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  • 特開-ニトロソアミンの処理システム 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024116734
(43)【公開日】2024-08-28
(54)【発明の名称】ニトロソアミンの処理システム
(51)【国際特許分類】
   C04B 7/42 20060101AFI20240821BHJP
   F27D 17/00 20060101ALI20240821BHJP
【FI】
C04B7/42 ZAB
F27D17/00 101G
F27D17/00 104G
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023022516
(22)【出願日】2023-02-16
(71)【出願人】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】デロイトトーマツ弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】中村 充志
(72)【発明者】
【氏名】川之上 太志
(72)【発明者】
【氏名】一坪 幸輝
【テーマコード(参考)】
4K056
【Fターム(参考)】
4K056AA12
4K056BB01
4K056CA08
4K056DA02
4K056DA33
4K056DB04
4K056DB07
(57)【要約】
【課題】追加の設備を必要としないニトロソアミンの処理システムを提供する。
【解決手段】ニトロソアミンの処理システム100は、セメント原料粉末Pを焼成するセメント焼成設備30と、焼成により生じた排ガスGが供給され、セメント原料Mからセメント原料粉末Pを生成するセメント原料粉末生成設備40とを備え、ニトロソアミンを含むガスG3又は液体を、300℃以上の温度の排ガスGが存在する箇所から、セメント原料粉末生成設備40に投入する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメント原料粉末を焼成するセメント焼成設備と、前記焼成により生じた排ガスが供給され、セメント原料から前記セメント原料粉末を生成するセメント原料粉末生成設備とを備え、
ニトロソアミンを含むガス又は液体を、300℃以上の温度の前記排ガスが存在する箇所から、前記セメント原料粉末生成設備に投入することを特徴とするニトロソアミンの処理システム。
【請求項2】
前記セメント原料粉末生成設備は、前記セメント原料又は前記セメント原料を粉砕した前記セメント原料粉末を乾燥する原料乾燥機を有し、
前記原料乾燥機に供給される前記排ガスに、前記ニトロソアミンを含むガス又は液体を投入することを特徴とする請求項1に記載のニトロソアミンの処理システム。
【請求項3】
前記セメント原料粉末生成設備は、前記セメント原料又は前記セメント原料を粉砕した前記セメント原料粉末の水分量を調整するスタビライザを有し、
前記スタビライザに供給される前記排ガスに、前記ニトロソアミンを含むガス又は液体を投入することを特徴とする請求項1に記載のニトロソアミンの処理システム。
【請求項4】
前記セメント焼成設備は、前記セメント原料を前記排ガスにより予備加熱する予備加熱機を有し、
前記予備加熱機から前記セメント原料粉末生成設備に供給される前記排ガスに、前記ニトロソアミンを含むガス又は液体を投入することを特徴とする請求項1に記載のニトロソアミンの処理システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニトロソアミンの処理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
温室効果ガスの1つである二酸化炭素(CO)ガスを回収する技術として化学吸収法(アミン法)、物理吸収法、深冷分離法、ケミカルルーピング法などがある。化学吸収法は、アミン系吸収液の二酸化炭素の吸収、脱離の特性を利用した二酸化炭素分離回収技術であり、他方式に比べ大容量・低圧ガスに適合し、既存のセメント製造プロセスに影響を及ぼさないという利点がある。
【0003】
しかし、化学吸収法はセメントキルン排ガスに含まれる酸性成分である窒素酸化物(NO)とアミン系吸収液が反応し、環境影響物質であるニトロソアミンが放出されるという課題がある。従来、環境影響物質は、水洗浄やデミスターなどで除去されていた。
【0004】
なお、特許文献1には、酸性水溶液で洗浄することにより、アミン類の分解生成物であるニトロソアミン等を除去することが記載されている。特許文献2には、190~459nmの範囲にわたる伝送帯域波長を有する光を照射することにより、ニトロソアミン等を除去することが記載されている。特許文献3には、紫外線を照射することにより、ニトロソアミンを分解除去することが記載されている。特許文献4には、適切なフルエンス電磁エネルギー、例えば紫外線エネルギーを照射することにより、ニトロソアミンを分解除去することが記載されている。特許文献5には、ニトロソアミン等の環境影響物質を含む処理液を塩酸や臭化水素酸などのハロゲン化水素酸の存在下、水の沸点以上で且つ該アミン類の沸点以下の温度にて加熱することにより、ニトロソアミン等を分解除去することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2012-520167号公報
【特許文献2】特表2013-519513号公報
【特許文献3】特表2014-506527号公報
【特許文献4】特表2014-526380号公報
【特許文献5】特開2015-16391号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記従来技術及び特許文献1から5に記載された技術においては、二酸化炭素分離回収設備の後段に、ニトロソアミンを分解除去するための設備を追加して設ける必要がある。しかし、設備の設置面積に制限がある場合、ニトロソアミンを分解除去するための設備を設けることができないことがある。また、大型の二酸化炭素分離回収設備である場合、多量のニトロソアミンが発生するが、これを分解除去するためには、高コストで大型の設備を設ける必要がある。
【0007】
本発明は、追加の設備を必要としないニトロソアミンの処理システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のニトロソアミンの処理システムは、セメント原料粉末を焼成するセメント焼成設備と、前記焼成により生じた排ガスが供給され、セメント原料から前記セメント原料粉末を生成するセメント原料粉末生成設備とを備え、ニトロソアミンを含むガス又は液体を、300℃以上の温度の前記排ガスが存在する箇所から、前記セメント原料粉末生成設備に投入することを特徴とする。
【0009】
本発明のニトロソアミンの処理システムによれば、300℃以上の温度の排ガスによって、上記ガス又は液体に含まれるニトロソアミンを熱分解して無害化することが可能となる。この際、セメント焼成設備にてセメント原料粉末の焼成により生じてセメント原料粉末生成設備に供給された排ガスを利用するので、ニトロソアミンを処理する設備を追加して設ける必要がない。
【0010】
本発明のニトロソアミンの処理システムにおいて、前記セメント原料粉末生成設備は、前記セメント原料又は前記セメント原料を粉砕した前記セメント原料粉末を乾燥する原料乾燥機を有し、前記原料乾燥機に供給される前記排ガスに、前記ニトロソアミンを含むガス又は液体を投入することが好ましい。
【0011】
この場合、ニトロソアミンを含むガス又は液体を投入することによって原料乾燥機に供給される排ガスの温度は低下するが、原料乾燥機にてセメント原料を乾燥する機能は低下しないように図ることが可能である。
【0012】
また、本発明のニトロソアミンの処理システムにおいて、前記セメント原料粉末生成設備は、前記セメント原料又は前記セメント原料を粉砕した前記セメント原料粉末の水分量を調整するスタビライザを有し、前記スタビライザに供給される前記排ガスに、前記ニトロソアミンを含むガス又は液体を投入することが好ましい。
【0013】
この場合、ニトロソアミンを含むガス又は液体を投入することによってスタビライザに供給される排ガスの温度は低下するが、スタビライザにてセメント原料の水分量を調整する機能は低下しないように図ることが可能である。
【0014】
また、本発明のニトロソアミンの処理システムにおいて、前記セメント焼成設備は、前記セメント原料を前記排ガスにより予備加熱する予備加熱機を有し、前記予備加熱機から前記セメント原料粉末生成設備に供給される前記排ガスに、前記ニトロソアミンを含むガス又は液体を投入することが好ましい。
【0015】
この場合、予備加熱機にてセメント原料を予備加熱した後の排ガスによりニトロソアミンを熱分解することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の実施形態に係るニトロソアミンの処理システム100に備わるセメント製造装置10の模式図。
図2】本発明の実施形態に係るニトロソアミンの処理システム100に備わる二酸化炭素回収装置20の模式図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明に実施形態に係るニトロソアミンの処理システム100を、図面を参照して説明する。ニトロソアミンの処理システム100は、セメント製造装置10に二酸化炭素回収装置20が付設されてなるものである。
【0018】
セメント製造装置10は、セメント原料Mからセメントを製造するものであり、セメント原料粉末Pを焼成するセメント焼成設備30、セメント原料Mからセメント原料粉末Pを生成してセメント焼成設備30に供給するセメント原料粉末生成設備40、及び、セメント焼成設備30やセメント原料粉末生成設備40から排出された排ガスGを排出する排気設備50などから構成されている。
【0019】
セメント焼成設備30は、予備加熱機31、仮焼炉32、及びセメントキルン33などから構成されている。
【0020】
予備加熱機31は、多段、ここでは4段のサイクロン31a~31dが配列されてなるプレヒータである。セメント原料粉末Pは、セメント原料粉末生成設備40から最上段のサイクロン31aに供給され、サイクロン31a~31cを下方に順次移動しながら予備加熱され、最下段のサイクロン31dから仮焼炉32に供給され、最終的にサイクロン31dに供給される。予備加熱機31は、誘引ファン44で吸引されて上昇する高温の排ガスGとの熱交換により、セメント原料粉末Pを予備加熱する。
【0021】
仮焼炉32は、予備加熱機31の下部に備わり、バーナなどを備えている。仮焼炉32は、その型式は限定されないが、例えば、流動床式、流動層式、噴流層式などの型式であってもよい。なお、仮焼炉32を省略して、予備加熱機31からセメントキルン33にセメント原料粉末Pを直接的に供給してもよい。
【0022】
セメントキルン33は、バーナ33aを備えており、仮焼炉32にて仮焼されたセメント原料粉末Pを1350℃~1450℃で焼成してセメントクリンカCを生成する。セメントキルン33は、その型式は限定されないが、例えば、ロータリー式である。
【0023】
セメントキルン33にて得られたセメントクリンカCは、排出口から落下して、クリンカクーラ35に投入され、100℃程度に冷却される。冷却されたセメントクリンカCはクリンカクーラ35の取出口から外部へ取り出される。
【0024】
クリンカクーラ35でセメントクリンカCを冷却して高温となった排ガスGの一部は、仮焼炉32に流入する。一方、クリンカクーラ35の低温側の排ガスGは電気集塵機51などの集塵手段を介して、排気ファン52により煙突側に誘引され、煙突53から大気に放出される。
【0025】
セメント原料粉末生成設備40は、原料乾燥機41、スタビライザ42、原料粉砕機43などから構成されている。
【0026】
原料乾燥装機41は、供給されるセメント原料Mを乾燥させるドライヤである。原料乾燥装機41は、予備加熱機31から排出され、誘引ファン44に誘引された排ガスGが供給され、この排ガスGによりセメント原料Mを乾燥させる。セメント原料Mは、例えば、石灰石、粘土、珪石、鉄滓、石炭灰、スラッジ、粘土類などである。
【0027】
スタビライザ42は、予備加熱機31から排出され、誘引ファン44に誘引された排ガスGが供給され、原料乾燥装機41から供給されたセメント原料Mの温度や水分量を調整すると共に、細粒のダストを排ガスGから分離する。
【0028】
原料粉砕機43は、スタビライザ42から供給されたセメント原料Mを粉砕混合し、セメント原料粉末Pを生成する。このセメント原料粉末Pは、コンベアやバケットエレベータなどの図示しない搬送手段を介して、予備加熱機31に供給される。
【0029】
原料乾燥機41やスタビライザ42から排出された排ガスGは、電気集塵機54などの集塵手段を介して、排気ファン55により煙突側に誘引され、煙突56から大気に放出される。なお、電気集塵機51,54、排気ファン52,55及び煙突53,56などが前述した排気設備50を構成している。
【0030】
二酸化炭素回収装置20は、吸収塔21、再生塔22、及び熱交換器23などから構成されている。
【0031】
吸収塔21内に、二酸化炭素(CO)を含有する排ガスG1が導入される。この排ガスGは、吸収塔21内の吸収液Lと気液接触して、二酸化炭素が吸収液Lに吸収される。
【0032】
吸収塔21内で二酸化炭素を吸収した吸収液Lは、ポンプ24により熱交換器23に送られ、加熱された後、再生塔22内に供給される。
【0033】
この吸収液Lは、再生塔22の下部に貯留され、ボイラーや蒸気などを用いた加熱器25によって加熱され、70℃~110℃に昇温する。これにより、吸収液L中の二酸化炭素が再生塔22内に二酸化炭素ガスとして放出される。この二酸化炭素を含むガスは再生塔22内を上昇して二酸化炭素回収管26により高純度の二酸化炭素を含むガスG2として回収される。
【0034】
一方、二酸化炭素が除去されて再生された吸収液Lは、ポンプ27により熱交換器23に送られ、冷却された後、吸収塔21内に上部から供給され、再び、排ガスG1から二酸化炭素を吸収する。
【0035】
二酸化炭素が除去された排ガスG3は吸収塔21内を上昇し、排ガス排出管28を介して、導入口A~Cの少なくとも何れかからセメント原料粉末生成設備40に導入される。
【0036】
二酸化炭素回収装置20において二酸化炭素を化学吸収法にて吸収する吸収液Lは、MEA、MDEA、AMP、PZ/PIPAなどのアミン系吸収液であり、二酸化炭素が除去された排ガスG3に含まれる窒素酸化物(NO)と反応し、式(1)に示すように、ニトロソアミンが生成される。
(CH32NH+HNO→(CH32NNO+HO ・・・ (1)
【0037】
ニトロソアミンは、発がん性が疑われている環境影響物質であり、今後、排出規制が行われる可能性もある。ニトロソアミンは200~250℃に加熱されると熱分解され、無害化させることができる。そこで、ニトロソアミンを含む二酸化炭素が除去された排ガスG3をセメント製造装置10に投入し、300℃以上の高温の排ガスGを用いて加熱させる。
【0038】
具体的には、二酸化炭素が除去された排ガスG3を、導入口A~Cの少なくとも何れかからセメント製造装置10内に投入する。導入口Aは予備加熱機31の出口より排ガスGの下流側であり、導入口Bは原料乾燥機41の入口より排ガスGの上流側であり、導入口Cはスタビライザ42の入口より排ガスGの上流側である。
【0039】
これら導入口A~Cにおいては、排ガスGの温度が300℃~400℃程度であり、このような高温の排ガスGにより、ニトロソアミンを含む二酸化炭素が除去された排ガスG3を加熱することにより、ニトロソアミンを確実に熱分解して無害化することが可能となる。また、排ガスGの温度が300℃~400℃程度と適度に高温であるので、熱ロスの観点から好ましい。
【0040】
ニトロソアミンは熱分解されると窒素酸化物ガスが発生する。セメント製造装置10では一般的に窒素酸化物ガスが発生することは想定されているので、排気設備50などにより窒素酸化物ガスは安全に処理される。そのため、ニトロソアミン、ひいては窒素酸化物ガスを処理する設備を追加する必要はない。
【0041】
また、ニトロソアミンを含む二酸化炭素が除去された排ガスG3を120℃~170℃に加熱させると、ニトロソアミンが排ガスG3から分離して液化して、ニトロソアミンを含有する液体を得ることができる。そして、この液体を、導入口A~Cの少なくとも何れかからセメント製造装置10内に投入してもよい。これにより、二酸化炭素が除去された排ガスG3を投入する場合と比較して、投入量を減少させることができるので、原料乾燥機41やスタビライザ42に供給される排ガスGの温度低下が低減される。これにより、原料乾燥機41やスタビライザ42の機能の低下を抑制することが可能となる。
【0042】
さらに、ニトロソアミンを含有する液体をセメント原料Mに添加してもよい。この場合、セメント原料Mは原料乾燥機41にて排ガスGにより加熱されるので、この加熱により、ニトロソアミンを熱分解することが可能となる。
【0043】
さらに、上述したセメント原料粉末生成設備40においては、原料乾燥機41及びスタビライザ42の後段に、原料粉砕機43が配置されている。しかし、原料粉砕機43の後段に、原料乾燥機41及びスタビライザ42を配置してもよい。この場合は、ニトロソアミンを含有する液体を、原料粉砕機43内のセメント原料Mに添加させてもよい。
【0044】
なお、本発明は、上述した実施形態に具体的に記載したニトロソアミンの処理システム100に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した範囲内であれば適宜変更することができる。
【符号の説明】
【0045】
10…セメント製造装置、 20…二酸化炭素回収装置、 21…吸収塔、 22…再生塔、 23…熱交換器、 24…ポンプ、 25…加熱器、 26…二酸化炭素回収管、 27…ポンプ、 28…排ガス排出管、 30…セメント焼成設備、 31…予備加熱機、 32…仮焼炉、 33…セメントキルン、 35…クリンカクーラ、 40…セメント原料粉末生成設備、 41…原料乾燥機、 42…スタビライザ、 43…原料粉砕機、 44…誘引ファン、 50…排気設備、 51,54…電気集塵機、 52,55…排気ファン、 53,56…煙突、 100…ニトロソアミンの処理システム、 C…セメントクリンカ、 G…排ガス、 G1…二酸化炭素を含有する排ガス、 G2…高純度の二酸化炭素を含むガス、 G3…ニトロソアミンを含む二酸化炭素が除去された排ガス、 L…吸収液、 M…セメント原料、 P…セメント原料粉末。
図1
図2