(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024116520
(43)【公開日】2024-08-28
(54)【発明の名称】超音波デバイス
(51)【国際特許分類】
H04R 17/00 20060101AFI20240821BHJP
【FI】
H04R17/00 330J
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023022191
(22)【出願日】2023-02-16
(71)【出願人】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179475
【弁理士】
【氏名又は名称】仲井 智至
(74)【代理人】
【識別番号】100216253
【弁理士】
【氏名又は名称】松岡 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100225901
【弁理士】
【氏名又は名称】今村 真之
(72)【発明者】
【氏名】小島 力
(72)【発明者】
【氏名】久保 景太
(72)【発明者】
【氏名】今井 克浩
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 博則
【テーマコード(参考)】
5D019
【Fターム(参考)】
5D019AA07
5D019BB02
5D019GG01
(57)【要約】
【課題】音響整合層による周波数毎の超音波の透過ムラを抑制して効率よく超音波を出力可能な超音波デバイスを提供する。
【解決手段】超音波デバイスは、第一面及び第一面とは反対側の第二面が平坦面となる振動板と、第一面に設けられて対象物に接する音響整合層と、第二面に設けられる圧電素子と、第二面において法線方向から見て枠状に形成されて圧電素子を囲うように配置され、振動板の振動を抑制する抑制部と、を備え、音響整合層の厚さをt、超音波の音速をV、第一面から送信される超音波の中心周波数をfとした場合に、t≦V/fを満たす。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一面及び前記第一面とは反対側の第二面が平坦面となる振動板と、
前記第一面に設けられて対象物に接する音響整合層と、
前記第二面に設けられる圧電素子と、
前記第二面において、前記第二面の法線方向から見て枠状に形成されて前記圧電素子を囲うように配置され、前記振動板の振動を抑制する抑制部と、
を備え、
前記音響整合層の厚さをt、超音波の音速をV、前記第一面から送信される超音波の中心周波数をfとした場合に、t≦V/fを満たす、超音波デバイス。
【請求項2】
前記音響整合層の厚みtは、t≧0.5V/fを満たす、
請求項1に記載の超音波デバイス。
【請求項3】
前記音響整合層の厚みtは2mm以下である、
請求項1に記載の超音波デバイス。
【請求項4】
前記圧電素子により振動する前記振動板の振動速度に対する、前記振動板の振動により発生する力を示す放射インピーダンスを、前記第二面の法線方向から見た場合の前記振動板の前記抑制部に囲われる部分の面積、前記振動板の密度、及び前記対象物における音速で除算した規格化放射インピーダンスが0.8以上1以下である、
請求項1に記載の超音波デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、生体に超音波を送信する超音波デバイスとして、開口部が形成された基板と、開口部を閉塞する振動板と、振動板の開口部とは反対側に積層された圧電素子とを備えるものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
そして、特許文献1の超音波デバイスでは、振動板の基板とは反対側、つまり、圧電素子が積層される側に、圧電素子を囲う抑制部が設けられる。この抑制部は、振動板の振動を抑制することで、振動板の振動領域を規定する。これにより、圧電素子に電圧を印加した場合に、振動板の抑制部で囲われる部分が振動し、抑制部で囲われた領域の面積に応じた周波数の超音波が出力される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、生体等の対象物に、超音波デバイスを接触させて超音波を送信する場合、開口部の内部に気泡が入り込み超音波の送信を阻害してしまう。
これに対し、気泡の影響を抑制するために、開口部に対象物と音響インピーダンスが近い音響整合部を充填することで、気泡の混入を抑制することも考えられる。しかしながら、音響整合部は、超音波の透過率に波長依存性があり、超音波デバイスから出力する超音波を広帯域化しようとすると、超音波の透過率に周波数毎の波長ムラが生じてしまうとの課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の第一態様に係る超音波デバイスは、第一面及び前記第一面とは反対側の第二面が平坦面となる振動板と、前記第一面に設けられて対象物に接する音響整合層と、前記第二面に設けられる圧電素子と、前記第二面において、前記第二面の法線方向から見て枠状に形成されて前記圧電素子を囲うように配置され、前記振動板の振動を抑制する抑制部と、を備え、前記音響整合層の厚さをt、超音波の音速をV、前記第一面から送信される超音波の中心周波数をfとした場合に、t≦V/fを満たす。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】本開示の一実施形態の超音波デバイスの概略構成を示す断面図。
【
図2】本実施形態の超音波デバイスを超音波の出射面側から見た平面図。
【
図3】本実施形態の超音波デバイスにおいて、7MHzを中心周波数として1~10MHzの範囲で超音波の周波数を変化させた場合の周波数に対する音圧の変化を示す図。
【
図4】本実施形態の超音波デバイスにおいて、15MHzを中心周波数として11~20MHzの範囲で超音波の周波数を変化させた場合の周波数に対する音圧の変化を示す図。
【
図5】本実施形態の超音波デバイスにおいて、0.5MHzを中心周波数として0.1~1.0MHzの範囲で超音波の周波数を変化させた場合の周波数に対する音圧の変化を示す図。
【
図6】比較例である従来の超音波デバイスの概略構成と、本実施形態の超音波デバイスの概略構成とを比較する図。
【
図7】抑制部の距離と規格化放射インピーダンスとの関係を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本開示の一実施形態に係る超音波デバイスについて説明する。
図1は、本実施形態の超音波デバイス1の概略構成を示す断面図であり、
図2は、本実施形態の超音波デバイス1を超音波の出射面側から見た平面図である。
超音波デバイス1は、対象物に対して少なくとも超音波を送信する装置であり、対象物の内部で反射された超音波を受信する機能を備えていてもよい。対象物としては、例えば人体等の生体、コンクリート構造物、配管等を流れる流体等を例示できる。例えば、生体に対して超音波を出力する超音波デバイス1としては、生体内の所定の深さの器官に対して超音波を出力することで、当該器官の超音波治療を行うものが例示できる。また、生体内に超音波を送信し、生体内で反射された超音波を受信することで、生体内の内部断層像を得る装置としても利用できる。また、構造物に超音波を出力する超音波デバイス1としては、構造物の内部構造を非破壊で調査する装置として利用できる。配管に超音波を出力する超音波デバイス1としては、配管内に超音波による定在波を形成して、配管内の流体に含まれる微粒子を捕捉する装置として利用できる。
本実施形態では、一例として、生体に対して超音波を出力する超音波デバイス1について説明する。
本実施形態の超音波デバイス1は、
図1に示すように、振動板11と、圧電素子12と、抑制部13と、封止板14と、音響整合層15とを備える。
【0008】
振動板11は、第一基板111と、第二基板112とを備える。第一基板111は、例えばSi等の半導体基板により構成される平坦な板状基板である。第二基板112は、第一基板111に積層される基板であり、例えばSiO2やZrO2等の金属酸化物により構成される平坦な板状基板である。
第一基板111の第二基板112とは反対側の面は、本開示の第一面11Aを構成する。また、第二基板112の第一基板111とは反対側の面は、本開示の第二面11Bを構成し、第一面11Aとは表裏を成す。
ここで、以降の説明にあたり、第一面11Aから第二面11Bに向かう方向、つまり第一面11A及び第二面11Bの法線方向をZ方向とする。また、Z方向に直交する方向をX方向とし、X方向及びZ方向に直交する方向をY方向とする。
【0009】
上述ように、第一基板111及び第二基板112へ平坦な板状部材であり、第一面11A及び第二面11Bも平坦面であり、XY平面に平行な面となる。より具体的には、第一面11Aは、少なくとも表面粗さ(算術平均粗さ)が10μm以下に形成されていることが好ましい。これにより、第一面11Aでの超音波の乱反射を抑制でき、超音波デバイスから音響整合層15との界面での超音波の損失をよく抑制できる。
ここで、第一基板111は、第二基板112よりも厚みが大きく形成されている。第二基板112は、圧電素子12の後述する圧電体層122の形成に必要となり、例えば、圧電体層122を、PZTにより構成する場合、第二基板112としてZrO2やSiO2の層を形成することで、圧電体層122を適正に形成させることができる。
ところで、本実施形態では、金属酸化物により構成された第二基板112を設けることで、好適に圧電体層122を形成することが可能となるが、その後、第二基板112を除去してもよい。この場合、振動板11は第一基板111のみにより構成され、第一基板111の一方の面が第一面11A、他方の面が第二面11Bとなる。また、圧電素子12の形成箇所以外の第二基板112を除去するようにしてもよい。
【0010】
圧電素子12は、振動板11の第二基板112上、つまり、第二面11Bに設けられており、
図1に示すように、第一電極121、圧電体層122、及び第二電極123が-Z方向に積層されることで構成される。また、本実施形態における圧電体層122は、Pbを含有するペロブスカイト型遷移金属酸化物により構成されており、例えば、本実施形態ではPbとZrとTiとを含むPZTである。
ここで、Z方向において、第一電極121、圧電体層122、及び第二電極123が互いに重なる部分は、第一電極121及び第二電極123の間に電圧を印加した場合に伸縮する能動部となる。圧電素子12が伸縮することで、当該圧電素子12が設けられた振動板11が振動して超音波が出力される。また、振動板11に超音波が入力されると、振動板11が振動し、圧電素子12の圧電体層122が歪むことにより上下(±Z側)の電極間で電位差が発生する。したがって、第一電極121及び第二電極123の間に発生する電位差を検出することにより、超音波の受信を検出することが可能となる。
なお、
図1では、図の簡略化のため、1つの圧電素子12が設けられる例を示すが、X方向及びY方向に沿って、又はX方向及びY方向のいずれかに沿って、複数の圧電素子12がアレイ状に配置される構成としてもよい。
【0011】
抑制部13は、振動板11の第二面11Bに設けられる部材であり、例えば永久レジスト等により構成される。具体的には、抑制部13は、Z方向から見た際に、圧電素子12の外周を囲う枠状に形成されている。この抑制部13は、振動板11の振動を抑制することで、圧電素子12によって振動される振動板11の振動領域を規定する。すなわち、本実施形態では、振動板11のうち、抑制部13によって囲われる部分が振動することで、超音波が出力される。
封止板14は、振動板11に比べてZ方向の厚みが十分に大きく、抑制部13を介して振動板11に接合されることで、振動板11を補強し、かつ、抑制部13が振動板11とともに振動することを抑制する。
【0012】
音響整合層15は、振動板11の第一面11Aに設けられている。本実施形態では、振動板11の第一面11Aが連続な平坦面であり、当該第一面11A上に均一な厚みの音響整合層15が形成される。このため、例えば、基板に設けられた開口部に音響整合層を充填する従来構成とは異なり、気泡の発生が抑制される。
ここで、本実施形態の超音波デバイス1は、振動板11の振動により超音波を直接接触する対象に送信することができる。しかしながら、音響整合層15が設けられず、振動板11を生体に密着させる場合、例えば、剛性が高い振動板11と、弾力があり柔らかい生体表面との間に空間(気泡)が生じる可能性が高い。このため、生体より硬い平坦な振動板11の第一面11Aを生体表面に密着させることはより困難であり、ジェル等の用いても気泡も発生しやすい。また、振動板11を対象物に押し付けることで、振動板11が破損する恐れもある。
このため、振動板11と生体との間に、気泡の発生を抑制でき、振動板11の破損も抑制可能な、振動板11よりも柔らかい緩衝部材として音響整合層15が設けられている。また、緩衝部材として生体との音響インピーダンスが近い音響整合層15を設けることで、生体との間の界面における超音波の反射を抑制でき、適切に生体に対して超音波を送信することができる。
【0013】
[音響整合層15の厚み]
次に、音響整合層15の厚みについて説明する。
本実施形態では、対象物として生体を例示し、この場合、診断部位の器官の深さにより、超音波の中心周波数を0.5~15MHzの範囲内で設定されることが好ましい。また、超音波デバイス1としては、特定の深さにのみ対応した周波数を設定するのではなく、中心周波数を中心にした所定の周波数範囲で、出力する超音波の周波数を変更可能な構成とすることがより好ましい。
【0014】
図3は、7MHzを中心周波数として1~10MHzの範囲で超音波の周波数を変化させた場合の周波数に対する音圧の変化を示す図である。
図4は、15MHzを中心周波数として11~20MHzの範囲で超音波の周波数を変化させた場合の周波数に対する音圧の変化を示す図である。
図5は、0.5MHzを中心周波数として0.1~1.0MHzの範囲で超音波の周波数を変化させた場合の周波数に対する音圧の変化を示す図である。
図3から
図5において、グレーの実線は、音響整合層15を設けない場合(0λ)の音圧を示す。また、音響整合層15の厚みをtとして、超音波の波長をλとした場合に、実線はt=1.0λの場合の音圧、破線は1.8λの場合の音圧、一点鎖線は0.5λの場合の音圧、二点鎖線は0.25λの場合の音圧を示している。
【0015】
図3から
図5において、音響整合層15を設けない場合、理論上では、超音波デバイス1の第一面11Aから周波数に応じた理想的な音圧で超音波が出力される。しかしながら、上述したように、音響整合層15がない場合、剛性が高い振動板11を直接生体に押圧する必要があり、振動板11の破損や気泡の発生が問題となる。
【0016】
一方、音響整合層15を形成する場合、
図3から
図5に示すように、超音波の周波数によっては、音圧が変化する。
すなわち、音響整合層15は、超音波の透過率に波長依存性を有し、一部の周波数域に対して、超音波の透過率が低下、すなわち生体に伝達される超音波の音圧が低下する。特に、生体の表面から超音波を送信して浅い深度から深い深度まで超音波診断や超音波治療を行う場合、超音波の広帯域化が必要となる場合がある。この場合、周波数によって音圧が著しく変動すると、治療効率や診断精度に影響するため好ましくない。
そこで、本実施形態では、音響整合層15の厚みtを、第一面11Aから出力される超音波の中心周波数fと、音響整合層15を通過する超音波の音速Vとに基づいて、少なくともt≦V/fを満たす厚みに形成されている。超音波の波長をλとするとV=fλであるため、上記を言い換えると、音響整合層15の厚みtは、t≦1.0λを満たす。
【0017】
例えば、音響整合層15の厚みをt=1.8λとした超音波デバイス1では、中心周波数を7MHzに設定した場合に、
図3に示すように、6MHz近傍、8MHz近傍、10MHz近傍において、音響整合層15を設けない場合に比べて音響整合層15を透過する音圧が大きく変動する。
【0018】
これに対して、音響整合層15の厚みをt=1.0λとした超音波デバイス1では、中心周波数を7MHzに設定した場合、周波数によって音響整合層15を透過する音圧が上下するものの、2~10MHzの周波数範囲で、音響整合層15の厚みをt=1.8λとした場合よりも音響整合層15を透過する音圧の変動が小さくなる。また、中心周波数を15MHzに設定する場合も同様であり、11~20MHzの周波数範囲で、音響整合層15の厚みを1.8λとした場合よりも、音響整合層15透過する音圧の変動が小さくなる。音響整合層15の厚みをt=0.5λとした超音波デバイス1でも同様であり、中心周波数を7MHzに設定した場合でも、中心周波数を15MHzに設定する場合でも、音響整合層15を透過する音圧の変動が小さくなる。
また、音響整合層15の厚みをt=0.25λとした超音波デバイス1では、0.1~20MHzの周波数範囲で著しい音圧の変動はない。
【0019】
以上から、t≦1.0λを満たすように、音響整合層15が形成されていることが好ましく、より好ましくは、0.5λ≦t≦1.0λである。これにより、中心周波数によらず、広い周波数範囲で、音響整合層15による音圧の変動を抑制できる。
【0020】
ところで、V=λfであり、本実施形態では、t≦1.0λとの条件から、V≧tfである。つまり、t≦V/fとの条件が成り立つ。よって、超音波の中心周波数fが小さくなる程、許容される音響整合層15の厚みtを厚くできる。
例えば、中心周波数fをより小さい0.5MHzとした場合では、
図5に示すように、音響整合層15の厚みtによらず、音圧変動の影響を十分小さくできる。
【0021】
具体的には、超音波の音速VをV=1000m/sとし、中心周波数fをf=0.5MHzとすると、t≦2.0mmとなる。一方、中心周波数fをf=15MHzとすると、0.03mm≦t≦0.07mmとなる。
すなわち、音響整合層15の厚みtを、0.03mm≦t≦2.0mmとすることで、対象物を生体(水)とした場合に、音圧変動の影響を抑制することができ、効率よく超音波を対象物に出力することができる。
【0022】
[抑制部により囲われた振動板の面積について]
図6は、比較例である従来の超音波デバイス90の概略構成と、本実施形態の超音波デバイス1の概略構成とを比較する図である。
従来の超音波デバイス90では、
図6に示すように、支持基板91に複数の開口部911が形成され、開口部911を閉塞するように振動板92が設けられる。また、Z方向から見て、開口部911と重なる位置に振動板92上に複数の圧電素子93が設けられ、これらの圧電素子93の間に、抑制部94が設けられる。本実施形態の超音波デバイス1と同様、抑制部94の支持基板91とは反対側には封止板95が設けられる。また、開口部911には、音響整合層96が充填される。
【0023】
比較例の超音波デバイス90は、開口部911の縁と、抑制部94の縁とにより囲われた振動板92の振動領域が決定されるが、本実施形態に対して、振動領域の面積、より具体的には、周波数を決定する短軸方向の抑制部間の距離が小さい。
図7は、抑制部間距離と規格化放射インピーダンスとの関係を示す図である。なお、放射インピーダンスは、圧電素子の変位速度、つまり振動板の振動速度に対する、振動板の振動による反作用力を示す値である。また、放射インピーダンスを、Z方向から見て振動板11の抑制部13に囲われる部分の面積、振動板11の密度、及び対象物における音速で除算した値と、規格化した放射インピーダンス(規格化放射インピーダンス)とする。
【0024】
比較例の超音波デバイス90では、抑制部間距離は、100μmよりも小さく、規格化放射インピーダンスは0.4未満となる。例えば、抑制部間距離が60μmの場合、規格化放射インピーダンスは、0.2程度となる。
しかしながら、超音波デバイス1,90から対象物(生体)に効率よく超音波を送信するためには、放射インピーダンスをより高めることが好ましい。これに対して、本実施形態では、規格化放射インピーダンスが0.8以上1。0以下となるように形成されている。具体的には、本実施形態の超音波デバイス1は、抑制部間距離は、200μm以上であり、これにより、規格化放射インピーダンスを0.8以上1以下にでき、例えば、抑制部間距離が300μmである場合、規格化放射インピーダンスは0.95であり、比較例の4.7倍の規格化放射インピーダンスが得られる。
【0025】
[本実施形態の作用効果]
本実施形態の超音波デバイス1は、第一面11A及び第二面11Bが平坦面となる振動板11と、第一面11Aに設けられて対象物に接する音響整合層15と、第二面11Bに設けられる圧電素子12と、第二面11Bにおいて、Z方向から見て枠状に形成されて圧電素子12を囲うように配置されて振動板11の振動を抑制する抑制部13と、を備え、音響整合層15の厚さをt、音響整合層15を通過する超音波の音速をV、第一面11Aから送信される超音波の中心周波数をfとした場合に、t≦V/f、つまり、t≦1.0λを満たす。
このような超音波デバイス1では、音響整合層15を設けることで、超音波デバイス1を生体に押し付けた場合でも振動板11の破損を抑制でき、気泡の発生も抑制できる。これに加え、超音波デバイス1は、
図3から
図5に示すように、音響整合層15による周波数毎の超音波透過率のムラを制でき、広い周波数範囲で音圧変動を抑制できる。つまり、周波数によらず、効率よく超音波を対象物に送信することができ、波長ムラを抑制できる。
【0026】
さらに、音響整合層15の厚さを0.5λ≦t≦1.0λとすることが好ましい。これにより、広い周波数範囲で、音響整合層15を用いたとしても音圧の変動を抑制でき、対象物に対してより高い効率で超音波を送信することができる。
【0027】
より具体的に、対象物を生体(水)とした場合に、音響整合層の厚みtを、t≦2mmとすることが好ましい。これにより、対象物を生体(水)とした場合に音圧の変動をより抑制できる。
【0028】
本実施形態の超音波デバイス1において、放射インピーダンスを、Z方向から見た場合の振動板11の抑制部13に囲われる部分の面積、振動板11の密度、及び超音波の音速で除算した規格化放射インピーダンスが0.8以上1.0以下である。
これにより、超音波デバイス1から対象物に効率よく超音波を出力することができる。
【0029】
[変形例]
なお、本発明は上述の各実施形態及び変形例に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良、及び各実施形態を適宜組み合わせる等によって得られる構成は本発明に含まれるものである。
【0030】
上記実施形態では、対象物を生体として説明したが、これに限定されない。例えば対象物として、コンクリートのような構造物であってもよく、空気であってもよい。
この場合、音響整合層15として、対象物に近い音響インピーダンスを有する素材を用いることが好ましい。また、対象物が異なることで、対象物を通過する超音波の音速も異なるため、音圧変動を抑制可能な音響整合層15の厚みtも、対象物によって変化する。
【0031】
上記実施形態において、具体的な例示として、対象物を生体とし、超音波の音速VをV=1000m/sとした場合に、音響整合層15の厚みtを2.0mm以下とすることが好ましいとしたが、上記のように、超音波が伝搬する音速が著しく異なる他の対象物である場合、対象物に応じて音響整合層15の厚みが異なる。この場合でも、厚みtを、V/2f≦t≦V/fとして音響整合層15を形成すればよい。すなわち、t≧0.5V/fを満たすように音響整合層15を形成すればよい。
【0032】
[本開示のまとめ]
本開示の第一態様に係る超音波デバイスは、第一面及び前記第一面とは反対側の第二面が平坦面となる振動板と、前記第一面に設けられて対象物に接する音響整合層と、前記第二面に設けられる圧電素子と、前記第二面において、前記第二面の法線方向から見て枠状に形成されて前記圧電素子を囲うように配置され、前記振動板の振動を抑制する抑制部と、を備え、前記音響整合層の厚さをt、超音波の音速をV、前記第一面から送信される超音波の中心周波数をfとした場合に、t≦V/fを満たす。
これにより、音響整合層15により振動板の破損や気泡の混入を抑制できる。また、周波数を変更した場合でも音圧変動を抑制できる。
【0033】
本態様の超音波デバイスにおいて、前記音響整合層の厚みtは、t≧0.5V/fを満たすことが好ましい。
これにより、上記態様と同様に、音圧変動をより抑制でき、対象物に対してより高い効率で超音波を送信することができる。
【0034】
本態様の超音波デバイスにおいて、音響整合層の厚みtは2mm以下であることが好ましい。
これにより、対象物が水や、水を主成分として生体である場合に、音圧変動を抑制するでき、水や生体に対する超音波の送信効率を向上させることができる。
【0035】
本態様の超音波デバイスにおいて、前記圧電素子により振動する前記振動板の振動速度に対する、前記振動板の振動により発生する力を示す放射インピーダンスを、前記第二面の法線方向から見た場合の前記振動板の前記抑制部に囲われる部分の面積、前記振動板の密度、及び前記対象物における音速で除算した規格化放射インピーダンスが0.8以上1以下であることが好ましい。
これにより、高い効率で超音波を対象物に送信することができる。
【符号の説明】
【0036】
1…超音波デバイス、11…振動板、11A…第一面、11B…第二面、12…圧電素子、13…抑制部、14…封止板、15…音響整合層、111…第一基板、112…第二基板、121…第一電極、122…圧電体層、123…第二電極。