(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024116493
(43)【公開日】2024-08-28
(54)【発明の名称】発光素子およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 33/10 20100101AFI20240821BHJP
H01L 33/32 20100101ALI20240821BHJP
H01L 33/40 20100101ALI20240821BHJP
【FI】
H01L33/10
H01L33/32
H01L33/40
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023022147
(22)【出願日】2023-02-16
(71)【出願人】
【識別番号】000241463
【氏名又は名称】豊田合成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】水谷 浩一
(72)【発明者】
【氏名】面家 英樹
(72)【発明者】
【氏名】松井 慎一
(72)【発明者】
【氏名】牧野 浩明
【テーマコード(参考)】
5F241
【Fターム(参考)】
5F241AA03
5F241AA24
5F241CA13
5F241CA40
5F241CA87
5F241CA92
5F241CA98
5F241CB15
5F241FF16
(57)【要約】
【課題】紫外線反射率が高く、かつオーミック接触可能なp電極を有した発光素子およびその製造方法を提供する。
【解決手段】発光波長が200nm以上280nm以下であるIII族窒化物半導体からなる発光素子であり、n層11、発光層12、p層14の順に積層された半導体層と、前記p層14上に接して設けられたp電極と、を有し、前記p電極は、前記p層14と接して設けられ、厚さが0.5nm以上6nm以下であり、RuまたはNi/Auであるコンタクト層と、前記コンタクト層上に接して設けられ、厚さが50nm以上であり、AlまたはAlを主とする合金である反射層と、を有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
発光波長が200nm以上280nm以下であるIII族窒化物半導体からなる発光素子において、
n層、発光層、p層の順に積層された半導体層と、
前記p層上に接して設けられたp電極と、
を有し、
前記p電極は、
前記p層と接して設けられ、厚さが0.5nm以上6nm以下であり、RuまたはNi/Auであるコンタクト層と、
前記コンタクト層上に接して設けられ、厚さが50nm以上であり、AlまたはAlを主とする合金である反射層と、を有する発光素子。
【請求項2】
前記コンタクト層はRuであり、前記p電極のコンタクト抵抗率は3×10-3Ω・cm2以下、発光波長における反射率は55%以上である、請求項1に記載の発光素子。
【請求項3】
前記コンタクト層はNi/Auであり、前記p電極のコンタクト抵抗率は2×10-3Ω・cm2以下、発光波長における反射率は40%以上である、請求項1に記載の発光素子。
【請求項4】
前記コンタクト層と前記反射層の界面に、前記コンタクト層の材料と前記反射層の材料とが混在する領域を有しない、請求項1に記載の発光素子。
【請求項5】
発光波長が200nm以上280nm以下であるIII族窒化物半導体からなる発光素子の製造方法において、
基板表面にn層、発光層、p層の順に積層して半導体層を形成する半導体層形成工程と、
前記p層に接して、厚さが0.5nm以上6nm以下のRh、Ru、またはNi/Auであるコンタクト層を形成するコンタクト層形成工程と、
前記p層に対するコンタクト抵抗を低減する熱処理を行う熱処理工程と、
前記コンタクト層に接して、厚さが50nm以上であり、AlまたはAlを主とする合金である反射層を形成し、前記コンタクト層と前記反射層を順に積層したp電極を形成するp電極形成工程と、を有する発光素子の製造方法。
【請求項6】
前記コンタクト層はRhであり、前記p電極のコンタクト抵抗率を2×10-2Ω・cm2以下、発光波長における反射率を70%以上とする、請求項5に記載の発光素子の製造方法。
【請求項7】
前記コンタクト層はRuであり、前記p電極のコンタクト抵抗率を3×10-3Ω・cm2以下、発光波長における反射率を55%以上とする、請求項5に記載の発光素子の製造方法。
【請求項8】
前記コンタクト層はNi/Auであり、前記p電極のコンタクト抵抗率を2×10-3Ω・cm2以下、発光波長における反射率を40%以上とする、請求項5に記載の発光素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は発光素子およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、発光波長がUVC(波長200~280nm)のIII族窒化物半導体からなる紫外線LEDを水や空気などの殺菌、消毒に使用することが注目されており、紫外線LEDの高効率化に向けた研究、開発が盛んに行われている。
【0003】
特許文献1には、UVC発光のIII族窒化物半導体からなる発光素子におけるp電極として、p型半導体層に接触し、厚さが10nm以下のRh層と、Rh層に接触し、厚さが20nm以上のAl層とを有した構造が記載されている。このような構造とすることでコンタクト抵抗を低減するとともに反射率を向上できることが記載されている。また、p電極をアニールすることでRh層とAl層が混ざり合い、Rh層単層に比べて反射率が向上することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
現状、p-AlGaNやp-GaNに対してオーミック接触可能な材料は紫外領域(特にUVC)の光に対して反射率が低い。Alは紫外線領域の光に対して高い反射率を有しているが、p-AlGaNやp-GaNに対してオーミック接触できない。そのため、紫外線反射率が高く、かつオーミック接触可能なp電極が望まれていた。
【0006】
また、特許文献1では、Alの拡散によりp層とAlとが接する可能性があり、コンタクト抵抗が悪化してしまう可能性があった。
【0007】
本発明は、かかる背景に鑑みてなされたものであり、紫外線反射率が高く、かつオーミック接触可能なp電極を有した発光素子およびその製造方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、
発光波長が200nm以上280nm以下であるIII族窒化物半導体からなる発光素子において、
n層、発光層、p層の順に積層された半導体層と、
前記p層上に接して設けられたp電極と、
を有し、
前記p電極は、
前記p層と接して設けられ、厚さが0.5nm以上6nm以下であり、RuまたはNi/Auであるコンタクト層と、
前記コンタクト層上に接して設けられ、厚さが50nm以上であり、AlまたはAlを主とする合金である反射層と、を有する発光素子にある。
【0009】
本発明の他態様は、
発光波長が200nm以上280nm以下であるIII族窒化物半導体からなる発光素子の製造方法において、
基板表面にn層、発光層、p層の順に積層して半導体層を形成する半導体層形成工程と、
前記p層に接して、厚さが0.5nm以上6nm以下のRh、Ru、またはNi/Auであるコンタクト層を形成するコンタクト層形成工程と、
前記p層に対するコンタクト抵抗を低減する熱処理を行う熱処理工程と、
前記コンタクト層に接して、厚さが50nm以上であり、AlまたはAlを主とする合金である反射層を形成し、前記コンタクト層と前記反射層を順に積層したp電極を形成するp電極形成工程と、を有する発光素子の製造方法にある。
【発明の効果】
【0010】
上記発光素子では、コンタクト層によってp層に対するオーミック接触を可能としつつ、反射層によって紫外線も反射することができる。
【0011】
以上のごとく、上記態様によれば、紫外線反射率が高く、かつオーミック接触可能なp電極を有した発光素子およびその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施形態における発光素子の構成を示した図であって基板の主面に垂直な断面図。
【
図2】実施形態における発光素子の電極の平面パターンを示した図。
【
図3】実施形態における発光素子の製造工程を示した図。
【
図4】実施形態における発光素子の製造工程を示した図。
【
図5】実施形態における発光素子の製造工程を示した図。
【
図6】実施形態における発光素子の製造工程を示した図。
【
図7】実施形態における発光素子の製造工程を示した図。
【
図8】実施形態における発光素子の製造工程を示した図。
【
図9】実施形態における発光素子の製造工程を示した図。
【
図10】実施形態における発光素子の製造工程を示した図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
発光素子は、発光波長が200nm以上280nm以下でありIII族窒化物半導体からなる。また、n層、発光層、p層の順に積層された半導体層と、前記p層上に接して設けられたp電極と、を有する。また、前記p電極は、前記p層と接して設けられ、厚さが0.5nm以上6nm以下であり、RuまたはNi/Auであるコンタクト層と、前記コンタクト層上に接して設けられ、厚さが50nm以上であり、AlまたはAlを主とする合金である反射層と、を有する。
【0014】
上記発光素子において、前記コンタクト層はRuであり、前記p電極のコンタクト抵抗率は2×10-3Ω・cm2以下、発光波長における反射率は55%以上であってもよい。
【0015】
上記発光素子において、前記コンタクト層はNi/Auであり、前記p電極のコンタクト抵抗率は2×10-3Ω・cm2以下、発光波長における反射率は40%以上であってもよい。
【0016】
上記発光素子において、前記コンタクト層と前記反射層の界面に、前記コンタクト層の材料と前記反射層の材料とが混在する領域を有しなくてもよい。
【0017】
発光素子の製造方法は、発光波長が200nm以上280nm以下であるIII族窒化物半導体からなる発光素子の製造方法である。そして、基板表面にn層、発光層、p層の順に積層して半導体層を形成する半導体層形成工程と、前記p層に接して、厚さが0.5nm以上6nm以下のRh、Ru、またはNi/Auであるコンタクト層を形成するコンタクト層形成工程と、前記p層に対するコンタクト抵抗を低減する熱処理を行う熱処理工程と、前記コンタクト層に接して、厚さが50nm以上であり、AlまたはAlを主とする合金である反射層を形成し、前記コンタクト層と前記反射層を順に積層したp電極を形成するp電極形成工程と、を有する。
【0018】
上記発光素子の製造方法において、前記コンタクト層はRhであり、前記p電極のコンタクト抵抗率を2×10-2Ω・cm2以下、発光波長における反射率を70%以上としてもよい。
【0019】
前記コンタクト層はRuであり、前記p電極のコンタクト抵抗率を2×10-3Ω・cm2以下、発光波長における反射率を55%以上としてもよい。
【0020】
前記コンタクト層はNi/Auであり、前記p電極のコンタクト抵抗率を2×10-3Ω・cm2以下、発光波長における反射率を40%以上としてもよい。
【0021】
(実施形態)
図1は、実施形態における発光素子の構成を示した図であり、基板に垂直な断面図である。また、
図2は、実施形態における発光素子の電極の平面パターンを示した図である。実施形態における発光素子は、フリップチップ型の紫外発光素子であり、発光波長はUVC、たとえば200~280nmである。
【0022】
1.発光素子の構成
図1に示すように、実施形態における発光素子は、基板10、n層11、発光層12、電子ブロック層13、p層14、p電極15、n電極16、pn電極17A、17B、保護膜18、反射膜19、pパッド電極20、nパッド電極21、反射防止膜22を有している。以下、各構成について説明する。
【0023】
基板10は、c面を主面とするサファイアからなる基板である。サファイア以外にも、発光波長に対して透過率が高く、III族窒化物半導体を成長させることができる材料であれば任意の材料を用いてよい。基板10の厚さは、たとえば0.4~1mmである。この範囲とすることで光取り出し効率の向上を図ることができる。一方で、基板10が厚くなるため、発光素子内に熱がこもりやすくなり、放熱性が低下し、素子寿命の低下を引き起こす。そこで、実施形態では、後述のような電極パターンとすることで放熱性の改善を図っている。
【0024】
基板10の裏面(n層11側とは反対側の面であり、光取り出し側)には、反射防止膜22が設けられている。反射防止膜22を設けることにより、基板10裏面で紫外線が反射して素子側に戻ってしまうことを抑制し、光取り出しを向上させている。
【0025】
反射防止膜22は、単層、または屈折率の異なる材料を交互に積層させた構造であり、光の干渉によって反射が弱め合うように各層の厚さが設定されている。反射防止膜22の材料は、UVCに対して透過性を有した絶縁体である。たとえば、SiO2、HfO2、MgF2などである。
【0026】
n層11は、基板10上にバッファ層(図示しない)を介して位置している。n層11は、n-AlGaNからなる。n型不純物はSiであり、Si濃度が5×1018~5×1019/cm3である。n層11は複数の層で構成されていてもよい。
【0027】
発光層12は、n層11上に位置している。発光層12は、井戸層と障壁層が交互に繰り返し積層されたMQW構造である。繰り返し数はたとえば2~5である。井戸層はAlGaNからなり、そのAl組成は所望の発光波長に応じて設定される。障壁層は、井戸層よりもAl組成の大きなAlGaNである。井戸層よりもバンドギャップエネルギーの大きなAlGaInNでもよい。また、発光層12はSQW構造でもよい。
【0028】
電子ブロック層13は、発光層12上に位置している。電子ブロック層13は、発光層12の障壁層よりもAl組成比の高いp-AlGaNからなる。電子ブロック層13によって、n電極16から注入した電子が発光層12を超えてp層14側に拡散してしまうのを抑制している。
【0029】
p層14は、電子ブロック層13上に位置している。p層14は、p-AlGaNからなる。実施形態における発光素子は、n層11からp層14まですべての半導体層がAlGaNであり、これによって半導体層による紫外線の吸収を抑制している。p層14のAl組成はたとえば5~80%である。p型不純物はMgである。Mg濃度は、1×1019/cm3以上である。p層14はAl組成やMg濃度の異なる複数の層で構成されていてもよい。その場合、p電極15と接する層がAl組成5~80%のp-AlGaNであればよい。また、p層14は、AlGaNに限らず、Alを含むIII族窒化物半導体であればよく、AlGaInNでもよい。
【0030】
p層14表面の一部領域には、n層11に達する深さの孔23が形成されている。孔23はドット状であり、複数の孔23が格子状に配列されて設けられている(
図2参照)。ただし、pパッド電極20の下部に当たる領域(素子の矩形パターンにおける一の角部)には孔23が設けられていない。孔23の底面にはn層11が露出している。n層11を露出させるための孔23をドット状の配列パターンとすることで、面内の発光の均一さを確保しつつ、孔23による発光面積(p層14の面積)の減少をなるべく少なくし、光出力の向上を図っている。
【0031】
各孔23の平面パターンは、たとえば円である。他に、正六角形などの多角形でもよい。正六角形の場合は孔23の側面をm面とするのがよい。孔23の配列パターンは、たとえば正方格子状、正三角格子状、ハニカム状のパターンである。
【0032】
p電極15(コンタクト層)は、p層14上に設けられている。p電極15は、p層14表面のうち、p層14の端辺近傍を除いて設けられており(
図2参照)、これにより発光面積を広く取っている。p電極15は、発光層12から放射される紫外線を基板10側に反射させて光取り出し効率を高める反射電極である。
【0033】
p電極15の材料は、p層14に対して低コンタクトであってUVCの反射率の高い材料であり、Rh、Ru、またはNi/Auである。p電極15の厚さは、0.5~6nmである。Ni/Auについては、Ni層の厚さは1原子層以上であればよい。このような厚さとすることでp電極15に対するコンタクト抵抗を低減しつつ、紫外線を透過させてpn電極17AのAl層により紫外線を反射させることができる。
【0034】
コンタクト抵抗を低減しつつ、紫外線反射率をより高めるため、p電極15の厚さは1~4nmとすることが好ましい。
【0035】
素子上面の面積(孔23とp層14の面積の合計)に対するp電極15の面積の割合は、70%以上とする。孔23およびp電極15の平面パターンはこれを満たすように設定する。たとえば、孔23の直径や配列数、配列間隔を調整する。p電極15の面積を広く取ることにより、p電極15による紫外線の反射を増やし、光取り出し効率を向上させることができる。より好ましくは75%以上である。
【0036】
n電極16は、各孔23の底面に露出するn層11上に設けられている。そのため、n電極16もドット状に配列されたパターンである(
図2参照)。n電極16の材料は、V/Al/Tiを熱処理した構造体である。他にもTi/Al/Tiなどを用いることができる。V/Al/Tiを熱処理した構造体は、具体的には、AlN
xからなる層と、Alを主としVとTiを含む金属からなる層と、Tiからなる層と、を順に積層させた構造である。
【0037】
AlNxからなる層は、厚さ1~3nmである。xは、たとえば0.4~0.7である。またxは、厚さ方向にn層11から離れるにつれて減少していてもよい。この場合はxの厚さ方向の平均が0.4~0.7である。また、n層11側からのGaの拡散がある場合もあり、その場合には、n層11よりもAl組成比が高いAlyGa1-yNx(0.4≦x≦0.7)である。n層11のAl組成比がaであれば、a<y≦1である。yはたとえば0.7以上である。またこの場合も、xは厚さ方向にn層11から離れるにつれて減少していてもよく、yは厚さ方向にn層11から離れるにつれて増加していてもよい。
【0038】
Alを主としVとTiを含む金属からなる層は、厚さ50~500nmである。Al、V、Tiの比率は、たとえばAlが50~85mol%、Vが5~20mol%、Tiが10~30mol%である。
【0039】
上記構造のn電極16では、n層11に対するコンタクト抵抗が低減されている。たとえば、n層11に対するn電極16のコンタクト抵抗率は4×10-4Ω・cm2以下である。その理由は、第1に、AlNxからなる層がn層11に対する良好なコンタクト層として機能しているためと考えられる。また、第2に、n層11表面に窒素空孔が生じ、n型化するためコンタクト抵抗が低下していると考えられる。
【0040】
Tiからなる層は、アロイ時にn電極16中のAlが蒸発してしまうのを抑制するカバ-として設けるものである。Ti以外にもTiN、Ni、Pt、Auなどを用いることができる。
【0041】
pn電極17A、17Bは、p電極15上、n電極16上にそれぞれ設けられている。pn電極17Aの平面パターンは、p電極15の平面パターンと同様である。また、pn電極17Bの平面パターンは、n電極16の平面パターンと同様であり、複数のドットが配列されたパターンである。
【0042】
pn電極17A、17Bの材料は、Al/Ti/Ni/Au/Alである。pn電極17A、17Bのうち第1層であるAl層は、p電極15、n電極16にそれぞれ接している。Al層は紫外線を反射させる反射層である。pn電極17Aは、p電極15の熱処理後に形成されるため、p電極15とAl層との間での原子拡散は生じておらず、p電極15とAl層との界面にp電極材料とAlが混在した層を含まない。そのため、p電極15によるコンタクト抵抗低減効果を損なうことなく、Al層によって紫外線を反射させることができる。つまり、順方向電圧Vfの低減と光取り出し効率の向上とを両立することができる。
【0043】
たとえば、Rh/Alとする場合には、コンタクト抵抗率を2×10-2Ω・cm2以下、UVCにおける紫外線反射率を70%以上とすることができる。また、たとえば、Ru/Alとする場合には、コンタクト抵抗率を3×10-3Ω・cm2以下、UVCにおける紫外線反射率を55%以上とすることができる。また、たとえば、Ni/Au/Alとする場合には、コンタクト抵抗率を2×10-3Ω・cm2以下、UVCにおける紫外線反射率を40%以上とすることができる。
【0044】
pn電極17A、17BにおけるAl層の厚さは、10~500nmである。この範囲とすることで紫外線反射率を十分に高めることができる。Al層による紫外線反射率は50nmあたりまでは厚いほど高く、50nm以上で飽和する。そのため、Al層の厚さのばらつきを考慮すれば80nm以上が好ましい。一方、反射率の飽和、材料コスト、成膜時間などを考慮すれば200nm以下が好ましい。
【0045】
なお、実施形態ではpn電極17A、17BとしてAl/Ti/Ni/Au/Alを用いているが、p電極15と接する第1層がAlであれば他の材料でもよい。また、Alに替えてAlを主とする合金を用いてもよい。
【0046】
保護膜18は、素子上面全体を覆うように設けられている。すなわち、p電極15、n電極16、およびpn電極17A、17Bの側面と表面、半導体層(n層11、発光層12、電子ブロック層13、p層14)の表面と側面、素子分離溝26の側面、孔23の内部、に連続して設けられている。保護膜18の材料はSiO2などである。
【0047】
保護膜18は、第1保護膜18A、第2保護膜18Bの2層で構成され、第1保護膜18Aと第2保護膜18Bの間にAlからなる反射膜19が設けられている。反射膜19は、後述の孔24、25が存在する領域を除いて全面的に設けられている。反射膜19によって基板10側に光を反射させ、光取り出し効率の向上を図っている。また、保護膜18に反射膜19を埋め込むことにより、保護膜18の放熱性を向上させるとともに、反射膜19のマイグレーションを防止している。
【0048】
反射膜19の材料はAlに限らず、発光波長における反射率の高い任意の材料でよい。Alを主とする合金でもよい。また、反射膜19は、第1保護膜18Aと第2保護膜18Bの間ではなく、第1保護膜18A中や第2保護膜18B中に反射膜19を設けてもよい。反射膜19を複数設ける場合、平面パターンを変えてもよい。また、第1保護膜18Aと第2保護膜18Bは同一材料でもよいし異なる材料でもよい。
【0049】
pパッド電極20およびnパッド電極21は、保護膜18上に離間して設けられている。pパッド電極20は、保護膜18に開けられた孔24を介してpn電極17Aと接続されている。また、nパッド電極21は、保護膜18に開けられた孔25を介して各pn電極17Bと接続されている。pパッド電極20およびnパッド電極21の材料は、たとえばTi/Pt/Au/AuSnである。
【0050】
pパッド電極20およびnパッド電極21の平面パターンは、
図2に示すように、素子の矩形パターンより少し内側となる矩形パターンに対し、その矩形の角部においてその矩形の辺に対して45°を成す直線Lに沿った幅Wの線状領域によって2分し、直角二等辺三角形のパターンとなる方をpパッド電極20、他方(矩形の角を落とした形状の五角形)をnパッド電極21とするものである。pパッド電極20の下部にはn電極16は位置しておらず、nパッド電極21の下部に全てのn電極16が位置し、nパッド電極21と接続されている。
【0051】
線状領域の角度は45°に限らないが、線状領域の面積を小さくしてpパッド電極20およびnパッド電極21の面積の和をなるべく大きくするために、45°に近いことが好ましく、たとえば30~60°が好ましく、40~50°がより好ましい。
【0052】
また、線状領域の位置および幅Wは、pパッド電極20およびnパッド電極21の面積の和が、発光面積(p電極15の面積)に対して90%以上となるように設定することが好ましい。もちろん、幅Wは、pパッド電極20とnパッド電極21間で短絡しないような幅とする。たとえば幅Wは100μm以上である。また、pパッド電極20は、サブマウント側と良好に接合できる大きさとする。放熱面積(平面視でp電極15のうちサブマウントと接している領域の面積)を広くして放熱性を高めるためである。
【0053】
pパッド電極20およびnパッド電極21の平面パターンを上記のようにすることで、pパッド電極20とnパッド電極21の面積の和を大きく取ることができ、放熱面積を広くすることができるので、発光素子の放熱性を高めることができる。特に、UVCの発光素子では基板10を厚くして光取り出し効率の向上を図る必要があり、放熱性が低下していたが、上記により放熱性が改善できるため、基板を厚くした場合でも十分な放熱性を確保できる。
【0054】
以上、実施形態における発光素子では、p電極15として厚さが0.5~6nmのRh、Ru、またはNi/Auを用い、pn電極17Aの第1層としてAl層を用いているため、p層14に対してオーミック接触可能としつつ、紫外線反射率を向上させることができる。その結果、実施形態における発光素子では順方向電圧Vfの低減と光取り出し効率の向上を両立することができる。
【0055】
2.発光素子の製造工程
実施形態における発光素子の製造工程について、図を参照に説明する。
【0056】
まず、サファイアからなる基板10を用意する。そして、基板10上に、MOCVD法によってn層11、発光層12、電子ブロック層13、p層14を順に形成する(
図3参照)。
【0057】
次に、p層14の所定領域をドライエッチングし、n層11に達する深さの孔23を複数形成する(
図4参照)。
【0058】
次に、p層14上にスパッタや蒸着によってp電極15を形成する(
図5参照)。次に、孔23の底面に露出するn層11上にスパッタや蒸着によってV層、Al層、Ti層を順に積層してn電極16を形成する(
図6参照)。p電極15よりも先にn電極16を形成してもよいが、なるべくp層14表面が清浄な状態でp電極15を形成したいため、実施形態ではp電極15を先に形成している。
【0059】
次に、温度500~650℃、1~10分間の熱処理を行う。雰囲気は、たとえば窒素などの不活性ガス雰囲気である。熱処理は減圧下で行うことが好ましく、たとえば1×102~1×104Paである。熱処理温度は好ましくは500~600℃である。なお、p電極15としてNi/Auを用いる場合には、酸素を含む雰囲気で熱処理をする。
【0060】
この熱処理は、p層14のMg活性化処理とp電極15およびn電極16の低コンタクト抵抗化とを兼ねている。
【0061】
実施形態では、n電極16としてV/Al/Tiを用いることで熱処理温度を低減し、p層14のMg活性化処理とp電極15およびn電極16のコンタクト抵抗の低減とを共通化して同時に行うことで熱処理回数を減らしている。熱処理温度の低温化と熱処理回数減少の結果、発光素子の電気特性の劣化を抑制できる。
【0062】
ここで、n電極16は、上記熱処理によって次のような構造に変化する。n電極16であるV/Al/TiのうちVはAl中に拡散していき、n層11やTiには拡散しない。この拡散の結果、V層は消失する。また、V/Al/Ti中のAlは、n層11中のNと反応し、n層11とAl層の界面にはAlNxが形成される。Vは、AlとNの反応を促進する触媒のような作用をしていると考えられる。この熱処理の結果、n電極16の構造は、AlNxからなる層と、Alを主としVとTiを含む金属からなる層と、Tiからなる層との3層構造に変化する。
【0063】
n電極16がこのような構造に変化することにより、n層11に対するn電極16のコンタクト抵抗が低減する。その理由はすでに述べたとおりである。すなわち、第1に、AlNxからなる層がn層11に対して良好なコンタクト層として機能していると考えられること、第2に、AlNxの形成によりn層11に窒素空孔が生じたことでn層11のn型化がより促進したと考えられることである。
【0064】
次に、p電極15上およびn電極16上に、スパッタや蒸着によってpn電極17A、17Bをそれぞれ形成する(
図7参照)。pn電極17A、17Bは、Al/Ni/Au/Alであり、第1層であるAl層はp電極15に接している。
【0065】
ここで、p電極15の熱処理後にpn電極17Aを形成しており、pn電極17Aの形成後には熱処理をしていない。そのため、p電極15とpn電極17Aの第1層であるAl層との間で原子の拡散が生じず、p電極15とAl層の界面においてp電極15の原子とAlとが混じり合った領域が形成されない。その結果、p電極15によるp層14への良好なコンタクトを損なわずに、Al層による紫外線反射率の向上を図ることができる。
【0066】
次に、素子分離溝26を形成する。素子分離溝26は基板10が露出する深さである。次に、素子上面全体を覆う第1保護膜18Aを形成する(
図8参照)。第1保護膜18Aの成膜はCVD、スパッタ、蒸着、ALDなどである。膜の緻密性からスパッタ、CVD、ALDが好ましい。
【0067】
次に、第1保護膜18A上であって、後に孔24、25を形成する領域を除く領域に、Alからなる反射膜19を形成する(
図9参照)。反射膜19の成膜は蒸着やスパッタ、パターニングはウェットエッチングである。
【0068】
次に、第1保護膜18A上および反射膜19上に第2保護膜18Bを形成する。第2保護膜18Bの成膜はCVD、スパッタ、蒸着、ALDなどである。膜の緻密性からスパッタが好ましい。これにより第1保護膜18A、第2保護膜18Bを順に積層させた構造であって間に反射膜19が形成された構造の保護膜18を形成する(
図10参照)。
【0069】
なお、素子分離溝26の底面には保護膜18を形成せず、素子ごとに保護膜18が分離していることが好ましい。素子ごとに分割する際、保護膜18に力が加わったり、保護膜18の応力に変動が生じたりしないようにするためである。
【0070】
次に、保護膜18の所定領域をドライエッチングしてpn電極17A、17Bに達する孔24、孔25を形成する。そして、保護膜18上にpパッド電極20、nパッド電極21をそれぞれ形成し、pパッド電極20は孔24を介してpn電極17Aと接続し、nパッド電極21は孔25を介してpn電極17Bと接続するようにする。pパッド電極20、nパッド電極21のパターンは
図2に示す通りである。pパッド電極20、nパッド電極21の成膜は蒸着やスパッタ、パターニングはリフトオフである。
【0071】
次に、基板10の裏面を研磨して基板10を所定の厚さとし、その後に基板10裏面に反射防止膜22を形成する。そして、基板10を個々の素子に分割する。以上によって
図1に示す実施形態における発光素子が製造される。
【0072】
3.実験結果
実施形態に係る各種実験結果について説明する。
【0073】
実験例1
サファイア基板上にNi/Auを形成し、熱処理を行った後、Au層上にAl層を形成し、サファイア基板側から波長275nmの紫外線を照射して反射率を測定した。また、比較のためNi/Auのみの場合についても同様に反射率を測定した。
【0074】
図11は、試料a~eの反射率を示したグラフである。試料a~eはNi/Auの厚さとAl層の有無が異なっている。各試料a~eにおけるNi/Auの層、Al層の厚さは下記表1の通りである。表1中、Ni/Auの欄には、全体の厚さに加え、Ni層とAu層の厚さを括弧内に記載している。
【0075】
【0076】
図11のように、Ni/Au/Alの構造においては、Ni/Auが薄いほど反射率が向上することが分かった。特に、Ni/Auの厚さを6nm以下とすれば、Ni/Auのみの構造とする場合よりも反射率を向上できることが分かり、反射率を35%以上にできることが分かった。したがって、Ni/Au/Alの構造としてNi/Auの厚さを6nm以下とすることで、p層14にオーミック接触可能としつつ、紫外線反射率を向上できることが分かった。
【0077】
実験例2
サファイア基板上にRh層を形成し、熱処理を行った後、Al層を形成し、実験例1と同様に反射率を測定した。また比較のためRhのみとした場合についても同様に反射率を測定した。
【0078】
図12は、各試料f、gの反射率を示したグラフである。試料fがRh単層で厚さ150nmの場合、試料gがRh/AlでRh層4nm、Al層150nmの場合である。
【0079】
図12のように、Rh単層の反射率よりもRh/Alの反射率の方が高く、反射率を70%以上にできることが分かった。この結果、Rh/Alの構造とすることでオーミック接触可能としつつ、紫外線反射率を向上できることが分かった。
【0080】
実験例3
サファイア基板上にRu層を形成し、熱処理を行った後、Al層を形成し、実験例1と同様に反射率を測定した。また比較のためRuのみとした場合についても同様に反射率を測定した。
【0081】
図13は、各試料h、iの反射率を示したグラフである。試料hがRu単層で厚さ150nmの場合、試料iがRu/AlでRu層4nm、Al層150nmの場合である。
【0082】
図13のように、Ru単層の反射率よりもRu/Alの反射率の方が高く、反射率を55%以上にできることが分かった。この結果、Ru/Alの構造とすることでオーミック接触可能としつつ、紫外線反射率を向上できることが分かった。
【符号の説明】
【0083】
10:基板
11:n層
12:発光層
13:電子ブロック層
14:p層
15:p電極
16:n電極
17A、17B:pn電極
18:保護膜
18A:第1保護膜
18B:第2保護膜
19:反射膜
20:pパッド電極
21:nパッド電極