(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024116832
(43)【公開日】2024-08-28
(54)【発明の名称】電気化学反応単セル
(51)【国際特許分類】
H01M 8/1233 20160101AFI20240821BHJP
H01M 8/1226 20160101ALI20240821BHJP
H01M 8/124 20160101ALI20240821BHJP
H01M 4/86 20060101ALI20240821BHJP
C25B 9/23 20210101ALI20240821BHJP
C25B 13/04 20210101ALI20240821BHJP
C25B 13/07 20210101ALI20240821BHJP
C25B 9/63 20210101ALI20240821BHJP
H01M 8/12 20160101ALN20240821BHJP
【FI】
H01M8/1233
H01M8/1226
H01M8/124
H01M4/86 B
H01M4/86 T
C25B9/23
C25B13/04 301
C25B13/07
C25B9/63
H01M8/12 101
H01M8/12 102A
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023022644
(22)【出願日】2023-02-16
(71)【出願人】
【識別番号】519322392
【氏名又は名称】森村SOFCテクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001911
【氏名又は名称】弁理士法人アルファ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 伸輔
【テーマコード(参考)】
4K021
5H018
5H126
【Fターム(参考)】
4K021AA01
4K021AB25
4K021AC02
4K021AC06
4K021AC09
4K021DB16
4K021DB18
4K021DB31
4K021DB40
4K021DB43
4K021DB53
5H018AA06
5H018AS02
5H018EE01
5H018EE02
5H018EE12
5H126AA02
5H126AA06
5H126BB06
5H126GG01
5H126GG02
5H126GG12
5H126JJ02
(57)【要約】
【課題】電気化学反応単セルにおいて、金属支持体が含有する酸化クロムと、燃料極が含有するビスマスとが反応することに起因する不具合を抑制する。
【解決手段】電気化学反応単セルは、電解質層と、電解質層を挟んで第1の方向に互いに対向する空気極および燃料極と、燃料極に対して電解質層とは反対側に位置する金属支持体であって、燃料極に対向する表面において開口する貫通孔を有する金属支持体と、を備える電気化学反応単セルにおいて、燃料極と電解質層の少なくとも一方がビスマスを含有するビスマス含有層であり、金属支持体の表面のうち、ビスマス含有層に対向する少なくとも一部に、アルミニウムの酸化物からなる酸化被膜が形成されている。
【選択図】
図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質層と、
前記電解質層を挟んで第1の方向に互いに対向する空気極および燃料極と、
前記燃料極に対して前記電解質層とは反対側に位置する金属支持体であって、前記燃料極に対向する表面において開口する貫通孔を有する金属支持体と、を備える電気化学反応単セルにおいて、
前記燃料極と前記電解質層の少なくとも一方がビスマスを含有するビスマス含有層であり、
前記金属支持体の表面のうち、前記ビスマス含有層に対向する少なくとも一部に、アルミニウムの酸化物からなる酸化被膜が形成されている、
ことを特徴とする電気化学反応単セル。
【請求項2】
請求項1に記載の電気化学反応単セルであって、
前記金属支持体の表面のうち、前記ビスマス含有層に対向する部分の面積の合計に対する、当該部分のうち、アルミニウムの酸化物からなる酸化被膜が形成されている部分の面積の合計の割合は、50%以上である、
ことを特徴とする電気化学反応単セル。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の電気化学反応単セルであって、
前記ビスマス含有層である前記燃料極の一部が前記貫通孔を画定する前記金属支持体の壁面と対向し、
前記金属支持体の壁面のうち、前記燃料極の一部に対向する少なくとも一部に、アルミニウムの酸化物からなる酸化被膜が形成されている、
ことを特徴とする電気化学反応単セル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書によって開示される技術は、電気化学反応単セルに関する。
【背景技術】
【0002】
水素と酸素との電気化学反応を利用して発電を行う燃料電池の種類の1つとして、固体酸化物形の燃料電池(以下、「SOFC」という。)が知られている。SOFCの構成単位である燃料電池単セル(以下、単に「単セル」という。)は、固体酸化物を含む電解質層と、電解質層を挟んで所定の方向(以下、「第1の方向」という。)に互いに対向する燃料極および空気極とを備える。
【0003】
単セルの一形態として、金属支持型(メタルサポート型)の単セルが知られている。金属支持型の単セルは、燃料極に対して電解質層とは反対側に位置する金属支持体を備え、金属支持体によって単セルにおける他の部分(電解質層等)を支持する。一般に、金属支持型の単セルは、他のタイプ(例えば燃料極支持型)の単セルと比較して、熱衝撃による割れが生じにくく、また起動性が高い。
【0004】
従来、この種の金属支持型の単セルでは、金属支持体に、発電に供される反応ガスを通過させるために、金属支持体の一方の表面から他方の表面まで貫通する貫通孔が形成されている構成が知られている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記従来の単セルでは、金属支持体の表面(の全体)に、酸化クロムからなる酸化被膜が形成されている。従って、金属支持体の表面のうち、燃料極に対向する部分(の全体)や電解質層に対向する部分(の全体)にも、酸化クロムからなる酸化被膜が形成されている。また、燃料極や電解質層に、例えば焼結助剤として、酸化ビスマスが添加されることがある。酸化ビスマスが添加された場合には、金属支持体(の酸化被膜)と燃料極との間で元素拡散が生じ、金属支持体(の酸化被膜)が含有する酸化クロムと、燃料極が含有するビスマスとが反応することにより、金属支持体の表面における成膜性が低下したり、単セルの性能が低下したり、といった不具合が生じるおそれがある。また、金属支持体(の酸化被膜)と電解質層との間で元素拡散が生じ、金属支持体(の酸化被膜)が含有する酸化クロムと、電解質層が含有するビスマスとが反応することにより、同様の不具合が生じるおそれがある。
【0007】
なお、このような課題は、燃料極と電解質層の一方のみがビスマスを含有する構成においても、上記問題の一部が生じることとなるため、共通の問題であると言える。また、上記のような問題は、金属支持体の表面(の全体)に、酸化クロム以外のビスマスと反応する物質からなる酸化被膜が形成されている構成においても共通の問題である。また、上記のような課題は、水の電気分解反応を利用して水素の生成を行う固体酸化物形の電解セル(以下、「SOEC」という。)の構成単位である電解単セルにも共通の問題である。なお、本明細書では、燃料電池単セルと電解単セルとをまとめて、電気化学反応単セルと呼ぶ。
【0008】
本明細書では、上述した課題を解決することが可能な技術を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本明細書に開示される技術は、例えば、以下の形態として実現することが可能である。
【0010】
(1)本明細書に開示される電気化学反応単セルは、電解質層と、前記電解質層を挟んで第1の方向に互いに対向する空気極および燃料極と、前記燃料極に対して前記電解質層とは反対側に位置する金属支持体であって、前記燃料極に対向する表面において開口する貫通孔を有する金属支持体と、を備える電気化学反応単セルにおいて、前記燃料極と前記電解質層の少なくとも一方がビスマスを含有するビスマス含有層であり、前記金属支持体の表面のうち、前記ビスマス含有層に対向する少なくとも一部に、アルミニウムの酸化物からなる酸化被膜が形成されている。
【0011】
本電気化学反応単セルにおいては、ビスマス含有層(燃料極と電解質層の少なくとも一方)に対向する少なくとも一部に、アルミニウムの酸化物からなる酸化被膜が形成されている。そのため、本電気化学反応単セルによれば、上述した従来の電気化学反応単セルと比較して、金属支持体(の酸化被膜)が含有する物質(酸化クロム)と、ビスマス含有層が含有するビスマスとが反応することを抑制することができ、ひいては、金属支持体の表面における成膜性が低下したり、電気化学反応単セルの性能が低下したり、といった不具合が生じることを抑制することができる。
【0012】
(2)上記電気化学反応単セルにおいて、前記金属支持体の表面のうち、前記ビスマス含有層に対向する部分の面積の合計に対する、当該部分のうち、アルミニウムの酸化物からなる酸化被膜が形成されている部分の面積の合計の割合は、50%以上である構成としてもよい。
【0013】
本電気化学反応単セルによれば、金属支持体(の酸化被膜)が含有する元素と、ビスマス含有層が含有するビスマスとが反応することを、より効果的に抑制することができる。そのため、金属支持体の表面における成膜性が低下したり、電気化学反応単セルの性能が低下したり、といった不具合が生じることを、より効果的に抑制することができる。
【0014】
(3)上記電気化学反応単セルにおいて、前記ビスマス含有層である前記燃料極の一部が前記貫通孔を画定する前記金属支持体の壁面と対向し、前記金属支持体の壁面のうち、前記燃料極の一部に対向する少なくとも一部に、アルミニウムの酸化物からなる酸化被膜が形成されている構成としてもよい。本電気化学反応単セルによれば、金属支持体の壁面にアルミニウムの酸化物からなる酸化被膜が形成されていることにより、より効果的に、金属支持体(の酸化被膜)が含有する物質(酸化クロム)と、ビスマス含有層が含有するビスマスとが反応することを抑制することができ、ひいては、より効果的に、金属支持体の表面における成膜性が低下したり、電気化学反応単セルの性能が低下したり、といった不具合が生じることを抑制することができる。
【0015】
なお、本明細書に開示される技術は、種々の形態で実現することが可能であり、例えば、電気化学反応単セル(燃料電池単セルまたは電解単セル)、複数の電気化学反応単セルを備える電気化学反応セルスタック(燃料電池スタックまたは電解セルスタック)、それらの製造方法等の形態で実現することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本実施形態における燃料電池スタック100の外観構成を示す斜視図
【
図2】
図1のII-IIの位置における燃料電池スタック100のXZ断面構成を示す説明図
【
図3】
図1のIII-IIIの位置における燃料電池スタック100のYZ断面構成を示す説明図
【
図4】
図2に示す断面と同一の位置における互いに隣接する2つの発電単位102のXZ断面構成を示す説明図
【
図5】
図3に示す断面と同一の位置における互いに隣接する2つの発電単位102のYZ断面構成を示す説明図
【
図6】発電単位102の一部分(
図5のX1部)のXZ断面構成を拡大して示す説明図である。
【
図7】発電単位102の一部分(
図5のX2部)のXZ断面構成を拡大して示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
A.実施形態:
A-1.燃料電池スタック100の構成:
図1は、本実施形態における燃料電池スタック100の外観構成を示す斜視図であり、
図2は、
図1のII-IIの位置における燃料電池スタック100のXZ断面構成を示す説明図であり、
図3は、
図1のIII-IIIの位置における燃料電池スタック100のYZ断面構成を示す説明図である。各図には、方向を特定するための互いに直交するXYZ軸が示されている。本明細書では、便宜的に、Z軸正方向を上方向と呼び、Z軸負方向を下方向と呼ぶものとするが、燃料電池スタック100は実際にはそのような向きとは異なる向きで設置されてもよい。
図4以降についても同様である。
【0018】
燃料電池スタック100は、複数の(本実施形態では7つの)燃料電池発電単位(以下、単に「発電単位」という。)102と、一対のエンドプレート104,106とを備える。7つの発電単位102は、所定の配列方向(本実施形態ではZ軸方向)に並べて配置されている。一対のエンドプレート104,106は、7つの発電単位102から構成される集合体を上下から挟むように配置されている。上記配列方向(Z軸方向)は、特許請求の範囲における第1の方向の一例である。
【0019】
燃料電池スタック100を構成する各層(発電単位102、エンドプレート104,106)のZ軸方向回りの周縁部には、Z軸方向に貫通する複数の(本実施形態では8つの)孔が形成されており、各層に形成され互いに対応する孔同士がZ軸方向に連通して、一方のエンドプレート104から他方のエンドプレート106にわたってZ軸方向に延びる貫通孔108を構成している。以下の説明では、貫通孔108を構成するために燃料電池スタック100の各層に形成された孔も、貫通孔108と呼ぶ場合がある。
【0020】
各貫通孔108にはZ軸方向に延びるボルト22が挿通されており、ボルト22とボルト22の両側に嵌められたナット24とによって、燃料電池スタック100は締結されている。なお、
図2および
図3に示すように、ナット24と各エンドプレート104,106(または後述するガス通路部材27)との間には、絶縁シート26が介在している。
【0021】
各ボルト22の軸部の外周面と各貫通孔108の内周面との間には、空間が確保されている。
図1および
図2に示すように、1つのボルト22(ボルト22A)と該ボルト22Aが挿通された貫通孔108とにより形成された空間は、燃料電池スタック100の外部から酸化剤ガスOG(例えば空気)が導入され、その酸化剤ガスOGを各発電単位102の空気室166に供給するガス流路である空気極側ガス供給マニホールド161として機能し、他の1つのボルト22(ボルト22B)と該ボルト22Bが挿通された貫通孔108とにより形成された空間は、各発電単位102の空気室166から排出されたガスである酸化剤オフガスOOGを燃料電池スタック100の外部へと排出する空気極側ガス排出マニホールド162として機能する。また、
図1および
図3に示すように、他の1つのボルト22(ボルト22D)と該ボルト22Dが挿通された貫通孔108とにより形成された空間は、燃料電池スタック100の外部から燃料ガスFG(例えば水素リッチなガス)が導入され、その燃料ガスFGを各発電単位102の燃料室176に供給する燃料極側ガス供給マニホールド171として機能し、他の1つのボルト22(ボルト22E)と該ボルト22Eが挿通された貫通孔108とにより形成された空間は、各発電単位102の燃料室176から排出されたガスである燃料オフガスFOGを燃料電池スタック100の外部へと排出する燃料極側ガス排出マニホールド172として機能する。
【0022】
燃料電池スタック100には、4つのガス通路部材27が設けられている。各ガス通路部材27は、中空筒状の本体部28と、本体部28の側面から分岐した中空筒状の分岐部29とを有している。分岐部29の孔は本体部28の孔と連通している。各ガス通路部材27の本体部28の孔は、各ガス通路部材27の設置位置に設けられた各マニホールド161,162,171,172に連通している。
【0023】
(エンドプレート104,106の構成)
一対のエンドプレート104,106は、Z軸方向に略直交する平板形状の導電性部材であり、例えばステンレスにより形成されている。一方のエンドプレート104は、最も上に位置する発電単位102の上側に配置され、該発電単位102と電気的に接続されている。他方のエンドプレート106は、最も下に位置する発電単位102の下側に配置され、該発電単位102と電気的に接続されている。上側のエンドプレート104は、燃料電池スタック100のプラス側の出力端子として機能し、下側のエンドプレート106は、燃料電池スタック100のマイナス側の出力端子として機能する。
【0024】
(発電単位102の構成)
図4は、
図2に示す断面と同一の位置における互いに隣接する2つの発電単位102のXZ断面構成を示す説明図であり、
図5は、
図3に示す断面と同一の位置における互いに隣接する2つの発電単位102のYZ断面構成を示す説明図である。
【0025】
図4および
図5に示すように、発電単位102は、燃料電池単セル(以下、「単セル」という。)110と、セパレータ120と、空気極側フレーム部材130と、空気極側集電体134と、燃料極側フレーム部材140と、燃料極側集電体144と、一対のインターコネクタ150とを備えている。セパレータ120、空気極側フレーム部材130、燃料極側フレーム部材140、インターコネクタ150の周縁部には、上述したボルト22が挿通される貫通孔108に対応する孔が形成されている。
【0026】
インターコネクタ150は、Z軸方向に略直交する平板形状の導電性部材であり、例えばステンレスにより形成されている。インターコネクタ150は、発電単位102間の電気的導通を確保すると共に、発電単位102間での反応ガスの混合を防止する。なお、本実施形態では、2つの発電単位102が隣接して配置されている場合、1つのインターコネクタ150は、隣接する2つの発電単位102に共有されている。すなわち、ある発電単位102における上側のインターコネクタ150は、その発電単位102の上側に隣接する他の発電単位102における下側のインターコネクタ150と同一部材である。また、燃料電池スタック100において最も上に位置する発電単位102は上側のインターコネクタ150を備えておらず、最も下に位置する発電単位102は下側のインターコネクタ150を備えていない(
図2および
図3参照)。
【0027】
単セル110は、電解質層112と、電解質層112を挟んでZ軸方向に互いに対向する空気極114および燃料極116とを備える。単セル110は、さらに、燃料極116(より詳細には、後述する燃料極116の基部117)に対して電解質層112とは反対側(下側)に配置された金属支持体180を備える。従って、金属支持体180は、電解質層112、空気極114、および燃料極116とZ軸方向に互いに対向している。なお、電解質層112と燃料極116とは、後述するようにビスマスを含有しているため、特許請求の範囲におけるビスマス含有層に該当する。
【0028】
金属支持体180は、Z軸方向に略直交する平板形状の導電性部材であり、金属(例えばステンレス)により形成されている。金属支持体180は、単セル110における他の構成要素(電解質層112等)を支持している。このように、本実施形態の単セル110は、金属支持体180によって単セル110の機械的強度を確保する、いわゆる金属支持型(メタルサポート型)の単セルである。金属支持型の単セルは、他のタイプ(例えば燃料極支持型)の単セルと比較して、熱衝撃による割れが生じにくく、また起動性が高い。後述するように、金属支持体180には、燃料ガスFGを通過させるための複数の貫通孔50が形成されている(
図6参照)。
【0029】
電解質層112は、Z軸方向に略直交する平板形状部材であり、緻密な層である。本実施形態では、電解質層112は、燃料極116における上側の表面と、金属支持体180における上側の表面の内、燃料極116に覆われていない領域とを連続的に覆うように形成されている。電解質層112は、例えば、YSZ(イットリア安定化ジルコニア)等の固体酸化物により形成され、焼結助剤として酸化ビスマスが添加されている。例えば、酸化ビスマスの添加量はYSZ等の固体酸化物に対して1mol%以上とすることができる。このように、本実施形態の単セル110は、電解質として固体酸化物を用いる固体酸化物形燃料電池(SOFC)である。空気極114は、Z軸方向に略直交する平板形状部材であり、多孔質な層である。空気極114は、例えば、ペロブスカイト型酸化物(例えばLSCF(ランタンストロンチウムコバルト鉄酸化物))により形成されている。燃料極116は、Z軸方向に略直交する平板形状部材であり、多孔質な層である。燃料極116は、例えば、Niと、焼結助剤として酸化ビスマスが添加された酸化物イオン伝導性セラミックス粒子(例えば、YSZ)とからなるサーメットにより形成されている。
【0030】
なお、本実施形態では、電解質層112は、Z軸方向視において燃料極116の外側に位置する外側部分112Aを有しており、当該外側部分112Aは燃料極116の側面(Z軸方向の表面)に追随し、更に金属支持体180の上面に追随するように形成されている。そして、電解質層112の外側部分112Aと金属支持体180の外側部分180Aとは、Z軸方向に互いに対向し、かつ、互いに接している。
【0031】
セパレータ120は、中央付近にZ軸方向に貫通する略矩形の孔121が形成されたフレーム状の部材であり、例えばステンレスにより形成されている。セパレータ120における孔121を取り囲む部分は、例えばロウ材を含む接合部124により、単セル110(電解質層112)の周縁部と接合されている。セパレータ120により、空気極114に面する空気室166と燃料極116に面する燃料室176とが区画される。
【0032】
空気極側フレーム部材130は、中央付近にZ軸方向に貫通する略矩形の孔131が形成されたフレーム状の部材であり、例えばマイカ等の絶縁体により形成されている。空気極側フレーム部材130の孔131は、空気極114に面する空気室166を構成する。空気極側フレーム部材130によって、発電単位102に含まれる一対のインターコネクタ150間が電気的に絶縁される。空気極側フレーム部材130には、空気極側ガス供給マニホールド161と空気室166とを連通する空気極側ガス供給連通流路132と、空気室166と空気極側ガス排出マニホールド162とを連通する空気極側ガス排出連通流路133とが形成されている。
【0033】
燃料極側フレーム部材140は、中央付近にZ軸方向に貫通する略矩形の孔141が形成されたフレーム状の部材であり、例えばステンレスにより形成されている。燃料極側フレーム部材140の孔141は、燃料極116に面する燃料室176を構成する。燃料極側フレーム部材140には、燃料極側ガス供給マニホールド171と燃料室176とを連通する燃料極側ガス供給連通流路142と、燃料室176と燃料極側ガス排出マニホールド172とを連通する燃料極側ガス排出連通流路143とが形成されている。
【0034】
空気極側集電体134は、空気室166内に配置された複数の略四角柱状の集電体要素135から構成されており、例えばステンレスにより形成されている。空気極側集電体134は、空気極114とインターコネクタ150とを電気的に接続する。ただし、燃料電池スタック100において最も上に位置する発電単位102は上側のインターコネクタ150を備えていないため、該発電単位102における空気極側集電体134は、空気極114と上側のエンドプレート104とを電気的に接続する(
図2および
図3参照)。なお、空気極側集電体134とインターコネクタ150とが一体の部材として構成されていてもよい。
【0035】
燃料極側集電体144は、燃料室176内に配置された複数の略四角柱状の集電体要素145から構成されており、例えばステンレスにより形成されている。燃料極側集電体144は、金属支持体180とインターコネクタ150とを電気的に接続する。ただし、燃料電池スタック100において最も下に位置する発電単位102は下側のインターコネクタ150を備えていないため、該発電単位102における燃料極側集電体144は、金属支持体180と下側のエンドプレート106とを電気的に接続する(
図2および
図3参照)。なお、燃料極側集電体144とインターコネクタ150とが一体の部材として構成されていてもよい。
【0036】
A-2.燃料電池スタック100の動作:
図2および
図4に示すように、酸化剤ガスOGは、空気極側ガス供給マニホールド161の位置に設けられたガス通路部材27の分岐部29に接続されたガス配管(図示せず)から、該ガス通路部材27の分岐部29および本体部28の孔を介して空気極側ガス供給マニホールド161に供給され、空気極側ガス供給マニホールド161から各発電単位102の空気極側ガス供給連通流路132を介して、空気室166に供給される。また、
図3および
図5に示すように、燃料ガスFGは、燃料極側ガス供給マニホールド171の位置に設けられたガス通路部材27の分岐部29に接続されたガス配管(図示せず)から、該ガス通路部材27の分岐部29および本体部28の孔を介して燃料極側ガス供給マニホールド171に供給され、燃料極側ガス供給マニホールド171から各発電単位102の燃料極側ガス供給連通流路142を介して、燃料室176に供給される。
【0037】
各発電単位102において、空気室166に供給された酸化剤ガスOGが多孔質な空気極114内に進入し、かつ、燃料室176に供給された燃料ガスFGが金属支持体180に形成された複数の貫通孔50を通って多孔質な燃料極116内に進入すると、単セル110において酸化剤ガスOGに含まれる酸素と燃料ガスFGに含まれる水素との電気化学反応による発電が行われる。この発電反応は発熱反応である。各発電単位102において、単セル110の空気極114は、空気極側集電体134を介して一方のインターコネクタ150に電気的に接続され、燃料極116は、金属支持体180および燃料極側集電体144を介して他方のインターコネクタ150に電気的に接続されている。また、燃料電池スタック100に含まれる複数の発電単位102は、電気的に直列に接続されている。そのため、燃料電池スタック100の出力端子として機能するエンドプレート104,106から、各発電単位102において生成された電気エネルギーが取り出される。なお、SOFCは、比較的高温(例えば700℃から1000℃)で発電が行われることから、起動後、発電により発生する熱で高温が維持できる状態になるまで、燃料電池スタック100が加熱器(図示せず)により加熱されてもよい。
【0038】
図2および
図4に示すように、各発電単位102の空気室166から空気極側ガス排出連通流路133を介して空気極側ガス排出マニホールド162に排出された酸化剤オフガスOOGは、空気極側ガス排出マニホールド162の位置に設けられたガス通路部材27の本体部28および分岐部29を経て、該分岐部29に接続されたガス配管(図示せず)から燃料電池スタック100の外部に排出される。また、
図3および
図5に示すように、各発電単位102の燃料室176から燃料極側ガス排出連通流路143を介して燃料極側ガス排出マニホールド172に排出された燃料オフガスFOGは、燃料極側ガス排出マニホールド172の位置に設けられたガス通路部材27の本体部28および分岐部29を経て、該分岐部29に接続されたガス配管(図示しない)から燃料電池スタック100の外部に排出される。
【0039】
A-3.単セル110の詳細構成:
次に、単セル110(特に金属支持体180等)の詳細構成について説明する。
図6および
図7は、発電単位102の一部分のXZ断面構成を拡大して示す説明図である。
図6には
図5のX1部が示され、
図7には
図5のX2部が示されている。
【0040】
図6に示すように、本実施形態における単セル110では、金属支持体180に複数の貫通孔50が形成されている。金属支持体180において、各貫通孔50は、燃料極116(より詳細には、燃料極116における電解質層112に近い側の一部分である基部117)に接する表面(上面)S11から、表面(上面)S11とは反対側の表面(下面)S22まで貫通している。各貫通孔50は、燃料極116に対向する表面S11において開口している(後述する開口53を参照)。
【0041】
本実施形態では、金属支持体180は、2枚の板状部材(第1の金属部材181および第2の金属部材182)がZ軸方向に積層された構成を有している。第2の金属部材182は、第1の金属部材181の下側に配置されており、例えば溶接によって第1の金属部材181と接合されている。本実施形態では、第1の金属部材181の厚さと第2の金属部材182の厚さとは、略同一である。
【0042】
金属支持体180に形成された各貫通孔50は、金属支持体180の表面(上面)S11における開口53を含む第1の部分51を有している。各貫通孔50の第1の部分51は、金属支持体180を構成する第1の金属部材181に形成されている。第1の金属部材181において、各第1の部分51は、燃料極116に接する電解質層112側の表面(上面)S11から、表面(上面)S11とは反対側の表面(下面)S12まで貫通している。
【0043】
また、金属支持体180に形成された各貫通孔50は、第1の部分51に加えて、第1の部分51に連通する第2の部分52を有している。第2の部分52は、金属支持体180の表面(下面)S22における開口54を含む部分である。各貫通孔50の第2の部分52は、金属支持体180を構成する第2の金属部材182に形成されている。第2の金属部材182において、各第2の部分52は、電解質層112側の表面(上面)S21から、表面(上面)S21とは反対側の表面(下面)S22まで貫通している。すなわち、本実施形態では、各貫通孔50は、第1の部分51と第2の部分52とから構成されている。
【0044】
燃料極116は、各貫通孔50について、基部117に連なり、かつ、貫通孔50内に位置する部分118(以下、「孔内部118」という。)を備えている。
【0045】
各貫通孔50は、燃料極116の各孔内部118のZ軸負方向(Z軸方向の電解質層112とは反対側)に空間SPを有している。燃料室176に供給された反応ガス(燃料ガスFG)は、該空間SPから燃料極116の各孔内部118の空隙内を進行し、さらに燃料極116の基部117の空隙内を進行して、反応場に供給される。
【0046】
なお、本実施形態では、単セル110のXY断面における各貫通孔50形状は、円形である。各貫通孔50の径は、金属支持体180の表面(上面)S11における開口53の位置から表面(下面)S22における開口54の位置にわたって略一定である。また、複数の貫通孔50の径は、互いに略同一である。
【0047】
金属支持体180の表面のうち、ビスマスを含有している層である燃料極116と電解質層112の少なくとも一方に対向する部分に、Al(アルミニウム)の酸化物からなる酸化被膜FOが形成されている。なお、本実施形態では、金属支持体180の表面のうち、燃料極116と電解質層112の少なくとも一方に対向する部分の全体に当該酸化被膜FOが形成されている。従って、金属支持体180の表面のうち、燃料極116と電解質層112の少なくとも一方に対向する部分の面積の合計S1に対する、当該部分のうち、Alの酸化物からなる酸化被膜FOが形成されている部分の面積の合計S2の割合Saは、100%であり、50%以上である、と言える。酸化被膜FOの膜厚は、例えば、1μm以上であり、10μm以下である。
【0048】
本実施形態の単セル110では、ビスマスを含有する層である燃料極116の一部が貫通孔50を画定する金属支持体180の壁面W10(第1の金属部材181の壁面W1,第2の金属部材182の壁面W2)と対向している。本実施形態では、金属支持体180の壁面W10のうち、燃料極116の一部に対向する部分の全体に、Alの酸化物からなる酸化被膜FOが形成されている。
【0049】
なお、本実施形態では、金属支持体180の表面の全体(貫通孔50を画定する金属支持体180の壁面W10を含む)に酸化被膜FOが形成されている。また、本実施形態では、上述したように、電解質層112は、Z軸方向視において燃料極116の外側に位置する外側部分112Aを有しており、電解質層112の外側部分112Aと金属支持体180の外側部分180Aとは、Z軸方向に互いに対向している(
図7参照)。
図7に示すように、金属支持体180の外側部分180A(より詳細には、その上面)に、上述した酸化被膜FOが形成されている。
【0050】
なお、本実施形態の単セル110において、金属支持体180と燃料極116との間と、金属支持体の外側部分180Aと電解質層112の外側部分112Aとの間に、以下のような反応防止層が備えられていても良い。すなわち、当該反応防止層とは、例えば、略矩形の平板形状部材であり、GDC(ガドリニウムドープセリア)等のセリア系のイオン伝導体材料等を含むように構成される層である。
【0051】
上記のような構成の単セル110は、例えば以下の製造方法により製造することができる。まず、金属支持体180を構成する第1の金属部材181および第2の金属部材182を準備し、孔開け加工によって第1の金属部材181に各貫通孔50の第1の部分51を形成すると共に、第2の金属部材182に各貫通孔50の第2の部分52を形成する。このとき、第1の金属部材181や第2の金属部材182の材料として、表面(貫通孔50を画定する金属支持体180の壁面W10(第1の金属部材181の壁面W1,第2の金属部材182の壁面W2を含む))に、Alの酸化物からなる酸化被膜FOが形成された金属部材を準備する。このような金属部材として、Alを含むフェライト系ステンレス(例えばNCA-1)等を採用し、その表面を予め、所定温度(例えば1000℃)で熱処理したものを用いることができる。なお、このような金属部材として、Alを含むフェライト系ステンレスを採用した場合、金属支持体180は酸化クロムを含む層を備える(酸化被膜FOは、基本的には当該層の表面に形成される)。この酸化クロムは、上述した従来技術において、燃料極が含有するビスマスと反応することにより、金属支持体180の表面における成膜性を低下させたり、単セル110の性能を低下させたり、といった不具合の要因となりうる。
【0052】
なお、上述した反応防止層(金属支持体180と燃料極116との間と金属支持体180の外側部分180Aと電解質層112の外側部分112Aとの間に配置される反応防止層)を備えるとするなら、更に、上記金属部材の表面に当該反応防止層をスクリーン印刷および焼成等によって形成する。
【0053】
次に、第1の金属部材181と第2の金属部材182とを、例えば溶接によって接合することにより、金属支持体180を作製する。
【0054】
次に、燃料極116の孔内部118および基部117のそれぞれを形成するためのペーストを調製する。そして、孔内部118を形成するためのペーストを、金属支持体180に形成された各貫通孔50に充填する。このとき、金属支持体180の各貫通孔50の最下部の一部分(第2の部分52における下側の一部分)に例えば樹脂を充填しておくことにより、孔内部118を形成するためのペーストが該部分には充填されないようにする。その後、基部117を形成するためのペーストを、金属支持体180の表面(上面)S11に塗布することによって成膜する。なお、孔内部118を形成するためのペーストと基部117を形成するためのペーストとは、同一組成であってもよいし、互いに異なる組成であってもよい。
【0055】
次に、ビスマスを含有する電解質層112(例えばYSZ)を形成するためのペーストを調製し、ビスマスを含有する燃料極116(例えば、Niと、酸化ビスマスが添加された酸化物イオン伝導性セラミックス粒子(例えば、YSZ)とからなるサーメット)の基部117を形成するためのペーストの塗膜上に塗布することによって成膜する。このようにして作製された積層体を所定の温度で焼成することにより、電解質層112および燃料極116を形成し、金属支持体180と電解質層112と燃料極116との積層体を得る。次に、空気極114を形成するためのペーストを調製し、電解質層112上に塗布することによって成膜する。このようにして作製された積層体を所定の温度で焼成することにより、空気極114を形成し、上述した構成の単セル110を得る。
【0056】
A-4.本実施形態の効果:
以上説明したように、本実施形態の燃料電池スタック100を構成する各単セル110は、電解質層112と、電解質層112を挟んでZ軸方向に互いに対向する空気極114および燃料極116と、燃料極116に対して電解質層112とは反対側に位置する金属支持体180とを備える。金属支持体180は、燃料極116に対向する表面S11において開口する貫通孔50を有する。燃料極116と電解質層112との両方は、ビスマスを含有する層(以下、「ビスマス含有層」という。)である。金属支持体180の表面のうち、ビスマス含有層(燃料極116と電解質層112の少なくとも一方)に対向する少なくとも一部に、Alの酸化物からなる酸化被膜FOが形成されている。
【0057】
本実施形態の単セル110においては、ビスマス含有層(燃料極116と電解質層112の少なくとも一方)に対向する少なくとも一部に、アルミニウムの酸化物からなる酸化被膜FOが形成されている。そのため、本実施形態の単セル110によれば、上述した従来の単セル110と比較して、金属支持体180(の酸化被膜FO)が含有する物質(酸化クロム)と、ビスマス含有層が含有するビスマスとが反応することを抑制することができ、ひいては、金属支持体180の表面における成膜性が低下したり、単セル110の性能が低下したり、といった不具合が生じることを抑制することができる。
【0058】
本実施形態の単セル110では、金属支持体180の表面のうち、ビスマス含有層(燃料極116と電解質層112の少なくとも一方)に対向する部分の面積の合計S1に対する、当該部分のうち、Alの酸化物からなる酸化被膜FOが形成されている部分の面積の合計S2の割合Saは、50%以上である。そのため、本実施形態の単セル110によれば、金属支持体180(の酸化被膜FO)が含有する元素と、ビスマス含有層が含有するビスマスとが反応することを、より効果的に抑制することができる。そのため、金属支持体180の表面における成膜性が低下したり、単セル110の性能が低下したり、といった不具合が生じることを、より効果的に抑制することができる。
【0059】
本実施形態の単セル110では、ビスマスを含有する層である燃料極116の一部が貫通孔50を画定する金属支持体180の壁面W10と対向している。金属支持体180の当該壁面W10のうち、燃料極116の一部に対向する少なくとも一部に、Alの酸化物からなる酸化被膜FOが形成されている。そのため、本実施形態の単セル110によれば、金属支持体180の壁面W10にアルミニウムの酸化物からなる酸化被膜FOが形成されていることにより、より効果的に、金属支持体180(の酸化被膜FO)が含有する物質(酸化クロム)と、ビスマス含有層が含有するビスマスとが反応することを抑制することができ、ひいては、より効果的に、金属支持体180の表面における成膜性が低下したり、単セル110の性能が低下したり、といった不具合が生じることを抑制することができる。
【0060】
A-5.本実施形態の性能評価:
次に、本実施形態の性能評価について説明する。各特性が互いに異なる複数の単セル110のサンプルを作製し、当該サンプル(「単セル110の発電性能についての評価」については後述するボタンセル)を用いて性能評価を行った。
図8は、性能評価の結果を示す説明図である。
【0061】
図8に示すように、本性能評価には、単セル110の3個のサンプル(サンプルSP1~SP3)が用いられた。各サンプル(サンプルSP1~SP3)は、基本的には、上記で説明した単セル110と同様の構成であり、上記の製造方法により製造されたものであるが、下記の点で異なるものとした。
【0062】
サンプルS1は、金属支持体180の表面のうち、ビスマスを含有している層である燃料極116と電解質層112の少なくとも一方に対向する部分(一例として、ここでは全体とした)に、Alの酸化物からなる酸化被膜FOが形成されているとした。なお、この金属支持体180の材料として、Alを含むフェライト系ステンレスであるNCA-1を採用した。一方、サンプルS2,S3は、金属支持体180の同表面(燃料極116と電解質層112の少なくとも一方に対向する部分)に、Alの酸化物からなる酸化被膜FOが形成されておらず、Alの酸化物を含まない酸化被膜FOが形成されているとした。なお、この金属支持体180の材料として、Alを含まないフェライト系ステンレスであるSUS430を採用した。
【0063】
また、サンプルSP1,SP2は、上述した反応防止層(金属支持体180と燃料極116との間と金属支持体180の外側部分180Aと電解質層112の外側部分112Aとの間に配置される反応防止層)を備えておらず、一方、サンプルSP3は、当該反応防止層を備えるとした。
【0064】
(燃料極116と金属支持体180との接合強度についての評価)
各サンプルについて、燃料極116の表面に粘着テープを貼り、粘着テープを剥がす際の燃料極116と金属支持体180との剥離の有無を確認した。粘着テープを剥がした後に粘着テープに付着している燃料極116の量(面積)が所定の判定閾値(以下、「第1の判定閾値」という。)以下であったサンプルを「合格(passed)」と評価した。粘着テープに付着している燃料極116の量が第1の判定閾値より大きかったサンプルを「不合格(failed)」と評価した。なお、第1の判定閾値として、燃料極116の表面のうち、粘着テープが貼られた部分の面積の10%の値を用いた。その評価結果は、
図7の「燃料極116と金属支持体180との接合強度」欄に示されている通りである。
【0065】
図8に示すように、サンプルSP1,SP3では、粘着テープに付着した燃料極116の量が第1の判定閾値以下であったため、「合格(passed)」と評価した。これに対し、サンプルSP2では、粘着テープに付着した燃料極116の量が第1の判定閾値より大きかったため、「不合格(failed)」と評価した。
【0066】
ここで、サンプルSP1では、金属支持体180の表面のうち、ビスマスを含有している層である燃料極116と電解質層112の少なくとも一方に対向する部分に、Alの酸化物からなる酸化被膜FOが形成されている。一方、サンプルSP2では、金属支持体180の同表面(燃料極116と電解質層112の少なくとも一方に対向する部分)に、Alの酸化物からなる酸化被膜FOが形成されておらず、Alの酸化物を含まない酸化被膜FOが形成されている。以上の結果から、金属支持体180の表面のうち、ビスマスを含有している層である燃料極116と電解質層112の少なくとも一方に対向する部分に、Alの酸化物からなる酸化被膜FOが形成されている構成においては、金属支持体180(の酸化被膜FO)が含有する物質(酸化クロム)と、ビスマス含有層が含有するビスマスとが反応することを抑制でき、ひいては、金属支持体180の表面における成膜性が低下することを抑制できることが確認された。
【0067】
なお、サンプルSP2と同様にAlの酸化物からなる酸化被膜FOが形成されていないサンプルSP3が「合格(passed)」という評価結果であった理由としては、サンプルSP3では、上述した反応防止層(金属支持体180と燃料極116との間と金属支持体180の外側部分180Aと電解質層112の外側部分112Aとの間に配置される反応防止層)を備えることにより、金属支持体180(の酸化被膜FO)が含有する物質(酸化クロム)と、ビスマス含有層が含有するビスマスとが反応することを抑制できたことが考えられる。
【0068】
(単セル110の発電性能についての評価)
本評価では、上記の単セル110の3個のサンプル(サンプルSP1~SP3)に換えて、上述した単セル110の製造方法に倣って作製した3個のボタンセルが用いられた。各サンプルは、上述した特性(酸化被膜FOの構成、反応防止層の有無)が上記の単セル110の各サンプルと同様であるものであり、サンプルSP1,SP2は、上下方向視で25mmの辺を有する四角形をなす金属支持体180の上に、上下方向視で、直径12mmの円形をなす燃料極116、直径20mmの円形をなす電解質層112、および直径13mmの円形をなす空気極114がこの順に積層されたものである。サンプルSP3は、サンプルSP1,SP2のボタンセルの構成に対して上下方向視で直径20mmの反応防止層が、金属支持体180と燃料極116との間と金属支持体180の外側部分180Aと電解質層112の外側部分112Aとの間に追加されたものである。下記において、便宜上、上記の単セル110のサンプルと特性(酸化被膜FOの構成、反応防止層の有無)が同一であるボタンセルのサンプルを同じ符号を付して呼ぶ(例えばサンプルSP1)。なお、サンプルSP2については、金属支持体180の表面に電解質層112を形成(成膜)する際に欠陥が発生し、形成(成膜)することができなかった。そのため、後述する測定を行うことなく「不合格(failed)」(
図8を参照)と評価した。
【0069】
(1)初期発電性能について
各サンプルを用いた燃料電池スタック100について、約700(℃)で空気極114に酸化剤ガスOGを供給し、燃料極116に燃料ガスFGを供給し、電流密度が0.55A/cm2のときの単セル110の出力電圧を測定し、その測定値を、初期電圧(定格発電運転前の出力電圧)とした。
【0070】
燃料電池スタック100の初期発電性能については、各サンプルについて、初期電圧が所定の判定閾値(以下、「第2の判定閾値」という。)以上であったサンプルを「合格(passed)」と評価し、初期電圧が第2の判定閾値未満であったサンプルを「不合格(failed)」と評価した。その評価結果は、
図8の「初期発電性能」欄に示されている通りである。
【0071】
図8に示すように、サンプルSP1では、初期電圧が第2の判定閾値以上であったため、「合格(passed)」と評価した。サンプルSP2については、上述したように金属支持体180の表面に電解質層112を形成(成膜)することができなかったため、当該測定を行うことなく「不合格(failed)」と評価した。サンプルSP3では、初期電圧が第2の判定閾値未満であったため、「不合格(failed)」と評価した。なお、サンプルSP3の初期電圧は、サンプルSP1の初期電圧に対して80%の値であった。
【0072】
ここで、サンプルSP1では、金属支持体180の表面のうち、ビスマスを含有している層である燃料極116と電解質層112の少なくとも一方に対向する部分に、Alの酸化物からなる酸化被膜FOが形成されている。一方、サンプルSP2では、金属支持体180の同表面(燃料極116と電解質層112の少なくとも一方に対向する部分)に、Alの酸化物からなる酸化被膜FOが形成されておらず、Alの酸化物を含まない酸化被膜FOが形成されている。以上の結果から、金属支持体180の表面のうち、燃料極116と電解質層112の少なくとも一方に対向する部分に、Alの酸化物からなる酸化被膜FOが形成されている構成においては、金属支持体180(の酸化被膜FO)が含有する物質(酸化クロム)と、ビスマス含有層が含有するビスマスとが反応することを抑制でき、ひいては、単セル110の発電性能が低下することを抑制できることが確認された。
【0073】
なお、サンプルSP2と同様にAlの酸化物からなる酸化被膜FOが形成されていないサンプルSP3については、当該測定を行うことができたが、その測定値(初期電圧)が第2の判定閾値未満であり、「不合格(failed)」であった理由としては、上述した反応防止層(金属支持体180と燃料極116との間と金属支持体180の外側部分180Aと電解質層112の外側部分112Aとの間に配置される反応防止層)を備えることにより、発電時の抵抗値が高くなったことが考えられる。
【0074】
(2)耐久発電性能について
各サンプルについて、約700℃で1000時間、発電を行った後、約700℃で、空気極114側に酸化剤ガス(空気)を酸素50ml/minおよび窒素200ml/minで供給し、燃料極116側に燃料ガスを水素320ml/min、3%加湿(露点温度30℃)で供給し、0.55A/cm2の電流密度でIRを測定し、初期状態からのIRの増加量ΔIRを測定し、その測定値を、耐久発電性能を測る指標とした。
【0075】
燃料電池スタック100の耐久発電性能については、各サンプルについて、上記測定値(IRの増加量ΔIR)が所定の判定閾値(以下、「第3の判定閾値」という。)以下であったサンプルを「合格(passed)」と評価し、上記測定値が第3の判定閾値を超えるサンプルを「不合格(failed)」と評価した。その評価結果は、
図8の「耐久発電性能」欄に示されている通りである。
【0076】
図8に示すように、サンプルSP1では、上記測定値が第3の判定閾値以下であったため、「合格(passed)」と評価した。サンプルSP2については、上述したように金属支持体180の表面に電解質層112を形成(成膜)することができなかったため、当該測定を行うことなく「不合格(failed)」と評価した。サンプルSP3では、上記測定値が第3の判定閾値を超えていたため、「不合格(failed)」と評価した。なお、サンプルSP3の測定値は、サンプルSP1の測定値の120%の値であった。
【0077】
ここで、サンプルSP1では、金属支持体180の表面のうち、ビスマスを含有している層である燃料極116と電解質層112の少なくとも一方に対向する部分に、Alの酸化物からなる酸化被膜FOが形成されている。一方、サンプルSP2では、金属支持体180の同表面(燃料極116と電解質層112の少なくとも一方に対向する部分)に、Alの酸化物からなる酸化被膜FOが形成されておらず、Alの酸化物を含まない酸化被膜FOが形成されている。以上の結果から、金属支持体180の表面のうち、燃料極116と電解質層112の少なくとも一方に対向する部分に、Alの酸化物からなる酸化被膜FOが形成されている構成においては、金属支持体180(の酸化被膜FO)が含有する物質(酸化クロム)と、ビスマス含有層が含有するビスマスとが反応することを抑制でき、ひいては、単セル110の発電性能が低下することを抑制できることが確認された。
【0078】
B.変形例:
本明細書で開示される技術は、上述の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の形態に変形することができ、例えば次のような変形も可能である。
【0079】
上記実施形態における燃料電池スタック100や単セル110の構成は、あくまで一例であり、種々変形可能である。
【0080】
上記実施形態では、金属支持体180の表面のうち、ビスマスを含有している層である燃料極116と電解質層112の少なくとも一方に対向する部分の全体に当該酸化被膜FOが形成されているが、当該部分(燃料極116と電解質層112の少なくとも一方に対向する部分)の一部のみに当該酸化被膜FOが形成されていてもよい。
【0081】
金属支持体180の表面のうち、燃料極116と電解質層112の少なくとも一方に対向する部分の面積の合計S1に対する、当該部分のうち、Alの酸化物からなる酸化被膜FOが形成されている部分の面積の合計S2の割合Saは、50%未満である、としてもよい。
【0082】
上記実施形態では、金属支持体180の壁面W10のうち、燃料極116の一部に対向する部分の全体に、Alの酸化物からなる酸化被膜FOが形成されているが、金属支持体180の壁面W10のうち、燃料極116の一部に対向する部分の一部のみに、Alの酸化物からなる酸化被膜FOが形成されていてもよい。
【0083】
燃料極116と電解質層112との両方は、ビスマス含有層(ビスマスを含有する層)であるが、燃料極116と電解質層112との一方のみがビスマス含有層であるとし、金属支持体180の表面のうち、上記の一方(燃料極116と電解質層112との一方)に対向する少なくとも一部に、Alの酸化物からなる酸化被膜FOが形成されているとしてもよい。
【0084】
上記実施形態では、電解質層112の外側部分112Aと金属支持体180の外側部分180Aとは、互いに接しているが、これらが互いに離間していてもよい。
【0085】
上記実施形態では、単セル110のXY断面における金属支持体180の各貫通孔50形状は、円形であるが、円形以外の形状(例えば矩形)であってもよい。また、上記実施形態では、各貫通孔50の径は、金属支持体180の表面(上面)S11における開口53の位置から表面(下面)S22における開口54の位置にわたって略一定であるが、いずれかの位置で異なっていてもよい。また、上記実施形態では複数の貫通孔50の構成は同様であるが、いずれかの貫通孔の構成が他の貫通孔の構成と異なっていてもよい。例えば、複数の貫通孔50の径は、互いに略同一であるが、互いに異なっていてもよい。
【0086】
上記実施形態では、金属支持体180に形成された上記貫通孔50の個数が複数であるが、1つであってもよい。
【0087】
上記実施形態では、燃料ガスFGを通過させるための上記貫通孔50が形成されているが、このような構成に換えて、金属支持体180として多孔質体を用いることにより燃料ガスFGを通過させる構成を採用してもよい。
【0088】
上記実施形態では、金属支持体180が、Z軸方向に積層された第1の金属部材181および第2の金属部材182から構成されているが、金属支持体180の構成はこれに限られない。例えば、金属支持体180が、1枚の板状部材から構成されていてもよいし、Z軸方向に積層された3枚以上の板状部材から構成されていてもよい。また、金属支持体180がZ軸方向に積層された複数の板状部材から構成されている場合、各板状部材の厚さは互いに同じであってもよいし、互いに異なっていてもよい。
【0089】
上記実施形態では、特定貫通孔は、燃料極116の孔内部118のZ軸方向の電解質層112とは反対側に空間SPを有しているが、必ずしもこれに限られない。例えば、特定貫通孔の全体に渡って燃料極116が充填されていてもよい。
【0090】
上記実施形態において、必ずしも燃料電池スタック100に含まれるすべての単セル110において、上述した構成が実現されている必要はなく、燃料電池スタック100に含まれる少なくとも1つの単セル110において、上述した構成が実現されていればよい。
【0091】
上記実施形態における各部材を構成する材料は、あくまで例示であり、各部材が他の材料により構成されていてもよい。また、上記実施形態における単セル110の製造方法は、あくまで一例であり、種々変形可能である。
【0092】
上記実施形態では、燃料ガスに含まれる水素と酸化剤ガスに含まれる酸素との電気化学反応を利用して発電を行う固体酸化物形燃料電池(SOFC)を対象としているが、本明細書に開示される技術は、水の電気分解反応を利用して水素の生成を行う固体酸化物形電解セル(SOEC)の構成単位である電解単セルおよび複数の電解単セルを備える電解セルスタックにも同様に適用可能である。なお、電解セルスタックの構成は、例えば特開2016-81813号に記載されているように公知であるためここでは詳述しないが、概略的には上述した実施形態における燃料電池スタック100と同様の構成である。すなわち、上述した実施形態における燃料電池スタック100を電解セルスタックと読み替え、発電単位102を電解セル単位と読み替え、単セル110を電解単セルと読み替えればよい。ただし、電解セルスタックの運転の際には、空気極114がプラス(陽極)で燃料極116がマイナス(陰極)となるように両電極間に電圧が印加されると共に、貫通孔108を介して原料ガスとしての水蒸気が供給される。これにより、各電解セル単位において水の電気分解反応が起こり、燃料室176で水素ガスが発生し、貫通孔108を介して電解セルスタックの外部に水素が取り出される。このような構成の電解単セルにおいても、上記実施形態と同様の構成を採用することにより、上記実施形態と同様の作用効果を奏する。
【0093】
上記実施形態では、固体酸化物形燃料電池(SOFC)を例に説明したが、本明細書に開示される技術は、溶融炭酸塩形燃料電池(MCFC)といった他のタイプの燃料電池(または電解セル)にも適用可能である。
【符号の説明】
【0094】
22(22A~22E):ボルト 24:ナット 26:絶縁シート 27:ガス通路部材 28:(ガス通路部材の)本体部 29:(ガス通路部材の)分岐部 50:貫通孔 51:(貫通孔の)第1の部分 52:(貫通孔の)第2の部分 53,54:開口 100:燃料電池スタック 102:発電単位 104,106:エンドプレート 108:貫通孔 110:単セル 112:電解質層 112A:(電解質層の)外側部分 114:空気極 116:燃料極 117:(燃料極の)基部 118:(燃料極の)孔内部 120:セパレータ 121:孔 124:接合部 130:空気極側フレーム部材 131:孔 132:空気極側ガス供給連通流路 133:空気極側ガス排出連通流路 134:空気極側集電体 135:集電体要素 140:燃料極側フレーム部材 141:孔 142:燃料極側ガス供給連通流路 143:燃料極側ガス排出連通流路 144:燃料極側集電体 145:集電体要素 150:インターコネクタ 161:空気極側ガス供給マニホールド 162:空気極側ガス排出マニホールド 166:空気室 171:燃料極側ガス供給マニホールド 172:燃料極側ガス排出マニホールド 176:燃料室 180:金属支持体 180A:(金属支持体の)外側部分 181:第1の金属部材 182:第2の金属部材 FG:燃料ガス FO:酸化被膜 FOG:燃料オフガス OG:酸化剤ガス OOG:酸化剤オフガス S11:(金属支持体180の)表面(上面) S12:(金属支持体180の)表面(下面) SP:空間