(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024116524
(43)【公開日】2024-08-28
(54)【発明の名称】光検出装置及び測距装置
(51)【国際特許分類】
G01S 7/4861 20200101AFI20240821BHJP
H01L 31/107 20060101ALI20240821BHJP
【FI】
G01S7/4861
H01L31/10 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023022198
(22)【出願日】2023-02-16
(71)【出願人】
【識別番号】319006047
【氏名又は名称】シャープセミコンダクターイノベーション株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002848
【氏名又は名称】弁理士法人NIP&SBPJ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】井上 高広
(72)【発明者】
【氏名】清水 隆行
(72)【発明者】
【氏名】池田 徹朗
(72)【発明者】
【氏名】アハマド シャヒール ビン アハマド ノール
【テーマコード(参考)】
5F149
5F849
5J084
【Fターム(参考)】
5F149AA07
5F149BB07
5F149EA13
5F149XB38
5F849AA07
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5F849XB38
5J084AA05
5J084AB07
5J084AB17
5J084AC07
5J084AC08
5J084AD01
5J084BA04
5J084BA38
5J084BA40
5J084BB02
5J084BB20
5J084CA03
5J084CA45
5J084CA52
5J084CA53
5J084CA60
5J084CA64
(57)【要約】
【課題】なだれ降伏によるデッドタイムの長期化を抑制できる光検出装置及び測距装置を提供すること。
【解決手段】一態様に係る光検出装置は、一端が第1ノードに接続されたSPADと、一端が第1ノードに接続された抵抗成分と、一端が第1ノードに接続されたスイッチ素子と、スイッチ素子を制御して第1ノードを放電または充電する制御回路とを備える。制御回路は、第1ノードの電位が第1電位から第2電位に変化した際において、第2電位に変化してから第1期間の経過後に、第2期間が経過するか、第2期間の間に第1ノードの電位が第1電位に戻るまでの期間、スイッチ素子をオン状態とし、第1ノードの電位が第1電位に戻ることなく第2期間が経過した場合には、スイッチ素子をオフ状態とし、オフ状態としてから第3期間の経過後に再度オン状態とする。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端が第1ノードに接続されたSPAD(Single Photon Avalanche Diode)と、
一端が前記第1ノードに接続された抵抗成分と、
一端が前記第1ノードに接続されたスイッチ素子と、
前記スイッチ素子を制御して前記第1ノードを放電または充電する制御回路と
を具備し、前記制御回路は、
前記第1ノードの電位が第1電位から第2電位に変化した際において、前記第2電位に変化してから第1期間の経過後に、第2期間が経過するか、前記第2期間の間に前記第1ノードの電位が前記第1電位に戻るまでの期間、前記スイッチ素子をオン状態とし、
前記第1ノードの電位が前記第1電位に戻ることなく前記第2期間が経過した場合には、前記スイッチ素子をオフ状態とし、前記スイッチ素子をオフ状態としてから第3期間の経過後に、前記スイッチ素子を再度オン状態とする、光検出装置。
【請求項2】
前記制御回路は、
前記第1ノードの電位に基づく信号を遅延させる第1遅延回路と、
前記第1遅延回路の出力に基づいて、前記第1ノードを放電または充電するか否かを判定する判定回路と、
前記判定回路の出力に基づいて、前記第2期間、前記スイッチ素子をオン状態とさせ得るパルス信号を生成する第1パルス制御回路と、
前記第1ノードの電位が前記第2電位から前記第1電位に変化した際に前記パルス信号を無効化する第2パルス制御回路と、
前記第1ノードの電位が前記第1電位に達することなく前記第2期間が経過した場合に、前記判定回路に対して、再度、前記第1ノードを放電または充電するよう判定させる第3パルス制御回路と
を備える、請求項1記載の光検出装置。
【請求項3】
前記第1パルス制御回路は、
前記判定回路の出力信号を遅延させる第2遅延回路と、
前記第2遅延回路への入力信号と、前記第2遅延回路の出力信号とに基づいて、前記第2期間の間有効化された前記パルス信号を生成するパルス生成回路と
を備える、請求項2記載の光検出装置。
【請求項4】
前記第2パルス制御回路は、前記第1パルス制御回路から出力された前記パルス信号を受信し、前記第1ノードの電位に基づく信号に基づいて、前記パルス信号を無効化する、請求項3記載の光検出装置。
【請求項5】
前記第3パルス制御回路は、前記第2遅延回路に基づく信号と、前記第2パルス制御回路の出力信号とに基づいて、前記第1ノードを放電または充電させるか否かを判断するための信号を生成する、請求項4記載の光検出装置。
【請求項6】
前記第1遅延回路の出力信号の論理レベルの遷移速度は、
前記第1遅延回路の入力信号が第1論理レベルから、前記第1論理レベルと異なる第2論理レベルに遷移する場合と、前記第2論理レベルから前記第1論理レベルに遷移する場合とで異なる、請求項2記載の光検出装置。
【請求項7】
前記第1ノードの電位は、前記SPADの降伏現象により流れる電流に基づく電圧降下により、前記第1電位から前記第2電位に上昇または下降し、
前記第2期間の間に前記SPADの降伏現象が再度発生した場合、前記第1ノードの電位が前記第1電位に達することなく、前記第2期間が経過する、請求項1記載の光検出装置。
【請求項8】
前記SPADの前記一端はアノードであり、カソードが高電圧ノードに接続され、
前記抵抗成分は、前記一端がドレインであり、ソースが低電圧ノードに接続されたnチャネルの第1MOSトランジスタであり、
前記スイッチ素子は、前記一端がドレインであり、ソースが前記低電圧ノードに接続され、ゲートが前記制御回路によって制御され、前記第1MOSトランジスタよりもオン抵抗の小さいnチャネルの第2MOSトランジスタであり、
前記抵抗成分におけるソース・ドレイン間の抵抗値は、前記スイッチ素子におけるソース・ドレイン間の抵抗値よりも大きく、
前記制御回路は、論理“High”レベルのパルス信号を出力して前記第2MOSトランジスタをオン状態とすることにより、前記SPADにおける降伏現象により前記第1ノードに充電された電荷を前記低電圧ノードに放電する、請求項1記載の光検出装置。
【請求項9】
前記SPADの前記一端はカソードであり、アノードが低電圧ノードに接続され、
前記抵抗成分は、前記一端がドレインであり、ソースが高電圧ノードに接続されたpチャネルの第1MOSトランジスタであり、
前記スイッチ素子は、前記一端がドレインであり、ソースが前記高電圧ノードに接続され、ゲートが前記制御回路によって制御され、前記第1MOSトランジスタよりもオン抵抗の小さいpチャネルの第2MOSトランジスタであり、
前記抵抗成分におけるソース・ドレイン間の抵抗値は、前記スイッチ素子におけるソース・ドレイン間の抵抗値よりも大きく、
前記制御回路は、論理“Low”レベルのパルス信号を出力して前記第2MOSトランジスタをオン状態とすることにより、前記SPADにおける降伏現象により放電された前記第1ノードを前記高電圧ノードから充電する、請求項1記載の光検出装置。
【請求項10】
所定の時間間隔でパルス光を検知対象物に照射する発光素子と、
前記発光素子から照射された前記パルス光の前記検知対象物における反射光を受光する光検出装置と、
前記発光素子において前記パルス光が照射されたタイミングと、前記光検出装置において前記反射光が受光されたタイミングとに基づいて前記検知対象物までの距離を演算する距離演算回路と
を具備し、前記光検出装置は、
一端が第1ノードに接続され、前記反射光を受光するSPAD(Single Photon Avalanche Diode)と、
一端が前記第1ノードに接続された抵抗成分と、
一端が前記第1ノードに接続されたスイッチ素子と、
前記スイッチ素子を制御して前記第1ノードを放電または充電する制御回路と
を備え、前記制御回路は、
前記第1ノードの電位が第1電位から第2電位に変化した際において、前記第2電位に変化してから第1期間の経過後に、第2期間が経過するか、前記第2期間の間に前記第1ノードの電位が前記第1電位に戻るまでの期間、前記スイッチ素子をオン状態とし、
前記第1ノードの電位が前記第1電位に戻ることなく前記第2期間が経過した場合には、前記スイッチ素子をオフ状態とし、前記スイッチ素子をオフ状態としてから第3期間の経過後に、前記スイッチ素子を再度オン状態とする、測距装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、光検出装置及び測距装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、測距装置としてToF(Time of Flight)センサが用いられてきている。このような測距装置によれば、発光部から発せられた光が検知対象物で反射され、この反射光が受光部で検出されるまでの時間により、検知対象物までの距離を算出できる。
【0003】
上記受光部において光を検出する素子として、近年では、単一光子アバランシェダイオード(SPAD:Single Photon Avalanche Diode)の採用が進められている。特許文献1には、SPADのなだれ降伏中に電子が高い準位にトラップされ、この電子が遅れてなだれ降伏を発生させるアフターパルスに起因したデッドタイム(dead time)の長期化を抑制する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
SPADを用いた受光部では、なだれ降伏が収まった後に、なだれ降伏により例えば充電されたノードを放電して、SPADの両端に高い逆電圧を印加して、次の光の入射に備える必要があり、放電が完了するまでの期間がデッドタイムとなる。放電の際に低い抵抗のスイッチを用いることで放電完了期間を短縮することが可能であるが、この放電中に、例えば外乱光やノイズによりなだれ降伏が再び発生する場合、なだれ降伏による電流とスイッチに流れる電流とでバランスが取れた平衡状態が発生し、ノードの電圧が固定化され、デッドタイムが更に長くなる場合がある。そして、特許文献1記載の方法は、かかる問題を解決するものではない。
【0006】
本開示は、上述の問題に鑑みなされたものであり、本開示の目的は、なだれ降伏によるデッドタイムの長期化を抑制できる光検出装置及び測距装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一態様に係る光検出装置は、一端が第1ノードに接続されたSPAD(Single Photon Avalanche Diode)と、一端が第1ノードに接続された抵抗成分と、一端が第1ノードに接続されたスイッチ素子と、スイッチ素子を制御して第1ノードを放電または充電する制御回路とを備え、制御回路は、第1ノードの電位が第1電位から第2電位に変化した際において、第2電位に変化してから第1期間の経過後に、第2期間が経過するか、第2期間の間に第1ノードの電位が第1電位に戻るまでの期間、スイッチ素子をオン状態とし、第1ノードの電位が第1電位に戻ることなく第2期間が経過した場合には、スイッチ素子をオフ状態とし、スイッチ素子をオフ状態としてから第3期間の経過後に、スイッチ素子を再度オン状態とする。
【0008】
本開示の一態様に係る測距装置は、所定の時間間隔でパルス光を検知対象物に照射する発光素子と、発光素子から照射されたパルス光の検知対象物における反射光を受光する光検出装置と、発光素子においてパルス光が照射されたタイミングと、光検出装置において反射光が受光されたタイミングとに基づいて検知対象物までの距離を演算する距離演算回路とを備え、光検出装置は、一端が第1ノードに接続され、反射光を受光するSPAD(Single Photon Avalanche Diode)と、一端が第1ノードに接続された抵抗成分と、一端が第1ノードに接続されたスイッチ素子と、スイッチ素子を制御して第1ノードを放電または充電する制御回路とを備え、制御回路は、第1ノードの電位が第1電位から第2電位に変化した際において、第2電位に変化してから第1期間の経過後に、第2期間が経過するか、第2期間の間に第1ノードの電位が第1電位に戻るまでの期間、スイッチ素子をオン状態とし、第1ノードの電位が第1電位に戻ることなく第2期間が経過した場合には、スイッチ素子をオフ状態とし、スイッチ素子をオフ状態としてから第3期間の経過後に、スイッチ素子を再度オン状態とする。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】一実施形態に係る測距装置の構成を示す断面図である。
【
図2】一実施形態に係る測距装置の機能ブロック図である。
【
図3】一実施形態に係る光検出装置の回路図である。
【
図5】一実施形態に係る光検出装置の動作時における各ノードのタイミングチャートである。
【
図6】一実施形態に係る光検出装置の動作時における各ノードのタイミングチャートである。
【
図7】一実施形態の第1変形例に係る測距装置の構成を示す断面図である。
【
図8】一実施形態の第1変形例に係る測距装置の機能ブロック図である。
【
図9】一実施形態の第2変形例に係る光検出装置の回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。なお、図面については、同一又は同等の要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0011】
この発明の一実施形態に係る光検出装置及び測距装置について説明する。以下では、測距装置としてToFセンサを例に挙げて説明する。また本実施形態では、ToFセンサにおいて検知対象物からの反射光を受光するSPAD及びSPADの動作を制御する制御回路を含む光検出装置を中心に説明する。
【0012】
図1は、本実施形態に係る測距装置1の構成を示す概略断面図である。
図1に示すように測距装置1は、筐体10、発光素子20、受光用IC(Integrated Circuit)30、光学フィルタ40、及び集光レンズ50を備えている。
【0013】
筐体10は、発光素子20、受光用IC30、及び光学フィルタ40を、その内部に保持し、外部からの衝撃や汚れ等から保護する。筐体10の内部には、発光素子20、受光用IC30、及び光学フィルタ40が実装されるための空洞11が設けられると共に、検知対象物2へ光を照射するための開口部12と、検知対象物2からの反射光を受光するための開口部13が設けられている。
【0014】
発光素子20は、筐体10の内部に実装されている。発光素子20は、例えば垂直共振器型面発光レーザ(VCSEL:Vertical Cavity Surface Emitting Laser)である。したがって、発光素子20は、その上方に開口部12が位置するように配置される。そして発光素子20は、例えば所定の時間間隔で、パルス光を検知対象物2に照射する。
【0015】
受光用IC30は、発光素子20と同様に、筐体10内部に実装されている。受光用ICは、内部に光検出装置60を備えている。光検出装置60は、複数のSPADを備えており、発光素子20から照射されたパルス光の検知対象物2における反射光を、このSPADにより受光する。したがって、光検出装置60は、受光用IC30内において、開口部13の直下に位置するように設けられている。光検出装置60の構成及び動作の詳細については後述する。なお、筐体10の空洞11内において、発光素子20と光検出装置60との間には、両者を隔離するようにして遮光壁14が設けられている。この遮光壁14により、発光素子20の出力するパルス光が空洞11内の空間を介して光検出装置60で受光されることを抑制できる。
【0016】
光学フィルタ40は、受光用IC30上に設けられ、光検出装置60の上面を被覆している。より具体的には、SPADにより反射光を受光する面を覆うようにして設けられる。光学フィルタ40により、例えば特定の波長帯域の反射光のみを光検出装置60に検出させることなどが可能となる。もちろん、光学フィルタ40が設けられない場合であってもよいし、光学フィルタ40はSPADを保護する保護フィルタとして機能する場合であってもよい。
【0017】
集光レンズ50は、開口部13上に設けられる。そして、検知対象物2からの反射光を集光して、これを光検出装置60に入射する。
【0018】
上記の構成において、発光素子20から出力された光が、検知対象物2で反射されて光検出装置60で検出されるまでの時間を求めることにより、検知対象物2までの距離を求めることができる。次に、このような動作を行うための測距装置1の機能ブロック構成について
図2を用いて説明する。
図2は測距装置1のブロック図である。
【0019】
図2に示すように測距装置1は、光検出装置60、発光素子20、駆動回路21、タイミング生成回路22、時間/デジタル変換回路(TDC:Time to digital Convertor)31、加減算回路32、及び距離演算回路33を備えている。
【0020】
タイミング生成回路22は、例えば外部から入力されるクロック信号に基づいて、所定の間隔でパルス信号を生成し、これを駆動回路21に出力する。
【0021】
駆動回路21は、発光素子20を駆動して、前述のパルス光を発光させる。より具体的には、タイミング生成回路22から受信したパルス信号のタイミングに基づいて発光素子20を発光させる。また駆動回路21は、発光素子20を駆動したタイミングと同期したタイミングでパルス信号を生成してTDC31に出力する。
【0022】
光検出装置60は、前述の通りSPADにおいて、検知対象物2からの反射光を受信する。そして光検出装置60は、反射光を受光したタイミングと同期したタイミングでパルス信号を生成してTDC31に出力する。
【0023】
TDC31は、駆動回路21から受信するパルス信号のタイミング(つまり発光素子20の発光タイミング)と、光検出装置60から受信するパルス信号のタイミング(つまりSPADの受光タイミング)をデジタル値に変換する。TDC31は、カウンタ回路34及び2つのフリップフロップ35、36を備えている。
【0024】
カウンタ回路34は、一定の周波数のクロック信号を外部から受信する。そしてカウンタ回路34は、このクロック信号を基準にしてデジタル値を出力する。例えばカウンタ回路34は、16進数により“0x0”~“0xF”のデジタル値を出力する。デジタル値が“0xF”に達した際には、“0x0”に戻る。
【0025】
フリップフロップ35は、例えばD-F/Fであり、カウンタ回路34の出力するデジタル値と、駆動回路21の出力するパルス信号とを受信し、パルス信号を受信したタイミングにおけるデジタル値を保持して、加減算回路32に出力する。フリップフロップ36も例えばD-F/Fであり、カウンタ回路34の出力するデジタル値と、光検出装置60の出力するパルス信号とを受信し、パルス信号を受信したタイミングにおけるデジタル値を保持して、加減算回路32に出力する。
【0026】
加減算回路32は、フリップフロップ35、36から出力されたデジタル値の差分bin_retを算出し、距離演算回路33に出力する。
【0027】
距離演算回路33は、加減算回路32から受信した差分bin_retと、当該差分を受信した回数との関係から、検知対象物2までの距離を演算する。本方法は、従来から知られた方法を用いることができる。
【0028】
次に、上記光検出装置60の詳細について説明する。
図3は、本実施形態に係る光検出装置60の回路図である。
図3に示すように、光検出装置60は、SPAD61、nチャネルMOSトランジスタ62、63、NANDゲート64、インバータ65、及び制御回路66を備えている。
【0029】
SPAD61は、一端(本例ではアノード)が第1ノードS1(以下、単にノードS1と呼ぶ)に接続され、他端が高電圧ノードに接続されている。高電圧ノードの電位は、SPAD61のブレイクダウン電圧VBDとオーバー電圧VEXとの和であり、オーバー電圧VEXは、NANDゲート64のノードS1の入力判定電圧以上の電圧とする。そしてSPAD61は、アノードとカソードとの間に(VBD+VEX)の電圧が印加されている際に、例えば検知対象物2からの反射光を受光することによりなだれ降伏(なだれ増倍)を起こし、カソードからアノードに電流を流す。
【0030】
nチャネルMOSトランジスタ62は、一端(本例ではドレイン)がノードS1に接続され、他端(本例ではソース)が低電圧ノード(本例では接地電位)に接続され、ゲートには電圧VGが印加されている。測距装置1の動作時には、電圧VGは論理“H”レベルとされてMOSトランジスタ62はオン状態とされ。したがって、MOSトランジスタ62は実質的に抵抗成分として機能する。
【0031】
nチャネルMOSトランジスタ63は、一端(本例ではドレイン)がノードS1に接続され、他端(本例ではソース)が低電圧ノード(本例では接地電位)に接続され、ゲートには制御回路66から与えられる信号S8が入力される。そしてMOSトランジスタ63は、ノードS8が論理“H”レベルの際にオン状態とされる。したがって、MOSトランジスタ63は実質的にスイッチとして機能する。なお、MOSトランジスタ63の、少なくとも線形領域及び飽和領域におけるソース・ドレイン間の抵抗値は、MOSトランジスタ62のソース・ドレイン間の抵抗値よりも小さい。
【0032】
NANDゲート64は、ノードS1における信号と、信号ENとの否定論理積演算を行い、演算結果をノードS2に出力する。測距装置1の動作時には、信号ENは論理“H”レベルとされいる。したがってNANDゲート64は、ノードS1が論理“H”レベルの際には論理“L”レベルを出力し、ノードS1が論理“L”レベルの際には論理“H”レベルを出力する。
【0033】
インバータ65は、ノードS2の論理レベルを反転させて、その結果を
図2で説明したTDC31のフリップフロップ35に出力する。
【0034】
制御回路66は、ノードS2の論理レベルに応じてMOSトランジスタ63を制御して、ノードS1を放電する。より具体的には、制御回路66は、ノードS1の電位が第1電位(本例ではゼロV)から第2電位(本例では電圧V1=論理“H”レベルに対応する電位)に上昇した際において、第2電位に変化してから第1期間Δt1の経過後に、第2期間Δt2が経過するか、第2期間Δt2の間にノードS1の電位が第1電位に戻るまでの期間、MOSトランジスタ63をオン状態とし、ノードS1の電位が第1電位に戻ることなく第2期間Δt2が経過した場合には、MOSトランジスタ63をオフ状態とし、MOSトランジスタ63をオフ状態としてから第3期間の経過後に、MOSトランジスタ63を再度オン状態とする。
【0035】
より詳細には、制御回路66は、遅延回路67、68、NORゲート69、70、71、インバータ72、及びNANDゲート73を備えている。遅延回路(第1遅延回路)67は、ノードS2の信号を第1期間Δt1だけ遅延させ、遅延させた信号をノードS3に出力する。NORゲート69は、ノードS3の信号と、NORゲート71の出力信号が与えられるノードS9の信号との否定論理和演算を行い、演算結果をノードS4に出力する。遅延回路(第2遅延回路)68は、ノードS4の信号を第2期間Δt2だけ遅延させ、遅延させた信号をノードS5に出力する。インバータ72は、ノードS5の論理レベルを反転させて、その結果をノードS6に出力する。NANDゲート73は、ノードS2の信号とノードS6の信号との否定論理積演算を行い、演算結果をノードS7に出力する。NORゲート70は、ノードS2の信号とノードS7の信号との否定論理和演算を行い、演算結果をノードS8に出力する。すなわち、NORゲート70の演算結果により、MOSトランジスタ63が制御される。NORゲート71は、ノードS6の信号とノードS8の信号との否定論理和演算を行い、演算結果をノードS9に出力する。
【0036】
上記構成において、NORゲート69は、遅延回路67の出力とNORゲート71の出力とに基づいて、ノードS1を放電するか否かを判定する判定回路として機能する。
【0037】
また遅延回路68、インバータ72、及びNANDゲート73は、上記判定回路の出力に基づいて、第2期間Δt2の間、MOSトランジスタ63をオン状態とさせ得るパルス信号を生成する第1パルス制御回路として機能する。より具体的には、インバータ72とNANDゲート73が、遅延回路68への入力信号と、遅延回路68の出力信号とに基づいて、第2期間Δt2の間有効化されたパルス信号をノードS7に生成するパルス生成回路とて機能する。
【0038】
NORゲート70は、ノードS1の電位が第2電位から第1電位に低下した際にパルス信号を無効化する第2パルス制御回路とて機能する。より具体的には、第2パルス制御回路は、上記第1パルス制御回路からノードS7出力されたパルス信号を受信し、ノードS1の電位に基づく信号(すなわちノードS2の信号)に基づいてパルス信号を無効化する。より具体的には、ノードS1が十分に放電されれば、その時点以降はMOSトランジスタ63をオン状態にしておく必要がないので、第1パルス制御回路からのパルス信号を無効化して、ノードS8を“L”レベルとする。
【0039】
NORゲート71は、ノードS1の電位が第1電位に達することなく第2期間Δt2が経過した場合に、上記判定回路に対して、再度、ノードS1を放電するよう判定させる第3パルス制御回路として機能する。より具体的には、第3パルス制御回路は、遅延回路68に基づく信号(すなわちノードS6の信号)と、第2パルス制御回路の出力信号(すなわちノードS8の信号)とに基づいて、第1ノードを放電させるよう判定するための信号を生成してノードS9に出力する。
【0040】
図4は、上記遅延回路67の回路図である。図示するように遅延回路67は、バッファ80及びORゲート81~83を備えている。バッファ80は、ノードS2の信号を波形整形する。ORゲート81は、ノードS2の信号と、バッファ80の出力信号との論理和演算を行う。ORゲート82は、ノードS2の信号と、ORゲート81の出力信号との論理和演算を行う。ORゲート83は、ノードS2の信号と、ORゲート82の出力信号との論理和演算を行う。そしてORゲート83の演算結果がノードS3に出力される。
【0041】
上記構成の遅延回路67によれば、出力信号の論理レベルの遷移速度は、入力信号が第1論理レベル(“H”または“L”)から、第1論理レベルと異なる第2論理レベル(“L”または“H”)に遷移する場合と、第2論理レベル(“L”または“H”)から前記第1論理レベル(“H”または“L”)に遷移する場合とで異なる。本例の場合には、入力信号が論理“L”レベルから論理“H”レベルに遷移すると、NORゲート83の出力が即座に論理“H”レベルに遷移する。逆に、入力信号が論理“H”レベルから論理“L”レベルに遷移した場合には、論理“L”レベルの入力信号がバッファ80及びNORゲート81及び82を通過してNORゲート83に達した時点で、NORゲート83の出力が論理“H”レベルから論理“L”レベルに遷移する。このように、
図4の構成では、論理“H”レベルから論理“L”レベルへの遷移速度は遅く、論理“L”レベルから論理“H”レベルへの遷移速度は速い。
【0042】
なお、遅延回路68は遅延回路67と異なり、入力信号が論理“H”レベルから論理“L”レベルに遷移する場合でも逆の場合でも、入力信号を期間Δt2だけ遅延させる。
【0043】
次に、上記光検出装置60の動作について、
図5のタイミングチャートを用いて説明する。
図5は、SPAD61の受光パルス(すなわち、検知対象物2から受信した光)、SPAD61におけるなだれ増幅の状態(図中における縦線がなだれ降伏が発生したことを示す)、及びノードS1乃至S9の信号のタイミングチャートであり、ノードS1の放電中になだれ降伏が生じない場合について示している。
【0044】
図示するように、時刻t1においてSPAD61が検知対象物2からの反射光を受光パルスとして受信し、これにより時刻t2においてSPAD61でなだれ増幅が発生する。すると、SPAD61からMOSトランジスタ62に向かって電流が流れ、時刻t2とほぼ同時にノードS1の電位がMOSトランジスタ62における電圧降下により電圧VEXまで上昇する。ノードS1の電位が上昇することにより、SPAD61のアノード・カソード間の電位差がVBDまで小さくなり、なだれ増幅はすぐに停止する。また、ノードS1の電位が上昇して論理“H”レベルとなることにより、時刻t3においてNANDゲート64の出力、すなわちノードS2は論理“L”レベルに遷移する。
【0045】
ノードS2の信号は制御回路66に入力され、遅延回路67において期間Δt1だけ遅延され、時刻t4においてノードS3が論理“L”レベルに遷移する。ノードS3が“L”レベルに遷移したことにより、時刻t5においてノードNORゲート69の演算結果、すなわちノードS4が論理“H”レベルに遷移する。ノードS4の信号は遅延回路68にも入力されるが、遅延回路68及びインバータ72を介することなくNANDゲート73にも入力される。その結果、時刻t6においてNANDゲート73の演算結果、すなわちノードS7は、論理“L”レベルに遷移する。ノードS7が論理“L”レベルに遷移したことにより、時刻t7において、NORゲート70の演算結果、すなわちノードS8は論理“H”レベルとされる。これにより、MOSトランジスタ63がオン状態とされ、ノードS1はMOSトランジスタ63によって放電され、ノードS1の電位は急速に低下する。
【0046】
そして、時刻t8においてノードS1が論理“L”レベルの閾値まで低下すると、ノードS2が論理“H”レベルに遷移する。ノードS2が論理“H”レベルに遷移したことにより、時刻t9においてNORゲート70の演算結果、すなわちノードS8は論理“L”レベルとなる。これにより、MOSトランジスタ63はオフ状態となる。この時点において、ノードS1は約ゼロVとなり、SPAD61のアノード・カソード間の電位差は(VBD+VEX)に復帰し、再びSPAD61は、受光することによりなだれ降伏を生じることが可能な状態となる。
【0047】
更に、ノードS2が論理“L”レベルに遷移することにより、時刻t9においてノードS3が論理“H”レベルに遷移する。前述の通り、遅延回路67は、入力信号が“L”レベルから“H”レベルに遷移する際には、ほとんど信号を遅延させない。ノードS3が論理“H”レベルに遷移することにより、時刻t10においてNORゲート69の演算結果が論理“L”レベルとなり、ノードS4も論理“L”レベルとなる。
【0048】
また、遅延回路68は、ノードS4が論理“H”レベルに遷移した時刻t5から期間Δt2だけ遅れた時刻t9においてノードS5を論理“H”レベルとし、またインバータ72によりノードS6が時刻t10において論理“L”レベルとされる。この結果、時刻t11においてNORゲート71の演算結果、すなわちノードS9が論理“H”レベルとされる。その後は時刻t12において、ノードS5がノードS4から期間Δt2だけ遅れて論理“L”レベルとされ、これにより時刻t14においてノードS9が論理“L”レベルとされる。
【0049】
次に、
図5を用いて説明した光検出装置60の動作において、ノードS1をMOSトランジスタ63により放電中にSPAD61でなだれ降伏が生じた場合について、
図6のタイミングチャートを用いて説明する。
図6は
図5と同様に、SPAD61の受光パルス、SPAD61におけるなだれ増幅の状態、及びノードS1乃至S9の信号のタイミングチャートである。
【0050】
図示するように、時刻t1~t7までの動作は
図5で説明した通りである。時刻t7においてノードS8が論理“H”レベルとされることで、前述したようにMOSトランジスタ63がオン状態とされ、ノードS1の電位が急速に低下する。しかし、ノードS1の電位が十分に下がりきらずにSPAD61のアノード・カソード間に(V
BD+低下分の電圧に相当する電位差)が生じている状態で、光子がSPAD61に入射してなだれ降伏が生じる場合がある。
図6の例では、ノードS1の放電中である時刻t8でなだれ降伏が発生し、ノードS1は再び論理“H”レベル(V
EX)に戻る。このように、SPADのアノード・カソード間の電位差が十分に下がりきっていない状態では、電位差が(V
BD+V
EX)の場合に比べてSPADの感度は低下するが、感度が全く無くなるわけではなく、場合によっては入射した光子に反応してなだれ降伏を生じさせる場合がある。
【0051】
また
図5の場合と同様に、時刻t9においてノードS5は論理“H”レベルに遷移し、時刻t10においてノードS6も論理“L”レベルに遷移し、時刻t11においてノードノードS7は論理“H”レベルとされる。
【0052】
しかし、時刻t12においても、ノードS1は論理“H”レベルを維持している。したがって、ノードS8は
図5の場合と異なり、遅延回路68によって決定される期間Δt2だけ論理“H”レベルを維持し、時刻t12において論理“L”レベルに遷移する。すなわち、MOSトランジスタ63は、時刻t7~t12の期間(Δt2)だけ、オン状態とされ、その後、ノードS1は十分に放電されていないが、一時的にオフ状態とされる。
【0053】
そして時刻t13においてNORゲート71の演算結果、すなわちノードS9が論理“H”レベルに遷移し、時刻t14においてノードS4が論理“L”レベルに遷移する。またノードS5は、時刻t14から期間Δt2経過後の時刻t15で論理“L”に遷移する。そして、時刻t16においてノードS6が論理“H”レベルに遷移し、ノードS8は論理“L”レベルであるから、時刻t17においてノードS9は論理“L”レベルに遷移する。ノードS9が論理“L”レベルに遷移したことにより、NORゲート69の演算結果、すなわちノードS4は時刻t18において“H”レベルに遷移する。そして、時刻t19においてノードS7が“L”レベルに遷移し、時刻t20においてノードS8が“H”レベルに遷移する。この結果、再度、MOSトランジスタ63がオン状態とされ、ノードS1が放電される。
【0054】
その後の動作は、
図5における時刻t7以降と同じである。
図6の例では、時刻t20から開始される放電によりノードS1が“L”レベル、すなわちゼロVまで低下する場合を例に示している。なお、当該放電動作中に、時刻t8と同様にSPAD61でなだれ降伏が発生してノードS1の電位が上昇した場合には、ノードS8は時刻t7~t12と同様に、時刻t20から期間Δt2だけ論理“H”レベルとされ、その後、論理“L”レベルとされた後、再度論理“H”レベルとされる。
【0055】
上記のように、本実施形態に係る光検出装置60であると、アノードが第1ノードS1に接続されたSPAD61と、ドレインが第1ノードS1に接続され、抵抗成分として機能するMOSトランジスタ62と、ドレインが第1ノードS1に接続され、スイッチ素子として機能するMOSトランジスタ63と、MOSトランジスタ63を制御して第1ノードS1を放電する制御回路66とを備えている。そして制御回路66は、第1ノードS1の電位が第1電位(例えばゼロV、論理“L”レベル)から第2電位V1(例えば論理“H”レベル)に上昇した際において、第2電位に変化してから第1期間Δt1の経過後に、第2期間Δt2が経過するか、第2期間Δt2の間に第1ノードS1の電位が第1電位に戻るまでの期間、MOSトランジスタ63をオン状態とする。そして、第1ノードS1の電位が第1電位に戻ることなく第2期間が経過した場合、例えば放電中にSPAD61が再度なだれ降伏を生じた場合など)には、MOSトランジスタ63をオフ状態とし、オフ状態としてから第3期間(
図6における時刻t12~t20)の経過後に、MOSトランジスタ63を再度オン状態とする。本構成により、
図6で説明したように、時刻t7から開始されたノードS1の放電動作中にSPAD61でなだれ降伏が起きた場合であっても、SPAD61のデッドタイムを低減できる。
【0056】
図3に示す本実施形態に係る光検出装置60において、MOSトランジスタ62は抵抗値の高いnMOSスイッチである。高い逆電圧(V
BD+V
EX)が印加されている状態のSPAD61に光が入射すると、なだれ増倍が生じて(アバランシェ動作)、SPAD61からMOSトランジスタ62に電流が流れる。MOSトランジスタ62に電流が流れると、MOSトランジスタ62のソース・ドレイン間における電圧降下により、SPAD61のアノード・カソード間電圧が低下し電圧V
BD程度となり(クエンチ動作)、なだれ増倍は停止する。この際、MOSトランジスタ62に加えてMOSトランジスタ63を用いることで、ノードS1を高速に放電することができる。その結果、SPAD61のアノード・カソード間電圧を(V
BD+V
EX)として、受光パルスに対応可能な状態にSPAD61を速やかに戻すことができる。
【0057】
しかし、単純にMOSトランジスタ63を追加した場合、2つのMOSトランジスタ62、63でノードS1を放電中になだれ増倍が発生すると、SPAD61のカソードから流れる電流は、MOSトランジスタ62、63の両方に流れる。そして、SPAD61に流れる電流と、MOSトランジスタ62、63とに流れる電流とでバランスが取れた状態が発生し、ノードS1の電荷が速やかに放電されず、ノードS1が論理“H”レベルとなる状態が維持される場合がある。このような現象が発生した場合であっても、バランスのとれた平衡状態は、不安定である為、一定の期間の後には均衡が崩れ、放電が完了して、SPAD61は受光パルスに対する感度を取り戻す。しかし、受光パルスに対応できないデッドタイムが長期間となり得る。
【0058】
すなわち、バランスが取れた状態(すなわち、なだれ電流=MOSトランジスタ62、63による放電電流)では、ノードS1の電位は低下しない。しかし、安定した平衡状態ではないため、当該状態が崩れてノードS1の電位が変動すると、(なだれ電流≠MOSトランジスタ62、63による放電電流)となり、ノードS1が0Vとなるもう1つの安定点(すなわち、なだれ電流は流れず、SPAD間に電圧が印加されている状態)に向かう。
【0059】
この点、本実施形態に係る構成によれば、MOSトランジスタ63をパルス駆動させる。MOSトランジスタ63を制御するパルス信号の有効期間(本例では“H”レベル期間)は、遅延回路68における遅延時間に応じて決定され、1回のパルスでノードS1を十分に放電できる、すなわちノードS1を論理“L”レベルとできる期間とされる。そして、ノードS2を介してノードS1の電位を監視し、ノードS1の電位が十分に低下した時点で、NORゲート70がパルスを無効化(本例では“L”レベル)する。これにより、ノードS1の放電期間を最小限とし、デッドタイムを短縮できる。
【0060】
更に本実施形態によれば、1回のパルスでノードS1を十分に放電できなかった場合、例えば放電中になだれ増倍が発生した場合には、2回目のパルスを発生させる。この際、1回目のパルスと2回目のパルスとの間に所定の期間を設け、この期間において、MOSトランジスタ63を用いることなくMOSトランジスタ62によりクエンチ動作を行う。これによりSPAD61とMOSトランジスタ62、63とに流れる電流とでバランスが取れた平衡状態になった場合においても、MOSトランジスタ62のみを用いることで均衡が崩れ、切り替え直後において、なだれ降伏による電流の方がMOSトランジスタ62による放電電流よりも大きくなることから、ノードS1の電位は上昇し、SPAD61のアノード・カソード間電圧はVBDまで低下し、SPAD61によるなだれ降伏による電流が止まる。その後、改めてパルス信号を発生させてMOSトランジスタ63をオン状態とし、ノードS1を放電する。これにより、放電中に再度なだれ増倍が生じても、長時間“H”レベル状態になることを抑制し、デッドタイムを短縮できる。
【0061】
また本実施形態によれば、遅延時間Δt1を、SPAD受光パルス幅Δtpよりも大きくする。これにより、放電中になだれ増倍がおきる可能性を低下させることができる。すなわち、なだれ増倍は、当然ながら受光パルス期間Δtpにおいて発生しやすい。しかし、
図5及び
図6に示すように、SPAD61に検知対象物2からの反射光が入射される受光パルス期間よりも遅延時間Δt1を大きくすることで、受光パルス期間と放電期間とがオーバーラップすることを避け、これにより放電中になだれ増倍が発生することを抑制できる。もちろん、なだれ増倍は、検知対象物2からの反射光を受光していなくても、外乱光やSPADノイズにより発生する場合がある。このような場合には、上記説明したように、MOSトランジスタ63を駆動するパルス信号を、“H”レベル、“L”レベル、“H”レベルと順次設定することで、デッドタイムの長期化は抑制される。
【0062】
上記のように、本実施形態によれば、SPADにおいてクエンチ動作により放電されるノードを、パルス駆動される低抵抗のスイッチ素子を用いて高速に低電位とすることができる。また、放電中になだれ増倍が発生して当該ノードの電位が上昇した際には、スイッチ素子をオフさせ、高抵抗のスイッチ素子(抵抗成分)を用いてクエンチ動作を行い、その後、低抵抗のスイッチ素子を用いて上記ノードを高速に放電する。これにより、SPAD61のデッドタイムを短縮し、測距装置1の性能を高めることができる。
【0063】
なお、上記実施形態は唯一の実施形態ではなく、種々の変形が可能である。例えば、
図1及び
図2で説明した測距装置1では、駆動回路21からのパルス信号と光検出装置60からのパルス信号とに基づいて距離演算回路33が検知対象物2までの距離を計測する場合を例に説明した。しかし、基準パルスを生成する光検出装置を設ける場合であってもよい。
図7は、このような場合の測距装置1の断面図であり、上記実施形態で説明した
図1に対応する。
【0064】
図示するように、本変形例に係る測距装置1は、
図1を用いて説明した構成において、光検出装置90及び光学フィルタ41を更に備えている。光検出装置90は受光用IC内部において、遮光壁14を挟んで光検出装置60と相対するように設けられる。光検出装置90の構成及び動作は、上記実施形態で説明した光検出装置60と同様である。そして光学フィルタ41は、光検出装置90の上面、具体的には光検出装置90のSPADの受光面を被覆するように配置される。そして、発光素子20から出力された光が、筐体10の空洞11における上面を反射する等して、光検出装置90に入射する。
【0065】
図8は、本変形例に係る測距装置1のブロック図であり、上記実施形態で説明した
図2に対応する。図示するように、本変形例に係る測距装置1は、
図2を用いて説明した構成において、上記説明した光検出装置90、加減算回路37、及びTDC31内に設けられたフリップフロップ38を更に備えている。
【0066】
光検出装置90は、前述の通りSPADにおいて、筐体10内部の反射光を受光したタイミングと同期したタイミングでパルス信号をTDC31に出力する。TDC31のフリップフロップ38は、例えばD-F/Fであり、カウンタ回路34の出力するデジタル値と、光検出装置90の出力するパルス信号とを受信し、パルス信号を受信したタイミングにおけるデジタル値を保持して、加減算回路37に出力する。加減算回路37は、フリップフロップ35、38から出力されたデジタル値の差分bin_refを算出し、距離演算回路33に出力する。そして距離演算回路33は、加減算回路32の出力する差分bin_retと、加減算回路37の出力する差分bin_refとに基づいて、検知対象物2までの距離を算出する。
【0067】
すなわち、差分bin_ref及びbin_retを下記の通りである。
・差分bin_ref=(基準光受光タイミング)-(VCSEL発光タイミング)
・差分bin_ret=(反射光受光タイミング)-(VCSEL発光タイミング)
そして距離演算回路33は、それぞれのヒストグラムを生成し、それぞれのヒストグラムの重心の差を検知対象物2までの距離として算出する。詳細な算出方法については、従来から知られた方法を用いることができる。
【0068】
本構成によれば、光検出装置90において受光した光を基準としている。そのため、発光素子20の発光遅延変動や、クロストーク光の影響を低減することができ、より精密な距離測定が可能となる。
【0069】
図9は、別の変形例に係る光検出装置60の回路図である。上記実施形態では、
図3で説明したようにSPAD61のカソードが高電圧ノードに接続され、MOSトランジスタ62、63としてnチャネル型が用いられる場合を例に説明した。しかし、必ずしも
図3の構成に限らず、
図9のような構成であってもよい。
【0070】
図示するように、本変形例に係る光検出装置60は、SPAD61、インバータ65、pチャネルMOSトランジスタ74、75、ANDゲート76、及び制御回路66を備えている。すなわち、上記説明した
図3において、nチャネルMOSトランジスタ62、63を、pチャネルMOSトランジスタ74,75に置き換えたものに相当する。
【0071】
SPAD61は、カソードがノードS1に接続され、アノードが低電圧ノード(例えば接地ノード)に接続されている。
【0072】
pチャネルMOSトランジスタ74は、ドレインがノードS1に接続され、ソースが高電圧ノードに接続され、ゲートには電圧VGが印加されている。測距装置1の動作時には、電圧VGは論理“L”レベルとされてMOSトランジスタ74はオン状態とされる。したがって、MOSトランジスタ74は実質的に抵抗成分として機能する。また、高電圧ノードの電位は、上記実施形態と同様に、SPAD61のブレイクダウン電圧VBDとオーバー電圧VEXの和である。そしてSPAD61は、アノードとカソードとの間に(VBD+VEX)の電圧が印加されている際に、例えば検知対象物2からの反射光を受光することによりなだれ降伏を起こし、カソードからアノードに電流を流す。
【0073】
pチャネルMOSトランジスタ75は、ドレインがノードS1に接続され、ソースが上記高電圧ノードに接続され、ゲートには制御回路66から与えられる信号S8が入力される。そしてMOSトランジスタ75は、ノードS8が論理“L”レベルの際にオン状態とされ。したがって、MOSトランジスタ75は実質的にスイッチ素子として機能し、ノードS1を充電する。なお、MOSトランジスタ75の、少なくとも線形領域及び飽和領域におけるソース・ドレイン間の抵抗値は、MOSトランジスタ74のソース・ドレイン間の抵抗値よりも小さい。
【0074】
ANDゲート76は、ノードS1における信号と、信号ENとの論理積演算を行い、演算結果をノードS2に出力する。測距装置1の動作時には、信号ENは論理“H”レベルとされいる。したがってANDゲート76は、ノードS1が論理“H”レベルの際には論理“H”レベルを出力し、ノードS1が論理“L”レベルの際には論理“L”レベルを出力する。なお、ANDゲート76はNANDゲートに置き換えてもよく、ノードS2を介してノードS1の電位を制御回路66に伝えられる構成であれば限定されない。
【0075】
制御回路66は、ノードS2の論理レベルに応じてMOSトランジスタ75を制御して、ノードS1を充電する。すなわち制御回路66は、ノードS1の電位が第1電位(本例では(VBD+VEX))から第2電位(本例では電圧V1=論理“L”レベルに対応する電位)に低下した際において、第2電位に変化してから第1期間Δt1の経過後に、第2期間Δ2が経過するか、第2期間Δt2の間にノードS1の電位が第1電位に戻るまでの期間、MOSトランジスタ75をオン状態とし、ノードS1の電位が第1電位に戻ることなく第2期間Δt2が経過した場合には、MOSトランジスタ75をオフ状態とし、MOSトランジスタ75をオフ状態としてから第3期間の経過後に、MOSトランジスタ75を再度オン状態とする。すなわち、ノードS1及びS8の論理関係(“H”レベルまたは“L”レベル)が逆である以外は、上記実施形態で説明した制御回路66と同様である。
【0076】
より具体的には、制御回路66は、MOSトランジスタ75をパルス駆動させる。MOSトランジスタ75を制御するパルス信号の有効期間(本例では“L”レベル期間)は、1回のパルスでノードS1を十分に充電できる、すなわちノードS1を論理“H”レベルとできる期間とされる。そして、ノードS2を介してノードS1の電位を監視し、ノードS1の電位が十分に上昇した時点で、パルスが無効化(本例では“H”レベル)される。これにより、ノードS1の充電期間を最小限とし、デッドタイムを短縮できる。
【0077】
更に本実施形態によれば、1回のパルスでノードS1を十分に充電できなかった場合、例えば充電中になだれ増倍が発生した場合には、2回目のパルスを発生させる。この際、1回目のパルスと2回目のパルスとの間に所定の期間を設け、この期間において、MOSトランジスタ75を用いることなくMOSトランジスタ74によりクエンチ動作を行う。これによりSPAD61とMOSトランジスタ74、75とに流れる電流とでバランスが取れた平衡状態になった場合においても、MOSトランジスタ74のみを用いることで均衡が崩れ、切り替え直後において、なだれ降伏による電流の方がMOSトランジスタ74による充電電流よりも大きくなることから、ノードS1の電位は低下し、SPAD61のアノード・カソード間電圧はVBDまで低下し、SPAD61によるなだれ降伏による電流が止まる。その後、改めてパルス信号を発生させてMOSトランジスタ75をオン状態とし、ノードS1を充電する。これにより、充電中に再度なだれ増倍が生じることを抑制し、デッドタイムを短縮できる。
【0078】
なお、
図8で説明した構成の場合には、2つの光検出装置60、90は互いに同じ回路構成であることが望ましい。すなわち、2つの光検出装置60、90の両方が
図3に示す構成であるか、または2つの光検出装置60、90の両方が
図9に示す構成であることが望ましい。
【0079】
また、上記実施形態及び変形例で説明した回路構成は一例に過ぎず、種々の変形が可能である。特に制御回路66は、MOSトランジスタ63、75を上記説明したように適切に制御できる構成であればよく、例えばプロセッサなどソフトウェアにより制御する場合であってもよい。
【0080】
更に測距装置1では、SPAD61が例えばマトリクス状に複数配置されることが通常である。このような場合に、SPAD61の数が十分に多かったとしても、外乱光などによりデッドタイムにあるSPAD61が増えてしまうと、測距装置1としての感度が低下してしまう。したがってこのような用途において本実施形態は特に有効である。また、明るい環境下で使用されるアプリケーションの場合には、ノードS1の充放電中になだれ増倍が生じる可能性が高く、このようなアプリケーションにも効果的である。上記実施形態に係る測距装置1は、例えばスマートフォンや自動掃除機などに適用することもできる。例えばスマートフォンに適用する場合には、測距装置1によりユーザとの距離を計測し、例えばユーザが通話のためにスマートフォンを耳に当てる際に、ユーザとの距離が一定以下になったことを検出して、ディスプレイ表示やタッチパネル機能を無効化することができる。また自動掃除機に適用する場合には、壁や家具などの障害物を検知するために用いることができる。
【0081】
上記では、本発明の実施形態を説明したが、上述した形態に限定されるものではなく、適宜変形可能である。そして上記の構成は、実質的に類似の構成、類似の作用効果を奏する構成または類似の目的を達成できる構成で置き換えることができる。
【符号の説明】
【0082】
1…測距装置、2…検知対象物、10…筐体、11…空洞、12、13…開口部、14…遮光壁、20…発光素子、21…駆動回路、22…タイミング生成回路、30…受光用IC、31…時間/デジタル変換回路、32…加減算回路、33…距離演算回路、34…カウンタ回路、35、36、38…フリップフロップ、40、41…光学フィルタ、50…集光レンズ、60、90…光検出装置、61…SPAD、62、63、74、75…MOSトランジスタ、64、73…NANDゲート、65…インバータ、66…制御回路、67、68…遅延回路、69、70、71…NORゲート、76…ANDゲート、80…バッファ、81、82、83…ORゲート