(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024116521
(43)【公開日】2024-08-28
(54)【発明の名称】基材密着性に優れたハードコート剤
(51)【国際特許分類】
C09D 201/02 20060101AFI20240821BHJP
C08F 220/20 20060101ALI20240821BHJP
C08F 226/02 20060101ALI20240821BHJP
C09D 201/06 20060101ALI20240821BHJP
C09D 4/00 20060101ALI20240821BHJP
【FI】
C09D201/02
C08F220/20
C08F226/02
C09D201/06
C09D4/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023022192
(22)【出願日】2023-02-16
(71)【出願人】
【識別番号】000003975
【氏名又は名称】日東紡績株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 崇伸
(72)【発明者】
【氏名】照内 洋子
【テーマコード(参考)】
4J038
4J100
【Fターム(参考)】
4J038CG171
4J038CH261
4J038CJ141
4J038FA111
4J038GA07
4J038GA09
4J038GA13
4J038KA04
4J038MA09
4J038NA01
4J038NA11
4J038PA17
4J038PA19
4J038PC08
4J100AA03Q
4J100AL08Q
4J100AL10R
4J100AL62P
4J100AL63P
4J100AL66P
4J100AL67P
4J100AM21Q
4J100AN03Q
4J100AN14Q
4J100AP01Q
4J100BA02P
4J100BA03P
4J100BA56Q
4J100BA65Q
4J100BC43P
4J100CA03
4J100DA44
4J100DA48
4J100FA03
4J100FA18
4J100JA01
(57)【要約】
【課題】紫外線、熱等により硬化して高硬度のハードコート層を形成できるハードコート剤であって、ポリ塩化ビニル等の難接着性材料製の基材への密着性にも優れたハードコート剤を提供する。
【解決手段】(a)分子中に2以上のエチレン性不飽和基を有する化合物、(b)酸性官能基及びアミノ基を有する遊離又はカチオン性のポリマー、並びに(c)重合開始剤、を含有する、ハードコート剤。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)分子中に2以上のエチレン性不飽和基を有する化合物、
(b)酸性官能基及びアミノ基を有する遊離又はカチオン性のポリマー、並びに
(c)重合開始剤、
を含有する、ハードコート剤。
【請求項2】
(a)分子中に2以上のエチレン性不飽和基を有する化合物が、ジアクリレート又はトリアクリレートである、請求項1に記載のハードコート剤。
【請求項3】
(b)酸性官能基及びアミノ基を有する遊離又はカチオン性のポリマーが、酸性官能基を有する構成単位(1)及びアミノ基を有する構成単位(2)を有する、請求項1又は2に記載のハードコート剤。
【請求項4】
酸性官能基を有する構成単位(1)が、(i)分子中にエチレン性不飽和基と酸性基を有する化合物から導かれる、請求項3に記載のハードコート剤。
【請求項5】
アミノ基を有する構成単位(2)が、(2a)アリルアミン系構成単位、又は(2b)ジアリルアミン系構成単位である、請求項3に記載のハードコート剤。
【請求項6】
酸性官能基を有する構成単位(1)とアミノ基を有する構成単位(2)とのモル比が、10:1~1:20である、請求項3に記載のハードコート剤。
【請求項7】
(b)酸性官能基及びアミノ基を有する遊離又はカチオン性のポリマーの添加量が、ハードコート剤の全質量に対して1~50質量%である、請求項1又は2に記載のハードコート剤。
【請求項8】
(c)重合開始剤が、(c1)光重合開始剤、又は(c2)熱ラジカル発生剤である、請求項1又は2に記載のハードコート剤。
【請求項9】
更に、(d1)1以上のエポキシ基及び1以上のエチレン性不飽和基を有する化合物を含有する、請求項1又は2に記載のハードコート剤。
【請求項10】
更に(e)界面活性剤を含有する、請求項1又は2に記載のハードコート剤。
【請求項11】
ポリ塩化ビニル、GFRP、ABS、PET、又はポリ(メタ)アクリル製基材のコート用である、請求項1又は2に記載のハードコート剤。
【請求項12】
基材上に請求項1又は2に記載のハードコート剤を塗布する工程、及び該ハードコート剤を硬化する工程、を有するハードコート付き物品の製造方法。
【請求項13】
前記基材がポリ塩化ビニル、GFRP、ABS、PET、又はポリ(メタ)アクリル製基材である、請求項12に記載のハードコート付き物品の製造方法。
【請求項14】
前記ハードコート剤を硬化する工程において、紫外線の照射又は加熱が行われる、請求項12に記載のハードコート付き物品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハードコート剤に関し、より具体的には、外線、熱等により硬化してハードコート層を形成することができ、ポリ塩化ビニル等の難接着性の基材への密着性に優れたハードコート剤及びその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチック板やプラスチックフィルム等のプラスチック基材、ガラス等の無機基材には、その表面への耐擦傷性の付与等の目的で、しばしばハードコート層が設けられる。
硬化のタイミングや硬化時間等に関するプロセス上の自由度等の観点から、ハードコート層の形成に用いられるハードコート剤として、紫外線照射や熱ラジカル発生剤による硬化が可能なハードコート剤が提案されている。
例えば特許文献1では、エチレン性不飽和基と酸性基を有する化合物、エチレン性不飽和基と塩基性基を含む化合物、及び水を含む系において、更にグリセリンジアクリレート/グリセリントリアクリレート混合物等を架橋剤として用いた、低照度の活性エネルギー線でも硬化性に優れたハードコート剤が提案されている。
【0003】
近年、ハードコート層を設ける対象となる基材の種類は一層拡大し、これに伴い有機基材のみならず無機基材に対しても優れた基板密着性を示すハードコート剤が提案されている(例えば、特許文献2参照。)。
しかしながら特許文献2をはじめとする従来技術のハードコート剤は、ポリ塩化ビニル等の難接着性材料に対して必ずしも優れた基材密着性を実現できておらず、その改善が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2018-188607号公報
【特許文献2】特開2022-160186号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述の従来技術の限界に鑑み、本発明は、紫外線、熱等により硬化して高硬度のハードコート層を形成できるハードコート剤であって、ポリ塩化ビニル等の難接着性材料製の基材への密着性にも優れたハードコート剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは鋭意検討の結果、ハードコート剤組成物に酸性官能基及びアミノ基を有する遊離又はカチオン性のポリマーを添加することで、ポリ塩化ビニル等の難接着性材料を含有する基材への密着性を大幅に向上させることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち本発明は、
[1]
(a)分子中に2以上のエチレン性不飽和基を有する化合物、
(b)酸性官能基及びアミノ基を有する遊離又はカチオン性のポリマー、並びに
(c)重合開始剤、
を含有する、ハードコート剤、に関する。
【0007】
以下、[2]から[11]は、いずれも本発明の好ましい一態様又は一実施形態である。
[2]
(a)分子中に2以上のエチレン性不飽和基を有する化合物が、ジアクリレート又はトリアクリレートである、[1]に記載のハードコート剤。
[3]
(b)酸性官能基及びアミノ基を有する遊離又はカチオン性のポリマーが、酸性官能基を有する構成単位(1)及びアミノ基を有する構成単位(2)を有する、[1]又は[2]に記載のハードコート剤。
[4]
酸性官能基を有する構成単位(1)が、(i)分子中にエチレン性不飽和基と酸性基を有する化合物から導かれる、[3]に記載のハードコート剤。
[5]
アミノ基を有する構成単位(2)が、(2a)アリルアミン系構成単位、又は(2b)ジアリルアミン系構成単位である、[3]又は[4]に記載のハードコート剤。
[6]
酸性官能基を有する構成単位(1)とアミノ基を有する構成単位(2)とのモル比が、10:1~1:20である、[3]から[5]のいずれか一項に記載のハードコート剤。
[7]
(b)酸性官能基及びアミノ基を有する遊離又はカチオン性のポリマーの添加量が、ハードコート剤の全質量に対して1~50質量%である、[1]から[6]のいずれか一項に記載のハードコート剤。
[8]
(c)重合開始剤が、(c1)光重合開始剤、又は(c2)熱ラジカル発生剤である、[1]から[7]のいずれか一項に記載のハードコート剤。
[9]
更に、(d1)1以上のエポキシ基及び1以上のエチレン性不飽和基を有する化合物を含有する、[1]から[8]のいずれか一項に記載のハードコート剤。
[10]
更に(e)界面活性剤を含有する、[1]から[9]のいずれか一項に記載のハードコート剤。
[11]
ポリ塩化ビニル、GFRP、ABS、PET、又はポリ(メタ)アクリル製基材のコート用である、[1]から[10]のいずれか一項に記載のハードコート剤。
[12]
基材上に[1]から[10]のいずれか一項に記載のハードコート剤を塗布する工程、及び該ハードコート剤を硬化する工程、を有するハードコート付き物品の製造方法。
[13]
前記基材がポリ塩化ビニル、GFRP、ABS、PET、又はポリ(メタ)アクリル製基材である、[12]に記載のハードコート付き物品の製造方法。
[14]
前記ハードコート剤を硬化する工程において、紫外線の照射又は加熱が行われる、[12]又は[13]に記載のハードコート付き物品の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明のハードコート剤は、紫外線、熱等による硬化で高硬度のハードコート層が形成可能であり、かつポリ塩化ビニル等の難接着性材料を含有する基材への密着性にも優れる、という実用上高い価値を有する特性を兼ね備えるものであり、高いプロセス上の自由度を有するとともに、広範な種類の材料で構成される基材、部材上へのハードコート層形成において好適に使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明のハードコート剤は、
(a)分子中に2以上のエチレン性不飽和基を有する化合物、
(b)酸性官能基及びアミノ基を有する遊離又はカチオン性のポリマー
(c)重合開始剤、
の各成分を含有する。
以下、各成分について詳説する。
【0010】
(a)分子中に2以上のエチレン性不飽和基を有する化合物
本発明のハードコート剤は、(a)分子中に2以上のエチレン性不飽和基を有する化合物を含有する。
(a)成分は、架橋剤等として機能し、本発明のハードコート剤に適切な硬化性を付与することができる。また、ハードコート剤の粘度やその他の物性を調整することもできる。
(a)成分は、分子中に2以上のエチレン性不飽和基を有する化合物であればよく、特にそれ以外の制限を受けない。
(a)成分は、2個以上のエチレン性不飽和基を有する化合物であるので、「多官能エチレン性不飽和化合物」とも呼ぶこともできる。
【0011】
(a)成分の例としては、2個の(メタ)アクリロイル基を有する(メタ)アクリレート(以下、「2官能(メタ)アクリレート」という)、及び2個以上の(メタ)アクリロイル基を有する(メタ)アクリレート(以下、「3官能以上(メタ)アクリレート」という)等を挙げることができる。
【0012】
2官能(メタ)アクリレートとしては、具体的には、ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物のジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールFのアルキレンオキサイド付加物のジ(メタ)アクリレート、ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート及びノナンジオールジ(メタ)アクリレート等のジオールジ(メタ)アクリレート;ジペンタエリスリトールのジ(メタ)アクリレート等のポリオールのジ(メタ)アクリレート;これらポリオールアルキレンオキサイド付加物のジ(メタ)アクリレート等を挙げることができる。この場合において、アルキレンオキサイド付加物におけるアルキレンオキサイドとしては、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド及びテトラメチレンオキサイド等を挙げることができる。
【0013】
3官能以上の(メタ)アクリレートとして、具体的には、グリセリントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等のポリオールのポリ(メタ)アクリレート;これらポリオールアルキレンオキサイド付加物のジ(メタ)アクリレート等を充てることができる。この場合において、アルキレンオキサイド付加物におけるアルキレンオキサイドとしては、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド及びテトラメチレンオキサイド等を挙げることができる。
【0014】
(a)成分は水酸基を有していてもよく、その好ましい例として水酸基と2個以上の(メタ)アクリロイル基を有する化合物(以下、「水酸基含有多官能(メタ)アクリレート」ともいう。)等が挙げられる。
水酸基含有多官能(メタ)アクリレートの例としては、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールのジ又はトリ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンのジ又はトリ(メタ)アクリレート及びジペンタエリスリトールのジ、トリ、テトラ又はペンタ(メタ)アクリレートのポリオールのポリ(メタ)アクリレート;これらポリオールアルキレンオキサイド付加物のポリ(メタ)アクリレート;イソシアヌル酸のジ(メタ)アクリレート;並びにイソシアヌル酸アルキレンオキサイド付加物のジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。この場合において、アルキレンオキサイド付加物におけるアルキレンオキサイドとしては、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド及びテトラメチレンオキサイド等を挙げることができる。
【0015】
(a)成分としては、水酸基含有多官能(メタ)アクリレートが(a)成分をはじめとする他の相溶性に優れるうえ、硬化により得られるハードコートが、硬度等の硬化膜性能に優れるものとなるため特に好ましい。より具体的には、グリセリンジ(メタ)アクリレートが特に好ましい。
(a)成分は1種類のみを使用してもよく、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。3官能以上の(メタ)アクリレートと水酸基含有多官能(メタ)アクリレートとを組み合わせて使用することが特に好ましい。より具体的には、グリセリントリ(メタ)アクリレートとグリセリンジ(メタ)アクリレートとを組み合わせて使用することが特に好ましい。
【0016】
本発明のハードコート剤における(a)成分の含有割合には特に制限はないが、全硬化性成分((a)成分及び後記(b)成分、並びに存在する場合には後記(d)成分)の合計100質量部に対して、10~90質量部であることが好ましく、50~80質量部であることが特に好ましい。上記範囲内で(a)成分を使用すると、本発明のハードコート剤の特徴である優れた硬化性等を損なうことなく物性を調節することができる。
2種類以上の(a)成分を使用する場合には、その合計質量が上記範囲内になる様な量でそれぞれを使用することが好ましい。
【0017】
(b)酸性官能基及びアミノ基を有する遊離又はカチオン性のポリマー
本発明のハードコート剤は、(b)酸性官能基及びアミノ基を有する遊離又はカチオン性のポリマー(以下、単に「(b)成分」ともいう。)を含有する。
(b)成分を含有することで、本発明のハードコート剤は、高硬度等の従来のハードコート剤の優れた特性を維持しながら、ポリ塩化ビニル等の難接着性材料を含有する基材へも優れた密着性を有するハードコート層を形成することができる。
(b)成分は1種類のみを使用してもよく、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0018】
(b)成分の使用量には特に制限はないが、ハードコート剤の良好な性能を維持したまま基材密着性を一層向上する等の観点からは、全硬化性成分((a)成分及び(b)成分、並びに存在する場合には後記(d)成分)の合計100質量部に対して、1~80質量部であることが好ましく、1~50質量部であることが特に好ましい。
ハードコート剤の全質量を基準とする場合には、(b)成分をハードコート剤全質量に対して1~50質量%添加することが好ましく、5~25質量%添加することが特に好ましい。
2種類以上の(b)成分を使用する場合には、その合計質量が上記範囲内になる様な量でそれぞれを使用することが好ましい。
【0019】
(b)成分は、その分子中に少なくとも1の酸性官能基及び少なくとも1のアミノ基を有する遊離又はカチオン性のポリマーであればよく、特にそれ以外の制限を受けない。
設計、製造上の自由度や、入手の容易さ等の観点からは、(b)成分は、酸性官能基を有する構成単位(1)及びアミノ基を有する構成単位(2)を有する化合物であることが好ましい。
酸性官能基を有する構成単位(1)、及びアミノ基を有する構成単位(2)は、それぞれ1種類のみを(b)成分の構造中に導入してもよいし、2種類以上を組み合わせて導入してもよい。
酸性官能基を有する構成単位(1)とアミノ基を有する構成単位(2)との割合には特に制限は無いが、構成単位(1)と構成単位(2)とのモル比が5:1~1:10であることが好ましく、5:1~1:5であることが特に好ましい。
【0020】
(1)酸性官能基を有する構成単位
酸性官能基を有する構成単位(1)における酸性官能基の好ましい例としては、スルホン酸基、リン酸基、アルキル硫酸基、ジカルボン酸基等が挙げられる。
酸性官能基を有する構成単位(1)における酸性官能基の数にも特に制限は無いが、1から4個であることが好ましく、1から2個であることが特に好ましい。
【0021】
(b)酸性官能基及びアミノ基を有する遊離又はカチオン性のポリマーの製造の容易さや、酸性官能基数の制御の容易さ等の観点から、酸性官能基を有する構成単位(1)は、(i)分子中にエチレン性不飽和基と酸性基を有する化合物(以下、単に化合物(i)ともいう。)から導かれるものであることが好ましい。
化合物(i)は、その分子中に少なくとも1のエチレン性不飽和基と少なくとも1の酸性基を有する化合物であればよく、特にそれ以外の制限を受けない。
【0022】
化合物(i)のエチレン性不飽和基の好ましい例としては、(メタ)アクリロイル基、(メタ)アリル基、ビニル基及びスチリル基等を挙げることができ、(メタ)アクリロイル基が特に好ましい。
化合物(i)としては、エチレン性不飽和基を1個有する化合物が好ましく、(メタ)アクリロイル基を1個有する化合物がより好ましい。
【0023】
化合物(i)の酸性基としては、酸性度が高い酸性基が好ましく、スルホン酸基、アルキル硫酸基、リン酸基等が挙げられる。化合物(i)としては、酸性基を1個有する化合物が好ましい。
【0024】
化合物(i)として好ましい化合物の具体例としては、スルホン酸基を有する化合物として、例えば、2-(メタ)アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、2-〔(メタ)アクリロイルオキシ〕エタンスルホン酸等のスルホアルキル(メタ)アクリレート、ビニルスルホン酸、及びアリルスルホン酸等が挙げられる。
アルキル硫酸基を有する化合物としては、(メタ)アクリロイルオキシプロピレン硫酸、ポリオキシエチレン-1-((メタ)アリルオキシメチル)アルキルエーテル硫酸、ポリオキシエチレンノニルプロペニルフェニルエーテル硫酸アルキル(メタ)アリルスルホコハク酸、及び({α-[2-(メタ)アリルオキシ)-1-({[アルキル(C=10~14)]オキシ}メチル)エチル]-ω-ヒドロキシポリ(n=1~100)(オキシエチレン)}を主成分とする、{アルカノール(C=10~14、分岐型)と1-((メタ)アリルオキシ)-2,3-エポキシプロパンの反応生成物}のオキシラン重付加物)の硫酸エステル化物等が挙げられる。
リン酸基を有する化合物としては、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルアシッドホスフェート等が挙げられる。
【0025】
これらの化合物の中でも、重合性、密着性向上効果等の観点から、2-(メタ)アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸が好ましく、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸が特に好ましい。
【0026】
アミノ基を有する構成単位(2)
アミノ基を有する構成単位(2)にも特に制限は無いが、密着性向上の効果、入手の容易さ、構造の制御性、水への溶解性等の観点から、(2a)アリルアミン系構成単位、又は(2b)ジアリルアミン系構成単位であることが好ましい。
すなわち、酸性官能基を有する構成単位(1)及びアミノ基を有する構成単位(2)を有する化合物は、(b1)酸性官能基を有する構成単位(1)を有するアリルアミン共重合体、又は(b2)酸性官能基を有する構成単位(1)を有するジアリルアミン共重合体であることが好ましい。
(b1)酸性官能基を有する構成単位(1)を有するアリルアミン共重合体、又は(b2)酸性官能基を有する構成単位(1)を有するジアリルアミン共重合体のうち1種類のみを使用することも好ましく、2種類以上を併用することもまた好ましい。
【0027】
(b1)酸性官能基を有する構成単位(1)を有するアリルアミン共重合体
本発明における(b)成分として好ましく用いられる(b1)酸性官能基を有する構成単位(1)を有するアリルアミン共重合体は、上述の(1)酸性官能基を有する構成単位、及び(2a)アリルアミン系構成単位を有する。
より具体的には、(2a)アリルアミン系構成単位は、下記式(I)で表される構造、又はその付加塩である構造、を有する。
式(I)中、R
1は、水素原子、炭素数1~12のアルキル基、又は炭素数5~6のシクロアルキル基を示す。
R
1における炭素数1~12のアルキル基は直鎖状、枝分かれ状のいずれであってもよく、またアラルキル基であってもよい。その例としてはメチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基、ドデシル基、ベンジル基等が挙げられる。また、炭素数5~6のシクロアルキル基としては、シクロペンチル基およびシクロヘキシル基が挙げられるが、これらには限定されない。
【化1】
【0028】
(2a)アリルアミン系構成単位が付加塩である場合の構造は、下記式(I’)により表される。
【化2】
式(I’)中、R
1は上記のとおりであり、HXは無機酸又は有機酸を表し、Hは水素原子であり、Xは水素と共に無機酸又は有機酸を形成し得る基であれば特に限定されない。
付加塩の種類には特に制限はないが、入手性や反応の制御の容易さ等の観点から、例えば塩酸塩、硫酸塩、リン酸塩、硝酸塩、亜硫酸塩、亜リン酸塩、亜硝酸塩、臭化水素酸塩、酢酸塩、アミド硫酸塩、メタンスルホン酸塩、トリフルオロ酢酸塩、p-トルエンスルホン酸塩等を使用することができる。
中でも、塩酸塩、硫酸塩、リン酸塩、及びアミド硫酸塩が好ましく、モノアリルアミンから導かれる構造の塩酸塩、硫酸塩、リン酸塩、及びアミド硫酸塩が特に好ましい。
【0029】
(b1)酸性官能基を有する構成単位(1)を有するアリルアミン共重合体における、酸性官能基を有する構成単位(1)とアリルアミン系構成単位(2a)との割合には特に制限は無いが、モル比で10:1~1:20 であることが好ましく、5:1~1:10であることがより好ましく、5:1~1:5であることが特に好ましい。
【0030】
酸性官能基を有する構成単位(1)とアリルアミン系構成単位(2a)との割合が上記範囲にあることで、難接着性材料を含む基材への一層高い基材密着性等の一層好ましい効果を実現することができる。
酸性官能基を有する構成単位(1)とアリルアミン系構成単位(2a)との割合は、(b1)酸性官能基を有する構成単位(1)を有するアリルアミン共重合体の製造の際の、モノアリルアミン系単量体の使用割合や、それ以外の重合条件を調整することで、適宜調整することができる。
【0031】
(b1)酸性官能基を有する構成単位(1)を有するアリルアミン共重合体は、酸性官能基を有する構成単位(1)及び(2a)アリルアミン系構成単位のみで構成されていてもよく、それ以外の構成単位を有していてもよい。より具体的には、(b1)酸性官能基を有する構成単位(1)を有するアリルアミン共重合体における、上記それ以外の構成単位の割合は、0から50モル%であることが好ましく、0から10モル%であることがより好ましい。
【0032】
上記それ以外の構成単位には特に制限は無く、酸性官能基を有する構成単位(1)及び(2a)アリルアミン系構成単位を導く単量体と共重合可能な単量体を適宜使用して共重合することで、その様な構成単位を導くことができる。
共重合可能な単量体の好ましい例としては、ジアリルアミン、ジアリルメチルアミン等のジアリルアミン類またはその付加塩;ジアリルジメチルアンモニウムクロリド等のジアリルジアルキルアンモニウム塩類;アクリルアミド、ジメチルアクリルアミド、アクリロイルモルホリン、N-[3-(ジメチルアミノ)プロピル](メタ)アクリルアミド、(3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアンモニウムクロリド、(3-メタクリルアミドプロピル)トリメチルアンモニウムクロリド等のアクリルアミド類;アリルアルコール類、エチレングリコールモノアリルエーテル等のアリルエーテル類等を挙げることができるが、これらには限定されない。
上記それ以外の構成単位を導く単量体は、1種類のみを使用することもできるし、2種類以上を組み合わせて使用することもできる。
【0033】
(b1)酸性官能基を有する構成単位(1)を有するアリルアミン共重合体の分子量には特に制限は無く、ハードコート剤の使用形態や他の成分等との関係で適宜好適な分子量の(共)重合体を入手又は重合すればよい。
ハードコート剤の適切な粘度を実現し、かつ、実用上許容可能な時間及びコストで重合を行う観点からは、重量平均分子量(Mw)が100から150,000であることが好ましい。重量平均分子量(Mw)が500から100,000であることがより好ましい。重量平均分子量(Mw)は、1,000から50,000であることが特に好ましい。
(b1)酸性官能基を有する構成単位(1)を有するアリルアミン共重合体の重量平均分子量(Mw)は、例えば、液体クロマトグラフを使用し、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC法)によって測定することができる。
(b1)酸性官能基を有する構成単位(1)を有するアリルアミン共重合体の分子量は、共重合比、重合工程における温度、時間及び圧力、重合工程で用いるラジカル開始剤の種類及び量等を調整することで、適宜調整することができる。
【0034】
(b1)酸性官能基を有する構成単位(1)を有するアリルアミン共重合体の回転粘度[η]にも特に制限は無く、ハードコート剤の使用形態や他の成分等との関係で適宜設定することができるが、10~700mPa・s(25℃)であることが好ましく、10~60mPa・s(25℃)であることが特に好ましい。
回転粘度[η]は、当業界において慣用される方法により測定することができるが、例えば、AMETEK Brookfield社製デジタルB型粘度計DV-3Tにより測定することができる。測定にあたっては、ULAアダプターを使用し、典型的には液量16mL、液温25℃で測定することができる。
回転粘度[η]も、希釈濃度、共重合比、重合工程における温度、時間及び圧力、重合工程で用いるラジカル開始剤の種類及び量等を調整することで、適宜調整することができる。
【0035】
(b2)酸性官能基を有する構成単位(1)を有するジアリルアミン共重合体
本発明のハードコート剤を構成する(b)成分として好ましく用いられる、(b2)酸性官能基を有する構成単位(1)を有するジアリルアミン共重合体は、上述の(1)酸性官能基を有する構成単位、及び(2b)ジアリルアミン系構成単位を有する。
より具体的には、(2b)ジアリルアミン系構成単位は、下記の構造式(IIa)、若しくは(IIb)で示される構造、又はその無機酸塩、若しくは有機酸塩である構造、又は下記の構造式(IIIa)、若しくは(IIIb)で示される構造、を有することが好ましい。
【化3】
【化4】
【化5】
【化6】
上記式(IIa)、及び(IIb)中、R
2は、水素原子、又は1価の有機基を示し、好ましくは水素原子、炭素数1から10のアルキル基、炭素数5から10のシクロアルキル基、又は炭素数7から10のアラルキル基である。上記式(IIIa)、及び(IIIb)中、R
3及びR
4は、それぞれ独立に水素原子、又は1価の有機基を示し、好ましくは水素原子、炭素数1から10のアルキル基、炭素数5から10のシクロアルキル基、又は炭素数7から10のアラルキル基であり、X
-はカウンターイオンである。
【0036】
上記式(IIa)、及び(IIb)中、R2は、水素原子、メチル基、エチル基、又はベンジル基であることがより好ましく、水素原子、又はメチル基であることが特に好ましい。
上記式(IIIa)、及び(IIIb)中、R3及びR4は、それぞれ独立に水素原子、メチル基、エチル基、又はベンジル基であることが好ましく、水素原子、又はメチル基であることが特に好ましい。
【0037】
(b2)酸性官能基を有する構成単位(1)を有するジアリルアミン共重合体は、(2b)ジアリルアミン系構成単位として、上記の構造式(IIa)、又は(IIb)で示される構造の構成単位、すなわち遊離の構造の構成単位、を有していてもよいが、上記の構造式(IIa)、又は(IIb)で示される構造の無機酸塩、若しくは有機酸塩である構造、すなわち付加塩を有する構造、又は上記の構造式(IIIa)、若しくは(IIIb)で示される構造、すなわちカウンターイオンを有する構造、の構成単位を有していてもよい。
(b2)酸性官能基を有する構成単位(1)を有するジアリルアミン共重合体の製造にあたっては、製造コスト等の観点からは、付加塩やカウンターイオンを有するジアリルアミンモノマーを用いることが好ましい。重合体からHCl等の付加塩やカウンターイオンを除去するプロセスは煩雑であり、コスト増大の原因ともなることから、その様なプロセスを要さずして製造可能である、付加塩型やカウンターイオン型のジアリルアミン共重合体(b2)を用いることは、コスト等の観点からも好ましい実施形態である。
入手の容易さや反応の制御性等の観点から、上記の構造式(IIa)、又は(IIb)で示される構造の無機酸塩、又は有機酸塩は、塩酸塩、カルボン酸塩、スルホン酸塩、又はアルキルサルフェート塩であることが好ましく、塩酸塩であることが特に好ましい。
【0038】
ジアリルアミン共重合体(b2)がジアリルアミン系構成単位(2b)として上記の構造式(IIIa)、若しくは(IIIb)で示される構造を有する場合の、カウンターイオンX-には特に限定はないが、入手の容易さや反応の制御性等の観点から、塩素イオン、カルボン酸イオン、スルホン酸イオン、又はアルキルサルフェートイオンであることが好ましく、塩素イオン、又はエチルサルフェートイオンであることが特に好ましい。
【0039】
(b2)酸性官能基を有する構成単位(1)を有するジアリルアミン共重合体においては、1種類のみの(2b)ジアリルアミン系構成単位を単独で用いてもよいし、複数種類の互いに異なる構造の(2b)ジアリルアミン系構成単位を組み合わせて用いてもよい。
複数種類の互いに異なる(2b)ジアリルアミン系構成単位を用いる場合、それぞれのジアリルアミン系構成単位は、同一の一般構造式(IIa)、(IIb)、(IIIa)、又は(IIIb)で表される範囲内において互いに異なる構造を有していてもよいし、異なる一般構造式で表される互いに異なる構造を有していてもよい。前者の場合、例えば、一般構造式(IIa)で表されるが、R2の構造が互いに異なることによって構造が互いに異なる、複数種類の(2b)ジアリルアミン系構成単位を用いてもよい。後者の場合、例えば、構造式(IIa)で表される構造を有する1の構成単位(2)と、構造式(IIIa)で表される構造を有する他の構成単位(2)とを用いてもよい。
(b2)酸性官能基を有する構成単位(1)を有するジアリルアミン共重合体における(2b)ジアリルアミン系構成単位の含有量には特に制限はないが、(b2)ジアリルアミン共重合体の全構成単位の1モル%以上を占めることが好ましく5~100モル%を占めることがより好ましい。
【0040】
(2b)ジアリルアミン系構成単位の割合は、ジアリルアミン(共)重合体(b2)の製造の際の、ジアリルアミン系単量体の使用割合や、それ以外の重合条件を調整することで、適宜調整することができる。
【0041】
(b2)酸性官能基を有する構成単位(1)を有するジアリルアミン共重合体は、酸性官能基を有する構成単位(1)及び(2b)ジアリルアミン系構成単位のみで構成されていてもよく、それ以外の構成単位を有していてもよい。より具体的には、(b2)酸性官能基を有する構成単位(1)を有するジアリルアミン共重合体における、上記それ以外の構成単位の割合は、0から50モル%であることが好ましく、0から10モル%であることがより好ましい。
【0042】
上記それ以外の構成単位には特に制限は無く、酸性官能基を有する構成単位(1)及び(2b)ジアリルアミン系構成単位と共重合可能な単量体を適宜使用して共重合することで、その様な構成単位を導くことができる。
共重合可能な単量体の好ましい例としては、共重合可能なモノマーの好ましい例としては、モノアリルアミン類またはその付加塩;ジカルボン酸等のアニオン性モノマー、二酸化硫黄、アクリルアミド、ジメチルアクリルアミド、アクリロイルモルホリン、N-[3-(ジメチルアミノ)プロピル](メタ)アクリルアミド、(3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアンモニウムクロリド、(3-メタクリルアミドプロピル)トリメチルアンモニウムクロリド等のアクリルアミド類;アリルアルコール類、エチレングリコールモノアリルエーテル等のアリルエーテル類等を挙げることができるが、これらには限定されない。
【0043】
これらの中でも、モノアリルアミン類、ジカルボン酸等のアニオン性モノマー、二酸化硫黄、アクリルアミド等を好ましく用いることができる。
上記それ以外の構成単位を導くモノマーは、1種類のみを使用することもできるし、2種類以上を組み合わせて使用することもできる。
【0044】
(b2)酸性官能基を有する構成単位(1)を有するジアリルアミン共重合体の分子量には特に制限は無く、ハードコート剤の使用形態や他の成分等との関係で適宜好適な分子量の共重合体を入手又は重合すればよい。
ハードコート剤の適切な粘度を実現し、かつ、実用上許容可能な時間及びコストで重合を行う観点からは、重量平均分子量(Mw)が500から200,000であることが好ましい。重量平均分子量(Mw)は、2,000から100,000であることがより好ましい。重量平均分子量(Mw)は、1,000から50,000であることが特に好ましい。
ジアリルアミン共重合体(b2)の重量平均分子量(Mw)は、例えば、液体クロマトグラフを使用し、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC法)によって測定することができる。
ジアリルアミン共重合体(b2)の分子量は、共重合組成、重合工程における温度、時間及び圧力、重合工程で用いるラジカル開始剤の種類及び量等を調整することで、適宜調整することができる。
【0045】
ジアリルアミン共重合体(b2)の回転粘度[η]にも特に制限は無く、ハードコート剤の使用形態や他の成分等との関係で適宜設定することができるが、20~220mPa・s(25℃)であることが好ましく、20~100mPa・s(25℃)であることが特に好ましい。
回転粘度[η]は、当業界において慣用される方法により測定することができるが、例えば、AMETEK Brookfield社製デジタルB型粘度計DV-3Tにより測定することができる。測定にあたっては、ULAアダプターを使用し、典型的には液量16mL、液温25℃で測定することができる。
回転粘度[η]も、共重合組成、重合工程における温度、時間及び圧力、重合工程で用いるラジカル開始剤の種類及び量等を調整することで、適宜調整することができる。
【0046】
(c)重合開始剤
本発明のハードコート剤は、(c)重合開始剤を含有する。
(c)重合開始剤としては、(c1)光重合開始剤、又は(c2)熱ラジカル発生剤を好適に使用することができる。
本発明のハードコート剤を活性エネルギー線硬化型組成物として使用する場合において、特に、活性エネルギー線として紫外線及び可視光線を用いる場合には、硬化の容易性やコスト等の観点から、(c1)光重合開始剤を更に含有することが好ましい。
電子線硬化型組成物として使用する場合は、必ずしも(c1)光重合開始剤を含有させる必要はないが、硬化性を改善させるため必要に応じて少量配合することもできる。
【0047】
(c1)光重合開始剤
本実施形態において用いる(c1)光重合開始剤としては、種々の公知の光重合開始剤を使用することができるが、光ラジカル重合開始剤であることが好ましい。
(c1)光重合開始剤の具体例としては、2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン、1-〔4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル〕-2-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロパン-1-オン、2-メチル-1-〔4-(メチルチオ)フェニル〕-2-モルフォリノプロパン-1-オン、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)ブタン-1-オン、ジエトキシアセトフェノン、オリゴ{2-ヒドロキシ-2-メチル-1-〔4-(1-メチルビニル)フェニル〕プロパノン}及び2-ヒドロキシ-1-{4-〔4-(2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオニル)ベンジル〕フェニル}-2-メチルプロパン-1-オン等のアセトフェノン系化合物;ベンゾフェノン、4-フェニルベンゾフェノン、2,4,6-トリメチルベンゾフェノン及び4-ベンゾイル-4’-メチルジフェニルスルファイド等のベンゾフェノン系化合物;メチルベンゾイルフォルメート、オキシフェニル酢酸の2-(2-オキソ-2-フェニルアセトキシエトキシ)エチルエステル及びオキシフェニル酢酸の2-(2-ヒドロキシエトキシ)エチルエステル等のα-ケトエステル系化合物;2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルフォスフィンオキサイド、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2,4,4-トリメチルペンチルフォスフィンオキサイド等のフォスフィンオキサイド系化合物;ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル及びベンゾインイソブチルエーテル等のベンゾイン系化合物;チタノセン系化合物;1-〔4-(4-ベンゾイルフェニルスルファニル)フェニル〕-2-メチル-2-(4-メチルフェニルスルフィニル)プロパン-1-オン等のアセトフェノン/ベンゾフェノンハイブリッド系光開始剤;2-(o-ベンゾイルオキシム)-1-〔4-(フェニルチオ)〕-1,2-オクタンジオン等のオキシムエステル系光重合開始剤;並びにカンファーキノン等が挙げられるが、これらには限定されない。
【0048】
これらの中でも特に好ましい例として、アセトフェノン系化合物、ベンゾフェノン系化合物、及び、フォスフィンオキサイド系化合物が挙げられ、ハードコート膜を数μm以下の薄膜で塗工したときでも空気下で良好な硬化性を容易に得ることができることから、アセトフェノン系化合物が特に好ましく用いられる。
【0049】
(c1)光重合開始剤を使用する場合の使用量には特に制限は無いが、全硬化性成分((a)成分及び(b)成分、並びに存在する場合には後記(d)成分)の合計量100質量部に対して、0.01~20質量部であることが好ましく、0.5~10質量部であることがより好ましく、1~5質量部であることが特に好ましい。上記範囲であると、ハードコート剤の硬化性に優れ、又、得られる硬化膜の耐擦傷性に優れる。
【0050】
(c2)熱ラジカル発生剤
本発明のハードコート剤は、(c2)熱ラジカル発生剤を含有していてもよい。(c2)熱ラジカル発生剤を配合することで、本実施形態のハードコート剤は、熱硬化型組成物として使用することができ、加熱により硬化させることができる。
(c2)熱ラジカル発生剤としては、種々の化合物を使用することができ、有機過酸化物及びアゾ系開始剤が好ましい。
【0051】
有機過酸化物の具体例としては、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)2-メチルシクロヘキサン、1,1-ビス(t-ヘキシルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、1,1-ビス(t-ヘキシルパーオキシ)シクロヘキサン、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、2,2-ビス(4,4-ジ-ブチルパーオキシシクロヘキシル)プロパン、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)シクロドデカン、t-ヘキシルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t-ブチルパーオキシマレイン酸、t-ブチルパーオキシ-3,5,5-トリメチルヘキサノエート、t-ブチルパーオキシラウレート、2,5-ジメチル-2,5-ジ(m-トルオイルパーオキシ)ヘキサン、t-ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキシルモノカーボネート、t-ヘキシルパーオキシベンゾエート、2,5-ジメチル-2,5-ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、t-ブチルパーオキシアセテート、2,2-ビス(t-ブチルパーオキシ)ブタン、t-ブチルパーオキシベンゾエート、n-ブチル-4,4-ビス(t-ブチルパーオキシ)バレレート、ジ-t-ブチルパーオキシイソフタレート、α、α’-ビス(t-ブチルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼン、ジクミルパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン、t-ブチルクミルパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキサイド、p-メンタンハイドロパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)-3-ヘキシン、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、t-ブチルトリメチルシリルパーオキサイド、1,1,3,3-テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、t-ヘキシルハイドロパーオキサイド、t-ブチルハイドロパーオキサイド等が挙げられるが、これらには限定されない。
【0052】
アゾ系化合物の具体例としては、1,1’-アゾビス(シクロヘキサン-1-カルボニトリル)、2-(カルバモイルアゾ)イソブチロニトリル、2-フェニルアゾ-4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル、アゾジ-t-オクタン、アゾジ-t-ブタン等が挙げられるが、これらには限定されない。
これらは単独で用いても良いし、2種以上を併用しても良い。又、有機過酸化物を還元剤と組み合わせることによりレドックス反応により硬化を促進することも可能である。
【0053】
(c2)熱ラジカル発生剤を使用する場合の使用量には特に制限はなく、目的とする性能及び用途に応じて適宜設定することができるが、例えば全硬化性成分((a)成分及び(b)成分、並びに存在する場合には後記(d)成分)の合計量100質量部に対して、20質量部以下が好ましい。
(c2)熱ラジカル発生剤を単独で用いる場合は、通常のラジカル熱重合の常套手段にしたがって行えばよいが、場合によっては(c1)光重合開始剤と併用し、光硬化させた後にさらに反応率を向上させる目的で熱硬化を行うこともできる。
【0054】
(d)他の硬化性成分
本発明のハードコート剤は、上記(a)から(c)成分に加えて、上記(a)成分及び/又は(b)成分と反応して硬化物を形成可能な成分(以下、「(d)他の硬化性成分」ともいう)を含有していてもよい。
(d)他の硬化性成分は、上記(a)成分及び/又は(b)成分と反応して硬化物を形成可能であり、且つ上記(a)成分及び(b)成分のいずれにも該当しないものであればよく、それ以外の制限は存在しないが、その構造中に2以上の反応性官能基を有する化合物であることが好ましい。
【0055】
反応性官能基の好ましい例として、(メタ)アクリロイル基、エポキシ基、ウレタン結合残基、水酸基、メルカプト基、アミノ基等を挙げることができるが、これらには限定されない。
反応性官能基の数にも特に制限は無いが、上記のとおり1分子あたり2個以上であることが好ましく、2から6個であることがより好ましく、2から3個であることが特に好ましい。
(d)他の硬化性成分が複数の反応性官能基を有する場合、それらは全て同一の反応性官能基であってもよく、複数種の反応性官能基の組み合わせであってもよい。
【0056】
(d)他の硬化性成分は反応性官能基として1以上のエポキシ基を有することが好ましく、更に1以上のエチレン性不飽和基を有することが好ましい。すなわち、(d)他の硬化性成分として、(d1)1以上のエポキシ基及び1以上のエチレン性不飽和基を有する化合物を用いることが好ましい。
エポキシ基の数に特に制限は無いが、1から3個であることが好ましく、1から2個であることが特に好ましい。
エチレン性不飽和基としては、(メタ)アクリロイル基、ビニル基、アリル基等が好ましく、(メタ)アクリロイル基が特に好ましい。エチレン性不飽和基の数にも特に制限は無いが、1から6個であることが好ましく、1から2個であることが特に好ましい。
(d1)1以上のエポキシ基及び1以上のエチレン性不飽和基を有する化合物は、エポキシ基及び1以上のエチレン性不飽和基以外の基、例えばヒドロキシル基、エーテル基等、を有していてもよく、有していなくともよい。
(d1)1以上のエポキシ基及び1以上のエチレン性不飽和基を有する化合物の好ましい具体例として、グリシジル(メタ)アクリレート、アリルグリシジルエーテル等を挙げることができる。
【0057】
(d)他の硬化性成分の好ましい例として、上述の(d1)1以上のエポキシ基及び1以上のエチレン性不飽和基を有する化合物以外に、ウレタン(メタ)アクリレート等を挙げることができるが、これらには限定されない。
(d)他の硬化性成分を使用する場合、1種類のみを使用してもよく、2種類以上の(d)他の硬化性成分を組み合わせて使用してもよい。
【0058】
(d)他の硬化性成分を使用する場合、その使用量には特に制限は無いが高硬度保持および硬化収縮抑制等の観点から、全硬化性成分((a)成分、(b)成分、及び(d)成分)の合計100質量部に対して、1~50質量部であることが好ましく、1~20質量部であることが特に好ましい。
【0059】
溶媒
本発明のハードコート剤において使用する(a)分子中に2以上のエチレン性不飽和基を有する化合物、及び(b)酸性官能基及びアミノ基を有する遊離又はカチオン性のポリマーは常温で液体である場合も多く、したがって溶媒を使用せずに本発明のハードコート剤を形成することもできる。
一方で、ハードコート剤の粘度等を好ましい範囲に調整等するために溶媒を使用してもよい。
本実施形態において使用する溶媒には特に制限は無いが、作業環境や環境負荷等の観点から、水系溶媒を使用することが好ましい。
水系溶媒を用いることで、本実施形態のハードコート剤においては揮発性有機化合物(VOC)を使用せず又はその使用が大幅に低減され、環境面、安全面等の観点からも好適なハードコート剤が提供される。
【0060】
本実施形態のハードコート剤を構成する水系溶媒の種類にも特に限定はないが、水、及び水と混和可能な有機溶媒と水との混合溶媒をその好ましい例として挙げることができる。有機溶媒の使用量を低減する等の観点から、水を用いることが特に好ましい。
ハードコート剤の性状や硬化速度を適宜調整する等の観点からは、水と混和可能な有機溶媒と水との混合溶媒も好適に用いられる。水と混和可能な有機溶媒としては、従来公知のものが使用できる。例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール(IPA)、n-ブチルアルコール、s-ブチルアルコール、イソブチルアルコール、t-ブチルアルコール等のアルコール類、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸n-プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸n-ブチル、酢酸イソブチル、酢酸メトキシブチル、酢酸セロソルブ、酢酸アミル、乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸ブチル等のエステル類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類、N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド等のアミド類、ジメチルスルホキシド等のスルホキシド類等が挙げられる。なかでも、アルコール類が好適に用いられ、IPAが特に好適に用いられる。これらの水と混和可能な有機溶媒は単独で用いても混合して用いてもよい。
水系溶媒を使用する場合の使用量には特に制限はないが、全硬化性成分((a)成分及び(b)成分、並びに存在する場合には(d)成分)の合計の濃度が、30~90質量%、より好ましくは50~90質量%、特に好ましくは70~80質量%となる様な量で使用することができる。
【0061】
(e)界面活性剤
本発明のハードコート剤は、塗布時のレベリング性を高める目的や、硬化後のハードコート膜の塗膜均一性を高める等の目的のため、(e)界面活性剤を添加してもよい。特に本発明における(b)成分としてカチオン性ポリマーを使用する場合には、ハードコート剤の表面張力が高くなる傾向があるので、塗布時のレベリング性や硬化後のハードコート膜の塗膜均一性を損なわない様、(e)界面活性剤を使用することが特に好ましい。
本実施形態において用いる(e)界面活性剤の種類には特に制限はなく、ハードコート剤の塗工形態や、他の成分、例えば溶媒を使用する場合の溶媒との親和性等に応じて適宜選択することができる。(e)界面活性剤は、陰イオン界面活性剤、陽イオン界面活性剤、両性界面活性剤、及び非イオン界面活性剤のいずれであってもよい。
【0062】
塗膜均一性、レベリング性、浸透性向上等の観点から、フッ素系界面活性剤、シリコーン系界面活性剤、アルキルエーテル系界面活性剤、カチオン系界面活性剤等を好ましく用いられる。中でも、塗膜均一性等の観点から、シリコーン系界面活性剤を用いることが特に好ましい。
好ましいシリコーン系界面活性剤の具体例としては、シリコーン鎖とポリアルキレンオキサイド鎖とを有するシリコーン系ポリマー及びオリゴマー、シリコーン鎖とポリエステル鎖とを有するシリコーン系ポリマー及びオリゴマー等を挙げることができ、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン等が特に好ましい。商業的に入手可能なものの例としては、ビックケミー・ジャパン社製「BYK-302」、「BYK-307」、「BYK-348」等、DOW社製「VORASURF SZ-1919」等を挙げることができる。
【0063】
好ましいフッ素系界面活性剤の具体例としては、パーフルオロアルキル基とポリアルキレンオキサイド鎖とを有するフッ素系ポリマー及びオリゴマー、パーフルオロアルキルエーテル鎖とポリアルキレンオキサイド鎖とを有するフッ素系ポリマー及びオリゴマー等が挙げられる。商業的に入手可能なものの例としては、AGCセイミケミカル株式会社製「サーフロン」シリーズ、DIC株式会社製「メガファック」シリーズ、株式会社ネオス製「フタージェント」シリーズ等を挙げることができる。
【0064】
(e)界面活性剤の添加量には特に制限はなく、ハードコート剤の塗工形態や硬化後に求められる物性等に応じて適宜設定することができる。
ハードコート剤の一般的な使用形態を前提とすれば、(e)界面活性剤を使用する場合の使用量は、硬化性成分((a)成分及び(b)成分、並びに存在する場合には(d)成分)の合計量100質量部に対して、0.01~5.0質量%であることが好ましく、0.1~1.0質量%であることが特に好ましい。
(e)界面活性剤は1種類のみを使用してもよく、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0065】
本発明のハードコート剤は、上記(a)成分~(c)成分の各構成成分、及び存在する場合には上記(e)成分等の好ましい成分に加えて、それ以外の成分を含有していてもよい。
それ以外の成分としては、従来からハードコート剤に用いられる公知の各種添加剤を用いることができるが、例えば、紫外線吸収剤、光安定剤、酸性物質、無機粒子、酸化防止剤、シランカップリング剤、ポリマー、酸発生剤、顔料、染料、粘着性付与剤及び重合禁止剤等を挙げることができる。
【0066】
紫外線吸収剤の具体例としては、2-[4-[(2-ヒドロキシ-3-ドデシロキシプロピル)オキシ]-2-ヒドロキシフェニル]-4,6-ビス(2,4-ジメチルフェニル)-1,3,5-トリアジン、2-[4-[(2-ヒドロキシ-3-トリデシロキシプロピル)オキシ]-2-ヒドロキシフェニル]-4,6-ビス(2,4-ジメチルフェニル)-1,3,5-トリアジン、2-[4-[(2-ヒドロキシ-3-(2-エチルヘキシロキシ)プロピル)オキシ]-2-ヒドロキシフェニル]-4,6-ビス(2,4-ジメチルフェニル)-1,3,5-トリアジン、2,4-ビス(2-ヒドロキシ-4-ブチロキシフェニル)-6-(2,4-ビスブチロキシフェニル)-1,3,5-トリアジン、2-(2-ヒドロキシ-4-[1-オクチロキシカルボニルエトキシ]フェニル)-4,6-ビス(4-フェニルフェニル)-1,3,5-トリアジン等のトリアジン系紫外線吸収剤;2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4,6-ビス(1-メチル-1-フェニルエチル)フェノール、2-(2-ヒドロキシ-5-tert-ブチルフェニル)-2H-ベンゾトリアゾール、2-[2-ヒドロキシ-5-(2-(メタ)アクリロイルオキシエチル)フェニル]-2H-ベンゾトリアゾール等のベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤;2,4-ジヒドロキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン等のベンゾフェノン系紫外線吸収剤、エチル-2-シアノ-3,3-ジフェニルアクリレート、オクチル-2-シアノ-3,3-ジフェニルアクリレート等のシアノアクリレート系紫外線吸収剤、酸化チタン粒子、酸化亜鉛粒子、酸化錫粒子等の紫外線を吸収する無機粒子等が挙げられるが、これらには限定されない。
【0067】
前記化合物の中でも、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤が特に好ましい。これら紫外線吸収剤は、活性エネルギー線の照射により黄変しやすいプラスチック基材等の変色を抑える目的で使用できるほか、ハードコート膜が形成された物品を屋外で使用する際に、太陽光による物品の劣化を防ぐ目的でも使用できる。
紫外線吸収剤を使用する場合の使用量は、硬化性成分((a)成分及び(b)成分、並びに存在する場合には(d)成分)の合計量100質量部に対して、0.01~10質量部であることが好ましく、0.1~2質量部であることがさらに好ましい。
【0068】
光安定剤としては、公知の光安定剤を用いることができるが、中でも、ヒンダードアミン系光安定剤(HALS)が好ましく挙げられる。
ヒンダードアミン系光安定剤の具体例としては、ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジニル)セバケート、メチル(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジニル)セバケート、2,4-ビス[N-ブチル-N-(1-シクロヘキシロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-4-イル)アミノ]-6-(2-ヒドロキシエチルアミン)-1,3,5-トリアジン、デカン二酸ビス(2,2,6,6-テトラメチル-1-(オクチロキシ)-4-ピペリジニル)エステル等が挙げられる。
ヒンダードアミン系光安定剤の市販品としては、BASF社製、TINUVIN 111FDL、TINUVIN123、TINUVIN 144、TINUVIN 152、TINUVIN 292、TINUVIN 5100等が挙げられる。
【0069】
光安定剤を使用する場合の使用量は、硬化性成分((a)成分及び(b)成分、並びに存在する場合には(d)成分)の合計量100質量部に対して、0.01~5質量部であることが好ましく、0.1~1質量部であることがさらに好ましい。
【0070】
本発明のハードコート剤は、有機基材、無機基材等への密着性に優れるものであるが、酸性物質を添加することで、さらに基材密着性を向上させることができる。
酸性物質としては、活性エネルギー線の照射により酸を発生する光酸発生剤や、硫酸、硝酸、塩酸、p-トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、リン酸等が挙げられる。
これらの中でも、無機酸又は有機酸が好ましく、有機スルホン酸化合物がより好ましく、芳香族スルホン酸化合物がさらに好ましく、p-トルエンスルホン酸が特に好ましい。
酸性物質を使用する場合の使用量は、硬化性成分((a)成分及び(b)成分、並びに存在する場合には(d)成分)の合計量100質量部に対して、0.0001~200質量部であることが好ましく、0.0005~100質量部であることがさらに好ましい。上記範囲であると、基材との密着性により優れ、基材の腐蝕や他の成分の分解といった問題の発生を防ぐことができる。
【0071】
本発明のハードコート剤は、ハードコート膜の耐熱性や耐候性を良好にする目的で、酸化防止剤をさらに含有していてもよい。
本実施形態に用いられる酸化防止剤としては、例えばフェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、又は、硫黄系酸化防止剤等が挙げられる。
フェノール系酸化防止剤としては、例えば、ジ-t-ブチルヒドロキシトルエン等のヒンダードフェノール類を好ましく挙げることができる。市販されているものとしては、株式会社アデカ製のAO-20、AO-30、AO-40、AO-50、AO-60、AO-70、AO-80等が挙げられる。
リン系酸化防止剤としては、トリアルキルホスフィン、トリアリールホスフィン等のホスフィン類や、亜リン酸トリアルキルや亜リン酸トリアリール等が好ましく挙げられる。これらの誘導体で市販品としては、例えば株式会社アデカ製、アデカスタブPEP-4C、PEP-8、PEP-24G、PEP-36、HP-10、260、522A、329K、1178、1500、135A、3010等が挙げられる。
硫黄系酸化防止剤としては、チオエーテル系化合物が挙げられ、市販品としては株式会社アデカ製AO-23、AO-412S、AO-503A等が挙げられる。
【0072】
酸化防止剤を使用する場合の使用量は、硬化性成分((a)成分及び(b)成分、並びに存在する場合には(d)成分)の合計量100質量部に対して、0.001~5質量部であることが好ましく、0.001~1質量部であることがより好ましい。上記添加量であると、ハードコート剤の安定性に優れ、また硬化性及び接着力も良好である。
【0073】
本発明のハードコート剤の使用方法には特に制限はなく、当該技術分野において通常用いられる方法に従い使用することができる。
例えば、適用される基材にハードコート剤を通常の塗装方法により塗布した後、当該ハードコート剤を硬化することで、ハードコート付き物品を製造することができる。
ハードコート剤の硬化にあたっては、活性エネルギー線、好ましくは紫外線を照射するか、又は加熱して硬化させることができる。活性エネルギー線又は加熱による効果が可能であることで、硬化のタイミングや硬化時間等に関するプロセス上の自由度が向上する。
活性エネルギー線、好ましくは紫外線の照射方法は、従来の硬化方法として知られている一般的な方法を採用すれば良い。
ハードコート剤において(c1)光重合開始剤及び(c2)熱ラジカル発生剤を併用し、ハードコート剤に活性エネルギー線、好ましくは紫外線を照射した後、加熱硬化させることにより、基材との密着性を向上させる方法も採用することができる。
【0074】
本発明のハードコート剤が適用できる基材としては、種々の材料を挙げることができ、無機材料、プラスチック等の有機材料、及び紙等が挙げられる。
プラスチックの具体例としては、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル、ポリエチレン及びポリプロピレン等のポリオレフィン、ABS樹脂、ポリビニルアルコール、トリアセチルセルロース及びジアセチルセルロース等のセルロースアセテート樹脂、アクリル樹脂、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリエーテルサルホン、ノルボルネン等の環状オレフィンをモノマーとする環状ポリオレフィン樹脂、ポリ塩化ビニル、エポキシ樹脂及びポリウレタン樹脂等が挙げられる。
本発明のハードコート剤は、ポリ塩化ビニル、GFRP、ABS、PET、又はポリ(メタ)アクリル樹脂等の難接着性材料を含んでなる基材に対する密着性に優れるため、これらの難接着性材料を含んでなる基材上へのハードコート層の形成に特に好ましく使用することができる。
【0075】
本発明のハードコート剤の基材への塗工方法としては、目的に応じて適宜設定すればよいが、バーコーター、アプリケーター、ドクターブレード、ディップコーター、ロールコーター、スピンコーター、フローコーター、ナイフコーター、コンマコーター、リバースロールコーター、ダイコーター、リップコーター、スプレーコーター、グラビアコーター及びマイクログラビアコーター等で塗工する方法を例示することができる。
【0076】
ハードコート膜の膜厚は、目的に応じて適宜設定すればよい。硬化後の膜厚としては、使用する基材や製造したハードコート膜を有する基材の用途に応じて選択すればよいが、1~100μmであることが好ましく、2~40μmであることがより好ましい。
【0077】
ハードコート剤が有機溶媒を含む場合は、基材に塗工した後、加熱・乾燥させ、有機溶媒を蒸発させることが好ましい。
乾燥温度は、適用する基材が変形等の問題を生じない温度以下であれば特に限定されるものではない。好ましい加熱温度としては、40~100℃である。乾燥時間は適用する基材及び加熱温度によって適宜設定すれば良く、好ましくは0.5~20分である。
【0078】
本発明のハードコート剤を活性エネルギー線硬化型組成物として使用する場合において、硬化させるための活性エネルギー線としては、電子線、紫外線及び可視光線が挙げられるが、紫外線又は可視光線が好ましく、紫外線が特に好ましい。
紫外線照射装置としては、高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ、紫外線(UV)無電極ランプ、UV-LED(紫外線発光ダイオード)等が挙げられる。
照射エネルギーは、活性エネルギー線の種類や配合組成に応じて適宜設定すべきものであるが、一例として高圧水銀ランプを使用する場合を挙げると、UV-A領域の照射エネルギー(積算光量)で100~8,000mJ/cm2が好ましく、200~4,000mJ/cm2がより好ましい。
又、UV-LEDを使用する場合は、365nmのUV-LEDを使用するクリアニスの場合を挙げると、365nmで、100~1,000mJ/cm2が好ましく、200~700mJ/cm2がより好ましい。
【0079】
本発明のハードコート剤を熱硬化型組成物として使用する場合は、加熱可能な乾燥機等に硬化膜を静置することで硬化膜を得ることができる。
加熱温度としては、使用する基材や目的に応じて適宜設定すれば良く、40~180℃が好ましい。基材がプラスチックの場合は、温度が高すぎると基材が変形するおそれがあるため、100℃以下であることが好ましい。
加熱時間は適用する基材及び加熱温度によって適宜設定すれば良く、好ましくは0.5~60分である。
【0080】
本発明のハードコート剤は、活性エネルギー線又は加熱による効果が可能であるため硬化のタイミングや硬化時間等に関するプロセス上の自由度高く、かつ難接着性材料を含有する記載をはじめとする各種基材への密着性にも優れるので、ポリ塩化ビニル、GFRP、ABS、PET、アクリル樹脂等の各種有機基材上へのハードコート層形成において、高いプロセス上の自由度で好適に使用することができる。
【0081】
また、本発明の好ましい実施形態においては、溶媒を用いず、又は水系溶媒を用いることで、揮発性有機化合物(VOC)の使用を排除又は大幅に低減することができるので、ハードコート剤の製造、保管、使用における作業環境を大幅に改善するとともに、環境負荷を大幅に低減することが可能である。
【0082】
より具体的なハードコート層の適用箇所としては、樹脂床材等を挙げることができる。
【実施例0083】
以下、実施例/比較例を参照しながら、本発明をさらに詳細に説明する。なお、本発明の範囲は、いかなる意味においても、これらの実施例/比較例により限定されるものではない。
【0084】
下記実施例/比較例においては、以下の方法にしたがって特性の測定、評価を行った。
(塗膜付き試験体の作製)
各実施例/比較例のハードコート組成物を、バーコーター(No.16)を用い、葛西産業株式会社製硬質ポリ塩化ビニル基板に膜厚約32μmになるよう塗工し、試験体とした。
この試験体を、UVコンベア装置アイminiグランデージ(アイグラフィックス株式会社製、ECS-1511U、1.5kW水銀ランプ、コールドフィルター)を試験体上空約15cmから照射した。
ベルトコンベアの速度は毎分4mで、試験体が積算光量約660mJ/cm2の光を受光できるよう、2回照射を行った。
【0085】
(塗膜外観)
上記で得られた硬化後の塗膜を指触および目視にて確認し、タック、凹凸、白化、剥離、ハジキ、及び割れの有無を評価した。
【0086】
(鉛筆硬度)
上記で得られた硬化後の塗膜の鉛筆硬度を、JIS K5600-5-4の方法にて評価した(荷重750±10g)。
【0087】
(耐擦傷性)
上記で得られた硬化後の塗膜の表面について、メラミンスポンジを用いて、10往復擦過した。擦過後の表面を、3波長蛍光灯下で目視により確認し、以下の基準で耐擦傷性を評価した。
〇:キズの本数が5本以下であった。
×:キズの本数が5本以上であった。
【0088】
(基材密着性)
上記で得られた硬化後の試験体の基材密着性を、JIS K5600-5-6の方法にて評価した。すなわち、JIS K5600-5-6(塗料一般試験法付着性)に基づき、硬化後の塗膜を1mm間隔に碁盤目にカットして100マス作製し、その上にニチバン株式会社製セロハンテープを貼り付けて素早く剥がし、「正常なマス数/100マス」で判定した。
【0089】
(防汚性)
上記で得られた硬化後の塗膜の表面に、油性マジックで任意に記し、即座にふき取りを行い、目視で認められるような汚染を残さずにふき取れたものを〇、ふき取れなかったものを×と評価した。
【0090】
(耐水性)
上記で得られた硬化後の試験体を60℃の水中に24時間浸漬し、剥離が認められたものを×、剥離が認められなかったものを〇と評価した。
【0091】
(実施例1)
(b)成分としてジアリルアミン塩酸塩/2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸共重合体(共重合モル比:3:1、分子量:2,500表1中「P(DAA-HCL/AMPS=3/1)」)を16.88質量部用い、これに(e)界面活性剤としてサーフロンS242(AGCセイミケミカル株式会社製、表1中「S-242」)を1.13質量部添加してA液を調製した。
(a)成分としてグリセリンジアクリレート/グリセリントリアクリレートの混合物(東亞合成株式会社製、商品名:アロニックスM-920、表1中「M-920」)24.64質量部、及びジペンタエリスリトールヘキサアクリレート2.79質量部(表1中「DPHA」)、(c1)成分として2-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(東京化成株式会社製、表1中「HCPK」)1.81質量部、及び(e)成分としてBYK-307(商品名、ビックケミー・ジャパン株式会社製界面活性剤、表1中「BYK-307」ともいう)0.36質量部を量り取り、更に(d)成分としてグリシジルメタクリレート(東京化成株式会社製、表1中「GLyMAc」)1.14質量部を加えて混合し、B液を調製した。
上記A液とB液とをそれぞれ40℃で30分間混合し、質量比A液:B液=1:5の割合で混合し、室温下で良くかき混ぜハードコート液を調製した。調製したハードコート液を用い、上記の方法に従い、塗膜付き試験体を作製して評価した。評価結果を表1に示す。
【0092】
(実施例2~10、比較例1~3)
使用する出発原料及び使用量を表1に示すものに変更したこと以外は実施例1と同様にして、ハードコート組成物を調製し、評価した。
なお、表1中、実施例1と異なる成分の詳細は以下のとおりである。なお、これらの成分の使用量は、水溶媒込みで表1に示す。
P(DAA-HCL/AMPS=2/1):ジアリルアミン塩酸塩/2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸共重合体(共重合モル比:2:1、分子量:67,000)
P(DAA-HCL/AMPS=1/1):ジアリルアミン塩酸塩/2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸共重合体(共重合モル比:1:1、分子量:15,000)
P(DAA-HCL/AMPS=1/2):ジアリルアミン塩酸塩/2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸共重合体(共重合モル比:1:2、分子量:35,000)
P(DAMA-HCl/AMPS=3/1):ジアリルメチルアミン塩酸塩/2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸共重合体(共重合モル比:3:1、分子量:65,000)
P(DADMAC/AMPS=2/1):ジアリルジメチルアンモニウムクロリド/2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸共重合体(共重合モル比:2:1、分子量:53,000)
・PAS-2141CL:ジアリルアミン塩酸塩/アクリルアミド共重合体(共重合モル比率8/1)(ニットーボーメディカル株式会社製、商品名:PAS-2141CL、濃度25%)
・PAS-21CL:ジアリルアミン塩酸塩重合体(ニットーボーメディカル株式会社製、商品名:PAS-21CL、濃度26%)
・BYK-302:ビックケミー・ジャパン株式会社製界面活性剤(商品名:BYK-302)
・AMPS:2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸(東京化成株式会社製、濃度98%)
結果を併せて表1に示す。
【0093】
本発明のハードコート剤は、紫外線、熱等による硬化で高硬度のハードコート層が形成可能であり、かつポリ塩化ビニル等の難接着性材料を含有する基材への密着性にも優れるので、表示機器、電気電子機器、輸送機械、光学機器、建築部材等における広範な種類の材料で構成される基材、部材上へのハードコート層形成において、高いプロセス上の自由度で好適に使用することができ、電気電子産業、自動車産業、光学産業、建築建設産業をはじめとする産業の各分野において高い利用可能性を有する。