(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024116724
(43)【公開日】2024-08-28
(54)【発明の名称】イオン交換体充填カートリッジの製造方法、イオン交換体充填カートリッジ、非水液含有液の精製方法、および非水液含有液の精製装置
(51)【国際特許分類】
B01J 47/012 20170101AFI20240821BHJP
B01J 41/04 20170101ALI20240821BHJP
B01J 41/14 20060101ALI20240821BHJP
C08J 5/20 20060101ALI20240821BHJP
【FI】
B01J47/012
B01J41/04
B01J41/14
C08J5/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023022501
(22)【出願日】2023-02-16
(71)【出願人】
【識別番号】000004400
【氏名又は名称】オルガノ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】似内 夕佳里
(72)【発明者】
【氏名】高田 智子
(72)【発明者】
【氏名】森野 翔太
(72)【発明者】
【氏名】中村 慎司
【テーマコード(参考)】
4F071
【Fターム(参考)】
4F071AA22
4F071FA10
4F071FB02
4F071FC13
4F071FD05
(57)【要約】
【課題】モノリス状有機多孔質イオン交換体をカートリッジにほとんど隙間なく充填し、非水液含有液中のイオン性不純物の量を効率よく低減することができるイオン交換体充填カートリッジの製造方法を提供する。
【解決手段】イオン交換体充填カートリッジ10が、カートリッジ12と、カートリッジ12内に充填されたイオン交換体14と、を備え、イオン交換体14が一般式(1)で表される高分子鎖から構成される所定の非粒子状有機多孔質イオン交換体を含み、水湿潤状態のイオン交換体14をカートリッジ12に充填する工程と、カートリッジ12に有機溶媒を通液し、イオン交換体14に含まれる水分を有機溶媒で置換してイオン交換体14を膨潤させる工程と、を含む、イオン交換体充填カートリッジの製造方法である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
非水液を含む非水液含有液に接触することによって前記非水液含有液中のイオン性不純物の量を低減するためのイオン交換体が充填されたイオン交換体充填カートリッジの製造方法であって、
前記イオン交換体充填カートリッジが、カートリッジと、前記カートリッジ内に充填されたイオン交換体と、を備え、
前記イオン交換体が、
一般式(1)
【化1】
(1)
(式中R
1は、置換されていてもよい炭素数4から22のアルキル基;または、置換されていてもよい炭素数1から6のアルキル基、ハロゲン原子、置換されていてもよい炭素数1から6のアルコキシ基、置換されていてもよいアミノ基、シアノ基、もしくはニトロ基で置換されていてもよいベンジル基;を表し、R
2,R
3は、それぞれ独立して炭素数1から4のアルキル基を表し、Lは、リンカー部位を表し、Polymerは、高分子鎖を表す。)
で表される高分子鎖から構成される非粒子状有機多孔質イオン交換体であり、連続骨格相と連続空孔相とからなり、連続骨格の厚みは、1~100μmの範囲であり、連続空孔の平均直径は、1~1000μmの範囲であり、全細孔容積は、0.5~50mL/gの範囲であり、乾燥状態での重量当りのイオン交換容量は、1~9mg当量/gの範囲であり、イオン交換基が前記有機多孔質イオン交換体中に分布している非粒子状有機多孔質イオン交換体を含み、
水湿潤状態の前記イオン交換体を前記カートリッジに充填する工程と、
前記カートリッジに有機溶媒を通液し、前記イオン交換体に含まれる水分を前記有機溶媒で置換して前記イオン交換体を膨潤させる工程と、
を含むことを特徴とするイオン交換体充填カートリッジの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載のイオン交換体充填カートリッジの製造方法であって、
前記イオン交換体を水湿潤状態で有機溶媒に接触させたときの膨潤率が、有機溶媒への接触前に対して100~110%の範囲であることを特徴とするイオン交換体充填カートリッジの製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載のイオン交換体充填カートリッジの製造方法であって、
一般式(1)におけるLは、メチレン基であることを特徴とするイオン交換体充填カートリッジの製造方法。
【請求項4】
請求項1に記載のイオン交換体充填カートリッジの製造方法であって、
前記イオン交換体の高分子鎖は、スチレン―ジビニルベンゼン系共重合体であることを特徴とするイオン交換体充填カートリッジの製造方法。
【請求項5】
非水液を含む非水液含有液に接触することによって前記非水液含有液中のイオン性不純物の量を低減するためのイオン交換体が充填されたイオン交換体充填カートリッジであって、
カートリッジと、前記カートリッジ内に充填されたイオン交換体と、を備え、
前記イオン交換体が、
一般式(1)
【化2】
(1)
(式中R
1は、置換されていてもよい炭素数4から22のアルキル基;または、置換されていてもよい炭素数1から6のアルキル基、ハロゲン原子、置換されていてもよい炭素数1から6のアルコキシ基、置換されていてもよいアミノ基、シアノ基、もしくはニトロ基で置換されていてもよいベンジル基;を表し、R
2,R
3は、それぞれ独立して炭素数1から4のアルキル基を表し、Lは、リンカー部位を表し、Polymerは、高分子鎖を表す。)
で表される高分子鎖から構成される非粒子状有機多孔質イオン交換体であり、連続骨格相と連続空孔相とからなり、連続骨格の厚みは、1~100μmの範囲であり、連続空孔の平均直径は、1~1000μmの範囲であり、全細孔容積は、0.5~50mL/gの範囲であり、乾燥状態での重量当りのイオン交換容量は、1~9mg当量/gの範囲であり、イオン交換基が前記有機多孔質イオン交換体中に分布している非粒子状有機多孔質イオン交換体を含むことを特徴とするイオン交換体充填カートリッジ。
【請求項6】
請求項5に記載のイオン交換体充填カートリッジであって、
前記イオン交換体を水湿潤状態で有機溶媒に接触させたときの膨潤率が、有機溶媒への接触前に対して100~110%の範囲であることを特徴とするイオン交換体充填カートリッジ。
【請求項7】
請求項5に記載のイオン交換体充填カートリッジであって、
一般式(1)におけるLは、メチレン基であることを特徴とするイオン交換体充填カートリッジ。
【請求項8】
請求項5に記載のイオン交換体充填カートリッジであって、
前記イオン交換体の高分子鎖は、スチレン―ジビニルベンゼン系共重合体であることを特徴とするイオン交換体充填カートリッジ。
【請求項9】
非水液を含む非水液含有液中のイオン性不純物の量を低減する非水液含有液の精製方法であって、
前記イオン交換体のイオン交換基がOH形である請求項1~4のいずれか1項に記載のイオン交換体充填カートリッジの製造方法で得られたイオン交換体充填カートリッジに前記非水液含有液を通液するイオン交換工程を含むことを特徴とする非水液含有液の精製方法。
【請求項10】
非水液を含む非水液含有液中のイオン性不純物の量を低減する非水液含有液の精製装置であって、
請求項5~8のいずれか1項に記載のイオン交換体充填カートリッジを備え、
前記イオン交換体のイオン交換基がOH形である前記イオン交換体充填カートリッジに前記非水液含有液を通液することを特徴とする非水液含有液の精製装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モノリス状有機多孔質イオン交換体を充填したイオン交換体充填カートリッジの製造方法、イオン交換体充填カートリッジ、そのイオン交換体充填カートリッジを用いる非水液含有液の精製方法、および非水液含有液の精製装置に関する。
【背景技術】
【0002】
有機溶媒中の金属不純物の除去には、蒸留やイオン交換体による精製が一般的に用いられている。
【0003】
例えば、特許文献1には、多価イオンを含有する有機溶媒をモノリス状有機多孔質イオン交換体(以下、「モノリス状有機多孔質イオン交換体」を単に「モノリスイオン交換体」と呼ぶ場合がある。)に接触させることによって、多価イオンを効率的に除去できることが記載されている。しかし、水湿潤状態のモノリスイオン交換体を充填したカートリッジに有機溶媒を通液すると、モノリスイオン交換体が著しく収縮し、ショートパスが生じて金属イオン除去効率が低下するという課題がある。
【0004】
一方、例えば、特許文献2には、モノリス状有機多孔質体に特定のイオン交換基を導入した非粒子状有機多孔質イオン交換体(モノリスイオン交換体)が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2017-119233号公報
【特許文献2】特開2022-163531号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、モノリス状有機多孔質イオン交換体をカートリッジにほとんど隙間なく充填し、非水液含有液中のイオン性不純物の量を効率よく低減することができるイオン交換体充填カートリッジの製造方法、イオン交換体充填カートリッジ、非水液含有液の精製方法、および非水液含有液の精製装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、非水液を含む非水液含有液に接触することによって前記非水液含有液中のイオン性不純物の量を低減するためのイオン交換体が充填されたイオン交換体充填カートリッジの製造方法であって、前記イオン交換体充填カートリッジが、カートリッジと、前記カートリッジ内に充填されたイオン交換体と、を備え、前記イオン交換体が、一般式(1)
【化1】
(1)
(式中R
1は、置換されていてもよい炭素数4から22のアルキル基;または、置換されていてもよい炭素数1から6のアルキル基、ハロゲン原子、置換されていてもよい炭素数1から6のアルコキシ基、置換されていてもよいアミノ基、シアノ基、もしくはニトロ基で置換されていてもよいベンジル基;を表し、R
2,R
3は、それぞれ独立して炭素数1から4のアルキル基を表し、Lは、リンカー部位を表し、Polymerは、高分子鎖を表す。)で表される高分子鎖から構成される非粒子状有機多孔質イオン交換体であり、連続骨格相と連続空孔相とからなり、連続骨格の厚みは、1~100μmの範囲であり、連続空孔の平均直径は、1~1000μmの範囲であり、全細孔容積は、0.5~50mL/gの範囲であり、乾燥状態での重量当りのイオン交換容量は、1~9mg当量/gの範囲であり、イオン交換基が前記有機多孔質イオン交換体中に分布している非粒子状有機多孔質イオン交換体を含み、水湿潤状態の前記イオン交換体を前記カートリッジに充填する工程と、前記カートリッジに有機溶媒を通液し、前記イオン交換体に含まれる水分を前記有機溶媒で置換して前記イオン交換体を膨潤させる工程と、を含む、イオン交換体充填カートリッジの製造方法である。
【0008】
前記イオン交換体充填カートリッジの製造方法において、前記イオン交換体を水湿潤状態で有機溶媒に接触させたときの膨潤率が、有機溶媒への接触前に対して100~110%の範囲であることが好ましい。
【0009】
前記イオン交換体充填カートリッジの製造方法において、一般式(1)におけるLは、メチレン基であることが好ましい。
【0010】
前記イオン交換体充填カートリッジの製造方法において、前記イオン交換体の高分子鎖は、スチレン―ジビニルベンゼン系共重合体であることが好ましい。
【0011】
本発明は、非水液を含む非水液含有液に接触することによって前記非水液含有液中のイオン性不純物の量を低減するためのイオン交換体が充填されたイオン交換体充填カートリッジであって、カートリッジと、前記カートリッジ内に充填されたイオン交換体と、を備え、前記イオン交換体が、一般式(1)
【化2】
(1)
(式中R
1は、置換されていてもよい炭素数4から22のアルキル基;または、置換されていてもよい炭素数1から6のアルキル基、ハロゲン原子、置換されていてもよい炭素数1から6のアルコキシ基、置換されていてもよいアミノ基、シアノ基、もしくはニトロ基で置換されていてもよいベンジル基;を表し、R
2,R
3は、それぞれ独立して炭素数1から4のアルキル基を表し、Lは、リンカー部位を表し、Polymerは、高分子鎖を表す。)で表される高分子鎖から構成される非粒子状有機多孔質イオン交換体であり、連続骨格相と連続空孔相とからなり、連続骨格の厚みは、1~100μmの範囲であり、連続空孔の平均直径は、1~1000μmの範囲であり、全細孔容積は、0.5~50mL/gの範囲であり、乾燥状態での重量当りのイオン交換容量は、1~9mg当量/gの範囲であり、イオン交換基が前記有機多孔質イオン交換体中に分布している非粒子状有機多孔質イオン交換体を含む、イオン交換体充填カートリッジである。
【0012】
前記イオン交換体充填カートリッジにおいて、前記イオン交換体を水湿潤状態で有機溶媒に接触させたときの膨潤率が、有機溶媒への接触前に対して100~110%の範囲であることが好ましい。
【0013】
前記イオン交換体充填カートリッジにおいて、一般式(1)におけるLは、メチレン基であることが好ましい。
【0014】
前記イオン交換体充填カートリッジにおいて、前記イオン交換体の高分子鎖は、スチレン―ジビニルベンゼン系共重合体であることが好ましい。
【0015】
本発明は、非水液を含む非水液含有液中のイオン性不純物の量を低減する非水液含有液の精製方法であって、前記イオン交換体のイオン交換基がOH形である前記イオン交換体充填カートリッジの製造方法で得られた前記イオン交換体充填カートリッジに前記非水液含有液を通液するイオン交換工程を含む、非水液含有液の精製方法である。
【0016】
本発明は、非水液を含む非水液含有液中のイオン性不純物の量を低減する非水液含有液の精製装置であって、前記イオン交換体充填カートリッジを備え、前記イオン交換体のイオン交換基がOH形である前記イオン交換体充填カートリッジに前記非水液含有液を通液する、非水液含有液の精製装置である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によって、モノリス状有機多孔質イオン交換体をカートリッジにほとんど隙間なく充填し、非水液含有液中のイオン性不純物の量を効率よく低減することができるイオン交換体充填カートリッジの製造方法、イオン交換体充填カートリッジ、非水液含有液の精製方法、および非水液含有液の精製装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の実施形態に係るイオン交換体充填カートリッジの製造方法の一例を示す概略図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る非水液含有液の精製装置の一例を示す概略構成図である。
【
図3】本発明の実施形態に係る非水液含有液の精製装置の他の例を示す概略構成図である。
【
図4】本発明の実施形態に係る非水液含有液の精製装置の他の例を示す概略構成図である。
【
図5】実施例1で得られたモノリス中間体のSEM写真である。
【
図6】実施例1で得られたモノリスのSEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の実施の形態について以下説明する。本実施形態は本発明を実施する一例であって、本発明は本実施形態に限定されるものではない。
【0020】
<イオン交換体充填カートリッジの製造方法およびイオン交換体充填カートリッジ>
本実施形態に係るイオン交換体充填カートリッジの製造方法は、非水液を含む非水液含有液に接触することによって非水液含有液中のイオン性不純物の量を低減するためのイオン交換体が充填されたイオン交換体充填カートリッジの製造方法であって、イオン交換体充填カートリッジが、カートリッジと、カートリッジ内に充填されたイオン交換体と、を備え、水湿潤状態のイオン交換体をカートリッジに充填する工程と、カートリッジに有機溶媒を通液し、イオン交換体に含まれる水分を有機溶媒で置換してイオン交換体を膨潤させる工程と、を含む方法である。
【0021】
本実施形態に係るイオン交換体充填カートリッジは、非水液を含む非水液含有液に接触することによって非水液含有液中のイオン性不純物の量を低減するためのイオン交換体が充填されたイオン交換体充填カートリッジであって、カートリッジと、カートリッジ内に充填されたイオン交換体と、を備えるカートリッジである。このイオン交換体充填カートリッジは、水湿潤状態のイオン交換体をカートリッジに充填する工程と、カートリッジに有機溶媒を通液し、イオン交換体に含まれる水分を有機溶媒で置換してイオン交換体を膨潤させる工程と、を含む方法によって得られるものである。
【0022】
ここで、イオン交換体は、一般式(1)
【化3】
(1)
(式中R
1は、置換されていてもよい炭素数4から22のアルキル基;または、置換されていてもよい炭素数1から6のアルキル基、ハロゲン原子、置換されていてもよい炭素数1から6のアルコキシ基、置換されていてもよいアミノ基、シアノ基、もしくはニトロ基で置換されていてもよいベンジル基;を表し、R
2,R
3は、それぞれ独立して炭素数1から4のアルキル基を表し、Lは、リンカー部位を表し、Polymerは、高分子鎖を表す。)で表される高分子鎖から構成される非粒子状有機多孔質イオン交換体を含む。
【0023】
この非粒子状有機多孔質イオン交換体は、連続骨格相と連続空孔相とからなり、連続骨格の厚みは、1~100μmの範囲であり、連続空孔の平均直径は、1~1000μmの範囲であり、全細孔容積は、0.5~50mL/gの範囲であり、乾燥状態での重量当りのイオン交換容量は、1~9mg当量/gの範囲であり、イオン交換基が有機多孔質イオン交換体中に分布している非粒子状有機多孔質イオン交換体を含む。「非粒子状有機多孔質イオン交換体」は、「モノリス状有機多孔質イオン交換体」とも呼び、上記の通り、単に「モノリスイオン交換体」と呼ぶ場合がある。
【0024】
本実施形態に係るイオン交換体充填カートリッジの製造方法の一例を示す概略図を
図1に示す。
【0025】
図1に示すように、まず、水湿潤状態のイオン交換体14をカートリッジ12に充填する(充填工程)。次に、カートリッジ12に例えばイソプロピルアルコール(IPA)等の有機溶媒を通液し、イオン交換体14に含まれる水分をIPA等の有機溶媒で置換してイオン交換体を膨潤させて(膨潤工程)、カートリッジ12内にイオン交換体14充填されたイオン交換体充填カートリッジ10を得る。
【0026】
本発明者らは、上記一般式(1)で表される高分子鎖から構成されるモノリスイオン交換体は、水湿潤状態で有機溶媒と接触したときの収縮が少なく、有機溶媒に浸漬することによって膨潤することを見出した。このようなモノリスイオン交換体を用い、水湿潤状態のモノリスイオン交換体を例えばカートリッジに充填し、有機溶媒を通液することによってモノリスイオン交換体に含まれる水分を有機溶媒で置換してモノリスイオン交換体を膨潤させ、カートリッジにモノリスイオン交換体をほとんど隙間なく充填することができる。このようにして得られたイオン交換体充填カートリッジを用いて、非水液を含む非水液含有液をモノリスイオン交換体に接触させて精製することによって、ショートパスが生じることがほとんどなく、非水液含有液中のイオン性不純物の量を効率よく低減することができる。
【0027】
樹脂の膨潤収縮は、HSP値(ハンセン溶解度パラメーター)が影響していると考えられる。樹脂に接触する溶媒のHSP値と樹脂のHSP値とが近いほど樹脂の膨潤率が大きくなる。有機溶媒によって樹脂が収縮するのは、樹脂のHSP値が有機溶媒のHSP値よりも水のHSP値と近いためであると考えられる。モノリスイオン交換体にR1として上記炭素数4から22のアルキル基または上記ベンジル基などの官能基を付加することによって、R1として例えばメチル基を有する従来のモノリスイオン交換体と比較して疎水性が増加するために、樹脂(モノリスイオン交換体)のHSP値が有機溶媒のHSP値に近くなり、膨潤しやすくなったと考えられる。
【0028】
上記一般式(1)で表される高分子鎖から構成されるモノリスイオン交換体を水湿潤状態で有機溶媒に接触させたときの膨潤率は、有機溶媒への接触前に対して100~110%の範囲であることが好ましく、102~108%の範囲であることがより好ましい。この膨潤率が100%未満であると、カートリッジにモノリスイオン交換体をほとんど隙間なく充填することができない場合があり、110%を超えると、有機溶媒を通液する際の圧力損失が高くなる場合や、充填容器が破損する場合がある。なお、本明細書において、この膨潤率が100%の場合も「カートリッジに有機溶媒を通液し、イオン交換体に含まれる水分を有機溶媒で置換してイオン交換体を膨潤させる工程」における「膨潤させる」に含まれるものとする。
【0029】
カートリッジに充填する水湿潤状態のモノリスイオン交換体の体積は、モノリスイオン交換体の上記膨潤率に応じて適宜決めればよいが、例えば、カートリッジの内容積に対して、91~100%の範囲であることが好ましく、93~98%の範囲であることがより好ましい。カートリッジに充填する水湿潤状態のモノリスイオン交換体の体積が91%未満であると、モノリスイオン交換体の上記膨潤率によってはカートリッジにモノリスイオン交換体をほとんど隙間なく充填することができない場合があり、98%を超えると、モノリスイオン交換体の上記膨潤率によっては有機溶媒を通液する際の圧力損失が高くなる場合や、充填容器が破損する場合がある。
【0030】
膨潤工程で用いる有機溶媒としては、特に制限はないが、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール(IPA)等のアルコール系溶媒;プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)、テトラヒドロフラン(THF)等のエーテル系溶媒;シクロヘキサノン、アセトン、2-ブタノン等のケトン系溶媒;乳酸エチル、酢酸-n-ブチル等のエステル系溶媒;ジメチルスルホキシド(DMSO)等のスルホキシド系溶媒;γ-ブチルラクトン等のラクトン系溶媒;N-メチル-2-ピロリドン(NMP)等のラクタム系溶媒;トルエン、キシレン等の芳香族系溶媒;フェノール等のフェノール系溶媒;等の有機溶媒が挙げられる。膨潤工程で用いる有機溶媒は、精製対象の有機溶媒でもよいし、精製対象の有機溶媒とは別の有機溶媒を用いてもよい。メタノール、エタノール等のより比誘電率の大きい有機溶媒を用いると膨潤工程にかかる時間と有機溶媒量を削減できるため好ましい。
【0031】
イオン交換体14を充填するカートリッジ12は、例えば、液入口部と、液出口部とを有する、テトラフルオロエチレンとパーフルオロアルコキシエチレンの共重合体(PFA)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)等で形成された円筒状等の筒状の密閉容器であり、イオン交換を行う機器本体等に着脱可能なものである。
【0032】
<非水液含有液の精製装置および非水液含有液の精製方法>
本実施形態に係る非水液含有液の精製装置は、非水液を含む非水液含有液中のイオン性不純物の量を低減する非水液含有液の精製装置であって、上記イオン交換体充填カートリッジを備え、イオン交換体のイオン交換基がOH形であるイオン交換体充填カートリッジに非水液含有液を通液する装置である。
【0033】
本実施形態に係る非水液含有液の精製方法は、非水液を含む非水液含有液中のイオン性不純物の量を低減する非水液含有液の精製方法であって、イオン交換体のイオン交換基がOH形である上記イオン交換体充填カートリッジに非水液含有液を通液するイオン交換工程を含む方法である。
【0034】
本実施形態に係る非水液含有液の精製装置の一例の概略を
図2に示す。
【0035】
図2に示す非水液含有液の精製装置1は、上記イオン交換体充填カートリッジの製造方法で得られたイオン交換体充填カートリッジ10を備える。イオン交換体充填カートリッジ10に充填されている上記一般式(1)で表される高分子鎖から構成されるモノリスイオン交換体は、精製前に無機アルカリ溶液または有機アルカリ溶液によってイオン交換基をOH形とされていることが好ましい。例えば濃度が1N以上の水酸化ナトリウム水溶液等のアルカリ水溶液と接触させる等の方法によって、イオン交換基がOH形とされているものである。精製前のイオン交換基の変換は、未使用イオン交換体、使用済みイオン交換体のどちらへも実施することができる。
【0036】
非水液含有液の精製装置1において、イオン交換体充填カートリッジ10の入口には、配管16が接続され、出口には配管18が接続されている。
図1に示すように、イオン交換体充填カートリッジ10のカートリッジ12内にイオン交換体14が充填されている。
【0037】
非水液含有液の精製装置1において、精製対象である非水液含有液が配管16を通してイオン交換体充填カートリッジ10の入口から例えば下向流または上向流(
図2の例では上向流)で通液される。イオン交換体充填カートリッジ10において、上記一般式(1)で表される高分子鎖から構成されるモノリスイオン交換体を含み、イオン交換基がOH形であるイオン交換体に非水液含有液が接触することによって非水液含有液中のイオン性不純物の量が低減される(イオン交換工程)。精製された精製液は、配管18を通して排出される。
【0038】
イオン交換工程において、非水液含有液とモノリスイオン交換体とを例えば0~80℃の温度で接触させればよい。例えば、イオン交換体14が充填されたイオン交換体充填カートリッジ10に非水液含有液を例えば0~50℃の温度で下向流または上向流で通液することによって、イオン交換を行うことができる。
【0039】
本実施形態に係るイオン交換体充填カートリッジを用いて、非水液を含む非水液含有液をモノリスイオン交換体に接触させて精製することによって、ショートパスが生じることがほとんどなく、非水液含有液中のイオン性不純物の量を効率よく低減することができる。
【0040】
本実施形態に係る非水液含有液の精製装置および精製方法において、上記一般式(1)で表される高分子鎖から構成されるモノリスイオン交換体単体で用いてもよいし、上記一般式(1)で表される高分子鎖から構成されるモノリスイオン交換体と、その他のモノリスイオン交換体とを組み合わせて用いてもよい。例えば、上記一般式(1)で表される高分子鎖から構成されるモノリスイオン交換体(モノリスアニオン交換体)と、モノリスカチオン交換体とを組み合わせて用いてもよい。ここで、「組み合わせて用いる」とは、例えば、上記一般式(1)で表される高分子鎖から構成されるモノリスイオン交換体を充填したイオン交換体充填カートリッジと、その他のモノリスイオン交換を充填したカートリッジとを、直列に接続して、非水液含有液を通液すればよい。
【0041】
精製対象の非水液含有液に含まれる非水液としては、特に制限はないが、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール(IPA)等のアルコール系溶媒;プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)、テトラヒドロフラン(THF)等のエーテル系溶媒;シクロヘキサノン、アセトン、2-ブタノン等のケトン系溶媒;乳酸エチル、酢酸-n-ブチル等のエステル系溶媒;ジメチルスルホキシド(DMSO)等のスルホキシド系溶媒;γ-ブチルラクトン等のラクトン系溶媒;N-メチル-2-ピロリドン(NMP)等のラクタム系溶媒;トルエン、キシレン等の芳香族系溶媒;フェノール等のフェノール系溶媒;等が挙げられる。
【0042】
精製対象の非水液含有液としては、プレウェット液、レジスト液、現像液、リンス液、剥離液、化学機械的研磨(CMP:Chemical Mechanical Polishing)スラリー、CMP後の洗浄液等の半導体デバイス等の製造に使用される薬液であってもよい。
【0043】
これらのうち、一般的なイオン交換樹脂が水湿潤状態と比較して収縮する溶媒である、アルコール系溶媒、エーテル系溶媒の精製において効果が高く、特に、メタノール、イソプロピルアルコール(IPA)、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)の精製において効果が高い。
【0044】
非水液含有液中のイオン性不純物としては、例えば、Na、K、Li、Mg、Ca、Al、V、Cr、Fe、Mn、Ni、Cu、Zn、As、Pb、Cl、B、Si等である。硝酸等の無機酸や有機酸等の酸もイオン性不純物に含まれる。
【0045】
非水液含有液中のイオン性不純物の含有量は、例えば、1ppt~100ppbの範囲である。
【0046】
精製における通液条件は、特に制限はないが、例えば、流速としてSV1~2500/hの範囲、好ましくはSV500~2000/hの範囲、差圧として1~100kPaの範囲,好ましくは10~50kPaの範囲とすればよい。
【0047】
モノリスイオン交換体の多孔質構造によって、圧力損失が少なく、かつイオン交換速度が速いため、イオン交換樹脂を用いる場合と比較して高流速で通液可能である。また、有機溶媒への置換によってモノリスイオン交換体が膨潤するため、従来のモノリスイオン交換体を用いる場合と比較しても圧力損失が少ない。
【0048】
モノリスイオン交換体が充填されたイオン交換体充填カートリッジに通液した精製液を再度モノリスイオン交換体が充填されたイオン交換体充填カートリッジに通液する、循環系としてもよい。このような構成の非水液含有液の精製装置の一例の概略を
図3に示す。
【0049】
図3に示す非水液含有液の精製装置3において、配管18から分岐された循環配管20が配管16に接続されている。
【0050】
非水液含有液の精製装置3において、精製対象である非水液含有液が配管16を通してイオン交換体充填カートリッジ10の入口から例えば下向流または上向流(
図3の例では上向流)で通液される。イオン交換体充填カートリッジ10において、上記一般式(1)で表される高分子鎖から構成されるモノリスイオン交換体を含み、イオン交換基がOH形であるイオン交換体に非水液含有液が接触することによって非水液含有液中のイオン性不純物の量が低減される(イオン交換工程)。精製された精製液は、配管18を通して排出される。精製液の少なくとも一部は、循環配管20を通して循環されて(循環工程)、配管16を通してイオン交換体充填カートリッジ10に再度通液され、イオン交換体充填カートリッジ10においてイオン交換が行われる(イオン交換工程)。これによって、非水液含有液中のイオン性不純物の量をより低減することができる。
【0051】
イオン交換体充填カートリッジに通液後の精製液を孔径100nm以下の徐粒子膜でろ過するろ過手段をさらに備えてもよい。このような構成の非水液含有液の精製装置の一例の概略を
図4に示す。
【0052】
図4に示す非水液含有液の精製装置5は、イオン交換体充填カートリッジに通液後の精製液を孔径100nm以下の徐粒子膜でろ過するろ過手段として、ろ過装置22をさらに備える。
【0053】
非水液含有液の精製装置5において、イオン交換体充填カートリッジ10の出口とろ過装置22の入口とは、配管18により接続されている。ろ過装置22の出口には、配管24が接続されている。
【0054】
非水液含有液の精製装置5において、精製対象である非水液含有液が配管16を通してイオン交換体充填カートリッジ10の入口から例えば下向流または上向流(
図4の例では上向流)で通液される。イオン交換体充填カートリッジ10において、上記一般式(1)で表される高分子鎖から構成されるモノリスイオン交換体を含み、イオン交換基がOH形であるイオン交換体に非水液含有液が接触することによって非水液含有液中のイオン性不純物の量が低減される(イオン交換工程)。精製された精製液は、配管18を通してろ過装置22へ送液される。ろ過装置22において、イオン交換体充填カートリッジに通液後の精製液が孔径100nm以下の徐粒子膜でろ過される(ろ過工程)。ろ過処理された処理液は、配管24を通して排出される。これによって、精製液中の不純物の量を低減することができる。
【0055】
ろ過装置22は、孔径100nm以下の徐粒子膜を備えるものであればよく、特に制限はない。
【0056】
<イオン交換体>
本実施形態に係るイオン交換体充填カートリッジの製造方法およびイオン交換体充填カートリッジで用いられるイオン交換体は、上記一般式(1)で表される高分子鎖から構成される非粒子状有機多孔質イオン交換体を含む。
【0057】
一般式(1)におけるR1は、置換されていてもよい炭素数4から22のアルキル基を表す。または、R1は、置換されていてもよい炭素数1から6のアルキル基で置換されていてもよいベンジル基、ハロゲン原子で置換されていてもよいベンジル基、置換されていてもよい炭素数1から6のアルコキシ基で置換されていてもよいベンジル基、置換されていてもよいアミノ基で置換されていてもよいベンジル基、シアノ基で置換されていてもよいベンジル基、またはニトロ基で置換されていてもよいベンジル基を表す。置換されていてもよいベンジル基は、ベンジル基のフェニル基に置換基が置換されていてもよいベンジル基である。
【0058】
炭素数4から22のアルキル基は、直鎖状、分岐状、環状のいずれであってもよい。製造のときの反応収率が高い、原料の入手が容易である等の点から炭素数6から20のアルキル基が好ましく、炭素数6から18のアルキル基がより好ましい。
【0059】
ベンジル基に置換されていてもよい炭素数1から6のアルキル基は、直鎖状、分岐状、環状のいずれであってもよい。原料の入手が容易である等の点から炭素数1から4のアルキル基が好ましく、メチル基、エチル基がより好ましい。
【0060】
ベンジル基に置換されていてもよいハロゲン原子としては、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられ、原料製造が安価である等の点から、塩素原子が好ましい。
【0061】
ベンジル基に置換されていてもよい炭素数1から6のアルコキシ基は、直鎖状、分岐状、環状のいずれであってもよい。原料の入手が容易である等の点から炭素数1から4のアルコキシ基が好ましく、メトキシ基、エトキシ基がより好ましい。
【0062】
炭素数4から22のアルキル基、炭素数1から6のアルキル基、炭素数1から6のアルコキシ基に「置換されていてもよい」場合の置換基としては、ニトロ基、シアノ基、ハロゲン原子等が挙げられる。
【0063】
アミノ基に「置換されていてもよい」場合の置換基としては、炭素数1から8のアルキル基、フェニル基、炭素数1から4のフルオロアルキル基等が挙げられる。
【0064】
アミノ基に置換されていてもよい炭素数1から8のアルキル基は、直鎖状、分岐状、環状のいずれであってもよい。製造のときの反応収率が高い等の点から、炭素数1から4のアルキル基が好ましく、メチル基、エチル基がより好ましい。
【0065】
アミノ基に置換されていてもよい炭素数1から4のフルオロアルキル基は、直鎖状、分岐状、環状のいずれであってもよい。原料が入手容易である等の点から、炭素数1から2のフルオロアルキル基が好ましく、トリフルオロメチル基、2,2,2-トリフルオロエチル基がより好ましい。
【0066】
一般式(1)におけるR1は、炭素数6~20のアルキル基、または、炭素数1から4のアルキル基で置換されていてもよいベンジル基であることが好ましく、ドデシル基またはベンジル基であることがより好ましい。
【0067】
一般式(1)におけるR2,R3は、それぞれ独立して炭素数1から4のアルキル基を表す。炭素数1から4のアルキル基は、直鎖状、分岐状、環状のいずれであってもよい。炭素数1から4のアルキル基としては、製造のときの反応収率が高い等の点からメチル基、エチル基が好ましく、メチル基がより好ましい。
【0068】
一般式(1)におけるLは、リンカー部位を表す。リンカー部位としては、オキシ基に置換されていてもよい炭素数1から4のアルキレン基等が挙げられ、製造のときの反応収率が高い等の点から、メチレン基、エチレン基、1-オキシエチレン基が好ましく、メチレン基がより好ましい。
【0069】
一般式(1)におけるPolymerは、高分子鎖を表す。高分子鎖としては、例えば、ポリスチレン、ポリ(α-メチルスチレン)、ポリビニルベンジルクロライド等の芳香族ビニルポリマー;ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン;ポリ塩化ビニル、ポリテトラフルオロエチレン等のポリ(ハロゲン化ポリオレフィン);ポリアクリロニトリル等のニトリル系ポリマー;ポリメタクリル酸エステル、ポリアクリル酸エステル等の(メタ)アクリル系ポリマー等の架橋重合体が挙げられる。上記高分子鎖は、単独のビニルモノマーと架橋剤を共重合させて得られるポリマーでも、複数のビニルモノマーと架橋剤を重合させて得られるポリマーであってもよく、また、二種類以上のポリマーがブレンドされたものであってもよい。これらの中で、連続構造形成の容易さ、イオン交換基導入の容易性と機械的強度の高さ、および酸またはアルカリに対する安定性の高さ等から、芳香族ビニルポリマーの架橋重合体が好ましく、特に、スチレン-ジビニルベンゼン系共重合体やビニルベンジルクロライド-ジビニルベンゼン系共重合体が好ましく、スチレン―ジビニルベンゼン系共重合体が好ましい。
【0070】
<非粒子状有機多孔質イオン交換体(モノリスイオン交換体)>
非粒子状有機多孔質イオン交換体は、連続骨格の相と連続空孔の相を有するモノリス状有機多孔質体にイオン交換基を導入したものである。上記一般式(1)で表される高分子鎖から構成される非粒子状有機多孔質イオン交換体は、塩基性のモノリス状有機多孔質アニオン交換体である。モノリス状有機多孔質体は、骨格間に流路となる連通孔を多数有する。なお、本明細書中、「モノリス状有機多孔質体」を単に「モノリス」とも言い、上記の通り「モノリス状有機多孔質イオン交換体」を単に「モノリスイオン交換体」とも言い、また、モノリスの製造における中間体(前駆体)である「モノリス状有機多孔質中間体」を単に「モノリス中間体」とも言う。
【0071】
この非粒子状有機多孔質イオン交換体の構造は、特開2002-306976号、特開2009-007550号、特開2009-062512号、特開2009-067982号、特開2009-108294号に開示されている。
【0072】
非粒子状有機多孔質イオン交換体は、連続骨格相と連続空孔相とからなり、連続骨格の厚みは、1~100μmの範囲であり、連続空孔の平均直径は、1~1000μmの範囲であり、全細孔容積は、0.5~50mL/gの範囲であり、乾燥状態での重量当りのイオン交換容量は、1~9mg当量/gの範囲であり、イオン交換基が有機多孔質イオン交換体中に分布している。連続骨格相と連続空孔相は、SEM画像により観察される。
【0073】
非粒子状有機多孔質イオン交換体の乾燥状態での連続骨格の厚みは、1~100μmの範囲である。非粒子状有機多孔質イオン交換体の乾燥状態での連続骨格の厚みは、SEM観察により決定される。この連続骨格の厚みが1μm未満であると、体積当りのイオン交換容量が低下する場合や、機械的強度が低下して、イオン交換体をカートリッジに充填して被処理液を通液する場合に、特に高流速で通液した場合には非粒子状有機多孔質イオン交換体が変形してしまう場合がある。この連続骨格の厚みが100μmを超えると、骨格が太くなり過ぎ、通液のときの圧力損失が大きくなってしまう場合がある。
【0074】
非粒子状有機多孔質イオン交換体の乾燥状態での連続空孔の平均直径は、1~1000μmの範囲である。非粒子状有機多孔質イオン交換体の乾燥状態での連続空孔の平均直径は、水銀圧入法により測定され、水銀圧入法により得られた細孔分布曲線の極大値を指す。この連続空孔の平均直径が1μm未満であると、イオン交換体をカートリッジに充填して被処理液を通液する場合に、通液のときの圧力損失が大きくなってしまう場合がある。この連続空孔の平均直径が1000μmを超えると、イオン交換体をカートリッジに充填して被処理液を通液する場合に、被処理液とモノリスイオン交換体との接触が不十分となり、イオン交換性能が低下してしまう場合がある。
【0075】
非粒子状有機多孔質イオン交換体の乾燥状態での全細孔容積は0.5~50mL/gの範囲である。非粒子状有機多孔質イオン交換体の乾燥状態での全細孔容積は、水銀圧入法で測定される。この全細孔容積が0.5mL/g未満であると、イオン交換体をカートリッジに充填して被処理液を通液する場合に、通液のときの圧力損失が大きくなってしまう場合がある。この全細孔容積が50mL/gを超えると、非粒子状有機多孔質イオン交換体の機械的強度が低下し、イオン交換体をカートリッジに充填して被処理液を通液する場合に、特に高流速で通液した場合にはイオン交換体が変形し、通液のときの圧力損失が上昇してしまう場合がある。
【0076】
非粒子状有機多孔質イオン交換体の乾燥状態での重量当りのイオン交換容量は、1~9mg当量/gの範囲である。非粒子状有機多孔質イオン交換体の乾燥状態での重量当りのイオン交換容量は、中和滴定等の方法で測定される。このイオン交換容量が1mg当量/g未満であると、交換、担持できるイオン量が少なくなってしまう場合がある。このイオン交換容量が9mg当量/gを超えると、イオン交換基導入反応が過酷な条件となり、モノリスの酸化劣化が著しく進んでしまう場合がある。
【0077】
非粒子状有機多孔質イオン交換体において、導入されているイオン交換基は、モノリスの表面のみならず、モノリスの骨格内部にまで、すなわち有機多孔質イオン交換体中に分布していることが好ましく、均一に分布していることがより好ましい。「イオン交換基が有機多孔質イオン交換体中に均一に分布している」とは、イオン交換基の分布が少なくともμmオーダーで有機多孔質イオン交換体の表面および骨格内部に分布していることを指す。イオン交換基の分布状況は、電子プローブマイクロアナライザー(EPMA)を用いることによって確認される。イオン交換基がモノリスの表面のみならずモノリスの骨格内部にまで分布していると、モノリスの表面と内部の物理的性質および化学的性質をほぼ均一にできるため、膨潤および収縮に対する耐久性が向上する。
【0078】
非粒子状有機多孔質イオン交換体において、連続骨格を構成する材料は、架橋構造を有する有機ポリマー材料であり、上記一般式(1)におけるPolymer部分である。ポリマー材料を構成する全構成単位に対して、0.1~30モル%の架橋構造単位を含んでいることが好ましく、0.1~20モル%の架橋構造単位を含んでいることがより好ましい。
【0079】
非粒子状有機多孔質イオン交換体のより具体的な実施形態として、例えば、特開2022-163531号公報に示される第1のモノリス状有機多孔質イオン交換体(モノリスイオン交換体)~第5のモノリス状有機多孔質イオン交換体(モノリスイオン交換体)が挙げられる。第1のモノリス状有機多孔質イオン交換体(モノリスイオン交換体)~第5のモノリス状有機多孔質イオン交換体(モノリスイオン交換体)は、特開2022-163531号公報に示される第1のモノリスイオン交換体の製造方法~第5のモノリスイオン交換体の製造方法によって製造することができる。
【0080】
モノリスにイオン交換基を導入する方法として、例えば、次の<1>,<2>の方法がある。<1>イオン交換基を含まないモノマーに代えて、イオン交換基を含むモノマー、例えば、イオン交換基を含まない油溶性モノマーに、イオン交換基が導入されているモノマーを用いて重合させ、一段階でモノリスイオン交換体にすることができる。<2>イオン交換基を含まないモノマーを用いて重合させてモノリスを形成し、次いで、イオン交換基を導入することができる。
【0081】
モノリスにイオン交換基を導入する方法としては、高分子反応やグラフト重合等の公知の方法を用いることができ、例えば、次の<1>~<3>の方法がある。<1>の方法において、モノリスがスチレン-ジビニルベンゼン系共重合体等であればクロロメチルメチルエーテル等によりクロロメチル基を導入した後、所望の第三級アミンと反応させ導入することができる。<2>の方法において、モノリスをクロロメチルスチレンとジビニルベンゼンの共重合により製造し、所望の第三級アミンと反応させ導入することができる。<3>の方法において、モノリスにラジカル開始基や連鎖移動基を導入し、グリシジルメタクリレートをグラフト重合した後、所望の第三級アミンと反応させ導入することができる。
【0082】
例えば、一般式(2)
【化4】
(2)
(式中Lは、リンカー部位を表し、Polymerは、高分子鎖を表し、Xは、ハロゲン原子、置換されていてもよい炭素数1から8のアルキルスルホニル基、または置換されていてもよいベンゼンスルホニル基を表す。)
で表される高分子鎖と、
一般式(3)
【化5】
(3)
(式中R
1は、置換されていてもよい炭素数4から22のアルキル基;または、置換されていてもよい炭素数1から6のアルキル基、ハロゲン原子、置換されていてもよい炭素数1から6のアルコキシ基、置換されていてもよいアミノ基、シアノ基、もしくはニトロ基で置換されていてもよいベンジル基;を表し、R
2,R
3は、それぞれ独立して炭素数1から4のアルキル基を表す。)
で表される第三級アミンと、
を反応させることによって、モノリスイオン交換体を製造することができる。
【0083】
このイオン交換体の製造方法において、一般式(2)におけるLおよびPolymerの定義、一般式(3)における、R1,R2,R3の定義は、一般式(1)におけるL、Polymer、R1,R2,R3の定義とそれぞれ同じである。
【0084】
一般式(2)におけるXは、ハロゲン原子、置換されていてもよい炭素数1から8のアルキルスルホニル基、または置換されていてもよいベンゼンスルホニル基を表す。
【0085】
Xのハロゲン原子としては、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられ、製造原料が安価である等の点から、塩素原子が好ましい。
【0086】
炭素数1から8のアルキルスルホニル基におけるアルキル基は、直鎖状、分岐状、環状のいずれであってもよい。原料の入手が容易である、製造のときの反応収率が高い等の点から、メチルスルホニル基、エチルスルホニル基が好ましい。
【0087】
炭素数1から8のアルキルスルホニル基は、シアノ基、ニトロ基、ハロゲン原子等で置換されていてもよく、反応収率が高い等の点から、ハロゲン原子が好ましく、フッ素原子がより好ましい。
【0088】
ベンゼンスルホニル基は、炭素数1から4のアルキル基、ニトロ基、シアノ基、ハロゲン原子等で置換されていてもよく、原料の入手が容易である等の点からメチル基が好ましい。
【0089】
一般式(2)で表される高分子鎖と、一般式(3)で表される第三級アミンとの反応は、例えば、テトラヒドロフラン、DMF、トルエン等の有機溶媒中でそれらを混合し、例えば、20~130℃の温度で、4~60時間加熱することで行われる。反応後、メタノール、テトラヒドロフラン等の有機溶媒や水等で洗浄してもよい。
【0090】
上記一般式(1)で表される高分子鎖から構成されるモノリスイオン交換体(モノリスアニオン交換体)と組み合わせて用いることができるモノリスカチオン交換体としては、上記モノリス状有機多孔質体(モノリス)にカチオン交換基としてH、Na等を導入したものを用いることができる。
【0091】
<本明細書に含まれる実施形態>
本明細書は、以下の実施形態を含む。
【0092】
[1]非水液を含む非水液含有液に接触することによって前記非水液含有液中のイオン性不純物の量を低減するためのイオン交換体が充填されたイオン交換体充填カートリッジの製造方法であって、
前記イオン交換体充填カートリッジが、カートリッジと、前記カートリッジ内に充填されたイオン交換体と、を備え、
前記イオン交換体が、
一般式(1)
【化6】
(1)
(式中R
1は、置換されていてもよい炭素数4から22のアルキル基;または、置換されていてもよい炭素数1から6のアルキル基、ハロゲン原子、置換されていてもよい炭素数1から6のアルコキシ基、置換されていてもよいアミノ基、シアノ基、もしくはニトロ基で置換されていてもよいベンジル基;を表し、R
2,R
3は、それぞれ独立して炭素数1から4のアルキル基を表し、Lは、リンカー部位を表し、Polymerは、高分子鎖を表す。)
で表される高分子鎖から構成される非粒子状有機多孔質イオン交換体であり、連続骨格相と連続空孔相とからなり、連続骨格の厚みは、1~100μmの範囲であり、連続空孔の平均直径は、1~1000μmの範囲であり、全細孔容積は、0.5~50mL/gの範囲であり、乾燥状態での重量当りのイオン交換容量は、1~9mg当量/gの範囲であり、イオン交換基が前記有機多孔質イオン交換体中に分布している非粒子状有機多孔質イオン交換体を含み、
水湿潤状態の前記イオン交換体を前記カートリッジに充填する工程と、
前記カートリッジに有機溶媒を通液し、前記イオン交換体に含まれる水分を前記有機溶媒で置換して前記イオン交換体を膨潤させる工程と、
を含む、イオン交換体充填カートリッジの製造方法。
【0093】
[2][1]に記載のイオン交換体充填カートリッジの製造方法であって、
前記イオン交換体を水湿潤状態で有機溶媒に接触させたときの膨潤率が、有機溶媒への接触前に対して100~110%の範囲である、イオン交換体充填カートリッジの製造方法。
【0094】
[3][1]または[2]に記載のイオン交換体充填カートリッジの製造方法であって、
一般式(1)におけるLは、メチレン基である、イオン交換体充填カートリッジの製造方法。
【0095】
[4][1]~[3]のいずれか1つに記載のイオン交換体充填カートリッジの製造方法であって、
前記イオン交換体の高分子鎖は、スチレン―ジビニルベンゼン系共重合体である、イオン交換体充填カートリッジの製造方法。
【0096】
[5]非水液を含む非水液含有液に接触することによって前記非水液含有液中のイオン性不純物の量を低減するためのイオン交換体が充填されたイオン交換体充填カートリッジであって、
カートリッジと、前記カートリッジ内に充填されたイオン交換体と、を備え、
前記イオン交換体が、
一般式(1)
【化7】
(1)
(式中R
1は、置換されていてもよい炭素数4から22のアルキル基;または、置換されていてもよい炭素数1から6のアルキル基、ハロゲン原子、置換されていてもよい炭素数1から6のアルコキシ基、置換されていてもよいアミノ基、シアノ基、もしくはニトロ基で置換されていてもよいベンジル基;を表し、R
2,R
3は、それぞれ独立して炭素数1から4のアルキル基を表し、Lは、リンカー部位を表し、Polymerは、高分子鎖を表す。)
で表される高分子鎖から構成される非粒子状有機多孔質イオン交換体であり、連続骨格相と連続空孔相とからなり、連続骨格の厚みは、1~100μmの範囲であり、連続空孔の平均直径は、1~1000μmの範囲であり、全細孔容積は、0.5~50mL/gの範囲であり、乾燥状態での重量当りのイオン交換容量は、1~9mg当量/gの範囲であり、イオン交換基が前記有機多孔質イオン交換体中に分布している非粒子状有機多孔質イオン交換体を含む、イオン交換体充填カートリッジ。
【0097】
[6][5]に記載のイオン交換体充填カートリッジであって、
前記イオン交換体充填カートリッジは、
水湿潤状態の前記イオン交換体を前記カートリッジに充填する工程と、
前記カートリッジに有機溶媒を通液し、前記イオン交換体に含まれる水分を前記有機溶媒で置換して前記イオン交換体を膨潤させる工程と、
を含む方法によって得られたものである、イオン交換体充填カートリッジ。
【0098】
[7][5]または[6]に記載のイオン交換体充填カートリッジであって、
前記イオン交換体を水湿潤状態で有機溶媒に接触させたときの膨潤率が、有機溶媒への接触前に対して100~110%の範囲である、イオン交換体充填カートリッジ。
【0099】
[8][5]~[7]のいずれか1つに記載のイオン交換体充填カートリッジであって、
一般式(1)におけるLは、メチレン基である、イオン交換体充填カートリッジ。
【0100】
[9][5]~[8]のいずれか1つに記載のイオン交換体充填カートリッジであって、
前記イオン交換体の高分子鎖は、スチレン―ジビニルベンゼン系共重合体である、イオン交換体充填カートリッジ。
【0101】
[10]非水液を含む非水液含有液中のイオン性不純物の量を低減する非水液含有液の精製方法であって、
前記イオン交換体のイオン交換基がOH形である[1]~[4]のいずれか1つに記載のイオン交換体充填カートリッジの製造方法で得られたイオン交換体充填カートリッジに非水液含有液を通液するイオン交換工程を含む、非水液含有液の精製方法。
【0102】
[11][10]に記載の非水液含有液の精製方法であって、
前記イオン交換体充填カートリッジに通液後の精製液を孔径100nm以下の徐粒子膜でろ過するろ過工程をさらに含む、非水液含有液の精製方法。
【0103】
[12]非水液を含む非水液含有液中のイオン性不純物の量を低減する非水液含有液の精製装置であって、
[5]~[9]のいずれか1つに記載のイオン交換体充填カートリッジを備え、
前記イオン交換体のイオン交換基がOH形である前記イオン交換体充填カートリッジに前記非水液含有液を通液する、非水液含有液の精製装置。
【0104】
[13][12]に記載の非水液含有液の精製装置であって、
前記イオン交換体充填カートリッジに通液後の精製液を孔径100nm以下の徐粒子膜でろ過するろ過手段をさらに備える、非水液含有液の精製装置。
【実施例0105】
以下、実施例および比較例を挙げ、本発明をより具体的に詳細に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0106】
<製造例1>
特開2022-163531号公報に示される第5のモノリスイオン交換体の製造方法にしたがって、モノリスの製造を行い、得られたモノリスにイオン交換基を導入した。
【0107】
(モノリス中間体の製造(I工程))
モノマーとしてスチレン9.28g、ジビニルベンゼン0.19g、界面活性剤としてソルビタンモノオレエート(以下SMOと略す)0.50gおよび重合開始剤として2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)0.25gを混合し、均一になるように溶解させた。次に、このスチレン/ジビニルベンゼン/SMO/2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)混合物を180gの純水に添加し、遊星式撹拌装置である真空撹拌脱泡ミキサー(イーエムイー社製)を用いて減圧下撹拌して、油中水滴型エマルションを得た。このエマルションを速やかに反応容器に移し、密封後、静置下60℃で24時間重合させた。重合終了後、内容物を取り出し、メタノールで抽出した後、減圧乾燥して、連続マクロポア構造を有するモノリス中間体を製造した。このようにして得られたモノリス中間体(乾燥体)の内部構造をSEMにより観察した。SEM画像を
図5に示すが、隣接する2つのマクロポアを区画する壁部は極めて細く棒状であるものの、連続マクロポア構造を有しており、水銀圧入法により測定したマクロポアとマクロポアが重なる部分の開口(メソポア)の平均直径は40μm、全細孔容積は18.2mL/gであった。
【0108】
(モノリスの製造(II工程))
次いで、モノマーとしてスチレン216.6g、架橋剤としてジビニルベンゼン4.4g、有機溶媒として1-デカノール220g、重合開始剤として2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)0.8gを混合し、均一になるように溶解させた(II工程)。
【0109】
(モノリスの製造(III工程))
次に上記モノリス中間体を反応容器に入れ、このスチレン/ジビニルベンゼン/1-デカノール/2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)混合物に浸漬させ、減圧チャンバー中で脱泡した後、反応容器を密封し、静置下50℃で24時間重合させた。重合終了後、内容物を取り出し、アセトンでソックスレー抽出した後、減圧乾燥した(III工程)。
【0110】
このようにして得られたスチレン/ジビニルベンゼン系共重合体よりなる架橋成分を1.2モル%含有したモノリス(乾燥体)の内部構造を、SEMにより観察した結果を
図6に示す。
図6から明らかなように、このモノリスは骨格および空孔はそれぞれ3次元的に連続して連続骨格相と連続空孔相とからなり、両相が絡み合った共連続構造であった。また、SEM画像から測定した骨格の厚みは20μmであった。また、水銀圧入法により測定した、このモノリスの三次元的に連続した空孔の平均直径は70μm、全細孔容積は4.4mL/gであった。なお、空孔の平均直径は、水銀圧入法により得られた細孔分布曲線の極大値から求めた。
【0111】
(クロロメチル化モノリスの製造)
製造したモノリスをカラム状反応器に入れ、クロロスルホン酸1600g、四塩化スズ400g、ジメトキシメタン2500mLを含む溶液を循環、通液して、30℃、5時間反応させ、クロロメチル基を導入した。反応終了後、クロロメチル化モノリスをTHF/水=2/1(vol)の混合溶媒で洗浄し、さらにTHFで洗浄し、クロロメチル化モノリスを得た。
【0112】
(モノリスイオン交換体の製造)
クロロメチル化モノリス20gにTHF390mLと第三級アミンとしてN,N-ジメチルベンジルアミン30mLを加え、60℃、6時間反応させた。反応終了後、生成物をメタノールで洗浄し、次いで純水で洗浄して、下記式(4)で表される高分子鎖から構成されるモノリスイオン交換体を得た。
【化8】
(4)
(式中、Polymerは、スチレン―ジビニルベンゼン共重合体を表す。)
【0113】
得られたモノリスイオン交換体のアニオン交換容量は、乾燥状態で2.9mg当量/gであり、四級アンモニウム基が定量的に導入されていることを確認した。
図6から明らかなように、モノリスアニオン交換体は骨格および空孔がそれぞれ3次元的に連続し、両相が絡み合った共連続構造であった。また、SEM画像から測定した乾燥状態での骨格の厚みは20μmであり、水銀圧入法による測定から求めた、このモノリスアニオン交換体の三次元的に連続した空孔の乾燥状態での平均直径は70μm、乾燥状態での全細孔容積は4.4mL/gであった。
【0114】
以下、製造例1で得られたモノリスイオン交換体を「ベンジル型モノリスアニオン交換体」と記載する。
【0115】
<製造例2>
第三級アミンとしてN,N-ジメチルベンジルアミンに代えて、30%トリメチルアミン水溶液とすること以外は、製造例1と同様に行い、下記式(5)で表される高分子鎖から構成されるモノリスイオン交換体を得た。
【化9】
(5)
(式中、Polymerは、スチレン―ジビニルベンゼン共重合体を表す。)
【0116】
以下、製造例2で得られたモノリスイオン交換体を「トリメチル型モノリスアニオン交換体」と記載する。
【0117】
[膨潤率の測定]
製造例1で得られた「ベンジル型モノリスアニオン交換体」、製造例2で得られたモノリスイオン交換体を「トリメチル型モノリスアニオン交換体」に超純水を通液してそれぞれ水湿潤状態とした。水湿潤状態のモノリスアニオン交換体10mLを30mLのイソプロピルアルコール(IPA-XE、トクヤマ製)に30分浸漬する操作を3回それぞれ繰り返し、水分の置換を十分に行った。その後、体積を測定し、水湿潤状態からの膨潤率を見積もった。膨潤率は、イソプロピルアルコール溶媒への接触前に対して、それぞれ101%、83%であった。
【0118】
<実施例1>
[イオン交換体充填カートリッジの製造工程]
製造例1で得られた「ベンジル型モノリスアニオン交換体」(1Nの水酸化ナトリウム水溶液を通液してイオン交換基がOH形とされているもの)3mLを、超純水を通液して水湿潤状態として、PFA(テトラフルオロエチレンとパーフルオロアルコキシエチレンの共重合体)製のカートリッジ(内径10mm×高さ100mm)に充填した。このカートリッジに、水分30ppm以下のイソプロピルアルコール(IPA)を、カールフィッシャー水分計(HIRANUMA社製、AQ-2200F)を用いて電量法で分析してカートリッジの入口と出口の水分がほとんど同一になるまで20℃で下向流、SV2000で通液し、モノリスイオン交換体に含まれる水分をIPAで置換してモノリスイオン交換体を膨潤させて、イオン交換体充填カートリッジを作製した。
【0119】
[イオン交換工程]
非水液含有液としてイソプロピルアルコール(IPA-XE、トクヤマ製)を、上記のようにして作製したイオン交換体充填カートリッジに20℃で下向流、SV2000で通液し、精製を行った。精製前後の処理液をサンプリングして、誘導結合プラズマ質量分析装置(アジレント社製、ICP-MS8900)を用いて金属濃度を測定した。イソプロピルアルコールを通液する速度は、モノリスイオン交換体の体積に対して1時間当たり2000倍量通液する速度に設定した。結果を表1に示す。
【0120】
【0121】
表1に示すように、IPA中のCr,Fe,Cuの量を低減することができた。
【0122】
<実施例2>
非水液含有液として、イソプロピルアルコール(IPA-XE、トクヤマ製)に酸ベース金属標準液(XSTC、SPEX社製)を添加し、各金属濃度1ppbに調製したものを、実施例1で得られたイオン交換体充填カートリッジに実施例1と同様にして通液し、精製を行った。結果を表2に示す。
【0123】
【0124】
表2に示すように、IPA中の各金属の量を低減することができた。
【0125】
以上の通り、ELグレードのIPAに含まれる微量金属から、ppbレベルの金属不純物までを実施例1で得られたイオン交換体充填カートリッジによって低減することができた。
【0126】
<比較例1>
製造例2で得られた従来の「トリメチル型モノリスアニオン交換体」(1Nの水酸化ナトリウム水溶液を通液してイオン交換基がOH形とされているもの)に超純水を通液して水湿潤状態として、実施例1と同様にしてPFA製のカートリッジに充填した。このカートリッジに、水分30ppm以下のイソプロピルアルコール(IPA)を、20℃で下向流、SV2000で通液し、溶媒置換を行った。その結果、モノリスイオン交換体が収縮し、カートリッジ内で流動し、固定することができなかったことから、精製試験を実施することができなかった。
【0127】
このように実施例では、モノリス状有機多孔質イオン交換体をカートリッジにほとんど隙間なく充填し、非水液含有液中のイオン性不純物の量を効率よく低減することができた。
1,3,5 精製装置、10 イオン交換体充填カートリッジ、12 カートリッジ、14 モノリスイオン交換体、16,18,24 配管、20 循環配管、22 ろ過装置。