわち、単セル110の耐久性能を向上させ、かつ、初期性能を向上させる燃料極116の構成は、燃料室側表層部116SAのMn含有量Mが、0.25≦M≦6であり、好ましくは0.25≦M≦2であることが確認された。
【0075】
図9は、性能評価結果を示す説明図である。図9に示したサンプルのうち、サンプルS2-1~S2-6,S2-7~S2-11,S2-12~S2-15,S2-16~S2-19のそれぞれにおいて、燃料室側表層部116SAのMn含有量Mは、いずれのサンプルも互いに同値であって、燃料極内部116INのMn含有量Mは、各サンプルで互いに異なっている。また、サンプルS2-1~S2-19について、図中に示していないが、燃料極116における特定部分SPが占める割合は、いずれのサンプルも50%であり、特定部分SPではない部分の電解質層112とは反対側の表層部は、いずれのサンプルも実質的にMnを含んでいない。すなわち、図9に示した性能評価結果は、燃料室側表層部116SAのMn含有量Mと燃料極内部116INのMn含有量Mとの大小関係と、初期電圧Vおよび劣化率DEとの相関を示している。
【0076】
初期電圧Vの評価では、サンプルS2-1~S2-19のすべてで、初期電圧Vの評価が可「△」以上であった。この結果から、燃料極内部116INのMn含有量Mとの大小関係によらず、燃料室側表層部116SAのMn含有量Mが0.25以上であって、6以下であれば、燃料極116に含まれるNiの触媒反応が阻害されず、初期性能を十分に確保することができることが確認された。
【0077】
また、劣化率DEの評価では、サンプルS2-1~S2-5,S2-8,S2-9,S2-13,S2-17は、良「○」であり、サンプルS2-7,S2-10,S2-12,S2-14,S2-16,S2-18は、可「△」であった。この結果から、燃料室側表層部116SAのMn含有量Mが、燃料極内部116INのMn含有量Mよりも多い構成では、燃料極内部116INのMnが電解質層112側に拡散することを抑制し、燃料極116と電解質層112との界面、或いは、電解質層112内のクラックの発生を抑制し、耐久性能が向上することが確認された。同様に、燃料極内部116INのMn含有量Mに対する燃料室側表層部116SAのMn含有量Mの比が、1<M/M≦25である構成においても、燃料極116と電解質層112との界面、或いは、電解質層112内のクラックの発生を抑制し、耐久性能が向上することが確認された。一方、サンプルS2-6,S2-11,S2-15,S2-19は、劣化率DEの評価が不可「×」であった。この結果から、燃料室側表層部116SAのMn含有量Mが、燃料極内部116INのMn含有量M以下である構成では、燃料極内部116INのMnが電解質層112側に拡散することにより、燃料極116と電解質層112との界面、或いは、電解質層112内のクラックが発生し、耐久性能が低下することが確認された。
【0078】
また、総合評価では、サンプルS2-1~S2-5,S2-8,S2-9,S2-13は、優良「◎」であり、サンプルS2-7,S2-10,S2-12,S2-14,S2-17は、良「○」であり、サンプルS2-16,S2-18は、可「△」であり、サンプルS2-6,S2-11,S2-15,S2-19は、不可「×」であった。総合評価が可「△」以上となったのは、燃料室側表層部116SAのMn含有量Mが、燃料極内部116INのMn含有量Mよりも多い構成、および、燃料極内部116INのMn含有量Mに対する燃料室側表層部116SAのMn含有量Mの比が、1<M/M≦25である構成であった。すなわち、単セル110の耐久性能を向上させ、かつ、初期性能を向上させる燃料極116の構成は、燃料室側表層部116SAのMn含有量Mと、燃料極内部116INのMn含有量Mとが、M>Mであること、および、1<M/M≦25であることが確認された。
【0079】
図10は、性能評価結果を示す説明図である。図10に示したサンプルS3-1~S3-5において、燃料室側表層部116SAのMn含有量Mおよび燃料極内部116INのMn含有量Mは、いずれのサンプルも互いに同値であって、燃料極116における特定部分SPが占める割合は、各サンプルで互いに異なっている。すなわち、図10に示した性能評価結果は、燃料極116における特定部分SPが占める割合と、初期電圧Vおよび劣化率DEとの相関を示している。
【0080】
初期電圧Vの評価では、サンプルS3-1~S3-4は、良「○」であり、サンプルS3-5は、可「△」であった。この結果から、燃料極116における特定部分SPが占める割合が10%以上であっても、燃料極116に含まれるNiの触媒反応が阻害されず、初期性能を十分に確保することができることが確認された。
【0081】
また、劣化率DEの評価では、サンプルS3-2~S3-5は、良「○」であり、サンプルS3-1は、可「△」であった。この結果から、燃料極116における特定部分SPが占める割合が10%以上であれば、燃料ガスFGに含まれる炭素化合物の改質反応が促進され、燃料極116表面での炭素析出を抑制することができることが確認された。
【0082】
また、総合評価では、サンプルS3-2~S3-4は、優良「◎」であり、サンプルS3-1,S3-5は、良「○」であった。総合評価が良「○」以上となったのは、燃料極116における特定部分SPが占める割合が、10%以上である構成であり、総合評価が優良「◎」となったのは、燃料極116における特定部分SPが占める割合が、30%以上であって、70%以下である構成であった。すなわち、単セル110の耐久性能を向上させ、かつ、初期性能を向上させる燃料極116の構成は、燃料極116における特定部分SPが占める割合が、10%以上であり、好ましくは30%以上であって、70%以下であることが確認された。
【0083】
B.変形例:
本明細書で開示される技術は、上述の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の形態に変形することができ、例えば次のような変形も可能である。
【0084】
上記実施形態における燃料電池スタック100や発電単位102の構成は、あくまで一例であり、種々変形可能である。
【0085】
また、特定部分SPは、燃料電池スタック100に含まれるすべての単セル110に適用されることが必須ではなく、燃料電池スタック100に含まれる一部の単セル110において適用される形態であってもよい。
【0086】
また、上記実施形態において、燃料電池スタック100に含まれる単セル110の個数(発電単位102の個数)は、あくまで一例であり、単セル110の個数は燃料電池スタック100に要求される出力電圧に応じて適宜決められる。また、上記実施形態における各部材を構成する材料は、あくまで例示であり、各部材が他の材料により構成されていてもよい。
【0087】
また、上記実施形態の燃料電池スタック100は、クロスフロータイプのSOFCであるが、本明細書に開示される技術は、コフロータイプのSOFCにも同様に適用可能である。また、本明細書に開示される技術は、カウンターフロータイプのSOFCにも同様に適用可能である。
【0088】
また、上記実施形態では、単セル110は、金属支持型の単セルであるが、電解質支持型や燃料極支持型等の他のタイプの単セルであってもよい。
【0089】
また、上記実施形態では、燃料ガスに含まれる水素と酸化剤ガスに含まれる酸素との電気化学反応を利用して発電を行うSOFCを対象としているが、本発明は、例えば二酸化炭素の電気分解反応を利用してエタノールやエチレンの生成を行う固体酸化物形のSOECのように、反応ガスに炭素化合物を含むSOECの最小単位である電解セル単位や、複数の電解セル単位を備える電解セルスタックにも適用可能である。なお、電解セルスタックの構成は、例えば特開2019-157252号に記載されているように公知であるためここでは詳述しないが、概略的には上述した実施形態における燃料電池スタック100と同様の構成である。すなわち、上述した実施形態における燃料電池スタック100を電解セルスタックと読み替え、発電単位102を電解セル単位と読み替えればよい。
【0090】
また、上記実施形態では、固体酸化物形燃料電池(SOFC)を例に説明したが、本明細書に開示される技術は、溶融炭酸塩形燃料電池(MCFC)といった他のタイプの燃料電池(または電解セル)にも適用可能である。
【符号の説明】
【0091】
22(22A~22E):ボルト 24:ナット 26:絶縁シート 27:ガス通路部材 28:本体部 29:分岐部 50:貫通孔 100:燃料電池スタック 102:発電単位 104,106:エンドプレート 108:貫通孔 110:単セル 112:電解質層 114:空気極 116:燃料極 116SE:電解質層側表層部 116CE:電解質層側中央部 116CA:燃料室側中央部 116IN:燃料極内部 116SA:燃料室側表層部 120:セパレータ 121:孔 124:接合部 130:空気極側フレーム部材 131:孔 132:空気極側ガス供給連通流路 133:空気極側ガス排出連通流路 134:空気極側集電体 140:燃料極側フレーム部材 141:孔 142:燃料極側ガス供給連通流路 143:燃料極側ガス排出連通流路 144:燃料極側集電体 150:インターコネクタ 161:空気極側ガス供給マニホールド 162:空気極側ガス排出マニホールド 166:空気室 171:燃料極側ガス供給マニホールド 172:燃料極側ガス排出マニホールド 176:燃料室 180:金属支持体 FG:燃料ガス FOG:燃料オフガス OG:酸化剤ガス OOG:酸化剤オフガス MA:測定領域 S1:上面 S2:下面 SP:特定部分
図1
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図10