(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024116842
(43)【公開日】2024-08-28
(54)【発明の名称】超電導回転電機の回転子および超電導回転電機
(51)【国際特許分類】
H02K 55/04 20060101AFI20240821BHJP
H01F 6/06 20060101ALI20240821BHJP
【FI】
H02K55/04
H01F6/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023022657
(22)【出願日】2023-02-16
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(71)【出願人】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】阿部 格
(72)【発明者】
【氏名】小柳 圭
(72)【発明者】
【氏名】岩井 貞憲
(72)【発明者】
【氏名】下之園 勉
(72)【発明者】
【氏名】宇都 達郎
(57)【要約】
【課題】 超電導コイルに作用する応力により導入される局所歪みによる超電導線材の特性劣化を抑制できるようにすること。
【解決手段】 実施形態による超電導回転電機の回転子は、巻線取付軸と、前記巻線取付軸の周囲に配される超電導コイルと、前記超電導コイルの周囲を取り囲むように配置されたサポートリングと、前記超電導コイルと前記巻線取付軸と前記サポートリングとに囲まれた空間に配置され、前記超電導コイルを支持固定する支持層とを具備する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
巻線取付軸と、
前記巻線取付軸の周囲に配される超電導コイルと、
前記超電導コイルの周囲を取り囲むように配置されたサポートリングと、
前記超電導コイルと前記巻線取付軸と前記サポートリングとに囲まれた空間に配置され、前記超電導コイルを支持固定する支持層と
を具備する、超電導回転電機の回転子。
【請求項2】
前記支持層の熱膨張係数は、前記巻線取付軸および前記サポートリングのそれぞれの熱膨張係数よりも小さい、
請求項1に記載の超電導回転電機の回転子。
【請求項3】
前記支持層は、前記巻線取付軸および前記超電導コイルの周囲に配される第1支持構造物と、前記第1支持構造物と前記サポートリングとの間に配される第1充填物とからなる、
請求項1に記載の超電導回転電機の回転子。
【請求項4】
前記第1支持構造物および前記第1充填物のそれぞれの熱膨張係数は、前記巻線取付軸および前記サポートリングのそれぞれの熱膨張係数よりも小さい、
請求項3に記載の超電導回転電機の回転子。
【請求項5】
前記第1支持構造物の熱膨張係数は、前記第1充填物の熱膨張係数よりも小さい、
請求項4に記載の超電導回転電機の回転子。
【請求項6】
前記支持層は、前記超電導コイルの回転子外径側に接するように配される第2支持構造物と、前記超電導コイルと前記巻線取付軸と前記サポートリングと前記第2支持構造物との間の空間に配される第2充填物とからなる、
請求項1に記載の超電導回転電機の回転子。
【請求項7】
前記第2支持構造物の弾性係数は、前記第2充填物の弾性係数よりも大きい、
請求項6に記載の超電導回転電機の回転子。
【請求項8】
前記第2支持構造物の回転子外径側の表面の一部に曲面部が設けられ、
前記曲面部と前記サポートリングの内面とが面接触している、
請求項6に記載の超電導回転電機の回転子。
【請求項9】
前記曲面部の曲率半径は、前記サポートリングの内径と一致する、
請求項8に記載の超電導回転電機の回転子。
【請求項10】
前記第2支持構造物と前記巻線取付軸とが締結部材により機械的に固定されるよう構成されている、
請求項6に記載の超電導回転電機の回転子。
【請求項11】
請求項1乃至10のいずれか1項に記載の超電導回転電機の回転子を用いて構成される、超電導回転電機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、超電導回転電機の回転子および超電導回転電機に関する。
【背景技術】
【0002】
超電導回転電機の回転子においては、巻線取付軸の各部に超電導コイルが設けられる。超電導コイルは、超電導状態となる運転温度に冷却されることで、界磁コイルとして機能する。この超電導コイルの構造としては、一方向に長尺形状をなす長円形状に巻き回されたものが知られている。また、そのような超電導コイルの内部を貫通する磁束線による臨界電流値の低下の防止や、冷却効率の向上、コイルの固定強度向上のため、超電導コイルに対し各種のスペーサ(コイルの隙間に挟まれるように配置されるコマ状スペーサや、コイルの周囲から嵌挿するように配置される櫛歯状スペーサなど)を配置することが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
超電導回転電機の回転子は、回転時に回転中心軸に対して周方向にトルクを受け、回転中心軸に対して外径方向に遠心力を受ける。そのとき、超電導コイルには、回転体特有の非常に大きくかつ時間的に変動する力が働く。すなわち回転時には超電導コイルに対し、トルクにより周方向では回転方向に圧縮応力、反転方向に引張応力がそれぞれ作用し、遠心力により回転子軸の径方向では内径方向に引張応力、外径方向に圧縮応力がそれぞれ作用する。特に超電導コイル内の超電導線材に対し局所的な歪みが導入されてしまうと、超電導線材の特性劣化が発生し、超電導回転子の健全性が損なわれてしまうおそれがある。したがって、回転時に働く力により超電導コイルが振動を受けたり相対的変位が加わったりすることの無いように超電導コイルを固定することが望まれる。
【0005】
従来のスペーサを配置する手法では、超電導コイルを固定することはできるが、上述した問題を解決することはできない。例えば、コイルの積層方向の隙間に挟まれるコマ状スペーサを設けた場合は、当該コマ状スペーサの無い部分にコイル間隙が存在することから、回転時に働く力により超電導コイルが振動を受けたり相対的変位が加わったりするおそれがある。また、コイルに嵌挿する櫛歯状スペーサを設けた場合は、当該櫛歯状スペーサの角部がコイル面に当たる箇所があることから、ここを起点に局所的に曲げ歪みが導入されるおそれがある。
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、超電導コイルに導入される局所歪みによる超電導線材の特性劣化を抑制することができる超電導回転電機の回転子および超電導回転電機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
実施形態による超電導回転電機の回転子は、巻線取付軸と、前記巻線取付軸の周囲に配される超電導コイルと、前記超電導コイルの周囲を取り囲むように配置されたサポートリングと、前記超電導コイルと前記巻線取付軸と前記サポートリングとに囲まれた空間に配置され、前記超電導コイルを支持固定する支持層とを具備する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、超電導コイルに導入される局所歪みによる超電導線材の特性劣化を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、第1の実施形態に係る超電導回転電機の回転子の全体構成の例を示す断面図である。
【
図2】
図2は、
図1に示される構造のA-A断面における断面形状の例を示す断面図である。
【
図3】
図3は、
図2に示される構造をU方向から見たときの形状の例を示す矢視図である。
【
図4】
図4は、
図3に示される構造のV-V断面における断面形状の例を示す断面図である。
【
図5】
図5は、
図4中に示される超電導線材30の構成の例を示す断面図である。
【
図6】
図6は、第2の実施形態に係る超電導回転電機の回転子の構造の例(
図2に示される構造の変形例)を示す断面図である。
【
図7】
図7は、第3の実施形態に係る超電導回転電機の回転子の構造の例(
図6に示される構造の変形例)を示す断面図である。
【
図8】
図8は、第4の実施形態に係る超電導回転電機の回転子の構造の例(
図7に示される構造の変形例)を示す断面図である。
【
図9】
図9は、第5の実施形態に係る超電導回転電機の回転子の構造の例(
図8に示される構造の変形例)を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して、実施の形態について説明する。
【0011】
<第1の実施形態>
最初に、第1の実施形態について説明する。
【0012】
(超電導回転電機における回転子の基本構造)
まず、
図1および
図2を参照して、第1の実施形態に係る超電導回転電機の回転子の基本的な構造について説明する。
【0013】
図1は、第1の実施形態に係る超電導回転電機の回転子の全体構成の例を示す断面図である。
図2は、
図1に示される構造のA-A断面における断面形状の例を示す断面図である。
【0014】
なお、ここでは主要部の構造を理解しやすいものとするため、冷媒流路、コイル間接続導体、フィーダ等の図示を省略するとともに、図示される各部の寸法の一部を実際のものよりも大きくし又は小さくしている。そのため、図示される各部の寸法の大小関係は、実際のものとは異なる。
【0015】
図1および
図2に示される超電導回転電機の回転子1は、巻線取付軸12、サポートリング13、回転子軸またはロータコア11、超電導コイル20、支持層40などを有する。
【0016】
回転子軸またはロータコア11の周囲に、超電導コイル20を周方向に一定の間隔で取り付けるための巻線取付軸12が配され、超電導コイル20が巻線取付軸12の各部に配置される。巻線取付軸12の周囲には、サポートリング13が設けられる。サポートリング13は、巻線取付軸12の周囲を取り囲むように配置される。さらに、超電導コイル20と巻線取付軸12とサポートリング13とに囲まれた空間に、超電導コイル20を支持固定するための支持層40が設けられる。
【0017】
超電導コイル20は、回転子1の軸中心に対して点対象となるように配置される。なお、
図1および
図2には、超電導コイル20が4個配置された例が示されているが、超電導コイル20の個数に限定はなく、2個以上の超電導コイル20が点対称となるように配置されるのであれば、個数に制限はない。
【0018】
支持層40は、超電導コイル20を支持固定できるように巻線取付軸12およびサポートリング13に囲まれた空間に配置されたものである。本例では、支持層40は、巻線取付軸12、サポートリング13および超電導コイル20に囲まれた空間を隙間なく満たすように構成されている。
【0019】
支持層40は、例えば、メラミン樹脂、ユリア樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、もしくはフェノール樹脂などの熱硬化性樹脂などを充填・含浸することで構成してもよいが、低融点金属または合金を溶融して充填・含浸することで構成してもよいし、前記熱硬化性樹脂に対し金属粉末や酸化物粉末を分散させた複合体で構成してもよい。そのように金属粉末や酸化物粉末フィラーを使用することによって、熱膨張係数や弾性係数の調整を容易に行うことができる。
【0020】
なお、巻線取付軸12およびサポートリング13に囲まれた空間を満たすことができ、超電導コイル20を支持固定できる方法であれば、上記以外の材料を用いて支持層40を構成してもよい。
【0021】
支持層40の熱膨張係数は、巻線取付軸12およびサポートリング13のそれぞれの熱膨張係数よりも小さいことが望ましい。
【0022】
(超電導コイル20およびその周辺の構成)
図3は、
図2に示される構造をU方向から見たときの形状の例を示す矢視図である。
図4は、
図3に示される構造のV-V断面における断面形状の例を示す断面図である。
【0023】
図3および
図4に示されるように、超電導コイル20は、高温超電導線材(以降「超電導線材30」と称す。)および絶縁部材24が、巻き枠21(コイル口出し電極23を含む)の周りに渦巻状に巻き回され、これにより形成された巻線部26の上下面に絶縁板22が配され、これら上下面にある絶縁板22と巻線部26(超電導線材30および絶縁部材24)との間に樹脂層25が充填・含浸されて形成される。
【0024】
絶縁板22は、例えばポリイミド、ポリエステルポリウレタン、ポリアミド、ポリアミドイミドおよびポリビニルホルマールなどの絶縁フィルム、フェノール樹脂、尿素樹脂およびメラミン樹脂といった熱硬化性樹脂、ガラス繊維強化プラスチック(GFRP)および炭素繊維強化プラスチック(CFRP)などにより形成され、巻線部26の絶縁保護と機械的強度を向上する。
【0025】
(超電導線材30の構成)
図5に、
図4中に示される超電導線材30の構成の例を示す。
【0026】
超電導線材30は、テープ状の金属基板31に中間層32、RE(希土類元素)系の酸化物超電導層33および保護層34を積層した多層膜構造に対し、安定化層35を被覆した薄膜多層線材で構成される。
【0027】
テープ状の金属基板31は、例えばステンレス鋼やハステロイ(登録商標)などのニッケル系合金などにより形成される。
【0028】
中間層32は、酸化物超電導層33の配向性の向上や拡散防止の役割を担う層であり、例えば酸化マグネシウムなどから形成される。
【0029】
酸化物超電導層33は、超電導を発現する層(以降、「超電導層」)であり、例えばRE123系(RE1Ba2Cu3Oy)を有する超電導体薄膜である。なお、REは希土類元素であり、Nd,Gd,Ho,Sm,Yなどを示す。
【0030】
保護層34は、超電導層の酸化等を防止する保護の目的で設けられる層であり、Agなどから形成される。
【0031】
安定化層35は、超電導層に過剰に電流が流れた際に分流を担い、超電導層が燃焼することを防止する目的で設けられ、例えばCuからなる。
【0032】
なお、超電導線材30は、線材幅方向や長手方向(面内方向)の強度に対し、線材厚さ方向(面直方向、薄膜の積層方向)の強度が一桁オーダー以上小さく、超電導層内で亀裂が発生したり、層間剥離が発生したりすると、超電導特性の劣化が起こる。
【0033】
第1の実施形態では、上述したように巻線取付軸12、サポートリング13および超電導コイル20に囲まれた空間に支持層40が設けられているため、支持層40を介して超電導コイル20を機械的に強固に支持することができ、回転時に振動を受けたり相対的変位が加わったりすることを抑制することができる。また、超電導コイル20表面が連続的に支持されるため、局所的に曲げ歪みが導入されることを防ぐことができる。
【0034】
また、第1の実施形態では、上述したように支持層40の熱膨張係数が巻線取付軸12およびサポートリング13のそれぞれの熱膨張係数よりも小さくなるように構成した場合には、超電導コイル20を運転温度まで冷却した際に支持層40の熱収縮が周囲の部材の熱収縮に比べ小さいため、超電導コイル20に対し支持層40から等方的に圧縮応力がはたらき、より強固に超電導コイル20を支持することができる。よって、回転時に超電導コイル20に対し振動や相対的変位が加わることを防止することができ、超電導線材30に局所的な曲げ歪みが導入されることを防止することができる。
【0035】
したがって、第1の実施形態によれば、超電導コイル20に作用する応力による超電導線材30の特性劣化を抑制することができ、健全性の保たれた超電導回転電機の回転子1および超電導回転電機を提供することができる。
【0036】
<第2の実施形態>
次に、第2の実施形態について説明する。以下では、第1の実施形態と共通する部分の説明を省略し、第1の実施形態と異なる部分を中心に説明する。
【0037】
図6は、第2の実施形態に係る超電導回転電機の回転子の構造の例(
図2に示される構造の変形例)を示す断面図である。
【0038】
この第2の実施形態に係る回転子1が前述した第1の実施形態に係る回転子1と異なる点は、支持層40が、巻線取付軸12および超電導コイル20の周囲に配される第1支持構造物41と、第1支持構造物41とサポートリング13との間に配される第1充填物43とからなることである。
【0039】
すなわち、
図2の構成では、第1支持構造物41によって超電導コイル20が巻線取付軸12に対し支持固定されるとともに、第1充填物43によって超電導コイル20が第1支持構造物41およびサポートリング13に対し支持固定される。
【0040】
前記第1支持構造物41は巻線取付軸12および超電導コイル20に囲まれた空間を隙間なく満たすように構成され、第1充填物43はサポートリング13および超電導コイル20に囲まれた空間を隙間なく満たすように構成される。これら第1支持構造物41および第1充填物43は、例えば支持層40と同様に、熱硬化性樹脂や低融点金属または合金、もしくは熱硬化性樹脂に金属粉末や酸化物粉末を分散させた複合体で構成してもよく、巻線取付軸12およびサポートリング13に囲まれた空間を隙間なく満たすことができ、超電導コイル20を支持固定できる方法であれば上記以外の材料を用いて支持層40を構成してもよい。また第1支持構造物41および第1充填物43は、それぞれ同一の材料を用いて構成しても良いし、異種の材料を組み合わせて用いてもよい。
【0041】
なお、第1支持構造物41および第1充填物43のそれぞれの熱膨張係数は、巻線取付軸12およびサポートリング13のそれぞれの熱膨張係数よりも小さいことが望ましく、さらに第1支持構造物41の熱膨張係数は、第1充填物43の熱膨張係数よりも小さいことが望ましい。
【0042】
第2の実施形態では、サポートリング13を配置する前に、巻線取付軸12および超電導コイル20に囲まれた空間に第1支持構造物41を設けることができるため、組込時の作業性が向上するとともに、目視確認しながら第1支持構造物41を設けることができることから、より密着性よく超電導コイル20表面に隙間のない第1支持構造物41を構成することができる。
【0043】
また、第2の実施形態では、第1支持構造物41と第1充填物43とに異種の材料を用いることができるため、材料の選択性の自由度が向上し、熱膨張係数の調整が容易になる。
【0044】
また、第1の実施形態と同様に第1支持構造物41および第1充填物43のそれぞれの熱膨張係数が巻線取付軸12およびサポートリング13のそれぞれの熱膨張係数よりも小さくなるように構成した場合には、超電導コイル20を運転温度まで冷却した際に支持層40の熱収縮が周囲の部材の熱収縮に比べ小さいため、超電導コイル20に対し第1支持構造物41および第1充填物43から等方的に圧縮応力がはたらき、より強固に超電導コイル20を支持できる。
【0045】
また、第1支持構造物41の熱膨張係数が第1充填物43の熱膨張係数よりも小さくなるように構成した場合には、超電導コイル20に対し第1支持構造物41および第1充填物43からより等方的に圧縮応力がはたらき、より強固に超電導コイル20を支持できる。
【0046】
よって、第2の実施形態では、回転時に超電導コイル20に対し振動や相対的変位が加わることを抑制することができ、超電導コイル20表面が連続的に支持されるため、局所的に曲げ歪みが導入されることを防ぐことができる。
【0047】
したがって、第2の実施形態によれば、超電導コイル20に作用する応力による超電導線材30の特性劣化をより抑制することができ、健全性の保たれた超電導回転電機の回転子1および超電導回転電機を提供することができる。
【0048】
<第3の実施形態>
次に、第3の実施形態について説明する。以下では、第1および第2の実施形態と共通する部分の説明を省略し、第1および第2の実施形態と異なる部分を中心に説明する。
【0049】
図7は、第3の実施形態に係る超電導回転電機の回転子の構造の例(
図6に示される構造の変形例)を示す断面図である。
【0050】
この第3の実施形態に係る回転子1が前述した第1および第2の実施形態に係る回転子1と異なる点は、前記支持層40が、超電導コイル20の回転子1外径側に接するように配される第2支持構造物42と、超電導コイル20と巻線取付軸12とサポートリング13と第2支持構造物42との間の空間に配される第2充填物44とからなることである。
【0051】
すなわち、
図7の構成では、第2支持構造物42および第2充填物44によって超電導コイル20が巻線取付軸12およびサポートリング13に対し支持固定される。
【0052】
第2支持構造物42は、回転子1の組立時に第2充填物44よりも先に組み込まれる構造物であり、たとえばガラス繊維強化プラスチック(GFRP)および炭素繊維強化プラスチック(CFRP)などにより形成してもよく、Al系合金やCu系合金、ステンレスなどの表面にポリイミド、ポリエステルポリウレタン、ポリアミド、ポリアミドイミドおよびポリビニルホルマールなどの絶縁フィルムを貼り付けたり、フェノール樹脂、尿素樹脂およびメラミン樹脂といった熱硬化性樹脂を塗布したりした複合体で形成してもよい。なお、第2支持構造物42の超電導コイル20と接する面(第2支持構造物42の回転子1内径側の面)は、超電導コイル20の面の形状と一致していることが望ましい。また、第2支持構造物42の弾性係数は、第2充填物44の弾性係数よりも大きいことが望ましい。
【0053】
第2充填物44は、例えば支持層40や第1充填物43と同様に、熱硬化性樹脂や低融点金属または合金、もしくは熱硬化性樹脂に金属粉末や酸化物粉末を分散させた複合体で構成してもよく、巻線取付軸12およびサポートリング13に囲まれた空間を隙間なく満たすことができ、超電導コイル20を支持固定できる方法であれば上記以外の材料を用いて支持層40を構成してもよい。
【0054】
第3の実施形態では、第2支持構造物42および第2充填物44が超電導コイル20を巻線取付軸12およびサポートリング13に対し支持固定するため、超電導コイル20とサポートリング13間の支持層40の形成が容易となり、支持層40と超電導コイル20間の空隙の発生を抑制できる。よって、回転時に超電導コイル20に対し振動や相対的変位が加わることの防止、局所的な曲げ歪みが導入されることの防止に効果的である。
【0055】
また、第2支持構造物42の弾性係数が第2充填物44の弾性係数よりも大きくなるように構成した場合には、第1および第2の実施形態に比べ、支持層40の機械強度が大きくなるため、超電導コイル20の支持固定がより強固になる。よって、回転時に超電導コイル20に対し振動や相対的変位が加わることの防止、局所的な曲げ歪みが導入されることの防止に効果的である。
【0056】
したがって、第3の実施形態によれば、超電導コイル20に作用する応力による超電導線材30の特性劣化をより抑制することができ、健全性の保たれた超電導回転電機の回転子1および超電導回転電機を提供することができる。
【0057】
<第4の実施形態>
次に、第4の実施形態について説明する。以下では、第3の実施形態と共通する部分の説明を省略し、第3の実施形態と異なる部分を中心に説明する。
【0058】
図8は、第4の実施形態に係る超電導回転電機の回転子の構造の例(
図7に示される構造の変形例)を示す断面図である。
【0059】
図8は、第4の実施形態に係る超電導回転電機の回転子1の構成の例を示す径方向断面図である。
【0060】
この第4の実施形態に係る回転子1が前述した第3の実施形態に係る回転子1と異なる点は、第2支持構造物42の回転子1外径側の形状を変えていることである。すわなち、第2支持構造物42の回転子1外径側の表面の一部に曲面部42Rが設けられ、曲面部42Rとサポートリング13内面とが面接触するように構成されていることである。具体的には、曲面部42Rの曲率半径が、サポートリング13の内径と一致するように構成されている。
【0061】
第4の実施形態では、第2支持構造物42の回転子1外径側の表面の一部に曲面部42Rが設けられ、前記第2支持構造物42の曲面部42Rの曲率半径が前記サポートリング13の内径と一致するように構成されているため、第2支持構造物42がサポートリング13と面接触し、遠心力による応力集中部の発生を抑制するよう作用する。
【0062】
したがって、第4の実施形態によれば、遠心力による超電導コイル20表面の応力集中部の発生を抑制するよう作用するため、超電導コイル20に作用する応力による超電導線材30の特性劣化をより抑制することができ、より健全性の保たれた超電導回転電機の回転子1および超電導回転電機を提供することができる。
【0063】
<第5の実施形態>
次に、第5の実施形態について説明する。以下では、第3および第4の実施形態と共通する部分の説明を省略し、第3および第4の実施形態と異なる部分を中心に説明する。
【0064】
図9は、第5の実施形態に係る超電導回転電機の回転子の構造の例(
図8に示される構造の変形例)を示す断面図である。
【0065】
この第5の実施形態に係る回転子1が前述した第3および第4の実施形態に係る回転子1と異なる点は、前記第2支持構造物42と巻線取付軸12とが締結部材45により機械的に固定されるよう構成されていることである。
【0066】
締結部材45は例えば巻線取付軸12に設けたヘリサートやネジ穴と締付用のボルトなどで構成して良い。締結部材45により、第2支持構造物42および巻線取付軸12を介して超電導コイル20に圧縮応力を付与するよう構成される。
【0067】
第5の実施形態では、第2支持構造物42と巻線取付軸12とが締結部材45により機械的に固定されているため、超電導コイル20を機械的により強固に支持することができ、遠心力により超電導コイル20にはたらく曲げ応力を低減するよう作用する。
【0068】
したがって、第5の実施形態によれば、第3の実施形態と同様の効果が得られるほか、遠心力により超電導コイル20にはたらく曲げ応力を低減するよう作用するため、超電導コイル20に作用する応力による超電導線材30の特性劣化をより抑制することができ、より健全性の保たれた超電導回転電機の回転子1および超電導回転電機を提供することができる。
【0069】
以上詳述したように、実施形態によれば、超電導コイルに導入される局所歪みによる超電導線材の特性劣化を抑制することができる。
【0070】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0071】
1…回転子、11…回転子軸またはロータコア、12…巻線取付軸、13…サポートリング、20…超電導コイル、21…巻き枠、22…絶縁板、23…コイル口出し電極、24…絶縁部材、25…樹脂層、26…巻線部、30…高温超電導線材(超電導線材)、31…金属基板、32…中間層、33…酸化物超電導層、34…保護層、35…安定化層、40…支持層、41…第1支持構造物、42…第2支持構造物、42R…曲面部、43…第1充填物、44…第2充填物、45…締結部材。