IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東洋ゴム工業株式会社の特許一覧

特開2024-116758ウェットマスターバッチ、ゴム組成物及びそれらの製造方法
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024116758
(43)【公開日】2024-08-28
(54)【発明の名称】ウェットマスターバッチ、ゴム組成物及びそれらの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 3/22 20060101AFI20240821BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20240821BHJP
   C08L 21/02 20060101ALI20240821BHJP
【FI】
C08J3/22 CEQ
C08K3/04
C08L21/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023022558
(22)【出願日】2023-02-16
(71)【出願人】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】TOYO TIRE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003395
【氏名又は名称】弁理士法人蔦田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岩地 大輝
【テーマコード(参考)】
4F070
4J002
【Fターム(参考)】
4F070AA05
4F070AB16
4F070AC04
4F070AC05
4F070AC12
4F070AC13
4F070AC14
4F070AC40
4F070AC50
4F070AE01
4F070AE08
4F070AE28
4F070BA02
4F070BA09
4F070FA03
4F070FA05
4F070FB04
4F070FB05
4F070FB06
4F070FB07
4F070FB09
4F070GA06
4F070GC01
4J002AC011
4J002DA016
4J002DA037
4J002FB086
4J002FD016
4J002FD017
4J002HA06
(57)【要約】
【課題】物性向上効果に優れるウェットマスターバッチ及びゴム組成物を提供する。
【解決手段】実施形態に係るウェットマスターバッチは、ジエン系ゴムラテックスと酸化グラフェン水分散体とを湿式混合し乾燥して得られる、ジエン系ゴムと酸化グラフェンを含有するウェットマスターバッチであって、酸化グラフェン水分散体のカリウム含有量が酸化グラフェン100質量部に対して0.001質量部未満である。実施形態に係るゴム組成物は、該ウェットマスターバッチ、及びカーボンブラックを含むものである。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジエン系ゴムラテックスと酸化グラフェン水分散体とを湿式混合し乾燥して得られる、ジエン系ゴムと酸化グラフェンを含有するウェットマスターバッチであって、
前記酸化グラフェン水分散体のカリウム含有量が酸化グラフェン100質量部に対して0.001質量部未満である、ウェットマスターバッチ。
【請求項2】
酸化グラフェンの含有量が、ジエン系ゴム100質量部に対して0.1~3.0質量部である、請求項1に記載のウェットマスターバッチ。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のウェットマスターバッチ、及びカーボンブラックを含む、ゴム組成物。
【請求項4】
ジエン系ゴムラテックスと酸化グラフェン水分散体とを湿式混合し乾燥する、ウェットマスターバッチの製造方法であって、
前記酸化グラフェン水分散体のカリウム含有量が酸化グラフェン100質量部に対して0.001質量部未満である、ウェットマスターバッチの製造方法。
【請求項5】
ジエン系ゴムラテックスと酸化グラフェン水分散体とを湿式混合し乾燥してウェットマスターバッチを調製する第1工程と、
前記ウェットマスターバッチとカーボンブラックとを乾式混合する第2工程と、を含み、
前記酸化グラフェン水分散体のカリウム含有量が酸化グラフェン100質量部に対して0.001質量部未満である、ゴム組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウェットマスターバッチ、ゴム組成物、及び、それらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ゴム組成物の物性を高めるための方法が種々検討されている。例えば、特許文献1には、部分剥離グラファイトを含むグラフェン小板を含有する充填補強剤をゴム組成物に配合することが開示されている。
【0003】
特許文献2には、ジエン系ゴムにカーボンブラックとともに酸化グラフェンを配合すること、及びこれにより引張強度に優れるゴム組成物が得られることが開示されている。該ゴム組成物は、ゴムラテックスと酸化グラフェン水分散体とを湿式混合し、ウェットマスターバッチを調製した後、該ウェットマスターバッチとカーボンブラックとを乾式混合することにより、調製される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013-136745号公報
【特許文献2】特開2021-066823号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般に酸化グラフェンは固体状態では凝集するため水分散体として提供されることが多い。そのため、特許文献2では、ゴムラテックスと酸化グラフェン水分散体とを湿式混合することによりウェットマスターバッチが作製されている。しかしながら、酸化グラフェン水分散体中にはその製造過程で使用する酸化剤由来の不純物が含まれる。このような不純物を含む酸化グラフェン水分散体を用いてウェットマスターバッチを作製すると、酸化グラフェンによる物性向上効果が必ずしも充分に発揮されないことが判明した。
【0006】
本発明の実施形態は、物性向上効果に優れるウェットマスターバッチを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は以下に示される実施形態を含む。
[1] ジエン系ゴムラテックスと酸化グラフェン水分散体とを湿式混合し乾燥して得られる、ジエン系ゴムと酸化グラフェンを含有するウェットマスターバッチであって、前記酸化グラフェン水分散体のカリウム含有量が酸化グラフェン100質量部に対して0.001質量部未満である、ウェットマスターバッチ。
[2] 酸化グラフェンの含有量が、ジエン系ゴム100質量部に対して0.1~3.0質量部である、[1]に記載のウェットマスターバッチ。
[3] [1]又は[2]に記載のウェットマスターバッチ、及びカーボンブラックを含む、ゴム組成物。
【0008】
[4] ジエン系ゴムラテックスと酸化グラフェン水分散体とを湿式混合し乾燥する、ウェットマスターバッチの製造方法であって、前記酸化グラフェン水分散体のカリウム含有量が酸化グラフェン100質量部に対して0.001質量部未満である、ウェットマスターバッチの製造方法。
[5] ジエン系ゴムラテックスと酸化グラフェン水分散体とを湿式混合し乾燥してウェットマスターバッチを調製する第1工程と、前記ウェットマスターバッチとカーボンブラックとを乾式混合する第2工程と、を含み、前記酸化グラフェン水分散体のカリウム含有量が酸化グラフェン100質量部に対して0.001質量部未満である、ゴム組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の実施形態によれば、カリウム含有量の少ない酸化グラフェン水分散体を用いることにより、酸化グラフェンによる物性向上効果に優れるウェットマスターバッチを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本実施形態に係るウェットマスターバッチは、ジエン系ゴムと酸化グラフェンを含有するものであり、ジエン系ゴムに酸化グラフェンを複合させた複合体である。
【0011】
ジエン系ゴムとは、共役二重結合を持つジエンモノマーに対応する繰り返し単位を持つゴムをいい、ポリマー主鎖に二重結合を有する。ジエン系ゴムの具体例としては、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ニトリルゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)、スチレン-イソプレン共重合体ゴム、ブタジエン-イソプレン共重合体ゴム、スチレン-イソプレン-ブタジエン共重合体ゴム等が挙げられる。これらはいずれか1種又は2種以上組み合わせて用いることができる。なお、ジエン系ゴムには、必要に応じて末端や主鎖を変性したもの(例えば、末端変性SBR)や、所望の特性を付与するべく改質したもの(例えば、改質NR)も、その概念に包含される。一実施形態において、ジエン系ゴムは、天然ゴム及び/又はイソプレンゴムを含むことが好ましい。
【0012】
酸化グラフェンとは、炭素原子が六角形の格子状に並んだ1原子の厚さの層であるグラフェンが、カルボキシ基、カルボニル基、ヒドロキシ基及び/又はエポキシ基等の酸素含有基で修飾されたものをいう。酸化グラフェンは、例えば黒鉛(グラファイト)を原料として酸化させることにより、ナノレベルまで単層化して合成することができる。
【0013】
酸化グラフェンの酸素含有量は、特に限定されず、例えば5~60atom%でもよく、10~60atom%でもよく、20~55atom%でもよく、30~50atom%でもよい。ここで、酸化グラフェンの酸素含有量は、元素分析により測定することができる。例えば、DKSHジャパン(株)製の元素分析装置「vario MACRO cube」を使用し、酸化グラフェン水分散体の不揮発分を50℃で真空乾燥したものを測定サンプルとして測定することができる。
【0014】
酸化グラフェンの含有量は、ジエン系ゴム100質量部に対して、0.1~3.0質量部であることが好ましく、0.5~2.5質量部であることがより好ましく、0.8~2.2質量部であることが更に好ましい。酸化グラフェンの含有量が上記範囲内であることにより、酸化グラフェンによる物性向上効果を高めることができる。
【0015】
本実施形態に係るウェットマスターバッチは、ジエン系ゴムラテックスと酸化グラフェン水分散体とを湿式混合し乾燥して得られるものであり、ジエン系ゴムラテックス由来の固形分と酸化グラフェン水分散体由来の固形分を含む。
【0016】
ジエン系ゴムラテックスとしては、天然ゴムラテックスでもよく、合成ゴムラテックスでもよい。天然ゴムラテックスは、植物の代謝作用による天然の生産物であり、特に分散溶媒が水であるものが好ましい。天然ゴムラテックス中の天然ゴムの数平均分子量は特に限定されず、200万以上でもよい。合成ゴムラテックスとしては、例えばイソプレンゴム、スチレンブタジエンゴム、ブタジエンゴム、ニトリルゴム、クロロプレンゴムを乳化重合により製造したものが挙げられる。
【0017】
ジエン系ゴムラテックスにおけるジエン系ゴムの濃度は特に限定されず、例えば20~70質量%でもよく、30~60質量%でもよい。
【0018】
酸化グラフェン水分散体における酸化グラフェンの濃度は特に限定されず、例えば0.1~15質量%でもよく、0.2~10質量%でもよく、0.3~5質量%でもよく、0.5~3質量%でもよい。
【0019】
本実施形態では、酸化グラフェン水分散体として、カリウム含有量が低い高純度の酸化グラフェン水分散体を用いる。上記のように、一般に酸化グラフェン水分散体中にはその製造過程で使用する酸化剤由来の不純物が含まれ、物性低下の要因となり得る。本実施形態では、酸化剤由来のカリウム含有量が酸化グラフェン100質量部に対して0.001質量部未満である高純度酸化グラフェン水分散体を用いることにより、酸化グラフェンによる優れた物性向上効果を引き出すことができる。
【0020】
このような高純度の酸化グラフェン水分散体としては、市販されているものが使用可能であり、例えば(株)NSC製「酸化グラフェン(GO)」を使用することができる。
【0021】
ここで、酸化グラフェン水分散体のカリウム含有量は、ICP発光分光分析法(高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法、ICP-OES)で酸化グラフェン水分散体におけるカリウム濃度を測定することにより、当該酸化グラフェン水分散体に含まれる酸化グラフェン100質量部に対するカリウムの質量部として求められる。詳細な測定方法は、実施例において記載したとおりである。
【0022】
なお、本実施形態では、ウェットマスターバッチにおけるカリウム含有量ではなく、当該ウェットマスターバッチの調製に用いる酸化グラフェン水分散体におけるカリウム含有量によりウェットマスターバッチを規定している。これは、酸化グラフェン水分散体においてカリウムは酸化剤由来の不純物であって、当該水分散体においてさえppmオーダーで含まれる微量成分である。ウェットマスターバッチにおいて、酸化グラフェンはジエン系ゴムに対して比較的少量にて配合されるものであり、酸化グラフェンに対する微量の不純物であるカリウムはウェットマスターバッチ中では含まれるとしても極微量である。また、酸化グラフェン水分散体に含まれるカリウムは、ウェットマスターバッチの製造過程において、必ずしも全てがウェットマスターバッチに含まれず、水中に残留するものも存在すると考えられることから、この点でもウェットマスターバッチに含まれるカリウムは極微量である。そのため、ウェットマスターバッチにおけるカリウム含有量は従来技術に係る比較例でさえ測定することができず、ウェットマスターバッチにおけるカリウム含有量によって従来技術との相違を特定することは不可能である。よって、本実施形態に係るウェットマスターバッチの特徴をその物の構造又は特性により直接特定することには不可能・非実際的事情が存在する。
【0023】
該ウェットマスターバッチの製造方法では、上記のジエン系ゴムラテックスと酸化グラフェン水分散体とを湿式混合してから乾燥することによりウェットマスターバッチを得る。ジエン系ゴムラテックスと酸化グラフェン水分散体とを湿式混合するとは、両者を液体同士で混合することをいう。
【0024】
ジエン系ゴムラテックスと酸化グラフェン水分散体との混合液を乾燥してウェットマスターバッチを得る方法としては、例えば、混合液を貧溶媒で処理して凝固させた後に乾燥してもよく、混合液に凝固剤を加えて凝固させた後に乾燥してもよく、凝固させることなく乾燥させる乾固方法でもよい。貧溶媒としては特に限定されず、例えばアセトン、メタノール、エタノールなどが挙げられる。凝固剤としては特に限定されず、例えばギ酸、硫酸などの酸が挙げられる。
【0025】
乾燥方法としては特に限定されず、例えばオーブン、真空乾燥機、エアードライヤーなどの各種乾燥装置を使用する方法が挙げられる。
【0026】
本実施形態に係るゴム組成物は、上記のウェットマスターバッチと、カーボンブラックを含む。そのため、ゴム組成物は、ジエン系ゴムと、酸化グラフェンと、カーボンブラックを含む。なお、本実施形態において、ゴム組成物に含まれるジエン系ゴムは、ウェットマスターバッチとして配合されるものだけでもよく、追加のジエン系ゴムが含まれてもよい。すなわち、後述する第2工程において、ウェットマスターバッチとともに追加のジエン系ゴムを乾式混合してもよい。
【0027】
ゴム組成物における酸化グラフェンの含有量は、ジエン系ゴム100質量部に対して0.1~3.0質量部であることが好ましく、より好ましくは0.5~2.5質量部であり、更に好ましくは0.8~2.2質量部である。
【0028】
カーボンブラックとしては特に限定されず、公知の種々の品種を用いることができる。具体的には、SAF級(N100番台)、ISAF級(N200番台)、HAF級(N300番台)、FEF級(N500番台)、GPF級(N600番台)(ともにASTMグレード)が挙げられる。これら各グレードのカーボンブラックは、いずれか1種又は2種以上組み合わせて用いることができる。
【0029】
カーボンブラックの含有量は、ジエン系ゴム100質量部に対して5~100質量部でもよく、20~80質量部でもよく、30~70質量部でもよく、40~60質量部でもよい。
【0030】
ゴム組成物には、カーボンブラックとともにシリカを含んでもよい。シリカとしては、例えば、湿式沈降法シリカ、湿式ゲル化法シリカなどの湿式シリカが好ましく用いられる。シリカの含有量は、例えば、ジエン系ゴム100質量部に対して、1~100質量部でもよく、30~80質量部でもよく、40~60質量部でもよい。シリカを含む場合、ゴム組成物には、更にスルフィドシラン、メルカプトシランなどのシランカップリング剤が配合されてもよい。シランカップリング剤の含有量は、シリカ100質量部に対して2~20質量部であることが好ましい。
【0031】
本実施形態に係るゴム組成物には、上記成分の他に、酸化亜鉛、ステアリン酸、老化防止剤、オイル、ワックス、加硫剤、加硫促進剤など、ゴム組成物において一般に使用される各種添加剤を配合することができる。
【0032】
加硫剤としては、粉末硫黄、沈降硫黄、コロイド硫黄、不溶性硫黄、高分散性硫黄などの硫黄が挙げられる。加硫剤の含有量は、例えば、ジエン系ゴム100質量部に対して0.1~10質量部でもよく、0.5~5質量部でもよく、1~3質量部でもよい。
【0033】
加硫促進剤としては、例えば、スルフェンアミド系、チウラム系、チアゾール系、及びグアニジン系などの各種加硫促進剤が挙げられ、いずれか1種単独で又は2種以上組み合わせて用いることができる。加硫促進剤の含有量は、例えば、ジエン系ゴム100質量部に対して0.1~10質量部でもよく、0.5~5質量部でもよく、1~3質量部でもよい。
【0034】
本実施形態に係るゴム組成物の製造方法は、ジエン系ゴムラテックスと酸化グラフェン水分散体とを湿式混合し乾燥してウェットマスターバッチを調製する第1工程と、得られたウェットマスターバッチとカーボンブラックとを乾式混合する第2工程と、を含む。
【0035】
第1工程のウェットマスターバッチを調製する工程は上記のとおりであり、カリウム含有量が酸化グラフェン100質量部に対して0.001質量部未満である酸化グラフェン水分散体を用いて、当該水分散体とジエン系ゴムラテックスとを湿式混合し、混合液を乾燥することによりウェットマスターバッチが得られる。
【0036】
第2工程では、例えばゴム組成物の混合に通常用いられるバンバリーミキサーやニーダー、ロール等の混合機を用いて、第1工程で得られたウェットマスターバッチに対し、カーボンブラックを添加混合する。詳細には、第一混合段階(ノンプロ練り工程)で、上記ウェットマスターバッチに対し、カーボンブラックとともに、加硫剤及び加硫促進剤以外の添加剤を添加混合する。次いで、得られた混合物に、最終混合段階(プロ練り工程)で加硫剤及び加硫促進剤を添加混合する。これにより、未加硫のゴム組成物を調製することができる。
【0037】
このようにして得られるゴム組成物は、タイヤ用、防振ゴム用、コンベアベルト用などの各種ゴム部材に用いることができる。該ゴム組成物をタイヤに用いる場合、乗用車用タイヤ、トラックやバスの大型タイヤ(重荷重用タイヤ)など、各種用途・各種サイズの空気入りタイヤのトレッドゴムやサイドウォールゴムとして用いることができる。
【0038】
ゴム組成物は、常法に従い、例えば、押出加工によって所定の形状に成形され、加熱して加硫することにより加硫ゴムとなる。該ゴム組成物をタイヤに用いる場合、押出加工等によって所定の形状に成形し、他の部品と組み合わせてグリーンタイヤを作製した後、例えば130~190℃でグリーンタイヤを加硫成形することにより、タイヤを製造することができる。
【実施例0039】
以下、実施例を示すが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0040】
[使用原料]
・酸化グラフェン水分散体1:(株)NSC製「酸化グラフェン(GO)」(酸素含有量:32atom%)
・酸化グラフェン水分散体2:(株)日本触媒製「酸化グラフェン(GO)」(酸素含有量:35atom%)
【0041】
・天然ゴムラテックス:(株)レヂテックス製の高アンモニア含有天然ゴムラテックス「HA-NR」(固形分濃度(DRC)60質量%)
・カーボンブラック:東海カーボン(株)製「N339 シーストKH」
・酸化亜鉛:三井金属鉱業(株)製「亜鉛華1種」
・ステアリン酸:花王(株)製「ルナックS-20」
・硫黄:細井化学工業(株)製「ゴム用粉末硫黄150メッシュ」
・加硫促進剤:大内新興化学工業(株)製「ノクセラーNS-P」
【0042】
[酸化グラフェン水分散体のカリウム含有量測定]
酸化グラフェン水分散体として、上記酸化グラフェン水分散体1及び2を用いた。まず、下処理としてマイクロウェーブ分解容器に濃度1.0質量%の酸化グラフェン水分散体0.1gと硝酸5mLを加えて密閉し、段階的に温度を上げていき、最終的に210℃で20分間保持した。これにより試料を分解、溶液化することで分解溶液を調製した。得られた分解溶液を、全量が50mLとなるように蒸留水を加えて希釈し、測定溶液を調製した。得られた測定溶液について、ICP発光分光分析法(ICP-OES)によるカリウム(K)の濃度を測定した。その際、カリウム濃度は766.490nmの波長で確認し、絶対検量線法を用いて濃度を求めた。
【0043】
その結果、酸化グラフェン水分散体2では、カリウム濃度が43ppmであった。すなわち、酸化グラフェン水分散体2のカリウム含有量は酸化グラフェン100質量部に対して0.043質量部であった。
【0044】
これに対し、酸化グラフェン水分散体1では、カリウム濃度が0.1ppm未満、即ち検出下限未満であった。すなわち、酸化グラフェン水分散体1のカリウム含有量は酸化グラフェン100質量部に対して0.001質量部未満であった。
【0045】
[実施例1]
固形分濃度(DRC)60質量%の天然ゴムラテックス166.7質量部に濃度1.0質量%の酸化グラフェン水分散体1を100質量部加えて一晩撹拌した。撹拌後、混合液をアセトンに滴下しゴム分を凝集させた。得られたゴム分を水で洗浄し50℃で減圧乾燥することにより、ウェットマスターバッチを得た。バンバリーミキサーを使用し、下記表1に示す配合(質量部)に従い、まず、ノンプロ練り工程で、得られたウェットマスターバッチに対して、加硫促進剤、及び硫黄を除く成分を添加混合し(排出温度=160℃)、得られた混合物に、最終混合段階(プロ練り工程)で、加硫促進剤及び硫黄を添加混合して(排出温度=100℃)、ゴム組成物を調製した。
【0046】
表1中の「天然ゴム」、「酸化グラフェン1」及び「酸化グラフェン2」の質量部は、それぞれ「天然ゴムラテックス」、「酸化グラフェン水分散体1」及び「酸化グラフェン水分散体2」由来の固形分の質量部であり、ウェットマスターバッチとしてゴム組成物に配合される。
【0047】
[実施例2]
固形分濃度(DRC)60質量%の天然ゴムラテックス166.7質量部に濃度1.0質量%の酸化グラフェン水分散体1を200質量部加えて一晩撹拌した以外は、実施例1と同様にして、表1に示す配合のゴム組成物を調製した。
【0048】
[比較例1]
濃度1.0質量%の酸化グラフェン水分散体1を加えずに天然ゴムラテックスを一晩撹拌した以外は、実施例1と同様にして、表1に示す配合のゴム組成物を調製した。
【0049】
[比較例2]
濃度1.0質量%の酸化グラフェン水分散体1の代わりに濃度1.0質量%の酸化グラフェン水分散体2を用いた以外は、実施例1と同様にして、表1に示す配合のゴム組成物を調製した。
【0050】
[比較例3]
濃度1.0質量%の酸化グラフェン水分散体1の代わりに濃度1.0質量%の酸化グラフェン水分散体2を用いた以外は、実施例2と同様にして、表1に示す配合のゴム組成物を調製した。
【0051】
得られた各ゴム組成物について、150℃で25分間加硫した所定形状の試験片を用いて、100%伸張時の引張応力と抗張積を評価した。評価方法は次の通りである。
【0052】
・100%伸張時の引張応力:JIS K6251:2017に準拠した引張試験(ダンベル状7号形、厚み1mm)を行い、25℃における100%伸長時の引張応力(MPa)を測定し、比較例1の値を100とした指数で表示した。指数が大きいほど引張強度が高く、破壊特性(機械強度)に優れることを示す。
【0053】
・抗張積:JIS K6251:2017に準拠した引張試験(ダンベル状7号形、厚み1mm)を行い、25℃における破断強度(切断時引張強さ)と破断伸度(切断時伸び)との積を抗張積として求め、比較例1の値を100とした指数で表示した。指数が大きいほど抗張積が高く、破壊特性(機械強度)に優れることを示す。
【0054】
【表1】
【0055】
結果は表1に示すとおりである。酸化グラフェンの含有量が1.0質量部である実施例1と比較例2とを対比したところ、カリウム含有量が低い高純度の酸化グラフェン水分散体1を用いた実施例1であると、純度の低い酸化グラフェン水分散体2を用いた比較例2と比べて、コントロールである比較例1に対して、抗張積を維持しながら、引張強度が高くなっており、高い補強効果を確認できた。
【0056】
酸化グラフェンの含有量が2.0質量部である実施例2と比較例3との対比でも、高純度の酸化グラフェン水分散体1を用いた実施例2であると、純度の低い酸化グラフェン水分散体2を用いた比較例2と比べて、抗張積の低下を抑えながら、引張強度が高くなっており、高い補強効果を確認できた。
【0057】
なお、明細書に記載の種々の数値範囲は、それぞれそれらの上限値と下限値を任意に組み合わせることができ、それら全ての組み合わせが好ましい数値範囲として本明細書に記載されているものとする。また、「X~Y」との数値範囲の記載は、X以上Y以下を意味する。