(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024116756
(43)【公開日】2024-08-28
(54)【発明の名称】振動調整方法、超音波疲労試験方法、及び超音波疲労試験機
(51)【国際特許分類】
G01N 3/34 20060101AFI20240821BHJP
【FI】
G01N3/34 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023022556
(22)【出願日】2023-02-16
(71)【出願人】
【識別番号】000004640
【氏名又は名称】日本発條株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 拓斗
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 千紘
(72)【発明者】
【氏名】大川 拓己
【テーマコード(参考)】
2G061
【Fターム(参考)】
2G061AA08
2G061AB05
2G061BA15
2G061CB02
2G061DA01
2G061EA02
2G061EB07
(57)【要約】
【課題】試験片の振動を所望の振動モードに調整することができる振動調整方法を提供すること。
【解決手段】振動調整方法は、試験片をねじり方向の振幅を有する超音波により共振させる際の振動モードを調整する振動調整方法であって、一端が前記超音波を発生させる超音波発生部に固定されており、前記一端に入力した前記超音波の振幅を増幅して他端から出力する第1のホーンの前記他端に前記試験片の一端を保持させ、前記試験片が前記超音波により共振している状態における前記試験片又は前記第1のホーンの変位を複数の位置において測定し、測定した変位に応じて前記試験片を含む被試験部の長さを調整することを特徴とする。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試験片をねじり方向の振幅を有する超音波により共振させる際の振動モードを調整する振動調整方法であって、
一端が前記超音波を発生させる超音波発生部に固定されており、前記一端に入力した前記超音波の振幅を増幅して他端から出力する第1のホーンの前記他端に前記試験片の一端を保持させ、
前記試験片が前記超音波により共振している状態における前記試験片又は前記第1のホーンの変位を複数の位置において測定し、
測定した変位に応じて前記試験片を含む被試験部の長さを調整することを特徴とする振動調整方法。
【請求項2】
前記第1のホーンと対向して配置されており、前記第1のホーンと反対側の一端が固定されている第2のホーンの他端に前記試験片の他端を保持させ、
前記試験片が前記超音波により共振している状態における前記試験片、前記第1のホーン、又は前記第2のホーンの変位を複数の位置において測定することを特徴とする請求項1に記載の振動調整方法。
【請求項3】
前記試験片と前記第1のホーンとの間、又は前記試験片と前記第2のホーンとの間にスペーサを挿入することにより、前記被試験部の長さを調整することを特徴とする請求項2に記載の振動調整方法。
【請求項4】
前記試験片の端部を削ることにより、前記被試験部の長さを調整することを特徴とする請求項1に記載の振動調整方法。
【請求項5】
デジタルマイクロスコープ、ハイスピードカメラ、レーザー変位計、又はギャップセンサにより、前記試験片、前記第1のホーン、又は前記第2のホーンの変位を複数の位置において測定することを特徴とする請求項2に記載の振動調整方法。
【請求項6】
試験片をねじり方向の振幅を有する超音波により共振させる超音波疲労試験方法であって、
一端が前記超音波を発生させる超音波発生部に固定されており、前記一端に入力した前記超音波の振幅を増幅して他端から出力する第1のホーンの前記他端に前記試験片の一端を保持させ、
前記試験片が前記超音波により共振している状態における前記試験片又は前記第1のホーンの変位を複数の位置において測定し、
測定した変位に応じて前記試験片を含む被試験部の長さを調整することを特徴とする超音波疲労試験方法。
【請求項7】
前記第1のホーンと対向して配置されており、前記第1のホーンと反対側の一端が固定されている第2のホーンの他端に前記試験片の他端を保持させ、
前記試験片が前記超音波により共振している状態における前記試験片、前記第1のホーン、又は前記第2のホーンの変位を複数の位置において測定し、
測定した変位に応じて前記被試験部の長さを調整することを特徴とする請求項6に記載の超音波疲労試験方法。
【請求項8】
前記第2のホーンと前記試験片に付与する平均ねじり応力を調整可能な回転ステージとの間に位置する第1XYステージを操作することにより、前記第2のホーンの中心軸と前記回転ステージの回転中心軸との軸ずれを調整し、
前記試験片に付与されるモーメントを計測し、
前記回転ステージを操作することにより、前記モーメントに応じて前記試験片に付与する平均ねじり応力を調整することを特徴とする請求項7に記載の超音波疲労試験方法。
【請求項9】
前記回転ステージを載置する第2XYステージを操作することにより、前記第1のホーンの中心軸と前記第2のホーンの中心軸との軸ずれを調整することを特徴とする請求項8に記載の超音波疲労試験方法。
【請求項10】
試験片をねじり方向の振幅を有する超音波により共振させることによって超音波疲労試験を行うための超音波疲労試験機であって、
前記超音波を発生させる超音波発生部と、
一端が前記超音波発生部に固定されており、他端が前記試験片の一端を保持する第1のホーンであって、前記一端に入力した前記超音波の振幅を増幅して前記他端から出力する第1のホーンと、
前記試験片が前記超音波により共振している状態における前記試験片又は前記第1のホーンの変位を複数の位置において測定する測定部と、
を備えることを特徴とする超音波疲労試験機。
【請求項11】
前記第1のホーンと対向して配置されており、前記第1のホーンと反対側の一端が固定されており、他端が前記試験片の他端を保持する第2のホーンを備え、
前記測定部は、前記試験片が前記超音波により共振している状態における前記試験片、前記第1のホーン、又は前記第2のホーンの変位を複数の位置において測定することを特徴とする請求項10に記載の超音波疲労試験機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動調整方法、超音波疲労試験方法、及び超音波疲労試験機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、試験片をねじり方向の振幅を有する超音波により共振させることによって超音波疲労試験を行うための超音波疲労試験機が知られている。
【0003】
特許文献1には、試験片の一端からホーンを介して超音波を入力する際、試験片の他端を固定しないで行う超音波疲労試験方法が記載されている。
【0004】
特許文献2には、試験片の一端からホーンを介して超音波を入力する際、ホーンを介して試験片の他端を固定して行う超音波疲労試験方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010-271248号公報
【特許文献2】特開2019-53009号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、超音波疲労試験機を構成するホーン等の形状のばらつきにより、試験片の振動が所望の振動モードにならない場合があるという課題があった。試験片が所望の振動モードと異なる振動モードで振動する場合、所望の応力分布にならないため、超音波疲労試験において試験片に適切に負荷をかけることができない。
【0007】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、試験片の振動を所望の振動モードに調整することができる振動調整方法、超音波疲労試験方法、及び超音波疲労試験機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明の一態様に係る振動調整方法は、試験片をねじり方向の振幅を有する超音波により共振させる際の振動モードを調整する振動調整方法であって、一端が前記超音波を発生させる超音波発生部に固定されており、前記一端に入力した前記超音波の振幅を増幅して他端から出力する第1のホーンの前記他端に前記試験片の一端を保持させ、前記試験片が前記超音波により共振している状態における前記試験片又は前記第1のホーンの変位を複数の位置において測定し、測定した変位に応じて前記試験片を含む被試験部の長さを調整することを特徴とする。
【0009】
また、本発明の一態様に係る振動調整方法は、前記第1のホーンと対向して配置されており、前記第1のホーンと反対側の一端が固定されている第2のホーンの他端に前記試験片の他端を保持させ、前記試験片が前記超音波により共振している状態における前記試験片、前記第1のホーン、又は前記第2のホーンの変位を複数の位置において測定することを特徴とする。
【0010】
また、本発明の一態様に係る振動調整方法は、前記試験片と前記第1のホーンとの間、又は前記試験片と前記第2のホーンとの間にスペーサを挿入することにより、前記被試験部の長さを調整することを特徴とする。
【0011】
また、本発明の一態様に係る振動調整方法は、前記試験片の端部を削ることにより、前記被試験部の長さを調整することを特徴とする。
【0012】
また、本発明の一態様に係る振動調整方法は、デジタルマイクロスコープ、ハイスピードカメラ、レーザー変位計、又はギャップセンサにより、前記試験片、前記第1のホーン、又は前記第2のホーンの変位を複数の位置において測定することを特徴とする。
【0013】
また、本発明の一態様に係る超音波疲労試験方法は、試験片をねじり方向の振幅を有する超音波により共振させる超音波疲労試験方法であって、一端が前記超音波を発生させる超音波発生部に固定されており、前記一端に入力した前記超音波の振幅を増幅して他端から出力する第1のホーンの前記他端に前記試験片の一端を保持させ、前記試験片が前記超音波により共振している状態における前記試験片又は前記第1のホーンの変位を複数の位置において測定し、測定した変位に応じて前記試験片を含む被試験部の長さを調整することを特徴とする。
【0014】
また、本発明の一態様に係る超音波疲労試験方法は、前記第1のホーンと対向して配置されており、前記第1のホーンと反対側の一端が固定されている第2のホーンの他端に前記試験片の他端を保持させ、前記試験片が前記超音波により共振している状態における前記試験片、前記第1のホーン、又は前記第2のホーンの変位を複数の位置において測定し、測定した変位に応じて前記被試験部の長さを調整することを特徴とする。
【0015】
また、本発明の一態様に係る超音波疲労試験方法は、前記第2のホーンと前記試験片に付与する平均ねじり応力を調整可能な回転ステージとの間に位置する第1XYステージを操作することにより、前記第2のホーンの中心軸と前記回転ステージの回転中心軸との軸ずれを調整し、前記試験片に付与されるモーメントを計測し、前記回転ステージを操作することにより、前記モーメントに応じて前記試験片に付与する平均ねじり応力を調整することを特徴とする。
【0016】
また、本発明の一態様に係る超音波疲労試験方法は、前記回転ステージを載置する第2XYステージを操作することにより、前記第1のホーンの中心軸と前記第2のホーンの中心軸との軸ずれを調整することを特徴とする。
【0017】
また、本発明の一態様に係る超音波疲労試験機は、試験片をねじり方向の振幅を有する超音波により共振させることによって超音波疲労試験を行うための超音波疲労試験機であって、前記超音波を発生させる超音波発生部と、一端が前記超音波発生部に固定されており、他端が前記試験片の一端を保持する第1のホーンであって、前記一端に入力した前記超音波の振幅を増幅して前記他端から出力する第1のホーンと、前記試験片が前記超音波により共振している状態における前記試験片又は前記第1のホーンの変位を複数の位置において測定する測定部と、を備えることを特徴とする。
【0018】
また、本発明の一態様に係る超音波疲労試験機は、前記第1のホーンと対向して配置されており、前記第1のホーンと反対側の一端が固定されており、他端が前記試験片の他端を保持する第2のホーンを備え、前記測定部は、前記試験片が前記超音波により共振している状態における前記試験片、前記第1のホーン、又は前記第2のホーンの変位を複数の位置において測定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、試験片の振動を所望の振動モードに調整することができる振動調整方法、超音波疲労試験方法、及び超音波疲労試験機を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】
図1は、実施の形態1に係る超音波疲労試験機の構成を示す模式図である。
【
図3】
図3は、
図1に示す超音波疲労試験機を用いた振動調整方法のフローチャートである。
【
図4】
図4は、試験片の変位を測定する様子を表す図である。
【
図5】
図5は、マーカの変位の測定方法を表す図である。
【
図6】
図6は、試験片の両端にワッシャーを挿入する様子を表す図である。
【
図7】
図7は、ワッシャーの厚さと試験片上下の変位差との関係を表す図である。
【
図8】
図8は、ワッシャーの厚さと共振周波数との関係を表す図である。
【
図9】
図9は、試験片軸方向距離とマーカの変位との関係を表す図である。
【
図11】
図11は、
図1に示す超音波疲労試験機を用いた超音波疲労試験方法のフローチャートである。
【
図12】
図12は、実施の形態2に係る超音波疲労試験機の構成を示す模式図である。
【
図13】
図13は、実施の形態3に係る超音波疲労試験機の構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、添付図面を参照して本発明を実施するための形態(以下、「実施の形態」という)を説明する。なお、図面は模式的なものであって、各部分の厚みと幅との関係、それぞれの部分の厚みの比率などは現実のものとは異なる場合があり、図面の相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれる場合がある。
【0022】
(実施の形態1)
〔超音波疲労試験機の構成〕
図1は、実施の形態に係る超音波疲労試験機の構成を示す模式図である。
図1に示すように、本実施の形態に係る超音波疲労試験機1は、制御装置2と、超音波発生部3と、第1のホーンである増幅ホーン4と、試験片5と、第2のホーンであるホーン6と、固定治具7と、第1XYステージ8と、六分力計9と、回転ステージ10と、第2XYステージ11と、を備える。
【0023】
制御装置2は、超音波発生部3に駆動電力を供給するとともに超音波発生部3を制御する。
【0024】
超音波発生部3は、超音波発生部3からの入力に応じて、ねじり方向の振幅を有する超音波を発生させる。超音波発生部3は、超音波発振器31と、ねじり変換機32と、を有する。ただし、超音波発振器がねじり方向の振幅を有する超音波を発生可能であれば、ねじり変換機を有しない構成であってもよい。
【0025】
超音波発振器31は、超音波発生部3からの入力に応じて、例えば横方向の所定の振幅及び周波数を有する超音波を発生させる。超音波発振器31が発生させる超音波の周波数は、例えば20kHzであるが、例えば15~30kHzの範囲で適切な周波数を選択することができる。
【0026】
ねじり変換機32は、超音波発生部3からの横方向の振幅を有する超音波をねじり方向の振幅を有する超音波に変換する。
【0027】
増幅ホーン4は、棒状部4aと、棒状部4aと中心軸が一致する拡径部4bと、を有する。増幅ホーン4は、棒状部4aと反対側の一端(上端)が超音波発生部3に固定されており、他端(下端)が試験片5の一端(上端)を保持する。増幅ホーン4は、超音波発生部3から一端(上端)に入力した超音波の振幅を増幅して他端(下端)から試験片5に出力する。ただし、増幅ホーン4は、棒状部を有しない形状であってもよく、例えば下端に向かって縮径するテーパー状の形状であってもよい。
【0028】
試験片5は、両端(上端及び下端)を増幅ホーン4の棒状部4a及びホーン6の棒状部6aにそれぞれ固定され、ねじり方向の振幅を有する超音波により共振する。試験片5は、特に限定されないが、例えば金属片であり、材料を加工したいわゆる試験片形状であったり、材料を未加工のまま(例えば線材を線状まま)使用したりすることができる。
【0029】
図2は、試験片の拡大図である。
図2に示すように、試験片5は、上下方向に沿って配列されている複数のマーカ5aを有する。マーカ5aの数は、例えば5個であるが、複数であればよく、特に限定されない。マーカ5aは、試験片5の最も細い部分に1つ、このマーカ5aを挟んで上下に対称な位置に2つずつ配置されている。
【0030】
ホーン6は、増幅ホーン4と対向して配置されており、棒状部6aと、棒状部6aと中心軸が一致する拡径部6bと、を有する。ホーン6は、増幅ホーン4と反対側の一端(下端)が固定治具7により第1XYステージ8に固定されており他端(上端)が試験片5の他端(下端)を保持する。ただし、ホーン6は、棒状部を有しない形状であってもよく、例えば上端に向かって縮径するテーパー状の形状であってもよい。
【0031】
増幅ホーン4、試験片5、及びホーン6は、超音波発生部3からのねじり方向の振幅を有する超音波により互いに共振し、試験片5の中心に節が、増幅ホーン4及びホーン6の試験片5と反対側の端部に腹が位置するように質量や剛性が調整されている。
【0032】
固定治具7は、ホーン6の一部を試験片5と反対側に押圧することにより、ホーン6の拡径部6bを第1XYステージ8に固定する。ただし、固定治具7がホーン6を押圧する方向は特に限定されない。固定治具7は、第1固定治具71と、第2固定治具72と、を有する。
【0033】
第1固定治具71は、ホーン6の一部(例えば試験片5と反対側の端部に形成されているフランジ部)を試験片5と反対側から押圧することにより、ホーン6の拡径部6bの端部を固定する。第1固定治具71は、例えば第2固定治具72にネジで固定される。
【0034】
第2固定治具72は、第1XYステージ8に固定されている。
【0035】
第1XYステージ8は、ホーン6と回転ステージ10の間に位置し、ホーン6の中心軸と回転ステージ10の回転中心軸との軸ずれを調整可能である。
【0036】
六分力計9は、試験片5に付与されるモーメントを計測する。具体的には、六分力計9は、直交する3軸方向に沿ってかかる力と、各軸周りのモーメントとを計測する。六分力計9は、x、y、z軸方向に沿ってかかる力Fx、Fy、Fzと、各軸周りのモーメントMx、My、Mz(
図2参照)を計測する。なお、六分力計9は、試験片5に付与される力とモーメントとを計測な位置に配置されていればよい。
【0037】
回転ステージ10は、試験片5に付与する平均ねじり応力を調整可能である。
【0038】
第2XYステージ11は、回転ステージ10を載置し、増幅ホーン4の中心軸とホーン6の中心軸との軸ずれを例えば閾値以下に調整可能である。閾値は、例えば0.05mmであるが特に限定されない。
【0039】
〔振動調整方法〕
次に、超音波疲労試験機1を用いて試験片5をねじり方向の振幅を有する超音波により共振させる際の振動モードを調整する振動調整方法について説明する。
図3は、
図1に示す超音波疲労試験機を用いた振動調整方法のフローチャートである。
図3に示すように、はじめに、試験片5に増幅ホーン4の棒状部4a及びホーン6の棒状部6aを接続する(ステップS1)。具体的には、試験片5の一端(上端)に形成されているネジに、増幅ホーン4の一端(下端)に形成されているネジ穴を螺合することにより、増幅ホーン4の棒状部4aに試験片5を保持させる。また、試験片5の他端(下端)に形成されているネジに、ホーン6の他端(上端)に形成されているネジ穴を螺合することにより、ホーン6の棒状部6aに試験片5を保持させる。
【0040】
続いて、試験片5が超音波疲労試験機1の超音波により共振している状態における試験片5の変位を複数の位置において測定する(ステップS2)。
図4は、試験片の変位を測定する様子を表す図である。
図4に示すように、試験片5のマーカ5aにデジタルマイクロスコープである測定部12を近接させ、マーカ5aを撮像する。そして、撮像した画像を用いてマーカ5aの変位を測定することにより、このマーカ5aの位置における試験片5の変位を測定する。ただし、測定部12として、ハイスピードカメラ、レーザー変位計、又はギャップセンサを用いて試験片5の変位を測定してもよい。
【0041】
図5は、マーカの変位の測定方法を表す図である。
図5に示すように、試験片5が振動していない静止時の画像I1には、マーカ5aの外周がはっきりと写る。これに対して、試験片5が共振している発振時の画像I2には、
図5の左右方向にマーカ5aの残像が写る。この残像幅を測定することにより、マーカ5aの変位を測定することができる。なお、残像幅ではなく、マーカ5aの直径等を測定することにより、マーカ5aの変位を測定してもよい。
【0042】
さらに、複数のマーカ5aの変位差を算出する(ステップS3)。変位差として試験片5の中心(最も細い部分)に対して上下対称な位置の変位差を算出することが好ましいが、変位差として上下対称ではない位置の変位差を算出してもよい。例えば、
図2に示す5つのマーカ5aのうち、最も上のマーカ5aの残像幅から、試験片5の中心に対して上下対称な位置にある最も下のマーカ5aの残像幅を引くことにより、マーカ5aの変位差を算出することができる。
【0043】
その後、試験片5の振動が所望の振動モードであるか否かを判定する(ステップS4)。ねじり疲労試験を行う場合には、試験片5にねじり変形のみが生じるねじり振動モードを入力することが好ましい。ねじり振動モードを入力した場合、試験片5の中心から上下対称な位置では、変位差がゼロになる。一方、ねじり振動モード以外の共振が発生してしまうと、この変位差がゼロにならない。従って、ステップS3において算出したマーカ5aの変位差がゼロであれば所望の振動モードであると判定することができる。なお、試験片5の中心に対して上下対称ではない位置の変位差を算出した場合、変位差を後述する変位の解析値と比較することにより、所望の振動モードであるか否かを判定することができる。マーカ5aの変位差がゼロであり、所望の振動モードであると判定した場合(ステップS4:Yes)、試験片5に所望の振動モードを入力することができているので、一連の処理を終了する。
【0044】
一方、マーカ5aの変位差がゼロではなく、所望の振動モードでないと判定した場合(ステップS4:No)、マーカ5aの変位差に応じて試験片5を含む被試験部の長さを調整する。その後、ステップS1に戻り、処理を繰り返す。
【0045】
以上説明した振動調整方法によれば、マーカ5aの変位を測定して試験片5を含む被試験部の長さを調整することにより、試験片5の振動を所望の振動モードに調整することができる。
【0046】
〔振動モードの調整方法〕
次に、試験片5を含む被試験部の長さを調整し、試験片5の振動を所望の振動モードに調整する方法について説明する。
図6は、試験片の両端にワッシャーを挿入する様子を表す図である。
図6に示すように、試験片5と増幅ホーン4との間、及び試験片5とホーン6との間にワッシャー5b等のスペーサを挿入することにより、試験片5及びスペーサを含む被試験部50の長さL
50を調整することができる。また、スペーサとして、ナット又はシム等を用いて被試験部50の長さL
50を調整してもよい。また、試験片5の上下方向の端部を削ることにより、被試験部50の長さL
50を調整してもよい。
【0047】
図7は、ワッシャーの厚さと試験片上下の変位差との関係を表す図である。
図7の横軸は試験片5の上下に挿入するワッシャー5bの厚さであり、縦軸は最も上のマーカ5aと最も下のマーカ5aとの変位差である。
図7には実測値と解析値とを示した。
図7に示すように、ワッシャー5bの厚さを0.5mmから1.3mmまで0.1mmずつ変化させていくと、ワッシャー5bの厚さが0.7mmから1.1mmにおいて、変位差がゼロとなった。
【0048】
図8は、ワッシャーの厚さと共振周波数との関係を表す図である。
図8の横軸は試験片5の上下に挿入するワッシャー5bの厚さであり、縦軸は試験片5の振動の周波数である。
図8には実測値と解析値とを示した。
図8に示すように、ワッシャー5bの厚さを0.5mmから1.3mmまで0.1mmずつ変化させていくと、試験片5の振動の周波数は徐々に小さくなる。
【0049】
図7、8に示す傾向は、複数の試験片5で確認しているため、試験片5の上部の変位が試験片5の下部の変位より大きい場合、試験片5の端部を削ることにより、被試験部50の長さL
50を短くすればよい。一方、試験片5の上部の変位が試験片5の下部の変位より小さい場合、試験片5の上下にワッシャー5b等のスペーサを挿入し、被試験部50の長さL
50を長くすればよい。
【0050】
以下において、マーカ5aの変位差がゼロとなったワッシャー5bの厚さ(0.7mmから1.1mm)の中央値である0.9mmを採用した場合の測定例を示す。
図9は、試験片軸方向距離とマーカの変位との関係を表す図である。
図9の横軸は試験片5の上端からの距離であり、縦軸はマーカ5aの変位の大きさである。すなわち、
図9の最も左の実測値が試験片5の最も上に位置するマーカ5aの変位に対応し、
図9の最も右の実測値が試験片5の最も下に位置するマーカ5aの変位に対応する。
図9に示すように、実測値と解析値とがほぼ一致し、かつ試験片5の上下において対称の変位が得られていることが確認された。これにより、所望の振動モードが得られていることが確認された。
【0051】
〔マーカの変位の算出方法〕
図9において、マーカ5aの変位の解析値を算出する方法を説明する。ねじりの弾性応力波に関する波動方程式は、以下の式(1)のように表すことができる。
【数1】
図10は、試験片の寸法を表す図である。
図10の左右方向をX軸、
図10の上下方向をY軸とし、原点は試験片5の中心(試験片5の最も細い部分の中央)とする。そして、試験片5の最も細い部分の半径をR
1、試験片5の太径部の半径をR
2、試験片5の太径部の長さをL
1、試験片5の径が細くなっている部分の長さをL
2とする。また、式(1)において、I
p(x)は座標xにおける極断面二次モーメント(単位は[m
4])、θ(x,t)は座標x・時刻tにおけるねじり角(単位は[rad])、Gはせん断弾性係数(単位は[N/m
2])、ρは材料密度(単位は[kg/m
3])である。
【0052】
そして、式(1)に試験片5の寸法である半径R
1、半径R
2、長さL
1、長さL
2を代入することにより、ねじり振動共振条件下における試験片5の寸法の関係式である式(2)が得られる。
【数2】
ただし、式(2)において、αは以下の式(3)である。
【数3】
同様に、式(2)において、βは以下の式(4)である。
【数4】
同様に、式(2)において、Κは以下の式(5)である。
【数5】
同様に、式(2)において、cは以下の式(6)である。
【数6】
なお、式(2)において、ωは各振動数(単位は[rad/sec])、fは共振周波数(単位は[Hz])、cは縦波速度(単位は[m/sec])である。
【0053】
また、試験片5のせん断応力振幅τ(x)は以下の式(7)により算出される。
【数7】
ただし、式(7)において、γ(x)は以下の式(8)である。
【数8】
なお、式(8)において、γ(x)は座標xにおけるせん断ひずみ(単位は[rad])、R(x)は座標xにおける試験片5の半径(単位は[m])、ζ(x)は座標xにおけるねじり振幅(単位は[rad])である。
【0054】
そして、式(7)、(8)に試験片5の寸法である半径R
1、半径R
2、長さL
1、長さL
2を代入することにより、試験片5の中央部のせん断応力振幅τ
aである式(9)が得られる。
【数9】
なお、式(9)において、ζ
0は試験片5の端面でのねじり振幅(単位は[rad])であるから、以下の式(10)により表される。
【数10】
【0055】
これにより、マーカ5aの変位をyとすると、変位yはねじり振幅ζ
0と試験片5の太径部の半径R
2とにより、以下の式(11)により表される。
【数11】
【0056】
〔超音波疲労試験方法〕
次に、超音波疲労試験機1を用いた超音波疲労試験方法について説明する。
図11は、
図1に示す超音波疲労試験機を用いた超音波疲労試験方法のフローチャートである。
図11に示すように、まず、上述した振動調整方法により、試験片5の振動を所望の振動モードに調整する(ステップS11)。
【0057】
続いて、第1XYステージ8を操作することにより、ホーン6の中心軸と回転ステージ10の回転中心軸との軸ずれを調整する(ステップS12)。増幅ホーン4の上端を固定した状態で、第1XYステージ8を操作することにより、ホーン6の中心軸と回転ステージ10の回転中心軸との軸ずれを閾値以下に調整する。
【0058】
さらに、ホーン6を第1固定治具71及び第2固定治具72により固定する(ステップS13)。
【0059】
その後、第2XYステージ11を操作することにより、増幅ホーン4の中心軸とホーン6の中心軸との軸ずれが、例えば閾値以下になるように調整する(ステップS14)。具体的には、回転ステージ10を回転させた際の曲げモーメントMx又はMyの変化量が小さくなるように、第2XYステージ11を操作すればよい。
【0060】
そして、回転ステージ10を反時計回りに回転させ、試験片5に付与する平均ねじり応力を調整する(ステップS15)。回転ステージ10を反時計回りに回転させることにより、試験片5に付与する平均ねじり応力を調整することができる。
【0061】
以上説明した実施の形態によれば、第1XYステージ8、及び第2XYステージ11を操作することにより、ホーン6の中心軸と回転ステージ10の回転中心軸との軸ずれ、及び増幅ホーン4の中心軸とホーン6の中心軸との軸ずれを調整した状態で、回転ステージ10により試験片5に対してねじり方向に適切な応力を付与して超音波疲労試験を行うことができる。
【0062】
なお、この超音波疲労試験機1によれば、試験片5に付与される平均ねじり応力が略ゼロの状態で超音波疲労試験を行うこともできるし、試験片5に所定の大きさの平均ねじり応力を付与した状態で超音波疲労試験を行うこともできる。
【0063】
また、超音波疲労試験機1を用いて、第1XYステージ8、及び第2XYステージ11を予め任意の方向に操作することにより、平均ねじり応力以外に、他の方向に応力を付与した状態で超音波疲労試験を行うこともできる。
【0064】
また、ステップS12~S15の軸ずれの調整を行った後に、ステップS11の振動を調整する処理を行ってもよく、処理の順番は特に限定されない。
【0065】
(実施の形態2)
図12は、実施の形態2に係る超音波疲労試験機の構成を示す模式図である。
図12に示すように、超音波疲労試験機1Aは、第1XYステージ8、及び第2XYステージ11を有しない。超音波疲労試験機1Aが試験片5の長手方向に沿った方向において各部材の軸ずれが生じない構成である場合、第1XYステージ8、及び第2XYステージ11を有しない構成としてもよい。このような構成であっても、マーカ5aの変位を測定して試験片5を含む被試験部の長さを調整することにより、試験片5の振動を所望の振動モードに調整することができる。
【0066】
(実施の形態3)
図13は、実施の形態3に係る超音波疲労試験機の構成を示す模式図である。
図13に示すように、超音波疲労試験機1Bは、固定治具7、第1XYステージ8、六分力計9、回転ステージ10、及び第2XYステージ11を有しない。超音波疲労試験機1Bが試験片5の上端のみを保持し、試験片5に平均ねじり応力を付与しない場合、回転ステージ10を含む試験片5より下方に位置する各部材を有しない構成としてもよい。このような構成であっても、マーカ5aの変位を測定して試験片5を含む被試験部の長さを調整することにより、試験片5の振動を所望の振動モードに調整することができる。
【符号の説明】
【0067】
1 超音波疲労試験機
2 制御装置
3 超音波発生部
4 増幅ホーン
4a、6a 棒状部
4b、6b 拡径部
5 試験片
5a マーカ
5b ワッシャー
6 ホーン
7 固定治具
8 第1XYステージ
9 六分力計
10 回転ステージ
11 第2XYステージ
31 超音波発振器
32 ねじり変換機
50 被試験部
71 第1固定治具
72 第2固定治具