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特開2024-116667金属複合化合物及び金属複合化合物を前駆体とした正極活物質
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  • 特開-金属複合化合物及び金属複合化合物を前駆体とした正極活物質 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024116667
(43)【公開日】2024-08-28
(54)【発明の名称】金属複合化合物及び金属複合化合物を前駆体とした正極活物質
(51)【国際特許分類】
   C01B 35/12 20060101AFI20240821BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20240821BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20240821BHJP
   C01G 53/00 20060101ALN20240821BHJP
【FI】
C01B35/12 D
H01M4/525
H01M4/505
C01G53/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023022394
(22)【出願日】2023-02-16
(71)【出願人】
【識別番号】592197418
【氏名又は名称】株式会社田中化学研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(74)【代理人】
【識別番号】100143959
【弁理士】
【氏名又は名称】住吉 秀一
(72)【発明者】
【氏名】小澤 健太
【テーマコード(参考)】
4G048
5H050
【Fターム(参考)】
4G048AA03
4G048AB02
4G048AC06
4G048AD03
4G048AE05
5H050AA07
5H050BA17
5H050CA08
5H050CB11
5H050GA02
5H050HA02
5H050HA07
5H050HA08
5H050HA13
5H050HA14
5H050HA20
(57)【要約】
【課題】二次電池が充放電を繰り返しても、正極活物質のサイクル特性の低下を防止できる、正極活物質の前駆体である金属複合化合物を提供する。
【解決手段】少なくともニッケル(Ni)とホウ素(B)を含む金属複合化合物であり、前記金属複合化合物に含まれる金属元素(M)に対するリチウム(Li)のモル比(Li/M)が1.01にて、酸素雰囲気下、焼成温度730℃にて所定の時間保持した前記金属複合化合物の焼成物の、焼成温度730℃にて保持した時間T(単位:分)の常用対数をX軸、(003)面の結晶子サイズS1(単位:Å)をY軸とした、前記時間Tと前記結晶子サイズS1の片対数グラフであるフィッティング関数Y=α×log10X+βのβ値が、300.0以下である、金属複合化合物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともニッケル(Ni)とホウ素(B)を含む金属複合化合物であり、
前記金属複合化合物に含まれる金属元素(M)に対するリチウム(Li)のモル比(Li/M)が1.01にて、酸素雰囲気下、焼成温度730℃にて所定の時間保持した前記金属複合化合物の焼成物の、焼成温度730℃にて保持した時間T(単位:分)の常用対数をX軸、(003)面の結晶子サイズS1(単位:Å)をY軸とした、前記時間Tと前記結晶子サイズS1の片対数グラフであるフィッティング関数Y=α×log10X+βのβ値が、300.0以下である、金属複合化合物。
【請求項2】
ニッケル(Ni)の含有量が、前記金属元素(M)の総量に対して80モル%以上である請求項1に記載の金属複合化合物。
【請求項3】
ホウ素(B)の含有量が、前記金属元素(M)の総量に対して0モル%超1.0モル%以下である請求項1または2に記載の金属複合化合物。
【請求項4】
Y=α×log10X+βのα値が、40.0以下である請求項1または2に記載の金属複合化合物。
【請求項5】
前記金属複合化合物の(001)面の結晶子サイズS2が、153.0Å以下である請求項1または2に記載の金属複合化合物。
【請求項6】
前記金属複合化合物が、さらに、コバルト(Co)及びマンガン(Mn)からなる群から選択された少なくとも1種の添加元素を含む遷移金属含有水酸化物である請求項1または2に記載の金属複合化合物。
【請求項7】
BET比表面積が、24.0m/g以上である請求項1または2に記載の金属複合化合物。
【請求項8】
タップ密度が、1.50g/ml以下である請求項1または2に記載の金属複合化合物。
【請求項9】
バルク密度が、1.10g/ml以下である請求項1または2に記載の金属複合化合物。
【請求項10】
非水電解質二次電池の正極活物質の前駆体である請求項1または2に記載の金属複合化合物。
【請求項11】
請求項1または2に記載の金属複合化合物がリチウム化合物と焼成された、非水電解質二次電池の正極活物質。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属複合化合物及び金属複合化合物を前駆体とした正極活物質であり、特に、金属複合化合物が少なくともニッケル(Ni)とホウ素(B)を含むことにより、容量維持率に優れた正極活物質を得ることができる金属複合化合物及び金属複合化合物を前駆体とした正極活物質に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境負荷の低減等の観点から、携帯機器や動力源として電気を使用または併用する車両等、広汎な分野で二次電池が使用されている。二次電池としては、例えば、リチウムイオン二次電池等の非水電解質を用いた二次電池が挙げられる。リチウムイオン二次電池等の非水電解質を用いた二次電池は、小型化、軽量化に適し、高利用率、高サイクル特性といった特性を有している。
【0003】
リチウムイオン二次電池の正極活物質は、充放電が繰り返されることによって、正極活物質のサイクル特性が低下して、リチウムイオン二次電池の性能が低下してしまうという問題がある。そこで、リチウムイオン二次電池が充放電を繰り返しても電池性能の低下を防止できる正極活物質が検討されている。
【0004】
充放電を繰り返しても電池性能の低下を防止できる正極活物質として、ニッケルを含む正極活物質の前駆体とリチウム化合物とを混合後に焼成して得られたリチウム遷移金属酸化物と、ホウ素含有化合物と、を乾式混合し、さらに熱処理することで、リチウム遷移金属酸化物の表面をホウ素リチウム酸化物でコーティングした正極活物質が提案されている(特許文献1)。
【0005】
特許文献1では、リチウム遷移金属酸化物上に存在するリチウム不純物を構造的に安定したホウ素リチウム酸化物に転換させることで、正極活物質の経時変化を防止するものである。
【0006】
しかし、特許文献1の正極活物質では、依然として、充放電が繰り返されることによって、正極活物質のサイクル特性が低下する傾向にあり、サイクル特性に改善の余地があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特表2015-536558号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記事情に鑑み、本発明は、二次電池が充放電を繰り返しても、正極活物質のサイクル特性の低下を防止できる、正極活物質の前駆体である金属複合化合物、および前記金属複合化合物を前駆体とした正極活物質を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の金属複合化合物は、複数の一次粒子が凝集して形成された二次粒子である。本発明の金属複合化合物は、ホウ素(B)を含むことで、金属複合化合物を前駆体とした正極活物質の結晶子サイズを制御し、また、正極活物質の製造時において金属複合化合物を構成する一次粒子間の焼結を抑制する。
【0010】
本発明の構成の要旨は、以下の通りである。
[1]少なくともニッケル(Ni)とホウ素(B)を含む金属複合化合物であり、
前記金属複合化合物に含まれる金属元素(M)に対するリチウム(Li)のモル比(Li/M)が1.01にて、酸素雰囲気下、焼成温度730℃にて所定の時間保持した前記金属複合化合物の焼成物の、焼成温度730℃にて保持した時間T(単位:分)の常用対数をX軸、(003)面の結晶子サイズS1(単位:Å)をY軸とした、前記時間Tと前記結晶子サイズS1の片対数グラフであるフィッティング関数Y=α×log10X+βのβ値が、300.0以下である、金属複合化合物。
[2]ニッケル(Ni)の含有量が、前記金属元素(M)の総量に対して80モル%以上である[1]に記載の金属複合化合物。
[3]ホウ素(B)の含有量が、前記金属元素(M)の総量に対して0モル%超1.0モル%以下である[1]または[2]に記載の金属複合化合物。
[4]Y=α×log10X+βのα値が、40.0以下である[1]または[2]に記載の金属複合化合物。
[5]前記金属複合化合物の(001)面の結晶子サイズS2が、153.0Å以下である[1]または[2]に記載の金属複合化合物。
[6]前記金属複合化合物が、さらに、コバルト(Co)及びマンガン(Mn)からなる群から選択された少なくとも1種の添加元素を含む遷移金属含有水酸化物である[1]または[2]に記載の金属複合化合物。
[7]BET比表面積が、24.0m/g以上である[1]または[2]に記載の金属複合化合物。
[8]タップ密度が、1.50g/ml以下である[1]または[2]に記載の金属複合化合物。
[9]バルク密度が、1.10g/ml以下である[1]または[2]に記載の金属複合化合物。
[10]非水電解質二次電池の正極活物質の前駆体である[1]または[2]に記載の金属複合化合物。
[11][1]または[2]に記載の金属複合化合物がリチウム化合物と焼成された、非水電解質二次電池の正極活物質。
【0011】
フィッティング関数Y=α×log10X+βのβ値は、焼成温度730℃にて保持した時間Tが0分における金属複合化合物由来の(003)面の結晶子サイズS1である。β値が300.0以下であることにより、金属複合化合物由来の(003)面の結晶子サイズS1が低減されるので、金属複合化合物を構成する一次粒子のサイズが小さい傾向となる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の金属複合化合物によれば、金属複合化合物に含まれる金属元素(M)に対するリチウム(Li)のモル比(Li/M)が1.01にて、酸素雰囲気下、焼成温度730℃にて所定の時間保持した前記金属複合化合物の焼成物の、焼成温度730℃にて保持した時間T(単位:分)の常用対数をX軸、(003)面の結晶子サイズS1(単位:Å)をY軸とした、前記時間Tと前記結晶子サイズS1の片対数グラフであるフィッティング関数Y=α×log10X+βのβ値が、300.0以下であることにより、金属複合化合物から正極活物質を得る際に、金属複合化合物を構成する一次粒子間の焼結が抑制されることで、充放電サイクルによって正極活物質にマイクロクラックが発生することを抑制する。このように、本発明の金属複合化合物によれば、充放電サイクルによって、金属複合化合物から得られた正極活物質にマイクロクラックが発生することを抑制することで、二次電池が充放電を繰り返しても、正極活物質のサイクル特性の低下を防止できる。
【0013】
本発明の金属複合化合物によれば、ホウ素(B)の含有量が前記金属元素(M)の総量に対して0モル%超1.0モル%以下であることにより、金属複合化合物を構成する一次粒子間の焼結がより確実に抑制されて、正極活物質のサイクル特性の低下をより確実に防止できる。
【0014】
本発明の金属複合化合物によれば、フィッティング関数Y=α×log10X+βのα値が40.0以下であることにより、金属複合化合物から正極活物質を得る際に、金属複合化合物を構成する一次粒子間の焼結がより確実に抑制されて、正極活物質のサイクル特性の低下をより確実に防止できる。
【0015】
本発明の金属複合化合物によれば、前記金属複合化合物の(001)面の結晶子サイズS2が、153.0Å以下であることにより、金属複合化合物を構成する一次粒子間の焼結がより確実に抑制されて、正極活物質のサイクル特性の低下をより確実に防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】金属複合化合物を前駆体とした正極活物質の断面における、走査電子顕微鏡の画像(20000倍)である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明の、少なくともニッケル(Ni)とホウ素(B)を含む金属複合化合物について、詳細を説明する。本発明の少なくともニッケル(Ni)とホウ素(B)を含む金属複合化合物(以下、単に、「本発明の金属複合化合物」ということがある。)は、複数の一次粒子が凝集して形成された二次粒子である。本発明の少なくともニッケル(Ni)とホウ素(B)を含む金属複合化合物の粒子形状は、特に限定されず、多種多様な形状となっており、例えば、略球形状、略楕円形状等を挙げることができる。
【0018】
本発明の少なくともニッケル(Ni)とホウ素(B)を含む金属複合化合物は、前記金属複合化合物に含まれる金属元素(M)に対するリチウム(Li)のモル比(Li/M)が1.01にて、酸素雰囲気下、焼成温度730℃にて所定の時間保持した前記金属複合化合物の焼成物の、焼成温度730℃にて保持した時間T(単位:分)の常用対数をX軸、(003)面の結晶子サイズS1(単位:Å)をY軸とした、前記時間Tと前記結晶子サイズS1の片対数グラフであるフィッティング関数Y=α×log10X+βのβ値が、300.0以下となっている。本発明の金属複合化合物は、上記フィッティング関数のY切片(すなわち、焼成温度730℃にて保持した時間Tが0分)であるβ値が300.0以下に制御されている。
【0019】
上記フィッティング関数のβ値が300.0以下であることにより、本発明の金属複合化合物では、焼成温度730℃にて金属複合化合物とリチウム化合物の焼成を開始する時点における金属複合化合物の(003)面の結晶子サイズS1が低減された態様となっている。(003)面の結晶子サイズS1が低減された態様となっていることで、金属複合化合物を構成する一次粒子のサイズが小さい傾向となる。焼成温度730℃は、金属複合化合物とリチウム化合物から正極活物質を得る際に、一般的に使用される焼成温度の範囲に含まれる。
【0020】
フィッティング関数Y=α×log10X+βは、本発明の金属複合化合物について、焼成温度730℃にて保持した時間Tの常用対数をX軸に、焼成温度730℃にて時間T保持した際の(003)面の結晶子サイズS1をY軸としてプロットし、焼成温度730℃にて保持した種々の時間T1、T2、T3・・・における複数のプロットに基づいて最小二乗法にて求めた関数である。なお、焼成温度730℃までの昇温速度は120℃/h。また、焼成温度730℃の保持時間Tは0分~600分の範囲としている。
【0021】
本発明の金属複合化合物は、上記フィッティング関数のβ値が300.0以下であることにより、金属複合化合物から正極活物質を得る際に、金属複合化合物を構成する一次粒子間の焼結が抑制されて一次粒子の粒子径の増大化を抑制することで、充放電サイクルによって正極活物質にマイクロクラックが発生することを抑制する。このように、本発明の金属複合化合物では、充放電サイクルによって、金属複合化合物から得られた正極活物質にマイクロクラックが発生することを抑制することで、二次電池が充放電を繰り返しても、優れた容量維持率を維持でき、結果、正極活物質のサイクル特性の低下を防止できる。
【0022】
上記フィッティング関数のβ値は300.0以下であれば、特に限定されないが、優れた容量維持率を確実に得る点から、β値の上限値は290.0が好ましく、280.0がより好ましく、270.0が特に好ましい。一方で、上記フィッティング関数のβ値の下限値は、ホウ素(B)使用量の増大を防止しつつ、優れた容量維持率を確実に得る点から、180.0が好ましく、190.0が特に好ましい。上記フィッティング関数のβ値は、金属複合化合物のニッケル(Ni)とホウ素(B)の含有量を調整することで、制御することができる。なお、上記した上限値、下限値は、任意で組み合わせることができる。
【0023】
上記フィッティング関数の傾きに相当するα値は、金属複合化合物から正極活物質を得るための焼成の進展に応じた、(003)面の結晶子サイズS1の増大の程度を示す。上記フィッティング関数のα値は、特に限定されないが、その上限値は、金属複合化合物から正極活物質を得るための焼成工程が進んでも、金属複合化合物を構成する一次粒子間の焼結がより確実に抑制されて、正極活物質の容量維持率がより向上してサイクル特性の低下をより確実に防止できる点から、40.0が好ましく、39.0がより好ましく、正極活物質の容量維持率がさらに向上する点から、35.0がさらに好ましく、30.0が特に好ましい。一方で、上記フィッティング関数のα値の下限値は、ホウ素(B)使用量の増大を防止しつつ、優れた容量維持率を確実に得る点から、15.0が好ましく、20.0が特に好ましい。上記フィッティング関数のα値は、金属複合化合物のニッケル(Ni)とホウ素(B)の含有量を調整することで、制御することができる。なお、上記した上限値、下限値は、任意で組み合わせることができる。
【0024】
本発明の金属複合化合物の(001)面の結晶子サイズS2は、特に限定されないが、その上限値は、正極活物質を得る際に金属複合化合物を構成する一次粒子間の焼結がより確実に抑制されて、正極活物質の容量維持率がより向上してサイクル特性の低下をより確実に防止できる点から、153.0Åが好ましく、151.0Åが特に好ましい。一方で、金属複合化合物の(001)面の結晶子サイズS2の下限値は、ホウ素(B)使用量の増大を防止しつつ、優れた容量維持率を確実に得る点から、100.0Åが好ましく、120.0Åが特に好ましい。上記金属複合化合物の(001)面の結晶子サイズS2は、金属複合化合物のニッケル(Ni)とホウ素(B)の含有量を調整することで、制御することができる。なお、上記した上限値、下限値は、任意で組み合わせることができる。
【0025】
本発明の金属複合化合物の組成としては、ニッケル(Ni)とホウ素(B)を含む金属複合化合物であれば、特に限定されない。すなわち、本発明の金属複合化合物は、必須成分として、ニッケル(Ni)とホウ素(B)を含有する。
【0026】
本発明の金属複合化合物のニッケル含有量は、特に限定されないが、その下限値は、高利用率、高サイクル特性及び充放電効率等の諸特性の向上した正極活物質を得つつ、原料コストを低減することができる点から、金属複合化合物に含まれる金属元素(M)の総量に対して80モル%が好ましく、82モル%が特に好ましい。一方で、本発明の金属複合化合物のニッケル含有量の上限値としては、金属複合化合物に含まれる金属元素(M)の総量に対して100モル%が挙げられ、高利用率、高サイクル特性及び充放電効率等の諸特性の向上した正極活物質を確実に得る点から、95モル%が好ましく、90モル%が特に好ましい。なお、上記した上限値、下限値は、任意で組み合わせることができる。
【0027】
本発明の金属複合化合物のホウ素含有量は、金属複合化合物に含まれる金属元素(M)の総量に対して0モル%超である。ホウ素含有量の下限値は、上記フィッティング関数のβ値を300.0以下に確実に制御し、金属複合化合物を構成する一次粒子間の焼結がより確実に抑制されて、正極活物質の容量維持率がより向上してサイクル特性の低下をより確実に防止できる点から、金属複合化合物に含まれる金属元素(M)の総量に対して、0.1モル%が好ましく、0.2モル%がより好ましく、0.3モル%が特に好ましい。一方で、ホウ素含有量の上限値は、金属複合化合物に含まれる金属元素(M)の総量に対して、ホウ素(B)使用量の増大を防止しつつ、上記フィッティング関数のβ値を300.0以下に確実に制御する点から、1.0モル%が好ましく、0.9モル%が特に好ましい。なお、上記した上限値、下限値は、任意で組み合わせることができる。
【0028】
本発明の金属複合化合物としては、少なくともニッケル(Ni)とホウ素(B)を含む遷移金属含有水酸化物が挙げられる。また、本発明の金属複合化合物の組成としては、さらに、コバルト(Co)及びマンガン(Mn)からなる群から選択された少なくとも1種の添加元素を含む遷移金属含有水酸化物が挙げられる。すなわち、本発明の金属複合化合物としては、ニッケル(Ni)と、ホウ素(B)と、コバルト(Co)及びマンガン(Mn)からなる群から選択された少なくとも1種の添加元素と、を含む遷移金属含有水酸化物が挙げられる。
【0029】
ニッケル(Ni)と、ホウ素(B)と、コバルト(Co)及びマンガン(Mn)からなる群から選択された少なくとも1種の添加元素と、を含む遷移金属含有水酸化物におけるNi:Co:Mnのモル比としては、例えば、1-x-y:x:y(0<x≦0.15、0<y≦0.05が挙げられる。
【0030】
また、ニッケル(Ni)と、ホウ素(B)と、コバルト(Co)及びマンガン(Mn)からなる群から選択された少なくとも1種の添加元素と、を含む遷移金属含有水酸化物は、適宜、Al、Fe、Ti、Mg、Ca、Sr、Ba、V、Nb、Cr、Mo、W、Ru、Cu、Zn、Ga、Si、Sn、P、Bi及びZrからなる群から選択される1種以上のさらなる添加元素が、さらに含まれていてもよい。ニッケル(Ni)と、コバルト(Co)及びマンガン(Mn)からなる群から選択された少なくとも1種の添加元素(第1の任意成分)と、Al、Fe、Ti、Mg、Ca、Sr、Ba、V、Nb、Cr、Mo、W、Ru、Cu、Zn、Ga、Si、Sn、P、Bi及びZrからなる群から選択される1種以上のさらなる添加元素(第2の任意成分)が、金属複合化合物に含まれる金属元素(M)を構成する。
【0031】
本発明の金属複合化合物のBET比表面積は、特に限定されないが、例えば、BET比表面積の下限値は、金属複合化合物を構成する一次粒子間の焼結がより確実に抑制されて正極活物質の容量維持率の向上に寄与する点から、24.0m/gが好ましい。一方で、本発明の金属複合化合物のBET比表面積の上限値は、正極活物質の容量維持率の向上に寄与しつつ、正極活物質の圧壊強度を向上させる点から、40.0m/gが好ましく、35.0m/gがより好ましく、30.0m/gが特に好ましい。なお、上記した上限値、下限値は、任意で組み合わせることができる。
【0032】
本発明の金属複合化合物のタップ密度(TD)は、特に限定されないが、例えば、タップ密度(TD)の上限値は、金属複合化合物を構成する一次粒子間の焼結がより確実に抑制されて正極活物質の容量維持率の向上に寄与する点から、1.50g/mlが好ましく、1.40g/mlがより好ましく、1.35g/mlが特に好ましい。一方で、本発明の金属複合化合物のタップ密度(TD)の下限値は、正極活物質の正極への充填度向上の点から、1.00g/mlが好ましく、1.10g/mlが特に好ましい。なお、上記した上限値、下限値は、任意で組み合わせることができる。
【0033】
本発明の金属複合化合物のバルク密度(BD)は、特に限定されないが、例えば、バルク密度(BD)の上限値は、金属複合化合物を構成する一次粒子間の焼結がより確実に抑制されて正極活物質の容量維持率の向上に寄与する点から、1.10g/mlが好ましく、1.05g/mlがより好ましく、1.00g/mlが特に好ましい。一方で、本発明の金属複合化合物のバルク密度(BD)の下限値は、正極活物質の正極への充填度向上の点から、0.70g/mlが好ましく、0.80g/mlが特に好ましい。なお、上記した上限値、下限値は、任意で組み合わせることができる。
【0034】
本発明の金属複合化合物の粒子径は、特に限定されないが、例えば、累積体積百分率が50体積%の二次粒子径(以下、単に「D50」ということがある。)の上限値は、電解質との接触性を向上させる点から、15.0μmが好ましく、13.0μmがより好ましく、11.0μmが特に好ましい。一方で、本発明の金属複合化合物のD50の下限値は、正極活物質の正極への充填度を向上させる点から、6.0μmが好ましく、8.0μmが特に好ましい。なお、上記した上限値、下限値は、任意で組み合わせることができる。
【0035】
本発明の金属複合化合物の累積体積百分率が10体積%の二次粒子径(以下、単に「D10」ということがある。)の上限値は、電解質との接触性を向上させる点から、10.0μmが好ましく、8.0μmが特に好ましい。一方で、本発明の金属複合化合物のD10の下限値は、正極活物質の正極への充填度を向上させる点から、4.0μmが好ましく、5.0μmが特に好ましい。なお、上記した上限値、下限値は、任意で組み合わせることができる。
【0036】
本発明の金属複合化合物の累積体積百分率が90体積%の二次粒子径(以下、単に「D90」ということがある。)の上限値は、電解質との接触性を向上させる点から、20.0μmが好ましく、17.0μmが特に好ましい。一方で、本発明の金属複合化合物のD90の下限値は、正極活物質の正極への充填度を向上させる点から、12.0μmが好ましく、14.0μmが特に好ましい。なお、上記した上限値、下限値は、任意で組み合わせることができる。上記したD50、D10、D90は、レーザ回折・散乱法を用い、粒度分布測定装置で測定した粒子径を意味する。
【0037】
本発明の金属複合化合物は、リチウムイオン二次電池等の非水電解質二次電池の正極活物質の前駆体として使用することができる。
【0038】
次に、本発明の金属複合化合物の製造方法について説明する。本発明の金属複合化合物の製造方法では、晶析工程を含んでいる。晶析工程とは、ニッケル塩とホウ素含有化合物を含む水溶液と錯化剤を含む水溶液とを、反応槽内に添加、混合し、反応槽内の反応溶液が液温40℃基準でのpHが9以上13以下の範囲に維持されるように、pH調整剤を反応槽内の反応溶液に供給することで、反応溶液中にて共沈反応をさせて、ニッケル含有水酸化物粒子を得る工程である。
【0039】
具体的には、共沈法により、ニッケル塩(例えば、硫酸塩)、ホウ素含有化合物(例えば、ホウ酸)、必要に応じて、コバルト塩(例えば、硫酸塩)、マンガン塩(例えば、硫酸塩)等を含む溶液(原料液)に、錯化剤を含む溶液と、pH調整剤と、を適宜添加し、反応槽内の混合溶液(反応溶液)を適宜撹拌することで、反応槽内にて中和反応させて晶析させることにより、少なくともニッケルとホウ素を含む金属複合化合物粒子を調製して、少なくともニッケルとホウ素を含む金属複合化合物粒子を含むスラリー状の懸濁物を得る。懸濁物の溶媒としては、例えば、水が使用される。従って、原料液としては、ニッケル塩(例えば、硫酸塩)とホウ素含有化合物を含む水溶液が挙げられる。また、錯化剤を含む溶液としては、錯化剤の水溶液が挙げられる。
【0040】
錯化剤としては、水溶液中で、ニッケルイオン、ホウ素イオン(必要に応じて、コバルトイオン、マンガンイオン等)と錯体を形成可能なものであれば、特に限定されず、例えば、アンモニウムイオン供給体が挙げられる。アンモニウムイオン供給体としては、例えば、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、炭酸アンモニウム、弗化アンモニウム等が挙げられる。
【0041】
共沈反応に際しては、反応槽内の反応溶液のpH値を液温40℃基準で9以上13以下の範囲、好ましくは液温40℃基準で10以上13以下の範囲に調整するために、上記の通り、適宜、pH調整剤を添加する。pH調整剤としては、アルカリ金属水酸化物(例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム)が挙げられる。
【0042】
また、共沈反応に際しては、反応槽の温度を、例えば、10℃~80℃、好ましくは20~70℃の範囲内で制御する。
【0043】
本発明の金属複合化合物の製造方法に用いる反応槽としては、例えば、得られた金属複合化合物を分離するために、オーバーフロー管から金属複合化合物粒子をオーバーフローさせて金属複合化合物粒子を製品として回収する連続式反応槽や、反応終了まで遷移金属含有水酸化物粒子を系外に排出しないバッチ式反応槽を挙げることができる。
【0044】
また、本発明の金属複合化合物の製造方法に用いる反応装置としては、セミバッチ式の反応装置を使用してもよい。セミバッチ式の反応装置は、オーバーフロー管の一端が接続された連続式反応槽と、オーバーフロー管の他端が接続された沈降槽と、沈降槽の底部と連続式反応槽を繋いでいる回収管と、を有している。連続式反応槽に設けられたオーバーフロー管から金属複合化合物粒子を含むスラリーをオーバーフローさせて沈降槽へ収容する。沈降槽に収容された金属複合化合物粒子を含むスラリーは、重力作用によって金属複合化合物粒子が沈降槽の下部に沈降することで、金属複合化合物粒子の濃縮スラリーが形成される。沈降槽の下部に形成された金属複合化合物粒子の濃縮スラリーは、回収管を介して連続式反応槽へ返送される。また、濃縮スラリーが形成されるにあたっては、沈降槽の上部に上澄み液が形成されるので、上澄み液は排出管を通って外部へ排出される。セミバッチ式の反応装置では、金属複合化合物粒子が沈降槽から連続式反応槽へ返送されることで金属複合化合物粒子の核成長が促進されるので、金属複合化合物粒子の粒度分布を均一化することができる。
【0045】
連続式反応槽内にて共沈反応が終了した後、得られた金属複合化合物粒子をスラリーから、ろ過後、水洗し、乾燥処理することで、本発明の金属複合化合物を得ることができる。
【0046】
次に、本発明の金属複合化合物を前駆体とした非水電解質二次電池の正極活物質(以下、単に「正極活物質」ということがある。)について説明する。正極活物質は、前駆体である本発明の金属複合化合物が、例えば、リチウム化合物と焼成された態様となっている。正極活物質の結晶構造は、層状構造であり、放電容量が高い二次電池を得る点から、三方晶系の結晶構造または六方晶型の結晶構造または単斜晶型の結晶構造であることが好ましい。
【0047】
本発明の金属複合化合物を前駆体とした正極活物質は、例えば、リチウムイオン二次電池等の非水電解質二次電池の正極活物質として使用することができる。
【0048】
次に、本発明の金属複合化合物を前駆体とした正極活物質の製造方法について説明する。例えば、本発明の金属複合化合物を前駆体とした正極活物質の製造方法は、まず、本発明の金属複合化合物にリチウム化合物を添加して、本発明の金属複合化合物とリチウム化合物との混合物を調製する。リチウム化合物としては、リチウムを有する化合物であれば、特に限定されず、例えば、炭酸リチウム、水酸化リチウム、硝酸リチウム、酢酸リチウム、シュウ酸リチウム、ハロゲン化リチウム等を挙げることができる。また、リチウム化合物の配合量は、所望のリチウム組成の正極活物質となるように適宜選択可能である。
【0049】
次に、上記混合物を焼成することで正極活物質を製造することができる。焼成条件としては、例えば、焼成温度600℃以上1000℃以下、昇温速度50℃/h以上300℃/h以下、焼成時間5時間以上20時間以下が挙げられる。焼成の雰囲気については、例えば、大気、酸素などが挙げられる。また、焼成に用いる焼成炉としては、特に限定されないが、例えば、静置式のボックス炉やローラーハース式連続炉などが挙げられる。
【0050】
次に、本発明の金属複合化合物を前駆体とした正極活物質を用いた正極について説明する。正極は、正極集電体と、正極集電体表面に形成された、正極活物質を用いた正極活物質層を備える。正極活物質層は、正極活物質と、結着剤(バインダー)と、導電助剤とを有する。導電助剤としては、非水電解質二次電池のために使用できるものであれば、特に限定されず、例えば、炭素系材料を用いることができる。炭素系材料として、黒鉛粉末、カーボンブラック(例えば、アセチレンブラック)、繊維状炭素材料などを挙げることができる。結着剤としては、特に限定されないが、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ブタジエンゴム(BR)、ポリビニルアルコール(PVA)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のポリマー樹脂、並びにこれらの組み合わせを挙げることができる。正極集電体としては、特に限定されないが、例えば、Al、Ni、ステンレスなどの金属材料を形成材料とする帯状の部材を用いることができる。このうち、加工しやすく、安価である点で、Alを形成材料とし、薄膜状に加工したものが好ましい。
【0051】
正極の製造方法としては、先ず、正極活物質と導電助剤と結着剤を混合して正極活物質スラリーを調製する。次いで、上記正極活物質スラリーを正極集電体に、公知の充填方法で塗布して乾燥させ、プレスして固着することで正極を得ることができる。
【0052】
上記のようにして得られた正極活物質を用いた正極と、負極(負極集電体と負極集電体表面に形成された負極活物質を含む負極活物質層を備えている)と、所定の電解質を含む電解液と、セパレータとを、公知の方法で搭載することで、非水電解質二次電池を組み上げることができる。
【0053】
電解液に含まれる電解質としては、例えば、LiClO、LiPF、LiAsF、LiSbF、LiBF、LiCFSO、LiN(SOCF、LiN(SO、LiN(SOCF)(COCF)、Li(CSO)、LiC(SOCF、Li10Cl10、LiBOB(ここで、BOBは、bis(oxalato)borateのことである。)、LiFSI(ここで、FSIはbis(fluorosulfonyl)imideのことである)、低級脂肪族カルボン酸リチウム塩、LiAlClなどのリチウム塩が挙げられる。これらのリチウム塩は、単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0054】
また、電解質の分散媒としては、例えば、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、4-トリフルオロメチル-1,3-ジオキソラン-2-オン、1,2-ジ(メトキシカルボニルオキシ)エタンなどのカーボネート類;1,2-ジメトキシエタン、1,3-ジメトキシプロパン、ペンタフルオロプロピルメチルエーテル、2,2,3,3-テトラフルオロプロピルジフルオロメチルエーテル、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフランなどのエーテル類;ギ酸メチル、酢酸メチル、γ-ブチロラクトンなどのエステル類;アセトニトリル、ブチロニトリルなどのニトリル類;N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミドなどのアミド類;3-メチル-2-オキサゾリドンなどのカーバメート類;スルホラン、ジメチルスルホキシド、1,3-プロパンサルトンなどの含硫黄化合物、またはこれらの有機溶媒にさらにフルオロ基を導入したもの(有機溶媒が有する水素原子のうち1以上をフッ素原子で置換したもの)を用いることができる。これらの分散媒は、単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0055】
また、電解質を含む電解液に代えて、固体電解質を用いてもよい。固体電解質としては、例えば、ポリエチレンオキサイド系の高分子化合物、ポリオルガノシロキサン鎖またはポリオキシアルキレン鎖の少なくとも一種以上を含む高分子化合物などの有機系高分子電解質が挙げられる。また、高分子化合物に非水電解液を保持させた、いわゆるゲルタイプの固体電解質を用いることもできる。また、LiS-SiS、LiS-GeS、LiS-P、LiS-B、LiS-SiS-LiPO、LiS-SiS-LiSO、LiS-GeS-Pなどの硫化物を含む無機系の固体電解質が挙げられる。これらは、単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0056】
セパレータとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂、フッ素樹脂、含窒素芳香族重合体などの材料にて形成された、多孔質膜、不織布、織布などの形態を有する部材が挙げられる。
【実施例0057】
次に、本発明の金属複合化合物の実施例を説明するが、本発明はその趣旨を超えない限り、これらの例に限定されるものではない。
【0058】
実施例及び比較例の金属複合化合物の製造
<実施例1の金属複合化合物の製造>
硫酸ニッケルと硫酸コバルトと硫酸マンガンとを、ニッケル:コバルト:マンガンのモル比が83.0:12.1:4.9となるように溶解し、さらに、ニッケルとコバルトとマンガンの総量に対してホウ素が0.4モル%となるようにホウ酸を溶解した水溶液(原料液)、硫酸アンモニウム水溶液(アンモニウムイオン供給体)及び水酸化ナトリウム水溶液を、セミバッチ式の反応装置の反応槽へ供給して、反応槽内の混合液のpHを液温40℃基準で10.2、アンモニア濃度を1.0g/Lに維持しながら、撹拌羽根を備えた撹拌機にて連続的に撹拌した。反応槽内は、窒素雰囲気とした。また、反応槽内の混合液の液温は60.0℃に維持した。中和反応により晶析した金属複合化合物の反応槽内での滞留時間が24.7時間となるようにし、金属複合化合物粒子のスラリーを得た。上記のようにして得られた金属複合化合物粒子のスラリーを、ろ過後、アルカリ水溶液(8質量%の水酸化ナトリウム水溶液)で洗浄して、固液分離した。その後、分離した固相に対して水洗し、さらに、脱水、乾燥の各処理を施して、粉体状の金属複合化合物を得た。
【0059】
<実施例2の金属複合化合物の製造>
ニッケルとコバルトとマンガンの総量に対してホウ素が0.9モル%となるようにホウ酸を溶解した水溶液を用いた以外は、実施例1と同様にして、粉体状の金属複合化合物を得た。
【0060】
<実施例3の金属複合化合物の製造>
硫酸ニッケルと硫酸コバルトと硫酸マンガンとを、ニッケル:コバルト:マンガンのモル比が88.0:9.0:3.0となるように溶解した水溶液を用いた以外は、実施例1と同様にして、粉体状の金属複合化合物を得た。
【0061】
<比較例1の金属複合化合物の製造>
原料液にホウ酸を添加しなかった以外は、実施例1と同様にして、粉体状の金属複合化合物を得た。従って、比較例1では、ホウ素を含有しない金属複合化合物とした。
【0062】
<比較例2の金属複合化合物の製造>
原料液にホウ酸を添加しなかった以外は、実施例3と同様にして、粉体状の金属複合化合物を得た。従って、比較例2では、ホウ素を含有しない金属複合化合物とした。
【0063】
(1)フィッティング関数Y=α×log10X+β
実施例1~3及び比較例1、2の金属複合化合物について、リチウム化合物として水酸化リチウム粉末を用い、金属複合化合物に含まれる金属元素(M(すなわち、ニッケルとコバルトとマンガンの合計))のモル比に対するリチウム(Li)のモル比(Li/M)が1.01にて金属複合化合物と水酸化リチウム粉末を混合し、酸素雰囲気下、焼成温度730℃にて30分間、300分間、600分間保持して金属複合化合物の焼成物を得た。得られた金属複合化合物の焼成物について、焼成温度730℃にて保持した時間T(すなわち、30分間、300分間、600分間)の常用対数をX軸、時間Tにおける金属複合化合物の焼成物の(003)面の結晶子サイズS1(単位:Å)をY軸として、時間Tと結晶子サイズS1の片対数グラフを作成した。片対数グラフから最小二乗法にてフィッティング関数Y=α×log10X+βを求めた。フィッティング関数Y=α×log10X+βのα値とβ値を下記表1に示す。なお、(003)面の結晶子サイズS1は、X線回折装置(株式会社Rigaku製、UltimaIV)にて測定した。
【0064】
実施例1~3及び比較例1、2の金属複合化合物について、(001)面の結晶子サイズS2をX線回折装置(株式会社Rigaku製、UltimaIV)にて測定した。(001)面の結晶子サイズS2を下記表1に示す。
【0065】
【表1】
【0066】
実施例1~3及び比較例1、2の金属複合化合物について、比表面積(BET比表面積)、タップ密度、バルク密度、D10、D50、D90を以下のように測定した。
【0067】
(2)比表面積(BET比表面積)
金属複合化合物0.3gを窒素雰囲気中、105℃で30分間脱気させた後、比表面積測定装置(株式会社マウンテック製、Macsorb)を用い、1点BET法によって測定した。
【0068】
(3)タップ密度
タップデンサー(株式会社セイシン製、KYT-4000)を用いて、定容積測定法によってタップ密度の測定を行った。なお、タップ密度の測定条件は以下の通りである。セル容積:20ml、ストローク長:10mm、タッピング回数:200回。
【0069】
(4)バルク密度
金属複合化合物を自然落下させて容器に充填し、容器の容積と金属複合化合物の質量からバルク密度を測定した。
【0070】
(5)D10、D50、D90
粒度分布測定装置(マイクロクラック・ベル株式会社製、MT3300EX II)で測定した(原理はレーザ回折・散乱法)。なお、粒度分布測定装置の測定条件は以下の通りである。 溶媒:水、溶媒屈折率:1.33、粒子屈折率:1.55、透過率80±5%、分散媒:10.0質量%ヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液。
【0071】
比表面積(BET比表面積)、タップ密度、バルク密度、D10、D50、D90の測定結果を下記表2に示す。
【0072】
【表2】
【0073】
<正極活物質の製造>
実施例1~3及び比較例1、2の金属複合化合物に、リチウム(Li)と金属複合化合物に含まれる金属元素(M)のモル比(Li/M)を下記表3にて、水酸化リチウム粉末を添加して混合して、金属複合化合物と水酸化リチウムの混合物を得た。実施例1、2及び比較例1の金属複合化合物と水酸化リチウムの混合物については焼成温度780℃、焼成温度780℃の保持時間10.0時間、実施例3及び比較例2の金属複合化合物と水酸化リチウムの混合粉については焼成温度730℃、焼成温度730℃の保持時間10.0時間にて、焼成を行って正極活物質を製造した。焼成は、ボックス炉を用い、酸素雰囲気下で、昇温速度120℃/hの条件で行った。
【0074】
実施例1~3及び比較例1、2の金属複合化合物を前駆体として得られた正極活物質について、実施例1~3及び比較例1、2の金属複合化合物と同様の方法にて、比表面積(BET比表面積)、D10、D50、D90を測定した。正極活物質の比表面積(BET比表面積)、D10、D50、D90の測定結果を下記表3に示す。
【0075】
正極の作製
実施例1~3及び比較例1、2の金属複合化合物を前駆体とした正極活物質と導電材(アセチレンブラック)とバインダー(PVdF)とを、正極活物質:導電材:バインダー=92:5:3(質量比)の組成となるように加えて混練することにより、ペースト状の正極合剤を調製した。正極合剤の調製時には、N-メチル-2-ピロリドンを有機溶媒として用いた。
【0076】
得られた正極合剤を、集電体となる厚さ15μmのAl箔に、目付け量15mg/cmとなるように塗布して150℃で12時間真空乾燥を行い、正極を得た。この正極の電極面積は1.65cmとした。
【0077】
負極の作製
負極としてLi箔を用いた。この負極は厚さ300μmの電極面積は1.76cmとした。
【0078】
リチウム二次電池(コインセル)の作製
以下の操作を、露点-70℃のドライエアー雰囲気のグローブボックス内で行った。
【0079】
「正極の作製」で作製した正極を、コインセルキャップの上にアルミニウム箔面を下に向けて置き、その上にセパレータ(ポリエチレン製多孔質フィルムの上に、耐熱多孔層を積層(厚み16μm))を置き、さらに、ポリプロピレン(PP)ガスケットを取り付け、電解液を300μl注入し、さらに、その上に「負極の作製」で作製した負極をスペーサーに張り付けて置き、さらにウェーブワッシャーを置き、その上にケースを被せ、自動コインセルかしめ機でかしめた。上記電解液は、エチレンカーボネートとジメチルカーボネートとエチルメチルカーボネートとの30:35:35(体積比)混合液に、LiPFを1mol/lとなるように溶解して調製した。
【0080】
(6)容量維持率(サイクル特性)
正確な容量測定を行うため、充放電前に充電電流0.5C、放電電流0.2Cで1サイクル充放電を行った。その後、以下に示す条件で充放電試験を実施した。充放電試験における、充電容量および放電容量をそれぞれ以下のようにして求め、1サイクル目の放電容量(初回放電容量)を基準とし、容量の維持率を算出した。各試験でN=2実施し、その平均値を各正極活物質の容量維持率とした。
試験温度:25℃
充電時条件:充電最大電圧4.3V、充電時間2時間、充電電流0.5C、CCCV
放電時条件:放電最小電圧2.5V、放電時間1時間、放電電流1C、CC
充放電回数:50回
【0081】
正極活物質の初回放電容量と容量維持率を下記表3に示す。
【0082】
【表3】
【0083】
また、比較例1、実施例1、2の金属複合化合物を前駆体とした正極活物質の断面について、走査電子顕微鏡の画像(20000倍)を図1に示す。なお、図1では、左から順に、比較例1、実施例1、実施例2の金属複合化合物を前駆体とした正極活物質である。
【0084】
上記表1、3から、実施例1~3の、フィッティング関数Y=α×log10X+βのβ値が300.0以下であり、ホウ素の含有量が金属元素(M)の総量に対して0.4モル%~0.9モル%である金属複合化合物を前駆体とした正極活物質では、容量維持率が93.1%以上と、優れた容量維持率を得ることができ、正極活物質のサイクル特性の低下を防止できた。実施例1~3では、フィッティング関数Y=α×log10X+βのα値が38.2以下に低減されていた。また、実施例1~3の金属複合化合物では、(001)面の結晶子サイズS2が、150.4Å以下に低減されていた。
【0085】
上記表2から、実施例1~3の金属複合化合物では、BET比表面積が24.0m/g以上であり、タップ密度が1.39g/ml以下、バルク密度が1.08g/ml以下に低減されていた。
【0086】
また、図1に示すように、実施例1、2の金属複合化合物を前駆体とした正極活物質では、一次粒子のサイズが小さく、一次粒子が放射状に配列されていた。
【0087】
一方で、上記表1、3から、比較例1~2の、フィッティング関数Y=α×log10X+βのβ値が300.0超であり、ホウ素が含まれていない金属複合化合物を前駆体とした正極活物質では、容量維持率が92.7%以下と、優れた容量維持率を得ることができなかった。また、比較例1~2の金属複合化合物では、(001)面の結晶子サイズS2が、155.8Å以上となっていた。
【0088】
また、上記表2から、比較例1~2の金属複合化合物では、BET比表面積が23.5m/g以下であり、タップ密度が1.48g/ml以上、バルク密度が1.11g/ml以上となっていた。
【0089】
また、図1に示すように、比較例1の金属複合化合物を前駆体とした正極活物質では、一次粒子のサイズが大きく、一次粒子が放射状に配列されている状態が認められなかった。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明の金属複合化合物は、優れた容量維持率を有する正極活物質を得ることができるので、例えば、長寿命が要求される機器に搭載する二次電池の分野で利用価値が高い。
図1