IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 有田 清三郎の特許一覧 ▶ 京都府公立大学法人の特許一覧

特開2024-116607擬似乱数の評価システム,方法およびプログラム,ならびに擬似乱数の作成装置,方法およびプログラム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024116607
(43)【公開日】2024-08-28
(54)【発明の名称】擬似乱数の評価システム,方法およびプログラム,ならびに擬似乱数の作成装置,方法およびプログラム
(51)【国際特許分類】
   G06F 7/58 20060101AFI20240821BHJP
【FI】
G06F7/58 620
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023022305
(22)【出願日】2023-02-16
(71)【出願人】
【識別番号】591042894
【氏名又は名称】有田 清三郎
(71)【出願人】
【識別番号】509349141
【氏名又は名称】京都府公立大学法人
(74)【代理人】
【識別番号】110001830
【氏名又は名称】弁理士法人東京UIT国際特許
(72)【発明者】
【氏名】有田 清三郎
(72)【発明者】
【氏名】吉井 健悟
(57)【要約】
【課題】擬似乱数の一様分布と独立性を評価する。
【解決手段】所与の擬似乱数の数列が一様分布の統計的許容範囲内かどうかの一様分布検査を行い,上記擬似乱数の数列において2つの数値の差の分布が二等辺三角形状の分布の統計的許容範囲内かどうかの分布形状検査を行う。一様分布であると判定されたことを前提に,分布形状検査において合格すれば,所与の擬似乱数は独立性を有すると判定される。必要ならば,上記差の分布が対称性の統計的許容範囲内かどうかの対称性検査や,上記差の平均値が零を中心とする統計的許容範囲内かどうかの平均値検査を行う。
【選択図】図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所与の擬似乱数の数列が一様分布であるかどうかを検査する一様分布検査手段と,独立性を有するかどうかを検査する独立性検査手段とを備え,
上記一様分布検査手段は,上記所与の擬似乱数の数値の存在範囲を等間隔で区分した各区間の度数が,一様分布の統計的許容範囲内かどうかを検査するものであり,
上記独立性検査手段は,
上記所与の擬似乱数において,任意の2つの数値の差をすべての組合せについてとって得られる差の母集団およびこの母集団から抽出された差の大標本のいずれかにおいて,上記差を直交座標の一方の軸に配置して等間隔で区分した各区間の度数の分布が二等辺三角形状の分布の統計的許容範囲内かどうかを検査する二等辺三角形状検査手段を備える,
擬似乱数評価システム。
【請求項2】
上記独立性検査手段がさらに,上記差の度数の分布が零を中心とする対称性の統計的許容範囲内かどうかを検査する対称性検査手段を備える,
請求項1に記載の擬似乱数評価システム。
【請求項3】
上記独立性検査手段がさらに,上記差の平均値が零を中心とする統計的許容範囲内かどうかを検査する平均値検査手段を備える,
請求項1に記載の擬似乱数評価システム。
【請求項4】
所与の擬似乱数の数列が一様分布であるかどうかを検査する一様分布検査と,独立性を有するかどうかを検査する独立性検査とを実行する方法であり,
一様分布検査手段が,上記所与の擬似乱数の数値の存在範囲を等間隔で区分した各区間の度数が,一様分布の統計的許容範囲内かどうかを検査し,
独立性検査手段の二等辺三角形状検査手段が,上記所与の擬似乱数において,任意の2つの数値の差をすべての組合せについてとって得られる差の母集団およびこの母集団から抽出された差の大標本のいずれかにおいて,上記差を直交座標の一方の軸に配置して等間隔で区分した各区間の度数の分布が二等辺三角形状の分布の統計的許容範囲内かどうかを検査する,
擬似乱数評価方法。
【請求項5】
所与の擬似乱数の数列が一様分布であるかどうかを検査する一様分布検査と,独立性を有するかどうかを検査する独立性検査とを実行するプログラムであり,
上記所与の擬似乱数の数値の存在範囲を等間隔で区分した各区間の度数が,一様分布の統計的許容範囲内かどうかを検査し,
上記所与の擬似乱数において,任意の2つの数値の差をすべての組合せについてとって得られる差の母集団およびこの母集団から抽出された差の大標本のいずれかにおいて,上記差を直交座標の一方の軸に配置して等間隔で区分した各区間の度数の分布が二等辺三角形状の分布の統計的許容範囲内かどうかを検査する,
擬似乱数評価プログラム。
【請求項6】
擬似乱数を発生する擬似乱数生成手段,および請求項1から3のいずれか一項に記載の擬似乱数評価システムを備え,
上記擬似乱数生成手段が発生する擬似乱数を上記擬似乱数評価システムに与え,上記擬似乱数評価システムによって評価された擬似乱数を出力する,
擬似乱数作成装置。
【請求項7】
擬似乱数生成手段が擬似乱数を発生し,この発生した擬似乱数の一様分布および独立性を請求項4に記載の擬似乱数評価方法により評価する,
擬似乱数作成方法。
【請求項8】
擬似乱数を発生するプログラムと,このプログラムが発生した擬似乱数を評価する請求項5に記載の擬似乱数評価プログラムとを有する,擬似乱数作成プログラム。
【請求項9】
ロジスティックカオス方程式に所与のパラメータを与えてカオス数列を生成するカオス数列生成手段,
上記カオス数列生成手段によって生成されたカオス数列から所与の間隔でサンプリングしてサンプル数列を生成するサンプル数列生成手段,
上記サンプル数列生成手段が生成したサンプル数列の分布を一様化する一様化手段,ならびに
請求項1から3のいずれか一項に記載の擬似乱数評価システムを備え,
上記一様化手段から出力される擬似乱数列を上記擬似乱数評価システムに与える,
擬似乱数作成装置。
【請求項10】
カオス数列生成手段が,ロジスティックカオス方程式に所与のパラメータを与えてカオス数列を生成し,
サンプル数列生成手段が,上記カオス数列生成手段によって生成されたカオス数列から所与の間隔でサンプリングしてサンプル数列を生成し,
一様化手段が上記サンプル数列生成手段が生成したサンプル数列の分布を一様化し,
上記一様化手段から出力される擬似乱数列の一様分布と独立性を,請求項4に記載の擬似乱数評価方法により評価する,
擬似乱数作成方法。
【請求項11】
ロジスティックカオス方程式に所与のパラメータを与えてカオス数列を生成し,
生成されたカオス数列から所与の間隔でサンプリングしてサンプル数列を生成し,
生成されたサンプル数列の分布を一様化するようにコンピュータを制御し,
一様化された擬似乱数列の一様分布と独立性を請求項5に記載の擬似乱数評価プログラムにより評価する,
擬似乱数作成プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は,擬似乱数の独立性と一様分布についての評価システム,方法およびプログラムに関する。この発明はまた,上記の擬似乱数の評価システム,方法およびプログラムを利用した擬似乱数の作成装置(生成装置),方法およびプログラムに関する。
【0002】
擬似乱数生成装置および方法は,従来より多くの研究者により研究され,さまざまな方式が開発されてきた。また,昨今では,ネットワークから入手可能な擬似乱数生成プログラムも流通している。
【0003】
たとえば,ロジスティック写像の漸化式(以下,「ロジスティックカオス方程式」という)に基づいて作成されるロジスティックカオス数列(単に,「カオス数列」ともいう)を利用した擬似乱数生成装置,方法が知られている。ロジスティック写像は離散型ロジスティックカオス方程式に与える初期パラメータを変えることによりさまざまに変化し,カオスと呼ばれる複雑な振る舞いを示す。そのためロジスティックカオス数列は擬似乱数の生成に用いられ,多くの文献がある。たとえば,特許文献1にはカオス写像に基づく擬似乱数生成の数多くの提案がまとめて示されている。
【0004】
また,発明者の一人は,カオス数列を利用し,さらに改良した擬似乱数生成装置,方法およびプログラムを提案した(特許文献2)。
非特許文献1,2は統計学の基礎知識を示す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2018-97438号公報
【特許文献2】第6782347号特許公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】「統計用語辞典」 芝祐順,渡部洋,石塚智一編,156頁,昭和59年5月15日(株)新曜社
【非特許文献2】「数理統計」 河田敬義,丸山文行共著,48-55頁,昭和42年2月20日合名会社裳華房
【0007】
もともと乱数列は代表的にはサイコロを振ったときに現われる目の数を時系列に並べたものである。サイコロの目に基づく乱数列には次の2つの性質がある。
1.独立性(前の事象(目の数)に関係なく,すなわち独立に次の事象(目の数)が出現すること,さらに言えば,数列のどの部分を切り取っても,他の部分との関連性がないこと,予測不可能性ともいわれる)
2.乱数列の数(サイコロの目の数)は等確率で出現する(一様分布または一様分布性)
【0008】
しかしながら,生成した擬似乱数の性質(独立性および一様分布性),とりわけ独立性を視覚的または定量的に評価することについては充分に研究されているとは言い得ない。
【発明の概要】
【0009】
この発明は,所与の擬似乱数の性質を少なくとも定量的に評価することのできるシステム,方法およびプログラムを提供するものである。
【0010】
この発明はまた,所与の擬似乱数の少なくとも独立性について少なくとも定量的に評価することのできるシステム,方法およびプログラムを提供するものである。
【0011】
さらにこの発明は,一様分布および独立性の検査に合格した擬似乱数を作成(生成)する装置,方法およびプログラムを提供するものである。
【0012】
この発明はまた,ロジスティックカオス方程式由来の擬似乱数であって,上記評価システム,方法,プログラムによる評価に合格した擬似乱数の作成(生成)装置,方法およびプログラムを提供するものである。
【0013】
この発明による擬似乱数評価システムは,所与の擬似乱数の数列が一様分布であるかどうかを検査する一様分布検査手段と,独立性を有するかどうかを検査する独立性検査手段とを備えている。
【0014】
上記一様分布検査手段は,上記所与の擬似乱数の数値の存在範囲を等間隔で区分した各区間の度数が,一様分布の統計的許容範囲内かどうかを検査する。
【0015】
上記独立性検査手段は,上記所与の擬似乱数において,任意の2つの数値の差をすべての組合せについてとって得られる差の母集団およびこの母集団から抽出された差の大標本のいずれかにおいて,上記差を直交座標の一方の軸に配置して等間隔で区分した各区間の度数の分布が二等辺三角形状の分布の統計的許容範囲内かどうかを検査する二等辺三角形状検査手段を備える。発明者は,一様分布で独立性を有する乱数列において,乱数列の任意の2つの数(数値)の差の分布は,理論的に,二等辺三角形状分布であることを見い出した。すなわち,所与の擬似乱数列x,x,x,…,xi(j),…,xが一様分布で独立性を有するとき,これらの差Δx=x-x(i≠j)(i=1~N,j=1~N)の分布は二等辺三角形状の分布である。したがって,所与の擬似乱数における任意の数値の差をすべての組合せについてとって得られる差の母集団において,上記の差が二等辺三角形状の分布となっているかどうかを検定することにより,所与の擬似乱数が一様分布であることを前提として,その擬似乱数が独立性を有するかどうかを判定することができる。上記差の母集団から数値を抽出(サンプリング)して得られる差の大標本においても同様にして独立性の検査を行うことができる。
【0016】
差の大標本とは,標本の大きさが充分大きく,その性質(統計量,統計学的分布)が差の母集団の性質と統計学的に同等であると取扱うことができる(みなせる)(ほとんど確実に大体近い性質,値をとる)標本を意味する(非特許文献1,2を参照)。大標本を形成するためのサンプリングにはさまざまな方法がある。たとえば,擬似乱数の生成において出現していく項目の順に差をとる方法(i>jの制限を加える),逆に生成された擬似乱数のうち後に出現したものから先に出現したものに向って差をとっていく方法(i<jの制限を加える),一列に並べられた擬似乱数において隣接する2項目間の差をとる方法(j=i+1またはj=i-1の制限を加える),さらに,j=i+2,j=i-2等の制限を加える方法などさまざまな方法がある。擬似乱数では,母集団における差の個数は膨大で,差の母集団の全てを調査するには大変な手間がかかるため,差の母集団から抽出した標本(大標本)から差の母集団の性質(統計量,統計学的分布)を検査するのが簡便である。差の大標本を対象に独立性検査を行うことにより,処理時間の短縮化を図ることができるとともに,差の母集団について行った独立性検査と統計学上同等の結論を得ることができる。
【0017】
一様分布の検査においても所与の擬似乱数を構成するすべての数値を処理の対象とせずに,サンプリングを行い,大標本を形成して,この大標本について一様分布の検査を行ってもよい。
【0018】
このようにして,この発明によると,所与の擬似乱数の性質(特に,一様分布性,独立性)を評価することができる。しかも,これらの一様分布性,独立性は定量的に評価される。したがって,どの程度の一様分布性,独立性を有しているかどうかを具体的に知ることができる。
【0019】
必要であれば,独立性検査手段に,上記差の度数の分布が零を中心とする対称性の統計的許容範囲内かどうかを検査する対称性検査手段や,上記数値の差の平均値が零を中心とする統計的許容範囲内かどうかを検査する平均値検査手段を含めてもよい。これらの対称性検査や平均値検査により,所与の擬似乱数の他の観点からの分布や詳細な分布を知ることができる。
【0020】
この発明はまた,擬似乱数評価方法およびプログラムも提供している。
【0021】
この発明による擬似乱数作成装置は,擬似乱数を発生する擬似乱数生成手段,および上記の擬似乱数評価システムを備え,上記擬似乱数生成手段が発生する擬似乱数を上記擬似乱数評価システムに与え,上記擬似乱数評価システムによって評価された擬似乱数を出力するものである。
【0022】
特に,上記擬似乱数評価システムによって一様分布と独立性について合格と判定された擬似乱数を出力するようにすると,多くの実用に耐えうる,または好適に実用に用いることができる擬似乱数を得ることができる。
【0023】
この発明は,擬似乱数作成方法およびプログラムも提供している。
【0024】
この発明はロジスティックカオス方程式由来の擬似乱数も作成することができる。この発明による擬似乱数作成装置は,ロジスティックカオス方程式に所与のパラメータを与えてカオス数列を生成するカオス数列生成手段,上記カオス数列生成手段によって生成されたカオス数列から所与の間隔でサンプリングしてサンプル数列を生成するサンプル数列生成手段,上記サンプル数列生成手段が生成したサンプル数列の分布を一様化する一様化手段,ならびに上記の擬似乱数評価システムを備え,上記一様化手段から出力される擬似乱数列を上記擬似乱数評価システムに与えるものである。
【0025】
この発明によっても,一様分布と独立性の評価に合格したロジスティックカオス方程式由来の擬似乱数を得ることができる。また,サンプル数列を作成する際に,何個飛ばしのサンプリングが好適であるかも知ることができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】所与の擬似乱数列を構成する各項の数値について0~1の間を等間隔に区切ってできる各区間に属する数(度数)を表わすヒストグラム。
図2a】所与の擬似乱数の数列が一様分布で,かつ任意の2つの要素(項)xiとxjが独立であるときの,xiの度数分布を示す。
図2b】所与の擬似乱数の数列が一様分布で,かつ任意の2つの要素(項)xiとxjが独立であるときの,xjの度数分布を示す。
図2c図2a,図2bにおけるxi,xjの出現確率を,xi,xjの互いに直交する軸Xi,Xj上に表現する様子を示す。
図3a図2cの直交座標上で,a=xj-xiの値を0.0~0.1の間で動かした様子を示す。
図3b図2cの直交座標上で,a=xj-xiの値を0.5~0.6の間で動かした様子を示す。
図3c図2cの直交座標上で,a=xj-xiの値を0.9~1.0の間で動かした様子を示す。
図4】a=xj-xi(Δxp)を横軸に,度数を縦軸にとったときに,二等辺三角形の分布が得られることを示す。
図5】サイコロの目(1~6)のうちのいずれかをxi,他のいずれかをxjとしたときに,それらの差Δxp=xj-xiの値を表に表わしたものである。
図6】差Δxpと,その出現個数,出現確率を表にまとめたものである。
図7】差Δxpについて,その度数を縦軸に,差の値を横軸にとったヒストグラムを示す。
図8】擬似乱数の評価装置(システム)兼擬似乱数の作成(生成)装置(システム)のハードウェア構成の概要を示すブロック図である。
図9】擬似乱数の評価処理を示すフローチャートである。
図10】一様分布の検証処理を示すフローチャートである。
図11】二等辺三角形の分布の検証処理を示すフローチャートである。
図12】差の平均値=0の検証処理を示すフローチャートである。
図13】左右対称性の検証処理を示すフローチャートである。
図14】擬似乱数の作成処理を示すフローチャートである。
図15】ロジスティックカオス方程式を用いた擬似乱数生成処理を示すフローチャートである。
図16】生成されたカオス数列から2個飛ばしのサンプル数列を形成する様子を示す。
図17】例1において生成された擬似乱数を時系列的に示すものである。
図18】例1における一様分布の検証結果を示すグラフである。
図19】例1における二等辺三角形状分布の検証結果を示すグラフである。
図20】例2において生成された擬似乱数を時系列的に示すものである。
図21】例2における一様分布の検証結果を示すグラフである。
図22】例2における二等辺三角形状分布の検証結果を示すグラフである。
図23】例3において生成された擬似乱数を時系列的に示すものである。
図24】例3における一様分布の検証結果を示すグラフである。
図25】例3における二等辺三角形状分布の検証結果を示すグラフである。
【実施例0027】
1.(A) ヒストグラムによる一様分布の検証
所与の擬似乱数の数列を,
1,x2,x3,…xi-1,xi,xi+1,…xN-2,N-1,N 式(1)
で表わす。ここでxiは数列を構成する要素(項)であり,0<xi<1の間の値(数値,数)をとり,数列の項数(総数N)にも依るが,小数点第3位ないし第5位程度の数値である。項数Nは実際的には1,000~100万位であろう。iは順次増加する正の整数である。
【0028】
0~1の間をM個の等間隔の区間(区画)で区切り,所与の擬似乱数の数列を構成する各項の数値が各区間に属する数(度数,頻度)を計数して,ヒストグラムを作成する。
【0029】
図1は作成されたヒストグラムの一例である。横軸は項xiの数値,縦軸は各区間に属する項の数(度数,頻度)である。ここでは,作図の便宜上,区間の数Mは20であり,数列の項数Nは27000である。一様分布の頻度の理論値は次の通りである。
【0030】
理論値=項数N/区間数M 式(2)
【0031】
所与の擬似乱数の実際の数列が一様分布の統計的許容範囲内かどうか(一様分布の検証)をカイ2乗検定を用いて行う。カイ2乗検定のカイ2乗値(χ2)は次式で与えられる。
【0032】
【数1】
【0033】
式(3)の計算を行い,計算結果のχ2値を適当な棄却限界値(判定基準値)で弁別して有意差の有無を判定する。棄却限界値としては,たとえば有意水準0.05のχ2値である自由度19-1=18のカイ2乗値28.869を用いる。χ2値が棄却限界値未満であれば所与の乱数数列は一様分布であると判定し,棄却限界値以上の場合には一様分布ではないと判定する。
【0034】
2.独立性の検証
(1) 独立性の指標
式(1)で示される所与の擬似乱数の数列が一様分布で,かつ任意の2つの要素(項)xiとxjが独立であるとき,(B1)その差Δxp=xj-xi(i≠j,i=1~N,j=1~N)は,差Δxpを一方の軸,差Δxpの度数(頻度)を他方の軸とする2次元直交座標上で,二等辺三角形状の分布となる。そして,(B2)二等辺三角形状分布はΔxp=0を中心に左右対称となり,かつ(B3)差Δxpの平均値は零(0)である。これらの(B1),(B2),(B3)が一様分布を前提とする独立性の指標であるが,指標(B1)が最も重要で,指標(B1)のみでも独立性を判定できる。
【0035】
擬似乱数の独立性は差の分布が二等辺三角形状分布を示すかどうかによって検証される。したがって(B1)は視覚的にも,数量的にも独立性を検証できる最も重要な指標である。(B2)は二等辺三角形状分布の左右対称を検証するものである。(B3)は二等辺三角形状分布の中心を検証するものである。
【0036】
図2aおよび図2bは,それぞれxi,xjの度数分布を示している。(xiの軸はXi,xjの軸はXj)。一様分布であるから,度数はxi,xjの値にかかわらず一定(それぞれをc1,c2で表わす)である。
【0037】
図2cは,Xi,Xjを平面上で直交する軸にとったものである。Xi-Xj平面に垂直な方向は,度数(密度)を表わす。この度数はXi軸にxiが出現し,かつXj軸上にxjが出現する確率を表わしている。
【0038】
iがcjの値をとり,かつxjがcjの値をとるときの確率Prを,
r(xi=ciかつxj=cj) 式(4)
と表現する。この確率は,xiとxjが独立事象であれば,掛算で表現できる。すなわち,
r(xi=ciかつxj=cj)=Pr(xi=ci)×Pr(xj=cj) 式(5)
【0039】
iは一様分布であるから(図2a),Pr(xi=ci)は一定値である。
【0040】
同じように,xjも一様分布であるから(図2b),Pr(xj=cj)は一定値である。
【0041】
したがって,式(5)のPr(xi=ciかつxj=cj)の値も常に一定値となる。
【0042】
図2cにおいて,Xi-Xj平面に垂直な方向の軸の値は一定値であるということになる。換言すれば,Xi-Xj平面上では,一様な密度(度数)分布であるということになる。
【0043】
ここでxiとxjとの差Δxpをaと置く。
【0044】
Δxp=xj-xi≡a 式(6)
【0045】
式(6)をxjについて導くと,
j=xi+a 式(7)
となる。これはxiについての一次式であり,Xi-Xj平面上では,aを切片とする右上り直線で表わされる。
【0046】
図3aに示すように,aの値を0~0.1の間で動かすと,図中グレーで示す帯状の部分となる。同様に,aを0.5~0.6の間で動かした様子が図3bに,aを0.9~1.0の間で動かした様子が図3cにそれぞれ示されている。図3a~図3cにおいて,aを0.1の幅で動かして現われる斜めのグレーの帯状の範囲はaの度数(密度)を表わしているといえる。
【0047】
上記の斜めのグレーの帯状の部分を差(Δxp=a)を横軸とし,縦軸を度数にとると,図4に示すように二等辺三角形の分布が得られる。これがxiとxjが独立であることを示す(xi,xjが一様分布であることを前提に)指標である。独立事象はこのように差の分布が横軸の0を通る縦軸を中心とする二等辺三角形であり,横軸の0を通る縦軸の左右(Δxpの負方向,正方向に)で対称であり,二等辺三角形の頂点における縦軸の値は,Δxp=0の度数を表わす。度数はΔxp=1又は-1で0となる。また,左右対称であるからΔxpの平均値は0である。
【0048】
一様分布を前提とする独立性の指標について別の観点から以下に説明する。
【0049】
サイコロを振ったときに現われる目の数を時系列に並べた乱数列は,理論的には独立性と一様分布性を備えている。
【0050】
サイコロの目は1~6のうちのいずれかの値をとる。xiとxjがこれら1~6のうちいずれかの値をとるとすると,その差Δxp=xj-xiの値は図5に示すようになる。
【0051】
差Δxpの値は最大が5,最小が-5である。また,差Δxp=0の個数が最も多い。差Δxpが0または正である値について,それらの個数と出現確率をまとめると図6に示すようになる。
【0052】
差Δxpが0または負である値についても,それらの個数と出現確率をまとめると図6と同じような表が得られる。
【0053】
差Δxpの値について,その度数(個数)を縦軸に,差の値を横軸にとり,ヒストグラムを作成すると,図7が得られる。
【0054】
図7からも,上記のヒストグラムは2次元直交座標上で二等辺三角形状となり,差Δxpの平均値は0で,かつ二等辺三角形状の分布はΔxp=0を中心に左右対称となることが分る。
【0055】
(2) (B1)二等辺三角形状の分布の検証
所与の数列(式(1))において,すべての項の数値のすべての組合せについてそれらの差Δxp=xj-xi(i≠j,i=1~N,j=1~N)を計算する。計算した差の値を大きさの順に並べ(たとえば,左から右にのびる一直線上に,負の値の絶対値の最も大きいもの(最小値)を最も左側に,順次絶対値の小さい値のものを並べ,0またはその付近を経て正の値になり,正の値がだんだん大きくなる順に右に行くように並べ,最も右側に最も値の大きい正の値(最大値)が位置する),上記最小値から上記最大値までを等間隔(上記一直線上の数値(目盛)が等間隔)にK個の区間(区画)に分ける(Kは奇数が好ましい。差=0の区間を中心に,左右対称の区間をとることで二等辺三角形状か,否かを,ヒストグラムで視覚的に捉える事ができる。)。K個の区間ごとに,各区間に属する差Δxpの(数値の)個数(頻度)を数える。中央の区間を区間0と呼び,正方向に順次区間1,2,3,…等と名前を付け,負方向に区間-1,-2,-3,…等と名付ける。
【0056】
横軸に上記一直線(差Δpの数値に相当)をとり,縦軸に各区間ごとの個数(頻度)をとってヒストグラムを作成する。コンピュータの表示装置の表示画面上にこのヒストグラムを表示する。表示されたヒストグラムを見て(視認して),二等辺三角形状になっているかどうか,表示されたヒストグラムが二等辺三角形の理想形(2辺が等しく,角度が等しい)に近いかどうかを,目でみて判断または確認する。
【0057】
次に統計学的検定により,得られたヒストグラムが二等辺三角形状にどの程度近いかを定量的に計算する。統計学的検定としてはここではχ2(カイ2乗)検定を用いる。
【0058】
理想的な二等辺三角形の高さは区間の中心(Δxp=0)の高さである。擬似乱数は,0より大きく1より小さい数値なので,2つの数値の差は-1より大きく,+1より小さい。そこで理想的な二等辺三角形の底辺の長さを2とする。
【0059】
なお,サイコロの目の数では,底面の長さは目の数の差の最大値,すなわち-5から+5までの10となる。1桁の一様乱数(0~9)では,差の値は-9から+9まであり,底辺の長さは18となる。ヒストグラムでは,二等辺三角形の高さは,区間0の度数,または相対度数(区間0の度数を全体の個数で割る)である。
【0060】
【数2】
【0061】
区間ごとの理論値=全体のデータ数×その区間での確率(個数の割合) 式(9)
【0062】
二等辺三角形状の理想形(所与の数列に適用するもの)の具体例について述べる。数列の数値の存在する範囲を19区画に分て,各区間ごとに度数を計算し,ヒストグラムを作成する。
1)N個の所与の数列,x1…xN から取りうる差,Δxp=xj-xi,j≠iを作る。
2)差の個数は,N×(N-1)(すなわち,N-N)個である。
3)差=0を中心に等間隔に19個の区間を作る。
区間の区切り点は表1に示す。
【表1】
上述したように19個の区間を差の正の領域では,区間0(差=0),区間1,区間2,…区間9と名付ける。また,差がマイナスの領域を区間-1,区間-2,…区間-9と名づける。
4)数列の差の分布は二等辺三角形状の分布となる。この差の分布を表わすヒストグラムの各区間に含まれる数または数値の個数の割合は次のようになる(表2)。
【表2】
【0063】
式(8)の計算を行い,計算結果のχ2値を適当な棄却限界値(判定基準値)で弁別して有意差の有無を判定する。二等辺三角形状の分布における裾野の部分は,理論値が小さい確率であるため,たとえば区間数が19の場合,両端の部分区間である区間-9から区間-7を一緒にして1つの区間として取扱い,同様に区間7から区間9までをまとめて一つの区間として取扱ってもよい。棄却限界値としては,有意水準0.001で自由度=14のχ2値=36.123を用いる。χ2値が棄却限界値未満であれば所与の擬似乱数列は二等辺三角形状であると判定,棄却限界値以上の場合には,二等辺三角形状ではないと判定する。
【0064】
(3) (B2)差の平均値=0の検証
差の平均値が有意に0(零)とみなし得るかどうかを統計学的に検定するために,ここではt検定を用いる。
【0065】
所与の擬似乱数列(式(1))における差Δxp(=xj-xi)(i≠j,i=1~N,j=1~N)の個数は(N2-N)個である。まずこれらのΔxpの平均値AvΔxp(Avは平均値であることを示す)および標本標準偏差SDを算出する。そして,t値を次式から計算する。
【0066】
t値=[AvΔxp-0(零)]/[SD/ND1/2] …式(10)
差の個数をNDとする。
【0067】
t値の絶対値が1.96未満のときに,有意水準0.05で差Δxpの平均値は0(零)といえるということになる。
【0068】
(4) (B3)左右対称性の検証
Δxpの分布が左右対称かどうかの検証をここでは歪度を計算して行う。
【0069】
歪度は,データ分布の対称性,ゆがみ等の指標として使われており,平均値を中心としてデータ分布が左右対称であるときには,歪度=0となる。分布の裾が左よりも右側により延びているときには歪度は正となり,裾が右よりも左側により延びているときには歪度は負の値をとる。
【0070】
上記の差の値Δxpの歪度は,一例として,次式で表わされる。
【0071】
【数3】
【0072】
ここでAvΔxpはΔxpの平均値,SはΔxpの分布の標準偏差である。
【0073】
以上をまとめると,次のような検定が行なわれる。
【0074】
(A) 擬似乱数列が一様分布であると判定されること
(B1)擬似乱数列の任意の2つの項の差Δxpが二等辺三角形状分布を持つと判定されること
一例として,χ2検定でχ2の値が所定の棄却限界値未満であると判定されること
(B2)差Δxpの平均値=0の検定(たとえばt検定)において,差Δxpの平均値が0といえること
(B3)対称性の検定において,差Δxpがその平均値を中心に左右対称であると判定されること
【0075】
これらの判定または検定(A),(B1)~(B3)の順序は任意である。たとえば,一様分布の判定(A)を最後に行ってもよい。一様分布でないと判定されたときに,その前に行った(B1)~(B3)の判定処理が無駄になるだけのことである。一様分布および独立性の判定のためには,最低限,上記(A)と(B1)が必須である。
【0076】
上記実施例では,所与の擬似乱数の数列(式(1))において,任意の2つの数値xj,xiの差xp=xj-xiをすべての組合せについて(i≠j,i=1~N,j=1~N)とっている。これにより得られた差の集合を差の母集団という。そして,母集団についてその擬似乱数が一様分布であるといえるか,独立性を有しているといえるかという点について判定を行っている。差の母集団から多くの個数の数値をサンプリング(抽出)して得られる集団(差の大標本という)(標本の大きさが充分に大きい)(母集団の一部)は,もとの差の母集団の分布と統計学的に同等といえる分布を有する。そこで,差の母集団で行った上記の統計的処理と同じ処理を差の大標本について行っても,所与の擬似乱数の一様分布性と独立性について,統計学的に同等の判定結果が得られる。
【0077】
大標本を作成するための種々のサンプリング方法がある。そのいくつかの例を挙げると次の通りである。
【0078】
第1は,差xp=xj-xiについて,iとjに,i>jという制限を加えて得られる差の集合を大標本とするものである。所与の擬似乱数における数値の個数をNとすると,母集団における差の数は上述の通り(N-N)個である。これに対して,上の制限を加えて得られる差の大標本における差の数は(N-N)/2個となるので,大標本の個数は充分に大きな数である。逆にi<jの制限を加えてもよい。
【0079】
第2は,擬似乱数の数列の隣接2項目間の差をとることである。すなわち,差xp=xj-xiに対して,j=i+1またはj=i-1の制限を加える。このとき得られる差の大標本に含まれる数値の個数は(N-1)個である。N=100,000(10万)とすれば,(N-1)は充分に大きな数である。
【0080】
同様にj=i+2,j=i-2,j=i+3,j=i-3等の制限を加えても差の大標本が得られる。
【0081】
3.システム構成
図8は擬似乱数の評価装置(システム)兼擬似乱数の作成(生成)装置(システム)(以下,単に「装置10」という)のハードウェア構成の概要を示すものである。
【0082】
装置10は典型的にはコンピュータ・システムによって実現される。コンピュータ・システムには,いわゆるパーソナル・コンピュータ(PC),モバイル端末装置等により実現されるシステムのみならず,ネットワーク・コンピューティング,クラウド・コンピューティング等によって実現されるシステムも含む。
【0083】
装置10は,基本的には演算部(または制御演算部,制御部)11,入力部12,出力部13,記憶部14および表示部15を含む。演算部11はコンピュータの本体であり,後述する図9図13のフローチャートにしたがう所与の擬似乱数の評価(一様性および独立性)処理,および図14図15のフローチャートにしたがう擬似乱数列生成処理を実行する。
【0084】
入力部12は,キーボードで代表される入力装置,表示部15の表示画面の表示内容を指示または選択するマウスを含み表示装置と共働して入力操作を行うもの,表示装置の表示画面に配置されるタッチパネル,マイクと音声認識部を含む音声入力部,ネットワーク等に接続され,送信されてくる信号を受信する通信部,CD,USBメモリ等の記録媒体からデータを読込むデータ読込装置,その他の演算部11へのデータ,情報の入力手段を含む。出力部13は,表示装置,プリンタ等の外に,音声出力部,ネットワーク等を通してデータ等を外部に送信する通信部(入力部の通信部と兼用される場合を含む),記録媒体にデータを書込むデータ書込装置,その他のデータ,情報を演算部11から外部に出力する手段を含む。
【0085】
記憶部14は評価すべき所与の擬似乱数を表わすデータ,その他の入力初期情報等の入力データ,各種の演算処理結果データ,その他のデータを格納するもので,演算部11内の内部メモリでもよいし,外部メモリ(クラウド・コンピューティング・システムのサーバのメモリも含む)でもよい。記憶部14には,擬似乱数評価処理および擬似乱数生成処理をコンピュータに実行させるためのプログラムも格納される。
【0086】
表示部15は入力部12や出力部13の表示装置ともちろん兼用することができるが,特に取出してここに図示してあると理解されたい。
【0087】
4.擬似乱数の評価処理
図9は装置10(特に演算部11)によって実行される擬似乱数評価処理の全体を示すフローチャートである。
【0088】
装置10は評価すべき擬似乱数の数列のデータ(式(1))を取込む(S10)。この所与の擬似乱数データの入力は,ネットワークを介して送信されてくる場合もあれば,記録媒体に格納されたものを読込む場合,その他の入力方法がある(入力部12)。取込まれた擬似乱数データは記憶部14に格納される。
【0089】
まず一様分布の検証処理が行なわれる(S11,S12),合格すれば次に独立性の検証に進む。不合格の場合にはその旨が記憶部14に記憶されるとともに,出力部13から出力される(たとえば,その旨の電文が送信される,または表示される)(S20)。独立性の検証処理では,まず差(Δxp)=xj-xi(i≠j,i=1~n,j=1~n)をすべての組み合せについて計算され,記憶部14に記憶される(S13)。ここでは差の母集団が形成されているが,この差の母集団の一部である差の大標本を上述の方法により作成し,この差の大標本について以下の処理を行ってもよいのはいうまでもない。
【0090】
この計算された差ΔxPのデータを用いて,二等辺三角形状の検証(S14),差の平均値=0の検証(S15),左右対称性の検証(S16)の各処理が行なわれ,これらの検証結果に基づいて,先に入力された擬似乱数の数列の独立性の有無の判定が行なわれる(S17)。この判定においては,二等辺三角形状の分布の検査で合格すれば,独立性の条件を満たしていると判定される。独立性の条件を満たしていれば合格の旨が,満たしていなければ不合格の旨がそれぞれ出力部13から出力されるとともに,記憶部14に記憶される(S18,S19)。
【0091】
図10は一様分布の検証処理(図9,S11)の詳細を示している。
【0092】
所与の擬似乱数の分布する範囲にわたって等分された区間に属する乱数の数を計数し,ヒストグラム作成し,必要に応じて表示する(S30)。表示されたヒストグラムをみて,一様分布かどうかの概略を目視で判断することができるであろう。
【0093】
次に全区間にわたる頻度の理論値(式(2))が計算される(S31)。
【0094】
ヒストグラムの各区間ごとの頻度と理論値とを用いてカイ2乗値(式(3))が計算され(S32),カイ2乗値が所与の棄却限界値未満かどうかが判定される(S33)。この判定結果は記憶部14に記憶される(S34)。一様分布の検証において,一様分布でない(カイ2乗値が棄却限界値以上である)と判定されたときには,以降の独立性の検証処理に進まずに,一様分布できない旨を表示(出力)して,ここで処理を終了してもよいのは当然である。
【0095】
図11は独立性の検証処理のうちの二等辺三角形状の分布の検証処理(図9,S14)の詳細を示している。
【0096】
先に算出した差Δxpについてその分布全範囲を等分に区間した各区間ごとの差Δpの個数(頻度)を計数し差Δxpのヒストグラムを作成し,表示する(S42)。この表示をみて,独立性があるかどうかについて概略を認識することができる。表示されたヒストグラムが二等辺三角形形に近い形をしていれば独立性が有りそうであるし,二等辺三角形の形から崩れたものであれば独立性は疑わしいと判断できよう。
【0097】
次に二等辺三角形状の各区間ごとの理論値を算出し(式(9))(S41),カイ2乗値を計算する(式(8))(S42)。カイ2乗値が所与の棄却限界値(判定基準値)未満であれば,二等辺三角形状の検証に合格し,そうでなければ不合格である(S43)。これらの合否の結果を記憶部14に記憶するとともに出力する(S44)。このカイ2乗検定で不合格であれば,以降の処理(図9,S15,S16など)に進まず,ここで独立性の検証処理を終了してもよい。
【0098】
図12は,差の平均値=0の検証処理の詳細を示している(図9,S15)。
【0099】
すべての差Δxpの平均値,標準偏差を算出し(S50),t値を計算する(式(10))(S51)。算出されたt値が所定の基準値未満であれば,差の平均値=0の検定に合格と判定し,それ以外であれば不合格と判定し(S52),その旨を記憶するとともに出力する(S53)。不合格の場合には次の左右対称性の検証処理に進まなくて,ここですべての処理を終えてもよい。もっとも,差の平均値=0の検証処理自体を行なわなくてもよい。
【0100】
図13は,左右対称性の検証処理(図9,S16)の詳細を示している。
【0101】
先に示した式(11)にしたがって歪度を計算し(S60),算出された歪度が所定の基準値未満であれば,合格とし,それ以外の場合には不合格として(S61),その旨を記憶するとともに出力する(S62)。左右対称性の検証処理を行なわなくてもよい。
【0102】
最後に,上述したように,一様分布性を満たし,かつ,独立性の検証(二等辺三角形状の検証)に合格していれば,S10で取込んだ擬似乱数は一様分布と独立性を備えていると判定して,その旨を出力,記憶するのは上述の通りである(図9,S18)。上述の処理を母集団ではなく,大標本について行なってもよいのはいうまでもない。
【0103】
5.擬似乱数の作成
上述した擬似乱数の評価(一様分布,独立性の評価)は,好適に使用できる擬似乱数,または使用に耐えうる擬似乱数の作成に応用することができる。この擬似乱数の作成処理も図8に示す装置(システム)によって実現される。
【0104】
図14は装置10によって実施される擬似乱数の作成処理の手順の概要を示すものである。
【0105】
まず,擬似乱数が生成される。擬似乱数の生成にはさまざまな方法(装置,プロセス)がある。たとえば,ロジスティックカオス方程式を用いる方法,RAND関数による方法,線形合同法,メルセンヌ・ツイスタ方法等である。
【0106】
いずれにしても,擬似乱数を生成し(S70),この生成した擬似乱数について上記の一様分布,独立性の評価処理を実行する(S71)。評価処理において,一様分布および独立性の評価に合格すれば(S72でYES),合格した擬似乱数を,作成した擬似乱数として出力する(メモリの記録媒体に記録する,送信する)(S73)。
【0107】
不合格の場合には,必要であれば(S74でYES),擬似乱数生成処理のパラメータ等を変更して,擬似乱数の生成,その評価(S70,S71)を繰返す。不合格の場合に,図14に示す処理を終了してもよい(S74でNO)。
【0108】
擬似乱数生成処理の一例としてロジスティックカオス方程式を用いた新たな方法(装置,プログラム)を,発明者の一人が既に発表した(特許第6782347号)。
【0109】
この擬似乱数生成方法は,カオス数列生成手段が,ロジスティックカオス方程式に所与のパラメータを与えてカオス数列を生成し,サンプル数列生成手段が,前記カオス数列生成手段によって生成されたカオス数列から所与の間隔でサンプリングしてサンプル数列を生成し,そして前記サンプル数列生成手段によって生成されたサンプル数列を格納手段に格納するものである。
【0110】
以下,このロジスティックカオス方程式を用いた擬似乱数生成処理について詳しく説明する。
【0111】
ロジスティックカオス方程式(単に,カオスの式という)として次の2種類を採用し,これらをタイプ1,タイプ2と呼ぶ,rは順次増加する正の整数(r=1,2,3,‥‥)。
【0112】
タイプ1 yr+1=4yr(1-yr) 式(12)
タイプ2 yr+1=1-4yr(1-yr) 式(13)
【0113】
タイプ1,タイプ2のいずれか一方がユーザ(操作者)によって選択,入力され,選択されたタイプが記憶部14に記憶される。
【0114】
図15を参照してまず,入力部12を通して初期値(初期入力情報)が入力され,記憶部14に記憶される(初期処理,初期設定)(図15,S80)。初期入力情報には,ロジスティックカオス方程式の選定結果,ロジスティックカオス方程式の初期値(y1 ),サンプリング間隔(飛ばし間隔)(q個飛ばし),生成する(したい)擬似乱数の桁数,擬似乱数列のサンプル数(N)(最終的に生成される擬似乱数列における数値の個数)等がある。
【0115】
カオスの式の初期値y1は0<y1<1の間で設定される。たとえば,小数点第3位までの値(例として,y1=0.234 )(擬似乱数の桁数と異なる桁数でもよい)が初期値としてキーボードから入力される。
【0116】
サンプリング間隔qは原則的には1以上であればよいが,より好ましくは5以上,実際的には(上述した一様分布,独立性の検証で合格するには)10以上30までの間程度がよい。キーボードから入力させてもよいが,プルダウンリスト等に選択可能な数qを表示し,その中から選択させてもよい。
【0117】
生成したい擬似乱数の桁数に制限はないが,実際的には1~20程度が好ましい。擬似乱数のサンプル数(抽出数)Nとは,生成したい擬似乱数の個数(総数)であり,もちろん任意の数でよいが,実際的には上述したように1000~100万程度であろう。擬似乱数は後述するようにサンプリング処理を経て生成されるので,サンプル数という用語が用いられる。擬似乱数の桁数,サンプル数もキーボード(テンキー)を用いて入力することができるが,プルダウンリストの中から選択させてもよい。
【0118】
初期処理で選定されたタイプ1またはタイプ2のカオスの式に,設定された初期値y1を代入してy2を求め,このy2を用いて次のy3を算出するというように,rの値を順次インクレメントしながら初期設定された桁数の数値(数データ)の列(カオス数列)を求める(図15,S81)(カオス数列生成手段)。得られたカオス数列の一例(y1,y2,y3,‥‥)を図16に示す。ynの値をどこまで計算するかはサンプリング間隔qとサンプル数Nとの積に依存する。
【0119】
このカオス数列から,初期設定されたサンプリング間隔qの間隔で数値(数)(数データ)を抽出(サンプリング)して,サンプル数列をつくる(図15,S82)(サンプル数列生成手段)。サンプル数列は,サンプリングにより得られた(抽出された)数値(数)(数データ)の列の意味である。
【0120】
分りやすくするために,サンプリング間隔qが2の場合(2個飛ばし)のサンプリング(サンプル数列)の例が図16のカオス数列に対して示されている。サンプル数列をxi (i=1,2,3,‥‥)で表わす。
【0121】
サンプル数列のi番目の数値(数データ)xiは,最初のxの値であるx1の値をカオス数列の最初の値y1と等しい値としたとき,次式で与えられる。
【0122】
i=yr 式(14)
r=(q+1)(i-1)+1 式(15)
【0123】
最終的に初期設定されたN個の擬似乱数を得る場合には,次式(式(16))で与えられるR個の数データをもつカオス数列がS81で生成される。もっとも,サンプル数列の最初の数値(数データ)x1をカオス数列の初期値y1と同じにする必要は必ずしもなく,カオス数列の2番目の数値y2や3番目の数値y3などをサンプル数列の最初の値y1とすることもできるし,カオス数列の最初からy1を含めてq個飛ばしたのちのyq+1 をサンプル数列の最初の値x1とするなど,サンプル数列の最初の値x1はどこをとってもよい。その場合には,式(9)で与えられる数Rはx1の値のとり方に応じて修正されよう。
【0124】
R=(q+1)(N-1)+C 式(16)
Cは1,2,3,4,‥‥または1,q+1,2q+1,‥‥など任意の値とすることができる。
【0125】
このようにして得られたサンプル数列が,入力,設定された初期条件(初期入力情報)によって規定される擬似乱数の数列であり,記憶部14に一時的に格納される。
【0126】
上記においてカオス数列の生成(S81)とサンプル数列の生成(S82)とは別個の処理として記述されているが,これらの処理を並行して実行することもできる。たとえば,カオス数列を作成しながら,q個飛ばして数値をサンプリングしていく,カオス数列のq個飛ばしの数列を一挙に計算する漸化式を作成し,この漸化式にしたがってサンプル数列を生成するなどである。
【0127】
カオス数列またはそれに基づいて作成されるサンプル数列は,設定された初期条件によっては,rまたはiをインクレメントしても演算結果yrまたはxiが変化しないことがある。これを停止点という。
【0128】
以下に,サンプル数列について,停止点の判定とその対策について述べる。
【0129】
サンプル数列の数値の変化分Δxiを次式(式(17))にしたがって算出し(図15,S83)(相前後する数値の差の算出手段),記憶部14に記憶する。
【0130】
Δxi=Δxi+1-Δxi 式(17)
【0131】
そして算出した変化分Δxiが0かどうかを判定する(式(18) )(S83)。
【0132】
Δxi=0 式(18)
【0133】
式(18)を満たすxiがあれば,サンプル数列の(i+1)番目を停止点と判定する。
【0134】
停止点の存在が判定された場合には(S84でY:YES ),S80で設定したカオスの初期値y1を変更する(S85)。初期値の変更は現在の初期値の値を変更してもよいし,全く新しい初期値を設定しなおしてもよい。たとえば,現在の初期値y1に0.001を加算した値を新たな初期値とすることができる。この新たな初期値はもちろん記憶部に格納される。初期値の変更はコンピュータの内部処理で自動的に行なってもよいし(たとえば上記の+0.001 などの演算),ユーザに入力,設定し直しさせてもよい。初期値を自動変更した旨や,初期値の変更が必要である旨の表示を表示部15に行うことが好ましい。初期値変更ののち,カオス数列の生成(S81)からやり直すことになる。
【0135】
サンプル数列の数値の変化分Δxiが0になることなく(S86でN:NO),生成されたサンプル数が初期設定されたN個に達した場合には,生成されたサンプル数列が一旦記憶部14に格納される。
【0136】
カオス数列はU字型分布をもつといわれている。カオス数列からq個飛ばしでサンプリングにより作成したサンプル数列もまたU字型分布をもつ。
【0137】
そこで生成されたU字型分布をもつサンプル数列を一様分布に変換する一様化処理が行なわれる(S86)。
【0138】
一様化処理にはさまざまな方法があるが,一例として,下記の変換式により一様分布に変換することができる。
【0139】
i=[cos-1(1-2xi)]/π 式(19)
【0140】
説明の簡略化のために一様化処理後のziを,一様分布,独立性の検証の対象となる擬似乱数列の項の記号xiと置くことにする。
【0141】
一様化変換されたサンプル数列は記憶部14に格納される(図15,S87)。この一様化変換処理されたサンプル数列が,一様分布,独立性の検証(図14,S71)の対象となる。
【0142】
最後に,擬似乱数列の生成と,生成された擬似乱数列の一様分布,独立性の検証のいくつかの実例について以下に挙げておく。これらの実例においては,一様分布性および独立性の判定において,上述した隣接2項目間の差の大標本(j=i+1の制限を加えて得られた大標本)のデータを用いている。
【0143】
1.例1
(1) 擬似乱数列の生成方法
ロジスティックカオス方程式(タイプ1)
初期値 y1=0.2
サンプリング間隔 q=20 (20個飛ばし)
擬似乱数の桁数 16
擬似乱数列のサンプル数 10000
(2) 一様分布の検証(χ2検定)
χ2=27.84
合格(有意水準0.05)
(3) 独立性の検証
(i) 二等辺三角形状分布の検証(χ2検定)
χ2=31.14
合格(有意水準0.001)
(ii)差の平均値=0の検証(t検定)
t値=0.005
合格(有意水準0.05)
(iii)左右対称性の検証
歪度=0.02
合格(基準値±0.1)
(iv)独立性の判定
独立性を有する(一様分布でもある)
【0144】
図17は例1において生成された擬似乱数を時系列的に(生成の順に)示すものである。代表的に1000個の乱数のみを示す。横軸は生成の順を,縦軸は擬似乱数を示す。図18は例1における一様分布の検証結果を示すグラフである。横軸は生成された乱数を,縦軸はその度数(個数,頻度)を示す。図19は例1における二等辺三角形状分布の検証結果を示すグラフである。横軸は差の値を,縦軸は度数(個数,頻度)を示す。
【0145】
2.例2
(1) 擬似乱数列の生成方法
ロジスティックカオス方程式(タイプ1)
初期値 y1=0.2
サンプリング間隔 q=0 (0個飛ばし)
擬似乱数の桁数 16
擬似乱数列のサンプル数 10000
(2) 一様分布の検証(χ2検定)
χ2=15.88
合格(有意水準0.05)
(3) 独立性の検証
(i) 二等辺三角形状分布の検証(χ2検定)
χ2=4748.568
不合格(有意水準0.001)
(ii)差の平均値=0の検証(t検定)
t値=0.0124
合格(有意水準0.05)
(iii)左右対称性の検証
歪度=-0.929
不合格(基準値±0.1)
(iv)独立性の判定
独立性が認められない
【0146】
図20は例2において生成された擬似乱数を時系列的に(生成の順に)示すものである。代表的に1000個の乱数のみを示す。横軸は生成の順を,縦軸は擬似乱数を示す。図21は例2における一様分布の検証結果を示すグラフである。横軸は生成された乱数を,縦軸はその度数(個数,頻度)を示す。図22は例2における二等辺三角形状分布の検証結果を示すグラフである。横軸は差の値を,縦軸は度数(個数,頻度)を示す。
【0147】
3.例3
(1) 擬似乱数列の生成方法
乱数の生成は,The R software version 4.0.3 (R Foundation for Statistical Computing, Vienna, Austria)の一様乱数の関数である「runif」を用いた。乱数種の設定値(シード値)は,「1234」である。
擬似乱数の桁数 16
擬似乱数列のサンプル数 10000
(2) 一様分布の検証(χ2検定)
χ2=15.930
合格(有意水準0.05)
(3) 独立性の検証
(i) 二等辺三角形状分布の検証(χ2検定)
χ2=54.754
不合格(有意水準0.001)
(ii)差の平均値=0の検証(t検定)
t値=0.002
合格(有意水準0.05)
(iii)左右対称性の検証
歪度=0.008
合格(基準値±0.1)
(iv)独立性の判定
独立性を有さない
【0148】
図23は例3において生成された擬似乱数を時系列的に(生成の順に)示すものである。代表的に1000個の乱数のみを示す。横軸は生成の順を,縦軸は擬似乱数を示す。図24は例3における一様分布の検証結果を示すグラフである。横軸は生成された乱数を,縦軸はその度数(個数,頻度)を示す。図25は例3における二等辺三角形状分布の検証結果を示すグラフである。横軸は差の値を,縦軸は度数(個数,頻度)を示す。
【符号の説明】
【0149】
10 擬似乱数の評価装置(システム)兼擬似乱数の作成(生成)装置
11 演算部(コンピュータ)
12 入力部
13 出力部
14 記憶部
15 表示部
図1
図2a
図2b
図2c
図3a
図3b
図3c
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25