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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024116662
(43)【公開日】2024-08-28
(54)【発明の名称】検知デバイス
(51)【国際特許分類】
   H02N 1/04 20060101AFI20240821BHJP
   D03D 27/00 20060101ALI20240821BHJP
   D03D 15/533 20210101ALI20240821BHJP
   D03D 15/283 20210101ALI20240821BHJP
   D03D 1/00 20060101ALI20240821BHJP
   D03D 15/58 20210101ALI20240821BHJP
   D04B 1/04 20060101ALI20240821BHJP
   D04B 21/04 20060101ALI20240821BHJP
   D04B 1/16 20060101ALI20240821BHJP
   D04B 21/16 20060101ALI20240821BHJP
   D06M 15/263 20060101ALI20240821BHJP
   D06M 15/333 20060101ALI20240821BHJP
   D06M 15/564 20060101ALI20240821BHJP
【FI】
H02N1/04
D03D27/00 A
D03D15/533
D03D15/283
D03D1/00 Z
D03D15/58
D04B1/04
D04B21/04
D04B1/16
D04B21/16
D06M15/263
D06M15/333
D06M15/564
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023022385
(22)【出願日】2023-02-16
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和4年10月1日にSensors and Actuators A:Physical Volume 345,113803に論文掲載
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和4年11月15日に第39回「センサ・マイクロマシンと応用システム」シンポジウムにて発表 令和4年12月5日に日本繊維機械学会北陸支部 繊維学会 北陸支部 2022年度研究発表会にて発表
(71)【出願人】
【識別番号】596024426
【氏名又は名称】槌屋ティスコ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504145320
【氏名又は名称】国立大学法人福井大学
(74)【代理人】
【識別番号】100162341
【弁理士】
【氏名又は名称】瀬崎 幸典
(72)【発明者】
【氏名】大原 康之
(72)【発明者】
【氏名】坂元 博昭
(72)【発明者】
【氏名】小松 丈紘
(72)【発明者】
【氏名】志磨 将大
(72)【発明者】
【氏名】上島 理乃
(72)【発明者】
【氏名】高村 映一郎
【テーマコード(参考)】
4L002
4L033
4L048
【Fターム(参考)】
4L002AA05
4L002AB02
4L002AC03
4L002BB04
4L002CB03
4L002EA00
4L002FA06
4L033AB04
4L033AC11
4L033CA18
4L033CA28
4L033CA50
4L048AA14
4L048AA24
4L048AA34
4L048AB07
4L048AB11
4L048BA23
4L048CA00
4L048CA05
4L048DA24
(57)【要約】
【課題】様々な接触角度に対して検知能力を示す検知デバイスを提供する。
【解決手段】基布に織り込まれ第1の帯電極性を示す複数のパイル糸からなる第1パイル織編物と、基布に織り込まれ第2の帯電極性を示す複数のパイル糸からなり第1パイル織編物に接触し得るよう配置された第2パイル織編物と、第1パイル織編物に電気的に接続された導体と、第2パイル織編物に電気的に接続された導体と、を備え、第1パイル織編物と第2パイル織編物の接触により、摩擦帯電と静電誘導によって第1パイル織編物と第2パイル織編物との間に電位差を発生させ得る検知デバイスであって、第1の帯電極性と第2の帯電極性が、摩擦帯電列において反対側の極性に位置する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基布に織り込まれ第1の帯電極性を示す複数のパイル糸からなる第1パイル織編物と、
基布に織り込まれ第2の帯電極性を示す複数のパイル糸からなり前記第1パイル織編物に接触し得るよう配置された第2パイル織編物と、
前記第1パイル織編物に電気的に接続された導体と、
前記第2パイル織編物に電気的に接続された導体と、を備え、
前記第1パイル織編物と前記第2パイル織編物の接触により、摩擦帯電と静電誘導によって前記第1パイル織編物と前記第2パイル織編物との間に電位差を発生させ得る検知デバイスであって、
前記第1の帯電極性と前記第2の帯電極性が、摩擦帯電列において反対側の極性に位置する、
ことを特徴とする検知デバイス。
【請求項2】
前記第1の帯電極性を示す複数のパイル糸は、ポリアミド繊維を含み、
前記第2の帯電極性を示す複数のパイル糸は、フッ素樹脂繊維を含む、
ことを特徴とする請求項1に記載の検知デバイス。
【請求項3】
前記フッ素樹脂繊維は、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)から選ばれる少なくとも一種の機能性繊維からなるマルチフィラメント糸である、
ことを特徴とする請求項2に記載の検知デバイス。
【請求項4】
前記パイル糸は、単糸繊度6デニール以上、羽毛の高さが3mm以上5mm以下で立毛密度が0.5万本/cm以上1万本/cm以下である、
ことを特徴とする請求項2に記載の検知デバイス。
【請求項5】
前記パイル糸は前記基布の緯糸に対しU字状又はW字状に絡ませるようにして織り込まれ根元が前記導体と電気的に接続するように接触している、
ことを特徴とする請求項4に記載の検知デバイス。
【請求項6】
前記基布の裏面に前記パイル糸の抜けを防ぐコーティング層を有し、前記パイル糸は前記コーティング層を介して前記導体と電気的に接続されている、
ことを特徴とする請求項5に記載の検知デバイス。
【請求項7】
前記コーティング層は、導電性である、
ことを特徴とする請求項6に記載の検知デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検知デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
正帯電部材と、該正帯電部材に接触し得るよう配置された負帯電部材と、を有し、該正帯電部材と該負帯電部材との摩擦により帯電し得る摩擦帯電ユニットであって、負帯電部材がポリエステル樹脂の延伸成形体である、摩擦帯電ユニットが知られている(特許文献1)。
【0003】
第1の発電機要素及び第2の発電機要素を有する摩擦帯電型発電機であって、第1及び第2の発電機要素が、第1及び第2の発電機要素間の相対運動が摩擦帯電効果に起因する第1と第2の発電機要素間の電位差を発生させるように配置されており:第1の発電機要素が、第1の電子親和力を有する第1の摩擦帯電型材料を含み;第2の発電機要素が、第1の電子親和力と異なる第2の電子親和力を有する第2の摩擦帯電型材料を含み;第1の発電機要素が、テンプレート構造に広がるチャネルのアレイを有するテンプレート構造を含み、チャネルが第1の材料で実質的に充填されて、第1の材料のナノワイヤーのテンプレート化アレイを画定する、摩擦帯電型発電機も知られている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2020-188566号公報
【特許文献2】特開2020-528258号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、様々な接触角度に対して検知能力を示す検知デバイスを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するために、請求項1記載の検知デバイスは、
基布に織り込まれ第1の帯電極性を示す複数のパイル糸からなる第1パイル織編物と、
基布に織り込まれ第2の帯電極性を示す複数のパイル糸からなり前記第1パイル織編物に接触し得るよう配置された第2パイル織編物と、
前記第1パイル織編物に電気的に接続された導体と、
前記第2パイル織編物に電気的に接続された導体と、を備え、
前記第1パイル織編物と前記第2パイル織編物の接触により、摩擦帯電と静電誘導によって前記第1パイル織編物と前記第2パイル織編物との間に電位差を発生させ得る検知デバイスであって、
前記第1の帯電極性と前記第2の帯電極性が、摩擦帯電列において反対側の極性に位置する、
ことを特徴とする。
【0007】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の検知デバイスにおいて、
前記第1の帯電極性を示す複数のパイル糸は、ポリアミド繊維を含み、
前記第2の帯電極性を示す複数のパイル糸は、フッ素樹脂繊維を含む、
ことを特徴とする。
【0008】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の検知デバイスにおいて、
前記フッ素樹脂繊維は、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)から選ばれる少なくとも一種の機能性繊維からなるマルチフィラメント糸である、
ことを特徴とする。
【0009】
請求項4に記載の発明は、請求項2に記載の検知デバイスにおいて、
前記パイル糸は、単糸繊度6デニール以上、羽毛の高さが3mm以上5mm以下で立毛密度が0.5万本/cm以上1万本/cm以下である、
ことを特徴とする。
【0010】
請求項5に記載の発明は、請求項4に記載の検知デバイスにおいて、
前記パイル糸は前記基布の緯糸に対しU字状又はW字状に絡ませるようにして織り込まれ根元が前記導体と電気的に接続するように接触している、
ことを特徴とする。
【0011】
請求項6に記載の発明は、請求項5に記載の検知デバイスにおいて、
前記基布の裏面に前記パイル糸の抜けを防ぐコーティング層を有し、前記パイル糸は前記コーティング層を介して前記導体と電気的に接続されている、
ことを特徴とする。
【0012】
請求項7に記載の発明は、請求項6に記載の検知デバイスにおいて、
前記コーティング層は、導電性である、
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
請求項1に記載の発明によれば、様々な接触角度に対して検知能力を示すことができる。
【0014】
請求項2に記載の発明によれば、発生する電位差を大きくして検出能力を向上させることができる。
【0015】
請求項3に記載の発明によれば、第1パイル織編物との摩擦係数を小さくして耐摩耗性を向上させることができる。
【0016】
請求項4に記載の発明によれば、発生する電位差を最大化することができる。
【0017】
請求項5に記載の発明によれば、パイル糸に発生する電力を外部に取り出すことができる。
【0018】
請求項6に記載の発明によれば、パイル糸の抜けを抑制することができる。
【0019】
請求項7に記載の発明によれば、パイル糸と導体の導通を安定化させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本実施形態に係る検知デバイスを示す断面模式図である。
図2】パイル編織物の構成を示す拡大部分断面模式図である。
図3】(a)は検知デバイスの製造過程の一例を示す図、(b)は検知デバイスの構成例を示す拡大断面模式図である。
図4】検知デバイスにおける起電力の発生メカニズムを説明する模式図である。
図5】実施例における検知デバイスの縦方向の摩擦による出力特性を示す図である。
図6】実施例における検知デバイスの縦方向(鉛直方向)の押圧力の変化による出力特性の変化を示す図である。
図7】実施例における検知デバイスの横方向(水平方向)の摩擦による出力特性を示す図である。
図8】実施例における検知デバイスの斜め上方からの物体の衝突よる出力特性の変化を示す図である。
図9】検知デバイスにおける摩擦係数の一例を示す図である。
図10】検知デバイスにおける毛羽高さと立毛密度による出力電圧への影響を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
次に図面を参照しながら、以下に実施形態及び具体例を挙げ、本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施形態及び具体例に限定されるものではない。
また、以下の図面を使用した説明において、図面は模式的なものであり、各寸法の比率等は現実のものとは異なることに留意すべきであり、理解の容易のために説明に必要な部材以外の図示は適宜省略されている。
【0022】
(1)検知デバイスの構成
図1は本実施形態に係る検知デバイス1を示す断面模式図、図2はパイル編織物の構成を示す拡大部分断面模式図、図3(a)は検知デバイス1の製造過程の一例を示す図、(b)は検知デバイスの構成例を示す拡大断面模式図である。
以下本実施形態に係る検知デバイス1の構成と機能について図面を参照しながら説明する。
【0023】
(検知デバイスの全体構成)
図1に示すように、検知デバイス1は、基布11に織り込まれ第1の帯電極性を示す複数のパイル糸12からなる第1パイル織編物10と、基布21に織り込まれ第2の帯電極性を示す複数のパイル糸22からなり第1パイル織編物10に接触し得るよう配置された第2パイル織編物20と、第1パイル織編物10に電気的に接続された導体30と、第2パイル織編物20に電気的に接続された導体40と、を備えて構成されている。
【0024】
検知デバイス1は、図2に模式的に示すように、第1の帯電極性を示す第1パイル織編物10、第2の帯電極性を示す第2パイル織編物20と、を有し、第1パイル織編物10と第2パイル織編物20の接触により、摩擦帯電と静電誘導によって第1パイル織編物10と第2パイル織編物20との間に電位差を発生させ得る検知デバイスである。
第1パイル織編物10と第2パイル織編物20とは、互いが接触する、又は互いが接触と離反を繰り返すことで、電荷を発生させて帯電する。本実施形態では、第1の帯電極性と第2の帯電極性が、摩擦帯電列において反対側の極性に位置することで、発生する電位差を大きくして検出能力を向上させている。
【0025】
(パイル織編物)
第1パイル織編物10及び第2パイル織編物20は、第1の帯電極性を示す複数のパイル糸12及び第2の帯電極性を示す複数のパイル糸22が、それぞれ基布11及び基布21上に織り込まれて形成されている。すなわち、第1パイル織編物10及び第2パイル織編物20は、その帯電極性が異なるパイル糸12及びパイル糸22がそれぞれ基布11及び基布21上に織り込まれて構成されている。したがって、共通する要素については、第1パイル織編物10を構成例として説明する。
【0026】
(基布)
基布11は、互いに交差する方向に延びる複数本の経糸11a及び緯糸11bを織り上げて得られる織布である。経糸11a及び緯糸11bには、絶縁性で、耐久性及び柔軟性の高い糸が用いられており、このような糸としてはフィラメント糸、紡績糸等が挙げられる。
経糸11a及び緯糸11bを形成する繊維としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド、アラミド樹脂、ポリエステル、ナイロン、アクリル樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)等よりなる合成繊維、レーヨン等よりなる半合成繊維、綿等よりなる天然繊維等が挙げられる。本実施形態においては、ポリエステルのマルチフィラメント糸を用いている。
【0027】
(パイル糸)
第1パイル織編物10を構成するパイル糸12は、単糸繊度6~18デニールで繊度が500デニール以上1000デニール以下である第1の帯電極性を示す合成樹脂繊維が用いられている。単糸繊度が6デニールより細く繊度500デニール未満では、パイル糸12として強度が不足し、単糸繊度が18デニールより太く繊度1000デニールを超える場合は、柔軟性が悪化する虞がある。
第1の帯電極性を示す合成樹脂繊維としては、ポリアミド繊維からなるマルチフィラメント糸が挙げられる。ポリアミド繊維は、摩擦帯電系列として正帯電性を示し、第2の帯電極性として負帯電性を示すパイル糸22と接触・離反を繰り返すことで、第1パイル織編物10には正の電荷が、第2パイル織編物20には負の電荷がそれぞれ発生する。
【0028】
パイル糸12の毛羽の高さ(毛長)は、検知デバイス1の用途に応じて適宜設定される。
本実施形態においては、毛羽の高さは、通常1mmないし5mmの範囲、好ましくは3mmないし5mmの範囲である。
毛羽の高さが1mmを下回るとパイル糸12のコシが強くなり、接触する第2パイル織編物20を傷つけ易く、パイル糸22を摩耗させてしまう虞がある。毛羽の高さが5mmを越えると、パイル糸12自体のコシが弱く第2パイル織編物20に接触したときに、接触力が弱くなり、発生する電位差(出力電位)が小さくなる。
【0029】
パイル糸12は立毛密度が0.5万本/cm2以上1万本/cm2以下になるように基布11に織り込まれ、第1パイル織編物10全体として第2パイル織編物20に接触したときの接触圧は低く抑えながら、接触密度を増大させて発生する電位差を大きくして検出能力を向上させている。
【0030】
第2パイル織編物20を構成するパイル糸22は、単糸繊度7~10デニールで繊度が300デニール以上800デニール以下である第2の帯電極性を示す合成樹脂繊維が用いられている。第2の帯電極性を示す合成樹脂繊維としてはフッ素樹脂繊維からなるマルチフィラメント糸、具体的には、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)から選ばれる少なくとも一種の機能性繊維からなるマルチフィラメント糸が挙げられる。
【0031】
フッ素樹脂繊維は、摩擦帯電系列として負帯電性を示し、正帯電性を示すポリアミド繊維とは、摩擦帯電列において反対側の極性に位置する。これにより、第1の帯電極性として正帯電性を示すパイル糸12と接触・離反を繰り返すことで、第1パイル織編物10には正の電荷が、第2パイル織編物20には負の電荷がそれぞれ発生し、特に、発生する電位差を大きくして検出能力を向上させている。
【0032】
パイル糸22は、パイル糸12と同様に、単糸繊度7~10デニールで繊度が300デニール以上800デニール以下、羽毛の高さが1mmないし5mmの範囲で立毛密度が0.5万本/cm2以上2万本/cm2以下である。
【0033】
パイル糸12、22は、それぞれ基布11、21に略U字状又は略W字状に絡ませるようにして織り込まれ根元が基布11、21の裏面から露出している。これにより、パイル糸12、22は、後述する導体30及び導体40と電気的に接続するように接触している。
【0034】
(コーティング層)
パイル糸12、22が略U字状又は略W字状に織り込まれた基布11、21の裏面には合成樹脂製のコーティング剤によって構成されたコーティング層13及びコーティング層23が設けられており、コーティング層13、23によりパイル糸12、22の根元と基布11及び基布21とが強固に接合されパイル糸12及びパイル糸22の抜け落ちを防止している。合成樹脂製のコーティング剤としては、アクリル樹脂エマルジョン、ウレタン樹脂エマルジョン、酢酸ビニル樹脂エマルジョンなどの水溶性のコーティング剤を用いることで、パイル糸12及びパイル糸22の根元は、導体30及び40と電気的に接続している。なお、コーティング剤としては、導電性を有するエマルジョン用いてもよい。コーティング剤を導電性とすることで、パイル糸12、22と導体30、40の導通を安定化させることができる。
【0035】
基布11、21にコーティング剤を塗布する方法は特に限定されるものでなく、例えば、ナイフコーティング法、ロールコーティング法、スプレーコーティング法などを挙げることができる。次いで、熱処理することにより、コーティング層13、23を形成することができる。
【0036】
(導体)
導体30及び導体40は導電性を有する固定部材であり、第1パイル織編物10及び第2パイル織編物20を支持して導体30及び導体40と電気的に接続された配線50から摩擦帯電と静電誘導によって発生した起電力を取り出すことができる。
導体30及び導体40は、第1パイル織編物10及び第2パイル織編物20を支持可能な強度を有していれば、特に限定されないが、本実施形態においては、導電性の粘着剤層を備えたアルミテープで構成されている。
【0037】
(検知デバイスの製造方法)
第1パイル織編物10及び第2パイル織編物20は、パイル糸12及びパイル糸22の材質が異なっているが、同様の方法で製造することができる。
第1パイル織編物10を製造する場合、経糸11a及び緯糸11bを互いに交差させて基布11を織り上げる際に、パイル糸12を緯糸11bにU字状に絡めて基布11上に立設する。また、経糸11a方向に所定の間隔をあけて緯糸11bにW字状に絡めて基布11上に立設してもよい。
【0038】
次に、コーティング層13を形成する。コーティング層13は、基布11のパイル糸12と反対側の面にコーティング剤を塗布する。基布11にコーティング剤を塗布する方法は特に限定されるものでなく、例えば、ナイフコーティング法、ロールコーティング法、スプレーコーティング法などを挙げることができる。次いで、熱処理することにより、コーティング層13を形成することができる。
【0039】
得られた第1パイル織編物10は所定の大きさに裁断し、切断端部10Aには、例えば熱処理を施して基布11及びパイル糸12のほつれを防止する。
次に、図3(a)に示すように、コーティング層13上に導体30を貼付する。第1パイル織編物10は導体30によって一定程度の剛性が確保されている。そして、導体30に配線50を取り付ける。配線50の取り付け方法は特に限定されるものでなく、例えば、接着、圧着、はんだ付けなどを挙げることができる。本実施形態においては、アルミニウム線を両面テープで接着固定している。これにより、図3(b)に示す検知デバイス1の一方が得られる。
【0040】
(検知デバイスの作用)
図4には検知デバイス1における起電力の発生を模式的に示している。
図4に示すように、第1パイル織編物10及び第2パイル織編物20は、両者間の相対運動が摩擦帯電と静電誘導によって両者間に電位差を発生させるように配置されている。
第1パイル織編物10と第2パイル織編物20との摩擦帯電により、第1パイル織編物10が正の表面電荷を帯び、第2パイル織編物20が負の表面電荷を帯びる。表面電荷によって第1パイル織編物10と第2パイル織編物20に静電誘導が誘引される。
【0041】
図4(a)には、第1パイル織編物10と第2パイル織編物20とが接触している状態を示している。この状態では、第1パイル織編物10と第2パイル織編物20が押圧されることで、接触界面に摩擦帯電が発生し、第1パイル織編物10は正の表面電荷を、第2パイル織編物20は負の表面電荷を持つ。この状態では、正の表面電荷と負の表面電荷とが相互に遮蔽し合って平衡状態にあり、外部回路100に電流は流れない。
【0042】
次に、図4(b)に示すように、第1パイル織編物10と第2パイル織編物20が離間を開始すると表面電荷の遮蔽効果が弱まると同時に、第1パイル織編物10のパイル糸12と第2パイル織編物20のパイル糸22とが相対移動して摩擦帯電が開始される。これによって、それぞれの導体30、40には反対の電荷が誘起され、第1パイル織編物10と第2パイル織編物20の間には電位差が発生して外部回路100に電流が流れ始める。
図4(c)に示すように、第1パイル織編物10と第2パイル織編物20が離間を停止すると平衡状態になり、電流は停止する。
【0043】
図4(d)に示すように、第1パイル織編物10と第2パイル織編物20とが離間した状態から接近すると、第1パイル織編物10と第2パイル織編物20の摩擦電荷は互いの反対極性の電荷によって徐々に遮蔽される。これにより、導体30と導体40間の電位差は徐々に減少し、配線50を介して離間するときとは逆方向の電流が流れることになる。
そして、図4(a)に示すように、第1パイル織編物10と第2パイル織編物20が接触すると、摩擦電荷は遮蔽され平衡状態になる。
【0044】
このように、第1パイル織編物10と第2パイル織編物20の相対移動によって起電力が誘起され電気エネルギが取得可能になる。なお、第1パイル織編物10と第2パイル織編物20の相対移動の方向は限定されず、縦方向、横方向あるいは斜め方向であってもよい。特に、第1パイル織編物10及び第2パイル織編物20は接触した状態では、パイル糸12とパイル糸22が絡み合っているために、相対移動の方向によらず、摩擦電荷が誘起される。
【0045】
「実施例」
図5は実施例における検知デバイスの縦方向の摩擦による出力特性を示す図、図6は実施例における検知デバイスの縦方向(鉛直方向)の押圧力の変化による出力特性の変化を示す図、図7は実施例における検知デバイスの横方向(水平方向)の摩擦による出力特性を示す図、図8は実施例における検知デバイスの斜め上方からの物体の衝突よる出力特性の変化を示す図、図9は検知デバイスにおける摩擦係数の一例を示す図、図10は検知デバイスにおける毛羽高さと立毛密度による出力電圧への影響を示す図である。
以下実施形態をさらに具体化した実施例について説明する。
【0046】
経糸11aとしてその太さが380T(デシテックス)/60F(フィラメント)となるように形成されたポリエステルのマルチフィラメント糸と、緯糸11bとしてその太さが英式綿番手ST30/2となるように形成されたポリエステルの紡績糸を用いて基布11を製織しながら、パイル糸12として単糸繊度7d(デニール)で繊度が630(デシテックス)/80(フィラメント)となるように形成されたナイロン6からなるマルチフィラメント糸を織り込んで第1パイル織編物10を製織した。
図5(a)に示すように、パイル糸12は、毛羽高さを約3mmで、立毛密度がそれぞれ、0.5万本/cm、0.67万本/cm、0.8万本/cm、1.0万本/cmになるように織り込んだ。
【0047】
同様に、経糸21aとしてその太さが380T(デシテックス)/60F(フィラメント)となるように形成されたポリエステルのマルチフィラメント糸と、緯糸22bとしてその太さが英式綿番手ST30/2となるように形成されたポリエステルの紡績糸を用いて基布21を製織しながら、パイル糸22として単糸繊度7d(デニール)で繊度が440(デシテックス)/50(フィラメント)となるように形成されたテトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)のマルチフィラメント糸を織り込んで第2パイル織編物20を製織した。
パイル糸22は、毛羽高さ約3mmで、立毛密度が0.67万本/cmになるように織り込んだ。
【0048】
このように製織して得られた第1パイル織編物10及び第2パイル織編物20のパイル糸12、22と反対側の面にアクリル樹脂エマルジョンからなるコーティング剤を塗布して乾燥させコーティング層13、23を形成したうえで、アルミテープを貼付して導体30、40を形成した。そして、アルミニウム線を取り付けて外部回路100としてオシロスコープを接続して出力を測定した。
【0049】
(実施例1)
得られた検知デバイス1の第1パイル織編物10と第2パイル織編物20を対向して配置して縦方向(鉛直方向)に98Nの押圧力で押圧して接触と離間を繰り返しながらオシロスコープで出力電圧を測定した。測定結果は図5に示す。
【0050】
実施例1によれば、立毛密度がそれぞれ、0.5万本/cm、0.67万本/cm、0.8万本/cm、1.0万本/cmのいずれの場合であっても、4Volts以上の出力電圧が安定して得られた。また、実施例1によれば、パイル糸12及びパイル糸22の立毛密度が0.8万本/cmで出力電圧が最も高くなった。パイル糸12、22の立毛密度によって接触状態が変わり、摩擦帯電の強さが変化することによるものと推察される。
これにより、検知デバイス1は、パイル糸12、22の立毛密度を調整することで出力値を変化させることが可能であることが確認された。
【0051】
(実施例2)
得られた検知デバイス1の第1パイル織編物10と第2パイル織編物20を対向して配置して縦方向(鉛直方向)に押圧力を変化させてオシロスコープで出力電圧を測定した。測定結果は図6に示す。
【0052】
実施例2によれば、立毛密度がそれぞれ、0.5万本/cm、0.67万本/cm、0.8万本/cm、1.0万本/cmのいずれの場合であっても、押圧力の増加に伴って、出力電圧が高くなるという結果になった。
また、押圧力が比較的低い100N以下の範囲においては、パイル糸12及びパイル糸22の立毛密度が0.8万本/cmで出力電圧が最も高くなり、押圧力が100Nを超える高い範囲においては、立毛密度によらず押圧力の増加とともに出力電圧が比例して高くなる結果になった。また、押圧力が100Nを超える高い範囲においては、立毛密度が0.5万本/cmと0.67万本/cmでは大きな差異はなく、0.8万本/cmと1.0万本/cmでも大きな差異が無い結果となった。一方、立毛密度が0.5万本/cm、0.67万本/cmの場合に比して、0.8万本/cm、1.0万本/cmの場合は高い出力電圧が発生する結果となった。
パイル糸12、22の立毛密度によって接触状態が変わり、摩擦帯電の強さが変化することによるものと推察される。
【0053】
これにより、検知デバイス1は、より強い押圧力を掛けることで高出力化が可能であることが確認された。また、パイル糸12、22の立毛密度を調整することで出力値を変化させることが可能であることが確認された。
【0054】
(実施例3)
得られた検知デバイス1の第1パイル織編物10と第2パイル織編物20を対向して配置して横方向(水平方向)に相対移動させてオシロスコープで出力電圧を測定した。測定結果は図7に示す。
実施例3によれば、第1パイル織編物10と第2パイル織編物20に押圧力を加えることなく、水平方向に相対移動させることで10Volts以上の出力電圧が得られた。パイル糸12、22が互いにパイル全体で接触して相対移動することで強い摩擦帯電が誘起されるものと推察される。
【0055】
(実施例4)
得られた検知デバイス1の第1パイル織編物10と第2パイル織編物20を対向して配置した状態で斜め上方から物体を転がして検知デバイス1上に衝突させオシロスコープで出力電圧を測定した(図8(d)に示す)。測定結果は図8に示す。
実施例4によれば、衝突角度30度(図8(a)に示す)、45度(図8(b)に示す)、60度(図8(c)に示す)のいずれの場合も、2Volts以上の略同じ出力電圧が得られた。パイル糸12、22が互いにパイル全体で接触している状態では衝突角度方向が異なってもその相対移動に影響しないものと推察される。これにより、検知デバイス1は様々な角度からの摩擦に対して電気的応答を示すことが確認された。
【0056】
(検知デバイスの効果)
・検知デバイス1は、互いが接触する、又は互いが接触と離反を繰り返すことで電荷を発生させて帯電する第1パイル織編物10と第2パイル織編物20とがパイル糸で構成されている。これにより、水平方向を含む様々な方向からの押圧に対して電気的応答を示し、例えば、全方向に対する転倒検知が可能となっている。
・検知デバイス1は、第1パイル織編物10の帯電極性と第2パイル織編物20の帯電極性が、摩擦帯電列において反対側の極性に位置することで、発生する電位差を大きくして検出能力を向上させている。
・第2パイル織編物20は、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)から選ばれる少なくとも一種の機能性繊維からなるマルチフィラメント糸が立毛され、第1パイル織編物10との摩擦係数を小さくして耐摩耗性を向上させている。図9に示すように、第1パイル織編物10を摩擦材料、第2パイル織編物20を相手材料とした場合は、摩擦材料と相手材料をいずれも第1パイル織編物10とした場合、摩擦材料を第1パイル織編物10、相手材料をポリエステル繊維ブラシとした場合に比べて、静摩擦係数、動摩擦係数ともに小さくなっている。
・出力電圧は、図10(a)に示すように、パイル糸12、22の羽毛の高さ(毛長)が大きくなると減少し、図10(b)に示すように、立毛密度が大きくなるに従って増加する。パイル糸12、22は、毛羽の高さが3mm程度で立毛密度がより大きくなるように調整することで、発生する電位差を最大化することができる。
・第1パイル織編物10及び第2パイル織編物20のパイル糸12、22は基布11、21の緯糸11b、21bに対し略U字状又は略W字状に絡ませるようにして織り込まれ根元が導体30、40と電気的に接続するように接触している。これにより、パイル糸12、22に発生する電力を外部に取り出すことができる。
・基布11、21の裏面にパイル糸12、22の抜けを防ぐコーティング層13、23を有し、パイル糸12、22はそれぞれコーティング層13、23を介して導体30、40と電気的に接続されている。これにより、パイル糸12、22の抜けを抑制することができる。特に、コーティング層13、23を導電性とすることで、パイル糸12、22と導体30、40の導通を安定化させることができる。
【0057】
以上、本発明に係る実施形態を詳述したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内で種々の変更を行うことが可能である。例えば、本実施形態に係る第1パイル織編物10及び第2パイル織編物20を構成するパイル糸12、22が凹凸状の異形断面形状を有して、パイル糸12、22の複数の凸部と凹部とが絡み合うように立設されてもよい。パイル糸12、22を異形断面形状とすることで摩擦帯電のための接触面積を増加させることができる。
また、パイル織編物10、20を構成するパイル糸12、22を、基布11、21を構成する経糸11a、21a及び緯糸11b、21bにループ状に立設してもよい。パイル糸12、22がループ状をなすことで、第1パイル織編物10及び第2パイル織編物20が互いが接触と離反を繰り返す動作がスムーズになり検知デバイス1としての耐久性を向上させることが可能となる。
【符号の説明】
【0058】
1・・・検知デバイス
10・・・第1パイル織編物
11・・・基布、11a・・・経糸、11b・・・緯糸、12・・・パイル糸
20・・・第2パイル織編物
21・・・基布、21a・・・経糸、21b・・・緯糸、22・・・パイル糸
30、40・・・導体
50・・・配線
図1
図2
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