(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024116886
(43)【公開日】2024-08-28
(54)【発明の名称】電解槽および電解槽の製造方法
(51)【国際特許分類】
C25B 9/00 20210101AFI20240821BHJP
C25B 1/04 20210101ALI20240821BHJP
C25B 1/16 20060101ALI20240821BHJP
C25B 1/23 20210101ALI20240821BHJP
C25B 9/23 20210101ALI20240821BHJP
C25B 11/03 20210101ALI20240821BHJP
C25B 9/60 20210101ALI20240821BHJP
C25B 9/63 20210101ALI20240821BHJP
【FI】
C25B9/00 E
C25B1/04
C25B1/16
C25B1/23
C25B9/23
C25B11/03
C25B9/60
C25B9/63
【審査請求】未請求
【請求項の数】19
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023022731
(22)【出願日】2023-02-16
(71)【出願人】
【識別番号】000108993
【氏名又は名称】株式会社大阪ソーダ
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100197583
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 健
(72)【発明者】
【氏名】肥後橋 弘喜
(72)【発明者】
【氏名】鷺原 祐介
【テーマコード(参考)】
4K011
4K021
【Fターム(参考)】
4K011AA10
4K011AA11
4K011AA22
4K011DA03
4K021AA01
4K021AA03
4K021AB01
4K021BA03
4K021DB31
4K021DB53
4K021DC03
4K021EA03
(57)【要約】 (修正有)
【課題】着脱が容易であり、かつ性能を保持可能な電極を備えた電解槽を提供すること。
【解決手段】本発明の一実施形態では、陽極と、陰極200Aと、前記陽極と前記陰極との間に配置される隔膜と、前記陽極および前記陰極の一方の電極の背面側に設けられた導電性弾性体と、前記導電性弾性体の背面側に設けられた電極基部とを備え、前記電極の一方の側の縁部200AIと前記一方の側の縁部に対向する他方の側の縁部200AIIとに付加部材220が取り付けられ、前記付加部材が前記電極基部に対して係止可能となっている、電解槽が供される。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極と、陰極と、前記陽極と前記陰極との間に配置される隔膜と、前記陽極および前記陰極の一方の電極の背面側に設けられた導電性弾性体と、前記導電性弾性体の背面側に設けられた電極基部とを備え、
前記電極の一方の側の縁部と前記一方の側の縁部に対向する他方の側の縁部とに付加部材が取り付けられ、前記付加部材が前記電極基部に対して係止可能となっている、電解槽。
【請求項2】
前記付加部材が、前記電極基部に対して着脱可能となっている、請求項1に記載の電解槽。
【請求項3】
前記付加部材が、前記電極基部の正面側から背面側まで連続して配置される、請求項1に記載の電解槽。
【請求項4】
前記付加部材が、前記電極基部の縁部を跨ぐように配置される、請求項1に記載の電解槽。
【請求項5】
前記付加部材の一端は前記電極基部の正面側に配置され、前記付加部材の他端は前記電極基部の背面側に配置される、請求項1に記載の電解槽。
【請求項6】
前記電極基部が支持体に支持され、前記電極基部の縁部と前記支持体の支持体フレームとの間にクリアランスが供され、前記付加部材の一部が前記クリアランスを通過する、請求項1に記載の電解槽。
【請求項7】
前記付加部材の一部が前記電極基部の背面側と対向可能となっている、請求項1に記載の電解槽。
【請求項8】
前記付加部材が内側に湾曲した形態を有する、請求項1に記載の電解槽。
【請求項9】
前記付加部材の一部が、前記電極の縁部から外側に延在する、請求項1に記載の電解槽。
【請求項10】
前記電極の一方の縁部および前記他方の縁部の少なくとも一方に、前記付加部材が複数配置されている、請求項1に記載の電解槽。
【請求項11】
前記導電性弾性体上に、前記電極が複数並列に配置される、請求項1に記載の電解槽。
【請求項12】
前記付加部材が、ニッケル、チタン、およびステンレス鋼から成る群から少なくとも1種選択される、請求項1に記載の電解槽。
【請求項13】
前記電極がエキスパンドメッシュ開口電極である、請求項1に記載の電解槽。
【請求項14】
前記電極が陰極である、請求項1に記載の電解槽。
【請求項15】
前記陰極が可撓性を有する、請求項14に記載の電解槽。
【請求項16】
前記電解槽がゼロギャップ式の食塩電解槽である、請求項1に記載の電解槽。
【請求項17】
陽極と、陰極と、前記陽極と前記陰極との間に配置される隔膜とを備える、電解槽の製造方法であって、
電極基部上に導電性弾性体を配置し、前記導電性弾性体上に前記陽極および前記陰極の一方の電極であって、縁部に付加部材が取り付けられた電極を配置し、配置した前記電極の前記付加部材の一部を前記電極基部の背面側へと向かって折り込むことを含む、電解槽の製造方法。
【請求項18】
前記付加部材の一部の折込み前に、前記電極基部の縁部と、前記電極基部が支持される支持体のフレームとの間に形成されるクリアランスを通じて、前記付加部材の一部を差し込む、請求項17に記載の電解槽の製造方法。
【請求項19】
前記電極基部の背面側に対する前記付加部材の一部の折込みを、治具を用いて行う、請求項17に記載の電解槽の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解槽およびその製造方法に関する。特に、陽極、陰極、および隔膜を有して成る電解槽およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、各種工業において電解が利用されている。電解、すなわち電気分解を行うには電解槽が用いられる。電解槽は、少なくとも陽極と陰極とを備えている。例えば塩化ナトリウム水溶液の電気分解が行われる電解槽は、塩素、水素および水酸化ナトリウム(いわゆる苛性ソーダ)を取り出すことができ、化学工業の基盤となる原料の生産に用いられている。また、水素製造に用いられるアルカリ水溶液の電解にも用いられている。
【0003】
電解槽では、陽極で生成した物質と陰極で生成した物質との混合を避けるべく隔膜が更に設けられていることが多い。隔膜としてイオン交換膜を用いて塩化ナトリウム水溶液の電気分解を行うプロセスは、“イオン交換膜法食塩電解”等とも称される。
【0004】
イオン交換膜法食塩電解の分野において、電解槽のタイプは様々なものがあるが、なかでもゼロギャップ式が主流になりつつある。ゼロギャップ式の電解槽では、陽極と隔膜と陰極とを互いに密着させて電極間距離を近づけ、電解液抵抗を減じている。それゆえ、このような電解槽の使用は、電力消費の低減につながる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第7082201号公報
【特許文献2】特許第3686270号公報
【特許文献3】特開2011-117047号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本願発明者は、ゼロギャップ式の電解槽には依然として改善し得る点があることを見出した。ゼロギャップ式の電解槽は、上記の陽極、陰極、および隔膜に加え、陽極および陰極の一方の電極(例えば陰極)の背面側に設けられた導電性弾性体と、導電性弾性体の背面側に設けられた電極基部としての集電板とを更に備える。
【0007】
この点につき、電極の設置態様として、電極の一部を集電板に対して折り込む態様、固定ピンを電極に貫通させる態様、および電極の一部を電極基部に溶接する態様が存在する。しかしながら、これらの態様では、導電性弾性体に不具合が生じた際に、電極の取外しが容易ではなく、かつ取り外した電極の再使用がしにくい。
【0008】
本発明はかかる事情に鑑みて為されたものである。即ち、本発明の目的は、着脱が容易であり、かつ性能を保持可能な電極を備えた電解槽およびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明の一実施形態では、
陽極と、陰極と、前記陽極と前記陰極との間に配置される隔膜と、前記陽極および前記陰極の一方の電極の背面側に設けられた導電性弾性体と、前記導電性弾性体の背面側に設けられた電極基部とを備え、
前記電極の一方の側の縁部と前記一方の側の縁部に対向する他方の側の縁部とに付加部材が取り付けられ、前記付加部材が前記電極基部に対して係止可能となっている、電解槽が供される。
【0010】
上記目的を達成するために、本発明の一実施形態では、
陽極と、陰極と、前記陽極と前記陰極との間に配置される隔膜とを備える、電解槽の製造方法であって、
電極基部上に導電性弾性体を配置し、前記導電性弾性体上に前記陽極および前記陰極の一方の電極であって、縁部に付加部材が取り付けられた電極を配置し、配置した前記電極の前記付加部材の一部を前記電極基部の背面側へと向かって折り込むことを含む、電解槽の製造方法が供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一実施形態にかかる電解槽によれば、その構成要素である電極の着脱が容易であり、かつ性能を保持可能である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一実施形態に係る電解槽を模式的に示す分解斜視図
【
図2A】本発明の一実施形態に係る電解槽を模式的に示す部分拡大断面図
【
図2B】本発明の一実施形態に係る電解槽の導電性弾性体を模式的に示す斜視図
【
図2C】本発明の一実施形態に係る電解槽の電極がエキスパンドメッシュ開口電極である場合の態様の模式図
【
図3】本発明の一実施形態に係る電解槽の固定された電極を模式的に示す平面図
【
図4A】
図3の線分I-I間における固定された電極を模式的に示す断面図
【
図5A】本発明の一実施形態に係る電解槽の電極の固定態様を説明する模式断面図(作業開始前)
【
図6A】本発明の一実施形態に係る電解槽の電極の固定態様を説明する模式断面図(電極の付加部材の差込み時)
【
図7A】本発明の一実施形態に係る電解槽の電極の固定態様を説明する模式断面図(電極の付加部材の折り込み時)
【
図8A】本発明の一実施形態に係る電解槽の電極の固定解除態様を説明する模式断面図(電極の付加部材の取外し時)
【
図9】本発明の別の実施形態に係る電解槽の固定された電極を模式的に示す平面図
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下では、図面を参照して本発明の一実施形態に係る電解槽を具体的に説明する。図面における各種の要素は、本発明の理解のために模式的かつ例示的に示したにすぎず、外観や寸法比などは実物と異なり得る。
【0014】
本明細書において「電解槽」とは、広義には、電気分解を行うための装置のことを指しており、狭義には、陽極、陰極およびそれら電極間に設けられる隔膜を少なくとも備えた装置のことを指している。また、本明細書において「電解槽ユニット」とは、電解槽を構成するためのサブ槽に相当し、隔膜を介して互いに組み合わされることで電解槽を構成できる槽要素のことを指している。
【0015】
本明細書で説明される上下および左右の方向は、電解槽の非使用時(特に、電解槽を構成するユニット同士が組み合わされる前の非運転時)における上下方向および左右方向にそれぞれ対応する。なお、電解槽の運転時では、
図1に示されるように、非使用時とは異なる方向(例えば90度向きをかえた方向)で使用され得る。即ち、電解槽の使用時と、電解槽の非使用時とでは電解槽の構成要素の向きが相違し得る。
【0016】
本明細書で言及する各種の数値範囲は、下限および上限の数値そのものも含むことを意図している。つまり、例えば1~10といった数値範囲を例にとれば、下限値の“1”を含むと共に、上限値の“10”をも含むものとして解釈される。
【0017】
まず、本発明の前提となる電解槽の基本的な構成について説明し、その後、本発明の特徴について説明を行う。なお、電解槽ユニットの説明自体は、電解槽に関する説明に含める形で行う。
【0018】
[電解槽の基本的構成]
以下、本発明の一実施形態に係る電解槽の基本的構成について
図1および
図2Aを参照して説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る電解槽を模式的に示す分解斜視図である。
図2Aは、本発明の一実施形態に係る電解槽を模式的に示す部分拡大断面図である。
図1および
図2Aに示すように、本発明の一実施形態に係る電解槽1000は、陽極200Bと、陰極200Aと、陽極200Bと陰極200Aとの間に配置される隔膜300とを少なくとも備える。
【0019】
陽極200Bおよび陰極200Aは、電解質溶液に外部から電気エネルギーを与えるための電極である。典型的には、陽極200Bは、外部電源の正極に接続される電極であり、電解槽の運転時には酸化反応がもたらされ得る電極である。一方、陰極200Aは、典型的には外部電極の負極に接続される電極であり、電解槽の運転時には還元反応がもたらされ得る電極である。
【0020】
隔膜300は、典型的には陽極室と陰極室とを隔てる部材である。好ましくは、陽極で生成した物質と陰極で生成した物質との混合を避けるべく隔膜300が設けられる。本発明において、隔膜300は電気分解に常套的に用いられるものであってよい。例えば、隔膜300はイオン交換膜である。あくまでも1つの例示にすぎないが、ソーダ工業に用いられる電解槽では、隔膜300として陽イオン交換膜を用いてよい。
【0021】
本発明の一実施形態に係る電解槽1000は、陽極および陰極の一方の電極(特に陰極200A)の背面側に設けられた導電性弾性体400と、導電性弾性体400の背面側に設けられた電極基部280と、電極基部280を支持する支持体520を含む外装体500を更に備え得る。
【0022】
電極基部280は、導電性と耐食性を有する金属板であり得る。例えば、ニッケル、ステンレス等の板を用いることができる。また、銅等の金属板の表面にニッケル被覆を施したものを用いることができる。又、電極基部280は、電解槽1000内の各電極室内にて電解液および発生ガス等が円滑に流通可能とするために、開口付きの金属板であり得る。
【0023】
外装体500は、電解槽1000の外装を構成し、1組で2つの支持体(陽極側支持体510と陰極側支持体520)から構成される。陽極側支持体510は、縁部に位置する支持体フレーム510A、支持体フレーム510Aに連続しかつ内部空間(具体的には凹部空間)を形作る底部、および電極基部280を設置するための支持部(リブに相当)を有して成る。同様に、陰極側支持体520は、縁部に位置する支持体フレーム520A、支持体フレーム520Aに連続しかつ内部空間(具体的には凹部空間)を形作る底部、および電極基部280を設置するための支持部(リブに相当)を有して成る。即ち、支持体510、520では、支持体フレームが内部空間(具体的には凹部空間)を取り囲むように構成される。
【0024】
なお、電解槽1000は複数の電解槽ユニットから構成されることが好ましく、各電解槽ユニットは、少なくとも電極とその電極を支持する上記の支持体フレームとを有して成る。支持体フレームは、電極が面状に配置されることを助力すべく電極を支持し、ユニットの枠部を成していることが好ましい。
【0025】
又、各支持体フレーム510A、520Aの上面(封止面に相当)にガスケットが位置づけられることが好ましい。具体的には、ガスケットは電極室内の電解液又は発生したガスを外部への漏れを防ぐために、支持体フレームの封止面間を塞ぐように配置される。ガスケットには弾性があり圧縮による弾性変形を利用することで、支持体フレームの封止面同士間に隙間が生じることが好適に防止されている。
【0026】
上記のガスケットは電気分解に常套的に用いられるものであってよい。例えば、ガスケットは、アルカリ性に対し耐性があり、シール性が高い弾力性のある材料であることが好ましい。例えば天然ゴム、イソプレンゴム、スチレン・ブタジエンゴム、ブチルゴム、ブタジエンゴム、エチレン・プロピレンゴム(EPMゴム)、エチレン・プロピレン・ジエンゴム(EPDMゴム)、クロロプレンゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム、アクリルゴム、多孔質PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)等から選択される群から成る少なくとも1種の樹脂材料から構成されていればよい。
【0027】
導電性弾性体400は、電極基部280に取り付け可能となっている。導電性弾性体400は、その“導電性”に起因して電極間における通電に寄与しつつも、その“弾性”に起因して電極に対して押圧力を与えることができる。つまり、導電性弾性体は、電解槽において反力を呈すことが可能な導電性の部品に相当し、かかる反力を供すべく、弾性変形が可能な構造を少なくとも有している。
【0028】
図2Aに示すように、陽極、陰極およびそれら電極間のイオン交換膜から少なくとも構成された電極組合せ体の押圧に導電性弾性体400の反力が利用される。具体的には、導電性弾性体400は、電極組合せ体の背面側において弾性変形に付された状態で使用され、かかる導電性弾性体から供される弾性力(すなわち、反力)によって、電極組合せ体に押圧力がもたらされる。特に、弾性変形に付された導電性弾性体400は、一方の電極から他方の電極に向かって押圧力を与えるように働き、それによって電極組合せ体の密着化を促進する。つまり、導電性弾性体400の存在によって、陽極とイオン交換膜と陰極との間に緊密な接触がもたらされ、いわゆる“ゼロギャップ”式として電解槽が好適に機能できるようになる。
【0029】
また、導電性弾性体400は、弾性反発力が生じるのであれば、いずれの形態を有していてよい。例示すると、導電性弾性体400は、弾性クッションや弾性マット(例えば金属製コイル体から成る部材、金属製の不織布、金属ワイヤーから成る編物・織物など)や板バネなど種々の形態を有し得る。あくまでも1つの例示にすぎないが、導電性弾性体400は、
図2Bに示すように波状湾曲の弾性部450を備えていてよい。導電性弾性体400は、電解槽においてバネ特性を発現させるべく弾性変形に付された状態で使用される。より具体的には、例えば弾性部の波状湾曲が減じられるように変形に付された状態で導電性弾性体400が電解槽1000に設けられる。このように変形に付された導電性弾性体400では、元の形状を取ろうとする応力が働くのでバネ特性として反力が発現されることになる。なお、大型の電解槽においては、導電性弾性体400は単数で用いられるよりも複数の導電性弾性体として設けられることが多い。
【0030】
電解槽において、電極は、例えば通液性を有する導電性基材から構成されていてよい。この点、陽極200Bおよび陰極200Aの少なくとも一方が導電性多孔基材を有して成ることが好ましい。換言すれば、陽極200Bおよび陰極200Aの少なくとも一方がメッシュ開口を有するようなメッシュ開口電極となっていてよい。あくまでも例示にすぎないが、例えばエキスパンドメタル、金網(平織メッシュ等)、またはパンチングメタルなどから電極が構成されていてよく、好ましくは後述するように、両電極ともエキスパンドメタルから構成され得る。
【0031】
耐食性を呈し得るなどの観点から、陽極200Bおよび陰極200Aの各々は、チタン、ニッケル、ステンレス鋼、タンタル、ジルコニウムおよびニオブ等から成る群から選択される少なくとも1種を含んで成っていてよい。また、そのような陽極200Bおよび陰極200Aの各々には適当な触媒が担持されていてもよい。導電性の多孔基材における開口率は、特に制限されるわけではないが、20%~90%程度、例えば30%~80%、40%~75%または50%~75%などであってよい。
【0032】
電解槽1000が上記のゼロギャップ式である場合、その電解槽1000の構成要素である陽極および陰極が、電極材の剛性および可撓性といった所謂“硬さ”や“柔らかさ”の点で特徴を有している。具体的には、陽極および陰極の一方が、他方に対して相対的に可撓性を有しており、逆に当該他方が当該一方に対して相対的に剛性を有していることが好ましい。これによって、相対的に可撓性を有する電極が、導電性弾性体の反力を受けて撓むことができる一方、相対的に剛性を有する電極が、その撓みをイオン交換膜を介して受け止めることができる。このような観点で相対的に陽極と陰極とが異なると、陽極とイオン交換膜と陰極との間の互いの密着がより好適になり、電解槽が“ゼロギャップ式”としてより好適に機能できる。このようなことは、電解槽が大型の場合に特に当てはまる。つまり、ゼロギャップ式食塩電解の場合などに代表されるように、ゼロギャップのための押圧を必要とする電極主面が大きい場合に特に当てはまる。
【0033】
所望の電解生成物をより大量に得るには、より大きな電解槽が用いられるが、電極の主面(特に、陽極と陰極とが互いに対向する主面)も、それに伴って大きくなる。大型のゼロギャップ式電解槽は、複数の電解槽ユニットから好ましくは構成されるところ、その電解槽ユニットの各々では、対向する両側面に大きな電極面が設けられている。あくまでも一例であるが所謂“複極式”の電解槽について、
図1を参照して説明すると、電解槽ユニット100の対向する両側面の一方に陰極200A(例えば、エキスパンドメタルから成る陰極面)が設けられている一方、当該両側面の他方に陽極200B(例えば、エキスパンドメタルから成る陽極面)が設けられている。
【0034】
電解槽では、そのような電解槽ユニット同士がイオン交換膜300(特に陽イオン交換膜)を介して互いに重ね合わさるように複数連結されている。特に、隣接する電解槽ユニットでは、一方の電解槽ユニット100’の陰極面と、他方の電解槽ユニット100’’の陽極面とが向き合うようにして重ねられる。このように複数の電解槽ユニットがイオン交換膜を介して組み合わされることによって電解槽が構成されている。
【0035】
なお、複数の電解槽ユニットから構成される電解槽としては“複極式”に限らず、“単極式”であってもよい。つまり、電解槽を構成する電解槽ユニットとして、陽極部と陰極部とを対向する両側面に備えた複極式の電解槽ユニットであることに限らず、対向する両側面に陽極部のみ及び陰極部のみを備えた“単極式”の電解槽ユニットであってもよい。かかる場合、陽極部のみを備える電解槽ユニットと陰極部のみを備える電解槽ユニットとがイオン交換膜を介して交互に配置されるように組み合わされることで、電解槽が構成され得る。
【0036】
電解槽ユニットから構成される電解槽は、電極面サイズが比較的大きく、その大きな電極面を通じて所望の電解反応がなされるので好ましいものの、電極面の平面度を保つのが難しくなる。具体的には、電極面は、そのサイズが大きくなればなるほど、自重に起因した撓み等の影響が無視できなくなる傾向があり、また、電極支持体への取付けなども影響し、かかる電極面は完全な平坦面を取り難い。例えば
図1で例示したような電解槽ユニット100(100’、100’’)でいえば、陽極面および陰極面の面サイズは、数cmオーダというよりも、むしろmオーダのサイズとなっている。より好適な平坦面となるべく電極に剛性を持たせた場合であっても、そのような大きな電極面では、上記理由等から例えば±0.5mm~1.0mm程度の平面度となっており、完全な平坦面(すなわち、平面度が0mm)とはなり難い。換言すれば、大型の電解槽において、剛性の電極面は、巨視的には平坦に見えても、微視的にみれば局所的凹凸を伴った面となる傾向がある。
【0037】
完全な平坦面となっていない電極同士をイオン交換膜を介して密着させると、その凹凸によって、電流分布の均一化が損なわれたりするおそれがある。そこで、剛性電極に対して、それと対を成す電極を柔らかい可撓性電極としている。これにより、イオン交換膜を介して電極同士が強く密着させられたとしても、剛性電極面の凹凸に追随するように可撓性電極が撓むことになり、結果として電流分布の不均一化などがより好適に防止され得る。
【0038】
好ましくは、陽極が相対的に硬い剛性のエキスパンドメタルから構成される一方、陰極が相対的に柔らかい可撓性のエキスパンドメタルから構成され得る。また、イオン交換膜を介して陽極の剛性エキスパンドメタルと組み合わされる陰極の可撓性エキスパンドメタルの背面側に導電性弾性体400が設けられ得る。かかる場合、導電性弾性体400の反力によって、陰極の可撓性エキスパンドメタルが陽極の剛性エキスパンドメタルに向かって押圧されるが、その際に陰極の可撓性エキスパンドメタルが、陽極の剛性エキスパンドメタルの主面の平面度に応じて局所的に変位することができる。
【0039】
したがって、電解槽ユニット同士が強く締め付けられるように固定され、導電性弾性体の反力が大きく働くような条件にされた場合であっても、陽極とイオン交換膜と陰極とが互いに好適に密着し、電流分布の不均一化などの不都合な現象は引き起こされ難い。
【0040】
即ち、
図1に示すように、エキスパンドメタルの可撓性陰極200Aと、隔膜300と、エキスパンドメタルの剛性陽極200Bとが、その順で重ねられた配置に対して、導電性弾性体400が陰極200Aの背面側(すなわち、隔膜300の設置側と反対側)に設けられている。導電性弾性体400は、エキスパンドメタルの陰極200Aと陰極基部280との間で狭窄されるように変形に付されて設けられるため、導電性弾性体400の弾性部と直接的に接するエキスパンドメタルの可撓性陰極200Aには導電性弾性体400の弾性力が直接与えられることになる。その結果、エキスパンドメタルの可撓性陰極200Aが、エキスパンドメタルの剛性陽極200Bに向かって押圧されるように付勢され、可撓性陰極200Aと隔膜300と剛性陽極200Bとの互いの密着化がもたらされる。なお、導電性弾性体と直接的に接していない電極となる剛性陽極自体は、電解槽ユニットの電極支持体などに動かないように固定されているので、導電性弾性体の弾性力を受け止めるように作用して密着化に寄与する。
【0041】
また、上記の剛性陽極が設けられる電解槽ユニットは、剛性陽極と、それを支持する支持フレームから少なくとも構成されている。一方、可撓性陰極が設けられる電解槽ユニットは、導電性の電極基部と、それを支持する支持フレーム、電極基部上に設けられる導電性弾性体、その導電性弾性体上に配置される可撓性陰極から少なくとも構成される。電極基部は、可撓性陰極を少なくとも支持すべく、その可撓性陰極よりも高い剛性を有していてよい。
【0042】
特に限定されないが、相対的に硬い剛性のエキスパンドメタルは、“相対的な剛性”ゆえ、厚みが好ましくは0.2~2.0mm程度であってよく、多孔すなわち開口を成すストランド210の幅(刻み幅)(
図2C中にて“W”で示す部分)は好ましくは0.2~2.0mm程度となっていてよい。同様にして特に限定されないが、可撓性エキスパンドメタルは、“相対的な可撓性”ゆえ、例えば、厚みが好ましくは0.1~1.0mm程度、より好ましくは0.1~0.5mm程度であってよく、多孔すなわち開口を成すストランドの幅(刻み幅)(
図2C中にて“W”で示す部分)は好ましくは0.1~2.0mm程度、より好ましくは0.1~1.5mm程度となっていてよい。
【0043】
可撓性電極として金網やパンチングメタルを使用する場合には、”相対的な可撓性”ゆえ、例えば厚みが好ましくは0.1~1.0mm程度、より好ましくは0.1~0.5mm程度であってよい。金網の場合には金網を構成する金属繊維の略直径を意味する線径φは好ましくは0.05~1.0mm程度、より好ましくは0.1~0.5mm程度となってよい。パンチングメタルの場合には、隣接する開口部間の非開口部長さLが0.1~2.0mm程度、より好ましくは0.1~1.5mm程度となってよい。
【0044】
[本発明の特徴部分]
以下、本発明の一実施形態に係る電解槽500の特徴部分について説明する。
【0045】
図3は、本発明の一実施形態に係る電解槽の固定された電極を模式的に示す平面図である。
図4Aは、
図3の線分I-I間における固定された電極を模式的に示す断面図である。
図4Bは、
図4A内の点線囲み領域の模式拡大断面図である。
【0046】
本願発明者は、その構成要素である電極について、着脱が容易であり、かつ性能を保持可能とするための構成について鋭意検討した。その結果、本願発明者は、下記の特徴を有する本発明の一実施形態に係る電解槽を案出するに至った。
【0047】
具体的には、本発明では、上記の[電解槽の基本的構成]の欄で説明した電極(特に陰極200A)の一方の側の縁部200AIと当該一方の側の縁部200AIに対向する他方の側の縁部200AIIとに付加部材220が取り付けられる。具体的には、付加部材220は、電極(特に陰極200A)の相互に対向する少なくとも2つの縁部200AI、200AIIに取り付けられる。
【0048】
各付加部材220は、一部が電極(特に陰極200A)の縁部から外側に延在する。電極の縁部への付加部材220の取付け固定は、例えばスポット溶接などによる手法により行われ得る。その上で、この付加部材220が電極基部280に対して係止可能となっている(
図3、
図4Aおよび
図4B参照)。
【0049】
別の観点からいえば、上記の付加部材220が、電極基部280の正面側から背面側まで連続して配置され得る。付加部材220は、電極基部280の縁部281を跨ぐように配置される。また、付加部材220の一端221は電極基部280の正面側282に配置され、付加部材220の他端222は電極基部280の背面側283に配置され得る。
換言すれば、付加部材220の一部は電極基部280の背面側283と対向可能となっている。かかる形態をとることで、付加部材220は電解槽1000の内側に向かって内側に湾曲した形態を有し得る。
【0050】
特に限定されるものではないが、付加部材220の材料としては、曲げやすさおよび耐食性の観点から、ニッケル、チタン、およびステンレス鋼から成る群から少なくとも1種選択され得る。付加部材220の平面形状としては、矩形、正方形、または台形等を選択することができる。付加部材220の厚みとしては、0.1mm以上3mm以下であってよく、曲げやすさと強度の観点から、0.2mm以上2mm以下であることが好ましい。
付加部材の平面サイズとしては、縦および横それぞれ、5mm以上5cm以下であってよく、曲げやすさ、電極に対する負荷低減および付加部材自体の機能発揮の観点から、10mm以上3cm以下であることが好ましい。
【0051】
また、既述のように、電極基部280は支持体フレーム(特に陰極側の支持体フレーム520A)に支持されているところ、一実施形態では、電極基部280の縁部281とこの支持体フレームとの間にクリアランスCが供され得る。その上で、付加部材220の一部がこのクリアランスCを通過可能に配置され得る。クリアランスCの短手寸法としては、上記の付加部材220の厚み、後述する製法での治具の挿入、および電極サイズの確保を考慮し、1mm以上3cm以下であってよく、好ましくは2mm以上2cm以下であり得る。
【0052】
従前の電極の一部を集電板に対して折り込む態様、および電極の一部を電極基部に溶接する態様では、電極自体を電極基部(集電板に相当)に直接的に折り込んだり、溶接するがが故に、電極自体が損傷し、取り外した電極の再使用がしにくい懸念がある。また、電極の一部を電極基部に溶接する態様では、電極自体の取外しも容易ではない。
【0053】
この点につき、上記の特徴によれば、付加部材220が電極基部280に対して係止可能であることで、電極基部280に対する付加部材220の係止と係止解除を実施することができる。前者の係止の実施時には、付加部材220を介して電極基部280に電極を取り付けることができる。一方、後者の係止解除の実施時には、電極基部280から電極を取り外すことができる。
【0054】
すなわち、電極基部280に対する付加部材220の係止と係止解除の実施のみで、電極の着脱を容易に実施することができる。これにより、付加部材220の係止解除をするのみで電極を取り外すことができるため、電極と電極基部280との間に位置する導電性弾性体400の必要時の交換もし易くなり得る。
【0055】
また、この付加部材220は電極(特に陰極200A)の縁部200AI、200AIIに取り付けられるため、電極のメイン部分200AIIIには取り付けられない。そのため、電極のメイン部分の損傷を回避することができる。以上のことから、本発明によれば、その構成要素である電極の着脱が容易であり、かつ性能を保持可能となる。電極の性能保持がされることで、取り外した電極の再使用を好適に行うことができる。
【0056】
更に、従前の固定ピンを電極(具体的には電極のメイン部分)に貫通させる態様では、固定ピンが電極およびこの上に配置される隔膜の長手延在方向に対して垂直な方向に配置されるため、電極に加え隔膜も損傷する懸念がある。これに対して、本発明では、付加部材220が(電極のメイン部分ではなく)電極の縁部へ局所的に取付け固定されるにすぎないため、電極と対向する隔膜300の損傷も好適に抑制することができる。
【0057】
更に、上記の特徴によれば、付加部材220が電極基部280に対して係止可能であることで、付加部材220と接続された電極(特に陰極200A)に対して引張力を付与することができ、電極の平坦性を向上させることもできる。
【0058】
なお、
図3では、例示として、陰極200Aの相互に対向する両縁部に所定の間隔をおいて3つ配置される態様を示しているが、これに限定されず、1個以上30個以下であってよく、好ましくは3個以上20個以下であり得る。なお、電極の固定のバランスを好適に図るために、相互に対向する1対の付加部材220が同列または同軸上に配置されることが好ましい。
【0059】
(本発明の一実施形態に係る電解槽1000の製造方法)
以下、本発明の一実施形態に係る電解槽1000の製造方法について説明する。特に、本発明の一実施形態に係る電解槽1000の製造方法は、上述の「付加部材」を用いた電極の固定工程を含む。以下では、付加部材を用いた陰極200Aの固定態様を中心として説明する。
【0060】
電極の固定開始前
図5Aは、本発明の一実施形態に係る電解槽の電極の固定態様を説明する模式断面図(作業開始前)である。
図5Bは、
図5A内の点線囲み領域の模式拡大断面図である。
【0061】
以下、
図5Aおよび
図5Bを参照しながら説明する。まず、支持体520に取り付けられた電極基部280上に導電性弾性体400を配置する。この電極基部280は支持体520の支持部(リブに相当)上に配置固定される(図示せず)。導電性弾性体400の配置後、導電性弾性体400上に陽極および陰極の一方の電極(特に陰極200A)を配置する。この際に、上述のように、電極としては、相互に対向する少なくとも2つの縁部200AI、200AIIに付加部材200が取り付けられたものを用いる。付加部材200については、電極の縁部に対して例えばスポット溶接などにより予め取り付ける。具体的には、一部が電極(特に陰極200A)の縁部から外側に延在するように、付加部材200を予め取り付ける。なお、
図5Aおよび
図5Bの態様では、電極固定の作業開始前であるため、電極の縁部に取り付けられた付加部材220は平坦状であり得る。
【0062】
電極の固定作業開始前
図5Aは、本発明の一実施形態に係る電解槽の電極の固定態様を説明する模式断面図(作業開始前)である。
図5Bは、
図5A内の点線囲み領域の模式拡大断面図である。
【0063】
以下、
図5Aおよび
図5Bを参照しながら説明する。まず、支持体520に取り付けられた電極基部280上に導電性弾性体400を配置する。この電極基部280は支持体520の支持部(リブに相当)上に配置固定される(図示せず)。導電性弾性体400の配置後、導電性弾性体400上に陽極および陰極の一方の電極(特に陰極200A)を配置する。
【0064】
この際に、上述のように、電極としては、縁部に付加部材200が取り付けられたものを用いる。付加部材200については、電極の縁部に対して例えばスポット溶接などにより予め取り付ける。具体的には、一部が電極(特に陰極200A)の縁部から外側に延在するように、付加部材200を予め取り付ける。なお、
図5Aおよび
図5Bの態様では、電極固定の作業開始前であるため、電極の縁部に取り付けられた付加部材220は平坦状であり得る。
【0065】
電極の固定作業開始(付加部材の差込み)
図6Aは、本発明の一実施形態に係る電解槽の電極の固定態様を説明する模式断面図(電極の付加部材の差込み時)である。
図6Bは、
図6A内の点線囲み領域の模式拡大断面図である。
【0066】
以下、
図6Aおよび
図6Bを参照しながら説明する。導電性弾性体400上に陽極および陰極の一方の電極(特に陰極200A)を配置した後、電極基部280の縁部281と支持体フレーム520Aとの間に形成されるクリアランスCに、付加部材220の一部を差し込む。なお、付加部材220の差込み前に、上記のクリアランスCへと差込み可能に、平坦状の付加部材220を内側に予め折り曲げる。付加部材220の事前折曲げについては、例えば手曲げや治具を用いて行うことができる。
【0067】
電極の固定作業の続き(付加部材の更なる折曲げ)
図7Aは、本発明の一実施形態に係る電解槽の電極の固定態様を説明する模式断面図(電極の付加部材の折り込み時)である。
図7Bは、
図7A内の点線囲み領域の模式拡大断面図である。
【0068】
以下、
図7Aおよび
図7Bを参照しながら説明する。クリアランスCに付加部材220の一部を差込んだ後、治具(図示せず)を用いて、差し込んだ付加部材220の一部を電極基部280の背面側283へと向かって折り込む。
【0069】
かかる付加部材220の一部の折込みにより、付加部材220を電極基部280に対して係止させることが可能となり、付加部材220を介して電極基部280に電極を取り付けることができる。また、付加部材220は電極(特に陰極200A)の縁部200AI、200AIIに取り付けられるため、電極のメイン部分200AIIIには取り付けられない。そのため、電極のメイン部分の損傷を回避することができる。
【0070】
電極の固定解除(付加部材の取外し)
図8Aは、本発明の一実施形態に係る電解槽の電極の固定解除態様を説明する模式断面図(電極の付加部材の取外し時)である。
図8Bは、
図8A内の点線囲み領域の模式拡大断面図である。
【0071】
以下、
図8Aおよび
図8Bを参照しながら説明する。付加部材220の一部の折込みにより、付加部材220を電極基部280に対して係止可能とした後、治具(図示せず)を用いて、内側に折り込んだ付加部材220の一部を電極基部280の背面側283から離れるように外側へと向かって折り返す。付加部材220の一部の外側への折返しの程度としては、上記のクリアランスCを付加部材220の一部が通過可能な程度である。
【0072】
かかる付加部材220の一部の折返しにより、付加部材220を電極基部280から係止解除させることが可能となり、電極基部280から電極を取り外すことができる。これにより、付加部材220の係止解除をするのみで電極を取り外すことができるため、電極と電極基部280との間に位置する導電性弾性体400の必要時の交換もし易くなり得る。
【0073】
以上のことから、本発明では、電極基部280に対する付加部材220の係止と係止解除の実施のみで、電極の着脱を容易に実施することができる。また、上述のように、付加部材220の設置箇所が電極の縁部であるため、電極のメイン部分の損傷を回避することができる。それ故、本発明では、電極の固定工程および固定工程を通じて、電極の着脱が容易であり、かつ電極の性能を保持可能となる。また、電極の性能保持がされることで、一旦取外した後の電極の再使用を好適に行うことができる。
【0074】
なお、相手方の電極(特に陽極200B)については、導電性弾性体を設置することなく、剛性を有する多孔性基材から構成される陽極100を陽極側支持体510に設置する。その後、陽極200Bと陰極200Aとの間に隔膜300を位置付けた状態で、陽極側の支持体フレーム510Aと陰極側の支持体フレーム520Aとを直接対向させた上で両者を接続させる。かかる支持体フレーム同士の接続完了後に、電極室内に電解液を注入する。以上により、本発明の一実施形態に係る電解槽1000を製造することができる。
【0075】
以下、本発明の別の実施形態に係る電解槽について説明する。以下では、既述の一実施形態の欄で述べた説明との重複を回避する観点から、相違部分を中心に説明する。
【0076】
図9は、本発明の別の実施形態に係る電解槽の固定された電極を模式的に示す平面図である。
【0077】
図9に示すように、本発明の別の実施形態は、上記の一実施形態と比べて、導電性弾性体上に、複数(2枚以上)の電極(特に陰極200a)が並列に配置される点で異なる。並列に配置可能な電極の数としては、特に限定されるものではないが、例えば2枚以上20枚以下であってよく、好ましくは4枚以上10枚以下であり得る。
【0078】
既述の一実施形態(第1実施形態に相当)の場合と同様に、付加部材220が、各陰極200aの相互に対向する少なくとも2つの縁部200aI、200aIIに取り付けられる。その上で、各陰極200aに取り付けられた付加部材220が電極の下方に位置する電極基部280に対して係止可能となっている。
【0079】
上記の特徴によれば、各陰極200aに取り付けられた付加部材220が電極基部280に対して係止可能であることで、複数並列に配置された陰極200aのうちの任意の陰極200aと電極基部280との間において、電極基部280に対する付加部材220の係止と係止解除を実施することができる。
【0080】
これにより、既述の一実施形態(第1実施形態に相当)の欄で述べた作用効果に加えて、複数並列に配置された陰極200aのうちの任意の陰極200aの円滑な着脱を効率的に行うことができる。また、複数の電極(特に陰極200a)が並列に配置される態様によれば、1枚の相対的に大きな分割していない電極(例えば、
図1に示す陰極200Aに対応)を用いる場合と比べて、電解槽の使用時における電解電圧の低下を図ることができる。
【0081】
以上、本発明の一実施形態について説明してきたが、あくまでも典型例を例示したに過ぎない。従って、本発明はこれに限定されず、種々の態様が考えられることを当業者は容易に理解されよう。
【0082】
なお、本発明は以下の態様を含むが、これらの態様に限定されるものではない。
<1>
陽極と、陰極と、前記陽極と前記陰極との間に配置される隔膜と、前記陽極および前記陰極の一方の電極の背面側に設けられた導電性弾性体と、前記導電性弾性体の背面側に設けられた電極基部とを備え、
前記電極の一方の側の縁部と前記一方の側の縁部に対向する他方の側の縁部とに付加部材が取り付けられ、前記付加部材が前記電極基部に対して係止可能となっている、電解槽。
<2>
前記付加部材が、前記電極基部に対して着脱可能となっている、<1>に記載の電解槽。
<3>
前記付加部材が、前記電極基部の正面側から背面側まで連続して配置される、<1>又は<2>に記載の電解槽。
<4>
前記付加部材が、前記電極基部の縁部を跨ぐように配置される、<1>~<3>のいずれかに記載の電解槽。
<5>
前記付加部材の一端は前記電極基部の正面側に配置され、前記付加部材の他端は前記電極基部の背面側に配置される、<1>~<4>のいずれかに記載の電解槽。
<6>
前記電極基部が支持体に支持され、前記電極基部の縁部と前記支持体の支持体フレームとの間にクリアランスが供され、前記付加部材の一部が前記クリアランスを通過する、<1>~<5>のいずれかに記載の電解槽。
<7>
前記付加部材の一部が前記電極基部の背面側と対向可能となっている、<1>~<6>のいずれかに記載の電解槽。
<8>
前記付加部材が内側に湾曲した形態を有する、<1>~<7>のいずれかに記載の電解槽。
<9>
前記付加部材の一部が、前記電極の縁部から外側に延在する、<1>~<8>のいずれかに記載の電解槽。
<10>
前記電極の一方の縁部および前記他方の縁部の少なくとも一方に、前記付加部材が複数配置されている、<1>~<9>のいずれかに記載の電解槽。
<11>
前記導電性弾性体上に、前記電極が複数並列に配置される、<1>~<10>のいずれかに記載の電解槽。
<12>
前記付加部材が、ニッケル、チタン、およびステンレス鋼から成る群から少なくとも1種選択される、<1>~<11>のいずれかに記載の電解槽。
<13>
前記電極がエキスパンドメッシュ開口電極である、<1>~<12>のいずれかに記載の電解槽。
<14>
前記電極が陰極である、<1>~<13>のいずれかに記載の電解槽。
<15>
前記陰極が可撓性を有する、<14>に記載の電解槽。
<16>
前記電解槽がゼロギャップ式の食塩電解槽である、<1>~<15>のいずれかに記載の電解槽。
<17>
陽極と、陰極と、前記陽極と前記陰極との間に配置される隔膜とを備える、電解槽の製造方法であって、
電極基部上に導電性弾性体を配置し、前記導電性弾性体上に前記陽極および前記陰極の一方の電極であって、縁部に付加部材が取り付けられた電極を配置し、配置した前記電極の前記付加部材の一部を前記電極基部の背面側へと向かって折り込むことを含む、電解槽の製造方法。
<18>
前記付加部材の一部の折込み前に、前記電極基部の縁部と、前記電極基部が支持される支持体のフレームとの間に形成されるクリアランスを通じて、前記付加部材の一部を差し込む、<17>に記載の電解槽の製造方法。
<19>
前記電極基部の背面側に対する前記付加部材の一部の折込みを、治具を用いて行う、<17>又は<18>に記載の電解槽の製造方法。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明の一実施形態に係る電解槽は、電気分解のために、例えばソーダ工業用に用いることができる。
【符号の説明】
【0084】
100 電解槽ユニット
100’ 電解槽ユニット
100'' 電解槽ユニット
200A、200a 陰極
200A 陰極
200AI、200aI 陰極の一方の側の縁部
200AII、200aII 陰極の他方の側の縁部
200AIII 陰極のメイン部分
200B 陽極
210 ストランド
220 付加部材(電極の縁部に取り付けれた部材)
221 付加部材の一端
222 付加部材の他端
280 電極基部(例えば陰極基部)
281 電極基部の縁部
282 電極基部の正面側
283 電極基部の背面側
300 隔膜(例えばイオン交換膜)
400 導電性弾性体
450 弾性部
500 外装体
510 陽極側支持体
510A 支持体フレーム
520 陰極側支持体
520A 支持体フレーム
1000 電解槽
C クリアランス