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特開2024-116506ポリウレタンフォーム、衝撃吸収材、及び、物品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024116506
(43)【公開日】2024-08-28
(54)【発明の名称】ポリウレタンフォーム、衝撃吸収材、及び、物品
(51)【国際特許分類】
   C08G 18/00 20060101AFI20240821BHJP
   C08G 18/65 20060101ALI20240821BHJP
   C08G 101/00 20060101ALN20240821BHJP
【FI】
C08G18/00 K
C08G18/65 011
C08G101:00
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023022170
(22)【出願日】2023-02-16
(71)【出願人】
【識別番号】593139123
【氏名又は名称】株式会社ロジャースイノアック
(71)【出願人】
【識別番号】000119232
【氏名又は名称】株式会社イノアックコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100110227
【弁理士】
【氏名又は名称】畠山 文夫
(72)【発明者】
【氏名】桐山 卓也
(72)【発明者】
【氏名】花木 紗緒理
(72)【発明者】
【氏名】折笠 理加
【テーマコード(参考)】
4J034
【Fターム(参考)】
4J034BA07
4J034BA08
4J034CA03
4J034CA04
4J034CA05
4J034CB02
4J034CB03
4J034CB04
4J034CB05
4J034CC03
4J034CC08
4J034CC37
4J034CD04
4J034DF01
4J034DF02
4J034DF16
4J034DF20
4J034DF22
4J034DG03
4J034DG04
4J034DG15
4J034DP18
4J034DQ05
4J034DQ16
4J034DQ18
4J034HA01
4J034HA02
4J034HA06
4J034HA07
4J034HA08
4J034HB05
4J034HB06
4J034HB07
4J034HB08
4J034HB09
4J034HB12
4J034HC03
4J034HC12
4J034HC17
4J034HC22
4J034HC33
4J034HC35
4J034HC46
4J034HC52
4J034HC61
4J034HC64
4J034HC65
4J034HC67
4J034HC71
4J034HC73
4J034KA01
4J034KB02
4J034KB05
4J034KD03
4J034KD07
4J034KD11
4J034KD12
4J034KE02
4J034MA03
4J034NA08
4J034QA01
4J034QA02
4J034QA03
4J034QA05
4J034QB01
4J034QB14
4J034QB19
4J034QC01
4J034RA03
4J034RA08
4J034RA13
4J034RA14
(57)【要約】
【課題】低温域において優れた衝撃吸収性を示すポリウレタンフォーム、並びに、これを用いた衝撃吸収材及び物品を提供すること。
【解決手段】ポリウレタンフォームは、発泡したポリウレタン樹脂からなるマトリックスと、前記マトリックス内に分散しているフィラーとを備えている。前記フィラーは、脂肪酸処理された炭酸カルシウムからなる。ポリウレタンフォームは、硬度比が10.0未満であるものが好ましい。但し、「硬度比」とは、23℃における10%CLDに対する、-10℃における10%CLDの比をいう。衝撃吸収材は、このようなポリウレタンフォームを備えている。物品は、このようなポリウレタンフォームを備え、前記物品はインソール、アームレストクッション用クッション材、又は、ショルダーパッド用クッション材である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
発泡したポリウレタン樹脂からなるマトリックスと、
前記マトリックス内に分散しているフィラーと
を備え、
前記フィラーは、脂肪酸処理された炭酸カルシウムである
ポリウレタンフォーム。
【請求項2】
ポリオール成分と、ポリイソシアネート成分と、前記フィラーと、造泡用気体とを含む原料混合物を反応及び発泡させることにより得られ、
前記ポリオール成分は、
(a)重量平均分子量が1000以上である1種又は2種以上の高分子量ポリオールと、
(b)重量平均分子量又は分子量が1000未満である1種又は2種以上の低分子量ポリオールと
を含む
請求項1に記載のポリウレタンフォーム。
【請求項3】
硬度比が10.0未満である請求項1に記載のポリウレタンフォーム。
但し、
前記「硬度比」とは、23℃における10%CLDに対する、-10℃における10%CLDの比をいい、
前記「10%CLD」とは、
(a)φ50.0mmの円柱形状の試験片が30%の歪みに達するまで1.0mm/分の速度で圧縮し、圧縮力とたわみとの関係(圧縮力-変形曲線)を記録し、
(b)記録された圧縮力-変形曲線から、たわみが10%のときの圧縮力(N)を求め、
(c)たわみが10%のときの圧縮力(N)を試験片の面積(mm2)で除すこと
により得られる値をいう。
【請求項4】
密度が100kg/m3以上500kg/m3以下である請求項1に記載のポリウレタンフォーム。
【請求項5】
請求項1に記載のポリウレタンフォームを備える衝撃吸収材。
【請求項6】
請求項1に記載のポリウレタンフォームを備える物品であって、
前記物品がインソール、アームレストクッション用クッション材、又は、ショルダーパッド用クッション材である
物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリウレタンフォーム、衝撃吸収材、及び、物品に関し、さらに詳しくは、低温域において優れた衝撃吸収性を示すポリウレタンフォーム、並びに、このようなポリウレタンフォームを用いた衝撃吸収材及び物品に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリウレタンとは、ウレタン結合(-NH-C(O)O-)を有する高分子化合物をいう。ポリウレタンは、一般に、ポリオールの水酸基(-OH)と、ポリイソシアネートのイソシアネート基(-NCO)とを反応させることにより得られる。ポリウレタンは、ポリオール及び/又はポリイソシアネートの種類を最適化することにより、多様な性質を示すことが知られている。そのため、ポリウレタンは、各種自動車部品、合成皮革、塗料、接着剤などに応用されている。また、ポリウレタンを発泡させたポリウレタンフォームは、断熱材、クッション材などに応用されている。
【0003】
連通気泡を有するポリウレタンフォームは、粘弾性を示す。また、弾性を抑え、粘性を高めたポリウレタンフォームは、ヒステリシスロスが大きく、反発弾性率が小さくなるので、高い衝撃吸収性を示す。そのため、このような衝撃吸収性に優れたポリウレタンフォームは、衝撃吸収材、保護用マット、緩衝材、振動吸収材、靴用インソール、靴底用クッション、枕用クッション、座布団用クッション、椅子用クッション、寝具用クッションなどに使用されている。
【0004】
このような衝撃吸収性に優れたポリウレタンフォームに関し、従来から種々の提案がなされている。例えば、特許文献1には、平均官能基数が2~3であり水酸基価が20~200mgKOH/gのポリオールと、ポリイソシアネートと、塩素原子を含まない樹脂マイクロバルーンと、触媒とを含む組成物を反応させることにより得られる低反発発泡ポリウレタン樹脂が開示されている。
【0005】
同文献には、
(A)低硬度のポリウレタンは粘着性があり、手に密着して使用しにくい点、
(B)低硬度のポリウレタンにマイクロバルーンを添加すると、手に密着しにくくなるが、ウレタン樹脂の硬化中にマイクロバルーンが浮上するために、成形品の上下で密度差が生じる点、及び、
(C)ポリオールとして、官能基数が2~3である多価フェノールのアルキレンオキシド付加物を10重量%以上含む混合物を用いると、マイクロバルーンの浮上による成形品の上下の密度差を低減できる点
が記載されている。
【0006】
衝撃吸収性に優れたポリウレタンフォームは、低温域において、ポリウレタンフォームの感触が悪くなり、目的とする衝撃吸収性が得られない場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2016-113537号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、低温域において優れた衝撃吸収性を示すポリウレタンフォームを提供することにある。
また、本発明が解決しようとする他の課題は、このようなポリウレタンフォームを備えた衝撃吸収材及び物品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために本発明に係るポリウレタンフォームは、
発泡したポリウレタン樹脂からなるマトリックスと、
前記マトリックス内に分散しているフィラーと
を備え、
前記フィラーは、脂肪酸処理された炭酸カルシウムである。
【0010】
本発明に係る衝撃吸収材は、本発明に係るポリウレタンフォームを備えている。
さらに、本発明に係る物品は、
本発明に係るポリウレタンフォームを備え、
前記物品がインソール、アームレストクッション用クッション材、又は、ショルダーパッド用クッション材である。
【発明の効果】
【0011】
衝撃吸収性に優れたポリウレタンフォームを製造するための原料混合物にフィラーを添加する場合において、フィラーとして表面処理が施されていない炭酸カルシウムを用いたときには、フィラーの分散性が低下し、ケーキングを起こしやすくなる。また、原料混合物の粘度が上昇して流動性が低下し、シート成形が困難となる場合がある。さらに、このようにして得られたポリウレタンフォームは、低温域において硬度が上昇し、衝撃吸収性が低下する。
【0012】
これに対し、フィラーとして脂肪酸処理が施された炭酸カルシウムを用いると、フィラーの添加量が多い場合であっても、ケーキングが抑制され、原料混合物の粘度の上昇も抑制される。さらに、得られたポリウレタンフォームは、低温域における硬度の上昇が抑制されるために、低温域においても優れた衝撃吸収性を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一実施の形態について詳細に説明する。
[1. ポリウレタンフォーム]
本発明に係るポリウレタンフォームは、
発泡したポリウレタン樹脂からなるマトリックスと、
前記マトリックス内に分散しているフィラーと
を備えている。
【0014】
[1.1. マトリックス]
本発明に係るポリウレタンフォームは、ポリオール成分と、ポリイソシアネート成分と、フィラーと、造泡用気体とを含む原料混合物を反応及び発泡させることにより得られる。そのため、ポリウレタンフォームのマトリックスは、発泡したポリウレタン樹脂からなる。また、マトリックス内にはフィラーが分散している。本発明に係るポリウレタンフォームの製造方法の詳細については、後述する。
【0015】
[1.2. フィラー]
[1.2.1. 材料]
本発明において、フィラーは、脂肪酸処理された炭酸カルシウムからなる。フィラーとして脂肪酸処理された炭酸カルシウムを用いると、原料混合物中におけるフィラーの分散性が向上し、かつ、原料混合物の粘度上昇を抑制することができる。また、脂肪酸処理された炭酸カルシウムは、ポリウレタンフォームの常温域の硬度と低温域の硬度との差を小さくする作用がある。
【0016】
炭酸カルシウムの表面を修飾する脂肪酸の種類は、特に限定されない。
脂肪酸としては、例えば、
(a)デカン酸、ドデカン酸、テトラデカン酸、ペンタデカン酸、ヘキサデカン酸、ヘプタデカン酸、オクタデカン酸、及びイコサン酸などの飽和脂肪酸、
(b)ヘキサデセン酸、オクタデセン酸、オクタデカジエン酸、オクタデカトリエン酸、イコサン酸、イコサジエン酸、イコサトリエン酸、イコサテトラトリエン酸、テトラドコサン酸などの不飽和脂肪酸
などが挙げられる。
【0017】
[1.2.2. 形状]
フィラーの形状は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な形状を選択することができる。
【0018】
[1.2.3. 平均粒径]
「フィラーの平均粒径」とは、空気透過法により測定された値をいう。
【0019】
フィラーの平均粒径は、フィラーの分散性に影響を与える。フィラーの平均粒径が大きくなり過ぎると、原料混合物中に添加したときに、フィラーが沈降しやすくなる。フィラーの沈降を抑制するためには、フィラーの平均粒径は、20.0μm以下が好ましい。平均粒径は、さらに好ましくは、15.0μm以下、10.0μm以下、あるいは、5.0μm以下である。
【0020】
[1.2.4. 含有量]
「フィラーの含有量(mass%)」とは、ポリウレタンフォームの総質量に対する、フィラーの質量の割合をいう。
【0021】
フィラーの含有量が少なくなりすぎると、常温域での硬度と低温域での硬度との差が大きくなる場合がある。従って、フィラーの含有量は、15.0mass%以上が好ましい。含有量は、さらに好ましくは、17.5mass%以上、あるいは、20.0mass%以上である。
一方、フィラーの含有量が過剰になると、原料混合物の粘度が過度に上昇し、シート成形が困難となる場合がある。従って、フィラーの含有量は、55.0mass%以下が好ましい。含有量は、さらに好ましくは、52.5mass%以下、あるいは、50.0mass%以下である。
【0022】
[1.3. 特性]
[1.3.1. 硬度比]
「硬度比」とは、23℃における10%CLDに対する、-10℃における10%CLDの比をいう。
「10%CLD(Compression-Load-Deflection)」とは、
(a)φ50.0mmの円柱形状の試験片が30%の歪みに達するまで1.0mm/分の速度で圧縮し、圧縮力とたわみとの関係(圧縮力-変形曲線)を記録し、
(b)記録された圧縮力-変形曲線から、たわみが10%のときの圧縮力(N)を求め、
(c)たわみが10%のときの圧縮力(N)を試験片の面積(mm2)で除すこと
により得られる値をいう。
10%CLDの値は試験片の厚さtにあまり依存しないので、tには多少の幅があっても良い。試料の厚さtは、具体的には、3.0mm±0.5mmが好ましい。
【0023】
マトリックス内にフィラーを分散させる場合において、フィラーとして表面処理が施されていない炭酸カルシウムを用いると、ポリウレタンフォームの低温(-10℃)における硬さは、室温(23℃)における硬さに比べて著しく高くなる。その結果、硬度比は、10.0以上となる。
【0024】
これに対し、フィラーとして脂肪酸処理された炭酸カルシウムを用いると、理由の詳細は不明であるが、低温域における硬さの上昇が抑制される。しかも、フィラーの含有量が多くなるほど、低温域における硬さの上昇が抑制される。その結果、硬度比が10.0未満であるポリウレタンフォームが得られる。製造条件を最適化すると、硬度比は、9.0以下、8.0以下、7.0以下、6.0以下、あるいは、5.0以下となる。
【0025】
[1.3.2. 密度]
本発明に係るポリウレタンフォームを製造する場合において、造泡用気体の配合量を変えると、ポリウレタンフォームの密度を比較的広範囲に制御することができる。製造条件を最適化すると、密度が100kg/m3以上500kg/m3以下であるポリウレタンフォームが得られる。
【0026】
[1.4. 用途]
本発明に係るポリウレタンフォームは、常温域だけでなく、低温域においても優れた衝撃吸収性を示す。そのため、本発明に係るポリウレタンフォームは、衝撃吸収材の材料として好適である。
また、本発明に係るポリウレタンフォームは、衝撃吸収性を必要とする各種の物品の材料として使用することができる。
このような物品としては、例えば、インソール、アームレストクッション用クッション材、ショルダーパッド用クッション材などがある。
【0027】
[2. ポリウレタンフォームの製造方法]
本発明に係るポリウレタンフォームは、ポリオール成分と、ポリイソシアネート成分と、フィラーと、造泡用気体とを含む原料混合物を反応及び発泡させることにより得られる。
【0028】
[2.1. 主原料]
[2.1.1. ポリオール成分]
「ポリオール成分」とは、本発明に係るポリウレタンフォームを製造するための主原料の1つをいう。
ポリオール成分は、1種類のポリオールを含むものでも良く、あるいは、2種以上を含むものでも良い。
【0029】
[A. 材料]
ポリオール成分に含まれるポリオールの種類は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な材料を選択することができる。ポリオールは、エーテル系ポリオール、エステル系ポリオール、エーテルエステル系ポリオール、ポリマーポリオール、ポリカーボネートポリオール、アクリルポリオールのいずれであっても良い。ポリオールとしては、具体的には、以下のようなものがある。
【0030】
エーテル系ポリオールとしては、例えば、
(a)エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ブチレングリコール、ネオペンチルグリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン、ソルビトール、シュークロース等の多価アルコール、
(b)多価アルコールにエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド等のアルキレンオキサイドを付加したポリエーテルポリオール
などがある。
【0031】
エステル系ポリオールとしては、例えば、
(a)マロン酸、コハク酸、アジピン酸等の脂肪族カルボン酸やフタル酸等の芳香族カルボン酸と、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール等の脂肪族グリコール等とから重縮合して得られたポリエステルポリオール(例えば、フタル酸エステルポリオール)、
(b)ポリカプロラクトンポリオール、
などがある。
【0032】
ポリマーポリオールとしては、例えば、ポリエーテルポリオール等のポリオール中において、アクリロニトリルやスチレン等のエチレン性不飽和モノマーを重合させて得られるポリマー粒子を分散させたものなどがある。
【0033】
ポリカーボネートポリオールとは、炭酸エステル結合基を主として有するポリオールをいう。ポリカーボネートポリオールは、例えば、低分子ポリオールと、ジメチルカーボネート、ジフェニルカーボネート、エチレンカーボネート、ホスゲン等のカーボネート化合物との反応によって得ることが可能である。
アクリルポリオールとは、アクリル酸誘導体モノマーを重合させることにより得られる高分子化合物、又は、アクリル酸誘導体モノマー及びその他のモノマーとを共重合させることにより得られる高分子化合物のうち、末端にヒドロキシル基を持つものをいう。
【0034】
[B. 重量平均分子量、分子量]
ポリウレタンフォームは、1種類のポリオールを用いて製造されたものでも良く、あるいは、2種以上のポリオールを用いて製造されたものでも良い。
ポリウレタンフォームが2種以上のポリオールを用いて製造されたものである場合、ポリオール成分は、
(a)重量平均分子量又は分子量が同等である2種以上のポリオールの混合物でも良く、あるいは、
(b)重量平均分子量又は分子量が異なる2種以上のポリオールの混合物でも良い。
【0035】
衝撃吸収性に優れたポリウレタンフォームを得るためには、ポリオール成分は、
1種又は2種以上の高分子量ポリオールと、
1種又は2種以上の低分子量ポリオールと
を含むものが好ましい。
【0036】
ここで、
「高分子量ポリオール」とは、重量平均分子量が1000以上であるポリオールをいい、
「低分子量ポリオール」とは、重量平均分子量又は分子量が1000未満であるポリオールをいう。
「重量平均分子量」とは、標準ポリスチレン試料を用いて作成した検量線に基づいて、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)で測定して求められたポリスチレン換算分子量をいう。
「分子量」とは、化学式に基づく式量をいう。
【0037】
第i番目(i≧1)の高分子量ポリオールの重量平均分子量(Mwi)は、それぞれ、好ましくは、1500以上、さらに好ましくは、2000以上である。
第j番目(j≧1)の低分子量ポリオールの重量平均分子量又は分子量(Mwj)は、それぞれ、好ましくは、800以下、さらに好ましくは、600以下である。
【0038】
[C. 低分子量ポリオールの含有量]
「低分子量ポリオールの含有量(mass%)」とは、ポリオール成分が高分子量ポリオールと低分子量ポリオールとの混合物である場合において、
ポリオール成分の総重量(WT)に対する、低分子量ポリオールの総重量(WL)の割合(=WL×100/WH)をいう。
【0039】
低分子量ポリオールの含有量は、主として、ポリウレタンフォームの衝撃吸収性に影響を与える。低分子量ポリオールの含有量が少なくなりすぎると、衝撃吸収性が低下する場合がある。従って、低分子量ポリオールの含有量は、30.0mass%以上が好ましい。含有量は、さらに好ましくは、40.0mass%以上、あるいは、50mass%以上である。
一方、低分子量ポリオールの含有量が過剰になると、かえって衝撃吸収性が低下する場合がある。従って、低分子量ポリオールの含有量は、75.0mass%以下が好ましい。含有量は、さらに好ましくは、70.0mass%以下、あるいは、65.0mass%以下である。
【0040】
[2.1.2. ポリイソシアネート成分]
「ポリイソシアネート成分」とは、本発明に係るポリウレタンフォームを製造するための主原料の他の1つをいう。
ポリイソシアネート成分は、1種類のポリイソシアネートを含むものでも良く、あるいは、2種以上を含むものでも良い。
【0041】
[A. 材料]
ポリイソシアネートとしては、
(a)芳香族系イソシアネート化合物、脂肪族系イソシアネート化合物、若しくは、脂環族系イソシアネート化合物、
(b)上記化合物の変性物
などがある。
【0042】
芳香族系イソシアネート化合物としては、例えば、
ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、
粗製ジフェニルメタンジイソシアネート(クルードMDI)、
トリレンジイソシアネート(TDI)、ナフタレンジイソシアネート(NDI)、
p-フェニレンジイソシアネート(PPDI)、キシレンジイソシアネート(XDI)、
テトラメチルキシレンジイソシアネート(TMXDI)、
トリジンジイソシアネート(TODI)等が挙げられる。
【0043】
これらの中でも、MDIは、ポリウレタンフォームを製造するためのポリイソシアネートとして好適である。MDIは、3種類の異性体、すなわち、
2,2’-ジフェニルメタンジイソシアネート(2,2’-MDI)、
2,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(2,4’-MDI)、及び
4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(4,4’-MDI)
が存在する。ポリイソシアネートは、これらのいずれか1種の異性体を含むものでも良く、あるいは、2種以上を含むものでも良い。
【0044】
脂肪族系イソシアネート化合物としては、例えば、
ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、リシンジイソシアネート(LDI)、
リシントリイソシアネート(LTI)等が挙げられる。
【0045】
脂環族系イソシアネート化合物としては、例えば、
イソホロンジイソシアネート(IPDI)、
シクロヘキシルジイソシアネート(CHDI)、水添加XDI(H6XDI)、
水添加MDI(H12MDI)等が挙げられる。
【0046】
変性イソシアネート化合物としては、例えば、イソシアネート化合物のウレタン変性体、2量体、3量体、カルボジイミド変性体、アロファネート変性体、ビュレット変性体、ウレア変性体、イソシアヌレート変性体、オキサゾリドン変性体、イソシアネート基末端プレポリマー等が挙げられる。
【0047】
[B. ポリイソシアネート成分の平均官能基数]
「ポリイソシアネート成分の平均官能基数」とは、ポリイソシアネート1分子当たりの官能基数の平均値をいう。
ポリイソシアネート成分の平均官能基数は、衝撃吸収性、引張強度、及び/又は、圧縮残留歪に影響を与える。そのため、ポリイソシアネート成分の平均官能基数は、目的に応じて最適な値を選択するのが好ましい。
【0048】
一般に、ポリイソシアネート成分の平均官能基数が大きくなるほど、引張強度が高くなり、及び/又は、圧縮残留歪が小さくなる。このような効果を得るためには、ポリイソシアネート成分の平均官能基数は、2.05以上が好ましい。平均官能基数は、さらに好ましくは、2.07以上、さらに好ましくは、2.10以上である。
一方、ポリイソシアネート成分の平均官能基数が大きくなりすぎると、衝撃吸収性が低下する場合がある。従って、ポリイソシアネート成分の平均官能基数は、3.00以下が好ましい。平均官能基数は、さらに好ましくは、2.90以下、2.80以下、2.70以下、2.60以下、2.50以下、あるいは、2.40以下である。
【0049】
[C. イソシアネートインデックス]
「イソシアネートインデックス」とは、原料組成物中の活性水素基の当量に対する、原料組成物中のポリイソシアネートのイソシアネート基の当量の比に100を掛けた値をいう。
【0050】
一般に、イソシアネートインデックスが大きくなるほど、引張強度が高くなる。このような効果を得るためには、イソシアネートインデックスは、80以上が好ましい。イソシアネートインデックスは、さらに好ましくは、85以上、90以上、あるいは、95以上である。
一方、イソシアネートインデックスが高くなりすぎると、架橋点の数が過剰となり、衝撃吸収性が低下する場合がある。従って、イソシアネートインデックスは、130以下が好ましい。イソシアネートインデックスは、さらに好ましくは、125以下、120以下、あるいは、115以下である。
【0051】
[2.1.3. フィラー]
本発明において、フィラーには、脂肪酸処理された炭酸カルシウムが用いられる。フィラーの詳細については、上述した通りであるので、説明を省略する。
なお、フィラーとして、脂肪酸処理された炭酸カルシウムに代えて、又は、これに加えて、脂肪酸処理された水酸化アルミニウムを用いても良い。
【0052】
[2.1.4. 造泡用気体]
[A. 材料]
造泡用気体は、ポリオール成分とポリイソシアネート成分との反応に悪影響を及ぼさないものである限りにおいて、特に限定されない。
造泡用気体としては、例えば、
(a)乾燥空気、
(b)窒素等の不活性ガス
などがある。
【0053】
[B. 含有量]
「造泡用気体の含有量」とは、造泡用気体を除いた原料の体積を100としたときの造泡用気体の体積をいう。
【0054】
造泡用気体の含有量が少なくなりすぎると、発泡が不十分となる場合がある。従って、造泡用気体の含有量は、10体積部以上が好ましい。含有量は、さらに好ましくは、40体積部以上、あるいは、50体積部以上である。
一方、造泡用気体の含有量が過剰になると、造泡された液体中で破泡や合一が発生し易くなる。従って、造泡用気体の含有量は、95体積部以下が好ましい。含有量は、さらに好ましくは、85体積部以下、あるいは、75体積部以下である。
【0055】
[2.2. その他の添加物]
本発明に係るポリウレタンフォームを製造するための原料混合物には、上述したポリオール成分、ポリイソシアネート成分、フィラー、及び造泡用気体に加えて、以下の成分が含まれていても良い。各成分の添加量は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な添加量を選択するのが好ましい。
【0056】
[2.2.1. 架橋剤]
原料混合物は、架橋剤を含んでいても良い。原料混合物に架橋剤を添加すると、ポリウレタンフォームの硬度を調整することができる。
本発明において、架橋剤の種類は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適なものを選択することができる。架橋剤は、特に、水酸基価が800mgKOH/g超であり、かつ、官能基数が2以上であるものが好ましい。架橋剤としては、例えば、ジプロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールなどがある。
【0057】
[2.2.2. 整泡剤]
原料組成物は、整泡剤を含んでいても良い。整泡剤は、原料混合物を機械発泡させる際に巻き込みガスの分散を容易にし、気泡を安定化させ、気泡構造を調整するためのものである。本発明において、整泡剤の種類は特に限定されない
整泡剤としては、例えば、
(a)シリコーン系整泡剤、
(b)含フッ素化合物系整泡剤、
(c)ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム等のアニオン系界面活性剤、
(d)フェノール系化合物、
などがある。
【0058】
[2.2.3. 触媒]
原料組成物は、樹脂化触媒を含んでいても良い。樹脂化触媒は、ポリオールのOH基と、ポリイソシアネートのNCO基との反応を促進させるための触媒である。本発明において、樹脂化触媒の種類は特に限定されない。樹脂化触媒としては、例えば、例えば、アミン系触媒、金属触媒などがある。
【0059】
アミン系触媒としては、例えば、
1,2-ジメチルイミダゾール、1-メチルイミダゾール、
N・(N',N'-ジメチルアミノエチル)-モルホリン、テトラメチルグアニジン、
ジメチルアミノエタノール、トリエチレンジアミン、
N-メチル-N'-(2ヒドロキシエチル)-ピペラジン、
N,N,N',N'-テトラメチルプロパン1,3-ジアミン、
N,N,N',N'-テトラメチルエチレンジアミン、
N,N,N',N",N"-ペンタメチル-(3-アミノプロピル)エチレンジアミン、
N,N'-ジメチルピペラジン、
N,N,N',N'-テトラメチルヘキサン-1,6-ジアミン、
N,N,N',N",N"-ペンタメチルジプロピレン-トリアミン、
N-(2-ヒドロキシエチル)モルホリン、
エチレングリコールビス(3-ジメチル)-アミノプロピルエーテル、
N,N-ジメチルシクロヘキシルアミン、
N-メチル-N'-(2ジメチルアミノ)エチルピペラジン
などがある。
【0060】
金属触媒としては、例えば、有機錫化合物、有機鉄化合物、有機ビスマス化合物、有機鉛化合物、有機亜鉛化合物などがある。
【0061】
[2.2.4. 酸化防止剤]
原料組成物は、酸化防止剤を含んでいても良い。酸化防止剤は、ポリウレタンフォームの酸化による劣化を抑制するためのものである。本発明において、酸化防止剤の種類は、特に限定されない。
酸化防止剤としては、例えば、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤、リン系酸化防止剤などがある。
【0062】
[2.2.5. 吸湿剤]
原料組成物は、吸湿剤を含んでいても良い。吸湿剤は、原料混合物に含まれる水分を除去し、ポリイソシアネートが水分と反応するのを抑制するためのものである。ポリイソシアネートと水分が反応すると、CO2ガスが発生し、気泡の制御が困難となる場合がある。本発明において、吸湿剤の種類は特に限定されない。
吸湿剤としては、例えば、モレキュラーシーブ、合成ゼオライト、シリカ粉末、アルミナ粉末、水酸化リチウム粉末、水酸化バリウム粉末などがある。
【0063】
[2.3. 原料混合物の反応]
本発明に係るポリウレタンフォームは、メカニカルフロス法を用いて製造される。「メカニカルフロス法」とは、
(a)高せん断ミキサーを用いて、不活性ガスを吹き込みながら原料組成物を混合することにより、微細な気泡を含む発泡原料組成物とし、
(b)発泡原料組成物を基材(例えば、PETフィルム)の表面に塗布し、
(c)塗膜を所定の温度に加熱し、硬化させる
方法をいう。
本発明において、原料組成物の反応条件は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な条件を選択することができる。
【0064】
[3. 作用]
衝撃吸収性に優れたポリウレタンフォームを製造するための原料混合物にフィラーを添加する場合において、フィラーとして表面処理が施されていない炭酸カルシウムを用いたときには、フィラーの分散性が低下し、ケーキングを起こしやすくなる。また、原料混合物の粘度が上昇して流動性が低下し、シート成形が困難となる場合がある。さらに、このようにして得られたポリウレタンフォームは、低温域において硬度が上昇し、衝撃吸収性が低下する。
【0065】
これに対し、フィラーとして脂肪酸処理が施された炭酸カルシウムを用いると、フィラーの添加量が多い場合であっても、ケーキングが抑制され、原料混合物の粘度の上昇も抑制される。さらに、得られたポリウレタンフォームは、低温域における硬度の上昇が抑制されるために、低温域においても優れた衝撃吸収性を示す。
【実施例0066】
(実施例1~8、比較例1)
[1. 試料の作製]
表1に、使用したポリオール、架橋剤、整泡剤、触媒、酸化防止剤、吸湿剤、及び、ポリイソシアネートの一覧を示す。表2に、使用したフィラーの一覧を示す。
表1及び表2に示す原料を所定の比率で配合した。原料組成物をミキシングヘッド内に投入し、不活性ガス(窒素)を混入しながら均質となるように攪拌して混合し、微細な気泡を含む発泡原料混合物を得た。発泡原料混合物をPETフィルム上に塗布し、塗膜を200℃で加熱硬化させ、厚さ3.0mmのシートを得た。
【0067】
【表1】
【0068】
【表2】
【0069】
[2. 試験方法]
[2.1. 10%CLD、及び、硬度比]
JIS K 6254:2010に準拠して、23℃及び-10℃における10%CLDを測定した。さらに、得られた10%CLDを用いて硬度比を算出した。
【0070】
[2.2. 密度]
JIS K 6401:2011に準拠して密度を測定した。
【0071】
[2.3. ケーキング]
ポリオールA、B、C、架橋剤、及び、フィラーを含む原料混合物を混合した後、1日静置し、沈殿の有無を目視により評価した。
【0072】
[3. 結果]
表3に、結果を示す。なお、表3には、各試料の原料配合も併せて示した。原料配合の数値は、それぞれ、質量部を表す。また、ケーキングに関し、「○」は1日静置後に沈殿が生じなかったことを表し、「△」は1日静置後に少量の分離が認められたが、再攪拌が容易であったことを表し、「×」は1日静置後に沈殿が生じたことを表す。表3より、以下のことが分かる。
【0073】
(1)比較例1は、硬度比が10.0を超えた。これは、フィラーとして、表面処理が施されていない炭酸カルシウム(フィラーA)を用いたためと考えられる。
(2)実施例1~8は、いずれも、硬度比が10.0以下であった。
(3)脂肪酸処理された炭酸カルシウムをフィラーとして用いた場合、フィラーの添加量が多くなるほど、23℃における10%CLDは増加し、かつ、-10℃における10%CLD低下した。その結果、フィラーの添加量が多くなるほど、硬度比が低下した。
【0074】
(4)実施例1、5、8は、不活性ガスの添加量を変えることで、ポリウレタンフォームの密度を変えた例である。ポリウレタンフォームの密度が低くなるほど、10%CLD(-10℃、23℃)が低下する傾向が見られた。また、ポリウレタンフォームの密度が低くなるほど、硬度比が増加する傾向が見られた。
【0075】
【表3】
【0076】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の改変が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明に係るポリウレタンフォームは、衝撃吸収材、保護用マット、緩衝材、振動吸収材、靴用インソール、靴底用クッション、枕用クッション、座布団用クッション、椅子用クッション、寝具用クッションなどに使用することができる。
【0078】
また、本発明に係るポリウレタンフォームは、
(a)液晶ディスプレイ等の各種画像表示装置の背面側に配置して、表示装置が受ける衝撃を吸収するクッション材、
(b)携帯電話、スマートフォン、携帯情報端末等の移動体通信に使用されるタッチパネル等の表示部材、カメラ、レンズのクッション材
などの電子・電気機器用クッション材として使用することができる。
また、本発明に係るポリウレタンフォームは、粘着テープの基材やガスケット、シール材としても用いることができる。