(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024116635
(43)【公開日】2024-08-28
(54)【発明の名称】外輪案内保持器付き玉軸受および偏心回転装置
(51)【国際特許分類】
F16C 33/58 20060101AFI20240821BHJP
F16C 19/06 20060101ALI20240821BHJP
F16C 33/41 20060101ALI20240821BHJP
F04C 29/00 20060101ALI20240821BHJP
【FI】
F16C33/58
F16C19/06
F16C33/41
F04C29/00 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023022336
(22)【出願日】2023-02-16
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(72)【発明者】
【氏名】上堀 泰裕
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 拓史
(72)【発明者】
【氏名】橋詰 悠稀
(72)【発明者】
【氏名】望月 雄太
【テーマコード(参考)】
3H129
3J701
【Fターム(参考)】
3H129AA02
3H129AB03
3H129BB44
3H129BB50
3H129CC17
3J701AA02
3J701AA32
3J701AA42
3J701AA52
3J701AA62
3J701BA25
3J701BA44
3J701BA49
3J701BA50
3J701BA54
3J701BA56
3J701BA69
3J701EA36
3J701EA37
3J701EA47
3J701EA76
3J701FA33
3J701FA46
3J701GA29
3J701XB03
3J701XB12
3J701XB23
3J701XB26
3J701XB31
3J701XE03
(57)【要約】
【課題】回転中心に対して偏心して取り付けて使用したときに保持器の外周が摩耗しにくい外輪案内保持器付き玉軸受を提供する。
【解決手段】保持器9は、外輪肩部14の径方向内側に対向して配置される円環部16と、円環部16から周方向に隣り合う玉8の間を軸方向に延びる片持ち梁状の複数の柱部17とを有する冠形樹脂保持器であり、外輪肩部14には、円筒状の保持器案内面23が形成され、保持器9の外周には、保持器案内面23に摺接する被案内面24が設けられている外輪案内保持器付き玉軸受において、外輪軌道溝13の軸方向端部に、保持器案内面23に滑らかに接続する断面凸円弧状のR縁部27を形成した。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内輪(6)と、
前記内輪(6)の径方向外側に設けられた外輪(7)と、
前記内輪(6)と前記外輪(7)の間に組み込まれた複数の玉(8)と、
前記複数の玉(8)を保持する保持器(9)と、を有し、
前記外輪(7)の内周には、前記玉(8)が転がり接触する外輪軌道溝(13)と、前記外輪軌道溝(13)の軸方向両側に位置する一対の外輪肩部(14,15)とが設けられ、
前記保持器(9)は、前記一対の外輪肩部(14,15)のうちの一方の外輪肩部(14)の径方向内側に対向して配置される円環部(16)と、前記円環部(16)から周方向に隣り合う前記玉(8)の間を軸方向に延びる片持ち梁状の複数の柱部(17)とを有する冠形樹脂保持器であり、
前記一方の外輪肩部(14)には、円筒状の保持器案内面(23)が形成され、
前記保持器(9)の外周には、前記保持器案内面(23)に摺接する被案内面(24)が設けられている外輪案内保持器付き玉軸受において、
前記外輪軌道溝(13)の軸方向端部に、前記保持器案内面(23)に滑らかに接続する断面凸円弧状のR縁部(27)を形成したことを特徴とする外輪案内保持器付き玉軸受。
【請求項2】
前記保持器案内面(23)が、Ra0.25μm以下の面粗さをもつ研削仕上げ面とされている請求項1に記載の外輪案内保持器付き玉軸受。
【請求項3】
前記保持器案内面(23)と前記被案内面(24)の間の径方向隙間の大きさが、0.1mm以上0.5mm以下に設定されている請求項1または2に記載の外輪案内保持器付き玉軸受。
【請求項4】
前記R縁部(27)の断面凸円弧の曲率半径の大きさが、0.2mm以上2.0mmに設定されている請求項1または2に記載の外輪案内保持器付き玉軸受。
【請求項5】
前記円環部(16)と前記各柱部(17)とが、樹脂材に繊維強化材を添加した樹脂組成物で一体に形成されている請求項1または2に記載の外輪案内保持器付き玉軸受。
【請求項6】
前記玉(8)を挟んで周方向に対向する前記柱部(17)の先端同士の間隔が、前記玉(8)の直径の88%以上92%以下に設定されている請求項1または2に記載の外輪案内保持器付き玉軸受。
【請求項7】
前記外輪軌道溝(13)は、断面凹円弧形状で周方向に延びる転走面(26)と、前記転走面(26)に軸方向に隣接する前記R縁部(27)とを有し、
前記R縁部(27)は、周方向に直角な断面において、前記保持器案内面(23)が前記R縁部(27)の接線となるように前記保持器案内面(23)に滑らかに接続し、かつ、前記転走面(26)が前記R縁部(27)の接線とならないように前記転走面(26)に折れ曲がって接続している請求項1または2に記載の外輪案内保持器付き玉軸受。
【請求項8】
定位置で回転するロータ軸(2)と、
前記ロータ軸(2)の回転中心(C0)から偏心した位置に中心(C1)をもつ円筒状の外周を有し、前記ロータ軸(2)の回転中心(C0)まわりに偏心回転する偏心軸部(4)と、
前記偏心軸部(4)の外周に装着された請求項1または2に記載の外輪案内保持器付き玉軸受(1)と、を有する偏心回転装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、外輪案内保持器付き玉軸受、およびその玉軸受を使用した偏心回転装置に関する。
【背景技術】
【0002】
回転軸を支持する軸受として、冠形樹脂保持器を使用した玉軸受が知られている(例えば、特許文献1~4)。この玉軸受は、内輪と、内輪の径方向外側に設けられた外輪と、内輪と外輪の間に組み込まれた複数の玉と、その複数の玉を保持する冠形樹脂保持器とを有する。外輪の内周には、玉が転がり接触する外輪軌道溝と、その外輪軌道溝の軸方向両側に位置する一対の外輪肩部とが設けられている。冠形樹脂保持器は、一対の外輪肩部のうちの一方の外輪肩部の径方向内側に対向して配置される円環部と、その円環部から周方向に隣り合う玉の間を軸方向に延びる片持ち梁状の複数の柱部とを有し、隣り合う柱部の間に玉を収容するポケットが形成されている。この冠形樹脂保持器を使用した玉軸受は、金属製の保持器を使用した玉軸受に比べて、軽量、低トルク、低ノイズといった利点を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002-295480号公報
【特許文献2】特開2007-056930号公報
【特許文献3】特開2007-292093号公報
【特許文献4】特開2017-116008号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本願の発明者は、スクロールコンプレッサのロータ軸受など、回転中心に対して偏心して取り付けられる玉軸受として、上述の冠形樹脂保持器を使用した玉軸受を使用することを検討した。その結果、回転中心に対して偏心して取り付けられる玉軸受において、冠形樹脂保持器(以下、単に「保持器」という)の案内方式として玉案内方式を採用した場合は、偏心回転に伴う遠心力により保持器が一部の玉にのみ高い面圧で接触し、玉の表面の油膜切れや保持器の破損が発生するおそれがあり、一方、保持器の案内方式として外輪案内方式を採用した場合は、偏心回転に伴う遠心力により保持器が傾き、保持器の外周が外輪軌道溝の縁にエッジ当たりするおそれがあることが分かった。
【0005】
すなわち、スクロールコンプレッサのロータ軸受のように回転中心に対して偏心して取り付けられる玉軸受は、回転中心と同心に取り付けられる一般的な玉軸受とは異なり、通常の軸受回転による遠心力とは別に、偏心回転による遠心力が発生する。そのため、保持器の案内方式として、一般的な方式である玉案内方式(玉の表面に保持器のポケットの内面を接触させることで保持器を径方向に位置決めする方式)を採用したのでは、偏心回転に伴う遠心力により保持器が一部の玉にのみ高い面圧で接触し、玉の表面の潤滑剤が掻き取られて油膜切れが発生し、潤滑不良によるピーリングや焼き付きが生じるおそれがある。また、保持器が一部の玉にのみ高い面圧で接触することで、保持器に高い応力が発生し、保持器が破損するおそれもある。
【0006】
そこで、本願の発明者は、保持器の案内方式として、特許文献1~4のように外輪案内方式(外輪肩部の内周に保持器の外周を接触させることで保持器を径方向に位置決めする方式)を採用することを検討した。外輪案内方式を採用すると、保持器が、玉の表面に対する接触ではなく、外輪肩部の内周に対する接触で位置決めされるので、偏心回転による遠心力が発生したときに、保持器が一部の玉にのみ高い面圧で接触するのを防止することができ、玉の表面の油膜切れや保持器の破損を防ぐことが可能となる。
【0007】
ところが、保持器の案内方式として外輪案内方式を採用した場合、偏心回転に伴う遠心力によって保持器の外周が外輪肩部の内周に接触したときに、保持器が外輪肩部で片持ち支持されて傾き、その保持器の傾きによって、保持器の外周が外輪軌道溝の縁にエッジ当たりする。そして、そのエッジ当たりにより保持器の外周が摩耗し、保持器の摩耗粉によって異常発熱や軸受破損が引き起こされるおそれがあることが分かった。
【0008】
この発明が解決しようとする課題は、回転中心に対して偏心して取り付けて使用したときに保持器の外周が摩耗しにくい外輪案内保持器付き玉軸受を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するため、この発明では、以下の構成の外輪案内保持器付き玉軸受を提供する。
[構成1]
内輪と、
前記内輪の径方向外側に設けられた外輪と、
前記内輪と前記外輪の間に組み込まれた複数の玉と、
前記複数の玉を保持する保持器と、を有し、
前記外輪の内周には、前記玉が転がり接触する外輪軌道溝と、前記外輪軌道溝の軸方向両側に位置する一対の外輪肩部とが設けられ、
前記保持器は、前記一対の外輪肩部のうちの一方の外輪肩部の径方向内側に対向して配置される円環部と、前記円環部から周方向に隣り合う前記玉の間を軸方向に延びる片持ち梁状の複数の柱部とを有する冠形樹脂保持器であり、
前記一方の外輪肩部には、円筒状の保持器案内面が形成され、
前記保持器の外周には、前記保持器案内面に摺接する被案内面が設けられている外輪案内保持器付き玉軸受において、
前記外輪軌道溝の軸方向端部に、前記保持器案内面に滑らかに接続する断面凸円弧状のR縁部を形成したことを特徴とする外輪案内保持器付き玉軸受。
【0010】
この構成を採用すると、外輪軌道溝の軸方向端部に、外輪肩部の保持器案内面に滑らかに接続する断面凸円弧状のR縁部が形成されているので、外輪軌道溝の縁が角(エッジ)の無い滑らかな形状となる。そのため、偏心回転に伴う遠心力によって保持器が傾き、保持器の外周が外輪軌道溝の縁に接触したときにも、保持器の外周が摩耗しにくい。
【0011】
[構成2]
前記保持器案内面が、Ra0.25μm以下の面粗さをもつ研削仕上げ面とされている構成1に記載の外輪案内保持器付き玉軸受。
【0012】
この構成を採用すると、保持器案内面がRa0.25μm以下の面粗さをもつ研削仕上げ面とされているので、保持器案内面に対する保持器の外周の摩擦抵抗を低く抑えることができ、保持器の外周の摩耗を効果的に抑制することが可能となる。
【0013】
[構成3]
前記保持器案内面と前記被案内面の間の径方向隙間の大きさが、0.1mm以上0.5mm以下に設定されている構成1または2に記載の外輪案内保持器付き玉軸受。
【0014】
この構成を採用すると、保持器案内面と被案内面の間の径方向隙間の大きさが0.1mm以上あるので、軸受の組み立て時に保持器が外輪に干渉するのを防止することができる。また、保持器案内面と被案内面の間の径方向隙間の大きさが0.5mm以下に設定されているので、偏心回転時に保持器を確実に案内することができる。
【0015】
[構成4]
前記R縁部の断面凸円弧の曲率半径の大きさが、0.2mm以上2.0mmに設定されている構成1から3のいずれかに記載の外輪案内保持器付き玉軸受。
【0016】
[構成5]
前記円環部と前記各柱部とが、樹脂材に繊維強化材を添加した樹脂組成物で一体に形成されている構成1から4のいずれかに記載の外輪案内保持器付き玉軸受。
【0017】
[構成6]
前記玉を挟んで周方向に対向する前記柱部の先端同士の間隔が、前記玉の直径の88%以上92%以下に設定されている構成1から5のいずれかに記載の外輪案内保持器付き玉軸受。
【0018】
[構成7]
前記外輪軌道溝は、断面凹円弧形状で周方向に延びる転走面と、前記転走面に軸方向に隣接する前記R縁部とを有し、
前記R縁部は、周方向に直角な断面において、前記保持器案内面が前記R縁部の接線となるように前記保持器案内面に滑らかに接続し、かつ、前記転走面が前記R縁部の接線とならないように前記転走面に折れ曲がって接続している構成1から6のいずれかに記載の外輪案内保持器付き玉軸受。
【0019】
この構成を採用すると、転走面がR縁部の接線とならないようにR縁部が転走面に折れ曲がって接続しているので、外輪軌道溝の転走面の軸方向幅を確保しながら、外輪軌道溝のR縁部の曲率半径を大きく設定することが可能となる。
【0020】
また、この発明では、上記構成の外輪案内保持器付き玉軸受を使用した偏心回転装置として、次の構成のものを併せて提供する。
[構成8]
定位置で回転するロータ軸と、
前記ロータ軸の回転中心から偏心した位置に中心をもつ円筒状の外周を有し、前記ロータ軸の回転中心まわりに偏心回転する偏心軸部と、
前記偏心軸部の外周に装着された構成1から7のいずれかに記載の外輪案内保持器付き玉軸受と、を有する偏心回転装置。
【発明の効果】
【0021】
この発明の外輪案内保持器付き玉軸受は、外輪軌道溝の軸方向端部に、外輪肩部の保持器案内面に滑らかに接続する断面凸円弧状のR縁部が形成されているので、外輪軌道溝の縁が角(エッジ)の無い滑らかな形状となる。そのため、偏心回転に伴う遠心力によって保持器が傾き、保持器の外周が外輪軌道溝の縁に接触したときにも、保持器の外周が摩耗しにくい。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】この発明の実施形態にかかる外輪案内保持器付き玉軸受を使用した偏心回転装置を示す偏心軸部の近傍の断面図
【
図3】
図1の外輪案内保持器付き玉軸受の玉の近傍を拡大して示す断面図
【
図4】
図3の外輪肩部の内周の保持器案内面と保持器の外周の被案内面との近傍を拡大して示す断面図
【
図5】
図4に示す保持器が偏心回転に伴う遠心力により径方向移動し、外輪肩部に接触して傾いた状態を示す図
【
図6】
図1に示す外輪案内保持器付き玉軸受の保持器の斜視図
【発明を実施するための形態】
【0023】
図1に、この発明の実施形態にかかる外輪案内保持器付き玉軸受1を使用した偏心回転装置を示す。この偏心回転装置は、定位置で回転する電動モータのロータ軸2と、ロータ軸2の回転中心C0と同じ位置に中心をもつ円筒状の外周を有する主軸部3と、ロータ軸2の回転中心C0から偏心した位置に中心C1をもつ円筒状の外周を有する偏心軸部4と、主軸部3の外周に装着された主軸受5と、偏心軸部4の外周に装着された玉軸受1とを有し、ロータ軸2の回転駆動力によって、偏心軸部4がロータ軸2の回転中心C0まわりに偏心量eの半径で偏心回転する。主軸受5の外周には、図示しない静止部材(例えば、スクロールコンプレッサのハウジング)が嵌合し、玉軸受1の外周には、図示しない偏心回転部材(例えば、スクロールコンプレッサの旋回スクロール)が取り付けられる。
【0024】
図2に示すように、玉軸受1は、内輪6と、内輪6の径方向外側に同軸に設けられた外輪7と、内輪6と外輪7の間に周方向に間隔をおいて組み込まれた複数の玉8と、複数の玉8を保持する保持器9とを有する。
【0025】
図3に示すように、内輪6の外周には、玉8が転がり接触する内輪軌道溝10と、内輪軌道溝10の軸方向両側に位置する一対の内輪肩部11,12とが形成されている。一対の内輪肩部11,12は、内輪軌道溝10を軸方向に挟む両側を周方向に延びる土手状の部分である。内輪軌道溝10は、内輪6の外周の軸方向中央に形成されている。
【0026】
同様に、外輪7の内周には、玉8が転がり接触する外輪軌道溝13と、外輪軌道溝13の軸方向両側に位置する一対の外輪肩部14,15とが形成されている。一対の外輪肩部14,15は、外輪軌道溝13を軸方向に挟む両側を周方向に延びる土手状の部分である。外輪軌道溝13は、外輪7の内周の軸方向中央に形成されている。
【0027】
この玉軸受1は、深溝玉軸受である。すなわち、内輪肩部11の外径と内輪肩部12の外径は同一であり、外輪肩部14の内径と外輪肩部15の内径も同一である。
【0028】
保持器9は、外輪肩部14の径方向内側に対向して配置される円環部16と、円環部16から周方向に隣り合う玉8の間を軸方向に延びる柱部17とを有する冠形樹脂保持器である。柱部17は、軸方向の一端を円環部16に固定された固定端とし、軸方向の他端を自由端とする片持ち梁状に形成されている。柱部17は、周方向に間隔をおいて複数設けられている。周方向に隣り合う柱部17の間には、玉8を収容するポケット18が形成されている。
【0029】
図6に示すように、各柱部17は、円環部16から軸方向に延びる柱基部20と、柱基部20の先端から周方向に間隔をおいて軸方向に延びる一対の玉保持爪21とを有する。玉保持爪21は、玉8(
図1参照)がポケット18から軸方向に抜け出ないように玉8を保持する爪である。玉8を挟んで周方向に対向する玉保持爪21の先端同士の間隔は、玉8の直径の88%以上92%以下に設定されている。
【0030】
円環部16と各柱部17は、樹脂材に繊維強化材を添加した樹脂組成物によって継ぎ目の無い一体に形成されている。樹脂組成物のベースとなる樹脂材としては、ポリアミド(PA)またはスーパーエンジニアリングプラスチックを採用することができる。ポリアミドとしては、ポリアミド46(PA46)、ポリアミド66(PA66)、ポリノナメチレンテレフタルアミド(PA9T)等を使用することができる。また、スーパーエンジニアリングプラスチックとしては、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)を採用することができる。樹脂材に添加する繊維強化材としては、ガラス繊維、カーボン繊維、アラミド繊維等を採用することができる。繊維強化材は、保持器9を形成する樹脂組成物の10~50重量%を占める割合で配合されている。
【0031】
図3に示すように、内輪肩部11,12の外周には、軸方向に沿って外径が変化せず一定の円筒面22が形成されている。円筒面22は、軸方向の面粗さがRa1.0μm以上3.2μm以下の旋削仕上げ面とされている。内輪軌道溝10は、円弧状の断面をもつ溝である。円筒面22と内輪軌道溝10の内面は、角(エッジ)を形成するように折れ曲がって接続している。
【0032】
外輪肩部14の内周には、保持器9の外周を案内して保持器9を径方向に位置決めする保持器案内面23が形成されている。保持器案内面23は、軸方向に沿って内径が変化せず一定の円筒状の面である。保持器案内面23は、軸方向の面粗さがRa0.25μm以下の研削仕上げ面とされている。保持器案内面23の周方向の面粗さは、保持器案内面23の軸方向の面粗さよりも小さい。
【0033】
保持器9の円環部16の外周には、偏心回転時に保持器案内面23に摺接する被案内面24が形成されている。被案内面24は、軸方向に沿って外径が変化せず一定の円筒状の面である。保持器案内面23と被案内面24の間の径方向隙間の大きさは、外輪7と保持器9を同軸に配置した状態で、0.1mm以上0.5mm以下に設定されている。柱部17の径方向外側の面25は、被案内面24と同一の外径をもつ部分円筒面とされている。すなわち、柱部17の径方向外側の面25は、被案内面24に滑らかに連続する部分円筒面である。柱部17の長さ(ポケット18の底から柱部17の先端までの軸方向距離)は、玉8の半径よりも大きく、玉8の直径よりも小さい。
【0034】
外輪軌道溝13は、断面凹円弧状で周方向に延びる転走面26と、その転走面26の軸方向両側に隣接する断面凸円弧状のR縁部27とを有する。R縁部27は、外輪軌道溝13の軸方向両側の端部のうち、保持器案内面23のある側の軸方向端部のみに形成することも可能であるが、外輪軌道溝13の軸方向両側にR縁部27を形成し、外輪7の構成を軸方向に対称とすると、軸受を組み立てるときに外輪7の組み込み方向を区別する必要がなくなるので、軸受の組み立てを容易化することができる。R縁部27の断面凸円弧の曲率半径の大きさは、0.2mm以上2.0mmに設定されている。
【0035】
図4に示すように、R縁部27と保持器案内面23は、周方向に直角な断面において、保持器案内面23がR縁部27の接線となるように点Aで滑らかに接続している。一方、R縁部27と転走面26は、周方向に直角な断面において、転走面26がR縁部27の接線とならないように点Bで折れ曲がって接続している。
【0036】
この玉軸受1は、次のようにして組み立てることができる。まず、
図1に示す内輪6と外輪7と複数の玉8とを準備し、内輪6と外輪7の間に複数の玉8を組み込む。次に、その複数の玉8が周方向に等間隔となるように玉8の周方向位置を調整する。その後、内輪6と外輪7の間に保持器9を軸方向に押し込む。このとき、各柱部17の一対の玉保持爪21(
図6参照)が玉8に押圧されて一時的に周方向に弾性変形し、その弾性変形によって広がった玉保持爪21の先端間を玉8が通過することで、玉8がポケット18に挿入される。
【0037】
この玉軸受1は、
図3に示すように、保持器9の案内方式として、一般的な方式である玉案内方式(玉8の表面に保持器9のポケット18の内面を接触させることで保持器9を径方向に位置決めする方式)を採用せずに、外輪案内方式(外輪肩部14の内周に保持器9の外周を接触させることで保持器9を径方向に位置決めする方式)を採用しているので、
図1、
図2に示すように、偏心回転装置の偏心軸部4の外周に玉軸受1を装着し、偏心回転による遠心力(
図2に実線の矢印で示す力)が各玉8に発生したときに、保持器9のポケット18の内面が一部の玉8にのみ高い面圧で接触するのを防止することができ、玉8の表面の油膜切れや保持器9の破損を防ぐことが可能である。
【0038】
また、この玉軸受1は、
図4に示すように、外輪軌道溝13の軸方向端部に、外輪肩部14の保持器案内面23に滑らかに接続する断面凸円弧状のR縁部27が形成されているので、外輪軌道溝13の縁が角(エッジ)の無い滑らかな形状となる。そのため、偏心回転に伴う遠心力によって保持器9が傾いたり、各柱部17が径方向外側に開くように保持器9が弾性変形したりすることで、保持器9の外周が外輪軌道溝13の縁に接触したときにも、保持器9の外周が摩耗しにくい。
【0039】
すなわち、
図3に示すように、保持器9の案内方式として外輪案内方式を採用した場合、
図5に示すように、偏心回転に伴う遠心力によって保持器9が径方向移動し、保持器9の外周が外輪肩部14の内周に接触したときに、保持器9が外輪肩部14で片持ち支持されて傾き、その保持器9の傾きによって、保持器9の外周が外輪軌道溝13の縁にエッジ当たりするおそれがある。また、偏心回転に伴う遠心力によって各柱部17が径方向外側に開くように保持器9が弾性変形し、その保持器9の弾性変形によって、保持器9の外周が外輪軌道溝13の縁にエッジ当たりするおそれもある。保持器9の外周が外輪軌道溝13の縁にエッジ当たりすると、保持器9の外周が摩耗し、保持器9の摩耗粉によって異常発熱や軸受破損が引き起こされるおそれがある。この問題に対し、この実施形態の玉軸受1は、外輪軌道溝13の軸方向端部に、外輪肩部14の保持器案内面23に滑らかに接続する断面凸円弧状のR縁部27が形成されているので、外輪軌道溝13の縁が角(エッジ)の無い滑らかな形状となる。そのため、偏心回転に伴う遠心力によって保持器9が傾いたり、各柱部17が径方向外側に開くように保持器9が弾性変形したりすることで、保持器9の外周が外輪軌道溝13の縁に接触したときにも、保持器9の外周が摩耗しにくい。
【0040】
また、この玉軸受1は、保持器案内面23がRa0.25μm以下の面粗さをもつ研削仕上げ面とされているので、保持器案内面23に対する保持器9の外周の摩擦抵抗を低く抑えることができ、保持器9の外周の摩耗を効果的に抑制することが可能である。
【0041】
また、この玉軸受1は、保持器案内面23と被案内面24の間の径方向隙間の大きさが0.1mm以上あるので、軸受の組み立て時に保持器9が外輪7に干渉するのを防止することができる。また、保持器案内面23と被案内面24の間の径方向隙間の大きさが0.5mm以下に設定されているので、偏心回転時に保持器9を保持器案内面23で確実に案内することができる。
【0042】
また、この玉軸受1は、
図4に示すように、転走面26がR縁部27の接線とならないようにR縁部27が転走面26に折れ曲がって接続しているので、外輪軌道溝13の転走面26の軸方向幅を確保しながら、外輪軌道溝13のR縁部27の曲率半径を大きく設定することが可能となっている。
【0043】
上記実施形態では、内輪6として、内輪軌道溝10が外周に形成された中空の環状部材を例に挙げて説明したが、内輪6は、必ずしも中空の環状部材である必要はなく、内輪6として、例えば、玉8が転がり接触する内輪軌道溝10が外周に直接形成された中実の部材(軸体)を採用することも可能である。要するに、内輪6(inner race)は、玉8が転がり接触する環状の内輪軌道溝10を外周に有する内方部材であればよい。
【0044】
また、上記実施形態では、外輪7として、外輪軌道溝13が内周に形成された中空の環状部材を例に挙げて説明したが、外輪7は、必ずしも中空の環状部材である必要はなく、外輪7として、例えば、玉8が転がり接触する外輪軌道溝13を内周に直接形成した偏心回転部材を採用することも可能である。要するに、外輪7(outer race)は、玉8が転がり接触する環状の外輪軌道溝13を内周に有する外方部材であればよい。
【0045】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0046】
1 外輪案内保持器付き玉軸受
2 ロータ軸
4 偏心軸部
6 内輪
7 外輪
8 玉
9 保持器
13 外輪軌道溝
14,15 外輪肩部
16 円環部
17 柱部
23 保持器案内面
24 被案内面
26 転走面
27 R縁部
C0 回転中心
C1 中心