(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024116874
(43)【公開日】2024-08-28
(54)【発明の名称】農作物の保存方法及び農作物保存材
(51)【国際特許分類】
A01N 59/08 20060101AFI20240821BHJP
A01N 25/00 20060101ALI20240821BHJP
A01P 3/00 20060101ALI20240821BHJP
A01N 25/26 20060101ALI20240821BHJP
【FI】
A01N59/08 A
A01N25/00 102
A01P3/00
A01N25/26
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023022707
(22)【出願日】2023-02-16
(71)【出願人】
【識別番号】506310050
【氏名又は名称】株式会社アクト
(74)【代理人】
【識別番号】100092565
【弁理士】
【氏名又は名称】樺澤 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100112449
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 哲也
(72)【発明者】
【氏名】内海 洋
【テーマコード(参考)】
4H011
【Fターム(参考)】
4H011AA01
4H011BB18
4H011DA04
4H011DA13
4H011DC05
4H011DC10
(57)【要約】
【課題】農作物の長期保存が可能な農作物の保存方法及び農作物保存材を提供する。
【解決手段】除菌した物体3を材料とする農作物保存材1を用いて農作物を保存する。未処理の物体3に付着している菌や水分等による農作物への影響を低減し、農作物の長期保存が可能になる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
除菌した粉状又は粒状の物体を材料とする農作物保存材を用いて農作物を保存する
ことを特徴とする農作物の保存方法。
【請求項2】
物体は、消毒剤により除菌した後、乾燥したものである
ことを特徴とする請求項1記載の農作物の保存方法。
【請求項3】
物体は、加熱することにより除菌したものである
ことを特徴とする請求項1記載の農作物の保存方法。
【請求項4】
加熱はマイクロ波加熱である
ことを特徴とする請求項3記載の農作物の保存方法。
【請求項5】
物体は、コーティングされている
ことを特徴とする請求項1記載の農作物の保存方法。
【請求項6】
コーティングを樹脂材料とする
ことを特徴とする請求項5記載の農作物の保存方法。
【請求項7】
物体は、有機物である
ことを特徴とする請求項1記載の農作物の保存方法。
【請求項8】
物体は、おが粉である
ことを特徴とする請求項1記載の農作物の保存方法。
【請求項9】
請求項1ないし8のいずれか一記載の農作物の保存方法に用いる
ことを特徴とする農作物保存材。
【請求項10】
除菌された粉状又は粒状の物体と、
この物体を覆うコーティングと、
を備えることを特徴とする請求項9記載の農作物保存材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、農作物の保存方法及び農作物保存材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、農作物の保存方法として、洗浄した農作物を水浸し、電磁波を放射することで水分子を励起発熱させることにより酵素を失活させた後、低温保管する方法が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述の方法の場合、電磁波を放射するための装置や設備が必要であるとともに、低温保管も必要であり、簡便な保存方法とは言えない。
【0005】
他方、ゆり根や長芋等の農作物をおが粉中に埋め込んで保存する保存方法が一般的に用いられる。この保存方法の場合、手軽に実施可能であるものの、長期にはおが粉に含まれる水分や雑菌等が農作物に影響を与え得るため、農作物を海外流通させる際等、特に長期保存が必要になる場合のロス率が大きい。
【0006】
本発明は、このような点に鑑みなされたもので、農作物の長期保存が可能な農作物の保存方法及び農作物保存材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1記載の農作物の保存方法は、除菌した粉状又は粒状の物体を材料とする農作物保存材を用いて農作物を保存するものである。
【0008】
請求項2記載の農作物の保存方法は、請求項1記載の農作物の保存方法において、物体は、消毒剤により除菌した後、乾燥したものである。
【0009】
請求項3記載の農作物の保存方法は、請求項1記載の農作物の保存方法において、物体は、加熱することにより除菌したものである。
【0010】
請求項4記載の農作物の保存方法は、請求項3記載の農作物の保存方法において、加熱はマイクロ波加熱である加熱はマイクロ波加熱であるものである。
【0011】
請求項5記載の農作物の保存方法は、請求項1記載の農作物の保存方法において、物体は、コーティングされているものである。
【0012】
請求項6記載の農作物の保存方法は、請求項5記載の農作物の保存方法において、コーティングを樹脂材料とするものである。
【0013】
請求項7記載の農作物の保存方法は、請求項1記載の農作物の保存方法において、物体は、有機物であるものである。
【0014】
請求項8記載の農作物の保存方法は、請求項1記載の農作物の保存方法において、物体は、おが粉であるものである。
【0015】
請求項9記載の農作物保存材は、請求項1ないし8のいずれか一記載の農作物の保存方法に用いることを特徴とするものである。
【0016】
請求項10記載の農作物保存材は、請求項9記載の農作物保存材において、除菌された粉状又は粒状の物体と、この物体を覆うコーティングと、を備えるものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、農作物の長期保存が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】一実施の形態に係る農作物保存材を拡大して模式的に示す断面図である。
【
図2】同上農作物保存材を用いた農作物の保存方法を模式的に示す説明図であり、(a)は農作物である長芋の保存方法の例を示し、(b)は農作物であるゆり根の保存方法の例を示す。
【
図3】同上農作物の保存方法における消毒剤の浸漬時間とコロニー残渣及び除菌率との関係の一例を示す表である。
【
図4】同上農作物の保存方法におけるマイクロ波加熱時間とコロニー残渣及び除菌率との関係の一例を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の一実施の形態について、図面を参照して説明する。
【0020】
図1、
図2(a)及び
図2(b)中の1は農作物保存材で、この農作物保存材1は、農作物2を保存するためのものである。農作物2としては、例えば長芋(
図2(a)に例を示す)、ゆり根(
図2(b)に例を示す)等の根菜類が主体である。
【0021】
農作物保存材1は、粉状又は粒状の物体3を材料とする。物体3は、例えば緩衝材として用いられるものが好ましい。物体3は、合成樹脂でもよいし、有機物でもよい。物体3として合成樹脂を用いる場合には、例えばペレット、球体状のもの等が用いられる。好ましくは、物体3は、木製チップ、あるいは、おが粉等の木製物が用いられる。本実施の形態では、農作物保存材1は、物体3の個々の粒子の表面がコーティング4によりコーティングされて構成されている。
図1は、例えば物体3としておが粉を用いた例を示す。
【0022】
物体3は、除菌されている。なお、本実施の形態において、除菌とは、例えば未処理状態に対して除菌率が95%以上であることをいう。
【0023】
物体3の除菌は、例えば消毒剤により実施される。消毒剤としては、例えば酸性電解水、あるいは、水酸化ナトリウム水溶液等の液体、例えば商品名「クリーン・リフレ」の無塩型次亜塩素酸水等を用いてもよいし、消毒ガス等の気体を用いてもよい。消毒剤は、物体3に対し過剰量用いられる。
【0024】
好ましくは、物体3は乾燥されている。特に、物体3が有機物である場合には、十分に乾燥されていることが好ましい。物体3の乾燥は、天日干しや熱風乾燥でもよいが、例えば電子レンジを用いたマイクロ波加熱により好適に実施される。消毒剤が液体である場合には、物体3の浸漬時間を所定時間以下とし、十分に乾燥させる、例えば消毒剤が液体である場合、物体3の消毒剤への浸漬時間以上の所定時間以上加熱することにより、良好な除菌率を得ることが可能となる。本実施の形態において、「乾燥」とは、例えば水分量が30%以下、好ましくは5%以下となる状態をいうものとする。
【0025】
図3に、消毒剤による浸漬時間と、コロニー残渣及び除菌率と、の関係の一例を示す。この例では、消毒剤として、酸性電解水である次亜塩素酸水(pH2.74、塩素濃度58ppm、酸化還元電位(ORP)1143)を用い、3gの物体3であるおが粉に対して12mlを使用して、おが粉を消毒剤に浸漬した後、所定時間、例えば3分間、電子レンジ(一例として約600W)を用いたマイクロ波加熱によっておが粉を乾燥させた。その後、乾燥させたおが粉に蒸留水を40ml加え、それを培地に0.5ml採取し、インキュベータで3日保存した後のコロニー発生状況を調べた。この例では、浸漬時間が所定時間、例えば30秒以上であれば短いほど除菌率が高く、3分までの浸漬時間であれば95%以上の除菌率を得ることができた。
【0026】
また、物体3の除菌を、単に加熱することのみで実施してもよい。この加熱の際には、例えば電子レンジを用いたマイクロ波加熱が好適に用いられる。この加熱により、物体3を同時に乾燥する効果も有する。
【0027】
図4に、マイクロ波加熱時間と、コロニー残渣及び除菌率と、の関係の一例を示す。この例では、3gの物体3であるおが粉を用い、電子レンジ(一例として約600W)を用いたマイクロ波加熱によっておが粉を除菌した。その後、おが粉に蒸留水を40ml加え、それを培地に0.5ml採取し、インキュベータで3日保存した後のコロニー発生状況を調べた。この例では、所定時間、例えば電子レンジによる30秒以上のマイクロ波加熱により、99%以上の除菌率を得ることができ、消毒剤を用いる場合よりもさらに良好な除菌率が得られた。
【0028】
そして、
図1に示すコーティング4は、除菌した物体3の表面をコーティングして物体3の吸湿を防止する防湿用のものである。特に、物体3が有機物である場合には、コーティング4が好ましい。コーティング4としては、吸湿性を有しない任意の材料を用いてよいが、例えば樹脂材料が好適に用いられる。この場合、樹脂材料は、物体3の外観、質感や風合いを残すために、透明又は半透明で無色、無臭又は微臭のものを用いることが好ましい。樹脂材料としては、例えば水溶性の木部用塗料を所定濃度に希釈したものが好適に用いられる。コーティング4は、物体3を浸漬させる、あるいは吹き付ける等の工程により実施される。
【0029】
そして、
図2に示すように、農作物2は、箱等の保存容器に詰め、それを埋没させるように保存容器に農作物保存材1を充填することで保存する。すなわち、大量の農作物保存材1によって農作物2を覆うように、農作物2を農作物保存材1に埋め込んで保存する。
【0030】
このように、除菌した物体3を材料とする農作物保存材1を用いて農作物2保存することで、未処理の物体3に付着している雑菌や水分等による農作物2への影響を低減し、農作物2の長期保存が可能になる。そこで、農作物2を海外流通させる際等、数か月に亘り農作物2の保存が必要な場合でも、農作物2のダメージを抑制し、ロス率を抑制できる。
【0031】
また、消毒剤により物体3を除菌した後、乾燥させることで、農作物保存材1を容易に製造可能となる。特に、消毒剤として、液体を用い、物体3を消毒剤に浸漬させることで、物体3がおが粉である場合、多孔質であるおが粉の内部に含まれる空気が排出される際に、内部や表面の汚れ等も同時に排出できる。特に、消毒剤へ浸漬したおが粉を撹拌することで、おが粉の内部や表面の汚れ等をより効果的に排出可能となる。
【0032】
あるいは、加熱することにより物体3を除菌することで、製造工程が少なく、農作物保存材1をより容易に製造可能となる。
【0033】
加熱をマイクロ波加熱とすることで、電子レンジを用いることができ、手軽に加熱が可能になるとともに、十分な除菌及び/又は乾燥の効果を得ることができる。
【0034】
また、除菌した物体3をコーティング4により覆ったものを農作物保存材1として使用することで、物体3の吸湿を長期的に抑制でき、農作物をより長期に亘り保存することが可能となる。
【0035】
コーティング4を樹脂材料とすることで、物体3が木製物である場合には、例えば木部用塗料等を用いることができてコーティング4の入手が容易であり、農作物保存材1を安価に製造できる。
【0036】
そして、除菌した物体3をコーティング4により覆って農作物保存材1を製造するので、特殊な装置や設備を用いることなく農作物保存材1を容易に製造できる。
【0037】
また、物体3として有機物、特におが粉を用いる場合、農作物保存材1は中核となるおが粉の外観、質感、あるいは風合い等を残し、おが粉と殆ど使用感が変わらないため、例えば抗菌性の合成樹脂粉末等に埋め込んで保存する場合と比較して高級感があり、農作物2の商品価値を高めることができる。
【0038】
なお、一実施の形態において、農作物保存材1のコーティング4は必須ではなく、単に物体3を除菌したものを農作物保存材1として用いてもよい。この場合でも、農作物2の長期保存が可能であり、コーティング4を有する農作物保存材1より手軽で安価に使用できる。
【符号の説明】
【0039】
1 農作物保存材
2 農作物
3 物体
4 コーティング