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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024116632
(43)【公開日】2024-08-28
(54)【発明の名称】ステアバイワイヤ方式の操舵装置
(51)【国際特許分類】
   B62D 5/04 20060101AFI20240821BHJP
【FI】
B62D5/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023022332
(22)【出願日】2023-02-16
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 光司
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 隆英
(72)【発明者】
【氏名】石川 慎太朗
【テーマコード(参考)】
3D333
【Fターム(参考)】
3D333CB02
3D333CB29
3D333CB45
3D333CC02
3D333CC23
3D333CC31
3D333CD04
3D333CD13
3D333CD16
3D333CD19
3D333CD20
3D333CD21
3D333CD22
3D333CD23
3D333CD28
3D333CD38
3D333CD39
3D333CE24
3D333CE49
3D333CE53
(57)【要約】
【課題】操舵対象の向きがストロークエンドに到達したときにステアリングホイールの回転を阻止することができ、かつ、ステアリングホイールの回転が阻止される時のフィーリングが良いステアバイワイヤ方式の操舵装置を提供する。
【解決手段】通電と非通電の切り替えにより、内輪17と外輪18との間に係合子21が係合するロック状態と、内輪17と外輪18との間への係合子21の係合が解除されるロック解除状態とを切り替え可能な電磁式クラッチユニット7と、ステアリングホイール1が中立位置から離れる方向に回転するときに、ステアリングホイール1と一体に回転する内輪17に回転抵抗を負荷する回転負荷機構8とを有する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステアリングホイール(1)と、
前記ステアリングホイール(1)の操作量を検知する操舵センサ(5)と、
前記ステアリングホイール(1)に対して機械的に切り離して設けられ、前記操舵センサ(5)で検知される前記ステアリングホイール(1)の操作量に応じて操舵対象の向きを変化させる転舵アクチュエータ(2)と、を有するステアバイワイヤ方式の操舵装置において、
前記ステアリングホイール(1)と一体に回転するように前記ステアリングホイール(1)に連結して設けられた内輪(17)と、
前記内輪(17)の径方向外側に配置され、回転しないように固定して設けられた外輪(18)と、
通電と非通電の切り替えにより、前記内輪(17)と前記外輪(18)との間に係合子(21)が係合して前記内輪(17)の回転が阻止されるロック状態と、前記内輪(17)と前記外輪(18)との間への前記係合子(21)の係合が解除されて前記内輪(17)の回転が許容されるロック解除状態とを切り替え可能な電磁式クラッチユニット(7)と、
前記ステアリングホイール(1)が中立位置から離れる方向に回転するときに、前記ステアリングホイール(1)と一体に回転する前記内輪(17)に回転抵抗を負荷する回転負荷機構(8)と、を更に有することを特徴とするステアバイワイヤ方式の操舵装置。
【請求項2】
前記電磁式クラッチユニット(7)は、
前記内輪(17)の外周と前記外輪(18)の内周との間に組み込まれた前記係合子(21)と、
前記係合子(21)を保持し、前記内輪(17)と前記外輪(18)の間に前記係合子(21)を係合させる係合位置と、前記内輪(17)と前記外輪(18)の間への前記係合子(21)の係合を解除する係合解除位置との間で周方向に移動可能に支持された係合子保持器(22)と、
軸方向に移動可能に支持されたアーマチュア(23)と、
通電により前記アーマチュア(23)を吸引して軸方向に移動させる電磁石(24)と、
前記アーマチュア(23)の移動に応じて、前記係合子保持器(22)を前記係合位置と前記係合解除位置のうち一方から他方に周方向移動させる動作変換機構(25)と、を有する請求項1に記載のステアバイワイヤ方式の操舵装置。
【請求項3】
前記回転負荷機構(8)は、前記ステアリングホイール(1)が中立位置から離れる方向に回転するときに、前記ステアリングホイール(1)の中立位置からの回転角度に応じた大きさで前記ステアリングホイール(1)を前記中立位置に戻す方向の弾性力を前記内輪(17)に付与するばね式のものである請求項1または2に記載のステアバイワイヤ方式の操舵装置。
【請求項4】
前記回転負荷機構(8)は、前記内輪(17)と一体に回転する巻き軸(45)と、前記巻き軸(45)の径方向外側に配置された第1のゼンマイばね(46)および第2のゼンマイばね(47)と、回転しないように固定して設けられたばねケース(48)と、を有し、
前記第1のゼンマイばね(46)の巻回方向と前記第2のゼンマイばね(47)の巻回方向が逆向きであり、
前記巻き軸(45)の外周に、前記第1のゼンマイばね(46)の内端および前記第2のゼンマイばね(47)の内端が係止され、前記ばねケース(48)に、前記第1のゼンマイばね(46)の外端および前記第2のゼンマイばね(47)の外端が係止されている請求項1または2に記載のステアバイワイヤ方式の操舵装置。
【請求項5】
前記回転負荷機構(8)は、前記内輪(17)と一体に回転する減速機入力軸(60)と、前記減速機入力軸(60)の回転を減速する減速機(61)と、前記減速機(61)で減速された回転を出力する減速機出力軸(62)と、前記減速機出力軸(62)を前記ステアリングホイール(1)の中立位置に対応する位置に弾性保持するセンタリングばね(63)とを有する請求項1または2に記載のステアバイワイヤ方式の操舵装置。
【請求項6】
前記回転負荷機構(8)は、前記内輪(17)と一体に回転する内軸部(79)と、前記内軸部(79)の径方向外側に配置され、回転しないように固定して設けられた外筒部(80)と、前記内軸部(79)の外周に軸方向に間隔をおいて設けられ、前記内軸部(79)に回り止めされた複数のインナーディスク(81)と、前記複数のインナーディスク(81)の軸方向の対向面間に挿入され、前記外筒部(80)に回り止めされた複数のアウターディスク(82)と、前記内軸部(79)の外周と前記外筒部(80)の内周との間に封入された磁性流体(83)と、前記外筒部(80)を囲むように配置された環状の電磁コイル(84)とを有し、前記電磁コイル(84)に印加する電流の大きさに応じて前記内軸部(79)の回転抵抗が変化する請求項1または2に記載のステアバイワイヤ方式の操舵装置。
【請求項7】
前記回転負荷機構(8)は、前記ステアリングホイール(1)が中立位置から離れる方向に回転するときに、作動油の粘性抵抗により回転抵抗を前記内輪(17)に付与する回転式油圧ダンパーである請求項1または2に記載のステアバイワイヤ方式の操舵装置。
【請求項8】
前記回転負荷機構(8)は、前記内輪(17)と一体に回転する内軸部(79)と、前記内軸部(79)の径方向外側に配置され、回転しないように固定して設けられた外筒部(80)と、前記内軸部(79)の外周に軸方向に間隔をおいて設けられ、前記内軸部(79)に回り止めされた複数のインナーディスク(81)と、前記複数のインナーディスク(81)の軸方向の対向面間に挿入され、前記外筒部(80)に回り止めされた複数のアウターディスク(82)と、前記内軸部(79)の外周と前記外筒部(80)の内周との間に封入された潤滑油とを有し、前記インナーディスク(81)と前記アウターディスク(82)とでせん断される潤滑油の粘性抵抗により前記内軸部(79)に回転抵抗を付与する湿式多板式のものである請求項1または2に記載のステアバイワイヤ方式の操舵装置。
【請求項9】
前記ステアリングホイール(1)に操舵反力を付与する反力モータ(6)を更に有する請求項1または2に記載のステアバイワイヤ方式の操舵装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ステアリングホイールと操舵対象との間が機械的に切り離された状態で操舵対象の転舵を行なうステアバイワイヤ方式の操舵装置に関する。
【背景技術】
【0002】
運転者によるステアリングホイールの回転操作に応じて、車両の転舵輪の向きを変化させる操舵装置として、ステアバイワイヤ方式のものが知られている(例えば、特許文献1)。特許文献1のステアバイワイヤ方式の操舵装置は、ステアリングホイールの操作量を検知する操舵センサと、ステアリングホイールに対して機械的に切り離して設けられた転舵アクチュエータとを有し、その転舵アクチュエータが、操舵センサで検知されるステアリングホイールの操作量に応じて作動し、左右一対の転舵輪の向きを変化させる。
【0003】
このステアバイワイヤ方式の操舵装置は、運転者によるステアリングホイールの操作量をいったん電気信号に変換し、その電気信号に基づいて転舵アクチュエータの動作を制御するので、例えば、ステアリングホイールを操作したときの転舵輪の向きの変化量を車両の走行速度に応じて調整するといったように、車両の走行速度に応じてステアリングホイールの操作量と転舵アクチュエータの動作量の対応関係を最適化することが可能であり、車両の走行安定性や運動性能の向上を可能とするものとして期待されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007-331553号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1のステアバイワイヤ方式の操舵装置においては、運転者によって回転操作されるステアリングホイールと、左右一対の転舵輪の向きを変化させる転舵アクチュエータとが機械的に切り離されている。そのため、運転者が、ステアリングホイールを回転操作して転舵輪の向きがその移動限界(ストロークエンド)に到達したときにも、運転者は、さらにステアリングホイールを同じ方向に回転操作することができる。そのため、転舵輪の向きがストロークエンドに到達しているにもかかわらず、運転者は、転舵輪の向きがストロークエンドに到達していることに気付かないという問題が生じる。
【0006】
この問題は、車両の転舵輪を操舵対象とする車両用の操舵装置以外にも、ステアバイワイヤ方式の操舵装置であれば、例えば、船舶の船尾に設けられる舵(船外機等)を操舵対象とする船舶用の操舵装置などにも存在する。
【0007】
そこで、本願の出願人は、操舵対象の向きがストロークエンドに到達したときに、運転者がステアリングホイールを通じてその状況を確実に感知することができるようにするため、以下の構成のステアバイワイヤ方式の操舵装置を社内において発案した。
ステアリングホイールと、
前記ステアリングホイールの操作量を検知する操舵センサと、
前記ステアリングホイールに対して機械的に切り離して設けられ、前記操舵センサで検知される前記ステアリングホイールの操作量に応じて操舵対象の向きを変化させる転舵アクチュエータと、を有するステアバイワイヤ方式の操舵装置において、
前記ステアリングホイールと一体に回転するように前記ステアリングホイールに連結して設けられた内輪と、
前記内輪の径方向外側に配置され、回転しないように固定して設けられた外輪と、
通電と非通電の切り替えにより、前記内輪と前記外輪との間に係合子が係合して前記内輪の回転が阻止されるロック状態と、前記内輪と前記外輪との間への前記係合子の係合が解除されて前記内輪の回転が許容されるロック解除状態とを切り替え可能な電磁式クラッチユニットとを有することを特徴とするステアバイワイヤ方式の操舵装置。
【0008】
この構成のステアバイワイヤ方式の操舵装置は、電磁式クラッチユニットの通電と非通電の切り替えにより、内輪と外輪との間への係合子の係合が解除されて内輪の回転が許容されるロック解除状態から、内輪と外輪との間に係合子が係合して内輪の回転が阻止されるロック状態に切り替えることが可能である。ここで、ロック解除状態からロック状態に切り替えたとき、係合子が内輪と外輪との間に物理的に係合し、内輪の回転が確実に阻止されるので、内輪に連結されたステアリングホイールの回転も確実に阻止される。そのため、操舵対象の向きがストロークエンドに到達したときに電磁式クラッチユニットの通電と非通電を切り替えることにより、ステアリングホイールがそれ以上に回転するのを確実に阻止し、そのステアリングホイールを通じて運転者に、操舵対象の向きがストロークエンドに到達したことを確実に感知させることができる。
【0009】
ここで、発明者は、電磁式クラッチユニットを用いた上記構成のステアバイワイヤ方式の操舵装置において、運転者がステアリングホイールを回転操作しているときに、内輪と外輪の間に係合子が係合すると、ステアリングホイールの回転抵抗が急激に増加することから、操舵対象の向きがストロークエンドに到達してステアリングホイールの回転が阻止される時のフィーリングが良くないという問題があることに気付いた。
【0010】
そこで、発明者は、操舵対象の向きがストロークエンドに到達してステアリングホイールの回転が阻止される時のフィーリングを向上させるため、電磁式クラッチユニットを用いた上記構成のステアバイワイヤ方式の操舵装置において、ステアリングホイールに操舵反力を付与する反力モータを使用し、その反力モータで発生する反力の大きさを、操舵対象の向きがストロークエンドに近づくにつれて次第に大きくなるように制御し、これにより、ステアリングホイールの回転が阻止される時のステアリングホイールの回転抵抗の増加幅を小さく抑えるという方法を検討した。しかしながら、反力モータで上記のような反力をステアリングホイールに付与しようとすると、反力モータのサイズを大型化する必要があり、また、反力モータの消費電力も大きくなってしまうという問題がある。
【0011】
この発明が解決しようとする課題は、操舵対象の向きがストロークエンドに到達したときにステアリングホイールの回転を阻止することで、操舵対象の向きがストロークエンドに到達したことを確実に運転者に感知させることができ、かつ、ステアリングホイールの回転が阻止される時のフィーリングが良いステアバイワイヤ方式の操舵装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題を解決するため、この発明では、以下の構成のステアバイワイヤ方式の操舵装置を提供する。
[構成1]
ステアリングホイールと、
前記ステアリングホイールの操作量を検知する操舵センサと、
前記ステアリングホイールに対して機械的に切り離して設けられ、前記操舵センサで検知される前記ステアリングホイールの操作量に応じて操舵対象の向きを変化させる転舵アクチュエータと、を有するステアバイワイヤ方式の操舵装置において、
前記ステアリングホイールと一体に回転するように前記ステアリングホイールに連結して設けられた内輪と、
前記内輪の径方向外側に配置され、回転しないように固定して設けられた外輪と、
通電と非通電の切り替えにより、前記内輪と前記外輪との間に係合子が係合して前記内輪の回転が阻止されるロック状態と、前記内輪と前記外輪との間への前記係合子の係合が解除されて前記内輪の回転が許容されるロック解除状態とを切り替え可能な電磁式クラッチユニットと、
前記ステアリングホイールが中立位置から離れる方向に回転するときに、前記ステアリングホイールと一体に回転する前記内輪に回転抵抗を負荷する回転負荷機構と、を更に有することを特徴とするステアバイワイヤ方式の操舵装置。
【0013】
この構成を採用すると、電磁式クラッチユニットの通電と非通電の切り替えにより、内輪と外輪との間への係合子の係合が解除されて内輪の回転が許容されるロック解除状態から、内輪と外輪との間に係合子が係合して内輪の回転が阻止されるロック状態に切り替えることが可能である。ここで、ロック解除状態からロック状態に切り替えたとき、係合子が内輪と外輪との間に物理的に係合し、内輪の回転が確実に阻止されるので、内輪に連結されたステアリングホイールの回転も確実に阻止される。そのため、操舵対象の向きがストロークエンドに到達したときに電磁式クラッチユニットの通電と非通電を切り替えることにより、ステアリングホイールがそれ以上に回転するのを確実に阻止し、そのステアリングホイールを通じて運転者に、操舵対象の向きがストロークエンドに到達したことを確実に感知させることができる。また、ステアリングホイールが中立位置から離れる方向、すなわち操舵対象の向きがストロークエンドに近づく方向に回転するときに、回転負荷機構が、ステアリングホイールと一体に回転する内輪に回転抵抗を負荷するので、操舵対象の向きがストロークエンドに到達してステアリングホイールの回転が阻止される時のステアリングホイールの回転抵抗の増加幅を小さく抑えることができる。そのため、ステアリングホイールの回転が阻止される時のフィーリングが良い。
【0014】
[構成2]
前記電磁式クラッチユニットは、
前記内輪の外周と前記外輪の内周との間に組み込まれた前記係合子と、
前記係合子を保持し、前記内輪と前記外輪の間に前記係合子を係合させる係合位置と、前記内輪と前記外輪の間への前記係合子の係合を解除する係合解除位置との間で周方向に移動可能に支持された係合子保持器と、
軸方向に移動可能に支持されたアーマチュアと、
通電により前記アーマチュアを吸引して軸方向に移動させる電磁石と、
前記アーマチュアの移動に応じて、前記係合子保持器を前記係合位置と前記係合解除位置のうち一方から他方に周方向移動させる動作変換機構と、を有する構成1に記載のステアバイワイヤ方式の操舵装置。
【0015】
[構成3]
前記回転負荷機構は、前記ステアリングホイールが中立位置から離れる方向に回転するときに、前記ステアリングホイールの中立位置からの回転角度に応じた大きさで前記ステアリングホイールを前記中立位置に戻す方向の弾性力を前記内輪に付与するばね式のものである構成1または2に記載のステアバイワイヤ方式の操舵装置。
【0016】
この構成を採用すると、ステアリングホイールが中立位置から離れる方向、すなわち操舵対象の向きがストロークエンドに近づく方向に回転するときに、ステアリングホイールの中立位置からの回転角度が大きくなるにつれて、回転負荷機構から内輪に負荷される回転抵抗(ステアリングホイールを中立位置に戻す方向の弾性力)が大きくなるので、操舵対象の向きがストロークエンドに到達してステアリングホイールの回転が阻止される時のステアリングホイールの回転抵抗の増加幅を特に効果的に抑えることが可能となる。
【0017】
[構成4]
前記回転負荷機構は、前記内輪と一体に回転する巻き軸と、前記巻き軸の径方向外側に配置された第1のゼンマイばねおよび第2のゼンマイばねと、回転しないように固定して設けられたばねケースと、を有し、
前記第1のゼンマイばねの巻回方向と前記第2のゼンマイばねの巻回方向が逆向きであり、
前記巻き軸の外周に、前記第1のゼンマイばねの内端および前記第2のゼンマイばねの内端が係止され、前記ばねケースに、前記第1のゼンマイばねの外端および前記第2のゼンマイばねの外端が係止されている構成1から3のいずれかに記載のステアバイワイヤ方式の操舵装置。
【0018】
この構成を採用すると、ステアリングホイールを回転させたときに、そのステアリングホイールと一体に内輪が回転し、その内輪と一体に巻き軸が回転する。そして、その巻き軸の回転により、第1のゼンマイばねと第2のゼンマイばねのうちの一方が巻き締まり方向に弾性変形し、他方が巻き緩み方向に弾性変形し、それらのゼンマイばねから内輪に弾性力が付与される。ここで、ゼンマイばねは、弾性変形可能な角度の範囲が大きいので、ステアリングホイールの回転可能範囲を大きく設定したとき(例えば、ステアリングホイールの回転可能範囲を中立位置に対して回転方向の片側で180°以上、回転方向の両側で合計360°以上に設定したとき)にも、ステアリングホイールの回転可能範囲の全域において安定した大きさの回転抵抗(第1のゼンマイばねおよび第2のゼンマイばねの弾性力)をステアリングホイールに負荷することができる。
【0019】
[構成5]
前記回転負荷機構は、前記内輪と一体に回転する減速機入力軸と、前記減速機入力軸の回転を減速する減速機と、前記減速機で減速された回転を出力する減速機出力軸と、前記減速機出力軸を前記ステアリングホイールの中立位置に対応する位置に弾性保持するセンタリングばねとを有する構成1から3のいずれかに記載のステアバイワイヤ方式の操舵装置。
【0020】
この構成を採用すると、ステアリングホイールを回転させたときに、そのステアリングホイールと一体に内輪が回転し、その内輪と一体に減速機入力軸が回転する。そして、その減速機入力軸から減速機を介して減速機出力軸に伝達する回転によりセンタリングばねが弾性変形し、そのセンタリングばねから減速機を介して内輪に弾性力が付与される。ここで、減速機入力軸の回転角度は、減速機出力軸の回転角度よりも大きいので、ステアリングホイールの回転可能範囲を大きく設定したとき(例えば、ステアリングホイールの回転可能範囲を中立位置に対して回転方向の片側で180°以上、回転方向の両側で合計360°以上に設定したとき)にも、ステアリングホイールの回転可能範囲の全域において安定した大きさの回転抵抗(センタリングばねから減速機を介して伝達する弾性力)をステアリングホイールに負荷することができる。
【0021】
[構成6]
前記回転負荷機構は、前記内輪と一体に回転する内軸部と、前記内軸部の径方向外側に配置され、回転しないように固定して設けられた外筒部と、前記内軸部の外周に軸方向に間隔をおいて設けられ、前記内軸部に回り止めされた複数のインナーディスクと、前記複数のインナーディスクの軸方向の対向面間に挿入され、前記外筒部に回り止めされた複数のアウターディスクと、前記内軸部の外周と前記外筒部の内周との間に封入された磁性流体と、前記外筒部を囲むように配置された環状の電磁コイルとを有し、前記電磁コイルに印加する電流の大きさに応じて前記内軸部の回転抵抗が変化する構成1または2に記載のステアバイワイヤ方式の操舵装置。
【0022】
この構成を採用すると、電磁コイルに印加する電流の大きさを変化させることで、内輪に負荷される回転抵抗の大きさを変化させることができる。そのため、ステアリングホイールが中立位置から離れる方向、すなわち操舵対象の向きがストロークエンドに近づく方向に回転するときに、ステアリングホイールの中立位置からの回転角度が大きくなるにつれて内輪に負荷される回転抵抗が大きくなるように電磁コイルの印加電流を制御することで、操舵対象の向きがストロークエンドに到達してステアリングホイールの回転が阻止される時のステアリングホイールの回転抵抗の増加幅を特に効果的に抑えることが可能となる。
【0023】
[構成7]
前記回転負荷機構は、前記ステアリングホイールが中立位置から離れる方向に回転するときに、作動油の粘性抵抗により回転抵抗を前記内輪に付与する回転式油圧ダンパーである構成1または2に記載のステアバイワイヤ方式の操舵装置。
【0024】
この構成を採用すると、ステアリングホイールが中立位置から離れる方向、すなわち操舵対象の向きがストロークエンドに近づく方向に回転するときに、作動油の粘性抵抗による回転抵抗が内輪に負荷されるので、操舵対象の向きがストロークエンドに到達してステアリングホイールの回転が阻止される時のステアリングホイールの回転抵抗の増加幅を小さく抑えることができる。
【0025】
[構成8]
前記回転負荷機構は、前記内輪と一体に回転する内軸部と、前記内軸部の径方向外側に配置され、回転しないように固定して設けられた外筒部と、前記内軸部の外周に軸方向に間隔をおいて設けられ、前記内軸部に回り止めされた複数のインナーディスクと、前記複数のインナーディスクの軸方向の対向面間に挿入され、前記外筒部に回り止めされた複数のアウターディスクと、前記内軸部の外周と前記外筒部の内周との間に封入された潤滑油とを有し、前記インナーディスクと前記アウターディスクとでせん断される潤滑油の粘性抵抗により前記内軸部に回転抵抗を付与する湿式多板式のものである構成1または2に記載のステアバイワイヤ方式の操舵装置。
【0026】
この構成を採用すると、ステアリングホイールが中立位置から離れる方向、すなわち操舵対象の向きがストロークエンドに近づく方向に回転するときに、潤滑油の粘性抵抗による回転抵抗が内輪に負荷されるので、操舵対象の向きがストロークエンドに到達してステアリングホイールの回転が阻止される時のステアリングホイールの回転抵抗の増加幅を小さく抑えることができる。
【0027】
[構成9]
前記ステアリングホイールに操舵反力を与える反力モータを更に有する構成1から8のいずれかに記載のステアバイワイヤ方式の操舵装置。
【0028】
この構成を採用すると、ステアリングホイールが中立位置から離れる方向に回転するときに、回転負荷機構から内輪に回転抵抗が負荷されるので、その回転抵抗の分、反力モータで発生する反力を小さく抑えることができる。そのため、小型の反力モータで良好な操舵フィーリングを得ることができ、また、反力モータの消費電力を小さく抑えることが可能である。
【発明の効果】
【0029】
この発明のステアバイワイヤ方式の操舵装置は、電磁式クラッチユニットの通電と非通電の切り替えにより、内輪と外輪との間への係合子の係合が解除されて内輪の回転が許容されるロック解除状態から、内輪と外輪との間に係合子が係合して内輪の回転が阻止されるロック状態に切り替えることが可能である。ここで、ロック解除状態からロック状態に切り替えたとき、係合子が内輪と外輪との間に物理的に係合し、内輪の回転が確実に阻止されるので、内輪に連結されたステアリングホイールの回転も確実に阻止される。そのため、操舵対象の向きがストロークエンドに到達したときに電磁式クラッチユニットの通電と非通電を切り替えることにより、ステアリングホイールがそれ以上に回転するのを確実に阻止し、そのステアリングホイールを通じて運転者に、操舵対象の向きがストロークエンドに到達したことを確実に感知させることができる。また、ステアリングホイールが中立位置から離れる方向、すなわち操舵対象の向きがストロークエンドに近づく方向に回転するときに、回転負荷機構が、ステアリングホイールと一体に回転する内輪に回転抵抗を負荷するので、操舵対象の向きがストロークエンドに到達してステアリングホイールの回転が阻止される時のステアリングホイールの回転抵抗の増加幅を小さく抑えることができる。そのため、ステアリングホイールの回転が阻止される時のフィーリングが良い。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】この発明の第1実施形態にかかるステアバイワイヤ方式の操舵装置を模式的に示す図
図2図1の電磁式クラッチユニットの近傍の断面図
図3図2の回転負荷機構の近傍を拡大して示す図
図4図3のIV-IV線に沿った断面図
図5図3のV-V線に沿った断面図
図6図3のVI-VI線に沿った断面図
図7図3のVII-VII線に沿った断面図
図8】この発明の第2実施形態を図3に対応して示す図
図9図8のIX-IX線に沿った断面図
図10図8のX-X線に沿った断面図
図11】この発明の第3実施形態を図3に対応して示す図
図12図11のXII-XII線に沿った断面図
図13図11のXIII-XIII線に沿った断面図
図14】この発明の第4実施形態を図3に対応して示す図
図15図14のXV-XV線に沿った断面図
図16】この発明の第5実施形態を図3に対応して示す図
図17図16のXVII-XVII線に沿った断面図
図18図16のXVIII-XVIII線に沿った断面図
【発明を実施するための形態】
【0031】
図1に、この発明の第1実施形態にかかるステアバイワイヤ方式の操舵装置を示す。この操舵装置は、運転者によるステアリングホイール1の操作量を電気信号に変換し、その電気信号に基づいて転舵アクチュエータ2を制御することで、左右一対の転舵輪3の向きを変化させるステアバイワイヤ方式の車両用操舵装置である。
【0032】
この操舵装置は、運転者により回転操作されるステアリングホイール1と、ステアリングホイール1に連結されたステアリングシャフト4と、ステアリングホイール1の操作量を検知する操舵センサ5と、ステアリングホイール1に操舵反力を付与する反力モータ6と、通電と非通電の切り替えによりステアリングホイール1の回転を阻止するロック状態とステアリングホイール1の回転を許容するロック解除状態とを切り替える電磁式クラッチユニット7と、ステアリングホイール1が中立位置から離れる方向に回転するときにステアリングホイール1に回転抵抗を負荷する回転負荷機構8と、ステアリングホイール1に対して機械的に切り離して設けられた転舵アクチュエータ2と、制御部9とを有する。
【0033】
ステアリングシャフト4は、ステアリングホイール1を回転操作したときに、ステアリングホイール1と一体に回転するようにステアリングホイール1に連結されている。操舵センサ5は、ステアリングシャフト4に取り付けられている。操舵センサ5としては、例えば、ステアリングホイール1の操舵角を検知する操舵角センサ、運転者によってステアリングホイール1に入力される操舵トルクを検知する操舵トルクセンサなどが挙げられる。
【0034】
反力モータ6は、通電により回転トルクを発生する電動モータである。反力モータ6は、ステアリングシャフト4の端部に連結されている。反力モータ6は、回転トルクをステアリングシャフト4に入力することで、そのステアリングシャフト4を介してステアリングホイール1に操舵反力を付与する。
【0035】
転舵アクチュエータ2は、転舵軸10と、転舵軸ハウジング11と、転舵軸10を車両の左右方向に移動させる転舵モータ12と、転舵軸10の位置を検知する転舵センサ13とを有する。転舵軸10は、車両の左右方向に移動可能に転舵軸ハウジング11で支持されている。転舵軸ハウジング11は、転舵軸10の左右両端が転舵軸ハウジング11から突出した状態となるように転舵軸10の中央部を収容している。
【0036】
転舵モータ12および転舵センサ13は、転舵軸ハウジング11に取り付けられている。転舵モータ12と転舵軸10の間には、転舵モータ12が出力する回転を転舵軸10の直線運動に変換する運動変換機構(図示せず)が組み込まれている。転舵軸10の左右両端は、タイロッド14を介して左右一対の転舵輪3に連結され、転舵軸10が軸方向に移動するとこれに連動して左右一対の転舵輪3の向きが変化するようになっている。
【0037】
図2に示すように、反力モータ6は、モータケース15と、モータケース15からステアリングホイール1(図1参照)の側とは反対側(図では下側)に突出するモータシャフト16とを有する。モータシャフト16は、モータケース15の内部に組み込まれた図示しない転がり軸受で回転可能に支持されている。また、モータシャフト16は、ステアリングシャフト4(図1参照)と一体回転するようにステアリングシャフト4に連結されている。モータケース15は、ステアリングシャフト4(図1参照)の回転時にも回転しないように車体(図示せず)に固定されている。
【0038】
図3に示すように、電磁式クラッチユニット7は、内輪17と、内輪17の径方向外側に配置された外輪18と、内輪17の外周に形成された複数のカム面19(図4参照)と、外輪18の内周に形成された円筒面20と、各カム面19と円筒面20との間に組み込まれた係合子21と、それらの係合子21を保持する係合子保持器22と、軸方向に移動可能に支持されたアーマチュア23と、通電によりアーマチュア23を吸引して軸方向に移動させる電磁石24と、アーマチュア23が電磁石24に吸着される動作に応じて係合子保持器22を周方向移動させる動作変換機構25とを有する。
【0039】
図2に示すように、内輪17は、モータシャフト16の外周にスプライン嵌合している。このスプライン嵌合によって、内輪17は、ステアリングホイール1(図1参照)と一体に回転するようにステアリングシャフト4およびモータシャフト16を介してステアリングホイール1に連結した状態となっている。
【0040】
外輪18は、クラッチケース26に収容されている。クラッチケース26は、電磁式クラッチユニット7の構成部材(内輪17、係合子21、係合子保持器22、アーマチュア23、電磁石24等)を一括して収容する筒状の部材である。クラッチケース26は、非磁性体(アルミ合金、銅合金等)で形成されている。一方、外輪18は鋼材で形成されている。
【0041】
外輪18の外周とクラッチケース26の内周との間には、外輪18をクラッチケース26に対して回り止めするキー部材27が組み込まれ、これにより、外輪18は、ステアリングホイール1(図1参照)の回転時にも回転しないように固定されている。この実施形態では、クラッチケース26とは別体に形成した外輪18を、クラッチケース26に回り止めしたが、外輪18をクラッチケース26と一体に形成することも可能である。
【0042】
外輪18には、内輪17を回転可能に支持する軸受28が組み込まれている。クラッチケース26は、両端が開放した筒状に形成され、そのクラッチケース26の軸方向一端に、反力モータ6のモータケース15がボルト29で固定され、クラッチケース26の軸方向他端に、回転負荷機構8を収容する負荷機構ケース30がボルト31で固定されている。
【0043】
図4に示すように、内輪17の外周のカム面19は、外輪18の内周の円筒面20と半径方向に対向している。カム面19と円筒面20の間には、周方向中央から周方向両端に向かって次第に狭小となるくさび空間が形成されている。
【0044】
係合子保持器22には、径方向に貫通するポケット32(図2参照)が周方向に間隔をおいて複数形成され、その各ポケット32に係合子21が収容されている。係合子保持器22は、係合子21をカム面19の周方向中央から周方向に移動させることでカム面19と円筒面20の間に係合子21を係合させる係合位置と、係合子21をカム面19の周方向中央に移動させることでカム面19と円筒面20の間への係合子21の係合を解除する係合解除位置との間で、内輪17に対して周方向に移動可能に支持されている。
【0045】
図3に示すように、アーマチュア23は、内輪17の外周で軸方向に移動可能に支持されている。アーマチュア23は、磁性材料(鉄、珪素鋼など)で形成された円盤状の部材である。電磁石24は、アーマチュア23と軸方向に対向して配置されている。アーマチュア23と電磁石24の間には、アーマチュア23を電磁石24から遠ざかる方向に軸方向に押圧する離反ばね33が軸方向に圧縮した状態で組み込まれている。
【0046】
動作変換機構25は、アーマチュア23に対して軸方向に相対移動可能な状態でアーマチュア23に回り止めされかつ係合子保持器22に回り止めされた中間プレート34と、係合子保持器22を係合解除位置に弾性的に保持するスイッチばね35とを有する。
【0047】
図4に示すように、スイッチばね35は、鋼線をC形に巻いたC形環状部40と、C形環状部40の両端からそれぞれ径方向外方に延出する一対の延出部41とからなる。C形環状部40は、内輪17の軸方向端面に形成された円形のばね収容凹部42に嵌め込まれている。一対の延出部41は、ばね収容凹部42から径方向外方に貫通するように内輪17の軸方向端面に形成された径方向溝43に挿入されている。
【0048】
スイッチばね35の延出部41は、径方向溝43の径方向外端から突出しており、その延出部41の径方向溝43からの突出部分が、係合子保持器22に形成された保持器溝44に挿入されている。径方向溝43と保持器溝44は同じ周方向幅をもつように形成されている。スイッチばね35の延出部41は、径方向溝43の内面と、保持器溝44の内面にそれぞれ接触しており、その接触部分に作用する周方向の力によって係合子保持器22を係合解除位置に弾性保持している。
【0049】
図2に示す電磁式クラッチユニット7は、電磁石24に通電すると、内輪17と外輪18との間に係合子21が係合して内輪17の回転が阻止されるロック状態となる。すなわち、電磁石24に通電すると、図3に示すアーマチュア23が電磁石24に吸着され、アーマチュア23が電磁石24に摩擦接触した状態となる。この状態で内輪17を回転させると、電磁石24に摩擦接触するアーマチュア23が、中間プレート34を介して係合子保持器22に回り止めされているので、係合子保持器22は回転が制限され、係合子保持器22に対して内輪17が相対回転する。その結果、係合子保持器22が、スイッチばね35の弾性力に抗し係合解除位置から係合位置に移動し、内輪17の外周のカム面19と外輪18の内周の円筒面20との間に係合子21が係合するので、外輪18に対する内輪17の回転が阻止される。
【0050】
一方、電磁石24を非通電にすると、内輪17と外輪18との間への係合子21の係合が解除されて内輪17の回転が許容されるロック解除状態(空転状態)となる。すなわち、電磁石24を非通電にすると、アーマチュア23が離反ばね33の付勢力によって電磁石24から離反するので、アーマチュア23が自由に回転可能な状態となり、アーマチュア23に回り止めされた係合子保持器22も自由に回転可能な状態となる。この状態では、係合子保持器22が、スイッチばね35の弾性力によって係合解除位置に保持されるので、内輪17を回転させても、内輪17の外周のカム面19と外輪18の内周の円筒面20との間に係合子21は係合しない。そのため、内輪17は、外輪18に対して正逆両方向に自由に回転可能となる。
【0051】
回転負荷機構8は、巻き軸45と、巻き軸45の径方向外側に配置された第1のゼンマイばね46および第2のゼンマイばね47と、第1のゼンマイばね46および第2のゼンマイばね47の径方向外側に配置された筒状のばねケース48とを有する。
【0052】
巻き軸45は、クラッチケース26に装着した軸受49で、内輪17の回転中心を中心として回転可能に支持されている。巻き軸45は、内輪17にスプライン嵌合している。このスプライン嵌合により、巻き軸45は内輪17と一体に回転するように内輪17に連結されている。
【0053】
図5に示すように、第1のゼンマイばね46は、ばね用の鋼帯を渦巻状に巻回して形成されている。第1のゼンマイばね46の内端は、巻き軸45の外周に形成された軸方向に延びる係止溝50に係止されている。図3に示すように、第1のゼンマイばね46の外端は、第1の係止ピン51を介してばねケース48に係止されている。
【0054】
図6に示すように、第2のゼンマイばね47の巻回方向は、図5に示す第1のゼンマイばね46の巻回方向とは逆向きとなっている。図6に示す第2のゼンマイばね47は、第1のゼンマイばね46と同一形状のゼンマイばねを逆向きにして取り付けたものである。第2のゼンマイばね47の内端は、巻き軸45の外周の係止溝50に係止されている。図3に示すように、第2のゼンマイばね47の外端は、第2の係止ピン52を介してばねケース48に係止されている。第1のゼンマイばね46と第2のゼンマイばね47は軸方向に並んで配置されている。第1のゼンマイばね46と第2のゼンマイばね47の間には、仕切り板53が設けられている。
【0055】
図7に示すように、ばねケース48は、負荷機構ケース30に形成された凹部54に嵌合する凸部55を有する。この凹部54と凸部55の嵌合により、図3に示すばねケース48は、内輪17の回転時にも回転しないように負荷機構ケース30に固定されている。ここでは、負荷機構ケース30とは別体にばねケース48を形成し、そのばねケース48を負荷機構ケース30に固定したが、ばねケース48と負荷機構ケース30を一体に形成することも可能である。
【0056】
この回転負荷機構8は、図1に示すステアリングホイール1が中立位置から離れる方向に回転するときに、ステアリングホイール1と一体に回転する内輪17(図3参照)に回転抵抗を負荷する。
【0057】
すなわち、図1に示すステアリングホイール1が中立位置から離れる方向に回転するとき、図3に示す内輪17が、そのステアリングホイール1と一体に回転し、その内輪17と一体に巻き軸45が回転する。そして、この巻き軸45の回転により、第1のゼンマイばね46と第2のゼンマイばね47のうちの一方が巻き締まり方向に弾性変形し、他方が巻き緩み方向に弾性変形し、その第1のゼンマイばね46と第2のゼンマイばね47の弾性力が、回転抵抗として内輪17に負荷される。このとき第1のゼンマイばね46と第2のゼンマイばね47から内輪17に付与される弾性力の方向は、図1に示すステアリングホイール1を中立位置に戻す方向となり、その弾性力の大きさは、ステアリングホイール1の中立位置からの回転角度に応じた大きさとなる。中立位置は、転舵輪3(操舵対象)が左右いずれにも向かずに直進方向を向くときのステアリングホイール1の角度位置である。
【0058】
図1に示す反力モータ6、電磁式クラッチユニット7、転舵モータ12は、制御部9で制御される。制御部9の入力側には、外部センサ56、操舵センサ5、転舵センサ13が電気的に接続されている。外部センサ56は、車両の走行速度を検知する車速センサ等である。制御部9の出力側には、反力モータ6、電磁式クラッチユニット7、転舵アクチュエータ2が電気的に接続されている。
【0059】
制御部9は、操舵センサ5で検知されるステアリングホイール1の操作量と、外部センサ56で検知される車両の走行状況(車速等)とに応じて転舵モータ12を作動させ、左右一対の転舵輪3の向きを変化させる制御を行なう。また、このとき、制御部9は、転舵輪3(操舵対象)の向きがストロークエンドに近づくにつれて反力モータ6で発生する反力の大きさが次第に大きくなるように反力モータ6を制御する。
【0060】
さらに、制御部9は、転舵センサ13で検知される転舵軸10の位置に基づいて、転舵輪3の向きがストロークエンドに到達したか否かを判定する。そして、転舵輪3の向きがストロークエンドに到達していないと判定したときは、電磁式クラッチユニット7の電磁石24(図3参照)を非通電とすることで、係合子保持器22を係合解除位置に保持する。一方、転舵輪3の向きがストロークエンドに到達したと判定したときは、電磁式クラッチユニット7の電磁石24(図3参照)に通電することで、係合子保持器22を係合解除位置から係合位置に移動させる。
【0061】
この操舵装置は、図3に示す電磁石24の通電と非通電の切り替えにより、内輪17と外輪18との間への係合子21の係合が解除されて内輪17の回転が許容されるロック解除状態から、内輪17と外輪18との間に係合子21が係合して内輪17の回転が阻止されるロック状態に切り替えることが可能である。ここで、ロック解除状態からロック状態に切り替えたとき、係合子21が内輪17と外輪18との間に物理的に係合し、内輪17の回転が確実に阻止されるので、内輪17に連結されたステアリングホイール1(図1参照)の回転も確実に阻止される。そのため、図1に示す転舵輪3の向きがストロークエンドに到達したときに、図3に示す電磁石24の通電と非通電を切り替えることにより、図1に示すステアリングホイール1がそれ以上に回転するのを確実に阻止し、そのステアリングホイール1を通じて運転者に、転舵輪3の向きがストロークエンドに到達したことを確実に感知させることができる。
【0062】
ところで、図2に示す回転負荷機構8が無い場合、図1に示すステアリングホイール1を運転者が回転操作しているときに、図2に示す内輪17と外輪18の間に係合子21が係合すると、図1に示すステアリングホイール1の回転抵抗が急激に増加する。そのため、転舵輪3の向きがストロークエンドに到達したときに、内輪17と外輪18との間に係合子21が係合することでステアリングホイール1の回転が阻止される時のフィーリングが良くないという問題がある。
【0063】
そこで、転舵輪3の向きがストロークエンドに到達してステアリングホイール1の回転が阻止される時のフィーリングを向上させるため、図2に示す反力モータ6を使用し、その反力モータ6で発生する反力の大きさを、図1に示す転舵輪3の向きがストロークエンドに近づくにつれて次第に大きくなるように制御し、これにより、ステアリングホイール1の回転が阻止される時のステアリングホイール1の回転抵抗の増加幅を小さく抑えるという方法を取ることが考えられる。
【0064】
しかしながら、図2に示す回転負荷機構8が無い状態で、反力モータ6のみで上記のような反力をステアリングホイール1に付与しようとすると、反力モータ6のサイズを大型化する必要があり、また、反力モータ6の消費電力も大きくなってしまうという問題がある。
【0065】
この問題に対し、この実施形態の操舵装置では、図1に示すステアリングホイール1が中立位置から離れる方向、すなわち転舵輪3の向きがストロークエンドに近づく方向に回転するときに、図2に示す回転負荷機構8が、ステアリングホイール1と一体に回転する内輪17に回転抵抗を負荷するので、転舵輪3の向きがストロークエンドに到達してステアリングホイール1の回転が阻止される時のステアリングホイール1の回転抵抗の増加幅を小さく抑えることができる。そのため、ステアリングホイール1の回転が阻止される時のフィーリングが良い。
【0066】
特に、この実施形態の操舵装置は、図1にステアリングホイール1が中立位置から離れる方向、すなわち転舵輪3の向きがストロークエンドに近づく方向に回転するときに、ステアリングホイール1の中立位置からの回転角度が大きくなるにつれて、図2に示す回転負荷機構8から内輪17に負荷される回転抵抗(ステアリングホイール1を中立位置に戻す方向の弾性力)が大きくなるので、転舵輪3の向きがストロークエンドに到達してステアリングホイール1の回転が阻止される時のステアリングホイール1の回転抵抗の増加幅を効果的に抑えることが可能となっている。
【0067】
また、この実施形態の操舵装置は、図5図6に示すように、第1のゼンマイばね46と第2のゼンマイばね47を回転負荷機構8に使用しており、ゼンマイばねは、弾性変形可能な角度の範囲が大きいので、図1に示すステアリングホイール1の回転可能範囲を大きく設定したとき(例えば、ステアリングホイール1の回転可能範囲を中立位置に対して回転方向の片側で180°以上、回転方向の両側で合計360°以上に設定したとき)にも、ステアリングホイール1の回転可能範囲の全域において安定した大きさの回転抵抗(図5図6に示す第1のゼンマイばね46および第2のゼンマイばね47の弾性力)をステアリングホイール1に負荷することができる。
【0068】
また、この実施形態の操舵装置は、図1に示すステアリングホイール1が中立位置から離れる方向に回転するときに、図2に示す回転負荷機構8から内輪17に回転抵抗が負荷されるので、その回転抵抗の分、図1に示す反力モータ6で発生する反力を小さく抑えることができる。そのため、小型の反力モータ6で良好な操舵フィーリングを得ることができ、また、反力モータ6の消費電力を小さく抑えることが可能である。
【0069】
また、この実施形態の操舵装置は、図1に示すステアリングホイール1を手で持って中立位置から回転させ、その後、ステアリングホイール1から手を離したときに、図5図6に示す第1のゼンマイばね46および第2のゼンマイばね47の弾性力によってステアリングホイール1を中立位置に戻すことも可能である。
【0070】
上記実施形態では、第1のゼンマイばね46と第2のゼンマイばね47とを1つずつ設けたものを例に挙げて説明したが、第1のゼンマイばね46と第2のゼンマイばね47とを複数ずつ設けてもよい。第1のゼンマイばね46と第2のゼンマイばね47の合計個数は2の倍数となる。
【0071】
また、上記実施形態では、外輪18の内周と内輪17の外周との間に組み込む係合子21としてローラを用いたものを例に挙げて説明したが、係合子21としてボールやスプラグを用いることも可能である。
【0072】
また、上記各実施形態では、動作変換機構25として、電磁石24の通電時に係合子保持器22を係合解除位置から係合位置に周方向移動させ、電磁石24の非通電時に係合子保持器22を係合位置から係合解除位置に周方向移動させる構成のもの(つまり、通電することにより係合する励磁作動型の電磁式クラッチユニット7)を採用したが、動作変換機構25として、電磁石24の通電時に係合子保持器22を係合位置から係合解除位置に周方向移動させ、電磁石24の非通電時に係合子保持器22を係合解除位置から係合位置に周方向移動させる構成のもの(つまり、通電を停止することにより係合する無励磁作動型の電磁式クラッチユニット7)を採用することも可能である。
【0073】
図8図10に、この発明の第2実施形態を示す。第2実施形態は、第1実施形態と比べて回転負荷機構8の構成のみが異なり、それ以外の構成は同一である。そのため、第1実施形態に対応する部分は同一の符号を付して説明を省略する。
【0074】
図8に示すように、回転負荷機構8は、減速機入力軸60と、減速機入力軸60の回転を減速する減速機61と、減速機61で減速された回転を出力する減速機出力軸62と、減速機出力軸62をステアリングホイール1(図1参照)の中立位置に対応する位置に弾性保持するセンタリングばね63とを有する。
【0075】
減速機入力軸60は、減速機出力軸62に装着した軸受64で、内輪17の回転中心を中心として回転可能に支持されている。減速機入力軸60は、内輪17にスプライン嵌合している。このスプライン嵌合により、減速機入力軸60は内輪17と一体に回転するように内輪17に連結されている。
【0076】
減速機61は、減速機入力軸60に設けられた偏心軸部65と、偏心軸部65の外周に装着された転がり軸受66と、転がり軸受66の径方向外側に設けられた減速機外輪67と、転がり軸受66の外周と減速機外輪67の内周の間に組み込まれた複数の減速機ローラ68と、その複数の減速機ローラ68を保持するローラ保持器69とを有する。
【0077】
偏心軸部65は、内輪17の回転中心から偏心した位置を中心とする円筒面を外周にもつ部分である。転がり軸受66は、この偏心軸部65の外周に装着されている。転がり軸受66は、外輪と内輪の間に複数の玉を組み込んだ玉軸受である。転がり軸受66の外周は、偏心軸部65の外周の円筒面の中心を中心とする円筒面である。減速機外輪67は、負荷機構ケース30の内周に嵌合し、キー部材70で回り止めされている。
【0078】
図9に示すように、減速機外輪67の内周には、周方向に等ピッチで複数のカム溝71が形成されている。複数の減速機ローラ68は、転がり軸受66の外周と減速機外輪67の内周の間に、周方向に等間隔に配置されている。各減速機ローラ68は、減速機外輪67の内周のカム溝71の内面と、転がり軸受66の外輪の円筒面とに接触している。減速機ローラ68の個数は、減速機外輪67の内周のカム溝71の数よりも少なく設定され、これにより、各減速機ローラ68のカム溝71に対する位相が周方向に向かって次第に変化し、一周して元の位相に戻るようになっている。ローラ保持器69には、各減速機ローラ68を径方向に移動可能に収容するポケット72が周方向に等間隔に形成されている。
【0079】
図8に示すように、減速機出力軸62は、ローラ保持器69と一体に回転するようにローラ保持器69に連結されている。図では、ローラ保持器69と一体に形成した減速機出力軸62を示しているが、ローラ保持器69とは別体に形成した減速機出力軸62をローラ保持器69に固定してもよい。ローラ保持器69および減速機出力軸62は、負荷機構ケース30の内周に装着した軸受73で、内輪17の回転中心を中心として回転可能に支持されている。
【0080】
この減速機61は、減速機入力軸60に回転を入力すると、偏心軸部65が偏心回転する。この偏心軸部65の偏心回転に伴い、図9に示す各減速機ローラ68は、位相をずらして順に減速機外輪67の内周のカム溝71に押し込まれ、そのカム溝71の内面に沿って周方向に移動する。そして、その減速機ローラ68の周方向移動がローラ保持器69で取り出されて減速機出力軸62に伝達することで、減速機出力軸62が回転する。
【0081】
図10に示すように、センタリングばね63は、鋼線をC形に巻いたC形環状部74と、C形環状部74の両端からそれぞれ径方向外方に延出する一対の延出部75とからなる。C形環状部74は、減速機出力軸62の軸方向端面に形成された円形のばね収容凹部76に嵌め込まれている。一対の延出部75は、ばね収容凹部76から径方向外方に貫通するように減速機出力軸62の軸方向端面に形成された径方向溝77に挿入されている。
【0082】
センタリングばね63の延出部75は、径方向溝77の径方向外端から突出しており、その延出部75の径方向溝77からの突出部分が、負荷機構ケース30の凹部54の内周に形成されたばね収容溝78に挿入されている。径方向溝77とばね収容溝78は同じ周方向幅をもつように形成されている。センタリングばね63の延出部75は、径方向溝77の内面と、ばね収容溝78の内面にそれぞれ接触しており、その接触部分に作用する周方向の力によって減速機出力軸62を弾性保持している。
【0083】
この回転負荷機構8は、図1に示すステアリングホイール1が中立位置から離れる方向に回転するときに、ステアリングホイール1と一体に回転する内輪17(図8参照)に回転抵抗を負荷する。
【0084】
すなわち、図1に示すステアリングホイール1が中立位置から離れる方向に回転するとき、図8に示す内輪17が、そのステアリングホイール1と一体に回転し、その内輪17と一体に減速機入力軸60が回転する。そして、その減速機入力軸60から減速機61を介して減速機出力軸62に伝達する回転によりセンタリングばね63が弾性変形し、そのセンタリングばね63の弾性力が、回転抵抗として減速機61を介して内輪17に負荷される。このときセンタリングばね63から内輪17に付与される弾性力の方向は、図1に示すステアリングホイール1を中立位置に戻す方向となり、その弾性力の大きさは、ステアリングホイール1の中立位置からの回転角度に応じた大きさとなる。
【0085】
この実施形態の操舵装置は、図8図9に示すように、減速機61とセンタリングばね63を回転負荷機構8に使用しており、減速機入力軸60の回転角度は、減速機出力軸62の回転角度よりも大きいので、ステアリングホイール1の回転可能範囲を大きく設定したとき(例えば、ステアリングホイール1の回転可能範囲を中立位置に対して回転方向の片側で180°以上、回転方向の両側で合計360°以上に設定したとき)にも、ステアリングホイール1の回転可能範囲の全域において安定した大きさの回転抵抗(図8に示すセンタリングばね63から減速機61を介して伝達する弾性力)をステアリングホイール1に負荷することができる。
【0086】
また、この実施形態の操舵装置は、図1に示すステアリングホイール1を手で持って中立位置から回転させ、その後、ステアリングホイール1から手を離したときに、図8に示すセンタリングばね63から減速機61を介して伝達する弾性力によってステアリングホイール1を中立位置に戻すことも可能である。その他の作用効果は第1実施形態と同様である。
【0087】
この実施形態では、減速機61として、偏心軸部65と減速機ローラ68とカム溝71とを使用するローラ減速機を例に挙げて説明したが、例えば、遊星歯車減速機、サイクロイド減速機など、別の形式の減速機61を採用してもよい。
【0088】
図11図13に、この発明の第3実施形態を示す。第3実施形態は、第1実施形態と比べて回転負荷機構8の構成のみが異なり、それ以外の構成は同一である。そのため、第1実施形態に対応する部分は同一の符号を付して説明を省略する。
【0089】
図11に示すように、回転負荷機構8は、内軸部79と、内軸部79の径方向外側に配置された外筒部80と、内軸部79の外周に装着された複数のインナーディスク81と、外筒部80の内周に装着された複数のアウターディスク82と、内軸部79の外周と外筒部80の内周との間に封入された磁性流体83と、外筒部80を囲むように配置された環状の電磁コイル84とを有する。
【0090】
内軸部79は、クラッチケース26に装着した軸受85で、内輪17の回転中心を中心として回転可能に支持されている。内軸部79は、内輪17にスプライン嵌合している。このスプライン嵌合により、内軸部79は内輪17と一体に回転するように内輪17に連結されている。
【0091】
外筒部80は、内輪17の回転時にも回転しないように負荷機構ケース30に固定されている。外筒部80には、内軸部79の外周と外筒部80の内周の間に磁性流体83を密封する蓋部材86が取り付けられている。磁性流体83は、強磁性材料の微粒子をベース液に分散した磁性コロイド溶液である。外筒部80および蓋部材86は、非磁性材料(例えばアルミ合金)で形成されている。
【0092】
複数のインナーディスク81は、内軸部79の外周に軸方向に間隔をおいて設けられている。内軸部79の外周には、軸方向に隣り合うインナーディスク81の間隔を保持するインナー間座87が設けられている。
【0093】
同様に、複数のアウターディスク82は、外筒部80の内周に軸方向に間隔をおいて設けられている。外筒部80の内周には、軸方向に隣り合うアウターディスク82の間隔を保持するアウター間座88が設けられている。各アウターディスク82は、軸方向に隣り合うインナーディスク81の軸方向の対向面間に挿入されている。
【0094】
インナーディスク81とアウターディスク82の間には磁性流体83を収容する軸方向隙間が設定されている。各インナーディスク81と各アウターディスク82は、強磁性材料(鉄など)で形成されている。電磁コイル84は、外筒部80と同軸の円筒状に巻回されている。
【0095】
図12に示すように、インナーディスク81の内周には内径突起89が設けられ、その内径突起89に係合する軸方向溝90が内軸部79の外周に設けられている。インナーディスク81は、この内径突起89と軸方向溝90の係合により内軸部79の外周に回り止めされている。
【0096】
図13に示すように、アウターディスク82の外周には外径突起91が設けられ、その外径突起91に係合する軸方向溝92が外筒部80の内周に設けられている。アウターディスク82は、この外径突起91と軸方向溝92の係合により外筒部80の内周に回り止めされている。
【0097】
この回転負荷機構8は、図11に示す電磁コイル84に電流を印加すると、内軸部79と外筒部80の間を軸方向に貫通する磁路が形成されるので、インナーディスク81とアウターディスク82の軸方向隙間に存在する磁性流体83のせん断抵抗が増加し、内軸部79に回転抵抗が付与される。
【0098】
この実施形態の操舵装置は、図1に示すステアリングホイール1が中立位置から離れる方向に回転するときに、図11に示す電磁コイル84に電流を印加することで、内輪17に回転抵抗を負荷することができる。そのため、図1に示す転舵輪3の向きがストロークエンドに到達してステアリングホイール1の回転が阻止される時のステアリングホイール1の回転抵抗の増加幅を小さく抑えることができ、ステアリングホイール1の回転が阻止される時のフィーリングが良い。
【0099】
また、この実施形態の操舵装置は、図11に示す電磁コイル84に印加する電流の大きさを変化させることで、内輪17に負荷される回転抵抗の大きさを変化させることができる。そのため、図1に示すステアリングホイール1が中立位置から離れる方向、すなわち転舵輪3の向きがストロークエンドに近づく方向に回転するときに、制御部9において、操舵センサ5で検知されるステアリングホイール1の中立位置からの回転角度が大きくなるにつれて、図11に示す電磁コイル84の印加電流を増加させて内輪17に負荷する回転抵抗を大きくするという制御を行なうことで、図1に示す転舵輪3の向きがストロークエンドに到達してステアリングホイール1の回転が阻止される時のステアリングホイール1の回転抵抗の増加幅を効果的に抑えることが可能となる。
【0100】
図14図15に、この発明の第4実施形態を示す。第4実施形態は、第1実施形態と比べて回転負荷機構8の構成のみが異なり、それ以外の構成は同一である。そのため、第1実施形態に対応する部分は同一の符号を付して説明を省略する。
【0101】
図14に示すように、回転負荷機構8は、ダンパーロータ93と、ダンパーロータ93を収容するダンパーケース94と、ダンパーケース94内に封入された作動油とを有する回転式油圧ダンパーである。
【0102】
ダンパーロータ93は、クラッチケース26に装着した軸受95で、内輪17の回転中心を中心として回転可能に支持されている。ダンパーロータ93は、内輪17にスプライン嵌合している。このスプライン嵌合により、ダンパーロータ93は内輪17と一体に回転するように内輪17に連結されている。
【0103】
ダンパーケース94は、ダンパーロータ93の回転時にも回転しないように負荷機構ケース30に固定されている。ダンパーケース94には、作動油を密封する蓋部材96が取り付けられている。作動油は、例えば、鉱物油やシリコーンオイルを使用することができる。
【0104】
図15に示すように、ダンパーケース94の内部には、ダンパーロータ93が回転したときに作動油を通過させる絞り通路97が設けられ、この絞り通路97を流れる作動油の粘性抵抗によってダンパーロータ93に回転抵抗が生じるようになっている。ダンパーロータ93の外周とダンパーケース94の内周の間には、作動油を貯める貯油室98と絞り通路97とが周方向に交互に形成されている。絞り通路97は、図では、ダンパーロータ93の外周の円筒面とダンパーケース94の内周の円筒面の間に形成された微小隙間である。
【0105】
この回転負荷機構8は、図1に示すステアリングホイール1が中立位置から離れる方向、すなわち転舵輪3の向きがストロークエンドに近づく方向に回転するときに、作動油の粘性抵抗による回転抵抗が内輪17に負荷されるので、転舵輪3の向きがストロークエンドに到達してステアリングホイール1の回転が阻止される時のステアリングホイール1の回転抵抗の増加幅を小さく抑えることができ、ステアリングホイール1の回転が阻止される時のフィーリングが良い。
【0106】
図16図18に、この発明の第5実施形態を示す。第5実施形態は、第3実施形態と比べて回転負荷機構8の構成のみが異なり、それ以外の構成は同一である。そのため、第3実施形態に対応する部分は同一の符号を付して説明を省略する。
【0107】
図16に示すように、回転負荷機構8は、内軸部79と、内軸部79の径方向外側に配置された外筒部80と、内軸部79の外周に装着された複数のインナーディスク81と、外筒部80の内周に装着された複数のアウターディスク82と、内軸部79の外周と外筒部80の内周との間に封入された潤滑油とを有する湿式多板式のものである。
【0108】
複数のインナーディスク81は、内軸部79の外周に軸方向に間隔をおいて設けられている。複数のアウターディスク82は、外筒部80の内周に軸方向に間隔をおいて設けられている。各アウターディスク82は、インナーディスク81と摺接するように軸方向に隣り合うインナーディスク81の軸方向の対向面間に挿入されている。
【0109】
この回転負荷機構8は、図1に示すステアリングホイール1が中立位置から離れる方向、すなわち転舵輪3の向きがストロークエンドに近づく方向に回転するときに、インナーディスク81とアウターディスク82の間の微小な軸方向隙間に存在する潤滑油がインナーディスク81とアウターディスク82とで周方向にせん断され、潤滑油の粘性抵抗による回転抵抗が内輪17に負荷されるので、転舵輪3の向きがストロークエンドに到達してステアリングホイール1の回転が阻止される時のステアリングホイール1の回転抵抗の増加幅を小さく抑えることができ、ステアリングホイール1の回転が阻止される時のフィーリングが良い。
【0110】
上記各実施形態では、この発明にかかる操舵装置の一例として、車両の左右一対の転舵輪3を操舵対象とする車両用操舵装置を例に挙げて説明したが、この発明は、車両用操舵装置に限らず、船舶、建設機械、農業機械、全地形対応車、多用途四輪車などの操舵装置にも同様に適用することが可能である。
【0111】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0112】
1 ステアリングホイール
2 転舵アクチュエータ
5 操舵センサ
6 反力モータ
7 電磁式クラッチユニット
8 回転負荷機構
17 内輪
18 外輪
21 係合子
22 係合子保持器
23 アーマチュア
24 電磁石
25 動作変換機構
45 巻き軸
46 第1のゼンマイばね
47 第2のゼンマイばね
48 ばねケース
60 減速機入力軸
61 減速機
62 減速機出力軸
63 センタリングばね
79 内軸部
80 外筒部
81 インナーディスク
82 アウターディスク
83 磁性流体
84 電磁コイル
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
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図16
図17
図18