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特開2024-11655熱硬化性樹脂組成物、プリプレグ及び積層体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024011655
(43)【公開日】2024-01-25
(54)【発明の名称】熱硬化性樹脂組成物、プリプレグ及び積層体
(51)【国際特許分類】
   C08F 290/06 20060101AFI20240118BHJP
   C08J 5/24 20060101ALI20240118BHJP
   H05K 1/03 20060101ALI20240118BHJP
【FI】
C08F290/06
C08J5/24 CEZ
H05K1/03 630H
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022113850
(22)【出願日】2022-07-15
(71)【出願人】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】弁理士法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】加藤 泰央
(72)【発明者】
【氏名】中林 裕晴
【テーマコード(参考)】
4F072
4J127
【Fターム(参考)】
4F072AA07
4F072AD05
4F072AD42
4F072AD52
4F072AE02
4F072AF15
4F072AF23
4F072AF24
4F072AF27
4F072AG03
4F072AJ22
4F072AL13
4J127AA03
4J127BB031
4J127BB091
4J127BB221
4J127BC021
4J127BC131
4J127BD231
4J127BG051
4J127BG05X
4J127BG141
4J127BG14X
4J127CB351
4J127CC291
4J127DA39
4J127DA49
4J127EA05
4J127FA03
4J127FA38
(57)【要約】
【課題】成形性が良好であり、高温における形状安定性に優れる硬化物が得られる熱硬化性樹脂組成物、並びにそれを用いたプリプレグ及び積層体を提供する。
【解決手段】本発明は、(A)末端に炭素-炭素二重結合を有する変性ポリフェニレンエーテル、(B)芳香族ビニル系熱可塑性エラストマー、及び(C)熱ラジカル開始剤を含有し、前記(B)芳香族ビニル系熱可塑性エラストマーが、イソブチレンを主体とする重合体ブロックを含む、熱硬化性樹脂組成物に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)末端に炭素-炭素二重結合を有する変性ポリフェニレンエーテル、
(B)芳香族ビニル系熱可塑性エラストマー、及び
(C)熱ラジカル開始剤を含有し、
前記(B)芳香族ビニル系熱可塑性エラストマーが、イソブチレンを主体とする重合体ブロックを含むことを特徴とする、熱硬化性樹脂組成物。
【請求項2】
さらに、(D)架橋剤を含む、請求項1に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項3】
前記(A)変性ポリフェニレンエーテルは、炭素-炭素二重結合を有する官能基によりポリフェニレンエーテルの末端が変性されたものであり、前記炭素-炭素二重結合を有する官能基は、ビニル基、アリル基、メタリル基、プロペニル基、ブテニル基、ヘキセニル基、オクテニル基、シクロペンテニル基、シクロヘキセニル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、ビニルベンジル基、及びビニルナフチル基からなる群から選ばれる、請求項1又は2に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項4】
前記(B)芳香族ビニル系熱可塑性エラストマーが、芳香族ビニル化合物を主体とする重合体ブロックを10~50重量%、及びイソブチレンを主体とする重合ブロックを50~90重量%含み、前記(B)芳香族ビニル系熱可塑性エラストマーの重量平均分子量が10,000以上である、請求項1~3のいずれかに記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項5】
前記(D)架橋剤が、トリアリルイソシアヌレート骨格を有する化合物である、請求項1~4のいずれかに記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項6】
さらに有機溶媒を含む、請求項1~5のいずれかに記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1~6のいずれかに記載の熱硬化性樹脂組成物が含侵された繊維基材を含むプリプレグ。
【請求項8】
請求項1~6のいずれかに記載の熱硬化性樹脂組成物の硬化物を含む積層体。
【請求項9】
前記硬化物及び樹脂フィルムを含む樹脂積層フィルム、前記硬化物及び金属箔を含む金属張積層板、前記硬化物、樹脂フィルム及び金属箔を含む金属張積層板、又は、前記硬化物、繊維基材及び金属箔を含む金属張積層板である、請求項8に記載の積層体。
【請求項10】
プリント配線板である、請求項8又は9に記載の積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変性ポリフェニレンエーテルを含む熱硬化性樹脂組成物、並びにそれを用いたプリプレグ及び積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリフェニレンエーテル(PPE)は、誘電率や誘電正接等の電気的特性に優れることから、情報通信機器や家電製品等の電子製品に広く使用されている。例えば、特許文献1及び2には、プリント配線板(電子回路基板とも称される)の基板用材料として用いるポリフェニレンエーテル、架橋剤、有機過酸化物及び熱可塑性樹脂等を含む樹脂組成物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-132716号公報
【特許文献2】特開2020-200427号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1及び2に記載の樹脂組成物は、熱可塑性樹脂として芳香族ビニル系熱可塑性エラストマーを用いることで、成形性が向上するものの、硬化物の高温での形状保持性についての改良の余地があった。
【0005】
本発明は、従来の課題を解決するため、成形性が良好であり、高温での形状保持性に優れる硬化物が得られる熱硬化性樹脂組成物、並びにそれを用いたプリプレグ及び積層体を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、(A)末端に炭素-炭素二重結合を有する変性ポリフェニレンエーテル、(B)芳香族ビニル系熱可塑性エラストマー、及び(C)熱ラジカル開始剤を含み、前記(B)芳香族ビニル系熱可塑性エラストマーが、イソブチレンを主体とする重合体ブロックを含有することを特徴とする、熱硬化性樹脂組成物に関する。
【0007】
本発明は、前記熱硬化性樹脂組成物が含侵された繊維基材を含むプリプレグに関する。
【0008】
本発明は、前記熱硬化性樹脂組成物の硬化物を含む積層体に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、成形性が良好であり、高温での形状保持性に優れる硬化物が得られる熱硬化性樹脂組成物、並びにそれを用いたプリプレグ及び積層体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の発明者は、前記課題を解決するために鋭意検討を重ねた。その結果、芳香族ビニル系熱可塑性エラストマーとしてイソブチレンを主体とする重合体ブロックを含有する芳香族ビニル系熱可塑性エラストマーを選択し、末端に炭素-炭素二重結合を有する変性ポリフェニレンエーテルと併用することで、これらの樹脂を含む樹脂組成物の硬化物のTgが高くなり、高温での形状保持性が向上することを見出した。特に、芳香族ビニル系熱可塑性エラストマーとしてイソブチレンを主体とする重合体ブロックを含む芳香族ビニル系熱可塑性エラストマーを選択し、末端に炭素-炭素二重結合を有する変性ポリフェニレンエーテルと併用することで、樹脂成分のみの硬化物のTgが高くなり、高温での形状保持性が向上することを見出した。そのため、目的に応じて本樹脂組成物に様々な無機充填材等の添加剤を添加することが可能であるため、広い用途へ展開することができる。
【0011】
本明細書において、数値範囲が「~」で示されている場合、該数値範囲は両端値(上限及び下限)を含む。例えば、「x~y」という数値範囲は、x及びyという両端値を含む範囲となる。また、本明細書において、数値範囲が複数記載されている場合、異なる数値範囲の上限及び下限を適宜組み合わせた数値範囲を含むものとする。
【0012】
(熱硬化性樹脂組成物)
本発明の1以上の実施形態の熱硬化性樹脂組成物は、(A)末端に炭素-炭素二重結合を有する変性ポリフェニレンエーテル(以下において、「A成分」とも記す)、(B)イソブチレンを主体とする重合体ブロックを含む芳香族ビニル系熱可塑性エラストマー(以下において、単に「B成分」とも記す)、及び(C)熱ラジカル開始剤(以下において、単に「C成分」とも記す)を含む。
【0013】
(A成分)
A成分は、炭素-炭素二重結合を有する官能基によりポリフェニレンエーテルの末端が変性されたもの(以下において、「末端変性ポリフェニレンエーテル」とも記す)であればよく、特に限定されない。A成分は、例えば、ポリフェニレンエーテル鎖と、ポリフェニレンエーテル鎖の末端に結合している炭素-炭素二重結合を有する官能基を有する。末端変性ポリフェニレンエーテルは、片末端に炭素-炭素二重結合を有する官能基を有してもよいが、両末端に炭素-炭素二重結合を有する官能基を有することが好ましい。両末端において、炭素-炭素二重結合を有する官能基は同一でもよく、異なってもよい。
【0014】
前記炭素-炭素二重結合を有する官能基は、特に限定されないが、例えば、アルケニル基、アルケニルカルボニル基、アルケニルアリール基等が挙げられる。
【0015】
前記アルケニル基の炭素数は特に限定されないが、例えば、好ましくは2~18であり、より好ましくは2~10である。具体的には、例えば、ビニル基(エテニル基(ethenyl group)とも称される)、アリル基、メタリル基(methallyl group)、プロペニル基(propenyl group)、ブテニル基(butenyl group)、ヘキセニル基(hexenyl group)、オクテニル基(octenyl group)、シクロペンテニル基(cyclopentenyl group)、及びシクロヘキセニル基(cyclohexenyl group)等が挙げられる。
【0016】
前記アルケニルカルボニル基は、アルケニル基で置換されたカルボニル基であれば、特に限定されないが、例えば、炭素数3~18のアルケニルカルボニル基が好ましく、炭素数3~10のアルケニルカルボニル基がより好ましい。具体的には、例えば、アクリロイル基(アクリル基(acryl group)とも称される)、メタクリロイル基(メタクリル基(methacryl group)とも称される)、及びクロトノイル基等が挙げられる。
【0017】
前記アルケニルアリール基は、アルケニル基で置換されたアリール基であれば、特に限定されないが、例えば、炭素数8~20のアルケニルカルボニル基が好ましく、炭素数8~18のアルケニルカルボニル基がより好ましい。具体的には、例えば、ビニルベンジル基(vinylbenzyl group)、及びビニルナフチル基(vinylnaphthyl group)等が挙げられる。
【0018】
前記末端変性ポリフェニレンエーテルの重量平均分子量は、特に限定されないが、1000以上であることが好ましく、より好ましくは1000~7000であり、1000~5000であることがさらに好ましく、1000~3000であることがさらにより好ましい。末端変性ポリフェニレンエーテルの重量平均分子量は、一般的な分子量測定方法で測定することができ、具体的には、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて測定することができる。末端変性ポリフェニレンエーテルの重量平均分子量が上述した範囲内であると、ポリフェニレンエーテルの有する優れた誘電特性を維持しつつ、その硬化物のガラス転移温度を高め、耐熱性を良好にしやすくなる。なお、本明細書において、GPC測定は、移動相としてクロロホルムを用い、測定はポリスチレンゲルカラムにて行い、数平均分子量等はポリスチレン換算で求めることができる。
【0019】
A成分は、末端変性ポリフェニレンエーテル1分子当たりの、分子末端に有する、炭素-炭素不飽和二重結合を有する官能基の平均個数(末端置換基数)が1.5~3であることが好ましく、より好ましくは1.7~2.7であり、さらに好ましくは1.8~2.5である。末端置換基数が上述した範囲内であると、末端変性ポリフェニレンエーテルが適度な反応性を有することになり、A成分を含む熱硬化性樹脂組成物の保存性や流動性が向上しやすいとともに、硬化物の耐熱性も良好になりやすい。
【0020】
本明細書において、末端変性ポリフェニレンエーテルの末端置換基数は、変性ポリフェニレンエーテル1モル中に存在する全ての変性ポリフェニレンエーテルの1分子あたりの、置換基数の平均値を表した数値を意味する。この末端置換基数は、例えば、変性ポリフェニレンエーテルに残存する水酸基数を測定して、変性前のポリフェニレンエーテルの水酸基数からの減少分を算出することによって、測定することができる。この変性前のポリフェニレンエーテルの水酸基数からの減少分が、末端官能基数である。そして、変性ポリフェニレンエーテルに残存する水酸基数の測定方法は、変性ポリフェニレンエーテルの溶液に、水酸基と会合する4級アンモニウム塩(テトラエチルアンモニウムヒドロキシド)を添加し、その混合溶液のUV吸光度を測定することによって、求めることができる。
【0021】
前記末端変性ポリフェニレンエーテルの固有粘度は、0.03~0.12dl/gであることが好ましく、より好ましくは0.04~0.11dl/gであり、さらに好ましくは0.06~0.095dl/gである。A成分の固有粘度が上述した範囲内であると、低誘電率や低誘電正接等の低誘電性が得やすい上、熱硬化性樹脂組成物の流動性が高まりやすく、硬化物の成形性や耐熱性を向上することができる。
【0022】
本明細書において、固有粘度は、25℃の塩化メチレン中で測定したものであり、より具体的には、例えば、末端変性ポリフェニレンエーテル0.18gを45mLの塩化メチレンで溶解した溶液(液温25℃)を用い、粘度計で測定した値等である。粘度計としては、例えば、スコット社製のAVS500 Visco System等が挙げられる。
【0023】
前記末端変性ポリフェニレンエーテルは、高分子量成分の含有量が少なく、分子量分布が比較的狭いことが好ましく、例えば、分子量が13000以上の高分子量成分の含有量が少ないことが望ましく、具体的には分子量が13000以上の高分子量成分の含有量が5重量%以下であることが望ましく、0~5重量%であってもよく、0~3重量%であってもよく、0重量%であることがより好ましい。このような高分子量成分の含有量の少ない、分子量分布の狭い変性ポリフェニレンエーテルであれば、硬化反応に寄与する反応性がより高く、より流動性に優れたものが得られる傾向がある。
【0024】
本明細書において、末端変性ポリフェニレンエーテルにおける高分子量成分の含有量は、例えば、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて、分子量分布を測定し、測定された分子量分布に基づいて算出することができる。具体的には、GPCにより得られた分子量分布を示す曲線に基づくピーク面積の割合から算出することができる。
【0025】
A成分の合成方法は、炭素-炭素不飽和二重結合を有する官能基により末端変性された変性ポリフェニレンエーテルを合成することができれば、特に限定されない。例えば、ポリフェニレンエーテルに、炭素-炭素不飽和二重結合を有する官能基とハロゲン原子とか結合された化合物を反応させる方法等が挙げられる。
【0026】
A成分としては、具体的には例えば、下記一般式(1)で表される末端変性ポリフェニレンエーテルを用いることができる。下記一般式(1)で表される末端変性ポリフェニレンエーテルとしては、例えば、SABIC社製「Noryl SA-9000」等の市販品を用いてもよい。
【0027】
【化1】
【0028】
前記一般式(1)中、Yは、酸素原子、メチレン基、又はジメチルメチレン基を示し、sは0~20を示し、tは0~20を示し、s及びtの合計は、1~30を示すことが好ましい。
【0029】
(B成分)
B成分は、イソブチレンを主体とする重合体ブロックを含有する芳香族ビニル系熱可塑性エラストマーである。前記イソブチレンを主体とする重合体ブロック(以下、単に「イソブチレン重合体ブロックとも記す」)は、イソブチレンを50重量%より多く含み、好ましくは55重量%以上、より好ましくは60重量%以上、さらに好ましくは70重量%以上、さらにより好ましくは80重量%以上、さらにより好ましくは90重量%以上を含み、イソブチレン100重量%からなるものでもよい。イソブチレン重合体ブロックにおいて、イソブチレン以外のモノマーとしては、例えば、イソブチレン以外のオレフィン系モノマー、芳香族ビニル化合物、ビニルエーテル化合物、β-ピネン等が挙げられる。イソブチレン以外のオレフィン系モノマーとしては、例えば、エチレン、プロピレン、1-ブテン、イソブチレン等のモノオレフィン系モノマー;ブタジエン、イソプレン等のジオレフィン(共役ジエン)系モノマー等が挙げられる。芳香族ビニル化合物としては、例えば、後述するものが挙げられる。ビニルエーテル化合物としては、例えば、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、及びイソブチルビニルエーテル等が挙げられる。
【0030】
B成分は、硬化物の高温における形状安定性をより高める観点から、イソブチレン系重合体ブロックに加えて、芳香族ビニル化合物を主体とする芳香族ビニル系重合体ブロックを含む芳香族ビニル系熱可塑性エラストマーであることが好ましい。
【0031】
芳香族ビニル化合物を主体とする重合体ブロック(以下において、単に「芳香族ビニル系重合体ブロック」とも記す)、芳香族ビニル化合物を50重量%より多く含み、好ましくは55重量%以上、より好ましくは60重量%以上、さらに好ましくは70重量%以上、さらにより好ましくは80重量%以上、さらにより好ましくは90重量%以上を含み、芳香族ビニル化合物100重量%からなるものでもよい。前記芳香族ビニル化合物としては、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、β-メチルスチレン、p-メチルスチレン、t-ブチルスチレン、モノクロロスチレン、ジクロロスチレン、メトキシスチレン、インデン、ジビニルベンゼン、N,N-ジメチル-p-アミノエチルスチレン、N,N-ジエチル-p-アミノエチルスチレン、ビニルピリジン等が挙げられる。中でも、コストと物性及び生産性のバランスからスチレン、前記芳香族ビニル化合物は、α-メチルスチレン、p-メチルスチレン、及びインデンからなる群から選ばれる1種以上が好ましく、さらに重合安定性の観点から、スチレン、α-メチルスチレン、及びインデンからなる群から選ばれる1種以上がより好ましい。芳香族ビニル系重合体ブロックにおいて、芳香族ビニル化合物以外のモノマー成分としては、例えば、オレフィン系モノマー、ビニルエーテル化合物、β-ピネン等が挙げられる。オレフィン系モノマーとしては、例えば、エチレン、プロピレン、1-ブテン、イソブチレン等のモノオレフィン系モノマー;ブタジエン、イソプレン等のジオレフィン(共役ジエン)系モノマー等が挙げられる。ビニルエーテル化合物としては、例えば、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、及びイソブチルビニルエーテル等が挙げられる。
【0032】
前記芳香族ビニル系熱可塑性エラストマーは、熱硬化性樹脂組成物の成形性及び硬化物の高温形状安定性の観点から、芳香族ビニル系重合体ブロックを5~50重量%、及びイソブチレン系重合体ブロックを50~95重量%含むことが好ましく、芳香族ビニル系重合体ブロックを10~45重量%、及びイソブチレン系重合体ブロックを55~90重量%含むことがより好ましく、芳香族ビニル系重合体ブロックを15~40重量%、及びイソブチレン系重合体ブロックを60~85重量%含むことがさらに好ましく、芳香族ビニル系重合体ブロックを15~35重量%、及びイソブチレン系重合体ブロックを65~85重量%含むことがさらにより好ましい。
【0033】
B成分は、A成分との混合性、熱硬化性樹脂組成物の成形性及び硬化物の高温形状安定性の観点から、重量平均分子量が10,000以上であることが好ましく、20,000~300,000であることがより好ましく、30,000~280,000であることがさらに好ましく、40,000~250,000であることがさらにより好ましく、50,000~200,000であることが特に好ましい。B成分の重量平均分子量は、サイズ浸透クロマトグラフィー(SEC)を用いた標準ポリスチレン換算法で測定することができ、具体的には、実施例に記載のとおりに測定することができる。
【0034】
B成分の添加量は、成形性及び高温形状安定性の観点から、A成分100重量部に対し、5~200重量部であることが好ましく、10~150重量部であることがより好ましく、15~120重量部であることがさらに好ましく、30~90重量部であることがさらにより好ましい。
【0035】
(C成分)
C成分の熱ラジカル開始剤は、特に限定されず、例えば、アゾ系開始剤、過酸化物開始剤、過硫酸塩開始剤、レドックス開始剤等が挙げられる。
【0036】
前記アゾ系開始剤としては特に限定されず、例えば、2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2'-アゾビス(2-アミジノプロパン)二塩酸塩、2,2'-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2'-アゾビス(イソブチロニトリル)、2,2'-アゾビス-2-メチルブチロニトリル、1,1-アゾビス(1-シクロヘキサンカルボニトリル)、2,2’-アゾビス(2-シクロプロピルプロピオニトリル)、及び2,2’-アゾビス(メチルイソブチレ-ト)等が挙げられる。
【0037】
前記過酸化物開始剤としては特に限定されず、例えば、過酸化ベンゾイル、過酸化アセチル、過酸化ラウロイル、過酸化デカノイル、ジセチルパーオキシジカーボネート、ジ(4-t-ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート、ジ(2-エチルヘキシル)パーオキシジカーボネート、t-ブチルパーオキシピバレート、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、2,5-ジメチル-2,5-ビス(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン、及び過酸化ジクミル等が挙げられる。
【0038】
前記過硫酸塩開始剤としては特に限定されず、例えば、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、及び過硫酸アンモニウム等が挙げられる。
【0039】
レドックス(酸化還元)開始剤としては特に限定されず、上記過硫酸塩開始剤と還元剤(メタ亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム等)との組み合わせ;有機過酸化物と第3級アミンに基づく系、例えば過酸化ベンゾイルとジメチルアニリンに基づく系;有機ヒドロパーオキシドと遷移金属に基づく系、例えばクメンヒドロパーオキシドとコバルトナフテートに基づく系等が挙げられる。
【0040】
熱ラジカル開始剤としては、アゾ系開始剤及び過酸化物系開始剤からなる群から選ばれるものが好ましく、2,2’-アゾビス(メチルイソブチレ-ト)、過酸化ベンゾイル、過酸化ジクミル、t-ブチルパーオキシピバレート、及びジ(4-t-ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネートからなる群から選ばれる一つ以上がより好ましい。
【0041】
C成分の添加量は、硬化性と貯蔵安定性の点から、A成分100重量部に対し0.01~10重量部であることが好ましく、より好ましくは約0.1~5量部である。
【0042】
(D成分)
本発明の1以上の実施形態の熱硬化性組成物は、硬化性を高めるとともに、高温形状安定性をより高める観点から、D成分として架橋剤を含んでもよい。前記架橋剤としては、炭素-炭素不飽和二重結合を一分子中に2個以上有する化合物が挙げられる。炭素-炭素不飽和二重結合としては、例えば、ビニル基、イソプロペニル基、アリル基、1-メチルアリル基、3-ブテニル基等の不飽和脂肪族炭化水素基;マレイミド基、(メタ)アクリロイル基等のヘテロ原子を含む置換基等に含まれる不飽和結合等が挙げられる。
【0043】
前記架橋剤は、硬化性の観点から、アリル基を含むアリル架橋剤であることが望ましい。アリル架橋剤としては、具体的には、ジアリルシアヌレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、ジアリルフタレート、及びトリアリルトリメリテート等からなる群から選ばれる一つ以上の骨格を有するものが挙げられる。中でも、熱硬化性組成物の高温形状安定性をより高める観点から、トリアリルイソシアヌレート骨格を有する架橋剤がより好ましい。
【0044】
D成分の添加量は、特に限定されないが、例えば、硬化性、耐熱性及び電気的特性の観点から、A成分100重量部に対し、0~100重量部であることが好ましく、2~70重量部であることがより好ましく、5~50重量部であることがさらに好ましく、10~45重量部であることが特に好ましい。
【0045】
(他の添加剤)
本発明の1以上の実施形態の熱硬化性樹脂組成物は、A成分、B成分、C成分、及びD成分に加えて、本発明の効果を阻害しない範囲内で、目的とする物性に応じて、他の添加剤を含んでもよい。他の添加剤としては、例えば、無機充填材、微小中空粒子、酸化防止剤、可塑剤、反応性希釈剤、光安定剤、接着性付与剤、難燃剤、老化防止剤、ラジカル禁止剤、金属不活性化剤、オゾン劣化防止剤、リン系過酸化物分解剤、滑剤、顔料、発泡剤等が挙げられる。これらの他の添加剤は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。他の添加剤は、A成分100重量部に対し、50重量部以下用いてもよい。
【0046】
(有機溶媒)
本発明の1以上の実施形態において、熱硬化性樹脂組成物は、希釈することによって取り扱いを容易にするという観点及びプリプレグを製造し易くする観点から、有機溶媒を含有することが望ましい。有機溶媒を含有させた樹脂組成物は、一般的に、樹脂ワニス又はワニスと称されることがある。
【0047】
前記樹脂ワニスは、例えば、A成分、B成分、及びC成分等の有機溶媒に溶解する成分を有機溶媒に加えて、必要に応じて、加熱しながら溶解させてもよい。必要に応じてD成分も有機溶媒に加えて溶解してもよい。その後、必要に応じて、有機溶媒に溶解しない充填材等の他の添加剤を加え、ボールミル、ビーズミル、プラネタリーミキサー、ロールミル等を用いて、所定の分散状態になるまで分散させることにより、ワニス状の樹脂組成物を調製することができる。
【0048】
前記有機溶媒は、A成分、B成分、及びC成分を溶解することができ、必要に応じて、D成分も溶解することができ、硬化反応を阻害しないものであればよく、特に限定されない。例えば、塩化メチル、ジクロロメタン、クロロホルム、塩化エチル、ジクロロエタン、1-クロロブタン、n-プロピルクロライド、n-ブチルクロライド、クロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレン、並びにエチルベンゼン、プロピルベンゼン、及びブチルベンゼン等のアルキルベンゼン化合物等の芳香族炭化水素;エタン、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン等の直鎖式脂肪族炭化水素化合物;2-メチルプロパン、2-メチルブタン、2,3,3-トリメチルペンタン、2,2,5-トリメチルヘキサン等の分岐式脂肪族炭化水素化合物;シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン等の環式脂肪族炭化水素化合物等が挙げられる。前記有機溶媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組合せて用いてもよい。
【0049】
前記熱硬化性樹脂組成物が有機溶媒を含む場合、すなわち、樹脂ワニスにおいて、樹脂ワニス全体を100重量%とした場合、有機溶媒の含有量は、5~95重量%であってもよく、10~90重量%であってもよく、20~80重量%であってもよい。
【0050】
(プリプレグ)
本発明の1以上の実施形態のプリプレグは、繊維基材に前記熱硬化性樹脂組成物を含侵させることで得ることができる。
【0051】
繊維基材としては、特に限定されないが、例えば、無機繊維及び有機繊維からなる群から選ばれる1種以上の繊維を含むものを適宜用いることができる。無機繊維としては、例えば、ガラス繊維、炭素繊維等が挙げられる。有機繊維としては、例えば、ポリイミド繊維、ポリエステル繊維、テトラフルオロエチレン繊維等が挙げられる。繊維基材の形状は特に限定されず、例えば、織布、不織布、ロービンク、チョップドストランドマット、サーフェシングマット等が挙げられる。繊維基材としては、シート状の繊維基材、具体的には、ガラスクロス、アラミドクロス、ポリエステルクロス、LCP(液晶ポリマー)不織布、ガラス不織布、アラミド不織布、ポリエステル不織布、パルプ紙、及びリンター紙等を好適に用いることができる。繊維基材の厚みは、特に限定されないが、例えば、0.02~0.5mmであってもよく、0.04~0.3mmであってもよい。
【0052】
熱硬化性樹脂組成物の繊維基材への含浸は、浸漬及び塗布等によって行うことができる。熱硬化性樹脂組成物が有機溶媒を含む樹脂ワニスの場合、浸漬及び/又は塗布により繊維基材へ含侵させることができる。熱硬化性樹脂組成物が有機溶媒を含まない無溶剤系の場合は、塗布により繊維基材へ含侵させることができる。該含浸は、必要に応じて複数回繰り返すことも可能である。
【0053】
熱硬化性樹脂組成物が含浸された繊維質基材を、所望の温度条件で加熱して、熱硬化性樹脂組成物を乾燥又は半硬化させることでプリプレグを得ることができる。加熱温度は、特に限定されないが、例えば、30~200℃であってもよく、50~190℃であってもよく、80~170℃であってもよい。加熱時間は、特に限定されないが、例えば、1~10分間でもよく、2~8分間でもよい。
【0054】
(積層体)
本発明の1以上の実施形態の積層体は、前記熱硬化性樹脂組成物の硬化物及び前記プリプレグの硬化物からなる群から選ばれる硬化物、並びに、金属箔及び樹脂フィルムからなる群から選ばれる一つ以上の基材を含むことができる。前記積層体は、樹脂積層フィルム、金属張積層板、及びプリント配線板等であってもよい。
【0055】
(樹脂積層フィルム)
樹脂積層フィルムは、前記熱硬化性樹脂組成物の硬化物及び樹脂フィルムを含む。該樹脂積層フィルムは、例えば、有機溶媒を含有する熱硬化性樹脂組成物、すなわち樹脂ワニスを樹脂フィルムへ塗布し、加熱乾燥し、硬化することによって製造することができる。樹脂フィルムとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル等のポリオレフィンのフィルム;ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステルのフィルム;ポリカーボネートフィルム、ポリイミドフィルム等が挙げられる。樹脂フィルムは、マット処理、コロナ処理等の表面処理が施してあってもよい。また、樹脂フィルムには、シリコーン樹脂系離型剤、アルキッド樹脂系離型剤、フッ素樹脂系離型剤等による離型処理が施してあってもよい。樹脂フィルムの厚みは、特に限定されず、目的や用途等に応じて、適宜設定することが可能であり、特に限定されないが、例えば、10~150μmであってもよく、25~50μmであってもよい。
【0056】
樹脂フィルムに樹脂ワニスを塗布する方法としては、特に限定されないが、例えば、コンマコーター、バーコーター、キスコーター、ロールコーター、グラビアコーター、ダイコーター等の公知の塗工装置を用いて行うことができる。加熱乾燥の条件は、熱硬化性樹脂組成物が硬化すればよく、特に限定されず、有機溶媒の使用量、及び使用する有機溶媒の沸点等に応じて適宜決定することができる。熱硬化性樹脂組成物の硬化物の厚みは、樹脂積層フィルムの目的や用途等に応じて、適宜設定することが可能であり、特に限定されないが、例えば、0.1~2mmでもよく、0.3~1mmでもよい。
【0057】
(金属張積層板)
金属張積層板は、前記熱硬化性樹脂組成物の硬化物及び金属箔を含むものでもよく、前記プリプレグの硬化物及び金属箔を含むものでもよく、前記樹脂積層フィルム及び金属箔を含むものでもよい。金属箔としては、例えば、アルミニウム箔、及び銅箔が挙げられる。金属箔にも、上述した樹脂フィルムの場合と同様、表面処理や離型処理が施してあってもよい。金属箔の厚みは、目的や用途等に応じて、適宜設定することが可能であり、特に限定されないが、例えば、10~150μmであってもよく、25~50μmであってもよい。
【0058】
金属張積層板が前記熱硬化性樹脂組成物の硬化物及び金属箔を含む場合、例えば、有機溶媒を含有する熱硬化性樹脂組成物、すなわち樹脂ワニスを金属箔へ塗布し、加熱乾燥し、硬化することによって製造することができる。金属箔に樹脂ワニスを塗布する方法は、樹脂フィルムに樹脂ワニスを塗布する方法と同様、公知の塗工装置を用いて行うことができる。加熱乾燥の条件は、熱硬化性樹脂組成物が硬化すればよく、特に限定されず、有機溶媒の使用量、及び使用する有機溶媒の沸点等に応じて適宜決定することができる。熱硬化性樹脂組成物の硬化物の厚みは、金属張積層板の目的や用途等に応じて、適宜設定することが可能であり、特に限定されないが、例えば、0.1~2mmでもよく、0.3~1mmでもよい。
【0059】
金属張積層板が、前記プリプレグの硬化物及び/又は前記樹脂積層フィルムを含む場合は、下記のように作製することができる。金属箔と組み合わせる前記プリプレグの硬化物及び/又は前記樹脂積層フィルムは、1枚でもよく、2枚以上の複数枚でもよい。金属箔も、1枚でもよく、2枚以上の複数枚でもよい。1枚又は2枚以上の複数枚の金属箔と、1枚又は2枚以上の複数枚の前記プリプレグ及び/又は前記樹脂積層フィルムを重ねた後、これらを加熱加圧して積層一体化することで、金属張積層板を得ることができる。加熱加圧により、熱硬化性樹脂組成物が硬化され、プリプレグの硬化物及び/又は樹脂積層フィルム、並びに金属箔を含む金属張積層板が得られる。
【0060】
加熱加圧の方法として、バッチプレス方式、又はロールプレス方式、ダブルベルトプレス方式等の連続プレス方式等、適宜の方法を使用することができる。加熱加圧の条件は、加熱加圧の方法にもよるが、例えば温度は170~300℃でもよく、180~250℃でもよく、190~220℃でもよく、圧力は1~8MPaでもよく、1.5~5.0MPaでもよく、時間は3~150分でもよく、30~120分でもよく、60~100分でもよい。
【0061】
(プリント配線板)
金属張積層板は、プリント配線板として用いることができる。例えば、金属張積層板の表面に回路を形成してプリント配線板として用いる。回路形成は、穴開け加工、金属めっき加工、金属箔のエッチング等にて行うことができる。例えば、金属張積層板の表面の金属箔をエッチング加工することで回路形成して、積層体の表面に回路として導体パターンを設けたプリント配線板を得ることができる。プリント配線板の所定の位置に半導体チップ、メモリ等を搭載することで半導体パッケージとして用いることができる。
【実施例0062】
以下、実施例にて本発明をさらに詳しく説明するが、これらの実施例によって本発明はなんら限定されるものではない。
【0063】
[使用した材料]
実施例及び比較例で用いた化合物は、下記の通りである。
A成分:末端に炭素-炭素二重結合を有する変性ポリフェニレンエーテル、SABIC社製「Noryl SA-9000」、重量平均分子量:1700
B成分:製造例1で合成したスチレン-イソブチレン-スチレンブロック共重合体、重量平均分子量79,800
C成分:熱ラジカル開始剤、2,5-ジメチル-2,5-ビス(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン、日油社製「パーヘキサ(登録商標)25B」
D成分:架橋剤、トリアリルイソシアヌレート、三菱ケミカルホールディングスグループ「TAICTM」、以下TAICとも記す
他の芳香族ビニル系熱可塑性エラストマー
水添スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体、旭化成製「タフテック H1221」、以下、タフテック H1221とも記す
水添スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体、クラレ社製「ハイブラー 7125」、以下、ハイブラー 7125とも記す
架橋性ビニル基を有するスチレン-ブタジエン共重合体、数平均分子量4500、CRAY VALLEY社製「Ricon100」、以下、Ricon100とも記す
架橋性ビニル基を有するスチレン-ブタジエン共重合体、数平均分子量3200、CRAY VALLEY社製「Ricon181」、以下、Ricon181とも記す
【0064】
[測定方法及び評価方法]
(1)分子量
サイズ浸透クロマトグラフィー(SEC)を用いた標準ポリスチレン換算法により、重合体の数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)及び分子量分布(Mw/Mn)を測定した。SECの仕様は下記の通りである。
SECシステム:LCModule1(Waters)
固定相:ShodexGPCK-804(ポリスチレン架橋ゲル充填カラム、昭和電工)
移動相:クロロホルム
(2)成形性
成形体から8mm×6mmのサイズの試験片を切り出し、目視で気泡及び成形ムラが無いか否かを確認し、下記基準で成形性を判断した。
良好:試験片に気泡及び成形ムラがない
不良:試験片中に気泡及び成形ムラがある
(3)ガラス転移温度
動的粘弾性測定装置(アイティー計測制御製、DVA-200)を用いて、引張モード、温度50~300℃で測定を行い、振動数10Hzでのtanδのピークトップ温度をガラス転移温度(Tg)とした。分析用の試料は、各種成形体を8mm×6mm×0.5mmに切り出して得た。ガラス転移温度が高いほど、耐熱性が高く、高温での形状保持性に優れることになる。
【0065】
[製造例1:スチレン-イソブチレン-スチレンブロック共重合体]
下記の手順により、スチレン-イソブチレン-スチレンブロック共重合体を製造した。
(1)1Lのセパラブルフラスコの容器内を窒素置換した。
(2)20mLのn-ヘキサン及び240mLの塩化ブチルを仕込み、窒素雰囲気下で攪拌しながら-70℃まで冷却した。n-ヘキサン及び塩化ブチルは、モレキュラーシーブスで乾燥させてから用いた。
(3)100mLのイソブチレン(1.06mol)、0.36gのp-ジクミルクロライド(0.0015mol)、及び0.086gのα-ピコリン(0.0009mol)を容器に加えた。
(4)反応混合物が-70℃まで冷却されてから、1.6mLの四塩化チタン(0.0082mol)を加えた。これにより、重合を開始させた。
(5)イソブチレンの残存量が投入量の0.5%を下回った段階で、28.1mlのスチレンを容器に加えた。イソブチレンの残存量は、ガスクロマトグラフィーにより測定した。
(6)スチレンの残存量が投入量の10%を下回った段階で、500mLの純水及び550mLのn-ヘキサンを容器に加えた。これにより、反応を停止させた。
(7)得られた重合液を、500mLの純水で3回水洗した。次に、減圧下にて溶媒を留去した。次に、得られた重合体を80℃にて24時間真空乾燥させた。このようにして、スチレン-イソブチレン-スチレンブロック共重合体を得た。
得られたスチレン-イソブチレン-スチレンブロック共重合体は、スチレン重合体ブロックを28重量%及びイソブチレン重合体ブロックを72重量%含み、数平均分子量(Mn)が12,800、重量平均分子量(Mw)が79,800、分子量分布(Mw/Mn)が1.29であった。
【0066】
(実施例1)
変性ポリフェニレンエーテル(Noryl SA-9000)、製造例1で合成したスチレン-イソブチレン-スチレンブロック共重合体をそれぞれ下記表1の組成になるように配合した上で、1-クロロブタンを適量添加して溶液にした。そこに下記表1に示す配合量の熱ラジカル開始剤(パーヘキサ25B)を加えた。テフロン(登録商標)シートを敷いたステンレス板に得られた溶液を塗布し、80℃の真空乾燥機中で60分間、140℃の高真空乾燥機中で10分間乾燥させた。続いてプレス機で0.5mm厚のスペーサを噛ませた状態で200℃、3MPa、60分間加熱処理を行い、0.5mm厚のシート(成形体)を作製した。
【0067】
(実施例2、3)
変性ポリフェニレンエーテル(Noryl SA-9000)、製造例1で合成したスチレン-イソブチレン-スチレンブロック共重合体、及び架橋剤(TAIC)をそれぞれ下記表1の組成になるように配合した上で、1-クロロブタンを適量添加して溶液にした。それ以降は実施例1と同様の操作を行い、0.5mm厚のシート(成形体)を作製した。
【0068】
(比較例1)
変性ポリフェニレンエーテル(Noryl SA-9000)に1-クロロブタンを適量添加して溶液にした。そこに下記表2に示す配合量の熱ラジカル開始剤(パーヘキサ25B)を加えた。テフロン(登録商標)シートを敷いたステンレス板に得られた溶液を塗布し、80℃の真空乾燥機中で60分間、140℃の高真空乾燥機中で10分間乾燥させた。続いてプレス機で0.5mm厚のスペーサを噛ませた状態で200℃、3MPa、60分間加熱処理を行い、0.5mm厚のシートを作製した。得られたシートは多数の気泡と成形ムラがあり、その後の分析評価するためのサンプル片を採取できなかった。
【0069】
(比較例2)
スチレン-イソブチレン-スチレンブロック共重合体の代わりに水添スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体(タフテック H1221)を用いた以外は、実施例1と同様の操作を行い、0.5mm厚のシートを作製した。
【0070】
(比較例3)
スチレン-イソブチレン-スチレンブロック共重合体の代わりに架橋性ビニル基を有するスチレン-ブタジエン共重合体(ハイブラー 7125)を用いた以外は、実施例1と同様の操作を行い、0.5mm厚のシートを作製した。
【0071】
(比較例4)
スチレン-イソブチレン-スチレンブロック共重合体の代わりに水添スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体(Ricon 100)を用いた以外は、実施例1と同様の操作を行い、0.5mm厚のシートを作製した。
【0072】
(比較例5)
スチレン-イソブチレン-スチレンブロック共重合体の代わりに水添スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体(Ricon 181)を用いた以外は、実施例1と同様の操作を行い、0.5mm厚のシートを作製した。
【0073】
(比較例6)
変性ポリフェニレンエーテル(Noryl SA-9000)、及び架橋剤(TAIC)をそれぞれ下記表2の組成になるように配合した上で、1-クロロブタンを適量添加して溶液にした。そこに下記表2に示す配合量の熱ラジカル開始剤(パーヘキサ25B)を加えた。テフロン(登録商標)シートを敷いたステンレス板に得られた溶液を塗布し、80℃の真空乾燥機中で60分間、140℃の高真空乾燥機中で10分間乾燥させた。続いてプレス機で0.5mm厚のスペーサを噛ませた状態で200℃、3MPa、60分間加熱処理を行い、0.5mm厚のシートを作製した。
【0074】
(比較例7)
スチレン-イソブチレン-スチレンブロック共重合体の代わりに水添スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体(タフテック H1221)を用いた以外は、実施例3と同様の操作を行い、0.5mm厚のシートを作製した。
【0075】
(比較例8)
スチレン-イソブチレン-スチレンブロック共重合体の代わりに架橋性ビニル基を有するスチレン-ブタジエン共重合体(ハイブラー 7125)を用いた以外は、実施例3と同様の操作を行い、0.5mm厚のシートを作製した。
【0076】
(比較例9)
スチレン-イソブチレン-スチレンブロック共重合体の代わりに水添スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体(Ricon 100)を用いた以外は、実施例3と同様の操作を行い、0.5mm厚のシートを作製した。
【0077】
(比較例10)
スチレン-イソブチレン-スチレンブロック共重合体の代わりに水添スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体(Ricon 181)を用いた以外は、実施例3と同様の操作を行い、0.5mm厚のシートを作製した。
【0078】
【表1】
【0079】
【表2】
【0080】
実施例及び比較例で得られたシート(成形体)をカッターで所定の大きさにカットして、上記のとおり、上述したとおり、成形性を評価し、ガラス転移温度を測定した。その結果を下記表3及び表4に示した。
【0081】
【表3】
【0082】
【表4】
【0083】
実施例1~3で得られたシート(成形体)は、気泡や成形ムラが無く成形性に優れるものであった。一方、B成分を含まない比較例1では、成形性が悪く、成形体を得ることができなかった。
【0084】
実施例1で得られた成形体は、比較例2~5で得られた成形体に比べてTgが3℃以上高く、耐熱性が高く、高温での形状保持性に優れることが示唆された。これにより、芳香族ビニル系熱可塑性エラストマーとしてイソブチレンを主体とする重合体ブロックを有する芳香族ビニル系熱可塑性エラストマーを選択して用いることで、他の芳香族ビニル系熱可塑性エラストマーを用いた場合に比べて、Tgが3℃以上と顕著に向上し、高温における形状保持性が顕著に向上したことが分かる。
【0085】
実施例2~3で得られた成形体は、比較例6~10で得られた成形体に比べてTgが26℃以上高く、耐熱性が高く、高温での形状保持性に優れることが示唆された。これにより、芳香族ビニル系熱可塑性エラストマーとしてイソブチレンを主体とする重合体ブロックを有する芳香族ビニル系熱可塑性エラストマーを選択して用いることで、他の芳香族ビニル系熱可塑性エラストマーを用いた場合に比べて、Tgが顕著に向上し、高温における形状保持性が顕著に向上したことが分かる。