(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024116715
(43)【公開日】2024-08-28
(54)【発明の名称】半導体レーザ素子の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01S 5/22 20060101AFI20240821BHJP
H01S 5/323 20060101ALI20240821BHJP
【FI】
H01S5/22
H01S5/323
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023022487
(22)【出願日】2023-02-16
(71)【出願人】
【識別番号】000236436
【氏名又は名称】浜松ホトニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140442
【弁理士】
【氏名又は名称】柴山 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100183081
【弁理士】
【氏名又は名称】岡▲崎▼ 大志
(72)【発明者】
【氏名】杉山 厚志
(72)【発明者】
【氏名】古岡 啓太
(72)【発明者】
【氏名】大河原 悟
(72)【発明者】
【氏名】長倉 建人
【テーマコード(参考)】
5F173
【Fターム(参考)】
5F173AD10
5F173AH03
5F173AP33
5F173AP43
5F173AP73
5F173AP83
5F173AP93
5F173AP94
(57)【要約】 (修正有)
【課題】半導体レーザ素子の製造品質を損なうことなく、製造時の工数を低減することができる。
【解決手段】一実施形態の半導体レーザ素子1Aの製造方法は、ウェハ100を用意する第1工程と、素子分割ラインL2に沿って、エッチングによって素子分割溝20を形成する第2工程と、劈開ラインL1と重なる位置において、劈開導入溝30を形成する第3工程と、劈開ラインL1に沿ってウェハ100を劈開することにより、複数のレーザバーLBを得る第4工程と、複数のレーザバーLBの各々を素子分割ラインL2に沿って劈開する第5工程と、を含む。第2工程において、素子分割溝20は、劈開ラインL1上には形成されない。第3工程において、劈開導入溝30は、素子領域A1の外側にのみ形成されるか、或いは、劈開導入溝30のうち素子領域A1の外側に含まれる部分の長さは、劈開導入溝30のうち素子領域A1の内側に含まれる部分の長さよりも長くされる。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
GaAsによって形成された半導体基板と、前記半導体基板上に積層された活性層を含む半導体積層体と、を備える半導体レーザ素子の製造方法であって、
それぞれが前記半導体レーザ素子となる複数の素子部分を含み、前記複数の素子部分の各々の前記半導体基板を含む基板層と、前記複数の素子部分の各々の前記半導体積層体を含む半導体層と、を有するウェハであって、前記複数の素子部分は、前記半導体積層体の光導波方向に平行な第1方向と、前記ウェハの厚さ方向から見て前記第1方向に垂直な第2方向と、にマトリクス状に配列されている、前記ウェハを用意する第1工程と、
前記第2方向に配列された前記複数の素子部分を仕切るように前記第1方向に延びる素子分割ラインに沿って、前記ウェハにおける前記基板層に対して前記半導体層が位置する側の第1主面又は前記第1主面とは反対側の第2主面に、エッチングによって素子分割溝を形成する第2工程と、
前記第2工程よりも後に、前記第1方向に配列された前記複数の素子部分を仕切るように前記第2方向に延びる劈開ラインと重なる位置において、前記第1主面又は前記第2主面に、劈開の起点となる劈開導入溝を形成する第3工程と、
前記劈開ラインに沿って前記ウェハを劈開することにより、それぞれ前記第2方向に1次元状に配列された複数の素子部分を含む複数のレーザバーを得る第4工程と、
前記複数のレーザバーの各々を前記素子分割ラインに沿って劈開する第5工程と、を含み、
前記第2工程において、前記素子分割溝は、前記劈開ライン上には形成されず、
前記第3工程において、前記劈開導入溝は、前記複数の素子部分が配置された素子領域の外側にのみ形成されるか、或いは、前記劈開導入溝のうち前記素子領域の外側に含まれる部分の前記第2方向の長さが前記劈開導入溝のうち前記素子領域の内側に含まれる部分の前記第2方向の長さよりも長くなるように形成される、半導体レーザ素子の製造方法。
【請求項2】
前記第3工程において、前記劈開導入溝は、前記素子領域の外側にのみ形成される、
請求項1に記載の半導体レーザ素子の製造方法。
【請求項3】
前記素子分割溝は、前記第1主面に形成されると共に、前記半導体層を貫通して前記基板層まで達しており、
前記第2方向における前記素子分割溝の第1内面のうち少なくとも前記半導体層によって形成された部分は、前記第1主面側から前記第2主面側に向かうにつれて前記素子分割溝の前記第2方向の幅が小さくなるように前記厚さ方向に対して傾斜している、
請求項1に記載の半導体レーザ素子の製造方法。
【請求項4】
前記素子分割溝は、前記素子分割溝の開口側に位置する第1部分と、前記第1部分に対して前記素子分割溝の底部側に位置する第2部分と、を有し、
前記第1部分の前記第1内面は、前記第1主面側から前記第2主面側に向かうにつれて前記素子分割溝の前記第2方向の幅が小さくなるように前記厚さ方向に対して傾斜しており、
前記厚さ方向に対する前記第1部分の前記第1内面の傾斜角度は、前記厚さ方向に対する前記第2部分の前記第1内面の傾斜角度よりも大きくされており、
前記第1部分は、前記半導体層を貫通して前記基板層まで達している、
請求項3に記載の半導体レーザ素子の製造方法。
【請求項5】
前記素子分割溝の底部は、前記第2方向に延在する底面を有する、
請求項1~4のいずれか一項に記載の半導体レーザ素子の製造方法。
【請求項6】
前記第2方向における前記素子分割溝の前記底面の幅は、20μm以下である、
請求項5に記載の半導体レーザ素子の製造方法。
【請求項7】
前記エッチングは、塩素系ガスを用いたドライエッチングである、
請求項1に記載の半導体レーザ素子の製造方法。
【請求項8】
前記第1方向における前記素子分割溝の第2内面は、前記第1方向の外側に向かうにつれて前記第2方向における前記素子分割溝の略中心部に向かって幅狭となるように前記第2方向に対して傾斜している、
請求項1に記載の半導体レーザ素子の製造方法。
【請求項9】
前記厚さ方向から見た場合に、前記素子分割溝の第2内面は、R形状をなしている、
請求項8に記載の半導体レーザ素子の製造方法。
【請求項10】
前記素子分割ラインの延在方向は、前記基板層の[01-1]方向と平行である、
請求項1に記載の半導体レーザ素子の製造方法。
【請求項11】
前記素子分割溝及び前記劈開導入溝は、前記第1主面に形成される、
請求項1に記載の半導体レーザ素子の製造方法。
【請求項12】
前記第2工程は、前記エッチングの前に、前記ウェハの前記第1主面又は前記第2主面のうち前記素子分割溝が形成される主面において、前記素子分割溝が形成される予定の領域の中心部と重なる開口部が設けられたレジスト膜を形成する工程を含み、
前記開口部の周縁部における前記レジスト膜の厚さは、前記第2方向に沿って前記開口部の端部に近づくにつれて薄くなるように形成される、
請求項1に記載の半導体レーザ素子の製造方法。
【請求項13】
前記第2工程よりも後であって前記第3工程よりも前に、前記ウェハの前記半導体層の頂面と前記素子分割溝の内面とを覆うように設けられ、前記頂面の一部を露出させる開口部が設けられた絶縁膜を形成し、前記開口部を介して前記頂面と接触すると共に前記絶縁膜のうち前記頂面を覆う部分の少なくとも一部を覆う電極を形成する工程を更に含む、
請求項1に記載の半導体レーザ素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、半導体レーザ素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体レーザ素子の製造方法として、1次劈開(1次スクライブ及び1次ブレーク)によって半導体ウェハを複数のレーザバーに分割した後に、各レーザバーに対して2次劈開(2次スクライブ及び2次ブレーク)を行うことによって複数の半導体レーザ素子を得る手法が知られている(例えば、特許文献1)。特許文献1に開示された手法では、半導体ウェハに対してメサ発光部の延在方向に垂直な方向にダイヤモンドツール等によって罫書を入れる処理(1次スクライブ)が実施された後に、1次スクライブで形成された溝に沿って半導体ウェハが分割(1次ブレーク)されることによって、複数のレーザバーが得られる。続いて、各レーザバーの表面にメサ発光部の延在方向に沿った罫書を入れる処理(2次スクライブ)が実施された後に、2次スクライブで形成された溝に沿って各レーザバーが分割(2次ブレーク)されることによって、複数の半導体レーザ素子が得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1に開示された従来の手法では、レーザバー毎に複数の罫書を入れる2次スクライブに多くの工数が必要となるため、半導体レーザ素子を短期間で効率よく製造することが困難である。
【0005】
そこで、本開示の一側面は、半導体レーザ素子の製造品質を損なうことなく、製造時の工数を低減することができる半導体レーザ素子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は、以下の[1]~[13]の半導体レーザ素子の製造方法を含む。
【0007】
[1]GaAsによって形成された半導体基板と、前記半導体基板上に積層された活性層を含む半導体積層体と、を備える半導体レーザ素子の製造方法であって、
それぞれが前記半導体レーザ素子となる複数の素子部分を含み、前記複数の素子部分の各々の前記半導体基板を含む基板層と、前記複数の素子部分の各々の前記半導体積層体を含む半導体層と、を有するウェハであって、前記複数の素子部分は、前記半導体積層体の光導波方向に平行な第1方向と、前記ウェハの厚さ方向から見て前記第1方向に垂直な第2方向と、にマトリクス状に配列されている、前記ウェハを用意する第1工程と、
前記第2方向に配列された前記複数の素子部分を仕切るように前記第1方向に延びる素子分割ラインに沿って、前記ウェハにおける前記基板層に対して前記半導体層が位置する側の第1主面又は前記第1主面とは反対側の第2主面に、エッチングによって素子分割溝を形成する第2工程と、
前記第2工程よりも後に、前記第1方向に配列された前記複数の素子部分を仕切るように前記第2方向に延びる劈開ラインと重なる位置において、前記第1主面又は前記第2主面に、劈開の起点となる劈開導入溝を形成する第3工程と、
前記劈開ラインに沿って前記ウェハを劈開することにより、それぞれ前記第2方向に1次元状に配列された複数の素子部分を含む複数のレーザバーを得る第4工程と、
前記複数のレーザバーの各々を前記素子分割ラインに沿って劈開する第5工程と、を含み、
前記第2工程において、前記素子分割溝は、前記劈開ライン上には形成されず、
前記第3工程において、前記劈開導入溝は、前記複数の素子部分が配置された素子領域の外側にのみ形成されるか、或いは、前記劈開導入溝のうち前記素子領域の外側に含まれる部分の前記第2方向の長さが前記劈開導入溝のうち前記素子領域の内側に含まれる部分の前記第2方向の長さよりも長くなるように形成される、半導体レーザ素子の製造方法。
【0008】
上記[1]の製造方法では、1次劈開(第4工程)で複数のレーザバーを得る前のウェハ状態の段階(第2工程)で、2次劈開(第5工程)のための素子分割溝が形成される。これにより、1次劈開(第4工程)の後に、2次劈開(第5工程)の前処理としてダイヤモンドツール、レーザ等を用いてレーザバー毎にスクライブ処理を行うことが不要となる。また、第2工程(すなわち、ウェハ状態で素子分割溝を形成する処理)の工数は、上述したようにレーザバー毎にスクライブ処理を実行するために必要な工数よりも少ないため、上記製造方法によって作業工数を削減することができる。また、素子分割溝はエッチングによって形成されるため、素子分割溝の先端部(底部)に、ダイヤモンドスクライブを行った場合等に生じる深いダメージ層が形成されない。これにより、素子分割溝形成後のウェハの強度を十分に確保することができる。その結果、第2工程の後にウェハの裏面処理等が実施される場合であっても、ウェハの破損が適切に防止される。また、劈開ライン上には素子分割溝(エッチング溝)が形成されず、劈開導入溝も主に素子領域の外側に形成される。すなわち、素子領域内の劈開ライン上には、溝は形成されないか、仮に形成されたとしても素子領域の外側に形成される部分と比較して僅かである。これにより、1次劈開(第4工程)によって得られるレーザバーに当該溝に起因する亀裂が発生することを抑制できる。また、比較的割れ易いGaAsによって形成された半導体基板を用いることにより、素子領域の外側に劈開導入溝を設けるだけで、劈開ラインに沿った1次劈開(第4工程)を容易且つ精度良く行うことができる。従って、上記製造方法によれば、半導体レーザ素子の製造品質を損なうことなく、製造時の工数を低減することができる。
【0009】
[2]前記第3工程において、前記劈開導入溝は、前記素子領域の外側にのみ形成される、[1]の半導体レーザ素子の製造方法。
【0010】
上記[2]によれば、劈開導入溝は、素子領域の内部(特に、劈開ライン上において第1方向に隣り合う素子部分の間の領域)に形成されない。すなわち、素子領域内の劈開ライン上には、素子分割溝及び劈開導入溝のいずれも形成されない。これにより、上述した1次劈開(第4工程)におけるレーザバーの亀裂の発生をより効果的に抑制できる。
【0011】
[3]前記素子分割溝は、前記第1主面に形成されると共に、前記半導体層を貫通して前記基板層まで達しており、
前記第2方向における前記素子分割溝の第1内面のうち少なくとも前記半導体層によって形成された部分は、前記第1主面側から前記第2主面側に向かうにつれて前記素子分割溝の前記第2方向の幅が小さくなるように前記厚さ方向に対して傾斜している、[1]又は[2]の半導体レーザ素子の製造方法。
【0012】
上記[3]によれば、素子分割溝の第1内面のうち半導体層によって形成された部分を半導体レーザ素子のメサ発光部の側面として機能させる場合において、当該メサ発光部の横方向発振(第2方向における発振)を好適に抑制できる。また、素子分割溝が基板層まで達していることにより、2次劈開(第5工程)において基板層のみを分割すればよいため、2次劈開時において半導体層の内部にクラックが生じたり、基板層から半導体層が剥離したりするリスクを低減できる。
【0013】
[4]前記素子分割溝は、前記素子分割溝の開口側に位置する第1部分と、前記第1部分に対して前記素子分割溝の底部側に位置する第2部分と、を有し、
前記第1部分の前記第1内面は、前記第1主面側から前記第2主面側に向かうにつれて前記素子分割溝の前記第2方向の幅が小さくなるように前記厚さ方向に対して傾斜しており、
前記厚さ方向に対する前記第1部分の前記第1内面の傾斜角度は、前記厚さ方向に対する前記第2部分の前記第1内面の傾斜角度よりも大きくされており、
前記第1部分は、前記半導体層を貫通して前記基板層まで達している、[3]の半導体レーザ素子の製造方法。
【0014】
上記[4]によれば、素子分割溝の第1部分の第1内面を厚さ方向に対して傾斜させることにより、2次劈開(第5工程)においてレーザバーを素子分割ラインに沿って分割し易くすることができる。一方、素子分割溝の内面の全体を厚さ方向に対して略一定の傾斜角度で傾斜させた場合、素子分割溝の底部の中心位置を素子分割ライン上に精度良く合わせることが困難となり、精度良く素子分割を行うことができなくなるおそれがある。そこで、上記のように、素子分割溝の底部側に厚さ方向に対する傾斜が第1部分よりも緩やかな第2部分を設けることにより、素子分割溝の底部の中心位置を素子分割ライン上に精度良く合わせることが可能となる。従って、上記構成によれば、第1部分によって素子分割(2次劈開)をし易くすると共に、第2部分によって素子分割位置を精度良く制御することができる。
【0015】
[5]前記素子分割溝の底部は、前記第2方向に延在する底面を有する、[1]~[4]のいずれかの半導体レーザ素子の製造方法。
【0016】
上記[5]のように底面を有する素子分割溝を形成することにより、素子分割溝がV字状に形成される場合と比較して、ウェハの機械的強度を高くすることができる。これにより、素子分割溝形成後のウェハに対して裏面処理等を実施する場合等において、ウェハの破損を抑制でき、歩留まりを向上させることができる。また、エッチングの精度は、傾斜が大きい面ほど悪くなるため、素子分割溝をV字状に形成する場合(すなわち、素子分割溝の内面全体を傾斜面として形成する場合)、エッチングにより形成される素子分割溝の形状のコントロールが困難となり、その結果、素子分割時における分割方向(分割面に沿う方向)が不安定となるおそれがある。これに対して、素子分割溝が底面を有するようにエッチングすることにより、素子分割溝をV字状に形成する場合よりも素子分割溝の形状を精度良くコントロールすることができるため、素子分割の精度を高めることができる。
【0017】
[6]前記第2方向における前記素子分割溝の前記底面の幅は、20μm以下である、[5]の半導体レーザ素子の製造方法。
【0018】
上記[6]によれば、底面の幅を一定以下(20μm以下)に抑えることにより、上述したような素子分割溝が底面を有する場合の効果を得つつ、素子分割溝に沿って素子分割し易くすることができる。
【0019】
[7]前記エッチングは、塩素系ガスを用いたドライエッチングである、[1]~[6]のいずれかの半導体レーザ素子の製造方法。
【0020】
上記[7]によれば、垂直エッチング加工を容易且つ精度良く行うことができるため、素子分割溝の形状を精度良くコントロールすることができる。
【0021】
[8]前記第1方向における前記素子分割溝の第2内面は、前記第1方向の外側に向かうにつれて前記第2方向における前記素子分割溝の略中心部に向かって幅狭となるように前記第2方向に対して傾斜している、[1]~[7]のいずれかの半導体レーザ素子の製造方法。
【0022】
上記[8]によれば、厚さ方向から見た素子分割溝の形状を長方形状にした場合と比較して、素子分割溝の第2方向における略中心部に沿って素子分割し易くすることができる。
【0023】
[9]前記厚さ方向から見た場合に、前記素子分割溝の第2内面は、R形状をなしている、[8]の半導体レーザ素子の製造方法。
【0024】
上記[9]によれば、上記[8]の効果を得ることができると共に、第2内面をR形状にすることにより、第2内面を角張った形状にする場合と比較して、第2内面にクラックが生じるリスクを低減できる。
【0025】
[10]前記素子分割ラインの延在方向は、前記基板層の[01-1]方向と平行である、[1]~[9]のいずれかの半導体レーザ素子の製造方法。
【0026】
上記[10]によれば、2次劈開(第5工程)の素子分割ラインを、割れ難い結晶方位である基板層の[01-1]方向に合わせることにより、素子分割溝形成後のウェハの機械的強度を好適に確保することができる。これにより、1次劈開(第4工程)の前に上述した裏面処理等を実施する場合において、ウェハの破損を好適に抑制できる。
【0027】
[11]前記素子分割溝及び前記劈開導入溝は、前記第1主面に形成される、[1]~[10]のいずれかの半導体レーザ素子の製造方法。
【0028】
上記[11]によれば、素子分割溝又は劈開導入溝に沿った劈開の品質を向上させることができる。
【0029】
[12]前記第2工程は、前記エッチングの前に、前記ウェハの前記第1主面又は前記第2主面のうち前記素子分割溝が形成される主面において、前記素子分割溝が形成される予定の領域の中心部と重なる開口部が設けられたレジスト膜を形成する工程を含み、
前記開口部の周縁部における前記レジスト膜の厚さは、前記第2方向に沿って前記開口部の端部に近づくにつれて薄くなるように形成される、[1]~[11]のいずれかの半導体レーザ素子の製造方法。
【0030】
上記[12]によれば、エッチングの進行に伴ってレジスト膜が薄くなることにより、レジスト膜の開口部の第2方向の幅を徐々に広げることができる。これにより、第2方向における素子分割溝の内面を、厚さ方向に対して傾斜するように形成することができる。
【0031】
[13]前記第2工程よりも後であって前記第3工程よりも前に、前記ウェハの前記半導体層の頂面と前記素子分割溝の内面とを覆うように設けられ、前記頂面の一部を露出させる開口部が設けられた絶縁膜を形成し、前記開口部を介して前記頂面と接触すると共に前記絶縁膜のうち前記頂面を覆う部分の少なくとも一部を覆う電極を形成する工程を更に含む、[1]~[12]のいずれかの半導体レーザ素子の製造方法。
【0032】
上記[13]によれば、素子分割溝の第1内面のうち半導体層によって形成された部分を素子分割後に得られる半導体レーザ素子のメサ発光部の側面として機能させる場合において、当該メサ発光部の側面を絶縁膜によって適切に保護できるため、当該メサ発光部の側面の損傷に起因するダークライン(暗線)欠陥の発生を抑制できる。また、絶縁膜を介して半導体層の頂面に電極を形成することにより、電極の密着性をより良好にできる。その結果、半導体レーザ素子の製造品質を向上させることができる。
【発明の効果】
【0033】
本開示の一側面によれば、半導体レーザ素子の製造品質を損なうことなく、製造時の工数を低減することができる半導体レーザ素子の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【
図1】一実施形態に係る半導体レーザ素子の製造方法によって製造される半導体レーザ素子の平面図である。
【
図2】
図1のII-II線に沿った半導体レーザ素子の断面図である。
【
図3】
図1の半導体レーザ素子の半導体積層体の積層構造を模式的に示す断面図である。
【
図4】第1工程において用意されるウェハの一例を示す平面図である。
【
図5】第2工程及び第3工程において形成される素子分割溝及び劈開導入溝の一例を含むウェハの一部拡大平面図である。
【
図6】第2工程のレジスト膜形成後の状態を示すウェハの一部断面図である。
【
図7】第2工程の素子分割溝形成後の状態を示すウェハの一部断面図である。
【
図10】(A)は
図9の素子分割溝の平面図であり、(B)は(A)におけるB-B線に沿ったウェハの一部断面図である。
【
図11】表面処理工程の実施後の状態を示すウェハの一部断面図である。
【
図12】裏面処理工程の実施後の状態を示すウェハの一部断面図である。
【
図15】第1変形例に係る半導体レーザ素子の断面図である。
【
図16】第2変形例に係る半導体レーザ素子の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、本開示の一実施形態について、図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、以下の説明において、同一又は相当要素には同一符号を用い、重複する説明を省略する。図面は、理解の容易化のために一部を簡略化又は誇張して描いている場合があり、寸法比率は図面に記載のものに限定されない。
【0036】
[半導体レーザ素子]
図1~
図3を参照して、一実施形態に係る半導体レーザ素子の製造方法によって製造される半導体レーザ素子の一例(半導体レーザ素子1A)について説明する。
図1~
図3に示されるように、半導体レーザ素子1Aは、半導体基板2と、半導体基板2上に積層された半導体積層体3と、を備える。本明細書では、便宜上、半導体基板2の厚さ方向に平行な方向をZ軸方向とし、半導体積層体3の光導波方向(共振器長方向)に平行な方向をX軸方向(第1方向)とし、厚さ方向(Z軸方向)から見て光導波方向(X軸方向)に垂直な方向をY軸方向(第2方向)とするXYZ直交座標系を定義する。Z軸方向は、半導体基板2と半導体積層体3とが互いに対向する方向でもあり、半導体積層体3に含まれる複数の層の積層方向でもある。なお、第1方向は、光導波路方向と交差する一対の端面が互いに対向する方向であってもよい。また、第1方向は、レーザ光の出射端面に垂直な方向であってもよい。
【0037】
半導体レーザ素子1Aは、例えば、X軸方向に互いに対向する半導体積層体3の端面間でレーザ光を共振させ、一方の端面からX軸方向に沿ってレーザ光Lを出射する端面出射型のレーザダイオードとして構成される。半導体レーザ素子1AのX軸方向の長さ(共振器長)は、例えば0.5mm~2.0mmであり、本実施形態では一例として1.0mmである。半導体レーザ素子1AのY軸方向の幅は、例えば300μm~1000μmであり、本実施形態では一例として500μmである。
【0038】
半導体基板2は、一例として、GaAsによって形成されたGaAs基板である。半導体基板2は、半導体積層体3が形成される表面2aと、表面2aとは反対側の裏面2bと、全体としてY軸方向に交差して表面2aと裏面2bとを接続する側面2c(第2側面)と、を有する。半導体基板2の表面2aは(100)面である。すなわち、表面2aに直交するZ軸方向は、半導体基板2の[100]方向と平行な方向である。
【0039】
半導体積層体3は、半導体基板2の表面2a上に形成されている。半導体積層体3は、表面2aに対向する側とは反対側の頂面3aと、Y軸方向に交差する側面3b(第1側面)と、を有する。側面3bは、半導体基板2の側面2cと連続的に設けられている。すなわち、側面3bと側面2cとの接続部分(境界部分)において、側面3bは、側面2cと滑らかに連結されている。半導体積層体3の側面3bと、半導体基板2の側面2cのうち側面3bと連続する部分とは、後述する素子分割溝形成工程(第2工程)におけるエッチングによって、Z軸方向に傾斜する傾斜面として構成されている。より具体的には、側面3bは、Z軸方向に沿って半導体積層体3側から半導体基板2側へと向かうにつれてY軸方向における外側に向かうように、Z軸方向に対して傾斜している。これにより、半導体積層体3は、メサ形状に形成されている。
【0040】
半導体基板2の側面2cは、第1部分2c1と、第2部分2c2と、第3部分2c3と、第4部分2c4と、を有する。第1部分2c1は、半導体積層体3の側面3bと接続され、側面3bと連続してZ軸方向に対して傾斜する部分である。第2部分2c2は、第1部分2c1に対して側面3bが位置する側とは反対側において第1部分2c1と接続される部分である。第3部分2c3は、裏面2bのY軸方向における端部と接続され、Z軸方向に略平行に延びる部分である。第4部分2c4は、第2部分2c2における第1部分2c1と接続される側とは反対側の端部と、第4部分2c4における裏面2bと接続される側とは反対側の端部と、を接続するようにY軸方向に僅かに延びる部分である。
【0041】
Z軸方向に対する第1部分2c1の傾斜角度θ1(
図2参照)は、第2部分2c2のZ軸方向に対する傾斜角度よりも大きい。一例として、第2部分2c2はZ軸方向と略平行に延びており、第2部分2c2のZ軸方向に対する傾斜角度は略0度である。これに対して、傾斜角度θ1は、例えば、5~25度である。なお、上述した通り、第1部分2c1は側面3bと連続的に設けられているため、側面3bのZ軸方向に対する傾斜角度は、第1部分2c1の傾斜角度θ1と略一致している。
【0042】
半導体積層体3の頂面3aのY軸方向における縁部と、半導体積層体3の側面3bの全体と、半導体基板2の側面2cのうち第3部分2c3を除いた部分とは、絶縁膜4によって覆われている。絶縁膜4は、例えばシリコン窒化膜又はシリコン酸化膜等によって形成され得る。絶縁膜4のうち頂面3aを覆う部分には、頂面3aの一部(本実施形態では、頂面3aのY軸方向における中央部)を露出させるための開口部4aが設けられている。開口部4aは、Y軸方向において一定の幅を有し、X軸方向に延びている。
【0043】
半導体レーザ素子1Aの表面側の電極5は、絶縁膜4の開口部4aを介して頂面3aと接触すると共に、絶縁膜4のうち頂面3aを覆う部分の少なくとも一部を覆うように形成されている。電極5と頂面3aとの接触面はX軸方向に延びており、レーザ共振はX軸方向に沿って生じる。半導体レーザ素子1Aの裏面側の電極6は、半導体基板2の裏面2bに設けられている。電極5は、例えば、Ti/Pt/Auによって形成され得る。電極6は、例えば、AuGe/Ni/Auによって形成され得る。
【0044】
図3に示されるように、半導体積層体3は、一例として、半導体基板2の表面2a上にこの順に積層された、下部第1クラッド層301、下部活性層302(活性層)、下部第2クラッド層303、下部トンネル障壁層304、中間第1クラッド層305、中間活性層306(活性層)、中間第2クラッド層307、中間トンネル障壁層308、上部第1クラッド層309、上部活性層310(活性層)、上部第2クラッド層311、及びコンタクト層312を有している。半導体積層体3は、例えば、MOCVD(有機金属気相成長)法を用いて、半導体基板2の表面2a上に各層を成長させることによって形成され得る。
【0045】
本実施形態では、一例として、半導体積層体3は、複数(ここでは3つ)の活性層を含んでいる。半導体レーザ素子1Aは、上部第1クラッド層309、上部活性層310、及び上部第2クラッド層311を含む第1レーザダイオードと、中間第1クラッド層305、中間活性層306、及び中間第2クラッド層307を含む第2レーザダイオードと、下部第1クラッド層301、下部活性層302、及び下部第2クラッド層303を含む第3レーザダイオードと、を直列に接続したものと見做すことができる。電極5(P型半導体側の電極)から電極6(N型半導体側の電極)に向けて順方向に電流を流すことにより、第1~第3レーザダイオードの各々が発光し、X軸方向にレーザ光Lを出射する。
【0046】
半導体積層体3を構成する各層の厚み、厚みの好適範囲、及び導電型の組み合わせの一例は、表1に示される。
【表1】
【0047】
半導体積層体3を構成する各層の材料及び不純物濃度の組み合わせの一例は、表2に示される。
【表2】
【0048】
[半導体レーザ素子の製造方法]
図4~
図13を参照して、半導体レーザ素子1Aの製造方法の一例について説明する。
【0049】
(第1工程:ウェハ準備工程)
まず、
図4及び
図5に示されるように、それぞれが半導体レーザ素子1Aとなる複数の素子部分Cを含む円板状のウェハ100(半導体部材)が用意される。
図5は、
図4における正方形状の領域Aの拡大平面図である。領域Aは、例えば一辺が30mmの正方形状の領域である。領域AのY軸方向における中央領域(すなわち、領域AのY軸方向の両側縁部を除いた領域)が、複数の素子部分Cが配置された素子領域A1として構成されている。素子領域A1のY軸方向における端部は、Y軸方向において最も外側に位置する半導体レーザ素子1A(厳密には、素子分割後に半導体レーザ素子1Aとなる部分)のY軸方向における外側端部と一致する。言い換えれば、素子領域A1のY軸方向における端部に沿った辺部(
図5における素子領域A1の上辺及び下辺)は、Y軸方向において最も外側に位置する素子分割ラインL2と一致する。なお、
図5においては、後述する素子分割溝形成工程(第2工程)及び劈開導入溝形成工程(第3工程)において形成される複数の素子分割溝20及び複数の劈開導入溝30が図示されている。また、
図5においては、Z軸方向から見た場合の素子分割溝20の形状が単純な矩形状に図示されているが、本実施形態では実際には、素子分割溝20は、平面視において
図10の(A)に示されるような舟形状に形成されている。
【0050】
図6に示されるように、ウェハ100は、基板層2Lと、半導体層3Lと、を有する。基板層2Lは、複数の素子部分C(すなわち、素子分割後に個々の半導体レーザ素子1Aとなる部分)の各々の半導体基板2を含む層である。言い換えれば、基板層2Lは、複数の素子部分Cの各々の半導体基板2が分離されずに連続してXY平面に沿って延在している状態の構造を有する。半導体層3Lは、複数の素子部分Cの各々の半導体積層体3を含む層である。言い換えれば、半導体層3Lは、複数の素子部分Cの各々の半導体積層体3が分離されずに連続してXY平面に沿って延在している状態の構造を有する。
【0051】
基板層2Lは、素子分割後に個々の半導体レーザ素子1Aの半導体基板2の表面2a及び裏面2bとなる部分である表面2La及び裏面2Lbを有する。半導体層3Lは、例えば、上述したMOCVD法を用いて基板層2Lの表面2La上に半導体層3Lを構成する各層(
図3における301~312の各々に対応する層)を成長させることによって形成され得る。半導体層3Lは、素子分割後に個々の半導体レーザ素子1Aの半導体積層体3の頂面3aとなる部分である頂面3Laを有する。本実施形態では、一例として、基板層2Lの表面2Laは、(100)面とされている。また、基板層2Lのオリエンテーションフラット加工面(
図4において下側に配置された平坦面)に垂直な方向(すなわち、
図4におけるY軸正方向)は、基板層2Lの[011]方向である。
図4におけるX軸正方向は、基板層2Lの[01-1]方向である。
【0052】
ウェハ100は、基板層2Lに対して半導体層3Lが位置する側の第1主面100aと、第1主面100aとは反対側の第2主面100bと、を有する。本実施形態では、第1主面100aは、半導体層3Lの頂面3Laによって構成されている。第2主面100bは、基板層2Lの裏面2Lbによって構成されている。
【0053】
本実施形態では、素子領域A1の内部に複数の素子部分Cが含まれている。複数の素子部分Cは、X軸方向及びY軸方向にマトリクス状に配列されている。
図5に示されるように、ウェハ100には、X軸方向に配列された複数の素子部分Cを仕切るように(すなわち、X軸方向に互いに隣接する2つの素子部分Cの間を仕切るように)Y軸方向に延びる複数の劈開ラインL1が設定される。また、ウェハ100には、Y軸方向に配列された複数の素子部分Cを仕切るように(すなわち、Y軸方向に互いに隣接する2つの素子部分Cの間を仕切るように)X軸方向に延びる複数の素子分割ラインL2が設定される。劈開ラインL1は、後述する1次劈開工程(第4工程)においてウェハ100が分割される予定のラインである。素子分割ラインL2は、後述する2次劈開工程(第5工程)においてレーザバーLB(
図13参照)が分割される予定のラインである。
【0054】
複数の素子分割ラインL2の各々の延在方向(すなわち、X軸方向)は、基板層2Lの[01-1]方向と平行となるように設定されている。上記構成によれば、2次劈開(第5工程)の素子分割ラインL2を、割れ難い結晶方位である基板層2Lの[01-1]方向に合わせることにより、後述する素子分割溝形成工程(第2工程)において素子分割溝20が形成された後のウェハ100の機械的強度を好適に確保することができる。これにより、1次劈開(第4工程)の前に裏面処理(例えば、後述する裏面処理工程)を実施する場合において、ウェハ100の破損を好適に抑制できる。すなわち、一定の機械的強度が確保された状態で裏面処理等を実施することができるため、裏面処理等の最中、或いは裏面処理等を実施するためにウェハ100の持ち運び等を行う際等において、予期せぬウェハ100の破損が生じるリスクを低減できる。
【0055】
(第2工程:素子分割溝形成工程)
続いて、
図5に示されるように、複数の素子分割ラインL2の各々に沿って、ウェハ100の第1主面100aに、エッチングによって素子分割溝20が形成される。上記エッチングは、塩素系ガスを用いたドライエッチングである。例えば、素子分割溝20は、誘導結合プラズマ(ICP:Inductively Coupled Plasma)を用いた反応性イオンエッチング(RIE:Reactive Ion Etching)によって形成され得る。塩素系ガスを用いたドライエッチングを用いることにより、垂直エッチング加工を容易且つ精度良く行うことができるため、素子分割溝20の形状を精度良くコントロールすることができる。
【0056】
素子分割溝20は、劈開ラインL1を跨がないように、X軸方向に隣り合う複数の素子部分Cの間の領域毎に個別に形成される。すなわち、劈開ラインL1上にはエッチング溝は形成されない。本実施形態では一例として、X軸方向に隣り合う劈開ラインL1間の距離は1.0mm(すなわち、上述した半導体レーザ素子1Aの共振器長)であり、X軸方向における素子分割溝20の長さは0.8mmである。素子分割溝20のX軸方向の中心は、X軸方向に隣り合う劈開ラインL1間の領域(すなわち、素子部分C)のX軸方向の中心と略一致している。すなわち、本実施形態では、素子分割溝20のX軸方向の端部と当該端部から最も近い劈開ラインL1との離間距離(X軸方向の距離)は、0.1mmである。なお、X軸方向における素子分割溝20の長さは、例えば、0.8mm~0.95mmの範囲から選択され得る。
【0057】
図6~
図10を参照して、素子分割溝形成工程の一例、及び当該素子分割溝形成工程によって形成される素子分割溝20の一例について詳細に説明する。
図6及び
図7は、素子分割溝20が形成される予定の位置(素子分割溝20のX軸方向における略中心位置)におけるウェハ100の断面を示している。
【0058】
まず、
図7~
図10を参照して、素子分割溝20の構成について説明する。
図7に示されるように、素子分割溝20は、半導体層3Lを貫通して基板層2Lまで達している。また、
図7及び
図8に示されるように、素子分割溝20は、素子分割溝20の開口側に位置する第1部分21と、第1部分21に対して素子分割溝の底部側に位置する第2部分22と、を有する。素子分割溝20の底部は、Y軸方向に略平行に延在する底面23を有する。言い換えれば、素子分割溝20の底部はV字溝のように尖った形状を有しておらず、素子分割溝20の底部には、Y軸方向に一定の幅を有する略平面状の部分(底面23)が形成されている。
【0059】
素子分割時における亀裂の進展方向の制御精度を確保する観点から、Y軸方向における底面23の幅は、好ましくは20μm以下に設定され、より好ましくは10μm以下に設定される。また、素子分割溝20が形成された後のウェハ100の機械的強度を確保する観点から、Y軸方向における底面23の幅は、好ましくは5μm以上に設定される。Y軸方向における素子分割溝20の開口幅(すなわち、第1部分21の上端開口のY軸方向の幅)は、好ましくは10μm以上に設定される。Z軸方向における素子分割溝20の深さ(すなわち、第1部分21の上端から第2部分22の底部までの距離)は、好ましくは20μm以上に設定される。
図8の例では、Y軸方向における底面23の幅(=第2部分22のY軸方向の幅)は、7.25μmであり、Y軸方向における素子分割溝20の開口幅は、31.2μmであり、Z軸方向における素子分割溝20の深さは、40.1μmである。また、本実施形態では、Z軸方向における第1部分21の深さ(Z軸方向における第1部分21の長さ)は、Z軸方向における第2部分22の深さ(Z軸方向における第2部分22の長さ)よりも大きい。第1部分21の深さを大きくすることにより、素子分割溝20の体積を効率的に増やすことができ、素子分割をし易くすることができる。
【0060】
素子分割溝20は、Y軸方向における一対の内面20a(第1内面)と、X軸方向における一対の内面20b(第2内面)と、を有する。一対の内面20aは、Z軸方向から見た場合に、素子分割溝20の略中心部を挟んで、Y軸方向に互いに対向する位置に設けられた面である。一対の内面20bは、Z軸方向から見た場合に、素子分割溝20の略中心部を挟んで、X軸方向に互いに対向する位置に設けられた面である。
【0061】
図7に示されるように、内面20aのうち少なくとも半導体層3Lによって形成された部分は、第1主面100a側から第2主面100b側に向かうにつれて素子分割溝20のY軸方向の幅が小さくなるように、Z軸方向に対して傾斜している。本実施形態では、第1部分21の内面20aは、第1主面100a側から第2主面100b側に向かうにつれて素子分割溝20のY軸方向の幅が小さくなるように、Z軸方向に対して傾斜している。また、Z軸方向に対する第1部分21の内面20aの傾斜角度θ1は、Z軸方向に対する第2部分22の内面20aの傾斜角度よりも大きくされている。一例として、第2部分22の内面20aはZ軸方向と略平行に延びており、第2部分22の内面20aのZ軸方向に対する傾斜角度は略0度である。なお、第1部分21の内面20aは、素子分割後に得られる半導体レーザ素子1Aの側面3bと側面2cの第1部分2c1とに対応する部分である。第2部分22の内面20aは、素子分割後に得られる半導体レーザ素子1Aの側面2cの第2部分2c2に対応する部分である。
【0062】
図9及び
図10に示されるように、素子分割溝20の内面20bは、X軸方向の外側に向かうにつれてY軸方向における素子分割溝20の略中心部に向かって幅狭となるようにY軸方向に対して傾斜している。本実施形態では一例として、素子分割溝20の内面20bは、第1部分21及び第2部分22の両方において、X軸方向の外側に向かうにつれてY軸方向における素子分割溝20の略中心部に向かって幅狭となるようにY軸方向に対して傾斜する舟形状に形成されている。
【0063】
続いて、素子分割溝20を上述したような形状に形成するための方法の一例について説明する。
図6に示されるように、素子分割溝形成工程は、エッチングの前に、ウェハ100の第1主面100a(素子分割溝20が形成される主面)において、レジスト膜40を形成する工程を含む。レジスト膜40には、素子分割溝20が形成される予定の領域の中心部と重なる開口部40aが設けられている。開口部40aによって、後述する素子分割溝20の第2部分22のZ軸方向から見た場合の大きさが画定される。より具体的には、素子分割溝形成工程後に得られる素子分割溝20の第2部分22のY軸方向の幅は、エッチング開始前の開口部40aのY軸方向の幅よりも僅かに大きくなる。同様に、素子分割溝形成工程後に得られる素子分割溝20の第2部分22のX軸方向の幅は、エッチング開始前の開口部40aのX軸方向の幅よりも僅かに大きくなる。
図8の例では、エッチング開始前の開口部40aのY軸方向の幅が5μmに設定されることにより、Y軸方向における底面23の幅(=第2部分22のY軸方向の幅)が、7.25μmに調整されている。
【0064】
図7に示されるように、開口部40aの周縁部におけるレジスト膜40の厚さは、Y軸方向に沿って開口部40aの端部に近づくにつれて薄くなるように形成されている。上記構成によれば、エッチングの進行に伴ってレジスト膜40が薄くなることにより、レジスト膜40の開口部40aのY軸方向の幅を徐々に広げることができる。これにより、Y軸方向における素子分割溝20の内面20aを、Z軸方向に対して傾斜するように形成することができる。すなわち、上述した第1部分21の内面20aを容易に形成することができる。また、エッチングが開始された後、レジスト膜40の開口部40aの縁部の部分が減膜されて開口部40aがY軸方向に広がり始めるまでは、エッチングは垂直方向(Z軸方向)に進行する。これにより、X軸方向から見てZ軸方向に略垂直に延びる第2部分22を容易に形成することもできる。
【0065】
また、
図9及び
図10に示されるように、本実施形態では、第1部分21の内面20bは、第1主面100a側から第2主面100b側に向かうにつれて素子分割溝20のX軸方向の幅が小さくなるように、Z軸方向に対して傾斜している。また、Z軸方向に対する第1部分21の内面20bの傾斜角度は、Z軸方向に対する第2部分22の内面20bの傾斜角度(本実施形態では略0度)よりも大きくされている。このような形状についても、上述したようなレジスト膜40を用いた方法により、容易に形成することができる。すなわち、開口部40aの周縁部におけるレジスト膜40の厚さは、X軸方向に沿って開口部40aの端部に近づくにつれて薄くなるように形成されればよい。上記構成によれば、エッチングの進行に伴ってレジスト膜40が薄くなることにより、レジスト膜40の開口部40aのX軸方向の幅を徐々に広げることができる。これにより、X軸方向における素子分割溝20の内面20bを、Z軸方向に対して傾斜するように形成することができる。すなわち、上述した第1部分21の内面20bを容易に形成することができる。また、エッチングが開始された後、レジスト膜40の開口部40aの縁部の部分が減膜されて開口部40aがX軸方向に広がり始めるまでは、エッチングは垂直方向(Z軸方向)に進行する。これにより、Y軸方向から見てZ軸方向に略垂直に延びる第2部分22を容易に形成することもできる。
【0066】
各素子部分Cの半導体層3Lは、当該各素子部分CのY軸方向の両側に形成された素子分割溝20によって当該各素子部分Cと隣接する素子部分Cの半導体層3Lと分離されることにより、メサ形状に形成される。すなわち、本実施形態では、素子分割溝形成工程は、メサ部を形成するためのメサ形成工程を兼ねている。
【0067】
(表面処理工程)
続いて、
図11に示されるように、表面処理工程(表面プロセス)が実施される。まず、絶縁膜4が、ウェハ100の半導体層3Lの頂面3Laと素子分割溝20の内面20a,20bとを覆うように形成される。絶縁膜4には、頂面3Laの一部を露出させる開口部4aが設けられる。絶縁膜4は、例えば、素子領域A1(
図5参照)の内部において、複数の素子分割ラインL2の各々に沿ってX軸方向に延在するように形成される。続いて、電極5が、開口部4aを介して頂面3Laと接触すると共に絶縁膜4のうち頂面3Laを覆う部分の少なくとも一部を覆うように形成される。電極5は、例えば、素子領域A1の内部において、互いに隣接する素子分割ラインL2,L2の間の各素子部分Cの中央部に沿ってX軸方向に延在するように形成される。
【0068】
本実施形態では、素子分割溝20の第1部分21の内面20aは、素子分割溝20の開口側に向かって末広がりの形状を有している。このため、CVD法等によって絶縁膜4を形成する場合において、第1部分21の内部にはガスが入り易いため、第1部分21の内面20aには、絶縁膜4を好適に形成することができる。また、第1部分21は、半導体層3Lを貫通して基板層2Lに達しているため、活性層を含む半導体層3Lの内面20aの全体に対して、絶縁膜4を確実に形成することができる。一方、第1部分21よりも奥側において、第1部分21よりもZ軸方向に対して傾斜していない第2部分22の内部にはガスが入りにくい。このため、第2部分22及び底面23上に成膜される絶縁膜4の厚さを、第1部分21に成膜される絶縁膜4の厚さよりも薄くすることができる。これにより、底面23上に成膜された絶縁膜4が素子分割に悪影響を及ぼす可能性を低減できる。
【0069】
(裏面処理工程)
続いて、
図12に示されるように、裏面処理工程(裏面プロセス)が実施される。まず、ウェハ100の基板層2Lの裏面2Lbが削られることにより、ウェハ100(基板層2L)の薄化処理が実施される。続いて、薄化された基板層2Lの裏面2Lbに電極6が形成される。電極6は、例えば、素子領域A1の裏面2Lbの全体に形成される。
【0070】
(第3工程:劈開導入溝形成工程)
続いて、
図5に示されるように、複数の劈開ラインL1の各々と重なる位置において、第1主面100a又は第2主面100bに、劈開の起点となる劈開導入溝30が形成される。劈開導入溝30は、複数の素子部分Cが配置された素子領域A1の外側に形成される。すなわち、劈開導入溝30は、X軸方向に隣り合う複数の素子部分Cの間(すなわち、素子領域A1の内部であって劈開ラインL1と重なる領域)には形成されない。
【0071】
劈開導入溝30は、例えば、ダイヤモンドツールで罫書きするダイヤモンドスクライブ等によって形成され得る。本実施形態では、複数の劈開導入溝30は、複数の素子分割溝20が形成される第1主面100aに形成される。すなわち、本実施形態では、素子分割溝20及び劈開導入溝30のいずれも、第1主面100aに形成される。上記構成によれば、素子分割溝20又は劈開導入溝30に沿った劈開の品質を向上させることができる。より具体的には、上述したように第2主面100bの全体に電極6が形成されるが、電極6の上から第2主面100bにスクライビングを行ってスクライブ溝(素子分割溝又は劈開導入溝)を設けた場合、電極6の存在によって精度良くスクライブ溝を形成することができず、十分な劈開品質を得られないおそれがある。また、上記のような劈開品質の悪化を回避するために、スクライブ溝が形成される位置を避けるように電極6のパターニングを行うことも考えられるが、その場合、当該パターニングの分だけ工数が増大してしまう。これに対して、上記のように第1主面100aに素子分割溝20及び劈開導入溝30を形成することにより、上述したようなデメリットを回避することができる。
【0072】
(第4工程:1次劈開工程)
続いて、領域Aの外縁部に沿ってウェハ100を切断することにより、ウェハ100の領域Aのみからなる正方形板状部材が得られる。なお、このような切断は、公知の手法によって実施され得る。例えば、領域Aの外縁部のうちY軸方向に沿った部分(すなわち、領域AのX軸方向両側の劈開ラインL1に沿った部分)は、後述する1次劈開と同様の処理によって劈開されてもよい。また、領域Aの外縁部のうちX軸方向に沿った部分は、ダイヤモンドスクライブ等によって罫書きされた後に、ブレーキング刃をウェハ100の裏面(第2主面100b)側から当ててウェハ100を押し割るブレーク処理を行うことによって切断されてもよい。
【0073】
続いて、複数の劈開ラインL1の各々に沿ってウェハ100(本実施形態では、上述の方法により得られた正方形板状部材)を劈開する処理(1次劈開)が実行される。その結果、それぞれY軸方向に1次元状に配列された複数の素子部分Cを含む複数のレーザバーLB(
図13参照)が得られる。上記の1次劈開は、例えば、上述したように、ブレーキング刃を劈開ラインL1に沿ってウェハ100の裏面(第2主面100b)側から当ててウェハ100を押し割るブレーク処理を行うことによって実行される。
【0074】
(第5工程:2次劈開工程)
続いて、複数のレーザバーLBの各々を複数の素子分割ラインL2の各々に沿って劈開する処理(2次劈開、素子分割)が実行される。その結果、
図13に示されるように、各レーザバーLBから、複数の半導体レーザ素子1Aが得られる。上記の2次劈開は、例えば、上述したように、ブレーキング刃を素子分割ラインL2に沿ってレーザバーLBの裏面(第2主面100b)側から当ててウェハ100を押し割るブレーク処理を行うことによって実行される。
【0075】
[作用効果]
上記の半導体レーザ素子1Aの製造方法では、1次劈開(第4工程)で複数のレーザバーLBを得る前のウェハ状態の段階(第2工程)で、2次劈開(第5工程)のための素子分割溝20が形成される。これにより、1次劈開(第4工程)の後に、2次劈開(第5工程)の前処理としてダイヤモンドツール、レーザ等を用いてレーザバーLB毎にスクライブ処理を行うことが不要となる。また、第2工程(すなわち、ウェハ状態で素子分割溝20を形成する処理)の工数は、上述したようにレーザバーLB毎にスクライブ処理を実行するために必要な工数よりも少ないため、上記製造方法によって作業工数を削減することができる。また、素子分割溝20はエッチングによって形成されるため、素子分割溝20のZ軸方向における先端部(底部)に、ポイントスクライブ(ダイヤモンドスクライブ)を行った場合等に生じる深いダメージ層が形成されない。これにより、素子分割溝20が形成された後のウェハ100の強度を十分に確保することができる。その結果、第2工程の後にウェハ100の裏面処理等が実施される場合であっても、ウェハ100の破損が適切に防止される。また、ポイントスクライブを行った場合には、デブリの飛散、ラテラルクラックの発生等の問題が生じ得るが、エッチングによって素子分割溝20を形成することにより、上記の問題を確実に回避できる。また、劈開ラインL1上には素子分割溝20(エッチング溝)が形成されず、劈開導入溝30も主に素子領域A1の外側に形成される。すなわち、素子領域A1内の劈開ラインL1上には、溝は形成されない。これにより、1次劈開(第4工程)によって得られるレーザバーLBに当該溝に起因する亀裂(X軸方向に進展する亀裂)が発生することを抑制できる。また、比較的割れ易いGaAsによって形成された半導体基板2(すなわち、GaAsによって形成された基板層2L)を用いることにより、素子領域A1の外側に劈開導入溝30を設けるだけで、劈開ラインL1に沿った1次劈開(第4工程)を容易且つ精度良く行うことができる。従って、上記製造方法によれば、半導体レーザ素子1Aの製造品質を損なうことなく、製造時の工数を低減することができる。
【0076】
また、劈開導入溝30は、素子領域A1の内部(特に、劈開ラインL1上においてX軸方向に隣り合う素子部分Cの間の領域)に形成されない。すなわち、素子領域A1内の劈開ラインL1上には、素子分割溝20及び劈開導入溝30のいずれも形成されない。これにより、上述した1次劈開(第4工程)におけるレーザバーLBの亀裂の発生をより効果的に抑制できる。
【0077】
また、素子分割溝20は、第1主面100aに形成されると共に、半導体層3Lを貫通して基板層2Lまで達している。素子分割溝20の内面20aのうち少なくとも半導体層3Lによって形成された部分は、第1主面100a側から第2主面100b側に向かうにつれて素子分割溝20のY軸方向の幅が小さくなるようにZ軸方向に対して傾斜している。上記構成によれば、素子分割溝20の内面20aのうち半導体層3Lによって形成された部分を半導体レーザ素子1Aのメサ発光部の側面として機能させる場合において、当該メサ発光部の横方向発振(Y軸方向における発振)を好適に抑制できる。また、素子分割溝20が基板層2Lまで達していることにより、2次劈開(第5工程)において基板層2Lのみを分割すればよいため、2次劈開時において半導体層3Lの内部にクラックが生じたり、基板層2Lから半導体層3Lが剥離したりするリスクを低減できる。
【0078】
また、第1部分21の内面20aは、第1主面100a側から第2主面100b側に向かうにつれて素子分割溝20のY軸方向の幅が小さくなるようにZ軸方向に対して傾斜しており、Z軸方向に対する第1部分21の内面20aの傾斜角度θ1は、Z軸方向に対する第2部分22の内面20aの傾斜角度(本実施形態では、略0度)よりも大きくされており、第1部分21は、半導体層3Lを貫通して基板層2Lまで達している。上記構成によれば、素子分割溝20の第1部分21の内面20aをZ軸方向に対して傾斜させることにより、2次劈開(第5工程)においてレーザバーLBを素子分割ラインL2に沿って分割し易くすることができる。より具体的には、Y軸方向における第1部分21の幅を素子分割溝20の開口側に向かって末広がりの形状とすることにより、素子分割溝20の体積を増やすことができるため、素子分割溝20に沿ってレーザバーLBを割れ易くすることができる。一方、素子分割溝20の内面20aの全体をZ軸方向に対して略一定の傾斜角度で傾斜させた場合、素子分割溝20の底部の中心位置を素子分割ラインL2上に精度良く合わせることが困難となり、精度良く素子分割を行うことができなくなるおそれがある。そこで、上記のように、素子分割溝20の底部側にZ軸方向に対する傾斜が第1部分21よりも緩やかな第2部分22を設けることにより、素子分割溝20の底部の中心位置を素子分割ラインL2上に精度良く合わせることが可能となる。従って、上記構成によれば、第1部分21によって素子分割(2次劈開)をし易くすることで素子分割にかかる時間を短縮できると共に、第2部分22によって素子分割位置を精度良く制御することで素子分割の精度を向上させることができる。
【0079】
また、素子分割溝20の第1部分21の内面20aは、複数の素子部分Cの各々のメサ発光部の側面を構成しており、第1部分21は、半導体層3Lを貫通して基板層2Lまで達している。上記構成によれば、メサ発光部の側面がZ軸方向に対して傾斜する傾斜面として構成されるため、メサ発光部の横方向発振(Y軸方向における発振)を好適に抑制できる。
【0080】
また、素子分割溝20の底部は、Y軸方向に延在する底面23を有する。上記構成によれば、素子分割溝20がV字状に形成される場合と比較して、ウェハ100の機械的強度を高くすることができる。これにより、素子分割溝20が形成された後のウェハ100に対して裏面処理等を実施する場合等において、ウェハ100の破損を抑制でき、歩留まりを向上させることができる。また、エッチングの精度は、傾斜が大きい面ほど悪くなるため、素子分割溝20をV字状に形成する場合(すなわち、素子分割溝20の内面20aの全体を傾斜面として形成する場合)、エッチングにより形成される素子分割溝20の形状のコントロールが困難となり、その結果、素子分割時における分割方向(分割面に沿う方向)が不安定となる(すなわち、分割面がZ軸方向に平行とならない)おそれがある。これに対して、素子分割溝20が底面23を有するようにエッチングすることにより、素子分割溝20をV字状に形成する場合よりも素子分割溝20の形状を精度良くコントロールすることができるため、素子分割の精度を高めることができる。
【0081】
また、Y軸方向における素子分割溝20の底面23の幅は、10μm以下である。上記構成によれば、底面23の幅を一定以下(10μm以下)に抑えることにより、上述したような素子分割溝20が底面23を有する場合の効果を得つつ、素子分割溝20に沿って素子分割し易くすることができる。すなわち、ウェハ100の機械的強度を確保する観点からは、底面23の幅は大きい方がよいが、底面23の幅が大き過ぎると、素子分割時において、レーザバーLBが素子分割溝20に沿って割れ難くなってしまう。上記構成によれば、このようなデメリットを抑制することができる。
【0082】
また、X軸方向における素子分割溝20の内面20bは、X軸方向の外側に向かうにつれてY軸方向における素子分割溝20の略中心部に向かって幅狭となるようにY軸方向に対して傾斜している。上記構成によれば、Z軸方向から見た素子分割溝20の形状を単純な長方形状にした場合と比較して、素子分割溝20のY軸方向における略中心部に沿って素子分割し易くすることができる。
【0083】
また、
図11に示されるように、上記半導体レーザ素子1Aの製造方法は、第2工程よりも後であって第3工程よりも前に、絶縁膜4を形成し、絶縁膜4の開口部4aを介して半導体層3Lの頂面3Laと接触すると共に絶縁膜4のうち頂面3Laを覆う部分の少なくとも一部を覆う電極5を形成する工程を含む。上記構成によれば、素子分割溝20の内面20aのうち半導体層3Lによって形成された部分を素子分割後に得られる半導体レーザ素子1Aのメサ発光部の側面として機能させる場合において、当該メサ発光部の側面を絶縁膜4によって適切に保護できるため、当該メサ発光部の側面の損傷に起因するダークライン(暗線)欠陥の発生を抑制できる。また、絶縁膜4を介して半導体層3Lの頂面3Laに電極5を形成することにより、電極5の密着性をより良好にできる。その結果、半導体レーザ素子1Aの製造品質を向上させることができる。
【0084】
また、上述した半導体レーザ素子1Aは、上記製造方法によって容易且つ精度良く製造可能な構成を有するため、歩留まりの向上を図ることができる。さらに、半導体積層体3の側面3bがメサ発光部の側面として機能する場合には、側面3cがZ軸方向に対して傾斜する傾斜面として構成されるため、メサ発光部の横方向発振(Y軸方向における発振)を好適に抑制できる。
【0085】
[変形例]
(素子分割溝の変形例)
第2工程において形成される素子分割溝の形状は、上述した素子分割溝20の形状に限られない。例えば、第2工程において形成される素子分割溝は、単純な直方体状(Z軸方向から見て長方形状)に形成されてもよい。また、上述した素子分割溝20の代わりに、
図14に示される変形例に係る素子分割溝20Aが形成されてもよい。Y軸方向における素子分割溝20Aの内面20Aaは、素子分割溝20の第2部分22に対応する部分を有しておらず、素子分割溝20の第1部分21に対応する部分のみを有している。すなわち、素子分割溝20Aの内面20Aaの全体が、Z軸方向に対して傾斜している。一方、X軸方向における素子分割溝20Aの内面20Abは、素子分割溝20の内面20bと同様に、X軸方向の外側に向かうにつれてY軸方向における素子分割溝20の略中心部に向かって幅狭となるようにY軸方向に対して傾斜している。また、素子分割溝20Aでは、内面20Abは、Z軸方向から見た場合に、R形状(すなわち、外側に凸の丸みを帯びた形状)をなしている。上記構成によれば、素子分割溝20の内面20bと同様の効果(すなわち、素子分割溝20のY軸方向における略中心部に沿って素子分割し易くすることができる効果)を得ることができる。また、内面20AbをR形状にすることにより、内面20Abを角張った形状にする場合と比較して、内面20Abにクラックが生じるリスクを低減できる。
【0086】
(半導体レーザ素子の第1変形例)
図15は、第1変形例に係る半導体レーザ素子1Bの断面図である。
図15に示されるように、半導体レーザ素子1Bは、絶縁膜4を備えていない点において、半導体レーザ素子1Aと相違している。半導体レーザ素子1Bは、上述した半導体レーザ素子1Aの製造方法の一部を変形することにより製造可能である。例えば、上述した半導体レーザ素子1Aの製造方法の表面処理工程において、絶縁膜4を形成する処理を省略することにより、半導体レーザ素子1Bを得ることができる。また、半導体レーザ素子1Bを製造する場合、素子分割溝20を形成した後に絶縁膜4を形成する必要がない。すなわち、半導体レーザ素子1Bを製造する場合には、表面処理工程(電極5の形成処理)が、第2工程よりも前に実施されてもよい。
【0087】
(半導体レーザ素子の第2変形例)
図16は、第2変形例に係る半導体レーザ素子1Cの断面図である。
図16に示されるように、半導体レーザ素子1Cは、メサ発光部として機能する半導体積層体3AのY軸方向の両側に、溝部Gを挟んで、メサ発光部として機能しない一対の半導体積層体3Bが設けられている点において、半導体レーザ素子1Aと相違している。半導体レーザ素子1Cでは、絶縁膜4は、半導体積層体3A及び一対の半導体積層体3Bの表面に設けられており、半導体積層体3Aの頂面3aを露出させる開口部4aが設けられている。また、電極5は、一方の半導体積層体3Bの上部から半導体積層体3Aを介して他方の半導体積層体3Bの上部にかけて設けられている。半導体レーザ素子1Cのうち、一対の半導体積層体3Bの各々のY軸方向における外側の側面3bと、半導体基板2の側面2cの第1部分2c1及び第2部分2c2とが、第2工程において形成される素子分割溝20の内面20aに対応している。半導体レーザ素子1Cは、上述した半導体レーザ素子1Aの製造方法の一部を変形することにより製造可能である。例えば、第2工程よりも前に、表面処理工程が実施されればよい。ここで、表面処理工程は、半導体層3Lに溝部Gを形成することによりメサ発光部(半導体積層体3A)を形成するメサ形成処理と、絶縁膜4及び電極5を形成する処理と、を含む。このような表面処理工程を実施した後に上記半導体レーザ素子1Aの製造方法と同様の第2工程、裏面処理工程、第3工程、第4工程、及び第5工程を実施することにより、半導体レーザ素子1Cを得ることができる。半導体レーザ素子1Cによれば、表面処理工程を第2工程よりも前に実施可能としつつ、メサ発光部として機能する半導体積層体3Aの側面を絶縁膜4で覆うことにより、上述したダークライン(暗線)欠陥の発生を抑制できる。
【0088】
(他の変形例)
以上、本開示の実施形態及びいくつかの変形例について説明したが、本開示は、上記の実施形態及び各変形例で示した構成に限られない。各構成の材料及び形状は、上述した具体的な材料及び形状に限らず、上述した以外の様々な材料及び形状を採用することができる。また、上記の実施形態及び各変形例に含まれる一部の構成は、適宜省略又は変更されてもよいし、任意に組み合わせることが可能である。
【0089】
例えば、上記実施形態では、第4工程(1次劈開工程)において、最初に円板状のウェハ100から領域Aのみからなる正方形板状部材を切り抜く処理が実施されたが、このような処理は省略されてもよい。すなわち、ウェハ100に対して、直接、複数の劈開ラインL1の各々に沿って劈開する処理が実施されてもよい。この場合、各劈開ラインL1上に形成される劈開導入溝30は、ウェハ100のY軸方向における端部に設けられてもよい。
【0090】
また、第4工程(1次劈開工程)の後に、レーザバーLBのX軸方向における一対の端面のコーティングが実施されてもよい。例えば、レーザバーLBのX軸方向における一対の端面のうちレーザ光Lの出射端面として機能する端面には、反射防止膜(低反射膜)が設けられてもよい。一方、レーザバーLBのX軸方向における一対の端面のうちレーザ光Lの出射端面として機能する端面とは反対側の端面には、高反射膜が設けられてもよい。
【0091】
また、上述した素子分割溝20の第1部分21及び第2部分22による効果(すなわち、第1部分21によって素子分割(2次劈開)をし易くすることで素子分割にかかる時間を短縮できると共に、第2部分22によって素子分割位置を精度良く制御することで素子分割の精度を向上させることができる効果)は、1次劈開工程(第4工程)の後に得られるレーザバーLB(半導体部材)に対して素子分割溝形成工程(第2工程)を実施する場合においても得られる。
【0092】
また、上記実施形態では、素子分割溝20及び劈開導入溝30は、いずれも第1主面100aに形成されたが、第2主面100bに形成されてもよい。また、素子分割溝20が形成される主面と劈開導入溝30が形成される主面とは、互いに異なっていてもよい。
【0093】
また、上記実施形態では、Z軸方向に対する第2部分22の内面20aの傾斜角度が略0度である形態(すなわち、第2部分22の内面20aがZ軸方向と略平行である形態)が例示されたが、第2部分22の内面20aは、第1部分21の内面20aの傾斜角度θ1よりも小さくなる範囲で、Z軸方向に対して傾斜していてもよい。
【0094】
また、上記実施形態では、劈開導入溝30は、素子領域A1の外側のみに形成されたが、劈開導入溝30の一部が素子領域A1の内側に含まれてもよい。この場合、例えば、劈開導入溝30のうち素子領域A1の外側に含まれる部分のY軸方向の長さは、劈開導入溝30のうち素子領域A1の内側に含まれる部分のY軸方向の長さよりも長くされればよい。このような構成においても、劈開導入溝30の大部分が素子領域A1の外側に形成されるため、劈開導入溝30のうち素子領域A1の内側に形成される部分は、劈開導入溝30のうち素子領域A1の外側に形成される部分と比較して僅かである。これにより、1次劈開(第4工程)によって得られるレーザバーLBに劈開導入溝30に起因する亀裂が発生することを抑制できる。
【0095】
また、本開示の半導体レーザ素子の製造方法は、SLD(スーパールミネッセントダイオード)の製造方法について適用されてもよい。すなわち、SLDの製造に用いられるウェハに対して、本開示と同様の工程が実施されてもよい。これにより、本開示の半導体レーザ素子の製造方法と同様の効果が奏される。例えば、得られたSLDにラテラルクラックが残存するのを抑制することができる。
【符号の説明】
【0096】
1A,1B,1C…半導体レーザ素子、2…半導体基板、2c…側面(第2側面)、2c1…第1部分、2c2…第2部分、2L…基板層、3,3A,3B…半導体積層体、3a…頂面、3b…側面(第1側面)、3L…半導体層、3La…頂面、4…絶縁膜、4a…開口部、5…電極、20,20A…素子分割溝、20a,20Aa…内面(第1内面)、20b,20Ab…内面(第2内面)、21…第1部分、22…第2部分、23…底面、30…劈開導入溝、40…レジスト膜、40a…開口部、100…ウェハ、100a…第1主面、100b…第2主面、302…下部活性層(活性層)、306…中間活性層(活性層)、310…上部活性層(活性層)、A1…素子領域、C…素子部分、L1…劈開ライン、L2…素子分割ライン、LB…レーザバー。