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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024116749
(43)【公開日】2024-08-28
(54)【発明の名称】新規なローストビーフの製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 13/00 20160101AFI20240821BHJP
   A23L 5/00 20160101ALI20240821BHJP
【FI】
A23L13/00 Z
A23L5/00 A
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023022544
(22)【出願日】2023-02-16
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-08-22
(71)【出願人】
【識別番号】516147981
【氏名又は名称】伊藤ハム米久ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】和賀 正洋
【テーマコード(参考)】
4B035
4B042
【Fターム(参考)】
4B035LC16
4B035LE05
4B035LE11
4B035LG01
4B035LG51
4B035LP12
4B035LP41
4B035LP45
4B042AC10
4B042AD39
4B042AE03
4B042AG02
4B042AH01
4B042AK01
4B042AK04
4B042AK10
4B042AP02
4B042AP21
4B042AP27
4B042AP30
(57)【要約】
【課題】従来の工業的製造においては困難であった、焼成リングの厚みを調整し得るローストビーフの製造方法を提供すること。
【解決手段】本発明のローストビーフの製造方法では、成形された牛肉を、コハク酸ナトリウムと、アスコルビン酸ナトリウム又はカタラーゼの少なくとも一方とによって嫌気的条件下で処理する(工程A)。工程Aの後、牛肉を好気的条件下で食塩によって処理する(工程B)。工程Bの後、牛肉を密封して加熱調理する(工程C)。本発明によれば、焼成リングの厚みを調整し、厚みのばらつきも小さくし得る。
【選択図】図10
【特許請求の範囲】
【請求項1】
成形された牛肉を、コハク酸ナトリウムと、アスコルビン酸ナトリウム又はカタラーゼの少なくとも一方とによって嫌気的条件下で処理する工程Aと、
前記工程Aの後、牛肉を好気的条件下で食塩によって処理する工程Bと、
前記工程Bの後、牛肉を密封して加熱調理する工程Cと、
を有するローストビーフの製造方法。
【請求項2】
前記工程Aにおいて、前記成形された牛肉を、コハク酸ナトリウムとアスコルビン酸ナトリウムとによって処理し、
コハク酸ナトリウムの使用量が牛肉重量に対して0.05重量%以上であり、
アスコルビン酸ナトリウムの使用量が牛肉重量に対して0.02重量%以上である、
請求項1に記載のローストビーフの製造方法。
【請求項3】
前記工程Aにおいて、前記成形された牛肉を、コハク酸ナトリウムとカタラーゼとによって処理し、
コハク酸ナトリウムの使用量が牛肉重量に対して0.01重量%以上であり、
カタラーゼの使用量が牛肉100gに対して3.45×104 unit以上である、
請求項1に記載のローストビーフの製造方法。
【請求項4】
前記工程Bにおける食塩の使用量が、前記成形された牛肉表面から5mmまでの表層部分の重量に対して1.48重量%以上である、
請求項1に記載のローストビーフの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加熱食肉製品であるローストビーフの製造方法に関する。より具体的には、本発明は、表面付近に形成される焼成リングの厚みを調整可能である、ローストビーフの新規な製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ローストビーフは、牛肉の塊をオーブンなどで焼き上げた食品であり、食する際に薄くスライスするが、そのスライスの中心部が赤味を帯び、外周部は焼成された褐色部がリング状に見られることが外観上の特徴である。
【0003】
ローストビーフは、一般的には、シーズニングされた塊肉表面を焼成し、中心部が55℃~65℃程度になるまで加熱することによって得られる。ローストビーフの中心部分は、特徴的な赤色を呈するが、外縁部は褐色を呈する。この褐色部は、ローストビーフの表面にリング状に形成される焼成部である。本発明においては、このリング状の褐色部分(焼成部分)を、以下「焼成リング」と呼称する。ローストビーフの外観の好ましさは、この中心部分の赤色と焼成リングの褐色との対比によって生まれる。
【0004】
特許文献1は、スライスした後の褐変を防止して優れた肉色を維持した特定加熱食肉製品の製造方法として、
ローストビーフ等の特定加熱食肉製品をスライスする工程と、
スライスされた特定加熱食肉製品における還元型ミオグロビンをオキシミオグロビンに酸素化する工程と、
当該酸素化する工程の後、スライスされた特定加熱食肉製品を非鉄系脱酸素材とともにガスバリア性を有する包材に密封する工程とを含み、
上記スライスされた上記特定加熱食肉製品は、ガスバリア性を有する包材に密封された状態、且つ、当該包材内の酸素濃度が検出限界以下の条件下で、全ミオグロビン量を100%としたときにオキシミオグロビンが12%以上、メトミオグロビンが50%未満、還元型ミオグロビンが34%以上となる割合となっていることを特徴とする特定加熱食肉製品の製造方法を開示している。
【0005】
特許文献2は、ローストビーフ等の食肉製品特有の肉色が長期間保持され、かつ、アルカリ製剤を用いることによって生じる好ましくない風味を抑えた食肉製品の製造を可能にする食肉製品の退色防止剤、及び、それを用いた食肉製品の製造方法を開示している。特許文献2の食肉製品の製造方法は、
原料肉を調味する工程と、加熱加工する工程とを含むローストビーフ及び/又はローストポークの製造方法であって、
該調味する工程において、又は該調味する工程の前若しくは後の工程において、グリシン及びそのトリメチル化合物、アラニン、クエン酸三ナトリウム、及びトレハロースからなる群より選択される2種以上の化合物を原料肉に添加することを特徴とする、上記製造方法であって、クエン酸三ナトリウムの添加量が原料肉に対して1.0重量%以下であり、添加によって原料肉のpHを増大させないことを特徴としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第5192595号公報
【特許文献2】特許第6857755号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
焼成リングの褐色は、スライスされたローストビーフの中心部分の特徴的な赤色を際立たせることで、スライスされたローストビーフの外観を特徴づける。焼成リングの厚みが製品全体に対して薄すぎれば、ローストビーフらしい外観が損なわれる。一方、焼成リングの厚みが厚すぎても、赤色部分が小さくなって、スライスされた場合には外観上好ましくない。そのため、焼成リングは、ローストビーフ製品のサイズに応じて、適切な厚さに制御されるのが好ましい。
【0008】
特許文献1及び2に開示されている製造方法は、ローストビーフの保存中の肉色の変化を抑制することが可能である。これに対し、ローストビーフの焼成リングの厚みを精度良く調整する技術は存在しなかった。例えば、多数個のローストビーフを工場において工業的に製造する場合、焼成リングの厚みのばらつきが大きくなりやすいという問題があった。また、小さいサイズのローストビーフ製品の場合、製品のサイズに合わせて焼成リングの厚みを薄くすることが非常に困難であり、厚みが過大となってスライスされた場合の外観が悪いことがあった。これらの問題は、原料である牛肉を焼成する時間又は温度を調整しても、解決し得なかった。
【0009】
本発明は、従来の工業的製造においては困難であった、焼成リングの厚みを調整し得るローストビーフの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、後述するように、ローストビーフの焼成リングが、焼成時の加熱変性によって形成されていないことを見出した。また、本発明者は、加熱調理前の食肉組織に酸素が浸透して形成された層(酸素化層)の厚みに応じて、焼成リングが形成されることを見出したが、食肉組織に酸化防止剤を添加しても、焼成リングの形成を抑制できなかった。
【0011】
本発明者は、鋭意検討した結果、加熱調理前の牛肉をコハク酸ナトリウムと、アスコルビン酸ナトリウム又はカタラーゼの少なくとも一方とを使用して嫌気的条件下で処理した後、好気的条件下で食塩を使用して処理した後、加熱調理することにより、焼成リングの厚みを調整可能であることを見出し、本発明を完成させるに至った。なお、本発明において「コハク酸ナトリウム」は、コハク酸一ナトリウム、コハク酸二ナトリウム、又はこれらの混合物を意味する。
【0012】
具体的に本発明は、
成形された牛肉を、コハク酸ナトリウムと、アスコルビン酸ナトリウム又はカタラーゼの少なくとも一方とによって嫌気的条件下で処理する工程Aと、
前記工程Aの後、牛肉を好気的条件下で食塩によって処理する工程Bと、
前記工程Bの後、牛肉を密封して加熱調理する工程Cと、
を有するローストビーフの製造方法に関する。
【0013】
牛肉を、コハク酸ナトリウムと、アスコルビン酸ナトリウム又はカタラーゼの少なくとも一方とによって嫌気的条件下で処理することにより、食肉を低酸素状態とする。この状態で加熱調理すると、焼成リングは形成されない。なお、ここでいう「処理」とは、コハク酸ナトリウムと、アスコルビン酸ナトリウム又はカタラーゼの少なくとも一方を、塗布又は浸漬によって牛肉に添加することを意味する。また、「嫌気的条件下で処理」とは、例えば、牛肉を真空包装し、脱酸素状態でコハク酸ナトリウムと、アスコルビン酸ナトリウム又はカタラーゼの少なくとも一方を牛肉に添加することをいうが、脱酸素状態で牛肉にコハク酸ナトリウム等を添加できれば、これ以外の方法によって牛肉にコハク酸ナトリウム等を添加してもよい。
【0014】
次に、食肉を好気的条件下で食塩によって処理すると、食肉表面付近の酸素消費活性が阻害される。さらに、食肉を密封して加熱調理することにより、食肉表面付近に焼成リングを一定の厚みで形成することが可能となる。本発明では、食肉表面を食塩で処理する時間を調整することにより、焼成リングの厚みを調整し得る。加熱調理の方法としては、牛肉を密封して湯煮したり、スチームオーブンによって加熱調理したり、その他ローストビーフの製造に使用し得る公知の加熱調理を利用し得る。なお、本発明の工程Cとしては、牛肉塊の中心温度が55℃~80℃となるような、ローストビーフ製造方法における公知の加熱調理方法を利用し得る。
【0015】
前記工程Aにおいて、前記成形された牛肉を、コハク酸ナトリウムとアスコルビン酸ナトリウムとによって処理する場合、
コハク酸ナトリウムの使用量(添加量)が牛肉重量に対して0.05重量%以上であり、
アスコルビン酸ナトリウムの使用量(添加量)が牛肉重量に対して0.02重量%以上であることが好ましい。コハク酸ナトリウムの使用量が牛肉重量に対して0.08重量%以上であり、アスコルビン酸ナトリウムの使用量が牛肉重量に対して0.03重量%以上であることがより好ましい。
【0016】
前記工程Aにおいて、前記成形された牛肉を、コハク酸ナトリウムとカタラーゼとによって処理する場合、
コハク酸ナトリウムの使用量(添加量)が牛肉重量に対して0.01重量%以上であり、
カタラーゼの使用量(添加量)が牛肉100gに対して3.45×104 unit以上であることが好ましい。コハク酸ナトリウムの使用量が牛肉重量に対して0.15重量%以上であり、カタラーゼの使用量が牛肉100gに対して5.75×104 unit以上であることがより好ましい。
【0017】
前記工程Bにおける食塩の使用量(添加量)が、前記成形された牛肉表面から5mmまでの表層部分の重量に対して1.48重量%以上であることが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、ローストビーフの工業的製造において、焼成リングの厚みを任意に調整し得る。また、多数のローストビーフを製造する場合に、焼成リングの厚みのばらつきを抑制し得る。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】牛肉加熱前の酸素化層の厚み(平均値)と、牛肉加熱後の焼成リングの厚み(平均値)との関係をプロットしたグラフである。
図2】試験例1~3における焼成リングの厚みの平均値と標準偏差を示すグラフである。
図3】対照サンプル及び試験例サンプルのローストビーフの外観写真を示す。
図4】コハク酸二ナトリウムと組み合わせる4種類の成分について、その成分を使用する試験例と使用しない試験例の焼成リングの厚みの測定結果を示す。
図5】試験例19~28の焼成リングの厚み(平均値)と標準偏差を示すグラフである。
図6】1辺の長さが異なる立方体に成形された牛塊肉をコハク酸二ナトリウム及びアスコルビン酸ナトリウムによって処理した後、0.4%~1.2%の食塩を添加して大気に暴露させた、真空包装して加熱調理して得られたローストビーフの焼成リングの厚みを測定した結果を示す。
図7】全体濃度と焼成リングの厚みとの関係をプロットしたグラフを示す。
図8】5mm濃度と焼成リングの厚みとの関係をプロットしたグラフを示す。
図9】対照サンプル及び試験例サンプルについて、焼成リングの厚みを測定した結果を示す。
図10】表11のヒストグラムを示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態について、適宜図面を参照しながら説明する。
【0021】
<食肉表面の焼成と焼成リングの厚み>
立方体に成形された牛肉(トップサイド)100gの塊の表面を240℃のオーブン内で2分間加熱し、真空包装した。別の牛肉の塊100gは加熱せずに真空包装した。2種類の真空包装品を64℃の温水中で3時間加熱調理した。加熱終了後、包装からローストビーフを取り出してスライスし、焼成リングの厚みを1つのサンプルについて8箇所測定した。その結果を、表1に示す(測定値の単位はmm)。
【0022】
【表1】
【0023】
表1に示されるように、最初にオーブンによる加熱を行った場合と、オーブンによる加熱を行わなかった場合とで、焼成リングの測定値の平均値に有意な差は見られなかった。すなわち、オーブンによる食肉表面の加熱変性と、ローストビーフの焼成リングの厚みには関連性が認められず、低温調理のみによっても焼成リングが形成されることが確認された。
【0024】
<食肉表面の大気暴露時間と焼成リングの厚み>
立方体に成形された牛肉塊(トップサイド)200gを冷蔵庫内で保管した。保管開始から17時間経過後、上面の1cmをトリミングした。さらに、保管開始から24時間経過後、右側面の1cmをトリミングし、大気暴露時間が異なるカット面を有する牛肉塊を得た。大気暴露時間が異なる面を観察できるように牛肉塊を半割して、それぞれのトリミング面の酸素化層(ミオグロビンに酸素が配位結合することによる、表面付近の鮮赤色に変色した部分)の厚みを8箇所測定した。
【0025】
その後、半括された牛肉塊を真空包装し、64℃の温水中で3時間加熱調理した。加熱終了後、包装からローストビーフを取り出してスライスし、焼成リングの厚みを8箇所測定した。酸素化層及び焼成リングの測定結果を表2に示す。なお、表2における測定値は、8箇所の平均値(mm)である。
【0026】
【表2】
【0027】
図1は、牛肉加熱前の酸素化層の厚み(平均値)と、牛肉加熱後の焼成リングの厚み(平均値)との関係をプロットしたグラフである。両者の間には有意な正の相関性が確認された。
【0028】
<酸素除去剤又は酸化防止剤による焼成リングへの影響>
図1より、焼成リングの正体は加熱変性ヘモクロムではなく、メトミオグロビンである可能性が示唆された。食肉肉塊表面にメトミオグロビンの層が形成されたことから、食肉組織に浸透した酸素が加熱時にミオグロビンの酸化を促進したのだと推察された。すなわち、原料表面に浸透する酸素が加熱時に当該部分に存在するミオグロビンの酸化を促進し、褐色化することで焼成リングが形成されたと推測されたため、食肉からの酸素除去又は食肉への酸化防止剤の添加により、焼成リングの厚みを抑制し得るか検討した。
【0029】
(1) 立方体に成形された牛肉塊(トップサイド)100g;(2) 食塩;(3) アスコルビン酸ナトリウム、dl-α-トコフェロール又はコハク酸二ナトリウム:(4) 精製水10mLを真空包装してタンブリングした後、64℃の温水中で3時間加熱調理した。加熱終了後、包装からローストビーフを取り出してスライスし、焼成リングの厚みを12箇所測定した(測定値の単位はmm)。食塩は調味料として、アスコルビン酸ナトリウムとdl-α-トコフェロールは酸化防止剤として、コハク酸二ナトリウムは酸素除去剤として機能し得る。なお、食塩と精製水のみと真空包装した牛肉塊を対照サンプルとした。各サンプルにおける処理液の組成を表3に示す。
【0030】
【表3】
【0031】
図2は、各サンプルにおける焼成リングの厚みの平均値と標準偏差を示すグラフである。図2に示されるように、アスコルビン酸ナトリウム、dl-α-トコフェロール又はコハク酸二ナトリウムを食肉表面に浸透させても、焼成リングの厚みは対照とほぼ同じとなった。なお、コハク酸はミトコンドリアの複合体IIに対する開始剤であるため、コハク酸二ナトリウムの代わりにコハク酸一ナトリウムを使用した場合であっても、同様の結果が得られる。
【0032】
<コハク酸ナトリウム、アスコルビン酸ナトリウム及びカタラーゼとの併用効果>
コハク酸ナトリウム、アスコルビン酸ナトリウム及びカタラーゼを併用した場合に、焼成リングの厚みを抑制し得るかについて検討した。立方体に成形された牛肉塊100g(トップサイド)と、アスコルビン酸ナトリウム0.1g、コハク酸ナトリウム0.3g、カタラーゼ0.01g(和光純薬株式会社、生化学用カタラーゼ、11500 unit/100g;0.01gは1.15×105 unitに相当)及び精製水10mLとを真空包装してタンブリングした後、64℃の温水中で3時間加熱調理した。その後、ローストビーフを包装から取り出してスライスし、焼成リングの厚みを1サンプルにつき8箇所測定した(測定値の単位はmm)。
【0033】
牛肉塊100gを真空包装し、64℃の温水中で3時間加熱調理して得られたサンプルを対照サンプルとした。そして、上記試験サンプルと同様に焼成リングの厚みを計測した。焼成リングの厚みは、試験サンプルで平均4.0mm/標準偏差0.756であり、対照サンプルで0.125mm/標準偏差0.231であった。すなわち、試験サンプルでは、焼成リングがほぼ消失していた。図3は、対照サンプル及び試験例サンプルのローストビーフの外観写真を示す。
【0034】
<コハク酸ナトリウムと抗酸化剤との併用効果>
コハク酸ナトリウムと併用する抗酸化剤の種類による焼成リングの厚み抑制効果の違いについて検証した。
【0035】
立方体に成形された牛肉100gの塊(トップサイド)を表4に示される成分と共に真空包装してタンブリングした後、64℃の温水中で3時間加熱調理した。加熱終了後、包装からローストビーフを取り出してスライスし、焼成リングの厚みを8箇所測定した(測定値の単位はmm)。食塩と精製水のみと真空包装した牛肉塊を対照サンプルとした。
【0036】
【表4】
【0037】
図4は、コハク酸二ナトリウムと組み合わせる4種類の成分について、その成分を使用する試験例「あり」と使用しない試験例「なし」の焼成リングの厚みの測定結果を示す。例えば、「炭酸Naあり」は、試験例4,6-8,12-14,18の平均値と標準偏差であり、「炭酸Naなし」は、試験例5,9-11,15-17の平均値と標準偏差である。炭酸ナトリウムとトコフェロール(dl-α-トコフェロール)は、「あり」と「なし」の間に統計学的有意差は認められなかった。一方、アスコルビン酸ナトリウムとカタラーゼは、「あり」の場合、「なし」の場合と比較して、焼成リングの厚みの平均値が統計学的に有意に低くなることが確認された。
【0038】
このように、コハク酸ナトリウムと、アスコルビン酸ナトリウム又はカタラーゼからなる群から選択される少なくとも1つを併用し、牛肉を処理することにより、焼成リングの厚みを減少(抑制)させ得ることが確認された。
【0039】
<コハク酸ナトリウム、アスコルビン酸ナトリウム及びカタラーゼの最小濃度>
次に、コハク酸ニナトリウムとアスコルビン酸ナトリウムの組み合わせ、又はコハク酸二ナトリウムとカタラーゼの組み合わせについて、焼成リングの厚みの減少効果を発揮し得る最小濃度を検証した。
【0040】
立方体に成形された牛肉100gの塊(トップサイド)を表5に示される成分と共に真空包装してタンブリングした後、64℃の温水中で3時間加熱調理した。加熱終了後、包装からローストビーフを取り出してスライスし、焼成リングの厚みを8箇所測定した。食塩と精製水のみと真空包装した牛肉塊を対照サンプルとした。
【0041】
【表5】
【0042】
図5は、試験例19~28の焼成リングの厚み(平均値、単位mm)と標準偏差を示すグラフである。試験例19-21,24,25の焼成リング厚みは、他の試験例と比較して統計学的に有意に低くなることが確認された。図5より、コハク酸二ナトリウムとアスコルビン酸ナトリウムを組み合わせる場合は、コハク酸二ナトリウム0.075%、アスコルビン酸ナトリウム0.025%;コハク酸二ナトリウムとカタラーゼを組み合わせる場合は、コハク酸二ナトリウム0.15%、カタラーゼ0.005%(牛肉100gに対する使用量として5.75×104 unit):が技術的に許容し得る最小濃度であると考察された。コハク酸二ナトリウムの代わりにコハク酸一ナトリウムを使用する場合にも、同じ濃度が最小濃度となる。なお、焼成リングの厚みを抑制するという効果を得る上では、コハク酸一ナトリウム及び/又はコハク酸二ナトリウム、アスコルビン酸ナトリウム及びカタラーゼの濃度に上限はないといえるが、風味への影響を考慮すると、コハク酸二ナトリウム(又はコハク酸一ナトリウム)1.0%、アスコルビン酸ナトリウム3.0%及びカタラーゼ0.1%(牛肉100gに対する使用量1.15×106 unit)が最大濃度とすることが好ましい。
【0043】
<焼成リングの形成促進>
上記したように、コハク酸ナトリウム(コハク酸一ナトリウム及び/又はコハク酸二ナトリウム)と、アスコルビン酸ナトリウム又はカタラーゼの少なくとも一方とによって嫌気的条件下で牛肉を処理することにより、牛肉表面付近を脱酸素化し、加熱調理しても焼成リングの厚みを抑制することが可能であった。しかし、それだけでは、焼成リングを消失させたり薄くしたりすることは可能であっても、焼成リングに好適な厚みを持たせるように制御することは不可能である。
【0044】
コハク酸ナトリウムと、アスコルビン酸ナトリウム又はカタラーゼとによって酸素消費活性が増大したままでは、たとえ牛肉を大気に曝したとしても、食肉の表面で酸素が消費されてしまい、酸素が深くまで浸透しない。焼成リングの形成要因は、牛肉に浸透した酸素によって促進される酸化であることから、焼成リングは牛肉表面のごく薄い層にしか形成されなくなってしまう。そのため、所望する厚みの焼成リングを形成させるためには、コハク酸ナトリウムと、アスコルビン酸ナトリウム又はカタラーゼの少なくとも一方とによって増大させた酸素消費活性を阻害し、酸素を浸透しやすくする必要があると考えられた。そこで、コハク酸ナトリウムと、アスコルビン酸ナトリウム又はカタラーゼの少なくとも一方とによって嫌気的条件下で牛肉を処理した後、牛肉の酸素消費活性を阻害することにより、焼成リングの形成を促進し、厚みを増加させることを検討した。
【0045】
[ミトコンドリアの調製]
牛アウトサイドフラット3 mmミンチ1重量部に対し、3重量部のChappell-Perry液(0.1 M KCl; 50 mM Tris; 5 mM MgCl2; 1 mM EDTA・2Na; 1 mM ATP・2NaをHClでpH 7.4に調整)を加えホモジネートし、650×g、10分間で遠心分離し、沈殿を2回除去した。得られた上清を14,000×g、10分間遠心分離し、沈殿を回収した。さらにこの沈殿を、0.35Mスクロースを含む10mMTris-HCl緩衝液(pH 7.5)で2度洗浄した分画を、ミトコンドリア画分とした。
【0046】
[反応液の調製]
酸素濃度測定時の反応液の配合は、表6に示されるとおりとした。対照として、0.35Mスクロース水溶液を使用した。
【0047】
[酸素濃度の経時的測定]
表6に示される反応液を、専用のセンサーチップを貼付した5.5mL容積のバイアルに封入し、OXY-1ST(PreSens社)によってサンプルの酸素濃度を測定した。各サンプルの酸素濃度は4点の平均値とし、酸素濃度の時間当たり低下速度を酸素消費活性(%/h)として算出した。そして、酸素消費活性が5%/hを下回る場合は、酸素消費阻害作用が十分であると判定した。各サンプルの酸素濃度(平均値)と酸素消費活性(%/h)は、表6に示されるとおりであった。
【0048】
【表6】
【0049】
酸素消費活性化に対する阻害効果が確認されたのは、食塩(2%以上)、乳酸ナトリウム(9.6%以上)、フマル酸ナトリウム(0.16%以上)、炭酸水素ナトリウム(0.42%以上)、酢酸ナトリウム(8.2%以上)であった。このうち、乳酸ナトリウムと酢酸ナトリウムは、最小濃度が高くローストビーフの風味に与える影響が大きいので、実用性に乏しいと判断された。
【0050】
炭酸水素ナトリウムは、食塩よりも低い使用量で酸素消費活性化に対する阻害効果が認められたが、焼成リングが赤みを帯び、本来の焼成リングとは異なる色合いを呈した。
【0051】
一方、食塩は、加熱調理前にシーズニングとして牛肉表面に塗布したり、食塩水に牛肉を浸漬させたりすることが一般的である。そのため、酸素消費活性化に対する阻害剤として効果が確認された塩類のうち、ローストビーフの風味を保持し、かつ、経済的な観点から食塩が最も好ましいと判断された。表6に示されるように、フマル酸ナトリウムには高い酸素消費活性化に対する阻害効果が確認されるため、フマル酸ナトリウムのみを使用することも可能ではある。しかし、シーズニングとして使用される量の食塩によって十分な酸素消費活性化の阻害効果が期待し得るため、コスト及び作業の手間を抑制する観点から、食塩とフマル酸ナトリウムを併用する必要はないと判断される。
【0052】
<食塩使用量(添加量)の検討1>
重量に対する表面積の割合が異なる牛肉サンプルについて、形成される焼成リングの厚みを比較した。
【0053】
1辺4cm(約64 g)、1辺6cm(約216 g)又は1辺8cm(約512 g)の立方体に牛塊肉を成形した。それぞれの肉塊は、牛肉重量に対して0.3%のコハク酸二ナトリウム、0.1%のアスコルビン酸ナトリウム及び精製水10mLと共に真空包装してタンブリングした後、冷蔵庫内で一晩静置した。包装を開封して、牛肉重量に対して0.4%、0.8%又は1.2%の食塩を牛肉表面に塗布することにより添加し、3時間大気に暴露させた。その後、牛肉を再度真空包装し、スチームコンベクションオーブン内で相対湿度100%、62℃の温水中で40分間加熱調理した。冷却したサンプルを半割し、焼成リングの厚みを8箇所測定した。その結果を図6に示す。
【0054】
図6に示されるように、1辺4cm及び8cmの牛肉塊を使用した場合、食塩添加量と焼成リング厚みとの間には、高い正の相関性が確認された。一辺6cmの牛肉塊を使用した場合にも正の相関性が確認されたが、食塩0.4%添加時と0.8%添加時の焼成リングの厚みに大差はなかった。
【0055】
焼成リングの厚みは、4.8mm(1辺8cm、食塩添加量1.2%)が最大値であった。このことから、食塩は、牛肉塊の表面から5mmまでの部分に浸透していることが推測された。そこで、牛肉塊表面から5mmまでの部分の重量と、当該重量当たりの食塩添加量との間の相関性について検討した。その結果を表7に示す。
【0056】
【表7】
【0057】
表7において、「全体重量」は1辺4~6cmの牛肉塊全体の重量、「全体割合」は牛肉塊全体の重量に対する食塩添加割合(食塩使用割合)、「添加量」は実際の食塩添加量、「5mm重量」は牛肉塊表面から5mmまでの部分の重量、「5mm割合」は牛肉塊表面から5mmまでの部分の重量に対する食塩添加割合、「平均厚み」は焼成リングの厚みの平均値を意味する。図7は、全体濃度と焼成リングの厚みとの関係をプロットしたグラフを示す。図8は、5mm濃度と焼成リングの厚みとの関係をプロットしたグラフを示す。
【0058】
図7及び図8に示されるように、焼成リングの厚みは、牛肉塊全体に対する食塩添加割合よりも、牛肉塊表面から5mmまでの部分の重量に対する食塩添加割合との間に、高い性の相関性を有することが確認された。すなわち、ローストビーフの焼成リングの厚みを精度良く調整するためには、牛肉塊表面、特に表面から5mmまでの部分の重量に対する食塩添加割合を調整することが好ましいと判断された。
【0059】
<食塩濃度の検討2>
次に、焼成リングの厚みの増加効果を発揮し得る食塩の最小濃度を検証した。
【0060】
立方体に成形された牛肉125gの塊(1辺5cmの立方体に形成)を、コハク酸二ナトリウム0.375g(牛肉重量に対して0.3%)、アスコルビン酸ナトリウム0.125g(牛肉重量に対して0.1%)及び精製水10mLと共に真空包装してタンブリングした後、冷蔵庫内で一晩静置した。包装を開封して食塩0g、0.6g、0.9g、1.2g、1.8g又は2.4gを添加し、3時間大気に暴露させた(牛肉重量に対する食塩濃度は0~1.92%)。その後、62℃のスチームコンベクションで相対湿度100%、40分間加熱調理した。加熱終了後、包装からローストビーフを取り出してスライスし、焼成リングの厚みを8箇所測定した。その結果を表8に示す。表8において「重量」は牛肉表面から5mmまでの部分の重量、「濃度」は牛肉表面から5mmまでの部分の食塩濃度を意味する。また、「食塩濃度」は牛肉100g当たりの食塩の重量%を意味する。
【0061】
【表8】
【0062】
表8に示されるように、牛肉塊表面から5mmまでの部分における食塩濃度(牛肉重量に対する食塩の添加割合)が1.48%以上であれば、焼成リングの形成を促進し、食塩無添加の対照サンプルと比較して有意に厚みを増加し得ることが確認された。
【0063】
<牛肉の脱酸素化処理と酸素化処理>
牛肉を脱酸素化処理した後、好気的雰囲気下で食塩処理して酸素消費活性を阻害することにより、加熱調理後の焼成リングの厚みを調整し得るかについて検討した。
【0064】
[試験例29]
立方体に成形された牛肉125gの塊(トップサイド)を、コハク酸二ナトリウム0.375g(牛肉重量の0.3%)、アスコルビン酸ナトリウム0.125g(牛肉重量の0.1%)及び精製水10mLと共に真空包装してタンブリングした後、冷蔵庫内で一晩静置した。その後、スチームコンベクションオーブンを使用して、真空包装したまま相対湿度100%、62℃で40分間加熱調理した。
【0065】
[試験例30]
立方体に成形された牛肉125gの塊(トップサイド)を、コハク酸二ナトリウム0.375g(牛肉重量の0.3%)、アスコルビン酸ナトリウム0.125g(牛肉重量の0.1%)、食塩1.5g(牛肉重量の1.2%)及び精製水10mLと共に真空包装してタンブリングした後、冷蔵庫内で一晩静置した。その後、包装から牛肉を取り出し、3時間大気に暴露させた。その後、スチームコンベクションオーブンを使用して相対湿度100%、62℃で40分間加熱調理した。
【0066】
[試験例31]
冷蔵庫内で一晩静置した後、包装から牛肉を取り出し、3時間大気に暴露させたこと以外、試験例29と同様に操作した。
【0067】
[試験例32]
真空包装を開封し、牛肉表面に食塩(乾塩)1.5gを塗布してタンブリングした後、3時間大気に暴露させたこと以外、試験例31と同様に操作した。
【0068】
[対照サンプル]
牛肉を125gの塊(立方体)に成形した後、3時間大気中に暴露させ、スチームコンベクションオーブンを使用して相対湿度100%、62℃で40分間加熱調理した。
【0069】
(焼成リングの厚み測定)
対照サンプル及び各試験例サンプルをスライスし、焼成リングの厚みを1サンプルにつき8箇所測定し、平均値と標準偏差を算出した(測定値の単位はmm)。その結果を表8に示す。
【0070】
【表9】
【0071】
試験例29は、牛肉を脱酸素化処理したまま、食塩による酸素消費活性に対する阻害処理を行わなかったため、焼成リングがほぼ消失した。試験例30と試験区32では焼成リングの厚みが異なったが、酸素消費活性に対する阻害剤である食塩を添加するタイミングによると考察された。試験区31は、脱酸素化剤で処理した後、牛肉を大気に3時間暴露させたが、対照サンプルよりも焼成リングの厚みが小さく、酸素消費活性に対する阻害剤である食塩を使用しなければ、焼成リングの厚みを増加させることが困難であると考察された。このように、牛肉を脱酸素化剤によって処理した後、酸素消費活性に対する阻害剤として好ましくは1.48重量%以上、より好ましくは1.97重量%以上の食塩を添加して、大気に暴露する時間を調整することにより、焼成リングの厚みを調整し得ることが示された。
【0072】
<大気への暴露時間による焼成リングの厚み調整>
牛肉100gの塊(トップサイド)を、コハク酸二ナトリウム0.3g、アスコルビン酸ナトリウム0.1g及び精製水10mLと共に真空包装してタンブリングした後、冷蔵庫内で一晩静置した。真空包装を開封し、食塩1.5を添加してタンブリングし、冷蔵庫内で0時間、3時間及び24時間大気に暴露させた。その後、牛肉を再度真空包装し、64℃の温水中で3時間加熱調理した。
【0073】
(対照サンプル)
牛肉100gの塊を、食塩1.5g及び精製水10mLと共に真空包装してタンブリングした後、64℃の温水中で3時間加熱調理した。
【0074】
(焼成リングの厚み測定)
対照サンプル及び各試験例サンプルをスライスし、焼成リングの厚みを1サンプルにつき8箇所測定し、平均値と標準偏差を算出した(測定値の単位はmm)。その結果を図9に示す。
【0075】
図9に示されるように、大気への暴露時間が0時間では、焼成リングの厚みが小さいが、24時間では対照サンプルよりも厚みを大きくすることが可能であった。すなわち、本発明においては、牛肉を好気的条件下で食塩によって処理する工程の時間(=牛肉を食塩で処理して大気に暴露させる時間)を調整することにより、加熱調理後に形成される焼成リングの厚みを調整可能であることが確認された。
【0076】
<焼成リングの厚みのばらつき>
本発明のローストビーフの製造方法が、従来のローストビーフの製造方法と比較して、焼成リングを厚みのばらつきが小さいことを確認するため、以下の対比試験を行った。
【0077】
[従来の製造方法]
牛肉(アウトサイドフラット)を立方体に成形した(重量100 g)。1.5gの食塩(乾塩)を牛肉塊表面に塗布した後、熱したフライパンで牛肉塊の各面を約5秒加熱し、表面に焦げ目をつけた。粗熱がとれた後、真空包装し、63℃の温水中で30分間湯煮した。この操作を成形後0, 30, 60, 90, 120, 150, 180, 210, 240分後の牛肉塊について2個ずつ行った。成形された牛肉塊は、0分の場合を除き、所定時間、冷蔵庫内で大気に暴露させてから食塩塗布以降の操作を行った。
【0078】
[本発明の製造方法]
(工程A)
牛肉(アウトサイドフラット)を立方体に成形した(重量100 g)。牛肉塊を、牛肉重量に対し0.3%のアスコルビン酸ナトリウム、0.1%のアスコルビン酸ナトリウム及び精製水10mLと共に真空包装してタンブリングした後、冷蔵庫内で一晩静置した。この操作を成形後0, 30, 60, 90, 120, 150, 180, 210, 240分後の牛肉塊について2個ずつ行った。成形された牛肉塊は、0分の場合を除き、所定時間、冷蔵庫内で大気に暴露させてから工程A以降の操作を行った。
【0079】
ここでは、コハク酸ニナトリウムとアスコルビン酸ナトリウムを水溶液として牛肉を脱酸素化処理したが、コハク酸ニナトリウムとアスコルビン酸ナトリウムの粉末を牛肉表面に塗布して脱酸素化処理しても良い。
【0080】
(工程B)
包装を開封して牛肉塊を取り出し、水分を拭き取った後、乾塩1.5g(牛肉塊重量の1.5%に相当する量)を表面に塗布し、冷蔵庫内で2時間大気に暴露させた。その後、熱したフライパンで牛肉塊の各面を約5秒加熱し、焦げ目をつけた。なお、この製造例においては、焼成リングの厚みを3mmにすることを目標とした。
【0081】
ここでは、食塩を牛肉表面に塗布して酸素消費活性を阻害処理したが、食塩水に牛肉を浸漬したり、食塩水を牛肉に塗布したりして酸素消費活性を阻害処理しても良い。
【0082】
(工程C)
表面の粗熱がとれた後、真空包装し、63℃の温水中で30分間湯煮した。
【0083】
<焼成リングの厚みのばらつき>
従来の製造方法及び本発明の製造方法によって得られたローストビーフをスライスし、焼成リングの厚みを各サンプルについて8箇所測定した(1つの経過時間について、8箇所×2サンプル)。その結果を表10に示す。
【0084】
【表10】
【0085】
大気への暴露時間の長いサンプル程、成形されてから大気に暴露される時間が長いため、牛肉塊の表面に酸素が浸透している。そのため、従来の製造方法の場合には、時間経過と共に焼成リングの厚みが増加する傾向が認められた。これに対して、本発明の製造方法では、成形されてから大気に暴露される時間に拘わらず、焼成リングの厚みは3mm程度で一定していた。18個のサンプル全体の厚みの測定値は、従来技術の場合には2.6±1.2(mm)であるのに対して、本発明の場合には3.0±0.7(mm)であった。すなわち、本発明によれば、焼成リングの厚みが3mmに近いだけでなく、ばらつき(標準偏差)も小さかった。
【0086】
従来の製造方法及び本発明の製造方法のそれぞれについて、各経過時間あたり2つのサンプルを製造し、焼成リングの厚みを8箇所測定した。すなわち、従来の製造方法及び本発明の製造方法のそれぞれについて、9×2×8=144個の測定値が得られたが、焼成リングの厚みを(1) 0.5mm未満、(2) 0.5mm以上1.5mm未満、(3) 1.5mm以上2.5mm未満、(4) 2.5mm以上3.5mm未満、(5) 3.5mm以上4.5mm未満、(6) 4.5mm超の6つの階級に分け、各階級の測定値の観測数を表11に示す。また、表11のヒストグラムを図10に示す。
【0087】
【表11】
【0088】
表11に示されるデータについて、F検定を行った結果を表12に示す。F検定の結果、従来の製造方法と本発明の製造方法による焼成リングの厚みの分散には、統計学的に有意な差があることが確認された。
【0089】
【表12】
【0090】
本発明の製造方法では、焼成リングの厚みを3mmとすることを目標とした。図11に示されるように、本発明の製造方法は、厚みが2.5mm以上3.5mm未満の階級における観測数が最多となり、目標とした厚みに調整し得ることが確認された。一方、従来技術の製造方法は、特定の階級における観測数が突出しているとはいえず、厚みを調整できなかった。
【0091】
ローストビーフの工業的製造の場合、原料の牛肉を所定の形状に成形する工程が数時間に及ぶ場合もある。そして、牛肉が形成されてから加熱調理されるまでの時間にも大きな時間差を生じ得るため、加熱調理前の牛肉が大気に暴露される時間にも大きな時間差を生じ得る。そのため、同じ条件で牛肉を加熱調理しても、牛肉表面の酸素浸透量にばらつきがあり、焼成リングの厚みを一定に調整することは非常に困難である。
【0092】
一方、本発明の製造方法によれば、原料の牛肉を所定の形状に成形する工程が長時間に及んでも、焼成リングの厚みを一定に調整し、かつ、厚みのばらつきを小さくすることが可能であった。
【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明のローストビーフの製造方法は、ローストビーフの工業的製造方法として、食品分野において有用である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
【手続補正書】
【提出日】2023-05-24
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハク酸ナトリウムと、アスコルビン酸ナトリウム又はカタラーゼの少なくとも一方を、嫌気的条件下で塗布又は浸漬によって成形された牛肉に添加する工程Aと、
前記工程Aの後、好気的条件下で食塩を塗布又は浸漬によって牛肉に添加する工程Bと、
前記工程Bの後、牛肉を密封して加熱調理する工程Cと、
を有するローストビーフの製造方法。
【請求項2】
前記工程Aにおいて、前記成形された牛肉を、コハク酸ナトリウムとアスコルビン酸ナトリウムとによって処理し、
コハク酸ナトリウムの使用量が牛肉重量に対して0.05重量%以上であり、
アスコルビン酸ナトリウムの使用量が牛肉重量に対して0.02重量%以上である、
請求項1に記載のローストビーフの製造方法。
【請求項3】
前記工程Aにおいて、前記成形された牛肉を、コハク酸ナトリウムとカタラーゼとによって処理し、
コハク酸ナトリウムの使用量が牛肉重量に対して0.01重量%以上であり、
カタラーゼの使用量が牛肉100gに対して3.45×104 unit以上である、
請求項1に記載のローストビーフの製造方法。
【請求項4】
前記工程Bにおける食塩の使用量が、前記成形された牛肉表面から5mmまでの表層部分の重量に対して1.48重量%以上である、
請求項1に記載のローストビーフの製造方法。