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特開2024-116726流路チップ、および、流路チップの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024116726
(43)【公開日】2024-08-28
(54)【発明の名称】流路チップ、および、流路チップの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 57/02 20060101AFI20240821BHJP
   B03C 5/00 20060101ALI20240821BHJP
   G01N 35/08 20060101ALI20240821BHJP
   G01N 37/00 20060101ALI20240821BHJP
   C12M 1/26 20060101ALI20240821BHJP
   C12M 1/00 20060101ALI20240821BHJP
【FI】
B01D57/02
B03C5/00 Z
G01N35/08 A
G01N37/00 101
C12M1/26
C12M1/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023022503
(22)【出願日】2023-02-16
(71)【出願人】
【識別番号】000207551
【氏名又は名称】株式会社SCREENホールディングス
(74)【代理人】
【識別番号】110002310
【氏名又は名称】弁理士法人あい特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100168583
【弁理士】
【氏名又は名称】前井 宏之
(72)【発明者】
【氏名】浦川 哲
【テーマコード(参考)】
2G058
4B029
4D054
【Fターム(参考)】
2G058DA07
2G058DA09
4B029AA09
4B029BB11
4B029CC01
4B029DG08
4B029GB09
4B029HA05
4D054FA08
4D054FB01
4D054FB09
4D054FB15
4D054FB20
(57)【要約】
【課題】電極が溶解することを抑制しながら、分離性能が低下することを抑制することが可能な流路チップ、および、流路チップの製造方法を提供する。
【解決手段】流路チップ100は、基板101と、電極120と、保護膜103、流路カバー105とを備える。電極120は、基板101の一方面1011上に配置される。保護膜103は、電極120を覆う。流路カバー105は、電極120および保護膜103の一方側に配置される。流路カバー105は、液が流通する流路110を構成する。保護膜103は、電極120の一方面1205上に配置され流路110と電極120とを繋ぐ開口部1032を有する。電極120は、酸化膜1204を有する。酸化膜1204は、電極120の一方面1205のうち、開口部1032に対応する部分に配置されている。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板の一方面上に配置される電極と、
前記電極を覆う絶縁保護膜と、
前記電極および前記絶縁保護膜の一方側に配置され、液が流通する流路を構成する流路カバーと
を備え、
前記絶縁保護膜は、前記電極の一方面上に配置され前記流路と前記電極とを繋ぐ開口部を有し、
前記電極は、酸化膜を有し、
前記酸化膜は、前記電極の前記一方面のうち、前記開口部に対応する部分に配置されている、流路チップ。
【請求項2】
前記基板は、ガラス基板を含み、
前記絶縁保護膜は、シリコン酸化膜を含み、
前記流路カバーは、シリコーン系樹脂により形成されている、請求項1に記載の流路チップ。
【請求項3】
前記電極は、
前記基板の前記一方面上に配置される第1層と、
前記第1層上に配置される第2層と、
前記第2層上に配置され、前記酸化膜が配置される第3層と
を有する、請求項1に記載の流路チップ。
【請求項4】
前記電極のうち前記流路に重なって配置される部分の側面は、前記絶縁保護膜によって覆われている、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の流路チップ。
【請求項5】
前記酸化膜は、前記電極に含まれる金属を酸化させた酸化膜を含む、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の流路チップ。
【請求項6】
前記電極は、互いに対向する櫛歯形状を有する第1電極および第2電極を含み、
前記第1電極および前記第2電極の各々は、互いに平行に配置される複数の歯部を有し、
前記開口部は、前記歯部上に配置され、
前記複数の歯部は、前記流路が延びる第1方向に対して交差する第2方向に延びる、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の流路チップ。
【請求項7】
前記開口部の前記第2方向に対して直交する第3方向の長さは、前記歯部の前記第3方向の長さの1/2以上である、請求項6に記載の流路チップ。
【請求項8】
基板の一方面上に電極を形成する工程と、
前記電極を覆うように絶縁保護層を形成する工程と、
前記絶縁保護層のうち前記電極の一方面上に配置された部分に開口部を形成し、前記開口部を有する絶縁保護膜を形成する工程と、
前記絶縁保護膜をマスクとして、前記電極のうち前記開口部に対応する部分に酸化膜を形成する工程と、
前記電極および前記絶縁保護膜の一方側に液が流通する流路が形成されるように、前記基板に流路カバーを取り付ける工程と
を含む、流路チップの製造方法。
【請求項9】
前記基板は、ガラス基板を含み、
前記絶縁保護膜は、シリコン酸化膜を含み、
前記流路カバーは、シリコーン系樹脂により形成されている、請求項8に記載の流路チップの製造方法。
【請求項10】
前記電極を形成する工程において、
前記基板の前記一方面上に第1層を配置し、
前記第1層上に第2層を配置し、
前記第2層上に第3層を配置し、
前記酸化膜を形成する工程において、前記第3層に前記酸化膜を形成する、請求項8に記載の流路チップの製造方法。
【請求項11】
前記絶縁保護層を形成する工程において、
前記電極の側面を前記絶縁保護層によって覆う、請求項8から請求項10のいずれか1項に記載の流路チップの製造方法。
【請求項12】
前記酸化膜を形成する工程において、前記電極に含まれる金属を酸化させることにより、前記酸化膜を形成する、請求項8から請求項10のいずれか1項に記載の流路チップの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流路チップ、および、流路チップの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、血液から特定の細胞を分離する分離装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1には、血液から所定サイズ以上の細胞を抽出する置換部と、置換部を通過した複数種類の細胞から誘電泳動力によってがん細胞を分離する分離部とを備えた分離装置が記載されている。分離部には、細胞を含有する液を流通する流路と、一対の電極とが設けられる。一対の電極間に交流電圧が印加されることにより、流路を通過するがん細胞に誘電泳動力が作用し、複数種類の細胞からがん細胞が分離される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2017-134020号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1のような分離装置では、一対の電極間に電圧を印加した場合、電極を構成する金属と液との間で電気化学的反応が起こり、電極が液中に溶解することがある。これを改善するために、電極上面を覆うように絶縁保護膜を形成することが考えられる。
【0005】
しかしながら、電極上面を覆うように絶縁保護膜を形成した場合、電極に交流電圧を印加した際の電極同士間の電界が小さくなる。このため、がん細胞に作用する誘電泳動力が小さくなるため、分離性能が低下する。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、電極が溶解することを抑制しながら、分離性能が低下することを抑制することが可能な流路チップ、および、流路チップの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1局面による流路チップは、基板と、電極と、絶縁保護膜と、流路カバーとを備える。前記電極は、前記基板の一方面上に配置される。前記絶縁保護膜は、前記電極を覆う。前記流路カバーは、前記電極および前記絶縁保護膜の一方側に配置される。前記流路カバーは、液が流通する流路を構成する。前記絶縁保護膜は、前記電極の一方面上に配置され前記流路と前記電極とを繋ぐ開口部を有する。前記電極は、酸化膜を有する。前記酸化膜は、前記電極の前記一方面のうち、前記開口部に対応する部分に配置されている。
【0008】
本発明の一態様において、前記基板は、ガラス基板を含んでもよい。前記絶縁保護膜は、シリコン酸化膜を含んでもよい。前記流路カバーは、シリコーン系樹脂により形成されていてもよい。
【0009】
本発明の一態様において、前記電極は、前記基板の前記一方面上に配置される第1層と、前記第1層上に配置される第2層と、前記第2層上に配置され、前記酸化膜が配置される第3層とを有してもよい。
【0010】
本発明の一態様において、前記電極のうち前記流路に重なって配置される部分の側面は、前記絶縁保護膜によって覆われていてもよい。
【0011】
本発明の一態様において、前記酸化膜は、前記電極に含まれる金属を酸化させた酸化膜を含んでもよい。
【0012】
本発明の一態様において、前記電極は、互いに対向する櫛歯形状を有する第1電極および第2電極を含んでもよい。前記第1電極および前記第2電極の各々は、互いに平行に配置される複数の歯部を有してもよい。前記開口部は、前記歯部上に配置されてもよい。前記複数の歯部は、前記流路が延びる第1方向に対して交差する第2方向に延びてもよい。
【0013】
本発明の一態様において、前記開口部の前記第2方向に対して直交する第3方向の長さは、前記歯部の前記第3方向の長さの1/2以上であってもよい。
【0014】
本発明の第2局面による流路チップの製造方法は、基板の一方面上に電極を形成する工程と、前記電極を覆うように絶縁保護層を形成する工程と、前記絶縁保護層のうち前記電極の一方面上に配置された部分に開口部を形成し、前記開口部を有する絶縁保護膜を形成する工程と、前記絶縁保護膜をマスクとして、前記電極のうち前記開口部に対応する部分に酸化膜を形成する工程と、前記電極および前記絶縁保護膜の一方側に液が流通する流路が形成されるように、前記基板に流路カバーを取り付ける工程とを含む。
【0015】
本発明の一態様において、前記基板は、ガラス基板を含んでもよい。前記絶縁保護膜は、シリコン酸化膜を含んでもよい。前記流路カバーは、シリコーン系樹脂により形成されていてもよい。
【0016】
本発明の一態様において、前記電極を形成する工程において、前記基板の前記一方面上に第1層を配置し、前記第1層上に第2層を配置し、前記第2層上に第3層を配置し、前記酸化膜を形成する工程において、前記第3層に前記酸化膜を形成してもよい。
【0017】
本発明の一態様において、前記絶縁保護膜を形成する工程において、前記電極の側面を、前記絶縁保護層によって覆ってもよい。
【0018】
本発明の一態様において、前記酸化膜を形成する工程において、前記電極に含まれる金属を酸化させることにより、前記酸化膜を形成してもよい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、電極が溶解することを抑制しながら、分離性能が低下することを抑制することが可能な流路チップ、および、流路チップの製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の一実施形態による流路チップを備えた誘電泳動装置の構造を模式的に示す平面図である。
図2】本発明の一実施形態の流路チップの構造を模式的に示す拡大平面図である。
図3】本発明の一実施形態の流路チップの断面構造を模式的に示す拡大断面図である。
図4図2のIV-IV線に沿った拡大断面図である。
図5】本発明の一実施形態の流路チップの電極周辺の構造を模式的に示す拡大断面図である。
図6】本発明の一実施形態の流路チップの製造方法のフロー図である。
図7】本発明の一実施形態の流路チップの製造方法を説明するための拡大断面図である。
図8】本発明の一実施形態の流路チップの製造方法を説明するための拡大断面図である。
図9】本発明の一実施形態の流路チップの製造方法を説明するための拡大断面図である。
図10】本発明の一実施形態の流路チップの製造方法を説明するための拡大断面図である。
図11】本発明の第1変形例による流路チップの構造を模式的に示す拡大平面図である。
図12】本発明の第2変形例による流路チップの構造を模式的に示す平面図である。
図13】本発明の第3変形例による流路チップの構造を模式的に示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、図中、同一または相当部分については同一の参照符号を付して説明を繰り返さない。
【0022】
図1図10を参照して、本発明の一実施形態による流路チップ100を備えた誘電泳動装置1について説明する。図1は、本発明の一実施形態による流路チップ100を備えた誘電泳動装置1の構造を模式的に示す平面図である。
【0023】
図1に示すように、本発明の一実施形態の誘電泳動装置1は、流路チップ100と、電圧制御装置500とを備える。誘電泳動装置1は、サンプル液(試料液)に含まれる誘電体粒子P1に誘電泳動力を作用させることで、誘電体粒子P1を他の成分P2から分離して、誘電体粒子P1を収集する。サンプル液は、特に限定されるものではないが、例えば、血液である。誘電体粒子P1は、特に限定されるものではないが、例えば、細胞、タンパク質、核酸または微生物である。細胞は、例えば、がん細胞である。また、サンプル液は、海水、生理食塩水、純水または薬品であってもよい。他の成分P2は、例えば、誘電体粒子P1とは異なる種類の誘電体粒子、または、非誘電体粒子である。一例として、サンプル液は血液であり、誘電体粒子P1はがん細胞であり、他の成分P2は白血球である。なお、サンプル液は、本発明の「液」の一例である。
【0024】
流路チップ100は、サンプル液に含まれる誘電体粒子P1に誘電泳動力を作用させることによって、誘電体粒子P1を他の成分P2から分離して、誘電体粒子P1を収集する。誘電体粒子P1の直径は、例えば、数μm以上、数十μm以下である。
【0025】
流路チップ100は、基板101と、流路110と、電極120とを備える。流路110は、導入部111と、分離流路112と、収集部113とを有する。導入部111には、サンプル液が導入される。導入部111は、例えば、開口を有する。導入部111は、例えば、サンプル液の供給源にチューブにより接続される。
【0026】
分離流路112は、導入部111と収集部113とを接続する。導入部111に導入されたサンプル液は、収集部113に向かって分離流路112を流れる。収集部113は、分離流路112を通過したサンプル液を収集する。収集部113は、例えば、開口を有してもよい。収集部113は、例えば、サンプル液を外部に供給してもよい。なお、本実施形態では、後述するように、収集部113は、誘電体粒子P1が分離された(取り除かれた)サンプル液を収集する。
【0027】
流路チップ100は、流路カバー105を備える。流路カバー105は、基板101上に配置される。流路カバー105は、基板101よりも小さい面積を有する。つまり、流路カバー105は、基板101の一部の上に配置される。流路カバー105は、流路110を構成する凹部を有する。基板101と流路カバー105とによって、流路110が構成されている。
【0028】
電極120は、導電性を有する金属によって形成されている。なお、本実施形態において、金属とは、合金を含む概念である。電極120は、少なくとも分離流路112に配置される。言い換えると、電極120は、少なくとも分離流路112と重なっている。電極120は、第1電極121および第2電極122を含む。第1電極121および第2電極122は、例えば、互いに対向する櫛歯形状を有する。なお、第1電極121および第2電極122は、櫛歯形状を有してもよいし、櫛歯形状を有しなくてもよい。
【0029】
第1電極121は、複数の歯部1211と、第1接続部1212と、第2接続部1213と、パッド部1214とを有する。
【0030】
歯部1211の各々は、略直線状に延びる。複数の歯部1211は、互いに略平行に配置される。また、複数の歯部1211は、流路110が延びる第1方向Xに対して交差する第2方向Yに延びる。本実施形態では、第2方向Yは、第1方向Xに対して略直交する。つまり、本実施形態では、歯部1211は、流路110に対して略直交する。
【0031】
第1接続部1212は、複数の歯部1211を互いに接続する。複数の歯部1211と第1接続部1212とによって、櫛歯形状が形成されている。複数の歯部1211は、例えば、平面視で分離流路112に跨って配置される。第1接続部1212は、平面視で分離流路112の外側に配置される。複数の歯部1211および第1接続部1212は、流路カバー105に覆われる。
【0032】
第2接続部1213は、第1接続部1212とパッド部1214とを接続する。第2接続部1213の少なくとも一部は、流路カバー105に覆われる。パッド部1214の少なくとも一部は、平面視で流路カバー105の外側に配置される。本実施形態では、第2接続部1213は、流路カバー105に覆われる。パッド部1214の一部は、平面視で流路カバー105の外側に配置される。このように、パッド部1214の少なくとも一部が流路カバー105によって覆われていないため、パッド部1214を電圧制御装置500に電気的に容易に接続できる。
【0033】
第2電極122は、複数の歯部1221と、第1接続部1222と、第2接続部1223と、パッド部1224とを有する。
【0034】
歯部1221の各々は、略直線状に延びる。複数の歯部1221は、互いに略平行に配置される。また、複数の歯部1221は、複数の歯部1211と略平行に配置される。第1接続部1222は、複数の歯部1221を互いに接続する。複数の歯部1221と第1接続部1222とによって、櫛歯形状が形成されている。複数の歯部1221は、例えば、平面視で分離流路112に跨って配置される。第1接続部1222は、平面視で分離流路112の外側に配置される。複数の歯部1221および第1接続部1222は、流路カバー105に覆われる。
【0035】
第2接続部1223は、第1接続部1222とパッド部1224とを接続する。第2接続部1223の少なくとも一部は、流路カバー105に覆われる。パッド部1224の少なくとも一部は、平面視で流路カバー105の外側に配置される。本実施形態では、第2接続部1223は、流路カバー105に覆われる。パッド部1224の一部は、平面視で流路カバー105の外側に配置される。このように、パッド部1224の少なくとも一部が流路カバー105によって覆われていないため、パッド部1224を電圧制御装置500に電気的に容易に接続できる。
【0036】
電圧制御装置500は、パッド部1214およびパッド部1224に電気的に接続される。電圧制御装置500は、パッド部1214およびパッド部1224を介して、第1電極121および第2電極122に対して、誘電体粒子P1の種類に応じた交流電圧を印加する。誘電体粒子P1の種類に応じた交流電圧は、例えば、誘電体粒子P1に対して特異的に誘電泳動力(引力)を作用させる電界を発生させる周波数であって、かつ、誘電体粒子P1を破壊しない程度の大きさの電圧である。
【0037】
具体的には、交流電圧の周波数は、第1電極121および第2電極122の間の電界によって誘電体粒子P1に対して正の誘電泳動力(引力)が作用するように、設定される。従って、正の誘電泳動力が誘電体粒子P1に作用し、誘電体粒子P1は電極120(第1電極121、第2電極122)に引き付けられる。一方、交流電圧の周波数は、他の成分P2に対しては誘電泳動力が作用しないか、または、ほとんど作用しないように、設定される。従って、他の成分P2は、分離流路112を通過して収集部113に収集される。
【0038】
引き続き図1を参照して、電圧制御装置500について説明する。電圧制御装置500は、電源部510と、制御部520とを含む。
【0039】
制御部520は、電源部510を制御する。制御部520は、例えば、プロセッサと、記憶装置とを含む。プロセッサは、例えば、CPU(Central Processing Unit)またはMPU(Micro Processing Unit)である。記憶装置は、データおよびコンピュータープログラムを記憶する。記憶装置は、半導体メモリのような主記憶装置と、半導体メモリ、ソリッドステートドライブ、および/または、ハードディスクドライブのような補助記憶装置とを含む。記憶装置は、リムーバブルメディアを含んでいてもよい。記憶装置は、非一時的コンピューター読取可能記憶媒体の一例に相当する。
【0040】
電源部510は、分離対象である誘電体粒子P1に応じた交流電圧を生成する。そして、電源部510は、パッド部1214およびパッド部1224を介して、第1電極121および第2電極122に対して交流電圧を印加する。電源部510は、例えば、ファンクションジェネレータ等の信号発生器である。
【0041】
電源部510により誘電体粒子P1に応じた交流電圧を第1電極121および第2電極122に印加することによって、誘電体粒子P1に対して誘電泳動力(引力)が作用する。これにより、誘電体粒子P1が電極120に引き付けられ、誘電体粒子P1が他の成分P2から分離される。本実施形態では、誘電体粒子P1は電極120に捕捉され、他の成分P2は分離流路112を通過して収集部113に収集される。
【0042】
なお、電圧制御装置500は、第1電極121および第2電極122間の電気的特性(インピーダンス等)を測定する機能を有してもよい。また、電圧制御装置500は、例えば、ソース・メジャー・ユニットによって構成されていてもよい。
【0043】
次に、図2図4を参照して、流路チップ100の構造についてさらに説明する。図2は、本実施形態の流路チップ100の構造を模式的に示す拡大平面図である。図3は、本実施形態の流路チップ100の断面構造を模式的に示す拡大断面図である。図4は、図2のIV-IV線に沿った断面図である。
【0044】
図2図4に示すように、流路チップ100は、基板101、電極120および流路カバー105に加え、保護膜103を備える。なお、保護膜103は、本発明の「絶縁保護膜」の一例である。基板101は、例えば、ガラス基板である。基板101の材質は、例えば、石英ガラスである。ただし、基板101の材質は、石英ガラスに限定されない。基板101は、例えば、略矩形の平板形状を有する。ただし、基板101の形状は、平板形状に限定されない。
【0045】
電極120は、基板101の一方面1011上に配置される。電極120の材質は、例えば、アルミニウム、銅および/またはチタンなどの金属である。ただし、電極120の材質は、アルミニウム、銅および/またはチタン以外の金属であってもよい。例えば、電極120の材質は、インジウム、スズ、モリブデン、銀、クロム、タンタルおよび/または珪素等の金属であってもよい。電極120は、平面視において所定のパターン形状を有する。
【0046】
保護膜103は、電極120を覆う。保護膜103は、基板101の一方面1011のうち電極120が配置されていない部分と、電極120とを覆う。なお、保護膜103は、パッド部1214および1224のうち、少なくとも電圧制御装置500に接続される部分を覆っていない。また、保護膜103は、電極120の側面1206も覆っている。具体的には、保護膜103は、電極120のうち、少なくとも流路110に重なって配置される部分の一方面1205および側面1206を覆っている。
【0047】
保護膜103は、絶縁性を有する。保護膜103の材質は、例えば、シリコン酸化膜などの酸化膜、シリコン窒化膜などの窒化膜、または、樹脂である。本実施形態では、保護膜103は、シリコン酸化膜である。保護膜103は、電極120とサンプル液との間で電気化学的な反応が生じることを抑制する。また、保護膜103は、電極120が経時的に劣化したり、摩耗したりすることを抑制する。
【0048】
本実施形態では、保護膜103は、開口部1032を有する。開口部1032は、電極120の一方面1205上に配置される。開口部1032は、歯部1211および歯部1221上に配置される。
【0049】
開口部1032は、保護膜103を貫通する。そして、開口部1032は、流路110と電極120とを繋ぐ。開口部1032は、電極120の一方面1205のうち、側面1206から所定距離内側の位置に配置される。また、本実施形態では、開口部1032は平面視で、流路110内に配置されており、流路110の外部には配置されていない。具体的には、開口部1032の第2方向Yの長さは、分離流路112の第2方向Yの長さよりも短い。また、開口部1032は、流路カバー105の後述する側壁1051から離隔している。
【0050】
図3および図4に示すように、本実施形態では、電極120は、第1層1201と、第2層1202と、第3層1203とを有する。
【0051】
第1層1201は、基板101の一方面1011上に配置される。第1層1201は、特に限定されるものではないが、例えば、基板101に対して密着性が良好な金属を含むことが好ましい。また、第1層1201は、例えば、第2層1202が基板101内に拡散することを抑制することが可能な金属を含むことが好ましい。本実施形態では、第1層1201は、例えば、チタンを含む。
【0052】
第2層1202は、第1層1201上に配置される。第2層1202は、第1層1201のうち基板101とは反対側の面上に配置される。第2層1202は、特に限定されるものではないが、例えば、電気抵抗率の低い金属を含むことが好ましい。第2層1202は、例えば、アルミニウムまたは銅を含むことが好ましい。本実施形態では、第2層1202は、例えば、アルミニウムを含む。
【0053】
第3層1203は、第2層1202上に配置される。第3層1203は、第2層1202のうち第1層1201とは反対側の面上に配置される。第3層1203は、特に限定されるものではないが、後述する水熱処理等の酸化処理により溶解しない、または、溶解しにくい金属を含むことが好ましい。本実施形態では、第3層1203は、例えば、チタンを含む。
【0054】
第1層1201、第2層1202および第3層1203の厚みは、特に限定されるものではない。第1層1201は、例えば、数nm以上、数10nm以下の厚みを有する。第2層1202は、例えば、第1層1201よりも大きい厚みを有する。第2層1202は、例えば、数10nm以上、数100nm以下の厚みを有する。第3層1203は、例えば、第2層1202よりも大きい厚みを有する。第3層1203は、例えば、数10nm以上、数100nm以下の厚みを有する。
【0055】
また、本実施形態では、電極120は、酸化膜1204をさらに有する。酸化膜1204は、第3層1203に配置される。酸化膜1204は、第3層1203に含まれる金属を酸化させた酸化膜(ここでは、酸化チタン膜)を含む。酸化膜1204は、例えば、電極120の表面を酸化処理することによって形成される。酸化処理としては、例えば、水熱酸化法、乾式熱酸化法および湿式酸化法が挙げられる。本実施形態では、酸化膜1204は、電極120の表面を水熱酸化処理することによって形成されている。
【0056】
酸化膜1204は、第3層1203に形成される一方、第1層1201および第2層1202には形成されない。酸化膜1204は、第3層1203のうち第2層1202とは反対側の面に形成されている。酸化膜1204は、第3層1203のうち、開口部1032に対応する部分に形成されている。つまり、酸化膜1204は、平面視で開口部1032と同じ大きさ、同じ形状、および、同じ位置に形成されている。
【0057】
流路カバー105は、例えば、保護膜103の一方面1031上に配置される。流路カバー105の一部は、基板101の一方面1011上に配置されてもよい。そして、流路カバー105は、電極120および保護膜103の一方側(基板101とは反対側)を覆う。また、流路カバー105は、流路110を構成する。具体的には、流路カバー105は、側壁1051および天井1052を含む。側壁1051および天井1052によって、サンプル液が流通する流路110が構成される。
【0058】
流路カバー105の材質は、特に限定されるものではないが、例えば、シリコーン系の樹脂である。本実施形態では、流路カバー105の材質は、PDMS(ジメチルポリシロキサン)である。流路カバー105がPDMSによって形成されている場合、流路カバー105、保護膜103および基板101の表面に対してプラズマ処理を行うことによって、流路カバー105は、保護膜103および基板101の表面との間で強固に接着される。流路カバー105、保護膜103および基板101の表面に対してプラズマ処理を行う時間は、特に限定されるものではないが、例えば、10sec以上、30sec以下であることが好ましく、15sec以上、25sec以下であることがより好ましい。
【0059】
以上、図1図4を参照して説明したように、保護膜103は、電極120の一方面1205上に配置される開口部1032を有し、開口部1032は、流路110と電極120とを繋ぐ。従って、保護膜103が開口部1032を有しない場合に比べて、電極120に交流電圧を印加した際に電極120同士間の電界を大きくすることができる。よって、分離性能が低下することを抑制できる。
【0060】
また、酸化膜1204は、電極120の一方面1205のうち、開口部1032に対応する部分に配置されている。従って、サンプル液が開口部1032を介して、電極120の第3層1203に接触することを抑制できるので、電極120がサンプル液中に溶解することを抑制できる。
【0061】
以上から、電極120が溶解することを抑制しながら、分離性能が低下することを抑制できる。
【0062】
また、上記のように、基板101はガラス基板を含み、保護膜103はシリコン酸化膜を含み、流路カバー105はシリコーン系樹脂により形成されている。つまり、基板101、保護膜103および流路カバー105の全てがシリコン元素を含む。従って、基板101および保護膜103に対して流路カバー105を強固に接着できる。
【0063】
なお、詳細な説明は省略するが、本実施形態とは異なり電極120を覆う保護膜103を設けない場合、流路カバー105は、基板101と電極120とに接触する。保護膜103を設けない場合、流路カバー105、基板101および電極120の表面にプラズマ処理を行ったとしても、流路カバー105と、基板101および電極120の両方とを強固に接着することは困難である。これは、流路カバー105と基板101とを接着する際の最適なプラズマ処理時間と、流路カバー105と電極120とを接着する際の最適なプラズマ処理時間とが異なるためである。例えば、流路カバー105と基板101とを接着する際の最適なプラズマ処理時間で、電極120をプラズマ処理した場合、流路カバー105と電極120との間の接着強度は非常に小さくなる。
【0064】
また、上記のように、電極120は、第1層1201と、第2層1202と、第3層1203とを有する。このように電極120が複数の層によって構成されている場合において、例えば、電極120を保護膜103により覆うことなく水熱酸化法等によって電極120の表面に酸化膜を形成すると、第2層1202が溶解することがある。この場合、電極120の性能に悪影響を及ぼすおそれがある。しかしながら、本実施形態では、電極120を保護膜103によって覆っているため、例えば、水熱酸化法等によって電極120の表面に酸化膜1204を形成する場合であっても、第2層1202が溶解することを抑制できる。
【0065】
また、上記のように、電極120のうち流路110に重なって配置される部分の側面1206は、保護膜103によって覆われている。従って、サンプル液が電極120の側面1206に接触することを抑制できるので、電極120がサンプル液中に溶解することをより抑制できる。
【0066】
また、上記のように、酸化膜1204は、電極120に含まれる金属を酸化させた酸化膜を含む。従って、水熱酸化法等によって、酸化膜1204を容易に形成できる。
【0067】
また、上記のように、電極120は、互いに対向する櫛歯形状を有する第1電極121および第2電極122を含み、複数の歯部1211および複数の歯部1221は、流路110が延びる第1方向Xに対して交差する第2方向Yに延びる。従って、複数の歯部1211および複数の歯部1221が第1方向Xに延びるように配置される場合とは異なり、サンプル液に含まれる誘電体粒子P1を効率良く分離できる。
【0068】
次に、図5を参照して、本実施形態の流路チップ100の電極120周辺の寸法の一例について説明する。図5は、本実施形態の流路チップ100の電極120周辺の構造を模式的に示す拡大断面図である。図5に示すように、電極120の幅(第2方向Yに対して直交する第3方向Zの長さ)をL120、開口部1032の幅(第3方向Zの長さ)をL1032、電極120上の保護膜103の幅(開口部1032から電極120の側面1206までの長さ)をL103、電極120同士の間の距離をL1201(図4参照)とする。なお、本実施形態では、第3方向Zは、第1方向Xと並行である。
【0069】
開口部1032の幅L1032は、電極120上の保護膜103の幅L103よりも大きいことが好ましい。本実施形態では、幅L1032は、幅L103の2倍以上である。つまり、幅L1032は、電極120の幅L120の1/2以上である。このように、開口部1032の第3方向Zの長さ(幅L1032)は、歯部1211および1221の第3方向Zの長さの1/2以上である。従って、歯部1211および1221に対する開口部1032の面積が小さくなることを抑制できる。
【0070】
電極120上の保護膜103の幅L103は、小さい方が好ましい。ただし、保護膜103によって電極120の側面1206を覆うためには、開口部1032の製造誤差を考慮して、幅L103は、数10μm程度必要である。なお、幅L103が小さい方が好ましい理由は、電極120に電圧を印加した際に、酸化膜1204同士間の電界(開口部1032を通過する電界)は誘電体粒子P1に作用する一方、酸化膜1204の外側の領域同士間の電界(保護膜103を通過する電界)は誘電体粒子P1にほとんど作用しない、または、作用しにくいためである。
【0071】
電極120の幅L120、および、電極120同士の間の距離L1201(図4参照)は、特に限定されるものではない。幅L120および距離L1201は、誘電体粒子P1および他の成分P2の種類および誘電率等によって適宜設定される。
【0072】
一例として、電極120の幅L120は、例えば、40μm以上、300μm以下である。また、開口部1032の幅L1032は、例えば、20μm以上、200μm以下である。また、電極120上の保護膜103の幅L103は、例えば、10μm以上、50μm以下である。また、距離L1201は、例えば、10μm以上、50μm以下である。
【0073】
また、保護膜103の厚みをT103とする。保護膜103の厚みT103は、特に限定されるものではないが、大きい方が好ましい。具体的には、電極120間に印加する交流電圧の周波数が比較的低い領域では、上述したように、酸化膜1204の外側の領域同士間の電界(保護膜103を通過する電界)は誘電体粒子P1にほとんど作用しない。その一方、電極120間に印加する交流電圧の周波数が高い領域では、酸化膜1204の外側の領域同士間の電界が誘電体粒子P1に作用する。このため、交流電圧の周波数を変化させた際に、粒子に作用する電界が不安定になりやすく、特定の粒子のみを分離できないおそれがある。
【0074】
従って、電極120の単位面積当たりに関して、酸化膜1204同士間の静電容量は、酸化膜1204の外側の領域同士間の静電容量よりも10倍以上大きいことが好ましい。このように構成すれば、酸化膜1204の外側の領域同士間の電界(保護膜103を通過する電界)が誘電体粒子P1に作用する周波数を、酸化膜1204同士間の電界(開口部1032を通過する電界)が誘電体粒子P1に作用する周波数に比べて約10倍高くすることが可能である。
【0075】
一例として、保護膜103の厚みT103は、例えば、200nm以上、500nm以下である。
【0076】
次に、図6図10を参照して、本実施形態の流路チップ100の製造方法を説明する。図6は、本実施形態の流路チップ100の製造方法のフロー図である。図7図10は、本実施形態の流路チップ100の製造方法を説明するための拡大断面図である。本実施形態の流路チップ100の製造方法は、ステップS1~ステップS5を含む。
【0077】
図6および図7に示すように、ステップS1において、基板101上に、電極120を形成する。具体的には、基板101の一方面1011上に、例えば真空蒸着法によって、電極120となる電極層を形成する。そして、例えば、フォトリソグラフィ法およびウェットエッチングによって電極層をパターニングして、所定形状を有する電極120を形成する。なお、基板101上に電極層を形成する方法は、真空蒸着法に限らず、スパッタリング法等の他の方法を用いてもよい。
【0078】
次に、ステップS2において、図8に示すように、電極120を覆うように保護層1030を形成する。具体的には、基板101の一方面1011および電極120上に、例えば、スパッタリング法によって、保護膜103となる保護層1030を形成する。なお、保護層1030は、本発明の「絶縁保護層」の一例である。保護層1030を形成する方法は、スパッタリング法に限らず、真空蒸着法等の他の方法を用いてもよい。
【0079】
次に、ステップS3において、図9に示すように、開口部1032を形成する。具体的には、例えば、フォトリソグラフィ法およびウェットエッチングによって保護層1030をパターニングして、所定形状を有する保護膜103を形成する。このとき、保護層1030のうち、流路カバー105で覆われない領域を除去する。また、このとき、本実施形態では、保護層1030のうち、電極120の一方面1205上の所定領域(開口部1032となる領域)を除去する。これにより、開口部1032を有する保護膜103が形成される。
【0080】
次に、ステップS4において、図10に示すように、電極120に酸化膜1204を形成する。具体的には、保護膜103をマスクとして、電極120のうち開口部1032に対応する部分に酸化膜1204を形成する。酸化膜1204を形成する方法は、特に限定されるものではないが、例えば、水熱酸化法、乾式熱酸化法および湿式酸化法を用いることができる。本実施形態では、水熱酸化法によって酸化膜1204が形成される。
【0081】
次に、ステップS5において、図3および図4に示すように、流路カバー105を電極120および保護膜103が形成された基板101に取り付ける。具体的には、流路カバー105のうちの基板101側の面と、保護膜103および基板101の流路カバー105側の面とをプラズマ処理する。そして、プラズマ処理された面同士を貼り合わせる。これにより、流路カバー105と保護膜103および/または基板101とが接着するとともに、流路カバー105が基板101に取り付けられる。このとき、流路カバー105と基板101との間に、流路110が形成される。
【0082】
以上のようにして、流路チップ100が製造される。
【0083】
(第1変形例)
次に、図11を参照して、本発明の第1変形例による流路チップ100について説明する。図11は、本発明の第1変形例による流路チップ100の構造を模式的に示す拡大平面図である。第1変形例では、上記実施形態とは異なり、開口部1032が流路110に跨って配置される例について説明する。
【0084】
図11に示すように、第1変形例の流路チップ100では、開口部1032は、流路110に跨って配置される。具体的には、開口部1032の第2方向Yの長さは、流路110の分離流路112の第2方向Yの長さよりも長い。また、開口部1032の第2方向Yの両端部は、流路110の外部に配置されている。開口部1032は、平面視で流路カバー105の側壁1051と交差する。つまり、開口部1032は、流路110の幅方向(第2方向Y)の全域にわたって配置される。従って、流路110の幅方向端部を通過する誘電体粒子P1に対しても誘電泳動力が作用するので、誘電体粒子P1が電極120を通過することを抑制できる。言い換えると、誘電体粒子P1の捕捉効率が低下することを抑制できる。
【0085】
第1変形例のその他の構造、製造方法および効果は、上記実施形態と同様である。
【0086】
(第2変形例)
次に、図12を参照して、本発明の第2変形例による流路チップ100について説明する。図12は、本発明の第2変形例による流路チップ100の構造を模式的に示す平面図である。第2変形例では、上記実施形態とは異なり、電極120の歯部1211および歯部1221が流路110に対して傾斜している例について説明する。
【0087】
図12に示すように、第2変形例の流路チップ100では、第1電極121の複数の歯部1211、および、第2電極122の複数の歯部1221は、流路110が延びる第1方向Xに対して交差する第2方向Yに延びる。第2変形例では、上記実施形態とは異なり、第2方向Yは、第1方向Xに対して傾斜する。つまり、第2変形例では、歯部1211および歯部1221は、流路110に対して傾斜する。このように構成することによって、例えば、特定の周波数の交流電圧を第1電極121と第2電極122との間に印加することにより、誘電体粒子P1を歯部1211および歯部1221に沿って移動させることが可能である。よって、誘電体粒子P1を他の成分P2から分離することが可能である。以下、詳細に説明する。
【0088】
第2変形例では、流路110の収集部113は、第1収集部1131と第2収集部1132とを有する。第1収集部1131は、誘電体粒子P1を収集する。第2収集部1132は、他の成分P2を収集する。流路110は、第1接続流路1141と第2接続流路1142とをさらに有する。第1接続流路1141は、分離流路112の下流部と第1収集部1131とを接続する。第2接続流路1142は、分離流路112の下流部と第2収集部1132とを接続する。
【0089】
第2変形例の流路チップ100では、特定の周波数の交流電圧を第1電極121と第2電極122との間に印加することにより、分離流路112を通過する誘電体粒子P1に誘電泳動力が作用する。これにより、誘電体粒子P1は、歯部1211および歯部1221に沿って移動する。第2変形例では、誘電体粒子P1は、歯部1211および歯部1221に沿って、第1接続部1212側に移動する。なお、第2変形例では、誘電体粒子P1が電極120に捕捉されないように、交流電圧の周波数を設定する。
【0090】
そして、誘電体粒子P1は、第1接続流路1141を通過して第1収集部1131に収集される。一方、他の成分P2は、分離流路112を直進し、第2接続流路1142を通過して第2収集部1132に収集される。
【0091】
第2変形例のその他の構造、製造方法および効果は、上記実施形態および第1変形例と同様である。
【0092】
(第3変形例)
次に、図13を参照して、本発明の第3変形例による流路チップ100について説明する。図13は、本発明の第3変形例による流路チップ100の構造を模式的に示す平面図である。第3変形例では、上記実施形態とは異なり、流路チップ100が、例えば、HDF(Hydrodynamic filtration)200を備える例について説明する。
【0093】
図13に示すように、第3変形例では、流路チップ100は、HDF200をさらに備える。HDF200は、電極120に対して上流側に配置される。HDF200は、流体力学的フィルタとしての機能を有する。例えば、HDF200は、微粒子の分離・濃縮を目的としたマイクロ流路である。HDF200は、分離流路112から分岐する複数の分岐流路201を有する。複数の分岐流路201と、分離流路112の一部とによって、HDF200が構成される。複数の分岐流路201は、例えば、分離流路112に対して垂直に延びるように配置される。また、複数の分岐流路201は、例えば、分離流路112の延びる方向に沿って略等ピッチで配置される。
【0094】
複数の分岐流路201には、分離流路112を流通する液が流れ込む。また、複数の分岐流路201には、分離流路112を流通する液に含有される粒子の一部が流れ込む。粒径の小さな粒子ほど分岐流路201に流れ込みやすく、粒径の大きな粒子ほど分岐流路201に流れ込みにくい。つまり、HDF200は、分離流路112を流通する液から比較的小さな粒子を分離する。第3変形例では、誘電体粒子P1は、HDF200の分岐流路201に流れ込まず、分離流路112を略直進する。
【0095】
第3変形例では、上記のように、流路チップ100がHDF200をさらに備える。従って、HDF200によって、サンプル液に含まれる粒子から所定サイズ未満の粒子を分離し、その後、電極120によって、所定サイズ以上の粒子から誘電体粒子P1を分離することができる。
【0096】
第3変形例のその他の構造、製造方法および効果は、上記実施形態、第1変形例および第2変形例と同様である。
【0097】
以上、図面を参照して本発明の実施形態を説明した。ただし、本発明は、上記の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の態様において実施することが可能である。また、上記の実施形態に開示される複数の構成要素を適宜組み合わせることによって、種々の発明の形成が可能である。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態および変形例にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。図面は、理解しやすくするために、それぞれの構成要素を主体に模式的に示しており、図示された各構成要素の厚み、長さ、個数、間隔等は、図面作成の都合上から実際とは異なる場合もある。また、上記の実施形態で示す各構成要素の材質、形状、寸法等は一例であって、特に限定されるものではなく、本発明の効果から実質的に逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0098】
例えば、上記実施形態では、電極120が第1層1201、第2層1202および第3層1203を有する例について示したが、本発明これに限らない。例えば、電極120は、1つの層、2つの層、または、4つ以上の層を有してもよい。
【0099】
また、上記実施形態では、第1電極121および第2電極122が櫛歯形状を有する例について示したが、本発明これに限らない。例えば、第1電極121および第2電極122は、櫛歯形状を有しなくてもよい。
【0100】
また、上記実施形態では、流路110内において、保護膜103が電極120の側面1206を覆う例について示したが、本発明これに限らない。保護膜103は、電極120の側面1206の一部または全てを覆わなくてもよい。ただし、側面1206のうち保護膜103によって覆われていない部分がサンプル液中に溶解することを抑制するためには、流路110と重なる領域において、保護膜103が電極120の側面1206の全てを覆うことが好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0101】
本発明は、流路チップ、および、流路チップの製造方法の分野に利用可能である。
【符号の説明】
【0102】
100 :流路チップ
101 :基板
103 :保護膜(絶縁保護膜)
105 :流路カバー
110 :流路
120 :電極
121 :第1電極
122 :第2電極
1011 :一方面
1030 :保護層(絶縁保護層)
1032 :開口部
1201 :第1層
1202 :第2層
1203 :第3層
1204 :酸化膜
1205 :一方面
1206 :側面
P1 :誘電体粒子
X :第1方向
Y :第2方向
Z :第3方向
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13