(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024116643
(43)【公開日】2024-08-28
(54)【発明の名称】防護柵及び防護柵の施工方法
(51)【国際特許分類】
E01F 7/04 20060101AFI20240821BHJP
【FI】
E01F7/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023022347
(22)【出願日】2023-02-16
(71)【出願人】
【識別番号】000003528
【氏名又は名称】東京製綱株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088605
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 公延
(74)【代理人】
【識別番号】100098268
【弁理士】
【氏名又は名称】永田 豊
(74)【代理人】
【識別番号】100166420
【弁理士】
【氏名又は名称】福川 晋矢
(74)【代理人】
【識別番号】100150865
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 司
(72)【発明者】
【氏名】金子 則夫
(72)【発明者】
【氏名】河野 和人
【テーマコード(参考)】
2D001
【Fターム(参考)】
2D001PA06
2D001PB04
2D001PC03
2D001PD06
2D001PD10
2D001PD11
2D001PE01
(57)【要約】
【課題】阻止面が、支柱と、支柱よりも山側に設置されたアンカーと、の間で掛け渡される形式の防護柵において、極めて特殊な構成の使用を避けつつも、機能性が高い(高い荷重分散機能を有する)防護柵の提供。
【解決手段】傾斜地に設置される防護柵であって、複数の支柱12と、支柱12よりも山側に設けられるアンカーと、支柱12の上部と、アンカーの間に張られる面材であって、略矩形の外形形状を有する金網と、前記金網の支柱12の上部に配される一辺を少なくとも含む前記金網の周囲3辺を通された1本の面材索体と、を備えた面材11と、支柱12の上部に配されて面材11と締結される索体であって、隣り合う支柱12を往復するようにして環状に設けられ、前記往復の一方に対して面材11が締結されている、上辺索体15と、を備える、防護柵1。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
傾斜地に設置される防護柵であって、
複数の支柱と、
前記支柱よりも山側に設けられるアンカーと、
前記支柱の上部と、前記アンカーの間に張られる面材であって、
略矩形の外形形状を有する金網と、
前記金網の前記支柱の上部に配される一辺を少なくとも含む前記金網の周囲3辺を通された1本の面材索体と、を備えた面材と、
前記支柱の上部に配されて前記面材と締結される索体であって、隣り合う前記支柱を往復するようにして環状に設けられ、前記往復の一方に対して前記面材が締結されている、上辺索体と、
を備える、防護柵。
【請求項2】
前記面材索体の一部がループ状に取り廻されており、当該ループ状部によって、前記支柱の上部に対する取り付け部が形成されている、請求項1に記載の防護柵。
【請求項3】
前記面材が、
前記金網の周囲3辺以外の一辺に通される第2の面材索体と、
前記面材索体と前記第2の面材索体の間若しくは前記面材索体間に前記金網を通して張られた第3の面材索体を備える、請求項1又は2に記載の防護柵。
【請求項4】
複数の支柱と、前記支柱よりも山側に設けられるアンカーと、前記支柱の上部と前記アンカーの間に張られる面材と、を備える防護柵の施工方法であって、
前記支柱を斜面に立設するステップと、
前記アンカーを前記支柱よりも山側に設けるステップと、
形成された前記面材を、前記支柱の上部と前記アンカーの間に掛け渡すステップと、
を有し、
前記面材の形成において、
前記支柱間のスパンに適合した略矩形の外形形状を有する金網の前記支柱上部に配される一辺を少なくとも含む前記金網の周囲3辺を、1本の面材索体で通すステップと、
前記金網の残りの一辺に第2の面材索体を通すステップと、
複数の第3の面材索体を前記金網に通すことで、前記金網の対辺間に前記第3の面材索体を複数張るステップと、
を有する、防護柵の施工方法。
【請求項5】
隣り合う前記支柱間の距離の2倍以上の長さを有する上辺索体に対して前記面材を締結し、前記上辺索体を環状にして前記支柱を往復するようにして前記支柱の上部に設けるステップを有する、請求項4に記載の防護柵の施工方法。
【請求項6】
前記金網に前記面材索体を通す際に、前記面材索体の一部をループ状に取り廻すことで、前記支柱の上部に対する取り付け部を形成するステップを有する、請求項4又は5に記載の防護柵の施工方法。
【請求項7】
前記面材索体の一方端部のアイ加工が工場でアルミロック加工によって形成され、他方端部のアイ加工は前記金網の3辺を通された後に設置現場でくさび部材を有する索体留め金具を用いて形成される、請求項4又は5に記載の防護柵の施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、傾斜地に設置される防護柵に関する。
【背景技術】
【0002】
防護施設の一つに防護柵があり、対象物を所定領域に留め置くための防護柵として、ワイヤロープ等の索体や金網等の網体を用いた防護柵(或いは索体及び網体の両方を用いた防護柵)や、梁状の部材を用いた防護柵が利用されている。
防護柵の一態様として、阻止面が柔構造を有し、当該阻止面が支柱と、支柱よりも山側に設置されたアンカーとの間で掛け渡される形式のものがある。
このような落石防護柵に関する従来技術が、特許文献1~4によって開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002-322615号公報
【特許文献2】特許第6996801号公報
【特許文献3】特許第7079542号公報
【特許文献4】特許第5236104号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1~3は、阻止面として、鋼線やワイヤロープ等の線材を交差して編成した「三角ネット」が用いられた防護柵である。これに対し、特許文献4は、その段落0004に説明されているように、「三角ネット」の製作の手間やコストを課題とし、半完成品のフリーネットを用いた防護柵の記載がある。
特許文献4の半完成品のフリーネットを有する防護柵は、支柱本体の下部に半球ベースを設けることにより、支柱に軸力が作用すると、支柱が旋回して防護柵全体の荷重バランスを自動的に調整することができると説明されている。なお且つ、このような旋回(傾斜の変化)が許容された支柱を有する防護柵において、連続性を有する開放枠ロープが山側アンカーに対して摺動自在に係留してあるので、支柱の傾斜する旋回に伴い支柱上部と山側アンカーとの距離が変化したときに、開放枠ロープが摺動して網体の左右の側辺の長さの変動に追従して開放枠ロープの辺長を自動的に調整することができると説明されている。
特許文献4の半完成品のフリーネットを有する防護柵は、上記のような機能を有するものであるが、そのために下部に半球ベースを有するというかなり特殊な支柱を必要とするものとなっている。
特殊な支柱を要する場合、特殊部品を要するためコスト高となり、またその施工としても作業者にそれに特化した知識が必要となり得るものであり、このような面においては好ましくなく、従って、極めて特殊な構成の使用はなるべく避けつつ、機能性を高くした防護柵が求められている。
【0005】
本発明は、上記の点に鑑み、阻止面が、支柱と、支柱よりも山側に設置されたアンカーと、の間で掛け渡される形式の防護柵において、極めて特殊な構成の使用を避けつつも、機能性が高い防護柵を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(構成1)
傾斜地に設置される防護柵であって、複数の支柱と、前記支柱よりも山側に設けられるアンカーと、前記支柱の上部と、前記アンカーの間に張られる面材であって、略矩形の外形形状を有する金網と、前記金網の前記支柱の上部に配される一辺を少なくとも含む前記金網の周囲3辺を通された1本の面材索体と、を備えた面材と、前記支柱の上部に配されて前記面材と締結される索体であって、隣り合う前記支柱を往復するようにして環状に設けられ、前記往復の一方に対して前記面材が締結されている、上辺索体と、を備える、防護柵。
【0007】
(構成2)
前記面材索体の一部がループ状に取り廻されており、当該ループ状部によって、前記支柱の上部に対する取り付け部が形成されている、構成1に記載の防護柵。
【0008】
(構成3)
前記面材が、前記金網の周囲3辺以外の一辺に通される第2の面材索体と、前記面材索体と前記第2の面材索体の間若しくは前記面材索体間に前記金網を通して張られた第3の面材索体を備える、構成1又は2に記載の防護柵。
【0009】
(構成4)
複数の支柱と、前記支柱よりも山側に設けられるアンカーと、前記支柱の上部と前記アンカーの間に張られる面材と、を備える防護柵の施工方法であって、前記支柱を斜面に立設するステップと、前記アンカーを前記支柱よりも山側に設けるステップと、形成された前記面材を、前記支柱の上部と前記アンカーの間に掛け渡すステップと、を有し、前記面材の形成において、前記支柱間のスパンに適合した略矩形の外形形状を有する金網の前記支柱上部に配される一辺を少なくとも含む前記金網の周囲3辺を、1本の面材索体で通すステップと、前記金網の残りの一辺に第2の面材索体を通すステップと、複数の第3の面材索体を前記金網に通すことで、前記金網の対辺間に前記第3の面材索体を複数張るステップと、を有する、防護柵の施工方法。
【0010】
(構成5)
隣り合う前記支柱間の距離の2倍以上の長さを有する上辺索体に対して前記面材を締結し、前記上辺索体を環状にして前記支柱を往復するようにして前記支柱の上部に設けるステップを有する、構成4に記載の防護柵の施工方法。
【0011】
(構成6)
前記金網に前記面材索体を通す際に、前記面材索体の一部をループ状に取り廻すことで、前記支柱の上部に対する取り付け部を形成するステップを有する、構成4又は5に記載の防護柵の施工方法。
【0012】
(構成7)
前記面材索体の一方端部のアイ加工が工場でアルミロック加工によって形成され、他方端部のアイ加工は前記金網の3辺を通された後に設置現場でくさび部材を有する索体留め金具を用いて形成される、構成4から6の何れかに記載の防護柵の施工方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、阻止面が、支柱と、支柱よりも山側に設置されたアンカーと、の間で掛け渡される形式の防護柵において、極めて特殊な構成の使用を避けつつも、機能性が高い防護柵を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図7】実施形態の防護柵の載荷実験の様子を示す写真
【
図9】実施形態の防護柵の衝突実験の様子を示す写真
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら具体的に説明する。なお、以下の実施形態は、本発明を具体化する際の一形態であって、本発明をその範囲内に限定するものではない。
【0016】
図1~3は、本発明に係る実施形態の防護柵の構成を示す図であり、それぞれ、
図1:側面図、
図2:正面図(谷側からみた図)、
図3:上面図である。
本実施形態の防護柵1は、傾斜地に設置される防護柵であって、阻止面が柔構造を有し、当該阻止面が支柱と、支柱よりも山側に設置されたアンカーとの間で掛け渡される形式の、落石及び雪崩の双方に対応可能な防護柵である。
【0017】
図1~3に示されるように、防護柵1は、
複数の支柱12と、
支柱12よりも山側(斜面上方)に設けられる山側アンカー13と、
支柱12よりも谷側(斜面下方)に設けられる谷側アンカー14と、
支柱12の上部と、山側アンカー13の間に張られる面材11と、
支柱12の上部において、支柱間に張られ、面材11を吊持する上辺ロープ(上辺索体)15と、
隣り合う山側アンカー13の間に張られ、面材11の下辺を保持する下辺ロープ(下辺索体)16と、
上記各部材の間に張られる各控えロープと、
を備えている。
【0018】
支柱12は、本実施形態では鋼管によって形成されており、その底部にはベースプレートを備えている(鋼管に鋼板が溶接されている)。
支柱12は、斜面に形成されたコンクリートブロック上に設置される。ベースプレートの底面には突起(棒状の部材)が設けられており、当該突起がコンクリートブロックに形成されている穴に挿入されることで、支柱12が立設される。
支柱12は、コンクリートブロックに対する直接的な固定は行われず、以下で説明する各控えロープが接続されることで、支柱12の設置位置や設置姿勢が保持されるものである。
支柱12には、控えロープ等を締結するための取付部材(121,122,123,124)が設けられている。取付部材として、例えば、支柱に溶接されている取り付け片121,122,123や、ピン部材(ピンボルト)124が設けられており、取り付け片121,122,123の取付穴に対してシャックル等の取付金具が取り付けられたり、端末がアイ加工された索体を支柱に通した際に、これがピン部材124によって係止される構成となっている。
なお、本実施形態では、支柱12が鋼管によって形成されるものを例としたが、本発明をこれに限るものでは無く、支柱として用いることができる任意の部材(例えばH形鋼など)を使用するものであってよい。同様に、控えロープ等を取り付けるための構成についても、図示した取付部材(121,122,123,124)に限られるものではなく、索体などを取り付けるために用いられる任意の構造や機構を用いることができる。
【0019】
山側アンカー13と、谷側アンカー14は、その頭部側に接続部を有し、斜面に打設されて、各控えロープ等が接続されることで、各部材を引き留める(固定する)ものである。山側アンカー13や谷側アンカー14は、各種のアンカーを使用することができ、打設する箇所の地層の状況や求められる強度等に応じて、適切なものを選択すればよい。同様に、各部材のアンカーへの取り付けに関する部材や方法は、従来使用されている任意の取り付け部材や方法を用いることができる。
【0020】
上辺ロープ(上辺索体)15は、隣り合う支柱12間において、2本の支柱を巻き付けるようにして配置される(従って、少なくとも、隣り合う支柱間の距離の2倍以上の長さを有する)。具体的には、工場でアルミロック加工(例えば、トヨロック加工(登録商標))によって形成されたアイ部151を一端に有するワイヤロープを用い(
図4参照)、支柱間の距離に合わせてワイヤ長が適切になるように他端152にワイヤグリップとシンブルを用いてアイ部を形成して、隣り合う2本の支柱12の上部でこれらを取り囲むように環状に配置する。ワイヤロープ両端のアイ部を、ターンバックル153を用いて接続し、ターンバックル153によって張力を調整する。なお、上辺ロープ15は、支柱12の上部に形成されたピンボルト124に係止されることで(
図1参照)、支柱12の上部に配される。これにより、支柱の上部に配された上辺ロープ15は、2本の支柱を往復するようにして環状(且つ支柱に対して摺動可能)に設けられる。上記のように、一端のアイ部が工場加工されたワイヤロープを用い、他端のアイ部を現場加工することで、現場での寸法合わせが可能であると共に、作業効率においても優れたものとなる。
上辺ロープ(上辺索体)15は、面材と締結されて、面材11の上辺側を保持(補強)する部材であり、前記往復の一方に対して予め(支柱に取り付ける前に)面材11と締結される(なお、支柱に上辺ロープ15を取り付けた後に、面材11と締結するものであってもよい)。
後に説明するように、上記構成により、金網の周辺の3方に一本の面材ロープが配されている面材11を吊持する構成において、荷重分散機能をより効果的に得ることができる。
なお、他端のアイ部の現場加工について、シンプルロック(登録商標)等のくさび部材を有する索体留め金具(以下で説明)を用いるものであってもよい。
【0021】
下辺ロープ(下辺索体)16は、その両端が山側アンカー13に(シャックルなどの接続部材を介する等して)接続され、且つ、面材11の下辺と締結されることで、面材11の下辺側を保持(補強)している。本実施形態における下辺ロープ16は、上辺ロープ15と同様の仕様のワイヤロープが用いられている。
本実施形態においては、両端にアイ部が予め形成されたワイヤロープを用いているが、下辺ロープ16についても、上辺ロープ15と同様の概念を適用して(環状に配置して、往復の一方にのみ面材11を締結するようにして)もよい。
【0022】
阻止面を構成する面材11は、引張強度が1400MPa以上の高張力線材を用いた高強度金網の上左右端部に1本のワイヤロープを連続挿通して一体化した非常に簡素化された構造である。
図4に示されるように、面材11は、
略矩形の外形形状(隣り合う支柱12の間のスパンに応じた形状および大きさであり、必ずしも厳密な矩形(各角部が90°)に限られない)を有する金網111と、
金網111の上辺(支柱12の上部に配される一辺)を少なくとも含む金網111の周囲3辺(本実施形態では、上辺と両側辺)において、金網の目を通されている1本の面材ロープ(面材索体)112と、
金網111の下辺において、金網の目を通されている第2の面材ロープ(第2の面材索体)113と、
面材ロープ112(上辺)と第2の面材ロープ113(下辺)の間に金網の目を通して張られた複数の第3の面材ロープ(第3の面材索体)114と、
を備えている。
【0023】
金網111に対する各ロープの配置では、先ず、複数の第3の面材ロープ114を、金網の目を通して配することから行う(
図5(a)に、この状態の写真を示した)。
第3の面材ロープ114は、面材ロープ112の上辺と第2の面材ロープ113との間に張られる補強ロープであり、複数本設けられる。
本実施形態の第3の面材ロープ114は、ワイヤロープの中間で折り返した2本を束ねたような構成であり、折り返し部分でアイ部1141が形成されている。
アイ部1141が上部側となるように配置され、このアイ部1141に面材ロープ112が通されることで、面材ロープ112と摺動可能に係合する構成となる。
第3の面材ロープ114の下端側における第2の面材ロープ113との係合は、
図4に示されるように変則型(特殊)クロスクリップ1142を用いて取り付けられており、これにより、第3の面材ロープ114の下端が第2の面材ロープ113に対して一定距離は所定の摩擦力を伴って摺動可能で、且つ、一定距離摺動後は、第3の面材ロープ114の端部が変則型(特殊)クロスクリップに突き当たってそれ以上摺動しないように取り付けられる。これにより、落石などによる衝撃エネルギーを吸収する機能を有している。
【0024】
次に面材ロープ112を配置する。
面材ロープ112は、工場でアルミロック加工(例えば、トヨロック加工(登録商標))によって形成されたアイ部1121を一端に有するワイヤロープを用い、アイ部1121が形成されていない他端側の端部1122を金網の目に通していくことで、金網111の3辺(上辺と両側辺)に面材ロープ112を配する。なお、上辺においては上述のごとく、第3の面材ロープ114のアイ部1141を通す(
図5(b)に、この作業の写真を示した)。
面材ロープ112を、金網の目に通して、金網111の各辺に配置する際に、金網111の角部(略矩形の外形形状の角部)であって支柱12の上部となる位置(上辺の両端の角部)において、
図5(c)に示されるように、面材ロープ112をループ状に取り廻すことで、支柱12に対する取り付け部112Lが形成される。ループ状に取り廻した際に面材ロープ112が互いにクロスする位置で、クロスクリップ1122を用いて、面材ロープ112を互いに留める。これによりループ状の形状が安定し、作業性が向上すると共に、落石衝突時等において摩擦力をもって摺動することで、緩衝機能を有することができる(なお、クロスクリップ1122は必須のものという訳ではない)。
面材ロープ112を金網111の3辺に通したら、ロープの長さを適切に調整しながら、金網を通したロープの先端側である他端側端部1122において、くさび部材を有する索体留め金具SL(及びシンブル)を用いてアイ部1123を形成する(
図6(a)参照)。「くさび部材を有する索体留め金具」としては、特許第6009611号公報や特許第6342563号公報等によって開示されているくさびクランプ(具体的な製品名としては「シンプルロック(登録商標)」)等を用いることができる。なお、これらのくさびクランプは施工性等において非常に優れるものであり、好適であるが、ワイヤグリップとシンブルを用いる等、任意の方法でアイ部を形成するものであってよい。このように、一端のアイ部が工場加工されたワイヤロープを用い、他端のアイ部を現場加工することで、現場での寸法合わせが可能であると共に、作業効率においても優れたものとなる。
金網111の両側辺及び上辺の3辺を通して配置された面材ロープ112は、アイ部が形成されたその両端が、面材の下辺の両端部に配されることになり、このアイ部がそれぞれ山側アンカー13に(シャックルなどの接続部材を介する等して)接続されるものとなる。
また、取り付け部112Lが、支柱12の上部から通され、支柱12の上部に形成されている取付部材(ピンボルト)124に引っかかるようにして保持されることで、面材11の上辺側が支柱12の上部に取り付けられるものとなる。
【0025】
次に第2の面材ロープ113を配置する。
第2の面材ロープ113も、面材ロープ112と同様に工場でアルミロック加工によって形成されたアイ部を一端に有するワイヤロープを用い、アイ部が形成されていない他端側の端部を金網の目に通していくことで、金網111の下辺に配される。金網を通したロープの先端側である他端側端部においてアイ部を形成する点も面材ロープ112と同様である。本実施形態における第2の面材ロープ113は、面材ロープ112と同様の仕様のワイヤロープが用いられている。
第2の面材ロープ113は、上述のように、第3の面材ロープ114と変則型(特殊)クロスクリップ1142を用いて締結される(
図6(a)参照)。
なお、第2の面材ロープ113の配置は、第3の面材ロープ114や面材ロープ112の配置よりも先に行ってもよい。
第2の面材ロープ113も、アイ部が形成されたその両端が、それぞれ山側アンカー13に(シャックルなどの接続部材を介する等して)接続されるものとなる。
【0026】
本実施形態では、上辺ロープ15と下辺ロープ16が、予め面材11に対して取り付けられる(支柱12に対する面材11の取り付けの前に予め取り付けられる)。
上辺ロープ15の面材11への締結は、本実施形態では、複数のワイヤグリップWGを用いて上辺ロープ15を面材ロープ112に対して締結することで行われる(
図4、
図6(b)を参照)。
また、下辺ロープ16の面材11への締結は、本実施形態では、複数のワイヤグリップWGを用いて下辺ロープ16を第2の面材ロープ113に対して締結することで行われる(
図4、
図6(c)を参照)。
なお、上辺ロープ15と下辺ロープ16に対する面材11の取り付けは、支柱12に対する面材11の取り付けの後(或いは同時)に行われるもの等であってもよい。
【0027】
本実施形態の防護柵1では、上記構成の面材11(及び上辺ロープ15と下辺ロープ16)が、各支柱12の間の1スパンにそれぞれ設けられる。この際、そのままでは、隣り合う面材11の間に隙間ができるため、この隙間をカバーする面材である金網17(
図3参照)が設けられている。
金網17は、隣り合う面材11の間となる箇所において、当該隣り合う面材11の双方に対して少なくともその一部が重畳的に設けられる補助金網である。
金網17の面材11への取り付けは、締結コイル等の取り付け部材を用いて行われる。
【0028】
各控えロープ等は、上記の各構成を接続、固定するために用いられ、本実施形態では以下の控えロープを有している。
両端の支柱12の上部と、防護柵1の両脇で斜面に打設されたアンカー(不図示)と、を接続する控えロープSW1。
両端の支柱12の下部と、防護柵1の両脇で斜面に打設されたアンカー(不図示)と、を接続する控えロープSW5。
各支柱12の上部と、谷側アンカー14と、を接続する控えロープSW2。
各支柱12の下部と、谷側アンカー14と、を接続する控えロープSW3。
各支柱12の下部間を接続する控えロープSW4。
各支柱12の下部と、山側アンカー13と、を接続する控えロープSW6。
さらに、防護柵1全体の形状を維持するための形状維持ロープSW7が設けられている。形状維持ロープSW7は、面材ロープ112両側辺の中央付近と、支柱12の下部と、を接続し、
図1に示されるように、面材ロープ112を引っ張って緊張させる(これにより、支柱12の上部が山側へと付勢される)ように設けられる。
なお、各ロープを各部材に接続するための構成は、シャックルやリング部材等の接続部材を適宜用いる等、索体等の各部材の締結に用いられる任意の構成(必要な強度を得られる構成)を用いることができる。
また、本実施形態では上記した各控えロープ等を備えるものを例としているが、本発明をこれに限るものではなく、各部材に必要な固定強度を得るために、控えロープ(及びこれの引留めに必要なアンカー等)の数の増減や、これらを設ける位置の変更をするもの等であってよい。
【0029】
上記説明した防護柵1の施工方法は、
支柱12を斜面に立設するステップと、
山側アンカー13を支柱12よりも山側に設けるステップと、
谷側アンカー14を支柱12よりも谷側に設けるステップと、
形成された面材11を、支柱12の上部と山側アンカー13の間に掛け渡すステップと、
各控えロープを各部材の間に張るステップと、
を有する。
より具体的には、下記の作業を行う。
面材11の形成は、前述の説明からも理解されるように、
設置現場に搬入された連続的に形成されている金網を、支柱12間の間隔などに合わせた適切なサイズにカットすることで、略矩形の外形形状を有する金網111を形成するステップと、
複数の第3の面材ロープ114を金網111に通すことで、金網111の対辺間に第3の面材ロープ114を複数張るステップと、
金網111の周囲3辺に、面材ロープ112を通す(この際に、ループ状の取り付け部112Lの形成も行う)ステップと、
金網111の残りの一辺に第2の面材ロープ113を通すステップと、
第3の面材ロープ114の上端と面材ロープ112を係合するステップ(上述のごとく、本実施形態では、面材ロープ112を金網111に通す際に同時に行われる)と、
第3の面材ロープ114の下端と第2の面材ロープ113を係合するステップと、
を有する。なお、金網を、支柱12間の間隔などに合わせた適切なサイズにカットする作業は、工場で行い、カット済みの金網が設置現場に搬入されるものであってもよい。
形成された面材11を、支柱12の上部に取り付ける作業は、取り付け部112Lを支柱12の上部からかけるステップと、上辺ロープ15を、2本の支柱12の上部を往復するようにして環状に設けるステップ(これにより、前記往復の一方に対して、上辺(面材ロープ112)が締結された面材11が、上辺ロープ15を介して支柱12に保持されることになる)ステップと、を有する。
また、形成された面材11を、山側アンカー13に取り付ける作業は、面材ロープ112の両端部をそれぞれ山側アンカー13と接続するステップと、第2の面材ロープ113の両端部をそれぞれ山側アンカー13と接続するステップと、面材11の下辺(第2の面材ロープ113)に締結されている下辺ロープ16の両端部を、それぞれ山側アンカー13と接続するステップと、を有する。
【0030】
本実施形態の防護柵1によれば、防護柵の主たる部材の一つである面材11が、ワイヤロープと金網によって構成された簡素化された構造であり、現地での組み上げにおいて良好な作業性を有する。簡素化された構造であることにより、軽量化とともに部品点数を削減することができ、現場(斜面)での作業において、部材の搬入から組み立てまで、あらゆる面で有用である。
また、本実施形態の防護柵1によれば、面材11の上辺を含む3辺にわたって連続的に配された面材ロープ112によって、落石衝突時の衝突エネルギーを伝達することができるため、上部等において高い荷重分散機能を持たせること(機能性が高い防護柵を提供すること)が可能となる。
加えて、当該面材ロープ112が、支柱12に対して環状に設けられた上辺ロープ15の1辺に対して締結される構成であることにより、防護柵の施工の作業性を向上しつつ、且つ、荷重分散機能を高く維持することができる。
防護柵としての落石捕捉能力等を持たせるために、面材11の上部には所定の強度が必要であり、そのためには、面材11の上部に配されるワイヤロープに所定の太さが必要となる。しかしながら、ワイヤロープが太くなると、面材11の金網の目を通す作業の作業性が著しく低下してしまう(若しくはそもそも金網の目を通せない)。そこで、面材11の金網を通す面材ロープ112と、これを補強する上辺ロープ15(面材ロープ112より太いロープ)を用いることにより、作業性と強度の両立が図られているものである。
また、金網の周辺の3方に一本の面材ロープ112が配されている面材11を、単に支柱間に張り渡されている補強ロープによって締結すると、荷重分散機能を低下させる結果となる恐れがある。上記構成の面材11では、面材ロープ112の上辺側の長さや位置が比較的流動的な面があり(これによって、荷重分散機能が向上されている)、これを、単に支柱間に張り渡されている補強ロープに対して締結すると、面材ロープ112と補強ロープの何れか一方に偏って荷重が加わる場合があるためである。これに対し、本実施形態の防護柵1によれば、面材ロープ112が、支柱12に対して環状に設けられた上辺ロープ15の1辺に対して締結される構成であることにより、上辺ロープ15の側においても柔軟性が生まれ、従って、荷重分散機能を高く維持することができるものである。
【0031】
本実施形態の防護柵1によれば、上辺ロープ15や面材ロープ112において、一端のアイ部が工場加工されたワイヤロープを用い、他端のアイ部を現場加工することで、現場合わせが容易であると共に、作業効率においても優れたものとなる。
なお、本発明をこれに限るものでは無く、両端のアイ部を、現場加工するものとしてもよい(ただし、本実施形態の方が作業効率は優れる)。
【0032】
本実施形態の防護柵1によれば、面材ロープ112を金網の角部でループ状にすることによって、支柱上部に対する取り付け部112Lが形成されるため、別途の取付部材等を要せず、軽量化とともに部品点数を削減することができる。
なお、本実施形態では、面材ロープ112を金網の3辺に設けるものとしているが、金網の全周に設けるようにして、金網の外周に沿って面材ロープを環状に配置し、全ての角部において、面材ロープをループ状にすることにより、各角部での取り付け部を形成するようにしてもよい。また、ループを形成する箇所は、金網の角部に限られるものではなく、各辺の中間に形成されるものであってもよい。
なお、面材ロープ112をループ状にすることによって取り付け部を形成することは、本発明において必須のものという訳では無く、別途の取付部材等を用いるものであっても構わない(ただし、別途の取付部材等が必要となるものであり、本実施形態の方が好適である)。
また、本実施形態では、金網の上辺と両側辺に面材ロープ112が配されるものを例としているが、本発明をこれに限るものではなく、「支柱の上部に配される一辺を少なくとも含む金網の周囲3辺」に配されるものであればよい。
【0033】
本実施形態では、支柱12が4本(スパンが3つ)であるものを例としているが、本発明をこれに限るものではなく、スパンの数は任意のものとすることができる(支柱は2本以上であればよい)ことは勿論である。
【0034】
<載荷試験>
次に、実施形態で説明した防護柵について行った載荷試験(雪崩予防柵としての強度試験)について説明する。
1.実験条件
雪崩予防柵としての構造検証は実際の雪圧による検証が望ましいが、雪圧は降雪量や気温変動による影響を受けやすいため、結果として不安定な積雪条件となる可能性が高い。従って、本検証では定量的なデータ収集を行うことを優先し、土砂を充填した大型土嚢を用いた静的載荷試験とした。各試験条件は下記に示す。
・試験体
あらかじめ机上で行った仮計算にて決めた支柱高3.43m、支柱間4.5m、3スパンの実施形態で説明した防護柵を供試体として用いた。アンカーについては実験架台における仮設材に各金物を取付けて固定部の代用とした。支柱基部については、実際は地山であることを想定し、硬質ゴムを用いて支柱の沈下及び回転に柔軟性を持たせる基部構造とした。
・疑似斜面
衝突実験架台に仮設材、単管、足場板、コンパネを用いて疑似斜面を整形した。試験体の実験架台に対する設置状態を
図7に示す。
・載荷荷重
積雪深3.0m、斜面勾配45度、雪密度3.5kN/m
3、クリープ係数0.795、グライド係数3.6、積雪逓減係数1.0を考慮した3スパン当たりの総荷重を算出し、土砂を入れた大型土嚢1個当たりの重量と数量に置き換えた。
・載荷方法
大型土嚢を1個ずつクレーンで吊り上げ、クレーンスケールを用いて土嚢質量を計測後、阻止面の所定位置に静かに下す。その際、極力3スパンに均等になるよう配慮しながら載荷を続けた(載荷状態を
図8に示す)。
【0035】
4.載荷試験結果
積雪深3.0mを想定した実施形態の防護柵に対し、積雪深3.0m相当荷重の土嚢を載荷した結果、破損せず載荷状態を保持した。
【0036】
<衝突実験>
次に、実施形態で説明した防護柵について行った衝突実験(落石防護柵としての強度試験)について説明する。
1.実験条件
鋼製部材にて45度斜面架台を作製し、供試体を取付けた。クレーンにて阻止面の落下目標位置に重錘芯を合わせ、所定の高さまで巻上げる。高さは阻止面から高さ34.0mまでをトータルステーションを用いて計測後、エアー式離脱装置により重錘を落下させ供試体に衝突させた。速度は重錘のターゲットマークを高速カメラで読み取り計測した。ロープ張力はひずみゲージ付ロッドで測定、供試体の衝突変位については高速カメラおよびビデオカメラで撮影した。実験状況を
図9(a)、(b)に示す。
実験方式:自由落下方式
重錘形状・材質・重量:W=0.33t(SAEFL型、多面体コンクリート製)
重錘落下高さ:32.0m以上
重錘速度:25.0m/sec以上
重錘入射角度:90°
衝突エネルギー:100kJ以上
衝突位置:上面からの投影にて下部から2/3、各スパン中央部
【0037】
・供試体
基本構造は載荷試験における構造をベースとし、積雪条件支柱で支柱スパンが狭まることを想定し、支柱スパンを4.5mから3.0mに変更した。仕様を表4に示す。
【0038】
【0039】
4.衝突実験結果
100kJ対応型として形成した供試体は、中央スパン、端末スパンいずれも落石対策便覧に準拠した実験において、重錘衝突エネルギー116kJの捕捉性能を有した。中央スパンについては、修復せずに連続で衝突させた後も、阻止面が変形しつつ構造全体は安定しており、残存高さも十分に保持できた。
【符号の説明】
【0040】
1...防護柵
11...面材
111...金網
112...面材ロープ(面材索体)
112L...取り付け部(ループ状部)
113...第2の面材ロープ(第2の面材索体)
114...第3の面材ロープ(第3の面材索体)
12...支柱
13...山側アンカー(支柱よりも山側に設けられるアンカー)
15...上辺ロープ(上辺索体)