(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024116751
(43)【公開日】2024-08-28
(54)【発明の名称】回転電機
(51)【国際特許分類】
H02K 3/04 20060101AFI20240821BHJP
H02K 3/50 20060101ALI20240821BHJP
【FI】
H02K3/04 J
H02K3/04 E
H02K3/50 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023022547
(22)【出願日】2023-02-16
(71)【出願人】
【識別番号】319007240
【氏名又は名称】株式会社日立インダストリアルプロダクツ
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】石上 孝
(72)【発明者】
【氏名】向瀬 レミ
【テーマコード(参考)】
5H603
5H604
【Fターム(参考)】
5H603AA09
5H603BB01
5H603BB08
5H603BB09
5H603BB12
5H603CA01
5H603CA05
5H603CB03
5H603CC03
5H603CC17
5H603CD02
5H603CD05
5H603CE05
5H603EE01
5H604AA08
5H604BB01
5H604BB09
5H604BB10
5H604BB14
5H604CC01
5H604CC05
5H604CC13
(57)【要約】
【課題】
本発明の目的は、溶接される導体端部の熱容量を小さくしつつ、導体断面積の減少を抑制することができる回転電機を提供することにある。
【解決手段】
本発明の回転電機は、矩形断面の絶縁被膜付き電線を成形した導体部材8と、導体部材8を組み付けるスロットを有する鉄心と、を有する固定子を備える。導体部材8は、鉄心の軸方向端面の外側に、他の導体部材8と対向して他の導体部材8と接合される接合部14aが形成される被膜はく離部11を有する。被膜はく離部11は、他の導体部材8と対向する対向面11aに、この対向面11aを固定子2の周方向に分割する非貫通溝18を有する。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
矩形断面の絶縁被膜付き電線を成形した導体部材と、前記導体部材を組み付けるスロットを有する鉄心と、を有する固定子を備え、
前記導体部材は、前記鉄心の軸方向端面の外側に、他の導体部材と対向して当該他の導体部材と接合される接合部が形成される被膜はく離部を有し、
前記被膜はく離部は、前記他の導体部材と対向する対向面に、当該対向面を前記固定子の周方向に分割する非貫通溝を有する回転電機。
【請求項2】
請求項1に記載の回転電機において、
前記導体部材は、前記対向面とは反対側の面に、当該面を固定子の周方向に分割する非貫通溝を有する回転電機。
【請求項3】
請求項1に記載の回転電機において、
前記導体部材は、前記非貫通溝の延設方向において前記非貫通溝が残存する範囲とオーバーラップする範囲における導体断面の面積と、前記被膜はく離部が当該導体部材の絶縁被膜から露出し始める始端部における導体断面の面積とが同じ大きさである回転電機。
【請求項4】
請求項1に記載の回転電機において、
前記導体部材と前記他の導体部材との接合部は、その先端部の一部が前記固定子の周方向において分断されている回転電機。
【請求項5】
請求項4に記載の回転電機において、
前記導体部材と前記他の導体部材との接合部は、その先端部が絶縁樹脂で被覆される回転電機。
【請求項6】
請求項1に記載の回転電機において、
前記被膜はく離部は、当該被膜はく離部が当該導体部材の絶縁被膜から露出し始める始端部の側から前記接合部の側に向かって周方向幅が拡幅する拡幅部を有する回転電機。
【請求項7】
請求項1に記載の回転電機において、
前記導体部材は、前記被膜はく離部が当該導体部材の絶縁被膜から露出し始める始端部における導体断面の周方向寸法を当該導体断面の径方向寸法で除した値が2以上である回転電機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導体部材の端部を溶接したコイルを有する回転電機に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1の要約には、2つの導体の端部が隣接して配置された状態で、端面側から溶接して構成された固定子コイルを有する回転電機が記載されている。2つの導体は、端面を2つに分割する1つのスリットをそれぞれ有する。スリットによって分割された部分は、スリットが形成されていない導体の端部に比べ熱容量が小さくなり、溶接時における入熱量を抑えることができる。また、溶接時に形成される溶融部は、成長して大きくなると、スリット内に流れ込み、スリットによって分割された部分に両側から挟み込まれ保持されるため、溶接時における溶融部の垂れを抑えることができる。
【0003】
さらに特許文献1の固定子コイルでは、導体の端面を2つに分割するスリットを有し、このスリットが溶融部の下方外側に残るように溶接される(
図16参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の固定子コイルでは、溶接された2つの導体の端部にスリットが残ることで、電流の流れる導体断面積が減少し、導体の電気抵抗が増加する。
【0006】
本発明の目的は、溶接される導体端部の熱容量を小さくしつつ、導体断面積の減少を抑制することができる回転電機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明の回転電機は、
矩形断面の絶縁被膜付き電線を成形した導体部材と、前記導体部材を組み付けるスロットを有する鉄心と、を有する固定子を備え、
前記導体部材は、前記鉄心の軸方向端面の外側に、他の導体部材と対向して当該他の導体部材と接合される接合部が形成される被膜はく離部を有し、
前記被膜はく離部は、前記他の導体部材と対向する対向面に、当該対向面を前記固定子の周方向に分割する非貫通溝を有する。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、溶接される導体端部の熱容量を小さくすることができると共に、導体断面積の減少を抑制することのできる回転電機を提供することができる。
上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の一実施例に係る回転電機の構造を示す斜視図である。
【
図2】
図1の回転電機に用いるセグメントコイルの構造図である。
【
図3】
図2のセグメントコイルの固定子鉄心への組み付け手順を示す図である。
【
図4】
図2のセグメントコイルを固定子鉄心へ組み付けた状態の固定子を示す斜視図である。
【
図5】セグメントコイルの接合部における溶接不良の状態を説明する斜視図である。
【
図6】従来構造における、導体の断面寸法による必要はく離長さを示す図である。
【
図7】本発明の第一実施例のセグメントコイルの溶接前の被膜はく離部及び接合部を示す斜視図である。
【
図8】
図7の接合部を軸方向外側から見た図である。
【
図9】本発明の第一実施例のセグメントコイルの溶接後の被膜はく離部及び接合部を示す斜視図である。
【
図10】本発明の第一実施例で溶接玉が一体化した接合部を示す斜視図である。
【
図11】本発明によるはく離部の長さ削減効果を説明した図である。
【
図12】セグメントコイルの被膜はく離部を隣接するセグメントコイルとの対向面側から見た平面図である。
【
図13】本発明の第二実施例のセグメントコイルの溶接前の被膜はく離部及び接合部を示す斜視図である。
【
図15】本発明の第二実施例のセグメントコイルの溶接後の被膜はく離部及び接合部を示す斜視図である。
【
図16】本発明の第二実施例で溶接玉が一体化した接合部を示す斜視図である。
【
図17】一対のセグメントコイルの接合部を固定子2の周方向から見た断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本実施例では、矩形断面の絶縁被膜付き導体片の端部を溶接したコイルを有する回転電機について説明する。特に本実施例では、回転電機の中のモータ、特に、電気自動車等に用いられる駆動用モータを取り上げて説明する。しかし本発明は、モータ及び駆動用モータに限らず、他の回転電機にも適用可能である。
【0011】
地球温暖化を抑制するためにCO2の排出量を削減する技術の開発が求められている。このため、モータの高効率化に大きな期待が寄せられている。産業分野で使われる電力の約70%、家庭で使われる電力の約40%がモータによって消費されている。モータ1台あたりの効率を数%向上させるだけで、数十万kW級の発電所に相当する省エネ効果が期待でき、年間数百万トンものCO2削減に寄与できると言われている。一方、近年では、同様にCO2排出量削減の目的から、電気自動車の普及が目覚ましく、一充電走行距離を延ばすために、駆動用モータの大出力化及び効率向上の要求が高まっている。
【0012】
図1は、本発明の一実施例に係る回転電機1の構造を示す斜視図である。
回転電機1は固定子2とロータ4とを備える。ロータ4はベアリング3に支持されて固定子2の内周側に配置される。固定子2は鉄心5と鉄心5に組み込まれたコイル6とを備える。鉄心5は、鋼板を打ち抜き積層したものを用いることが好ましい。
【0013】
コイル6に入力線7を通じて電流を流すと回転磁界が発生する。このときロータ4は、固定子2との間に磁気吸引力が作用することによって、回転する。ロータ4は、永久磁石を用いたもの(PMSM:Permanent Magnet Synchronous Motor)、永久磁石を用いずにリラクタンストルクを利用したもの、誘導電流を利用したもの(かご型ロータ)などがある。
【0014】
ここで、電気自動車の駆動用モータでは固定子コイル6に大電流を流すことから、近年は、スロット(溝)12内の占積率(導体の占有率)を大きくとれる矩形断面のエナメル被膜電線が、固定子コイル6の素材(コイル構成部材)として用いられている。更に、トルク脈動の少ない優れた回転特性が得られる分布巻の巻線形態で、コイルエンドを短くできるセグメントコイルを固定子に組み込んだモータが爆発的に普及している。
【0015】
図2乃至
図4を用いてセグメントコイル8の代表形状を説明する。
図2は、
図1の回転電機1に用いるセグメントコイル8の構造図である。
図3は、
図2のセグメントコイル8の固定子鉄心5への組み付け手順を示す図である。
図4は、
図2のセグメントコイル8を固定子鉄心5へ組み付けた状態の固定子を示す斜視図である。なお、セグメントコイル8のように、コイル6を構成する部材(コイル構成部材)は、「導体部材」と呼んで説明する場合もある。
【0016】
セグメントコイル8は、矩形断面の絶縁被膜付き電線9を松葉形状(ヘアピン形状)に曲げ加工したものである。絶縁被膜付き電線9の絶縁被膜はエナメル被膜で構成される場合があり、この場合、絶縁被膜付き電線9はエナメル被膜付き電線と呼ぶこともある。また、矩形断面の絶縁被膜付き電線9は平角導体を用いて構成され、セグメントコイル8は平角導体を用いて構成される。
【0017】
セグメントコイル8は、一対の直線状の脚部10aと、一対の脚部10を接続する接続部10bと、一対の脚部10aのそれぞれの先端に形成され、絶縁被膜が除去された被膜はく離部11と、を有する。被膜はく離部11は、2つのセグメントコイル8を溶接接合するために、金型による打ち抜きや切削によって形成される。
【0018】
そして、
図3に示すように、固定子鉄心のスロット(溝)12に絶縁紙13を挿入してコイルを保護した状態で、スロット(溝)12内にセグメントコイル8の直線状の脚部10aが挿入される。そして、
図4に占めすように、固定子鉄心5の片側端部から突出したコイル端部を捩じり成形し、径方向に隣接するセグメントコイル8の端部を一対ずつTigやレーザーで溶接して接合部14を構成して、周方向に並べた複数のセグメントコイル8を電気的に連結し、波巻きや重ね巻の電機回路を構成する。
【0019】
このセグメントコイル8を用いたモータは、大出力化に伴う電流の増加によって導体断面積の増加が求めれている。また、モータの効率を高める目的から、導体中を流れる渦電流損失を低減するため、導体は径方向寸法hを周方向寸法wより短くして、扁平の断面とすることが要求されている。例えば、普通乗用車駆動用のモータのセグメントコイル8が径方向h2.5mm×周方向w3.5mm程度に対し、大型車駆動用のモータのセグメントコイル8では径方向h3mm×周方向w8mmと、断面積が約2.7倍と増加し、径方向寸法/周方向寸法は1.4→2.6と扁平となる。
【0020】
このような扁平・大面積のセグメントコイル8を溶接する場合、以下の点が課題となる。以下、
図5及び
図6を用いて説明する。
図5は、セグメントコイル8の接合部14における溶接不良の状態を説明する斜視図である。
図6は、従来構造における、導体(セグメントコイル8)の断面寸法による必要はく離長さを示す図である。
(1)接合部14の溶融部の体積が増加するのに加え、それを支持する断面形状が扁平となるため、安定して溶融部を支持することができなくなる。この結果、
図5に示すように半球状の溶接部(以下、溶接玉という)15の脱落部16が生じ、セグメントコイル8の導体間が非接続となる。或いは、若干の接続部が残ったとしても必要な導通面積が確保できなくなり、接合部14近傍での電気抵抗が増加してしまう。
(2)溶融部の体積が増えるため、溶接時の入熱量が大きくなる。この結果、絶縁被膜部17の焼損を防ぐためには、導体断面積の大きな導体ほど、被膜はく離部11の寸法Lを長くとる必要が生じ、コイルエンド(コイルが固定子鉄心の軸方向端面5aから突出した長さ)が高くなってしまう。
図6に示すように、(a)のセグメントコイル8aと(b)のセグメントコイル8bとでは、セグメントコイル8bの導体断面積(w2×h2)の方がセグメントコイル8aの導体断面積(w1×h1)よりも大きい。この場合、(b)のセグメントコイル8bにおける被膜はく離部11の寸法Lbを、(a)のセグメントコイル8aにおける被膜はく離部11の寸法Laよりも大きくする必要がある(Lb>La)。
【0021】
上述した課題に対して本実施例では、矩形断面の絶縁被膜付き導体部材8の端部を溶接したコイル6を有する回転電機1において、導通面積を確保した溶接と、被膜はく離部11の長さLの短い短コイルエンドを提供する。
【0022】
このために、本実施例の回転電機1は、矩形断面の絶縁被膜付き電線9を成形したセグメントコイル(導体部材)8と、鋼板を打ち抜き積層した鉄心5と、セグメントコイル8と鉄心5との間に組み込む絶縁物13と、を含んで構成される固定子2を備える。セグメントコイル8は、その直線状の脚部(直線部)10a(
図2参照)を鉄心5のスロット(溝)12(
図3参照)内に挿入し、鉄心5の軸方向端面5aから突出したセグメントコイル8の端部を、隣接するセグメントコイル8の端部と溶接接合して一連のコイル6を形成する。すなわち、一対のセグメントコイル8,8が接合部14により接合されて電気回路(コイル)6が構成される。接合部14を構成する一対のセグメントコイル8,8は、接合部14に対してスロット12側に位置する接合部下方の対向面11aに、対向面11aを固定子の周方向に分割する非貫通溝18を有する。
【0023】
セグメントコイル8の対向面11aに非貫通溝18を設けることにより、本実施例の回転電機1では、一度に溶融する接合部14の体積が減り、溶接玉15を安定支持して、その脱落を防止できる。また、一度の溶接における入熱量を減らすことで、絶縁被膜17へのダメージが軽減され、被膜はく離部11の長さを短縮することができる。
【0024】
以下、一対のセグメントコイル(導体部材)8,8の対向面11aに設けた非貫通溝18の実施例について、具体的に説明する。
【0025】
[実施例1]
図7~
図12を用いて、本発明の第一実施例を説明する。
図7は、本発明の第一実施例のセグメントコイル8の溶接前の被膜はく離部11及び接合部14aを示す斜視図である。
図8は、
図7の接合部14aを軸方向外側から見た図である。
図9は、本発明の第一実施例のセグメントコイル8の溶接後の被膜はく離部11及び接合部14aを示す斜視図である。
図10は、本発明の第一実施例で溶接玉15が一体化した接合部14を示す斜視図である。
図12は、セグメントコイル8の被膜はく離部11を隣接するセグメントコイル8との対向面11a側から見た平面図である。
【0026】
図7及び
図8に示すように、矩形導体で構成されるセグメントコイル8の被膜はく離部11においては、金型を用いた2方向のはく離、或いはエンドミルなどを用いた切削により、表面の絶縁被膜17を除去している。そして、各接合部14を含む被膜はく離部11の対向面11a側に、この対向面11aを固定子2の周方向に分割する非貫通溝18を、プレス金型を用いて塑性加工する。
【0027】
すなわち、非貫通溝18は対向面11aに形成される。非貫通溝18は、対向面11aからその反対側の面(反対向面)11bに向かって、その深さ方向DDを有するように形成される。対向面11aは非貫通溝18によって固定子2の周方向に分割される。
【0028】
非貫通溝18は、対向面11aの反対側の面11bまでは貫通しない非貫通溝として形成される。この場合、非貫通溝18は、
図8に示すように、接合前の接合部14aを2つの接合部分14a1,14a2に分割する。2つの接合部分14a1,14a2のそれぞれは、分割する前の接合部14aにおける断面積よりも小さな断面積を有する。すなわち、2つの接合部分14a1,14a2のそれぞれは、分割する前の接合部14aにおける熱容量よりも小さな熱容量を有する。また非貫通溝18は、一方の接合部分(第1接合部分)14a1から他方の接合部分(第2接合部分)14a2への熱伝導を抑制する。
【0029】
このような非貫通溝18は、接合部14を含む被膜はく離部11の対向面11aに形成され、溶接接合された接合部14に対してスロット12側に位置する接合部下方の対向面11aにも形成される。このため非貫通溝18は、対向面11aのうち、溶接接合された後に残る対向面部(非接合対向面部)11aa(
図9参照)に残る。
【0030】
一対のセグメントコイル8,8は、非貫通溝18によって周方向に分割された接合部分14a1,14a2毎にTigやレーザーで溶接される。
図9では、非貫通溝18で分割された接合部分14a1,14a2毎に溶接玉15が形成され、非貫通溝18の残留物である裂け目18aが形成されている。この裂け目18aは非貫通溝18の延長線上に位置し、接合部14の一部において接合部14の一部を固定子2の周方向に分断する。しかし、
図10に示すように、裂け目18aが残らないように、溶接玉15が完全に一体化するように溶接されてもよい。この結果、一回の溶接における溶融部の体積(熱容量)を減少させ、周方向の導体長さを減少させることで、溶接玉を安定して支持することができ、その脱落が防止される。この効果は、
図8に示すような、接合部の周方向寸法w/径方向寸法hが2以上の導体において、特に有効である。
【0031】
更に、一か所の接合部14を複数回に分けて溶接するため、一回の溶接での入熱量を減らすことができる。この結果、絶縁被膜17への熱的なダメージを小さくすることができる。このため、
図11に示すように、一度で溶接した場合と比較して、被膜はく離部11の長さLを短くすることが可能になる。
【0032】
また
図10の構成では、裂け目18aが溶融した導体で埋められるため、一対のセグメントコイル8,8が接合されて接触している面積が、
図9の構成と比べて大きくなる。このため、接合部14における電気抵抗を小さくすることができる。
【0033】
なお、セグメントコイル8の平角導体の断面は、短辺11eと長辺11fとを有する矩形状を成しており、長辺11fに沿う面が、対を成すセグメントコイル8の対向面11aとなる。従って、非貫通溝18は矩形状の長辺11fに沿う面に形成される。
【0034】
ここで、接合部14の対向面11aを分割する方法として、金型による打ち抜きや、レーザーによる除去加工によって貫通溝を構成することが考えられる。しかし、このような構造では、貫通溝によって溶接玉の下部の導体断面積が減少する。その結果、導体の電気抵抗が大きくなり、回転電機の電気性能が低下するといった問題が生じる。本実施例では、非貫通溝18を塑性加工によって成形するため導体断面積の減少は生じず、回転電機1の性能を維持することができる。
【0035】
すなわち
図12に示すように、本実施例のセグメントコイル8では、非貫通溝18の延設方向(長手方向)D18において非貫通溝18の残存する範囲とオーバーラップする範囲の導体断面積(A-A断面における断面積)と、被膜はく離部11が絶縁被膜17から露出し始める始端部11bにおける導体断面積(B-B断面における断面積)とが同じ大きさになる(
図12参照)。なお、A-A断面及びB-B断面は非貫通溝18の延設方向D18に対して垂直な断面であり、A-A断面は接合部14aの外側、すなわち接合部14aに対して被膜はく離部11の始端部11b側に位置する断面である。
【0036】
また、非貫通溝18を塑性加工によって成形することにより、被膜はく離部11の始端部11b側の側面であって短辺11e(
図11参照)に沿う面には、傾斜面11d2が形成される。傾斜面11d2は、被膜はく離部11の終端部22c側の側面であって短辺11e(
図11参照)に沿う面11d1に対して傾斜した面である。被膜はく離部11は、傾斜面11d2が設けられていることにより、始端部11bの側から接合部14の側に向かって周方向幅が拡幅する拡幅部を有する。
【0037】
ここで、被膜はく離部11の始端部11bは被膜はく離部11の根元部であり、被膜はく離部11の終端部22cは被膜はく離部11及びセグメントコイル8の先端部である。被膜はく離部11は、被膜はく離部11の始端部(根元部)11bから終端部(先端部)22cに向かって拡幅するように形成されている。このため、被膜はく離部11の終端部11cにおける周方向の幅寸法w11cは、始端部11bにおける周方向の幅寸法w11bよりも大きい(w11c>w11b)。
【0038】
[実施例2]
図13~
図16を用いて、本発明の第二実施例を説明する。
図13は、本発明の第二実施例のセグメントコイル8の溶接前の被膜はく離部11及び接合部14aを示す斜視図である。
図14は、
図13の接合部14aを軸方向外側から見た図である。
図15は、本発明の第二実施例のセグメントコイル8の溶接後の被膜はく離部11及び接合部14を示す斜視図である。
図16は、本発明の第二実施例で溶接玉15が一体化した接合部14を示す斜視図である。なお、実施例1と同様な構成には実施例1と同じ符号を付し、重複する説明は省略する。
【0039】
本実施例では、実施例1に対して、非貫通溝19が追加されている。非貫通溝19は矩形状の長辺11fに沿う面であって、非貫通溝18が形成される対向面11aとは反対側の面に形成される。非貫通溝19は、非貫通溝18と同様に、プレス金型を用いて塑性加工する。
【0040】
非貫通溝19は、対向面11aまでは貫通しない非貫通溝として形成される。非貫通溝19は、非貫通溝18と共に、
図14に示すように、接合前の接合部14aを2つの接合部分14a1,14a2に分割する。
【0041】
一対のセグメントコイル8,8は、非貫通溝18及び非貫通溝19によって周方向に分割された接合部分14a1,14a2毎にTigやレーザーで溶接される。
図15では、非貫通溝18,19で分割された接合部分14a1,14a2毎に溶接玉15が形成され、非貫通溝18の残留物である裂け目18aが形成されている。しかし、
図16に示すように、裂け目18aが残らないように、複数の溶接玉15が完全に一体化するように溶接されてもよい。
【0042】
このような構成を取ることで、第一実施例と同様の作用効果が得られる。
【0043】
本発明に係る第一実施例及び第二実施例によれば、溶接玉15の脱落を生じさせることなく、接合部14において必要な導通面積を確保することができる。また、一対のセグメントコイル8,8の溶接を複数回に分けて入熱量を減らすことで絶縁被膜へのダメージを減らし、被膜はく離部11の長さLを減少させて小型の回転電機1を構成することができる。この効果は、扁平で、大面積の導体を用いた場合に特に有効である。扁平については、特に、接合部の周方向寸法w/径方向寸法hが2以上である場合に、また、面積については、例えば、周方向幅w3mm×径方向幅h8mm以上の場合に大きな効果が得られる。
【0044】
図17を用いて、セグメントコイル8の接合部14を覆う樹脂コーティングについて説明する。
図17は、一対のセグメントコイル8,8の接合部14を固定子2の周方向から見た断面図である。
【0045】
バッテリーの電圧が高い場合(例えば800V)には、セグメントコイル8の接合部14を粉体や液状の樹脂20でコーティングする。すなわち、導体部材8と他の導体部材8との接合部14は、その先端部11cの表面に付与された絶縁樹脂20で覆われる。このとき、コーティングした樹脂20が経年劣化して脱落することが懸念される。この場合、
図9、
図15に示すように、非貫通溝18と溶接玉15によって固定子の軸方向に貫通穴(裂け目)18aが形成され、
図17に示すように、貫通穴(裂け目)18aに樹脂20aが注入されることで、脱落を防止する効果が期待できる。
【0046】
なお、
図17では、非貫通溝19を有する第二実施例の構成に絶縁樹脂20を設けた例を説明しているが、非貫通溝19の無い第一実施例の構成において、
図17と同様に絶縁樹脂20を設けてもよい。
【0047】
上述した各実施例の回転電機1は、少なくとも下記の特徴を有する。
(1)矩形断面の絶縁被膜付き電線9を成形した導体部材8と、導体部材8を組み付けるスロット12を有する鉄心5と、を有する固定子2を備え、
導体部材8は、鉄心5の軸方向端面5aの外側に、他の導体部材8と対向して他の導体部材8と接合される接合部14が形成される被膜はく離部11を有し、
被膜はく離部11は、他の導体部材8と対向する対向面11aに、この対向面11aを固定子2の周方向に分割する非貫通溝18を有する。
【0048】
(2)導体部材8は、対向面11aとは反対側の面に、当該面を固定子2の周方向に分割する非貫通溝19を有する。
【0049】
(3)導体部材8は、非貫通溝18の延設方向において非貫通溝18が残存する範囲とオーバーラップする範囲における導体断面(A-A断面)の面積と、被膜はく離部11が導体部材8の絶縁被膜17から露出し始める始端部11bにおける導体断面(B-B断面)の面積とが同じ大きさである。
【0050】
(4)導体部材8と他の導体部材8との接合部14は、その先端部の一部が固定子2の周方向において分断されている。
【0051】
(5)導体部材8と他の導体部材8との接合部14は、その先端部11cが絶縁樹脂20で被覆される。
【0052】
(6)被膜はく離部11は、始端部11bの側から接合部14の側に向かって周方向幅が拡幅する拡幅部(傾斜部11d2)を有する。
【0053】
(7)導体部材2は、始端部11bにおける導体断面の周方向寸法を前記導体断面の径方向寸法で除した値が2以上である。
【0054】
なお、本発明は上記した各実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【符号の説明】
【0055】
1…回転電機、2…固定子、5…鉄心、5a…鉄心5の軸方向端面、8…導体部材(セグメントコイル)、9…絶縁被膜付き電線、11…被膜はく離部、11a…一対の導体部材8,8が相互に対向する対向面、11b…被膜はく離部11が絶縁被膜17から露出し始める始端部、11c…接合部14の先端部(被膜はく離部11の先端部(終端部))、11d2…拡幅部を形成する傾斜部、12…スロット、14…一対の導体部材8,8の接合部、17…導体部材8の絶縁被膜、18…非貫通溝、19…非貫通溝、20…絶縁樹脂。