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特開2024-116741電力変換装置、制御方法、制御プログラム、および制御装置
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024116741
(43)【公開日】2024-08-28
(54)【発明の名称】電力変換装置、制御方法、制御プログラム、および制御装置
(51)【国際特許分類】
   H02M 3/28 20060101AFI20240821BHJP
【FI】
H02M3/28 B
H02M3/28 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023022530
(22)【出願日】2023-02-16
(71)【出願人】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099933
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 敏
(74)【代理人】
【識別番号】100124028
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 公雄
(74)【代理人】
【識別番号】100078813
【弁理士】
【氏名又は名称】上代 哲司
(74)【代理人】
【識別番号】100094477
【弁理士】
【氏名又は名称】神野 直美
(72)【発明者】
【氏名】加悦 裕幸
(72)【発明者】
【氏名】梅原 猛
(72)【発明者】
【氏名】片山 慎治
(72)【発明者】
【氏名】鵜殿 直嗣
(72)【発明者】
【氏名】初川 聡
【テーマコード(参考)】
5H730
【Fターム(参考)】
5H730AA20
5H730AS01
5H730BB27
5H730BB37
5H730BB57
5H730DD04
5H730DD16
5H730EE04
5H730EE07
5H730EE13
5H730FD01
5H730FD11
5H730FD41
5H730FF09
5H730FG05
5H730XC04
5H730XC14
(57)【要約】      (修正有)
【課題】突入電流が大きくなることが防止できる電力変換装置、制御方法、制御プログラム及び制御装置を提供する。
【解決手段】第1、第2コイルを持つトランスと、第1ブリッジ回路と、第2ブリッジ回路と、第1、第2ブリッジ回路を制御して、電力変換を行う制御回路と、を含む電力変換装置であって、制御回路は、電力変換装置の起動時に、第1、第2コイルに電圧が印加される期間が、第1期間となるまで増加するように制御する第1制御部と、第1制御部の制御の終了後、第2コイルに電圧が印加される期間を第1期間に保ち、第1コイルに電圧が印加される期間が第1期間より短い第2期間となるまで変化するように、かつ、第1コイルに印加される電圧波形が第1波形になるまで変化するように制御する第2制御部と、第2制御部の制御の終了後、第1、第2コイルに印加される電圧波形の位相差が所定の値に保たれるように制御する第3制御部と、を含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1コイルおよび第2コイルを持つトランスと、
前記第1コイルに接続された第1ブリッジ回路と、
前記第2コイルに接続された第2ブリッジ回路と、
定常時に、前記第1ブリッジ回路および前記第2ブリッジ回路を制御して、前記第1コイルおよび前記第2コイルに、それぞれ3レベルを持つ第1波形および2レベルを持つ第2波形となるように制御された電圧を所定の周期により周期的に印加することにより、前記トランスを介して前記第1コイルと前記第2コイルとの間の電力変換を行う制御回路とを含む電力変換装置であって、
前記制御回路は、
前記電力変換装置の起動時に、前記第1コイルおよび前記第2コイルに印加される電圧波形を前記2レベルに保ち、前記第1コイルおよび前記第2コイルに電圧が印加される期間が、第1期間となるまで、増加するよう、前記第1ブリッジ回路および前記第2ブリッジ回路を制御する第1制御部と、
前記第1制御部による制御の終了後、前記第2ブリッジ回路により前記第2コイルに電圧が印加される期間を前記第1期間に保ち、前記第1コイルに電圧が印加される期間が前記第1期間より短い第2期間となるまで変化するように、かつ前記第1コイルに印加される電圧波形が前記第1波形になるまで変化するように、前記第1ブリッジ回路および前記第2ブリッジ回路を制御する第2制御部と、
前記第2制御部による制御の終了後、前記第1コイルおよび前記第2コイルに印加される電圧波形の位相差が所定の値となるまで、前記第2コイルに電圧が印加される期間を移動させた後、前記第1コイルに印加される前記電圧波形と前記第2コイルに印加される前電圧波形との位相差が定常的に前記所定の値に保たれるように、前記第1ブリッジ回路および前記第2ブリッジ回路を制御する第3制御部とを含む、電力変換装置。
【請求項2】
前記第1コイルに印加される電圧波形は、実質的に電圧が0である第1レベル期間と、実質的に電圧の絶対値が第1電圧である第2レベル期間と、実質的に電圧の絶対値が前記第1電圧より高い第2電圧である第3レベル期間とを持つ、請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項3】
前記第3レベル期間の前後は前記第2レベル期間である、請求項2に記載の電力変換装置。
【請求項4】
前記第1期間は前記所定の周期の半分の期間であり、前記第1期間、前記第2レベル期間および前記第3レベル期間の中央は互いに一致する、請求項3に記載の電力変換装置。
【請求項5】
前記第2制御部は、前記第3レベル期間が前記第2期間になるように、前記第1コイルに印加される前記電圧波形の前記第1レベル期間を拡大させた後、前記第3レベル期間が前記第2期間より短い第3期間になるまで、前記第1コイルに印加される前記電圧波形の前記第2レベル期間を拡大させる、請求項2から請求項4のいずれか1項に記載の電力変換装置。
【請求項6】
前記第2制御部は、前記第1レベル期間と、前記第1レベル期間および前記第2レベル期間の和との比を一定に保ちながら、前記第2レベル期間と前記第3レベル期間との和が前記第2期間となるまで、前記第1コイルに印加される前記電圧波形を変化させる、請求項2から請求項4のいずれか1項に記載の電力変換装置。
【請求項7】
前記第2制御部は、前記第3レベル期間が前記第2期間より短い第3期間になるように、前記第1コイルに印加される前記電圧波形の前記第2レベル期間を拡大した後、前記第3レベル期間を保ちながら、前記第2レベル期間が前記第2期間となるまで縮小するよう、前記第1コイルに印加される前記電圧波形を変化させる、請求項2から請求項4のいずれか1項に記載の電力変換装置。
【請求項8】
第1コイルおよび第2コイルを持つトランスと、
前記第1コイルに接続された第1ブリッジ回路と、
前記第2コイルに接続された第2ブリッジ回路とを含む電力変換装置の制御方法であって、
前記電力変換装置は、定常時に、前記第1ブリッジ回路および前記第2ブリッジ回路を制御して、前記第1コイルおよび前記第2コイルに、それぞれ3レベルを持つ第1波形および2レベルを持つ第2波形となるように制御された電圧を所定の周期により周期的に印加することにより、前記トランスを介して前記第1コイルと前記第2コイルとの間の電力変換を行い、
前記方法は、
コンピュータが、前記電力変換装置が起動されたことに応答して、前記第1コイルおよび前記第2コイルに印加される電圧波形を前記2レベルに保ち、前記第1コイルおよび前記第2コイルに電圧が印加される期間が、第1期間となるまで増加するよう、前記第1ブリッジ回路および前記第2ブリッジ回路を制御する第1ステップと、
コンピュータが、前記第1ステップの終了後、前記第2ブリッジ回路により前記第2コイルに電圧が印加される期間を前記第1期間に保ち、前記第1コイルに電圧が印加される期間が前記第1期間より短い第2期間となるまで変化するように、かつ前記第1コイルに印加される電圧波形が前記第1波形になるまで変化するように、前記第1ブリッジ回路および前記第2ブリッジ回路を制御する第2ステップと、
コンピュータが、前記第2ステップの終了後、前記第1コイルおよび前記第2コイルに印加される電圧波形の位相差が所定の値となるまで、前記第2コイルに電圧が印加される期間を移動させた後、前記第1コイルに印加される前記電圧波形と前記第2コイルに印加される前記電圧波形との位相差が定常的に前記所定の値に保たれるように、前記第1ブリッジ回路および前記第2ブリッジ回路を制御する第3ステップとを含む、電力変換装置の制御方法。
【請求項9】
第1コイルおよび第2コイルを持つトランスと、
前記第1コイルに接続された第1ブリッジ回路と、
前記第2コイルに接続された第2ブリッジ回路とを含む電力変換装置の制御プログラムであって、
前記電力変換装置は、定常時に、前記第1ブリッジ回路および前記第2ブリッジ回路を制御して、前記第1コイルおよび前記第2コイルに、それぞれ3レベルを持つ第1波形および2レベルを持つ第2波形となるように制御された電圧を所定の周期により周期的に印加することにより、前記トランスを介して前記第1コイルと前記第2コイルとの間の電力変換を行い、
前記プログラムは、
前記電力変換装置が起動されたことに応答して、前記第1コイルおよび前記第2コイルに印加される電圧波形を前記2レベルに保ち、前記第1コイルおよび前記第2コイルに電圧が印加される期間が、第1期間となるまで増加するよう、前記第1ブリッジ回路および前記第2ブリッジ回路を制御する第1ステップと、
前記第1ステップの終了後、前記第2ブリッジ回路により前記第2コイルに電圧が印加される期間を前記第1期間に保ち、前記第1コイルに電圧が印加される期間が前記第1期間より短い第2期間となるまで変化するように、かつ前記第1コイルに印加される電圧波形が前記第1波形になるまで変化するように、前記第1ブリッジ回路および前記第2ブリッジ回路を制御する第2ステップと、
前記第2ステップの終了後、前記第1コイルおよび前記第2コイルに印加される電圧波形の位相差が所定の値となるまで、前記第2コイルに電圧が印加される期間を移動させた後、前記第1コイルに印加される前記電圧波形と前記第2コイルに印加される前記電圧波形との位相差が定常的に前記所定の値に保たれるように、前記第1ブリッジ回路および前記第2ブリッジ回路を制御する第3ステップとを実行するようにコンピュータを機能させる、電力変換装置の制御プログラム。
【請求項10】
第1コイルおよび第2コイルを持つトランスと、
前記第1コイルに接続された第1ブリッジ回路と、
前記第2コイルに接続された第2ブリッジ回路とを含む電力変換装置において、
定常時に、前記第1ブリッジ回路および前記第2ブリッジ回路を制御して、前記第1コイルおよび前記第2コイルに、それぞれ3レベルを持つ第1波形および2レベルを持つ第2波形となるように制御された電圧を所定の周期により周期的に印加することにより、前記トランスを介して前記第1コイルと前記第2コイルとの間の電力変換を行う制御装置であって、
前記電力変換装置の起動時に、前記第1コイルおよび前記第2コイルに印加される電圧波形を前記2レベルに保ち、前記第1コイルおよび前記第2コイルに電圧が印加される期間が、第1期間となるまで増加するよう、前記第1ブリッジ回路および前記第2ブリッジ回路を制御する第1制御部と、
前記第1制御部による制御の終了後、前記第2ブリッジ回路により前記第2コイルに電圧が印加される期間を前記第1期間に保ち、前記第1コイルに電圧が印加される期間が前記第1期間より短い第2期間となるまで変化するように、かつ前記第1コイルに印加される電圧波形が前記第1波形になるまで変化するように、前記第1ブリッジ回路および前記第2ブリッジ回路を制御する第2制御部と、
前記第2制御部による制御の終了後、前記第1コイルおよび前記第2コイルに印加される電圧波形の位相差が所定の値となるまで、前記第2コイルに電圧が印加される期間を移動させた後、前記第1コイルに印加される前記電圧波形と前記第2コイルに印加される前記電圧波形との位相差が定常的に前記所定の値に保たれるように、前記第1ブリッジ回路および前記第2ブリッジ回路を制御する第3制御部とを含む、制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この開示は、電力変換装置、制御方法、制御プログラム、および制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電力変換装置として、いわゆるDAB(Dual Active Bridge)方式と呼ばれるものが知られている。DAB方式の電力変換装置は双方向に電力変換ができる。DAB方式の電力変換装置ではさらに、いわゆるソフトスイッチングが可能であり、変圧比が低ければ効率的に電力変換ができる。
【0003】
しかし、DAB方式の電力変換装置においては、変圧比が大きくなるとハードスイッチングとなりスイッチング損失が大きくなることが知られている。
【0004】
この対策としての提案が特許文献1に開示されている。特許文献1は、5レベルの電圧を出力可能なDAB絶縁コンバータを開示している。5レベルとは、0、±V/2、および±Vという電圧をいう。これら電圧の絶対値は3通りなので、3レベル絶縁コンバータとも呼ばれる。この明細書においては、こうした絶縁コンバータを3レベル絶縁コンバータと呼ぶ。一方、従来のDAB絶縁コンバータは、±Vという電圧を出力可能である。この場合、電圧のレベルが2通りであるため、この明細書においては、こうした絶縁コンバータを2レベル絶縁コンバータと呼ぶ。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2020-10444号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示の技術により、広い範囲の変圧比に対してスイッチング損失を抑えることができるという効果がある。しかし、3レベル絶縁コンバータの場合、電源投入時の突入電流の発生を防止することが難しいことが判明した。2レベル絶縁コンバータにおいては、電源投入時の突入電流に関する課題は既に解決されている。しかし、後述するように2レベル絶縁コンバータにおける解決方法を3レベル絶縁コンバータにそのまま適用することは難しい。
【0007】
この開示は、突入電流が大きくなることが防止できる電力変換装置、制御方法、制御プログラム、および制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この開示の第1の局面に係る電力変換装置は、第1コイルおよび第2コイルを持つトランスと、前記第1コイルに接続された第1ブリッジ回路と、前記第2コイルに接続された第2ブリッジ回路と、定常時に、前記第1ブリッジ回路および前記第2ブリッジ回路を制御して、前記第1コイルおよび前記第2コイルに、それぞれ3レベルを持つ第1波形および2レベルを持つ第2波形となるように制御された電圧を所定の周期により周期的に印加することにより、前記トランスを介して前記第1コイルと前記第2コイルとの間の電力変換を行う制御回路とを含む電力変換装置であって、前記制御回路は、前記電力変換装置の起動時に、前記第1コイルおよび前記第2コイルに印加される電圧波形を前記2レベルに保ち、前記第1コイルおよび前記第2コイルに電圧が印加される期間が、第1期間となるまで増加するよう、前記第1ブリッジ回路および前記第2ブリッジ回路を制御する第1制御部と、前記第1制御部による制御の終了後、前記第2ブリッジ回路により前記第2コイルに電圧が印加される期間を前記第1期間に保ち、前記第1コイルに電圧が印加される期間が前記第1期間より短い第2期間となるまで変化するように、かつ前記第1コイルに印加される電圧波形が前記第1波形になるまで変化するように、前記第1ブリッジ回路および前記第2ブリッジ回路を制御する第2制御部と、前記第2制御部による制御の終了後、前記第1コイルおよび前記第2コイルに印加される電圧波形の位相差が所定の値となるまで、前記第2コイルに電圧が印加される期間を移動させた後、前記第1コイルに印加される前記電圧波形と前記第2コイルに印加される前記電圧波形との位相差が定常的に前記所定の値に保たれるように、前記第1ブリッジ回路および前記第2ブリッジ回路を制御する第3制御部とを含む。
【0009】
この開示は、このような特徴的な処理部を備える電力変換装置および制御装置として実現できるだけでなく、係る特徴的な処理をステップとする電力変換方法および制御方法として実現したり、係るステップをコンピュータに実行させるためのプログラムとして実現したりできる。また、この開示は、電力変換装置および制御装置の一部または全部を実現する半導体集積回路として実現したり、電力変換装置または制御装置を含む電力変換システムとして実現したりできる。
【0010】
この開示の上記および他の目的、特徴、局面および利点は、添付の図面と関連して理解されるこの開示に関する次の詳細な説明から明らかとなるであろう。
【発明の効果】
【0011】
以上のようにこの開示によると、突入電流が大きくなることが防止できる電力変換装置、制御方法、制御プログラム、および制御装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、この開示の第1実施形態に係る電力変換回路である絶縁コンバータの回路ブロック図である。
図2図2は、図1に示す絶縁コンバータのトランスを定常状態において駆動する1次側電圧および2次側電圧の波形を示す波形図である。
図3図3は、従来の2レベル絶縁コンバータにおけるソフトスタート技術をそのまま3レベル絶縁コンバータに適用する方法を模式的に示す図である。
図4図4は、図3に示す技術を3レベル絶縁コンバータに適用したときの電力変換を説明するための波形図である。
図5図5は、第1実施形態に係るソフトスタート技術の第1ステップを示す模式的波形図である。
図6図6は、第1実施形態に係るソフトスタート技術の第1ステップの最後の状態を示す模式的波形図である。
図7図7は、第1実施形態に係るソフトスタート技術の第2ステップを示す模式的波形図である。
図8図8は、第1実施形態に係るソフトスタート技術の第3ステップを示す模式的波形図である。
図9図9は、図7に示す第2ステップの詳細を示す模式的波形図である。
図10図10は、第1実施形態に係る絶縁コンバータの各スイッチング素子を制御するための制御回路の機能ブロック図である。
図11図11は、制御回路を実現するMCU(Micro Controller Unit)のハードウェア構成を示すブロック図である。
図12図12は、制御回路が絶縁コンバータのソフトスタートを実現するために実行するプログラムのメインルーチンの制御構造を示すフローチャートである。
図13図13は、図12に示すソフトスタートモード0を実現するプログラムの制御構造を示すフローチャートである。
図14図14は、図12に示すソフトスタートモード1を実現するプログラムの制御構造を示すフローチャートである。
図15図15は、図12に示すソフトスタトートモード2を実現するプログラムの制御構造を示すフローチャートである。
図16図16は、第1実施形態に係る絶縁コンバータのシミュレーションの設定を表敬式により示す図である。
図17図17は、3レベル絶縁コンバータをソフトスタートすることなく起動したときの電力変換のシミュレーション結果を示すグラフである。
図18図18は、2レベル絶縁コンバータにおけるソフトスタート技術を3レベル絶縁コンバータにそのまま適用したときのシミュレーション結果を示すグラフである。
図19図19は、第1実施形態に係るソフトスタート技術を適用した3レベル絶縁コンバータの起動時のグラフである。
図20図20は、第1実施形態の第1変形例における第2ステップの波形の変形を示す模式的波形図である。
図21図21は、第1実施形態の第2変形例における第3ステップの波形の変形方法を示す模式的波形図である。
図22図22は、第2実施形態に係る電力変換回路である絶縁コンバータの回路ブロック図である。
図23図23は、図22に示す中点スイッチの詳細図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[本開示の実施形態の説明]
以下の説明および図面では、同一の部品には同一の参照番号を付してある。したがって、それらについての詳細な説明は繰返さない。なお、以下に記載する実施形態の少なくとも一部を任意に組み合わせてもよい。
【0014】
(1)この開示の第1の局面に係る電力変換装置は、第1コイルおよび第2コイルを持つトランスと、前記第1コイルに接続された第1ブリッジ回路と、前記第2コイルに接続された第2ブリッジ回路と、定常時に、前記第1ブリッジ回路および前記第2ブリッジ回路を制御して、前記第1コイルおよび前記第2コイルに、それぞれ3レベルを持つ第1波形および2レベルを持つ第2波形となるように制御された電圧を所定の周期により周期的に印加することにより、前記トランスを介して前記第1コイルと前記第2コイルとの間の電力変換を行う制御回路とを含む電力変換装置であって、前記制御回路は、前記電力変換装置の起動時に、前記第1コイルおよび前記第2コイルに印加される電圧波形を前記2レベルに保ち、前記第1コイルおよび前記第2コイルに電圧が印加される期間が、第1期間となるまで増加するよう、前記第1ブリッジ回路および前記第2ブリッジ回路を制御する第1制御部と、前記第1制御部による制御の終了後、前記第2ブリッジ回路により前記第2コイルに電圧が印加される期間を前記第1期間に保ち、前記第1コイルに電圧が印加される期間が前記第1期間より短い第2期間となるまで変化するように、かつ前記第1コイルに印加される電圧波形が前記第1波形になるまで変化するように、前記第1ブリッジ回路および前記第2ブリッジ回路を制御する第2制御部と、前記第2制御部による制御の終了後、前記第1コイルおよび前記第2コイルに印加される電圧波形の位相差が所定の値となるまで、前記第2コイルに電圧が印加される期間を移動させた後、前記第1コイルに印加される前記電圧波形と前記第2コイルに印加される前記電圧波形との位相差が定常的に前記所定の値に保たれるように、前記第1ブリッジ回路および前記第2ブリッジ回路を制御する第3制御部とを含む。この構成により、第1コイルに3レベルを持つ第1波形を印加する電力変換装置の電源投入時に、突入電流が発生することが防止できる。
【0015】
(2)上記(1)において、前記第1コイルに印加される電圧波形は、実質的に電圧が0である第1レベル期間と、実質的に電圧の絶対値が第1電圧である第2レベル期間と、実質的に電圧の絶対値が前記第1電圧より高い第2電圧である第3レベル期間とを持つ。この構成により、第1コイルに第1レベル期間、第2レベル期間、および第3レベル期間を持つ第1波形を印加する電力変換装置の電源投入時に、突入電流が発生することが防止できる。
【0016】
(3)上記(2)において、前記第3レベル期間の前後は前記第2レベル期間である。この構成により、第1コイルに3レベルを持つ第1波形を印加する電力変換装置の電源投入時に、突入電流が発生することが防止できる。
【0017】
(4)上記(3)において、前記第1期間は前記所定の周期の半分の期間であり、前記第1期間、前記第2レベル期間および前記第3レベル期間の中央は互いに一致してもよい。この構成により、第1コイルに3レベルを持つ時間的に対称的な第1波形を印加する電力変換装置の電源投入時に、突入電流が発生することが防止できる。
【0018】
(5)上記(2)から上記(4)のいずれか1つにおいて、前記第2制御部は、前記第2制御部は、前記第3レベル期間が前記第2期間になるように、前記第1コイルに印加される前記電圧波形の前記第1レベル期間を拡大させた後、前記第3レベル期間が前記第2期間より短い第3期間になるまで、前記第1コイルに印加される前記電圧波形の前記第2レベル期間を拡大させる。この構成により、第1コイルに3レベルを持つ第1波形を印加する電力変換装置の電源投入時に、電力変換装置に流れる電流の変化が滑らかになり、突入電流が発生することが防止できる。
【0019】
(6)上記(2)から上記(4)のいずれか1つにおいて、前記第2制御部は、前記第1レベル期間と、前記第1レベル期間および前記第2レベル期間の和との比を一定に保ちながら、前記第2レベル期間と前記第3レベル期間との和が前記第2期間となるまで、前記第1コイルに印加される前記電圧波形を変化させる。この構成により、第1コイルに3レベルを持つ第1波形を印加する電力変換装置の電源投入時に、電力変換装置に流れる電流の変化が滑らかになり、突入電流が発生することが防止できる。
【0020】
(7)上記(2)から上記(4)のいずれか1つにおいて、前記第2制御部は、前記第3レベル期間が前記第2期間より短い第3期間になるように、前記第1コイルに印加される前記電圧波形の前記第2レベル期間を拡大した後、前記第3レベル期間を保ちながら、前記第2レベル期間が前記第2期間となるまで縮小するよう、前記第1コイルに印加される前記電圧波形を変化させる。この構成により、第1コイルに3レベルを持つ第1波形を印加する電力変換装置の電源投入時に、電力変換装置に流れる電流の変化が滑らかになり、突入電流が発生することが防止できる。
【0021】
(8)この開示の第2の局面に係る電力変換装置の制御方法は、第1コイルおよび第2コイルを持つトランスと、前記第1コイルに接続された第1ブリッジ回路と、前記第2コイルに接続された第2ブリッジ回路とを含む電力変換装置の制御方法であって、前記電力変換装置は、定常時に、前記第1ブリッジ回路および前記第2ブリッジ回路を制御して、前記第1コイルおよび前記第2コイルに、それぞれ3レベルを持つ第1波形および2レベルを持つ第2波形となるように制御された電圧を所定の周期により周期的に印加することにより、前記トランスを介して前記第1コイルと前記第2コイルとの間の電力変換を行い、前記方法は、コンピュータが、前記電力変換装置が起動されたことに応答して、前記第1コイルおよび前記第2コイルに印加される電圧波形を前記2レベルに保ち、前記第1コイルおよび前記第2コイルに電圧が印加される期間が、第1期間となるまで増加するよう、前記第1ブリッジ回路および前記第2ブリッジ回路を制御する第1ステップと、コンピュータが、前記第1ステップの終了後、前記第2ブリッジ回路により前記第2コイルに電圧が印加される期間を前記第1期間に保ち、前記第1コイルに電圧が印加される期間が前記第1期間より短い第2期間となるまで変化するように、かつ前記第1コイルに印加される電圧波形が前記第1波形になるまで変化するように、前記第1ブリッジ回路および前記第2ブリッジ回路を制御する第2ステップと、コンピュータが、前記第2ステップの終了後、前記第1コイルおよび前記第2コイルに印加される電圧波形の位相差が所定の値となるまで、前記第2コイルに電圧が印加される期間を移動させた後、前記第1コイルに印加される前記電圧波形と前記第2コイルに印加される前記電圧波形との位相差が定常的に前記所定の値に保たれるように、前記第1ブリッジ回路および前記第2ブリッジ回路を制御する第3ステップとを含む。この構成により、第1コイルに3レベルを持つ第1波形を印加する電力変換装置の電源投入時に、突入電流が発生することが防止できる。
【0022】
(9)この開示の第3の局面に係る電力変換装置の制御プログラムは、第1コイルおよび第2コイルを持つトランスと、前記第1コイルに接続された第1ブリッジ回路と、前記第2コイルに接続された第2ブリッジ回路とを含む電力変換装置の制御プログラムであって、前記電力変換装置は、定常時に、前記第1ブリッジ回路および前記第2ブリッジ回路を制御して、前記第1コイルおよび前記第2コイルに、それぞれ3レベルを持つ第1波形および2レベルを持つ第2波形となるように制御された電圧を所定の周期により周期的に印加することにより、前記トランスを介して前記第1コイルと前記第2コイルとの間の電力変換を行い、前記プログラムは、前記電力変換装置が起動されたことに応答して、前記第1コイルおよび前記第2コイルに印加される電圧波形を前記2レベルに保ち、前記第1コイルおよび前記第2コイルに電圧が印加される期間が、第1期間となるまで増加するよう、前記第1ブリッジ回路および前記第2ブリッジ回路を制御する第1ステップと、前記第1ステップの終了後、前記第2ブリッジ回路により前記第2コイルに電圧が印加される期間を前記第1期間に保ち、前記第1コイルに電圧が印加される期間が前記第1期間より短い第2期間となるまで変化するように、かつ前記第1コイルに印加される電圧波形が前記第1波形になるまで変化するように、前記第1ブリッジ回路および前記第2ブリッジ回路を制御する第2ステップと、前記第2ステップの終了後、前記第1コイルおよび前記第2コイルに印加される電圧波形の位相差が所定の値となるまで、前記第2コイルに電圧が印加される期間を移動させた後、前記第1コイルに印加される前記電圧波形と前記第2コイルに印加される前記電圧波形との位相差が定常的に前記所定の値に保たれるように、前記第1ブリッジ回路および前記第2ブリッジ回路を制御する第3ステップとを実行するようにコンピュータを機能させる。この構成により、第1コイルに3レベルを持つ第1波形を印加する電力変換装置の電源投入時に、突入電流が発生することが防止できる。
【0023】
(10)この開示の第4の局面に係る制御装置は、第1コイルおよび第2コイルを持つトランスと、前記第1コイルに接続された第1ブリッジ回路と、前記第2コイルに接続された第2ブリッジ回路とを含む電力変換装置において、定常時に、前記第1ブリッジ回路および前記第2ブリッジ回路を制御して、前記第1コイルおよび前記第2コイルに、それぞれ3レベルを持つ第1波形および2レベルを持つ第2波形となるように制御された電圧を所定の周期により周期的に印加することにより、前記トランスを介して前記第1コイルと前記第2コイルとの間の電力変換を行う制御装置であって、前記電力変換装置の起動時に、前記第1コイルおよび前記第2コイルに印加される電圧波形を前記2レベルに保ち、前記第1コイルおよび前記第2コイルに電圧が印加される期間が、第1期間となるまで増加するよう、前記第1ブリッジ回路および前記第2ブリッジ回路を制御する第1制御部と、前記第1制御部による制御の終了後、前記第2ブリッジ回路により前記第2コイルに電圧が印加される期間を前記第1期間に保ち、前記第1コイルに電圧が印加される期間が前記第1期間より短い第2期間となるまで変化するように、かつ前記第1コイルに印加される電圧波形が前記第1波形になるまで変化するように、前記第1ブリッジ回路および前記第2ブリッジ回路を制御する第2制御部と、前記第2制御部による制御の終了後、前記第1コイルおよび前記第2コイルに印加される電圧波形の位相差が所定の値となるまで、前記第2コイルに電圧が印加される期間を移動させた後、前記第1コイルに印加される前記電圧波形と前記第2コイルに印加される前記電圧波形との位相差が定常的に前記所定の値に保たれるように、前記第1ブリッジ回路および前記第2ブリッジ回路を制御する第3制御部とを含む。この構成により、第1コイルに3レベルを持つ第1波形を印加する電力変換装置の電源投入時に、突入電流が発生することが防止できる。
【0024】
[本開示の実施形態の詳細]
本開示の実施形態に係る電力変換装置、制御方法、制御プログラム、および制御装置の具体例を、以下に図面を参照しつつ説明する。なお、本開示はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【0025】
1.第1実施形態
A.構成
図1に、この開示の第1実施形態に係る電力変換回路である絶縁コンバータ50の回路図を示す。図1を参照して、絶縁コンバータ50は、漏れインダクタンス62を持つトランス64と、1次側の入力端子68および入力端子70、ならびにトランス64の第1コイルである1次側コイルに接続され、一次側コイルに所定の周期により変化する電圧を印加する3レベルの1次側フルブリッジ回路60、すなわち第1ブリッジ回路と、出力端子72および出力端子74、ならびにトランス64の第2コイルである2次側端子に接続された2レベルの2次側フルブリッジ回路66、すなわち第2ブリッジ回路とを含む。
【0026】
1次側フルブリッジ回路60は、入力端子68および入力端子70の間にノード84を介して直列に接続されたコンデンサ80およびコンデンサ82と、入力端子68および入力端子70の間にノード88を介して直列に接続されたスイッチング素子S1およびスイッチング素子S4と、同様に入力端子68と入力端子70の間にノード90を介して直列に接続されたスイッチング素子S5およびスイッチング素子S8とを含む。ノード88はトランス64の1次側端子の第1端子に接続される。ノード90はトランス64の1次側端子の第2端子に接続される。スイッチング素子S1およびスイッチング素子S4は1次側フルブリッジ回路60の第1レグを形成する。スイッチング素子S5およびスイッチング素子S8は1次側フルブリッジ回路60の第2レグを構成する。
【0027】
1次側フルブリッジ回路60はさらに、ノード84、ノード88およびノード90に接続された、1次側フルブリッジ回路60における3レベル制御に必要な中点スイッチ86を含む。中点スイッチ86は、ノード88およびノード84を接続する配線上に直列に接続されたスイッチング素子S2およびスイッチング素子S3と、ノード90およびノード84を接続する配線上に直列に接続されたスイッチング素子S6およびスイッチング素子S7を含む。
【0028】
2次側フルブリッジ回路66は、出力端子72および出力端子74の間にノード102を介して直列に接続されたスイッチング素子S9およびスイッチング素子S10と、出力端子72および出力端子74の間にノード104を介して直列に接続されたスイッチング素子S11およびスイッチング素子S12とを含む。スイッチング素子S9およびスイッチング素子S10は第1レグを形成する。スイッチング素子S11およびスイッチング素子S12は第2レグを形成する。
【0029】
図2に、図1に示す1次側フルブリッジ回路60により生成される、トランス64の1次側電圧波形150と、2次側フルブリッジ回路66により生成される、トランス64の2次側電圧波形152とを示す。1次側電圧波形150および2次側電圧波形152は、所定の周期により位相が0から2πまで変化する周期的波形である。1周期の前半の波形160と後半の波形162とは、電圧=0の直線を挟んで上下対称である。2次側電圧波形152は波形160よりも位相φだけ遅れている。2次側電圧波形152の前半の波形164と、後半の波形166は、電圧=0の直線を挟んで上下対称である。
【0030】
1次側電圧波形150の1周期の先頭の位相を0とすると、波形160の電圧は、位相0から位相αまでの第1レベルの期間170は0ボルト(V)、位相αから位相βまでの第2レベルの期間172はV1/2(V)、位相βから位相π-βまでの第3レベルの期間174は電圧V1(V)、位相π-βから位相π-αまでの第2レベルの期間176はV1/2(V)、そして位相π-αから位相πまでの第1レベルの期間178は0(V)である。後半の波形162は波形160の位相にπを加えること、および電圧の符号が逆転することを除き、波形160と同じ形である。1次側電圧波形150は以下この波形160および波形162を同じ周期により繰り返す。
【0031】
1次側電圧波形150の1周期の先頭の位相を0とすると、2次側電圧波形152の前半の波形164の電圧は、位相φから位相π+φまではV2(V)、位相π+φから位相2π+φまでは-V2(V)である。2次側電圧波形152は、以下この波形164および波形166を、1次側電圧波形150より位相φだけ遅れて、1次側電圧波形150と同じ周期により繰り返す。絶縁コンバータ50の各スイッチング素子を基本的にこの波形に従って駆動することにより、絶縁コンバータ50に所望の電圧変換動作を行わせることが可能であること、およびどのように各スイッチング素子を駆動すればこうした波形が得られるかについては既に知られているため、このではその詳細は繰り返さない。
【0032】
ここで、従来の2レベル絶縁コンバータにおいてソフトスタートを実現する手法について説明する。すなわち従来は、最初に1次側および2次側の双方において、図2に示す波形164の幅を縮めたパルスを生成し、次第にそのパルスの幅を拡大させながらトランス64を駆動する。そして、双方のパルス幅が半周期に達した後に、2次側の波形の位相を1次側の波形に対して次第に遅らせながら、トランス64を駆動する。そして、位相のずれが所望の値(たとえばφ)となった後、定常時の動作を開始する。
【0033】
こうした手法をこの第1実施形態に係る構成を持つ絶縁コンバータ50に単純に適用する方法を、図3を参照して説明する。なお、図2の下段については従来の方法がそのまま適用できる。また図2に示す1次側電圧波形150の各周期の前半と後半とは全く同じ考え方を適用すればよい。したがって、以下の説明においては、1次側電圧波形150の最初の半周期のみについて説明する。
【0034】
図3を参照して、電源が投入されると、最初に図2に示す波形160の幅を縮小した波形200を生成する。次に、この波形200の幅をわずかずつ広げながらトランス64を駆動し、図2に示す波形160と同じ波形が得られるまでこうした処理を行う。波形200は電圧V1/2の底部210と、その中央部に積み重ねた電圧V1/2の上部212からなると考えることができる。従来の手法をそのまま適用すれば、底部210の幅と上部212の幅とを図2に示す波形160における底部と上部との比と同じ値に保ったまま、その左右を広げて行くことになる。こうして波形160と同じ波形が得られた後、定常的な電力変換処理が開始される。
【0035】
しかし、こうした手法の場合、以下のような改善すべき点がある。すなわち、ソフトスタート時には電力の伝達が行われないことが前提となっている。しかし、上記した従来の手法をそのまま使用した場合、絶縁コンバータ50においては、以下に説明するようにソフトスタート時の間にも電力の伝達が行われてしまう。その理由は以下のとおりである。なお、以下の説明においては説明を簡略にするため、便宜的に1次側電圧V1と2次側電圧V2とは等しいものとする。
【0036】
従来の2レベル-2レベル電力変換器の電力伝達式は以下の通りとなる。ただし、以下の式においてPは電力[W]、V1は1次側電圧[V]、V2は2次側電圧[V]、nはトランス巻数比、ωはスイッチング素子のスイッチング角速度[rad]、Llkは漏れインダクタンス[H]、φは1次側と2次側の位相差[rad]である。
【数1】
【0037】
この式から、2レベル-2レベルの電力変換器においては、位相差φ=0の状態における電力伝達は0Wであり、電流も伝達されない。
【0038】
一方、3レベル-2レベルの電力変換器における電力伝達は以下の四季により示される。この式において、α、βは図2に示した位相[rad]を示す。
【数2】
【0039】
この式から分かるように3レベル-2レベルの電力変換器の場合には、φを0としてもαおよびβの項が残る。そのため、1次側から2次側に伝達される電力Pは0とならず電力が伝達されてしまう。
【0040】
以上の事情を具体的に説明する。図4を参照して、ソフトスタート中の1次側波形252と2次側波形250とを比較する。1周期の前半において、位相0からαまでの期間260、位相αからβまでの期間262、位相βから位相π-βまでの期間264、位相π-βから位相π-αまでの期間266、および位相π-αから位相πまでの期間268に着目する。期間264においては、1次側波形252と2次側波形250の電圧は同じである。しかし期間260および期間268においてはその差の絶対値はV2、期間262および期間266においてはその差の絶対値はV2-V1/2である。すなわち、トランス64の1次側コイルと2次側コイルとの間の電圧に差が生ずる期間がある。
【0041】
これは周期の後半についても同様である。すなわち、位相πからπ+αまでの期間270、位相π+αからπ+βまでの期間272、位相π+βから位相2π-βまでの期間274、位相2π-βから位相2π-αまでの期間276、および位相2π-αから位相2πまでの期間278に着目する。期間274においては、1次側波形256と2次側波形254の電圧は同じである。しかし期間270および期間278においてはその差の絶対値はV2、期間272および期間276においてはその差の絶対値はV2-V1/2である。すなわち、トランス64の1次側コイルと2次側コイルとの間の電圧に差が生ずる期間がある。
【0042】
このような電圧の差により、ソフトスタート中に電力の伝送が生じてしまう。
【0043】
この開示の第1実施形態に係る絶縁コンバータ50においては、以下のような構成によりこうした状態を回避する。すなわち、図5を参照して、図3の場合と異なり、絶縁コンバータ50の起動時に、1周期の前半においてはそれぞれ電圧V1および電圧V2の、同一の幅を持つ単純な矩形の波形300および波形302を半周期の中央に生成し、後半においてはそれぞれ電圧-V1および電圧-V2の同一な幅を持つ単純な矩形の波形304および波形306を半周期の中央に生成する。そして、これらの波形の幅がそれぞれ半周期に達するまで時間の関数として波形の幅を順に広げていく。なお、この明細書において「起動時」とは、装置の電源投入に伴って運転を開始するときだけではなく、運転を一時停止した後に運転を再開するときも含む。
【0044】
図6に、それぞれ幅が半周に達したときの1次側の前半の半周期の波形350および後半の半周期の波形354と、2次側の前半の半周期の波形352および後半の半周期の波形356を示す。ここまでの絶縁コンバータ50の動作は、従来の2レベル絶縁コンバータのソフトスタートと同様である。
【0045】
続いて、図7を参照して、2次側の波形352および波形354を図6に示したものと同一に保ちながら、1次側の前半周期の波形を、図2に示す波形160と同じ波形400となるように、かつ1次側の後半周期の波形を、図2に示す波形162と同じ波形402となるように、すなわち、1周期ないにおいてこれら波形が変化する部分の時刻が所定の値となるように、1次側の電圧を徐々に時間の関数として変化させる。このような波形の変化は様々な手法により実現できる。この実施形態における手法は以下のとおりである。以下の説明は前半の波形400に関するものである。
【0046】
図6および図7を参照して、この実施形態においては、図6に示す波形350の先頭部分を位相0から位相αまで、また後端部分を位相πから位相π-αまで、徐々に時間の関数として移動させる。すなわち、電圧が0の領域を半周期の両端から中央に向けて拡大することにより、波形350の電圧がV1である部分の幅を小さくする。この結果、図7に示す期間410および期間418に示すように、1次側の電圧が0となる期間が生じる。この様子を図9の上段に示す。図9には、幅が縮小される過程における波形450を示す。
【0047】
続いて、1次側フルブリッジ回路60のスイッチング素子の切り替えタイミングを調整することにより、位相αから位相βまで、また後端部分を位相π-αから位相π-βまで、電圧がV1/2を保つようにしながら、電圧がV1となる部分を時間の関数として移動させる。すなわち、電圧がV1となる期間414の先頭が位相αから位相βまで、および位相π-αから位相π-βまで移動するように、波形400の上半分の幅を徐々に時間の関数として縮小させる。この様子を図9の下段に示す。図9の下段に示す波形452がその途中を示す。図9に示すように、波形450の両端の位置を維持しながら、電圧がV1/2となる領域を波形452の両端から中央に向けて拡大する。波形452の底部はその幅が一定に保たれるのに対し、上部の幅は徐々に時間の関数として狭くなる。すなわち、図7に示す期間412および期間416が広がって期間414が短くなる。その結果、図8に示す最終的な波形400が得られる。
【0048】
こうした処理は図8に示す1周期の後半の波形402についても同様である。図8に得られた波形が得られることにより、絶縁コンバータ50のソフトスタートが終了し、定常状態の動作が開始される。
【0049】
なお、この実施形態に係る絶縁コンバータ50の1次側は例えば蓄電池などに接続され、2次側は負荷に接続されることが想定されている。また2次側は系統電力にも接続される。そして絶縁コンバータ50の動作としては、絶縁コンバータ50の2次側が系統に接続されているとき(連係時)の動作と、絶縁コンバータ50が系統と切り離されたとき(自立運転時)の動作とがある。
【0050】
図10に、図1に示す絶縁コンバータ50の各スイッチング素子を駆動するための制御信号を生成する制御回路500の機能的構成を示す。図10を参照して、制御回路500は、絶縁コンバータ50の定常動作時に、2次側電圧が所望の値V2となるように1次側の位相を定めるパラメータαおよびパラメータβをフィードバックにより生成するためのタイミング制御部510と、絶縁コンバータ50の定常動作時に、1次側波形と2次側波形との位相差φをフィードバック制御するための位相差制御部512とを含む。制御回路500はさらに、上記したソフトスタート時のパラメータα、パラメータβおよび位相差φを演算するための初期起動演算部514と、初期起動時には初期起動演算部514の出力するパラメータパラメータα、パラメータβ、および位相差φを選択し、ソフトスタートの終了後にはタイミング制御部510の出力するパラメータα、パラメータβおよび位相差φを選択して出力するためのセレクタ516とを含む。制御回路500はさらに、セレクタ516の出力するパラメータα、パラメータβおよび位相差φを受け、図1に示すスイッチング素子Sからスイッチング素子S12を駆動するPWM(Pulse Width Modulation)制御信号を出力するためのPMW制御部518を含む。PMW制御部518はパラメータα、パラメータβおよび位相差φが与えられると、それらの値が実現されるように1次側および2次側のスイッチング素子S1からスイッチング素子S12の各々についてのオンおよびオフのタイミングを規定するPWM制御信号を出力する機能を持つ。PMW制御部518のこの機能については既に確立された技術である。
【0051】
タイミング制御部510は、1次側電圧の計測値VM1と2次側電圧の計測値VM2を入力として、2次側電圧が所望の値V2となるようにフィードバックによりパラメータαおよびパラメータβの演算を行いセレクタ516に入力するための演算部540を含む。
【0052】
位相差制御部512は、連系時制御部560と、自立運転制御部562と、絶縁コンバータ50が系統に接続されているときには連系時制御部560を選択して絶縁コンバータ50を制御させ、自立運転時には自立運転制御部562を選択して絶縁コンバータ50を制御させるためのセレクタ564とを含む。
【0053】
連系時制御部560は、位相φに対する1次側電流定電流制御を行う。すなわち、連系時制御部560は、通常の電流目標値I*を受け、出力電流I1に関し、電流目標値I*に対するPI制御により位相φをフィードバック制御する。
【0054】
自立運転制御部562は、位相φに対する2次側電圧定電圧制御を行う。すなわち、自立運転制御部562は、絶縁コンバータ50の2次側測定電圧値VM2を使用して、電圧目標値V*に対するPI制御により電流目標値I*を得る。自立運転制御部562はさらに、この電流目標値I*に対するPI制御による電流フィードバック制御のマイナーループにより、位相φをフィードバック制御する。
【0055】
図11に、制御回路500を実現するMCU580のハードウェア構成を示す。図11を参照して、このMCU580は、プロセッサであるMPU(Micro Processing Unit)602と、MPU602が接続される高速バス600と、高速バス600に接続されたSRAM(Static Random Access Memory)604と、高速バス600に接続されたフラッシュメモリ606と、高速バス600に接続されたROM(Read-Only Memory)608とを含む。SRAM604には、プログラムの実行に必要なデータなどが保持される。フラッシュメモリ606には、制御回路500が実現する機能を実現するためのプログラム626が記憶される。ROM608にはMPU602のブートアッププログラムなどが記憶される。
【0056】
MCUはさらに、高速バス600にブリッジ612を介して接続された低速バス610と、いずれも低速バス610に接続されたシリアルI/F(Interface)614、ADC(Analog-to-Digital Converter)616、タイマ・カウンタ618、クロック発生器620、電源制御部622および汎用I/F624を含む。クロック発生器620はMCU580の動作を規定する一定周波数のクロック信号を出力する機能を持つ。タイマ・カウンタ618は、プログラムからの指示に従ったタイミングによりPMW制御信号を発生したり、各種センサの出力の取り込みタイミングを示す信号を出力したり、その他、MPU602がプログラムを実行し絶縁コンバータ50を制御するために必要な各種のタイミングを発生したりする機能を持つ。
【0057】
絶縁コンバータ50の各所に設けられた、図示しない電圧センサおよび電流センサの出力は、ADC616を介してMCU580に入力される。各PWM制御信号は、汎用I/F624を介してMCU580から出力される。
【0058】
なお、MCUの動作はよく知られており、実施形態において意味があるのはその実行するプログラムの機能なので、以下の説明においてはMCU自体の動作については説明しない。
【0059】
B.プログラム構成
図12に、この実施形態に係る制御回路500(図11に示すMCU580)により実行される、絶縁コンバータ50のソフトスタート時の動作を制御するプログラムのメインルーチンの制御構造を示す。なお、このプログラムにおいては、ソフトスタートを行うか否かが予めハードウェアスイッチまたはSRAM604に記憶された変数の値により指定可能であるものとする。また、上記したように、この実施形態に係るソフトスタートは、1次側および2次側の双方において矩形の波形を動作サイクルの半周期まで拡大するステップと、1次側において半周期まで拡大された矩形の波形を、3レベル波形に整形するステップと、1次側の3レベル波形と2次側の2レベル波形との位相差が所望の値となるまで、2次側の波形を1次側の波形に対してずらすステップという3つのステップを含む。以下の説明においては、絶縁コンバータ50の制御が上記した3つのステップのどの状態にあるかを示す変数としてソフトスタートモード(以下、記載を簡明にするために「モード」という。)という変数を用意する。すなわち、第1制御部としての制御を行うステップ1はモード=0により表し、第2制御部としての制御を行うステップ2はモード=1により表し、第3制御部としての制御を行うステップ3はモード=2により表す。なお、モード=0の動作モードを単にモード0と呼ぶ。モード1およびモード2も同様である。
【0060】
なお、以下に説明するプログラムは、1次側の各スイッチングを制御するためのものである。2次側については、モード1において特に何も設定に変更を行わず、モード0の最後の状態を維持することを除き、1次側のプログラムをそのまま適用すればよい。
【0061】
図12を参照して、このプログラムは、絶縁コンバータ50の電源が投入されたことに応答して起動し、ソフトスタート処理を開始するステップ650と、モードに0を代入するステップ652と、ソフトスタートを実行することが指定されているか否かに従って制御の流れを分岐させるステップ654とを含む。
【0062】
このプログラムはさらに、ステップ654における判定が否定であるときに、連係時から自立運転時かに従って、パラメータαおよびパラメータβ値を演算するステップ656と、ステップ656において得られたパラメータαおよびパラメータβの値を用いて位相差φのフィードバック制御を行うステップ658と、以上のステップにより得られたパラメータα、パラメータβおよび位相差φに従って、スイッチング素子S1からスイッチング素子S12のためのPWM制御を行うようにタイマ・カウンタ618を設定し制御をステップ654に戻すステップ660とを含む。
【0063】
このプログラムはさらに、ステップ654における判定が否定のときに、モードが0、1および2のいずれかを判定し、判定結果に従って制御の流れを分岐させるステップ662と、ステップ662における判定結果に従って、それぞれモード0、モード1、およびモード2のソフトスタート処理をそれぞれ実行するステップ664、ステップ666、およびステップ668とを含む。ステップ664、ステップ666およびステップ668の後、制御はステップ660に進む。
【0064】
図13を参照して、ステップ664は、位相差φを表す変数(この変数もφで表す。)を0に設定するステップ700と、以下の繰り返しを規定する繰り返し制御変数iが90以上か否かに従って制御の流れを分岐させるステップ702とを含む。なお、この実施形態においては、変数iの値は例えば図12に示すステップ650などにおいて0に初期化しておく必要がある。この初期化は、逐一述べることはしないが他の変数についても同様に必要である。
【0065】
ステップ664はさらに、ステップ702における判定が否定的なときに、パラメータαおよびパラメータβの双方を90-iに設定するステップ704と、iに1を加算してステップ664の実行を終了するステップ706とを含む。
【0066】
ステップ664はさらに、ステップ702における判定が肯定的なときに、パラメータαおよびパラメータβに0を代入するステップ708と、変数iに0を代入するステップ710と、モードを1に設定してこのステップ664の実行を終了するステップ712とを含む。
【0067】
図14を参照して、図12のステップ666において実行されるソフトスタートのモード1の処理は、変数φに0を代入するステップ750と、1次側電圧の測定値VM1および2次側電圧の測定値VM2にもとづいて、2次側電圧を所望の値に維持するためのパラメータαおよびパラメータβの目標値を演算するステップ752とを含む。ステップ666はさらに、パラメータαおよびパラメータβを変数jの値に設定するステップ754と、変数jの値がパラメータαの目標値以上か否かに従って制御の流れを分岐させるステップ756と、ステップ756における判定が否定的なときに、変数jの値に1を加算してステップ666の実行を終了するステップ758とを含む。なお、変数jの値は例えば図12のステップ650などにおいて0に初期化しておく。
【0068】
ステップ666はさらに、ステップ756における判定が肯定的なときに、パラメータαをパラメータαの目標値に設定するステップ760と、変数jの値がβの目標値以上か否かに従って制御の流れを分岐させるステップ762とを含む。ステップ762における判定が否定的ならば、制御はステップ758に進む。
【0069】
ステップ666はさらに、ステップ762における判定が肯定的なときに、パラメータβをパラメータβの目標値に設定するステップ764と、変数jの値を0に設定するステップ766と、モードを2に設定してステップ666の実行を終了するステップ768とを含む。
【0070】
図15を参照して、図12のステップ668において実行されるプログラムは、パラメータαおよびパラメータβの演算を実行するステップ800と、フィードバックにより位相差φを演算するステップ802と、フィードバック演算値φを所定の変動量に制限して増加させる変動リミッタ処理を実行するステップ804と、位相差φの指令値が位相差φのフィードバック演算値と一致するか否かに従って制御の流れを分岐させるステップ804とを含む。ステップ806における判定が否定的ならばステップ668の実行は終了される。
【0071】
ステップ668はさらに、ステップ806における判定が肯定的なときに、モードを0に設定するステップ808と、ソフトスタートの終了処理を実行して制御を図12のステップ654に戻すことにより定常時の運転を開始させるステップ810とを含む。ステップ810は、具体的には、ソフトスタートを開始させるか否かに関する変数の値を「開始しない」を表す値に設定する。
【0072】
C.動作
以下、主として図12から図15を参照して、制御回路500、すなわちMCU580の動作を説明する。なお、以下の説明においては、ソフトスタートを行うか否かに関する変数には、ソフトスタートを行うことを示す値が予め記憶されているものとする。また、以下の説明は主として1次側の各スイッチング素子を制御するためのものである。2次側については、モード1において特に動作に関する設定を変更しないことを除きMCU580は、1次側の制御と同様に動作する。
【0073】
図12を参照して、MCU580は、絶縁コンバータ50の電源が投入されたことに応答して起動し、ステップ650においてソフトスタート処理を開始する。このとき、例えば繰り返し制御変数iおよび繰り返し制御変数jは0に設定される。MCU580は、ステップ652において、モードを表す変数に0を代入する。MCU580はさらに、図12に示すステップ654において、ソフトスタートを実行することが指定されているか否かに従って制御の流れを分岐させる。現在の条件によればソフトスタートを実行することが指定されているため、制御はステップ662に進む。
【0074】
MCU580はさらに、ステップ662において、モードが0、1および2のいずれかを判定し、判定結果に従って制御の流れを分岐させる。モードは0に設定されている。したがって制御はステップ664に進む。
【0075】
図13から図15を参照して、ステップ664においてMCU580は以下のように動作する。なお、以下の説明においては、1次側に関するMCU580の動作のみ説明する。2次側に関するMCU580の動作については、モード1における各スイッチング素子の動作がモード0の最後の状態のときと同じ状態に維持されることを除き、1次側と同じである。
【0076】
MCU580は、ステップ700において変数φを0に設定する。続くステップ702においてMCU580は、繰り返し制御変数iの値が90以上か否かを判定する。ここでは変数iの値は0である。したがってステップ702における判定は否定的となり制御はステップ704に進む。ステップ704においてMCU580は、パラメータαおよびパラメータβの双方を90-iに設定する。変数iの値は0であるからパラメータαおよびパラメータβはいずれも90に設定される。MCU580は、続くステップ706において変数iに1を加算してステップ664の実行を終了する。この結果、変数iの値は1となる。したがってパラメータαおよびパラメータβはいずれも90に設定される。制御はステップ660に進み、パラメータαおよびパラメータβ=0、位相差φ=0としてステップ660においてPWM制御が行われ、図1に示すスイッチング素子S1からスイッチング素子S12に対してPWM制御信号が与えられる。なお、初期起動演算部514の各繰り返しにおいてステップ660が必ず実行される。したがって、以下においては、説明を分かりやすくするため、ステップ660の実行に関する説明は繰り返さない。
【0077】
パラメータαおよびパラメータβがいずれも90ということは、図5示す波形300および波形304とも、その位置は各半周期の中央であり、その幅が0であることを意味する。すなわちこの状態においては図5の波形300および波形304は実質的には存在しない。
【0078】
以下、ステップ702からステップ706、および図12に示すステップ660の処理が、変数iの値が90となるまで変数iの値を1ずつ増加させながら繰り返し実行される。その結果、図5に示されるように、1次側の1周期の前半の波形300および後半の波形304は、各半周期の中央から、その幅が位相にして1°ずつ広がるようにして、180°まで広がることになる。変数iの値が90となった時点においてステップ702における判定が肯定的となる。このときの1次側の電圧波形は、図6の波形350および波形352により示されるようにそれぞれ半周期の全体にわたる波形となっている。MCU580は、ステップ708においてパラメータαおよびパラメータβに0を代入し、ステップ710において変数iに0を代入する。すなわち、パラメータα、パラメータβおよび変数iがクリアされる。この後、MCU580は、ステップ712においてモードを1に設定してこのステップ664の実行の繰り返しを終了する。すなわち、ステップ712が終了した時点において、MCU580の動作はモード0からモード1に移行する。制御は図12に示すステップ654に戻り、以後はステップ654における判定が肯定、ステップ662における判定がモード=1ということになり、次からはステップ666のモード1の処理が繰り返し実行される。
【0079】
図14を参照して、モード1の処理に入ると、MCU580は、ステップ750において変数φに0を代入する。MCU580は、ステップ752において、1次側電圧の測定値VM1および2次側電圧の測定値VM2にもとづいて、2次側電圧を所望の値に維持するためのパラメータαおよびパラメータβの目標値を演算する。MCU580はさらに、ステップ754においてパラメータαおよびパラメータβを変数jの値に設定する。ステップ666の最初の実行時には変数jの値は0である。したがってパラメータαおよびパラメータβはいずれも0に設定される。このときの1次側の電圧波形は図6の波形350および波形354により示されるものとなっている。
【0080】
MCU580はさらに、ステップ756において変数jの値がパラメータαの目標値以上か否かに従って制御の流れを分岐させる。ステップ664の最初の実行においては変数jの値は0であり、ステップ756における判定は否定的である。MCU580はステップ758において変数jの値に1を加算してステップ666の実行を終了する。この結果、変数jの値は1となる。この後、制御は図12のステップ660からステップ654およびステップ662を経てステップ666に、すなわち図14のステップ750に戻る。
【0081】
MCU580は、こうした処理を、変数jの値を1ずつ加算しながら、変数jの値がパラメータαの目標値以上になるまで繰り返す。この結果、パラメータαの値が0から1ずつ加算される。1次側の電圧波形は、図9の上段に示されるように、半周期にわたる幅から徐々にその両端が中央よりに移動し、その幅が狭くなっていく。こうして、変数jの値がパラメータαの目標値以上となるとステップ756における判定が肯定的となる。MCU580は、ステップ760においてパラメータαをその目標値に設定する。
【0082】
MCU580はさらに、ステップ762において変数jの値がパラメータβの目標値以上か否かを判定する。パラメータβ>パラメータαであるため、ステップ666が最初に実行されるときはステップ762における判定は否定的となる。制御はステップ758に進み、MCU580はステップ758において変数jの値に1を加算しステップ666の実行を終了する。この後、制御は図12に示すステップ654、ステップ662を経てステップ666に戻り、変数jの値を1としてステップ750以下の処理が実行される。以後、MCU580は、変数jの値がパラメータβの目標値以上となるまで、変数jの値を1ずつ加算しながらステップ666を繰り返し実行する。パラメータαの値はその目標値に固定されている。その結果、図9の下段に示すように、1次側の電圧波形の底部は図9の上段に示した形状に維持されたまま、上段の幅がその両端から中央に向けて徐々に狭くなっていく。
【0083】
こうして、変数jの値がパラメータβの目標値以上となるとステップ762における判定が肯定的となる。MCU580は、ステップ764においてパラメータβをパラメータβの目標値に設定する。MCU580はさらに、ステップ766において、変数jの値を0に設定し、ステップ768においてモードをモード2に設定する。モード2になると、図12のステップ654における判定と、ステップ662における判定とにより、ステップ668の実行が開始される。
【0084】
図15を参照して、ステップ668のステップ800においてMCU580は、図10のタイミング制御部510により示されるように、1次側の測定電圧値VM1および2次側の測定電圧値VM2を使用して、パラメータαおよびパラメータβの演算を実行する。ステップ802においてMCU580は、絶縁コンバータ50が系統に接続されているときには図10に示す連系時制御部560により、自立運転時には自立運転制御部562によりそれぞれ示されるように、位相差φのフィードバック演算を実行する。MCU580はさらに、ステップ804において、フィードバック演算値φの変動量を所定の範囲に制限して増加させる。MCU580は、ステップ804において、位相差φの指令値が位相差φのフィードバック演算値と一致するか否かに従って制御の流れを分岐させる。
【0085】
ステップ666が最初に実行されるときにはステップ806における判定は否定的となる。したがってMCU580はステップ668の処理を終了する。制御は図12のステップ654に戻る。
【0086】
以後、図12のステップ654における判定は肯定的となり、ステップ662における判定の結果、MCU580はステップ668の処理を選択する。すなわちステップ668が繰り返し実行される。この間、1次側の電圧波形と2次側の電圧波形との位相差φが増加していく。すなわち、図8に示す1次側の波形400および波形402と、2次側の波形352および波形354とのコンデンサ80が徐々に拡大していく。そしてステップ806における判定が肯定的となるまと、MCU580は、ステップ808においてモードを0に設定し、ステップ810においてソフトスタートの終了処理を実行して制御を図12のステップ654に戻す。ステップ810においては、具体的には、MCU580はソフトスタートを開始させるか否かに関する変数の値を「開始しない」を表す値に設定する。
【0087】
この後、制御は図12のステップ654に戻る。ソフトスタートを開始しないという設定になったので、以後のステップ654における判定は常に否定的となり、パラメータα、パラメータβおよび位相差φの指定値を用いて、ステップ656、ステップ658およびステップ660が繰り返し実行され、1次側から2次側への電力変換が行われる。
【0088】
C.シミュレーション結果
上記実施形態の効果を検証するため、以下のようなシミュレーションを行った。使用した回路は図1に示されるものとした。シミュレーションの条件を図16に示す。図16を参照して、1次側電圧V1を350V、2次側電圧も350Vとした。トランス64の漏れインダクタンス62、すなわちLlkは40uHとし、トランスの巻数比を1:1とした。図1に図示はしていないが、各スイッチング素子に付加されるスナバ回路の容量を0.1uH、スナバ抵抗を200Ωとし、各スイッチング素子のスイッチング周波数を40kHz、図1に示す1次側フルブリッジ回路60および2次側フルブリッジ回路66のデッドタイムを500nsec、位相αを5°、位相βを40°、1次側と2次側の位相差φを43°とした。
【0089】
なお、以下のシミュレーションにおいては、ソフトスタートの開始から終了までを2msecとした。しかし、実機においては、ソフトスタートの終了までは1msec程度とすれば十分と考えられる。
【0090】
ソフトスタートなしとしたとき、すなわち絶縁コンバータ50の起動時に図12のステップ654における判定が否定となるようにしたときのシミュレーション結果を図17に示す。図17に示すグラフは、上から順にトランス電圧、トランス電流、および電源電流をそれぞれ示す。図17に示すグラフは、いずれも1次側と2次側とを重ねて示してあるため少し分かりにくいが、トランス電流および電源電流がいずれも大きくなっていることが分かる。すなわち、ソフトスタートなしとすると突入電流が発生することが分かる。
【0091】
図18は、2レベル-2レベルの電力変換器におけるソフトスタートを、図2に示される波形160のような一次側電圧を使用する絶縁コンバータ50に適用したときのシミュレーション結果を示す。図2に示すグラフは、上からトランス電圧、トランス電流および電源電流であり、4番目として位相α、位相β、位相差φ、および1次側波形のデューティ比Dの時間的変化のグラフを示す。
【0092】
この例においては、図17に示されるような明らかな突入電流は発生しない。しかし、トランス電流のグラフの領域850の部分、および電源電流のグラフの領域860の部分により示されるように、ソフトスタートの途中の位相差φが増加を始める前後において、一時的に電流が増加した後に減少し、その後に増加に転ずるという現象が発生した。このように電流値が不安定となることは、系統連系時にも自立運転時にも好ましくない。
【0093】
図19に、上記実施形態に従って1次側電圧を制御したときのシミュレーション結果を示す。図19の各グラフは図18の各グラフに対応している。図19から明らかなように、このシミュレーションによれば、突入電流は発生しない。また、図18の領域850および領域860に示すような、電流が不安定となる挙動も発生しせず、電流が滑らかに増加するようにして絶縁コンバータ50を起動できることが分かる。
【0094】
以上のとおり、この実施形態によれば、絶縁コンバータ50のような3レベル-2レベル電力変換回路において、スタート時の3レベル側の波形の変化を工夫することにより、突入電流の発生を防止しながら、スムーズに起動させることができる。
【0095】
D.第1変形例
上記第1実施形態においては、最初に1次側の電圧波形を矩形のまま半周期の全体に拡大させた後、最初にパラメータαに相当する分だけ電圧波形の幅を狭くし、さらにその後に波形の上部の電圧波形の幅をパラメータベータに相当する位置まで狭くすることにより、図2に示す波形160(および波形162)に示すような波形を生成している。しかしこの開示はそのような実施形態には限定されない。
【0096】
この第1変形例においては、図20に示すように、半周期の全体に拡大させた電圧波形を縮小するときに、パラメータαおよびパラメータβに相当する部分だけ、底部と上部とを同時に縮小させることにより一次側の電圧波形900を変形させる。この結果、この変形例においては、波形を縮小するときに、最初から凸部が形成され、徐々に最終的な波形に近づいていく。
【0097】
これを実現するためには、図14に示すプログラムを少し変形するだけでよい。例えば、ステップ754においてパラメータβの値を、変数jの値に設定するのではなく、変数jの値に、一定の値である(パラメータβの目標値)/(パラメータαの目標値)を乗ずる。すなわちパラメータβの値を、(パラメータβの目標値)/(パラメータαの目標値)に設定する。そして、ステップ756における判定が肯定となればステップ760においてパラメータαの値だけではなくパラメータβの値もパラメータβの目標値に設定し、ステップ766およびステップ768を実行する。このとき、パラメータαの値と、パラメータβとの比が一定に保たれながら、第1レベル期間と第2レベル期間とが拡大され、パラメータαおよびパラメータβの値が最終的な目標値と等しくなるまで波形が縮小されていく。最終的な波形の上部の、電圧がV1となる部分の幅は位相にしてπ-2βとなる。
【0098】
このような変形例によっても、上記第1実施形態と同様の効果が得られることは明らかである。
【0099】
E.第2変形例
上記第1実施形態および第1変形例と異なり、最初に位相βに関する変形を1次側波形に生じさせた後、位相αに関連する変形を1次側波形に及ぼすことにより図2に示す波形160(および波形162)を生成することもできる。この第2変形例はそのような例である。
【0100】
すなわち、図21を参照して、半周期の全体に拡大された一次側の波形について、上段に示すようにまず位相差βに相当する分だけ、波形の上部の幅を順次縮小して波形910を得る。すなわち、波形900のうち、電圧がV1/2の部分を両側から、それぞれパラメータβの目標値まで時間の関数として徐々に中央に向けて拡大する。その後、波形の下部、すなわち電圧がV1/2の部分をパラメータαも目標値となるまで時間の関数として順次縮小して最終的な波形912を得ることができる。
【0101】
これを実現するためには、図14に示す左側のステップ754、ステップ756およびステップ758を、最初に位相差βについて実行した後、同じ処理を位相差αについて実行すればよい。
【0102】
このような変形例によっても、上記第1実施形態と同様の効果が得られることは明らかである。
【0103】
F.その他変形例
1次側波形を半周期の全体に拡大した後に3レベルの波形を得るための波形の変形方法は、突入電流が生じずなめらかにトランス電流を増加させることができる限り、自由である。すなわち、上記第1実施形態、第1変形例および第2変形例に示したものと異なるような途中の変形を経て最終的な3レベルの波形を得ることができるものであれば、どのような変形方法を用いてもよい。
【0104】
2.第2実施形態
上記第1実施形態においては、1次側フルブリッジ回路の3レベル制御を行うために図1に示す中点スイッチ86を持つ1次側フルブリッジ回路60を用いている。しかしこの実施形態はそのようなものには限定されない。3レベル制御を行うフルブリッジ回路としては、図22に示すように、ダイオードを含む中点スイッチ974を含む1次側フルブリッジ回路960を用いてもよい。すなわち、第2実施形態に係る電力変換回路である絶縁コンバータ950は、第1実施形態と同様の漏れインダクタンス62、トランス64および2次側フルブリッジ回路66と、中点スイッチ974を持つ1次側フルブリッジ回路960とを含む。
【0105】
図22および図23を参照して、中点スイッチ974において、スイッチング素子S2は、ノード990を介してスイッチング素子S1とノード88との間に接続されている。スイッチング素子S3は、ノード992を介してノード88とスイッチング素子S4との間に接続されている。スイッチング素子S6は、ノード994を介してスイッチング素子S5とノード90との間に接続されている。スイッチング素子S7は、ノード996を介してノード90とスイッチング素子S8との間に接続されている。
【0106】
中点スイッチ974はさらに、ノード992ノード990の間に、ノード980を介してこの方向に直列に接続されたダイオード1002およびダイオード1000と、ノード996とノード994との間に、ノード982を介してこの方向に直列に接続されたダイオード1006およびコンデンサ1004とを含む。ノード980はノード970においてコンデンサ80およびコンデンサ82の接続点に接続される。ノード982はノード972においてコンデンサ80およびコンデンサ82の接続点に接続される。
【0107】
このような構成を持つ絶縁コンバータ950は第1実施形態に係る絶縁コンバータ50(図1を参照)と全く同様に各スイッチング素子を駆動することにより、絶縁コンバータ50と同様の3レベル電力変換が可能なことが知られている。したがって、この絶縁コンバータ950においても、第1実施形態と同様のプログラムにより、第1実施形態と同様に動作し、したがって同様の効果を得ることができる。
【0108】
なお、DAB方式の電力変換装置については、前述したとおり、双方向の電力変換が可能である。上記実施形態においても、2次側を3レベルの電圧波形とすることもできる。この場合、上記したソフトスタートは、位相差φが逆となることを除き、上記した実施形態と全く同様に実現できる。
【0109】
上述の実施形態の各処理(各機能)は、1または複数のプロセッサを含む処理回路(Circuitry)により実現される。上記処理回路は、上記1または複数のプロセッサに加え、1または複数のメモリ、各種アナログ回路、各種デジタル回路が組み合わされた集積回路などにより構成されてもよい。上記1または複数のメモリは、上記各処理を上記1または複数のプロセッサに実行させるプログラム(命令)を格納する。上記1または複数のプロセッサは、上記1または複数のメモリから読み出した上記プログラムに従い上記各処理を実行してもよいし、予め上記各処理を実行するように設計された論理回路に従って上記各処理を実行してもよい。上記プロセッサは、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)、DSP(Digital Signal Processor)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)など、コンピュータの制御に適合する種々のプロセッサであってよい。なお物理的に分離した上記複数のプロセッサが互いに協働して上記各処理を実行してもよい。例えば物理的に分離した複数のコンピュータのそれぞれに搭載された上記プロセッサがLAN(Local Area Network)、WAN(Wide Area Network)、インターネットなどのネットワークを介して互いに協働して上記各処理を実行してもよい。上記プログラムは、外部のサーバ装置などから上記ネットワークを介して上記メモリにインストールされてもよいし、CD-ROM(Compact Disc Read-Only Memory)、DVD-ROM(Digital Versatile Disc Read-Only Memory)、半導体メモリなどの記録媒体に格納された状態において流通し、上記記録媒体から上記メモリにインストールされてもよい。
【0110】
今回開示された実施の形態は全ての点において例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本開示の範囲は、開示の詳細な説明の記載により示されるわけではなく、特許請求の範囲の各請求項によって示され、特許請求の範囲の文言と均等の意味および範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0111】
S1、S2、S3、S4、S5、S6、S7、S8、S9、S10、S11、S12 スイッチング素子
50、950 絶縁コンバータ
60、960 1次側フルブリッジ回路
62 漏れインダクタンス
64 トランス
66 2次側フルブリッジ回路
68、70 入力端子
72、74 出力端子
80、82、100 コンデンサ
84、88、90、102、104、970、972、980、982、990、992、994、996 ノード
86、974 中点スイッチ
150 1次側電圧波形
152 2次側電圧波形
160、162、164、166、200、300、302、304、306、350、352、354、356、400、402、450、452、910、912 波形
170、172、174、176、178、260、262、264、266、268、270、272、274、276、278、410、412、414、416、418 期間
210 底部
212 上部
250、254 2次側波形
252、256 1次側波形
500 制御回路
510 タイミング制御部
512 位相差制御部
514 初期起動演算部
516、564 セレクタ
518 PMW制御部
540 演算部
560 連系時制御部
562 自立運転制御部
580 MCU
600 高速バス
602 MPU
604 SRAM
606 フラッシュメモリ
608 ROM
610 低速バス
612 ブリッジ
614 シリアルI/F
616 ADC
618 タイマ・カウンタ
620 クロック発生器
622 電源制御部
624 汎用I/F
626 プログラム
850、860 領域
900 電圧波形
1000、1002、1004、1006 ダイオード
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23