(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024116642
(43)【公開日】2024-08-28
(54)【発明の名称】イネ高温登熟障害程度推定方法及びイネ製造方法
(51)【国際特許分類】
A01G 7/00 20060101AFI20240821BHJP
A01G 22/22 20180101ALI20240821BHJP
【FI】
A01G7/00 603
A01G22/22 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023022344
(22)【出願日】2023-02-16
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 掲載日 令和4年3月27日 掲載アドレス http://www.cropscience.jp/meeting/253/index.html
(71)【出願人】
【識別番号】306024148
【氏名又は名称】公立大学法人秋田県立大学
(74)【代理人】
【識別番号】100097113
【弁理士】
【氏名又は名称】堀 城之
(74)【代理人】
【識別番号】100162363
【弁理士】
【氏名又は名称】前島 幸彦
(74)【代理人】
【識別番号】100194283
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 大勇
(72)【発明者】
【氏名】小川 敦史
(72)【発明者】
【氏名】吉野 早紀
(72)【発明者】
【氏名】豊福 恭子
(72)【発明者】
【氏名】曽根 千晴
(57)【要約】
【課題】根菜の胚軸においてカリウム含有率を非破壊で測定することが可能な方法を提供する。
【解決手段】
出穂期から穂揃期に被検体のイネ茎葉部において、400~850nmである可視光領域の光を照射する。そして、光の二種以上の波長に対応する反射強度を測定して、該反射強度から反射率を算出する。この反射強度及び反射率の値に基づいて被検体の収穫時の推定整粒率又は収穫時の推定未熟粒率を、収穫時のイネ高温登熟障害程度として、非破壊で推定する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
出穂期から穂揃期に被検体のイネ茎葉部において、400~850nmである可視光領域の光を照射し、
前記光の二種以上の波長に対応する反射強度を測定して、該反射強度から反射率を算出し、
前記反射強度及び前記反射率の値に基づいて前記被検体の収穫時の推定整粒率又は収穫時の推定未熟粒率を、収穫時のイネ高温登熟障害程度として推定する
ことを特徴とするイネ高温登熟障害程度推定方法。
【請求項2】
前記収穫時の推定整粒率は、設定された下記式(1)に基づき算出される
推定整粒率=a1×R1+a1×R1+a1×R1 …… +an×Rn+b --式(1)
ただし、R1、R2、R3……Rnは、400~850nmの間に含まれるn種の波長に対応する出穂期から穂揃期に測定された反射率を示し、a1、a2、a3……an及びbは、十分に多い母集団において、出穂期から穂揃期に測定された反射率及び収穫時の整粒率を用いて最小自乗法で決定された係数を示す
ことを特徴とする請求項1に記載のイネ高温登熟障害程度推定方法。
【請求項3】
前記収穫時の推定整粒率は、設定された下記式(2)に基づき、任意の二波長の反射率から算出する正規化分光反射指数(NDSI)を用いて算出される
NDSIij=(Ri-Rj)/(Ri+Rj)
推定整粒率=d×NDSIij+e --式(2)
ただし、添え字i、jは波長(nm)、RiとRjとは波長i及びjnmのときの出穂期から穂揃期に測定された反射率、NDSIijは波長i及びjnmのときの正規化分光反射指数を示し、d及びeは十分に多い母集団において出穂期から穂揃期に測定された反射率及び収穫時の整粒率を用いて決定された係数を示す
ことを特徴とする請求項1に記載のイネ高温登熟障害程度推定方法。
【請求項4】
前記収穫時の推定未熟粒率は、設定された下記式(3)に基づき推定される
推定未熟粒率=a1×R1+a1×R1+a1×R1 …… +an×Rn+b --式(3)
ただし、R1、R2、R3……Rnは、400~850nmの間に含まれるn種の波長に対応する出穂期から穂揃期に測定された反射率を示し、a1、a2、a3……an及びbは、十分に多い母集団において、出穂期から穂揃期に測定された反射率及び収穫時の未熟粒率を用いて最小自乗法で決定された係数を示す
ことを特徴とする請求項1に記載のイネ高温登熟障害程度推定方法。
【請求項5】
前記収穫時の推定未熟粒率は、設定された下記式(4)に基づき、任意の二波長の反射率から算出する正規化分光反射指数(NDSI)を用いて算出される
NDSIij=(Ri-Rj)/(Ri+Rj)
推定未熟粒率=f×NDSIij+g --式(4)
ただし、添え字i、jは波長(nm)、RiとRjとは波長i及びjnmのときの出穂期から穂揃期に測定された反射率、NDSIijは波長i及びjnmのときの正規化分光反射指数を示し、f及びgは、十分に多い母集団において、出穂期から穂揃期に測定された反射率及び収穫時の未熟粒率を用いて決定された係数を示す
ことを特徴とする請求項1に記載のイネ高温登熟障害程度推定方法。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載のイネ高温登熟障害程度推定方法により、イネの収穫時のイネ高温登熟障害程度を算出し、イネを栽培する
ことを特徴とするイネ製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特にイネの出穂期から穂揃期に、収穫時の高温登熟障害程度を非破壊で推定するイネ高温登熟障害程度推定方法及びイネ製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
IPCC(気候変動に関する政府間パネル)によれば、世界の平均地上気温は1880から2012年の間に0.85℃上昇しており、地球の気候システムの温暖化には疑う余地がない。
地球温暖化に伴い日本のイネ栽培の現場において、出穂期から登熟期にかけての高温が原因となって、玄米品質の低下、すなわち「高温登熟障害」が全国的に頻発していることが指摘されている。対策の一つとして、高温登熟耐性を持つ新品種の育成が行われている。現在、全国の公設農業試験場を中心に高温登熟障害耐性を持つイネ新品種の育成が進められている。
特許文献1には、このような高温登熟障害耐性イネを選抜する方法が記載されている。
【0003】
一方、非特許文献1によれば、高温登熟障害として最も問題となっている白未熟粒の発生は、登熟期の特に出穂後20日間の高温によって助長され、その発生率は平均気温26℃を超えると急激に増加する。このため、栽培学的に高温登熟障害を回避する技術が検討されている。
非特許文献1では、食味向上のための減肥傾向が近年の高温登熟障害を助長している可能性があるため、出穂期から穂揃期における窒素追肥が高温登熟障害回避における有効な手段であると報告されている。
【0004】
しかしながら、非特許文献1によれば、出穂期から穂揃期における窒素栄養の維持により籾数の過剰着生による乳白粒の増加や食味の低下を招くおそれもあるため、地域の実情に照らしながら適正な施肥量や裁植密度を提示する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】森田敏、イネの高温登熟障害の克服に向けて、日本作物学会紀事、2008年、77、p.1~12
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このため、出穂期から穂揃期において、収穫時の高温登熟障害を推定できれば、窒素追肥を行うことで栽培学的に高温登熟障害回避対策が可能になり、過剰着生も防止できると考えられた。
よって、イネの出穂期から穂揃期に、収穫時の高温登熟障害程度を推定する方法が求められていた。
【0008】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、上述の問題を解消することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のイネ高温登熟障害程度推定方法は、出穂期から穂揃期に被検体のイネ茎葉部において、400~850nmである可視光領域の光を照射し、前記光の二種以上の波長に対応する反射強度を測定して、該反射強度から反射率を算出し、前記反射強度及び前記反射率の値に基づいて前記被検体の収穫時の推定整粒率又は収穫時の推定未熟粒率を、収穫時のイネ高温登熟障害程度として推定することを特徴とすることを特徴とする。
本発明のイネ高温登熟障害程度推定方法は、前記収穫時の推定整粒率は、設定された下記式(1)に基づき算出される
推定整粒率=a1×R1+a1×R1+a1×R1 …… +an×Rn+b --式(1)
ただし、R1、R2、R3……Rnは、400~850nmの間に含まれるn種の波長に対応する出穂期から穂揃期に測定された反射率を示し、a1、a2、a3……an及びbは、十分に多い母集団において、出穂期から穂揃期に測定された反射率及び収穫時の整粒率を用いて最小自乗法で決定された係数を示すことを特徴とする。
本発明のイネ高温登熟障害程度推定方法は、前記収穫時の推定整粒率は、設定された下記式(2)に基づき、任意の二波長の反射率から算出する正規化分光反射指数(NDSI)を用いて算出される
NDSIij=(Ri-Rj)/(Ri+Rj)
推定整粒率=d×NDSIij+e --式(2)
ただし、添え字i、jは波長(nm)、RiとRjとは波長i及びjnmのときの出穂期から穂揃期に測定された反射率を示し、NDSIijは波長i及びjnmのときの正規化分光反射指数、d及びeは十分に多い母集団において出穂期から穂揃期に測定された反射率及び収穫時の整粒率を用いて決定された係数を示すことを特徴とする。
本発明のイネ高温登熟障害程度推定方法は、前記収穫時の推定未熟粒率は、設定された下記式(3)に基づき推定される
推定未熟粒率=a1×R1+a1×R1+a1×R1 …… +an×Rn+b --式(3)
ただし、R1、R2、R3……Rnは、400~850nmの間に含まれるn種の波長に対応する出穂期から穂揃期に測定された反射率を示し、a1、a2、a3……an及びbは、十分に多い母集団において、出穂期から穂揃期に測定された反射率及び収穫時の未熟粒率を用いて最小自乗法で決定された係数を示すことを特徴とする。
本発明のイネ高温登熟障害程度推定方法は、前記収穫時の推定未熟粒率は、設定された下記式(4)に基づき、任意の二波長の反射率から算出する正規化分光反射指数(NDSI)を用いて算出される
NDSIij=(Ri-Rj)/(Ri+Rj)
推定未熟粒率=f×NDSIij+g --式(4)
ただし、添え字i、jは波長(nm)、RiとRjとは波長i及びjnmのときの出穂期から穂揃期に測定された反射率、NDSIijは波長i及びjnmのときの正規化分光反射指数を示し、f及びgは、十分に多い母集団において、出穂期から穂揃期に測定された反射率及び収穫時の未熟粒率を用いて決定された係数を示すことを特徴とする。
本発明のイネ製造方法は、前記イネ高温登熟障害程度推定方法により、イネの収穫時のイネ高温登熟障害程度を算出し、イネを栽培することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、イネ茎葉部において、400~850nmである可視光領域の光を照射し、当該光の二種以上の波長に対応する反射強度を測定して、該反射強度から反射率を算出し、反射強度及び反射率の値に基づいて収穫時の整粒率又は未熟粒率を推定することで、非破壊でイネの出穂期から穂揃期に収穫時の高温登熟障害程度を測定可能なイネ高温登熟障害程度推定方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施例に係る実験における式(5)を基に算出した整粒率の推定値と実測値の関係を示すグラフである。
【
図2】本発明の実施例に係る実験における最も低いP値を示したNDSI
488.8nm、532.8nmと整粒率との関係を示すグラフである。
【
図3】本発明の実施例に係る実験における推定式(6)を基に算出した算出した未熟粒率の指定値と実測値の関係を示すグラフである。
【
図4】本発明の実施例に係る実験における最も低いP値を示したNDSI
462.4nm、495.4nmと未熟粒率との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<実施の形態>
地球温暖化に伴い日本のイネ栽培の現場において、出穂期から登熟期にかけての高温が原因となって、玄米品質の低下すなわち高温登熟障害が全国的に頻発している。
栽培学的に高温登熟障害を回避するために、出穂期から穂揃期における窒素追肥が高温登熟障害回避における有効な手段である。一方、出穂期から穂揃期における窒素栄養の維持は籾数の過剰着生による乳白粒の増加や食味の低下を招く場合があり、地域の実情に照らしながら適正な施肥量や裁植密度を提示する必要がある。そこで、出穂期から穂揃期において、収穫時の高温登熟障害を推定できれば、窒素追肥を行うことで栽培学的に高温登熟障害回避対策が可能になると考えられ、非常に有用である。よって、出穂期から穂揃期に収穫時の高温登熟障害程度を推定する方法についての技術的なニーズがあった。
このため、本発明の発明者らは鋭意研究を行い、穂期から穂揃期における可視光反射率を利用することを着想し、収穫時のイネ高温登熟障害程度の非破壊測定法を確立し、本発明を完成させるに至った。
【0013】
具体的には、本発明者らは、後述する実施例で示すように、異なる温度条件でイネの栽培を行った。そして、出穂期から穂揃期に本発明による400~850nmの間の可視光領域における反射率の非破壊的測定を行った。また、収穫時に整粒率(整粒歩合)と未熟粒率について穀粒判別器により調査した。これについて、整粒率又は未熟粒率を回帰変数として重回帰分析のステップワイズ法、又は正規化分光反射指数を用いた検量線を作成して比較した。
結果として、整粒率又は未熟粒率と、可視光反射率との間には、0.1%以上の水準で、有意な相関がみられた。すなわち、出穂期から穂揃期における可視光反射率から収穫時の、整粒率又は未熟粒率の推定が可能となった。
【0014】
以下、本発明の実施の形態に係るイネの出穂期から穂揃期において収穫時の高温登熟障害程度を非破壊で推定する方法について、より詳細について説明する。
【0015】
本実施形態に係るイネ高温登熟障害程度推定方法は、出穂期から穂揃期において、収穫時のイネ高温登熟障害程度を推定する非破壊推定方法である。この方法は、出穂期から穂揃期に被検体のイネ茎葉部において、400~850nmの間に含まれる二種以上の波長に対応する反射強度を測定し、当該該反射強度から反射率を算出する。そして、これらの反射強度及び反射率の値に基づいて、被検体の収穫時の整粒率又は未熟粒率を、収穫時のイネ高温登熟障害程度として非破壊的に推定する。
すなわち、本実施形態に出穂期から穂揃期における収穫時のイネ高温登熟障害程度の非破壊推定方法は、出穂から穂揃期におけるイネの茎葉部に400~850nmの間の可視光領域に含まれる光を照射する。そして、400~850nmの間の可視光領域に含まれる二種以上の波長に対応する反射強度を計測して、この反射率を算出し、これらの値から収穫時の整粒率又は未熟粒率を推定するものである。
【0016】
より具体的には、本実施形態に係る収穫時の推定整粒率は、設定された下記の重回帰モデル式である式(1)に基づき推定することが可能である:
【0017】
推定整粒率=a1×R1+a1×R1+a1×R1 …… +an×Rn+b --式(1)
ただし、R1、R2、R3……Rnは、400~850nmの間に含まれるn種の波長に対応する出穂期から穂揃期に測定された反射率を示す。また、a1、a2、a3……an及びbは、十分に多い母集団において、出穂期から穂揃期に測定された反射率及び収穫時の整粒率を用いて最小自乗法で決定された係数を示す。
【0018】
さらに、収穫時の推定整粒率は、設定された下記の回帰モデル式である式(2)に基づき推定することが可能である:
【0019】
NDSIij=(Ri-Rj)/(Ri+Rj)
推定整粒率=d×NDSIij+e --式(2)
ただし、添え字i、jは波長(nm)、RiとRjとは波長i及びjnmのときの出穂期から穂揃期に測定された反射率、NDSIijは波長i及びjnmのときの正規化分光反射指数を示す。また、d及びeは十分に多い母集団において出穂期から穂揃期に測定された反射率及び収穫時の整粒率を用いて決定された係数を示す。
【0020】
さらに、収穫時の推定未熟粒率は、設定された下記の重回帰モデル式である式(3)に基づき推定することが可能である:
【0021】
推定未熟粒率=a1×R1+a1×R1+a1×R1 …… +an×Rn+b --式(3)
ただし、R1、R2、R3……Rnは、400~850nmの間に含まれるn種の波長に対応する出穂期から穂揃期に測定された反射率を示す。また、a1、a2、a3……an及びbは、十分に多い母集団において、出穂期から穂揃期に測定された反射率及び収穫時の未熟粒率を用いて最小自乗法で決定された係数を示す。
【0022】
収穫時の推定未熟粒率は、設定された下記の回帰モデル式である式(4)に基づき推定することが可能である。
NDSIij=(Ri-Rj)/(Ri+Rj)
推定未熟粒率=f×NDSIij+g --式(4)
ただし、添え字i、jは波長(nm)、RiとRjとは波長i及びjnmのときの出穂期から穂揃期に測定された反射率、NDSIijは波長i及びjnmのときの正規化分光反射指数を示す。また、f及びgは、十分に多い母集団において、出穂期から穂揃期に測定された反射率及び収穫時の未熟粒率を用いて決定された係数を示す。
【0023】
ここで、上述のn種の波長としては、二種以上(n≧2)の波長であり、少なくとも収穫時の整粒率又は未熟粒率を特徴的に説明可能な波長を用いる。具体的には、上述の式(1)の1~nまでのnを削減していって、十分に統計的に有意になる程度の波長であってもよい。後述の実施例では、450~840nmの間、2.1nm間隔で設定したため、この波長は220種(n=100)であったものの、より少なくてもよく、数十種~場合によっては二種でもよい。たとえば、後述の実施例では、代表的な二種の波長を用いた一例を示している。
ここで、各波長の反射率は、可視光用の分光測色計を用いて測定することが可能である。
【0024】
また、上述のa1、a2、a3……an及びbを算出するための十分に多い母集団は、例えば、十~数百程度であってもよく、相関係数が有意に算出できるサンプル数があればよい。
たとえば、後述の実施例で示すように二十程度のサンプル数で十分な相関が求められ得る。
【0025】
このように本実施形態に係るイネ高温登熟障害程度推定方法により、イネの収穫時のイネ高温登熟障害程度を測定し、収穫時のイネ高温登熟障害程度であることを非破壊的に確認して、イネを栽培、製造することが可能である。
【0026】
以上のように構成することで、以下のような効果を得ることができる。
従来、特許文献1に記載のように高温登熟障害耐性イネを選抜する方法が存在したものの、それ以外の通常の品種にて、イネの出穂期から穂揃期に、収穫時の高温登熟障害程度を推定する方法が求められていた。
これに対して、本実施形態に係るイネ高温登熟障害程度推定方法により、光を照射して得られた特定波長の反射光から、非破壊でイネの出穂期から穂揃期に収穫時の高温登熟障害程度を測定可能となる。すなわち、高温登熟障害程度を非破壊で定量的に測定することができる。よって、イネ栽培における品質検査に利用可能となる。
【0027】
すなわち、本実施形態に係るイネ高温登熟障害程度推定では、出穂期から穂揃期において収穫時の高温障害発生程度を表す整粒率と未熟粒率を非破壊的に推定することを可能にした。その結果、施肥等を適切にすることで、栽培学的に高温登熟障害の栽培学的回避策をとることが可能になる。
アジアを中心として全人類の1/3が米を主食としている。現在地球規模で温暖化が進んでおり、イネ高温登熟障害の問題は日本だけでなくアジアを中心とした地球規模の問題となりつつある。本実施形態に係るイネ高温登熟障害程度推定は、栽培学的に高温登熟障害耐性を回避する有効な手段となり得ると考えられる。
【0028】
加えて、本実施形態に係るイネ高温登熟障害程度推定方法では、通常の小型分光測色計や赤外分光センサ等により反射率を測定して、算出された重回帰式等に当てはめるだけで、イネ高温登熟障害の程度を非破壊で測定することが可能となる。これにより、特別な装置が必用なく、容易に検査することができる。また、非破壊で品質検査を行うことができるので、圃場の複数箇所についての検査も容易となる。
【0029】
なお、上述の実施形態においては、重回帰モデルを用いて、根菜カリウム含有率測定を行ったものの、その他の統計モデル、ニューラルネットワークやカーネルマシン等の各種機械学習等を用いることも可能である。
【実施例0030】
次に、図面に基づき本発明を実施例によりさらに説明するが、以下の具体例は本発明を限定するものではない。
【0031】
〔イネの栽培〕
供試品種に高温登熟障害耐性程度が異なり出穂時期が近いイネ品種として、高温登熟障害に強い品種である「ふさおとめ」と中程度である「あきたこまち」を用いた。秋田県農業試験場において、2020年4月10日に両品種の種子をいなほ粒状培土(いなほ化工株式会社製)に播種し育苗した。試験栽培は、秋田県立大学実験圃場(東経140度05分、北緯39度80分)で行った。1/2000aポットに、いなほ粒状培土を10L充填し、1ポットあたり硫安、過リン酸石灰、硫酸カリウムをそれぞれ1gずつ混合した後、2020年5月15日に両品種の苗を1ポットあたり2株植えで移植した。栽培は湛水条件で行った。両品種各処理区6反復設定した。両品種の出穂日は2020年8月4日であった。
【0032】
2020年7月30日に、秋田県立大学実験圃場内に設置されたビニールハウス内に半数の両品種6ポットずつを移動し、2020年9月10日までハウス内で栽培することで高温処理を行った(高温区)。
【0033】
〔分光反射率の測定方法〕
分光反射率の測定には、スマートフォン一体型分光器(Spectrum Catcher、株式会社ポーラスター・スペース製)を用いた。出穂期の2020年8月5日に、ポットごとに株より20cmの距離から葉身部分を撮影し、分光反射率のデータを取得した。測定は、15時30分から15時45分の15分間で行った。本機器を用いて、本実験では400nmから850nm間で平均2.1nmごとの分光反射率を計測した。
【0034】
〔玄米形質の測定方法〕
2020年9月10日にイネを刈取り、屋外で4週間乾燥した後、すべての籾を脱穀後籾摺りした。その後、玄米について、整粒率(整粒歩合)と未熟粒率について穀粒判別器(ES-V、Virgo、静岡製機株式会社製)により測定した。整粒は、全粒から未熟粒、被害粒、死米、及び着色粒を除いた粒とした。未熟粒は、成熟していない粒のうち死米を除いた粒とした。整粒率(整粒歩合)と未熟粒率とは、それぞれ、整粒及び未熟粒が全粒に占める重量比とした。
【0035】
〔データ処理と統計処理〕
統計処理は、統計ソフトJMP12.2.0(SAS Institute Inc、Cary、NC、USA製)を用いた。重回帰分析では、ステップワイズ法(変数増減法)を用い、変数を追加及び除去する基準のP値を0.2として分析を行った。
【0036】
〔結果〕
整粒率を目的変数、450nmから840nm間の平均2.1nmごとの分光反射率を説明変数として、重回帰分析を行ったところ、上述の式(1)の一例として、以下の式(5)のような推定式が得られた。
推定整粒率(%)=6307×R(462.4)-6115×R(469)+10 ――式(5)
【0037】
式(5)の括弧内の数値は、波長(nm)を示す。式(5)の決定係数R2は、0.60であった。
【0038】
図1に、式(5)を基に算出した整粒率の推定値と実測値の関係を示した。横軸は整粒率(推定値)(%)、縦軸は整粒率(実測値)(%)を示す。相関係数の「***」は、0.1%水準で有意であることを示す。すなわち、両者の間には0.1%水準で有意な相関が得られた。
【0039】
450nmから840nmの任意の2波長iとjnmの分光反射率(%)R(i)とR(j)から算出されるNDSIijと整粒率との相関関係を検討した。両者の相関係数を算出したときのP>0.001であるinmとjnmの組み合わせで最も低いP値を示したのは、NDSI488.8nm、532.8nmの場合でP=2.6E-5であった。
【0040】
図2に、品種ごとに正規化分光反射指数(NDSI)のNDSI
488.8nm、532.8nmと整粒率との関係を示した。横軸はNDSI
488.8nm、532.8nm、縦軸は整粒率(%)を示す。相関係数の「***」は、0.1%水準で有意であることを示す。このように、両者の間には0.1%水準で有意な相関が得られた。
【0041】
未熟粒率を目的変数、450nmから840nm間の平均2.1nmごとの分光反射率を説明変数として、重回帰分析を行ったところ、上述の式(3)の一例として、以下の式(6)のような推定式が得られた。
【0042】
推定未熟粒率(%)=-56775×R(462.4)+57670×R(464.6)+162×R(730.8)-1492×R(735.2)+1944×R(737.4)-549×R(739.6)+8 ―― 式(6)
【0043】
式(6)の括弧内の数値も、波長(nm)を示す。式(6)の決定係数R2は、0.88であった。
【0044】
図3に、式(6)を基に算出した未熟粒率の推定値と実測値の関係を示した。横軸は未熟粒率(推定値)(%)、縦軸は未熟粒率(実測値)(%)を示す。相関係数の「***」は、0.1%水準で有意であることを示す。両者の間には0.1%水準で有意な相関が得られた。
【0045】
次に、450nmから840nmの任意の2波長iとjnmの分光反射率(%)R(i)とR(j)から算出されるNDSIijと未熟粒率との相関関係を検討した。両者の相関係数を算出したときのP>0.001であるinmとjnmの組み合わせで最も低いP値を示したのは、NDSI462.4nm、495.4nmの場合でP=7.93E-6であった。
【0046】
図4に、NDSI
462.4nm、495.4nmと未熟粒率との関係を示した。横軸はNDSI
462.4nm、495.4nm、縦軸は整粒率(%)を示す。相関係数の「***」は、0.1%水準で有意であることを示す。両者の間には0.1%水準で有意な相関が得られた。
【0047】
なお、上記実施の形態の構成及び動作は例であって、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更して実行することができることは言うまでもない。
本発明は、出穂期から穂揃期におけるをイネ茎葉部に光を照射して得られた特定波長の反射光から、収穫時の整粒率及び未熟粒率を推定することができ、栽培時の検査に利用することが可能であるので、産業上に利用することができる。