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特開2024-11661白金ニッケル担持触媒、空気浄化システムおよび空気浄化方法
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  • 特開-白金ニッケル担持触媒、空気浄化システムおよび空気浄化方法 図1
  • 特開-白金ニッケル担持触媒、空気浄化システムおよび空気浄化方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024011661
(43)【公開日】2024-01-25
(54)【発明の名称】白金ニッケル担持触媒、空気浄化システムおよび空気浄化方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 23/89 20060101AFI20240118BHJP
   B01J 35/45 20240101ALI20240118BHJP
   B01J 35/39 20240101ALI20240118BHJP
   A61L 9/00 20060101ALI20240118BHJP
   A61L 9/01 20060101ALI20240118BHJP
【FI】
B01J23/89 A
B01J35/02 H ZAB
B01J35/02 J
A61L9/00 C
A61L9/01 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022113861
(22)【出願日】2022-07-15
(71)【出願人】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】510123460
【氏名又は名称】株式会社アクト・ノンパレル
(74)【代理人】
【識別番号】100162396
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100122954
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷部 善太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100194803
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 理弘
(72)【発明者】
【氏名】市原 真希
(72)【発明者】
【氏名】山本 哲史
(72)【発明者】
【氏名】洞田 浩文
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 祐二
(72)【発明者】
【氏名】清野 智史
【テーマコード(参考)】
4C180
4G169
【Fターム(参考)】
4C180AA02
4C180AA16
4C180BB06
4C180BB09
4C180CC02
4C180CC03
4C180CC15
4C180DD03
4C180DD09
4C180EA02X
4C180EA05X
4C180EA34X
4G169AA03
4G169BA04A
4G169BA04B
4G169BA48A
4G169BB02A
4G169BB02B
4G169BC68A
4G169BC68B
4G169BC75A
4G169BC75B
4G169CA02
4G169CA10
4G169CA11
4G169DA06
4G169EA02Y
4G169EB14X
4G169EB14Y
4G169EB18X
4G169EB18Y
4G169EB19
4G169EC02Y
4G169HB01
4G169HC29
4G169HE03
(57)【要約】
【課題】新規な白金ニッケル担持触媒と、この白金ニッケル担持触媒を利用した空気浄化システムおよび空気浄化方法を提供すること。
【解決手段】見かけ体積5mm以上の多孔質担体の表面に、粒径10nm以下の白金ナノ粒子が均一に担持されている白金ニッケル担持触媒、空気中の化学物質を中間生成物に変換する白金ニッケル担持触媒を備える第一の浄化装置と、中間生成物を二酸化炭素と水を含む最終生成物に分解する光触媒を備える第二の浄化装置とを有する空気浄化システム、白金ニッケル担持触媒を用いて、空気中の化学物質を他の化合物に変換するステップを有することを特徴とする空気浄化方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
見かけ体積5mm以上の多孔質担体の表面に、粒径10nm以下の白金ニッケルナノ粒子が均一に担持されていることを特徴とする白金ニッケル担持触媒。
【請求項2】
白金ニッケルナノ粒子が、白金100モルに対してニッケルを1モル以上120モル以下含むことを特徴とする請求項1に記載の白金ニッケル担持触媒。
【請求項3】
白金とニッケルとの合計担持量が、0.002重量%以上1.2重量%以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の白金ニッケル担持触媒。
【請求項4】
前記多孔質担体が、光触媒能を備える二酸化チタンであることを特徴とする請求項1または2に記載の白金ニッケル担持触媒。
【請求項5】
空気中の化学物質を他の化学物質に変換する請求項1または2に記載の白金ニッケル担持触媒を備える浄化装置を有することを特徴とする空気浄化システム。
【請求項6】
前記白金ニッケル担持触媒により変換された他の化学物質を、二酸化炭素と水を含む最終生成物に分解する光触媒を備える第二浄化装置を有することを特徴とする請求項5に記載の空気浄化システム。
【請求項7】
請求項1または2に記載の白金ニッケル担持触媒を用いて、空気中の化学物質を他の化学物質に変換するステップを有することを特徴とする空気浄化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、白金ニッケル担持触媒と、この白金ニッケル担持触媒を利用した空気浄化システムおよび空気浄化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイス、ディスプレイ、マイクロマシン、薄膜塗工フィルムなどは、製造時や検査時に気体中の微粒子数や温度、湿度等が制御されており、クリーンルーム内で製造されている。これらの製品は、ナノレベルで制御された加工が行われ、加工時の悪影響を防ぐために、雰囲気中の化学物質濃度を低くすることが求められる場合がある。
例えば、半導体製造工程においては、ウェハが化学物質に汚染されると、レジストの塗工性に影響を及ぼし、レジストの膜厚やレジストとウェハとの密着性が変化し、所望の加工精度が達成できなくなり、歩留まりが低下する場合がある。
雰囲気中の化学物質濃度を制御することが求められる場合、通常、活性炭をベースとしたケミカルフィルターが用いられている。ケミカルフィルターは、化学物質を吸着するものであるため、破過(吸着量が飽和)する前に交換が必要であり、維持するのに手間とコストがかかり、交換の際に、粉塵等が発生してしまうおそれもある。
【0003】
本発明者らは、二酸化チタンペレットに含浸法でプラチナを担持したハイブリッド触媒により、紫外線を照射することなくイソプロピルアルコールが酸化されて二次生成物としてアセトンが生成することを報告している(非特許文献1、2)。また、多孔質担体の表面に白金ナノ粒子が均一に担持されている白金担持触媒と、多孔質担体として二酸化チタンを利用した効率的な光触媒を提案している(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2022-019588号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】市原真希、洞田浩文、若山恵英、瀧寛則、斎藤祐二、「ハイブリッド触媒によるVOC分解の可能性検討」、大成建設技術センター報、第52号(2019)
【非特許文献2】市原真希、洞田浩文、若山恵英、瀧寛則、斎藤祐二、「ハイブリッド触媒による無光環境下でのVOC分解の可能性検討」、日本建築学会大学学術講演梗概集、2019、p919-920
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、新規な白金ニッケル担持触媒と、この白金ニッケル担持触媒を利用した空気浄化システムおよび空気浄化方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の課題を解決するための手段は以下の通りである。
1.見かけ体積5mm以上の多孔質担体の表面に、粒径10nm以下の白金ニッケルナノ粒子が均一に担持されていることを特徴とする白金ニッケル担持触媒。
2.白金ニッケルナノ粒子が、白金100モルに対してニッケルを1モル以上120モル以下含むことを特徴とする1.に記載の白金ニッケル担持触媒。
3.白金とニッケルとの合計担持量が、0.002重量%以上1.2重量%以下であることを特徴とする1.または2.に記載の白金ニッケル担持触媒。
4.前記多孔質担体が、光触媒能を備える二酸化チタンであることを特徴とする1.または2.に記載の白金ニッケル担持触媒。
5.空気中の化学物質を他の化学物質に変換する1.または2.に記載の白金ニッケル担持触媒を備える浄化装置を有することを特徴とする空気浄化システム。
6.前記白金ニッケル担持触媒により変換された他の化学物質を、二酸化炭素と水を含む最終生成物に分解する光触媒を備える第二浄化装置を有することを特徴とする5.に記載の空気浄化システム。
7.1.または2.に記載の白金ニッケル担持触媒を用いて、空気中の化学物質を他の化学物質に変換するステップを有することを特徴とする空気浄化方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の白金ニッケル担持触媒は、多孔質担体の細孔表面に有機化合物が吸着して局所的に高濃度となる。吸着した有機物は、担体表面を滑動してナノ粒子と接触することができるため、本発明のニッケル白金担持触媒は、低濃度の化学物質も効率的に処理することができる。本発明の白金ニッケル担持触媒は、担体が粉末状でないため、取り扱い性に優れており、空調ユニット等に組み込んだり、使用後に回収したりすることが容易である。また、含浸法で製造したハイブリッド触媒は、白金が2~5重量%程度必要であり高コストであるが、本発明の白金ニッケル担持触媒は、粒径10nm以下のナノ粒子を担持するため、少ない担持量でも十分な触媒能を発揮することができ、低コストである。
本発明の白金ニッケル担持触媒は、紫外線を照射することなく様々な有機化合物を酸化して分解することができる。また、本発明の白金ニッケル担持触媒は、担体として二酸化チタンを用いた場合、二酸化チタンによる光触媒の助触媒として作用し、紫外線照射により価電子帯から伝導帯に移った電子の再結合を阻害して、光触媒能を強化することができ、酸素や水から効率的に活性酸素種を生成する。そして、この生成した活性酸素種が、他の有機化合物に対して酸化剤として作用することにより、様々な化学物質を効率的に分解することができる。
【0009】
この白金ニッケル担持触媒を用いた本発明の空気浄化システムは、空気中の化学物質を、中間生成物に分解することができ、さらに光触媒と組み合わせることにより二酸化炭素と水を含む最終生成物にまで分解することができる。本発明の空気浄化システムは、白金ニッケル担持触媒により分解されやすい中間生成物に変換できるため、光触媒のみを用いた場合と比較して触媒量を減らすことができ、低容量化、低コスト化を達成できる。本発明の空気浄化システムは、既存の空調機の配管に後設することができる。本発明の空気浄化システムは、様々な化学物質を分解することができるため、半導体デバイスやディスプレイ等のクリーンルームでの空気浄化に好適に用いることができる。また、化学工場、印刷工場等から発生する化学物質を含む排気の処理にも好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】空気浄化システムの一実施態様の概略図。
図2】実施例1で得られた白金ニッケル担持触媒のSEM画像。
【発明を実施するための形態】
【0011】
・白金ニッケル担持触媒
白金ニッケル担持触媒(以下、担持触媒ともいう)は、見かけ体積5mm以上の多孔質担体の表面に、粒径10nm以下の白金ニッケルナノ粒子が均一に担持されている。見かけ体積とは、多孔質担体の多孔質部分を含む体積を意味する。見かけ体積が5mm以上の多孔質担体は、粉末ほど細かくないため、取り扱い性に優れており、空調ユニット等に組み込んだり、使用後に回収したりすることが容易である。また、見かけ体積が5mm以上であると、粉塵が発生しにくいため、クリーンルームへの清浄空気の供給に好適に用いることができる。見かけ体積は5mm以上であれば特に限定されないが、10mm以上であることが好ましい。見かけ体積が大きすぎると担体間の空隙が大きくなり、また、多孔質担体の内部まで気体が到達しにくくなる。そのため、多孔質担体の見かけ体積は、8000mm以下であることが好ましく、4000mm以下であることがより好ましい。
【0012】
本発明で使用する多孔質担体の窒素吸着によるBET比表面積は、反応性の点から、20m/g以上であることが好ましく、30m/g以上であることがより好ましい。このBET比表面積が広くなるほど反応性は向上するが、強度が低下して脆くなるため、破損して粉塵が発生しやすくなる。そのため、粉塵の発生を抑えることが要求されるクリーンルームへの清浄空気の供給に用いる場合は、このBET比表面積は、200m/g以下であることが好ましく、100m/g以下であることがより好ましい。
多孔質担体の材質は特に制限されず、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化鉄等の金属酸化物、活性炭等が挙げられる。光触媒能を備える二酸化チタンを用いることにより、白金を活性点とする触媒能に加えて、光触媒能を発揮することもできる。
【0013】
白金ニッケルナノ粒子(以下、ナノ粒子ともいう)は、白金とニッケルとが合金化したナノ粒子である。本発明の担持触媒は、白金とニッケルとの合金からなるナノ粒子を担持しており、白金ナノ粒子とニッケルナノ粒子とを担持しているわけではない。
ナノ粒子の粒径は、表面を撮像して得た電子顕微鏡画像から、面積円相当径を算出することにより求めることができる。電子顕微鏡画像を画面処理して得られた100個以上のナノ粒子のうち、粒径(面積円相当径)10nm以下のものが90%以上であることが好ましく、95%以上であることがより好ましく、99%以上であることが更に好ましく、100%であることが最も好ましい。また、ナノ粒子が表面に均一に担持されていることも、この電子顕微鏡画像から確認することができる。本発明において、白金ニッケルナノ粒子は、電子顕微鏡画像の200nm×200nm以上である任意の3箇所以上の領域に存在する白金ニッケルナノ粒子の個数が、その平均値の±20%以内であることが好ましく、±10%以内であることがより好ましく、±5%以内であることが更に好ましい。さらに、白金ニッケル担持触媒を破砕して、断面に露出した細孔を電子顕微鏡画像で観察することにより、細孔表面に担持された白金ナノ粒子を確認することができる。
【0014】
白金ニッケルナノ粒子は、化学物質に対する直接的な酸化・還元反応により化学物質を分解する。さらに、担体として二酸化チタンを用いた場合、白金ニッケルナノ粒子は助触媒として作用し、二酸化チタン内において紫外線照射により価電子帯から伝導帯へ励起した電子の再結合を阻害する。そして、光触媒における、励起した電子による酸素の還元と、電子が励起されて生じた正孔による水の酸化が効率化し、スーパーオキサイドアニオン(O )とヒドロキシラジカル(・OH)という活性酸素種が効率的に生成され、この活性酸素種による化学物質の酸化反応を促進し、化学物質を効率的に分解することができる。
本発明の白金ニッケル担持触媒は、白金とニッケルとの合金であるナノ粒子を担持しており、このナノ粒子は白金原子とニッケル原子が表面に均一に分布している。そして、ニッケルは水との親和性が高く、また、多孔質担体の細孔内には水が吸着するため、白金ニッケルナノ粒子のニッケル部分には水が存在しやすい。本発明の担持触媒は、白金ニッケルナノ粒子の白金表面のすぐそばにニッケルに吸着した水が存在しやすいため、強力な酸化剤であるヒドロキシラジカル(・OH)を効率的に産生することができ、化学物質の分解能に優れている。
【0015】
白金ニッケルナノ粒子の白金とニッケルとのモル比は特に制限されないが、例えば、反応効率の点から、白金100モルに対してニッケルが1モル以上であることが好ましく、5モル以上がより好ましく、10モル以上がさらに好ましい。白金100モルに対してニッケルが1モル未満では、ニッケルによる水吸着が少なくヒドロキシラジカルの産生が向上しないためか、その分解性は白金ナノ粒子とほぼ同等となる。また、コストと分解性とのバランスの観点から、白金100モルに対してニッケルが120モル以下であることが好ましく、100モル以下がより好ましく、90モル以下がさらに好ましい。ニッケルが多くなるとナノ粒子表面に露出する白金が少なくなるため分解性能が低下することが予測されるが、ニッケルに吸着した水からヒドロキシラジカルが効率的に生成されるためか、白金100モルに対してニッケル120モル程度では、白金ナノ粒子と比較して分解効率はそこまで低下しない。
【0016】
本発明の白金ニッケル担持触媒は、様々な化学物質の分解反応に用いることができ、例えば、エタノール、イソプロピルアルコール、酢酸エチル、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)、トルエン、アンモニア等を、中間生成物または最終生成物(水、二酸化炭素等)である他の化学物質に変換する分解反応に好適に用いることができる。また、本発明の白金ニッケル担持触媒は、光を照射することなく化学物質を分解することができるが、担体として二酸化チタンを用いることにより光触媒能が加わるため、二酸化チタンを担体とする本発明の白金ニッケル担持触媒に紫外線を照射すると、最終生成物である二酸化炭素等まで分解できる場合がある。
本発明の白金ニッケル担持触媒は、多孔質担体の細孔内に化学物質が吸着して局所的に高濃度となり、吸着した有機物は担体表面を滑動(migration)する。そして、本発明の白金ニッケル担持触媒は、表面のみならず、細孔内にも白金ニッケルナノ粒子が担持されており、細孔内に濃縮された化学物質と細孔内に担持された白金ニッケルナノ粒子とが接触するするため、低濃度の化学物質も効率的に分解することができる。
【0017】
・白金ニッケル担持触媒の製造方法
本発明の白金ニッケル担持触媒は、多孔質担体の表面に、粒径10nm以下の白金とニッケルとの合金からなるナノ粒子が均一に担持されている。このような白金ニッケル担持触媒は、例えば、放射線法により製造することができる。放射線法とは、担体を分散させた金属イオン水溶液(本発明の場合は白金イオン水溶液)に、放射線を照射し、水の放射線分解により生成した還元種により、金属イオンを還元し、ナノ粒子を析出させ、析出したナノ粒子を担体に担持させる方法である。放射線法により均一にナノ粒子が析出し、析出したナノ粒子は担体表面に均一に担持される。この際、白金イオンとニッケルイオンとの仕込み比(モル比)を調整することにより、所望のモル比で合金化した白金ニッケルナノ粒子を析出させることができる。
【0018】
使用する放射線は、特に制限されないが、透過性と安全性とから、γ線、X線、または電子線を用いることが好ましい。放射線は、吸収線量1J/kg以上、好ましくは1J/kg以上1,000,000J/kg以下の条件で照射できる。特に、電離放射線としてγ線を利用する場合、γ線は、線量1Gy以上の条件で照射するのが好ましい。γ線照射の好ましい具体例としては、放射線源としてコバルト60γ線源(γ線光量子のエネルギー:1.25MeV)を用いて、線量率約3kGy/h、照射時間1-18時間の条件で実施する例を挙げることができる。
【0019】
本発明の白金ニッケル担持触媒において、多孔質担体に担持される白金の量は、金属イオン水溶液中の白金濃度、放射線強度、放射線照射時間等により調整することができる。本発明の白金ニッケル担持触媒は、白金ニッケルナノ粒子を均一に担持させることができ、また白金ニッケルナノ粒子中の白金の割合が低くとも高い活性を備えている。本発明の白金ニッケル担持触媒における白金の量は、1.2重量%以下であることが好ましく、1.0重量%以下であることがより好ましく、0.8重量%以下であることが更に好ましい。また、白金の量の下限は、触媒活性を示す限り特に制限されないが、0.002重量%以上であることが好ましく、0.005重量%以上であることがより好ましく、0.01重量%以上であることがさらに好ましい。
【0020】
・空気浄化システム
本発明の空気浄化システムは、空気中の化学物質を他の化学物質に変換する白金ニッケル担持触媒を備える浄化装置を有する。本発明の空気浄化システムは、白金ニッケル担持触媒で生成する他の化学物質が中間生成物である場合に、この浄化装置の下流に中間生成物を二酸化炭素と水を含む最終生成物に分解する光触媒を備える第二の浄化装置を有することができる。
第二の浄化装置に使用する光触媒は、従来公知のものを特に制限することなく使用することができるが、二酸化チタンの多孔質体であることが好ましい。多孔質体は、細孔内に中間生成物を吸着、濃縮することができるため、効率的に分解することができる。二酸化チタンの多孔質体は、白金ニッケル担持触媒の多孔質担体と同じく、見かけ体積が5mm以上であることが好ましく、その上限は8000mm以下であることが好ましく、4000mm以下であることがより好ましい。また、窒素吸着によるBET比表面積が20m/g以上であることが好ましく、30m/g以上であることがより好ましく、200m/g以下であることが好ましく、100m/g以下であることがより好ましい。また、本発明の空気浄化システムは、白金ニッケル担持触媒の多孔質担体として光触媒能を備える二酸化チタンを用いることにより、白金ニッケル担持触媒を備える浄化装置に紫外線と光触媒による第二の浄化装置とを一体化した、白金ニッケル担持触媒を備える浄化装置に紫外線を照射する構成とすることもできる。
【0021】
図1に、本発明の空気浄化システムの一実施態様の概略図を示す。
一実施態様である空気浄化システム1は、クリーンルームの空調システムに設置されている。
クリーンルーム内のイソプロピルアルコール(IPA)を含む空気は、換気ダクト(RA)から取り込まれ、一部が排気され、残りは空調機(AHU)で外気と混合されて温湿度等が調整された後、空気浄化システム1で浄化される。空気浄化システム1は、白金ニッケル担持触媒を備える第一の浄化装置11と、光触媒を備える第二の浄化装置12とを有する。IPAは、第一の浄化装置11でアセトン(ACT)に変換され、アセトンは第二の浄化装置12で二酸化炭素と水とに分解される。空気浄化システム1でIPAが取り除かれた空気は、HEPAフィルタで異物が取り除かれた後に、還気ダクト(SA)からクリーンルーム内へ戻される。
【0022】
本発明の空気浄化システムは、光触媒を備える第二の浄化装置の上流に、白金ニッケル担持触媒を備える第一の浄化装置を備えており、第一の浄化装置が事前に化学物質を中間生成物に変換するため、光触媒のみで化学物質を最終生成物に分解する空気浄化システムと比較して、浄化性能に優れている。本発明の空気浄化システムは、浄化対象である気体の単位時間あたりの流量に対して必要な触媒量が少ないため、浄化システムを低容量化、低コスト化することができる。
【実施例0023】
「比較例1」
二酸化チタンからなる多孔質担体(Evonik社、Aerolyst7711、見かけ体積11.3mm(φ1.7mm×5mmの円柱)、BET比表面積35~55m/g)2.0gを、金属イオン含有の水溶液(HPtCl:1mM、イソプロピルアルコール:1vol%)100mLに分散させ、アルゴンガスで15分バブリングした後、真空引きをして細孔内に水溶液を充填させた。その後、撹拌しながらコバルト60γ線源からγ線を(25kGy、2.5時間 → 15kGy、1.5時間)照射し、白金担持触媒を得た。白金の担持量は約0.2重量%であった。
「比較例2」
金属ナノ粒子を担持させていない、二酸化チタンからなる多孔質担体(Evonik社、Aerolyst7711、見かけ体積11.3mm(φ1.7mm×5mmの円柱)、BET比表面積35~55m/g)を触媒とした。
【0024】
「実施例1」
金属イオン含有の水溶液(HPtCl:1mM、Ni(NO:1.0mM、イソプロピルアルコール:1vol%、白金とニッケルのモル比が100:100)を用いた以外は、比較例1と同様にして白金ニッケル担持触媒を得た。白金とニッケルのモル比は100:100、白金の担持量は約0.2重量%、白金とニッケルの合計担持量は約0.026重量%であった。
【0025】
「実施例2」
Ni(NO濃度を0.8mMとすることにより、白金とニッケルとのモル比を100:80とした以外は、実施例1と同様にして白金ニッケル担持触媒を得た。白金とニッケルのモル比は100:80、金の担持量は約0.2重量%、白金とニッケルの合計担持量は約0.025重量%であった。
「実施例3」
Ni(NO濃度を0.6mMとすることにより、白金とニッケルとのモル比を100:60とした以外は、実施例1と同様にして白金ニッケル担持触媒を得た。白金とニッケルのモル比は100:60、金の担持量は約0.2重量%、白金とニッケルの合計担持量は約0.024重量%であった。
「実施例4」
Ni(NO濃度を0.2mMとすることにより、白金とニッケルとのモル比を100:20とした以外は、実施例1と同様にして白金ニッケル担持触媒を得た。白金とニッケルのモル比は100:20、金の担持量は約0.2重量%、白金とニッケルの合計担持量は約0.021重量%であった。
【0026】
・SEM観察
実施例1で製造した白金ニッケル担持触媒の表面をSEMで観察した。図2にSEM画像を示す。
白金ニッケル担持触媒は、多孔質担体の表面に、粒径10nm以下の白金とニッケルとが一体化したナノ粒子が均一に担持されていることが確認できた。
【0027】
・IPA分解
100ml容のバイアル瓶に、上記実施例、比較例で得られた触媒をそれぞれ0.1g入れ、イソプロピルアルコール(IPA)をバイアル瓶中の濃度が400μmol/Lとなるように注入し、UV(253.7nm)を照射した。
注入してから2時間、4時間、24時間経過後に、バイアル瓶中の気体をシリンジで抜き出し、ガスクロマトグラフ(島津製作所製、GC-2014、検出器FID)により2時間後と4時間後のイソプロピルアルコール(IPA)濃度、4時間後と24時間後の二酸化炭素の濃度を測定した。また、当初二酸化炭素濃度を400ppmとして24時間後の二酸化炭素濃度から、注入したIPAの分解率を算出した。
結果を表1に示す。
【0028】
【表1】
【0029】
本発明である実施例2~4で得られた白金ニッケル担持触媒は、比較例1で得られた白金担持触媒と比較して、初期のIPA分解速度に優れており、触媒活性が高まっていた。実施例1で得られた白金ニッケル担持触媒も、比較例1で得られた白金担持触媒と同等の触媒活性を維持しており、白金とニッケルとの合金とすることにより、ナノ粒子表面の白金の露出が少なくなっても触媒活性を維持できることが確かめられた。
【符号の説明】
【0030】
1 空気浄化システム
11 第一の浄化装置
12 第二の浄化装置
図1
図2