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特開2024-116637シェル形針状ころ軸受および偏心回転装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024116637
(43)【公開日】2024-08-28
(54)【発明の名称】シェル形針状ころ軸受および偏心回転装置
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/46 20060101AFI20240821BHJP
   F16C 19/26 20060101ALI20240821BHJP
   F04C 18/02 20060101ALI20240821BHJP
【FI】
F16C33/46
F16C19/26
F04C18/02 311M
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023022338
(22)【出願日】2023-02-16
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(72)【発明者】
【氏名】木内 政浩
(72)【発明者】
【氏名】寺田 智秋
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 大旺
【テーマコード(参考)】
3H039
3J701
【Fターム(参考)】
3H039AA02
3H039AA12
3H039BB05
3H039CC10
3H039CC13
3H039CC19
3J701AA14
3J701AA32
3J701AA42
3J701AA52
3J701AA62
3J701AA72
3J701BA34
3J701BA44
3J701BA49
3J701CA12
3J701EA01
3J701FA04
3J701FA32
3J701FA33
3J701GA29
3J701XB03
3J701XB14
3J701XB19
3J701XB23
(57)【要約】
【課題】偏心回転による遠心力が針状ころに発生する用途で使用したときに、保持器の案内が安定し、かつ、優れた耐久性をもつシェル形針状ころ軸受を提供する。
【解決手段】保持器4は、外輪案内形式であり、柱端部12は、針状ころ2に摺接するように周方向に突出して形成されたころ案内突起16を有し、ポケット11の周方向両側のころ案内突起16の周方向間隔w1が、針状ころ2のころ径dよりも大きく設定されている。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
周方向に間隔をおいて配置される複数の針状ころ(2)と、
前記針状ころ(2)が転がり接触する円筒状の外輪軌道面(5)が内周に形成されたシェル形外輪(3)と、
前記複数の針状ころ(2)の周方向間隔を保持する保持器(4)とを有し、
前記保持器(4)は、前記複数の針状ころ(2)を間にして軸方向に対向する一対の環状部(9)と、周方向に隣り合う前記針状ころ(2)の間を通って前記一対の環状部(9)を連結する複数の柱部(10)とを有し、
前記一対の環状部(9)と周方向に隣り合う前記柱部(10)は、前記針状ころ(2)を収容するポケット(11)を形成し、
前記各柱部(10)は、前記一対の環状部(9)から一定の外径で軸方向内方に延びる一対の柱端部(12)と、前記一対の柱端部(12)から軸方向内方に向かうに従って外径が次第に小さくなるように傾斜して延びる一対の柱傾斜部(13)と、前記一対の柱傾斜部(13)を連結する柱中央部(14)とを有し、
前記保持器(4)は、前記環状部(9)と前記柱端部(12)とが前記外輪軌道面(5)に摺接して案内される外輪案内形式の保持器であり、
周方向に隣り合う前記柱中央部(14)の周方向間隔(w2)が、前記ポケット(11)から径方向内方への前記針状ころ(2)の脱落を防止するように前記針状ころ(2)のころ径(d)よりも小さく設定されているシェル形針状ころ軸受において、
前記柱端部(12)は、前記針状ころ(2)に摺接するように周方向に突出して形成されたころ案内突起(16)を有し、
前記ポケット(11)の周方向両側の前記ころ案内突起(16)の周方向間隔(w1)が、前記針状ころ(2)のころ径(d)よりも大きく設定されていることを特徴とするシェル形針状ころ軸受。
【請求項2】
前記保持器(4)は、前記一対の環状部(9)が前記柱端部(12)と同一の径方向厚さで軸方向に真っ直ぐ延びる断面形状をもつV形保持器である請求項1に記載のシェル形針状ころ軸受。
【請求項3】
前記柱端部(12)の径方向厚さが前記針状ころ(2)のころ径(d)の40%以上に設定されている請求項2に記載のシェル形針状ころ軸受。
【請求項4】
前記シェル形外輪(3)は、内周に前記外輪軌道面(5)をもつ円筒部(6)と、前記円筒部(6)の軸方向両端から径方向内方に延びる一対の鍔部(7,8)とを有し、
前記一対の鍔部(7,8)のうち一方の鍔部(7)の軸方向厚さが、他方の鍔部(8)の軸方向厚さよりも薄く、かつ、前記一方の鍔部(7)の硬度が、前記他方の鍔部(8)の硬度よりも低い請求項1から3のいずれかに記載のシェル形針状ころ軸受。
【請求項5】
前記針状ころ(2)を径方向内方に移動させ、その針状ころ(2)を前記ポケット(11)の周方向両側の前記柱中央部(14)で受け止めたときに、前記環状部(9)の外周に対して前記針状ころ(2)が径方向内側に沈み込む位置関係となるように前記柱中央部(14)が形成されている請求項1から3のいずれかに記載のシェル形針状ころ軸受。
【請求項6】
前記ポケット(11)の周方向両側の前記ころ案内突起(16)の周方向間隔(w1)は、前記針状ころ(2)のころ径(d)の1.01倍以上1.25倍以下に設定されている請求項1から3のいずれかに記載のシェル形針状ころ軸受。
【請求項7】
定位置で回転するロータ軸(21)と、
前記ロータ軸(21)の回転中心から偏心した位置に中心をもつ円筒状の外周を有し、前記ロータ軸(21)の回転中心まわりに偏心回転する偏心軸部(20)と、
前記偏心軸部(20)の外周に装着された請求項1から3のいずれかに記載のシェル形針状ころ軸受(1)と、を有する偏心回転装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、シェル形針状ころ軸受およびそのシェル形針状ころ軸受を使用した偏心回転装置に関する。
【背景技術】
【0002】
カーエアコン等に使用されるスクロールコンプレッサは、一般に、偏心回転する偏心軸部と、その偏心軸部に取り付けられる旋回スクロールとを有する。偏心軸部は、定位置で回転するロータ軸の回転中心から偏心した位置に中心をもつ円筒状の外周を有し、その偏心軸部の外周に、旋回スクロールを支持するシェル形針状ころ軸受が装着される。
【0003】
ここで、偏心軸部に装着されるシェル形針状ころ軸受は、通常の軸受回転による遠心力とは別に、偏心回転による遠心力が発生する。そのため、保持器の案内方式として、ころ案内方式(針状ころの表面に保持器を摺接させることで保持器を径方向に位置決めする方式)を採用したのでは、偏心回転に伴う遠心力により、保持器が一部の針状ころに強く接触し、針状ころの表面の潤滑油が掻き取られて油膜切れが発生するおそれがある。
【0004】
そこで、この油膜切れを防止するため、スクロールコンプレッサの偏心軸部に装着されるシェル形針状ころ軸受は、外輪案内方式(シェル形外輪の内周に保持器を摺接させることで保持器を径方向に位置決めする方式)の保持器を採用することが多い。外輪案内方式の保持器を採用したシェル形針状ころ軸受として、特許文献1の図1図4に示されるものや、特許文献2の図7に示されるものが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008-185176号公報
【特許文献2】特開2014-5918号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1のシェル形針状ころ軸受は、同文献の図1図4のように、周方向に間隔をおいて配置される複数の針状ころと、針状ころが転がり接触する円筒状の外輪軌道面が内周に形成されたシェル形外輪と、複数の針状ころの周方向間隔を保持する保持器とを有する。保持器は、複数の針状ころを間にして軸方向に対向する一対の環状部と、周方向に隣り合う針状ころの間を通って一対の環状部を連結する複数の柱部とを有し、一対の環状部と周方向に隣り合う柱部とが針状ころを収容するポケットを形成している。
【0007】
ここで、特許文献1の保持器の柱部には、ポケットに収容した針状ころがポケットから径方向内方に脱落するのを防止するころ止め突起が形成されている。ポケットの周方向両側のころ止め突起の周方向間隔は、ポケットに収容された針状ころがポケットから径方向内方に脱落しないように針状ころのころ径よりも小さく設定されている。
【0008】
また、特許文献1のシェル形外輪は、内周に外輪軌道面をもつ円筒部と、その円筒部の軸方向両端から径方向内側に断面U字状に曲げ返された一対の曲げ返し部を有する。一対の曲げ返し部は、それぞれの曲げ返し部の先端面を針状ころの軸方向端面に対向させることで、針状ころの軸方向移動を規制するとともに、一対の曲げ返し部の内周面で、保持器の外周面を案内することで、保持器を径方向に位置決めしている。
【0009】
この特許文献1のシェル形針状ころ軸受は、シェル形外輪の軸方向両端の一対の曲げ返し部の内周面で保持器を径方向に位置決めするので、偏心回転に伴う遠心力が発生したときに、保持器が一部の針状ころに強く接触するのを防止し、針状ころの表面の油膜切れを防ぐことができる。
【0010】
しかしながら、特許文献1のシェル形針状ころ軸受は、シェル形外輪の軸方向両端の一対の曲げ返し部のうち、一方の曲げ返し部の板厚が、他方の曲げ返し部の板厚よりも薄くなっており、板厚の薄い方の曲げ返し部と円筒部との間に径方向隙間が形成されているので、偏心回転に伴う遠心力を一対の曲げ返し部で支持したときに、板厚の薄い方の曲げ返し部が径方向外側にたわみ変形し、そのたわみ変形によって保持器の案内が不安定となり、軸受の円滑な回転が阻害されることが懸念される。
【0011】
また、特許文献1のシェル形針状ころ軸受は、針状ころを保持器のポケットに組み込む際、針状ころを保持器の径方向内側からポケットに向けて強い力で押し込み、その針状ころでポケットの周方向両側の柱部を一時的に変形させることで、針状ころをポケットに組み込むようにしている。しかしながら、針状ころをポケットに向けて強い力で押し込み、その針状ころで柱部を一時的に変形させるのでは、柱部に無理な応力が生じ、保持器の破損につながるおそれがある。加えて保持器の表面の硬度が針状ころの硬度よりも大きい場合、針状ころの外周が傷付くおそれがある。
【0012】
そこで、発明者は、外輪案内方式の保持器を採用したシェル形針状ころ軸受として、特許文献2の図7に示される構成をもつものを、スクロールコンプレッサの偏心軸部に装着して使用することを検討した。
【0013】
特許文献2の図7のシェル形針状ころ軸受は、特許文献1と同様、周方向に間隔をおいて配置される複数の針状ころと、針状ころが転がり接触する円筒状の外輪軌道面が内周に形成されたシェル形外輪と、複数の針状ころの周方向間隔を保持する保持器とを有する。保持器は、複数の針状ころを間にして軸方向に対向する一対の環状部と、周方向に隣り合う針状ころの間を通って一対の環状部を連結する複数の柱部とを有し、一対の環状部と周方向に隣り合う柱部とが針状ころを収容するポケットを形成している。
【0014】
特許文献2の保持器の各柱部は、一対の環状部から一定の外径で軸方向内方に延びる一対の柱端部と、一対の柱端部から軸方向内方に向かうに従って外径が次第に小さくなるように傾斜して延びる一対の柱傾斜部と、一対の柱傾斜部を連結する柱中央部とを有する。この保持器は、環状部と柱端部が、外輪軌道面に摺接して案内される外輪案内形式の保持器である。また、周方向に隣り合う柱中央部の周方向間隔が、ポケットから径方向内方への針状ころの脱落を防止するように針状ころのころ径よりも小さく設定されている。
【0015】
この特許文献2のシェル形針状ころ軸受は、シェル形外輪の外輪軌道面で保持器を径方向に位置決めするので、偏心回転に伴う遠心力が発生したときに、保持器が一部の針状ころに強く接触するのを防止し、針状ころの表面の油膜切れを防ぐことができる。また、保持器を案内する面が、高い寸法精度で形成された円筒状の外輪軌道面なので、保持器の案内が安定している。
【0016】
しかしながら、特許文献2のシェル形針状ころ軸受は、柱中央部で針状ころを案内するように構成されているため、軸受回転時、針状ころを収容するポケットの隅の部分に高い応力が生じやすく、保持器が疲労破壊するおそれがある。
【0017】
すなわち、シェル形針状ころ軸受を偏心軸部に装着して使用したとき、偏心回転による遠心力が針状ころに発生し、その針状ころによって一部の柱部が強く押される。このとき、針状ころが柱中央部を保持器の周方向に押圧することで、柱部の根元の部分(つまり針状ころを収容するポケットの隅の部分)に比較的大きいモーメント荷重が作用する。そのため、ポケットの隅の部分に生じる高い応力により、保持器が疲労破壊するおそれがある。
【0018】
この発明が解決しようとする課題は、偏心回転による遠心力が針状ころに発生する用途で使用したときに、保持器の案内が安定し、かつ、優れた耐久性をもつシェル形針状ころ軸受を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記の課題を解決するため、この発明では、以下の構成のシェル形針状ころ軸受を提供する。
[構成1]
周方向に間隔をおいて配置される複数の針状ころと、
前記針状ころが転がり接触する円筒状の外輪軌道面が内周に形成されたシェル形外輪と、
前記複数の針状ころの周方向間隔を保持する保持器とを有し、
前記保持器は、前記複数の針状ころを間にして軸方向に対向する一対の環状部と、周方向に隣り合う前記針状ころの間を通って前記一対の環状部を連結する複数の柱部とを有し、
前記一対の環状部と周方向に隣り合う前記柱部は、前記針状ころを収容するポケットを形成し、
前記各柱部は、前記一対の環状部から一定の外径で軸方向内方に延びる一対の柱端部と、前記一対の柱端部から軸方向内方に向かうに従って外径が次第に小さくなるように傾斜して延びる一対の柱傾斜部と、前記一対の柱傾斜部を連結する柱中央部とを有し、
前記保持器は、前記環状部と前記柱端部とが前記外輪軌道面に摺接して案内される外輪案内形式の保持器であり、
周方向に隣り合う前記柱中央部の周方向間隔が、前記ポケットから径方向内方への前記針状ころの脱落を防止するように前記針状ころのころ径よりも小さく設定されているシェル形針状ころ軸受において、
前記柱端部は、前記針状ころに摺接するように周方向に突出して形成されたころ案内突起を有し、
前記ポケットの周方向両側の前記ころ案内突起の周方向間隔が、前記針状ころのころ径よりも大きく設定されていることを特徴とするシェル形針状ころ軸受。
【0020】
この構成を採用すると、シェル形外輪の外輪軌道面で保持器を径方向に位置決めするので、偏心回転に伴う遠心力が発生したときに、保持器が一部の針状ころに強く接触するのを防止し、針状ころの表面の油膜切れを防ぐことができる。また、保持器を案内する面が、高い寸法精度で形成された円筒状の外輪軌道面なので、保持器の案内が安定している。
【0021】
また、柱端部に、針状ころに摺接するように周方向に突出するころ案内突起が形成されているので、偏心回転による遠心力が針状ころに発生し、その針状ころによって一部の柱部が強く押されたときに、その押圧荷重が、柱中央部ではなく、柱端部に負荷される。そのため、柱部の根元の部分(つまり針状ころを収容するポケットの隅の部分)に作用するモーメント荷重が小さくなり、ポケットの隅の部分に発生する応力が低減され、保持器の耐久性を高めることが可能となる。
【0022】
また、ポケットの周方向両側のころ案内突起の周方向間隔が、針状ころのころ径よりも大きく設定されているので、保持器のポケットに針状ころを組み込む際に、保持器の柱部を変形させずに、保持器の径方向外側からポケットに針状ころを挿入することができる。そのため、保持器のポケットに針状ころを組み込む際に、柱部に無理な応力が生じたり、針状ころの外周が傷付いたりするのを防止し、保持器および針状ころの耐久性を確保することができる。加えて、針状ころの組み込み時の傷付きを防止することができるため、保持器の硬度を針状ころの硬度よりも高く設定し、保持器の耐久性を効果的に向上させることも可能となる。
【0023】
[構成2]
前記保持器は、前記一対の環状部が前記柱端部と同一の径方向厚さで軸方向に真っ直ぐ延びる断面形状をもつV形保持器である構成1に記載のシェル形針状ころ軸受。
【0024】
この構成を採用すると、一対の環状部が径方向内側に延びるフランジ部をもつM形保持器よりも、板厚の厚い保持器を採用することができるので、保持器の強度を効果的に高めることができる。
【0025】
[構成3]
前記柱端部の径方向厚さが前記針状ころのころ径の40%以上に設定されている構成2に記載のシェル形針状ころ軸受。
【0026】
この構成を採用すると、柱端部の径方向厚さが厚いので、偏心回転による遠心力が針状ころに発生する用途に使用したときにも十分な強度をもつ保持器を得ることができる。
【0027】
[構成4]
前記シェル形外輪は、前記外輪軌道面を内周にもつ円筒部と、前記円筒部の軸方向両端から径方向内方に延びる一対の鍔部とを有し、
前記一対の鍔部のうち一方の鍔部の軸方向厚さが、他方の鍔部の軸方向厚さよりも薄く、かつ、前記一方の鍔部の硬度が、前記他方の鍔部の硬度よりも低い構成1から3のいずれかに記載のシェル形針状ころ軸受。
【0028】
上記構成は、次の方法でシェル形針状ころ軸受を製造したときに得られるものである。まず、厚さの異なる一対の鍔部を軸方向両端に有し、その一対の鍔部のうち、厚い方の鍔部のみが径方向内方を向き、薄い方の鍔部は軸方向を向いた状態のシェル形外輪を準備する。このシェル形外輪は、全体に焼入れを施して硬度を高めた後、薄い方の鍔部の部分に焼なましを施すことで、薄い方の鍔部の硬度を下げておく。また、保持器と針状ころを準備し、保持器の各ポケットに径方向外側から針状ころを組み込む。次に、シェル形外輪に、針状ころを各ポケットに組み込んだ状態の保持器を挿入する。その後、シェル形外輪の薄い方の鍔部を径方向内方に曲げる。この方法でシェル形針状ころ軸受を製造すると、保持器のポケットに径方向外側から針状ころを組み込むことができるので、保持器の柱部に無理な応力が生じたり、針状ころの外周が傷付いたりするのを防止し、保持器および針状ころの耐久性を確保することができる。加えて、針状ころの組み込み時の傷付きを防止することができるため、保持器の硬度を針状ころの硬度を高く設定し、保持器の耐久性を効果的に向上させることも可能となる。
【0029】
[構成5]
前記針状ころを径方向内方に移動させ、その針状ころを前記ポケットの周方向両側の前記柱中央部で受け止めたときに、前記環状部の外周に対して前記針状ころが径方向内側に沈み込む位置関係となるように前記柱中央部が形成されている構成1から4のいずれかに記載のシェル形針状ころ軸受。
【0030】
この構成を採用すると、保持器の案内方式を、確実に外輪案内方式(シェル形外輪の内周に保持器を摺接させることで保持器を径方向に位置決めする方式)とすることができる。
【0031】
[構成6]
前記ポケットの周方向両側の前記ころ案内突起の周方向間隔は、前記針状ころのころ径の1.01倍以上1.25倍以下に設定されている構成1から5のいずれかに記載のシェル形針状ころ軸受。
【0032】
この構成を採用すると、保持器のポケットに針状ころを組み込む際に、保持器の柱部が変形するのを確実に防止することができる。
【0033】
また、この発明では、上記のシェル形針状ころ軸受を使用した偏心回転装置として、以下の構成のものを併せて提供する。
[構成7]
定位置で回転するロータ軸と、
前記ロータ軸の回転中心から偏心した位置に中心をもつ円筒状の外周を有し、前記ロータ軸の回転中心まわりに偏心回転する偏心軸部と、
前記偏心軸部の外周に装着された構成1から6のいずれかに記載のシェル形針状ころ軸受と、を有する偏心回転装置。
【発明の効果】
【0034】
この発明のシェル形針状ころ軸受は、シェル形外輪の外輪軌道面で保持器を径方向に位置決めするので、偏心回転に伴う遠心力が発生したときに、保持器が一部の針状ころに強く接触するのを防止し、針状ころの表面の油膜切れを防ぐことができる。また、針状ころが転がり接触する外輪軌道面で保持器を案内するので、保持器の案内が安定している。
【0035】
また、柱端部に、針状ころに摺接するように周方向に突出するころ案内突起が形成されているので、偏心回転による遠心力が針状ころに発生し、その針状ころによって一部の柱部が強く押されたときに、その押圧荷重が、柱中央部ではなく、柱端部に負荷される。そのため、柱部の根元の部分(つまり針状ころを収容するポケットの隅の部分)に作用するモーメント荷重が小さく、ポケットの隅の部分に発生する応力も低くなり、保持器の耐久性が高い。
【0036】
また、ポケットの周方向両側のころ案内突起の周方向間隔が、針状ころのころ径よりも大きく設定されているので、保持器のポケットに針状ころを組み込む際に、保持器の柱部を変形させずに、保持器の径方向外側からポケットに針状ころを挿入することができる。そのため、保持器のポケットに針状ころを組み込む際に、柱部に無理な応力が生じたり、針状ころの外周が傷付いたりするのを確実に防止することができ、保持器および針状ころの耐久性が高い。
【図面の簡単な説明】
【0037】
図1】この発明の実施形態にかかるシェル形針状ころ軸受に偏心方向(図では下向き)の遠心力が作用した状態を示す断面図
図2図1のII-II線に沿った断面図
図3図1のIII-III線に沿った断面図
図4図2に示す保持器を外径側から見た展開図
図5図1のII-II線の近傍を拡大して示す図
図6図1のIII-III線の近傍を拡大して示す図
図7図5に示す保持器と針状ころとの寸法関係を示す図
図8】(a)は、図1に示す保持器のポケットに径方向外側から針状ころを組み込み、その保持器をシェル形外輪に挿入する工程を示す図、(b)は、(a)の工程の後、板厚の薄い方の鍔部を径方向内方に曲げる工程を示す図、(c)は、(b)の工程によりシェル形外輪と針状ころと保持器とが一体化した状態を示す図
図9図1に示すシェル形針状ころ軸受を使用したスクロールコンプレッサ(偏心回転装置)の一例を示す断面図
【発明を実施するための形態】
【0038】
図1に、この発明の実施形態にかかるシェル形針状ころ軸受1を示す。このシェル形針状ころ軸受1は、複数の針状ころ2とシェル形外輪3と保持器4とを有する。
【0039】
針状ころ2は、円筒状の外周を有するころである。各針状ころ2は、針状ころ2の軸線が保持器4の軸線と平行となる姿勢で、周方向に間隔をおいて配置されている。針状ころ2の直径は6mm以下であり、針状ころ2の軸方向長さは針状ころ2の直径の3倍以上10倍以下である。針状ころ2の外周には、取り付け誤差等により針状ころ2の端部外周に応力集中が生じるのを防ぐためのクラウニング(針状ころ2の外周の母線形状をわずかな曲率をもつ凸曲線とすること)を施してもよい。
【0040】
シェル形外輪3は、鋼板を絞り加工して形成された外輪である。シェル形外輪3の内周には、針状ころ2が転がり接触する円筒状の外輪軌道面5が形成されている。このシェル形外輪3は、外輪軌道面5に接触した状態の針状ころ2の内接円径が20mm以上40mm以下となるような大きさを有する。
【0041】
図2図3に示すように、シェル形外輪3は、内周に外輪軌道面5をもつ円筒部6と、円筒部6の軸方向両端から径方向内方に延びる一対の鍔部7,8とを有する。鍔部7の軸方向厚さは、鍔部8の軸方向厚さよりも薄くなっている。具体的には、鍔部7の軸方向厚さは、鍔部8の軸方向厚さの75%以下となっている。円筒部6と鍔部8は、焼入れを施すことで硬度が高められている。一方、鍔部7は、焼入れの後に焼なましを施すことにより硬度が低下し、その結果、鍔部7の硬度が、円筒部6および鍔部8の硬度よりも低くなっている。
【0042】
図4に示すように、保持器4は、複数の針状ころ2を間にして軸方向に対向する一対の環状部9と、周方向に隣り合う針状ころ2の間を通って一対の環状部9を連結する複数の柱部10とを有する。一対の環状部9と周方向に隣り合う柱部10は、針状ころ2を収容するポケット11を形成している。
【0043】
図2図3に示すように、柱部10は、一対の環状部9から一定の外径で軸方向内方に延びる一対の柱端部12と、一対の柱端部12から軸方向内方に向かうに従って外径が次第に小さくなるように傾斜して延びる一対の柱傾斜部13と、一対の柱傾斜部13を連結する柱中央部14とを有する。軸方向内方は、環状部9から柱部10に向かう方向であり、軸方向外方は、柱部10から環状部9に向かう方向である。
【0044】
一対の環状部9は、それぞれ針状ころ2の軸方向端面に沿って周方向に延びる円環状に形成されている。各環状部9は、柱端部12と同一の径方向厚さで軸方向に真っ直ぐ延びる断面形状を有する。この保持器4は、環状部9と柱部10が、周方向から見てV字状を呈するV形保持器である。柱端部12の径方向厚さは、針状ころ2のころ径の40%以上に設定されている。
【0045】
環状部9は、円筒状の外周面を有する。柱端部12は、環状部9の外周面と同一外径の部分円筒状の径方向外側面を有する。外輪軌道面5は、シェル形外輪3をリングゲージに圧入した状態で0.008mm以下の真円度を有する。環状部9の外周面と柱端部12の径方向外側面は、外輪軌道面5に摺接して案内される被案内面とされている。被案内面はRa1.0μm以下の面粗さを有する。環状部9の外周面は0.15mm以下の真円度を有する。
【0046】
図4に示すように、柱端部12は、周方向端面15と、周方向端面15から周方向に突出して形成されたころ案内突起16とを有する。周方向端面15は、柱端部12の径方向内側面17(図2図3参照)と直交して形成されている。ころ案内突起16は、周方向端面15の軸方向内側に隣接して設けられている。柱端部12の周方向端面15と針状ころ2の間には、潤滑油が流入する隙間が形成されている。環状部9の軸方向端面からころ案内突起16の軸方向外端までの距離は、1mm以上5mm以下である。
【0047】
図5図6に示すように、保持器4は、ころ案内突起16を各針状ころ2に摺接させることで針状ころ2の周方向間隔を保持するように構成されている。すなわち、ころ案内突起16は、外輪軌道面5に接触した状態の針状ころ2を周方向移動させたときに、針状ころ2が柱中央部14に接触するよりも前にころ案内突起16に接触するように、周方向端面15(図4参照)から周方向に突出して形成されている。ころ案内突起16の先端には、針状ころ2の外周に摺接するころ案内面18が形成されている。ころ案内面18は、径方向内側に向かうに従って周方向に後退するように傾斜している。
【0048】
図7に示すように、ポケット11の周方向両側のころ案内突起16の周方向間隔w1は、保持器4の径方向外側からポケット11に針状ころ2を挿入するときに、柱部10を変形させずに針状ころ2を挿入することができるように、針状ころ2のころ径dよりも大きく設定されている。具体的には、ポケット11の周方向両側のころ案内突起16の周方向間隔w1は、針状ころ2のころ径dの1.01倍以上1.25倍以下に設定されている。
【0049】
周方向に隣り合う柱中央部14の周方向間隔w2は、図7の一点鎖線に示すように、針状ころ2を径方向内方に移動させたときに、柱中央部14の周方向端面が針状ころ2の径方向内方への移動を規制してポケット11から径方向内方への針状ころ2の脱落を防止するように、針状ころ2のころ径dよりも小さく設定されている。また、柱中央部14は、図7の一点鎖線に示すように、針状ころ2を径方向内方に移動させ、その針状ころ2をポケット11の周方向両側の柱中央部14で受け止めたときに、環状部9の外周に対して針状ころ2が径方向内側に沈み込む位置関係となるように形成されている。これにより、保持器4の案内方式が、確実に外輪案内方式となる。
【0050】
このシェル形針状ころ軸受1は、次のようにして製造することができる。まず、図8(a)に示すように、厚さの異なる一対の鍔部7,8を軸方向両端に有し、その一対の鍔部7,8のうち、厚い方の鍔部8のみが径方向内方を向き、薄い方の鍔部7は軸方向を向いた状態のシェル形外輪3を準備する。このシェル形外輪3は、全体に焼入れを施して硬度を高めた後、薄い方の鍔部7の部分に焼なましを施すことで、薄い方の鍔部7の硬度を下げたものである。また、保持器4と針状ころ2を準備し、保持器4の各ポケット11に径方向外側から針状ころ2を組み込む。次に、図8(b)に示すように、針状ころ2を各ポケット11に組み込んだ状態の保持器4をシェル形外輪3に挿入する。その後、図8(c)に示すように、シェル形外輪3の薄い方の鍔部7を径方向内方に曲げる。この方法でシェル形針状ころ軸受1を製造すると、保持器4のポケット11に径方向外側から針状ころ2を組み込むことができるので、保持器4の柱部10に無理な応力が生じたり、針状ころ2の外周が傷付いたりするのを防止し、保持器4の耐久性を確保することができる。
【0051】
このシェル形針状ころ軸受1は、図9に示すスクロールコンプレッサの偏心軸部20に装着されるシェル形針状ころ軸受1として使用することができる。このスクロールコンプレッサは、定位置で回転するロータ軸21と、ロータ軸21の回転中心と同じ位置に中心をもつ円筒状の外周を有する主軸部22と、ロータ軸21の回転中心から偏心した位置に中心をもつ円筒状の外周を有する偏心軸部20と、その偏心軸部20に取り付けられる旋回スクロール23とを有する。
【0052】
主軸部22は、ハウジング24に組み付けた主軸受25で回転可能に支持されている。ロータ軸21は、図示しない原動機(エンジン、電動モータなど)に機械的に連結されている。そして、ロータ軸21が原動機によって回転駆動されると、偏心軸部20がロータ軸21の回転中心まわりに偏心回転するようになっている。偏心軸部20の外周には、旋回スクロール23を支持するシェル形針状ころ軸受1が装着されている。旋回スクロール23は、固定スクロール26に対して偏心回転することで、旋回スクロール23と固定スクロール26の間に形成される圧縮室内の気体を圧縮する。
【0053】
図9に示すスクロールコンプレッサにおいて、図示しない原動機の回転がロータ軸21に入力され、偏心軸部20が偏心回転するとき、シェル形針状ころ軸受1は、通常の軸受回転による遠心力とは別に、偏心回転による遠心力が発生する。偏心回転による遠心力は、シェル形針状ころ軸受1を構成する保持器4と各針状ころ2に偏心方向(図9では上方、図1~3では下方)に作用する。
【0054】
ここで、上記実施形態のシェル形針状ころ軸受1は、図3図6に示すように、シェル形外輪3の外輪軌道面5に保持器4の外周を摺接させることで、保持器4を径方向に位置決めするので、偏心回転に伴う遠心力が発生したときに、保持器4が一部の針状ころ2に強く接触するのを防止し、針状ころ2の表面の油膜切れを防ぐことができる。また、保持器4を案内する面が、高い寸法精度で形成された円筒状の外輪軌道面5なので、保持器4の案内が安定している。
【0055】
また、このシェル形針状ころ軸受1は、図4図6に示すように、柱端部12に、針状ころ2に摺接するように周方向に突出するころ案内突起16が形成されているので、偏心回転による遠心力が針状ころ2に発生し、その針状ころ2によって一部の柱部10(図1では左右方向の端に位置する柱部10)が保持器4の周方向に強く押されたときに、その押圧荷重が、柱中央部14ではなく、柱端部12に負荷される。そのため、図4に示す柱部10の根元の部分(つまり針状ころ2を収容するポケット11の隅の部分)に作用するモーメント荷重が小さく、ポケット11の隅の部分に発生する応力も低くなり、保持器4の耐久性が高い。
【0056】
また、このシェル形針状ころ軸受1は、図7に示すように、ポケット11の周方向両側のころ案内突起16の周方向間隔w1が、針状ころ2のころ径dよりも大きく設定されているので、保持器4のポケット11に針状ころ2を組み込む際に、保持器4の柱部10を変形させずに、保持器4の径方向外側からポケット11に針状ころ2を挿入することができる。そのため、保持器4のポケット11に針状ころ2を組み込む際に、柱部10に無理な応力が生じたり、針状ころ2の外周が傷付いたりするのを確実に防止することができ、保持器4および針状ころ2の耐久性が高い。加えて、針状ころ2の組み込み時の傷付きを防止することができるため、保持器4の硬度を針状ころ2の硬度よりも高く設定し、保持器4の耐久性を効果的に向上させることも可能である。
【0057】
また、このシェル形針状ころ軸受1は、図2図3に示すように、保持器4として、一対の環状部9が柱端部12と同一の径方向厚さで軸方向に真っ直ぐ延びる断面形状をもつV形保持器を採用しているので、一対の環状部9が径方向内側に延びるフランジ部をもつM形保持器よりも、板厚の厚い保持器4を採用することができ、保持器4の強度を効果的に高めることが可能となっている。特に、柱端部12の径方向厚さを、針状ころ2のころ径dの40%以上に設定しているので、偏心回転による遠心力が針状ころ2に発生する用途に使用したときにも、保持器4の十分な強度を確保することが可能となっている。
【0058】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0059】
1 シェル形針状ころ軸受
2 針状ころ
3 シェル形外輪
4 保持器
5 外輪軌道面
6 円筒部
7,8 鍔部
9 環状部
10 柱部
11 ポケット
12 柱端部
13 柱傾斜部
14 柱中央部
16 ころ案内突起
20 偏心軸部
21 ロータ軸
d ころ径
w1 ころ案内突起の周方向間隔
w2 柱中央部の周方向間隔
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9