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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024116770
(43)【公開日】2024-08-28
(54)【発明の名称】弾性クローラ
(51)【国際特許分類】
   B62D 55/253 20060101AFI20240821BHJP
【FI】
B62D55/253 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023022570
(22)【出願日】2023-02-16
(71)【出願人】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中安 友明
(57)【要約】
【課題】耐久性に優れた弾性クローラ10の提供。
【解決手段】弾性クローラ10は、メインベルト14、ホール16、膜18、ラグ20及び転輪ガイド24を有している。メインベルト14は、無端形状を有する。このメインベルト14は、内周面28及び外周面30を有している。ホール16は、内周面28に開口している。このホール16は、駆動輪の爪を受け入れうる。膜18は、ホール16の底を塞いでいる。膜18は、その内面に複数の突起50を有している。それぞれの突起50は、内向きに起立している。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
爪を有する駆動輪を含む走行装置の弾性クローラであって、
無端形状であって、内周面及び外周面を有するメインベルト、
上記内周面に開口しており、かつ上記爪を受け入れうるホール、
並びに
上記ホールの底を塞ぐ膜
を備えており、
上記膜が、内面及び外面を有するベースと、それぞれがこのベースの内面から起立する複数の突起とを有する、弾性クローラ。
【請求項2】
上記ベースの厚さTbに対する上記突起の高さHpの比(Hp/Tb)が、0.2以上2.0以下である、請求項1に記載の弾性クローラ。
【請求項3】
上記突起が、第一突起と、左右方向においてこの第一突起と隣接しかつ前後方向においてこの第一突起よりも前側に位置する第二突起とを含んでおり、
上記第一突起の前側端が、上記第二突起の前側端よりも後側であって上記第二突起の後側端よりも前側にある、請求項1又は2に記載の弾性クローラ。
【請求項4】
上記突起が、第一突起と、左右方向においてこの第一突起と隣接しかつ前後方向においてこの第一突起よりも後側に位置する第三突起とを含んでおり、
上記第一突起の後側端が、上記第三突起の前側端よりも後側であって上記第三突起の後側端よりも前側にある、請求項1又は2に記載の弾性クローラ。
【請求項5】
上記ベースの上記内面における、上記突起の面積率PAが、30%以上80%以下である、請求項1又は2に記載の弾性クローラ。
【請求項6】
上記ベースの上記外面から起立する突起が存在しない、請求項1又は2に記載の弾性クローラ。
【請求項7】
上記メインベルトに埋設されており、かつそれぞれが前後方向に延在する複数のコードを含む抗張体を、さらに備えており、
上記膜が、厚み方向において、上記抗張体よりも外側に位置する、請求項1又は2に記載の弾性クローラ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、弾性クローラを開示する。詳細には、本明細書は、爪を含む駆動輪を有する走行装置の、弾性クローラに関する。
【背景技術】
【0002】
農機具等の走行装置は、スプロケット(駆動輪)、転輪及び弾性クローラを有している。スプロケットは、爪を含んでいる。弾性クローラは、ゴム等からなり無端形状を有するメインベルトと、このメインベルトの内周面に開口するホールとを有している。このホールは、スプロケットの爪を受け入れ、スプロケットからの駆動力をメインベルトに伝達する。
【0003】
ホールには、土砂等が侵入しうる。この土砂は、メインベルトの内周面と転輪との間に介在する。この介在は、メインベルトを損傷する。国際公開第WO2016-006259公報には、ホールの底を塞ぐゴム膜を有する弾性クローラが、開示されている。この膜は、ホールへの土砂の侵入を阻止しうる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2016-006259号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
膜は、爪と擦れ合う。膜はさらに、爪によって押圧され、異物と接触する。この擦動、押圧、接触等を要因として、膜に亀裂が発生しうる。この亀裂が成長し、メインベルトにまで至ることがある。この亀裂は、メインベルトへの水の侵入を招き、メインベルト中の金属部材の腐食を誘発する。亀裂の成長は、弾性クローラの寿命を損なう。
【0006】
本出願人の意図するところは、耐久性に優れた弾性クローラの提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本明細書は、爪を有する駆動輪を含む走行装置の弾性クローラを開示する。このクローラは、
無端形状であって、内周面及び外周面を有するメインベルト、
上記内周面に開口しており、かつ上記爪を受け入れうるホール、
並びに
上記ホールの底を塞ぐ膜
を有する。この膜は、内面及び外面を有するベースと、それぞれがこのベースの内面から起立する複数の突起とを有する。
【発明の効果】
【0008】
この弾性クローラでは、膜に亀裂が発生した場合、この亀裂の成長を突起が抑制する。このクローラは、耐久性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、一実施形態に係る弾性クローラを含む走行装置が示された概略図である。
図2図2は、図1の弾性クローラの一部が示された拡大平面図である。
図3図3は、図2のIII-III線に沿った断面図である。
図4図4は、図2のIV-IV線に沿った断面図である。
図5図5は、図2のV-V線に沿った断面図である。
図6図6は、図2の弾性クローラの膜が示された拡大平面図である。
図7図7は、図6のVII-VII線に沿った拡大断面図である。
図8図8は、図6の膜の一部が示された拡大斜視図である。
図9図9は、図6の膜の一部がさらに拡大されて示された平面図である。
図10図10は、他の実施形態に係る弾性クローラの一部が示された断面図である。
図11図11は、さらに他の実施形態に係る弾性クローラの一部が示された平面図である。
図12図12は、図11のXII-XII線に沿った拡大断面図である。
図13図13は、さらに他の実施形態に係る弾性クローラの一部が示された平面図である。
図14図14は、図13のXIV-XIV線に沿った拡大断面図である。
図15図15は、さらに他の実施形態に係る弾性クローラの一部が示された平面図である。
図16図16は、図15のXVI-XVI線に沿った拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、適宜図面が参照されつつ、好ましい実施形態が詳細に説明される。
【0011】
図1に、走行装置2が示されている。この走行装置2は、駆動輪4、従動輪6、複数の転輪8及び弾性クローラ10を有している。本実施形態では、駆動輪4は、スプロケット12である。この走行装置2は、図示されない駆動手段(エンジン等)を有している。この駆動手段により、スプロケット12が回転させられる。クローラ10は、スプロケット12と従動輪6との間に巻き掛けられている。スプロケット12の回転により、クローラ10が回転する。クローラ10が回転するとき、転輪8はクローラ10を案内する。この案内により、クローラ10の蛇行が阻止される。クローラ10の回転により、装置2が走行する。典型的な走行装置2として、土木機器、建設機器及び農業用機器が挙げられる。走行装置2が、複数の従動輪6を有してもよい。走行装置2が、従動輪6と他の従動輪6との間に位置する転輪8を有してもよい。
【0012】
図2-5に、弾性クローラ10が示されている。これらの図面において、矢印Xは左右方向を表し、矢印Yは前後方向を表し、矢印Zは厚み方向を表す。左右方向Xは、駆動輪4の軸方向でもある。前後方向は、クローラ10の周方向でもある。図1-5に示されるように、このクローラ10は、メインベルト14、複数のホール16、複数の膜18、複数のラグ20、複数の芯金22、複数の転輪ガイド24及び一対の抗張体26を有している。
【0013】
メインベルト14は、無端形状を有する。このメインベルト14は、内周面28及び外周面30を有している。メインベルト14はさらに、一対の外縁32を有している。図2において矢印Wmは、メインベルト14の幅を表す。幅Wmは、左側の外縁32から右側の外縁32までの距離である。メインベルト14の幅Wmは、クローラ10の幅でもある。一般的な弾性クローラ10の幅Wmは、100mm以上600mm以下である。メインベルト14は、弾性材料から形成されている。ゴム、合成樹脂、エラストマー等が、メインベルト14に用いられうる。メインベルト14の典型的な材質は、架橋されたゴム組成物である。
【0014】
図2に示されるように、複数のホール16が前後方向に沿って並んでいる。本実施形態では、これらのホール16は、等ピッチで並んでいる。それぞれのホール16は、芯金22と、これに隣接する他の芯金22との間に位置している。ホール16は、メインベルト14の内周面28に開口している。図4に示されるように、ホール16は、一対の側壁34を有している。
【0015】
弾性クローラ10が走行するとき、このホール16にスプロケット12の爪36(図1を参照)が入り込む。ホール16は、爪36を受け入れる。この爪36により、スプロケット12から芯金22を介してメインベルト14へと、駆動力が伝達される。
【0016】
図4及び5に示されるように、それぞれの膜18は、厚み方向Zにおいて、ホール16の外側に位置している。この膜18は、ホール16の底を塞いでいる。本実施形態では、膜18は、メインベルト14と一体である。従って膜18の材質は、メインベルト14の材質と同じである。膜18は、弾性を有する。膜18は、変形能を有する。膜18は、厚み方向Zの外側からホール16へと土砂が侵入することを、阻止する。換言すれば、膜18は、土砂による内周面28の損傷を抑制しうる。膜18の材質がメインベルト14の材質と異なってもよい。
【0017】
図1に示されるように、複数のラグ20が、周方向に沿って並んでいる。実施形態では、これらのラグ20は、等ピッチで並んでいる。図1、3及び4に示されるように、それぞれのラグ20は、メインベルト14の外周面30から突出している。このラグ20の材質は、メインベルト14の材質とは異なっている。ラグ20の材質が、メインベルト14の材質と同じであってもよい。ラグ20の典型的な材質は、架橋されたゴム組成物である。
【0018】
図2に示されるように、複数の芯金22が、前後方向に沿って並んでいる。本実施形態では、これらの芯金22は、等ピッチで並んでいる。それぞれの芯金22は、幅方向中心に位置している。芯金22は、概してメインベルト14に埋設されている。芯金22の一部は、メインベルト14から露出している。芯金22の一部がメインベルト14から露出する場合も含め、本明細書では、「埋設」と称される。芯金22は、硬質である。芯金22の典型的な材質は、スチール、ステンレススチール等の金属である。
【0019】
図3に示されるように、この芯金22は、センター38、一対のホーン40(horn)及び一対のウイング42を有している。それぞれのホーン40は、センター38から厚み方向内向き(図3の上向き)に突出している。それぞれのウイング42は、センター38から左右方向外向きに突出している。芯金22を含まない弾性クローラ10を、装置2が有してもよい。
【0020】
図1及び2に示されるように、複数の転輪ガイド24が、前後方向に沿って並んでいる。これらの転輪ガイド24は、等ピッチで並んでいる。それぞれの転輪ガイド24は、左右方向中心に位置している。図3に示されるように、この転輪ガイド24は、メインベルト14の内周面28から突出している。この転輪ガイド24は、一対のガイド突起44を有している。図3に示されるように、それぞれのガイド突起44は、芯金22のホーン40を含んでいる。換言すれば、ホーン40は、芯金22の一部であり、かつガイド突起44の一部でもある。このガイド突起44はさらに、メインベルト14の一部を含んでいる。転輪ガイド24が、メインベルト14を含まないガイド突起44を有してもよい。換言すれば、ガイド突起44において、ホーン40が完全に露出してもよい。
【0021】
抗張体26は、メインベルト14に埋設されている。抗張体26は、厚み方向において芯金22の外側(図3の下側)に位置している。この抗張体26は、複数のコード46を有している。これらのコード46は、左右方向に並列している。それぞれのコード46は、前後方向に延在している。このコード46は、メインベルト14の過剰な伸張を抑制しうる。コード46の典型的な材質は、スチール、ステンレススチール等の金属である。コード46が、有機繊維から形成されてもよい。抗張体26を含まない弾性クローラ10を、装置2が有してもよい。
【0022】
図6-8に、膜18が示されている。この膜18は、ベース48と突起50とを有している。ベース48は、内面52及び外面54を有している。それぞれの突起50は、ベース48の内面52から、厚さ方向内向きに起立している。図6において二点鎖線56で示された矩形は、突起ゾーンである。それぞれの突起50は、このゾーン56の中に存在している。本実施形態では、突起50はベース48と一体である。従って突起50の材質は、ベース48の材質と同じである。突起50は、球の一部の形状を有している。
【0023】
図9に、第一突起50a、第二突起50b及び第三突起50cが示されている。図9において、上側はクローラ10の前側であり、下側はクローラ10の後側である。第一突起50aは、前側端E1及び後側端E2を有している。第二突起50bは、前側端E3及び後側端E4を有している。第三突起50cは、前側端E5及び後側端E6を有している。
【0024】
第二突起50bは、左右方向において第一突起50aと隣接している。換言すれば、第二突起50bは、第一突起50aにとって隣接突起である。第二突起50bの中心は、前後方向において、第一突起50aの中心よりも前側に位置している。第一突起50aの前側端E1は、第二突起50bの前側端E3よりも後側であって、第二突起50bの後側端E4よりも前側にある。換言すれば、前後方向において、第一突起50aの前側端E1は第二突起50bの前側端E3及び後側端E4に挟まれている。
【0025】
本発明者が得た知見によれば、膜18の亀裂は、左右方向に成長しやすい。図9に示された点P1にもし亀裂が生じると、この亀裂は、矢印A1に沿って点P2にまで成長しうる。点P2において、亀裂は第二突起50bに達する。第二突起50bにおける膜18の厚さは大きいので、亀裂の成長は点P2において停止する。従って亀裂は、メインベルト14には至らない。
【0026】
亀裂が、点P2から第二突起50bを回避し、メインベルト14に至ることがある。この亀裂の進行方向は、直線的ではない。この亀裂がメインベルト14に至るまでの弾性クローラ10の走行距離は、突起50がない膜を有するクローラのそれと比べ、大きい。突起50は、クローラ10の耐久性に寄与しうる。
【0027】
図9では、第二突起50bは、第一突起50aの右側に位置している。第二突起50bが第一突起50aの左側に位置しても、よい。
【0028】
自らよりも前側に位置する隣接突起が存在するいずれの突起50においても、その前側端が隣接突起の前側端及び後側端に挟まれることが、好ましい。
【0029】
第三突起50cは、左右方向において第一突起50aと隣接している。換言すれば、第三突起50cは、第一突起50aにとって隣接突起である。第三突起50cの中心は、前後方向において、第一突起50aの中心よりも後側に位置している。第一突起50aの後側端E2は、第三突起50cの前側端E5よりも後側であって、第三突起50cの後側端E6よりも前側にある。換言すれば、前後方向において、第一突起50aの後側端E2は第三突起50cの前側端E5及び後側端E6に挟まれている。
【0030】
図9に示された点P3にもし亀裂が生じると、この亀裂は、矢印A2に沿って点P4にまで成長しうる。点P4において、亀裂は第三突起50cに達する。第三突起50cにおける膜18の厚さは大きいので、亀裂の成長は点P4において停止する。従って亀裂は、メインベルト14には至らない。
【0031】
亀裂が、点P4から第三突起50cを回避し、メインベルト14に至ることがある。この亀裂の進行方向は、直線的ではない。この亀裂がメインベルト14に至るまでの弾性クローラ10の走行距離は、突起50がない膜を有するクローラのそれと比べ、大きい。突起50は、クローラ10の耐久性に寄与しうる。
【0032】
図9では、第三突起50cは、第一突起50aの右側に位置している。第三突起50cが第一突起50aの左側に位置しても、よい。
【0033】
自らよりも後側に位置する隣接突起が存在するいずれの突起50においても、その後側端が隣接突起の前側端及び後側端に挟まれることが、好ましい。
【0034】
図6から明らかなように、この弾性クローラ10では、下記の(1)から(4)の全てを満たす直線は、存在しない。
(1)ベース48の内面52の上に存在する。
(2)左右方向に延在する。
(3)突起ゾーン56の左端から右端にまで至る。
(4)平面視において、いずれの突起50とも交差しない。
このクローラ10では、いかなる箇所が起点である亀裂であっても、成長しにくい。このクローラ10では、膜18で生じた亀裂がメインベルト14にまで到達しにくい。このクローラ10では、メインベルト14に水が浸入することに起因するコード46の腐食が、生じにくい。このクローラ10は、耐久性に優れる。
【0035】
図7において、矢印Tbはベース48の厚さを表し、Hpは突起50の高さを表す。厚さTbに対する高さHpの比(Hp/Tb)は、0.2以上2.0以下が好ましい。比(Hp/Tb)が0.2以上である膜18は、亀裂が成長しにくい。この観点から、比(Hp/Tb)は0.5以上がより好ましく、0.7以上が特に好ましい。比(Hp/Tb)が2.0以下である膜18では、突起50と突起50との間に土砂が詰まりにくい。この観点から、比(Hp/Tb)は1.5以下がより好ましく、1.2以下が特に好ましい。
【0036】
膜18の強度の観点から、ベース48の厚さTbは1.0mm以上が好ましく、1.5mm以上がより好ましく、2.0mm以上が特に好ましい。膜18の柔軟性の観点から、ベース48の厚さTbは7.0mm以下が好ましく、6.0mm以下がより好ましく、5.0mm以下が特に好ましい。
【0037】
図7において矢印Dpは、突起50の直径を表す。この突起50の平面形状は円なので、この突起50の面積Apは、下記の数式によって算出されうる。
Ap = (Dp / 2)* π
【0038】
本明細書では、下記の数式に基づいて面積率PAが算出される。
PA = (TA / ZA) * 100
この数式において、TAは1つの膜18に含まれる全ての突起50の面積Apの合計を表し、ZAはこの膜18の突起ゾーン56の仮想面積を表す。この仮想面積は、突起50が全く存在しないと仮定されたときのゾーン56の面積である。
【0039】
面積率PAは、30%以上80%以下が好ましい。面積率PAが30%以上である膜18では、亀裂の成長が抑制されうる。この観点から、面積率PAは40%以上がより好ましく、50%以上が特に好ましい。面積率PAが80%以下である膜18は、柔軟である。この観点から、面積率PAは75%以下がより好ましく、70%以下が特に好ましい。
【0040】
図7から明らかなように、ベース48の外面54から起立する突起50は、存在していない。この外面54は、概してスムースである。この外面54には、土砂が付着しにくい。
【0041】
図4において矢印Hfは、膜18の高さを表す。高さHfは、地面から突起50の内側端までの距離である。図4において矢印Hcは、コード46の高さを表す。高さHcは、地面からコード46の中心までの距離である。高さHfは、高さHcよりも小さい。換言すれば、膜18は、厚み方向Zにおいて、抗張体26よりも外側に位置している。弾性クローラ10が駆動輪4又は従動輪6に巻き付くとき、抗張体26よりも内側の部分には圧縮の応力が働き、抗張体26よりも外側の部分には引っ張りの応力が働く。このクローラ10では、膜18に引っ張りの応力が働く。この応力は、突起50とこれに隣接する突起50との間に詰まった土砂の脱落に寄与する。この観点から、差(Hc-Hf)は0.5mm以上が好ましく、0.8mm以上がより好ましく、1.0mm以上が特に好ましい。差(Hc-Hf)は、5mm以下が好ましい。
【0042】
図10に、他の実施形態に係る弾性クローラの膜58が示されている。この膜58は、ベース60と突起62とを有している。ベース60は、内面64及び外面66を有している。それぞれの突起62は、ベース60の内面64から、厚さ方向内向きに起立している。突起62は、円錐台形状を有している。この弾性クローラの、突起62の形状以外の仕様は、図1-9に示された弾性クローラ10のそれらと同じである。従って、突起62の配置は、図6に示された配置と同じである。この弾性クローラでも、突起62が亀裂の成長を抑制する。突起62が、円柱形状を有してもよい。
【0043】
亀裂が成長しにくいとの観点から、ベース60の厚さTb(図10参照)に対する高さHpの比(Hp/Tb)は、0.3以上が好ましく、0.5以上がより好ましく、0.7以上が特に好ましい。突起62と突起62との間に土砂が詰まりにくいとの観点から、比(Hp/Tb)は2.0以下が好ましく、1.5以下がより好ましく、1.2以下が特に好ましい。ベース60の厚さTbは0.3mm以上が好ましく、0.7mm以上がより好ましく、1.0mm以上が特に好ましい。ベース60の厚さTbは3.0mm以下が好ましく、2.0mm以下がより好ましく、1.5mm以下が特に好ましい。
【0044】
亀裂が成長しにくいとの観点から、突起ゾーンの面積率PAは、30%以上が好ましく、40%以上がより好ましく、50%以上が特に好ましい。膜58の柔軟の観点から、面積率PAは80%以下が好ましく、75%以下がより好ましく、70%以下が特に好ましい。
【0045】
図11及び12に、さらに他の実施形態に係る弾性クローラの膜68が示されている。この膜68は、ベース70と突起72とを有している。ベース70は、内面74及び外面76を有している。それぞれの突起72は、ベース70の内面74から、厚さ方向内向きに起立している。突起72は、角柱形状を有している。この弾性クローラの、突起72の形状以外の仕様は、図1-9に示された弾性クローラ10のそれらと同じである。この弾性クローラでも、突起72が亀裂の成長を抑制する。
【0046】
突起72の角柱の底面形状は、正方形である。三角形、正方形以外の四角形、五角形、六角形、七角形、八角形等の底面形状を有する突起72を、膜68が有してもよい。突起72が、角錐台形状を有してもよい。この角錐台の底面形状として、三角形、四角形、五角形、六角形、七角形及び八角形が、例示されうる。
【0047】
図11から明らかなように、この弾性クローラでは、下記の(1)から(4)の全てを満たす直線は、存在しない。
(1)ベース70の内面74の上に存在する。
(2)左右方向に延在する。
(3)突起ゾーン78の左端から右端にまで至る。
(4)平面視において、いずれの突起72とも交差しない。
このクローラでは、いかなる箇所が起点である亀裂であっても、成長しにくい。このクローラでは、膜68で生じた亀裂がメインベルトにまで到達しにくい。このクローラでは、メインベルトに水が浸入することに起因するコードの腐食が、生じにくい。このクローラは、耐久性に優れる。
【0048】
亀裂が成長しにくいとの観点から、ベース70の厚さTb(図12参照)に対する高さHpの比(Hp/Tb)は、0.3以上が好ましく、0.5以上がより好ましく、0.7以上が特に好ましい。突起72と突起72との間に土砂が詰まりにくいとの観点から、比(Hp/Tb)は2.0以下が好ましく、1.5以下がより好ましく、1.2以下が特に好ましい。ベース70の厚さTbは0.3mm以上が好ましく、0.7mm以上がより好ましく、1.0mm以上が特に好ましい。ベース70の厚さTbは3.0mm以下が好ましく、2.0mm以下がより好ましく、1.5mm以下が特に好ましい。
【0049】
亀裂が成長しにくいとの観点から、突起ゾーン78の面積率PAは、30%以上が好ましく、40%以上がより好ましく、50%以上が特に好ましい。膜68の柔軟の観点から、面積率PAは80%以下が好ましく、75%以下がより好ましく、70%以下が特に好ましい。
【0050】
図13及び14に、さらに他の実施形態に係る弾性クローラの膜80が示されている。この膜80は、ベース82と突起84とを有している。ベース82は、内面86及び外面88を有している。それぞれの突起84は、ベース82の内面86から、厚さ方向内向きに起立している。突起84は、リッジ(筋山)形状を有している。この弾性クローラの、突起84の形状以外の仕様は、図1-9に示された弾性クローラ10のそれらと同じである。この弾性クローラでも、突起84が亀裂の成長を抑制する。
【0051】
亀裂が成長しにくいとの観点から、ベース82の厚さTb(図14参照)に対する高さHpの比(Hp/Tb)は、0.3以上が好ましく、0.5以上がより好ましく、0.7以上が特に好ましい。突起84と突起84との間に土砂が詰まりにくいとの観点から、比(Hp/Tb)は2.0以下が好ましく、1.5以下がより好ましく、1.2以下が特に好ましい。ベース82の厚さTbは0.3mm以上が好ましく、0.7mm以上がより好ましく、1.0mm以上が特に好ましい。ベース82の厚さTbは3.0mm以下が好ましく、2.0mm以下がより好ましく、1.5mm以下が特に好ましい。
【0052】
図15及び16に、さらに他の実施形態に係る弾性クローラの膜90が示されている。この膜90は、ベース92と突起94とを有している。ベース92は、内面96及び外面98を有している。それぞれの突起94は、ベース92の内面96から、厚さ方向内向きに起立している。突起94は、波形の平面形状を有している。この弾性クローラの、突起94の形状以外の仕様は、図1-9に示された弾性クローラ10のそれらと同じである。この弾性クローラでも、突起94が亀裂の成長を抑制する。
【0053】
亀裂が成長しにくいとの観点から、ベース92の厚さTb(図16参照)に対する高さHpの比(Hp/Tb)は、0.3以上が好ましく、0.5以上がより好ましく、0.7以上が特に好ましい。突起94と突起94との間に土砂が詰まりにくいとの観点から、比(Hp/Tb)は2.0以下が好ましく、1.5以下がより好ましく、1.2以下が特に好ましい。ベース92の厚さTbは0.3mm以上が好ましく、0.7mm以上がより好ましく、1.0mm以上が特に好ましい。ベース92の厚さTbは3.0mm以下が好ましく、2.0mm以下がより好ましく、1.5mm以下が特に好ましい。
【0054】
[開示項目]
以下の項目のそれぞれは、好ましい実施形態の開示である。
【0055】
[項目1]
爪を有する駆動輪を含む走行装置の弾性クローラであって、
無端形状であって、内周面及び外周面を有するメインベルト、
上記内周面に開口しており、かつ上記爪を受け入れうるホール、
並びに
上記ホールの底を塞ぐ膜
を備えており、
上記膜が、内面及び外面を有するベースと、それぞれがこのベースの内面から起立する複数の突起とを有する、弾性クローラ。
【0056】
[項目2]
上記ベースの厚さTbに対する上記突起の高さHpの比(Hp/Tb)が、0.2以上2.0以下である、項目1に記載の弾性クローラ。
【0057】
[項目3]
上記突起が、第一突起と、左右方向においてこの第一突起と隣接しかつ前後方向においてこの第一突起よりも前側に位置する第二突起とを含んでおり、
上記第一突起の前側端が、上記第二突起の前側端よりも後側であって上記第二突起の後側端よりも前側にある、項目1又は2に記載の弾性クローラ。
【0058】
[項目4]
上記突起が、第一突起と、左右方向においてこの第一突起と隣接しかつ前後方向においてこの第一突起よりも後側に位置する第三突起とを含んでおり、
上記第一突起の後側端が、上記第三突起の前側端よりも後側であって上記第三突起の後側端よりも前側にある、項目1から3のいずれかに記載の弾性クローラ。
【0059】
[項目5]
上記ベースの上記内面における、上記突起の面積率PAが、30%以上80%以下である、項目1から4のいずれかに記載の弾性クローラ。
【0060】
[項目6]
上記ベースの上記外面から起立する突起が存在しない、項目1から5のいずれかに記載の弾性クローラ。
【0061】
[項目7]
上記メインベルトに埋設されており、かつそれぞれが前後方向に延在する複数のコードを含む抗張体を、さらに備えており、
上記膜が、厚み方向において、上記抗張体よりも外側に位置する、項目1から6のいずれかに記載の弾性クローラ。
【産業上の利用可能性】
【0062】
前述の弾性クローラは、種々の走行装置に適している。このクローラは特に、土木機械及び建設機械に適している。
【符号の説明】
【0063】
2・・・走行装置
4・・・駆動輪
6・・・従動輪
8・・・転輪
10・・・弾性クローラ
12・・・スプロケット
14・・・メインベルト
16・・・ホール
18・・・膜
20・・・ラグ
22・・・芯金
24・・・転輪ガイド
26・・・抗張体
28・・・内周面
30・・・外周面
32・・・外縁
34・・・側壁
36・・・爪
38・・・センター
40・・・ホーン
42・・・ウイング
44・・・ガイド突起
46・・・コード
48・・・ベース
50・・・突起
50a・・・第一突起
50b・・・第二突起
50c・・・第三突起
52・・・外面
54・・・内面
56・・・突起ゾーン
58・・・膜
60・・・ベース
62・・・突起
64・・・内面
66・・・外面
68・・・膜
70・・・ベース
72・・・突起
74・・・内面
76・・・外面
78・・・突起ゾーン
80・・・膜
82・・・ベース
84・・・突起
86・・・内面
88・・・外面
90・・・膜
92・・・ベース
94・・・突起
96・・・内面
98・・・外面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16