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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024116671
(43)【公開日】2024-08-28
(54)【発明の名称】電気化学セル
(51)【国際特許分類】
   C25B 11/032 20210101AFI20240821BHJP
   H01M 8/12 20160101ALI20240821BHJP
   H01M 8/1226 20160101ALI20240821BHJP
   H01M 8/1213 20160101ALI20240821BHJP
   H01M 4/86 20060101ALI20240821BHJP
   C25B 9/65 20210101ALI20240821BHJP
【FI】
C25B11/032
H01M8/12 101
H01M8/1226
H01M8/12 102A
H01M8/1213
H01M4/86 M
H01M4/86 T
C25B9/65
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023022406
(22)【出願日】2023-02-16
(71)【出願人】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000202
【氏名又は名称】弁理士法人新樹グローバル・アイピー
(72)【発明者】
【氏名】小原 隆平
(72)【発明者】
【氏名】藤崎 真司
(72)【発明者】
【氏名】大森 誠
【テーマコード(参考)】
4K011
4K021
5H018
5H126
【Fターム(参考)】
4K011AA12
4K011AA22
4K011AA50
4K011BA08
4K011DA01
4K021AA01
4K021AA09
4K021DB36
4K021DB53
4K021DB56
4K021DC03
4K021EA03
5H018AA06
5H018AS02
5H018BB01
5H018BB07
5H018BB08
5H018EE02
5H018EE04
5H018EE12
5H126AA02
5H126BB06
5H126GG02
(57)【要約】
【課題】金属支持体と電気化学セルの接合強度向上と連通孔におけるガス流通性向上とを両立可能な電気化学セルを提供する。
【解決手段】電解セル1は、金属支持体10と、セル本体部20とを備える。セル本体部20は、金属支持体10の第1主面12に形成された各連通孔11を覆う水素極層6を有する。水素極層6は、第1主面12上に配置される膜状部61と、連通孔11内に配置されるアンカー部62とを有する。連通孔11は、内径が小さく形成された狭窄部11aを有する。アンカー部62は、狭窄部11aの内側において幅狭に形成されたくびれ部62aを有する。連通孔11とアンカー部62の間の一部には、ガス流通空間40が形成されている。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
主面に形成された複数の連通孔を有する金属支持体と、
前記主面上に形成され、前記複数の連通孔を覆う第1電極層と、第2電極層と、前記第1電極層及び前記第2電極層の間に配置される電解質層とを有するセル本体部と、
を備え、
前記第1電極層は、前記主面上に配置される膜状部と、前記複数の連通孔内に配置される複数のアンカー部とを有し、
前記連通孔は、内径が小さく形成された狭窄部を有し、
前記アンカー部は、前記狭窄部の内側において幅狭に形成されたくびれ部を有し、
前記連通孔と前記アンカー部の間の一部には、ガス流通空間が形成されている、
電気化学セル。
【請求項2】
前記ガス流通空間は、前記アンカー部の端面に開口している、
請求項1に記載の電気化学セル。
【請求項3】
前記ガス流通空間は、前記膜状部に接している、
請求項1に記載の電気化学セル。
【請求項4】
前記ガス流通空間は、前記アンカー部の端面から前記膜状部まで連通している、
請求項2に記載の電気化学セル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気化学セルに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、金属支持体上に配置されたセル本体部を備える電気化学セル(電解セル、燃料電池など)が開示されている。
【0003】
金属支持体は、主面に形成された複数の連通孔を有する。セル本体部は、金属支持体の主面上に形成され、複数の連通孔を覆う第1電極層と、第2電極層と、第1電極層及び第2電極層の間に配置される電解質層とを有する。
【0004】
第1電極層は、金属支持体の主面上に配置される膜状部と、連通孔内に配置されるアンカー部とを有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2022-125626号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した電気化学セルでは、連通孔の途中に狭窄部を形成するとともに、狭窄部の内側でアンカー部をくびれさせることによって、金属支持体と電気化学セルの接合強度を更に向上させることができる。
【0007】
しかしながら、連通孔に狭窄部を形成すると、連通孔におけるガス流通性が低くなってしまう。
【0008】
本発明の課題は、金属支持体と電気化学セルの接合強度向上と連通孔におけるガス流通性向上とを両立可能な電気化学セルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る電気化学セルは、金属支持体とセル本体部とを備える。金属支持体は、主面に形成された複数の連通孔を有する。セル本体部は、主面上に形成され、複数の連通孔を覆う第1電極層と、第2電極層と、第1電極層及び第2電極層の間に配置される電解質層とを有する。第1電極層は、主面上に配置される膜状部と、複数の連通孔内に配置される複数のアンカー部とを有する。連通孔は、内径が小さく形成された狭窄部を有する。アンカー部は、狭窄部の内側において幅狭に形成されたくびれ部を有する。連通孔とアンカー部の間の一部には、ガス流通空間が形成されている。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、金属支持体と電気化学セルの接合強度向上と連通孔におけるガス流通性向上とを両立可能な電気化学セルを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、実施形態に係る電解セルの平面図である。
図2図2は、図1のA-A断面図である。
図3図2の部分拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(電解セル1)
図1は、実施形態に係る電解セル1の平面図である。図2は、図1のA-A断面図である。電解セル1は、本発明に係る「電気化学セル」の一例である。
【0013】
電解セル1は、X軸方向及びY軸方向に広がる板状に形成される。本実施形態において、電解セル1は、X軸方向及びY軸方向に垂直なZ軸方向から平面視した場合、Y軸方向に延びる長方形に形成される。ただし、電解セル1の平面形状は特に限られず、長方形以外の多角形、楕円形、円形などであってもよい。なお、X軸方向及びY軸方向それぞれは電解セル1の面方向であり、Z軸方向は電解セル1の厚み方向である。
【0014】
図2に示すように、電解セル1は、金属支持体10、セル本体部20、及び流路部材30を備える。
【0015】
[金属支持体10]
金属支持体10は、セル本体部20を支持する。金属支持体10は、板状に形成される。金属支持体10は、平板状であってもよいし、曲板状であってもよい。
【0016】
金属支持体10は電解セル1の強度を保つことができればよく、その厚みは特に制限されないが、例えば0.1mm以上2.0mm以下とすることができる。
【0017】
図2に示すように、金属支持体10は、複数の連通孔11、第1主面12及び第2主面13を有する。
【0018】
各連通孔11は、第1主面12から第2主面13まで金属支持体10を貫通する。各連通孔11は、第1主面12及び第2主面13それぞれに開口する。各連通孔11の第1主面12側の開口は、水素極層6によって覆われる。各連通孔11の第2主面13側の開口は、後述する流路30aに繋がる。
【0019】
各連通孔11は、レーザ加工、或いは、化学加工(例えば、エッチング加工)などによって形成することができる。
【0020】
本実施形態において、各連通孔11は、Z軸方向に沿って形成される。連通孔11の詳細な構成については後述する。
【0021】
第1主面12は、第2主面13の反対側に設けられる。第1主面12には、セル本体部20が配置される。第2主面13には、流路部材30が接合される。
【0022】
金属支持体10は、金属材料によって構成される。例えば、金属支持体10は、Cr(クロム)を含有する合金材料によって構成される。このような金属材料としては、Fe-Cr系合金鋼(ステンレス鋼など)やNi-Cr系合金鋼などが挙げられる。金属支持体10におけるCrの含有率は特に制限されないが、4質量%以上30質量%以下とすることができる。
【0023】
金属支持体10は、Ti(チタン)やZr(ジルコニウム)を含有していてもよい。金属支持体10におけるTiの含有率は特に制限されないが、0.01mol%以上1.0mol%以下とすることができる。金属支持体10におけるAlの含有率は特に制限されないが、0.01mol%以上0.4mol%以下とすることができる。金属支持体10は、TiをTiO(チタニア)として含有していてもよいし、ZrをZrO(ジルコニア)として含有していてもよい。
【0024】
金属支持体10は、金属支持体10の構成元素が酸化することによって形成される酸化皮膜を表面に有していてよい。酸化膜としては、例えば酸化クロム膜が代表的である。酸化クロム膜は、金属支持体10の表面の少なくとも一部を覆う。また、酸化クロム膜は、各連通孔11の内壁面の少なくとも一部を覆っていてもよい。
【0025】
[セル本体部20]
セル本体部20は、金属支持体10上に配置される。セル本体部20は、金属支持体10によって支持される。セル本体部20は、水素極層6(カソード)、電解質層7、反応防止層8、及び酸素極層9(アノード)を有する。
【0026】
水素極層6、電解質層7、反応防止層8、及び酸素極層9は、Z軸方向において、この順で金属支持体10側から積層されている。水素極層6、電解質層7、及び酸素極層9は必須の構成であり、反応防止層8は任意の構成である。
【0027】
[水素極層6]
水素極層6は、本発明に係る「第1電極層」の一例である。水素極層6は、金属支持体10及び電解質層7の間に配置される。水素極層6は、金属支持体10の第1主面12上に形成される。本実施形態では、水素極層6の一部が、金属支持体10の各連通孔11の内側に配置されている。水素極層6の詳細な構成については後述する。
【0028】
水素極層6には、各連通孔11を介して原料ガスが供給される。原料ガスは、原料ガスは少なくともHOを含む。
【0029】
原料ガスがHOのみを含む場合、水素極層6は、下記(1)式に示す水電解の電気化学反応に従って、原料ガスからHを生成する。
・水素極層6:HO+2e→H+O2-・・・(1)
【0030】
原料ガスがHOに加えてCOを含む場合、水素極層6は、下記(2)、(3)、(4)式に示す共電解の電気化学反応に従って、原料ガスからH、CO及びO2-を生成する。
・水素極層6:CO+HO+4e→CO+H+2O2-・・・(2)
・HOの電気化学反応:HO+2e→H+O2-・・・(3)
・COの電気化学反応:CO+2e→CO+O2-・・・(4)
【0031】
水素極層6は、電子伝導性を有する多孔体である。水素極層6は、ニッケル(Ni)と酸化物イオン伝導性材料とを含有する。
【0032】
Niは、電子伝導物質として機能する。共電解の場合、Niは、生成されるHと原料ガスに含まれるCOとの熱的反応を促進してメタネーションやFT(Fischer-Tropsch)合成などに適切なガス組成を維持する熱触媒としても機能する。
【0033】
Niは、酸化雰囲気において酸化ニッケル(NiO)の状態で存在し、還元雰囲気において金属Niの状態で存在する。水素極層6は、電解セル1の停止中において酸化雰囲気に曝され、電解セル1の運転中、及び、電解セル1の運転前に実施される還元処理中において還元雰囲気に曝される。水素極層6は、Niの酸化/還元に伴って膨張/収縮する。
【0034】
酸化物イオン伝導性材料としては、YSZ、CSZ、ScSZ、GDC、SDC、(La,Sr)(Cr,Mn)O、(La,Sr)TiO、Sr(Fe,Mo)、(La,Sr)VO、(La,Sr)FeO、LDC(ランタンドープセリア)、LSGM(ランタンガレート)及びこれらのうち2つ以上を組み合わせた混合材料などを用いることができる。
【0035】
水素極層6の形成方法は特に制限されず、焼成法、スプレーコーティング法(溶射法、エアロゾルデポジション法、エアロゾルガスデポジッション法、パウダージェットデポジッション法、パーティクルジェットデポジション法、コールドスプレー法など)、PVD法(スパッタリング法、パルスレーザーデポジション法など)、CVD法などを用いることができる。
【0036】
[電解質層7]
電解質層7は、水素極層6及び酸素極層9の間に配置される。本実施形態では、電解質層7及び酸素極層9の間に反応防止層8が配置されているので、電解質層7は、水素極層6及び反応防止層8の間に挟まれている。
【0037】
電解質層7は、水素極層6を覆うとともに、金属支持体10の第1主面12のうち水素極層6から露出する領域を覆う。
【0038】
電解質層7は、水素極層6において生成されたO2-を酸素極層9側に伝達させる。電解質層7は、酸化物イオン伝導性を有する緻密質材料によって構成される。電解質層7は、例えば、YSZ(イットリア安定化ジルコニア、例えば8YSZ)、GDC(ガドリニウムドープセリア)、ScSZ(スカンジア安定化ジルコニア)、SDC(サマリウム固溶セリア)、LSGM(ランタンガレート)などによって構成することができる。
【0039】
電解質層7の気孔率は特に制限されないが、例えば0.1%以上7%以下とすることができる。電解質層7の厚みは特に制限されないが、例えば1μm以上100μm以下とすることができる。
【0040】
電解質層7の形成方法は特に制限されず、焼成法、スプレーコーティング法、PVD法、CVD法などを用いることができる。
【0041】
[反応防止層8]
反応防止層8は、電解質層7及び酸素極層9の間に配置される。反応防止層8は、電解質層7を基準として水素極層6の反対側に配置される。反応防止層8は、電解質層7の構成元素が酸素極層9の構成元素と反応して電気抵抗の大きい層が形成されることを抑制する。
【0042】
反応防止層8は、酸化物イオン伝導性材料によって構成される。反応防止層8は、GDC、SDCなどによって構成することができる。
【0043】
反応防止層8の気孔率は特に制限されないが、例えば0.1%以上50%以下とすることができる。反応防止層8の厚みは特に制限されないが、例えば1μm以上50μm以下とすることができる。
【0044】
反応防止層8の形成方法は特に制限されず、焼成法、スプレーコーティング法、PVD法、CVD法などを用いることができる。
【0045】
[酸素極層9]
酸素極層9は、本発明に係る「第2電極層」の一例である。酸素極層9は、電解質層7を基準として水素極層6の反対側に配置される。本実施形態では、電解質層7及び酸素極層9の間に反応防止層8が配置されているので、酸素極層9は反応防止層8に接続される。電解質層7及び酸素極層9の間に反応防止層8が配置されない場合、酸素極層9は電解質層7に接続される。
【0046】
酸素極層9は、下記(5)式の化学反応に従って、水素極層6から電解質層7を介して伝達されるO2-からOを生成する。
・酸素極層9:2O2-→O+4e・・・(5)
【0047】
酸素極層9は、酸化物イオン伝導性及び電子伝導性を有する多孔質材料によって構成される。酸素極層9は、例えば(La,Sr)(Co,Fe)O、(La,Sr)FeO、La(Ni,Fe)O、(La,Sr)CoO、及び(Sm,Sr)CoOのうち1つ以上と酸化物イオン伝導性材料(GDCなど)との複合材料によって構成することができる。
【0048】
酸素極層9の気孔率は特に制限されないが、例えば20%以上60%以下とすることができる。酸素極層9の厚みは特に制限されないが、例えば1μm以上100μm以下とすることができる。
【0049】
酸素極層9の形成方法は特に制限されず、焼成法、スプレーコーティング法、PVD法、CVD法などを用いることができる。
【0050】
[流路部材30]
流路部材30は、金属支持体10の第2主面13に接合される。流路部材30は、金属支持体10との間に流路30aを形成する。流路30aには、原料ガスが供給される。流路30aに供給された原料ガスは、金属支持体10の各連通孔11を介して、セル本体部20の水素極層6に供給される。
【0051】
流路部材30は、例えば、合金材料によって構成することができる。流路部材30は、金属支持体10と同様の材料によって形成されていてもよい。この場合、流路部材30は、金属支持体10と実質的に一体であってもよい。
【0052】
流路部材30は、枠体31及びインターコネクタ32を有する。枠体31は、流路30aの側方を取り囲む環状部材である。枠体31は、金属支持体10の第2主面13に接合される。インターコネクタ32は、外部電源又は他の電解セルを電解セル1と電気的に直列に接続するための板状部材である。インターコネクタ32は、枠体31に接合される。
【0053】
本実施形態では、枠体31とインターコネクタ32が別部材となっているが、枠体31とインターコネクタ32は一体の部材であってもよい。
【0054】
(連通孔11と水素極層6の構成)
金属支持体10の連通孔11と水素極層6の構成について図面を参照しながら説明する。図3は、図2の部分拡大図である。
【0055】
[連通孔11の構成]
図3に示すように、金属支持体10の連通孔11は、狭窄部11a、第1拡幅部11b、及び第2拡幅部11cを有する。
【0056】
狭窄部11aは、金属支持体10の厚み方向において、第1拡幅部11bと第2拡幅部11cの間に配置される。狭窄部11aは、第1拡幅部11b及び第2拡幅部11cそれぞれに繋がっている。
【0057】
第1拡幅部11bは、狭窄部11aの電解質層7側に配置される。第1拡幅部11bは、第1主面12に開口する。第2拡幅部11cは、狭窄部11aの電解質層7と反対側に配置される。第2拡幅部11cは、第2主面13に開口する。
【0058】
連通孔11は、狭窄部11aにおいて内径が小さく形成されている。具体的には、金属支持体10の面方向において、狭窄部11aの最小幅は、第1拡幅部11bの最大幅より小さく、かつ、第2拡幅部11cの最大幅より小さい。よって、連通孔11は、厚み方向の途中に位置する狭窄部11aにおいて部分的に窄まっている。
【0059】
なお、金属支持体10の厚み方向とは、金属支持体10の第1主面12に垂直な方向である。金属支持体10の面方向とは、金属支持体10の厚み方向に垂直な方向である。本実施形態において、金属支持体10の厚み方向はZ軸方向と略平行であり、金属支持体10の面方向はZ軸方向及びY軸方向と略平行である。
【0060】
[水素極層6の構成]
図3に示すように、水素極層6は、膜状部61と、アンカー部62とを有する。図3ではアンカー部62が1つだけ図示されているが、図2に示したように、水素極層6は、金属支持体10の複数の連通孔11に対応する複数のアンカー部62を有している。
【0061】
膜状部61は、金属支持体10の第1主面12上に配置される。膜状部61は、膜状に形成される。膜状とは、第1主面12を覆う薄い層状であることを意味する。膜状部61の厚みは特に制限されないが、例えば1μm以上100μm以下とすることができる。膜状部61は、部分的に薄くなっていてもよいし、全体的に一様な厚みであってもよい。膜状部61は、組成の異なる複数の層からなる多層構造であってもよい。
【0062】
アンカー部62は、金属支持体10の連通孔11内に配置される。アンカー部62は、膜状部61に接続される。アンカー部62は、膜状部61と実質的に一体であってもよい。アンカー部62の組成は、膜状部61の組成と同じであってもよいし、膜状部61の組成と異なっていてもよい。
【0063】
アンカー部62は、金属支持体10の連通孔11に係止されることによって、金属支持体10に対してアンカー効果を発揮する。これによって、金属支持体10に対するセル本体部20の接合力を向上させることができる。
【0064】
図3に示すように、アンカー部62は、くびれ部62a、第1幅広部62b、及び第2幅広部62cを有する。
【0065】
くびれ部62aは、金属支持体10の狭窄部11aの内側に配置される。くびれ部62aは、金属支持体10の厚み方向において、第1幅広部62bと第2幅広部62cの間に配置される。くびれ部62aは、第1幅広部62b及び第2幅広部62cそれぞれに接続されている。くびれ部62aは、第1幅広部62b及び第2幅広部62cそれぞれと実質的に一体である。
【0066】
第1幅広部62bは、金属支持体10の第1拡幅部11bの内側に配置される。第1幅広部62bは、くびれ部62aの電解質層7側に配置される。第1幅広部62bは、膜状部61に接続される。
【0067】
第2幅広部62cは、金属支持体10の第2拡幅部11cの内側に配置される。第2幅広部62cは、くびれ部62aの電解質層7と反対側に配置される。第2幅広部62cは、アンカー部62の端面62Sを有する。
【0068】
本実施形態において、第2幅広部62cは、第2拡幅部11cの一部のみに存在している。すなわち、第2幅広部62cは、第2拡幅部11cの全体に充填されていない。そのため、端面62Sは、第2拡幅部11cの内側に位置している。
【0069】
ただし、第2幅広部62cは、第2拡幅部11cの全体に充填されていてもよいし、更に第2拡幅部11cから流路30aに向かって突出していてもよい。これらの場合、端面62Sは、第2拡幅部11cの外側(すなわち、流路30a内)に位置することになる。
【0070】
本実施形態において、端面62Sは、流路30aに向かって突出する曲面状に形成されているが、端面62Sの形状は特に限られない。
【0071】
金属支持体10の面方向において、くびれ部62aの最小幅は、第1幅広部62bの最大幅より小さく、かつ、第2幅広部62cの最大幅より小さい。よって、アンカー部62は、厚み方向の途中に位置するくびれ部62aにおいて部分的に幅狭に形成されている。そのため、アンカー部62の第2幅広部62cが金属支持体10の狭窄部11aに係止されることによって、金属支持体10に対するアンカー部62のアンカー効果をより向上させることができる。
【0072】
なお、くびれ部62aと第1幅広部62bとの境界は、第1幅広部62bの最大幅の80%の幅を示すラインによって規定される。くびれ部62aと第2幅広部62cとの境界は、第2幅広部62cの最大幅の80%の幅を示すラインによって規定される。
【0073】
[ガス流通空間40]
連通孔11とアンカー部62の間にはガス流通空間40が形成されている。ガス流通空間40は、連通孔11の内表面とアンカー部62の外表面の隙間である。ガス流通空間40は、連通孔11とアンカー部62の間の一部のみに形成される。従って、ガス流通空間40が存在する箇所では、連通孔11の内表面はアンカー部62の外表面から離れており、ガス流通空間40が存在しない箇所では、連通孔11の内表面はアンカー部62の外表面に接触している。
【0074】
ガス流通空間40は、流路30aから供給される原料ガスの膜状部61への速やかな供給、或いは、膜状部61において生成された生成ガスの流路30aへの速やかな排出のために利用される。
【0075】
このようなガス流通空間40を連通孔11とアンカー部62の間に設けることによって、狭窄部11aにおいて幅狭な連通孔11におけるガス流通性を向上させることができる。その結果、水素極層6(特に、膜状部61)における電極反応を活性化させることができる。
【0076】
図3に示すように、ガス流通空間40は、アンカー部62の端面62Sに開口していることが好ましい。これによって、ガス流通空間40と流路30aの間におけるガスの給排を速やかに行うことができる。
【0077】
図3に示すように、ガス流通空間40は、膜状部61に接していることが好ましい。これによって、ガス流通空間40と膜状部61の間におけるガスの給排を速やかに行うことができる。この場合、ガス流通空間40の一部は、膜状部61の内部に入り込んでいてもよい。
【0078】
ガス流通空間40は、アンカー部62の端面62Sから膜状部61まで連通していることが好ましい。すなわち、1つのガス流通空間40の電解質層7側の端部が膜状部61に接し、かつ、当該ガス流通空間40の電解質層7と反対側の端部がアンカー部62の端面62Sに開口していることが好ましい。このことを図3の例でいえば、2つに分かれて観察されているガス流通空間40が、図3の紙面奥側又は図3の紙面手前側において繋がっていることを意味する。これによって、ガス流通空間40を介して流路30aと膜状部61の間を直接的に繋げることができるため、流路30aと膜状部61の間におけるガスの給排を更に速やかに行うことができる。
【0079】
なお、ガス流通空間40の3次元形状は、水素極層6及び金属支持体10の切断面を徐々に研磨しながら断面観察することによって把握できる。
【0080】
図3に示すように、ガス流通空間40は、金属支持体10の厚み方向に沿った断面において、金属支持体10の厚み方向に沿って延びていることが好ましい。これによって、連通孔11におけるガス流通性をより向上させることができる。
【0081】
(実施形態の変形例)
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
【0082】
[変形例1]
上記実施形態において、水素極層6はカソードとして機能し、酸素極層9はアノードとして機能することとしたが、水素極層6がアノードとして機能し、酸素極層9がカソードとして機能してもよい。この場合、水素極層6と酸素極層9の構成材料を入れ替えるとともに、水素極層6の外表面に原料ガスを流すことになる。
【0083】
[変形例2]
上記実施形態では、電気化学セルの一例として電解セル1について説明したが、電気化学セルは電解セルに限られない。電気化学セルとは、電気エネルギーを化学エネルギーに変えるため、全体的な酸化還元反応から起電力が生じるように一対の電極が配置された素子と、化学エネルギーを電気エネルギーに変えるための素子との総称である。従って、電気化学セルには、例えば、酸化物イオン或いはプロトンをキャリアとする燃料電池が含まれる。
【符号の説明】
【0084】
1 電解セル
10 金属支持体
11 連通孔
11a 狭窄部
11b 第1拡幅部
11c 第2拡幅部
12 第1主面
13 第2主面
20 セル本体部
6 水素極層
61 膜状部
62 アンカー部
62a くびれ部
62b 第1幅広部
62c 第2幅広部
62S 端面
7 電解質層
8 反応防止層
9 酸素極層
30 流路部材
30a 流路
40 ガス流通空間
図1
図2
図3