(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024116860
(43)【公開日】2024-08-28
(54)【発明の名称】自動車用アクチュエータ、操舵機能付きのハブユニット、操舵システムおよびそれを備えた車両
(51)【国際特許分類】
B62D 7/18 20060101AFI20240821BHJP
B62D 5/04 20060101ALI20240821BHJP
【FI】
B62D7/18 Z
B62D5/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023022687
(22)【出願日】2023-02-16
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087941
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 修司
(74)【代理人】
【識別番号】100112829
【弁理士】
【氏名又は名称】堤 健郎
(74)【代理人】
【識別番号】100155963
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】100150566
【弁理士】
【氏名又は名称】谷口 洋樹
(74)【代理人】
【識別番号】100142608
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 由佳
(74)【代理人】
【識別番号】100213470
【弁理士】
【氏名又は名称】中尾 真二
(72)【発明者】
【氏名】石原 教雄
【テーマコード(参考)】
3D034
3D333
【Fターム(参考)】
3D034BA04
3D034BA07
3D034BC05
3D034BC15
3D034BC26
3D034BD06
3D333CB02
3D333CB29
3D333CB42
3D333CC02
3D333CC18
3D333CD04
3D333CD05
3D333CD12
3D333CD14
3D333CD16
3D333CD21
3D333CD28
3D333CE06
3D333CE09
(57)【要約】
【課題】無端伝達部材で減速機を構成している自動車用アクチュエータにおいて、無端伝達部材の張力を容易に調整できる自動車用アクチュエータ、操舵機能付きのハブユニット、操舵システムおよびこれを備えた車両を提供する。
【解決手段】本発明の操舵機能付きの自動車用アクチュエータ5は、車輪9を回転支持するハブベアリング15を含み上下方向に延びる転舵軸心Aを有するハブベアリング本体2を、転舵軸心A回りに回転させる。自動車用アクチュエータ5は、回転力を発生させるモータ26と、モータ26の回転運動を直進運動に変換する直動機構25と、モータ26の回転力を直動機構25に伝達するタイミングベルト27cとを有している。モータ26の取付部60のインロー軸心AX2と、モータ26の回転軸心AX1が偏心された位置に配置されている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転力を発生させる駆動源と、
前記駆動源の回転運動を直進運動に変換する直動機構と、
前記駆動源の回転力を前記直動機構に伝達する無端伝達部材と、を備え、
前記駆動源の取付部のインロー軸心と、前記駆動源の回転軸心が偏心された位置に配置されている自動車用アクチュエータ。
【請求項2】
請求項1に記載の自動車用アクチュエータにおいて、前記駆動源は、前記回転軸心が前記インロー軸心よりも被駆動側プーリ側の位置で組付け可能で、且つ、前記インロー軸心回りに回転移動可能である自動車用アクチュエータ。
【請求項3】
請求項1または2に記載の自動車用アクチュエータにおいて、前記回転軸心が、前記直動機構の軸心よりも上方に配置されている自動車用アクチュエータ。
【請求項4】
請求項1または2に記載の自動車用アクチュエータにおいて、自動車の車輪を回転支持するハブベアリングを含み上下方向に延びる転舵軸心を有するハブベアリング本体を、前記転舵軸心回りに回転させる自動車用アクチュエータであって、
前記ハブベアリングの回転軸心、前記直動機構の軸心および前記回転軸心が平行に配置されている自動車用アクチュエータ。
【請求項5】
請求項1または2に記載の自動車用アクチュエータにおいて、自動車の車輪を回転支持するハブベアリングを含み上下方向に延びる転舵軸心を有するハブベアリング本体を、前記転舵軸心回りに回転させる自動車用アクチュエータであって、
前記ハブベアリング本体は、前記転舵軸心を有する転舵軸部を備え、
前記転舵軸部を支持する上下の支持軸受がタイヤホイール内に位置している自動車用アクチュエータ。
【請求項6】
請求項1に記載の自動車用アクチュエータと、
前記ハブベアリング本体と、を備えた操舵機能付きのハブユニット。
【請求項7】
請求項6に記載の操舵機能付きのハブユニットと、前記操舵用アクチュエータを制御する制御装置を備えた操舵システムであって、
前記制御装置は、上位制御部の指令信号を受けてモータ電流指令信号を出力する制御部と、前記モータ電流指令信号に応じた電流を出力して前記操舵用アクチュエータを駆動する電源部とを備えた操舵システム。
【請求項8】
請求項6に記載のハブユニットまたは請求項7に記載の操舵システムが左右の前輪に装備された車両。
【請求項9】
請求項6に記載のハブユニットまたは請求項7に記載の操舵システムが左右の後輪に装備された車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の転舵を左右輪独立で行う機能を備えた自動車用アクチュエータ、ハブユニット、操舵システムおよび車両に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的な自動車等の車両は、ハンドルとステアリング装置が機械的に接続され、ステアリング装置の両端はタイロッドによってそれぞれ左右輪につながっている(例えば、特許文献1、2)。そのため、ハンドルの動きによる左右輪の切れ角度は初期の設定によって決まる。
【0003】
車両のジオメトリには、(1)左右輪の切れ角度が同じである「パラレルジオメトリ」、(2)旋回中心を1箇所にするために旋回内輪車輪角度を旋回外輪車輪角度よりも大きく切る「アッカーマンジオメトリ」が知られている。
【0004】
アッカーマンジオメトリは、車両に作用する遠心力を無視できるような低速域での旋回において、車両をスムーズに旋回させるために、各輪が共通の一点を中心として旋回するように左右輪の舵角差を設定している。しかしながら、遠心力を無視できない高速域の旋回においては、車輪は遠心力と釣り合う方向にコーナリングフォースを発生させることが望ましいので、アッカーマンジオメトリよりもパラレルジオメトリとすることが好ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009-226972号公報
【特許文献2】特許第7037315号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述したように、一般的な車両の操舵装置は機械的に車輪と接続されているので、一般的には固定された単一のステアリングジオメトリしか取ることができず、アッカーマンジオメトリとパラレルジオメトリとの中間的なジオメトリに設定されることが多い。しかしながら、この場合、低速域では左右輪の舵角差が不足して外輪の舵角が過大となり、高速域では内輪の舵角が過大となる。このように内外輪の車輪横力配分に不要な偏りがあると、走行抵抗の悪化による燃費悪化およびタイヤの早期摩耗の原因となる。また、内外輪を効率的に利用できないので、コーナリングのスムーズさが損なわれるといった課題がある。
【0007】
特許文献1では、車速や旋回Gに応じて車輪の切れ角を変更し、低速域ではアッカーマンジオメトリを、高速域ではパラレルジオメトリと任意に選択する。これにより、走行抵抗を増大させることがなく、また低速でのスムーズな旋回性と高速でのコーナリング性能とを両立させることが可能となる。
【0008】
特許文献1では、ナックルアームとジョイント位置を相対的に変化させて、ステアリングジオメトリを変化させている。しかしながら、このような部分で車両のジオメトリを変化させるほどの力をえるアクチュエータをつけることは空間の制約上困難である。また、この位置での変化によるタイヤ角の変化が小さく、大きな効果を得るためには大きく変化させる(動かす)必要がある。
【0009】
特許文献2では、アクチュエータの設置空間を確保するために、タイミングベルトのような無端伝達部材を用いてアクチュエータの動力を伝達している。しかしながら、特許文献2では、モータとケースが一体となっており、各部品の公差や、タイミングベルトの製造公差によって管理する必要がある。そのため、タイミングベルトの張力を適正な範囲に設定することが難しい。タイミングベルトの張力が規定値よりも弱い場合、ベルトプーリに対してタイミングベルトの歯が滑ってしまう恐れがあり、強い場合には早期疲労に繋がる恐れがある。
【0010】
本発明は、無端伝達部材で減速機を構成しているアクチュエータにおいて、無端伝達部材の張力を容易に調整できる自動車用アクチュエータ、操舵機能付きのハブユニット、操舵システムおよびこれを備えた車両を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の自動車用アクチュエータは、回転力を発生させる駆動源と、前記駆動源の回転運動を直進運動に変換する直動機構と、前記駆動源の回転力を前記直動機構に伝達する無端伝達部材とを有している。前記駆動源の取付部のインロー軸心と、前記駆動源の回転軸心が偏心された位置に配置されている。ここで、「インロー」とは、凸部と凹部の嵌合により連結する構造である。前記駆動源は、例えば、モータで、前記無端伝達部材は、例えば、タイミングベルトである。
【0012】
この構成によれば、ハブユニット内に回転軸心とは異なる転舵軸心を持ち、ハブベアリング本体はこの転舵軸部の両端部で転舵軸心回りに回転可能に保持されている。また、ハブユニット内に配置される自動車用アクチュエータによって、ハブベアリング本体は転舵軸心を中心として回転作動される。これによって、簡単な構造で、ハブユニットに取り付けられた車輪のトー角度を任意に変更することができる。
【0013】
車両の走行条件に応じて、左右の車輪を独立して角度を任意に変更することができるので、車両の運動性能を向上させ、安定走行を実現できる。また、適切な車輪角度を設定することで燃費を改善することもできる。
【0014】
さらに、駆動源を取り付ける際にインローを用いることで取り付け精度を保持することができる。また、駆動源取付部のインロー軸心と駆動源の回転軸心が偏心していることにより、タイミングベルトのような無端伝達部材の張力を適正に調整することができる。
【0015】
本発明において、前記駆動源は、前記回転軸心が前記インロー軸心よりも被駆動側プーリ側の位置で組付け可能で、且つ、前記インロー軸心回りに回転移動可能であってもよい。
【0016】
本発明において、前記回転軸心が、前記直動機構の軸心よりも上方に配置されていてもよい。
【0017】
本発明において、自動車用アクチュエータは、自動車の車輪を回転支持するハブベアリングを含み上下方向に延びる転舵軸心を有するハブベアリング本体を、前記転舵軸心回りに回転させるものであって、前記ハブベアリングの回転軸心、前記直動機構の軸心および前記回転軸心が平行に配置されていてもよい。
【0018】
本発明において、自動車用アクチュエータは、自動車の車輪を回転支持するハブベアリングを含み上下方向に延びる転舵軸心を有するハブベアリング本体を、前記転舵軸心回りに回転させるものであって、前記ハブベアリング本体は、前記転舵軸心を有する転舵軸部を備え、前記転舵軸部を支持する上下の軸受がタイヤホイール内に位置していてもよい。
【0019】
本発明の操舵機能付きのハブユニットは、本発明の自動車用アクチュエータと、前記ハブベアリング本体とを備えている。
【0020】
本発明の操舵システムは、本発明のハブユニットと、前記操舵用アクチュエータを制御する制御装置を備え、
前記制御装置は、上位制御部の指令信号を受けてモータ電流指令信号を出力する制御部と、前記モータ電流指令信号に応じた電流を出力して前記操舵用アクチュエータを駆動する電源部とを備えている。
【0021】
本発明の車両は、本発明のハブユニットまたは本発明の操舵システムが、左右の前輪および/または左右の後輪に装備されている。
【発明の効果】
【0022】
本発明の自動車用アクチュエータ、ハブユニット、操舵システムおよび車両によれば、駆動源を取り付ける際にインローを用いることで取り付け精度を保持することができる。また、駆動源取付部のインロー軸心と駆動源の回転軸心が偏心していることにより、タイミングベルトのような無端伝達部材の張力を適正に調整することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の第1の実施形態に係る自動車用アクチュエータの一種である操舵用アクチュエータを備えた操舵機能付のハブユニットの外観を示す斜視図である。
【
図2】同ハブユニットおよびその周辺の構成を示す水平断面図である。
【
図3】同ハブユニットの操舵用アクチュエータを示す縦断面図である。
【
図7A】同ハブユニットの操舵用アクチュエータの内部構造を詳細に示す拡大断面図である。
【
図8A】同操舵用アクチュエータのモータの側面図である。
【
図8B】同操舵用アクチュエータのモータの正面図である。
【
図9A】同操舵用アクチュエータのアクチュエータケースを示す断面図である。
【
図10A】タイミングベルトが緩んだ状態の同ハブユニットのモータの取付部のインロー軸心とモータの回転軸心の配置を示す図である。
【
図10B】タイミングベルトが張った状態の同ハブユニットのモータの取付部のインロー軸心とモータの回転軸心の配置を示す図である。
【
図11】同ハブユニットを備えた車両の模式平面図である。
【
図12】同ハブユニットを備えた車両の他の例の模式平面図である。
【
図13】同ハブユニットを備えた車両のその他の例の模式平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
[第1の実施形態]
本発明の第1の実施形態に係る自動車用アクチュエータを備えた操舵機能付のハブユニット1を
図1ないし
図10Aおよび
図10Bと共に説明する。以下の説明において、ハブユニット1を車両に搭載した状態で、車両の前進・後退の方向を「前後方向」といい、車両の車幅方向(左右方向)を側方という。また、ハブユニット1を車両に搭載した状態で、車両の車幅方向外側をアウトボード側OSといい、車両の車幅方向中央側をインボード側ISという。また、操舵機能付のハブユニット1を単にハブユニット1という。
【0025】
図1に示すように、本実施形態のハブユニット1は、ハブユニット本体2と、ユニット支持部材3と、自動車用アクチュエータの一種である操舵用アクチュエータ5とを備えている。
図11に示すように、本実施形態では、ハブユニット1は、トーションビーム式の懸架装置12Rで支持される左右の後輪9R,9Rを各輪独立して操舵する機能を有し、前輪操舵付きの車両10の後輪9R,9Rに適用されている。懸架装置は、トーションビーム式のサスペンションに限定されず、例えば、マルチリンク式サスペンションのような他のサスペンションであってもよい。
【0026】
本実施形態のハブユニット1は、ハンドル11aの操作等による左右の前輪9F,9Fの操舵と共に、左右の後輪9R,9Rを微小な角度(約±5deg)だけ独立して操舵可能である。ただし、ハブユニット1の操舵角度は、微小な角度に限定されず、車両制御の要求によっては、例えば10°~20°のような比較的大きな角度を左右輪個別に採ることもある。
【0027】
懸架装置12Rの左右両側部に、
図1に示すユニット支持部材3が取り付けられている。
図2に示すように、ユニット支持部材3は、例えば、平板状の部材から成る。ユニット支持部材3のインボード側ISに操舵用アクチュエータ5が設けられ、ユニット支持部材3のアウトボード側OSにハブユニット本体2が設けられている。
【0028】
ハブユニット本体2と操舵用アクチュエータ5とはジョイント部8により連結されている。通常、ジョイント部8には、防水、防塵のためにブーツ8aが取り付けられている。
図6に示すように、ハブユニット本体2は、車輪の回転軸心Oに直交し且つ上下方向に延びる転舵軸心A回りに回転自在なように、上下2箇所で支持軸受4,4を介してユニット支持部材3に支持されている。
図2に示すように、車輪9は、ホイール9aとタイヤ9bとを有する。
【0029】
<ハブユニット本体2について>
ハブユニット本体2は、車輪9を回転支持するハブベアリング15と、
図6に示す上下の転舵軸部16,16と、
図2に示す操舵力受け部であるアーム部17とを有している。ハブベアリング15は、内輪18と、外輪19と、これら内外輪18,19間に介在された転動体20とを有しており、車体側の部材と車輪9とを連結して車輪9を滑らかに回転させる。転動体20は、例えば、ボールである。
【0030】
本実施形態のハブベアリング15は、外輪19が固定輪、内輪18が回転輪であり、転動体20が複列のアンギュラ玉軸受である。内輪18は、アウトボード側の軌道面を構成するハブ輪部18aと、インボード側の軌道面を構成する内輪部18bとを有している。ハブ輪部18aは、ハブフランジ18aaを有しており、このハブフランジ18aaに車輪9のホイール9aがブレーキロータ21aと重なり状態でボルト固定されている。内輪18は、車輪9の回転軸心O回りに回転する。つまり、ハブベアリング15の回転軸心は、車輪9の回転軸心Oに一致する。
【0031】
図6に示す上下の転舵軸部16,16は、外輪19の外周面から上下方向に突出して設けられたトラニオン軸である。本実施形態では、上下の転舵軸部16,16は、外輪19に一体に形成されている。ここで、「一体に形成されている」とは、各転舵軸部16と外輪19が、複数の要素を結合したものではなく単一の材料から例えば鍛造、機械加工等により単一の部材により成形されていることをいう。なお、外輪19の外周面に円環部が嵌合され、この円環部の外周面から上下に突出するトラニオン軸状の転舵軸部16,16であってもよい。
【0032】
図2に示すように、ブレーキ21は、ブレーキロータ21aと、ブレーキキャリパ(図示せず)とを有する。ブレーキキャリパは、上下2箇所のブレーキキャリパ取付部22(
図4)に取り付けられる。上下2箇所のブレーキキャリパ取付部22は、外輪19の外周面におけるインボード側端部からアーム状に突出している。よってハブベアリング15とブレーキキャリパ取付部22は、一体に操舵される。
【0033】
<支持軸受等>
図6に示すように、各支持軸受4は転がり軸受であり、本実施形態では、円すいころ軸受である。転がり軸受は、転舵軸部16の外周に嵌合された内輪4aと、保持部材Bhに嵌合された外輪4bと、内外輪4a,4b間に介在する複数の転動体4cとを有する。
【0034】
上下の転舵軸部16,16はそれぞれ、上下一対の支持軸受4,4を介してユニット支持部材3に支持されている。上下一対の支持軸受4,4は、ユニット支持部材3に設けられた上下の保持部材Bh,Bhの軸受嵌合凹部13,13にそれぞれ嵌合している。各保持部材Bhは、外輪4bの外周面が嵌合される略円筒形状の保持部材本体部Bbを有する。
【0035】
図1に示すように、上下の保持部材Bh,Bhに、上下の保持部材本体部Bb,Bbを連結する一対のビームBm,Bmが設けられている。各ビームBmは、上下方向に延び、
図5に示す長手方向上端部が上側の保持部材本体部Bbのねじ部にボルト33で締結され、
図1に示す長手方向下端部が下側の保持部材本体部Bbのねじ部にボルト33で締結されている。これにより転舵軸部16(
図6)の剛性を高めることができる。各支持軸受4は車輪9のホイール9a(
図2)内に位置する。本実施形態では、各支持軸受4が、ホイール9a(
図2)内でこのホイール9a(
図2)内の幅方向中間付近に配置されている。
【0036】
図6に示すように、各転舵軸部16に、転舵軸心Aに沿って延びる雌ねじ部が形成され、この雌ねじ部にボルト23が螺合している。ボルト23は、例えば、フランジ付きのボルト23である。内輪4aの端面にフランジを当接させた状態で雌ねじ部にボルト23が螺合されることで、内輪4aの端面に押圧力を付与している。これにより、各支持軸受4に予圧が与えられ、各支持軸受4の剛性を高めることができる。車両の重量がハブユニット1に作用した場合でも、初期予圧が抜けないように設定されている。
【0037】
支持軸受4は、円すいころ軸受に限定されず、最大負荷等の使用条件によってはアンギュラ玉軸受、球面滑り軸受等の他の形式の軸受を用いることもできる。その場合も、上述のように予圧を与えることができる。なお、フランジ無しのボルトの頭部と内輪4aの端面との間に円板状の押圧部材(図示せず)を介在させた状態で、雌ねじ部にボルトを螺合して内輪4aの端面に押圧力を付与することで、各支持軸受4に予圧を与えてもよい。
【0038】
<操舵用アクチュエータ5>
操舵用アクチュエータ5は、ハブユニット本体2を転舵軸心A回りに回転駆動させる。
図3に示すように、操舵用アクチュエータ5は、駆動源であるモータ26と、モータ26の回転を減速する減速機27と、この減速機27の正逆の回転運動を往復直線動作に変換する直動機構25とを有している。直動機構25は、減速機27の正逆の回転出力を出力ロッド25aの往復直線動作に変換する。出力ロッド25aは、直動機構25の出力部である。モータ26は、例えば、永久磁石型同期モータであるが、直流モータであっても、誘導モータであってもよい。モータの26の取付構造については後述する。
【0039】
<減速機27>
本実施形態では、減速機27は、ベルト伝達機構のような巻き掛け式伝達機構を有している。詳細には、本実施形態の減速機27は、平行軸式の減速機であって、駆動側のドライブプーリ27aと、被駆動側のドリブンプーリ27bと、これらプーリ27a,27bに掛け渡されたタイミングベルト27cとを有している。モータ26のモータ軸にドライブプーリ27aが結合され、直動機構25のナット部(後述する)25cにドリブンプーリ27bが設けられている。
【0040】
本実施形態の減速機27は、後述する回転支持部材28よりも車両の車幅方向外側に配置されている。モータ26の駆動力は、ドライブプーリ27aからタイミングベルト27cを介してドリブンプーリ27bに伝達される。つまり、タイミングベルト27cは、モータ26の回転力を直動機構25に伝達する無端伝達部材の一種である。これらドライブプーリ27a,ドリブンプーリ27bとタイミングベルト27cにより、巻き掛け式の減速機27が構成されている。
【0041】
<直動機構25>
図7Aは、操舵用アクチュエータ5の内部構造を示す断面図で、
図7Bは
図7AのVIIB部の部分拡大図である。直動機構25は、例えば、滑りねじ等の送りねじ機構であり、本実施形態では、台形ねじ38a(
図7B)の滑りねじ式の送りねじ機構38である。本実施形態の直動機構25は、送りねじ機構38と、回転支持部材28と、回転固定部材43と、予圧付与手段45と、これらの構成部品を覆う収納するアクチュエータケース46とを備えている。アクチュエータケース46は、回転支持部材28が設置される第1のケース46aと、ユニット支持部材3を介してジョイント部8に当接する第2のケース46bとを有し、これら第1および第2のケース46a,46bが連結部材55により連結されている。
【0042】
送りねじ機構38は、ドリブンプーリ27bが締結されたナット部25cと、このナット部25cの内周に螺合されたねじ軸である出力ロッド25aと、すべり軸受47とを有している。ナット部25cは、回転支持部材28によりアクチュエータケース46に回転自在に設けられている。滑りねじ内部には、潤滑剤であるグリースが封入されている。ナット部25cおよび出力ロッド25aは、台形ねじ38a(
図7B)を構成するねじ溝およびねじ山を有するので、タイヤ9b(
図2)からの逆入力の防止効果が向上する。
【0043】
ナット部25cの軸方向一端に、出力ロッド25aのアウトボード側端部を摺動可能に支持するすべり軸受47が設けられている。すべり軸受47は、出力ロッド25aの軸方向の移動を案内する。また、すべり軸受47は、タイヤ側からの外力が出力ロッド25aに入力された場合に、滑りねじにラジアル方向およびモーメント方向の力が負荷されることを防止する。
【0044】
ナット部25cの外周に、アウトボード側からインボード側に向かって、小径部、大径部、中径部および雄ねじ部が形成されている。小径部に段差部を介して大径部が連なり、大径部のインボート側に段差部を介して中径部が連なっている。
【0045】
ナット部25cの大径部にドリブンプーリ27bが嵌合固定され、ナット部25cの中径部に後述の回転支持部材28が嵌合固定されている。回転支持部材28は、ナット部25cを回転支持する。ナット部25cは、回転支持部材28によって操舵用アクチュエータ5の推力の反力を受けつつ、アクチュエータケース46に対して回転支持される。回転支持部材28は、ドリブンプーリ27bに対し所定間隔を隔てて隣り合う。
【0046】
また、回転支持部材28は、ドリブンプーリ27bを含む減速機27に対し、インボード側に配置されている。換言すれば、減速機27は、回転支持部材28よりも車両の車幅方向外側に配置されている。なお、ナット部25cの大径部に、キー(図示せず)を介してドリブンプーリ27bの内周面が固定されてもよい。
【0047】
本実施形態では、回転支持部材28は、背面合わせで組み合わされた一対の円すいころ軸受28a,28aである。ナット部25cの雄ねじ部に、ナット49が螺合されている。各円すいころ軸受28aは、固定輪である外輪と、回転輪である内輪と、内外輪間に介在する複数の転動体とを有している。
【0048】
各円すいころ軸受28aの軸受空間に、グリースのような潤滑剤が封入されている。これにより、内部の摩耗が抑制され、円滑な回転を維持できる。ナット部25cの中径部に円すいころ軸受28aの内輪が嵌合固定されている。ナット部25cの中径部における内輪間に間座50が配置されている。円すいころ軸受28aの外輪は、アクチュエータケース46に嵌合固定されている。
【0049】
予圧付与手段45は、内輪間に配置される間座50と、雄ねじ部に螺合されるナット49とを備え、回転支持部材28に予圧を付与する。間座50の厚み、つまり軸方向寸法を調整することで適正な予圧が掛けられる。アウトボード側の内輪におけるアウトボード側端面がナット部25cの段差部に当接されている。一方、インボード側の内輪におけるインボード側端面がナット49に当接されている。この状態でナット49が雄ねじ部に締め付けられることで、回転支持部材28に予圧が付与される。
【0050】
回転固定部材43は、出力ロッド25aをユニット支持部材3に対して回り止めする軸状部材である。この回転固定部材43は、出力ロッド25aのインボード側端部において、出力ロッド25aの軸方向に直交する方向に延びるように、出力ロッド25aに貫通状に嵌合固定されている。回転固定部材43の外周における軸方向両端部に、例えば、すべり軸受(図示せず)が嵌合されている。
【0051】
アクチュエータケース46内に、すべり軸受の外周面を、出力ロッド25aの軸方向に沿って案内する案内溝が形成されている。つまり、回転固定部材43は、すべり軸受を介して、直動機構25の固定部分であるアクチュエータケース46の案内溝に摺動自在に接触する。これにより、回転固定部材43がすべり軸受を介してアクチュエータケース46の案内溝に沿って摺動することで、出力ロッド25aが軸方向に往復運動する。
【0052】
<シール部材について>
ハブユニット1は、第1から第3のシール部材51,52,53を有している。第1のシール部材51は、アウトボード側の円すいころ軸受28aと、減速機27との間を封止する。第1のシール部材51は、回転支持部材28と減速機27との間の空間に配置されている。具体的には、第1のシール部材51は、リップ51aを有する接触式のシールである。さらに、アクチュエータケース46の第1のケース46aにおける外輪嵌合面46aaに第1のシール部材51の基端部が嵌合固定され、ナット部25cの大径部にリップ51aが接触するように配置されている。
【0053】
第2のシール部材52は、ナット部25cの外周のうち減速機27よりも車幅方向外側(アウトボード側)に設けられている。第2のシール部材52は、リップ52aを有する接触式のシールである。アクチュエータケース46の第2のケース46bの内周面46baにおけるナット部25cの小径部の半径方向外側の部分に、第2のシール部材52の基端部が嵌合固定され、ナット部25cの小径部にリップ52aが接触するように配置されている。
【0054】
第3のシール部材53は、出力ロッド25aのアウトボード側端部とナット部25cとの間に設けられている。第3のシール部材53は、リップ53aを有する接触式のシールである。ナット部25cのアウトボード側端の内周面に、第3のシール部材53の基端部が嵌合固定され、出力ロッド25aのアウトボード側端部における外周面にリップ53aが接触するように配置されている。
【0055】
モータ26(
図3)、減速機27および直動機構25を備えた操舵用アクチュエータ5は、準組立品として組み立てられユニット支持部材3にボルトのような締結部材により着脱自在に取り付けられる。ユニット支持部材3に、直動機構25を所定位置に支持する嵌合孔、および、出力ロッド25aの進退を許す貫通孔ha等が形成されている。なお、本実施形態の直動機構25は、台形ねじ38aの滑りねじを用いた送りねじ機構38であったが、ボールねじ(図示せず)を用いた直動機構であってもよい。
【0056】
<操舵システムについて>
図1に示すように、操舵システムSYは、ハブユニット1と、このハブユニット1の操舵用アクチュエータ5を制御する制御装置29とを備えている。制御装置29は、操舵制御部30と、電源部31とを有する。操舵制御部30は、上位制御部32から与えられた補助操舵角指令信号(操舵角指令信号)に応じた電流指令信号を電源部31に出力する。
【0057】
操舵制御部30および電源部31は、開示された機能を実行するよう構成またはプログラムされた汎用プロセッサ、専用プロセッサ、集積回路、ASIC(Application Specific Integrated Circuits)、従来の回路、および/または、それらの組み合わせを含む回路または処理回路である。プロセッサは、トラジスタやその他の回路を含むため、処理回路または回路とみなされる。つまり、操舵制御部30および電源部31は、列挙された機能を実行するハードウェアであるか、または、列挙された機能を実行するようにプログラムされたハードウェアである。ハードウェアがプロセッサである場合、操舵制御部30および電源部31はハードウェアとソフトウェアの組み合わせであり、ソフトウェアはハードウェアおよび/またはプロセッサの構成に使用される。
【0058】
上位制御部32は、操舵制御部30の上位の制御手段であり、例えば、車両全般を制御する電気制御ユニット(Vehicle Control Unit,略称VCU)である。
【0059】
電源部31は、操舵制御部30から入力された電流指令信号に応じた電流を出力して操舵用アクチュエータ5を駆動制御する。電源部31は、モータ26のコイルに供給する電力を制御する。この電源部31は、例えば、スイッチ素子(図示せず)を用いたハーフブリッジ回路を構成し、スイッチ素子のON-OFFデューティ比によりモータ印加電圧を決定するPWM制御を行う。これにより、運転者のハンドル操作による操舵に付加して、車輪を微小に角度変化することができる。直線走行時にも、それぞれの場面に合わせてトー角の量を調整できる。
【0060】
操舵システムSYは、運転者のハンドル操作に代えて、自動運転装置、運転支援装置の指令等によって操舵用アクチュエータ5,5を動作させてもよい。
【0061】
<モータ26の取付構造について>
図3に示すように、モータ26の取付部60はインロー構造62を有している。インロー構造62は、インロー凹部62aと、インロー凸部62bとを有している。インロー凸部62bはモータ26の端面に設けられている。詳細には、インロー凸部62bは、モータ26のアウトボード側端面からアウトボード側に突出している。
【0062】
インロー凹部62aは、アクチュエータケース46の第1のケース46aの一部が軸方向(
図3の右側)に凹入することで形成されている。詳細には、第1のケース46aに、モータ26の軸方向端部が挿入されるモータ開口46aaが形成されており、モータ開口46aaの一部が縮径するとともに、軸方向(
図3の右側)に凹入することでインロー凹部62aが形成されている。
【0063】
本実施形態では、
図9Aおよび
図9Bに示すように、第1のケース46aの上部が軸方向に凹入することでインロー凹部62aが形成されている。つまり、一部(
図9Bの下部)が切り欠かれた部分円筒形状である。本実施形態では、インロー凹部62aの周壁は、徐々に縮径する傾斜面であるが、段差部を介して小さくなる円筒面であってもよい。
【0064】
図3に示すインロー凹部62aの内径面にインロー凸部62bが嵌め込まれることで、モータ26が、アクチュエータケース46に対して位置決めされる。このとき、インロー凸部62bの外周面がインロー凹部62aの周壁にガイドされる。インロー凹部62aは、インロー凸部62bが嵌め込まれることでモータ26をアクチュエータケース46に対して位置決めできるものであればよく、インロー凹部62aの形状は図示の例に限定されない。
【0065】
モータ26の取付部60のインロー軸心AX2とモータ26の回転軸心AX1は偏心された位置に配置されている。本実施形態では、インロー軸心AX2が回転軸心AX1よりも上方に配置されている。
【0066】
本実施形態では、モータ26の回転軸心AX1、モータ26の取付部60のインロー軸心AX2および直動機構25の軸心AX3は平行に配置されており、回転軸心AX1が直動機構25の軸心AX3よりも上方に配置されている。つまり、上方からインロー軸心AX2、モータ26の回転軸心AX1、直動機構25の軸心AX3の順に並んでいる。
【0067】
図8Aおよび
図8Bに示すように、本実施形態では、インロー軸心AX2とモータ26の回転軸心AX1は、上下方向に偏心されており、左右方向には偏心されていない。ただし、偏心の方向はこれに限定されず、インロー軸心AX2と回転軸心AX1は左右方向にのみ偏心されていてもよく、上下方向と左右方向の両方に偏心されていてもよい。
【0068】
図10Aは、タイミングベルト27cが緩んだ状態のインロー軸心AX2とモータ26の回転軸心AX1の配置を示す図である。
図10Bは、タイミングベルト27cが張った状態のインロー軸心AX2とモータ26の回転軸心AX1の配置を示す図である。換言すれば、
図10Aは、モータ26がアクチュエータケース46(
図3)に取り付けられ、タイミングベルト27cの張力が調整されていない状態を示す。
図10Bは、モータ26がアクチュエータケース46(
図3)に取り付けられ、タイミングベルト27cの張力が調整された状態を示す。
【0069】
図10Aに示すように、モータの回転軸心AX1がインロー軸心AX2よりも被駆動側のドリブンプーリ27b側に位置するようにモータ26が取り付けられる。このようにタイミングベルト27cが緩んだ状態で組み立てられることで、容易にモータ26を組み込むことができる。
【0070】
モータ26は、
図10Aの状態から、インロー軸心AX2を中心に矢印AR1方向(反時計回り)に回転させて、
図10Bの状態となる。つまり、タイミングベルト27cが緩んだ状態から張った状態に移動し、タイミングベルト27cの張力が適正に調整される。
【0071】
モータ26を取り付ける際にインロー構造62を用いることで、取付精度を保持することができる。また、インローが入った状態でモータ取付部60を回転させると、インロー軸心AX2とモータ26の回転軸心AX1の偏心の位置により、タイミングベルト27cの張力を適正に調整することができる。つまり、偏心の距離を適正に設定することで、タイミングベルト27cの張力を適正に調整できる。
【0072】
<作用効果>
上記構成によれば、車輪9を支持するハブベアリング15を含むハブユニット本体2が、操舵用アクチュエータ5の駆動により、転舵軸心A回りに自由に回転できる。操舵用アクチュエータ5の出力ロッド25aをモータ26の駆動により進退させることで、ハブユニット本体2は、出力ロッド25aに連結されたアーム部17を介して回転する。
【0073】
このように、操舵用アクチュエータ5によりハブベアリング15が転舵軸心A回りに一定の範囲で自由に回転することで、車両の走行状況に応じて、例えば、車輪9のトー角を任意に変更することができる。
【0074】
図12は、本実施形態のハブユニット1を前輪に適用した例を示す。ステアリング装置11により運転者のハンドル11aの操作で、
図2に示す車輪9はナックル6(
図12)およびユニット支持部材3と共に操舵される。本実施形態のハブユニット1を前輪に適用した場合、この操舵に付加する形で転舵軸心A回りに僅かな角度の補助操舵を車輪毎に独立して行える。補助操舵の角度については、車両の運動性能の向上、走行の安定性等の向上を図るにつき、僅かな角度で足り、補助操舵可能角度が±5度以下であっても十分に足りる。補助操舵の角度は操舵用アクチュエータ5の制御により行う。
【0075】
また、旋回走行時に、走行速度に応じて左右輪の舵角差を変えることができる。例えば、高速域の旋回走行においてはパラレルジオメトリとし、低速域の旋回走行においてはアッカーマンジオメトリとする等、走行中にステアリングジオメトリを変化させることができる。このように走行中に車輪角度を任意に変更することができるので、車両の運動性能を向上させ、安定して走行することが可能となる。さらに、左右輪の操舵角度を適切に変えることで、旋回走行における車両の旋回半径を小さくし、小回り性能を向上させることもできる。さらに、直線走行時にも、ケース毎にトー角を調整することで、低速時には燃費を悪化させることなく、高速時には走行安定性を確保するような調整が可能である。
【0076】
図11は、本実施形態のハブユニット1を後輪に適用した例を示す。この場合、ハブユニット全体は操舵しないが、操舵機能により、前輪と同様に僅かな角度の操舵を車輪毎に独立して行える。後輪の舵角を前輪と同じ位相にすると、操舵時に発生するヨーを抑え、車両の安定性を高めることができる。さらに直線走行時にも左右独立でトー角を調整することで、燃費の向上および走行安定性を確保することができる。
【0077】
回転支持部材28は、背面合わせの一対の円すいころ軸受28a,28aであるから、正面合わせの場合よりも作用点間の距離が拡がり、アキシアル荷重に対する剛性に加えて、モーメント荷重に対する剛性を向上させることができる。例えば、操舵角度が増大すると、ハブユニット本体2から直動機構25に加わる荷重が、直動機構25の直進方向に対して斜めにずれる。このため、モーメント荷重に対する剛性が高いと、路面から外力が作用した際の操舵角度を正確に保つうえで有利である。回転支持部材28は、一対のアンギュラ玉軸受を背面合わせとしてもよい。
【0078】
上述のように車両の挙動を制御するためには、アクチュエータ5内部の減速機27にあるタイミングベルトを27cの張力を適正に調整することで、正確にモータ26と直動機構25の位置を制御する必要がある。また、モータ26を取り付けにインロー構造62を用いることで取り付け精度を保持することができるが、タイミングベルトを27cの張力を張りながらモータ26のインロー凸部62bをインロー凹部62aに装着することは困難である。
【0079】
本実施形態では、インロー軸心AX2とモータ26の回転軸心AX1を偏心させることで、タイミングベルトを27cが緩んだ状態で、インロー構造62を用いてモータ26を取り付けることができる。具体的には、モータ26の回転軸心AX1が、タイミングベルト27cを張る方向と反対側である被駆動側のドリブンプーリ27b側となるようにモータ26が装着されることで、タイミングベルト27cと干渉することなくモータ26を取り付けることができる。
【0080】
インローが入った状態でモータ取付部60を回転させると、インロー軸心とAX2モータ26の回転軸心AX1の偏心の位置、すなわち両者の距離の調整により、タイミングベルト27cの張力を適正に調整することができる。これにより、張力を調整するテンショナが不用となる。
【0081】
このように、モータ26を取り付けにインロー構造62を用いることで取付精度を保持することができるうえに、インロー軸心AX2と回転軸心AX1が偏心していることにより、テンショナなしでタイミングベルト27cの張力を適正に調整することができる。
【0082】
図12に示すように、前輪操舵の車両において、本実施形態の操舵機能付のハブユニット1は、操舵輪である左右の前輪9Fに装備されてもよい。この場合、ユニット支持部材3(
図1)が、懸架装置12のナックル(足回りフレーム部品)6に一体または別体に設けられる。ハブユニット1の転舵軸心Aは、主な操舵を行うキングピン軸とは異なっている。通常の車両は、車両走行の直進安定性の向上を目的としてキングピン角度が10~20度で設定されているが、この実施形態のハブユニット1は、前記キングピン角度とは別の角度(軸)の転舵軸を有する。
【0083】
また、
図13に示すように、本実施形態の操舵機能付のハブユニット1を、操舵輪である左右の前輪9F,9Fおよび非操舵輪である左右の後輪9R,9Rの両方に装備されてもよい。
【0084】
本発明は、以上の実施形態に限定されるものでなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で、種々の追加、変更または削除が可能である。したがって、そのようなものも本発明の範囲内に含まれる。
【符号の説明】
【0085】
1 ハブベアリング
2 ハブベアリング本体
5 操舵用アクチュエータ(自動車用アクチュエータ)
4 支持軸受
9 車輪
9a タイヤホイール
9F 前輪
9R 後輪
15 ハブユニット
16 転舵軸部
25 直動機構
26 モータ(駆動源)
27a ドライブプーリ(駆動側プーリ)
27b ドリブンプーリ(被駆動側プーリ)
27c 無端伝達部材(タイミングベルト)
29 制御装置
30 操舵制御部(制御部)
31 電源部
32 上位制御部
60 駆動源の取付部
A 転舵軸心
AX1 駆動源の回転軸心
AX2 インロー軸心
AX3 直動機構の軸心
O 車輪の回転軸心(ハブベアリングの回転軸心)
SY 操舵システム